説明

ナノインプリント用のモールドおよびその製造方法

【課題】ナノインプリント用のモールドにおいて、レジストの厚さムラを低減することを可能とし、かつモールドに高い耐久性を付与することを可能とする。
【解決手段】微細な凹凸パターン12が形成されたパターン領域13を一方の表面11に有し、かつ、他方の表面14における高低差分布に関する3σ値が1〜6nmであるパターン付基板10と、少なくともパターン領域13に対応する部分が中抜きされた形状を有し、かつ、パターン付基板10の厚さ以上の厚さを有する中抜き基板30と、上記他方の表面14と当該他方の表面14に対向する中抜き基板30の表面とを接合するように、パターン付基板10および中抜き基板30の間に形成された金属膜20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)等の磁気記録媒体、及び半導体デバイスの製造等において、被加工物上に塗布されたレジストにナノインプリントを行うパターン転写技術の利用が期待されている。
【0002】
ナノインプリントは、光ディスク製作では良く知られているエンボス技術を発展させたパターン形成技術である。具体的には、ナノインプリントは、凹凸パターンを形成した型(一般的にモールド、スタンパ、テンプレートとも呼ばれる)を被加工物上に塗布されたレジストに押し付け、レジストを力学的に変形または流動させて微細なパターンを精密に転写する技術である。モールドを一度作製すれば、ナノレベルの微細構造を簡単に繰り返して成型できるため経済的であるとともに、有害な廃棄物および排出物が少ない転写技術であるため、近年、さまざまな分野へも応用が期待されている。
【0003】
従来、上記のようなナノインプリントは、全面にわたって平坦な円盤形状の基板の表面に凹凸パターンが形成されたモールドを使用して実施されている。しかしながら、上記のようなモールドを使用した場合には、凹凸パターンが形成された面の全面がレジストと密着してしまい剥離性が低下するといった問題が生じていた。
【0004】
そこで、例えば特許文献1および特許文献2に示されるように、近年、凹凸パターンが形成された表面と反対側の表面に窪みを有するモールドを使用したナノインプリントの開発が進められている。
【0005】
具体的には、特許文献1のモールド8は、図7Aに示されるように、凹凸パターン81が表面に形成され、その反対側の表面に窪み82を有する構造を有する。このモールドは、例えば、凹凸パターン81が表面に形成された基板の反対側の表面をエッチング法等によって除去することにより製造される。
【0006】
一方、特許文献2のモールド9は、図7Bに示されるように、凹凸パターン91が表面に形成された基板9aと、中央付近92が中抜きされた環形状の基板9bとが接着剤95によって張り合わされた構造を有する。
【0007】
上記のようにモールドが窪みを有する場合には、レジストからモールドを剥離する時に、レジストおよびモールドの付着力と剥離方向に働く剥離力とによって窪み近傍の部分に応力がかかり、モールド自体が湾曲することとなる。このため、レジストおよびモールドの界面の周囲に剥離力が集中して働くため、従来よりも小さな力で剥離を開始することができる。そして、剥離が進行するにつれて剥離力は周囲から中心へと順次効率よく働いていくため、剥離性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−170773号公報
【特許文献2】特表2009−536591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のモールドでは、モールドの窪みをエッチング法、リソグラフィ法およびレーザ加工法等の加工方法を用いているため、凹凸パターンが形成された表面と反対側の表面84(窪みの底面)の平坦性を担保できないという問題がある。表面84の平坦性が低く凹凸がある場合、凹凸パターンが形成された表面にもその影響が及び、インプリント後のレジストの厚さにムラが生じてしまう。
【0010】
また、特許文献2のモールドでは、有機系の接着剤を使用して基板同士が張り合わされるため、紫外光による露光工程において接着剤が紫外光に暴露されることにより、接着剤が劣化するという問題がある。これは、モールドの耐久性を低下させる要因となる。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ナノインプリント用のモールドにおいて、レジストの厚さムラを低減することを可能としかつ高い耐久性を有するモールドおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係るモールドは、ナノインプリント用のモールドであって、
微細な凹凸パターンが形成されたパターン領域を一方の表面に有し、かつ、他方の表面における高低差分布に関する3σ値が1〜6nmであるパターン付基板と、
少なくともパターン領域に対応する部分が中抜きされた形状を有し、かつ、パターン付基板の厚さ以上の厚さを有する中抜き基板と、
