説明

トロコイドポンプ

【課題】ポンプ効率を向上することができるトロコイドポンプを提供する。
【解決手段】トロコイドポンプ1のポンプ本体11をポンプハウジングボディ12とポンプベース14で構成し、ポンプハウジングボディ12の対向面31に円形のロータ収容部32を凹設する。ロータ収容部32内のポンプロータ33をロータインナ34とロータアウタ35で構成し、ロータアウタ35のインナ収容室41にロータインナ34を収容する。ロータアウタ35の外周面及びポンプハウジングボディ12の内周面の少なくともいずれか一方に周方向に延在する帯状の溝91,92を凹設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオイルを送出するトロコイドポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧を加圧するポンプとしては、図3に示すように、トロコイドポンプ801が知られており、該トロコイドポンプ801は、自動車の油圧回路等に用いられている。
【0003】
このトロコイドポンプ801のポンプ本体811は、ポンプベース812とポンプハウジングボディ813とによって形成されており、該ポンプハウジングボディ813には、円形のロータ収容部814が形成されている。該ロータ収容部814には、図3の(b)にも示すように、内接型のポンプロータ815が収容されており、該ポンプロータ815は、ロータインナ816とロータアウタ817とによって構成されている。
【0004】
該ロータアウタ817は、円柱状に形成されており、前記ロータ収容部814内に回転自在に収容されている。このロータアウタ817には、前記ロータインナ816を収容する収容室821が形成されており、該収容室821は、星形状に形成されている。
【0005】
前記ロータインナ816も星形状に形成されており、前記収容室821内に回転自在に収容されている。このロータインナ816には、駆動軸822が接続されており、該駆動軸822によって回動されるように構成されている。
【0006】
前記収容室821の内歯数は、前記ロータインナ816の外歯数より多く設定されている。これにより、前記駆動軸822で前記ロータインナ816を前記ロータアウタ817と共に回動すると、前記ロータインナ816と前記ロータアウタ817との間に形成された空間の容積を回転角に応じて変更できるように構成されており、この容積変化を利用して吸入ポート831から吸入されたオイルを加圧して吐出ポート832から吐出できるように構成されている。
【0007】
このトロコイドポンプ801は、使用時に高速回転されるため、前記ポンプハウジングボディ813の内周面841と前記ロータアウタ817の外周面842との間には、粘性摩擦抵抗及び摺動抵抗が生じ、トルク効率の低下要因となり得る。
【0008】
特に、前記ロータアウタ817の外周面842に螺旋状の溝が形成されたトロコイドポンプ801にあっては、この螺旋溝が回転方向に対して交差方向に延在することから、回転時において前記ポンプハウジングボディ813と前記ロータアウタ817間に形成された油膜を切断してしまい、前記損失抵抗に起因した問題を助長させてしまう。
【0009】
これを解決する為に、前記ポンプハウジングボディ813と前記ロータアウタ817間のクリアランスを拡大して損失抵抗を低減する構造が考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような従来の構造にあっては、ポンプハウジングボディ813とロータアウタ817間のクリアランスの拡大に伴ってオイルの漏洩量が増大し、容積効率の低下を招いてしまう。これにより、ポンプ全体効率を低下させてしまう。
【0011】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、ポンプ効率を向上することができるトロコイドポンプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明の請求項1のトロコイドポンプにあっては、ハウジングボディの収容部に収容されたポンプロータを回動し吸入ポートから吸入したオイルを加圧して吐出ポートから吐出する際に前記ポンプロータの外周面と前記ハウジングボディの内周面とが摺接するトロコイドポンプにおいて、前記ポンプロータの外周面及び前記ハウジングボディの内周面の少なくともいずれか一方に周方向に延在する帯状の溝を凹設した。
【0013】
すなわち、作動時に摺接するポンプロータの外周面及びハウジングボディの内周面のうち少なくとも一方には、周方向に延在する帯状の溝が凹設されている。
【0014】
このため、対向する前記ポンプロータの外周面と前記ハウジングボディの内周面との摺接面積は、前記溝が占める面積分減少する。
