説明

ナットの固定治具およびナットの固定方法

【課題】たとえば、油圧緩衝器を構成するシリンダ体内に収装のピストン部を組み立てる際に、このピストン部を構成する環状リーフバルブにおける設定の特性を変更させない。
【解決手段】ロッド体の軸線方向に進退可能とされるホルダ部材12に一体に保持されるポンチ11がロッド体の先端螺条部の軸芯部に形成の穴内に圧入される先端部11aにおいて軸芯線を挟んで対向する二箇所の外径を上記の穴の内径より大きくすると共に、ホルダ部材12が先端をケース14に担持させながら伸縮可能とされるバネ部材13を有すると共に、このバネ部材13の先端がケース14を介してナットの端面に対向してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ナットの固定治具およびナットの固定方法に関し、特に、油圧緩衝器を構成するシリンダ体内の、たとえば、ピストン部を組み立てる際のピストンナットの弛み止めに向くナットの固定治具およびナットの固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧緩衝器を構成するシリンダ体内の、たとえば、ピストン部を組み立てる際のピストンナットの弛み止めに向くナットの固定の方策としては、従来から種々の提案があるが、その中で、特許文献1にあっては、ピストン部において、減衰力発生用などとされる環状リーフバルブにおける設定の特性を変更させないナットの固定の方策が開示されている。
【0003】
すなわち、この特許文献1に開示されているところは、加締め工具であるが、この加締め工具は、ピストンロッドの先端螺条部の軸芯部に開穿の穴内に先端部が圧入されるポンチを有してなる。
【0004】
そして、ポンチは、上記の穴の内径より大きい外径を有しながら先端を二段テーパのテーパ面にする円柱状体からなると共に先端部において軸芯線を挟んで対向する二面を切欠している。
【0005】
それゆえ、この特許文献1に開示の提案によれば、ポンチへの軸力が軸芯線を挟むようにする二箇所で穴の内径を拡径するように作用し、ピストンロッドの先端螺条部に螺装されるピストンナットをバルブシート部材たるピストン体に向けて押圧しない。
【0006】
したがって、ピストンナットに余計な外力、すなわち、ピストンロッドの軸線方向に沿う外力が作用せず、このことから、ピストン体に定着する環状リーフバルブにおける定着力が変更されず、その結果、環状リーフバルブにおける特性が当初の設定通りに維持される。
【特許文献1】特開2007‐253195号公報(要約,明細書中の段落0014から同0017,図1から図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、環状リーフバルブにおける特性を当初の設定通りに維持し得る点で、基本的に不具合がある訳ではないが、その加締め工具を利用するのにあって、些か不具合があると指摘される可能性がある。
【0008】
すなわち、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、穴内に圧入されたポンチの先端部は、穴を形成する先端螺条部の内周に言わば食い込んでいるので、所定の加締め作業を終了してポンチの先端部を穴内から抜き出すときに、簡単にこれを抜き出せないことが危惧される。
【0009】
そして、ポンチの先端部を穴内から抜き出すために、たとえば、ポンチを揺動させる場合には、揺動させる手間を要するのはもちろんのこと、ポンチの先端部が圧入された穴の内径を必要以上に拡径する。
【0010】
そして、ポンチの先端部を抜くために穴の内径が必要以上に拡径される場合には、先端螺条部に螺着されているピストンナットに外力が加わることになり、ピストンナットがピストン体に定着させる環状リーフバルブにおける設定の特性の変更が危惧される。
【0011】
