説明

トンネル空隙部の充填工法および充填組成物

【課題】既設トンネル内に水が存在する空隙部に充填する充填工法及び充填組成物を提供する。
【解決手段】既設トンネル内の空隙部へ、下記特徴を有するセメント系組成物を充填することを特徴とするトンネル空隙部の充填工法、及び既設トンネル内の空隙部への充填に使用してなり、かつ、下記特徴を有するセメント系組成物。
(1)セメント系組成物が、セメント系鉱物、セメント系急硬材、増粘剤、酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類、及び水を含有してなること。
(2)土木学会、水中不分離性コンクリートの水中不分離度試験方法(案)に定められたpHが11以下であり、JSCE K 531 1999に定められた測定方法で材齢7日時の封緘養生後の付着強さが0.8N/mm2以上であり、JIS A 1106 2006に定められた測定方法に基づき、材齢7日時の水中養生後の曲げ強度が2.0N/mm2以上であるセメント系組成物であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に既設トンネル内に水が存在する空隙部に充填する充填工法及び充填組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、既設トンネルにおいて、建設時の余掘や供用後の湧水の影響等の理由により、側壁、道床、路盤構造物内やトンネル覆工背面部、路盤下部に空隙が発生することがある。このような空隙部は、非破壊検査の技術や側壁、道床、路盤構造物を削孔することで確認されており、特に湧水が多い箇所は空隙が大きく、空隙部に湧水が存在することが多い。
【0003】
この空隙部の存在は、車両通過時に発生する風圧、振動等により、トンネルの肌面を剥落させる危険性があり、さらに路盤などの構造物が沈下するなど車両の運行上の安全面の確保のため補修を行なう必要がある。
【0004】
このようなトンネル内空隙部の補修は、空隙部にセメント系材料を充填することで行われている。そして、この充填組成物として、セメントミルクやセメントエアミルクといったセメント系充填材料が知られている(例えば非特許文献1、特許文献1、2)。この従来の工法は、硬化前のセメント系充填材料を空隙部に注入し、空隙部に硬化体を形成するものであり、低圧下で充填できるため、空隙部周囲の構造物に変形や衝撃を与えない。
【0005】
しかしながら、充填する空隙部に湧水がある場合、充填組成物が水に希釈され、充填組成物が空隙部から逸脱して、空隙部周囲の構造物と一体化できないといった事態が発生する問題がある。
【0006】
このような充填組成物の空隙部(空洞部)周辺への逸脱を防止するため、充填組成物(注入材料)が湧水(地下水、流水)に希釈されないよう、セメントにベントナイトを添加し、可塑性を備える技術がある(特許文献3、4)。
【0007】
また、空隙部への充填に使用してなるセメント系組成物ついて、セメント系組成物が、セメント系鉱物、増粘剤(セルロース)、酢酸ビニル系共重合体等の合成樹脂エマルジョン、及び水を含有してなるものは公知である(特許文献5、6)が、特許文献5、6に記載されたセメント系組成物は、セメント系急硬材を含有するものではなく、水中不分離性や曲げ強度については、何ら示唆されていない。
【0008】
さらに、セメント系鉱物、セメント系急硬材、増粘剤、増粘剤、合成樹脂エマルジョン、及び水を含有してなるセメント系組成物も公知である(特許文献7、8)が、特許文献7、8に記載されたセメント系組成物は、「高強度及び耐磨耗性に優れ、セルフレベリング性を兼ね備えた床仕上材などに用いることができる高強度水硬性組成物」であり、水中不分離性や付着強さが要求されるトンネル内の空隙部の充填に使用することについては全く示唆がなく、また、増粘剤とアクリル系樹脂エマルジョンとの組み合わせが具体的に示されているだけで、増粘剤と酢酸ビニル系樹脂エマルジョンとの組み合わせは具体的に示されていない。
【0009】
【非特許文献1】大友武臣他、透水性コンクリートの開発に関する研究、セメント・ コンクリート論文集、No.45、1991
【特許文献1】特開平11−228197号公報
【特許文献2】特開2000−119056号公報
【特許文献3】特開2000−328886号公報
【特許文献4】特開2000−54794号公報
【特許文献5】特開平10−95652号公報
【特許文献6】特開2002−29806号公報
【特許文献7】特開2004−300017号公報
【特許文献8】特開2005−289719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
トンネル内の空隙部の充填に使用されていた従来の充填組成物は、母材のコンクリートとの付着が弱いため、車両通過時に発生する風圧、振動、車両の繰返し衝撃、すなわち、曲げや衝撃荷重を受けた場合、充填組成物がひび割れ、破壊してしまう場合がある。
