説明

ドラム式洗濯機およびそのプログラム

【課題】洗濯物を取り出しやすく、省エネルギー性の優れた運転を実現することができるドラム式洗濯機を提供すること。
【解決手段】水槽3内に溜まった水が洗濯槽4の内面側に入り込み、洗濯物へ吸水される速度により洗濯物の布質を検知する布質検知手段11bと、布質検知手段11bの出力を入力し、洗い工程、すすぎ工程、脱水工程の各行程を逐次制御する制御手段11aを備え、制御手段11aは脱水工程における最終脱水動作の終了後に、布質検知手段11bによる布質に応じた撹拌動作を行う。これによって、使用者が洗濯物を取り出しやすい状態にしつつ、省エネルギー性に優れた運転を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性的に支持された水槽内に洗濯物を収容して回転可能な洗濯槽を備え、その洗濯槽内で洗濯物の洗い、すすぎ、脱水及び乾燥を行う洗濯機もしくは洗濯乾燥機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のドラム式の洗濯機においては、洗濯物を回転自在に設置された洗濯槽に投入した後、給水手段によって洗濯機外部より水道水が供給され、あらかじめ既定量の洗剤が投入されている洗剤入れを介して洗濯槽を収容する水槽または洗濯槽に注水される。注水後は、洗濯槽を低速で回転させながら、洗濯物を十分に洗浄水で濡らした後、洗濯槽を一定時間、洗濯物が洗濯槽壁面に張り付かない程度の低速で回転させる。これによって、タンブリングと呼ばれる動作が行われる。タンブリングすることにより、濡れた洗濯物が回転に伴って洗濯槽の上部より落下して、その際の衝撃によって汚れが落とされて、洗浄性能が上げられている。一方、洗い行程を終えて、すすぎ行程に移行すると、短時間の中間脱水が行われた後に、再び注水が行われ、撹拌動作(タンブリング動作)により洗濯物のすすぎが行われる。その後、脱水行程に移行し、洗濯槽内のすすぎ水が排水された後に、最終の脱水動作が行われる。脱水動作は洗濯物に極めて強い遠心力をかけることで繊維の奥に染み込んだ水分までも遠心方向に吹き飛ばすものであるので、最終脱水を終了した段階では洗濯物が洗濯槽壁面にきつく張り付いている。ここで運転が終了して使用者が洗濯物を洗濯槽から取り出そうとすると、洗濯槽壁面に張り付いた洗濯物を引きはがす必要があり、予想以上に重労働である。
【0003】
これに対して、近年では最終脱水を終えた後に洗濯槽壁面にきつく張り付いた洗濯物を壁面から少しでも引きはがすことにより、使用者が洗濯物を取り出す手間を軽減する機能を搭載した洗濯機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
最終脱水動作終了後、洗濯槽を停止させた段階では、洗濯物が洗濯槽の壁面にきつく張り付いている。この状態で、給水を行わずに、布はがし動作と称して、モータを駆動させ、洗濯衣類をタンブリング可能な回転数で洗濯槽を数秒だけ片方向に回転させて停止させる。その後、洗濯槽を逆回転させて停止させる。このような回転動作を交互に小刻みに繰り返す。これにより、洗濯槽壁面にきつく張り付いていた洗濯物が、壁面から徐々に剥がれて洗濯物がほぐれて取り出しやすい状態になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−127978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、最終脱水を終えた段階で、洗濯物の種類によっては、例えばジャージなどの化学繊維が多い場合は、最終脱水行程を終えた段階でも洗濯槽に洗濯物が貼りついていない。それにも関わらず、布はがし動作が行われることで運転時間をいたずらに伸ばし、省エネルギー性が良くないという課題を有していた。
【0007】
本発明は、洗濯槽内に投入された衣類を構成する繊維の吸湿性の違いを判定し、該結果に基づいて最終脱水行程を終えた段階での洗濯槽に洗濯物が貼りついているか否かを推察することによって、最低限の布はがし動作を行うことで、洗濯物を取り出しやすく、省エ