上記他方の表面と当該他方の表面に対向する中抜き基板の表面とを接合するように、パターン付基板および中抜き基板の間に形成された金属膜とを備えることを特徴とするものである。
【0013】
本明細書において、「高低差分布」とは、表面形状の高さに関する平均値を基準とした高低差の分布を意味する。
【0014】
「3σ値」とは、高低差分布をガウス分布で近似したときの平均値から±3σにおける値の絶対値を意味する。ここで、σはガウス分布における標準偏差である。
【0015】
そして、本発明に係るモールドにおいて、金属膜は、パターン領域に対応する上記他方の表面を実質的に被覆しない形状に形成されたものであることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係るモールドにおいて、400nm以下の波長における金属膜の光の透過率は1%以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係るモールドにおいて、金属膜の材料は、Ti、Al、Si、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Hf、Ta、PtおよびAuの材料群から選択されたいずれか1つの金属材料、または上記材料群より選択された1以上の材料を含む合金材料を含むことが好ましい。
【0018】
本発明に係るモールドの製造方法は、ナノインプリント用のモールドの製造方法であって、
微細な凹凸パターンが形成されたパターン領域を一方の表面に有し、かつ、他方の表面における高低差分布に関する3σ値が1〜6nmであるパターン付基板と、少なくともパターン領域に対応する部分が中抜きされた形状を有し、かつ、パターン付基板の厚さ以上の厚さを有する中抜き基板とを用意し、
パターン付基板の上記他方の表面と中抜き基板の一方の表面とを金属膜を介して接合することを特徴とするものである。
【0019】
そして、本発明に係るモールドの製造方法において、金属膜を介した接合は、パターン付基板の上記他方の表面に第1の金属層を形成し、中抜き基板の上記一方の表面に第2の金属層を形成し、第1の金属層および第2の金属層を互いに密着させて接合することにより実施されることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係るモールドの製造方法において、第1の金属層および第2の金属層の接合は原子拡散接合法により実施されることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係るモールドの製造方法において、パターン付基板の材料はSi、Si酸化物、Si窒化物、石英または金属であり、パターン付基板の厚さは0.3〜1.5mmであり、第1の金属層および第2の金属層の接合は、外圧がおよそ5g/cmである状態で実施されることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係るモールドの製造方法において、第1の金属層は、パターン領域に対応する上記他方の表面を実質的に被覆しない形状に形成されたものであることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係るモールドの製造方法において、第1の金属層の材料および/または第2の金属層の材料は、Ti、Al、Si、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Hf、Ta、PtおよびAuの材料群から選択されたいずれか1つの金属材料、または上記材料群より選択された1以上の材料を含む合金材料であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るモールドは、微細な凹凸パターンが形成されたパターン領域を一方の表面に有し、かつ、他方の表面における高低差分布に関する3σ値が1〜6nmであるパターン付基板と、少なくともパターン領域に対応する部分が中抜きされた形状を有し、かつ、パターン付基板の厚さ以上の厚さを有する中抜き基板と、上記他方の表面と当該他方の表面に対向する中抜き基板の表面とを接合するように、パターン付基板および中抜き基板の間に形成された金属膜とを備えることを特徴とする。このような構成により、本発明に係るモールドでは、凹凸パターンが形成された表面と反対側の表面の平坦性を担保することができ、かつ紫外光への暴露によって基板同士の接合部分が劣化するという問題が生じない。この結果、ナノインプリント用のモールドにおいて、レジストの厚さムラを低減することが可能となり、かつモールドに高い耐久性を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態のモールドを概略的に示す斜視図である。
【図2】実施形態のモールドを構成要素ごとに示す分解図である。
【図3】実施形態のモールドを概略的に示す切断部端面図である。
