説明

ナノインプリント方法及び装置

【課題】円筒状の基体の側面に形成された転写層にナノインプリントを利用して回路パターンを形成する。
【解決手段】円筒又は円柱状の基体102の側面の一部又は全部に形成された転写層に、モールド104の表面に形成されたパターンを転写することを特徴とし、さらに該装置は、前記基体102に着接する第1のジグと、前記第1のジグを回転自在に支持する第2のジグと、前記第2のジグに連結され、前記第1のジグ及び前記第2のジグを介して前記基体を前記モールド104に押し付ける押し付け部と、前記モールド104を保持すると共に、前記モールド104を前記押し付け力に略垂直な方向に移動させる、可動保持部と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノインプリント技術に関し、特に円筒側面の一部又は全部をなすような形状に形成された転写層へのナノインプリントや、ナノインプリント技術を用いた積層回路基板の製造に好適に適用できる。
【背景技術】
【0002】
近年、超微細3次元ナノ構造体の製造プロセスとしてナノインプリント技術が注目を集めている。ナノインプリント技術の1つである熱式ナノインプリントプロセスでは、精密加工された型(モールド)を被加工材料(樹脂やガラス)に加熱・押圧して、型の形状を被加工材料に転写する。熱式ナノインプリントプロセスは、型を加熱して材料に押し付けるだけの単純な工程でナノ構造体が形成できる技術である。とは言ってもナノインプリント技術は未だ発展途上の技術であり、公的研究機関においても民間企業においても活発な研究開発が行なわれている。ナノインプリントによるリソグラフィは、高価な露光装置やマスクを必要としないため、安価に超微細加工を行なうことが可能であり、光デバイス、記録媒体、電子デバイス、バイオチップ関連など、幅広い分野での応用が期待されている。
【特許文献1】特開2004−288811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
円筒状の基体の側面に形成された転写層にナノインプリントを利用して回路パターンを形成できれば、有益な応用が期待できる。例えば円筒側面にコイル上の導電回路を形成すれば、その円筒基体をモータのステータとして利用することができる。しかし既存の技術では、円筒側面へのナノインプリントを実現することができなかった。また、多層化された回路基板をナノインプリントを用いて形成しようとすると、上層の回路パターンと下層の回路パターンとの上下の位置関係が狂わないようにナノインプリントを行なう必要があるが、円筒側面へのナノインプリントへも対応可能な層間位置合わせ技術も当然ながら存在しなかった。そこで出願人は、これらの課題の1つ以上を解決しうる発明を行なった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の1つの側面によれば、ナノインプリントを行なう方法であって、円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなす形状に転写層が形成された被成形体を、モールドに押し付けながら前記モールド上を転動させることにより、前記モールドの表面に形成されたパターンを前記転写層に転写することを特徴とする、ナノインプリント方法が提供される。
【0005】
さらに本発明の別の側面によれば、円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなす面にパターンが形成された成型体の製造方法であって、前記面に転写層が形成された被成形体を、モールドに押し付けながら前記モールド上を転動させることにより、前記モールドの表面に形成されたパターンを前記転写層に転写するステップを備えることを特徴とする、製造方法が提供される。
【0006】
上記において、転写層の形状は、厳密に円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなす形状に限定されるものではなく、当然ながら、およそ円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなすような形状である場合を含む。
【0007】
本発明のさらに別の側面によれば、次のようなナノインプリント装置が提供される。このナノインプリント装置は、円筒又は円柱状の基体の側面の一部又は全部に形成された転写層に、モールドの表面に形成されたパターンを転写することを特徴とし、さらに該装置は、
・ 前記基体に着接する第1のジグと、
・ 前記第1のジグを回転自在に支持する第2のジグと、
・ 前記第2のジグに連結され、前記第1のジグ及び前記第2のジグを介して前記基体を前記モールドに押し付ける押し付け部と、
・ 前記モールドを保持すると共に、前記モールドを前記押し付け力に略垂直な方向に移動させる、可動保持部と、
を備えることを特徴とする。上記基体の形状は、当然ながら、厳密に円筒又は円柱状である場合に限定されるものではなく、およそ円筒又は円柱状である場合を含む。
【0008】
本発明の上記の側面によって提供されるナノインプリント方法、製造方法、及びナノインプリント装置によれば、およそ円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなす形状に形成された転写層へのナノインプリントを実現することができる。このような技術は、出願人の知る限り、現時点では公開されていない。前記のような形状へのナノインプリントが可能になれば、円筒側面状の基板に回路配線を形成したり、軸状の部材の表面に溝を形成したりするなど、様々な用途への応用が期待できる。後者の一例として、動圧軸受のシャフトの微細溝を形成する応用例が考えられる。むろん、単なる装飾用途のためにパターンを転写するような応用も考えられる。
【0009】
1つの実施態様において、前記第1のジグは、前記基体を貫通して前記基体に内接する軸状のジグであり、前記第2のジグは、前記軸状ジグを回転自在に支持する軸受状のジグであるように構成することができる。かかる構成においては、転写層が円筒又は円柱状の基体の側面の一部又は全部に形成された被成形体であっても、押圧機構が基体内部を貫通する軸を介して表面の転写層をモールドに押し付けることができるため、押圧機構が直接転写層に触れることなく、転写層とモールドとの押し付けが可能となる。従って、押圧機構が転写層に触れて転写層を変形させることなく、ナノインプリントが可能となる。さらに軸受によって被成形体が回転可能に保持されるため、上記可動保持部によってモールドが動かされると、被成形体は、モールドと被成形体表面の転写層との摩擦力によって、モールドに押し付けられたままモールド上で回転する。このため、モールドの移動に伴って、まだ転写が行なわれていない転写層の部分が順次モールドの新しい部分に押し付けられていくことになり、もって円筒側面状の一部又は全部をなすような形状の転写層に、平面的なモールドのパターンを転写することが可能となる。もちろん、モールドは平面的なものに限らず、曲面状のモールドに対しても、本発明の上記の側面によって提供されるナノインプリント装置を適用することが可能である。
