説明

トンネル覆工コンクリートの養生方法および養生装置

【課題】トンネル掘削工事の進行を妨げることなく、効率良くトンネル覆工コンクリートを養生することのできる方法および装置を提供する。
【解決手段】噴霧ノズル12を有するアーチ状の噴霧アーム5をバックホウ3の可動ブーム4の先端部に取り付けて、覆工コンクリート14表面に沿わせて、噴霧ノズル12から覆工コンクリート14表面に水Wを噴霧しつつ、バックホウ3をトンネル幅方向一方側に寄せてトンネル長手方向に移動して覆工コンクリート14表面を保湿して養生し、トンネル幅方向他方側には搬出入路スペースSを確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工コンクリートの養生方法および養生装置に関し、さらに詳しくは、トンネル掘削工事の進行を妨げることなく、脱型後のトンネル覆工コンクリートを効率良く養生することができるトンネル覆工コンクリートの養生方法および養生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、トンネル掘削工事にはナトム工法が広く採用されている。ナトム工法の一例を示すと以下のとおりである。掘削機でトンネルを掘り進めながら、掘り終えた内壁にコンクリートを吹き付け、次いで内壁にアンカーボルトを打ち込こみ、再度コンクリートを吹き付けて内壁を保持、固定する。その後、この内壁に防水シートを張ってから型枠を取り付けて内壁と型枠の間に覆工コンクリートを打設して行く。吹き付けコンクリートの厚さは10cm程度、覆工コンクリートの厚さは30cm程度である。
【0003】
ナトム工法は、このようにトンネルの掘削作業と壁面の保持、固定作業が並行して行なえるため安全であり、効率的な優れた工法といわれている。
【0004】
しかし、型枠を外した後、覆工コンクリートの表面から急激に水分が蒸発するとひび割れが生じるので、これの防ぐために所定の期間養生する必要がある。
【0005】
平面状のコンクリート面であれば、その上をビニールシートなどで覆って養生することができるが、トンネル壁面の場合は、このように養生するのは困難である。加えて、掘削施工がトンネル先端部で行なわれており、掘削により生じる土砂等をトンネルの外部に搬出するための車両等が養生の必要な覆工コンクリートを打設した区間を往来するため、養生施工するには時間的にもスペース的にも制約が多くなる。
【0006】
トンネル覆工コンクリートの養生装置としては、トンネル内を移動可能な作業台車上に、トンネルのアーチ形状に沿って形成された散水管を、台車上のガイドに沿ってトンネル長手方向に移動させて、トンネル覆工コンクリートに水を散水するものが提案されている(特許文献1参照)。この提案では装置が大掛かりで複雑となるので広いスペースが必要となり、トンネル内部が狭くなり掘削した土砂等の搬出や資材等の搬出入に支障が生じてしまう。また、トンネル毎にトンネルのアーチ形状に沿わせるように散水管の位置を調整するのが困難で、作業に手間がかかるという問題があった。このように、従来の装置ではトンネルの掘削の進行を妨げることなく、トンネル覆工コンクリートを効率良く養生するのは困難であった。
【特許文献1】特開2001−248398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、トンネル掘削工事の進行を妨げることなく、効率良くトンネル覆工コンクリートを養生することのできる方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明のトンネル覆工コンクリートの養生方法は、脱型した後のトンネル覆工コンクリートの表面に養生用液体を噴霧して該コンクリートを養生するトンネル覆工コンクリートの養生方法であって、噴霧ノズルを有するアーチ状の噴霧アームを自走走行体の可動ブームの先端部に取り付けて、覆工コンクリート表面に沿わせて、前記噴霧ノズルから前記覆工コンクリート表面に養生用液体を噴霧しつつ、前記自走走行体をトンネル幅方向一方側に寄せてトンネル長手方向に移動して前記覆工コンクリート表面を保湿して養生することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のトンネル覆工コンクリートの養生装置は、脱型した後のトンネル覆工コンクリートの表面に養生用液体を噴霧して該コンクリートを養生するトンネル覆工コンクリートの養生装置であって、自走走行体と、該自走走行体に設けられた可動ブームと、該可動ブームの先端部に回転可能に装着され、噴霧ノズルを有し、養生用液体供給源に接続されたアーチ状の噴霧アームとを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトンネル覆工コンクリートの養生方法によれば、噴霧ノズルを有するアーチ状の噴霧アームを自走走行体の可動ブームの先端部に取り付けて、覆工コンクリート表面に沿わせて、この噴霧ノズルから覆工コンクリート表面に養生用液体を噴霧するので、覆工コンクリート表面にすき間なく養生用液体を噴霧して保湿できるので効率の良い養生が可能となる。
【0011】
また、噴霧ノズルから覆工コンクリート表面に養生用液体を噴霧しつつ、自走走行体をトンネル幅方向一方側に寄せてトンネル長手方向に移動するので、トンネル幅方向他方側のスペースを常時、掘削施工による土砂等の搬出路等として使用でき、トンネル掘削工事の進行に支障が生じない。
