説明

トーションバーの製造方法

【課題】 自動車のパワーステアリング装置等に用いられるトーションバーの製造方法に関し、十分な硬さを有し、かつ、トーションバー毎の鋼材の硬さのばらつきを低減させることができる
【解決手段】 長手方向途中領域に小径ばね部が形成され、長手方向両端領域に大径結合部が形成されたトーションバーの製造方法であって、鋼材をパテンティングするパテンティング工程と、鋼材を冷間塑性加工により縮径させる第1成形工程と、鋼材の長手方向途中領域に前記小径ばね部を形成する第2成形工程とを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーションバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のパワーステアリング装置に用いられるトーションバーは、一般的に丸棒形状であり、その長手方向途中領域に小径ばね部が形成され、長手方向両端領域に大径結合部が形成されている。また、上記用途で使用されるトーションバーは、所定の繰り返し捩り疲労強度が要求される。この繰り返し捩り疲労強度としては、捩り応力として300MPa以上を付与して、少なくとも5×106回繰り返し捩り可能となる条件を満足することと規定される。
【0003】
以上のようなトーションバーの製造方法として、例えば、特許文献1に記載のような方法がある。すなわち、鋼材を冷間引き抜き加工により縮径させ、長手方向途中領域を切削することにより小径ばね部を形成し、ブルーイング加工を施してトーションバーを得る。
【特許文献1】特開2003−266118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の製造方法で得られたトーションバーは、硬さが不十分で、しかもトーションバー毎に鋼材の硬さのばらつきが大きくなるという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、十分な硬さを有し、かつ、トーションバー毎の鋼材の硬さのばらつきを低減させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、長手方向途中領域に小径ばね部が形成され、長手方向両端領域に大径結合部が形成されたトーションバーの製造方法であって、鋼材をパテンティングするパテンティング工程と、鋼材を冷間塑性加工により縮径させる第1成形工程と、鋼材の長手方向途中領域に前記小径ばね部を形成する第2成形工程とを含むものである。
【0007】
パテンティングとしては、鉛パテンティング、空気パテンティング、ソルトパテンティング等が挙げられる。
【0008】
第1成形工程の冷間塑性加工としては、冷間引き抜き加工や転造加工等が挙げられる。
【0009】
第2成形工程の小径ばね部の形成方法としては、切削、研削、引き抜き、転造加工等が挙げられる。
【0010】
本発明のトーションバーの製造方法によると、鋼材にパテンティングを施すことにより、パーライトの微細化が図れ、硬さが向上し、かつ、トーションバー毎の鋼材の硬さのばらつきが小さくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、十分な硬さを有し、かつ、トーションバー毎の鋼材の硬さのばらつきを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の最良の実施形態を図1ないし図4に基づいて説明する。
【0013】
図1はトーションバーの側面図、図2はトーションバーの製造工程図、図3は鋼材の硬さ測定位置を示す断面図、図4は第1成形工程後の鋼材の硬さを示すグラフである。
【0014】
図1に示すように、トーションバー1は丸棒形状であり、その長手方向途中領域に小径ばね部2が形成され、長手方向両端領域に大径結合部3,4が形成されている。
【0015】
小径ばね部2から大径結合部3,4へ連なる部分は、漸次拡径するように丸みを帯びた曲面形状になっている。また、大径結合部3,4は、例えば、パワーステアリング装置の操舵軸の入出力軸に結合される部分であり、この大径結合部3,4に、スプライン,セレーション,径方向に貫通する固定ピン挿通孔等(図示せず)が必要に応じて設けられる。
【0016】
次に、上述したトーションバー1の製造方法について説明する。製造工程は、図2に示すように、鉛パテンティング工程11、第1成形工程12、第2成形工程13、ブルーイング工程14の順に行う。
【0017】
準備段階にて、トーションバー1の鋼材として、例えばJIS規格SUP12、JIS規格SWRH82Bを選択し、当該選択した鋼材を圧延する。
【0018】
鉛パテンティング工程11では、圧延後の鋼材を熱処理炉にて例えば950℃に加熱した後、560±10℃に加熱された溶融鉛槽を通過させて冷却する。
【0019】
第1成形工程12では、鋼材に対して冷間引き抜き加工や転造加工等の冷間塑性加工を施すことにより、長手方向全体にほぼ同一の直径寸法に縮径する。
【0020】
鋼材の断面減少率を管理することにより、所定の硬さを確保するようにする。冷間塑性加工を複数回行う場合には、1回毎の断面減少率と、総断面減少率とを適切に設定する必要がある。断面減少率γ(%)については、次式に示される。
【0021】
γ={(A0−An)/A0}×100
式において、A0は加工前の鋼材の断面積、Anは加工後の鋼材の断面積である。
【0022】
第2成形工程13では、縮径した鋼材を所定の長さに切断して丸棒鋼材を得て、当該丸棒鋼材の長手方向途中領域を切削、研削、引き抜き、転造加工等により小径にすることにより、小径ばね部2と大径結合部3,4を備えた完成品に近い外形とする。
【0023】
ブルーイング工程14では、小径ばね部2と大径結合部3,4を備えた丸棒鋼材を例えば200〜350℃に設定した雰囲気温度にて加熱する。
