説明

ドライバ状態判定装置及びプログラム

【課題】ドライバの意識低下状態を精度良く判定することができるようにする。
【解決手段】操舵角センサ12、横位置検出部14、及び車速センサ16を用いて、自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態を検出する。無操舵判定部28によって、検出された走行状態又は操作状態に基づいて、無操舵状態であるか否かを判定する。逸脱危険度算出部30によって、自車両が車線を逸脱する可能性の高さを示す車線逸脱危険度を算出する。運転意識低下状態判定部32によって、無操舵判定部28による判定結果、及び算出された車線逸脱危険度が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバ状態判定装置及びプログラムに係り、特に、車両の走行状態やドライバの操作状態に基づいて、ドライバの意識低下状態を判定するドライバ状態判定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、無操舵状態が所定時間以上継続した後一方向へ所定角度以上の操舵が行われ、その後所定時間内に所定の居眠りパターンが検出された場合に居眠り運転であると判定する技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、操舵角信号における居眠り運転で変化する周波数成分を抽出し、その帯域のパワ値を所定時間加算した値が閾値を超えた場合に警報を発生させる装置が知られている(特許文献2)。
【0004】
また、運転意識低下時には操舵が行われない時間が長くなり大きな舵角の誤差が蓄積されるため、正常運転に復帰した時、大きな修正舵が必要となる。この操舵の不安定度を、操舵角エントロピを用いて計測することにより運転意識が低下しているかを判定する技術が知られている(特許文献3)。
【0005】
また、走行レーンを逸脱しそうな際に警報を行なう装置において、運転者がハンドル操舵をしていないにも拘らず自車が走行レーンを逸脱しつつある場合、走行レーン逸脱警報の必要性が高いと判断し、レーン逸脱警報をオンとする装置が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭62−34213号公報
【特許文献2】特開2007−26271号公報
【特許文献3】特開平11−227491号公報
【特許文献4】特開平11−34773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の技術では、無操舵状態が適切であったかどうかを、その後の操舵により判定しており、走行環境の影響を考慮していないため、直線からカーブへの進入するときの操舵など、環境変化に対応するための適切な操舵についても、居眠り運転であると誤判定してしまう可能性がある、という問題がある。さらに、深い眠りに落ち、無操舵状態のまま復帰しないような居眠り運転の場合には、上記のような操舵パターンは見られず検出できない、という問題もある。
【0008】
また、上記の特許文献2、3に記載の技術では、周波数帯域のパワ値や操舵角エントロピが、走行環境(道路線形、風、轍等)によって増加しやすい傾向があるため、走行環境による誤検出が出やすい、という問題がある。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ドライバの意識低下状態を精度良く判定することができるドライバ状態判定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明に係るドライバ状態判定装置は、自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態を検出する状態検出手段と、前記状態検出手段によって検出された前記走行状態又は前記操作状態に基づいて、ドライバの意図的な操作がない無操作状態であるか否かを判定する無操作状態判定手段と、前記状態検出手段によって検出された前記走行状態、又は前記走行状態及び前記操作状態に基づいて、自車両が車線を逸脱する可能性の高さを示す車線逸脱危険度を算出する車線逸脱危険度算出手段と、前記無操作状態判定手段による判定結果、及び前記車線逸脱危険度算出手段によって算出された車線逸脱危険度が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を判定する意識低下状態判定手段と、を含んで構成されている。
【0011】
本発明に係るプログラムは、コンピュータを、自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態を検出する状態検出手段によって検出された前記走行状態又は前記操作状態に基づいて、ドライバの意図的な操作がない無操作状態であるか否かを判定する無操作状態判定手段、前記状態検出手段によって検出された前記走行状態、又は前記走行状態及び前記操作状態に基づいて、自車両が車線を逸脱する可能性の高さを示す車線逸脱危険度を算出する車線逸脱危険度算出手段、及び前記無操作状態判定手段による判定結果、及び前記車線逸脱危険度算出手段によって算出された車線逸脱危険度が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を判定する意識低下状態判定手段として機能させるためのプログラムである。
【0012】
