説明

トロイダル型無段変速機

【課題】ディスクとパワーローラとの相対的な位置を容易に且つ正確に位置決めをすることができ、また、容易に変速機の重量を軽減できる構造を実現すべく発明したものである。
【解決手段】出力側ディスク3の外径側平坦面3bと連結板17との間に、出力側ディスク3の入力軸1に対する位置決めを行なうすべり軸受等のプレート25を、それぞれ4つ配置している。そして、出力ディスク3をプレート25で挟むことで、位置決めを行い、位置決めを行なう位置については、プレート25の厚さを変更したり、プレート背面にシム板を配置して、そのシム板の厚さを変更したりすることで調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のトロイダル型無段変速機は、単独で、或いは遊星歯車式変速機と組み合わされ、自動車用変速装置として、或いはポンプ等の各種産業機械の運転速度を調節するための変速装置として利用する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として使用されるダブルキャビティのトロイダル型無段変速機は、図3および図4に示すように構成されている。図3に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが設けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4がアンギュラ玉軸受を介して、回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材により成る中間壁13を介して、ケーシング50に支持されており、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止される。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に設けられたニードル軸受5,5により、入力軸1の軸心Oを中心に回転自在に支持されている。また、図3中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6により支持され、図3中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、入力側ディスク2,2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面3a,3aとの間には、パワーローラ11が回転自在に挟持されている。
【0005】
図3中右側に位置する入力側ディスクの内周面2cには段差部2bが設けられ、この段差部2bに入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられ、入力側ディスク2の背面には、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9が突き当てられており、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が阻止される。また、カム板7と入力軸1の端部(図3中左側)に形成された鍔部1dとの間には、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する皿ばね8が設けられている。
【0006】
パワーローラ11は、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15に回転自在に支持されており、各トラニオン15,15は、その本体部である支持板部16の長手方向の両端部に、パワーローラ11を支持する側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20が設けら、パワーローラを収容するための凹状のポケット部Pが形成されている。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸が同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることで、各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節する。また、各トラニオン15,15から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、パワーローラがラジアルニードル軸受を介して、回転自在に支持されている。また、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
各トラニオン15,15の枢軸14,14は、出力側ディスク3,3の側方位置に、両ディスク3,3を両側から挟む状態で設けられた一対のヨーク23A,23Bの四隅に設けた4つの円形の支持孔18,18に対して、ラジアルニードル軸受30を介して揺動自在および軸方向に変位自在に支持されており、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。また、ヨーク23A,23Bは、鋼等の金属プレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。
【0009】
ヨーク23A,23Bの幅方向(図4の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、係止孔19には、その内周面を球状凹面として、入力側ディスク2の内側面2aと出力側ディスク3の内側面3aとの間にある第1キャビティ221および第2キャビティ222にそれぞれ対向する状態で設けられた支持ポスト64,68を内嵌しており、ヨーク23A,23Bが僅かに変位できるように支持されている。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持される球面ポスト64によって、揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0010】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、駆動軸22の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2および入力軸1に伝えられる。