説明

ナチュラルキラー細胞に対する物質の賦活化活性の評価方法

【課題】本発明は、簡便かつ大規模に実施することができるNK細胞を賦活化する成分のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、被験物質のナチュラルキラー細胞に対する賦活化活性を評価する方法であって、株化されたナチュラルキラー細胞に被験物質を与える賦活化工程と、賦活化工程の後に前記ナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する評価工程とを含むことを特徴とする前記方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性を有すると期待される候補物質のナチュラルキラー細胞に対する賦活化活性を簡便に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、生体内で腫瘍細胞やウイルス感染細胞の排除を担う。したがって、NK細胞を賦活化する(すなわちNK細胞が有する細胞傷害活性を高める)成分のスクリーニングを簡便に、かつ大規模に行うことが可能であれば、新たな機能性食品素材の探索に極めて有用である。
【0003】
従来は、候補物質のNK細胞賦活化活性を評価するためには、健常人から採血して得たヒト抹消血単核球(PBMC)かマウス脾臓細胞に候補物質を作用させることが一般的であった。これらの細胞は大量に調製することが困難な細胞であるため、大規模なスクリーニングを行うことは従来困難であった。また、PBMCには複数の細胞が混在するので、純粋にNK細胞に対する候補物質の作用のみを測定することはできなかった。
【特許文献1】特開2007−297291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、NK細胞を賦活化する成分のスクリーニングを簡便かつ大規模に実施することを可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは驚くべきことにPBMCに代えてヒトNK細胞株を用いた場合にもNK細胞に対する賦活化が測定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明を包含する。
(1)被験物質のナチュラルキラー細胞に対する賦活化活性を評価する方法であって、
株化されたナチュラルキラー細胞に被験物質を与える賦活化工程と、
賦活化工程の後に前記ナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する評価工程と
を含むことを特徴とする前記方法。
(2)前記株化されたナチュラルキラー細胞がヒト由来である、(1)記載の方法。
(3)前記ヒト由来の細胞がKHYG-1細胞、NK-92細胞、YT細胞、NKL細胞、SNT-8細胞、HANK-1細胞、及びNK-YS細胞のいずれかである、(2)記載の方法。
(4)前記評価工程が、前記賦活化工程後のナチュラルキラー細胞と標的細胞とを培地中に加えて該ナチュラルキラー細胞を該標的細胞に作用させ、次いで該培地中のL-乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)量を測定し、測定されたLDH量に基づいてナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する工程である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記評価工程が、前記賦活化工程後のナチュラルキラー細胞とクロミウムで標識した標的細胞とを培地中に加えて該ナチュラルキラー細胞を該標的細胞に作用させ、次いで該培地中に放出されたクロミウムの放射活性をガンマーカウンターで測定し、測定された放射活性量に基づいてナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する工程である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(6)前記評価工程が、前記賦活化工程後のナチュラルキラー細胞中のγ型インターフェロン(INF-γ)又はCD69の遺伝子発現量を測定し、測定された遺伝子発現量に基づいてナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する工程である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(7)前記評価工程が、前記賦活化工程後のナチュラルキラー細胞中のINF-γのタンパク質発現量を測定し、測定されたタンパク質発現量に基づいてナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する工程である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
株化NK細胞は容易に大量に増殖させることが可能であることから、本発明の方法によればNK細胞賦活物質を大規模にスクリーニングすることが可能である。本発明の方法によれば純粋にNK細胞に対する作用のみに基づいてNK細胞賦活物質をスクリーニングできるため、精度の高いスクリーニングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
