説明

ドラムブレーキ

【課題】ブレーキレバーとバッキングプレートの中心部との距離を従来のドラムブレーキに比べて長くすることができ、それによって小型化を容易に実現できるドラムブレーキを提供する。
【解決手段】アジャストレバー54には、バッキングプレート16内に挿通された工具66によってアジャストレバー54がスプリング64の付勢力に抗して係合歯54dを掛止歯52gから離間し且つそのアジャストレバー54が回動するように工具66からの力をアジャストレバー54に伝達する工具係合歯54fが備えられているため、工具係合歯54fを介してアジャストレバーが工具66によって係合歯54dと掛止歯52gとの噛み合いの位置が初期の状態に近づき一対のブレーキシュー18,20の一端部間の間隔が減少するので、シューホールドダウン装置にストッパー部を設ける必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキの設計の自由度を広げる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキの一種に、たとえば特許文献1に示すように、(a) シューホールドダウン装置によってバッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されたブレーキレバーと、(c) 非制動時におけるその一対のブレーキシューの一端部間の間隔をそのブレーキシューの摩耗に応じて増加させるシュー間隙自動調節機構とを有するものがある。
【0003】
上記のようなドラムブレーキにおいて、上記シュー間隙自動調節機構は、ブレーキの作動が繰り返されることによる上記ブレーキシューの摩耗に応じて上記一対のブレーキシューの一端部間の間隔が増加させられて、略有底円筒形状であるブレーキドラムの内周面とそのブレーキシューとの間隔が一定になるものである。しかし、上記ブレーキドラムの内周面と上記ブレーキシューとが長期間繰り返して摺接させられることによりそのブレーキドラムの内周面に段付き摩耗が生じたときにおいて、その内周面に形成された一対の段部間の凹面と上記ブレーキシューとの間隔が一定になるように上記シュー間隙自動調節機構によって自動調節されると、その凹面内にそのブレーキシューが入り込んでブレーキドラムの取り外しが困難な場合がある。
【0004】
そのため、特許文献1に示すようなドラムブレーキのシューホールドダウン装置には、シューホールドダウンピンを介してコイル状のシューホールドダウンスプリングを挟圧する一対の円板状の板部の一方からバッキングプレートに接近する方向に曲成されバッキングプレート外周側へ向かって回動するブレーキレバーに当接されるストッパー部が備えられており、前記ブレーキドラムの取り外しが困難な場合には、バッキングプレート内に工具を挿通させて上記ストッパー部をブレーキレバーから取り外すことによって、そのブレーキレバーがバッキングプレート外周側に回動するとともに上記シュー間隙自動調節機構の一端部と当接するブレーキレバーの基端部もバッキングプレート外周側に移動するため、一対のブレーキシューの一端部間の間隔が減少しそのブレーキドラムをドラムブレーキから取り外しが可能となる。
【特許文献1】実開昭63−22437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようにシューホールドダウン装置に上記ストッパー部を設けることは、特許文献1の図5に示すように、そのストッパー部によって上記ブレーキレバーの位置が上記バッキングプレートの中心部と近くなるため、ドラムブレーキ制動時のそのブレーキレバーの可動範囲を確保するのが困難となり、ドラムブレーキの小型化すなわち小径化の障害となっていた。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、ブレーキレバーとバッキングプレートの中心部との距離を従来のドラムブレーキに比べて長くすることができ、それによって小型化を容易に実現できるドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) シューホールドダウン装置によってバッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されたブレーキレバーと、(c) 非制動時における前記一対のブレーキシューの一端部間の間隔を前記ブレーキシューの摩耗に応じて増加させるシュー間隙自動調節機構とを有するドラムブレーキであって、前記シュー間隙自動調節機構は、(d) 一端部に前記一対のブレーキシューの一方の一端部および前記ブレーキレバーの基端部に係合する係合部と他端部に所定方向に伸びる穴部とを有し、その一端部が前記一方のブレーキシュー側に付勢されるストラット部材と、(e) そのストラット部材に備えられた掛止歯と噛合する係合歯と前記一対のブレーキシューの他方に形成された係合穴内に嵌め入れられた係合突部とそのストラット部材の穴部において回動可能且つその係合歯を掛止歯から離間する方向に移動可能に遊嵌される軸部材とを有し、そのストラット部材との間に張設されたスプリングによってその係合歯が前記掛止歯に接近する方向に付勢されるアジャストレバーとを備え、(f) 