説明

ナノインプリント用モールドおよびこれを用いて作製された磁気記録媒体

【課題】パターン転写後の磁気記録媒体において優れたS/N比が実現されるモールドを提供することにある。
【解決手段】基材と、上記基材に隣接する中間層と、上記中間層に隣接し、表面に微細な凹凸パターンを有するパターン形成層とを備え、上記中間層が紫外線透過性のシリコーン樹脂を含有する接着剤からなり、その弾性率が、上記基材の弾性率よりも小さく、かつ、上記パターン形成層の弾性率よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノインプリント用モールドに関する。より詳しくは、本発明のナノインプリント用モールドは、優れたS/N比(Signal to Noise ratio)を発揮する磁気記録媒体の作製に好適なモールドに関する。本発明は、このようなモールドを用いて作製された磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクリートトラックメディア等または半導体素子の分野では、基板上に配列される構成要素の数で定義される集積度の向上に伴い、基板の表面に形成されるレジスト層がより微細なパターンを有することが求められている。
【0003】
このように、レジスト層に微細なパターンを形成する方法としては、従来、フォトリソグラフィー技術が用いられてきた。フォトリソグラフィー技術は、レジスト層に光を露光して露光パターンを形成した後に、レジスト層を現像処理することによって、基板上のレジスト層にパターンを形成する技術である。
【0004】
フォトリソグラフィー技術によって、レジスト層により微細なパターンを形成するために、露光光の短波長化が行われてきた。例えば、100nm以下の微細なレジストパターンを形成するには、従来用いていた露光光に比して短波長の電子ビーム(EB)を露光光として用いるEBリソグラフィー法を用いることが知られている。しかしながら、EBリソグラフィー法を用いた場合には、使用装置が高価であり、また長時間を要するパターン描画によって優れたスループットが実現されない場合がある。このため、EBリソブラフィー法は、レジスト層への微細パターン形成の効率的な実施、例えば量産化には、適用し難い。
【0005】
そこで、EBリソグラフィー法の代替法であり、かつ微細パターンを効率的に形成する別の方法として、ナノインプリント法が盛んに行われており、例えば、以下の技術が開示されている。
【0006】
特許文献1には、凹凸パターンを形成したモールドを、基板の表面に形成したレジスト層に圧着させることで、レジスト層に凹凸パターンを転写する方法が開示されている。
【0007】
この方法は、例えば、以下に示す手順で行うことができる。即ち、まず、基板表面にシリコン酸化膜を形成した後、EBリソグラフィー法でシリコン酸化膜に所定の凹凸を付したモールドを準備する。また、スピンコート法などにより、基板表面にポリメチルメタクリレート(PMMA)などの樹脂膜を形成した積層体も別途準備する。次に、上記樹脂膜のガラス転移温度(Tg)以上の温度(Tg=105℃のPMMAでは200℃)で樹脂膜を軟化させ、モールドを10MPaの圧力で樹脂膜に押し付ける。さらに、樹脂膜を、そのTgより低い温度まで降温した後、モールドを樹脂膜から離間させる。このようにして、基板上の樹脂膜に凹凸パターンを形成する。なお、以上に示す方法は、一般に、熱ナノインプリントと称される。
【0008】
さらに、近年では、石英ガラス製のモールドとUV硬化性のレジスト膜とを用いて、温度サイクルをかける代わりに、UV光を照射する方法も開発されている。なお、この方法は、一般に、UVナノインプリントと称される。
【0009】
以上に示す、各種ナノインプリント法により、基板上の樹脂膜に凹凸パターンを形成した後は、通常、エッチングプロセスなどにより、デバイス(ディスクリートトラックメディア等、または半導体等)を完成させる。
【0010】
ディスクリートトラックメディア等の例としては、磁気記録媒体を構成する磁性層(以下、単に「磁気記録層」とも称する)を形成するに際し、まず、凹凸パターンの形成された樹脂膜の凹部を構成する膜(以下、単に「残膜」とも称する)をソフトエッチングによって除去する。次いで、当該凹凸パターンをマスクとして、磁気記録層の表面にドライエッチングを施す。こうして、磁気記録層をパターン形成することで、磁気記録媒体が得られる。
【0011】
これに対し、半導体素子の例としては、Si基板などに対してレジストマスクを利用し、エッチング処理および/またはCVD法による処理を施すことで、半導体素子が得られる。
【0012】
このように、多種のデバイスの作製に用いられる、ナノインプリント法に用いるモールドまたはその形成方法に関する技術としては、例えば、以下のものが開示されている。
【0013】
特許文献2には、インプリント・リソグラフィ用の製造テンプレートを製造するに際し、製造テンプレート基板上のインプリント可能媒体の第1の目標領域を親テンプレートと接触させて、上記媒体に第1のインプリントを形成する工程であって、上記インプリントが製造テンプレートパターンの一部分を画定するものである工程と、上記親テンプレートを上記インプリントされた媒体から分離する工程と、上記媒体の第2の目標領域を上記親テンプレートと接触させて、上記媒体に第2のインプリントを形成する工程であって、上記第2のインプリントが上記製造テンプレートパターンの他の部分を画定するものである工程と、上記親テンプレートを上記インプリントされた媒体から分離する工程と、を有する方法が開示されている。
【0014】
特許文献3には、表面に微細な凹凸が形成されたスタンパ層と、上記スタンパ層の凹凸が形成されていない側の面に配置された緩衝材とを有し、上記緩衝材が、面内で異なる弾性率を有しているスタンパが開示されている。
【0015】
特許文献4には、転写用素材を、転写形成しようとする形状に合わせた所定形状の凹部に充填して、これを目的とする媒体上に圧着して転写し、樹脂を主材として形成された上記凹部をもつ賦型層を、補強用の基材上に、配設したもので、且つ、賦型層の平面方向の伸縮を制御する伸縮制御層を、賦型層の補強用の基材側に設けている転写型が開示されている。
【0016】
特許文献5には、保持基板と、上記保持基板上に設けられ輻射エネルギーにより剥離性を示す剥離膜と、上記剥離膜上に設けられロックウェル硬度のスケールがM80以上であり、表面に凹凸パターンを有する転写部とを備えるインプリント用スタンパが開示されている。
【0017】
特許文献6には、反応性基を有する活性エネルギー硬化型ウレタン系オリゴマーと、上記ウレタン系オリゴマーと反応性を有する単量体と、シリコーンまたはフッ素含有化合物と、光開始剤とを含む微細パターンの形成に用いられるモールド用樹脂組成物が開示されている。
【0018】
【特許文献1】米国特許5772905号明細書
【特許文献2】特開2006−191089号公報
【特許文献3】特開2004−299153号公報
【特許文献4】特開2001−143612号公報
【特許文献5】特開2005−286222号公報
【特許文献6】特開2006−523728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このように、ナノインプリント法に用いるモールド等に関する技術としては、種々の技術が開示されているが、これらの技術には、以下の問題が内在する。
【0020】
即ち、上記のナノインプリント法を、ディスクリートトラックメディアおよびパターンドメディア、ならびに半導体素子の製造に適用するには、各種メディアの基板表面全体に均一にパターニングを行うことが必要である。即ち、基板とモールドとを基板表面全体にわたりナノオーダで制御して密着させる必要がある。
【0021】
磁気記録媒体の製造においては、このような基板とモールドとの密着時に、面内においてこれらの間に制御されていないギャップが存在すると、このギャップに応じてレジストの残膜が厚くなる。このため、レジストを用いてエッチングする際に、エッチングパターンが不均一となり、またその深さにばらつきが生じるおそれがある。
【0022】
次に、特許文献3に開示のスタンパには、上述の通り、スタンパ層の凹凸が形成されていない側の面(裏面)に弾性率分布を有する緩衝材が形成されている。この緩衝材の形成目的は、スタンパ表面の凸部の部分、および基板のうねりに影響されない精密な転写を実現することにある。
【0023】
しかしながら、精密な転写は、スタンパ層の裏面に緩衝材を形成しなくても、パターンを形成するレジスト樹脂の流動性を高くすれば、スタンパ表面の凸部の分布の異なる部分においても実現できる。
【0024】
また、弾性率の異なる部材(即ち、物性の異なる部材)をスタンパ層の裏面に精度良く形成することは困難である。
【0025】