この発明は、このような現状を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、たとえば、油圧緩衝器を構成するシリンダ体内に収装のピストン部を組み立てる際に、このピストン部を構成する環状リーフバルブにおける設定の特性を変更させずして、その油圧緩衝器の汎用性の向上を期待するのに最適となるナットの固定治具およびナットの固定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、この発明によるナットの固定治具の構成を、基本的には、ロッド体の軸線方向に沿う前進時に先端部をロッド体における先端螺条部の軸芯部に形成の穴内に圧入させるポンチと、このポンチを一体に保持して外力によってロッド体の軸線方向に進退するホルダ部材とを有し、ポンチの先端部の穴内への圧入時にこの穴の内径を拡径して先端螺条部に螺着されたナットにおける弛み止めを可能にしてなるナットの固定治具において、ポンチが上記の穴内に圧入される先端部において軸芯線を挟んで対向する二箇所の外径を上記の穴の内径より大きくすると共に、ホルダ部材が先端をケースに担持させながら伸縮可能とされるバネ部材を有すると共に、このバネ部材の先端がケースを介してナットの端面に対向してなるとする。
【0013】
そして、この発明によるナットの固定方法の構成を、基本的には、ロッド体における先端螺条部に螺着されてロッド体における先端嵌合部に保持されたバルブシート部材に環状リーフバルブを定着させるナットが上記の先端螺条部の軸芯部に形成の穴内へのポンチの先端部の圧入でこの穴の内径が拡径されることで弛み止めされてなるナットの固定方法において、ポンチが上記の穴内に圧入される先端部において軸芯線を挟んで対向する二箇所の外径を上記の穴の内径より大きくする一方で、上記のポンチを一体に保持するホルダ部材に介装のバネ部材がポンチの先端部の穴内への圧入時に先端をナットの端面に当接させて収縮すると共に、ポンチが先端部の穴内からの抜き出し時にバネ部材からの反力を受けてなるとする。
【発明の効果】
【0014】
それゆえ、この発明にあって、ロッド体における先端螺条部の軸芯部に形成の穴内に先端部が圧入されるポンチは、ホルダ部材が偏芯せずして前進することで、上記の穴の内径を対向する二箇所で部分的に拡径し、この先端螺条部に螺装のナットにおける弛み止めを設定通りに具現化する。
【0015】
このとき、ロッド体の先端螺条部における穴の内径が拡径されるだけだから、ロッド体の先端螺条部に螺着されてバルブシート部材に環状リーフバルブを定着させるナットにおける定着力が変更されず、したがって、ナットの螺着でバルブシート部材に定着されている環状リーフバルブにおける設定の特性が変更されない。
【0016】
そして、この発明にあって、ホルダ部材がポンチの進退時にナットとの間で伸縮するバネ部材を有すると共に、上記の穴内にポンチの先端部を圧入する際に、バネ部材の先端を担持するケースがナットの端面に当接されるから、ポンチの後退時にバネ部材の反力を受けることになり、ポンチの先端部の穴内からの抜き出しを容易にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、便宜上、この発明によるナットの固定治具について説明しながら、この発明によるナットの固定方法についても説明する。
【0018】
そして、図1に示すこの発明によるナットの固定治具10は、その一例として、図3に示すピストン部P、すなわち、図示しないが、油圧緩衝器を構成するシリンダ体内に摺動可能に収装されるピストン部Pを組み立てる際に利用される。
【0019】
そこで、先ず、このピストン部Pについて少し説明すると、このピストン部Pは、図3に示すように、バルブシート部材とされるピストン体1を有し、このピストン体1は、シリンダ体内に挿通されるロッド体たるピストンロッド2の縮径部たる先端嵌合部2aに保持されている。
【0020】
そして、この発明によるナットの固定治具10は、ピストン体1の軸芯部を貫通しながらピストン体1に隣接する環状リーフバルブ3を介装させる上記の先端嵌合部2aに連続する先端螺条部2bに螺着されるナットたるピストンナット4の弛み止めを実践する。
【0021】
すなわち、具体的には、ピストンナット4は、環状リーフバルブ3の内周側固定部3aをピストン体1の内周側ボス部1aに定着させた状態下にピストンロッド2における先端螺条部2bに螺着される。
【0022】
そして、このピストンロッド2における先端螺条部2bの軸芯部に形成された穴2cの内径をこの発明の固定治具10の利用で拡径して、ピストンナット4の弛み止めを実践する。
【0023】
ところで、ピストン体1は、多くの場合に環状に形成の内周側ボス部1aを有するので、この内周側ボス部1aに環状リーフバルブ3における環状に形成の内周側固定部3aを着座させる。