【0010】
また別の実施態様において、前記第1のジグは、前記基体に外接するローラー状のジグであり、前記第2のジグは、前記ローラージグを回転自在に支持するフレームであるように構成することができる。このローラージグは、少なくとも2つ備えることが好ましく、2つのローラージグとモールドとで被成形体を安定に保持することが可能となる。さらに前記ローラージグは、その端部によって基体に当接する構造を有することが好ましい。このような構成によれば、ローラージグと被成形体が接する面積を少なく抑えることができるため、ローラージグと転写層との接触によって、パターンが転写されたばかりの転写層に余計なストレスをかけることを防ぐことができる。
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、モールドと被成形体とを接触させて加圧することによりパターンの転写を行なうナノインプリント方法であって、
・ 第1の嵌合構造を有する転写層と、該第1の嵌合構造に嵌合するように形成された第2の嵌合構造を有するモールドとを準備するステップと、
・ 前記第1の嵌合構造と前記第2の嵌合構造が嵌合するように前記転写層と前記モールドとを接触させるステップと、
・ 前記接触ステップに続き、前記モールドと前記転写層の接触面に圧力を加えて前記転写層に前記モールドのパターンを転写するステップと、
を備えることを特徴とする、ナノインプリント方法が提供される。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、表面にパターンが形成された成形体の製造方法であって、
・ 第1の嵌合構造を有する被成形体と、該第1の嵌合構造に嵌合するように形成された第2の嵌合構造を有するモールドとを準備するステップと、
・ 前記第1の嵌合構造と前記第2の嵌合構造が嵌合するように前記被成形体と前記モールドとを接触させるステップと、
・ 前記接触ステップに続き、前記被成形体と前記モールドとの接触面に圧力を加えて前記被成形体に前記モールドのパターンを転写するステップと、
を備えることを特徴とする、製造方法が提供される。
【0013】
本発明の上記の側面によって提供されるこれらのナノインプリント方法及び製造方法によれば、被成形体とモールドの嵌合構造によって、被成形体とモールドの位置合わせを行なってからナノインプリントを行なうことができるので、被成形体上でパターンの転写を行なう位置を、正確に制御することが可能となる。
【0014】
上記第1の嵌合構造は凹形状であると共に、開口端から奥へ向けて開口径がすぼむ形状を有し、上記第2の嵌合構造は凸形状であると共に、先端部から基部にかけて断面が太くなる形状を有することが好ましい。従って、第1の嵌合構造は、例えば円錐や三角錐、四角錐状の凹みであったり、断面が三角形や台形となる溝状(谷状)の構造物であったりすることができる。同様に第2の嵌合構造は、例えば円錐や三角錐、四角錐状の突起物であったり、断面が三角形や台形となる凸条(線条、稜状)構造物であったりすることができる。このような形状とすれば、上記第1及び第2の嵌合構造が、自然と嵌り易くなると共に、離脱もスムーズになるという利点を有する。
【0015】
上記の被成形体は、円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなす形状に転写層が形成された被成形体であることができる。その場合は、前記転写ステップにおいて、このような被成形体をモールドに押し付けながら前記モールド上を転動させることにより、モールドのパターンを該転写層に転写すればよい。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、本発明は次のような積層回路基板の製造方法を提供することができる。この積層回路基板の製造方法は、ナノインプリント法を用いて少なくとも2つ以上の層の回路パターンを形成することを特徴とし、さらに該方法は、
・ 第1の嵌合構造を有する第1の転写層と、該第1の嵌合構造に嵌合するように形成された第2の嵌合構造を有する第1のモールドとを準備するステップと、
・ 前記第1の嵌合構造と前記第2の嵌合構造が嵌合するように前記第1の転写層と前記第1のモールドとを接触させる第1の接触ステップと、
・ 前記第1の接触ステップに続いて、前記第1の転写層と前記第1のモールドとの接触面に圧力を加えて前記第1の転写層に前記第1のモールドのパターンを転写する第1の転写ステップと、
・ 前記転写されたパターンに導体を充填するステップと、
・ 導体パターンが形成された前記第1の転写層上に、前記第1の嵌合構造が消失しないように第2の転写層を形成するステップと、
・ 前記第1の嵌合構造に嵌合するように形成された第3の嵌合構造を有する第2のモールドを準備するステップと、
・ 前記第1の嵌合構造と前記第3の嵌合構造が嵌合するように前記第2の転写層と前記第2のモールドとを接触させる第2の接触ステップと、
・ 前記第2の接触ステップに続いて、前記第2の転写層と前記第2のモールドとの接触面に圧力を加えて前記第2の転写層に前記第2のモールドのパターンを転写する第2の転写ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0017】
上記の製造方法によれば、各層において上記の嵌合構造を合わせてからパターンの転写を行なうため、上層のパターンと下層のパターンとの上下の位置関係を正確に合わせてナノインプリントを行なうことができる。
【0018】
上記転写層の形状は、平面的な形状でも、およそ円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなすような形状でも構わない。転写層の形状が後者のような形状である場合は、まず上記の嵌合構造を合わせ、その後転写層をモールド上を転動させつつモールドに押し付けることにより、モールドのパターンを該転写層に転写することができる。このように、上記の製造方法では、平面的な形状の積層基板のみならず、およそ円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなすような形状の積層基板を製造する場合にも、層間の位置関係を正確に合わせることができる。
【0019】
上記充填ステップ及び形成ステップにおいて、上記第1の嵌合構造が消失しないように、前記第1の嵌合構造を保護部材に嵌合させておくことが好ましい。
【0020】
本発明のさらに別の側面によれば、本発明は次のような積層回路基板の製造方法を提供することができる。この積層回路基板の製造方法は、少なくとも2つ以上の層の回路パターンをナノインプリント法を用いて形成することを特徴とし、さらに該方法は、第1層形成のためのナノインプリントにおいて、第2層のモールドに設けられた第1の嵌合構造に嵌合するための第2の嵌合構造を、第1層の転写層に形成することを特徴とする、積層回路基板の製造方法が提供される。
【0021】
本発明のさらに別の側面によれば、ナノインプリント用モールドであって、被成形体に転写する転写パターンを有すると共に、前記被成形体に設けられた位置合わせ用凹部に嵌合するための凸構造を備えるモールドが提供される。