さらに、スタンパ層と微細構造体を構成するパターン層との間の熱膨張率差、および/または硬化収縮率の差などによって、基板全体の反りおよび/またはうねりが発生するおそれがある。このため、当該反り等が発生している状況下では、スタンパの押圧方向を法線とする面に関して、精密な転写を実現することは困難である。
【0026】
加えて、ナノインプリント時には、スタンパへの負荷により、上記面で、スタンパが変形する。このため、スタンパ全体の伸縮を、当該面の法線方向において制御することも困難である。
【0027】
さらに、特許文献4に開示の転写型には、上述の通り、プラズマディスプレイパネルに用いる、平面方向の伸縮を制御する伸縮制御層と、厚みむらなどを吸収するための弾性層とが含まれる。当該文献によれば、プラズマディスプレイパネルの製造時には、当該転写型の基板側からUV光を透過させる。このため、転写型を構成する層として、金属などのUV光を遮断する材料を含む伸縮制御層を形成することとしている。
【0028】
しかしながら、磁気記録媒体を製造する場合には、当該媒体を構成する基板が不透明であるため、モールド(上記の転写型に相当)側からUVを透過させる必要がある。このため、UV光を遮断する伸縮制御層をモールドの構成要素とすることは好ましくない。
【0029】
また、特許文献4に開示の転写型においては、基材と伸縮制御層との間に弾性層が形成されており、当該弾性層はその片面が基材に拘束されている。このため、伸縮制御層は、ナノインプリントの面積に対して、必要となる弾性層の厚さが極端に薄いため、その必要性に乏しい。
【0030】
さらにまた、ナノインプリント法によるパターン転写では、被転写物にモールドを直接接触させる。このため、モールドが被転写物から良好に離型できなければならない。
【0031】
離型処理の方法としては、一般に、モールドにフッ素系の離型処理膜、例えば、ダイキン化成デュラサーフを成膜する方法がある。しかしながら、フッ素系の離型処理膜を成膜する方法は、モールドをナノインプリント法に適用する場合に、モールドの耐久性が充分ではなく、被転写物の量産時には離型性の劣化に応じてモールドのクリーニングおよび離型処理膜の再処理が必要となる。
【0032】
一方、ベースとなる基材に比較的離型性に優れるポリマーを成膜し、そのポリマーに凹凸パターンを形成したモールドも考えられる。しかしながら、このようなモールドを使用して、被転写物を製造する場合には、基材と上記ポリマーとの接着力が低く、ナノインプリント時に当該ポリマーが基材から剥離するおそれがある。
【0033】
このように、磁気記録媒体の製造に用いるモールドについては、レジストとの密着時に、面内においてギャップが存在せず優れたエッチングパターンを実現できること、適当な構成部材のみからなること、および離型性に優れることなどが要請されている。
【0034】
さらに、近年においては、上記種々の要請の結果、特に、パターンを転写して得られた磁気記録媒体において優れたS/N比が実現されるモールドの開発が望まれている。
【0035】
従って、本発明の第1の目的は、特に、所定のパターンを転写した場合に優れたS/N比が実現される磁気記録媒体を製造可能なモールドを提供することにある。
【0036】
また、本発明の第2の目的は、このようなモールドを用いて作製された磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明は、基材と、上記基材に隣接する中間層と、上記中間層に隣接し、表面に微細な凹凸パターンを有するパターン形成層とを備え、上記中間層が紫外線透過性のシリコーン樹脂を含有する接着剤からなり、その弾性率が、上記基材の弾性率よりも小さく、かつ、上記パターン形成層の弾性率よりも小さい、ナノインプリント用モールドに関する。本発明のナノインプリント用モールドは、ディスクリートトラックメディア等または半導体素子の分野において用いることができる。
【0038】
このようなモールドにおいては、上記中間層の厚さが、50nm以上であることが望ましく、また、上記中間層の厚さが、上記パターン形成層のパターン幅の100倍以下であることが望ましい。さらに、上記パターン形成層が、フッ素含有樹脂を含むことが望ましい。
【0039】
本発明は、上記モールドを用いて作製された磁気記録媒体を包含する。
【発明の効果】
【0040】
本発明のナノインプリント用モールドは、基材とパターン形成層との間に所定の弾性率を有する中間層を形成することで、ナノインプリント時のパターン形成層表面の凸部の厚みむら、ひいては被転写物の構成部材のうねりを吸収することができる。このため、当該モールドを使用してパターンを転写して得られた磁気記録媒体においては、優れたS/N比を実現することができる。
【0041】
また、本発明のナノインプリント用モールドにおいて、特にパターン形成層にフッ素含有樹脂を含ませた場合には、さらに、モールドの優れた耐久性を実現することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
<ナノインプリント用モールド>
本発明のナノインプリント用モールドは、基材と、上記基材に隣接する中間層と、上記中間層に隣接し、表面に微細な凹凸パターンを有するパターン形成層とを備える。ここで、当該モールドの中間層は、紫外線透過性のシリコーン樹脂を含有する接着剤からなり、その弾性率は、上記基材の弾性率よりも小さく、かつ、上記パターン形成層の弾性率よりも小さい。
【0043】
図1は、本発明のナノインプリント用モールドを示す断面図である。同図に示すナノインプリント用モールド10は、基材12、上記基材12の下に位置する中間層14、および上記中間層14の下に位置するパターン形成層16を備える。
【0044】
(基材12)
基材12は、モールド10全体の形状を保つための構成要素である。基材12は、弾性率が中間層の弾性率よりも大きいものとする。また、基材12には、紫外線を透過するものを用いることができる。さらに、基材12は、モールド10を被転写物に押圧した時に変形し難い材料からなるものが好ましい。これらの特性を兼備するものとして、各種のガラス基材を用いることができ、特に紫外線透過率の高い石英ガラスを用いることが好ましい。
【0045】
基材12の厚さは、表裏の面精度を十分に確保するために、0.3mm以上にすることが好ましく、0.5mm以上にすることがより好ましい。一方、基材12の厚さは、ハンドリングを容易にするために、10mm以下にすることが好ましく、1.0mm以下にすることがより好ましい。
【0046】
(中間層14)
中間層14は、ナノインプリント時のパターン形成層表面の凸部の厚みむら、ひいては被転写物の構成部材のうねりを吸収するための構成要素である。中間層14は、弾性率が基材12の弾性率よりも小さく、かつ、後述するパターン形成層16の弾性率よりも小さいものとする。
【0047】
また、中間層14は、紫外線を透過するものを用いる。例えば、波長200nm〜400nmの紫外光を60%以上透過するものが、紫外線硬化樹脂の硬化の観点から好ましく、紫外光を90%以上透過するものがより好ましい。
【0048】
さらに、中間層14には、基材12およびパターン形成層16との接着力が高い材料を用いることがモールドの耐久性の点で好ましい。例えば、中間層14と、基材12およびパターン形成層16のそれぞれとの接着力は、モールドの耐久性の観点から100kPa以上が好ましく、1MPa以上がより好ましい。
【0049】
以上の特性を兼備する、中間層14の材料としては、弾性率、紫外線の透過率、接着力の観点からシリコーン樹脂を用いることが好ましい。また、当該シリコーン樹脂の中では、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が、弾性率、紫外線の透過率、接着力の観点から特に好ましい。
【0050】
中間層14の厚さは、50nm以上とすることが好ましい。この場合には、中間層14によって、ナノインプリント時のパターン形成層表面の凸部の厚みむら、ひいては被転写物の構成部材のうねりを吸収することができる。
【0051】
また、中間層14は、平面方向の伸縮の影響を抑制することができる。このため、中間層14の厚さは、パターン形成層16の表面に形成されたパターン幅を考慮して設定することができる。ここで、当該パターン幅とは、凹凸のパターン中の、繰り返し形成された凸部同士の間、ドット同士の間、またはホール同士の間の距離を意味する。
【0052】
このような知見に基づく発明者の鋭意、検討によれば、中間層14の厚さをパターン形成層16のパターン幅の100倍以下とすることが好適であると判明した。例えば、パターン形成層16のパターン幅が1μm以下である場合には、中間層14の厚さを100μm以下とすることが好ましい。
【0053】
以上に示す、中間層14の厚さに関する種々の知見に従えば、本発明のモールド10を用いて磁気記録媒体を製造する場合には、中間層14の厚さは、例えば、以下のように設定することができる。即ち、通常、パターン形成層16のパターン幅は、最も細かい部分で30nm〜100nmである。このため、中間層14の厚さは、50nm〜10μmとすることができる。