ネルギー性の優れた運転を実現することができるドラム式洗濯機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の洗濯機は、洗濯物を収容して水平または前面側から背面側に向かって下向きに傾斜する回転軸を中心に回転自在で複数の透孔を有する洗濯槽と、前記洗濯槽を収容する水槽と、前記洗濯槽を駆動する駆動手段と、前記洗濯槽の外面と前記水槽の内面との間に形成される空間に給水する給水手段と、前記水槽内の水位を検知する水位検知手段と、前記水槽内に溜まった水が前記洗濯槽の内面側に入り込み、前記洗濯物へ吸水される速度により洗濯物の布質を検知する布質検知手段と、前記布質検知手段の出力を入力し、洗い工程、すすぎ工程、脱水工程の各行程を逐次制御する制御手段を備え、前記制御手段は前記脱水工程における最終脱水動作の終了後に、前記布質検知手段による布質に応じた撹拌動作を行うものである。
【0009】
上記構成によれば、布質検知手段による結果に応じて、最終脱水を終えた段階での洗濯槽に洗濯物が貼りついているか否かを推察して布はがし動作の内容を変更することで、布質がどのようなものであっても、その特性に応じて最低限の布はがし動作を行うことができる。これによって、使用者が洗濯物を取り出しやすい状態にしつつ、省エネルギー性に優れた運転を実現することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の洗濯機は、布質に応じて、最終脱水終の布はがし動作を行うので、布質がどのようなものであっても、その特性に応じて最低限の布はがし動作を行うことができ、使用者が洗濯物を取り出しやすい状態にしつつ、省エネルギー性に優れた運転を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の概略構造を示す断面図
【図2】同ドラム式洗濯機の制御ユニット11の構成を示すブロック図
【図3】同ドラム式洗濯機の給水制御を示すフローチャート
【図4】同ドラム式洗濯機の給水初期時における洗濯物の布質種別による水位遷移図
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の発明のドラム式洗濯機は、洗濯物を収容して水平または前面側から背面側に向かって下向きに傾斜する回転軸を中心に回転自在で複数の透孔を有する洗濯槽と、前記洗濯槽を収容する水槽と、前記洗濯槽を駆動する駆動手段と、前記洗濯槽の外面と前記水槽の内面との間に形成される空間に給水する給水手段と、前記水槽内の水位を検知する水位検知手段と、前記水槽内に溜まった水が前記洗濯槽の内面側に入り込み、前記洗濯物へ吸水される速度により洗濯物の布質を検知する布質検知手段と、前記布質検知手段の出力を入力し、洗い工程、すすぎ工程、脱水工程の各行程を逐次制御する制御手段を備え、前記制御手段は前記脱水工程における最終脱水動作の終了後に、前記布質検知手段による布質に応じた撹拌動作を行うものである。
【0013】
このような構成によって、布質検知手段の結果に応じて、最終脱水を終えた段階での洗濯槽に洗濯物が貼りついているか否かを推察して布はがし動作の内容を変更することで、布質がどのようなものであっても、その特性に応じて最低限の布はがし動作を行うことができる。よって、最終脱水を終えた後、洗濯物が互いに絡まずほぐれて、使用者が洗濯物を取り出しやすい状態にすることが可能である。さらに、不要な布はがし動作を行わずにすむので、洗濯物の布傷みを低減することがでる。さらに、ほぐれた状態の濡れた洗濯物を撹拌し続けることがないので、洗濯物同士が絡むことによるシワの発生を低減させるこ
とができる。さらに、不要な布はがし動作を行わないので、省エネルギー性に優れた運転を実現することができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明のドラム式洗濯機の前記布質検知手段は、前記洗濯物を構成する素材として吸水性の高い繊維と吸水性の低い繊維との割合を判断するものである。
【0015】