そして、入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して出力側ディスク3,3に伝えられ、出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0011】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストンを互いに逆方向に変位させる。駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位し、パワーローラ11,11の周面11a,11aと入力側ディスク2,2および出力側ディスク3,3の内周面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。この力の向きの変化に伴って、トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動し、パワーローラ11,11の周面11a,11aと入力側ディスク2,2および出力側ディスク3,3の内周面2a,2a,3a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転変速比が変化する。
【0012】
ところで、上記構成のトロイダル型無段変速機では、入力側ディスク2と出力側ディスク3との間に挟持されたパワーローラ11により動力を伝達し、また、入力側ディスク2および出力側ディスク3に対するパワーローラ11の接触角度が動力伝達に大きな影響をおよぼすとともに、入力側ディスク2および出力側ディスク3は、中間壁13を介してケーシング50に支持され、パワーローラ11もヨーク23A,23Bおよびトラニオン15等を介してケーシング50に支持されていることから、設計通りの所望の動力伝達性能を得るためには、ケーシング50に対して入出力側ディスク2,3およびパワーローラ11を精度良く位置決めして組み立てることにより、入出力側ディスク2,3とパワーローラ11との相対的な位置を正確に決めることが重要となる。
【0013】
そのため、特許文献1では、出力ディスクと出力歯車の側面に設けたアンギュラボール軸受の内輪の間に位置決め調整シムを介装し、位置決め調整シムの厚さを調整することで、出力ディスクの位置決めを行なっている。また、特許文献2では、入力回転軸を挟んで径方向反対側に、互いに同心に設けられた1対の支持ポスト部を、円環状の支持環部により連結して成る1対の支柱をケーシングに設け、円環状の支持環部に設けた1対のスラストアンギュラ玉軸受により、出力側ディスクの軸方向両端部を回転自在に支持し、位置決めを行なっている。また、特許文献3では、出力ディスクの両端部に位置決め部材を設け、これら位置決め部材の先端を主軸に嵌合すると共に、基端を変速機ケース本体に取着し、出力ディスクの両端部と位置決め部材との間にそれぞれスラスト軸受を介在させ、出力ディスクの軸方向変位を規制することで、位置決めを行なっている。また、特許文献4では、一対の内側ディスクのうちの少なくとも一方の内側ディスクの外周面とケーシングの内面との間に玉軸受を設置し、この転がり軸受により一対の内側ディスクの軸方向位置を規制し、位置決めを行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−108139号公報
【特許文献2】特開2004−084711号公報
【特許文献3】特開2002−081519号公報
【特許文献4】特開2003−227553号公報
【0015】
しかしながら、特許文献1〜3では、ディスクの位置決めを行なっている部材(特許文献1では、位置決め調整シム、特許文献2では、1対のスラストアンギュラ玉軸受、特許文献3では、スラスト軸受等)が変速機のケーシングの中心部に配置されている為、一度変速機を組み立ててしまうと、その調整をする際に手間を要してしまう。また、特許文献4では、玉軸受を設けるスペースをディスクの外周に確保する必要がある為、ディスクの軸方向幅が大きくなり、重量が増大してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、ディスクとパワーローラとの相対的な位置を容易に且つ正確に位置決めをすることができる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の無段変速機は、ケーシングと、このケーシング内に回転自在に支持された回転軸と、この回転軸の中間部に、この回転軸に対する相対回転を自在に支持された、一体の内側ディスクと、前記回転軸の中間部周囲に、この回転軸と同期した回転及びこの回転軸の軸方向の変位自在に支持された1対の外側ディスクと、これらの両ディスク間に挟持される複数のパワーローラと、前記内側ディスク及び外側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた1対の枢軸を中心に揺動するとともに、前記各パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、前記各トラニオンの前記各枢軸をそれぞれ揺動自在に且つ軸方向に変位自在に支持するとともに、前記ケーシングに支持されたポストに揺動可能に結合される1対のヨークと、を備えるトロイダル型無段変速機にであって、
前記内側ディスクの外周側平面部の両面にディスクの軸方向変位を規制する部材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ディスクの軸方向変位を規制する部材をディスクの外周側に設けるため、その部材の厚さを容易に変更でき、ディスクの軸方向の位置決めの調整が容易となる。また、ディスクの外周側からの位置規制であるため、内側のディスクを一体とすることも可能であり、中間壁を設けた場合や上下のポストを一体にした場合等に比べ、変速機の重量の軽減も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の断面図である。
【図2】プレート形状を示す図である。
【図3】従来の無段変速機の断面図である。
