説明

ドープされた有機半導体材料の製造方法及びそのために用いられる配合物

(i)少なくとも1のドーパント前駆体、少なくとも1のドープされる有機材料、及び、溶媒を含む、溶液又は懸濁液を調製する工程と、(ii)前記溶液又は懸濁液を、基板上に塗布し、溶媒を除去する工程と、(iii)活性化エネルギーを加えることにより、ドーパント前駆体をドーパントに変換する工程と、を含み、前記ドーパント前駆体は、前記ドーパントのダイマー、前記ドーパントのオリゴマー、前記ドーパントのジスピロ化合物、又は、前記ドーパントの多環式化合物であり、活性化エネルギーを加えることにより前記ドーパントに分解する、ドープされた有機半導体材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープされた有機半導体材料の製造方法及び当該方法に用いられる配合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機半導体は、有機発光ダイオード(OLED)、有機太陽電池、有機薄膜トランジスタ(TFT)、無線認識票(RFID)、センサー等、数多くの用途において止むことなく地歩を得ている。
【0003】
有機材料は、無機半導体材料に対して優れた加工性が特色となるような用途に用いられる。シリコンやガリウムヒ素のような無機半導体が、PECVD、エピタキシープロセスにより、または、単結晶ウエハーに加工されるのに対して、有機材料は、真空中で容易に蒸発させることができ、又は、容易に溶液から加工することができる。特に、溶液からの加工は、層を形成するために、スピンコーティングまたはディップコーティング、印刷技術またはラングミュア−ブロジェット法のような簡単なプロセスを用いることができるので、顕著なコスト削減につながる見込みがある。さらに、有機物は簡単な加工方法を提供するだけでなく、もろい無機半導体材料と対照的に柔軟でもある。しかし、無機半導体は、導電性および電荷担体の移動性の点では有機材料よりはるかに優れており、そのことが、なお多くの用途において無機半導体を第一の選択とさせている。
【0004】
有機材料の電気特性を向上させる一つの方法は、有機半導体の意図的なレドックスドーピングである。ここで、少量の強いドナー(アクセプター)材料が、半導体ホストに添加される。ホスト材料においては、添加されたドーパントは、マトリックスと化学反応を起こし、輸送のためのホスト材料に、負の(正の)電荷、すなわち、電子(ホール)を生成させる。これは、ドーパントカチオン(アニオン)とホストアニオン(カチオン)とが形成されたときに起こる。ドナーがドープされた輸送層の場合はn型ドーピングであり、アクセプターがドープされた層の場合はp型ドープという(いずれの用語も無機半導体のドーピングと同様に用いられる)。ドナーは、低いイオン化ポテンシャルを有する化合物であるといえ、アクセプターは高い電子親和力を有する化合物であるといえる。
【0005】
これらの電荷担体ドーパントを用いることにより、輸送材料中で、自由で、持続性のある(定常状態の)電荷担体の量が増加する。このことは直接、ドープされた材料のより高い導電性に結びつく。ドープされた輸送層の有用性は、例えば、OLEDのアーキテクチャにおいてp−及びn−ドープされた電荷担体輸送層を用いるPIN OLEDで示される。そうすることによって、ドープされた層を通る電荷担体の輸送におけるオーミックな損失の減少、及び、電子のドープされた層への注入障壁の減少のゆえに、デバイスの作動電圧は大幅に削減される。
【発明の開示】
【0006】
これまでのところ、かかる有機半導体材料の電荷担体輸送ドーピングの利用は、多くの場合、マトリックス材料及びドーパントの熱的な蒸発により製造された層に限られていた。その理由は、ドナー又はアクセプターのマトリックスとの化学反応が、材料の物理的特性を大幅に変化させるという事実による。例えば、マトリックスとドーパントとのクーロン相互作用は、反応後に始まる。真空蒸着に限定されることによって、溶液からの簡単に加工できるという有機半導体材料の利点は失われる。
【0007】
