説明

ナノインプリント方法

【課題】基板の表面にシランカップリング剤を塗布して表面処理を実施する工程を含むナノインプリントにおいて、シランカップリング剤の凝集物の生成を低減することを可能とする。
【解決手段】ナノインプリント方法において、Si原子に隣接して1または2のアルキル基を有するシランカップリング剤3を基板2の表面に塗布し、シランカップリング剤3が塗布された上記表面に、イソボルニルアクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびシリコーンモノマー系化合物のいずれかを含有する硬化性樹脂を塗布して硬化性樹脂膜4を形成し、凹凸パターンを硬化性樹脂膜4に向けながらモールド1で硬化性樹脂膜4を押し付け、硬化性樹脂膜4を硬化させた後、モールド1を硬化性樹脂膜4から剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の凹凸パターンを表面に有するモールドを用いたナノインプリント方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)等の磁気記録媒体、及び半導体デバイスの製造等において、基板上に塗布された硬化性樹脂にナノインプリントを行うパターン転写技術の利用が期待されている。
【0003】
ナノインプリントは、光ディスク製作では良く知られているエンボス技術を発展させたパターン形成技術である。具体的には、ナノインプリントは、凹凸パターンを形成した型(一般的にモールド、スタンパ、テンプレートとも呼ばれる)を基板上に塗布された硬化性樹脂に押し付け、硬化性樹脂を力学的に変形または流動させて微細なパターンを精密に転写する技術である。モールドを一度作製すれば、ナノレベルの微細構造を簡単に繰り返して成型できるため経済的であるとともに、有害な廃棄物および排出物が少ない転写技術であるため、近年、さまざまな分野へも応用が期待されている。
【0004】
従来、凹凸パターンの微細化に伴って、硬化性樹脂のパターン形成性(硬化性樹脂に設計通りの凹凸パターンを形成することの容易さ)の観点から、モールドと硬化性樹脂との剥離性を向上させることが重要な課題となっている。
【0005】
そこで、上記剥離性を向上させる方法として、モールドの表面に有機化合物を含有した離型層を形成することにより、モールドと硬化性樹脂との間に働く接着力を減少させて上記剥離性を向上させる方法が使用されている。
【0006】
また、上記剥離性を向上させる他の方法として例えば特許文献1および2に示されるように、硬化性樹脂を塗布する基板の表面に予めシランカップリング剤を塗布して表面処理を実施する方法も使用されている。この方法によれば、シランカップリング剤により基板と硬化性樹脂との間に働く接着力が増大して、モールドと硬化性樹脂との間に働く接着力が相対的に減少するため、上記剥離性を向上させることが可能となる。この場合、シランカップリング剤の基板に対する結合力およびコストの面から、通常シランカップリング剤としてトリメトキシシランまたはトリクロロシランが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2010−526426号公報
【特許文献2】特開2010−152284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、トリメトキシシランおよびトリクロロシランを用いて基板に表面処理を施した場合、これらのシランカップリング剤の凝集物が基板上に生成され、図3に示されるように硬化性樹脂膜に欠陥Dが発生するという問題が生じうる。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、基板の表面にシランカップリング剤を塗布して表面処理を実施する工程を含むナノインプリントにおいて、シランカップリング剤の凝集物に起因する硬化性樹脂膜の欠陥の発生を低減することを可能とするナノインプリント方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るナノンプリント方法は、
微細な凹凸パターンを表面に有するモールドを用いたナノインプリント方法において、
下記構造式1で表されるシランカップリング剤を基板の表面に塗布し、
シランカップリング剤が塗布された上記表面に硬化性樹脂を塗布して硬化性樹脂膜を形成し、
凹凸パターンを硬化性樹脂膜に向けながら硬化性樹脂膜にモールドを押し付け、
硬化性樹脂膜を硬化させた後、モールドを硬化性樹脂膜から剥離することを特徴とするものである。
【0011】
構造式1:
【化1】

【0012】
なお構造式1において、Rはアルキル基を表し、Xは無機官能基を表し、Yは有機官能基を表し、LはSi原子および有機官能基を結ぶ連結基または単なる結合手を表し、nは1または2である。
