説明

ナットの製造方法

【課題】雌ネジのネジ長さよりも薄い厚さの金属素材からナットを製造することができ、材料の無用な消費を抑制することができるナットの製造方法を提供する。
【解決手段】貫通孔11を有する金属素材10の前記貫通孔11をプレス加工によって拡径させることで該貫通孔11の周囲の部分の厚さを増加させる増厚工程(a)〜(c)と、該増厚工程にて拡径された貫通孔11の内周面に雌ネジを形成する雌ネジ形成工程とを備える。前記増厚工程において、金属素材10の外周形状が変形しないように金属素材10の外周面をプレス型によって拘束する。また、前記増厚工程において、前記金属素材10の一方の面(パンチ型側面13)における前記貫通孔11の周囲の部分をプレス加工によって隆起させる一方で、前記金属素材10の他方の面(ダイ型側面12)を、平坦面となるようにプレス型によって拘束する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナットは、雌ネジを有するものであり、雌ネジの十分なネジ長さを確保するために、一般的に、全体が雌ネジのネジ長さと同寸法の十分な厚さのある部材として構成されている。
【0003】
上記背景技術は、一般的になされている事項であり、本願出願人は、出願時において、この背景技術が記載された文献を特に知見していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のナットは、全体が十分な厚さの部材として構成せざるを得ないため、無用に多くの材料を必要とする。例えば、ナットを製造するに際しては、雌ネジのネジ長さと同寸法の厚さの金属素材を必要とする。ここで、ナットは、雌ネジ部分の強度が主に必要なだけであることから、雌ネジのネジ長さと同一寸法の厚さの金属素材からナットを製造することは、材料を無用に消費することになる。
【0005】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、雌ネジのネジ長さよりも薄い厚さの金属素材からナットを製造することができ、材料の無用な消費を抑制することができるナットの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「貫通孔を有する金属素材の前記貫通孔をプレス加工によって拡径させることで該貫通孔の周囲の部分の厚さを増加させる増厚工程と、
該増厚工程にて拡径された貫通孔の内周面に雌ネジを形成する雌ネジ形成工程と
を備えることを特徴とするナットの製造方法」
である。
【0007】
ここで、プレス加工は、金属素材を塑性変形させて所望の形状を得る手法であり、鍛造の一種であるが、ダイ型とパンチ型との間に金属素材を配置して、ダイ型に対してパンチ型を押圧させることで金属素材に塑性変形の加工を施すものであり、ダイ型に対するパンチ型の1回のストロークにより、金属素材をダイ型及びパンチ型に倣った形状に塑性変形させることのできる加工方法である。
【0008】
上記構成のナットの製造方法では、増厚工程にて貫通孔周囲の厚さを増加させた上で、換言すれば、増厚工程にて貫通孔の全長を増長させた上で、この貫通孔を下穴として雌ネジを形成してナットを形成するため、材料として、例えば雌ネジのネジ長さよりも薄い平板状の金属素材等、雌ネジのネジ長さよりも厚さの薄い金属素材から、十分なネジ長さの雌ネジを有するナットを製造するが可能となる。
【0009】
従って、上記構成のナットの製造方法によれば、雌ネジのネジ長さよりも薄い厚さの金属素材からナットを製造することができ、材料の無用な消費を抑制することができる。
【0010】
上記手段において、
「前記増厚工程において、金属素材の外周形状が変形しないように金属素材の外周面をプレス型によって拘束することを特徴とするナットの製造方法」
としてもよい。
【0011】
上記構成のナットの製造方法では、増厚工程において、金属素材の外周形状をプレス型によって拘束するため、金属素材の外周形状が大きく変形することがなく、貫通孔を拡径した分だけ、材料を流動させて貫通孔周囲の厚さを的確に且つ大きく増加させることができる。よって、上記構成のナットの製造方法によれば、薄い厚さの金属素材から、十分なネジ長さの雌ネジを有するナットを的確に製造することができる。
【0012】
上記手段において、
「前記増厚工程において、前記金属素材の一方の面における前記貫通孔の周囲の部分をプレス加工によって隆起させる一方で、前記金属素材の他方の面を、平坦面となるようにプレス型によって拘束することを特徴とするナットの製造方法」
としてもよい。
【0013】
ナットは、一方の面が、ボルト及びナットによって相互に締結される部材や、ダブルナットとして使用する場合には他のナット等、他の部材に着座するものであり、この着座する側の面は平坦面であることが望ましい。そこで、上記構成のナットの製造方法では、増厚工程において、一方の面をプレス型によって拘束して平坦面としつつ、他方の面の材料を隆起させて貫通孔周囲の厚さを増加させることとする。これにより、薄い金属素材から、十分なネジ長さの雌ネジを有すると共に一方の面が平坦面となったナットを的確に製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