【0015】
そして、使用時には、前記オイルが前記溝に流入するとともに当該溝内に保持される。
【0016】
また、請求項2のトロコイドポンプにおいては、前記溝を前記ハウジングボディの内周面に設定した。
【0017】
すなわち、前記溝は、前記ハウジングボディの内周面に形成されている。このため、前記ハウジングボディと前記ポンプロータとが部品単位で取り扱われる組み付け前の部品管理において、前記溝が前記ポンプロータの外周面に形成された場合と比較して、他部品との干渉等による前記溝への影響が未然に防止される。
【0018】
さらに、請求項3のトロコイドポンプでは、前記溝を前記吐出ポートに連通した。
【0019】
すなわち、吐出ポートから吐出されるオイルは加圧されており、この加圧されたオイルが前記溝に滞留する。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明の請求項1のトロコイドポンプにあっては、作動時に摺接するポンプロータの外周面及びハウジングボディの内周面のうち少なくとも一方に周方向に延在する帯状の溝を凹設することで、対向する前記ポンプロータの外周面と前記ハウジングボディの内周面との摺接面積を前記溝が占める面積分減少することができる。
【0021】
これにより、回転時における前記ポンプロータの外周面と前記ハウジングボディの内周面との摩擦損失を低減することができ、トルク効率を高めることができる。
【0022】
そして、使用時には、前記溝にオイルが滞留するとともに当該オイルを前記溝内に保持することができる。このため、前記ポンプロータの外周面及び前記ハウジングボディの内周面間での油膜の形成に寄与することができ、両者間に生じ得る摺動抵抗を抑えることができる。
【0023】
このため、前記ポンプロータの外周面及び前記ハウジングボディの内周面間のクリアランスを拡大して損失抵抗を低減する従来の構造と比較して、クリアランスの拡大に起因したオイルの漏洩量の増大を防止することができ、容積効率の低下を防止することができる。
【0024】
したがって、前記トルク効率と前記容積効率とによって決定されるポンプ全体効率を向上することができる。
【0025】
また、請求項2のトロコイドポンプにおいては、前記溝が前記ハウジングボディの内周面に形成されている。
【0026】
このため、前記ハウジングボディと前記ポンプロータとが部品単位で取り扱われる組み付け前の部品管理において、他部品との干渉等による前記溝への影響を未然に防止することができる。
【0027】
このため、前記溝が前記ポンプロータの外周面に形成された場合と比較して、組立前の部品管理が容易となる。
【0028】
さらに、請求項3のトロコイドポンプでは、前記溝を吐出ポートに連通することで、該吐出ポートから吐出される加圧オイルを前記溝に圧送することができる。
【0029】
これにより、前記溝に供給されたオイルを、前記ポンプロータの外周面と前記ハウジングボディの内周面との間に積極的に滲み出させることができるので、前記ポンプロータの外周面及び前記ハウジングボディの内周面間での油膜の形成に貢献することができる。
【0030】
したがって、前記ポンプロータの外周面と前記ハウジングボディの内周面との間で生じ得る摺動抵抗をさらに抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第一の実施の形態を示す図で、(a)は要部の垂直断面図であり、(b)は要部の水平断面図である。
【図2】本発明の第二の実施の形態の要部を示す垂直断面図である。
【図3】従来のトロコイドポンプを示す図で、(a)は要部の垂直断面図であり、(b)は要部の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第一の実施の形態)
【0033】
以下、本発明の第一の実施の形態を図に従って説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態にかかるトロコイドポンプ1の要部を示す図であり、該トロコイドポンプ1は、例えば自動車のATやCVT等の自動変速機の油圧回路で用いられ、アイドルストップ時に低下する油圧を所定圧に維持するものである。
【0035】
このトロコイドポンプ1のポンプ本体11は、モータ等の駆動部側に設けられたポンプハウジングボディ12と、該ポンプハウジングボディ12に接続されるとともにピン13によって回り止めされたポンプベース14とによってケース状に構成されている。
【0036】
前記ポンプハウジングボディ12の中心部には、円形穴21が形成されており、該円形穴21には、前記駆動部側より延出した駆動軸22がシール部材23を介して挿通している。
【0037】