【0013】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、アルキル基はメチル基および/またはエチル基であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。
【0014】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、シランカップリング剤は、3−アクリロキシプロピルージメチルメトキシシラン、3−アクリロキシプロピル−メチルビス−トリメチルシロキシシラン、3−アクリロキシプロピル−メチルジクロロシラン、または3−アクリロキシプロピル−メチルジメトキシシランであることが好ましい。
【0015】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、硬化性樹脂は、イソボルニルアクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびシリコーンモノマー系化合物のいずれかを含有するものであることが好ましい。
【0016】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、マイクロコンタクトプリンティング法によりシランカップリング剤を塗布することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るナノインプリント方法は、特に、硬化性樹脂を塗布する基板の表面に塗布するシランカップリング剤として上記構造式1で表されるシランカップリング剤を用いているから、シランカップリング剤同士の結合頻度が低減される。この結果、基板の表面にシランカップリング剤を塗布して表面処理を実施する工程を含むナノインプリントにおいて、シランカップリング剤の凝集物に起因する硬化性樹脂膜の欠陥の発生を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】マイクロコンタクト法によりシランカップリング剤を塗布する工程を含むナノインプリント方法の一工程を示す概略断面図である。
【図1B】マイクロコンタクト法によりシランカップリング剤を塗布する工程を含むナノインプリント方法の一工程を示す概略断面図である。
【図1C】マイクロコンタクト法によりシランカップリング剤を塗布する工程を含むナノインプリント方法の一工程を示す概略断面図である。
【図1D】マイクロコンタクト法によりシランカップリング剤を塗布する工程を含むナノインプリント方法の一工程を示す概略断面図である。
【図1E】マイクロコンタクト法によりシランカップリング剤を塗布する工程を含むナノインプリント方法の一工程を示す概略断面図である。
【図2A】ナノインプリントで使用するモールドを示す概略断面図である。
【図2B】図2Aにおけるモールドの凹凸パターン領域の一部の断面を示す概略拡大図である。
【図3】従来のシランカップリング剤を使用した表面処理を実施した基板上の硬化性樹脂膜の欠陥を表示する原子間力顕微鏡画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0020】
図1Aから1Eは、本実施形態のナノインプリント方法の工程を示した概略断面図である。また、図2Aはモールドを示す概略断面図であり、図2Bは図2Aにおけるモールドの凹凸パターン領域の一部の断面を示す概略拡大図である。
【0021】
本実施形態のナノインプリント方法は、図1Aから1Eに示されるように、微細な凹凸パターン13を表面に有するモールド1を用いたナノインプリント方法において、下記構造式1で表されるシランカップリング剤3を基板2の表面に塗布し(図1Aおよび図1B)、シランカップリング剤3が塗布された上記表面に、イソボルニルアクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびシリコーンモノマー系化合物のいずれかを含有する光硬化性樹脂を塗布して光硬化性樹脂膜4を形成し(図1C)、凹凸パターン13を光硬化性樹脂膜4に向けながら光硬化性樹脂膜4にモールド1を押し付け(図1D)、光硬化性樹脂膜4を露光して硬化させた後、モールド1を光硬化性樹脂膜4から剥離するものである(図1E)。
【0022】
構造式1:
【化2】

【0023】
構造式1において、Rはアルキル基を表し、Xは無機官能基を表し、Yは有機官能基を表し、LはSi原子および有機官能基を結ぶ連結基または単なる結合手を表し、nは1または2である。
【0024】
(モールド)
モールド1は、例えば図2Aおよび図2Bに示すように、支持部12と、支持部12の表面上に形成された微細な凹凸パターン13とから構成される。
【0025】
支持部12の材料は、例えばシリコン、ニッケル、アルミニウム、クロム、鉄、タンタルおよびタングステン等の金属材料、並びにそれらの酸化物、窒化物および炭化物とすることができる。具体的には、支持部12の材料としては、酸化シリコン、酸化アルミニウム、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスおよびソーダガラス等を挙げることができる。