ドーパントとマトリックスとの混合物を溶液から直接加工することは、直ちに起こり、電荷移動錯体/有機塩を生成させる反応ゆえに困難である。これらは、最初の材料と全く異なる溶解度を有し、そのことがかかるドーパント−マトリックス溶液の加工性を大幅に限定する。それゆえに、ドープされた層とドープされていない層との分離が起こり、均質なフィルムをキャストすることが困難となる。ドープされた層を溶解するために、極性の大きい溶媒(水等)が必要とされ得る。そのような溶媒は、しばしば、その限られた電気化学的なウィンドー、限られた化学的安定性、溶解された材料との反応性、以前にその構造に形成された構造との不適合、微量の溶媒の有機電子デバイスにおける望ましくない影響のゆえにプロセスに困難性をもたらす。そのようなドープされた溶液は、反応性の化学種の溶媒との望まれない副反応のゆえに、貯蔵寿命も短い可能性がある。
【0008】
従来技術の欠点を克服する、ドープされた有機半導体材料の製造方法を提供することは本発明の1つの目的である。特に、その製造方法は、基板上に堆積される、ドーパントと有機材料との均質な層を提供するために、簡単で費用効率が高い方法で実現可能である。
【0009】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法によって達成される。請求項14の構成は本発明の方法に用いることができ、これもまた本発明に含まれる。より好ましい実施形態は従属クレームに開示される。
【0010】
驚くべきことに、有機半導体材料のドーピングを、溶液から簡単に行いうることが見出された。ここでは、ドープされる有機材料をも含む溶液中の特定種類のドーパント前駆体が用いられる。当該溶液を基板上に、好ましくはフィルムの形状に塗布した後に、ドーパント前駆体は活性化されて、実質的なドーパントに分解させる。この活性化は、その目的に適し、当業者に自明の多くのエネルギー形態のうちのいずれによっても達成することができる。
【0011】
本発明においては、用語「ダイマー」とは、モノラジカル又はジラジカルが2つ相互に反応して生成する化合物を含む趣旨である。
【0012】
用語「オリゴマー」は、多くのジラジカルからなる化合物を含む趣旨である。ここで、ジラジカルの第1のラジカル末端が、他のジラジカルの第1のラジカル末端と反応し、これにより生成したより大きなジラジカルの第2のラジカル末端が第2のさらなるジラジカルと反応する。
【0013】
用語「ポリマー」は、オリゴマーと比べて、より多くのジラジカルから形成される化合物を含む趣旨である。
【0014】
本発明において、用語「ジスピロ化合物」とは、1つのジラジカルの分子内付加生成物であって、当該ジラジカルの2つのラジカル中心は、ラジカルを持つ2つの炭素原子(すなわち、相互に付加する2つの炭素原子)を結びつける構造要素によって隔てられている。
【0015】
用語「多環」とは、1つのジラジカルの分子内付加生成物であって、当該ジラジカルの2つのラジカル中心は、ラジカルを持つ2つの炭素原子以外に少なくとも1つの他の炭素原子(例えば、少なくとも1つのα位に位置する原子)を結びつける構造要素によって隔てられている。
【0016】
本発明の方法では、溶液の調製、溶液の基板上への塗布、及び、溶媒の除去は、ドーパント前駆体をドーパントに変換するために必要な活性化エネルギーを部分的又は完全に排除して行われる。これは、ドーパント前駆体の早過ぎる分解を防ぐためである。必要に応じて、ドーパント前駆体の活性化の前に、当業者に公知のさらなる工程が行われてもよい。
【0017】
ドーパント前駆体のドーパントへの変換後、ドーパントとマトリックスとの間で電荷移動が起こる。n−型ドーピングの場合は、ドーパントは少なくとも1つの電子をマトリックスに与える。その結果、マトリックスは負に帯電される。同様に、ドーパントは、1価(又は多価)の正電気を帯びる。p−型ドーピングの場合は、ドーパントはマトリックスから電子を受け取る。その結果マトリックスは正に帯電する。同様にドーパントは、1価(又は多価)の負電気を帯びる。
【0018】
以下に、n−型ドーピングの場合を例に挙げてドーピングについて詳細に説明する。p−型ドーピングのメカニズムも同様である。
【0019】
ドーパント前駆体を活性化すると、結合の不可逆的な分解が起こり、ドープされる有機材料と反応する、酸化還元活性を有する化学種が生成する。このようにして当該有機材料がドープされる。有機材料のドーピングは、酸化還元の化学に基づくものであり、酸/塩基の化学に基づくものではないことが理解されなければならない。酸/塩基の化学を避けるためには、分解の際に、水素又は(ルイス)酸が生成しないことが特に好ましい。プロトン又は酸は、有機材料中において、p−ドーピングの効果をもたらす可能性があることが知られている。したがって、水素又は酸の発生は、n−ドーピングの効果の好ましくない相殺の原因となりうる。不可逆的な結合の分解は、ドーパント前駆体又はマトリックスの励起とそれに続くドーパント前駆体からマトリックスへの電荷移動によるものであると考えられる。ドーパント前駆体は、このようにして酸化される。ドーパント前駆体は、酸化状態で結合が不可逆的に分解すると考えられる。ドーパントのラジカル及び/又はドーパントカチオンが形成される。結合の分解の不可逆的な性質が、電子の逆移動を防止し、ドープ状態を安定化する。