【0054】
特に、上記のように、中間層14の厚さを10μm以下とした場合には、モールド10を被転写物に押圧した際に、弾性層である中間層14の変形を有利に抑制することができる。このため、モールド10の押圧方向を法線とする面内において、当該被転写物とモールド10との間にずれが生ずることがなく、当該面内での被転写物に付与すべきパターンの優れた寸法精度が実現される。
【0055】
(パターン形成層16)
パターン形成層16は、被転写物に所定の形状を付与するための構成要素である。パターン形成層16は、弾性率が中間層14の弾性率よりも大きいものであれば、特に制限されない。即ち、パターン形成層16には、比較的剛性の高い高分子材料を用いる。例えば、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂を用いることができ、さらにはUV硬化性の樹脂を用いることができる。
【0056】
上記のとおり、パターン形成層16に用いる高分子材料には、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂が含まれる。なお、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂を用いる場合には、これらの樹脂の表面に、フッ素含有化合物からなる離型膜を形成してもよい。
【0057】
さらに、パターン形成層16の材料には、フッ素含有樹脂を含ませることが好ましい。フッ素含有樹脂としては、フッ素含有UV硬化樹脂およびフッ素含有熱可塑樹脂(例えば、旭硝子製のサイトップ)を用いることができる。
【0058】
なお、パターン形成層16の材料として、フッ素含有樹脂を用いた場合には以下の点で有利である。即ち、パターン形成層16に凹凸パターンを形成する際には、パターン形成層16に、親モールドを圧着し、親モールドをパターン形成層16から離間する。この際、パターン形成層16にフッ素含有樹脂を用いると、パターン形成層16から親モールド10を容易に離間することができる。このため、親モールド10に離型処理を施す必要がなくなり、モールド10の作製における工程数を低減することができる。
【0059】
また、被転写物の量産時には、通常、モールドの離型性の劣化に応じてモールドのクリーニングが必要となる。しかしながら、パターン形成層16の材料としてフッ素含有樹脂を用いた場合には、モールドの離型性の劣化を考慮する必要がないため、モールドのクリーニングが不要となる。
【0060】
以上に示す各構成要素の基材12、中間層14、およびパターン形成層16を含む、本発明のナノインプリント用モールド10は、基材12とパターン形成層16との間に形成された所定の弾性率を有する中間層14により、ナノインプリント時のパターン形成層表面の凸部の厚みむら、ひいては被転写物の構成部材のうねりを吸収することができる。このため、図1に示すモールド10を用いた場合には、パターン転写により得られた磁気記録媒体において優れたS/N比を実現することができる。
【0061】
また、パターン形成層にフッ素含有樹脂を含ませた場合には、被転写物の量産時に離型性の劣化に応じたモールドのクリーニングおよび当該モールドへの離型処理膜の再処理を行う必要性がない。このため、モールドの優れた耐久性を実現することができる。
【0062】
<ナノインプリント用モールドの製造方法>
図2は、本発明のナノインプリント用モールドの製造方法の各工程を順次示す断面図であり、(a)は、基材12を準備する工程、(b)は、基材12の上に中間層14を形成する工程、(c)は、中間層14の上に樹脂膜15を形成する工程、(d)は、積層体20の樹脂膜15の面を、親モールド30の凹凸パターン面に対向させて、積層体20と親モールド30とを一定の間隔を保持して配置する工程、(e)は、(d)で配置した積層体20の樹脂膜15に親モールド30を押圧し、樹脂膜15の表面に凹凸パターンを転写して、パターン形成層16を形成する工程、そして(f)は、親モールド30をパターン形成層16から離間して、インプリント用モールド10を得る工程をそれぞれ示している。以下に、図2(a)〜(f)にそれぞれ対応する、各工程(a)〜(f)について詳述する。
【0063】
(工程(a))
本工程では、洗浄した基材12を準備する。基材12の洗浄方法としては、純水での超音波洗浄などの既知のいかなる方法を適用することもできる。
【0064】
(工程(b))
本工程では、基材12の上に中間層14を形成する。中間層14の形成方法としては、スピンコート法、ディッピング法、およびスプレー塗布法などの既知のいかなる方法を適用することもできる。
【0065】
例えば、スピンコート法を適用する場合には、以下の手順で行うことができる。即ち、まず、中間層14を構成する材料を、溶剤に溶解し溶液を得、基材12上に載置する。ここで、当該溶剤は、中間層14を構成する材料を溶解するものであれば特に制限されない。次いで、基材12上に上記溶液を載置した積層体を回転させて、基材12上に均一な液膜を形成する。その後、基材12上に液膜を形成した積層体を加熱して、基材12上に中間層14を得る。加熱条件は、用いる溶剤が蒸発する条件であれば特に制限されない。
【0066】
(工程(c))
本工程では、中間層14の上に樹脂膜15を形成する。樹脂膜15の形成方法としては、スピンコート法、ディッピング法、およびスプレー塗布法などの既知のあらゆる成膜方法を適用することもできる。
【0067】
例えば、スピンコート法を適用する場合には、以下の手順で行うことができる。即ち、まず、樹脂膜15を構成する材料を、溶剤に溶解し溶液を得、当該溶液を中間層14の上に載置する。当該溶剤は、樹脂膜15を構成する材料を溶解するものであれば特に制限されない。基材12上に中間層14および上記溶液を順次載置した積層体を回転させて、中間層14の上に均一な液膜を形成する。その後、液膜を形成した積層体を加熱して、中間層14上に樹脂膜15を得る。加熱条件は、用いる溶剤が蒸発する条件であれば特に制限されない。
【0068】
(工程(d))
本工程では、(c)で形成した積層体20の樹脂膜15の面に、親モールド30の凹凸パターン面を対向させて、積層体20と親モールド30とを一定の間隔を保持して配置する。
【0069】
このように積層体20と親モールド30とを配置するために、上下に一定の間隔を有する平行板を備えるナノインプリント装置(東芝機械製のST−50)(図示せず)を用いることができる。
【0070】
当該装置内に積層体20と親モールド30とを固定する手順としては、まず、ナノインプリント装置の上面板(石英ガラス製)に、樹脂膜15が最下部になるように積層体20を固定し、次いで、装置の下面板に、パターン面が上向きになるように親モールド30を固定することができる。
【0071】
親モールド30としては、Ni電鋳製のモールド、Si製、および石英ガラス製のモールドを用いることができる。これらのモールドは、微細なパターンを有するものが高密度化のために好ましい。
【0072】
例えば、Ni電鋳製の親モールド30としては、EBリソグラフィー法により、シリコンウェハー上に配置したレジスト層にパターンを形成した後、Ni電鋳することで得られたモールドを用いることができる。
【0073】
また、親モールドのパターン面に、親モールド30と積層体20との離間を容易ならしめる観点から離型膜を形成することが好ましい。
【0074】
この離型膜としては、疎水性官能基を有する膜形成性の化合物を用いることができる。例えば、膜形成性の化合物としては、ダイキン化成のオプツールHD−2101を用いることができる。
【0075】
(工程(e))
本工程では、工程(d)で配置した積層体20の樹脂膜15に親モールド30を押圧し、樹脂膜15の表面に凹凸パターンを転写して、パターン形成層16を形成する。特に、ここでは、樹脂膜15に光(紫外線)硬化性の材料を用いた場合について説明する。
【0076】
まず、ナノインプリント装置(図示せず)を用いて、工程(d)で配置した積層体20に親モールド30を所定の条件下で押圧し、樹脂膜15の表面に親モールド30の凹凸パターンを転写する。積層体20の樹脂膜15に親モールド30を押圧する条件としては、例えば、樹脂膜15と、親モールド30との間に一定の距離を保ちながら、装置内の圧力を、100〜1000Paまで減圧し、樹脂膜15に親モールド30を、0.1〜100MPaの圧力下、室温(20〜30℃)で、5秒〜1分間、押圧する条件を用いることができる。
【0077】
次いで、樹脂膜15に親モールド30を押圧した状態を維持しながら、樹脂膜15に紫外線を照射することにより、樹脂膜15を硬化させ、パターン形成層16を得る。親モールド30の凹凸パターンを転写した樹脂膜15に紫外線を照射する方法としては、例えば、積層体20の樹脂膜15を配置した、ナノインプリント装置の平行板の上面板を介して、10〜1000mJ/cm2の照射密度の紫外線を、樹脂膜15に照射する方法を用いることができる。