【図4A】実施形態のモールドの製造方法の一工程を概略的に示す切断部端面図である。
【図4B】実施形態のモールドの製造方法の一工程を概略的に示す切断部端面図である。
【図4C】実施形態のモールドの製造方法の一工程を概略的に示す切断部端面図である。
【図5】他の形態のモールドを概略的に示す切断部端面図である。
【図6】インプリント後のレジスト膜の厚みムラの評価基準を示す図である。
【図7A】従来のモールドを概略的に示す切断部端面図である。
【図7B】従来の他のモールドを概略的に示す切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0027】
図1は、実施形態のモールド1を概略的に示す斜視図である。図2は、実施形態のモールド1を構成要素ごとに示す分解図である。図3は、実施形態のモールド1を概略的に示す切断部端面図である。また、図4Aから図4Cは、実施形態のモールド1の製造方法の一工程を概略的に示す切断部端面図である。
【0028】
実施形態のモールド1は、図1から図3に示されるように、パターン付基板10と、中抜き基板30と、これらの間に形成された金属膜20とを備えるものである。
【0029】
そして、実施形態のモールドの製造方法は、パターン領域13を一方の表面11に有するパターン付基板10を形成し、中抜き基板30を形成し、パターン付基板10の他方の表面14に材料52を堆積させて第1の金属層22を形成し(図4A)、上記他方の表面14と接合させる中抜き基板30の表面に材料54を堆積させて第2の金属層23を形成し(図4B)、第1の金属層22および第2の金属層23を互いに密着させて原子拡散接合法により接合する(図4C)ものである。
【0030】
なお、パターン付基板10を形成する工程および中抜き基板30を形成する工程の順序、並びに、第1の金属層22を形成する工程および第2の金属層23を形成する工程の順序はこれに限られない。
【0031】
(パターン付基板)
パターン付基板10は、微細な凹凸パターン12が形成されたパターン領域13を一方の表面11に有し、かつ、他方の表面14における高低差分布に関する3σ値が1〜6nmである基板部材である。この凹凸パターン12が形成された表面が、ナノインプリントの際にレジストに押し当てられる。
【0032】
凹凸パターン12は、レジストに転写すべき形状に応じて適宜設計される。例えば、凹凸パターン12の凸部の幅、凸部の高さおよび凸部同士の間隔は、それぞれ5〜500nm、5〜800nmおよび5〜800nmである。凹凸パターン12の凸部の形状は、例えば平面視で矩形状、ドット形状である。また、凹凸パターン12の凸部の形状は、平面視で長方形の凸部を基本単位として、複数の凸部が頂点で結合したり一部の辺を共有したりした形状となる場合もある。実施形態では、凹凸パターン12は、パターン付基板10の中央付近に形成されているが、必ずしもこれに限られない。なお、パターン付基板の表面11のうち実際に凹凸パターン12が形成されている領域を「パターン領域」と称する。
【0033】
パターン付基板10の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Si、Si酸化物、Si窒化物、石英、金属、及び樹脂のいずれかの材料が好適である。前記金属としては、例えばNi、Cu、Al、Mo、Co、Cr、Ta、Pd、Pt、Au等の各種金属、又はこれらの合金を用いることができる。これらの中でも、Ni、Ni合金が特に好ましい。前記樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、トリアセテートセルロース(TAC)、低融点フッ素樹脂等が用いられる。
【0034】
パターン付基板10の厚さH1は、特に限定されないが、モールドをレジストから剥離する際に湾曲する程度の剛性をパターン付基板10が有するような厚さであることが好ましい。例えば、パターン付基板10の材料がSi、Si酸化物、Si窒化物、石英または金属である場合には、パターン付基板10の厚さH1は、0.3〜1.5mmであることが好ましく、0.5〜1.2mmであることがより好ましく、0.6〜1.0mmであることが特に好ましい。
【0035】
凹凸パターン12の製造方法は、特に限定されない。例えば、下記のようなフォトエッチング法により製造することができる。
【0036】
まず、Si基板(或いは石英基板)表面上にフォトレジスト膜を設け、凹凸パターンに対応する部分のフォトレジスト膜を電子線により露光描画する。そして、露光した部分のフォトレジスト膜を現像により除去し、残ったフォトレジストをマスクとして、例えば反応性イオンエッチング(RIE)により当該基板表面をエッチングする。この結果、Si(或いは石英)を材料とするパターン付基板10が形成される。または、上記のようにして製造したモールドを用いて、Si基板(或いは石英基板)にナノインプリントを実施して凹凸パターンを転写し、例えばRIEにより当該基板表面をエッチングするようにしてもよい。