本発明によれば、状態検出手段によって、自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態を検出する。無操作状態判定手段によって、前記状態検出手段によって検出された走行状態又は操作状態に基づいて、ドライバの意図的な操作がない無操作状態であるか否かを判定する。また、車線逸脱危険度算出手段によって、状態検出手段によって検出された走行状態、又は走行状態及び操作状態に基づいて、自車両が車線を逸脱する可能性の高さを示す車線逸脱危険度を算出する。
【0013】
そして、意識低下状態判定手段によって、無操作状態判定手段による判定結果、及び車線逸脱危険度算出手段によって算出された車線逸脱危険度が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を判定する。
【0014】
このように、無操作状態であるか否かの判定結果、及び車線逸脱危険度が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を精度良く判定することができる。
【0015】
本発明の車線逸脱危険度算出手段は、状態検出手段によって検出された走行状態、又は走行状態及び操作状態に基づいて、定常旋回により車線逸脱を回避するために必要なヨー角速度を、車線逸脱危険度として算出することができる。これによって、ドライバの意識低下状態をより精度良く判定することができる。
【0016】
本発明の車線逸脱危険度算出手段は、状態検出手段によって検出された走行状態、又は走行状態及び操作状態に基づいて、車線を逸脱するまでの車線逸脱時間を、車線逸脱危険度として算出することができる。
【0017】
本発明の状態検出手段は、横位置及び横位置速度を含む走行状態、及び操作状態を検出し、車線逸脱危険度算出手段は、状態検出手段によって検出された横位置と横位置速度との重み付き加算値を、車線逸脱危険度として算出することができる。
【0018】
本発明の意識低下状態判定手段は、無操作状態判定手段によって無操作状態であると判定され、かつ、所定時間内で、車線逸脱危険度が閾値以上となる回数が所定回数以上である場合に、ドライバが意識低下状態であると判定することができる。これによって、ドライバの意識低下状態をより精度良く判定することができる。
【0019】
本発明の意識低下状態判定手段は、無操作状態判定手段によって無操作状態であると判定され、かつ、車線逸脱危険度が閾値以上である場合に、ドライバが意識低下状態であると判定することができる。
【0020】
本発明の状態検出手段は、横位置を含む走行状態、及び操作状態を検出し、ドライバ状態判定装置は、横位置の標準偏差を算出する横位置標準偏差算出手段を更に含み、意識低下状態判定手段は、無操作状態判定手段による判定結果、車線逸脱危険度が閾値以上であるか否か、及び横位置標準偏差算出手段によって算出された横位置の標準偏差が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を判定することができる。これによって、ドライバの意識低下状態をより精度良く判定することができる。
【0021】
本発明の状態検出手段は、走行状態、及びドライバの操舵に関する物理量を含む操作状態を検出し、無操作状態判定手段は、状態検出手段によって検出された操舵に関する物理量が、閾値未満である場合に、ドライバの意図的な操作がない無操作状態であると判定することができる。これによって、無操作状態として、ドライバの意図的な操舵がない無操舵状態であるか否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明のドライバ状態判定装置及びプログラムによれば、無操作状態であるか否かの判定結果、及び車線逸脱危険度が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を精度良く判定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】検出する走行状態に関する物理量を説明するための図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る車線逸脱危険度の算出方法を説明するための図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る運転意識低下判定装置における運転意識低下判定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る車線逸脱危険度の算出方法を説明するための図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る車線逸脱危険度の算出方法を説明するための図である。
【図7】本発明の第5の実施の形態に係る運転意識低下判定装置における運転意識低下判定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第6の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、車両に搭載された運転意識低下判定装置に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0025】