【0026】
凹凸パターン13の形状は、特に限定されず、ナノインプリントの用途に応じて適宜選択される。例えば典型的なパターンとして図2Aおよび図2Bに示すようなライン&スペースパターンである。そして、ライン&スペースパターンの凸部の長さ、凸部の幅W1、凸部同士の間隔W2および凹部底面からの凸部の高さ(凹部の深さ)Hは適宜設定される。例えば、凸部の幅W1は10〜100nm、より好ましくは20〜70nmであり、凸部同士の間隔W2は10〜500nm、より好ましくは20〜100nmであり、凸部の高さHは10〜500nm、より好ましくは30〜100nmである。また、凹凸パターン13の形状は、その他、矩形、円および楕円等の断面を有するドットが配列したような形状でもよい。
【0027】
(離型層)
モールド1の凹凸パターンのある表面には、モールド1と光硬化性樹脂膜4との剥離性を向上させるために、離型層を設けることが好ましい。また離型層は、フッ素化合物を含有した層であることが好ましく、フッ素化合物はパーフルオロポリエーテルであることが好ましい。好ましいフッ素化合物としては、下記構造式2および3で表される化合物が挙げられる。
【0028】
構造式2:
(OCFCFCFOC−Si(OCH
【0029】
構造式2において、pは重合度(1以上の整数)を表す。
【0030】
構造式3:
(CHO)Si−CHCHCH−O−CHCF−(OCFCF−(OCF−OCFCH−O−CHCHCH−Si(OCH
【0031】
構造式3において、j及びkは重合度(1以上の整数)を表す。
【0032】
上記構造式3は、例えばアウジモント社製のフォンブリンZDOLを用いることによって生成することが可能である。フォンブリンZDOLとは、具体的には、下記構造式3−1で表される化合物である。
【0033】
構造式3−1:
HO−CHCF−(OCFCF−(OCF−OCFCH−OH
【0034】
構造式3−1において、j及びkは重合度(1以上の整数)を表す。数平均分子量は約2000である。
【0035】
例えば、上記構造式3−1で示されるフォンブリンZDOLに、NaH(ソディウムハイドライド)を反応させて両端の水酸基をソディウムオキサイドとし、これにアリルブロマイドを反応させて両端の水酸基をアリル化する。得られた末端不飽和化合物に対し、トリクロロシラン(SiHCl)でハイドロシリレーションを行う。その後、メタノールを作用させケイ素上の塩素原子をメトキシで置換して、上記構造式3で示される化合物を得ることができる。
【0036】
離型層の形成は、モールド1をフッ素化合物に暴露することにより行う。具体的には以下の通りである。
【0037】
パーフルオロポリエーテルは、0.01から10重量パーセント、好ましくは0.01から1重量パーセント、より好ましくは0.01から0.2重量パーセントの濃度にフッ素系不活性溶剤で希釈して使用する。すなわち、このような希釈溶液に、モールド1を浸漬することにより離型層の形成を行うのが好ましい。上記フッ素系不活性溶剤としては、例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、ジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC−225)等を挙げることができる。浸漬する際の温度は特に限定されないが、0℃〜100℃であればよい。また、浸漬に必要な時間は温度に応じて変化するが、通常、10分以内がよく、1分程度でも十分である。
【0038】
また、離型層の形成は、減圧下でパーフルオロポリエーテルの蒸気にモールド1を暴露することにより行うこともできる。この場合の気圧としては、1気圧未満で0.01気圧以上の範囲内であれば特に限定されない。モールド1をパーフルオロポリエーテルの蒸気に暴露するためには、例えば、上記パーフルオロポリエーテルの希釈溶液を加熱して蒸気にした状態でモールド1を放置してもよいし、モールド1にパーフルオロポリエーテルの蒸気を吹きつけてもよい。この場合の蒸気の温度は、100℃〜250℃程度でよい。
【0039】
離型層における層の粗密を含めた被覆度合は、フッ素化合物の希釈溶液にモールド1を暴露する時間やその希釈溶液の濃度を調整することにより適宜設計することが可能である。
【0040】
(基板)