このような構成によって、布質検知手段によって、投入された洗濯物が「吸水性の高い素材で構成されている割合が大きい」、あるいは「吸水性の低い素材で構成されている割合が大きい」といった判断が適切に行うことができ、その布質特性に応じた布はがし行程の内容を設定することができる。よって、最低限の布はがし動作を行うことで最大限の布はがし効果をあげることが可能となるので、省エネルギー性に優れた運転を実現することができる。
【0016】
第3の発明は、第1または第2の発明のドラム式洗濯機において、前記制御手段は、前記布質検知手段により前記洗濯物が吸水性の低い繊維から構成される割合が大きいと検知した場合、前記割合が大きくなるほど、前記最終脱水動作終了後の前記撹拌動作を行う時間を短くするようにしたものである。
【0017】
このような構成によって、布質検知手段によって、投入された洗濯物が「吸水性の高い素材で構成されている割合が大きい」、あるいは「吸水性の低い素材で構成されている割合が大きい」といった判断が決定された後に、布はがし動作である水なし撹拌動作の時間を調整することができる。よって、その布質特性に応じた布はがし行程の時間を設定することができ、最低限の布はがし動作を行うことで最大限の布はがし効果をあげることが可能となる。
【0018】
第4の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明のドラム式洗濯機の前記最終脱水動作終了後の前記撹拌動作は正転と反転を含み、前記制御手段は、前記布質検知手段により前記洗濯物が吸水性の低い繊維から構成される割合が大きいと検知した場合、前記割合が大きくなるほど、前記反転を行う回数を少なくするようにしたものである。
【0019】
このような構成によって、布質検知手段によって、投入された洗濯物が「吸水性の高い素材で構成されている割合が大きい」、あるいは「吸水性の低い素材で構成されている割合が大きい」といった判断が決定された後に、布はがし動作である水なし撹拌動作の反転回数を調整することができる。よって、その布質特性に応じた布はがし行程の反転回数を設定することで反転動作による布傷みを軽減することができる。
【0020】
第5の発明は、第1〜第4のいずれか1つの発明のドラム式洗濯機の前記制御手段は、前記布質検知手段により前記洗濯物が吸水性の低い繊維から構成される割合が所定の割合を越える場合、前記最終脱水動作終了後の前記撹拌動作を行わないようにしたものである。
【0021】
このような構成によって、布質検知手段によって、投入された洗濯物が「吸水性の高い素材で構成されている割合が80%を越える場合」は脱水動作を行っている最中こそ洗濯物が洗濯槽に張り付くが脱水動作を終えた段階では洗濯物が洗濯槽に張り付き続けることもないため、無駄な布はがし行程をせずとも使用者が取り出しやすい状態を提供できる。よって、省エネルギー性に優れた運転を実現することができる。
【0022】
第6の発明は、第1〜5のいずれか1つの発明のドラム式洗濯機において、少なくとも一つをコンピュータに実行させるためのプログラムを備えたものである。
【0023】
このような構成によって、プログラムであるのでマイコンなどを用いて本発明の洗濯機の一部あるいは全てを容易に実現することができる。また記録媒体に記録したり通信回線を用いてプログラムを配信したりすることでプログラムの配布が容易にできる。
【0024】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について、図1〜図4を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の概略構造を示す断面図である。図1を用いて構成を以下に説明する。
【0025】
洗濯機本体1の内部には揺動自在に水槽3が収納され、水槽3内には洗濯槽である回転ドラム4が回転軸4aを中心に回転自在に配設されている。回転ドラム4の回転軸4aは水槽3の背面外側に取り付けたモータ6が直結されており、このモータ6により回転ドラム4が回転駆動される。
【0026】