【0022】
本発明のさらに別の側面によれば、積層回路基板を製造するためのナノインプリント用モールドのセットであって、該セットに属する少なくとも2つ以上のモールドが、被成形体に転写する転写パターンを有すると共に、前記被成形体に設けられた位置合わせ用凹部に嵌合するための凸部を備えるモールドセットが提供される。
【0023】
本発明のさらに別の側面によれば、第1及び第2のナノインプリント用モールドを含むナノインプリント用モールドのセットであって、前記第1のモールドは、被成形体に位置合わせ用の凹構造を転写するための位置合わせ構造転写部を備え、前記第2のモールドは、該転写された凹構造に嵌合するための凸構造を備えるモールドセットが提供される。
【0024】
本発明のさらに別の側面によれば、ナノインプリント用被成形体であって、該被成形体にパターンを転写するためのモールドに形成された嵌合構造に嵌合するための嵌合構造を備えた被成形体が提供される。
【0025】
本発明は、そのさらに別の具体的態様の一つに、次のようなナノインプリント装置を含む。このナノインプリント装置は、およそ円筒又は円柱状の基体の側面の一部又は全部に転写層が形成された被成型体に、平板モールドの表面に形成されたパターンを転写することを特徴とし、さらに該装置は、前記平板モールドを固定保持するモールド固定具と、前記平板モールドを前記モールド固定具ごと水平移動させることを可能とする移動ステージと、前記平板モールド上に載置された前記被成型体を、前記平板モールドに押し付ける押し付け機と、前記押し付け機と前記被成型体との間に設けられると共に、前記被成型体の長軸と同じかそれ以上の幅長を有し、前記転写層より柔らかい弾性体によって形成される弾性層と、を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明は、そのさらに別の具体的態様の一つに、次のような製造方法を含む。この製造方法は、側面の一部又は全部にパターンが形成された円筒又は円柱状成型体をナノインプリントによって製造する方法であって、およそ円筒又は円柱状の基体の側面の一部又は全部に転写層が形成された被成型体および表面に転写すべきパターンが形成された平板状のナノインプリント用モールドを準備するステップと、水平移動が可能な載物台上に前記モールドを固定するステップと、前記モールド上に前記被成型体を載置するステップと、前記被成型体の長軸と同じかそれ以上の幅長を有すると共に前記転写層より柔らかい弾性体によって形成される弾性層を介して前記被成型体を前記モールド上に押し付けるステップと、前記押し付けを継続しつつ前記被成型体が前記モールド上で転動するように前記モールドを前記載物台によって移動させるステップと、を有することを特徴とする。
【0027】
上記のナノインプリント装置及びナノインプリント成型体製造方法は、特に、撓みを生じ易い円筒又は円柱被成型体に適している。円筒又は円柱被成型体は、径が非常に細かったり、基体の材料が柔らかいものであったりすると、どうしても撓みを生じ易くなってしまう。ナノインプリント実行時に被成型体が撓んでしまうと、転写層とモールドとの接触部位にかかる押し付け力が場所によって不均一になり、パターンの転写をうまく行えなくなる場合がある。出願人の調査によれば、円柱基体にステンレスなどの硬い物質を使った場合でも、直径0.45mm以下になると、ナノインプリント実行中の撓みの影響が無視できなくなることが分かっている。
【0028】
しかし上記のナノインプリント装置及びナノインプリント成型体製造方法によれば、被成型体の長軸と同じかそれ以上の幅長を有する弾性層を介して被成型体をモールドに押し付けるため、弾性層が押し付け力の不均一を吸収し、円筒又は円柱被成型体を軸に沿って一様にモールドに押し付けることができるため、押し付け中に被成型体が撓む可能性が非常に低くなり、きれいな転写パターンを得ることができる。押し付け力の一様性をさらに向上させるためには、弾性層を介して被成型体を押し付ける部位も、被成型体の長軸と同じかそれ以上の幅長を有する平面であることが好ましい。
【0029】
上記のナノインプリント装置及びナノインプリント成型体製造方法では、被成型体をモールド上で転動させることによって転写面の全体にパターンの転写を行うため、パターン転写が完了した部位は、プロセスの進行と共に回転して押し付け機に接触することになる。ここで、転写層に直接接触する押し付け機の部位が硬い物質でできていると、せっかく転写・成型されたパターンが、押し付け機に接触した途端に潰されるなどして破壊されてしまう可能性がある。しかし上記のナノインプリント装置及びナノインプリント成型体製造方法によれば、押し付け機と転写層との間に設けられる弾性層が、転写層より柔らかい弾性体によって形成されるため、被成型体の回転に伴って転写層が弾性層に押し付けられても、転写層に形成されたパターンが破壊される危険が非常に少ない。従って上記のナノインプリント装置及び製造方法では、安定してきれいな転写パターンを形成することができる。このような弾性体としては、例えばシリコンゴムなどを用いることができる。
【0030】
このように、上記のナノインプリント装置及びナノインプリント成型体製造方法によれば、極細径であったりするなどして、撓みやすい円筒又は円柱被成型体に対しても、安定して微細パターンの転写を行うことが可能である。
【0031】
本発明は、上記に開示した本発明の様々な特徴、及び本願出願時の特許請求の範囲に記載された特徴の、如何なる組み合わせをも、その範囲に包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施例を添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明によるナノインプリント装置100を横から見た概念図である。ナノインプリント装置100は、円筒側面に転写層が形成された円筒状の基体102に、平面状のモールド104に形成されたパターンを転写する装置である。転写層は熱可塑性樹脂から形成され、モールド104はNiモールドである。ナノインプリント装置100は、モールド104を固定保持すると共に図の左方向106にモールド104を動かすことのできるステージ108と、モールド104を加熱するためのヒータ110を備える。またナノインプリント装置100は、円筒基体102の内孔を貫通して円筒基体102を固定する軸112,ベアリングを内蔵することにより軸112を回転自在に支持する軸受114,支柱116によって軸受114を固定する円筒部材固定ジグ118,プレス装置120等を備える。軸112や軸受114の周辺の拡大斜視図が図2に示される。
【0034】
プレス装置120は、モールド104の面に垂直な方向122に荷重を発生し、円筒部材固定ジグ118や軸受114を介して、円筒基体102を軸112ごとモールド104に押し付けるための装置である。ヒータ110は、円筒基体102の転写層が十分な可塑性を持つように、転写層をモールド104を介して熱するために設けられる。円筒基体102の転写層を必要な温度まで熱し、モールド104に押し付けると、モールド104のパターンを該転写層へ転写することができる。
