説明

トンネル構造およびトンネルの構築方法

【課題】地山が大変形を起こしても致命的な被害にならないようなトンネル構造およびトンネルの構築方法を提供すること。
【解決手段】拡幅範囲17において、トンネル3の断面を拡幅し、壁面に高靭性FRC吹付けコンクリート11を設置する。高靭性FRC吹付けコンクリート11の内側に、地山1より剛性の低い材料を充填してせん断変形低減層13を形成し、せん断変形低減層13の内側に高靭性FRC覆工コンクリート15を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル構造およびトンネルの構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地震時に局所的な大変形が予測される断層部や破砕帯などの区間では、トンネルを設置する際、補強を行う。図8は、従来のトンネル109の軸方向の断面図である。図8に示すように、トンネル109を設置する地山101に断層103が存在する場合、ロックボルトの増し打ちや長尺化、鋼製支保工のサイズアップ、吹付けコンクリート105の厚層化、覆工コンクリート107への鉄筋コンクリートや鋼繊維補強コンクリート適用等の方法で補強を図る方法がある。また、繊維補強モルタルによって補修層を薄厚に形成し、優れた引張破壊特性と圧縮強度とによって補修層に強力な自立強度を持たせ、覆工壁との間の付着切れを許容するとともに、付着切れによる局所的な変状等の発生を防止し、補修層に局部的に外力が作用しても無筋コンクリートのような脆性的な破壊は発生せず、コンクリート片の剥落を防止し、トンネル使用上の安全性を確保するトンネルの補修構造がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−173379
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の補強は、トンネル構造の剛性を高めて変形に対抗するものであり、地震時における断層のずれのように変形を強制的に生じさせるような動きには対抗できない。例えば、図8の断層103に沿って矢印Fの方向に大規模なすべりが生じると、吹付けコンクリート105及び覆工コンクリート107の両者に数から数10mmのひび割れが発生し、局所的な破壊、コンクリート片の剥落等が起こり、トンネル109の構造全体の破壊に至ることも少なくない。
【0004】
図9は断層103に矢印Fの方向のずれが生じた後のトンネル109の軸方向の断面図である。図9に示すように、断層103の変形が大きく、吹付けコンクリート105及び覆工コンクリート107の両者が破壊してトンネル109の構造全体が破壊した場合、破砕された岩や砂礫111がトンネル109の内部に流入する。また、断層103は滞水層になっていることも多く、大量の湧水113が同時に発生することも多い。
【0005】
ひび割れによる漏水やコンクリート片の剥落は、道路トンネルなどでは走行障害や通行止め、水路トンネルなどではライフラインの機能損失といったような大きな被害に結びつく。トンネル109の構造全体が破壊した場合には、落下したコンクリート、破砕された地山や砂礫111、あるいは破壊に伴い発生した湧水113などが、鉄道・道路トンネルでは交通機能の麻痺、水路トンネルなどではライフラインの機能停止といったような大災害を引き起こし、人的被害が甚大になる恐れがある。
【0006】
また、特許文献1に記載のトンネルの補修構造も、トンネル構造の剛性を高めて変形に対抗するものであり、地震時における断層のずれのように変形を強制的に生じさせるような動きには対抗できない。なお、特願2001−191742のように、高靭性繊維補強モルタル(以下、高靭性FRCとする)を用いたトンネル覆工構造も提案されているが、該特許はトンネルの防水を主目的、コンクリートの剥落防止を副次的な効果としており、大変形部におけるトンネル構造の破壊を防止するためのものではない。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、地山が大変形を起こしても致命的な被害にならないようなトンネル構造およびトンネルの構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための第1の発明は、トンネルの覆工コンクリートと、前記覆工コンクリートの外周に設けられたせん断変形低減層と、を具備することを特徴とするトンネル構造であって、前記覆工コンクリートは、ひび割れ分散性を有する高靭性繊維補強コンクリートであることを特徴とするトンネル構造である。
【0009】