回転ドラム4には、その周壁4c全体に渡って複数の透孔4eが設けられ、水槽3内と回転ドラム4内とは通水および通気ができるようになっている。回転ドラム4の背面壁4dには円周方向に沿った複数の背面開口4fが形成されており、これら背面開口4fは水槽3の背面側上部に形成された導風口18に対向するように配置されている。また、回転ドラム4の周壁4c内面には複数の撹拌突起4bが設けられており、回転ドラム4の回転により回転ドラム4内の洗濯物を持ち上げるようにしている。なお、透孔4eは回転ドラム4の周壁全体に渡り設けたが、回転ドラム4の周壁に部分的に形成してもよく、要は、水槽3内と回転ドラム4内との通気性および通水性を確保でき、洗濯から乾燥に支障が出ないように設定すればよい。
【0027】
また、回転ドラム4の回転軸4aは、前面側から背面側に向かって下向きになるように傾斜しており、具体的には水平方向Xから例えば角度θ=20±10度下向き傾斜させて配置されている。このように回転軸4aを傾斜させることで、水槽3前面側の開口13を上側に配置することができるようになり、大きく屈む姿勢をとることなく水槽3の開口13を介して回転ドラム4内の洗濯物が取り出せるようになる。また、回転軸4aを水平方向とした場合に比べ、水槽3内に給水された水が背面側に溜まって少ない水量でも深い貯水状態が得られる、すなわち、少ない給水量でも水槽3内に溜まった水が回転ドラム4の透孔4eから入り込み、洗濯物を濡らし吸水速度を検知することができる。
【0028】
水槽3は回転ドラム4内の洗濯物に効率よく給水を行うために、回転ドラム4と同じ傾斜を持ってその近くに沿うように設けてある。回転ドラム4および水槽3を傾斜させることによって、水平に配置するよりも早くに洗濯物の外周側に水が接触し始めるので、布質検知を迅速に行うことができる。なお、吸水量を考慮しなければ、回転ドラム4は水平であってもよいし、傾斜角度θが10度未満であってもよい。
【0029】
また、洗濯機本体1の前面側には水槽3の開口13を通して回転ドラム4内に通じる開口部を設け、その開口部には開閉扉5が開閉自在に設けられている。水槽3の開口13はその口縁に環状のシール材14を装着し、シール材14の前面側が開閉扉5の背面側に当接して密閉し、上下左右、前後に揺動する水槽3の開口が動いてもシール材14が変形し開閉扉5背面側へ押圧する形で密閉性を維持している。
【0030】
水槽3の上部に配置された給水部7は、給水弁7b(給水手段)と、給水弁7bの開閉によって給水される洗剤収容部7aと、洗剤収容部7a内の洗剤を給水とともに水槽3内面と回転ドラム4外面との間に形成された空間Yに供給する給水経路7cとを有している。このように水槽3内面と回転ドラム4外面との間に形成された空間Yに給水することにより、回転ドラム4内の洗濯物に直接水かかからず、水槽3底部に溜まった水が徐々に上
昇していき、回転ドラム4の透孔4eを介して洗濯物に水が接触して洗濯物の吸水が開始されるので、布質により相違する吸水速度を検知することができる。なお、洗濯物に直接水がかからないように給水できればよいので、給水部7は必ずしも上部に配置されている必要はなく、水槽3の背面側、側面側、底部側であってもよい。
【0031】
排水部8は、水槽3の最底部に一端を接続した排水管8aと、排水弁8bとを有し、排水弁8bの開閉によって洗い工程終了後、すすぎ工程終了時など必要なときに水槽3内の水を排水管8aを介し排水できるようになっている。さらに排水管8aの下流側には洗濯機本体1の外部から取り外し可能な排水フィルタ15を配置し、排水に含まれる糸屑類を捕集するようになっている。乾燥手段9は、水槽3および回転ドラム4から空気を出す導出口9fと、導出口9fから空気を吸引する送風機9cと、導出口9fからの空気に含まれる糸屑類を捕集し除塵するフィルタ(図示せず)と、水槽3の背面側に設けられ、回転ドラム4内に送風機9cから吹き出される空気を入れる導入口9eと、送風機9cと導入口9eとを接続する送風経路9dと、送風経路9d内に配され、導出口9fからの高湿空気を除湿する除湿部9gと、送風経路9d内で、除湿部9gより下流側に配され、除湿後の空気を加熱して高温空気とする加熱部9hとから構成されている。なお、除湿部9gおよび加熱部9hをヒートポンプユニットで構成してもよいし、加熱部9gをヒータで構成し、除湿部9gを水冷方式もしくは空冷方式としてもよい。