【0035】
図3を用いてナノインプリント装置100の動作を説明する。図3aは、ナノインプリント開始直後のナノインプリント装置100の様子を描いたものである。モールド104は、その端部が円筒基体102に当接するように、ステージ108によって位置が制御される。そして円筒基体102は、軸112や軸受114を介してプレス装置120によってモールド104に押し付けられる。また円筒基体102はモールド104を介してヒータ110によってガラス転移温度付近まで熱せられる。これらにより、モールド104に接触している部分の転写層に、モールドの接触部分のパターンが転写される。
【0036】
続いて、プレス装置120が円筒基体102をモールド104に押し付けたまま、ステージ108がモールド104を水平方向106へ動かす。すると、軸112は円筒基体102に対して固定されているが、軸112は軸受114に対して回転可能であるため、モールド104と転写層との摩擦力により、円筒基体102は、軸受114を支点に軸112ごとモールド104上を転動する。この様子が図3b及び図3cに示されている。円筒基体102の転動の様子が矢印130で示される。図3a〜cに描かれるように、モールド104の移動に伴って転写層の異なる部分が次々にモールド104の異なる部分に押し付けられ、最終的には平面状モールド104に形成されたパターンの全体が、円筒基体102の側面に形成された転写層に転写されることができる。このように、円筒状の被成形体にナノインプリントを可能とする装置は、出願人の知る限り、本願出願前には公開されていない。
【0037】
パターンが転写された円筒基体102は、図4(a)に描かれるように、軸112ごと軸受114から外され、さらに図4(b)に描かれるように軸112を引き抜いて、所望の目的に使われることができる。例えば、転写されたパターンにメッキ等で導体を充填すれば、円筒状の回路基板を作ることができる。
【0038】
回路が形成された円筒基体102の円筒側面に、熱可塑性樹脂を塗布するなどによって別の転写層を形成し、再びナノインプリント装置100を用いて新たな転写層に別の回路パターンを転写することができる。これを繰り返すことで、円筒状の積層回路基板を製造することが可能となる。積層回路基板を製造する場合、層間の位置関係がずれないように、回路パターンを転写することが必要になるが、この課題に対応した実施例が、後に説明される。
【実施例2】
【0039】
実施例2では、円筒側面へのナノインプリントにおいて、パターンが転写される円筒側面中の位置を正確に制御しうる実施態様を説明する。実施例2は、特に積層回路基板を製造するときに有用な実施態様である。実施例2の説明の後半では、積層回路基板の製造方法の例も説明される。
【0040】
図5は、実施例2に係る円筒状被成形体200とモールド204を側面から見た概念図、図6aは円筒状被成形体200の斜視図である。被成形体200は、実施例1における軸112に対応する軸212を備える。軸212は軸112と同じ機能を有するが、その一部に切り欠き部205を有するところが異なる。また軸212の周りには熱可塑性樹脂により転写層202が形成される。転写層202は実施例1における円筒基体102に対応するが、切り欠き部205の部分は図5や図6aに示されるように転写層が形成されないところが異なっている。切り欠き部205は、図6aに描かれるごとく、軸212の軸方向に延びる溝のように、転写層202及び軸212に形成される。
【0041】
実施例2では、実施例1におけるモールド104の代わりにモールド204を用いる。モールド204は、切り欠き部205に嵌合するための凸条207を有する。それ以外はモールド204はモールド104と同じ機能を有し、転写層202に転写すべきパターン209が形成されている。
【0042】
切り欠き部205は、開口端から奥へ向けて開口径がすぼむ形状を有しており、また凸条207は、先端部から基部にかけて断面が太くなる形状を有する。このような形状とすることで、転写層202をモールド204に対置させた時に、凸条207が切り欠き部205へ自然に嵌め込まれるようにすることができる。
【0043】
軸212や転写層202,モールド204は、実施例1におけるナノインプリント装置100で使用されることができる。すなわち、軸212は軸受114によって回転自在に支持され、また軸受114を介してプレス装置120によって転写層202ごとモールド204に押し付けられる。モールド204はステージ108によって固定保持されると共に、水平方向に動かされることができる。
【0044】
なお、切り欠き部205は図6aに示されるような溝状に形成されても良いが、図6bに示されるように、孔状に形成されてもよい。図6bは、円筒状被成形体200の変形例200’を示した図である。202’は図6aの転写層202に対応する転写層であり、212’は図6aの軸212に対応する軸である。図6aの切り欠き部205に対応する構造は、嵌合孔205’で示されており、転写層202’の2カ所に形成されている。200’のような被成形体を用いる場合、モールド204に形成される凸条207に対応する嵌合構造も、嵌合孔205’に対応して突起物状の構造が2カ所に設けられることになる。
【0045】
図7は、実施例2におけるナノインプリント実行時の様子を示す図である。転写層202をモールド204に押し付ける前に、まず切り欠き部205と凸条207とが嵌合するように、転写層202とモールド204を接触させる(図7a)。これにより、転写層202とモールド204との位置合わせを正確に行なうことができる。続いてプレス装置120によって、転写層202を、軸212ごとモールド204の面に垂直な方向211へ押し付ける。すなわち転写層202をモールド204へ押し付ける。さらにステージ108がモールド204を水平方向213へゆっくりと動かす。すると、軸212は軸受114によって回転自在に支持されているため、軸212と転写層202は、モールド204に押し付けられたまま、方向215の向きに転がるように動く。切り欠き部205と凸条207が上記のような形状をしているため、切り欠き部205と凸条207との離脱がスムーズに行なわれることができる。モールド204に接している転写層202の部分は、モールド204を介してヒータ110によってガラス転移温度付近まで熱せられる。このため、接触部分はパターン209によって変形させられ、パターン209が転写される。図7b〜dに描かれるように、モールド204の移動に伴って転写層202が回転し、転写層202の異なる部分が次々にモールド204の異なる部分に押し付けられる。最終的には平面状のモールド204に形成されたパターン209の全体が、円筒状の転写層202に転写される(図7d)。
【0046】
