説明

ナイフエッジ先端部の半径測定方法

【課題】普及している測定機を使用して、簡単な方法で、ナイフエッジ先端部の半径を正確に測定できる測定方法。
【解決手段】輪郭形状測定機を使用して、ナイフエッジ20の先端部を、先端に球体31を有する第1触針33で測定し、最小二乗円の半径を第1測定値Rkaとして算出し、ナイフエッジの先端部を、先端に球体32を有する第2触針34で測定し、最小二乗円の半径を第2測定値Rkbとして算出し、第1触針33と第2触針34の一方の先端部を、第1触針と第2触針の他方で測定し、最小二乗円の半径を第3測定値Rabとして算出し、(Rka+Rkb-Rab)/2を算出し、ナイフエッジの先端部の半径とするナイフエッジ先端部の半径測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイフエッジ先端部の半径測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面粗さ測定機、触針式輪郭形状測定機、座標測定機などに使用される触針(スタイラス)は、先端部が所定の形状の球体の一部をなすことが要求され、そのことを保証することが求められる。以下、表面粗さ測定機の触針を例として説明を行う。
【0003】
表面粗さ測定機の触針は、先端部が半径2μm、5μmまたは10μmの球体の一部をなすことが要求され、そのことを測定した校正結果を提供することが要求されている。
【0004】
図1は、表面粗さ測定機の触針の先端部の形状例を示す図であり、(A)は側面図を、(B)は形状の規定を示す。
【0005】
図1に示す表面粗さ測定機の触針は60°の円錐であり、先端部は、120°の範囲について半径2μmの球体である。
【0006】
表面粗さ測定機の触針の先端形状は、測定結果に影響するため、所定の形状であることを保証することが求められる。これまでは、電子顕微鏡を使用して触針の先端形状を画像化し、拡大した画像から形状を求めていた。しかし、電子顕微鏡は非常に高価であり、常時使用可能なように保有するのは難しかった。さらに、この方法は、触針の先端形状の画像から形状を求めるもので、直接形状を測定するものではなく、測定のトレーサビリティを確保することが困難という問題があった。
【0007】
別の方法として、先端の半径が非常に小さいナイフエッジを、触針でトレース(輪郭をなぞる)して、その測定結果から、触針の先端形状を測定することが行われる。
この方法はJIS B 0659−1およびISO 5436−1に標準片の一つ、タイプB3として規定されている。
【0008】
図2は、ナイフエッジの形状例を示す図であり、(A)は斜視図であり、(B)は正面図であり、(C)は側面図である。なお、ナイフエッジは、例えば、ダイヤモンドなどで作られる。
【0009】
触針でナイフエッジのエッジ部21をその稜線に直交する断面上でトレースして、その時のなぞられた軌跡を輪郭曲線として求め、その曲線から触針の先端の半径を求める。
【0010】
しかし、この場合、ナイフエッジの先端形状が正確に校正できていなければ、触針の先端の形状も保証することができない。そこで、原子間力顕微鏡(AFM)を使用してナイフエッジの先端部をトレースして、ナイフエッジの先端部の微細形状を測定し、その測定結果からナイフエッジの先端部の形状を保証することが行われる。しかし、原子間力顕微鏡(AFM)も高価であり、AFMの触針の形状についても正確な校正が困難であるとともに、触針の摩耗の進みが早く、測定につれて触針先端の半径が増加し易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3025413号公報
【特許文献2】特許第3516630号公報
【特許文献3】特開平6−66553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、電子顕微鏡およびAFMは、高価な計測機であり、一般に普及している計測機ではない。そのため、このような計測機を使用して形状を保証することは容易でなく、一般に普及している計測機を活用して、安価で簡単な方法によって正確な校正結果を提供できることが求められている。
【0013】
本発明は、普及している測定機を使用して、簡単な方法で、ナイフエッジ先端部の半径を正確に測定できる測定方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明のナイフエッジ先端部の半径測定方法は、真円度の小さいものが容易に入手可能な球体を先端に取り付けた2個の触針を用意し、輪郭形状測定機を使用して、2個の触針でナイフエッジを測定し、さらに2個の触針の一方で他方を測定し、それらの測定結果からナイフエッジの半径を算出する。
【0015】