前記一対のブレーキシューの所定以上の拡開に伴って前記アジャストレバーが前記スプリングの付勢力に抗してその係合歯を掛止歯から離間し回動することによって、その係合歯と掛止歯との噛み合いの位置が変更されるものであり、(g) 前記アジャストレバーには、前記バッキングプレート内に挿通された工具によってそのアジャストレバーが前記スプリングの付勢力に抗して前記係合歯を前記掛止歯から離間し且つそのアジャストレバーが回動するようにその工具からの力をそのアジャストレバーに伝達する工具係合歯が備えられている。
【0008】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、(a) 前記軸部材は、前記アジャストレバーの中央部に突設されたものであり、(b) 前記工具係合歯は、前記アジャストレバーの外周縁に備えられた複数の歯である。
【0009】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項1または2に係る発明において、前記バッキングプレートの外周部には、前記工具を挿通可能にする挿通穴が備えられている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のドラムブレーキによれば、前記シュー間隙自動調節機構は、(d) 一端部に前記一対のブレーキシューの一方の一端部および前記ブレーキレバーの基端部に係合する係合部と他端部に所定方向に伸びる穴部とを有し、その一端部が前記一方のブレーキシュー側に付勢されるストラット部材と、(e) そのストラット部材に備えられた掛止歯と噛合する係合歯と前記一対のブレーキシューの他方に形成された係合穴内に嵌め入れられた係合突部とそのストラット部材の穴部において回動可能且つその係合歯を掛止歯から離間する方向に移動可能に遊嵌される軸部材とを有し、そのストラット部材との間に張設されたスプリングによってその係合歯が前記掛止歯に接近する方向に付勢されるアジャストレバーとを備え、(f) 前記一対のブレーキシューの所定以上の拡開に伴って前記アジャストレバーが前記スプリングの付勢力に抗してその係合歯を掛止歯から離間し回動することによって、その係合歯と掛止歯との噛み合いの位置が変更されるものであり、(g) 前記アジャストレバーには、前記バッキングプレート内に挿通された工具によってそのアジャストレバーが前記スプリングの付勢力に抗して前記係合歯を前記掛止歯から離間し且つそのアジャストレバーが回動するようにその工具からの力をそのアジャストレバーに伝達する工具係合歯が備えられているため、前記工具係合歯を介して前記アジャストレバーが前記工具によって前記係合歯が前記掛止歯から離間され前記係合歯と掛止歯との噛み合いの位置が初期の状態に戻る方向にそのアジャストレバーが回動されると、前記係合歯と掛止歯との噛み合いの位置が初期の状態に近づき前記一対のブレーキシューの一端部間の間隔が減少するので、従来のように前記シューホールドダウン装置にストッパー部を設ける必要性がなくなり前記ブレーキレバーと前記バッキングプレートの中心部との距離を従来のドラムブレーキに比べ長くすることができ、ドラムブレーキの小型化を容易に実現することができる。
【0011】
また、請求項2に係る発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記軸部材は、前記アジャストレバーの中央部に突設されたものであり、(b) 前記工具係合歯は、前記アジャストレバーの外周縁に備えられた複数の歯であるため、前記工具を介して前記アジャストレバーを前記軸部材回りに容易に回転させることができる。
【0012】
また、請求項3に係る発明のドラムブレーキによれば、前記バッキングプレートの外周部には、前記工具を挿通可能にする挿通穴が備えられているため、その挿通穴を前記ブレーキシューを点検する穴として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は簡略化されており、それら各部の寸法等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例のパーキングロック機能を備えたシュー間隙自動調節機構付ドラムブレーキであるリーディング・トレーリング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、略有底円筒形状のブレーキドラム12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0015】