説明

トロイダル型無段変速機

【課題】低負荷高速運転時におけるトラクション性能の向上を図りつつ、テクスチャ加工に起因するトラクション面の耐久性の低下を回避することのできるトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機は、パワーローラ11と入出力側ディスクとの接触面のうち、低負荷運転時にパワーローラ11側の接触面112となる範囲121にテクスチャ加工が施され、高負荷運転時のパワーローラ11側の接触面111のうち面圧最大部位と重なる範囲131にテクスチャ加工が施されていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図5および図6に示すように構成されている。図5に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面3a,3aとの間には、パワーローラ11(図6参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図5中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図5の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の内側面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図6は、図5のA−A線に沿う断面図である。図6に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動(傾転)する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図6においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、パワーローラ11を支持する支持板部16の長手方向(図6の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調整できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、ラジアルニードル軸受を介して各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図6の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鋳造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bには円形の支持孔18が2つずつ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動(傾転)自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図5の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面状のポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されているポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図6で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図6の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出されて出力軸40に伝えられる。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に僅かに変位する。例えば、図6の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ僅かに変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが僅かに変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a,23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
ところで、上記構成のトロイダル型無段変速機にあっては、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間の動力伝達が、これらの部材表面の損傷を防止するべく、油膜を介したトラクション力により行なわれる。(本明細書では、油膜によって形成されるパワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間の界面、あるいは、入出力側ディスク2,3の内側面2a,3aとパワーローラ11の周面11a自体をトラクション面と称する)。トラクション力は、界面の状態や油膜の厚さ等によって決定されるトラクション係数と界面の面圧に比例して大きくなる。
【0017】
従来、上記トラクション係数を高くするために、トラクション面にテクスチャ加工を施して、微細な凹凸(ディンプルなど)や微細溝などを形成することが提案されている。一方、テクスチャ加工を施した場合、条件によっては局部的に接触面圧が増大し、それによりトラクション面の剥離や油膜切れによる表面損傷が発生するなど、トラクション面の耐久性の低下を招くことがある。そのため、テクスチャ加工の形状や形成位置について種々の工夫がなされている(例えば、特許文献1〜6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2002−089644号公報
【特許文献2】特開2003−130166号公報
【特許文献3】特開2004−156749号公報
【特許文献4】特開2008−303922号公報
【特許文献5】特開2006−125444号公報
【特許文献6】特開2006−125443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
トロイダル型無段変速機においては、高速運転時に、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との接触面にトラクションオイルが高速に引き込まれることから、接触面内の油膜が厚くなる(なお、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3とは、油膜を挟んでいるため直接に接触していないが、本明細書では両者が押し付けられている面のことを接触面と称する)。さらに、低負荷運転時にはパワーローラ11と入出力側ディスク2,3の接触面の面圧が低くなることから、この接触面内の油膜が厚くなる。そのため、低負荷高速運転時には上記接触面のトラクション係数が低下してトラクション面のスリップが生じやすくなるという課題が生じる。このスリップの発生を低減させるには、この接触面のトラクション係数を高くすることが一つの解決策となる。
【0020】