【0032】
洗濯機本体1の前面上部には複数の入力キー及び設定内容等を表示する表示装置を有する操作パネル21が配され、この操作パネル21は制御ユニット11と接続され、入力キーからの信号を制御ユニット11に入力し、また、制御ユニット11が表示装置の表示状態を制御するようになっている。制御ユニット11はドラム式洗濯機を構成するモータ6、排水弁8b、給水弁7bの動作を制御し、操作パネル21の入力キーにより設定した洗い、すすぎ、脱水、乾燥の運転を実施する。また、制御ユニット11は水槽3内の水位を検知する水位検知手段10からの信号を入力して給水弁7bを制御することで、水槽3内への給水量(水位)を制御している。
【0033】
次に、制御ユニット11の詳細を図2により説明する。図2は本発明の実施形態1におけるドラム式洗濯機の制御ユニット11の構成を示すブロック図である。制御ユニット11は、マイクロコンピュータで構成される制御手段11aと、洗濯物の布質を検知する布質検知手段11bと、洗濯物の量を検知する布量検知手段11cとを備えている。
【0034】
以下に布量検知手段11cの一例について説明する。
【0035】
まず、モータ6を回転駆動する。このときの回転ドラム4の回転数は、洗濯物が回転ドラム4の内周壁に張り付く程度の回転速度、例えば100〜140r/min程度まで一旦立ち上げる。所定時間回転を維持した後、モータ6の通電をオフする。それにより、回転ドラム4の惰性回転が、逆にモータ6を回転させる状態になる。このとき、回転ドラム4の惰性回転力は摩擦トルクによりしだいに低下してやがて回転ドラム4は停止する。通電停止から回転ドラム4の停止までの時間は、洗濯物の量が多いときは長く、洗濯物の量が少ないときは短い。この停止に要する時間の違いが洗濯物の量に比例することを利用して洗濯物の量を検知する。
【0036】
さらに、本実施の形態に係るドラム式洗濯機には、回転ドラム4内に給水された水量を検知する水位検知手段10が設けられている。これは回転ドラム4の最低部近傍の所定位置に配設されたエアトラップ部と圧力検知部(図示せず)をホース接続したものである。圧力検知部は、圧力によって移動するベローズ部分に一体化されたフェライトと、その外周上を囲む固定側のコイルとで構成され、そのインダクタンス変化を利用して移動ストローク距離をトラップ内圧力に変換する。この水位検知手段10は、エアトラップ部に洗濯
液がこないと大気開放状態となり、出力は一定となる。この検知下限水位を下回る水位の場合は、水量および水のありなしを検知することができない。このように、水位検知手段10はエアトラップ機構によるエア内圧計測によるセンシングが一般的であり、エア内圧が安定的な大気開放圧力から変化するまでの時間を計測するのが水位センサのばらつきに影響を受けない適切な算出方法である。また水位検知手段10の出力は、回転ドラム4の回転ありなしやその回転数など、洗濯動作中の回転ドラム4の回転によって出力が変化するため、回転ドラム4の回転数に応じて周波数と水位のテーブルを複数持っている。つまり回転ドラム4が静止中でも回転中でも水位を認識することができる。
【0037】
本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の制御手段11aは、モード設定や制御プログラムに従い、モータ6、給水弁7b、排水弁8b、乾燥手段9等を自動制御して、洗い工程、すすぎ工程、脱水工程、乾燥工程を行う機能を有している。
【0038】
以上のように構成されたドラム式洗濯機の動作について布質を検知する工程を含めて説明する。図3は、本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の給水制御を示すフローチャートである。図4は本発明の実施の形態1における洗濯機の洗濯物による給水初期時の水位遷移図を示すものである。
【0039】
