説明

ナノエマルション及びそれを配合した化粧料

【課題】経時安定性が向上したリン脂質を含むナノエマルションを提供する。
【解決手段】レシチンなどのリン脂質とリゾレシチンなどのリゾリン脂質を含んでなるナノ粒子が水相中に分散してなるものであって、更に安定化剤としてフェノキシエタノールを含有することを特徴とするナノエマルションである。また、該ナノエマルションを配合してなる化粧料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水相中にナノ粒子が分散してなるナノエマルション、及び、該ナノエマルションを配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスファチジルコリンなどのリン脂質は、親水基と疎水基を持つため、化粧料などの皮膚外用剤の分野において、エマルションを形成するための界面活性剤として用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。特に、消費者の天然物指向の高まりにより、天然物由来の界面活性剤であるリン脂質によるエマルション化が求められている。
【0003】
かかるエマルションとして、従来は、数10μm程度の粒子が分散してなるマイクロエマルションが一般的であるが、皮膚への吸収性を高めるため、数100nm以下のナノ粒子が分散してなるナノエマルションとすることが望まれ、そのような技術も提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、一般に、上記リン脂質のみでナノエマルションを形成し、かつ安定に保つことは難しい。
【0004】
一方、リゾホスファチジルコリンなどのリゾリン脂質は、リン脂質と同様、界面活性剤として作用し得るものであり、化粧料への適用についても提案されている。すなわち、特許文献3には、リン脂質とリゾリン脂質と油を所定の比率で配合したリン脂質組成物が提案されている。しかしながら、同文献は、機械分散法を否定していることからも明らかなように、単に油を水中に安定に溶かし込むことを意図したものであって、リン脂質とともにリゾリン脂質を加えることでナノエマルション化が図られることを開示したものではない。
【0005】
他方、フェノキシエタノールは、化粧料の分野において、微生物に対する汚染対策、即ち防腐剤として配合されることはあるが(例えば、特許文献1、4)、リン脂質とリゾリン脂質とからなるナノエマルションを経時的に安定化させる機能については知らせておらず、また、そのような安定化剤として使用されたことはなかった。
【0006】
なお、特許文献5には、シリコーンオイルエマルションの安定性を向上させる成分としてフェノキシエタノールを配合することが開示され、また、特許文献6には、油性成分にも水性成分にも溶けにくいスフィンゴシン誘導体を、系に均一に乳化あるいは分散させるための成分としてフェノキシエタノールを配合することが開示されている。しかしながら、これらはリン脂質とリゾリン脂質とからなるエマルションの安定化に関するものではなく、すなわち、安定化させる対象が異なるものであり、またナノエマルションに関するものでもない。
【特許文献1】特開2005−8591号公報
【特許文献2】特開2002−226402号公報
【特許文献3】特開2001−302433号公報
【特許文献4】特表2002−515514号公報
【特許文献5】特開2000−169705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の点に鑑み、リン脂質を含むナノエマルションであって、経時的な安定性を向上したものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、リン脂質を含むナノエマルションを開発していく中で、リン脂質とともにリゾリン脂質を加えることで、ナノ粒子が水相中に均一に分散してなるナノエマルションが得られることを見い出した。そして、かかるリン脂質とリゾリン脂質からなるナノエマルションにフェノキシエタノールを配合することにより、該ナノエマルションの高温での経時安定性が向上することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るナノエマルションは、リン脂質とリゾリン脂質を含んでなるナノ粒子が水相中に分散してなるものであって、更にフェノキシエタノールを含有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係る化粧料は、該ナノエマルションを配合してなるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安定化剤としてフェノキシエタノールを配合したことにより、リン脂質とリゾリン脂質とからなるナノエマルションの高温での経時安定性を向上することができる。そのため、化粧料を始めとする皮膚外用剤の原料組成物として用いる際に、その長期にわたる保存を可能とし、また、化粧料に配合された後の経時安定性の向上にも寄与し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