図1に示すように、第1の実施の形態に係る運転意識低下判定装置10は、ドライバが自車両を操作したときの操作状態としてのハンドルの操舵角を検出する操舵角センサ12と、自車両の走行状態としての横位置を検出する横位置検出部14と、自車両の走行状態としての車速を検出する車速センサ16と、操舵角センサ12、横位置検出部14、及び車速センサ16からの出力に基づいて、ドライバが意識低下状態であるか否かを判定し、判定結果に応じて、警報装置40から警報音を出力させるコンピュータ20とを備えている。
【0026】
操舵角センサ12は、検出したハンドルの操舵角を示す操舵角信号を出力する。車速センサ16は、検出した自車両の車速を示す車速信号を出力する。横位置検出部14は、前方カメラを備え、前方画像に基づいて、図2に示すような、自車両が走行している車線の中心線を基準とした横位置を検出し、検出した横位置を示す横位置信号を出力する。
【0027】
操舵角センサ12、横位置検出部14、及び車速センサ16は、ある一定間隔で(例えば、100ms毎)で、各信号をコンピュータ20に入力する。
【0028】
コンピュータ20は、CPUと、RAMと、後述する運転意識低下状態判定処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。コンピュータ20は、操舵角センサ12、横位置検出部14、及び車速センサ16からの各信号を取得して後述する情報格納部26に記憶する情報取得部22と、操舵角センサ12からの操舵角信号に基づいて操舵角速度を算出すると共に、横位置検出部14からの横位置信号に基づいて、横位置速度(図2のv参照)を算出して、情報格納部26に記憶する情報算出部24と、自車両の操舵角、操舵角速度、横位置、横位置速度、及び車速の各々を時系列的に記憶した情報格納部26と、操舵角速度に基づいて、ドライバの意図的な操舵がない無操舵状態であるか否かを判定する無操舵判定部28と、自車両の横位置、横位置速度、及び車速に基づいて、車線逸脱危険度を算出する逸脱危険度算出部30と、逸脱危険度に基づいて、運転意識低下状態であるか否かを判定し、判定結果に応じて、警報装置40から警報音を出力させる運転意識低下判定部32とを備えている。
【0029】
情報取得部22は、操舵角センサ12、横位置検出部14、及び車速センサ16から時系列的に連続して出力される各種信号を取得して、各々を情報格納部26に記憶させる。
【0030】
情報算出部24は、操舵角センサ12、及び横位置検出部14から時系列的に連続して出力される各種信号に基づいて、時系列に連続した操舵角速度及び横位置速度を各々算出する。
【0031】
無操舵判定部28は、情報格納部26に記憶された現在の操舵角速度が、操舵角速度に関する閾値未満である場合には、無操舵状態であると判定し、一方、現在の操舵角速度が、操舵角速度に関する閾値以上である場合には、無操舵状態ではないと判定する。
【0032】
逸脱危険度算出部30は、情報格納部26に記憶された現在の車速、横位置、及び横位置速度と、予め記憶された車線幅とに基づいて、以下に説明するように、逸脱危険度γLDとして、逸脱を定常旋回により回避するために必要なヨー角速度を算出する。
【0033】
まず、図3に示すように、コースが直線であると仮定した場合、定常旋回により逸脱を回避するために必要な最大旋回半径Rは、車両進行方向を延長した直線と車線端を延長した直線との両方に接する円の半径と等しく、以下の(1)式により計算することができる。
【0034】
【数1】


ただし、vは、車速、lは、車線幅、yは、横位置、vは、横位置速度である。θは、以下の(2)式によって求められる。
【0035】
【数2】

【0036】
車線幅lは、車線幅を含む道路地図データに基づいて予め記憶されている。なお、前方カメラから撮像された前方画像から、車線幅を求めるようにしても良い。
【0037】
また、旋回角φは、円と接線の交点と、その交点と円の中心を通る直線とは直交するという性質より、以下の(3)式によって計算できる
【0038】
【数3】

【0039】
ここで、車両が逸脱を定常旋回により回避するためには、車両が一定速度で走行すると仮定すると、速度vで旋回角φを旋回する間に相対ヨー角θ回転する必要がある。
【0040】
そのため、定常旋回により逸脱を回避するために必要なヨー角速度は、vθ/Rφにより計算することが出来る。
【0041】
次に、本実施の形態におけるドライバの意識低下状態を判定する原理について説明する。
【0042】
長期閉眼などの意識低下時の運転では操舵を行わない状態(無操舵状態)が頻繁に発生するため、無操舵状態は意識低下を検出するための有効な指標の一つである。しかしながら無操舵状態は、覚醒時であっても操舵を行う必要がない状況(直線路走行時等)においては発生することから、無操舵状態だけを用いても意識低下状態を高精度で判定することはできない。
【0043】
また、意識低下時には、意図的ではない車線逸脱が覚醒時に比べ高い頻度で発生することから、車線逸脱(または逸脱可能性)は、意識低下を検出するための有効な指標の一つである。しかしながら単に車線を逸脱するということは、車線変更時や障害物回避時など通常走行時にも発生し、車線を車両が跨ぐこと(または跨ぐ可能性が高い事)を検出するだけでは、それが意図的ではない車線逸脱かどうかを判定することが出来ない。そのため、車線を車両が跨ぐこと(または跨ぐ可能性が高い事)だけでは、意識低下状態を高精度で判定することが出来ない。
覚醒時に発生する無操舵状態で車線逸脱することはあまりなく、また覚醒時に車線を跨ぐ場合には、操舵を行っている場合が多い。このことから、上記二つの特徴、無操舵状態及び車線逸脱(またはその可能性)を同時に用いることにより、効果的にドライバの意識低下状態を判定することができると考えられる。