図8と9を用いて、円筒状の積層回路基板を製造する実施態様を説明する。図8は、パターンが転写された転写層202に新たな転写層を形成する様子を示した図である。図8aは、図7dでモールド204のパターン209の転写が完了した被成形体200を描いたものであり、転写層202に転写されたパターン221が形成されている。図8bでは、パターン221に金属を充填して層202の回路を完成させるため、層202を無電解メッキにより銅222をコーティングした様子が示されている。メッキ作業によって切り欠き部205が消失しないように、メッキ中は切り欠き部205を保護ジグ224で覆う。その後、表面を研磨して余分なメッキを落とすと、パターン221のみが銅で充填され、層202の回路が完成する(図8c)。次に、回路が完成した転写層202の上に、熱可塑性樹脂を塗布して新たな転写層225を形成する(図8d)。転写層225の形成中も、切り欠き部205が消失しないように、切り欠き部205が保護ジグ224で覆われる。保護ジグ224のおかげで、新たな転写層225が形成された後も、切り欠き部205は消失せずに残る(図8e)。
【0047】
図9は、図8で作られた被成形体200に、新たなパターンを転写する様子を示した図である。この転写にはモールド231が用いられる。図9aに描かれるように、モールド231は、転写すべきパターン235を備えるほか、モールド204と同様に、切り欠き部205に嵌合する凸条233を備える。そして転写層202の転写プロセスと同様に、まず切り欠き部205と凸条233とが嵌合するように、転写層225とモールド231とを接触させる(図9b)。これにより、転写層225とモールド231との位置合わせを正確に行なうことができるのみならず、転写層202に形成された回路233とモールド231との位置合わせを正確に行なうことができる。すなわち、この実施例で製造された積層回路基板は、上層の回路と下層の回路の位置関係を正確に合わせることができる。切り欠き部205と凸条233を嵌合させることにより位置合わせをした後は、図7のように、被成形体225をモールド231に押し付けつつ転動させることで、符号227で示すように、モールドのパターン235を転写層225に転写することができる(図9c)。
【0048】
図8,図9に示されたステップを繰り返すことで、円筒状の積層回路基板を製造することが可能となる。また、切り欠き部205が消失しないようにメッキや転写層の形成を行なうと共に、切り欠き部205に嵌合する嵌合突起を備えたモールドのセットを用いることで、層間の回路の位置関係を正確に合わせながら積層回路基板を製造することが可能となる。
【実施例3】
【0049】
実施例3では、円筒状の積層回路基板を製造するにおいて、実施例2の切り欠き部205も、ナノインプリントで形成する実施態様を説明する。図10はかかる実施態様における円筒側面へのナノインプリント方法を説明するための図である。
【0050】
図10(a)を参照する。実施例3における被成形体300は、実施例1や実施例2における被成形体と同様、軸312の周りに樹脂転写層302が形成された構造をしている。軸312は、実施例1のナノインプリント装置100の軸112に替えて用いられることができ、軸受114によって回転可能に支持される。軸312や転写層302は、実施例1における軸112や、円筒基体102の側面に形成された転写層と全く同じ物であることができる。
【0051】
実施例3で用いられるモールド304は、転写層302に転写すべきパターン309を有する。実施例2で用いられるモールド204や231と同様、モールド304は、実施例1のナノインプリント装置100で用いられることができ、ステージ108によって保持・移動される。しかしモールド304の凸条307は、モールド204の凸条207とは異なり、転写層302に切り欠き部を形成するための凸条である。
【0052】
被成形体300への転写プロセスは、まず転写層302をモールド304の凸条307へ押し付けることから始まる(図10b)。続いて転写層302をモールド304に押し付けたまま、ステージ108によってモールド304を水平方向(図10の左方向)へ動かすことで、被成形体300は矢印310のようにモールド304上を転がるように動く(図10c、図10d)。図10cには、凸条307による切り欠き部315や、パターン309による転写パターン316が、転写層302に形成されている様子が示されている。
【0053】
次に、被成形体300の多層化プロセスを、図11と図12を用いて説明する。図11は、パターンが転写された転写層302に新たな転写層を形成する様子を示した図である。図10b〜dのプロセスによって、転写パターン316が形成された被成形体(図11a)に、メッキにより転写パターン316内に金属を充填して回路317を形成し(図11b)、さらに回路317が形成された転写層302の上に、熱可塑性樹脂を塗布して新たな転写層322を形成する。メッキや転写層322を形成する間、切り欠き部315が消失しないよう、切り欠き部は保護ジグ324で保護される。
【0054】
図12は、図11で作られた被成形体300に新たなパターンを転写する様子を示した図である。図12aは、転写層322にパターンを転写するモールド331を描いたものである。モールド331は、転写すべきパターン333の他に、切り欠き部315に嵌合する凸条332を備えている。転写層322への転写プロセスでは、まず始めに切り欠き部315と凸条332が嵌合させられる。これによって、転写層302の回路パターンと、転写層322の回路パターンの位置関係を、正確に定めることができる。切り欠き部315と凸条332を嵌合させて位置合わせを行なった後、転写層322をモールド331へ押し付けながらモールド331上を転動させることにより、モールド331のパターンを転写層322に転写する。
【0055】
被成形体に位置合わせ用の凹構造を転写するための位置合わせ構造転写部を備えるモールドと、転写された凹構造に嵌合するための凸構造を備えるモールドのセットを用いることにより、層間の位置関係を正確に合わせながら積層回路基板を製造することが可能となる。
【実施例4】
【0056】
図13から図15を用いて、本発明を適用したナノインプリント装置の別の実施例を説明する。図13は、この実施例にかかるナノインプリント装置の原理を理解するための概念図である。ナノインプリント装置400は、円筒又は円柱状の被成形体402に、平面状のモールド404のパターンを転写するナノインプリント装置である。被成形体402は、例えば図6aや図6bに示されるように、円筒又は円柱状の基体の側面の一部又は全部に転写層が形成されており、ここにモールド404の表面に形成されたパターンが転写される。
【0057】
ナノインプリント装置400は、被成形体402に外接する、ローラー410及び420、ローラー410及び420を回転自在に指示するフレーム430を備える。ローラー410は、軸部413の両端に外接部411及び412が形成された構造を有しており、外接部411及び412は被成形体402に直接に接するが、軸部413は被成形体402に接触しないようになっている。同様にローラー420も、軸部423の両端に外接部421及び422が形成された構造を有しており、外接部421及び422は被成形体402に直接に接するが、軸部423は被成形体402に接触しない。
【0058】