本発明のナノエマルションは、リン脂質とリゾリン脂質とフェノキシエタノールを必須成分として含有するものである。
【0014】
上記リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(即ち、レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、ホスファチジル酸などのグリセロリン脂質およびこれらの水素添加物が挙げられ、これらはそれぞれ1種又は2種以上混合して用いることができる。これらの成分は、大豆中や卵黄中などに高濃度で存在するため、大豆あるいは卵黄を精製したもの、またこれらの水素添加物が好適である。特に好ましいのは、大豆水素添加レシチンである。
【0015】
上記リゾリン脂質は、リン脂質からそのグリセロールの脂肪酸基1個を除いたものであり、例えば、リゾホスファチジルコリン(即ち、リゾレシチン)、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルセリン、リゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルグリセロール、リゾホスファチジン酸などが好適なものとして挙げられ、これらはそれぞれ1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0016】
上記ナノエマルションは、リン脂質とリゾリン脂質からなる油滴としてのナノ粒子が水相中に分散してなる水中油型エマルションである。ここで、ナノ粒子とは、平均粒子径が300nm以下の粒子である。より好ましくは、平均粒子径の上限は200nmであり、下限は10nmである。なお、平均粒子径は、レーザー回折散乱法によって測定される体積平均径(MV)である。
【0017】
上記ナノ粒子は、リポソームの形態を持っていることが好ましい。リポソームとは、リン脂質の2分子膜からなる小胞体であり、生体膜類似の構造を持つことから、皮膚に貯留されやすく、リポソーム内の有効成分を持続的に作用させることができるという利点がある。ところで、一般に、リポソームは疎水基が2本鎖のリン脂質の方が形成されやすく、疎水基が1本鎖のリゾリン脂質が添加されると、リポソームの形態を維持しにくいと考えられている。これに対し、本発明の実施形態では、後記のように、リゾリン脂質を添加しているにもかかわらず、リポソームの形態が維持され、従って、リポソームのナノエマルションが得られており、粒子のナノ化による皮膚への吸収性向上とリポソーム化による皮膚での貯留効果との相乗効果から、有効成分の持続的作用に優れ、極めて有用である。
【0018】
リン脂質(A)とリゾリン脂質(B)とは、その重量比が、A:B=4:1〜1:4であることが好ましい。リゾリン脂質の配合比率が少なすぎると、その添加効果が不十分となり、逆にリン脂質の配合比率が少なすぎると、リポソームが形成されにくくなる。より好ましくは、A:B=4:1〜2:5であり、更に好ましくは、室温での長期保存性の点からA:B=5:2〜3:5であり、更には、低温での安定性も加味してA:B=2:1〜3:5であることが好ましい。
【0019】
本発明において、フェノキシエタノール(即ち、2−フェノキシエタノール)は、上記ナノ粒子が水相中に分散してなるナノエマルションの高温での経時安定性を向上させる安定化剤として配合される。フェノキシエタノールによりナノエマルションが安定化される理由は、必ずしも明らかではないが、水にも溶けるフェノキシエタノールがリン脂質やリゾリン脂質の疎水基部分となじむことで、該ナノ粒子の安定化に寄与しているものと推察される。
【0020】
フェノキシエタノール(C)の配合量は、リン脂質(A)とリゾリン脂質(B)の合計量に対して、重量比で、(A+B):C=18:1〜2:1であることが好ましい。フェノキシエタノールの配合比率が少なすぎると、その添加効果が不十分となり、逆に多すぎると、低温での長期保存性が低下する傾向にある。より好ましくは、室温での長期保存性の点から(A+B):C=9:1〜5:2であり、更に好ましくは、低温〜高温での長期保存性の点から(A+B):C=9:1〜3:1であり、更には(A+B):C=6:1〜3:1であることが好ましい。
【0021】
本発明のナノエマルションにおけるリン脂質とリゾリン脂質の含有率は、特に限定されないが、リン脂質とリゾリン脂質の合計で、2〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは6〜15重量%である。
【0022】
本発明のナノエマルションには、上記必須成分の他に、通常、油性成分が配合される。油性成分としては、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンP、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルなどの油溶性ビタミン類、コレステロール、エルゴステロール、β-シトステロール、カンペステロール、シグマステロールなどのステロール類、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、アスタキサンチンなどのカロテノイド類、サフラワー油、大豆油、月見草油、ブドウ種子油、ローズヒップ油、ククイナッツ油、アルモンド油、ごま油、コムギ胚芽油、とうもろこし油、綿実油、アボガド油、オリブ油、ツバキ油、パーシック油、ヒマシ油、ラッカセイ油、ヘーゼルナッツ油、マカデミアナッツ油、メドフォーム油などの植物油、スクワランなどの動物油、流動パラフィン、流動イソパラフィン、ワセリンなどの炭化水素油、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチルドデシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、オクタン酸セチル、オクタン酸イソセチル、オクタン酸セトステアリル、オクタン酸ステアリル、オクタン酸イソステアリル、パルミチン酸セチル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、コハク酸ジオクチル、トリカプリル酸グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリラウリン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセリル、トリオキシステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリオレイン酸グリセリル、トリウンデシレン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリン、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、ジカプリル酸プロピレングリコール、ジカプリン酸プロピレングリコール、ジノナン酸プロピレングリコール、ジ(カプリル・カプリン酸)プロピレングリコール、ジステアリン酸プロピレングリコール、ジイソジステアリン酸プロピレングリコール、ジオレイン酸プロピレングリコールなどのエステル油、環状シリコン、メチルフェニルシリコン、ジメチコンなどのシリコン油などが挙げられ、これらはそれぞれ1種又は2種以上混合して用いることができる。これらの油性成分の中で、油性成分の有効成分となる上記ビタミン類やステロール類などが特に好ましく用いられる。なお、油性成分の配合量は特に限定されないが、リン脂質とリゾリン脂質の合計量100重量部に対して、20〜50重量部であることが好ましい。
【0023】
本発明のナノエマルションには、エマルションの水性成分として、グリセリン、ジグリセリン、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、ポリエチレングリコールなどのポリアルコール、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、スクロース、ソルビトール、マルチトール、ラフィノース、トレハロース、シクロデキストリンなどの糖類、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンなどのアミノ酸、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなどの塩類を配合してもよい。
【0024】
本発明のナノエマルションの製造方法は、特に限定されず、高圧ホモジナイザーや高速撹拌機などの公知の乳化機を用いて行うことができる。
【0025】
好ましくは、例えば、特開2000−354751号公報に開示されているような、薄膜旋回型の高速撹拌機、即ち、円筒状の撹拌槽内に該撹拌槽の内径より僅かに小径の撹拌体を同心に設け、撹拌槽に被処理液を供給して撹拌体を高速回転し、該被処理液を薄膜円筒状に立ち上がらせながら撹拌する高速撹拌機を用いることである。より詳細には、上記各成分を混ぜておき、これに水を徐々に加えて、プレミックスした後、このプレミックス液を上記被処理液として、上記高速撹拌機にて高速撹拌すればよい。
【0026】