【0020】
p−型ドーピングのためのドーパント前駆体が用いられる場合は、分解にあたり(ルイス)塩基が生成しないことが特に好ましい。塩基が、有機材料中でn−型ドーピングの効果をもたらす可能性があることが知られている。これにより、所望のp−型ドーピング効果の好ましくない相殺の原因となりうる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、n−型ドーピングのためのドーパント前駆体は、ドナー様の部分のみからなる。かかる部分は、ドーパント前駆体の分解の間に放出される。特に好ましい実施形態では、ドナー様の部分は同質である。p−型ドーピングでは、ドーパント前駆体は、もっぱらアクセプター様の部分からなる。かかる部分は、活性化により放出される。
【0022】
前記溶液の溶媒は極性が低いものであることがより好ましい。かかる溶媒としては、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン又は塩化メチレンから選択することができる。溶媒の低い極性が、溶液中におけるドーパント前駆体及びマトリックスの未反応状態を安定化する。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、前記溶液は暗所で貯蔵され、及び/又は、貯蔵の間及び層に加工する間に冷却される。
【0024】
本発明では、分解に適したエネルギーが供給されない限り、溶液中に塩が形成されないため、溶液からの加工が可能となる。この方法を用いれば、調製された溶液から、例えば、標準的なコーティング技術又は印刷技術により、層を形成することが可能である。
【0025】
例えばOLEDにおいて、ドープされた有機材料に要求される要件の1つは、発光領域内で生成する励起子が、可視光を発光するために十分高いエネルギーを有することである。スペクトルの400−475nmの波長を有するブルーの範囲の発光に、最も高いエネルギーが必要とされる。OLEDデバイスの追加的な注入障壁を避けるために、ホール輸送層及びエレクトロン輸送層のエネルギーレベルを注意深く選択することが望まれる。これにより、かかるエネルギーレベルを発光領域と適合させることができる。
【0026】
この観点において、材料の還元電位は、電位差の値 vs.Fc/Fcとして規定される。Fc/Fcは、フェロセン/フェロセニウム 標準ペアを意味する。還元電位は、例えば、例えばアセトニトリル又はテトラヒドロフランのような適切な溶媒中で、シクロボルタメトリーにより測定することができる。シクロボルタメトリー及び還元電位及びフェロセン/フェロセニウム 標準ペアの様々な標準電極に対する関係を決定する他の方法の詳細は、A.J.Bard et al,.”Electrochemical Methods:Fundamentals and Applications”,Wiley,2.Edition,2000に記載されている。
【0027】
ドナードーパント分子の酸化強度の他の測定法としては、紫外線光電子分光法(UPS)を用いることができる。この方法によって、イオン化ポテンシャルが決定される。実験が気相で行われるか固相で行われるかは、すなわち、材料の薄膜の検討により、区別されなければならない。後者の場合は、光電子の除去後に固体中に残るホールの分極エネルギーのような固体効果が、気相の値と比較して、イオン化ポテンシャルにおけるずれを起こす。分極エネルギーの値は通常約1eVである(E.V. Tsiper et al., Phys. Rev. B 195124/1-12 (2001))。
【0028】
OLEDの典型的な電子輸送材料に対して、還元電位は約−2.3V vs.Fc/Fcである。太陽電池の典型的な電子輸送材料に対して、還元電位は約−1V vs.Fc/Fcである。OLEDの典型的なホール輸送材料に対して、酸化電位は約0.2V vs.Fc/Fcである。
【0029】
n−型ドーパントの酸化電位は約−1V vs.Fc/Fc以下であることが好ましく、−2.0V vs.Fc/Fc以下であることがより好ましく、約−2.2V vs.Fc/Fc以下であることがさらに好ましい。