そこで、本発明は、湧水箇所でも充填組成物が流されず、さらに周囲構造物と高い付着性状を持ち、曲げや衝撃荷重を受けても変形量が少ない充填組成物を提供し、さらに、上記充填組成物を空隙部周囲の構造物に変形や衝撃を与えないように、注入口にかかる圧力を0.5MPa以下の低圧下で安定的に圧入できる充填工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、既設トンネル内の空隙部へ、下記特徴を有するセメント系組成物を充填することを特徴とするトンネル空隙部の充填工法であり、
(1)セメント系組成物が、セメント系鉱物、セメント系急硬材、増粘剤、酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類、及び水を含有してなること。
(2)土木学会、水中不分離性コンクリートの水中不分離度試験方法(案)に定められたpHが11以下であり、JSCE K 531 1999に定められた測定方法で材齢7日時の封緘養生後の付着強さが0.8N/mm2以上であり、JIS A 1106 2006に定められた測定方法に基づき、材齢7日時の水中養生後の曲げ強度が2.0N/mm2以上であるセメント系組成物であること。
また、既設トンネル内の側壁、道床、路盤構造物にコアドリルにて注入孔を削孔した後、直ちに注入口から注入速度が2〜15L/min、注入口にかかる圧力を0.5MPa以下でセメント系組成物を圧入する該トンネル空隙部の充填工法であり、注入孔と注入管の隙間を間詰めして、隙間を埋めてからセメント系組成物を圧入する該トンネル空隙部の充填工法である。
さらに、既設トンネル内の空隙部への充填に使用してなり、かつ、下記特徴を有するセメント系組成物である。
(1)セメント系組成物が、セメント系鉱物、セメント系急硬材、増粘剤、酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類、及び水を含有してなること。
(2)土木学会、水中不分離性コンクリートの水中不分離度試験方法(案)に定められたpHが11以下であり、JSCE K 531 1999に定められた測定方法で材齢7日時の封緘養生後の付着強さが0.8N/mm2以上であり、JIS A 1106 2006に定められた測定方法に基づき、材齢7日時の水中養生後の曲げ強度が2.0N/mm2以上であるセメント系組成物であること。
また、前記増粘剤が、セルロース系増粘剤であることを特徴とする該セメント系組成物であり、前記増粘剤が、セメント系鉱物100質量部に対して、0.1〜2.0質量部であることを特徴とする該セメント系組成物であり、前記酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類が、セメント系鉱物100質量部に対して、固形分で2〜25質量部であることを特徴とする前記セメント系組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、トンネル空隙部の充填組成物として、湧水箇所でも水中不分離性に優れ、さらに空隙部周囲の構造物と高い付着性状を持ち、曲げ荷重を受けても変形量が少ないセメント系組成物を完成し、さらに施工時に空隙部周囲の構造物に衝撃や変形を与えないように、低圧下で安定的に施工できる工法を完成するに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において、既設トンネル内の空隙部へセメント系組成物(以下、「充填組成物」という。)を充填するための注入口は、側壁または軌道構造物の空隙部周囲にドリルにて削孔する。さらに、施工性、充填性から32mmから100mmのコアドリルで注入口を削孔することが好ましい。
【0014】
注入孔を削孔した後、直ちに充填組成物を圧入することが好ましい。注入孔を削孔してから注入するまでに長い日数を経ると、地山から湧水が注入口まで流れ、美観に劣るばかりか、地山近傍の砂礫が注入口に集まり、注入口近傍の空隙を埋める可能性がある。このように、長い日数を経て空隙が埋まった場合、バキュームなどで砂礫を吸い出す必要がある。
【0015】
充填組成物を注入する速度は、毎分2〜15Lが好ましく、毎分3〜10Lがより好ましい。毎分2L未満だと、充填時間が長く、作業効率が悪い上に、圧入できず注入量が少ない場合がある。15Lを超えると瞬時に圧力がかかり、周囲の構造物の安定を阻害する可能性がある。
【0016】
注入口にかかる圧力は0.5MPa以下が好ましく、0.2MPa以下がより好ましい。0.5MPaを超えると周囲構造物が浮き上がる可能性がある。さらに、近接した箇所で同時に充填組成物を圧入すると、周囲構造物の浮上りが生ずる可能性が高くなり、危険である。
【0017】
充填を行う際、図1に示すように、注入孔と注入管の隙間に間詰めをすることが好ましい。間詰めにより、注入孔と注入管の間の隙間を埋めることで、充填組成物に圧力がかかり、微細な空隙にも圧入できるばかりか、注入口から充填組成物が逸脱することを抑制できる。間詰めをするためのものは特に限定されるものではなく、急結セメント、粘土、ウエス、パッカ、隙間テープなどが挙げられ、特に限定されるものではないが、低圧で圧送するため、隙間テープを部分的に注入管に巻きつけることが好ましい。