前記せん断変形低減層は、周囲の地山よりも剛性の低い材料であってもよく、前記せん断変形低減層の周囲にひび割れ分散性を有する高靭性繊維補強コンクリートからなる吹付けコンクリートが設けられてもよい
【0010】
第1の発明のトンネル構造は、断層のある区間で使用される。覆工コンクリートには、例えば、ひび割れ分散性を有する高靭性FRCを使用する。せん断変形低減層には、例えば、トンネルの裏込め注入に利用される一般的な裏込め注入材(一軸圧縮強度1.5MPa程度)や高靭性FRC等、周囲の地山よりも剛性の低い材料を使用する。せん断変形低減層は、トンネル断面を拡幅した後、材料を充填して形成される。あるいは、材料の事前注入により形成される。トンネル断面を拡幅する場合、せん断変形低減層の設置予定位置の外側に吹付けコンクリートを設ける。吹付けコンクリートには、例えば、ひび割れ分散性を有する高靭性FRCを使用する。
【0011】
第1の発明では、覆工コンクリート設置位置の外周にせん断変形低減層を設け、せん断変形低減層の内側にトンネルの覆工コンクリートを設ける。また、施工方法によって、せん断変形低減層の外側に吹付けコンクリートを設置する。
【0012】
充填によりせん断変形低減層を形成する場合、トンネル断面の拡幅直後の地山の崩落防止が必要であれば、吹付けコンクリートを設置する。事前注入によってせん断変形低減層を形成する場合、注入が不完全なときには地山の内側に吹付けコンクリートを設置する。これには、曲面をきれいにする意図もある。事前注入により地山がしっかりもっている場合は、必ずしも吹付けをする必要はない。せん断変形低減層は、断層の急激なずれが覆工コンクリートに直接影響を及ぼさないようにするための緩衝層として作用する。
【0013】
第2の発明は、トンネルの覆工コンクリート設置予定位置の外周にせん断変形低減層を設ける工程(a)と、前記せん断変形低減層の内側にひび割れ分散性を有する高靭性繊維補強コンクリートからなる前記覆工コンクリートを設ける工程(b)と、を具備することを特徴とするトンネル構築方法である。
【0014】
前記工程(a)の前に、地山の掘削面にひび割れ分散性を有する高靭性繊維補強コンクリートからなる吹付けコンクリートを設置してもよい。
【0015】
第2の発明は、第1の発明のトンネル構造を構築する方法である。第2の発明では、覆工コンクリート設置予定位置の外周にせん断変形低減層を設ける。せん断変形低減層には、周囲の地山よりも剛性の低い材料を用いる。せん断変形低減層は、例えば、地山に裏込め注入材を注入して形成する。または、地山の掘削面にひび割れ分散性を有する高靭性FRC等の吹付けコンクリートを吹付けて設置し、吹付けコンクリートの内側にひび割れ分散性を有する高靭性FRC等を充填してせん断変形低減層を形成する。次に、せん断変形低減層の内側に覆工コンクリートを設ける。覆工コンクリートには、ひび割れ分散性を有する高靭性FRC等を用いる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。図1は、トンネル3の断面図である。図1の(a)はトンネル3の軸方向の断面図、図1の(b)は図1の(a)のX−Xによる断面図を示す。
【0017】
図1の(a)に示すように、地山1にトンネル3を形成する際、断層5の存在しない通常区間16では、掘削したトンネル3の壁面に吹付けコンクリート7を吹付け、吹付けコンクリート7の内側に覆工コンクリート9を設置する。
【0018】
断層5の存在する拡幅範囲17では、汎用機械によりトンネル3の断面を拡幅する。地山1の素掘りが困難な場合は、先受け工法や事前の地盤改良注入などを利用する。掘削に伴い、トンネル3の壁面や切羽に高靭性FRC吹付けコンクリート11を吹付けて設置する。なお、必要に応じて、鋼製支保工やロックボルト(図示せず)を設置しておく。
【0019】
次に、セントルなどの移動式型枠や組立て式型枠など(図示せず)を使用して、図1の(a)、図1の(b)に示すように、高靭性FRC吹付けコンクリート11の内側にせん断変形低減層13を形成し、せん断変形低減層13の内側に高靭性FRC覆工コンクリート15を打設する。
【0020】
せん断変形低減層13には、例えば、トンネルの裏込め注入に使用される一般的な裏込め注入材等、周囲の地山1よりも剛性の低い材料を使用すればよく、高強度の材料を使用する必要はない。せん断変形低減層13として、高靭性FRC吹付けコンクリート11と同様に、高靭性FRCを用いてもよい。
【0021】