前記ポンプハウジングボディ12の前記ポンプベース14に対向する対向面31には、図1の(b)に示すように、円形のロータ収容部32が凹設されており、該ロータ収容部32は、その中心が前記ポンプハウジングボディ12の中心から外れた偏芯位置に設定されている。このロータ収容部32内には、内接型のポンプロータ33が収容されており、該ポンプロータ33は、ロータインナ34とロータアウタ35とによって構成されている。
【0038】
該ロータアウタ35は、円柱状に形成されており、前記ロータ収容部32内に回転自在に収容されている。このロータアウタ35には、前記ロータインナ34を収容するインナ収容室41が形成されており、該インナ収容室41は、星形状に形成されている。
【0039】
前記ロータインナ34も星形状に形成されており、前記インナ収容室41内に回転自在に収容されている。このロータインナ34の中央部には、一部が平面に構成されたD字状のD字穴51が開設されており、該D字穴51には、前記駆動軸22の先端部に形成された断面D字状の回り止め52が挿通している。これにより、前記駆動軸22によって前記ロータインナ34が回動されるように構成されている。
【0040】
前記回り止め52の先端部は、図1の(a)に示したように、前記ポンプベース14の中心に形成された円形穴61に達しており、当該回り止め52の先端部は、前記円形穴61に回転自在に収容された軸受け62に挿入されている。これにより、前記駆動軸22は、その先端部が前記軸受け62を介して前記ポンプベース14に回動自在に支持されている。
【0041】
前記ロータ収容室32の内歯数は、前記ロータインナ34の外歯数より多く設定されており、前記駆動軸22で前記ロータインナ34を回動すると、これに伴って前記ロータアウタ35が前記偏芯位置を中心に回動する。この際、前記ロータインナ34と前記ロータアウタ35との間に形成された空間の容積が、その回転位置に応じて変化するように構成されており、この容積変化を利用することで前記ポンプベース14に形成された吸入ポート71からオイルを吸入するとともに、吸入されたオイルを加圧して前記ポンプベース14に形成された吐出ポート72から吐出できるように構成されている。
【0042】
前記ポンプロータ33の外周部を構成する前記ロータアウタ35のロータ外周面81は、前記ポンプハウジングボディ12のハウジング内周面82と対向するように構成されており、作動時には、前記ロータ外周面81と前記ハウジング内周面82とが摺接するように構成されている。
【0043】
この互いに摺接する前記ロータ外周面81及び前記ハウジング内周面82の少なくともいずれか一方、本実施の形態では、前記ロータ外周面81に、周方向に延在する帯状の溝が凹設されている。
【0044】
具体的に説明すると、前記ロータ外周面81には、幅細の第一溝91と第二溝92とが離間して平行に凹設されており、各溝91,92は、断面U字状に形成されている。これら両溝91,92によって前記ロータ外周面81には、前記ハウジング内周面82と摺接しない非摺接領域93,93が全周に渡って形成されており、前記両溝91,92間及び前記各溝91,92から当該ロータ外周面81の両縁までの間には、前記ハウジング内周面82と対向し摺接し得る対向領域94,・・・が全周に渡って形成されている。
【0045】
以上の構成にかかる本実施の形態において、作動時に摺接し得るポンプロータ33のロータ外周面81及びポンプハウジングボディ12のハウジング内周面82のうち少なくとも一方、本実施の形態では前記ハウジング内周面82には、周方向に延在する帯状の第一及び第二溝91,92が凹設されている。
【0046】
このため、対向する前記ポンプロータ33の前記ロータアウタ35におけるロータ外周面81と前記ポンプハウジングボディ12の前記ハウジング内周面82との摺接面積を前記各溝91,92が占める面積分減少することができる。
【0047】
これにより、回転時に生じ得る前記ロータ外周面81と前記ハウジング内周面82との摩擦損失を低減することができ、トルク効率を高めることができる。
【0048】
そして、当該トロコイドポンプ1使用時には、前記各溝91,92にオイルを滞留させ、当該オイルを前記各溝91,91内に保持することができる。これにより、前記ロータ外周面81及び前記ハウジング内周面82間での油膜の形成に寄与することで潤滑効果を得ることができ、両者81,82間に生じ得る摺動抵抗を抑えることができる。
【0049】
このため、前記ロータ外周面81及び前記ハウジング内周面82間のクリアランスを拡大して損失抵抗を低減する従来の構造と比較して、クリアランスの拡大に起因したオイルの漏洩量の増大を防止することができ、容積効率の低下を防止することができる。
【0050】
したがって、前記トルク効率と前記容積効率とによって決定されるポンプ全体効率を向上することができる。