【0030】
p−型ドーパントの還元電位は0V vs.Fc/Fc以上である。
【0031】
本発明においては、マトリックスとドーパント前駆体とは、溶液中で自発的に反応しないで、適切に活性化された後にのみ反応することが好ましい。ドーパント前駆体及びマトリックスからの自発的な電子移動は、前者のVOX_DPの酸化電位と、後者のVRED_Matの還元電位とが近い時に起こる可能性があると考えられる。一例として、10c,10c´−ビ(8,9−ジメチル−2,3,5,6−テトラヒドロ−1H,4H−3a,6a,10b−トリアザ−フルオランテニル)(ダイマー)は、自発的にナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)と、室温で、光がない場合でさえ反応する。10c,10c´−ビ(8,9−ジメチル−2,3,5,6−テトラヒドロ−1H,4H−3a,6a,10b−トリアザ−フルオランテニル)の酸化電位は、−0.74V vs.Fc/Fc(テトラヒドロフラン中)であり、NTCDAの還元電位は約−0.79V vs.Fc/Fc(ジクロロメタン中)である。したがって、VOX_DP−VRED_Matは、少なくとも、0.05Vより大きく、好ましくは0.2Vより大きく、さらに好ましくは1Vより大きい。差がより大きければ、熱的な電子移動の速度を、そのプロセスに対するエネルギー障壁を上昇させることによって減少させる。溶液は、室温でより容易に取り扱うことができるようになり、光の照射のみで活性化される。活性化が、高エネルギーの(例えば青い)光によってのみ可能で、低エネルギー(例えば黄色の)光ではできないような、エネルギーレベルを選択することは有益である。これにより、黄色灯の条件下にある典型的な製造施設における取扱いが容易となる。そのプロセスは、オペレーターによって視覚的に監視可能であり、しかし、早すぎる活性化は防止される。
【0032】
さらに、ドーパント前駆体は、分解の過程で、特定の最小の大きさの成分のみを放出することが有利である。この場合、層内又は隣接する層へのドーパントの拡散が、抑制又は防止される。したがって、ドーパントは、少なくとも2、より好ましくは3以上の環からなることが好ましい。これらの環は、相互に結合又は融合されていてもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。これらは、ヘテロ原子を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。さらに、ドーパントは、少なくとも15の原子からなることが好ましく、少なくとも35の原子からなることがより好ましい。ドーパントのモル質量は、100g/molより大きいことが好ましく、200g/molより大きいことがより好ましい。ドーパント前駆体には、したがって、少なくとも、これらの重さ又は大きさの2倍の重さ又は大きさが適用される。
【0033】
本発明にかかるドープされた層を形成するために好適なマトリックス材料は、典型金属元素のキノリナト錯体、フタロシアニン錯体、ポルフィリン錯体、フェナントロリン、オキサジアゾール、複素環式芳香族化合物特にN含有複素環式芳香族化合物およびこれらの混合物のような、小さい分子の電子輸送材料でありうる。特に、好適には、以下に示す共役したポリマー又はオリゴマーである。ここで、x及びyは0以上5以下であり、その数のいずれか一方は0ではない。
【0034】
【化1】

さらに、適切なマトリックス材料は、以下に示す側鎖型ポリマーである。
【0035】
【化2】

特に有用なマトリックス材料は、[6,6]−フェニルC−61酪酸メチルエステル(PCBM)である。これは、有機太陽電池において電子輸送材としてよく用いられる。
【0036】
特に好ましいドーパントは以下に示される。
【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

本発明の更なる特徴及び利点は、以下の実施例に基づいて説明されるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
溶液からフィルムを製造するためには、他に特に定めがなければ、スピンオン法(基板は室温、3000回転/分)を用いた。前記溶液の操作はすべてグローブボックスを用いて行った。フィルムの製造及び取扱いはグローブボックス内で行った。いくつかの実験では、前記フィルムは高真空槽内に移送された。フィルムは、長さ14mmのパラレル型ITOコンタクト及び1.25mmのセパレーションが設けられたガラス基板上に堆積された。電流測定は10Vの電圧をパラレル型ITOコンタクトに印加することによって行った。サンプルの電流、電圧、及び、形状から、導電性を算出した。