【0078】
(工程(f))
本工程では、親モールド30を、工程(e)で形成させたパターン形成層16から離間させて、インプリント用のモールド10を得る。
【0079】
ここで、パターン形成層16から親モールド30を離間させる条件としては、0.01〜0.1mm/秒の離間速度とすることがパターンの凸部の破壊を防ぐために好ましい。
【0080】
また、得られたモールド10のパターン形成層16の表面に、フッ素含有化合物からなる離型膜を形成してもよい。
【0081】
<磁気記録媒体>
図3は、本発明の磁気記録媒体を示す断面図である。同図に示す磁気記録媒体40は、基板42、および基板42上にパターン形成された磁気記録層44を備える。
【0082】
(基板42)
基板42は、その上に、磁気記録層44を一定のパターンで配置するための構成要素である。基板42は、基板42を含む被転写物に、本発明のモールドを押圧した時に変形し難い材料からなるものであれば特に制限されない。具体的には、各種のガラス基板、例えば強化ガラスを用いることができる。
【0083】
基板42の厚さは、機械的強度を確保するために、0.3mm以上にすることが好ましく、0.5mm以上にすることがより好ましい。一方、基板42の厚さは、製品の薄型化および軽量化のために、1.5mm以下にすることが好ましく、1.0mm以下にすることがより好ましい。
【0084】
(磁気記録層44)
パターン形成された磁気記録層44は、情報を書き込む、および/または読み取るための構成要素である。
【0085】
磁気記録層44としては、例えばCoCr、CoNi、CoCrX(ただし、X=Crを除く)、CoCrPtX(ただし、X=CrおよびPtを除く)、CoSm、CoSmX(ただし、X=Smを除く)、CoNiX(ただし、X=Niを除く)およびCoWX(ただし、X=Wを除く)(ここで、Xは、Ta、Pt、Au、Ti、V、Cr、Ni、W、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Li、Si、B、Ca、As、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Ag、SbおよびHf等からなる群より選ばれる1種または2種以上の金属を示す)等で表されるCoを主成分とするCo系の磁性合金等を用いることができる。使用に際しては、これらを単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0086】
磁気記録層44の厚さは、磁気特性の観点から、10nm〜100nmであることが好ましい。
【0087】
(保護層および潤滑層)
また、図3には示していないが、磁気記録媒体40は、構成要素して保護層および潤滑層を備えてもよい。ここで、当該保護層とは、磁気記録媒体40の耐磨耗性を向上させるための層である。このため、保護層は、通常、磁気記録層44上に形成する。また、当該潤滑層とは、磁気記録媒体40と磁気ヘッドとの間の潤滑特性を確保するための層である。このため、潤滑層は、通常、磁気記録媒体40の最上層、即ち上記保護層上に形成する。
【0088】
磁気記録層44上に形成する保護層は、その本来の目的を達成すべく、一般に、力学的強度の高い材料で形成することが好ましい。保護層を形成する材料としては、例えば、Al、Si、Ti、Cr、Zr、Nb、Mo、Ta、およびW等の金属の酸化物(酸化ケイ素、酸化ジルコニウム等);該金属の窒化物(窒化ホウ素等);該金属の炭化物(炭化ケイ素、炭化タングステン等);ダイヤモンドライクカーボン等のカーボン(炭素)、ならびにボロンナイトライド等からなる群より選択される一種以上が一般に用いられる。また、上記材料の中でも、カーボン、炭化ケイ素、炭化タングステン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素またはこれらの複合材料を用いることが好ましい。さらに、好ましくはカーボンが用いられ、中でも特にダイヤモンドライクカーボンおよびガラス状カーボンが好ましく用いられる。
【0089】
保護層の厚さは、一般に2〜5nm程度とすることができる。
【0090】
保護層上に形成する潤滑層は、通常使用される材料、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、およびフッ素化カルボン酸の潤滑層とすることができる。
【0091】
潤滑層の厚さは、通常の磁気記録媒体の製造時に用いられる範囲、例えば、0.5nm〜2nmの範囲とすることができる。
【0092】
以上に示す各構成要素の基板42およびパターン形成された磁気記録層44を含む、本発明の磁気記録媒体40は、図3の紙面内における水平方向において、基板42の全面にわたり磁気記録層44が均一にパターン形成されているため、優れたS/N比を実現することができる。
【0093】
<磁気記録媒体の製造方法>
以下に、本発明の磁気記録媒体について、その製造方法を併記する。図4は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の各工程を順次示す断面図であり、(a)は、基板42の上に、磁気記録層43および樹脂膜45を順次形成して積層体50を得る工程、(b)は、図1に示す本発明のモールド10のパターン形成層16のパターン面に、積層体50の樹脂膜45の表面を対向させて、モールド10と積層体50とを一定の間隔を保持して配置する工程、(c)は、(b)で作成した積層体50の樹脂膜45にモールド10を押圧し、樹脂膜45の表面に凹凸パターンを転写して、凹凸パターンを有する樹脂膜46を形成する工程、(d)は、モールド10を樹脂膜46から離間して、凹凸パターンを有する樹脂膜46を積層した積層体60を得る工程、(e)は、(d)に示す樹脂膜46の凹部を構成する残膜をエッチングにより除去して、磁気記録層43の表面を露出させる工程、(f)は、(e)に示す凹凸パターンを有する樹脂膜47をマスクとして用いることによって、磁気記録層43をエッチングして、パターン形成された磁気記録層44を得る工程、そして(g)は、(f)に示す樹脂膜48を除去して、磁気記録媒体40を得る工程それぞれを示す。以下に、図4(a)〜(g)にそれぞれ対応する、各工程(a)〜(g)について詳述する。
【0094】
(工程(a))
本工程では、基板42の上に、磁気記録層43および樹脂膜45を順次形成して積層体50を得る。まず、積層体50の形成に先立って、基板42を洗浄する。基板42の洗浄方法としては、純水超音波洗浄などの既知のいかなる方法を適用することもできる。
【0095】
基板42上に磁気記録層43を形成する方法としては、スパッタ法などの既知のいかなる方法を適用することもできる。スパッタ法を適用する場合には、磁気記録層43に用いる材料をターゲットの構成成分として用いることができる。磁気記録層43の厚さは、磁気特性の観点から、10nm〜100nmとすることが好ましい。
【0096】
また、磁気記録層43上に樹脂膜45を形成する方法としては、スピンコート法などの既知のあらゆる成膜方法を適用することもできる。
【0097】
スピンコート法を適用する場合には、以下の手順で行うことができる。即ち、まず、樹脂膜45を構成する材料を、溶剤に溶解し溶液を得、磁気記録層43上に載置する。ここで、樹脂膜45を構成する材料は、光硬化性の材料、熱硬化性の材料などを用いることができる。当該光硬化性の材料としては、紫外線硬化樹脂、例えば、東洋合成工業製のPAK−01を用いることができる。また、上記溶剤は、樹脂膜45を構成する材料を溶解するものであれば特に制限されない。
【0098】
次いで、磁気記録層43上に上記溶液を載置した積層体を回転させて、磁気記録層43上に均一な液膜を形成する。その後、磁気記録層43上に液膜を形成した積層体を加熱して溶剤を除去し、基板42上に樹脂膜45を得る。加熱条件は、用いる溶剤が蒸発する条件であれば特に制限されない。また、樹脂膜45の厚さは、後述する樹脂膜46のパターンの溝の深さと残膜の厚さとの形成を考慮して、20nm〜200nmとすることが好ましい。
【0099】
(工程(b))
本工程では、ナノインプリント装置(図示せず)内で、モールド10のパターン形成層16のパターン面に、工程(a)で作成した積層体50の樹脂膜45の表面を対向させて、モールド10と積層体50とを一定の間隔を保持して配置する。
【0100】
ナノインプリント装置は、例えば、上下に一定の間隔を有する平行板を備えるナノインプリント装置(東芝機械製のST−50)を用いることができる。
【0101】
(工程(c))
本工程では、(b)で作成した積層体50の樹脂膜45にモールド10を押圧し、樹脂膜45の表面に凹凸パターンを転写して、凹凸パターンを有する樹脂膜46を形成する。特に、ここでは、樹脂膜45として光(紫外線)硬化性の材料を用いた場合について説明する。