1.ナチュラルキラー細胞
本発明に用いるNK細胞は、株化されたNK細胞、すなわち培養内で無限増殖性を獲得した安定したNK細胞の系統である。NK細胞は哺乳動物、特にヒトに由来するものであることが好ましい。
【0008】
具体的なNK細胞株としてはKHYG-1細胞、NK-92細胞、YT細胞、NKL細胞、SNT-8細胞、HANK-1細胞、及びNK-YS細胞が挙げられる。
【0009】
KHYG-1細胞(JCRB0156)は、p53にポイントミューテーションを有する悪性のNK白血病患者由来細胞株であり、Yagita M.らによって樹立された(Leukemia. 2000;14:922-930)。同細胞はJCRB細胞バンクにて入手可能である。NK-92細胞(CRL-2407)は、非ホジキンリンパ腫患者の末梢血単核細胞由来のIL-2依存性NK細胞株であり、Gong J.H.らによって樹立された(Leukemia. 1994;8:652-658)。同細胞はATCCより入手可能である。YT細胞(ACC434)は、急性リンパ性白血病患者からYodoi J.らによって樹立された(J.Immunol. 1985;134:1623-1630)。同細胞は、DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Culturesにて入手可能である。NKL細胞は、大型顆粒リンパ球白血病患者の末梢血からRobertson M.J.らによって、樹立された(Exp. Hematol. 1996;24:406-415)。SNT-8細胞は、鼻部リンパ腫患者由来のEBウイルス陽性NKT細胞株であり、Nagata H.らにより樹立された(Blood. 2001;97:708-713)。HANK-1細胞は、腹膜後腔のCD56+ NK/T細胞リンパ腫患者からKagami Y.らによって樹立された(Br.J.Haematol. 1998;103:669-677)。NK-YS細胞は、鼻部原発の悪性リンパ腫患者からTsuchiyama J.らによって樹立された(Blood. 1998;92:1374-1383)。
【0010】
本発明に用いるKHYG-1細胞の培養は好ましくは次の条件で行う。KHYG-1細胞を、1〜10%ウシ胎仔血清(FCS)と5〜40 unit/ml recombinant human IL-2 (rIL-2, PeproTech EC Ltd, London, UK)を含むRPMI1640培地で培養を行う。継代培養は60 mm ディッシュに細胞密度1.0×105cells/mlで播種し、48時間後に再び継代培養を行う。
【0011】
2.賦活化工程
本発明において賦活化工程とは、株化NK細胞に被験物質を与え、被験物質を株化NK細胞に一定時間作用させる工程である。このとき、株化NK細胞を8.0×104〜3.0×105cells/mlの細胞密度で培地に播種し、被験物質を終濃度として1 nM〜2 mMの濃度で添加し一定時間作用させることが好ましい。作用時間は1〜48時間であることが好ましい。
【0012】
3.評価工程
本発明において評価工程とは、賦活化工程の後に株化NK細胞の細胞傷害活性を直接的または間接的に評価する工程を指す。
【0013】
細胞傷害活性を直接的に評価する方法としては、賦活化工程後の株化NK細胞と標的細胞とを培地中に加えて株化NK細胞を標的細胞に作用させ、次いで標的細胞の損傷により生じる変化を測定する方法が挙げられる。そのような変化としては、標的細胞によるL-乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出や、51Cr放出が挙げられる。LDH量による細胞傷害活性の評価はLDHアッセイとして周知の技術である。51Cr放出法は、標的細胞をあらかじめクロミウム(Na251CrO4)で標識しておき、NK細胞と4時間混合培養し、培養上清中に放出された遊離のクロミウムの放射活性をガンマーカウンターで測定する方法であり、信頼性の高い技術である。
【0014】
使用する標的細胞としてはスクリーニングに広く用いられるK562細胞、HL-60細胞、Daudi細胞等が挙げられるが、これらの細胞に限定されるものではない。スクリーニングの目的に応じて標的細胞を適宜選択することができる。K562細胞(RCB0027)はヒト白血病細胞で、Lozzio CB.らによって樹立された(Blood. 1975;45:321-334)。ヒトナチュラルキラー細胞に感受性であるため、スクリーニングに多用される。同細胞は、RIKEN CELL BANKにて入手可能である。HL-60細胞(CCL-240)は急性前骨髄球性白血病患者からGallagher R.らによって樹立された(Blood. 1979;54:713-733)。同細胞はATCCにて入手可能である。Daudi細胞(RCB1640)は、ヒトバーキットリンパ腫でKlein E.らによって樹立された(Cancer Res. 1968;28:1300-1310)。同細胞はRIKEN CELL BANKにて入手可能である。
【0015】
K562細胞の培養は例えば、次の方法で行うことができる。K562細胞を10% FCSを含むRPMI1640培地で培養を行う。継代培養は60 mm dishに細胞密度1.0×105cells/mlで播種し、48時間後に継代培養を行う。