図3において、洗濯物が投入されて運転を開始すると給水工程にて給水を開始する。ここで給水開始前に回転ドラムを所定回転数で一方向に回転させる(S1)。回転ドラム4の回転数は、例えば60r/minなど、洗濯物が回転ドラム4の内周壁に張り付くような回転数である。回転ドラム4をこのような速度で回転させながら給水することで、洗濯物の転動を防ぎ、洗濯物の濡らし方の条件を一意に合わせることが可能となる。また、洗濯物の量が変わった場合でも、洗濯物の張り付けによって同じような条件で濡らしていけるので、布量による依存性を抑え込むことができ、布質検知を精度よく行うことができる。また、回転ドラム4の回転開始は給水開始前に限られず、同時でもよいし給水開始後でもよい。
【0040】
次に、給水弁7bを開放して(S2)給水時間tのカウントを開始し、水槽3に所定水位Aになるまで給水を行う(S3)。所定水位Aは回転ドラム4内の洗濯物の外周側と接触できる水位である。
【0041】
本発明の実施の形態1の布質検知は、洗濯物を構成する素材として吸水性の高い繊維と吸水性の低い繊維との割合を判断する。所定水位Aにおいて給水時間tをもとに洗濯物の布質が低吸水性から構成される割合が大きいと判定すると、最終脱水を終えた後にドラム内周壁に張りついた洗濯物を剥がす目的で行う撹拌動作(布はがし撹拌)の設定時間を減らす方向に変更する。また、回転ドラム4の正転と反転を含む撹拌動作において、反転する回数を、布質に応じて減らす方向に変更する。これによって、布質が低吸水性である場合には、その特性に応じて最低限の布はがし動作を行い、最終脱水を終えた後、洗濯物が互いに絡まずほぐれて、使用者が洗濯物を取り出しやすい状態にすることが可能である。さらに、ほぐれた状態の濡れた洗濯物を撹拌し続けることがないので、洗濯物同士が絡むことによるシワの発生を低減させることができる。さらに、不要な布はがし動作を行わずにすむので、洗濯物の布傷みを低減することができ、さらに省エネルギー性に優れた運転を実現することができる。
【0042】
布質検知は、繊維の吸水速度を利用して行う。図4に示すように、初期の吸水速度はポリエステルなどの化学繊維の方が早くに広範囲に浸透するため、綿よりも吸水が速く、つまり給水時間が長くなる。洗濯物が全て綿であれば、吸水速度が遅いので所定水位Aになる時間は速い。逆に、例えばポリエステルなどの化学繊維であれば、吸水速度が速いので所定水位Aになる時間は遅い。このような布質による吸水速度の違いを利用して、所定水
位Aになる給水時間tを確認することで布質を検知することができる。
【0043】
具体的には、所定水位Aになった時点で給水時間tが所定時間T1より短かったかを判断し(S4)、短い場合は(S4のYES)、布はがし撹拌動作の時間および回転ドラム4の反転動作を初期設定から変更しないようにする(S5)。すなわち、洗濯物が吸水性の高い繊維から構成される割合が大きい場合には、布はがしが従来の設定通り行われる。布はがし撹拌動作の時間および、回転ドラム4の反転を行う回数を従来どおりにして削減しないことで、最大限の撹拌動作を行い、布はがしの効果を得るようにする。ここで、所定時間T1は、全て綿タオルである場合に給水開始から所定水位Aになるまでの時間と、綿と化学繊維が混在している場合に所定水位Aになるまでの時間との間で設定する時間である。例えば、洗濯物の全量のうち綿が7割含まれる時に所定水位Aまで給水するのにかかる時間をT1とする。
【0044】
所定水位Aになった時点で給水時間tが所定時間T1より長い場合は(S4のNO)、給水時間tが所定時間T2より短かったかを判断する(S6)。給水時間tが所定時間T2よりも短い場合は(S6のYES)、布はがし撹拌の動作時間を若干減らす(S7)。このときの削減時間は、例えば30秒程度である。また、それとともに、回転ドラム4の反転回数を、設定回数の半分に減らす。ここで、所定時間T2は全てポリエステルなどの化学繊維である場合に給水開始から所定水位Aになるまでの時間と、綿と化学繊維が混在している場合に所定水位Aになるまでの時間との間で設定する時間である。例えば、洗濯物の全量のうちポリエステルが7割含まれる時に所定水位Aまで給水するのにかかる時間をT2とする。
【0045】