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0016】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18,20と、その一対のブレーキシュー18,20の一端部すなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたホイールシリンダ22と、一対のブレーキシュー18,20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢してホイールシリンダ22に当接させるために、その一端部間に張設されたコイル状のリターンスプリング24と、一対のブレーキシュー18,20の一端部間に掛け渡された、非制動時における一対のブレーキシュー18,20の間隔が規定され且つ非制動時における一対のブレーキシュー18,20とブレーキドラム12の内周面14との間すなわちシュー間隙を自動的に調節するシュー間隙自動調節機構26と、一対のブレーキシュー18,20の他端部すなわち図1の下端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたアンカ28と、一対のブレーキシュー18,20の下端部間に張設されてそれら下端部をアンカ28に常時当接させるリターンスプリング30とが備えられている。
【0017】
一対のブレーキシュー18,20は、何れも、バッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ32,34と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が図2に示すように略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム36,38と、それらシューリム36,38の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40,42とによってそれぞれ構成されている。また、一対のブレーキシュー18,20は、シューウェブ32およびシューウェブ34にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置44,46によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の相対移動可能に保持されている。また、ブレーキシュー18の一端部には、平板状のパーキングブレーキレバー(ブレーキレバー)48の基端部48aが略円柱形状の取付軸50によりその取付軸50回りに相対回動可能に連結されている。バッキングプレート16、シューウェブ32,34、シューリム36,38は、いずれも鋼板から打ち抜かれ且つ所定の曲げ、絞り成形が施されたプレス部品である。
【0018】
図2に示すように、シュー間隙自動調節機構26は、一対のブレーキシュー18,20の一端部間に配設された平板状のストラット部材52と、そのストラット部材52の他端部52bに備えられたアジャストレバー54とによって構成されている。
【0019】
ストラット部材52の一端部52aには、図2に示すように、切欠56が備えられており、その切欠56の内周面(係合部)52cにブレーキシュー18のシューウェブ32およびパーキングブレーキレバー48の基端部48aであって取付軸50に近い部分が係合されている。
【0020】
ストラット部材52の中間部52dには、図2に示すように、バッキングプレート16から離れる方向に突設された引掛突起部52eが備えられており、ストラット部材52は、その引掛突起部52eとブレーキシュー18との間に張設されたストラットリターンスプリング58によって、ブレーキシュー18側に常時付勢されている。
【0021】
ストラット部材52の他端部52bには、図2および図3に示すように、アジャストレバー54の中央部からそのアジャストレバー54の厚み方向に突設された略円柱形状の軸部材54aをその軸部材54a回りに回動可能且つシュー間隙自動調節機構26の長手方向に所定範囲移動可能に遊嵌される穴部52fが備えられている。
【0022】
アジャストレバー54の一端部には、図2および図3に示すように、ブレーキシュー20のシューウェブ34に形成された係合穴34aの内周面と嵌合するようにバッキングプレート16から離れる方向に伸長された係合突部54bが備えられており、一対のブレーキシュー18,20の拡開時、アジャストレバー54はその係合突部54bを介して一対のブレーキシュー18,20の拡開量すなわち一対のブレーキシュー18,20の一端部間の間隔の増加量に応じて軸部材54a回りに回動するものである。図3に示すように、軸部材54aは、その外周面の中間部にローレットによって刻まれた刻み目60を有しており、その刻み目60をアジャストレバー54の中央部に貫通された貫通穴54cの内周面に圧入することによってアジャストレバー54と相対回転不能に一体的に連結されるものである。また、図3に示すように、軸部材54aの一端部には、アジャストレバー54の軸部材54aが振動等によってストラット部材52の穴部52fから脱落するのを防止する円板形状のストッパー62が固定されている。