ナノインプリント実行時において、フレーム430は、図示しない押圧機構によって、モールド404の表面に垂直な方向(矢印441参照)へ押圧される。この押圧力はローラー410及び420の外接部411,412,421,422を介して被成形体402に伝えられる。これによって被成形体402の転写層がモールド404に押し付けられ、パターンの転写が行われる。このとき被成形体402の転写層は、モールド404(又は被成形体402の基体)を介し、図示しないヒータによって、パターンの転写が可能となる温度まで熱せられる。
【0059】
さらにナノインプリント実行時において、モールド404は、図示しない可動機構によって、前記押圧力に垂直な方向、すなわちモールド404の表面に平行な方向(矢印442)へ、ゆっくりと動かされる。すると被成形体402は、円柱状であり、さらに回転自在なローラー410及び420によって挟まれているため、被成形体402とモールド404との摩擦力によって、矢印444のようにモールド404上で回転する。このときローラー410及び420は、外接部411,412,421,422において円柱被成形体402に密着しているが、ローラー410及び420はフレーム430に対して回転自在に支持されているため、被成形体402と外接部411,412,421,422の摩擦力により、被成形体402の回転に伴って、ローラー410及び420も矢印445の方向に回転する。このためローラー410及び420は、被成形体402がモールド404上を転動するのを妨げることなく、被成形体402をモールドに押し付けることができる。被成形体402の転動がスムーズに行なわれるように、被成形体402とモールド404の一部に、これらの間の摩擦力を増すような構造を形成してもよい。同様に、被成形体402の回転に伴ってローラー410及び420がスムーズに回転するように、外接部411,412,421,422と被成形体402の一部に、これらの間の摩擦力が増すような構造を設けてもよい。モールド404が移動すると共に被成形体402がその上で転動することにより、転写層の未転写部分がモールド404の別の部分へと順次押し付けられ、もって円筒側面へ形成された転写層全体へのナノインプリントが行なわれる。被成形体402の転動中において、ローラー410及び420は、その両端部411,412,421,422においてのみ被成形体402に接触するため、パターンが転写されたばかりの転写層に余計なストレスをかけることはない。
【0060】
このようにナノインプリント装置400は、被成形体402をモールド404に押し付けながらモールド404上を転動させることにより、平面状のモールドの表面に形成されたパターンを、円筒側面の一部又は全部をなす形状に形成された転写層に、転写することができる。このような形状へのナノインプリントが可能になれば、円筒側面状の基板に回路配線を形成したり、軸状の部材の表面に溝を形成したりするなど、様々な用途への応用が期待できる。後者の一例として、動圧軸受のシャフトの微細溝を形成する応用例が考えられる。むろん、単なる装飾用途のためにパターンを転写するような応用も考えられる。
【0061】
図14を用いて、実施例4にかかるナノインプリント装置のより具体的な実施態様を説明する。図14(a)は、この実施例に係るナノインプリント装置500を側面から見た図、図14(b)はナノインプリント装置500を上面から見た図である。
【0062】
ナノインプリント装置500は、ナノインプリント装置400のように、円柱状の基体の側面の一部又は全部に転写層が形成された被成形体502に、平面状のモールド504に形成されたパターンを転写するナノインプリント装置である。ナノインプリント装置500は、上記のローラー410及び420に対応するローラー510及び520、フレーム430に対応するフレーム530、ローラー510,520及びフレーム530を介して被成形体502をモールド504に押し付けるプレス装置532を有する。ローラー510及び520は、ローラー410及び420のように、被成形体502には接触しない軸部と、該軸部の両端に設けられた、被成形体502に接触する外接部とを有し、ローラー410及び420の外接部411,412,421,422に対応する外接部511,512,521,522と、ローラー410及び420の軸部413,423に対応する軸部513,523を有する。
【0063】
またナノインプリント装置500は、モールド504を保持するステージ535,ステージ535を支持する支持台536、ステージ535に接続される、表面にネジが刻まれた軸537、軸537に螺合するモータ538を有する。モータ538によって軸537を正転又は反転させることにより、ステージ535を矢印542又は543の方向へ移動することができる。またステージ535は内部にヒータを備え、モールド504を介して被成形体502の表面の転写層をガラス転移温度付近まで熱することができる。
【0064】
図15を用いてナノインプリント装置500の動作を説明する。図15(a)は、ナノインプリント開始前の様子を示している。ステージ535にモールド504が固定され、さらにモールド504上に円柱状被成形体502がセットされる。ローラー510及び520は、フレーム530やプレス装置532と共に、図示しない昇降機によって上方に引き上げられている。図15(b)は、ナノインプリント開始直後の様子を示している。ローラー510及び520は、フレーム530やプレス装置532と共に、図示しない昇降機によって引き下げられ、ローラー510及び520が、その外接部511,512,521,522において、被成形体502に密着させられる。さらにプレス装置532が、モールド504の表面に垂直な方向(矢印541参照)へ荷重をかける。この力はフレーム530及びローラー510,520を通じて被成形体502へ伝えられ、もって被成形体502がモールド504へ押し付けられる。さらにステージ535に内蔵されたヒータが、モールド504を介して、被成形体502の転写層を、パターン転写が可能な温度まで熱する。
【0065】
図15(c)は、ナノインプリント実行中の1つの局面を示している。被成形体502は、プレス装置532によって、フレーム530及びローラー510,520を介してモールド504の表面へと押し付けられている。また、モータ538が軸537を回転させることにより、ステージ535を矢印542の方向へと動かす。このため、モールド504は被成形体502に対して矢印542の方向へと移動するが、被成形体502は円柱状であり、また回転自在なローラー510及び520によって挟まれているため、モールド504との摩擦力によって矢印544のようにモールド504上で回転する。これに伴い、ローラー510及び520は矢印545のように回転する。このように、被成形体502がモールド上を転動することにより、被成形体502の転写層におけるパターンが転写されていない部分が、順次モールドの新しい部分へと押し付けられ、もって円筒状転写層全体へのナノインプリントが行なわれる。ステージ535の移動速度は、転写層の性質に応じて、転写が十分に行なわれる速度に注意深く調節される必要がある。図15(d)はナノインプリントの最終段階の様子が示されている。
【実施例5】
【0066】