【0037】
パターン付基板10の上記他方の表面14は、高低差分布に関する3σ値が1〜6nmであるように設計されている。このように上記他方の表面14の平坦性が担保された基板を使用することにより、ナノインプリントにおけるレジストの厚さムラを低減することができる。この3σ値は好ましくは1〜3nmである。上記表面形状の3σ値は、ZYGO社製のNewView6300によって計測した。
【0038】
3σ値は、少なくとも30mm四方の範囲について表面形状の測定が行われた結果、算出された値であることが好ましい。ここで、上記測定範囲は、より好ましくは40mm四方であり、特に好ましくは50mm四方である。これは、より巨視的な範囲を評価対象として表面形状の高低差分布の解析を行うことにより、1mm程度に比較的離れた2点同士の高さの差も低減することができるためである。また、一般的な半導体チップの1つあたり大きさが26mm×33mmであることを考慮すると、1チップ領域全体に相当する範囲におけるレジストの厚みムラやインプリント欠陥の評価は、上記のような広さの範囲を評価対象とすることでより信頼性を確保することができるためである。
【0039】
3σ値が1〜6nmである上記他方の表面14は、例えば化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)することにより実現される。
【0040】
(中抜き基板)
中抜き基板30は、少なくともパターン領域13に対応する部分Rが中抜きされた形状を有し、かつ、パターン付基板10の厚さH1以上の厚さH3を有する基板部材である。中抜き基板30は、パターン付基板10を補強するとともに、モールド1のハンドリン性を向上させる役割を果たす。
【0041】
「パターン領域に対応する」とは、パターン領域を平面視から見たときに当該パターン領域と重なる空間領域Rに含まれることを意味する。
【0042】
中抜き基板30の中抜き部分の大きさは、パターン付基板10の湾曲を阻害しないこと、およびモールド1のハンドリング性を考慮しながら、適宜設定される。
【0043】
中抜き基板30の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、Si、Si酸化物、Si窒化物、石英、金属、及び樹脂のいずれかの材料が好適である。前記金属としては、例えばNi、Cu、Al、Mo、Co、Cr、Ta、Pd、Pt、Au等の各種金属、又はこれらの合金を用いることができる。これらの中でも、Ni、Ni合金が特に好ましい。前記樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、トリアセテートセルロース(TAC)、低融点フッ素樹脂等が用いられる。
【0044】
中抜き基板30の厚さH3は、モールド1のハンドリング性を考慮して、パターン付基板10の厚さH1以上とする。例えば、中抜き基板30の材料がSi、Si酸化物、Si窒化物、石英または金属である場合には、中抜き基板30の厚さH3は、3〜8mmであることが好ましく、4〜7mmであることがより好ましく、5〜6mmであることが特に好ましい。
【0045】
中抜き基板30を製造するための基板の中抜きは、例えば研削加工またはレーザ加工することにより実現される。
【0046】
なお、中抜き基板30は、複数の中抜き基板が積層された構造を有するようにしてもよい。
【0047】
(金属膜)
金属膜20は、パターン付基板10の上記他方の表面14と当該他方の表面14に対向する中抜き基板30の表面とを接合するように、パターン付基板10および中抜き基板30の間に形成されたものである。つまり、パターン付基板10および中抜き基板30を接合する接合剤として機能する。
【0048】
金属膜20の材料は、Ti、Al、Si、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Hf、Ta、PtおよびAuの材料群から選択されたいずれか1つの金属材料、または上記材料群より選択された1以上の材料を含む合金材料を含むことが好ましい。
【0049】
本実施形態において金属膜20は、パターン付基板10の上記他方の表面14に第1の金属層を形成し、当該他方の表面14に対向することになる中抜き基板30の表面に第2の金属層を形成した後、第1の金属層と第2の金属層とを密着させることにより形成される。この場合、第1の金属層の材料および第2の金属層の材料が異なれば、金属膜20は積層構造となる。
【0050】
その他、金属膜20を形成する方法は、パターン付基板10の上記他方の表面14(または当該他方の表面14に対向することになる中抜き基板30の表面)に金属層を形成した後、当該金属層と当該他方の表面14に対向することになる中抜き基板30の表面(または上記他方の表面14)とを密着させる方法を採用することもできる。
【0051】