【0051】
また、前記ロータ外周面81及び前記ハウジング内周面82間のクリアランスを拡大する必要が無いため、寸法公差幅による影響を受けることが無くなるとともに、精密な研磨加工が不要となり、低コスト化を図ることができる。
【0052】
さらに、クリアランスを拡大することなく、損失抵抗の低減を図ることができるので、作動時に生じ得るポンプロータ33のがたつきに起因したロータ歯面の音発生や摩耗を抑えることができる。
【0053】
そして、本実施の形態では、前記各溝91,92が前記ポンプハウジングボディ12のハウジング内周面82に形成されている。
【0054】
このため、前記ポンプハウジングボディ12と前記ポンプロータ33の前記ロータインナ34及び前記ロータアウタ35が部品単位で取り扱われる組み付け前の部品管理において、他部品との干渉や接触による前記各溝91,92の変形等の影響を未然に防止することができる。
【0055】
このため、前記各溝91,92が前記ポンプロータ33のロータ外周面81に形成された場合と比較して、組立前の取り扱いが容易となり、部品管理性の向上を図ることができる。
【0056】
(第二の実施の形態)
【0057】
図2は、本発明の第二の実施の形態を示す図であり、第一の実施の形態と同一又は同等部分に付いては、同符号を付して説明を割愛するとともに、異なる部分に付いてのみ説明する。
【0058】
すなわち、このトロコイドポンプ1では、前記ポンプハウジングボディ12の前記ハウジング内周面82に縦溝101が形成されており、該縦溝101は、前記ポンプベース14に形成された前記吐出ポート72に接続されている。この縦溝101は、前記ハウジング内周面82において、前記ポンプベース14側に位置する一縁から前記第一溝91に渡って延設されており、前記各溝91,92は、この縦溝101を介して前記吐出ポート72に接続されている。
【0059】
これにより、前記ハウジング内周面82には、前記各溝91,92を前記吐出ポート72に連通する連通路111が前記縦溝101によって形成されており、前記吐出ポート72から吐出される加圧オイルは、前記連通路111を介して前記各溝91,92に圧送される。
【0060】
以上の構成にかかる本実施の形態にあっても、第一の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0061】
これに加えて、前記各溝91,92を前記連通路111を介して前記吐出ポート72に連通することで、該吐出ポート72から吐出される加圧オイルを前記各溝91,92に圧送することができる。
【0062】
これにより、前記各溝91,92に供給されたオイルを、前記ポンプロータ33のロータ外周面81と前記ポンプハウジングボディ12のハウジング内周面82との間に積極的に滲み出させることができるため、前記ロータ外周面81及び前記ハウジング内周面82間での油膜の形成を促進し、より高い潤滑効果を得ることがができる。
【0063】
したがって、前記ロータ外周面81と前記ハウジング内周面82との間で生じ得る摺動抵抗をさらに抑えることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 トロコイドポンプ
12 ポンプハウジング
14 ポンプベース
32 ロータ収容部
33 ポンプロータ
71 吸入ポート
72 ロータ外周面
82 ハウジング内周面
91 第一溝
92 第二溝
111 連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングボディの収容部に収容されたポンプロータを回動し吸入ポートから吸入したオイルを加圧して吐出ポートから吐出する際に前記ポンプロータの外周面と前記ハウジングボディの内周面とが摺接するトロコイドポンプにおいて、
前記ポンプロータの外周面及び前記ハウジングボディの内周面の少なくともいずれか一方に周方向に延在する帯状の溝を凹設したことを特徴とするトロコイドポンプ。
【請求項2】
前記溝を前記ハウジングボディの内周面に設定したことを特徴とする請求項1記載のトロコイドポンプ。
【請求項3】
前記溝を前記吐出ポートに連通したことを特徴とする請求項1又は2記載のトロコイドポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−214553(P2011−214553A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85711(P2010−85711)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000220505)日本電産トーソク株式会社 (189)
【Fターム(参考)】