【0012】
本発明のトンネル覆工コンクリートの養生装置によれば、自走走行体と、この自走走行体に設けられた可動ブームと、噴霧ノズルを有し、可動ブームの先端部に回転可能に装着され、養生用液体供給源に接続されたアーチ状の噴霧アームとを備えたので覆工コンクリート表面に沿わせて噴霧ノズルから養生用液体を噴霧することで、覆工コンクリート表面にすき間なく養生用液体を噴霧して保湿でき、効率の良い養生が可能となる。
【0013】
また、噴霧ノズルから覆工コンクリート表面に養生用液体を噴霧しつつ、自走走行体をトンネル幅方向一方側に寄せてトンネル長手方向に移動することができるので、トンネル幅方向他方側のスペースを常時、掘削施工による土砂等の搬出路等として使用でき、トンネル掘削工事の進行に支障が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のトンネル覆工コンクリートの養生方法および養生装置について図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0015】
図8に一例を示すようにトンネル掘削工事では、トンネル1の先端部での掘削施工、掘削施工が終了した区間での覆工コンクリート打設施工、覆工コンクリート打設施工が終了してコンクリート型枠が脱型された区間での覆工コンクリートの養生施工が並行して行われる。
【0016】
掘削施工により発生した土砂D等がトンネル1の先端部の掘削施工区間Aから覆工コンクリート打設施工区間Bおよび覆工コンクリート養生施工区間Cを経てトラックなどによってトンネル1の外部に搬出される。また、それぞれの施工区間A、B、Cには工事用の資材や設備が搬入、搬出される。したがって、覆工コンクリート養生施工区間Cを頻繁に工事用のトラックなどが往来することになる。
【0017】
図3および図4に本発明の覆工コンクリートの養生装置2の一例を示す。この養生装置2は一般的なバックホウ3のブーム4先端に噴霧アーム5を装着したものである。バックホウ3には養生用水タンク6と噴霧用ポンプ7が備わり、養生用水タンク6から水を供給する水供給管(図示せず)を通じて噴霧用ポンプ7によって噴霧アーム5に水が供給される。
【0018】
噴霧アーム5は複数の噴霧ユニット9が長手方向に連結して、噴霧ユニット用油圧シリンダ10によってそれぞれの連結リンク11を中心に回転可能となっている。それぞれの噴霧ユニット9には噴霧ノズル12が備わっている。この噴霧アーム5はバックホウ3のブーム4に対して噴霧アーム用油圧シリンダ8によって回転可能となっている。
【0019】
図1に本発明の養生装置2による養生方法をトンネル1の幅方向縦断面図で示す。バックホウ3のブーム4に装着された噴霧アーム5を構成する複数の噴霧ユニット9が、噴霧ユニット用油圧シリンダ10によって連結リンク11を中心に回転移動することにより、噴霧アーム5が覆工コンクリート14表面に沿うアーチ状に形成される。そして、噴霧アーム用油圧シリンダ8によって噴霧アーム5を回転移動させ、バックホウ3のブーム4を可動させて覆工コンクリート14表面のトンネル幅方向片側半分以上を覆うように設定して、覆工コンクリート14表面に近接させる。この状態で、養生装置2は噴霧アーム5の噴霧ノズル12から水Wを噴霧しながらトンネル幅方向片側に寄ってトンネル長手方向に走行する。これにより、覆工コンクリート14のトンネル幅方向に対して同時に片側半分以上の範囲に水Wを噴霧することができる。
【0020】
この養生方法を図2によってトンネル平面方向横断面図で示す。養生装置2は養生施工区間Cをトンネル幅方向片側一方に寄りながら水Wを噴霧しつつ、トンネル長手方向に進行して、養生施工区間Cの先端までゆくと旋回して片側他方に寄りながら戻ってくる。このように養生施工区間Cを一往復(1サイクル)することで、この養生施工区間Cの覆工コンクリート14表面全体に水Wが噴霧されて、表面が保湿されることになる。尚、噴霧する養生用液体としては水W以外にもコンクリート養生剤を用いることができる。
【0021】
この養生施工は、トンネル1内の湿度等の環境によって変化するが、例えば、長さ70mの養生施工区間Cを約1〜4m/minの走行速度で走行しつつ、水を噴霧する1サイクルの養生施工を6時間毎に繰り返し行ない、脱型後、少なくとも3日間、好ましくは1週間程度継続する。この養生施工によってトンネル覆工コンクリート14は脱型後に急激に表面が乾燥することがなく、保湿されてクラックが発生しないように養生される。
【0022】
この方法では養生装置2がトンネル幅方向一方側に寄って長手方向に往復するので、幅方向他方側には常に、図1に示すように搬出入路スペースSを確保できる。掘削施工により発生する土砂等の搬出や各施工区間への資材、設備の搬出入は搬出入路スペースSを通じて行われるのでトンネル掘削工事の進行に支障が生じない。
【0023】
即ち、本発明ではトンネル幅方向一方側が覆工コンクリート14の養生施工領域、他方側が土砂や、資材等の搬出入領域となる。
【0024】
図5に示すように噴霧アーム5はそれぞれの噴霧ユニット9を連結リンク11を中心に回転移動して覆工コンクリート14表面に沿うアーチ状に形成されるので、覆工コンクリート14表面にすき間なく水Wを噴霧できて効率の良い養生が可能となる。この噴霧アーム5のアーチ形状は拡縮可能なので様々な大きさ、形状のトンネル1に対応できる。