【0023】
アジャストレバー54の他端部には、図2に示すように、ストラット部材52の中間部52dに配設された三角歯状の掛止歯52gと噛み合う三角歯状の係合歯54dが配設されており、その係合歯54dは、ストラット部材52の中間部52dに備えられた掛止穴52hとアジャストレバー54の軸部材54aとの間に張設され、係合歯54dを掛止歯52gに接近する方向に常時付勢するコイル状のスプリング64によって、掛止歯52g側へ移動して掛止歯52gと噛み合うと、アジャストレバー54はその軸部材54a回りの回転が拘束される。
【0024】
アジャストレバー54の外周縁の一部には、図2に示すように、軸部材54aの軸心を中心として円状に曲がる円弧形状の曲部54eが備えられており、その曲部54eの外周面には、バッキングプレート16内に挿通された棒状の工具66例えばドライバー等の先端部をその曲部54eに係合させて工具66からアジャストレバー54に好適に力を伝達させる工具係合歯54fが複数本本実施例では5本配設されている。
【0025】
このため、曲部54eの外周面であればどの位置に工具66の先端部を係合してもアジャストレバー54に好適に力を伝達することができる。また、曲部54eの曲率中心と軸部材54aの軸心位置とが同じであるため、工具係合歯54fを介して工具66からの力を曲部54eに伝達すると容易にアジャストレバー54を軸部材54aまわりに回転させることができる。
【0026】
図2および図3に示すように、バッキングプレート16の外周部には、工具66をバッキングプレート16内に挿通可能にする挿通穴16aが備えられており、その挿通穴16aはブレーキシュー20に近いバッキングプレート16の外周部に配設されているため、ブレーキシュー20のライニング42の摩耗具合を点検する点検穴として使用することもできる。さらに、挿通穴16aは、ブレーキシュー20の摩耗量の多いブレーキシュー20の一端部に近い位置に配設されているため好適にブレーキシュー20の交換時期を判断することができる。また、挿通穴16a内には、ドラムブレーキ10内に水等の侵入を防止するゴム製のシール部材68が嵌合されており、工具66使用時或いはブレーキシュー20点検時においてシール部材68は取り外されるものである。
【0027】
バーキングブレーキレバー48の先端部には、図1に示すように、よく知られた図示されていないパーキングブレーキケーブルが連結されており、図示されていないパーキングレバーの操作によりパーキングブレーキケーブルを介してパーキングブレーキレバー48の先端部がバッキングプレート16の中心側へ回動させられると、ブレーキシュー20がシュー間隙自動調節機構26に押されてバッキングプレート16の外周側へ移動させられるとともにブレーキシュー18が取付軸50に押されてバッキングプレート16の外周側へ移動させられるので、一対のブレーキシュー18,20が拡開されて制動力が発生させられるようになっている。このパーキングブレーキ作動時において、アジャストレバー54の係合歯54dは、ストラット部材52の掛止歯52gと噛み合っており、パーキングブレーキレバー48がストラット部材52をブレーキシュー20側に押す力は、アジャストレバー54を介してブレーキシュー20に伝達される。
【0028】
ホイールシリンダ22は、図示されていないブレーキペダル操作に伴ってそのホイールシリンダ22のピストンが突き出され、一対のブレーキシュー18,20の一端部が互いに離隔する方向に拡開されると、ストラット部材52がシューリターンスプリング58の付勢力によって、ブレーキシュー18と共にバッキングプレート16外周側へ移動するとともに、アジャストレバー54が係合突部54bによってブレーキシュー20と共にスプリング64の付勢力に抗してストラット部材52の掛止歯52gから離れる方向すなわちバッキングプレート16外周側へ移動し、一対のブレーキシュー18,20が拡開する。尚、シューリターンスプリング58の付勢力は、スプリング64の付勢力よりも大きいものである。
【0029】
そのため、ホイールシリンダー22による一対のブレーキシュー18,20の拡開によって、掛止歯52gから係合歯54dが外れアジャストレバー54は一対のブレーキシュー18,20の拡開量に応じてその軸部材54a回りに回動する。このブレーキの作動毎において、アジャストレバー54の係合歯54dの回動量(移動量)が掛止歯52gの1歯分以内であればブレーキ解除時にスプリング64の付勢力によって係合歯54dと掛止歯52gとが再度噛み合ってもアジャストレバー54の回動位置すなわち係合歯54dと掛止歯52gと噛み合い位置は変化しないが、1歯分以上となるとその掛止歯52gを乗り越えてアジャストレバー54が1歯分だけ回動させられる。これにより、ブレーキシュー18およびブレーキシュー20の摩耗によってその一対のブレーキシュー18,20の拡開量が所定以上となると、アジャストレバー54が1歯分だけ回動させられて、係合突部54bの先端部がバッキングプレート16の外周側へ移動するため、ブレーキシュー18および20とブレーキドラム12の内周面14との間隙が自動的に調節される。