加工対象となる基板2は、モールド1が光透過性を有する場合、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。基板2のパターン転写の対象となる面が硬化性樹脂塗布面となる。例えば基板2が情報記録媒体の製造向けのものである場合には、基板2の形状は通常円板状である。構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。材料としては、基板材料として公知のものの中から、適宜選択することができ、例えば、シリコン、タンタル、ニッケル、アルミニウム、これらの金属の酸化物および窒化物、石英等のガラス並びに樹脂などが挙げられる。これらの基板材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、基板材料は、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコンおよび石英が好ましく、シリコンがより好ましい。基板2の厚さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。基板2の厚さが0.05mm未満であると、基板2とモールド1との接着時に基板2側に撓みが発生し、均一な接着状態を確保できない可能性がある。一方、モールド1が光透過性を有しない場合は、光硬化性樹脂膜4の露光を可能とするために石英基板を用いる。石英基板は、光透過性を有し、厚さが0.3mm以上である範囲で、目的に応じて適宜選択される。石英基板の厚さが0.3mm未満では、ハンドリングやインプリント中の押圧で破損しやすい。なお石英は溶融石英であることが好ましい。
【0041】
基板2は、図1A等に示されるように、その硬化性樹脂塗布面に1層以上のマスク層を有することが好ましい。この場合、基板2は、支持基板2aおよびマスク層2bから構成される。マスク層2bは、残膜エッチング工程において、残膜が除去された後、残膜の下部構造、つまり基板2がエッチングされることを防止する役割を担う。マスク層2bの材料は、光硬化性樹脂膜4に対するマスク層2bのエッチング選択比が小さくなるように選択される。マスク層2bの材料は、特にクロム、タングステン、チタン、ニッケル、銀、白金、金などからなる金属、並びにこれらの酸化物および窒化物が好ましい。さらにマスク層2bは、クロム、クロム酸化物またはクロム窒化物を含有する層を少なくとも1層有することが好ましい。
【0042】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤は、基板と硬化性樹脂との間に働く接着力を増大させる役割を果たす。本発明において使用されるシランカップリング剤は、上記構造式1で表される、つまりSi原子に隣接して1または2のアルキル基を有するシランカップリング剤である。
【0043】
アルキル基Rは、炭素数が1から6であることが好ましく、メチル基またはエチル基であることがより好ましく、特にメチル基であることが好ましい。アルキル基の炭素鎖が長すぎると基板との結合において立体障害となるためである。n=2の場合には、一方がメチル基で他方がエチル基となってもよい。
【0044】
無機官能基Xは、無機材料と反応する官能基である。無機官能基Xとしては、主にアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)およびアシロキシ基(アセトキシ基、プロパノイルオキシ基など)等の加水分解基、並びにハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられる。
【0045】
有機官能基Yは、有機材料と反応する官能基である。有機官能基Yとしては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、シアノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ヒドラジノ基、ヒドラジド基、ビニルスルホン基、ビニル基、アルコキシ基などが挙げられる。
【0046】
連結基としてのLは、アルキレン基(炭素数1〜20が好ましい)、−O−、−S−、アリーレン基、−CO−、−NH−、−SO−、−COO−、−CONH−、またはこれらを組み合わせた基から選択される。連結基としてのLは特にアルキレン基が好ましい。一方、Lが単なる結合手の場合、構造式1においてYおよびSiが直接連結することを表す。
【0047】
シランカップリング剤は、3−アクリロキシプロピル−ジメチルメトキシシラン、3−アクリロキシプロピル−メチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、3−アクリロキシプロピル−メチルジクロロシラン、または3−アクリロキシプロピル−メチルジメトキシシランであることが特に好ましい。
【0048】
(シランカップリング剤の塗布方法)
シランカップリング剤の塗布方法は、ディップ法、スピンコート法等特に限定されない。図1Aおよび図1Bでは、スタンプ5を用いたマイクロコンタクトプリンティング(μCP)法によってシランカップリング剤を塗布する場合について示している。μCP法は、微小な凹凸パターンを表面に有するゴム状プラスチックのスタンプを用意し、このスタンプの凸部における頂上部の表面に分子を付着させ、当該頂上部表面を基板に密着させることにより上記凹凸パターンに対応したパターンを有する分子膜を基板上に作製する方法である。μCP法を用いた場合、材料消費を最小限に抑えることが可能となる。
