説明

ドルゾラミドの調製方法

【解決手段】ドルゾラミドのトランスラセメートを分割する方法であって、前記ラセメートを(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸と反応させ、前記ラセメートのショウノウスルホン酸塩(ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩)を選択的に沈澱及び回収することによって(4S,6S)鏡像体を得る工程と、ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩を中和してドルゾラミドを得る工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)
【0002】
【化1】

【0003】
で表される(4S,6S)−4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホンアミド7,7−ジオキシド(以後、ドルゾラミドともいう)を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ドルゾラミド一塩酸塩は、高眼圧症や開放隅角緑内障の患者における高眼圧の治療に有用な、市販の医薬物質である。
【0005】
塩酸ドルゾラミドは、最初に特許文献1に開示された。この特許によれば、ドルゾラミドは、多工程プロセスに従って、即ち、クロマトグラフィーによってラセミ体のtransジアステレオマーである(4S,6S;4R,6R)4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホンアミド7,7−ジオキシド(ドルゾラミドのトランスラセメート)を、不要なラセミ体のcisジアステレオマー(ドルゾラミドのシスラセメート)から分離し、光学活性な(−)ジ−p−トルオイル−L−酒石酸とのジアステレオマー塩を生成することによりドルゾラミドのトランスラセメートを分割し、ドルゾラミドのジ−p−トルオイル−L−酒石酸塩(ドルゾラミド酒石酸塩)を分離し、再結晶により塩を精製し、NaHCO3水溶液によりドルゾラミドを遊離させた後、酢酸エチルによりドルゾラミドを抽出するプロセスに従って調製できる。
【0006】
ジアステレオマー塩の生成によるラセミ混合物の分割は、最も一般的に使用される工業的手法の一手法であることは良く知られている。また、酒石酸やその誘導体(例えば、ジ−トルイル酒石酸)の他、その他の光学活性な各種酸(例えば、リンゴ酸、マンデル酸やその誘導体、α−メトキシフェニル酢酸、α−メトキシ−α−トリフルオロメチル−フェニル酢酸、1−ショウノウ−10−スルホン酸やその誘導体等)を代わりに使用でき、これにより、構造内にアミノ基を有するラセミ化合物を分割できることも知られている。従って、当業者は、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸と同等の結果を得ることを期待して、上に挙げた分割剤の内の一種を選択できるであろう。
【特許文献1】欧州特許第296879号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
意外なことではあるが、ドルゾラミドのトランスラセメートの分割剤としてジ−p−トルオイル−L−酒石酸に替えて(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸を使用することにより、対応する塩の鏡像体純度に関して良好な結果が得られるだけでなく、ドルゾラミドのトランスラセメートに不純物として存在する不要なジアステレオマーであるドルゾラミドのシスラセメートの量を大幅に低減できるということを見出した。
【0008】
従って、本発明の第一の目的は、トランスラセミ体である式(II)
【0009】
【化2】

【0010】
で表される(±)(4S,6S;4R,6R)−4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホン−アミド7,7−ジオキシド(ドルゾラミドのトランスラセメート)を分割する方法であって、
a)前記ラセメートを式
【0011】
【化3】

【0012】
で表される(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸と反応させ、
b)式(III)
【0013】
【化4】

【0014】
で表される前記ラセメートのショウノウスルホン酸塩(ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩)を選択的に沈澱及び回収することによって(4S,6S)鏡像体を得て、
c)式(III)で表されるドルゾラミドショウノウスルホン酸塩を中和することにより式(I)の化合物を得ることを特徴とする方法である。
【0015】
分割剤である(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸は、市販品を用いるか、当分野で良く知られた方法によって調製できる。
【0016】
分割工程は、溶媒中でドルゾラミドのトランスラセメートを(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸と反応させて行うことができる。この溶媒は、前記両反応物質を溶解可能であると共に、対応する(4S,6S)鏡像体のショウノウスルホン酸塩(ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩)を選択的に沈澱させ得るものである。適切な溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール等の低級アルコールや、これらアルコールの内の一種と水との混合物が挙げられる。好ましい溶媒は、2−プロパノール、及び2−プロパノール/水混合物である。
【0017】
反応温度は、室温程度〜約82℃の範囲とすることができる。ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩は、真空濾過等の従来の技法により、結晶性物質として固体で回収できる。
【0018】
所望であれば、この鏡像体の鏡像体濃縮を促進し且つ全体の純度特性(purity profile)を改善するために、ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩を更なる精製に付すことができる。例えば、ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩を、適切な有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール溶媒や、これらアルコールと水との混合物等)により再結晶できる。好ましい溶媒は、2−プロパノール、及び2−プロパノール/水混合物である。
【0019】
(4S,6S)鏡像体の遊離の塩基、即ち、ドルゾラミドを得るため、ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩を中和する。このような中和は、当業者に良く知られた方法により、この塩を適切なアルカリ剤と反応させることによって達成できる。例えば、ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等の水性塩基で処理できる。ドルゾラミドは、ドルゾラミドを含有するアルカリ性媒体を、水と混和しない適切な有機溶媒(酢酸エチル等)で抽出することにより直接得ることができる。
【0020】
所望であれば、ドルゾラミドは更に、従来の技法に従って、例えばEP296879に記載の手続きに従って、対応する塩酸塩に変換できる。
【0021】
式(II)のドルゾラミドのトランスラセメートは、ドルゾラミドのtransラセメート及びcisラセメートのジアステレオマー粗混合物から、本分野において良く知られた手続きに従ってクロマトグラフィー分離を行うことにより、或いは選択的結晶化を行うことにより得ることができる。選択的結晶化による分離は、例えば、ドルゾラミドのトランスラセメート及びシスラセメートのジアステレオマー粗混合物を、式
【0022】
【化5】