【0024】
また、このピストン体1は、軸芯部に、すなわち、内周側ボス部1aの内側に開穿された貫通孔1bを有し、この貫通孔1bにはピストンロッド2における上記した先端嵌合部2aを貫通させる。
【0025】
なお、ピストン体1には、シリンダ体の軸線方向に沿って伸側流路1cと圧側流路1dとが開穿され、伸側流路1cの図中で上端となる下流側端を上記した環状リーフバルブ3からなる伸側減衰バルブにおける外周側撓み部3b側が開閉可能に閉塞し、圧側流路1dの図中で下端となる下流側端を同じく環状リーフバルブ5からなる圧側減衰バルブにおける外周側撓み部5a側が開閉可能に閉塞する。
【0026】
ちなみに、伸側減衰バルブは、図示するところでは、径の異なる複数枚の環状リーフバルブ3が積層されてなり、ピストン体1がシリンダ体内をいわゆる伸側に摺動するときに内周側固定部3aがピストン体2における内周側ボス部1aに圧接状態に定着された状態下に外周側撓み部3bが撓み所定の伸側減衰力を発生する。
【0027】
そして、ピストン体1を挟んでこの環状リーフバルブ3のいわゆる反対側に圧側減衰バルブとなる環状リーフバルブ5が配在されているが、この発明の効果は、すなわち、ピストン体1に定着される環状リーフバルブ3における設定の特性が変更されないとする効果は、この圧側減衰バルブを構成する環状リーフバルブ5にも及ぶ。
【0028】
なお、ピストンナット4にあっては、その締め付け力があらかじめ設定されていて、その締め付け力に基づいて環状リーフバルブ3における内周側固定部3aをピストン体1の内周側固定部1aに定着させるための締め付け作業が実践される。
【0029】
ピストンロッド2は、前述したように、ピストン体1における軸芯部に開穿の貫通孔1bに先端嵌合部2aを貫通させる、すなわち、ピストンロッド2にあって、先端嵌合部2aは、その外周に上記したピストン体1を介装させ、このピストン体1をいわゆる両側から挟むように前記した環状リーフバルブ3,5が配在される。
【0030】
また、このピストンロッド2にあって、上記のピストン体1を介装させる先端嵌合部2aに連続して図中で上端部となる部位を先端螺条部2bとし、この先端螺条部2bに後述するピストンナット4を螺着させる。
【0031】
ちなみに、ピストンロッド2にあって、先端嵌合部2aや先端螺条部2bを形成するについては、図示しないが、シリンダ体の開口端で出没するときに軸受に摺接するいわゆる軸部2dにならない部位を切削するが、このとき、軸部2dと先端嵌合部2aとの間に段差部2eが形成され、この段差部2eにバルブストッパ6および環状リーフバルブ5を介してピストン体1の内周側ボス部1aが当接される、すなわち、係止される。
【0032】
そして、このピストンロッド2について、上記の先端嵌合部2aや先端螺条部2bを形成したりその他の加工をする際には、軸芯線を回転中心にして調芯され、この調芯のために、先端螺条部2bの軸芯部には、前記した穴2cが形成され、この穴2cが空部となって残存する。
【0033】
そこで、この発明では、上記の穴2c内に固定治具10におけるポンチ11の先端部11aを圧入することで(図4参照)、この穴2cにおける内径を拡径させる加締め加工を実践する。
【0034】
以下には、この固定治具10について少し説明するが、まず、固定治具10は、図1に示すところにあって、実際に加締め加工を実践するポンチ11を有し、このポンチ11をピストンロッド2の軸線方向に進退可能に一体に保持するホルダ部材12を有し、さらに、このホルダ部材12がポンチ11の進退時にピストンナット4との間で伸縮するバネ部材13を有してなる。
【0035】
ポンチ11は、上記の穴2c内に圧入される先端部11aにおいて軸芯線を挟んで対向する二箇所の外径を上記の穴2cの内径より大きくし、この外径を大きくする二箇所を穴2c内に圧入して、この二箇所が隣接する部位で穴2cの内径を拡径する。
【0036】
その結果、この内径を拡径する際の変形が先端螺条部2bの外周に及び、このとき、ピストンナット4の内周と先端螺条部2bの内周との間にピストンナット4の弛みを助長する余地がなくなり、したがって、ピストンナット4の弛み止めが実現される。
【0037】
このことからすると、ポンチ11にあっては、穴2c内に圧入される先端部11aにおいて軸芯線を挟んで対向する二箇所の外径を上記の穴2cの内径より大きくすれば良く、この条件を満す限りには、先端部11aを、特に、先端部11aの横断面形状を任意に設定できる。