【0018】
本発明で使用する充填組成物を圧送する設備は特に限定されるものではなく、例えば手動ダイヤフラム式ポンプ、スクイズ式ポンプ、スネーク式ポンプ、ピストン式ポンプなどが上げられるが、安定した圧送ができるスクイズ式ポンプやスネーク式ポンプが好ましい。
【0019】
本発明で使用する充填組成物は、水中不分離性に優れ、短時間で硬化し、空隙部周囲の構造物と高い付着性を持ち、さらに曲げ耐力があることが必要となる。
【0020】
本発明で使用する充填組成物は、土木学会、水中不分離性コンクリートの水中不分離度試験方法(案)に定められたpHが11以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。pHが11を超えると水中不分離性が低く、湧水で充填組成物が流出してしまい、空隙部周囲の構造物と一体化できない可能性がある。
【0021】
土木学会、水中不分離性コンクリートの水中不分離度試験方法(案)に定められたpHの測定条件は、以下のとおりである。
充填組成物(試料)を500g用意した。イオン交換水が800ml入った1000mlビーカーに、試料を10分割して、1分割分ずつヘラを用いて水面に接する位置から静かに自由落下させ、全試料の落下を20〜30秒で終了させた。3分間静置した後の水を吸引装置で600ml採取し、pHを測定した。
【0022】
本発明で使用する充填組成物は、JSCE K 531 1999に定められた測定方法で封緘養生下、材齢7日時の付着強さが、0.8N/mm2以上であることが好ましく、1.5N/mm2以上であることがより好ましい。付着強さが0.8N/mm2未満だと、車両通過時に発生する風圧、振動、車両荷重等の繰返し衝撃、すなわち、曲げや衝撃荷重などを受けた場合、充填組成物がひび割れてしまう可能性がある。
【0023】
本発明で使用する充填組成物は、JIS A 1106 2006に定められた測定方法に基づき、材齢7日時の水中養生後の曲げ強度が2.0N/mm2以上であることが好ましく、3.0N/mm2以上であることがより好ましい。2.0N/mm2より低いと、車両通過時に発生する風圧、振動、車両荷重等の繰返し衝撃、すなわち、曲げや衝撃荷重を受けた場合、変形量が大きく空隙部背面の地山や空隙部周囲の構造物に変形、衝撃を与え、充填組成物がひび割れてしまう可能性がある。
【0024】
本発明で使用する充填組成物は、上記性能を得るためにセメント系鉱物、セメント系急硬材、増粘剤、酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類、及び水を必須成分とする。
【0025】
本発明で使用するセメント系鉱物は、セメントとしては特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱および中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに、高炉スラグやフライアッシュやシリカフュームなどを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)、市販されている微粒子セメント並びに、アルミナセメントなどが挙げられ、各種ポルトランドセメントや各種混合セメントを微粉末化して使用することも可能である。また、通常セメントに使用されている成分(例えば石膏等)量を増減して調整されたものも使用可能である。
これらセメント系鉱物は単独で使用することができ、さらに2種以上併用して使用することも可能である。これらの中では、価格や入手し易さから、普通セメントが好ましい。
【0026】
本発明で使用するセメント系急硬材は、急硬性セメントコンクリート中に混入できれば特に制限はない。急硬成分としては、アルミン酸ナトリウムやケイ酸ナトリウム等の無機塩系や、カルシウムアルミネート類等のセメント鉱物系等が挙げられる。これらの中では、セメントコンクリートの凝結性状に優れ、強度発現性が良好な点で、カルシウムアルミネート類が好ましい。
セメント系急硬材の比表面積は、ブレーン値で3000〜9000cm/gが好ましく、4000〜8000cm/gがより好ましい。3000cm/g未満だとの組成物の強度が充分でない場合があり、9000cm/gを超えると流動性や可使時間の確保が困難になる場合がある。
【0027】
カルシウムアルミネート類はカルシウムアルミネート、カルシウムアルミノシリケート、カルシウムサルホアルミネート、カルシウムアルミノフェライトなどが挙げられるが、凝結性状に優れるカルシウムアルミノシリケートがより好ましい。