一方、テクスチャ加工に起因してトラクション面に劣化が生じるという現象は、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との接触面に大きなせん断力が加わる最大負荷運転時に最も発生しやすくなる。
【0021】
したがって、低負荷高速運転時においてパワーローラ11と入出力側ディスク2,3とが接触するトラクション面の範囲にテクスチャ加工を施し、高負荷運転時においてパワーローラ11と入出力側ディスク2,3とが接触するトラクション面の範囲にテクスチャ加工を施さないことで、トラクション面の耐久性を維持しつつ低負荷高速運転時のトラクション性能の向上を図ることができると考えられる。
【0022】
しかしながら、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との接触面のうち、入出力側ディスク2,3の接触面は、負荷や回転数によって位置が決定されることはなく、主に変速比に依存して位置が大きく変化する。
【0023】
一方、パワーローラ11側の接触面は、各構成部材の剛性を無限大と仮定すれば、変速比によらずに略一定の位置になるように設計されるが、実際には、外力に応じた各構成部材の弾性変形によって低負荷運転時と高負荷運転時とで上記接触面の位置はわずかに変化する。
【0024】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたもので、低負荷高速運転時におけるトラクション性能の向上を図りつつ、トラクション面の耐久性の低下を回避することのできるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記出力側ディスクから動力が伝達されて回転する出力軸とを備え、前記パワーローラと前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクとの接触面に形成される油膜を介したトラクション力により動力が伝達されるトロイダル型無段変速機において、前記出力軸にかかる負荷が所定量以下の第1負荷となる低負荷運転時に、前記接触面となる前記パワーローラの表面範囲にテクスチャ加工が施され、前記出力軸にかかる負荷が前記所定量より大きな第2負荷となる高負荷運転時に、前記接触面となる前記パワーローラの表面範囲のうち面圧最大となる部位と重なる範囲に前記テクスチャ加工が施されていないことを特徴とする。
【0026】
この請求項1に記載の発明においては、高負荷運転時にトラニオン周辺の構成部材が弾性変形して、パワーローラ側の接触面の位置が変化することに着眼し、低負荷運転時のパワーローラ側の接触面にテクスチャ加工を施すようにしている。これにより、この接触面のトラクション係数が高くなり、低負荷高速運転時におけるトラクション性能を向上させることができる。一方、高負荷運転時には、上記テクスチャ加工のある面は、入出力側ディスクとの接触面から外れる。さらに、高負荷運転時のパワーローラ側の接触面のうち面圧最大部位の範囲にテクスチャ加工が施されていないので、高負荷運転時におけるテクスチャ加工に起因するトラクション面の劣化が発生しにくく、トラクション面の耐久性を維持することができる。
【0027】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記高負荷運転時に前記接触面となる前記パワーローラの表面範囲のうち面圧最大となる部位近傍と重なる範囲を除いて、前記接触面となりうる前記パワーローラの全表面範囲にテクスチャ加工が施されていることを特徴とする。
【0028】
この請求項2に記載の発明においては、低負荷運転時に加えて中負荷運転時におけるパワーローラ側の接触面のトラクション係数も高めて、中負荷運転時におけるトラクション性能の向上も図ることができる。
【0029】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記第2負荷は、予め定められた最大定格負荷であることを特徴とする。
【0030】
この請求項3に記載の発明においては、最大定格負荷のかかった運転時におけるトラクション面の劣化を確実に排除して、トラクション面の耐久性の低下を回避することができる。
【0031】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記テクスチャ加工は、微細な凹凸あるいは微細溝の形成加工であることを特徴とする。
【0032】
この請求項4に記載の発明においては、微細な凹凸あるいは微細溝によりテクスチャ加工された部位のトラクション係数を確実に高くすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、パワーローラ側に施したテクスチャ加工によって、低負荷高速運転時におけるパワーローラと入出力ディスクとの接触面のトラクション係数を高くして、そのトラクション性能を向上させることができる。また、高負荷運転時には、パワーローラ側の接触面の面圧最大部位にテクスチャ加工の無い部分が現れることになるので、テクスチャ加工に起因するトラクション面の耐久性の低下を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係るトロイダル型無段変速機におけるパワーローラとその周辺を示す断面図である。
【図2】パワーローラの周面のうちテクスチャ加工を施す範囲を説明する側面図である。
【図3】パワーローラの周面のうちテクスチャ加工を施す範囲の第1の変形例を示す側面図である。
【図4】パワーローラの周面のうちテクスチャ加工を施す範囲の第2の変形例を示す側面図である。
【図5】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図6】図5のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
なお、本発明の特徴は、パワーローラ11の周面11aのテクスチャ加工を施す位置にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様である。そのため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図5および図6と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0036】
図1は、本発明の実施形態に係るトロイダル型無段変速機におけるパワーローラ11とその周辺を示している。図1に示すように、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との接触面のうち、パワーローラ11側の接触面は、出力軸40にかかる負荷の大小によって、接触面111,112のように位置が変化する。すなわち、出力軸40に余り負荷のかかっていない(所定量以下の負荷)低負荷運転時には、トラニオン15やその周辺の構成部材は出力側の負荷の影響を余り受けない。そのため、パワーローラ11の接触面112は停止時と略同一で軸線O2を中心とした楕円面となる(なお、図1〜図4では見やすくするため楕円形状の接触面111,112を紙面に沿った向きに描いているが、実際にはこの楕円形状の接触面111,112がパワーローラ11の周面11aに沿って現れる)。一方、出力軸40に大きな負荷(例えば予め設定された最大定格負荷)がかかった高負荷運転時には、トラニオン15やその周辺の構成部材が外力によって弾性変形する。そのため、パワーローラ11の接触面111は、その位置がパワーローラ11の外径側へ移動して軸線O1を中心とした楕円面となる。また、接触面111の径も大きくなる。なお、これらパワーローラ11の接触面111,112は、変速比Lowで高負荷運転をしているときのものと、変速比Highで低負荷運転をしているときのものであるが、変速比が変化してもほぼ同様の位置および大きさになる。
