説明

トロイダル型無段変速機

【課題】パワーローラ8bを各ディスクの軸方向に変位させて、構成各部材の弾性変形量の変化に拘らず、このパワーローラ8bの周面とこれら各ディスクとの接触状態を適正に維持できる構造を実現する。
【解決手段】トラニオン9bの中間部に、円筒状凹面33を有する支持梁部34を設ける。上記パワーローラ8bを支持するスラスト玉軸受36を構成する外輪37の外側面に設けた部分円筒面状の凸部38と、上記支持梁部34の円筒状凹面33とを係合させる。そして、上記外輪37及びパワーローラ8bを、上記トラニオン9bに対し、入力側、出力側両ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のトロイダル型無段変速機は、単独で、或いは、遊星歯車式変速機と組み合わされ、自動車用変速装置として、或いは、ポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節するための変速装置として利用する。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。図3は、現在実施されているダブルキャビティのトロイダル型無段変速機の基本構成を示している。先ず、この従来構造に就いて、簡単に説明する。1対の入力側ディスク1a、1bを入力回転軸2に対し、それぞれがトロイド曲面(断面円弧形の凹面)であって特許請求の範囲に記載した軸方向片側面に相当する入力側内側面3、3同士を互いに対向させた状態で、互いに同心に、且つ、同期した回転を自在に支持している。
【0003】
又、上記入力回転軸2の中間部周囲に、中間部外周面に出力歯車4を固設した出力筒5を、この入力回転軸2に対する回転を自在に支持している。又、この出力筒5の両端部に出力側ディスク6、6を、スプライン係合により、上記出力筒5と同期した回転自在に支持している。この状態で、それぞれがトロイド曲面であって特許請求の範囲に記載した軸方向片側面に相当する、上記両出力側ディスク6、6の出力側内側面7、7が、上記両入力側内側面3、3に対向する。
【0004】
又、上記入力回転軸2の周囲で上記入力側、出力側両内側面3、7同士の間部分(キャビティ)に、それぞれの周面を球状凸面としたパワーローラ8、8を、2個ずつ配置している。これら各パワーローラ8、8は、それぞれトラニオン9、9の内側面に、基半部と先半部とが偏心した支持軸10、10と複数の転がり軸受とを介して、これら各支持軸10、10の先半部回りの回転、及び、これら各支持軸10、10の基半部を中心とする若干の揺動変位自在に支持されている。
【0005】
又、上記各トラニオン9、9は、それぞれの長さ方向(図3の表裏方向)両端部にこれら各トラニオン9、9毎に互いに同心に設けられた傾転軸を中心として揺動変位自在である。これら各トラニオン9、9を揺動(傾斜)させる動作は、油圧式のアクチュエータにより、これら各トラニオン9、9を上記各傾転軸の軸方向に変位させる事により行なう。変速時には、上記各アクチュエータへの圧油の給排により、上記各トラニオン9、9を上記各傾転軸の軸方向に変位させる。この結果、上記各パワーローラ8、8の周面と上記入力側、出力側各内側面3、7との接触部(トラクション部)の接線方向に作用する力の方向が変化する(サイドスリップが発生する)ので、上記各トラニオン9、9が上記各傾転軸を中心として揺動変位する。
【0006】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、駆動軸11により一方(図3の左方)の入力側ディスク1aを、ローディングカム式の押圧装置12を介して回転駆動する。この結果、前記入力回転軸2の両端部に支持された1対の入力側ディスク1a、1bが、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、上記各パワーローラ8、8を介して前記両出力側ディスク6、6に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。
【0007】
上記入力回転軸2と上記出力歯車4との回転速度の比を変える場合で、先ず入力回転軸2と出力歯車4との間で減速を行なう場合には、上記各トラニオン9、9を図3に示す位置に揺動させ、上記各パワーローラ8、8の周面を、上記各入力側ディスク1a、1bの入力側内側面3、3の中心寄り部分と上記両出力側ディスク6、6の出力側内側面7、7の外周寄り部分とにそれぞれ当接させる。反対に、増速を行なう場合には、上記各トラニオン9、9を図3と反対方向に揺動させ、上記各パワーローラ8、8の周面を、上記両入力側ディスク1a、1bの入力側内側面3、3の外周寄り部分と上記両出力側ディスク6、6の出力側内側面7、7の中心寄り部分とにそれぞれ当接させる。上記各トラニオン9、9の揺動角度を中間にすれば、上記入力回転軸2と出力歯車4との間で、中間の速度比(変速比)を得られる。