【0016】
株化NK細胞と標的細胞との比(E:T比)は、3:1〜40:1とすることが好ましい混合培養は、37℃で行うことが好ましい。混合培養時間は、2〜8時間とすることが好ましい。
【0017】
細胞傷害活性を間接的に評価する方法としては、株化NK細胞を標的細胞に作用させる工程を行わず、代わりに、賦活化工程後の株化NK細胞中において細胞傷害活性に依存して増減するタンパク質(γ型インターフェロン(INF-γ)、CD69等)の遺伝子発現量またはタンパク質発現量を測定する方法が挙げられる。本発明者らは驚くべきことに、株化NK細胞中のγ型インターフェロン(INF-γ)及びCD69の遺伝子発現量及びタンパク質発現量が、株化NK細胞による標的細胞に対する細胞傷害活性の強弱に対応して増減することを見出した。株化NK細胞による標的細胞に対する細胞傷害活性が強いほど、該株化NK細胞中のINF-γ及びCD69の遺伝子発現量及びタンパク質発現量が多い傾向がある。遺伝子発現量は例えば適当なプライマーを用いた逆転写PCR (RT-PCR)により測定できる。タンパク質発現量は免疫化学的測定法、例えばELISA法、により測定できる。
【0018】
4.被験物質
本発明における被験物質としてはいかなる物質も使用できる。典型的には機能性食品の有効成分の候補となる物質が挙げられる。
【0019】
5.好適な実施形態
本発明の最も好ましい実施形態としては次のような例が挙げられるが、これらには限定されない。
5.1.LDH assayによるNK活性測定法(51Cr放出法でも可)
KHYG-1細胞を35 mm dishに1.0×106 cells/mlで播種し、被験物質を24〜36間作用させる。KHYG-1細胞を回収してPBSで洗浄し、1%BSA/RPMI1640フェノ−ルレッド不含培地 (SIGMA社) で細胞密度1.0×106 cells/mlに再懸濁する。また、別途、K562細胞を1%BSA/RPMI1640培地で細胞密度1.0×105cells/mlに調製する。次に、96-wellプレートに表1に示す培地及び細胞懸濁液を順に添加する。この条件ではE:T比は10:1である。
【0020】
【表1】

【0021】
細胞を調製した後、96-wellプレートを37℃で5.0%CO2ガスで平衡化したCO2インキュベーター中で4時間保温する。次いで、1,200 rpm×10分間の遠心分離を行い、上清100μlについてLDH assay kit(Roche社)を用いて放出LDH量を測定する。細胞傷害活性を下式によって算出した後、コントールに対する相対活性として被験化合物のNK活性賦活活性を算出する。
細胞傷害活性(%)=100×(Test - Effector control - Low control)/( High control - Low control)
【0022】
5.2.RT-PCRによる方法(リアルタイムPCRでも同様に実施可能)
KHYG-1細胞を60 mm dishに細胞密度1.5×105cells/mlで播種し、被験物質を添加して、24時間後に細胞を回収する。回収した細胞をPBSで2回洗浄し、TRIzoL Reagent (Invitrogen社) を用いて定法通りにRNA抽出を行う。
【0023】
逆転写反応はReverTra Ace- (TOYOBO社) を用い、製品マニュアルに従ってcDNAを合成する。次いで、cDNAをテンプレートとするPCR反応には以下の各プライマー及びTaKaRa ExTaq (TaKaRa社)を製品マニュアルに従って使用する。
【0024】
CD69(NM_001781, product size:451bp)は、
5’-CCTTCCAAGTTCCTGTCC-3’(sense),
5’-CATTCCATGCTGCTGACCTC-3’(anti-sense)。
IFN-γ(NM_000619, product size:393bp)は、
5’-GCATCGTTTTGGGTTCTCTTGGCTGTTACTGC-3’(sense),
5’-CTCCTTTTTCGCTTCCCTGTTTTAGCTGCTGG-3’(anti-sense)。
β-actin(NM_001101, product size:661bp)は、
5’-TGACGGGGTCACCCACACTGTGCCCATCTA-3’(sense),
5’-CTAGAAGCATTGCGGTGGACGATGGAGGG-3’(anti-sense)を使用する。
【0025】
PCR反応産物をアガロース電気泳動に供し、バンド強度を定法により解析する。IFN-γとCD69のバンド強度をβ-actinのバンド強度で除し、各遺伝子の発現量とする。さらに、コントロールに対する相対値を求め、被験化合物のNK活性賦活活性とする。
【0026】
5.3.ELISAによる方法
KHYG-1細胞を60 mm dishに細胞密度1.5×105cells/mlで播種し、被験化合物を添加して、24時間後に100μlの培養上清を回収する。Human IFN-γ ELISA development kit(PEPROTECH社)を用いて培養上清中のIFN-γ量を定量し、コントロールに対する相対値を求め、被験化合物のNK活性賦活活性とする。
【実施例】
【0027】
(1a)実験手順