【0102】
積層体50の樹脂膜45にモールド10を押圧する条件としては、ナノインプリント装置内の圧力を、100〜1000Paまで減圧し、樹脂膜45にモールド10を、0.1〜100MPaの圧力下、室温(20〜30℃)で、5秒〜1分間、押圧する条件を用いることができる。また、モールド10を、樹脂膜46に、0.01〜1mm/秒の速度で押圧することがパターン形成の精度を高める点で好ましい。
【0103】
次いで、樹脂膜45にモールド10を押圧した状態を維持しながら、樹脂膜45に紫外線を照射することにより、樹脂膜45を硬化させ、凹凸パターンを有する樹脂膜46を得る。
【0104】
樹脂膜45に紫外線を照射する方法としては、例えば、モールド10を配置した、ナノインプリント装置の平行板の上面板を介して、10〜1000mJ/cm2の照射密度の紫外線を、樹脂膜45に照射する方法を用いることができる。
【0105】
(工程(d))
本工程では、モールド10を樹脂膜46から離間して、凹凸パターンを有する樹脂膜46を積層した積層体60を得る。
【0106】
樹脂膜46のパターンの溝の深さは、後述する工程(f)におけるエッチングによる磁性層の加工の観点から、10〜100nmとすることが好ましく、樹脂膜46の凹部の残膜の厚さは、後述する工程(e)におけるエッチングによる残膜の除去加工の観点から、0〜100nmとすることが好ましい。
【0107】
モールド10を樹脂膜46から離間する条件としては、0.01〜1mm/秒の離間速度とすることが好ましい。
【0108】
(工程(e))
本工程では、(d)に示す樹脂膜46の凹部の残膜をエッチングにより除去して、磁気記録層43の表面を露出させる。
【0109】
樹脂膜46の凹部の残膜をエッチングする方法としては、ドライエッチング法などの既知のいかなる方法を適用することもできる。
【0110】
ドライエッチング法を適用する場合には、酸素プラズマエッチングで残膜のエッチング処理を行うことができる。
【0111】
なお、樹脂膜46の凹部の残膜をエッチングにより除去する際に、樹脂膜46の凸部の一部をエッチングにより除去してもよい。ただし、当該凸部のエッチングにより形成される樹脂膜47が、後述する工程(f)において、磁気記録層43のマスクとして用いることができることを条件とする。
【0112】
(工程(f))
本工程では、(e)に示す凹凸パターンを有する樹脂膜47をマスクとして用いることによって、磁気記録層43をエッチングして、パターン形成された磁気記録層44を得る。
【0113】
磁気記録層43をエッチングする方法としては、反応性イオンエッチング法などの既知のいかなる方法を適用することもできる。反応性イオンエッチング法を適用する場合には、CFガスで磁気記録層43をエッチング処理することができる。なお、磁気記録層43をエッチングにより除去する際に、当該エッチングにより、樹脂膜47の凸部の一部を除去してもよい。
【0114】
(工程(g))
本工程では、(f)に示す樹脂膜48を除去して、基板42上に所定のパターンを有する磁気記録層44を形成した磁気記録媒体40を得る。
【0115】
樹脂膜48を除去する方法としては、酸素プラズマエッチング法などの既知のいかなる方法を適用することもできる。
【0116】
(任意の工程)
以上に示す本発明の磁気記録媒体の製造方法は、図4に示す工程(g)の後に、磁気記録層44上に保護層を形成する工程(図示せず)、および当該保護層の上に潤滑層を形成する工程(図示せず)をさらに備えてもよい。
【0117】
磁気記録層44の上に保護層を形成する方法としては、スパッタ法、またはCVD法などの既知のいかなる方法を適用することもできる。スパッタ法を適用する場合には、保護層43に用いる材料をターゲットの構成成分として用い、アルゴンガスおよび窒素ガスによるDCマグネトロン方式を採用することができる。
【0118】
保護層の上に潤滑層を形成する方法としては、ディップ法などの既知のいかなる方法を適用することもできる。
【0119】
ディップ法を適用する場合には、磁気記録媒体40をディップ層に浸漬して、ディップ層から0.1〜10mm/秒で、液面に対して磁気記録媒体40の基板面を垂直に引き上げることで保護層の上に潤滑層を形成することができる。
【実施例】
【0120】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明し、本発明の効果を実証する。
【0121】
<実施例1>
本実施例では、基材およびパターン形成層の各弾性率に対して所定の弾性率を有する中間層が、モールド性能にどのように影響するかを検討した。
【0122】
図2に示す手順により、ナノインプリント用モールドを得た。
【0123】
まず、図2(a)に示すように、多結晶ガラス製の円盤状の基材12を準備した。基材12を準備するに際し、純水超音波洗浄により、基材12を洗浄した。基材12の形状は、外径φ65mm、内径φ25mm、および厚さ0.635mmであった。また、基材12の弾性率を3点曲げ試験法で測定したところ、100GPaであった。
【0124】
次に、図2(b)に示すように、基材12上に、中間層14を形成した。具体的には、エチルベンゼンに、ポリジメチルシロキサン樹脂(東レ・ダウコーニング製のSYLGARD184)を溶解して溶液を得、当該溶液を基材12上に載置した。次に、基材12に当該溶液を載置した積層体をスピンコートして、基材12上に均一な液膜を形成した。さらに、基材12上に液膜を形成した積層体を、125℃のオーブン中で40分間加熱した。これにより、基材12の上に、厚さ1μmのポリジメチルシロキサン樹脂の膜を得、中間層14を形成した。ここで、中間層14の弾性率は、ナノインデンテーション法で測定したところ、100MPa以下であった。また、中間層14は、364nmの紫外光を70%透過するものであった。
【0125】
さらに、図2(c)に示すように、中間層14上にUV硬化性の樹脂膜15を形成した。具体的には、UV硬化性樹脂(東洋合成工業製のPAK−01)の溶液を中間層14上に載置し、基材12上に当該溶液を載置した積層体をスピンコートして、中間層14上に均一な液膜を形成した。さらに、基材12上に液膜を形成した積層体を、80℃のホットプレート上で2分間保持することによって溶剤を除去して、中間層14上に厚さが100nmの樹脂膜15を形成した。ここで、樹脂膜15の弾性率をナノインデンテーション法で測定したところ、5GPaであった。
【0126】
次いで、図2(d)に示すように、(c)で形成した積層体20の樹脂膜15の面に、親モールド30の凹凸パターン面を対向させて、積層体20と親モールド30とを一定の間隔を保持して配置した。
【0127】
このように積層体20と親モールド30とを配置するために、上下に一定の間隙を隔てて位置する平行板を備えるナノインプリント装置(東芝機械製ST−50)(図示せず)を用いた。
【0128】
当該装置内に積層体20と親モールド30とを固定する手順としては、まず、ナノインプリント装置の上面板(石英ガラス製)に、樹脂膜15が最下部になるように積層体20を固定し、次いで、装置の下面板に、パターン面が上向きになるように親モールド30を固定した。
【0129】
ここで、親モールド30は、EBリソグラフィー法により、シリコンウェハー上に配置したレジスト層に所定のパターンを形成した後、Ni電鋳することにより得たものである。
【0130】
親モールド30の形状は、外径φ90mmおよび厚さ300μmであった。データの読み書きをする親モールド30のデータトラックパターンは、同心円の凸部と凹部とからなり、パターン幅90nmで、幅60nmの凸部および幅30nmの凹部が交互に並んでおり、溝深さは40nmであった。また、アドレス情報となるホールまたはドットなどから形成される親モールド30のサーボ情報パターンは、主要部としてバースト部を備え、当該バースト部は、2つのバースト領域からなり、各バースト領域においては、それぞれ、ピッチが180nmで、縦90nm×横90nm×深さ40nmのホールが並んでいた。また、各バースト領域は、他のバースト領域に対して、ホールが半周期ずれるように構成されていた。
【0131】
これらの両パターンにより、親モールド30には、パターン面の中心からφ25〜63mmの全体に、凸部および凹部からなるデータトラック領域と、サーボ情報領域とが形成されていた。ここで、上記データトラック領域は、サーボ情報領域よりもパターン幅が狭いものであった。
【0132】
親モールド30は、その使用に先立って、そのパターン面に、下記のように離型膜を形成した。
【0133】
まず、離型膜を構成する材料であるダイキン化成のオプツールHD−2101の溶液中に親モールド30を1分間浸漬した。その後、当該溶液から親モールド30をゆっくりと引き上げ、室温で12時間放置した。次いで、親モールド30を、ダイキン化成のオプツールZVに浸漬し、攪拌することにより洗浄し、引き上げ、最後に室温で10分間乾燥させた。