【0049】
本実施形態においては、光硬化性樹脂膜4の凹凸パターンの凸部と基板2との接着力が増大するように、スタンプ5はモールド1の凹凸パターンと相補的な形状、つまり凸部と凹部が互いに反転した形状(図1A)の凹凸パターンを有する。スタンプ5の樹脂材料としては、ポリジメチルシロキサンが好ましい。ポリジメチルシロキサンから構成されるスタンプ5を用いてμCP法を実施した場合、スタンプ5へのシランカップリング剤の付着1回あたり、表面処理の効果を維持したまま10回程度連続してシランカップリング剤を塗布することが可能となる。μCP法についての詳細については例えば特開2010−80865等に開示されている。
【0050】
(硬化性樹脂膜)
本実施形態では硬化性樹脂膜は光硬化性の材料であるが、本発明はこれに限られず他に熱硬化性の材料を適用することもできる。本発明のナノインプリント方法は、硬化性樹脂の種類に関係なく有効である。さらに、本発明のナノインプリント方法は、イソボルニルアクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびシリコーンモノマー系化合物のいずれかを含有する硬化性樹脂に対してはより有効である。例えば、光硬化性樹脂を構成する代表的なバルク材料として、イソボルニルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、および2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンを含有する光硬化性樹脂を挙げることができる。なお適宜、界面活性剤を加えることもできる。
【0051】
アクリレート成分のイソボルニルアクリレート(IBOA:ISOBORNYL ACRYLATE)は、バルク材料の約47重量%であることが好ましいが、20〜80%の範囲で調整可能である。結果として、硬化性樹脂の機械的特性を主にIBOAが担っている。IBOAの例示的な供給元は、Exton、Pennsylvania所在のSartomer Company,Inc.であり、製品名SR506で入手可能である。
【0052】
n−ヘキシルアクリレート(n−HA:n-HEXYL ACRYLATE)は、バルク材料の約25重量%であることが好ましいが、0〜50%の範囲で調整可能である。硬化性樹脂に柔軟性をさらに与えたい場合には、n−HAを使用して硬化性樹脂の粘度を低下させ、硬化性樹脂が2〜9cPの範囲の粘度を有するように設計する。n−HAの例示的な供給元は、Milwaukee、Wisconsin所在のAldrich Chemical Companyである。
【0053】
架橋剤成分のエチレングリコールジアクリレート(EGDA:ETHYLENE GLYCOL DIACRYLATE)は、バルク材料の約25重量%であることが好ましいが、10〜50%の範囲で調整可能である。EGDAも弾性率と剛性の強化に寄与し、さらに、バルク材料を重合させる間にn−HAとIBOAの架橋を促進する役割を果たす。
【0054】
重合開始剤の2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンは、バルク材料の約3重量%であることが好ましいが、1〜5%の範囲で調整可能である。この重合開始剤が応答する化学線は、中圧水銀ランプが発生させる広帯域紫外線である。この重合開始剤により、バルク材料の各成分の架橋および重合が容易になる。2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンの例示的な供給元は、Tarrytown、New York所在のCiba Specialty Chemicalsであり、商品名DAROCUR(登録商標)1173で入手可能である。
【0055】
(モールドの押し付け工程)
モールド1と基板2間の雰囲気を減圧または真空雰囲気にした後に、モールド1を押し付けることで残留気体を低減する。ただし、高真空雰囲気下では硬化前の光硬化性樹脂が揮発し、均一な膜厚を維持することが困難となる可能性がある。そこで、好ましくはモールド1と基板2間の雰囲気を、He雰囲気または減圧He雰囲気にすることで残留気体を低減する。Heは石英基板を透過するため、取り込まれた残留気体(He)は徐々に減少する。Heの透過には時間を要すため減圧He雰囲気とすることがより好ましい。
【0056】
モールド1の押し付け圧は、100kPa以上、10MPa以下の範囲で行う。圧力が大きい方が、光硬化性樹脂の流動が促進され、また残留気体の圧縮、残留気体の光硬化性樹脂への溶解、石英基板中のHeの透過も促進し、タクトアップに繋がる。しかし、加圧力が強すぎるとモールド接触時に異物を噛みこんだ際にモールド1及び基板2が破損する可能性がある。よって、モールド1の押し付け圧は、100kPa以上、10MPa以下が好ましく、より好ましくは100kPa以上、5MPa、更に好ましくは100kPa以上、1MPa以下となる。100kPa以上としたのは、大気中でインプリントを行う際、モールド1と基板2間が液体で満たされている場合、モールド1と基板2間が大気圧(約101kPa)で加圧されているためである。