金属層の材料は、Ti、Al、Si、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Hf、Ta、PtおよびAuの材料群から選択されたいずれか1つの金属材料、または上記材料群より選択された1以上の材料を含む合金材料であることが好ましい。また、第1の金属層および第2の金属層を形成する場合には、これらの材料は異なってもよい。
【0052】
金属膜20は、パターン領域13に対応する上記他方の表面14を実質的に被覆しない形状に形成されたものであることが好ましい。図4Aでは、マスク50を配置することによりこれを実現している。「実質的に被覆しない」とは、400nm以下の波長における金属膜の光の透過率が99%以上であることを意味する。また、この場合において、400nm以下の波長における金属膜(パターン領域13に対応する上記他方の表面14上にわずかに金属膜が存在する場合には、パターン領域13に対応する部分以外の金属膜)の光の透過率は1%以下であることが好ましい。
【0053】
このように構成することにより、中抜き基板30側から露光を行う際に、パターン領域13のみに光が照射されるように光の照射範囲を制御することが可能となる。これは、ステップアンドリピート方式のナノインプリントを実施する上で、所望の範囲にのみ露光を行うことが可能となる点で有利となる。
【0054】
(接合方法)
パターン付基板10の上記他方の表面14と中抜き基板30の一方の表面とを金属膜20を介して接合する方法は、特に制限されないが、原子拡散接合法により実施されることが好ましい。すなわち、これらの基板の接合は、塑性変形ができるだけ生じない程度の外圧および材料の融点以下の温度の条件で、接合面間に生じる原子の拡散を利用して接合される。
【0055】
例えば、原子拡散接合法による接合方法としては、パターン付基板10の上記他方の表面14に第1の金属層22を真空中で蒸着法により形成し(図4A)、中抜き基板30の上記一方の表面に第2の金属層23を同じ真空中で蒸着法により形成し(図4B)、その真空状態を維持したまま第1の金属層および第2の金属層を互いに密着させて接合する方法が挙げられる(図4C)。金属層が成膜された直後では金属層は活性状態であるため、このような活性状態を利用することにより、効率よく原子の拡散を誘起することが可能である。なお、上記蒸着法に代えて、スパッタリング法等のその他の堆積法を使用することもできる。
【0056】
なお、本発明ではパターン付基板10の剛性が低いため、原子拡散接合法による接合(基板と金属層との接合、および金属層同士の接合を含む)は、外圧がおよそ5g/cmである状態で実施されることが好ましい。この場合、接合面が接近した結果、接合面間で発生する力(例えばクーロン力)によって接合面が引き寄せられ、時間の経過とともに拡散接合が進行することとなる。
【0057】
また、パターン付基板10および中抜き基板30の接合は、図4Cに示されるように、ハンドリング部材55でパターン付基板10を、ハンドリング部材56で中抜き基板30を保持して、これらの基板を立てた状態(つまり、基板面が重力方向に平行な状態)で行うことが好ましい。パターン付基板10が撓んだまま接合されることを防止するためである。
【0058】
上記のような構成により、本発明に係るモールド1は窪み32を有する構造となる。
【0059】
(本発明の作用効果)
本発明に係るモールドは、上記のように微細な凹凸パターン12が形成されたパターン領域13を一方の表面11に有し、かつ、他方の表面14における高低差分布に関する3σ値が1〜6nmであるパターン付基板10と、少なくともパターン領域13に対応する部分が中抜きされた形状を有し、かつ、パターン付基板10の厚さ以上の厚さを有する中抜き基板30と、上記他方の表面14と当該他方の表面14に対向する中抜き基板30の表面とを接合するように、パターン付基板10および中抜き基板30の間に形成された金属膜20とを備えることを特徴とする。このような構成により、本発明に係るモールドでは、凹凸パターンが形成された表面と反対側の表面の平坦性を担保することができ、かつ紫外光への暴露によって基板同士の接合部分が劣化するという問題が生じない。この結果、ナノインプリント用のモールドにおいて、レジストの厚さムラを低減することが可能となり、かつモールドに高い耐久性を付与することが可能となる。
【0060】
さらに、金属膜20を、パターン領域13に対応する上記他方の表面14を実質的に被覆しない形状に形成した場合には、中抜き基板30側から露光を行う際に、パターン領域13のみに光が照射されるように光の照射範囲を制御することが可能となる。
【0061】
(実施形態の設計変更)
上記の実施形態では、モールド1は平面視で矩形状であったが、本発明のモールドはこれに限られない。例えば、本発明のモールドは平面視で円形状でもよい。この場合、中抜き基板は例えば円筒形状となる。
【0062】