【0044】
そこで、本実施の形態では、運転意識低下判定部32によって、無操舵状態であって、かつ、逸脱危険度γLDが閾値THLD以上である場合に、ドライバが意識低下状態であると判定し、それ以外の場合には、ドライバは意識低下状態ではないと判定する。また、運転意識低下判定部32は、ドライバが意識低下状態であると判定すると、警報装置40によって、ドライバに対して警報音を出力させる。
【0045】
次に、第1の実施の形態に係る運転意識低下判定装置10の作用について説明する。運転意識低下判定装置10を搭載した車両の走行中に、操舵角センサ12、横位置検出部14、及び車速センサ16の各々から出力された信号を取得して、情報格納部26に記憶する。また、取得した操舵角信号及び横位置信号の各々に基づいて、操舵角速度及び横位置速度を各々算出して、情報格納部26に記憶する。
【0046】
また、並行して、コンピュータ20において、図4に示す運転意識低下判定処理ルーチンが実行される。
【0047】
まず、ステップ100で、現在の操舵角速度が、閾値未満であるか否かに基づいて、ドライバが無操舵状態であるか否かを判定する。操舵角速度が、閾値以上である場合には、無操舵状態でないと判断し、ステップ100へ再び戻る。一方、操舵角速度が、閾値未満である場合には、無操舵状態であると判断し、ステップ102へ進む。
【0048】
ステップ102では、現在の横位置、横位置速度、車速、及び車線幅に基づいて、定常旋回により車線逸脱を回避するために必要なヨー角速度を、逸脱危険度として算出する。そして、ステップ104では、上記ステップ102で算出された逸脱危険度が、閾値以上であるか否かを判定する。算出された逸脱危険度が閾値未満である場合には、ドライバは意識低下状態ではないと判断し、上記ステップ100へ戻る。一方、算出された逸脱危険度が閾値以上である場合には、ドライバは意識低下状態であると判断し、ステップ106において、警報装置40によって警報音を出力させて、再びステップ100へ戻る。
【0049】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る運転意識低下判定装置によれば、無操舵状態であるか否かの判定結果、及び車線逸脱危険度が閾値以上であるか否かに基づいて、操舵を行わなければ逸脱の危険性が高い状況にも関わらず、操舵を行わないこと(無操舵状態)を検出することにより、ドライバの意識低下状態を精度良く判定することができる。
【0050】
また、車両の走行状態及び運転操作状態に基づき、逸脱の危険性が高い状況での無操舵状態を検出することにより意識低下であるかどうかを判定するため、ドライバ自身を計測する装置を用いることなく、ドライバの意識低下状態を判定することが可能である。
【0051】
また、車線逸脱の危険性が高い状況はドライバも認識し易いため、車線逸脱の危険性が高いという状況を検出することにより、ドライバは、警報された理由が分かり易く、受け入れ易い。
【0052】
無操舵状態を、車線逸脱の危険性と関連付けることにより、環境変化の影響を抑えて、操舵の有無に関わらず、ドライバの意識低下状態を精度良く判定することができる。
【0053】
また、無操舵状態に着目しており、走行環境により操舵の大きさや頻度が増加した場合には意識低下状態と判定しないため、誤判定が出にくいという特徴がある。また操舵が増加するような走行環境では居眠り運転は発生しにくいと考えられるため、意識低下状態でないと判定されることにより発生する問題は少ない。
【0054】
車線逸脱の危険性が高い状況下での無操舵状態を判定する手法であるため、原理的に長期間のデータ列を必要としない。そのため、ある時刻が意識低下しているかどうかをピンポイントで判定することができる。
【0055】
また、車線逸脱危険度として、操舵により定常旋回で回避する場合に必要なヨーレートを算出することにより、逸脱回避操舵の容易性を評価している。そのため車線逸脱の危険性を、より正確に評価することができ、意識低下状態の誤判定を低減することができる。
【0056】
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第2の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0057】
第2の実施の形態では、車線を逸脱するまでの逸脱予想時間を、逸脱危険度として算出している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0058】
第2の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の逸脱危険度算出部30は、図5に示すように、情報格納部26に記憶された現在の車速、横位置、及び横位置速度に基づいて、以下の(4)式に従って、逸脱危険度γLDとして、車線を逸脱するまでの逸脱予想時間(Time to Lane Crossing)を算出する。
【0059】
【数4】

【0060】
なお、第2の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0061】
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第3の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0062】