【0025】
また、噴霧アーム5は図5に示す拡張した状態から噴霧ユニット用油圧シリンダ10で噴霧ユニット9を回転可動させて図6に示すように小さく格納することもできる。これにより、養生装置2を運搬する場合や施工現場で噴霧しない等の場合には小さく格納して養生装置2の移動を容易にすることができる。
【0026】
噴霧アーム5の噴霧ノズル12と噴霧対象の覆工コンクリート14表面との距離は、レーザー式距離測定装置などを用いることによって、常時、所定の距離を維持するように制御することができる。また、噴霧ノズル12を可動式にして噴霧方向を制御するようにしてもよい。噴霧ノズル12にエアノズルを近接して設けて、エアノズルから噴出される空気によって噴霧方向を変えるようにすることもできる。
【0027】
養生施工区間Cを往来するトラックなどがない場合には、図7に示すような噴霧ユニット9の両端側に延びる延長噴霧ユニット13を取り付けることでトンネルの覆工コンクリート14表面のトンネル幅方向全範囲をほぼ覆うようにすることもできる。この場合は、養生装置2をトンネル幅方向中央部をトンネル長手方向に一方向に進行させることで、養生施工の1サイクルを行うことができる。
【0028】
この養生装置2は既存のバックホウ3を利用しているので、コストを大幅に軽減することができ、バックホウ3の下部走行体は、その場で旋回できるので狭いトンネル1内でも小回りが可能であり、養生施工の効率を向上させることができる。
【0029】
なお、本実施形態では、養生装置2にバックホウ3を利用しているが、バックホウ3に限らず、その他の自走走行体を用いることができる。また、バックホウ3に養生用水タンク6や噴霧用ポンプ7を装備せずに、別の場所に設置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の養生装置による養生方法を示すトンネル幅方向縦断面図である。
【図2】本発明の養生装置による養生方法を示すトンネル平面方向横断面図である。
【図3】本発明の養生装置の一例を示す正面図である。
【図4】図3の側面図である。
【図5】本発明に係る噴霧アームを拡張した状態を示す正面図である。
【図6】図4の噴霧アームを格納した状態を示す正面図である。
【図7】本発明の養生装置の噴霧アームに延長噴霧ユニットを取り付けた状態を示す正面図である。
【図8】トンネルの掘削現場全体の状況を模式的に説明するトンネル平面方向横断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 トンネル
2 養生装置
3 バックホウ
4 ブーム
5 噴霧アーム
6 養生用水タンク
7 噴霧用ポンプ
8 噴霧アーム用油圧シリンダ
9 噴霧ユニット
10 噴霧ユニット用油圧シリンダ
11 連結リンク
12 噴霧ノズル
13 延長噴霧ユニット
14 覆工コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱型した後のトンネル覆工コンクリートの表面に養生用液体を噴霧して該コンクリートを養生するトンネル覆工コンクリートの養生方法であって、
噴霧ノズルを有するアーチ状の噴霧アームを自走走行体の可動ブームの先端部に取り付けて、覆工コンクリート表面に沿わせて、前記噴霧ノズルから前記覆工コンクリート表面に養生用液体を噴霧しつつ、前記自走走行体をトンネル幅方向一方側に寄せてトンネル長手方向に移動して前記覆工コンクリート表面を保湿して養生するトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項2】
前記覆工コンクリートのトンネル幅方向に対して同時に片側半分以上の範囲に養生用液体を噴霧する請求項1に記載のトンネル覆工コンクリート養生方法。
【請求項3】
前記自走走行体がバックホウである請求項1または2に記載のトンネル覆工コンクリートの養生方法。
【請求項4】
脱型した後のトンネル覆工コンクリートの表面に養生用液体を噴霧して該コンクリートを養生するトンネル覆工コンクリートの養生装置であって、
自走走行体と、該自走走行体に設けられた可動ブームと、該可動ブームの先端部に回転可能に装着され、噴霧ノズルを有し、養生用液体供給源に接続されたアーチ状の噴霧アームとを備えたトンネル覆工コンクリートの養生装置。
【請求項5】
前記アーチ状の噴霧アームが複数の噴霧ユニットを回転可能に連結して構成され、該噴霧ユニットを回転移動させて拡縮可能にアーチ状に形成される請求項4に記載のトンネル覆工コンクリートの養生装置。
【請求項6】
前記養生用液体供給源が前記自走走行体に設けられた養生用液体タンクと噴霧用ポンプとからなる請求項4または5に記載のトンネル覆工コンクリートの養生装置。
【請求項7】
前記自走走行体がバックホウである請求項4〜6のいずれかに記載のトンネル覆工コンクリートの養生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−9410(P2006−9410A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188048(P2004−188048)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】