【0134】
さらに、図2(e)に示すように、工程(d)で配置した積層体20に、親モールド30を押圧し、UV硬化性の樹脂膜15の表面に親モールド30の凹凸パターンを転写した。
【0135】
まず、樹脂膜15と、親モールド30との間に一定の距離を保ちながら、装置内の圧力を、1000Paまで減圧した。
【0136】
次いで、下面板に対して装置の上面板を垂直方向に降下させることにより、樹脂膜15に親モールドを、0.2MPaの圧力下で押圧した。この状態を維持しながら凸部プリント装置の上面板側から、樹脂膜15に364nmの波長のUV光を100mJ/cm2の照射密度で照射することで、樹脂膜15を硬化させた。
【0137】
さらに、図2(f)に示すように、親モールド30を、工程(e)で形成させたパターン形成層16から離間させて、ナノインプリント用のモールド10を得た。
【0138】
ここで、パターン形成層16から親モールド30を離間させるために、下面板に対して、ナノインプリント装置の上面板を、垂直方向に上昇させた。形成層16から親モールド30を離間した後に、ナノインプリント装置内の圧力を大気圧に戻し、ナノインプリント用モールド10を装置内から取り出した。
【0139】
図示していないが、図2の工程(f)の後に、モールド10を、密閉ボックス内に配置し、ボックス内の圧力を減じ、加熱気化させたオプツールHD−2101の蒸気を密閉ボックス内に導入することにより、モールド10のパターン形成層の表面に離型膜を形成した。
【0140】
以上により、外径φ65mm、内径φ25mm、および厚さ0.635mmのガラス基材12上に、厚さ1μmの中間層14とパターン形成層16を順次積層したインプリント用のモールド10を得た。
【0141】
形成層16に形成したパターンは、モールド10のパターン面の中心からφ25mm〜63mmの範囲にわたり全面に形成されていた。また、当該パターンは、同心円の凸部と凹部とからなるものであった。さらに、当該パターン面には、データの読み書きをするデータトラック領域と、サーボ情報領域とが形成されていた。当該データトラック領域は、パターン幅が90nmで、幅30nmの凸部および幅60nmの凹部が交互に並んでおり、パターン溝の深さは40nmであった。また、サーボ情報領域は、親モールド30のサーボ情報領域と同様であった。
【0142】
図4に示す手順により、上記のモールド10を用いて磁気記録媒体40を作製した。
【0143】
まず、図4(a)に示すように、基板42上に、磁気記録層43および樹脂膜45を順次形成して積層体50を得た。
【0144】
まず、洗浄した基板42を準備した。基板42の洗浄には、純水超音波洗浄を適用した。
【0145】
基板42には、ドーナツ形状、即ち、外径φ65mm、内径φ20mm、厚さ0.635mmの形状のガラス基板を用いた。
【0146】
次いで、スパッタ法を用いて、基板42上に、磁気記録層43を形成した。
【0147】
さらに、磁気記録層43の上に樹脂膜45を形成した。具体的には、磁気記録層43の上に、UV硬化性樹脂(東洋合成工業製のPAK−01)の溶液を載置した。次いで、磁気記録層43上に、当該溶液を載置した積層体をスピンコートし、磁気記録層43上に均一な液膜を形成した。さらに、当該液膜を形成した積層体を、80℃のホットプレート上に2分間保持することによって、液膜中の溶剤を除去して、40nm厚さの樹脂膜45を形成した。
【0148】
次に、図4(b)に示すように、モールド10のパターン形成層16のパターン面に、工程(a)で作成した積層体50の樹脂膜45の表面を対向させて、モールド10と積層体50とを一定の間隔を保持して配置した。
【0149】
モールド10と積層体50とを一定の間隔を保持して配置するために、装置の上下に一定の間隙を隔てて位置する平行板を備えるナノインプリント装置(図示せず)を用いた。
【0150】
装置内に、モールド10と積層体50とを固定する手順としては、まず、ナノインプリント装置の上面板(石英ガラス製)に、モールド10をパターン形成層が下向きになるように固定した。次いで、装置の下面板に、樹脂膜45の表面が上向きになるように固定した。
【0151】
さらに、図4(c)に示すように、(a)で作成した積層体50の樹脂膜45にモールド10を押圧し、樹脂膜45の表面に凹凸パターンを転写して、凹凸パターンを有する樹脂膜46を形成した。
【0152】
積層体50の樹脂膜45にモールド10を押圧するために、まず、ナノインプリント装置内の圧力を1000Paまで減圧した。次いで、下面板に対して垂直方向に、装置の上面板を降下させることにより、樹脂膜45にモールド10を、0.2MPaの圧力下で押圧した。この状態を維持しながら凸部プリント装置の石英ガラス製の上面板側から、波長が364nmのUV光を樹脂膜45に100mJ/cm2の照射密度で照射することで、樹脂膜45を硬化させた。
【0153】
さらに、図4(d)に示すように、モールド10を、工程(c)で形成させたパターン形成した樹脂膜46から離間させて、積層体60を得た。
【0154】
ここで、樹脂膜46からモールド10を離間するためナノインプリント装置の上面板を上昇させた。樹脂膜46からモールド10を離間した後に、ナノインプリント装置内の圧力を大気圧に戻し、積層体60を装置内から取り出した。このようにして、図4の(d)に示すような、樹脂膜46のパターンの溝の深さが40nm、樹脂膜46の凹部の残膜が13nmである積層体60を得た。
【0155】
次に、図4(e)に示すように、(d)に示す樹脂膜46の凹部の残膜を酸素プラズマによるドライエッチングにより除去して、磁気記録層43の表面を露出させた。
【0156】
なお、エッチング処理により、樹脂膜47のパターンの厚さは、13nmであった。
【0157】
さらに、図4(f)に示すように、(e)に示す樹脂膜47をマスクとして用いることによって、磁気記録層43をエッチングして、パターン形成された磁気記録層44を得た。
【0158】
具体的には、反応性イオンエッチング(RIE)装置内で、塩素ガスを用いて、磁気記録層43をエッチング処理した。
【0159】
次に、図4(g)に示すように、(f)に示す樹脂膜48を除去して、基板42上に凹凸パターンを有する磁気記録層44を形成した磁気記録媒体40を得た。得られた、磁気記録層44のパターンの厚さは、10nmであった。
【0160】
最後に、図4に示していないが、CVD法により磁気記録層44上に保護層を形成し、当該保護層の上に、潤滑膜をディップ法で形成した。
【0161】
以上により、外径φ65mmおよび内径φ20mmのドーナツ板形状を有するガラス基板上の全面に、凸部幅60nmおよび凹部幅30nmの同心円の凸部と凹部からなるデータトラックパターン、ならびにその一部にサーボ情報パターンを備える磁気記録媒体40を得た。
【0162】
上記のように、本発明のモールドを用いて作製した磁気記録媒体について、磁気記録信号を測定することで当該媒体としての特性を評価することで、本発明のモールドの有用性を確認した。ここで、磁気記録信号の測定項目は、プリアンブルの振幅値およびフリンジ特性とした。
【0163】
その結果、本発明のモールドを用いて作成した磁気記録媒体は、良好なS/N比を実現することができた。このため、本発明のモールドは、ナノインプリント用のモールドとして有用であることが判明した。
【0164】
<実施例2>
本実施例では、基材およびパターン形成層の各弾性率に対する中間層の弾性率が、モールド性能にどのような影響を及ぼすかを検討した。
【0165】
具体的には、中間層の弾性率が基材およびパターン形成層の各弾性率よりも小さい場合と、中間層の弾性率が基材の弾性率よりも小さいがパターン形成層の弾性率と同等である場合とについて、モールド性能を検討した。
【0166】
基材およびパターン形成層の各弾性率よりも小さい弾性率の中間層を構成する材料として、曲げ弾性率が100MPa未満のシリコーン樹脂(実施例2−1および2−2)、470MPaのシリコーン樹脂(実施例2−3)、および1,400MPaのシリコーン樹脂(実施例2−4)を用いた。
【0167】
一方、基材の弾性率よりも小さいがパターン形成層の弾性率と同等の弾性率の中間層を構成する材料として、曲げ弾性率が3,000MPaのエポキシ樹脂(比較例2−1)、3,100MPaのアクリル樹脂(比較例2−2)、および3,300MPaのアクリル樹脂(比較例2−3)を用いた。
【0168】
なお、基材を構成する材料として、曲げ弾性率が100GPaのガラス製の基材を用いた。また、パターン形成層を構成する材料として、曲げ弾性率が5GPaのUV硬化性樹脂を用いた。
【0169】
各モールドの作製方法としては、実施例1の(ナノインプリント用モールドの作製)に記載した方法を適用した。
【0170】