【0008】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、動力の伝達に供される各部材、即ち、入力側、出力側各ディスク1a、1b、6と上記各パワーローラ8、8とが、前記押圧装置12が発生する押圧力(推力)に基づいて弾性変形する。そして、この弾性変形に伴って、上記各ディスク1a、1b、6が軸方向に変位する。又、上記押圧装置12が発生する押圧力は、上記トロイダル型無段変速機により伝達するトルクが大きくなる程大きくなり、それに伴って上記各部材の弾性変形量も多くなる。従って、上記トルクの変動に拘らず、上記入力側、出力側各側面3、7と上記各パワーローラ8、8の周面との接触状態を適正に維持する為に、これら各パワーローラ8、8を上記各トラニオン9、9に対し、上記各ディスク1a、1b、6の軸方向に変位させる機構が必要になる。図3に記載した従来構造の1例の場合には、上記各パワーローラ8、8を支持した前記各支持軸10、10の先半部を、同じく基半部を中心として揺動変位させる事により、上記各パワーローラ8、8を上記軸方向に変位させる様にしている。
【0009】
上記した従来構造では、各パワーローラ8、8aを各ディスク1、1a、1b、6の軸方向に変位させて、構成各部材の弾性変形量の変化に拘らず、これら各ディスク1、1a、1b、6と上記各パワーローラ8、8の周面との接触状態を適正に維持できる。しかしながら、これら各パワーローラ8、8を上記軸方向に変位させる為の構造が複雑で、部品製作、部品管理、組立作業が何れも面倒になり、コストが嵩む事が避けられない。
【0010】
そのため、特許文献1のトロイダル型無段変速機では、各トラニオンは、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸と、これら両傾転軸同士の間に存在し、少なくとも両ディスクの径方向に関する内側の側面を円筒状凸面とした、支持梁部とを備えたものとしている。又、この円筒状凸面の中心軸は、両傾転軸の中心軸と平行で、この傾転軸の中心軸よりも、両ディスクの径方向に関して外側に存在している。
【0011】
又、各スラスト転がり軸受は、上記支持梁部と上記各パワーローラの外側面との間に設けられたもので、この支持梁部側に設けられた外輪と、この外輪の内側面に設けられた外輪軌道と上記パワーローラの外側面に設けられた内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものとしている。
【0012】
そして、上記外輪は、外側面に設けられた部分円筒面状の凹部と上記支持梁部の円筒状凸面とを係合させる事により、上記各トラニオンに対し、上記両ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−25821号公報
【0014】
しかしながら、特許文献1の構成では、図4のように、パワーローラ8aの凹部13の曲率半径r13を、トラニオン9aの円筒状凸面14の曲率半径r14よりも大きくすると、凹部13と円筒状凸面14の間に隙間ができてしまい、パワーローラ8aからスラスト玉軸受16にスラスト荷重が加わった場合、図5のように、外輪17が弾性変形してしまい、効率が低下してしまうという可能性があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、スラスト玉軸受を構成する外輪の弾性変形を抑えて、上記スラスト玉軸受の耐久性を確保し、トロイダル型無段変速機全体としての耐久性を向上させるべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機は、それぞれが断面円弧形の曲面である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を自在に支持された少なくとも1対のディスクと、軸方向に関してこれら各ディスクの軸方向片側面同士の間位置の円周方向に関して複数個所に、これら各ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸を中心とする揺動変位を自在に設けられた複数のトラニオンと、これら各トラニオンの内側面に、それぞれスラスト転がり軸受を介して回転自在に支持され、球状凸面としたそれぞれの周面を、上記両ディスクの軸方向片側面にそれぞれ当接させた複数のパワーローラとを備えたトロイダル型無段変速機であって、上記各トラニオンは、両端部に互いに同心に設けられた上記1対の傾転軸と、これら両傾転軸同士の間に存在し、少なくとも上記両ディスクの径方向に関する内側の側面を、上記両傾転軸の中心軸と平行でこの傾転軸の中心軸よりも上記両ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、円筒状凹面とした支持梁部とを備えたものであり、上記各スラスト転がり軸受は、この支持梁部と上記各パワーローラの外側面との間に設けられたもので、この支持梁部側に設けられた外輪と、この外輪の内側面に設けられた外輪軌道と上記パワーローラの外側面に設けられた内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものであって、上記外輪は、外側面に設けられた部分円筒面状の凸部と上記支持梁部の円筒状凹面とを係合させる事により上記各トラニオンに対し、上記両ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スラスト玉軸受を構成する外輪の外側面に形成した凸部を、トラニオンを構成する支持梁部に設けた円筒状凹面とが、これら両面の円周方向に関して当接させている為、上記外輪に大きなスラスト荷重が加わった場合にも、この外輪が、上記凸部の開口幅を狭くする方向に弾性変形する事を抑えられる。従って、この外輪の内側面に設けた外輪軌道と、パワーローラの外側面に設けた内輪軌道との間隔が、これら両軌道の円周方向に関して不同になる程度を抑えられる。この為、これら両軌道と各玉の転動面との転がり接触部の面圧が、部分的に過大になる事を防止できる。この結果、上記スラスト玉軸受の耐久性、延てはこのスラスト玉軸受を組み込んだトロイダル型無段変速機の耐久性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の断面図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】従来の無段変速機の断面図。
【図4】パワーローラからスラスト玉軸受にスラスト荷重が加わった前の状態を示す図。
【図5】パワーローラからスラスト玉軸受にスラスト荷重が加わった後の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、変速機構としての構造及び作用は、前述の図3に示した構造を含め、従来から知られている構造と同様である。このため、従来と同様に構成する部分については、図示並びに説明を省力若しくは簡略にし、本発明の実施の形態の特徴部分を中心に説明する。
【0020】
図1と図2に示すように、本発明の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機では、本例のトロイダル型無段変速機を構成するトラニオン9bは、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸15、15と、これら両傾転軸15、15同士の間に存在し、少なくとも上記入力側、出力側両ディスク1a、1b、6の径方向(図1、2の上下方向)に関する内側(図1、2の上側)の側面を円筒状凹面33とした、支持梁部34とを備える。上記両傾転軸15、15は、それぞれラジアルニードル軸受35、35を介して、ヨーク(図示せず)に、揺動を可能に支持する。又、上記円筒状凹面33の中心軸イは、図1に示す様に、上記両傾転軸15、15の中心軸ロと平行で、この傾転軸15、15の中心軸ロよりも、上記各ディスク1a、1b、6の径方向に関して外側(図1、2の下側)に存在する。上記支持梁部34とパワーローラ8bの外側面との間に設けるスラスト玉軸受36を構成する外輪37の外側面に、部分円筒面状の凸部38を、この外側面を径方向に横切る状態で設けている。そして、この凸部38と、上記支持梁部34の円筒状凹面33とを係合させて、上記トラニオン9bに対し上記外輪37を、上記各ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。尚、本例の場合には、この凸部38の断面形状の曲率半径とこの円筒状凹面33の断面形状の曲率半径とを一致させて、これら凸部38と円筒状凹面33とを、直接当接させている。
【0021】
又、本例の場合には、上記外輪37の内側面中央部に支持軸10bを、この外輪37と一体に固設して、上記パワーローラ8bをこの支持軸10bの周囲に、ラジアルニードル軸受39を介して、回転自在に支持している。
【0022】
