説明

トーションビームの製造方法

【課題】パイプをプレスする工程においてパイプに生じる加工応力を低減することができるトーションビームの製造方法を提供する。
【解決手段】円筒形状のパイプ20を押圧することでトーションビーム10を形成する製造方法であって、パイプ20の断面を凹型に形成するようにパイプ20に同じ押圧方向の複数回のプレスをし、それぞれのプレスの後にパイプ20への押圧力を解放してトーションビーム10を製造する。一回のプレス毎にパイプ20の断面が段階的に凹むように押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパイプをプレスすることでトーションビームを形成するトーションビームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション装置にトーションビームを用いることが知られている。トーションビームは、トーションビームに生じたねじりの反力を利用して左右輪の上下方向の変位を減衰し、車両の乗員の乗り心地を向上させるものである。
【0003】
特許文献1には、トーションビームの成形方法として、圧延鋼板材をパイプ体に造管するパイプ造管工程において、圧延鋼板材の圧延方向がパイプ体の軸方向に対して略直角となるようにパイプ体を造管し、パイプ体の内周を研磨する研磨工程において、パイプ体の軸方向に対して略直角となる方向にパイプ体の内周が研磨されることが開示されている。また、特許文献2には、トーションビームの製造方法として、プレス成形によりパイプを径方向内側に潰して先端開口側が開いた凹部を成形すると共に、凹部の先端開口側を閉じ方向に成形して、パイプの断面を略V字状または略U字状に成形する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−289258号公報
【特許文献2】特開2007−237784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術においてトーションビームの一部に残留応力が生じる。そのため、パイプをプレス成形した後に焼きなまし工程が必要となり、工程数が多く、製造コストがかかる。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、パイプをプレスする工程においてパイプに生じる加工応力を低減することができるトーションビームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、円筒形状のパイプを押圧することでトーションビームを形成する製造方法であって、パイプの断面を凹型に形成するようにパイプに同じ押圧方向の複数回のプレスをし、それぞれのプレスの後にパイプへの押圧力を解放してトーションビームを製造する。
【0008】
この態様によると、各プレス後にパイプへの押圧力を解放することでパイプ自体の弾性力によりパイプに生じる加工応力を緩和することができ、パイプに一回のプレスを加えてトーションビームを製造する場合と比べて、トーションビームに生じる加工応力を低減することができる。
【0009】
一回のプレス毎にパイプの断面が段階的に凹むようにしてもよい。また、凸形状の第1金型と凹形状の第2金型との間にパイプを挟んで、第1金型と第2金型との相対距離を変位させることで複数回のプレスをしてもよい。これにより、2つの金型の相対距離を変位させるシンプルなプレス工程でトーションビームを製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トーションビームの製造過程のパイプをプレスする工程においてパイプに生じる加工応力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係るトーションビームの断面図である。
【図2】(a)〜(d)は、実施形態に係るトーションビームの製造方法の工程の一部を示す模式図である。
【図3】実施形態に係るプレス工程における第1金型と第2金型との相対距離を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、実施形態に係るトーションビーム10の断面図である。トーションビーム10は、車両のトーションビーム式サスペンションに設けられ、車載状態において車幅方向に延在するように配置される。なお、図示するトーションビーム10の断面はV字形状であるが、断面がU字形状のトーションビームであってもよい。
【0013】
このトーションビーム10は、円筒形状のパイプをプレス成形することで製造される。一般に、このプレス工程において、凹部12や開口端部14が、その他の部分より大きく引き延ばされたり、圧縮されてトーションビーム10に残留応力が生じる可能性がある。そのため、プレス成形後のトーションビーム10に焼きなまし処理や焼入れ処理をすることが一般的である。しかしながら、焼きなまし処理をすると、製造工程が煩雑になり、製造コストもかかる。また、プレス成形後に焼き入れ処理を施すと、製品に歪みが生じることもあり、最終製品の形状が安定しない。
【0014】
そこで、実施形態のトーションビーム10の製造方法では、パイプの断面を凹型に形成するようにパイプの径方向内向きに複数回のプレスをし、それぞれのプレスの後にパイプへの押圧力を解放してトーションビームを製造する。これにより、加工応力を除去しながら成形することができる。なお、一回のプレスとは、パイプに押圧力を加え始めてから、その押圧力が一時的に止まるまでのプレスをいう。
【0015】
図2(a)〜(d)は、実施形態に係るトーションビーム10の製造方法の工程の一部を示す。また、図2(a)〜(d)は、各工程を模式的に示した断面図である。図2(a)は、円筒形状のパイプ20の断面を示す。たとえばパイプ20の材料は、硬い高張力鋼である。
【0016】
図2(b)は、凸形状の第1金型30と凹形状の第2金型32との間にパイプ20を挟んで、押圧した第1成形体22を示す。第1成形体22は、パイプ20が押圧されて、トーションビーム10が形成される途中の形態である。第1金型30は、パイプ20の軸方向に延伸した凸部34によりパイプ20が凹むよう押圧する。第2金型32は、V字形状の上端面によりパイプ20を下方から支持する。なお、本図では、断面がV字形状のトーションビーム10を形成するための金型を示すが、金型の形状を変えることで断面がU字形状のトーションビーム10を形成してよい。
【0017】