【0023】
で表されるマレイン酸と反応させ、式(IV)
【0024】
【化6】

【0025】
で表されるドルゾラミドのトランスラセメートのマレイン酸塩を分離することによりトランスラセメートを得て、式(IV)の前記塩を中和することにより、式(II)のドルゾラミドのトランスラセメートを得ることによって行うことができる。
【0026】
分離工程は、前述のドルゾラミドのトランスラセメート及びシスラセメートのジアステレオマー粗混合物を、アセトンやアセトン/酢酸エチル混合物等の適切な有機溶媒中でマレイン酸と混合することにより行うことができる。アセトンが好ましい。その後、マレイン酸塩は濾過により分離できる。
【0027】
前述のドルゾラミドのトランスラセメート及びシスラセメートのジアステレオマー粗混合物の調製は、例えば、EP296879に記載の手続きに従って行うことができる。
【0028】
マレイン酸は、市販品を用いるか、本分野において良く知られた方法により調製できる。
【0029】
本発明の更なる様相は、式(III)で表される(4S,6S)4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホンアミド−7,7−ジオキシドのショウノウスルホン酸塩(ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩)と、ドルゾラミド一塩酸塩の調製におけるこの塩の使用とに関する。
【0030】
本発明においては、(R)及び(S)の記号は立体配置を示し、(+)及び(−)の記号は、本発明化合物の光学活性を示す。
【0031】
次に実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
式(IV)で表される(±)−trans−(4S,6S;4R,6R)−4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホンアミド7,7−ジオキシドマレイン酸塩(ドルゾラミドのトランスラセメートのマレイン酸塩)の調製
ラセミ体である4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホンアミド−7,7−ジオキシド(18.9g、80/20 トランス/シスジアステレオマー混合物の34.37mmolに相当)の未精製物を50℃でアセトン(70mL)に溶解した。次に、マレイン酸(4.03g)のアセトン(18mL)溶液を約20分間かけて添加した。このようにして得た懸濁液を50℃で1時間攪拌した後、3時間かけて20℃まで冷却した。得られた固体を真空濾過により分離し、アセトン(20mL)で洗浄後、真空オーブンにおいて50℃で乾燥し、標記化合物(12.4g、トランス/シス比≧95/5)を白色固体として得た。
【0033】
実施例2
式(III)で表される(4S,6S)−4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホンアミド−7,7−ジオキシド(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸塩(ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩)の調製
式(II)のドルゾラミドのトランスラセメート(9.2g)及び(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸(2.9g)を、2−プロパノール/水混合物(約88/12 w/w)(711g)に溶解した。このようにして得た溶液を常圧蒸留し体積を550mLとした後、20℃まで冷却した。得られた懸濁液を20℃で7時間攪拌した。この固体を真空濾過により分離し、2−プロパノール(2×10mL)で洗浄後、真空オーブンにて50℃で乾燥し、ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩(1番晶)(5g)を得た。この化合物(5g)を加熱還流下、2−プロパノール(247g)と水(75g)の混合物に溶解した。このようにして得た溶液を常圧蒸留し、約225gの2−プロパノール/水共沸混合物を回収した。更に2−プロパノール(210g)を容器に注ぎ、溶液を常圧蒸留し最終的な量を110〜120mLとした。得られた懸濁液を還流下、更に2時間攪拌した後、7時間かけて20℃まで冷却した。得られた固体を真空濾過により分離し、2−プロパノール(2×20mL)で洗浄後、真空オーブンにて50℃で乾燥し、標記化合物(4.9g、>99%e.e.)を白色固体として得た。
【0034】
実施例3
(4S,6S)−4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホンアミド−7,7−ジオキシド(−)−ジ−p−トルイル−L−酒石酸塩(ドルゾラミド酒石酸塩)の調製
式(II)のドルゾラミドのトランスラセメート(0.8g)及び(−)−ジ−p−トルイル−L−酒石酸(0.22g)を還流下2−プロパノール(45mL)に溶解した。このようにして得た溶液を常圧蒸留し体積を20mLとした。得られた懸濁液を還流温度で更に2時間攪拌した後、7時間かけて20℃まで冷却した。得られた固体を真空濾過により分離し、2−プロパノール(4mL)で洗浄後、真空オーブンにて40℃で乾燥し、ドルゾラミド酒石酸塩(1番晶)(0.626g)を得た。この化合物(0.601g)を還流下2−プロパノールに溶解し、この溶液を常圧蒸留し体積を18mLとした。得られた懸濁液を7時間かけて20℃に冷却した。得られた固体を真空濾過により分離し、2−プロパノール(4mL)で洗浄後、真空オーブンにて40℃で乾燥し、ドルゾラミド酒石酸塩(2番晶)(0.49g)を得た。この化合物を2回目の手続きに従って更に再結晶した(溶液を常圧蒸留し体積を15mLとした)。得られた固体を真空濾過により分離し、真空オーブンにて50℃で乾燥し、標記化合物(0.379g、85〜87%e.e.)を白色固体として得た。
【0035】
実施例4
ドルゾラミドのトランスラセメートをそれぞれ(−)ジ−p−トルオイル−L−酒石酸及び(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸と反応させることにより得られるドルゾラミド酒石酸塩及びドルゾラミドショウノウスルホン酸塩の鏡像体純度(エナンチオ過剰(%e.e.)として測定される)を比較するために、試験を行った。
【0036】
結晶化試験は全て、溶媒として2−プロパノール又は2−プロパノール/水混合物を用い、実施例2及び実施例3に記載した手続きに従って行った。得られた結果を下記表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
上表に示すデータは、分割剤として(−)ジ−p−トルオイル−L−酒石酸の代わりに(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸を用いると、顕著に優れた鏡像体純度が達成されることを明白に示している。
【0039】
実施例5
ドルゾラミドのトランスラセメートと(−)ジ−p−トルオイル−L−酒石酸及び(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸とをそれぞれ反応させることにより得られるドルゾラミドのトランスラセメート、ドルゾラミド酒石酸塩及びドルゾラミドショウノウスルホン酸塩中に残留不純物として存在するcis-ジアステレオマーの量(HPLC面積%比として表される)を測定するために、試験を行った。
【0040】
結晶化試験は全て、溶媒として2−プロパノール又は2−プロパノール/水混合物を用い、実施例2及び実施例3に記載した手続きに従って行った。得られた結果を下記表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
上表に示すデータは、分割剤として(−)ジ−p−トルオイル−L−酒石酸の代わりに(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸を用いると、意外にもシス不純物の量を低減できることを明白に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスラセミ体である式(II)
【化1】