【0038】
ちなみに、図示するところでは、穴2cの内径より外径を大きくする円柱状体からなる先端部11aの先端角部に丸みを持たせる一方で、先端部11aにおいて、軸芯線を挟んで対向する二面を切欠して(図2参照)、穴2cの内径よりも外径を大きくする二箇所を形成している。
【0039】
以上からすれば、図示しないが、先端部11aを形成する円柱状体における外径を穴2cの内径と同一ないしは内径より小さくする一方で、軸芯線を挟んで対向する二箇所に穴2cの内径より外径を大きくする縦リブを設け、この縦リブが穴2c内に圧入されることで、上記した内径の拡径が実践されるとしても良い。
【0040】
上記のポンチ11にあっては、先端部11aの先端に丸みを有することから、先端部11aを穴2c内に圧入するとき、滑らかさを得ることが可能になり、たとえば、前記した特許文献1に開示のポンチにあって、先端を二段テーパ面からなるとする場合に比較して、先端部11aの穴2c内への圧入を容易にし得る。
【0041】
そして、ポンチ11における先端部11aにおける穴2c内への圧入を容易にすることは、この穴2c内からのポンチ11の先端部11aの抜き出しも容易にし得ることに繋がり、前記した特許文献1に開示のポンチに比較して、この発明の優位性になる。
【0042】
以上のように、この固定治具10にあって、ポンチ11は、ピストン体1に環状リーフバルブ3を定着させるピストンナット4の螺着を許容するピストンロッド2における先端螺条部2bの軸芯部に形成の穴2c内に先端部11aを圧入して、この穴2cの内径を拡径する加締め加工をして、ピストンナット4の弛み止めをする。
【0043】
なお、ポンチ11の先端部11aを穴2c内に圧入して穴2cの内径を拡径するとき、その拡径が上記したところに代えて、以下のように実践されるとしても良い。
【0044】
すなわち、ポンチ11の先端部11aを穴2c内に圧入するとき、先端部11aが図4に示す程に深く圧入されず、穴2cを形成する先端螺条部2bにおけるピストンナット4の後端から突出する先端部2f(図3参照)の内径のみが拡径されるとしても良い。
【0045】
このように、穴2cを形成する先端螺条部2bにおけるピストンナット4の後端から突出する先端部2fの内径のみが拡径される場合には、ポンチ11の先端部11aを穴2c内に圧入するときに、ピストンナット4に余計な外力を作用させず、したがって、ピストンナット4がピストン体1に定着させる環状リーフバルブ3,5における設定の特性がいたずらに変更されることを危惧する必要さえない点で有利となる。
【0046】
なお、ポンチ11の先端部11aを穴2c内に圧入して穴2cの内径を所定の通りに拡径する限りには、先端部11aの穴2c内への侵入長さについては自由であり、たとえば、先端部11aの先端が穴2cの内底に当接される、すなわち、底着きしても良い。
【0047】
ちなみに、ポンチ11において、上記の先端部11aを連設させる基部11bは、ホルダ部材12の本体部12aの軸芯部に着脱可能に螺着され、図示しないが、利用時に、基部11bが本体部12aに対して回動などしないように適宜の静止手段の配在下に連繋されている。
【0048】
また、ポンチ11にあっては、これがホルダ部材12に装着されるとき、このホルダ部材12からの突出長さを同一にするように、ホルダ部材の端面に隣接されるストッパ部11cを有している。
【0049】
一方、ホルダ部材12は、上記した本体部12aからこの本体部12aと同心円となる筒状に形成のケース部12bを有し、このケース部12bの内側にバネ部材13を有している。
【0050】
ちなみに、ホルダ部材12の図中で上端側は、入力軸部12cとされ、この入力軸部12cには、図示しない適宜の構成の昇降手段が連繋され、この昇降手段からの入力があるとき、ホルダ部材12が図中で下降する。
【0051】
ところで、この固定治具10にあって、ホルダ部材12が有するバネ部材13は、先端部11aを穴2c内に圧入して所定の加締め作業を終了したポンチ11を後退させて先端部11aを穴2c内から抜き出すときの反力源となる。
【0052】
すなわち、前記したところであるが、穴2c内に圧入されたポンチ11の先端部11aは、穴2cを形成する先端螺条部2bの内周に言わば食い込んでいるので、所定の加締め作業を終了してポンチ11の先端部11aを穴2c内から抜き出すときに、簡単にこれを抜き出せない。