すなわち、本発明のナイフエッジ先端部の半径測定方法は、輪郭形状測定機を使用して、ナイフエッジの先端部の稜線に直交する断面を、先端に球体を有する第1触針で測定し、測定値から最小二乗円の半径を第1測定値として算出し、前記輪郭形状測定機を使用して、前記ナイフエッジの先端部の稜線に直交する前記断面を、先端に球体を有する第2触針で測定し、測定値から最小二乗円の半径を第2測定値として算出し、前記輪郭形状測定機を使用して、前記第1触針と前記第2触針の一方の先端部の頂点を含む断面を、前記第1触針と前記第2触針の他方で測定し、測定値から最小二乗円の半径を第3測定値として算出し、前記第1測定値と前記第2測定値の和から前記第3測定値を減算した値の1/2を算出し、前記ナイフエッジの先端部の半径とすることを特徴とする。
【0016】
球体は、各種用途に広く使用されており、真円度の小さいものが容易に入手可能である。また、球体の真円度は、真円度測定機により正確に測定することが可能である。このような球体を触針の先端に取り付けたものは、容易に用意することが可能である。球体は、例えば、接着により触針の先端に取り付けることができる。輪郭形状測定機を使用して、このような方法で用意した2つの触針で、ナイフエッジの先端部をトレースして得られた測定値から、それぞれ最小二乗円の半径を算出できる。さらに、輪郭形状測定機を使用して、第1触針と第2触針の一方の先端部を、第1触針と第2触針の他方でトレースして得られた測定値から、最小二乗円の半径を算出できる。この場合、輪郭形状測定機の位置調整機能を利用して、第1触針の球体と第2触針の球体の中心をできるだけ測定する断面上に一致させることが重要である。以上のようにして算出した3つの最小二乗円の半径から、簡単な式でナイフエッジの先端部の半径を算出できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ナイフエッジの先端部の半径の測定に於いて、原子間力顕微鏡(AFM)などの高価な計測機を使用せずとも、容易に入手可能な真円度の小さい球体と、広く普及している輪郭形状測定機とを使用して測定でき、触針の先端に取り付けられた球体の径の校正値に含まれる不確かさを排除したナイフエッジの先端部の半径の測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、表面粗さ測定機の触針の先端部の形状例を示す図であり、(A)は側面図を、(B)は形状の規定を示す。
【図2】図2は、ナイフエッジの形状例を示す図であり、(A)は斜視図であり、(B)は正面図であり、(C)は側面図である。
【図3】図3は、実施形態で使用する2個の球体と、それを先端部に取り付けた触針を示す図であり、(A)は第1の球体を、(B)は第2の球体を、(C)は第1触針に球体を取り付けた状態を示す。
【図4】図4は、実施形態のナイフエッジ測定方法における処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実施形態のナイフエッジ測定方法における処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図3は、実施形態で使用する2個の球体と、それを先端部に取り付けた触針を示す図であり、(A)は第1の球体31を、(B)は第2の球体32を、(C)は第1触針33に球体31を取り付けた状態を示す。
【0020】
第1の球体31および第2の球体32は、できるだけ小さな半径のものであることが望ましい。
【0021】
図3の(C)に示すように、球体31は、第1触針33に接着剤35で接着または蝋付けなどの方法で固定されて取り付けられる。また、球体32も、同様に第2触針34に接着剤で接着または蝋付けなどの方法で固定されて取り付けられる。第1および第2触針は、輪郭形状測定機で使用可能な形状であるように製作される。
【0022】
図4は、実施形態のナイフエッジ測定方法における処理手順を示すフローチャートである。また、図5は、実施形態のナイフエッジ測定方法における処理を説明する図である。
【0023】
以下の測定は、輪郭形状測定機を利用して行う。輪郭形状測定機は、形状解析データ処理ソフトウェアがインストールされている。これにより測定軌跡の概円弧状に並ぶ測定点列に最小二乗円をあてはめ、その半径値または直径値を求める。
【0024】
ステップS1では、図5の(A)に示すように、輪郭形状測定機の触針として第1触針33を取り付け、ナイフエッジ20をワーク台に配置し、ナイフエッジ20を、第1触針33で測定(トレース)して最小二乗円の半径Rkaを算出する。ナイフエッジ20のエッジ部の半径がRk、触針の先端部に取り付けられた球体の半径がRaであるとすると、Rka=Rk+Raとなる。なお、図5の(A)および(B)では、図示の都合で、Rkがある程度の大きさである場合を示したが、実際のナイフエッジのRkは非常に小さい。