【0040】
〔例1a(比較例)〕
105mgのポリ[9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル]−コ−1,4−ベンゾ−{2,1´−3}チアジアゾール)(YE)の溶液をトルエン7mlに溶解した。
【0041】
【化5】

前記溶液からYEの薄いフィルムを製造した。当該フィルムは電流が観察されなかった(<10−11A)。層の厚みは、光学的方法により、50nmと測定された。
【0042】
第2の段階として、前記フィルムを、高真空下に導入した。5nmのテトラキス(1,2,3,3a,4,5,6,6a,7,8−デカヒドロ−1,9,9b−トリアザフェナレニル)ジタングステン(II)(Ndop)を、前記フィルム上に蒸着した。堆積後、電流は、2桁上昇して10−9となった。これは、Ndopは、YE中で導電性を誘起するためには、原理上は十分なドーパント強度を有することを示している。
【0043】
〔例1b(比較例)〕
105mgのポリ[9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル]−コ−1,4−ベンゾ−{2,1´−3}チアジアゾール)(YE)の溶液をトルエン7mlに溶解した。YEとNdopとの混合物を調製するために、前記溶液2mlに、3mgのNdopを添加した。
【0044】
前記混合物から、スピンオン法により、薄いフィルムを形成した。電流は検出限界の10−11Aより小さいことが観察された。実施例1a(比較)を考慮すると、たとえNdopのドーピング強度が十分であったとしても、溶液プロセスによってはNdopでYEをドープすることはできないと結論付けることができる。
【0045】
前記溶液の数滴を他の基板上で乾燥させた。得られたフィルムは不均質であることが見出された。該フィルムは、190pAという微小な電流を示した。
【0046】
以上のことから、前記比較例は、マトリックス及びドナーの部分を含む溶液の加工における困難さを示している。
【0047】
〔例2(実施例)〕
10mgのポリ[9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル]−コ−1,4−ベンゾ−{2,1´−3}チアジアゾール)(YE)の溶液をトルエン1mlに溶解した。10c,10c´−ビ(8,9−ジメチル−2,3,5,6−テトラヒドロ−1H,4H−3a,6a,10b−トリアザ−フルオランテニル)(ダイマー)溶液を、10mgのダイマーを、1mlのトルエンに溶解することにより調製した。1mlのYE−溶液と100μlのダイマー−溶液とを混合することにより、YE:ダイマーの混合溶液を調製した。
【0048】
スピンオン法により、混合溶液から薄いフィルムをキャストした。180pAの電流が測定された。層の厚みは、光学的方法により、50nmと測定された。層の対応する導電性は約3×10−7S/cmであった。
【0049】
前記混合溶液の1滴を他の基板上で乾燥させた。得られたフィルムは均質であることが見出された。最初、当該フィルムは、黄色透明であった。周辺光への1週間の暴露後、フィルムは濃褐色を呈した。これは、化学反応が起こっていることを示すものである。暴露後、フィルムは180nAの電流を示した。
【0050】
〔例3(実施例)〕
105mgのポリ[9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル]−コ−1,4−ベンゾ−{2,1´−3}チアジアゾール)(YE)の溶液をトルエン7mlに溶解した。10c,10c´−ビ(8,9−ジメチル−2,3,5,6−テトラヒドロ−1H,4H−3a,6a,10b−トリアザ−フルオランテニル)(ダイマー)溶液を、15mgのダイマーを、1mlのトルエンに溶解することにより調製した。1mlのYE−溶液と100μlのダイマー−溶液とを混合することにより、YE:ダイマーの混合溶液を調製した。スピンオン法により、混合溶液からフィルムを製造した。すべての工程は、制限的な光条件の下で行われた。
【0051】