【0030】
図4は、ドラムブレーキ10からブレーキドラム12の取り外しが困難な状態を示す一例であり、ブレーキ作動が長期間繰り返し行われライニング40,42が摩耗するとともにブレーキドラム12の内周面14に段付き摩耗が生じ、その段付き摩耗によってブレーキドラム12の内周面14に形成された一対の段部14a間の凹面14bとブレーキシュー18,20のライニング40,42との間隔が一定になるようにシュー間隙自動調節機構26によって自動調節された状態を示す図である。図4に示すように、一対のブレーキシュー18,20のライニング40,42は、ブレーキドラム12の内周面14の凹面14b内に入り込んでいるためドラムブレーキ10からブレーキドラム12の取り外しが困難である。
【0031】
図5乃至図7は、ブレーキドラム12の内周面14の凹面14b内にブレーキシュー18,20が入り込んだ状態からブレーキドラム12をドラムブレーキ10から取り外す方法を説明する図である。
【0032】
始めに、作業者は、図5に示すように、シール部材68を取り外し挿通穴16aから工具66の先端部をバッキングプレート16内に挿通させ、その工具66の先端部をアジャストレバー54の工具係合歯54fに係合させる。次に、作業者は、工具66の先端部から工具係合歯54fを介してアジャストレバー54をストラット部材52の掛止歯52gからそのアジャストレバー54の係合歯54dが離間する方向すなわちF1方向にスプリング64の付勢力に抗して移動させる。工具66の先端部から工具係合歯54fを介してアジャストレバー54に力が伝達されると、アジャストレバー54はその軸部材54a回りに回転しようとするが掛止歯52gと係合歯54dとは噛合されその軸部材54a回りの回転が拘束されているため、アジャストレバー54はその係合歯54dを掛止歯52gに摺動させながら掛止歯52gから離間する方向すなわちF1方向に移動し掛止歯52gから係合歯54dを離間する。
【0033】
図6は、工具66の先端部から工具係合歯54fを介してアジャストレバー54に力が伝達されてストラット部材52の掛止歯52gからそのアジャストレバー54の係合歯54dが離間された状態を示すものである。作業者は、図6の状態からさらに工具66の先端部から工具係合歯54fを介してアジャストレバー54をストラット部材52の掛止歯52gからそのアジャストレバー54の係合歯54dが離間する方向にスプリング64の付勢力に抗して移動させると、アジャストレバー54はその軸部材54a回り矢印F2方向に回転するとともにアジャストレバー54の係合突部54bの先端部がブレーキシュー18側に移動する。
【0034】
係合突部54bの先端部がブレーキシュー18側に移動すると、係合穴34aの内周面を介してブレーキシュー20がブレーキシュー18側に移動するすなわち一対のブレーキシュー18,20の一端部間の間隔が減少するので、図7に示すように、ブレーキドラム12の内周面14の凹面14b内からブレーキシュー18,20が引き出されドラムブレーキ10からブレーキドラム12を容易に取り外すことができる。また、図7では、係合突部54bの先端部がブレーキシュー18側に移動する前のブレーキシュー20のライニング42を2点鎖線で表している。
【0035】
また、図7は、アジャストレバー54の係合突部54bの先端部がアジャストレバー54の工具係合歯54fによってブレーキシュー18側に移動されてアジャストレバー54の係合歯54dとストラット部材52の掛止歯52gとの噛み合い位置が初期の状態に戻された状態を示す図であり、シュー間隙自動調節装置26は、一対のブレーキシュー18,20とブレーキドラム12の内周面14との間隔が一定になるようにアジャストレバー54の係合歯54dとストラット部材52の掛止歯52fとの噛み合いの位置が変更されてもアジャストレバー54の工具係合歯54fによって係合歯54dと掛止歯52fとの噛み合い位置を初期の状態に戻すことができる。これによって、係合歯54dと掛止歯52fとの噛み合い位置を初期の状態に戻すためにシュー間隙自動調節機構26をドラムブレーキ10から取り外しストラット部材52とアジャストレバー54とを組み直す必要がなくなる。
【0036】