次に、図16〜図18を参照して本願発明の第5の実施例について説明する。図16は、実施例5に係るナノインプリント装置1600の外観を模式的に描いた図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。また、図16(a)は、図16(b)に対するA矢視図であり、図16(b)は図16(a)に対するB矢視図となっている。
【0067】
ナノインプリント装置1600も、既に説明したナノインプリント装置100や400と同様、円筒又は円柱状の基体の側面の一部又は全部に転写層が形成された被成型体に、平板モールドの表面に形成されたパターンを転写するためのナノインプリント装置である。ナノインプリント装置1600において、平板モールド1612は、モールド固定具を備える移動ステージ1604上に載置固定される。移動ステージ1604は台座1602に設置され、平板モールド1612を、モールド固定具ごと水平移動させることができる。円柱状の被成型体1616は平板モールド1612上に載置される。台座1602にはヒータが内蔵されており、ナノインプリント実行時に、移動ステージ1604及びモールド1612を介して、被成型体1616の転写層を熱する。
【0068】
被成形体1616は、ステンレス製の円柱基体の側面に、転写層としてポリパラキシレンの膜が形成された、円柱状の被成形体である。基体の材料はステンレスでなくともよいが、なるべく硬い物質であることが好ましい。転写層の材料も、ポリパラキシレンでなくともよいが、円筒側面に均一で膜形成できる物質であることが好ましい。また回路パターンを形成する場合には、絶縁性に優れた物質であることが好ましい。
【0069】
さらにナノインプリント装置1600は、被成型体1616をモールド1612へ押し付けるための押し付け機1606と、被成型体1616と押し付け機1606との間に介在せしめられる弾性平板1608とを有する。図16(b)に描かれるように、押し付け機1606も弾性平板1608も、被成型体1616の長軸方向の幅が、被成型体1616の軸長よりも広くなっている。これは、押し付け機1606及び弾性平板1608が、ナノインプリント実行時に、円柱状の被成型体1616にかかる押し付け力を、その軸方向に亘って均一にするためである。このような構造を備えることにより、ナノインプリント装置1600は、被成型体1616に撓みが生ずることを防ぎつつ被成型体1616をモールド1612へ押し付けることができる。弾性平板1608は、被成型体1616よりも柔らかい弾性体で作られ、押し付け力の微妙な不均一をその弾性力によって吸収し、被成型体1616へかかる押し付け力を均一なものにする働きを持つ。さらに弾性平板1608は、被成型体1616に形成されたパターンに応じて適宜変形できるだけの柔軟性を有する弾性物質で作られ、形成されたパターンが押し付け機1606によって破壊されることを防ぐ役割を有する。弾性平板1608の材料としては、シリコンゴムなどを用いることができる。
【0070】
次に図17及び18を用いてナノインプリント装置1600によるナノインプリント実行時の動作を説明する。
【0071】
図17(a)は準備段階を描いた図である。表面に転写すべきパターン1614を有する平板モールド1612を移動ステージ1604上に固定し、さらに側面に転写層が形成された円柱状の被成型体1616をモールド1612上に載置する。モールド及び被成型体を所定位置にセットしたら、次に図17(b)に示すように、押し付け機1606を、平板1608が被成型体1616に接触するまで下降させる。さらに次の段階では、図17(c)に示すように、押し付け機1606を図17(b)の接触位置よりさらに下降させる。すると、弾性平板1608は被成型体1616よりも柔軟な材質でできているため、符号1608aで示すように弾性平板1608は被成型体1616に圧迫されて変形し、被成型体1616は弾性平板1608にめり込むことになる。なお、図17(c)では、説明のために、めり込み方が大げさに描かれていることに留意しておく。
【0072】
次のステップにおいて、ナノインプリント装置1600は、図18(a)に描かれるように、台座1602に組み込まれたヒータのスイッチを入れ、ステージ1604及びモールド1612を介して、被成型体1616の転写層においてモールド1612に接している部分の温度を成型可能温度にまで上昇させる。続いてナノインプリント装置1600は、図18(b)に描かれるように、押し付け機1606によって被成型体1616をモールド1612へ押し付け続けながら、ステージ1604を移動させることにより、モールド1612を図左方向へと水平移動させる。すると、被成型体1616の転写層と、モールド1612の転写パターン1614や平板1608との摩擦力などのため、被成型体1616は、モールド1612の移動に合わせてモールド1612上で転動する。このため、モールド1612が移動するにつれ、被成型体1616の転写層の異なる部分が、順にモールド1612へと押し付けられ、もって被成型体1616の円筒側面全体へのパターン転写が行われる。パターン転写が終了すると、成型された円柱成型体1616を取り出すことができるように、台座1602のヒータを切ると共に押し付け機1606を引き上げる(図18(c)参照)。
【0073】
図18(b)に描かれるように、被成型体1616の転写層の各部分は、モールド1612に押し付けられた後、被成型体1616が回転するにつれてモールド1612から離れ、空気によって冷やされることにより硬化しながら上方へと移動し、徐々に平板1608へと近づいていく。ここで平板1608が被成型体1616の転写層より硬い材質でできていると、せっかく転写・成型されたパターンが、平板1608に接触した途端に潰されるなどして破壊されてしまう可能性がある。しかしナノインプリント装置1600においては、平板1608を、被成型体1616の転写層よりも柔らかい弾性体によって形成しているため、そのようなことは起こり難くなっている。すなわち平板1608は、被成型体1616の転写層に形成されたパターンに応じて適宜変形しうるため、そのパターンが破壊されることを防ぐ役割を有している。
【0074】
このように、ナノインプリント装置1600によれば、極細径であったりするなどして、撓みやすい円筒又は円柱被成型体に対しても、円筒側面に対する微細パターンの転写を安定的に行うことが可能である。
【0075】
以上、本発明の実施態様を好適な実施例を挙げて説明したが、これらの実施例は本発明を制限するものではなく、また、本発明の範囲を逸脱せずに様々な変形が可能であることは、言うまでもない。例えば、上記の実施例で説明したモールドはいずれも平面状のモールドであったが、本発明は曲面状のモールドを用いることを制限するものではない。また、転写層とモールドとの位置合わせのための嵌合構造として実施例において例示したものは、断面が三角形となるような凹溝と凸条であったが、本発明の実施態様がこれに制限されることはない。例えば凹としては、円錐や三角錐、四角錐状の凹みであったり、断面が三角形や台形となる溝状(谷状)の構造物であったりすることができる。また凸構造としては、円錐や三角錐、四角錐状の突起物であったり、断面が三角形や台形となる凸条(線条、稜状)構造物であったりすることができる。さらに、上記の実施例で用いた被成形体は、円筒側面のほぼ全部をなすような形状の転写層を有していたが、これは単なる例示であって、本発明は、およそ円錐又は円筒側面の一部をなすような形状に転写層が形成された被成形体へのナノインプリントへも適用可能なことは、本明細書の全趣旨より当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明によるナノインプリント装置100を横から見た概念図である。