1a-1 PBMC(peripheral blood mononuclear cell)の分離
密度勾配遠心法を用いて行った。比重液はFicoll-paque plus (Amersham社)もしくはLSM(Organon Teknika社)を用いた。健常者から血液を採取し、血液1mlに対し1.6 mgのエチレンジアミン四酢酸(EDTA: ethylenediaminetetraacetic acid)を加え、リン酸緩衝食塩水(PBS: phosphate-buffered saline)で二倍希釈した。次に、15ml容量の遠心チューブにFicoll-paque plus もしくはLSMを3 mlを加え、先に希釈した血液4 mlを重層し、25分間400×gで遠心分離を行った。分離した4層のうち上部から2番目のリンパ球層とその下の試薬層の半分を別の遠心管チューブに移し、PBSで2回洗浄を行った。次いで、RPMI1640培地で再懸濁し、細胞密度と生存率を計測した。
【0028】
1a-2 細胞の培養方法
KHYG-1細胞(JCRB0156)は、Japanese Collection of Research Bioresources(JCRB)細胞バンクより入手し、10%FCS, 20 U/mlのrecombinant human IL-2を含むRPMI1640培地中で培養した。K562細胞及びPBMCは、10%FCSを含むRPMI1640培地中で培養した。
【0029】
1a-3 細胞傷害活性測定(LDH release assay)
細胞傷害活性をLDH release assayによって測定した。
PBMCを用いる場合は35mmディッシュに1.0×106 cells/mlで播種し、KHYG-1細胞をはじめとする株化細胞を用いる場合は、35mmディッシュに1.5×105 cells/mlで播種し、同時に食品成分等の被験化合物を細胞に添加して1〜36時間作用させた。食品成分等の作用時間終了後にPBMC或いは株化細胞を回収してPBSで洗浄し、食品成分等を含まない1%BSA/RPMI1640フェノ−ルレッド不含培地 (SIGMA社) で細胞密度1.0×106 cells/mlに再懸濁した。また、別途、K562細胞を1%BSA/RPMI1640培地で細胞密度1.0×105 cells/mlに調製した。次に、96-wellプレートに表2に示す培地及び細胞懸濁液を順に添加した(実験は3連で行った)。ET比は、10:1となる。
【0030】
【表2】

【0031】
細胞を調製した後、96-wellプレートを37℃で5.0%CO2ガスで平衡化したCO2インキュベーター中で4時間保温した。次いで、250×gで10分間の遠心分離を行い、上清100μlについてLDH assay kit(Roche社)を用いて放出LDH量を測定した。細胞傷害活性を下式によって算出した後、コントロールに対する相対活性として各処理群の相対細胞傷害活性を算出した。統計解析はt検定を用いた。
細胞傷害活性(%)=100×(Test - Effector control - Low control)/( High control - Low control)
【0032】
1a-4 IFN-γ、CD69の遺伝子発現量測定(RT-PCR)
KHYG-1細胞を60 mm dishに細胞密度1.5×105cells/mlで播種し、被験化合物を添加して、24時間後に細胞を回収した。回収した細胞をPBSで2回洗浄し、TRIzoL Reagent (Invitrogen社) を用いて定法通りにRNA抽出を行った。すなわち、5〜10×106cellsのKHYG-1細胞に対してTRIzoL Reagent 1 ml添加した。数回ピペッテングを行い1.5 ml容量マイクロチューブに移して5分間常温で静置した。次に0.2 mlのクロロホルムを加えて、15秒間ボルテックスミキサーで攪拌を行い、5分間常温で静置した。4℃で12,000×gの遠心分離を15分間行った後、上層部分(RNA層)から0.25 ml回収し、新しい1.5 ml容量マイクロチューブに移した。そして、クロロホルムを0.25 ml加えて再抽出を行った。その後、RNAを沈殿させるために、0.5 ml イソプロピルアルコールを加えて攪拌した。常温で15分間静置した後、4℃で12,000×gの遠心分離を15分間行った。次に、上清を除去し1mlの冷75%エタノールを加えてボルテックスミキサーで攪拌を行い、4℃で7,500×gの遠心分離を5分間行った。上清を除去し、5〜10分間風乾した後、20μlのDEPC(Diethyl Pyrocarbonate)処理水でRNAペレットを再溶解した。その後、ND-1000 (NanoDrop社) を用いて、RNA濃度、RNA純度を測定した。なお、実験操作中は手袋を着用した。
【0033】
逆転写反応はReverTra Ace(TOYOBO社)を用い、製品マニュアルに従ってcDNAを合成した。すなわち、抽出したRNAが1μg/μlになるよう にDEPC処理水で調製した。次に0.2 ml容量PCRチューブにRNAse free H2O(10μl)、5×RT buffer(4μl)、dNTP mixture(20μl)、RNAse inhibitor(1.0μl)、Primer oligo(dT)20(1.0μl)、RNA(1.0μl)、ReverTra Ace(1.0μl)を加えた。このチューブをサーマルサイクラー(Bio-Rad社)にセットして42℃(20 min)→99℃(5 min)→4℃の運転を行い、逆転写反応を行った。