で表される(±)(4S,6S;4R,6R)−4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホンアミド7,7−ジオキシド(ドルゾラミドのトランスラセメート)を分割する方法であって、
a)前記ラセメートを式
【化2】

で表される(1S)−(+)−10−ショウノウスルホン酸と反応させ、
b)式(III)
【化3】

で表される前記ラセメートのショウノウスルホン酸塩(ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩)を選択的に沈澱及び回収することによって(4S,6S)鏡像体を得て、
c)式(III)で表されるドルゾラミドショウノウスルホン酸塩を中和することにより式(I)
【化4】

で表されるドルゾラミドを得ることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ラセメートと前記ショウノウスルホン酸の反応を溶媒中で行い、この溶媒は、前記ラセメート及び前記ショウノウスルホン酸を含む前記反応物を溶解可能であると共に、対応する(4S,6S)鏡像体のショウノウスルホン酸塩(ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩)を選択的に沈澱させ得るものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒は2−プロパノール/水混合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記沈澱による分離後、この鏡像体の鏡像体濃縮を促進し且つ全体の純度特性(purity profile)を改善するために、更にドルゾラミドショウノウスルホン酸塩を再結晶によって精製する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ドルゾラミドのトランスラセメートは、ドルゾラミドのトランスラセメート及びシスラセメートのジアステレオマー混合物を式
【化5】

で表されるマレイン酸と反応させ、式(IV)
【化6】

で表されるドルゾラミドのトランスラセメートのマレイン酸塩を分離することによりトランスラセメートを得て、この塩を中和することにより得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
式(III)
【化7】

で表される(4S,6S)4−(エチルアミノ)−5,6−ジヒドロ−6−メチル−4H−チエノ[2,3−b]チオピラン−2−スルホンアミド−7,7−ジオキシドのショウノウスルホン酸塩(ドルゾラミドショウノウスルホン酸塩)。
【請求項7】
ドルゾラミド製造における、請求項3に記載の式(III)の化合物の使用。

【公表番号】特表2009−534349(P2009−534349A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505862(P2009−505862)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053691
【国際公開番号】WO2007/122130
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(307041023)
【氏名又は名称原語表記】ZaCh System S.p.A.
【Fターム(参考)】