カルシウムアルミノシリケートは、CaOとAl2O3とSiO2を主成分とする非晶質物質であり、CaO/Al2O3モル比が1.5〜3.0で、SiO2含有量が2.0〜5.0% の組成を有するものである。本発明では、CaO/Al2O3モル比が2.0〜2.5のカルシウムアルミノシリケートが好ましい。CaO/Al2O3モル比が1.5未満では強度発現に時間を要し、また、逆に、CaO/Al2O3モル比が3.0を超えると充分な流動性や可使時間が得られない場合がある。SiO2含有量が2.0%未満では十分な流動性や可使時間が得られない場合があり、5.0%を超えると強度発現に時間を要し、充分な強度が得られない場合がある。セメント系急硬材の使用量は、セメント系鉱物100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、5〜10質量部がより好ましい。1質量部未満だと強度発現に時間を要し、20質量部を超えると十分な流動性や可使時間が得られない場合がある。
【0028】
本発明で使用するセメント組成物においては比較的少量の増粘剤を添加することで、他の性能に対する影響を最小限に抑えつつ、水中不分離性が向上できる。増粘剤は、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、水溶性ポリマー系、アルキルアリルスルホン酸塩とテトラアルキルアンモニウム塩の含有などを用いることでき、特に限定されるものではないが、特にセルロース系が湧水下でも最も水中不分離性に優れる。セルロース系増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースを用いることができる。
増粘剤の使用量は、セメント系鉱物100質量部に対して、0.1〜2.0質量部が好ましく、0.2〜1.0質量部がより好ましい。0.1質量部未満だと十分な水中不分離性が得られない場合がある。2.0質量部を超えると十分な流動性が得られず、作業性に劣る場合がある。
【0029】
本発明で使用される酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類としては、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、エチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョン、エチレン/酢酸ビニル/アクリル酸エステル共重合体エマルジョン、エチレン/酢酸ビニル/メタアクリル酸エステル共重合体エマルジョン、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体エマルジョン、酢酸ビニル/アクリル酸エステルエマルジョン、酢酸ビニル/メタアクリル酸エステルエマルジョン、酢酸ビニル/ビニルバーサテートエマルジョン、エチレン/酢酸ビニル/ビニルバーサテートエマルジョン、酢酸ビニル/ビニルバーサテート/アクリル酸エステルエマルジョン等が挙げられ、特に限定されるものではないが、そのうちエチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョンの使用が好ましい。
酢酸ビニルと共重合させる(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル基と(メタ)アクリル酸のエステルであって、例えば2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルがある。また、炭素数7以上のアルキル基に窒素、エポキシ基、リン酸基を含有するアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルなどを用いることができる。本発明で使用する共重合体類は、ガラス転移温度が20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。20℃を越えると周囲のコンクリート構造物との付着性が低下するおそれがある。
酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類は液体や粉体のいずれの形態でも使用可能であるが、酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類の粉体としての使用量は、セメント系鉱物100質量部に対して、2〜25質量部が好ましく、3〜15質量部がより好ましい。2質量部未満だと付着強さや曲げ耐力が低下する可能性がある。25質量部を超えると凝結遅延する可能性がある。
【0030】
本発明で使用するセメント組成物においては、硬化体の強度、曲げ耐力の向上や密度をコントロールする目的でフィラーを併用することができる。フィラーは、特に限定されることはなく、無機系や有機系のものが使用可能である。無機系としては、石膏、珪石、石灰石などの骨材、ベントナイトなどの粘土鉱物、ゼオライトなどのイオン交換体、硫酸塩類、炭酸塩類、アルカリ金属塩類などが挙げられる。有機系材料としては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維などの繊維状物質、イオン交換樹脂などが挙げられる。これらの中では、石膏が好ましい。これらを本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