【0034】
次いで、cDNAをテンプレートとするPCR反応をTaKaRa ExTaq (TaKaRa社)を用いて実施した。すなわち、反応液の組成はTaKaRa ExTaq(0.1μl)、10×ExTaq buffer(2μl)、dNTP mixture(1.6μl)、Templete(1.0μl)、10 pmol/μlのPrimer-sense(1.0μl)、10 pmol/μlのPrimer-antisense(1.0μl)、DEPC処理水(13.3μl)とした。なお、各プライマーは以下の通りである。
【0035】
CD69(NM_001781, product size:451bp)は、
5-CCTTCCAAGTTCCTGTCC-3(sense),
5-CATTCCATGCTGCTGACCTC-3(anti-sense)。
IFN-γ(NM_000619, product size:393bp)は、
5-GCATCGTTTTGGGTTCTCTTGGCTGTTACTGC-3(sense),
5-CTCCTTTTTCGCTTCCCTGTTTTAGCTGCTGG-3(anti-sense)。
β-actin(NM_001101, product size:661bp)は、
5-TGACGGGGTCACCCACACTGTGCCCATCTA-3(sense),
5-CTAGAAGCATTGCGGTGGACGATGGAGGG-3(anti-sense)
を使用した。
【0036】
反応は、サーマルサイクラーを用いて、94℃(3 min)→{94℃(30 sec)→55℃(30 sec)→72℃(1 min)}→72℃(5 min)→4℃のプログラムにより実施した({ }内は繰り返し。IFN-γは30回、β-actinは21回、CD69は27回)。また、CD69については、94℃(3 min)→{94℃(1 min)→52℃(1 min)→72℃(1 min)}→72℃(7 min)→4℃のプログラム({ }内は25回繰り返し。)でも良い。
【0037】
PCR反応産物をアガロース電気泳動に供し、バンド強度を定法により解析した。IFN-γとCD69のバンド強度をβ-actinのバンド強度で除し、各遺伝子の発現量とした。さらに、コントロールに対する相対値を求め、被験化合物のNK活性賦活活性とした。
【0038】
1a-5 IFN-γの産生量測定(ELISA)
KHYG-1細胞を60 mm dishに細胞密度1.5×105cells/mlで播種し、被験化合物を添加して、24時間後に100μlの培養上清を回収した。Human IFN-γ ELISA development kit(PEPROTECH社)を用いて製品説明書通りに培養上清中のIFN-γ量を定量し、コントロールに対する相対値を求め、被験化合物のNK活性賦活活性とした。
【0039】
(1b)結果の説明
1b-1 食品成分に対するPBMCとKHYG-1細胞の反応性(細胞傷害活性:LDH assay)の差異
NK活性に影響を与えることが既に知られている食品成分(genistein, resveratrol, curcumin, beta-carotene, vitamin E, DHA)を被験化合物としてPBMC、KHYG-1両細胞に添加し、細胞傷害活性を測定した。その結果、60μMのDHAを添加した場合は、図1aに示すように両細胞共に有意な活性上昇が観察された。また、0.1μMのgenisteinを添加した場合、PBMCでは、活性上昇傾向が観察されたが、KHYG-1細胞で有意な活性上昇が観察された(図2a)。これとは逆に、14nMのcurcumin(図2b)或いは0.1μMのbeta-carotene(図1b)を添加した場合、PBMCでは有意な活性上昇が観察されたが、KHYG-1細胞では活性上昇傾向が観察された。Vitamin Eを添加した場合は、両細胞共にほとんど効果が認められなかった(図2c)。以上の成分では、PBMCとKHYG-1細胞の両細胞共に同じ、或いは同じ傾向の測定結果が得られた。これに対して0.6或いは1.3μMのresveratrolを添加した場合、図1cに示すように作用時間24時間では、PBMCで有意な活性上昇が認められたが、KHYG-1細胞では効果が認められなかった。Resveratrol濃度が1.3μMの場合、図1dに示すように成分の作用時間を36時間に延長することで、有意な活性上昇が認められた。食品成分によっては、細胞への暴露時間を延ばす必用があることが分かったが、こうした条件を整えることで、PBMCとKHYG-1細胞は、食品成分に対して細胞傷害活性に関して同じ反応性を示した。
【0040】
まとめると、食品成分のNK活性(細胞傷害活性)賦活効果を測定する際、KHYG-1細胞は、PBMCの代替細胞として利用可能であることが分かった。
【0041】
1b-2 食品成分に対するKHYG-1 細胞の遺伝子発現量と細胞傷害活性の差異