【0057】
(モールドの剥離工程)
モールド1を押し付けて光硬化性樹脂膜4に凹凸パターンを形成した後、モールド1を光硬化性樹脂膜4から剥離する。剥離させる方法としては、例えばモールド1または基板2のどちらかの外縁部を保持し、他方の基板2またはモールド1の裏面を吸引保持した状態で、外縁の保持部もしくは裏面の保持部を押圧と反対方向に相対移動させることで剥離させる方法が挙げられる。この工程を経た時点では、硬化性樹脂のパターンの凸部の幅は、モールド1の凹凸パターン13の凸部同士の間隔W2に一致する。
【0058】
以下本発明の作用を説明する。図3に示されるように硬化性樹脂膜に欠陥Dが発生する理由は、シランカップリング剤同士が結合してシランカップリング剤の凝集物が基板上に生成され、硬化性樹脂が当該凝集物にはじかれて欠陥Dが発生しているためと考えられる。したがって、硬化性樹脂膜の欠陥Dの発生を低減するためにはシランカップリング剤同士の結合頻度を低減する必要がある。シランカップリング剤同士の結合は、それぞれのシランカップリング剤の無機官能基Xが外れ、Si原子同士がO原子を介して結合することにより生じる。そこで本発明では、Si原子の結合手の1つまたは2つをアルキル基Rに置き換えたシランカップリング剤を使用することにより、Si原子同士の結合を阻害している。
【0059】
以上より、本発明に係るナノインプリント方法は、特に、硬化性樹脂を塗布する基板の表面に塗布するシランカップリング剤として上記構造式1で表されるシランカップリング剤を用いているから、シランカップリング剤同士の結合頻度が低減される。この結果、基板の表面にシランカップリング剤を塗布して表面処理を実施する工程を含むナノインプリントにおいて、シランカップリング剤の凝集物に起因する硬化性樹脂膜の欠陥の発生を低減することが可能となる。
【実施例】
【0060】
本発明に係るナノインプリント方法の実施例を以下に示す。
【0061】
「実施例1」
<光硬化性樹脂の準備>
ナノインプリントにおいて使用する光硬化性樹脂として、前述した光硬化性樹脂を用意した。この光硬化性樹脂の具体的な成分は以下の通りである。
光硬化性樹脂:
イソボルニルアクリレート(バルク材料全体の重量に対する重量比47重量%)、
n−ヘキシルアクリレート(バルク材料全体の重量に対する重量比25重量%)、
エチレングリコールジアクリレート(バルク材料全体の重量に対する重量比25重量%)、
2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(バルク材料全体の重量に対する重量比3重量%)、および、
ZONYL(登録商標)(フッ素系界面活性剤。バルク材料全体の重量に対する重量比1重量%未満)。
【0062】
<基板の表面処理>
シランカップリング剤として3−アクリロキシプロピル−ジメチルメトキシシランを使用した。当該シランカップリング剤1gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)99gで希釈した溶液を、スピンコートにより基板に塗布してSi基板の表面処理を行った。
【0063】
<光硬化性樹脂膜の作製>
まず、Si基板の上記表面処理を行った表面上に、スピンコートにより光硬化性樹脂を塗布し、光硬化性樹脂に対し基板温度100℃で10分間ベーキングを行い、膜厚80nmの光硬化性樹脂膜を作製した。
【0064】
<評価方法>
原子間力顕微鏡(AFM)(デジタルインスツルメンツ社製 Nanoscope3)により10μm×10μmの視野で、光硬化性樹脂膜の欠陥の有無を確認しおよびその欠陥数を計数した。
【0065】
「実施例2」
シランカップリング剤として3−アクリロキシプロピル−メチルビス(トリメチルシロキシ)シランを使用した点以外は実施例1と同様にして、光硬化性樹脂膜の欠陥の有無を確認しおよび欠陥数を計数した。
【0066】
「実施例3」
シランカップリング剤として3−アクリロキシプロピル−メチルジクロロシランを使用した点以外は実施例1と同様にして、光硬化性樹脂膜の欠陥の有無を確認しおよび欠陥数を計数した。
【0067】
「実施例4」
シランカップリング剤として3−アクリロキシプロピル−メチルジメトキシシランを使用した点以外は実施例1と同様にして、光硬化性樹脂膜の欠陥の有無を確認しおよび欠陥数を計数した。
【0068】
「比較例1」
シランカップリング剤として3−アクリロキシプロピル−トリメトキシシランを使用した点以外は実施例1と同様にして、光硬化性樹脂膜の欠陥の有無を確認しおよび欠陥数を計数した。
【0069】
「比較例2」