上述のようにシュー間隙自動調節機構26は、ブレーキ作動が長期間繰り返し行われライニング40,42がブレーキドラム12の内周面14の凹面14b内に入り込んでドラムブレーキ10からブレーキドラム12の取り外しが困難である場合、アジャストレバー54の工具係合歯54fを用いて一対のブレーキシュー18,20の一端部間の間隔を減少させてドラムブレーキ10からブレーキドラム12を取り外すことができるため、従来のドラムブレーキように、シューホールドダウンピンを介してコイル状のシューホールドダウンスプリングを挟圧する一対の円板状の板部の一方からバッキングプレート16に接近する方向に曲成されバッキングプレート16外周側へ向かって回動するパーキングブレーキレバー48に当接されるストッパー部をシューホールドダウン装置に備えさせてそのストッパー部を用いて一対のブレーキシュー18,20の一端部間の間隔を減少させる必要性がない。
【0037】
すなわち、本実施例のシュー間隙自動調節機構26を有するドラムブレーキ10のシューホールドダウン装置44には、上記ストッパー部を設ける必要性がないため、パーキングブレーキレバー48とバッキングプレート16の中心部との距離を従来のドラムブレーキに比べ長くすることができ、ドラムブレーキ10の小型化を容易に実現することができる。また、パーキングブレーキレバー48とバッキングプレート16の中心部との距離を従来のドラムブレーキに比べ長くすることができため、パーキングブレーキレバー48の設計の自由度が広がり十分な強度を持ったパーキングブレーキレバー48をドラムブレーキ10内に配設させることができる。
【0038】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、シュー間隙自動調節機構26は、(a) 一端部52aにブレーキシュー18の一端部およびパーキングブレーキレバー48の基端部48aに係合する切欠56の内周面(係合部)52cと他端部52bに所定方向に伸びる穴部52fとを有し、その一端部52aがブレーキシュー18側に付勢されるストラット部材52と、(b) そのストラット部材52に備えられた掛止歯52gと噛合する係合歯54dとブレーキシュー20のシューウェブ34に形成された係合穴34a内に嵌め入れられた係合突部54bとストラット部材52の穴部52fにおいて回動可能且つ係合歯54dを掛止歯52gから離間する方向に移動可能に遊嵌される軸部材54aとを有し、そのストラット部材52との間に張設されたスプリング62によってその係合歯54dが掛止歯52gに接近する方向に付勢されるアジャストレバー54とを備え、(c) 一対のブレーキシュー18,20の所定以上の拡開に伴ってアジャストレバー54がスプリング62の付勢力に抗してその係合歯54dを掛止歯52gから離間し回動することによって、その係合歯54dと掛止歯52gとの噛み合いの位置が変更されるものであり、(d) アジャストレバー54には、バッキングプレート16内に挿通された工具66によってそのアジャストレバー54がスプリング64の付勢力に抗して係合歯54dを掛止歯52gから離間し且つそのアジャストレバー54が回動するようにその工具66からの力をそのアジャストレバー54に伝達する工具係合歯54fが備えられているため、その工具係合歯54fを介してアジャストレバー54が工具66によって係合歯54dが掛止歯52gから離間され係合歯54dと掛止歯52gとの噛み合いの位置が初期の状態に戻る方向に回動されると、係合歯54dと掛止歯52gとの噛み合いの位置が初期の状態に近づき一対のブレーキシュー18,20の一端部間の間隔が減少するので、従来のようにシューホールドダウン装置44,46にストッパー部を設ける必要性がなくなりパーキングブレーキレバー48とバッキングプレート16の中心部との距離を従来のドラムブレーキに比べ長くすることができ、ドラムブレーキの小型化を容易に実現することができる。
【0039】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、(a) 軸部材54aは、アジャストレバー54の中央部に突設されたものであり、(b) 工具係合歯54fは、アジャストレバー54の外周縁に備えられた複数の歯であるため、工具66を介してアジャストレバー54を軸部材54a回りに容易に回転させることができる。
【0040】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、バッキングプレート16の外周部には、工具66を挿通可能にする挿通穴16aが備えられているため、その挿通穴16aをブレーキシュー20を点検する穴として使用することができる。
【0041】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0042】
たとえば、本発明のドラムブレーキ10において、工具係合歯54fはアジャストレバー54の外周縁に備えられたが、工具係合歯54fはその外周縁に必ず配置される必要はなくアジャストレバー54を回転させることができるならばアジャストレバー54のどの位置に配置されてもよい。