上述した通り、本発明によれば、雌ネジのネジ長さよりも薄い厚さの金属素材からナットを製造することができ、材料の無用な消費を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るナットの製造方法の実施形態としての一例を、以下、図面に従って詳細に説明する。なお、以下では、圧延鋼板等の鋼材に打抜加工を行って、所望の外周形状を呈し、しかも、所望の形状の貫通孔を有する平板状の金属素材を形成する打抜加工ステージ、個別に増厚加工を行って平板状の金属素材の貫通孔を順次大きく拡径させて貫通孔周囲の厚さを増加させる複数の増厚加工ステージ、といった複数のプレス加工ステージを具備する1台のプレス加工機にて、平板状の金属素材から雌ネジの下穴を具備するナットの一次加工品を形成し、この一次加工品の下穴の内周面に、転造加工やタッピング加工、或いは、バイトによる切削加工等、適宜の加工によって雌ネジを形成する雌ネジ形成加工、すなわち雌ネジ形成工程の加工を施して最終的にナットを製造するナットの製造方法を例示する。
【0016】
なお、上述したプレス加工機では、打抜加工ステージ、及び、個々の増厚加工ステージに、夫々対応するプレス型(ダイ型及びパンチ型)が装着されており、各プレス型の1ストロークの作動、例えば、各ダイ型に対して上昇した各パンチ型を下降させてワークをプレス成形した後に再度、各パンチ型を上昇させるといった1往復の作動により、ワークに対して各プレス加工ステージに対応した加工が夫々同時に施される。また、プレス加工機への鋼材の供給、各プレス加工ステージ間におけるワークの搬送、及び、一連の加工が施された部材のプレス加工機からの取り出しの夫々については、プレス加工機が具備する適宜の搬送装置によって行われる。
【0017】
上述したプレス加工機では、まず、打抜加工ステージにて打抜加工を行う。この打抜加工では、図1(a)に示すように、鋼材を打ち抜いて、外周形状が六角形状を呈し、且つ、貫通孔11を有する平板状の金属素材10を形成する。ここで、本例では、板厚が6mmの鋼材を打ち抜いて、対向する2面の幅寸法、所謂「2面巾」が50mmの六角形状を呈し、中央部分に直径が19mmの貫通孔11を有する金属素材10を形成する。
【0018】
次に、平板状の金属素材10を増厚加工が行われる最初の増厚加工ステージに搬送し、この最初の増厚加工ステージにて一段階目の増厚加工を行う。この増厚加工では、図示は省略するが、上記貫通孔11の内径よりも大きな外径に形成されて金属素材10の貫通孔11に挿通される凸部と、この凸部の周囲に設けられた適宜形態の凹部とを有するパンチ型によって、金属素材10にプレス加工を施す。また、ダイ型として、六角形状の金属素材10をその外周面が嵌合する状態で収容する共に、底面が平坦面となった凹部を有するものを用い、増厚加工において、プレス型の一つを構成するダイ型によって、金属素材10の外周形状及び一方の面(以下、「ダイ型側面12」という)を拘束する。
【0019】
このような増厚加工によって、全体の表裏両面が平坦であり、全体が均一な板厚であった当初の金属素材10は、図1(b)に示すように、その貫通孔11が拡径されると共に、拡径された部分だけの材料が流動し、ダイ型によって拘束されていない側の面、すなわち、パンチ型側の面(以下、「パンチ型側面13」という)が部分的に隆起する。そして、これにより、貫通孔11の周囲の部分において、厚さ(貫通孔11の軸方向の寸法)が増加する。換言すれば、貫通孔11の全長が増長する。なお、金属素材10の外周形状、及び、ダイ型側面12は、夫々、大きく変形しない。
【0020】
次に、上述のように貫通孔11を拡径させることで貫通孔11の全長を増長させた金属素材10を次の増厚加工ステージに搬送し、この増厚加工ステージにて次段階目の増厚加工を行う。この増厚加工では、凸部の外径をさらに大きくし、凹部の内径をさらに大きくすると共に深さを深くしたパンチ型を用いてプレス加工を行う。また。上述と同様に外周形状及びダイ型側面12を拘束するダイ型を用いてプレス加工を行う。そして、このようなプレス加工を複数の増厚加工ステージにて繰り返し行い、貫通孔11の内径が順次大きくなると共に、貫通孔11の周囲の厚さが順次厚くなるような塑性変形を金属素材10に与えて、図1(c)に示すように、雌ネジの下穴として十分な内径となり、しかも、雌ネジのネジ長さとして十分な全長となった貫通孔11を有するナットの一次加工品20を形成する。なお、本例では、金属素材10の貫通孔11を順次拡径させる上述のような一連のプレス加工によって、増厚工程が構成される。
【0021】
このような増厚工程によって、本例では、当初、内径が19mmで全長が6mmであった貫通孔11に対して、内径が32mmで全長が12mmとなった貫通孔11を有するナットの一次加工品20を形成する。ここで、この一次加工品20では、ダイ型側面12が平坦面であるのに対して、パンチ型側面13が、外周端面から貫通孔11に渡って湾曲状に隆起する面となる。
【0022】
そして、この一次加工品20に、上述したプレス加工とは別途の二次加工として、貫通孔11を下穴として、この貫通孔11の内周面に雌ネジを形成し、図2に示すような完成されたナット30を形成する。ここで、本例では、メートルねじM36の雌ネジ31を有し、工具掛け面32である六角面の2面巾が50mmとなった六角ナットを完成されたナット30とする。