第1金型30および第2金型32は、電動サーボプレス機(不図示)によって、第1金型30と第2金型32との相対距離が制御される。なお、電動サーボプレス機は、油圧プレス機より精度良く相対距離を制御できるため好適である。また、電動サーボプレス機は、第1金型30および第2金型32の少なくとも一方を移動して相対距離を制御してよい。
【0018】
実施形態に係るプレス工程では、第1金型30および第2金型32の相対距離が所定距離に達すると、第1金型30および第2金型32の相対距離を離して、第1成形体22への押圧力が一時的に解放される。パイプ20は押圧力により弾性変形から塑性変形してトーションビーム10となるが、その途中で押圧力を解放することで第1成形体22に生じた加工応力が弾性力により緩和される。そして次に、第1金型30および第2金型32の相対距離を小さくして第1成形体22を押圧する。
【0019】
図2(c)は、第1金型30および第2金型32により第1成形体22を挟んで押圧した第2成形体24を示す。第1成形体22を押圧したときより第1金型30および第2金型32の相対距離を小さく設定されているため、第2成形体24は第1成形体22より凹んでいる。すなわちパイプ20の断面が段階的に凹んでいる。そして、再度第2成形体24への押圧力を解放し、第2成形体24に生じた加工応力を緩和する。次に、第2成形体24を再度押圧してトーションビーム10を製造する。
【0020】
図2(d)は、複数回のプレスが終わった後のトーションビーム10を示す。プレス成形によりパイプ20の断面が凹型に変形されている。トーションビーム10は、図2(a)のパイプ20の内壁面の一部と、その内壁面の一部と対向する内壁面の一部が接するように凹まされている。すなわち、図2(a)に示すパイプ20の断面において、中心線と交わる内壁面の2つの交点が接するようにパイプ20が凹んでいる。
【0021】
以上のように、パイプの径方向内向きに複数回の段階的なプレスをし、各プレス後にパイプ20への押圧力を解放することで、パイプ20に生じる加工応力を低減しつつプレス成形することができる。これにより、トーションビーム10の強度を向上することができ、熱処理の工程を省けることで製造コストを削減することができる。また、上下1セットの金型を上下変位させるというシンプルな工程でトーションビーム10を製造することができる。なお、パイプ20の軸方向の両端部は、第1金型30および第2金型32により押圧力を加えず、円筒形状を保つようにする。
【0022】
図3は、実施形態に係るプレス工程における第1金型30と第2金型32との相対距離を示す。図3の縦軸は、第1金型30と第2金型32との相対距離を示し、横軸は、時間を示す。なお、この相対距離はパイプ20を形成していた圧延板自体の厚さを除いた距離とする。
【0023】
時刻t0において、パイプ20は第2金型32の上端面に載置されており、第1金型30と第2金型32との相対距離d0である。そして時刻t1の第1設定距離d1となるまで、パイプ20を押圧する。ここで、たとえばパイプ20の直径は90cmであり、第1設定距離d1は50cmである。ここから、電動サーボプレス機は、凸形状の第1金型30と凹形状の第2金型32との間にパイプを挟んで、予め設定されたプログラムにもとづいて、第1金型30と第2金型32との相対距離を変位させることで複数回のプレスをする。
【0024】
次に時刻t2において、第1金型30と第2金型32との相対距離は、距離d2まで離される。距離d2は60cmである。これにより、パイプ20への押圧力が解放され、弾性力により加工応力が緩和される。時刻t3においてパイプ20は再度、第2設定距離d3まで押圧される。第2設定距離d3は、40cmである。そしてまた時刻t4において押圧力を解放する。
【0025】
このように、加圧と力の解放を繰り返し、相対距離がd4=0cmになるまで10cmずつ段階的にパイプ20を凹ましてプレス成形をする。これにより、パイプ20に生じる加工応力を低減しつつプレス成形することができる。なお、このプレス成形においては、成形前のパイプ20の直径の1/10から1/8ずつ凹ますよう段階的にプレスをすることが、製造時間短縮の観点および加工応力を低減する観点から好ましい。また、時刻t1において、製造時間の短縮のために最初のプレスで比較的大きい変位量のプレスをしたが、最初からパイプ20の直径の1/10から1/8ずつ段階的に凹ますようにプレスをしてもよい。
【0026】
なお、時刻t5において相対距離が0cmになるまで複数回のプレスをしたが、さらに時刻t6において相対距離が同じ距離の0cmになるまで再プレスをする。すなわち、段階的なプレスをした後、最終設定された相対距離と同じ相対距離の再プレスを数回追加する。これにより、トーションビーム10の形状を安定させることができる。また、この工程も、段階的なプレスと同様に、上下1セットの金型を上下変位させるシンプルな工程ですることができる。
【0027】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0028】
10 トーションビーム、 12 凹部、 14 開口端部、 20 パイプ、 22 第1成形体、 24 第2成形体、 30 第1金型、 32 第2金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のパイプを押圧することでトーションビームを形成する製造方法であって、
前記パイプの断面を凹型に形成するように前記パイプに同じ押圧方向の複数回のプレスをし、それぞれの前記プレスの後に前記パイプへの押圧力を解放してトーションビームを製造することを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項2】
一回の前記プレス毎に前記パイプの断面が段階的に凹むようにすることを特徴とする請求項1に記載のトーションビームの製造方法。
【請求項3】
凸形状の第1金型と凹形状の第2金型との間に前記パイプを挟んで、前記第1金型と前記第2金型との相対距離を変位させることで前記複数回のプレスをすることを特徴とする請求項1または2に記載のトーションビームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−635(P2011−635A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147954(P2009−147954)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】