所定水位Aになった時点で給水時間tが所定時間T2より長い場合は(S6のNO)、布はがし撹拌の動作時間をゼロにする、つまり、布はがし撹拌動作を行わないように設定する(S8)。すなわち、洗濯物が吸水性の低い繊維から構成される割合が大きいと検知された場合には、制御手段11aは、設定された布はがしをなしに設定する。
【0046】
その後、制御手段11aは、洗い行程を終え(S9)、すすぎ行程(S10)を経て、脱水行程(S11)にて脱水動作を終えて回転ドラム4を停止する。その後、布はがし工程が設定されていれば(S12のYES)、布はがし工程が行われる(S13)。布はがし工程では、例えば、ドラムを「5秒間右回転、1秒停止、5秒間左回転、1秒停止」のサイクルを設定時間だけ繰り返す動作を行う(S13)。一方、吸水性の低い洗濯物が多く、布はがし工程が設定されていなければ(S12のNO)、そのまま洗濯運転が終了する。
【0047】
なお、所定時間T1、T2を決定するのに用いた洗濯物による給水初期時の水位遷移図は、同様の吸水特性を示すものであればポリエステルや綿に限られるものではない。また、本実施の形態1では綿と、化学繊維と、綿および化学繊維の混合との、3種類の吸水特性により設定水位のランク決定をしているが、これに限られるものではなく、化学繊維としてナイロンなどの他の繊維も用いてランク分けを細かくしてもよい。また、綿および化学繊維の混合において、その混合比率を1:2、1:1、2:1と変化させるなどして、ランク分けしてもよい。
【0048】
ここで、布質に応じた布はがし動作の設定増減について補足する。上記したように、洗濯物は大別すると綿繊維と化学繊維に分けられる。綿繊維は化学繊維に比べて水を含みやすく、形成する繊維自身が膨張することで繊維間が密になる。よって、変形しにくくなるため、その状態で脱水行程にて遠心力をかけると繊維内側や繊維間の水分が脱水される。しかし、一度膨張した繊維は縮まることなく、かつ、遠心力をかけることにより回転ドラム4内面壁に押し固められるため、なかなか引きはがすのが難しい。よって小刻みに回転
ドラム4の左右回転(空転)を長時間繰り返さなければならない。一方で、化学繊維が多い場合は、繊維自体は水をあまり吸収せず繊維間もかなり広いため、脱水を行っても回転ドラム4の内面壁に押し固められることもないので、布はがし工程を行う必要がない。そればかりか、化学繊維ばかりの状態で、不要な布はがし撹拌動作(空転動作)をいたずらに継続すると、例えば、ジャージのチャックなどがドラム内を舞うことで他の衣類にひっかかったりして衣類同士を痛める事にもなりかねない。このため、洗濯物が化学繊維ばかりの場合は不要な布はがし撹拌は行わない。
【0049】
以上のように、本実施の形態によれば、運転開始直後に洗濯物の重量を検知した後、洗い行程にて洗濯物の重量に応じた水量を注水し、さらにその注水過程において投入されている洗濯物が吸水性の高い素材で構成されているものが多いのか、吸水性の低い素材で構成されているものが多いのかを判定することができる。その布質検知結果に応じて、最終脱水を終えた段階での洗濯槽に洗濯物が貼りついているか否かを推察して布はがし動作の内容を変更することで、布質がどのようなものであっても、その特性に応じて最低限の布はがし動作を行うことで、最終脱水を終えた後の洗濯物が互いに絡まずほぐれて取り出しやすい状態にすることが可能である。
【0050】
なお、本実施の形態1では、洗浄前の給水量の決定を行うことを示したが、回転数、回転回数、撹拌の仕方、時間などのすすぎ工程、脱水工程、乾燥工程の制御に布質検知結果を適用させることもできる。
【0051】
また、実施の形態1ではドラム式洗濯機を例に上げ説明しているが、水槽3と洗濯槽の間に給水する構成とした場合、パルセータ撹拌式やアジテータ式など縦型洗濯機においても同様の効果が得られる。縦型式洗濯機において、水を均一に浸透させるために、洗濯槽の外側に設けられたシャワーなどを用いて洗濯物の外周側から均一に濡れていく構成にしてもよい。また、給水中に洗濯槽を回転させる場合には、パルセータと洗濯槽が一体に動くようにすることで、洗濯物を傷みにくくすることができる。
【0052】