このようにして得た各モールドの評価については、各モールドを用いることにより、実施例1の(磁気記録媒体の作製)に記載した図4の工程(d)に示す積層体60を得、樹脂膜46のパターンの溝の深さ、およびそのパターンのむらを測定し、その測定結果に基づき行った。
【0171】
樹脂膜46のパターンの溝の深さは、原子間力顕微鏡(AFM)によって測定した。ここで、パターンの溝の深さの測定については、樹脂膜46表面上の、内周(φ26mm付近)、中周(φ44mm付近)、外周(φ62mm付近)の各周について、周方向に90°ずつ離れた合計12箇所の位置で、各位置毎に10回行った。
【0172】
樹脂膜46の表面に形成したパターンむらの測定については、光学式表面検査解析装置(OSA)を用いることにより樹脂膜46のパターン表面全体を測定した。ここで、樹脂膜46の表面に形成したパターンにむらがあるか否かは、装置としてKLA−Tencor製のCandela 6,100を用いて判断した。
【0173】
これらの測定結果を表1に示す。
【0174】
【表1】

【0175】
表1によれば、中間層を構成する材料に、基材およびパターン形成層の各弾性率よりも小さいシリコーン樹脂(実施例2−1〜2−4)を用いた場合には、樹脂膜46の表面に形成したパターンの溝の深さにばらつきがなく、パターンの溝の深さは平均40nmであり、標準偏差3σは2.0nm以下であった。
【0176】
また、樹脂膜46の表面に形成したパターンには、むらが存在しなかった。このため、樹脂膜46の中心からφ25mm〜63mmの範囲の全面にわたり、サーボ領域を確認することができた。
【0177】
さらに、中間層を構成する材料に当該シリコーン樹脂(実施例2−1〜2−4)を用いたモールド10を適用して、実施例1の(磁気記録媒体の作製)に記載した方法により、図4(g)に示す磁気記録媒体40を作製した。
【0178】
次いで当該媒体の磁気記録信号を測定して、磁気記録媒体の特性を評価した。ここで、磁気記録信号の測定条件、および当該信号の測定結果に基づく評価基準は、実施例1の(評価)に記載した通りである。
【0179】
その結果、本発明のモールドを用いて作成した磁気記録媒体は、良好なS/N比を実現することができた。このため、本発明のモールドは、ナノインプリント用のモールドとして有用であることが判明した。
【0180】
一方、中間層を構成する材料に、パターン形成層の弾性率と同等のエポキシ樹脂(比較例2−1)およびアクリル樹脂(比較例2−2および2−3)を適用した場合には、樹脂膜46の表面に形成したパターンにばらつきがあり、サーボ領域を確認できない箇所があった。
【0181】
また、サーボ領域が確認できない箇所を、AFMにより観察したところ、当該箇所には、凹凸パターンが形成されていなかった。
【0182】
このため、中間層を構成する材料に、パターン形成層の弾性率と同等な弾性率の樹脂を用いたモールドから磁気記録媒体を作製することはできなかった。
【0183】
<実施例3>
本実施例では、中間層の厚さが、モールド性能に及ぼす影響について検討した。
【0184】
まず、中間層の厚さが異なる各種のモールドを作製した。
【0185】
モールドの作製方法としては、実施例1の(ナノインプリント用モールドの作製)に記載した方法を適用した。ただし、中間層を構成する材料に、東レ・ダウコーニングSYLGARD184および東レ・ダウコーニングSCR−1016を用いた。また、当該樹脂を溶剤に溶解する希釈量、および当該溶剤に溶解した樹脂の溶液を載置した基材を回転させる回数については、下記の表2に示す中間層の厚さを得るために適宜調整した。
【0186】
次に、このようにして得た各モールドを評価するために、まず、当該モールドを用いて、実施例1の(磁気記録媒体の作製)に記載した方法により、図4の工程(d)に示すパターン形成された樹脂膜46を含む積層体60を得た。次いで、樹脂膜46のパターンむらを測定することにより、各モールドを評価した。ここで、樹脂膜46のパターンむらの評価方法は、実施例2で示した評価方法と同様である。
【0187】
なお、樹脂膜46の表面に形成したパターンのむらの測定については、光学式表面検査解析装置(OSA)を用いることにより樹脂膜46の表面全体を測定した。
【0188】
この測定結果を、表2に示す。
【0189】
【表2】

【0190】
表2によれば、ナノインプリント用モールドを構成する中間層の厚さとしては、50nm以上の厚さが必要であることが判明した。
【0191】
<実施例4>
本実施例では、パターン形成層のパターン幅に対する中間層の厚さが、モールド性能にどのような影響を及ぼすかを検討した。
【0192】
まず、中間層の厚さが、100nm、200nm、500nm、990nm、1,500nm、2,200nm、2,500nm、4,800nm、5,500nm、9,900nm、12,000nm、20,000nm、23,000nmであるモールドを作製した。
【0193】
モールドの作製方法としては、実施例1の(ナノインプリント用モールドの作製)に記載した方法を適用した。ただし、中間層を構成する材料に、東レ・ダウコーニングSYLGARD184または東レ・ダウコーニングSCR−1016を使用した。また、当該樹脂を溶剤に溶解する希釈量、および当該溶剤に溶解した樹脂の溶液を載置した基材を回転させる回数については、上記の中間層の各厚さを得るために適宜調整した。
【0194】
このようにして得た各モールドを評価するために、まず、当該各モールドを用いて、実施例1の(磁気記録媒体の作製)に記載した方法により、磁気記録媒体を得、当該媒体の磁気記録信号を測定して、媒体の特性を評価した。なお、磁気記録信号の測定としては、繰返し回転振れ(Repeatable Run−Out:以下、単に「RRO」とも称する)の値を測定した。RROには、回転振れの修正が可能な低次成分のRROと、修正が困難な高次成分のRROとが存在する。ここで、本明細書においては、低次成分のRROとは9次未満のRROを意味し、高次成分のRROとは9次以上のRROを意味する。なお、RRO値の測定条件は、9次未満の低次成分のRROについては回転振れの修正を行い、9次以上の高次成分のRROを取り出した。
【0195】
以上の測定結果を図5に示す。図5は、モールドの中間層の厚さと、種々の厚さの中間層のモールドを用いて作製した磁気記録媒体のRRO値との関係を示すグラフである。
【0196】
図5によれば、モールドの中間層の厚さは、RRO値に対して、およそ100倍であることが判明した。図5に示す結果等から、発明者は、以下の知見をさらに得た。
【0197】
磁気記録媒体にデータを読み/書きするディスクドライブにおいては、リード/ライトヘッドのサーボシステムが装備されている。このため、当該媒体の選択されたトラック上にヘッドを正確に維持することができる。一般に、ヘッドの維持幅は、磁気記録媒体のトラック幅の0.1倍以下にする必要がある。ここで、磁気記録媒体のRRO値が大きいと、ヘッドの維持幅を、トラック幅の0.1倍以下にすることが容易ではなくなり、ディスクドライブのシステムに過度の負担を与え、ディスクドライブの性能を悪化させる要因になる。
【0198】
このため、磁気記録媒体のRRO値は、ヘッドの維持幅の10倍以内にすることが求められる。上記の通り、ヘッドの維持幅を、磁気記録媒体のトラック幅の0.1倍以下にする必要があるため、結果的にRRO値を、トラック幅よりも小さくしなければならない。
【0199】
また、図5によれば、モールドの中間層の厚さは、RRO値に対して、およそ100倍になる。上記の通り、RRO値をトラック幅よりも小さくすることが必要なため、モールドの中間層の厚さは、磁気記録媒体のトラック幅の100倍以下にすることが求められる。
【0200】
ここで、磁気記録媒体のトラック幅は、当該媒体の作製に用いられるモールドのパターン幅、即ち、パターン形成層のパターン幅として考えることができる。
【0201】
よって、磁気記録媒体の作製に用いられるモールドの中間層の厚さは、パターン形成層のパターン幅の100倍以下にする必要があると考察できる。
【0202】
なお、磁気記録媒体のパターン幅は、一般に、100nm以下であるため、上記の考察から導き出された結果から、中間層の厚さを、10μm以下にすることが好ましい。
【0203】
<実施例5>
本実施例では、パターン形成層にフッ素含有樹脂を適用することが、モールド性能にどのような影響を及ぼすかを検討した。
【0204】
まず、パターン形成層にフッ素含有樹脂を含有させたモールドを作製した。
【0205】
モールドの作製方法としては、実施例1の(ナノインプリント用モールドの作製)に記載した方法を適用した。ただし、パターン形成層を構成する材料に、フッ素非含有のアクリル樹脂である東洋合成工業製のPAK−01を用いる代わりに、フッ素含有樹脂である旭硝子製のNIF−A−1を用いた。また、親モールドについては、そのパターン面に離型膜を形成させずに用いた。さらに、ナノインプリント用モールドについても、そのパターン面に離型膜を形成しなかった。