また、実施形態では、金属膜20の面積は、パターン付基板10および中抜き基板30が接合される面積と一致する場合について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、本発明におけるモールドは、図5に示されるように、パターン付基板10および中抜き基板30が接合される面積よりも広い面積を有する金属膜21を備えたモールド2でもよい。
【実施例】
【0063】
本発明に係るモールドの実施例を以下に示す。
【0064】
<実施例1>
まず、インプリント用のスタンパの基板として、8インチサイズのシリコンウェハを用意した。次に、このシリコンウェハに、ポジ型電子線レジスト(ZEP520、日本ゼオン株式会社製)をレジスト膜の厚さが50nmとなるようにスピンコートした。その後、電子線描画装置を用いて、20μC/cmのドーズ量で描画し、その後現像することによりレジストパターンを上記レジスト膜に形成した。
【0065】
次に、ICPドライエッチング装置を用いた異方性ドライエッチングによって、シリコンウェハをエッチングすることで、凹凸パターンを当該シリコンウェハに形成した。異方性エッチングの条件は、Cl流量:30sccm、O流量:5sccm、Ar流量:80sccm、圧力:2Pa、ICPパワー:400W、RIEパワー:130Wとした。次に、Oプラズマアッシング(条件:O流量:500sccm、圧力:30Pa、RFパワー:1000W)によって上記レジスト膜を剥離し、Si製のスタンパを製造した。
【0066】
続いて、上記スタンパ表面に離型処理を施し、スタンパ表面に離型層を成膜した。離型材料としては、ダイキン工業株式会社製のデュラサーフ(登録商標)HD−1101Zをオプツール(登録商標)HD−ZVで25%濃度に希釈したものを使用した。浸漬速度15mm/sec、引き上げ速度5mm/secの条件で、スタンパを離型材料に浸漬し、その後、浸漬速度15mm/sec、引き上げ速度5mm/secの条件で、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製のバートレル(登録商標)XF−UPでスタンパをリンス処理することにより離型処理を行った。
【0067】
次に、パターン付基板の基となる基板として、厚さが0.7mm、大きさが6インチの石英ウェハを用意した。この石英ウェハの表面形状について、高低差分布に関する3σ値が1〜3nmであるものを選択して使用した。
【0068】
そして、石英ウェハ上にインプリントレジスト液を塗布してレジスト膜を形成し、前述のスタンパを当該レジスト膜に押し当てて、UV光を照射してレジスト膜を硬化させた。その後、このスタンパをレジスト膜から剥離し、石英ウェハ上に凹凸パターンが転写されたレジスト膜を形成した。
【0069】
次に、上記のレジストパターンをマスクとして、異方性ドライエッチングによって、石英ウェハをエッチングすることで、石英ウェハにスタンパの凹凸パターンを転写した。異方性エッチングの条件は、CHF流量:20sccm、CF流量:20sccm、Ar流量:80sccm、圧力:2Pa、ICPパワー:300W、RIEパワー:50Wとした。
【0070】
そして、石英ウェハを6インチ四方の大きさに加工し、石英からなるパターン付基板を作製した。
【0071】
次に、予め中抜き加工を施した石英基板を用意した。基板の大きさは6インチ四方であり、その厚みは5.65mmのものを使用した。
【0072】
次に、これら2種類の石英基板の貼り合わせる表面をUVオゾン処理法で表面洗浄した。その後、到達真空度が1×10−6Paの高真空である真空容器において、パターン付基板の凹凸パターンが形成された表面とは反対側の表面および中抜き基板の表面のそれぞれに厚さ5nmのTi層をスパッタリング法により成膜し、真空中でこれらの基板のTi層を接触させて、本発明に係るモールドを製造した。なお、Ti層を接触させる際、外圧はかけていない。
【0073】
<実施例2>
Ti層の厚さが20nmであること以外は、実施例1と同じ方法によりモールドを製造した。
【0074】
<比較例1>
実施例1と同じ方法によりスタンパを製造した。
【0075】
そして、厚さが6.35mm、大きさが6インチ四方の石英基板を用意した。この石英基板に対して、実施例1の同様の方法により、スタンパの凹凸パターンを転写した。
【0076】
さらに、上記石英基板の凹凸パターンが転写された表面と反対側の表面を、研削加工により窪みを形成するように加工して、モールドを製造した。
【0077】
<比較例2>
パターン付基板および中抜き基板の接合を、エポキシ系の接着剤を用いて貼り合わせることにより実施したこと以外は、実施例1と同じ方法によりモールドを製造した。
【0078】
<比較例3>
実施例1と同じ方法により、パターン付基板および中抜き基板を用意した。
【0079】
そして、金属膜を介さずに、パターン付基板の凹凸パターンが形成された表面とは反対側の表面および中抜き基板の表面を直接張り合わせながら加熱しおよび外圧を加えて、これらの表面を接合した。これによりモールドが製造された。
【0080】
<評価方法>