石膏の比表面積は、ブレーン値で3000〜9000cm/gが好ましく、4000〜8000cm/gがより好ましい。3000cm/g未満だとの組成物の強度が充分でない場合があり、9000cm/gを超えると流動性や可使時間の確保が困難になる場合がある。
フィラーの使用量は、セメント系鉱物100質量部に対して、50〜150質量部が好ましく、75〜125質量部がより好ましい。50質量部未満だと付着強さや曲げ耐力が低下する可能性がある。150質量部を超えると凝結遅延する可能性がある。
水粉体(セメント系鉱物+セメント系急硬材+フィラー)比は、40〜100質量%以上が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。40質量%未満だと圧送性が不良になる可能性がある。100質量%を超えると付着強さや曲げ耐力が低下する可能性がある。
【0031】
本発明で使用するセメント組成物においては比較的少量の遅延剤を添加することで硬化時間を調整できる。遅延剤としては、特に限定されるものではないがオキシカルボン酸類が好ましい。
【0032】
オキシカルボン酸類としてはクエン酸、酒石酸、グルコン酸、及びリンゴ酸又はそれらのナトリウムやカリウム塩等のいずれも使用可能であるが、強度発現性を阻害しにくいグルコン酸ナトリウムの使用が好ましい。
【0033】
本発明では、さらに流動性を向上させる目的で、セメント分散剤を併用することも可能である。
【0034】
セメント分散剤としては、特に限定されるものではないが、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、ポリカルボン酸もしくはそのエステルもしくはその塩、ポリスチレンスルホン酸塩からなるセメント分散剤、フェノール系ホルムアルデヒド縮合物(例えば、フェノールスルホン酸と共縮合可能な他の単量体とのホルムアルデヒド共縮合物)からなるセメント分散剤、及びアニリンスルホン酸系ホルムアルデヒド縮合物(例えば、アニリンスルホン酸と共縮合可能な他の単量体とのホルムアルデヒド共縮合物)を主成分とする1種又は2種以上が使用できる。
【0035】
以下、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0036】
(実験例1)
セメント系鉱物100質量部、セメント系急硬材7.5質量部、増粘剤0.5質量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体の固形分10質量部、フィラー7.5質量部を混合し、水粉体(セメント系鉱物+セメント系急硬材+フィラー)比が60質量%になるように水を混合し充填組成物(セメント系組成物)を調整した。
トンンル側壁に直径32mmの注入孔をコアドリルで削孔し、空隙部の深さが20mmの箇所に調整後の充填組成物をスクイズ式ポンプで表1に示す条件で圧送した。なお充填は、注入口にかかる圧力が0.4MPaに達するまで行った。
【0037】
<使用材料>
セメント系鉱物:電気化学工業社製、普通セメント、比表面積3400cm/g、密度3.15g/cm
セメント系急硬材:カルシウムアルミノシリケート化合物。試作品、CaO50%、Al40%、SiO4%、その他6%、CaO/Alモル比2.3、ガラス化率80%、比表面積6000cm/g、密度3.05g/cm
フィラー:無水石膏、市販品、比表面積6000cm/g、密度2.70g/cm
増粘剤:電気化学工業製、セルロース系増粘剤(成分:ヒドロキシプロピルメチルセルロース)
エマルジョン:電気化学工業社製、酢酸ビニル-エチレン共重合体、45質量%溶液、ガラス転移温度0℃
水:水道水
【0038】
<使用機器>
圧送ポンプ:スクイズ式ポンプ、友定建機社製「TS-055M」
間詰め材料:隙間テープ、市販品
【0039】
<試験方法>
注入口にかかる圧力が0.2MPaに達するまでの注入量、注入時間を計測した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、注入速度が大きすぎると、圧力が直ぐに0.2MPaに達し、注入量は低い傾向にあることがわかる(実験No.1-7)。また、注入速度が小さいと充填時間(注入時間)が長くなり、作業効率が悪くなる(実験No.1-1)。したがって、注入速度は、2〜15L/minであることが好ましい(実験No.1-2〜No.1-6)。また、間詰めをすることで、充填組成物が圧入され注入量が増加した(実験No.1-4とNo.1-8の比較)。さらに、注入孔削孔してから、充填開始までの日数が3日では、空隙部に砂礫が集まり、注入量が少ない結果となった(実験No.1-9)。
【0042】
(実験例2)
表2に示す使用材料で、水粉体比が60重量%になるように充填組成物を調整し、水中不分離性と充填性を評価したこと以外は、実施例1と同様とした。
【0043】
<試験方法>
水中不分離性試験:土木学会、水中不分離性コンクリート設計施工指針(案)における水中不分離性コンクリートの水中不分離度試験方法(案)に準拠し、pHを測定した。さらに、このときの水の濁りを目視観察した。