【0206】
このようにして得たモールドを評価するために、実施例1の(磁気記録媒体の作製)に記載した方法により、当該モールドを用いて磁気記録媒体を作製し、当該媒体の磁気記録信号を測定して、磁気記録媒体の特性を評価した。ここで、磁気記録信号の測定条件、および当該信号の測定結果に基づく評価基準は、実施例1の(評価)に記載した通りである。
【0207】
その結果、当該モールドを用いて作成した磁気記録媒体は、良好なS/N比を実現することができた。このため、当該モールドは、ナノインプリント用のモールドとして有用であることが判明した。
【0208】
<実施例6>
本実施例では、モールドの構成要素であるパターン形成層の材料にフッ素含有樹脂を適用することが、モールドの耐久性にどのような影響を及ぼすかを検討した。
【0209】
パターン形成層の材料にフッ素含有樹脂を適用したモールドとしては、実施例5で作製したモールド(実施例6−1)を用いた。
【0210】
また、モールドの耐久性を検討するに際して、パターン形成層の材料にフッ素樹脂を適用せずに作製した実施例1のモールド(実施例6−2)についてもその耐久性を検討した。
【0211】
さらに、上記の実施例5で作製したモールド(実施例6−1)および実施例1で作製したモールド(実施例6−2)のそれぞれについて中間層を形成しなかった各モールド(それぞれ比較例6−1および6−2とする)についてもこれらの耐久性を検討した。
【0212】
各モールドの耐久性の評価方法は、以下の通りである。
【0213】
まず、図4の工程(b)に示すように、評価するモールドのパターン形成層のパターン面に、積層体50の樹脂膜45の表面を対向させて、モールド10と積層体50を一定の間隔を保持して配置した。ここで使用したナノインプリント装置は、実施例1に記載の通りである。
【0214】
次いで、図4の工程(c)に示すように、積層体50の樹脂膜45に、モールドを押圧し、この状態を維持しながら、樹脂膜45に紫外線を照射することにより、樹脂膜45を硬化させ、凹凸パターンを有する樹脂膜46を得た。ここで、押圧条件、および硬化条件は、実施例1の(磁気記録媒体の作製)に記載の通りである。
【0215】
さらに、図4(d)に示すように、モールドを樹脂膜46から離間して、凹凸パターンを有する樹脂膜46を積層した積層体60を得た。
【0216】
このように図4に示す(b)〜(d)を1回のインプリント工程として、当該工程を何回繰返したときに、モールドに欠陥が発生するかを観察し、各モールドの耐久性を評価した。ここで、モールドの欠陥には、樹脂膜からモールドを離間させる際に、パターン形成層の一部が樹脂膜に付着して、モールドに欠陥が発生する場合、および樹脂膜の一部がモールドのパターン面に付着する場合の双方を含むものとする。
【0217】
各モールドの耐久性の結果を、表3に示した。
【0218】
【表3】

【0219】
パターン形成層の材料にフッ素樹脂を含有させたモールドの場合には、インプリント工程を5000回の繰り返してもモールドに欠陥は発生しなかった。このため、モールドを樹脂膜に押圧する際に、パーティクルなどの異物混入に注意することにより、量産時におけるモールドの取替え間隔を格段に延ばすことが可能となる。
【0220】
また、モールドのパターン形成層の材料にフッ素樹脂を含有させなかったモールドの場合にも、100回の繰り返しまではモールドに欠陥が発生しなかった。しかしながら、200回の繰返しで、モールドのパターン面の2ケ所に樹脂膜の一部が付着する欠陥が観察された。このため、当該モールドは、200回未満で交換する必要がある。
【0221】
これに対して、中間層を形成しなかったモールド(比較例6−1および6−2)は、1回のインプリントで欠陥が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0222】
本発明のナノインプリント用モールドは、基材とパターン形成層との間に所定の弾性率を有する中間層を形成することで、ナノインプリント時に、モールドのパターン形成層表面の凸部の厚みむら、ひいては被転写物の構成部材のうねりを吸収することができる。このため、当該モールドを使用してパターンを転写して得られた磁気記録媒体においては、優れたS/N比を達成できる。
【0223】
また、本発明のモールドにおいて、特に、パターン形成層にフッ素含有樹脂を含ませた場合には、さらに、モールドの優れた耐久性を実現することができる。
【0224】
従って、本発明は、今後益々高性能化が要請されている磁気記録媒体等の分野において、磁気記録媒体の優れたS/N比を実現でき、さらには優れた耐久性を有するモールドを提供することができる点で有望である。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】本発明のナノインプリント用モールドを示す断面図である。
【図2】本発明のナノインプリント用モールドの製造方法の各工程を順次示す断面図であり、(a)は、基材12を準備する工程、(b)は、基材12の上に中間層14を形成する工程、(c)は、中間層14の上に樹脂膜15を形成する工程、(d)は、積層体20の樹脂膜15の面を、親モールド30の凹凸パターン面に対向させて、積層体20と親モールド30とを一定の間隔を保持して配置する工程、(e)は、(d)で作成した積層体20の樹脂膜15に親モールド30を押圧し、樹脂膜15の表面に凹凸パターンを転写して、パターン形成層16を形成する工程、そして(f)は、親モールド30をパターン形成層16から離間して、インプリント用モールド10を得る工程をそれぞれ示す。
【図3】本発明の磁気記録媒体を示す断面図である。
【図4】本発明の磁気記録媒体の製造方法の各工程を順次示す断面図であり、(a)は、基板42の上に、磁気記録層43および樹脂膜45を順次形成して積層体50を得る工程、(b)は、図1に示す本発明のモールド10のパターン形成層16のパターン面に、積層体50の樹脂膜45の表面を対向させて、モールド10と積層体50とを一定の間隔を保持して配置する工程、(c)は、(b)で作成した積層体50の樹脂膜45にモールド10を押圧し、樹脂膜45の表面に凹凸パターンを転写して、凹凸パターンを有する樹脂膜46を形成する工程、(d)は、モールド10を樹脂膜46から離間して、凹凸パターンを有する樹脂膜46を積層した積層体60を得る工程、(e)は、(d)に示す樹脂膜46の凹部の残膜をエッチングにより除去して、磁気記録層43の表面を露出させる工程、(f)は、(e)に示す凹凸パターンを有する樹脂膜47をマスクとして用いることによって、磁気記録層43をエッチングして、パターン形成された磁気記録層44を得る工程、そして(g)は、(f)に示す樹脂膜48を除去して、磁気記録媒体40を得る工程それぞれを示す。
【図5】モールドの中間層の厚さと、種々の厚さの中間層のモールドを用いて作製した磁気記録媒体のRRO値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0226】
10 ナノインプリント用モールド
12 基材
14 中間層
16 パターン形成層
40 磁気記録媒体
42 基板
44 パターン形成された磁気記録層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に隣接する中間層と、
前記中間層に隣接し、表面に微細な凹凸パターンを有するパターン形成層と
を備えるナノインプリント用モールドにおいて、
前記中間層が紫外線透過性のシリコーン樹脂を含有する接着剤からなり、その弾性率が、前記基材の弾性率よりも小さく、かつ、前記パターン形成層の弾性率よりも小さいことを特徴とする、ナノインプリント用モールド。
【請求項2】
前記中間層の厚さが、50nm以上であることを特徴とする、請求項1に記載のナノインプリント用モールド。
【請求項3】
前記中間層の厚さが、前記パターン形成層のパターン幅の100倍以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のナノインプリント用モールド。
【請求項4】
前記パターン形成層が、フッ素含有樹脂を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のナノインプリント用モールド。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のモールドを用いて作製された磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−49745(P2010−49745A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213003(P2008−213003)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】