第3の実施の形態では、横位置と横位置速度との重み付き加算値を、逸脱危険度として算出している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0063】
第3の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の逸脱危険度算出部30は、図6に示すように、情報格納部26に記憶された現在の横位置、及び横位置速度に基づいて、以下の(5)式に従って、逸脱危険度γLDとして、横位置と横位置速度との重み付き加算値を算出する。
【0064】
【数5】

【0065】
ただし、A,Bは予め定められた重み係数である。
【0066】
なお、第3の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0067】
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第4の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0068】
第4の実施の形態では、単位時間内における最大操舵角速度と最小操舵角速度との差が、閾値未満であるか否かによって、無操舵状態であるか否かを判定している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
第4の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の無操舵判定部28は、情報格納部26に記憶された単位時間前(例えば1秒前)から現在までの操舵角速度から、最大操舵角速度及び最小操舵角速度を抽出する。無操舵判定部28は、以下の(6)式のように、抽出された最大操舵角速度及び最小操舵角速度の差が、閾値未満である場合には、無操舵状態であると判定する。
【0069】
【数6】

【0070】
ただし、maxδのドットは、最大操舵角速度であり、minδのドットが、最小操舵角速度である。
【0071】
なお、第4の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0072】
なお、上記の実施の形態では、単位時間内における最大操舵角速度及び最小操舵角速度の差が、閾値未満である場合に、無操舵状態であると判定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、上記第1の実施の形態のように操舵角速度が閾値未満であって、かつ、最大操舵角速度及び最小操舵角速度の差が、閾値未満である場合に、無操舵状態であると判定するようにしてもよい。
【0073】
次に、第5の実施の形態について説明する。なお、第5の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の構成は、第1の実施の形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0074】
第5の実施の形態では、単位時間当たりの、逸脱危険度が閾値以上となる回数が、回数に関する閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバが意識低下状態であるか否かを判定している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0075】
第5の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の逸脱危険度算出部30は、無操舵判定部28によって無操舵状態であると判定された場合に、ある一定間隔(例えば、100ms毎)で、連続して逸脱危険度γLDを算出する。
【0076】
運転意識低下判定部32は、単位時間内で、連続して算出された逸脱危険度γLDが閾値THLD以上であるか否かを各々判定する。運転意識低下判定部32は、無操舵状態であって、かつ、単位時間内で逸脱危険度γLDが閾値以上であると判定された回数NLDが、回数に関する閾値THNLD以上である場合に、ドライバが意識低下状態であると判定し、それ以外の場合には、ドライバは意識低下状態ではないと判定する。
【0077】
次に、第5の実施の形態に係る運転意識低下判定処理ルーチンについて図7を用いて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の処理については同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0078】
まず、ステップ100で、現在の操舵角速度に基づいて、ドライバの無操舵状態であるか否かを判定する。操舵角速度が、閾値以上である場合には、無操舵状態でないと判断し、ステップ100へ再び戻る。一方、操舵角速度が、閾値未満である場合には、無操舵状態であると判断し、ステップ500へ進む。
【0079】
ステップ500では、単位時間の経過を計測するためのタイマをスタートさせると共に、後述するステップ502におけるカウントを0にリセットする。次のステップ102では、現在の横位置、横位置速度、車速、及び車線幅に基づいて、定常旋回により車線逸脱を回避するために必要なヨー角速度を、逸脱危険度として算出する。そして、ステップ104では、上記ステップ102で算出された逸脱危険度が、閾値以上であるか否かを判定する。算出された逸脱危険度が閾値未満である場合には、上記ステップ504へ移行する。一方、算出された逸脱危険度が閾値以上である場合には、ステップ502において、単位時間内で、上記ステップ104で算出された逸脱危険度が閾値以上であると判定された回数をカウントし、ステップ504へ移行する。