充填性:図2に示すように縦1m×横1m×高さ2cmの模擬型枠を作製し、毎分4Lの水を型枠内に設置した塩ビ製パイプから均一に流すと同時に充填組成物を型枠全域に型枠中心部から毎分6Lの注入速度で充填し、充填後の充填組成物の充填高さの平均値を測定し、充填性の評価指標した。
【0044】
【表2】

【0045】
表2より、増粘剤を添加することで、増粘剤を添加しないでエマルジョンのみを添加した場合(実験No.2-2)と比較して、水中不分離性に優れ、さらに充填組成物が流出しないことから型枠上部まで充填組成物を充填できたことが確認された(実験No.2-1)。
【0046】
(実験例3)
表3に示す使用材料で、水粉体比が60重量%になるように充填組成物を調整し、付着強さと曲げ強さを評価したこと以外は、実施例1と同様とした。
【0047】
<試験方法>
付着強さ:JSCE K 531 1999に定められた付着強さ試験方法に基づき、封緘養生後、材齢7日時の付着強さを測定した。
曲げ強さ:JIS A 1106 2006に定められた測定方法に基づき、材齢7日時の水中養生後に長さ16cm、幅4cm、高さ4cmの供試体の曲げ強さを測定した。
【0048】
【表3】

【0049】
表3より、エマルジョンを添加することで、エマルジョンを添加しないで増粘剤のみを添加した場合(実験No.3-2)と比較して、曲げや付着強さが高い充填組成物ができることが確認された(実験No.3-1)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のトンネル空隙部の充填組成物は、湧水箇所でも水中不分離性に優れ、さらに曲げ耐力に優れ、空隙部周囲の構造物と高い付着性状を持つ充填組成物を完成し、さらに施工時に空隙部周囲の構造物の安定化を阻害しないように、注入口にかかる圧力を0.5MPa以下で安定的に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】注入孔と注入管の隙間に間詰めをするやり方を示す図である。
【図2】セメント系組成物の充填性の試験方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設トンネル内の空隙部へ、下記特徴を有するセメント系組成物を充填することを特徴とするトンネル空隙部の充填工法。
(1)セメント系組成物が、セメント系鉱物、セメント系急硬材、増粘剤、酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類、及び水を含有してなること。
(2)土木学会、水中不分離性コンクリートの水中不分離度試験方法(案)に定められたpHが11以下であり、JSCE K 531 1999に定められた測定方法で材齢7日時の封緘養生後の付着強さが0.8N/mm2以上であり、JIS A 1106 2006に定められた測定方法に基づき、材齢7日時の水中養生後の曲げ強度が2.0N/mm2以上であるセメント系組成物であること。
【請求項2】
既設トンネル内の側壁、道床、路盤構造物にコアドリルにて注入孔を削孔した後、直ちに注入口から注入速度が2〜15L/min、注入口にかかる圧力を0.5MPa以下でセメント系組成物を圧入する請求項1に記載のトンネル空隙部の充填工法。
【請求項3】
注入孔と注入管の隙間を間詰めして、隙間を埋めてからセメント系組成物を圧入する請求項1又は2に記載のトンネル空隙部の充填工法。
【請求項4】
既設トンネル内の空隙部への充填に使用してなり、かつ、下記特徴を有するセメント系組成物。
(1)セメント系組成物が、セメント系鉱物、セメント系急硬材、増粘剤、酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類、及び水を含有してなること。
(2)土木学会、水中不分離性コンクリートの水中不分離度試験方法(案)に定められたpHが11以下であり、JSCE K 531 1999に定められた測定方法で材齢7日時の封緘養生後の付着強さが0.8N/mm2以上であり、JIS A 1106 2006に定められた測定方法に基づき、材齢7日時の水中養生後の曲げ強度が2.0N/mm2以上であるセメント系組成物であること。
【請求項5】
前記増粘剤が、セルロース系増粘剤であることを特徴とする請求項4に記載のセメント系組成物。
【請求項6】
前記増粘剤が、セメント系鉱物100質量部に対して、0.1〜2.0質量部であることを特徴とする請求項4又は5に記載のセメント系組成物。
【請求項7】
前記酢酸ビニル系重合体若しくは共重合体類が、セメント系鉱物100質量部に対して、固形分で2〜25質量部であることを特徴とする請求項4〜6に記載のセメント系組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−90664(P2010−90664A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264079(P2008−264079)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】