【0043】
また、本発明のドラムブレーキ10において、工具係合歯54fはアジャストレバー54の外周縁に5本配設されたものであったが何本であってもよい。
【0044】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明が適用されたリーディング・トレーリング型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1の実施例のドラムブレーキに備えられたシュー間隙自動調節機構の構成を説明するための図1のII-II視断面図である。
【図3】図2のIII-III視断面図である。
【図4】ブレーキ作動が長期間繰り返し行われライニングが摩耗するとともにブレーキドラムの内周面に段付き摩耗が生じ、その段付き摩耗によってブレーキドラムの内周面に形成された一対の段部間の凹面とブレーキシューのライニングとの間隔が一定になるようにシュー間隙自動調節機構によって自動調節された状態を示す図である。
【図5】ブレーキドラムの内周面の凹面内にブレーキシューが入り込んだ状態からブレーキドラムをドラムブレーキから取り外す方法を説明する図である。
【図6】ブレーキドラムの内周面の凹面内にブレーキシューが入り込んだ状態からブレーキドラムをドラムブレーキから取り外す方法を説明する図である。
【図7】ブレーキドラムの内周面の凹面内にブレーキシューが入り込んだ状態からブレーキドラムをドラムブレーキから取り外す方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0046】
10:ドラムブレーキ
16:バッキングプレート
16a:挿通穴
18,20:一対のブレーキシュー
26:シュー間隙自動調節機構
34a:係合穴
44,46:シューホールドダウン装置
48:パーキングブレーキレバー(ブレーキレバー)
48a:基端部
50:取付軸
52:ストラット部材
52a:一端部
52c:内周面(係合部)
52f:穴部
52g:掛止歯
54:アジャストレバー
54a:軸部材
54b:係合突部
54d:係合歯
54f:工具係合歯
64:スプリング
66:工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューホールドダウン装置によってバッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されたブレーキレバーと、非制動時における該一対のブレーキシューの一端部間の間隔を該ブレーキシューの摩耗に応じて増加させるシュー間隙自動調節機構とを有するドラムブレーキであって、
前記シュー間隙自動調節機構は、一端部に前記一対のブレーキシューの一方の一端部および前記ブレーキレバーの基端部に係合する係合部と他端部に所定方向に伸びる穴部とを有し、該一端部が前記一方のブレーキシュー側に付勢されるストラット部材と、該ストラット部材に備えられた掛止歯と噛合する係合歯と前記一対のブレーキシューの他方に形成された係合穴内に嵌め入れられた係合突部と該ストラット部材の穴部において回動可能且つ該係合歯を掛止歯から離間する方向に移動可能に遊嵌される軸部材とを有し、該ストラット部材との間に張設されたスプリングによって該係合歯が前記掛止歯に接近する方向に付勢されるアジャストレバーとを備え、前記一対のブレーキシューの所定以上の拡開に伴って前記アジャストレバーが前記スプリングの付勢力に抗して該係合歯を掛止歯から離間し回動することによって、該係合歯と掛止歯との噛み合いの位置が変更されるものであり、
前記アジャストレバーには、前記バッキングプレート内に挿通された工具によって該アジャストレバーが前記スプリングの付勢力に抗して前記係合歯を前記掛止歯から離間し且つ該アジャストレバーが回動するように該工具からの力を該アジャストレバーに伝達する工具係合歯が備えられていることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記軸部材は、前記アジャストレバーの中央部に突設されたものであり、
前記工具係合歯は、前記アジャストレバーの外周縁に備えられた複数の歯であることを特徴とする請求項1のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記バッキングプレートの外周部には、前記工具を挿通可能にする挿通穴が備えられていることを特徴とする請求項1または2のドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−222130(P2009−222130A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66723(P2008−66723)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】