【0053】
そして、ポンチ11の先端部11aを穴内から抜き出すために、たとえば、ポンチ11を揺動させる場合には、ポンチ11の先端部11aが圧入された穴2cの内径を必要以上に拡径し、ピストンナット4に言わば余計な外力を作用するので好ましくない。
【0054】
そこで、前記したように、この発明にあっては、ポンチ11において、先端部11aの先端に丸みを持たせて、先端を二段テーパ面にする従来例に比較して先端部11aを抜き易くする一方で、バネ部材13を有して、ポンチ11の先端部11aを穴2c内からの抜き出す際に、バネ部材13の反力を得て、これを容易にする。
【0055】
そのため、図示するところにあっては、ホルダ部材12において、ケース部12bの外周にケース14を昇降可能に介装させ、ポンチ11の先端部11aを穴2c内に圧入する際に、ケース14の下端がピストンナット4の端面に当接されるとしている(図4参照)。
【0056】
そして、ケース14がピストンナット4の端面に当接された状態でポンチが下降される、すなわち、ホルダ部材12が下降されると、図4に示すようにバネ部材13が収縮して反力を具有し、図示しないがホルダ部材12を下降させる外力が解消されると、バネ部材13が反力を発揮して、ホルダ部材、すなわち、ポンチ11の上昇たる後退を助ける。
【0057】
ちなみに、ケース14は、ホルダ部材12のケース部12bに摺動可能に保持されているのはもちろんだが、このとき、任意の連繋手段でケース部12bから離脱しないように配慮されている。
【0058】
ところで、バネ部材13は、上記した反力源とされる限りには、任意に構成されて良いが、図示するところでは、コイルスプリングからなり、複数本のコイスプリングがホルダ部材12の本体部12aを囲むように配設される。
【0059】
このとき、複数本となる各コイルスプリングは、ホルダ部材12における本体部12aとケース部12bとの間に画成される単一の筒状の空部に周方向に並べるように収装されても良い。
【0060】
しかしながら、各コイルスプリングが伸縮する際における互いの干渉を回避する上からは、本体部12aとケース部12bとの間に同一円周上に互い独立する複数の円柱状空部を画成し、この互いに画成される円柱状空部に各コイルスプリングがそれぞれ収装されるのが良い。
【0061】
このように、複数本のコイルスプリングを利用する場合には、一本のコイルスプリングを利用する、すなわち、一本のコイルスプリングの中央をホルダ部材12の本体部12aが挿通する場合に比較して、汎用のコイルスプリングを利用できる利点があり、また、反力の大きさの調整を容易にする利点がある。
【0062】
もっとも、際立った大きさの反力を得ることを主眼にする場合には、バネ部材13として複数本のコイルスプリングを利用するのに代えて、図示しないが、皿バネを利用し、この皿バネの中央部をホルダ部材12の本体部12aが挿通するとしても良い。
【0063】
なお、ホルダ部材12に作用する外力が小荷重とされる場合には、同じく図示しないが、バネ部材13は、上記の皿バネに代えて、大径となる一本のコイルスプリングとされても良い。
【0064】
以上ように、この発明によるナットの固定治具にあっては、ポンチ11における先端部11aの形状が配慮されると共に、ポンチ11の先端部11aを圧入された穴2c内から抜き出すときの反力源を有してなるから、所定の加締め作業を円滑に実践できるのはもちろんのこと、作業終了後のポンチ11の穴2c内からの抜き出しを円滑に実践できる。
【0065】
前記したところは、この発明によるナットの固定治具がシリンダ体内に収装されるピストン部Pを組み立てる際に利用されるとしたが、この発明が意図するところからすれば、図示しないが、このナットの固定治具が同じくシリンダ体内に収装されるベースバルブ部に具現化されてなるとしても良く、その場合における作用効果についても同様となるのはもちろんである。
【0066】
また、前記したところでは、特に、図示するところでは、穴2c内に圧入される前のポンチ11にあって、先端部11aの先端が図1に示すようにケース14の下端から突出しているが、要は、穴2c内への先端部11aの圧入時にこれが障害なく実践される限りには、ケース14の下端から突出しなくても良い。