図2は、断層5に矢印Aの方向のずれが生じた後のトンネル3の軸方向の断面図である。トンネル覆工部材は、通常、圧縮材として設計されるので、曲げ変形に対しては非常に弱いが、高靭性FRC覆工コンクリート15、高靭性FRC吹付けコンクリート11を使用することにより、図2に示すように、通常の無筋コンクリートや鋼繊維補強コンクリートを使用する場合に比べて、非常に大きな曲げ変形に耐えることができる。また、高靭性FRC材料はひび割れ分散性を有しているため、高靭性FRC覆工コンクリート15には貫通ひび割れが生じず、せん断変形低減層13からトンネル3の内部への漏水を阻止することができる。トンネル3が水路トンネルであれば、トンネル3内部から地山1への漏水を防止できる。
【0022】
図3は、図2の断層5とトンネル3の境界部分を示す図である。図3の(a)は、断層5とトンネル3の境界部分の拡大図、図3の(b)、(c)は、それぞれ、図3の(a)の範囲B、範囲Cのせん断変形低減層13の一部分を示す図である。
【0023】
図3の(b)、(c)に示すように、断層5のずれの前後で、せん断変形低減層13の最も外側の範囲B(地山1に近い部分)では部材19が部材21に変形し、最も内側の範囲C(トンネル3に近い部分)では部材23が部材25に変形する。
【0024】
せん断変形低減層13は、断層5の急激なずれ(不連続面)が高靭性FRC覆工コンクリート15に直接影響を及ぼさないようにするための緩衝層である。せん断変形低減層13の厚さを増し、せん断幅を大きく取ることで、せん断変形低減層13と高靭性FRC覆工コンクリート15の接触面でのせん断ひずみをより小さくできる。
【0025】
せん断変形低減層13を大変形の緩衝層として設置することにより、断層5に急激なずれが生じても、せん断変形低減層13と高靭性FRC覆工コンクリート15の接触面でのずれは、なだらかで連続性のあるものとなり、曲げに強い高靭性FRC材料の特長を最大限に生かすことができる。断層5のずれにより、せん断変形低減層13にひび割れが生じても、せん断変形低減層13と高靭性FRC覆工コンクリート15との接触面のずれが断層5のずれよりもなだらかになり、比較的連続性を持ったものであれば、せん断変形低減層13は機能を果たしているといえる。
【0026】
このように、第1の実施の形態では、断層部、破砕帯部など、地震時に大変形を生じるような地点にトンネルを施工する際、緩衝層、すなわち、せん断変形低減層13を設けることで、緩衝層が大変形を低減する。また、高靭性FRC覆工コンクリート15が高靭性とひび割れ分散性を発揮することで、トンネル3の機能停止を回避し、機能損失の程度を軽減することができる。トンネル3の被害が小さくなると恒久措置への取り掛かりが早まり、早期の復旧が可能となる。
【0027】
なお、第1の実施の形態では、トンネル3の断面拡幅後に高靭性FRC吹付けコンクリート11を吹付け、その内側にせん断変形低減層13を充填して設置したが、地盤条件により、トンネル3の断面拡幅を行わずに、拡幅深さに相当する部分を事前注入などにより改良し、せん断変形低減層13を設置してもよい。また、拡幅範囲17の吹付けコンクリートとして高靭性FRC吹付けコンクリート11を用いたが、材料は高靭性FRCに限らない。断面拡幅時に拡幅区間17の地山1が安定している場合には、吹付けコンクリートは必ずしも必要でない。
【0028】
また、地山1と高靭性FRC吹付けコンクリート11の間、高靭性FRC吹付けコンクリート11とせん断変形低減層13の間、せん断変形低減層13と高靭性FRC覆工コンクリート15の間に、防水シートやセメント結晶増殖材等により、防水工(図示せず)を設置してもよい。防水工によってこれらの隣接する2層を分離することで、高靭性FRC覆工コンクリート15が拘束されて断層5の大変形の影響を受けるのを防ぐことができる。
【0029】
次に、第2の実施の形態について説明する。図4は、トンネル3の断面図である。図4の(a)はトンネル3の軸方向の断面図、図4の(b)は図4の(a)のY−Yによる断面図を示す。
【0030】
図4の(a)に示すように、地山1にトンネル3を形成する際、断層5の存在しない通常区間16では、掘削したトンネル3の壁面に吹付けコンクリート23を吹付け、吹付けコンクリート23の内側に覆工コンクリート25を設置する。
【0031】
断層5の存在する拡幅範囲17では、汎用機械によりトンネル3の断面の拡幅を行う。地山1の素掘りが困難な場合は、先受け工法や事前の地山改良注入などを利用して拡幅する。掘削に伴い、トンネル3の壁面や切羽に吹付けコンクリート23を吹付けて設置する。なお、必要に応じて、鋼製支保工やロックボルト(図示せず)を設置しておく。そして、吹付けコンクリート23の内側に覆工コンクリート25を設置する。
【0032】
次に、拡幅範囲17の覆工コンクリート25の内側に、複数の抑え枠33とダンパ39を設置する。図4の(b)に示すように、抑え枠33は、方形の枠状の本体35と、本体35の下部に固定された足37とで構成される。