これにより、リン脂質及びリゾリン脂質とともにフェノキシエタノールを含むナノ粒子が水相中に分散してなるナノエマルションが得られ、油性成分を配合する場合、該油性成分がナノ粒子中に取り込まれる。また、該ナノ粒子がリポソームとして形成されると、油性成分(特には、油溶性有効成分)が2分子膜内の疎水性部分に取り込まれるとともに、水性成分が2分子膜間の水相中に取り込まれたナノ粒子を持つナノエマルションが得られる。
【0027】
得られたナノエマルションは、リン脂質とリゾリン脂質という天然物由来の界面活性剤を用いたものであり、またナノ化されているため、皮膚への吸収性に優れ、また、皮膚での貯留性も良好である。
【0028】
本発明のナノエマルションは、化粧料に配合する原料組成物として用いることができる。化粧料に配合する場合、上記高速撹拌機のような乳化機は不要であり、ナノエマルションを、化粧料を構成する他の成分とともに、通常の撹拌機を用いて混合することにより、化粧料が得られる。
【0029】
化粧料を構成する他の成分としては、一般に化粧料に配合される各種成分を用いることができ、例えば、油脂類、ロウ類、炭化水素、脂肪酸類、アルコール類、ポリアルコール、エステル類、アミン、アミド、金属石鹸類、ガム類、水溶性高分子化合物、酸化防止剤、ビタミン類、香料、色材類、防腐殺菌剤、アミノ酸類、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、消炎剤、抗ヒスタミン剤、生薬類、美白剤、保湿剤などを配合することができる。また、化粧料の態様としては、例えば、クリーム、乳液、パック、化粧水、美容液、ジェル、洗顔料をはじめとする基礎化粧品類や、おしろい、ファンデーションほかのメイクアップ化粧品類、育毛剤、養毛剤などの化粧料が挙げられる。
【0030】
本発明のナノエマルションの用途は、化粧料に限定されるものではなく、軟膏剤、パップ剤、プラスター剤などの医薬品、更には医薬部外品などの各種皮膚外用剤に用いることもできる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について実施例により詳しく説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
大豆水添レシチン(日光ケミカルズ株式会社「NIKKOL レシノール S−10」)5重量部、リゾレシチン(協和発酵工業株式会社「リゾレシチン協和」:リゾリン脂質25重量%とグリセリン75重量%の混合物)15重量部、フェノキシエタノール(交洋ファインケミカル製「カフレクトPE−1」)2重量部、コレステロール2重量部、天然ビタミンE1重量部、及び、ポリアルコール6重量部を80℃で混合し、得られた混合物に、水溶液(精製水57重量部に、ソルビトール3重量部、マルチトール4重量部、アラニン5重量部を溶解させたもの)を攪拌しながら徐々に加えてプレミックス液を得た。得られたプレミックス液を、薄膜旋回型高速攪拌機(プライミクス株式会社製「T.K.フィルミックス80−50型」)を用いて、被処理液温度が90℃になるように、回転速度57m/s、3分間攪拌して、実施例1のエマルションを得た。
【0033】
比較例1として、上記フェノキシエタノール2重量部の代わりに、パラオキシ安息香酸メチル0.2重量部を用い、また、精製水の配合量を57.8重量部として、その他は実施例1と同様にして、エマルションを作製した。
【0034】
また、比較例2として、上記リゾレシチンを未添加とし、その代わりにグリセリンを同重量部配合し、その他は比較例1と同様にして、エマルションを作製した。
【0035】
得られた各エマルションについて、粒度測定を行って粒度分布を確認するとともに平均粒子径(体積平均径(MV))を求めた。粒度測定は、日機装株式会社製「マイクロトラック粒度分布測定装置MT3000」(測定原理:レーザー回折散乱法)を用いて行った。
【0036】
その結果、実施例1のエマルションについては、図1に示すように、100nm辺りに単一のピークを持つナノエマルションであることが確認された。比較例1のエマルションについても同様にナノエマルションであることが確認された。これに対し、比較例2のエマルションについては、図2に示すように、0.76μmと5.5μmに2つのピークトップを持つエマルションであり、ナノエマルションが得られなかった。なお、各エマルションの粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0037】
実施例1と比較例1のナノエマルションについて、経時安定性を評価した。経時安定性は、各エマルションを、室温(25℃)、低温(5℃)および高温(45℃)の環境下に置き、所定期間経過後に、上記と同様に粒度測定を行い、粒度分布の変化(特に、粒度分布が2つのピークに分離するか否か)を確認することにより行った。
【0038】