【図2】ナノインプリント装置100の一部の拡大斜視図である。
【図3】ナノインプリント装置100の動作中の様子を説明するための概念図である。
【図4】パターンが転写された円筒基体102の略図である。
【図5】実施例2に係る円筒状被成形体200とモールド204を側面から見た概念図である。
【図6a】円筒状被成形体200の斜視図である。
【図6b】円筒状被成形体200の変形例を示す図である。
【図7】実施例2におけるナノインプリント実行時の様子を示す図である。
【図8】パターンが転写された転写層202に新たな転写層を形成する様子を示した図である。
【図9】図8で作られた被成形体200に新たなパターンを転写する様子を示した図である。
【図10】実施例3に係る円筒側面へのナノインプリント方法を説明するための図である。
【図11】パターンが転写された転写層302に新たな転写層を形成する様子を示した図である。
【図12】図11で作られた被成形体300に新たなパターンを転写する様子を示した図である。
【図13】実施例4にかかるナノインプリント装置の原理を理解するための概念図である。
【図14】実施例4にかかるナノインプリント装置のより具体的な実施態様を示す概念図である。
【図15】実施例4にかかるナノインプリント装置の動作を説明するための図である。
【図16】実施例5に係るナノインプリント装置1600の外観の模式図
【図17】ナノインプリント装置1600の動作説明図
【図18】ナノインプリント装置1600の動作説明図
【符号の説明】
【0077】
100 ナノインプリント装置
102 円筒基体
104 モールド
108 ステージ
110 ヒータ
112 軸
114 軸受
118 円筒部材固定ジグ
120 プレス装置
200 円筒状被成形体
202 転写層
204 モールド
207 凸条
1600 ナノインプリント装置
1604 移動ステージ
1602 台座
1606 押し付け機
1608 弾性平板
1612 平板モールド
1616 被成型体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
およそ円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなす形状に転写層が形成された被成形体を、モールドに押し付けながら前記モールド上を転動させることにより、前記モールドの表面に形成されたパターンを前記転写層に転写することを特徴とする、ナノインプリント方法。
【請求項2】
およそ円錐又は円筒の側面の一部又は全部をなす面にパターンが形成された成型体の製造方法であって、前記面に転写層が形成された被成形体を、モールドに押し付けながら前記モールド上を転動させることにより、前記モールドの表面に形成されたパターンを前記転写層に転写するステップを備えることを特徴とする、製造方法。
【請求項3】
ナノインプリント装置であって、該装置は、およそ円筒又は円柱状の基体の側面の一部又は全部に形成された転写層に、モールドの表面に形成されたパターンを転写することを特徴とし、さらに該装置は、
・ 前記基体に着接する第1のジグと、
・ 前記第1のジグを回転自在に支持する第2のジグと、
・ 前記第2のジグに連結され、前記第1のジグ及び前記第2のジグを介して前記基体を前記モールドに押し付ける押し付け部と、
・ 前記モールドを保持すると共に、前記モールドを前記押し付け力に略垂直な方向に移動させる、可動保持部と、
を備えることを特徴とする、ナノインプリント装置。
【請求項4】
前記第1のジグは、前記基体を貫通して前記基体に内接する軸状のジグであり、前記第2のジグは、前記軸状ジグを回転自在に支持する軸受状のジグであることを特徴とする、請求項3に記載のナノインプリント装置。
【請求項5】
前記第1のジグは、前記基体に外接するローラー状のジグであり、前記第2のジグは、前記ローラージグを回転自在に支持するフレームであることを特徴とする、請求項3に記載のナノインプリント装置。
【請求項6】
前記ローラージグを少なくとも2つ有する請求項5に記載のナノインプリント装置。
【請求項7】
前記ローラージグは、その端部によって前記基体に当接する構造を有する請求項5又は6に記載のナノインプリント装置。
【請求項8】
ナノインプリント装置であって、該装置は、およそ円筒又は円柱状の基体の側面の一部又は全部に転写層が形成された被成型体に、平板モールドの表面に形成されたパターンを転写することを特徴とし、さらに該装置は、
・ 前記平板モールドを固定保持するモールド固定具と、
・ 前記平板モールドを前記モールド固定具ごと水平移動させることを可能とする移動ステージと、
・ 前記平板モールド上に載置された前記被成型体を、前記平板モールドに押し付ける押し付け機と、
・ 前記押し付け機と前記被成型体との間に設けられると共に、前記被成型体の長軸と同じかそれ以上の幅長を有し、前記転写層より柔らかい弾性体によって形成される弾性層と、
を備えることを特徴とするナノインプリント装置。
【請求項9】
前記押し付け機は、前記弾性層を介して前記被成型体を押し付ける部位が、前記被成型体の長軸と同じかそれ以上の幅長を有する平面である、請求項8に記載のナノインプリント装置。
【請求項10】
側面の一部又は全部にパターンが形成された円筒又は円柱状成型体をナノインプリントによって製造する方法であって、
・ およそ円筒又は円柱状の基体の側面の一部又は全部に転写層が形成された被成型体と、表面に転写すべきパターンが形成された、平板状のナノインプリント用モールドとを準備するステップと、
・ 水平移動が可能な載物台上に前記モールドを固定するステップと、
・ 前記モールド上に前記被成型体を載置するステップと、
・ 前記被成型体の長軸と同じかそれ以上の幅長を有し、前記転写層より柔らかい弾性体によって形成される弾性層を介して、前記被成型体を前記モールド上に押し付けるステップと、
・ 前記押し付けを継続しつつ、前記被成型体が前記モールド上で転動するように、前記モールドを前記載物台によって移動させるステップと、
を有する製造方法。


【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−76358(P2007−76358A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138720(P2006−138720)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000240477)並木精密宝石株式会社 (210)
【Fターム(参考)】