制限的な光条件の特性は、青色光及び緑色光が、製造及び操作の間、前記溶液及びサンプルに到達することが妨げられていることである。これは、操作を行う領域を、RAL1028の色を有するオレンジ色の透明フォイルで覆うことによって実現することができる。前記サンプルは真空槽に導入された。青色光及び緑色光の不存在下では、サンプルの導電性は検出されなかった。最後に白色光をサンプルに照射した。2.1nAの電流が検出された。これは、4×10−6S/cmの導電性に相当する(測定された層の厚みは50nmである)。この実施例は、本発明のドーパントを用いることにより、イオン溶液の薄いフィルムへの加工における困難さを克服することができることを示している。YEの還元電位は、DCM中で−1.92V vs.Fc/Fcである。従って、ダイマーの酸化電位と、YEの還元電位との差は、1eVよりも大きい。これは、十分なエネルギーを有する光の不存在下で、ドーパント前駆体の活性化が起こらないことを裏付けるものである。
【0052】
〔例4(実施例)〕
例3と同様の条件でフィルムを製造した。製造後のフィルムを、光の不存在下、10分間周囲空気に暴露した。その後、サンプルを真空槽に導入し、白色光に暴露した。暴露後1.4nAの電流が測定された。
【0053】
本実施例は、光の不存在下で、フィルムは、酸素及び/又は湿気にさえも曝されるが、光に暴露した結果として得られる導電性に負の効果を及ぼすことはないことを示す。従来のn−ドープされたフィルムの導電性は、イオン種の酸素に対する高い反応性のためにすばやく失われることはよく知られている。これは、例えば、n−ドープされた電子輸送層含むOLEDを、空気中で溶液プロセスにより製造することを可能とする。これは、大きな基板上への印刷の間に不活性雰囲気を供給することが問題となる場合に製造を容易にする。かかるプロセスは、周囲空気中で、好ましくは光の不存在下で、電子輸送層を印刷することを含んでいてもよい。後の工程では、有機層は、微量の酸素及び水を有機層から除去するために、真空中に導入してもよい。その後ドーパント前駆体の活性化が行われる。
【0054】
前記説明及びクレームに開示される特徴は、単独で及び任意の組み合わせで、それらの多様な形態において、発明を実現するための材料となりうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1のドーパント前駆体、少なくとも1のドープされる有機材料、及び、溶媒を含む、溶液又は懸濁液を調製する工程と、
(ii)前記溶液又は懸濁液を、基板上に塗布し、溶媒を除去する工程と、
(iii)活性化エネルギーを加えることにより、ドーパント前駆体をドーパントに変換する工程と、を含み、
前記ドーパント前駆体は、前記ドーパントのダイマー、前記ドーパントのオリゴマー、前記ドーパントのジスピロ化合物、又は、前記ドーパントの多環式化合物であり、活性化エネルギーを加えることにより前記ドーパントに分解する、
ドープされた有機半導体材料の製造方法。
【請求項2】
前記ドーパントは、以下の構造を有するものからなる群より選択される、請求項1に記載の、ドープされた有機半導体材料の製造方法:
【化1】

【化2】

構造3は、1又は1より多い環状の結合A、及び/又は、A、及び/又は、Aを含み、A、A及びAは炭素環式、複素環式、及び/又は、多環式の環構造であって、置換されていてもよいし、置換されていなくてもよく;
構造5において、A及びAは、一方のみ存在していてもよいし、両方存在していてもよく、前記と同様に定義され、T=CR22、CR2223、N、NR21、O又はSであり;
構造7は、1又は1より多い架橋結合Z、及び/又は、Z、及び/又は、Zを含み、Z、Z及びZは独立してアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シリリル、アルキルシリリル、ジアゾ、ジスルフィド、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクリル、ピペラジニル、ジアルキルエーテル、ポリエーテル、第一アルキルアミン、アリールアミン及びポリアミン、アリール及びヘテロアリールから選択され;
構造8a−8cにおいて、複素環毎のリングサイズは5〜7原子の範囲であり;
X、Y=O、S、N、NR21、P又はPR22であり;
0−18、R21、R22及びR23は、独立して、置換された又はされない、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、ジアリールアミン、ジヘテロアリールアミン、ジアルキルアミン、ヘテロアリールアルキルアミン、アリールアルキルアミン、H、F、シクロアルキル、ハロゲンシクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキル、アルケニル、アルキニル、トリアルキルシリル、トリアリールシリル、ハロゲン、スチリル、アルコキシ、アリーロキシ、チオアルコキシ、チオアリーロキシ、シリリル、及び、トリアルキルシリルアルキニルから選択され、又は、R0−18、R21、R22及びR23は、単独又は組み合わせて、環構造、(ヘテロ)脂肪族化合物、又は、(ヘテロ)芳香族化合物の部分である。