【図4】図3のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の特徴は、内側ディスクである出力側ディスクの位置決めが容易に行なえる構造であり、変速機構としての構造及び作用は、前述の図3と図4に示した構造を含め、従来から知られている構造と同様である。このため、従来と同様に構成する部分については、図示並びに説明を省力若しくは簡略にし、本発明の実施の形態の特徴部分を中心に説明する。
【0021】
図1と図2に示すように、本発明の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機では、内側ディスクである出力側ディスク3を一体型とし、回転軸である入力軸1に対し、入力軸1の中央部に設けたラジアルニードル軸受5により、回転自在に支持している。
【0022】
また、上記出力ディスク3の外側に、1対の外側ディスクである入力ディスク2を、入力軸1に対し、スプライン10により、この入力軸1と同期した回転を自在に、かつ、軸方向の変位自在に支持している。
【0023】
また、上記1対の入力ディスク2と出力ディスク3に間に挟持された複数のパワーローラ11を回転自在に支持したトラニオン15の両端部に互いに同心に設けた枢軸14を、1対のヨーク23に設けた支持孔内に支持している。また、1対のヨーク23はケーシング50内の互いに対向する部分に形成された支持ポスト64により、僅かに変位できるように支持されている。そして、上側の支持ポストは64、連結板17を介して、ボルト24により、ケーシング50に固定されており、下側の支持ポスト68は、連結板17を介して、ボルト24によりシリンダボディ61に固定されている。
【0024】
そして、本発明の実施の形態においては、出力側ディスク3の外径側平坦面3bと連結板17との間に、出力側ディスク3の入力軸1に対する位置決めを行なうすべり軸受等のプレート25を、それぞれ4つ配置している。ここで、プレート25は図2のように、半月形をしており、その両端にネジで連結板に固定するためのザグリ穴26が設けてある。
【0025】
上述したように、出力ディスク3をプレート25で挟むことで、位置決めを行い、位置決めを行なう位置については、プレート25の厚さを変更したり、プレート背面にシム板を配置して、そのシム板の厚さを変更したりすることで調整する。
【0026】
また、プレート25をディスク3の外周側に配置しており、ディスク3にモーメントが作用しても、モーメントの半径が大きいので、プレート25が受ける荷重を小さくできる。そして、プレート25(すべり軸受)は、許容PV値(P:面圧、V:すべり速度)を満たす必要があり、ディスク3の回転数が高速になると、プレート接触部の周速が大きくなるので、小型のトロイダル型変速機に適用することが好ましい。また、ディスク外周の歯車4は、平歯とすることでスラスト荷重が発生せず面圧が小さいので、外周を平歯のものに適用することが好ましい。
【0027】
また、上述した実施の形態では、プレート25をネジにより連結板17に固定したが、プレート25を取り付ける相手部材にプレート25の形状のザグリ溝を設け、そこに嵌め込む構造としてもよい。そうすることで、固定にする場合に、ネジが不要となり、組み立てが容易となる。また、プレート25を固定する相手部材は、連結板17でなく、ケース50に直接固定してもよく、シリンダボディ61に固定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機として利用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 入力軸
1a 入力軸の外周面
1b 入力軸の外周面に設けられた段差部
2 入力側ディスク
2a 入力側ディスクの内側面
2b 入力側ディスクの内周面の段差部
2c 入力側ディスクの内周面
3 出力側ディスク
3a,3a 出力側ディスクの内側面
4 出力歯車
4a フランジ部
5 ニードル軸受
6 ボールスプライン
7 カム板
8 皿ばね
9 ローディングナット
10 スプライン
11 パワーローラ
12 押圧装置
13 中間壁
14 枢軸
15 トラニオン
16 支持板部
17 連結板
18 支持孔
19 係止孔
20 折れ曲がり壁
21 円孔
22 駆動軸
23 変位軸
23a 基端部
23A,23B ヨーク
24 ボルト
25 プレート
26 ザグリ穴
30 ラジアルニードル軸受
31 駆動シリンダ
33 駆動ピストン
50 ケーシング
61 シリンダボディ
64 支持ポスト
68 支持ポスト
221 第1キャビティ
222 第2キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、このケーシング内に回転自在に支持された回転軸と、この回転軸の中間部に、この回転軸に対する相対回転を自在に支持された、一体の内側ディスクと、前記回転軸の中間部周囲に、この回転軸と同期した回転及びこの回転軸の軸方向の変位自在に支持された1対の外側ディスクと、これらの両ディスク間に挟持される複数のパワーローラと、前記内側ディスク及び外側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた1対の枢軸を中心に揺動するとともに、前記各パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、前記各トラニオンの前記各枢軸をそれぞれ揺動自在に且つ軸方向に変位自在に支持するとともに、前記ケーシングに支持されたポストに揺動可能に結合される1対のヨークと、を備えるトロイダル型無段変速機において、
前記内側ディスクの外周側平面部の両面にディスクの軸方向変位を規制する部材を設けたことを特徴とするトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−13140(P2012−13140A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149643(P2010−149643)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】