【0023】
このようなナットでは、外面に工具掛け面32(具体的には3対の2面巾を有する六角面)を有するものとなり、工具掛け面32の両端部分は、金属素材10当初の板厚と同寸法、或いは、若干厚くなった寸法となるが、工具掛け面32の中央部分は、金属素材10の当初の板厚よりも十分に厚くなり、具体的には10〜20%厚くなり、工具を掛けても十分に耐え得る工具掛け面が形成される。また、雌ネジ32のネジ長さは、金属素材10当初の板厚の2倍といったように、十分に長くなり、雌ネジ32として機能させるのに十分なネジ長さが確保される。なお、金属素材10の材質として、高炭素鋼(硬鋼)やステンレス鋼を採用した場合には、当初の金属素材10の厚さの1.5倍〜2.5倍程度に、貫通孔11の全長を増加させることができるが、金属素材10の材質として、例えば、低炭素鋼(軟鋼)、中炭素鋼(半軟鋼、半硬鋼)、銅合金やアルミニウム合金等、可塑性に優れた材質を採用することで、当初の金属素材10の厚さの3倍以上といったように、貫通孔11の全長を大きく増加させることができる。しかも、塑性変形された貫通孔11の内面は、表面が硬化するため、この貫通孔11に雌ネジ31を形成することで、強度に優れた雌ネジ31を得ることができる。
【0024】
上述のナットの製造方法は、薄い厚さの金属素材10から十分なネジ長さのナット30を製造することができ、材料の無用な消費を大きく抑制することができるため、谷径として、少なくとも直径20mm、より好適には少なくとも直径30mmの大径の雌ネジ31を有するナット30の製造方法として好適である。また、雌ネジ31として、ネジ長さが短くてもナット30として十分な機能を果たすことのできる細目ネジを雌ネジ31としたナットの製造方法としても好適である。
【0025】
以上、本発明に係るナットの製造方法の一例を説明したが、本発明に係るナットの製造方法は上述の例に限らない。
【0026】
例えば、1台のプレス加工機にて上述した一連のプレス加工を行うに限らず、打抜加工、増厚工程を構成する個々の増厚加工のうち、適宜の加工を個別のプレス加工機によって行ってもよい。
【0027】
また、一連のプレス加工における最初の打抜加工にて、鋼材を打ち抜いて外周に例えば六角面等の工具掛け面を有する形態の金属素材を形成するに限らず、引抜き材等のみがき鋼棒を切断して個々の金属素材を形成したり、鋳造や鍛造によって個々の金属素材を形成してもよい。
【0028】
また、金属素材の当初の貫通孔の内径は、一次加工品の貫通孔(雌ネジの下穴となる貫通孔)に比して小さい程、一次加工品の貫通孔周囲の厚さを増加させることができるのであるが、一方で、小さ過ぎると、塑性変形に無理が生じ、材料の破断やムシレが生じる可能性が高くなる。よって、拡径させる前の貫通孔の内径は、最終的に雌ネジの下穴となる貫通孔の内径に比して、30〜90%、好ましくは40〜80%、より好ましくは50〜70%とするのが好適である。
【0029】
さらに、一次加工品において、一方の面(ダイ型側面)について十分な平坦面を確保することができず、貫通孔周囲が隆起した面となる場合には、貫通孔周囲が陥没した形態となるようなプレス型(プレス型では、型の内面の形態が、貫通孔周囲に対応する部分が隆起する形態となる)を用いて、一次加工品の形修正を行うプレス加工を修正工程として増厚工程の後工程に追加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るナットの製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明に係るナットの製造方法によって形成されたナットの一例を示す図面であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 金属素材
11 貫通孔
12 ダイ型側面
13 パンチ型側面
20 一次加工品
30 ナット
31 雌ネジ
32 工具掛け面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する金属素材の前記貫通孔をプレス加工によって拡径させることで該貫通孔の周囲の部分の厚さを増加させる増厚工程と、
該増厚工程にて拡径された貫通孔の内周面に雌ネジを形成する雌ネジ形成工程と
を備えることを特徴とするナットの製造方法。
【請求項2】
前記増厚工程において、金属素材の外周形状が変形しないように金属素材の外周面をプレス型によって拘束することを特徴とする請求項1に記載のナットの製造方法。
【請求項3】
前記増厚工程において、前記金属素材の一方の面における前記貫通孔の周囲の部分をプレス加工によって隆起させる一方で、前記金属素材の他方の面を、平坦面となるようにプレス型によって拘束することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−346704(P2006−346704A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175062(P2005−175062)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(391022197)株式会社加藤製作所 (15)
【Fターム(参考)】