【請求項3】
工程(iii)の活性化は、光エネルギー、マイクロ波、超音波、熱エネルギー、及び/又は、電気エネルギーによることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ドープされる有機材料及びドーパント前駆体は、帯電していない状態で用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(ii)では、フィルムが基板上に形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記フィルムは、スピンコーティング、ディップコーティング、又は、インクジェット式印刷を含む印刷技術により形成されることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程(iii)では、ドーパント前駆体は不可逆的に分解することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ドーパント前駆体は、エネルギーを加えることにより分解するドナー様の部分のみからなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ドーパント前駆体は、これから生成するn−ドーパントが、−1.5V vs.Fe/Fe以下、より好ましくは−2.0V vs.Fe/Fe以下、さらに好ましくは−2.2V vs.Fe/Fe以下の酸化電位を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒は、テトラクロロメタン、ベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、及び、テトラヒドロフランから選択されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ドープされる有機材料は、典型金属元素のキノリナト錯体、フタロシアニン錯体、ポルフィリン錯体、フェナントロリン、オキサジアゾール、複素環式芳香族化合物特にN含有複素環式芳香族化合物、及び、これらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ドープされる有機材料は、共役したポリマー、コポリマー、又は、オリゴマー、或いは、電荷移動機能を有する側鎖型ポリマーであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記基板は、フレキシブル基板、ガラス基板、金属基板、ポリマーフィルム、及び、無機半導体から選択されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(i)及び(ii)を、ドーパント前駆体のドーパントへの変換に必要な活性化エネルギーの排除下で行うことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
少なくとも1のドーパント前駆体、少なくとも1のドープされる有機材料、及び、溶媒を含む配合物であって、
前記ドーパント前駆体は、前記ドーパントのダイマー、前記ドーパントのオリゴマー、前記ドーパントのジスピロ化合物、又は、前記ドーパントの多環式化合物であり、活性化エネルギーを加えることにより前記ドーパントに分解する、配合物。

【公表番号】特表2009−530836(P2009−530836A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500772(P2009−500772)
【出願日】平成19年3月21日(2007.3.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/002510
【国際公開番号】WO2007/107356
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(503180100)ノヴァレッド・アクチエンゲゼルシャフト (47)
【Fターム(参考)】