上述の様に構成する本例のトロイダル型無段変速機によれば、上記パワーローラ8bを前記各ディスク1a、1b、6の軸方向に変位させて、構成各部材の弾性変形量の変化に拘らず、このパワーローラ8bの周面と上記各ディスク1a、1b、6との接触状態を適正に維持できる構造を、簡単で低コストに構成できる。即ち、トロイダル型無段変速機の運転時に、入力側、出力側各ディスク1a、1b、6、各パワーローラ8bの弾性変形に基づき、これら各パワーローラ8bをこれら各ディスク1
a 、1 b 、6 の軸方向に変位させる必要が生じると、これら各パワーローラ8 b を回転自在に支持している前記スラスト玉軸受36の外輪37が、外側面に設けた部分円筒面状の凸部38と支持梁部34の円筒状凹面33との当接面を滑らせつつ、この円筒状凹面33の中心軸イを中心として揺動変位する。この揺動変位に基づき、上記各パワーローラ8bの周面のうちで、上記各ディスク1a、1b、6の軸方向片側面と転がり接触する部分が、これら各ディスク1a、1b、6の軸方向に変位し、上記接触状態を適正に維持する。前述した通り、上記円筒状凹面33の中心軸イは、変速動作の際に各トラニオン9bの揺動中心となる傾転軸15、15の中心軸ロよりも、上記各ディスク1a、1b、6の径方向に関して外側に存在する。従って、上記係合部を中心とする揺動変位の揺動半径は、上記変速動作の際の揺動半径よりも大きく、上記入力側ディスク1a、1bと出力側ディスク6との間の変速比の変動に及ぼす影響は少ない(無視できるか、容易に修正できる範囲に留まる)。
この様に接触状態を適正に維持する為に必要とされる、上記凸部38と円筒状凹面33との加工は容易であり、又、別途特殊な部品が必要になる事もない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機として利用できる。
【符号の説明】
【0024】
1,1a,1b 入力側ディスク
2 入力回転軸
3 入力側内側面
4 出力歯車
5 出力筒
6 出力側ディスク
7 出力側内側面
8,8a,8b パワーローラ
9,9a,9b トラニオン
10,10b 支持軸
11 駆動軸
12 押圧装置
13 凹部
14 円筒状凸面
15 傾転軸
16 スラスト玉軸受
17 外輪
33 円筒状凹面
34 支持梁部
35 ラジアルニードル軸受
36 スラスト玉軸受
37 外輪
38 凸部
39 ラジアルニードル軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが断面円弧形の曲面である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を自在に支持された少なくとも1対のディスクと、軸方向に関してこれら各ディスクの軸方向片側面同士の間位置の円周方向に関して複数個所に、これら各ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸を中心とする揺動変位を自在に設けられた複数のトラニオンと、これら各トラニオンの内側面に、それぞれスラスト転がり軸受を介して回転自在に支持され、球状凸面としたそれぞれの周面を、上記両ディスクの軸方向片側面にそれぞれ当接させた複数のパワーローラとを備えたトロイダル型無段変速機に於いて、
上記各トラニオンは、両端部に互いに同心に設けられた上記1対の傾転軸と、これら両傾転軸同士の間に存在し、少なくとも上記両ディスクの径方向に関する内側の側面を、上記両傾転軸の中心軸と平行でこの傾転軸の中心軸よりも上記両ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、円筒状凹面とした支持梁部とを備えたものであり、上記各スラスト転がり軸受は、この支持梁部と上記各パワーローラの外側面との間に設けられたもので、この支持梁部側に設けられた外輪と、この外輪の内側面に設けられた外輪軌道と上記パワーローラの外側面に設けられた内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えたものであって、上記外輪は、外側面に設けられた部分円筒面状の凸部と上記支持梁部の円筒状凹面とを係合させる事により上記各トラニオンに対し、上記両ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されている事を特徴とするトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−117569(P2012−117569A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265973(P2010−265973)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】