【0033】
抑え枠33とダンパ39を設置した後、通常区間16の端部の覆工コンクリート25の内側に沿って型枠27を配置する。そして、抑え枠33の中に可とう性管材31を通し、型枠27を用いて、拡幅区間17に可とう性管材31を配置する。但し、可とう性管材31の軸方向の長さは拡幅区間17より長く、両端部は通常区間16に達するものとする。
【0034】
抑え枠33は、可とう性管材31の姿勢を保持し、設計荷重に対抗し、ダンパ39を設置するために使用される。ダンパ39は、抑え枠33の本体35と覆工コンクリート25との間に設置され、地震時に地山1から可とう性管材31へ伝わる振動を低減し、共振などを避けるために設置される。
【0035】
次に、必要に応じて、覆工コンクリート25と可とう性管材31との間に緩衝材47を充填する。緩衝材47は振動を軽減するためのものであり、例えば、液体や気体を使用する。さらに、内管固定用材料29を可とう性管材31の両端部の周囲に充填する。内管固定用材料29には、例えば、吹付けコンクリートを使用する。トンネル3が水路トンネルなどであって、内管固定用材料29に防水性がない場合は、内管固定用材料29の表面に防水材料を塗布することで防水性を達成する方法などが考えられる
【0036】
図5は、断層5に矢印Dの方向のずれが生じた後のトンネル3の軸方向の断面図である。断層5が存在する区間において、トンネル3の覆工コンクリート25と可とう性管材31との間に空間を設け、必要に応じて緩衝材47を充填することで、断層5の大きなずれは、直接には可とう性管材31に伝わらない。可とう性管材31の両端部と、トンネル3の内空の変状に応じて、可とう性管材31が余裕を持って再配置される。
【0037】
次に、第3の実施の形態について説明する。図6は、トンネル3の断面図である。図6の(a)はトンネル3の軸方向の断面図、図6の(b)は図6の(a)のZ−Zによる断面図を示す。第3の実施の形態では、覆工コンクリート25の内側に設置する内管として、第2の実施の形態の可とう性管材31の代わりに、比較的剛な管材である鋼管43を使用する。鋼管43の他に、ヒューム管等を用いても良い。
【0038】
第3の実施の形態では、第2の実施の形態と同様にして、通常区間16および拡幅範囲17のトンネル3の壁面に吹付けコンクリート23を吹付け、吹付けコンクリート23の内側に覆工コンクリート25を設置する。
【0039】
さらに、拡幅範囲17の覆工コンクリート25の内側に、複数の抑え枠33とダンパ39を設置した後、鋼管43を抑え枠33の中に通し、型枠等(図示せず)を用いて拡幅区間17に鋼管43を配置する。但し、鋼管43の軸方向の長さは拡幅区間17より長く、両端部は通常区間16に達するものとする。また、必要に応じて、覆工コンクリート25と鋼管43との間に、液体、気体等の緩衝材47を充填する。
【0040】
抑え枠33は、鋼管43の姿勢を保持し、設計荷重に対抗し、ダンパ39を設置するために使用される。ダンパ39は、抑え枠33の本体35と覆工コンクリート25との間に設置され、地震時に地山1から鋼管43へ伝わる振動を低減し、共振などを避けるために設置される。
【0041】
次に、内管固定用材料45を鋼管43の両端部の周囲に固定する。トンネル3が水路トンネル等であり、鋼管43の端部の止水が必要な場合には、内管固定用材料45として、例えば、テールシール構造等の形式の止水構造を使用する。その他の場合には、内管固定用材料29と同様に、防水性の固定用材料を鋼管43の端部の外周に充填してもよい。
【0042】
図7は、断層5が矢印Eの方向に動いた後のトンネル3の軸方向の断面図である。断層5が存在する区間において、トンネル3の覆工コンクリート25と鋼管43との間に空間を設け、必要に応じて緩衝材47を充填することで、断層5の大きなずれは、直接には鋼管43に伝わらない。鋼管43の両端部と、トンネル3の内空の変状に応じて、鋼管43が余裕を持って再配置される。
【0043】
トンネル3の内空の変形により、鋼管43が回転して鋼管43の両端部と覆工コンクリート5との間に開きが生じる場合でも、内管固定用材料45としてテールシール構造等の形式の止水構造を用いることで、止水性能を向上できる。
【0044】
このように、第2、第3の実施の形態では、断層部、破砕帯部など、地震時に大変形を生じるような地点にトンネルを施工する際、トンネル3の覆工コンクリート25と内管、すなわち可とう性管材料31や鋼管43、ヒューム管との間に空間を設ける。空間には、必要に応じて、緩衝材47を充填する。
【0045】