シランカップリング剤として3−アクリロキシプロピル−トリクロロシランを使用した点以外は実施例1と同様にして、光硬化性樹脂膜の欠陥の有無を確認しおよび欠陥数を計数した。
【0070】
「比較例3」
シランカップリング剤として3−アクリロキシプロピル−トリス(トリメチルシロキシ)シランを使用した点以外は実施例1と同様にして、光硬化性樹脂膜の欠陥の有無を確認しおよび欠陥数を計数した。
【0071】
「比較例4」
シランカップリング剤としてビス(トリメトキシ)シリルエチレンを使用した点以外は実施例1と同様にして、光硬化性樹脂膜の欠陥の有無を確認しおよび欠陥数を計数した。
【0072】
<結果>
下記表1は実施例1から4および比較例1から4の結果を示すものである。この結果、硬化性樹脂を塗布する基板の表面に上記構造式1で表されるシランカップリング剤を塗布して表面処理を実施した場合、シランカップリング剤の凝集物の生成を低減でき、硬化性樹脂膜をより均一になるように作製することができることが確認された。
【0073】
【表1】

【0074】
「実施例5」
モールドと相補的なパターンを有しポリジメチルシロキサンから構成されるスタンプを作成した。次に、このスタンプの凸部における頂上部の表面にシランカップリング剤を付着させた。その後、新たにシランカップリング剤を付着させることなく連続的に当該頂上部表面を複数の基板に密着させることにより、シランカップリング剤を複数の基板に塗布した。
【0075】
<結果>
シランカップリング剤の塗布回数が10回目の基板においてもスタンプのパターン通りにシランカップリング剤を塗布することができた。
【符号の説明】
【0076】
1 モールド
2 基板
2a 支持基板
2b マスク層
3 シランカップリング剤
4 光硬化性樹脂膜
5 スタンプ
12 支持部
13 凹凸パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な凹凸パターンを表面に有するモールドを用いたナノインプリント方法において、
下記構造式1で表されるシランカップリング剤を基板の表面に塗布し、
前記シランカップリング剤が塗布された前記表面に硬化性樹脂を塗布して硬化性樹脂膜を形成し、
前記凹凸パターンを前記硬化性樹脂膜に向けながら該硬化性樹脂膜に前記モールドを押し付け、
前記硬化性樹脂膜を硬化させた後、前記モールドを前記硬化性樹脂膜から剥離することを特徴とするナノインプリント方法。
構造式1:
【化1】

(構造式1において、Rはアルキル基を表し、Xは無機官能基を表し、Yは有機官能基を表し、LはSi原子および有機官能基を結ぶ連結基または単なる結合手を表し、nは1または2である。)
【請求項2】
前記アルキル基がメチル基および/またはエチル基であることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリント方法。
【請求項3】
前記アルキル基がメチル基であることを特徴とする請求項2に記載のナノインプリント方法。
【請求項4】
前記シランカップリング剤が3−アクリロキシプロピル−ジメチルメトキシシランであることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリント方法。
【請求項5】
前記シランカップリング剤が3−アクリロキシプロピル−メチルビス(トリメチルシロキシ)シランであることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリント方法。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が3−アクリロキシプロピル−メチルジクロロシランであることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリント方法。
【請求項7】
前記シランカップリング剤が3−アクリロキシプロピル−メチルジメトキシシランであることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリント方法。
【請求項8】
マイクロコンタクトプリンティング法により前記シランカップリング剤を塗布することを特徴とする請求項1から7いずれかに記載のナノインプリント方法。
【請求項9】
前記硬化性樹脂が、イソボルニルアクリレート、エチレングリコールジアクリレートおよびシリコーンモノマー系化合物のいずれかを含有するものであることを特徴とする請求項1から8いずれかに記載のナノインプリント方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−183753(P2012−183753A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48908(P2011−48908)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】