【0080】
ステップ504では、タイマの計測に基づいて、単位時間が経過したか否かを判定し、単位時間が経過していない場合には、ステップ102へ戻り、一方、単位時間が経過した場合には、ステップ506へ移行する。
【0081】
ステップ506では、上記ステップ502でカウントされた回数が、回数に関する閾値以上であるか否かを判定する。単位時間内でカウントされた、逸脱危険度が閾値以上となった回数が、回数に関する閾値未満である場合には、ドライバは意識低下状態でないと判断し、上記ステップ100で戻る。一方、単位時間内でカウントされた、逸脱危険度が閾値以上となった回数が、回数に関する閾値以上である場合には、ドライバが意識低下状態であると判断し、ステップ106において、警報装置40によって警報音を出力させて、再びステップ100へ戻る。
【0082】
以上説明したように、第5の実施の形態に係る運転意識低下判定装置によれば、無操舵状態であると判定され、かつ、単位時間内で、車線逸脱危険度が閾値以上となる回数が、回数に関する閾値以上である場合に、ドライバが意識低下状態であると判定することにより、ドライバの意識低下状態を、より精度良く判定することができる。
【0083】
覚醒時においても、道路環境などが原因で、無操舵状態での車線逸脱が発生する場合がある。覚醒時に起きるこのような挙動は単発的であるのに対し、意識低下状態での運転時には、このような現象が頻発するという特徴がある。そこで、無操舵状態での車線逸脱状態を複数回検出した場合に、意識低下状態であると判定することにより、誤判定を低減することができる。
【0084】
次に、第6の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0085】
第6の実施の形態では、横位置の標準偏差を更に考慮して、ドライバが意識低下状態であるか否かを判定している点が、第1の実施の形態と主に異なっている。
【0086】
図8に示すように、第6の実施の形態に係る運転意識低下判定装置610のコンピュータ620は、情報取得部22と、情報算出部24と、情報格納部26と、無操舵判定部28と、逸脱危険度算出部30と、横位置の標準偏差を算出する横位置偏差算出部630と、運転意識低下判定部32とを備えている。
【0087】
横位置偏差算出部630は、所定時間前から現在までに得られた横位置について、横位置の標準偏差SDlatを算出する。
【0088】
運転意識低下判定部32は、無操舵状態であって、かつ、逸脱危険度γLDが閾値THLD以上であり、横位置の標準偏差SDlatが閾値以上THSDlat以上である場合に、ドライバが意識低下状態であると判定し、それ以外の場合には、ドライバは意識低下状態ではないと判定する。
【0089】
なお、第6の実施の形態に係る運転意識低下判定装置の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0090】
以上説明したように、第6の実施の形態に係る運転意識低下判定装置によれば、無操舵状態であって、車線逸脱危険度が閾値以上であり、かつ、横位置の標準偏差が閾値以上である場合に、ドライバが意識低下状態であると判定することにより、ドライバの意識低下状態をより精度良く判定することができる。
【0091】
従来より意識低下時には車両のふらつきが増加することが知られている。それに対し覚醒時において発生する無操舵状態での車線逸脱は、単発的であって、かつ意図的に行われるものであるため、その前後では車両がふらつくことは少ない。そこで車両のふらつきを横位置の標準偏差により評価し、横位置の標準偏差が増加している時の、無操舵状態での車線逸脱に基づいて、意識低下状態を判定することにより、誤判定を低減させることができる。
【0092】
なお、上記の第1の実施の形態〜第6の実施の形態では、操舵角速度に基づいて、無操舵状態を判定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、操舵角と操舵角速度の重み付き線形和を用いても、無操舵状態を判定しても良い。
【0093】
また、操作状態及び走行状態として、横位置、横位置速度、操舵角、操舵角速度、車速を検出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、横位置、操舵角、車速、ヨー角速度、及び横加速度、それらの一次、二次微分量、一次積分量、並びにその組み合わせにより算出可能な物理量を、検出してもよい。また、操作状態として、操舵角、実舵角、操舵トルク、アクセルペダル操作量、及びブレーキペダル操作量の少なくとも1種類以上を検出するようにしてもよい。また、ハンドル操舵だけでなく、意図的なアクセル操作やブレーキペダル操作も行なわれていない無操作状態であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0094】
また、車線幅などの外界情報を用いて、車線逸脱危険度を算出する場合を例に説明したが、他の外界情報を用いて、車線逸脱危険度を算出してもよい。
【0095】