【0024】
なお、第1成形工程12では、大径結合部3,4の仕上げ直径よりも若干大きな寸法にしておき、第2成形工程13では、小径ばね部2だけでなく、大径結合部3,4をも切削、研削、引き抜き、転造加工することにより、大径結合部3,4の直径寸法を管理してもよい。
【0025】
次に、第1成形工程12後で第2成形工程13前における鋼材5の深さ方向での硬さについて説明する。
【0026】
硬さの測定は、図3に示すように、鋼材5の中心P0から表面P1までの径方向数箇所にて行う。
【0027】
試料として、実施例と比較例を用意した。いずれの試料の鋼材も、JIS規格SWRH82Bを用いた。
【0028】
実施例は、図2に示すように、鉛パテンティング工程11、第1成形工程12、第2成形工程13、ブルーイング工程14の順に製造する。第1成形工程12における冷間塑性加工により、直径を10.0mmから9.3mmに縮径(断面減少率γ=13.5%)させる。なお、第2成形工程13では、9.3mmに縮径した線状の鋼材を、トーションバー1の長さに切断して丸棒鋼材を得て、さらに当該丸棒鋼材の長手方向途中領域の直径を4.0〜7.0mmに切削、研削、引き抜き、転造加工することにより、小径ばね部2を形成する。
【0029】
比較例は、第1成形工程12、第2成形工程13、ブルーイング工程14の順に製造する。すなわち、鉛パテンティング工程11は施さない。第1成形工程における冷間塑性加工により、直径を9.5mmから8.3mmに縮径(断面減少率γ=23.7%)させる。
【0030】
図4に、硬さの測定結果を示す。図4において、縦軸は硬さ(Hv)、横軸は測定位置(中心からの距離mm)を示している。
【0031】
なお、この硬さの測定場所は上述したように大径結合部3,4であるが、第1成形工程12では、鋼材の長手方向全体をほぼ同じ外径に縮径させているので、小径ばね部2での硬さとほぼ同じと考えられる。
【0032】
図4に示す結果より、実施例は比較例に比べ、鋼材の内部から表層部までのビッカース硬さ(Hv)が相対的に大きくなることが判った。すなわち、鋼材5の中心P0から1.5〜4.0mmの範囲で比較例に比べ若干ビッカース硬さが小さくなるものの、その他の部位では大きくなり、全体としては比較例に比べビッカース硬さは大きくなり、トーションバーとして、鋼材5の中心P0から表面P1まで渡って十分な硬さが得られた。
【0033】
次に、硬さのばらつきについて説明する。鉛パテンティング工程11、第1成形工程12、第2成形工程13、ブルーイング工程14の順に製造する実施例のばらつきは、29個の試料にて内部所定位置のビッカース硬さを測定し、試料毎の鋼材の硬さのばらつきδ=3.51を得た。これに対して、鉛パテンティング工程11を施さない比較例のばらつきは、11個の試料にて内部所定位置のビッカース硬さを測定し、試料毎の鋼材の硬さのばらつきσ=12.08を得た。このように、トーションバー毎の鋼材の硬さのばらつきは、鉛パテンティング工程11を施した方が小さくなることが判った。
【0034】
このように構成されたトーションバーの製造方法によると、鋼材にパテンティングを施すことにより、パーライトの微細化が図れ、硬さが向上し、かつ、トーションバー毎の鋼材の硬さのばらつきが小さくなる。
【0035】
また、鉛パテンティング工程11では、線状の鋼材をパテンティングするので、連続処理が行える。
【0036】
なお、第2成形工程13では、鋼材の長手方向途中領域を小径に切削、研削、引き抜き、転造加工した後、所定の長さに切断してもよい。
【0037】
鉛パテンティング工程11は、第1成形工程12後で第2成形工程13前に行うようにしてもよいし、第2成形工程13後に行うようにしてもよい。
【0038】
また、ブルーイング工程14は、第1成形工程12後で第2成形工程13前に行うようにしてもよいし、省略してもよい。
【0039】
さらに、最終工程の後で、完成品に近い外形にした丸棒鋼材に対して切削、研削、引き抜き、転造加工を施すことにより、外形寸法精度など品質をさらに向上することができる。この切削、研削、引き抜き、転造加工は、第2成形工程13とブルーイング工程14との間で行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、自動車のパワーステアリング装置等に用いられるトーションバーの製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態におけるトーションバーの側面図
【図2】本発明の実施の形態におけるトーションバーの製造工程図
【図3】本発明の実施の形態における鋼材の硬さの測定位置を示す断面図
【図4】本発明の実施の形態における第1成形工程後の鋼材の硬さを示すグラフ
【符号の説明】
【0042】
1 トーションバー
2 小径ばね部
3,4 大径結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向途中領域に小径ばね部が形成され、長手方向両端領域に大径結合部が形成されたトーションバーの製造方法であって、
鋼材をパテンティングするパテンティング工程と、
鋼材を冷間塑性加工により縮径させる第1成形工程と、
鋼材の長手方向途中領域に前記小径ばね部を形成する第2成形工程とを含む、トーションバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−349080(P2006−349080A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177319(P2005−177319)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】