細胞傷害活性の測定は、NK細胞に加えて標的細胞(K562細胞)を調製する必用があるため、大規模な実験には向かない。そこで、NK細胞株のIFN-γ及びCD69の遺伝子発現量の変化と細胞傷害活性との異同を検討した(表3)。その結果、genistein, curcumin, DHAに関しては、IFN-γ、CD69共に1.0以上の値を示し、LDH assayの結果と似た傾向になっていた。また、beta-caroteneでは、IFN-γとLDH assayとの間に共通性が認められた。Vitamin Eについては、両測定法共に成分の影響がほとんど認められないと判定された。またresveratrolでは、IFN-γとCD69は共に発現上昇したが、成分の暴露時間(作用時間)が24時間では細胞傷害性の変動は、認められなかった。これは、36時間後では細胞傷害活性が上昇することから、遺伝子の発現量の短い時間での上昇変動は妥当な現象と考えられた。
【0042】
まとめると、KHYG-1細胞に於いて、LDH assayによる細胞傷害活性とRT-PCRにより測定されるIFN-γ遺伝子発現量、CD69遺伝子発現量との間には相関があり、特にIFN-γ遺伝子発現量に基づく細胞傷害活性の評価法はLDH assayの代替測定法になりうることが分かった。
【0043】
【表3】

【0044】
1b-3 KHYG-1細胞におけるIFN-γタンパク質発現と細胞傷害活性の差異
RT-PCR(リアルタイムPCR)よりも簡便なELISAによるNK活性の測定を試みた。Genistein, curcumin, beta-caroteneのKHYG-1細胞に対するNK活性賦活作用について、ELISAで測定したIFN-γ(タンパク質)相対発現量とLDH assayによる相対細胞傷害活性とを比較した(表4)。その結果、いずれの化合物もNK活性を上昇させることが両方法によって同様に判定できた。このことから、KHYG-1等の株化細胞が産生するIFN-γを測定することにより、簡便にNK活性測定が可能なことが分かった。
【0045】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】PMBC及びKHYG-1の細胞傷害活性の測定結果を示す図である。
【図2】PMBC及びKHYG-1の細胞傷害活性の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質のナチュラルキラー細胞に対する賦活化活性を評価する方法であって、
株化されたナチュラルキラー細胞に被験物質を与える賦活化工程と、
賦活化工程の後に前記ナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する評価工程と
を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記株化されたナチュラルキラー細胞がヒト由来である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト由来の細胞がKHYG-1細胞、NK-92細胞、YT細胞、NKL細胞、SNT-8細胞、HANK-1細胞、及びNK-YS細胞のいずれかである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記評価工程が、前記賦活化工程後のナチュラルキラー細胞と標的細胞とを培地中に加えて該ナチュラルキラー細胞を該標的細胞に作用させ、次いで該培地中のL-乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)量を測定し、測定されたLDH量に基づいてナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する工程である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記評価工程が、前記賦活化工程後のナチュラルキラー細胞とクロミウムで標識した標的細胞とを培地中に加えて該ナチュラルキラー細胞を該標的細胞に作用させ、次いで該培地中に放出されたクロミウムの放射活性をガンマーカウンターで測定し、測定された放射活性量に基づいてナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する工程である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記評価工程が、前記賦活化工程後のナチュラルキラー細胞中のγ型インターフェロン(INF-γ)又はCD69の遺伝子発現量を測定し、測定された遺伝子発現量に基づいてナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する工程である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記評価工程が、前記賦活化工程後のナチュラルキラー細胞中のINF-γのタンパク質発現量を測定し、測定されたタンパク質発現量に基づいてナチュラルキラー細胞の細胞傷害活性を評価する工程である、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−22339(P2010−22339A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191289(P2008−191289)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】