【0037】
図2は、パワーローラ11の周面11aのうちテクスチャ加工を施す範囲と施さない範囲とを示している。図2に示すように、パワーローラ11の周面11aには、低負荷高速運転時の接触面112と重なる範囲121にテクスチャ加工が施されている。また、高負荷運転時の接触面111のうち最大面圧がかかる位置と重なる範囲131が、テクスチャ加工を行なわない禁止範囲に設定されている。この禁止範囲131は、トラクション面の剥離や油膜切れを発生させないレベルで最小の幅(周面11aに沿って周方向と直交する方向の幅)を有している。これらの範囲121、131以外には、テクスチャ加工を施してもよいし、施さないようにしてもよい。
【0038】
テスクチャ加工は、微細溝や微細な凹凸(例えばディンプル)をレーザ加工等により形成したものであり、トラクション係数を高くする作用を及ぼすものである。
【0039】
このようなトロイダル型無段変速機にあっては、低負荷高速運転時、パワーローラ11の周面11aのうちテクスチャ加工の施された範囲121が入出力側ディスク2,3と接触することになる。したがって、テクスチャ加工によるトラクション係数の上昇により、トラクション性能が向上してスリップ等が低減される。一方、高負荷運転時(最大定格負荷のかかった運転時)には、テクスチャ加工のない範囲131が、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との接触面のうち最大面圧がかかる部位に現れる。したがって、テクスチャ加工に起因したトラクション面の劣化が発生しにくく、トラクション面の耐久性の低下を回避することができる。
【0040】
図3は、パワーローラ周面11aのテクスチャ加工範囲の第1の変形例を示している。この変形例は、パワーローラ11の周面11aのうち、テクスチャ加工を行なわない禁止範囲132に、各構成部材の加工誤差等を考慮して、余裕分となる幅を付加したものである。テクスチャ加工の施される範囲121と上記禁止範囲132以外の範囲は、テクスチャ加工を施しても施さなくてもよい。このような変形例にあっては、各構成部材の加工誤差等により、最大負荷運転時における接触面111内の最大面圧がかかる位置に誤差が生じても、この部位にテクスチャ加工のない範囲132が現れることになる。それゆえ、テクスチャ加工に起因したトラクション面の耐久性の低下を回避することができる。
【0041】
図4は、パワーローラ周面11aのテクスチャ加工範囲の第2の変形例を示している。この変形例は、パワーローラ11の周面11aのうち、最大負荷運転時における接触面111内の最大面圧がかかる位置近傍の範囲132を除いて、入出力側ディスク2,3との接触面となりうる全範囲122,123にテクスチャ加工を施したものである。このような変形例にあっては、中負荷運転時にもテクスチャ加工の施された部分がパワーローラ11の接触面に現れることになり、中負荷運転時におけるトラクション性能の向上を図ることができる。
【0042】
なお、上述した実施の形態のトロイダル型無段変速機においては、余り負荷のかかっていない低負荷運転時の接触面112の範囲121にテクスチャ加工を施すと説明した。しかしながら、トロイダル型無段変速機が特定条件で運転され、かつ、最大負荷より低い所定の負荷(第1負荷)で高速運転がなされてスリップが生じやすくなることが分かっているような場合には、この所定負荷をスリップの生じやすい低負荷とみなして、この所定負荷の運転時に接触面となる範囲をテクスチャ加工を施す範囲として決定するようにしてもよい。また、上述の実施の形態では、最大定格負荷がかかる高負荷運転時の接触面111を基準に最大面圧がかかる位置またはその近傍範囲をテクスチャ加工を施さない禁止範囲131,132に設定すると説明した。しかしながら、トロイダル型無段変速機が特定条件で運転され、かつ、この運転条件の中で最大負荷(第2の負荷)が決まっている場合には、この最大負荷運転時の接触面を基準にテクスチャ加工を施さない禁止範囲を決定するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機などに適用できる。
【符号の説明】
【0044】
2 入力側ディスク
2a 内側面
3 出力側ディスク
3a 内側面
11 パワーローラ
11a 周面
40 出力軸
111 高負荷運転時の接触面
112 低負荷高速運転時の接触面
121〜123 テスクチャ加工範囲
131,132 テクスチャ加工の禁止範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記出力側ディスクから動力が伝達されて回転する出力軸とを備え、前記パワーローラと前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクとの接触面に形成される油膜を介したトラクション力により動力が伝達されるトロイダル型無段変速機において、
前記出力軸にかかる負荷が所定量以下の第1負荷となる低負荷運転時に、前記接触面となる前記パワーローラの表面範囲にテクスチャ加工が施され、
前記出力軸にかかる負荷が前記所定量より大きな第2負荷となる高負荷運転時に、前記接触面となる前記パワーローラの表面範囲のうち面圧最大となる部位と重なる範囲に前記テクスチャ加工が施されていないことを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記高負荷運転時に前記接触面となる前記パワーローラの表面範囲のうち面圧最大となる部位近傍と重なる範囲を除いて、前記接触面となりうる前記パワーローラの全表面範囲にテクスチャ加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記第2負荷は、予め定められた最大定格負荷であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記テクスチャ加工は、微細な凹凸あるいは微細溝の形成加工であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−225383(P2012−225383A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91940(P2011−91940)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】