実施例および比較例で製造したモールドを用いて、インプリント時のレジスト膜の厚みムラ、パターン領域外への紫外光の漏れ、およびインプリントの耐久性についてそれぞれ下記のように評価した。
【0081】
<インプリント時のレジスト膜の厚みムラの評価>
インプリント後のレジスト膜の厚みムラの評価は、10名の人間による目視で行った。具体的には、図6aに示すような表面形状である場合、レジスト膜の厚みムラは解消された(○)と評価し、図6bに示すような表面形状である場合、レジスト膜の厚みムラは解消することができなかった(×)と評価した。
【0082】
<パターン領域外への紫外光の漏れの評価>
パターン領域外への紫外光の漏れの評価は、パターン領域よりも広い範囲に塗布したレジストに対して、それぞれのモールドを用いてインプリントを行い、パターン領域外のレジストの硬化状態に基づいて評価した。具体的には、レジストが全く硬化していない場合、充分に遮光できている(◎)と評価し、レジストは硬化されているがそのレジストに再度モールドを押し当てたときパターン転写が可能である場合、遮光の効果がある(○)と評価し、レジストが完全に硬化されてそのレジストに再度モールドを押し当ててもパターン転写は不可能である場合、遮光の効果がない(×)と評価した。
【0083】
<インプリントの耐久性の評価>
インプリントの耐久性の評価は、高圧UVランプを用いて、100J/cmの紫外線(1mW/cm×1sec×10万ショット)を照射した後に、パターン付基板および中抜き基板が接合面において剥離できるか否かに基づいて判断した。剥離できなかった場合を良好(○)と評価し、剥離できた場合を不良(×)と評価した。
【0084】
<総合評価>
上記の3つの評価項目のうち、1つも「×」が付与されなかったものを良好(○)と評価し、1つでも「×」が付与されたものを不良(×)と総合評価した。
【0085】
<結果>
表1は上記の評価の結果をまとめた表である。
【0086】
【表1】

【0087】
実施例1で製造したモールドについての評価結果は以下の通りである。レジスト膜の厚さムラは観察されず良好な結果となった。また、紫外光の漏れについては、Ti層がある程度の紫外光を遮光したため、パターン領域外のレジストは硬化されているがパターン転写は可能であった。また、耐久性については、基板同士の接合面での剥離は起こらず良好な結果となった。
【0088】
実施例2で製造したモールドについての評価結果は以下の通りである。レジスト膜の厚さムラは観察されず良好な結果となった。また、紫外光の漏れについては、Ti層が完全に紫外光を遮光したため、パターン領域外のレジストは全く硬化されていなかった。また、耐久性については、基板同士の接合面での剥離は起こらず良好な結果となった。
【0089】
比較例1で製造したモールドについての評価結果は以下の通りである。窪み低面における高低差分布が大きいため、その凹凸がインプリント後のレジスト膜に反映されてしまい、その厚さにムラが発生した。また、紫外光の漏れについては、紫外光を遮光するものがないため、パターン領域外のレジストも完全に硬化してしまった。また、耐久性については、基板同士の接合面が存在しないため、劣化はないと判断した。
【0090】
比較例2で製造したモールドについての評価結果は以下の通りである。レジスト膜の厚さムラは観察されず良好な結果となった。また、紫外光の漏れについては、接着剤がある程度の紫外光を吸収しレジストに到達する光量が減少したため、結果としてパターン領域外のレジストは硬化されているがパターン転写は可能であった。また、耐久性については、基板同士の接合面における接着剤が紫外光により劣化したため、接合面において基板同士が剥離できた結果となった。
【0091】
比較例3で製造したモールドについての評価結果は以下の通りである。基板の接合において加熱しおよび外圧を加えたため、インプリント面に歪が生じてしまい、レジスト膜の厚さムラが観察された。また、紫外光の漏れについては、紫外光を遮光するものがないため、パターン領域外のレジストも完全に硬化してしまった。また、耐久性については、基板同士の接合面において接着剤を使用していないため、紫外光による劣化がなく、基板同士の接合面での剥離は起こらず良好な結果となった。
【0092】
この結果、本発明のモールドを使用することで、微細な凹凸パターンを用いたナノインプリントにおいても、インプリント後のレジスト膜の厚さムラを解消することが可能であり、紫外光に対するモールドの耐久性が向上することが立証された。
【0093】
さらに、金属膜を、パターン領域に対応する上記他方の表面を実質的に被覆しない形状に形成した場合には、連続してインプリントを行う際、隣接した領域に紫外光が漏れることを防止できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のインプリント用モールドは、特定のインプリント法に限定されず、熱可塑性樹脂にパターン転写する熱インプリント法、光硬化性樹脂にパターン転写する光インプリント法、熱や光を必要としないHSQ(Hydrogen Silses Quioxane)にパターン転写する室温インプリント法、ゲル状のガラス材料にパターン転写するゾルゲルインプリント法、金属やガラスへ直接パターン転写する直接インプリント法等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 モールド