この空間または緩衝材47が地震時の断層5のずれを吸収するため、断層5に大きなずれが生じて拡幅範囲17前後で局所的に覆工コンクリート25等のトンネル構造が破壊しても、図5、図7に示すように、内管に損傷はほとんどなく、砂礫41等は内管の外側に保持される。よって、トンネル3が水路トンネルであれば機能を保持でき、道路・鉄道トンネルであれば被害を最小限に食い止めることができる。トンネル3の被害が小さくなると恒久措置への取り掛かりが早まり、早期の復旧が可能となる。
【0046】
なお、第2、第3の実施の形態では、拡幅範囲17でトンネル3の断面を拡幅したが、内管の断面がトンネル3の断面より非常に小さくて良い場合は、拡幅する必要はない。拡幅区間17や拡幅高18は、あらかじめ断層5のずれ変位量を評価し、内管に使用する可とう性管材料31や鋼管43、ヒューム管等が変形を受けても、内管材がその変形により破損せず、許容応力の範囲内のひずみに収まるように決定する。
【0047】
また、拡幅範囲17の覆工コンクリート25は、必ずしも必要ではない。覆工コンクリート25を設置しない場合は、吹付けコンクリート23と内管(可とう性管材料31や鋼管43、ヒューム管等)との間に抑え枠33、ダンパ39を設置する。また、必要に応じて、吹付けコンクリート23と内管との間に緩衝材47を充填する。
【0048】
さらに、図4の(b)、図6の(b)では、可とう性管材料31や鋼管43の断面を円形としたが、設計荷重に対抗できる限りにおいては、内管の断面は円形である必要はない。また、内管材は単一である必要はなく、複数の管の集合体としてもよい。
【0049】
以上、詳細に説明したように本発明によれば、地山が大変形を起こしても致命的な被害にならないようなトンネル構造およびトンネルの構築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】トンネル3の断面図
【図2】断層5に矢印Aの方向のずれが生じた後のトンネル3の軸方向の断面図
【図3】図2の断層5とトンネル3の境界部分を示す図
【図4】トンネル3の断面図
【図5】断層5に矢印Dの方向のずれが生じた後のトンネル3の軸方向の断面図
【図6】トンネル3の断面図
【図7】断層5に矢印Eの方向のずれが生じた後のトンネル3の軸方向の断面図
【図8】従来のトンネル109の軸方向の断面図
【図9】断層103に矢印Fの方向のずれが生じた後のトンネル109の軸方向の断面図
【符号の説明】
【0051】
1………地山
3………トンネル
5………断層
7、23………吹付けコンクリート
9、25………覆工コンクリート
11………高靭性FRC吹付けコンクリート
13………せん断変形低減層
15………高靭性FRC覆工コンクリート
31………可とう性管材
33………抑え枠
39………ダンパ
43………鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの覆工コンクリートと、
前記覆工コンクリートの外周に設けられたせん断変形低減層と、
を具備することを特徴とするトンネル構造であって、
前記覆工コンクリートは、ひび割れ分散性を有する高靭性繊維補強コンクリートであることを特徴とするトンネル構造。
【請求項2】
前記せん断変形低減層は、周囲の地山よりも剛性の低い材料であることを特徴とする請求項1記載のトンネル構造。
【請求項3】
前記せん断変形低減層の周囲にひび割れ分散性を有する高靭性繊維補強コンクリートからなる吹付けコンクリートが設けられたことを特徴とする請求項1記載のトンネル構造。
【請求項4】
トンネルの覆工コンクリート設置予定位置の外周にせん断変形低減層を設ける工程(a)と、
前記せん断変形低減層の内側にひび割れ分散性を有する高靭性繊維補強コンクリートからなる前記覆工コンクリートを設ける工程(b)と、
を具備することを特徴とするトンネル構築方法。
【請求項5】
前記工程(a)の前に、地山の掘削面にひび割れ分散性を有する高靭性繊維補強コンクリートからなる吹付けコンクリートを設置することを特徴とする請求項4記載のトンネル構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−205163(P2007−205163A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132371(P2007−132371)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【分割の表示】特願2002−43350(P2002−43350)の分割
【原出願日】平成14年2月20日(2002.2.20)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】