また、横位置、横位置速度、車速などの走行状態に基づいて、車線逸脱危険度を算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、操舵角などの操作状態をさらに考慮して、車線逸脱危険度を算出するようにしてもよい。
【0096】
また、操作状態に基づいて、無操舵状態であるか否かを判定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、走行状態に基づいて、無操舵状態であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0097】
なお、本発明のプログラムは、記録媒体に格納して提供することができる。
【符号の説明】
【0098】
10、610 運転意識低下判定装置
12 操舵角センサ
14 横位置検出部
16 車速センサ
20、620 コンピュータ
24 情報算出部
28 無操舵判定部
30 逸脱危険度算出部
32 運転意識低下判定部
40 警報装置
630 横位置偏差算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態を検出する状態検出手段と、
前記状態検出手段によって検出された前記走行状態又は前記操作状態に基づいて、ドライバの意図的な操作がない無操作状態であるか否かを判定する無操作状態判定手段と、
前記状態検出手段によって検出された前記走行状態、又は前記走行状態及び前記操作状態に基づいて、自車両が車線を逸脱する可能性の高さを示す車線逸脱危険度を算出する車線逸脱危険度算出手段と、
前記無操作状態判定手段による判定結果、及び前記車線逸脱危険度算出手段によって算出された車線逸脱危険度が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を判定する意識低下状態判定手段と、
を含むドライバ状態判定装置。
【請求項2】
前記車線逸脱危険度算出手段は、前記状態検出手段によって検出された前記走行状態、又は前記走行状態及び前記操作状態に基づいて、定常旋回により車線逸脱を回避するために必要なヨー角速度を、前記車線逸脱危険度として算出する請求項1記載のドライバ状態判定装置。
【請求項3】
前記車線逸脱危険度算出手段は、前記状態検出手段によって検出された前記走行状態、又は前記走行状態及び前記操作状態に基づいて、車線を逸脱するまでの車線逸脱時間を、前記車線逸脱危険度として算出する請求項1記載のドライバ状態判定装置。
【請求項4】
前記状態検出手段は、横位置及び横位置速度を含む前記走行状態、及び前記操作状態を検出し、
前記車線逸脱危険度算出手段は、前記状態検出手段によって検出された前記横位置と前記横位置速度との重み付き加算値を、前記車線逸脱危険度として算出する請求項1記載のドライバ状態判定装置。
【請求項5】
前記意識低下状態判定手段は、前記無操作状態判定手段によって無操作状態であると判定され、かつ、所定時間内で、前記車線逸脱危険度が閾値以上となる回数が所定回数以上である場合に、ドライバが意識低下状態であると判定する請求項1〜請求項4の何れか1項記載のドライバ状態判定装置。
【請求項6】
前記意識低下状態判定手段は、前記無操作状態判定手段によって無操作状態であると判定され、かつ、前記車線逸脱危険度が閾値以上である場合に、ドライバが意識低下状態であると判定する請求項1〜請求項4の何れか1項記載のドライバ状態判定装置。
【請求項7】
前記状態検出手段は、横位置を含む前記走行状態、及び前記操作状態を検出し、
前記横位置の標準偏差を算出する横位置標準偏差算出手段を更に含み、
前記意識低下状態判定手段は、前記無操作状態判定手段による判定結果、前記車線逸脱危険度が閾値以上であるか否か、及び前記横位置標準偏差算出手段によって算出された横位置の標準偏差が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を判定する請求項1〜請求項6の何れか1項記載のドライバ状態判定装置。
【請求項8】
前記状態検出手段は、前記走行状態、及び前記ドライバの操舵に関する物理量を含む前記操作状態を検出し、
前記無操作状態判定手段は、前記状態検出手段によって検出された前記操舵に関する物理量が、閾値未満である場合に、ドライバの意図的な操作がない無操作状態であると判定する請求項1〜請求項7の何れか1項記載のドライバ状態判定装置。
【請求項9】
コンピュータを、
自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態を検出する状態検出手段によって検出された前記走行状態又は前記操作状態に基づいて、ドライバの意図的な操作がない無操作状態であるか否かを判定する無操作状態判定手段、
前記状態検出手段によって検出された前記走行状態、又は前記走行状態及び前記操作状態に基づいて、自車両が車線を逸脱する可能性の高さを示す車線逸脱危険度を算出する車線逸脱危険度算出手段、及び
前記無操作状態判定手段による判定結果、及び前記車線逸脱危険度算出手段によって算出された車線逸脱危険度が閾値以上であるか否かに基づいて、ドライバの意識低下状態を判定する意識低下状態判定手段
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−60207(P2011−60207A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212058(P2009−212058)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】