10 パターン付基板
11 パターン付基板のパターンが形成された表面
12 凹凸パターン
13 パターン領域
14 パターン付基板のパターンが形成された表面と反対側の表面
20 金属膜
22、23 金属層
30 中抜き基板
32 窪み(中抜き部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノインプリント用のモールドであって、
微細な凹凸パターンが形成されたパターン領域を一方の表面に有し、かつ、他方の表面における高低差分布に関する3σ値が1〜6nmであるパターン付基板と、
少なくとも前記パターン領域に対応する部分が中抜きされた形状を有し、かつ、前記パターン付基板の厚さ以上の厚さを有する中抜き基板と、
前記他方の表面と該他方の表面に対向する前記中抜き基板の表面とを接合するように、前記パターン付基板および前記中抜き基板の間に形成された金属膜とを備えることを特徴とするモールド。
【請求項2】
前記金属膜が、前記パターン領域に対応する前記他方の表面を実質的に被覆しない形状に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
400nm以下の波長における前記金属膜の光の透過率が1%以下であることを特徴とする請求項2に記載のモールド。
【請求項4】
前記金属膜の材料が、Ti、Al、Si、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Hf、Ta、PtおよびAuの材料群から選択されたいずれか1つの金属材料、または前記材料群より選択された1以上の材料を含む合金材料を含むことを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のモールド。
【請求項5】
ナノインプリント用のモールドの製造方法であって、
微細な凹凸パターンが形成されたパターン領域を一方の表面に有し、かつ、他方の表面における高低差分布に関する3σ値が1〜6nmであるパターン付基板と、少なくとも前記パターン領域に対応する部分が中抜きされた形状を有し、かつ、前記パターン付基板の厚さ以上の厚さを有する中抜き基板とを用意し、
前記パターン付基板の前記他方の表面と前記中抜き基板の一方の表面とを金属膜を介して接合することを特徴とするモールドの製造方法。
【請求項6】
前記金属膜を介した接合が、
前記パターン付基板の前記他方の表面に第1の金属層を形成し、
前記中抜き基板の前記一方の表面に第2の金属層を形成し、
前記第1の金属層および前記第2の金属層を互いに密着させて接合することにより実施されることを特徴とする請求項5に記載のモールドの製造方法。
【請求項7】
前記第1の金属層および前記第2の金属層の接合が原子拡散接合法により実施されることを特徴とする請求項6に記載のモールドの製造方法。
【請求項8】
前記パターン付基板の材料がSi、Si酸化物、Si窒化物、石英または金属であり、
前記パターン付基板の厚さが0.3〜1.5mmであり、
前記第1の金属層および前記第2の金属層の接合が、外圧がおよそ5g/cmである状態で実施されることを特徴とする請求項7に記載のモールドの製造方法。
【請求項9】
前記第1の金属層が、前記パターン領域に対応する前記他方の表面を実質的に被覆しない形状に形成されたものであることを特徴とする請求項6から8いずれかに記載のモールドの製造方法。
【請求項10】
前記第1の金属層の材料および/または前記第2の金属層の材料が、Ti、Al、Si、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、In、Sn、Hf、Ta、PtおよびAuの材料群から選択されたいずれか1つの金属材料、または前記材料群より選択された1以上の材料を含む合金材料であることを特徴とする請求項6から9いずれかに記載のモールドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図7A】
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【図7B】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−73999(P2013−73999A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210253(P2011−210253)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】