【0025】
ステップS2では、図5の(B)に示すように、輪郭形状測定機の触針として第2触針34を取り付け、ナイフエッジ20をワーク台に配置し、ナイフエッジ20を、第2触針34で測定(トレース)して最小二乗円の半径Rkbを算出する。この場合、Rkb=Rk+Rbとなる。
【0026】
ステップS3では、図5の(C)に示すように、輪郭形状測定機の触針として第2触針34を取り付け、第1触針33をワーク台に配置し、第2触針34で第1触針33を測定(トレース)して最小二乗円の半径Rabを算出する。この際、トレース時に、第2触針34の先端の球体32の頂点が、第1触針33の先端の球体31の頂点を通過するように、輪郭形状測定機の位置調整機構を利用して、第1触針33と第2触針34の相対位置を調整する。必要に応じて、位置を少しずつシフトしながら、複数回のトレースを行い、最小二乗円の半径が最大になる測定結果を採用するようにしてもよい。この場合、Rab=Ra+Rbとなる。なお、ステップS3で、第1触針33で第2触針34を測定するようにしてもよく、その場合でも、最小二乗円の半径Rab=Ra+Rbとなる。
【0027】
ステップS4では、ナイフエッジの半径Rkを、Rk=(Rka+Rkb−Rab)/2の式にしたがって算出する。この式は、Rka+Rkb−Rab=(Rk+Ra)+(Rk+Rb)−(Ra+Rb)=2Rkから容易に求まる。
【0028】
以上説明したように、実施形態によれば、普及している測定機を使用して、簡単な方法で、ナイフエッジ先端部の半径を正確に測定できる。ナイフエッジはJIS B 0659−1およびISO 5436−1に標準片の一つ、タイプB3として規定されており、触針(スタイラス)の先端の半径を校正する場合に広く使用されている。したがって、表面粗さ測定機を例として説明したが、それに限らず、本発明は、触針式輪郭形状測定機、座標測定機などのスタイラスに対しても、ナイフエッジを基準として校正結果を得る場合に、効果がある。
【0029】
以上、本発明の実施例を説明したが、各所の変形例が可能であるのはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、ナイフエッジ先端部の半径を正確に測定する場合であれば、どのような場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 表面粗さ測定機の触針(スタイラス)
20 ナイフエッジ
31 第1の球体
32 第2の球体
33 第1触針
34 第2触針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触針式表面粗さ測定機を含む触針式の輪郭形状測定機を使用して、ナイフエッジの先端部の稜線に直交する断面を、先端に球体を有する第1触針でトレースすることで測定し、その概円弧状に並ぶ測定点列に対して最小二乗円のあてはめによってその半径を第1測定値として算出し、
前記輪郭形状測定機を使用して、前記ナイフエッジの先端部の稜線に直交する前記断面を、先端に球体を有する第2触針でトレースすることで測定し、その概円弧状に並ぶ測定点列に対して最小二乗円のあてはめによってその半径を第2測定値として算出し、
前記輪郭形状測定機を使用して、前記第1触針と前記第2触針の一方の先端部の頂点を含む断面を、前記第1触針と前記第2触針の他方でトレースすることで測定し、その概円弧状に並ぶ測定点列に対して最小二乗円のあてはめによってその半径を第3測定値として算出し、
前記第1測定値と前記第2測定値の和から前記第3測定値を減算した値の1/2を算出し、前記ナイフエッジの先端部の半径とすることを特徴とするナイフエッジ先端部の半径測定方法。
【請求項2】
前記請求項1の方法に於いて、それぞれの最小二乗円の直径値を第1測定値、第2測定値及び第3測定値として、第1測定値と第2測定値の和から第3測定値を減算した値の1/4を算出し、前記ナイフエッジの先端部の半径とすることを特徴とするナイフエッジ先端部の半径測定方法。
【請求項3】
前記第1触針および前記第2触針の先端部に取り付けられる球体の中心の測定軌跡がなす概円弧状に並ぶ測定点列に対して最小二乗円のあてはめを適用することを特長とする請求項1記載、または請求項2記載のナイフエッジ先端部の半径測定方法。
【請求項4】
前記第1触針および前記第2触針は、球体を、先端部に取り付けたものである請求項1記載のナイフエッジ先端部の半径測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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