【0067】
そして、前記したところでは、ポンチ11が先端部11aにおいて穴2cの内径より大きくする外径部を二箇所にしたが、この発明が意図するところからすれば、所定の拡径作業を実践できる限りにおいて、その箇所数は増減されて良い。
【0068】
ただ、一箇所とする場合には、調芯に手間を要し、三箇所とする場合には、最適な加締め力の選択に手間を要すから、図示する二箇所とされるのが最も好ましいであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明の一実施形態によるナットの固定治具を一部破断して示す正面図である。
【図2】図1中のポンチの側面図である。
【図3】この発明によるナットの固定治具が利用されるピストン部を一部破断して示す正面図である。
【図4】この発明によるナットの固定治具の利用状態を一部破断して示す半截正面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 バルブシート部材たるピストン体
2 ロッド体たるピストンロッド
2a 先端嵌合部
2b 先端螺条部
2c 穴
3,5 環状リーフバルブ
4 ナットたるピストンナット
10 固定治具
11 ポンチ
11a 先端部
12 ホルダ部材
13 バネ部材
14 ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド体の軸線方向に沿う前進時に先端部をロッド体における先端螺条部の軸芯部に形成の穴内に圧入させるポンチと、このポンチを一体に保持して外力によってロッド体の軸線方向に進退するホルダ部材とを有し、ポンチの先端部の穴内への圧入時にこの穴の内径を拡径して先端螺条部に螺着されたナットにおける弛み止めを可能にしてなるナットの固定治具において、ポンチが上記の穴内に圧入される先端部において軸芯線を挟んで対向する二箇所の外径を上記の穴の内径より大きくすると共に、ホルダ部材が先端をケースに担持させながら伸縮可能とされるバネ部材を有すると共に、このバネ部材の先端がケースを介してナットの端面に対向してなることを特徴とするナットの固定治具。
【請求項2】
ロッド体がシリンダ体内に摺動可能に収装されるピストン体を先端嵌合部に保持するピストンロッドとされ、ナットがピストンロッドの先端嵌合部に連続する先端螺条部に螺着されるピストンナットとされてなる請求項1に記載のナットの固定治具。
【請求項3】
ホルダ部材が同一円周上に互い画成される複数の円柱状空部を有すると共に、バネ部材がコイルスプリングからなり、各円柱状空部内にコイルスプリングがそれぞれ収装されてなる請求項2に記載のナットの固定治具。
【請求項4】
ロッド体における先端螺条部に螺着されてロッド体における先端嵌合部に保持されたバルブシート部材に環状リーフバルブを定着させるナットが上記の先端螺条部の軸芯部に形成の穴内へのポンチの先端部の圧入でこの穴の内径が拡径されることで弛み止めされてなるナットの固定方法において、ポンチが上記の穴内に圧入される先端部において軸芯線を挟んで対向する二箇所の外径を上記の穴の内径より大きくする一方で、上記のポンチを一体に保持するホルダ部材に介装のバネ部材がポンチの先端部の穴内への圧入時に先端をナットの端面に当接させて収縮すると共に、ポンチが先端部の穴内からの抜き出し時にバネ部材からの反力を受けてなることを特徴とするナットの固定方法。
【請求項5】
ロッド体がシリンダ体内に摺動可能に収装されるピストン体を先端嵌合部に保持するピストンロッドとされ、ナットがピストンロッドの先端嵌合部に連続する先端螺条部に螺着されるピストンナットとされてなる請求項4に記載のナットの固定方法。
【請求項6】
ホルダ部材が同一円周上に互い画成される複数の円柱状空部を有すると共に、バネ部材がコイルスプリングからなり、各円柱状空部内にコイルスプリングがそれぞれ収装されてなる請求項5に記載のナットの固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−154174(P2009−154174A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333876(P2007−333876)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】