なお、本実施の形態で説明した手段は、CPU(またはマイコン)、RAM、ROM、記憶・記録装置、I/Oなどを備えた電気・情報機器、コンピュータ、サーバ等のハードリソースを協働させるプログラムの形態で実施してもよい。プログラムの形態であれば、磁気メディアや光メディアなどの記録媒体に記録、もしくはインターネットなどの通信回線を用いて配信することで新しい機能の配布・更新やそのインストール作業が簡単にできる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明にかかる洗濯機は、洗濯槽内に投入された洗濯物の衣類の布質を吸水性の高いものと低いものとの比率で判断し、その結果に応じて、最終脱水を終えた段階での洗濯槽に洗濯物が貼りついているか否かを推察して布はがし動作の内容を変更することで、布質がどのようなものであっても、その特性に応じて最低限の布はがし動作を行うことで、最終脱水を終えた後の洗濯物が互いに絡まずほぐれて取り出しやすい状態にすることが可能である。
【0054】
同様にして、食器洗い乾燥機など洗う対象物の材質に応じて運転内容を変更することで省エネ性の向上を図るなどの用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 洗濯機本体
3 水槽
4 回転ドラム(洗濯槽)
6 モータ(駆動手段)
7 給水部
7b 給水弁(給水手段)
8 排水部
8b 排水弁
10 水位検知手段
11 制御ユニット
11a 制御手段
11b 布質検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯物を収容して水平または前面側から背面側に向かって下向きに傾斜する回転軸を中心に回転自在で複数の透孔を有する洗濯槽と、
前記洗濯槽を収容する水槽と、
前記洗濯槽を駆動する駆動手段と、
前記洗濯槽の外面と前記水槽の内面との間に形成される空間に給水する給水手段と、
前記水槽内の水位を検知する水位検知手段と、
前記水槽内に溜まった水が前記洗濯槽の内面側に入り込み、前記洗濯物へ吸水される速度により洗濯物の布質を検知する布質検知手段と、
前記布質検知手段の出力を入力し、洗い工程、すすぎ工程、脱水工程の各行程を逐次制御する制御手段を備え、
前記制御手段は前記脱水工程における最終脱水動作の終了後に、前記布質検知手段による布質に応じた撹拌動作を行うドラム式洗濯機。
【請求項2】
前記布質検知手段は、前記洗濯物を構成する素材として吸水性の高い繊維と吸水性の低い繊維との割合を判断する請求項1に記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
前記制御手段は、前記布質検知手段により前記洗濯物が吸水性の低い繊維から構成される割合が大きいと検知した場合、前記割合が大きくなるほど、前記最終脱水動作終了後の前記撹拌動作を行う時間を短くするようにした請求項1または2に記載のドラム式洗濯機。
【請求項4】
前記最終脱水動作終了後の前記撹拌動作は正転と反転を含み、
前記制御手段は、前記布質検知手段により前記洗濯物が吸水性の低い繊維から構成される割合が大きいと検知した場合、前記割合が大きくなるほど、前記反転を行う回数を少なくするようにした請求項1〜3のいずれか1項に記載のドラム式洗濯機。
【請求項5】
前記制御手段は、前記布質検知手段により前記洗濯物が吸水性の低い繊維から構成される割合が所定の割合を越える場合、前記最終脱水動作終了後の前記撹拌動作を行わないようにした請求項1〜4のいずれか1項に記載のドラム式洗濯機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のドラム式洗濯機にて、少なくとも一つの手段をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−85789(P2013−85789A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230480(P2011−230480)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】