結果は表1に示すとおりであり、比較例1のナノエマルションでは、室温と5℃については7ヶ月経過後も粒度分布に変化はみられなかったが、45℃については、1ヶ月前後で粒度分布のピークが2つに分離傾向が見られ、高温安定性が悪いものであった。
【0039】
これに対し、実施例1のナノエマルションでは、室温と5℃については7ヶ月経過後も粒度分布に変化はみられず、45℃については6ヶ月経過後に粒度分布のピークが2つに分離した。そのため、実施例1のナノエマルションは、比較例1に比べて、高温での経時安定性が大幅に改善されていた。
【0040】
また、実施例1のナノエマルションについて、電子顕微鏡によりリポソームが形成されているかどうか観察した。観察は次のようにして行った。上記ナノエマルションを精製水で10倍に希釈し、希釈液の1滴をニトロセルロースのフィルムで被覆した電子顕微鏡の格子上においた。その後、直ちにpH7に中和したホスホタングステン酸の2重量%溶液の1滴を同じ格子上に添加した。該格子を風乾し、透過型電子顕微鏡(TEM)で5万倍に拡大して観察した。
【0041】
その結果、図3に示すように、直径100nm前後のナノ粒子が観察され、該ナノ粒子が、多重層のラメラ構造を持つ多重層リポソームであることが確認できた。すなわち、実施例1のナノエマルションは、リポソームからなるナノ粒子が水相中に分散したものであることが判明した。
【0042】
実施例1のナノエマルションについて、45℃で1ヶ月保管したサンプルについても、上記と同様に電子顕微鏡により確認したところ、図4に示すように、直径100nm前後の多重層リポソームの形態を持つナノ粒子が確認され、よって、高温で1ヶ月経過後においてもリポソームの形態が維持され、経時安定性に優れていることが確認された。
【表1】

【0043】
(実施例2)
リン脂質及びリゾリン脂質に対するフェノキシエタノールの配合比を変えて、ナノ粒子の経時安定性を評価した。詳細な配合は、下記表2に示す。なお、各サンプルにおいて、リン脂質は5重量%、リゾリン脂質は15×0.25=3.75重量%であり、従って、リン脂質とリゾリン脂質の合計は8.75重量%となる。これに対して、フェノキシエタノールを0.5〜4重量%の範囲で変え、7種類のナノエマルションを作製した。作製方法およびその他の配合成分は、上記実施例1と同様に行った。
【0044】
そして、得られた各ナノエマルションについて、実施例1と同様に、粒度測定を行って平均粒子径を求め、また、経時安定性(安定期間:粒度分布のピークが分離するまでの期間)を評価した。
【0045】
結果は表2に示すとおりであり、リン脂質とリゾリン脂質の合計量に対するフェノキシエタノールの配合比が18:1〜2:1の範囲内で、高温での経時安定性に効果が認められた。また、室温での経時安定性を確保する点からは、該配合比が9:1〜2.5:1であることが好ましいことが判明した。更に、低温、室温及び高温の全てにおいて2ヶ月以上の経時安定性を確保するためには、上記配合比が9:1〜3:1であることが好ましいことが判明した。
【表2】

【0046】
(実施例3)
リン脂質とリゾリン脂質の配合比を変えて、ナノ粒子の経時安定性を評価した。詳細な配合は、下記表3に示す。なお、各サンプルにおいて、リン脂質は2〜10重量%の範囲内、リゾリン脂質は18×0.25〜10×0.25、即ち4.5〜2.5重量%の範囲内で変え、7種類のナノエマルションを作製した。作製方法およびその他の配合成分は、上記実施例1と同様に行った。
【0047】
そして、得られた各ナノエマルションについて、実施例1と同様に、粒度測定を行って平均粒子径を求め、また、経時安定性(安定期間:粒度分布のピークが分離するまでの期間)を評価した。
【0048】
結果は表3に示すとおりであり、高温だけでなく、室温での経時安定性を確保するためには、リン脂質とリゾリン脂質の配合比が0.4:1〜2.5:1であることが好ましく、更に、低温での安定性も加味すると、該配合比が0.4:1〜2:1であることが好ましいことが判明した。
【表3】

【0049】
(実施例4:ナノエマルション配合化粧水)
(配合成分) (重量%)
(1)精製水 全体で100%となるように配合
(2)濃グリセリン 5%
(3)1,2−ペンチレングリコール 3%
(4)グリチルリチン酸2K 0.1%
(5)エタノール 5%
(6)実施例1のナノエマルション 1%
【0050】
(製法)
(1)に(2)〜(4)を80℃溶解する。これを冷却し、50℃で(5)を加えて混合する。さらに、40℃以下で(6)を加えて攪拌混合して、半透明の化粧水を得た。
【0051】
(実施例5:ナノエマルション配合ジェル)
(配合成分) (重量%)
(1)精製水 全体で100%となるように配合
(2)パラオキシ安息香酸メチル 0.2%
(3)カルボキシビニルポリマー 0.4%
(4)ヒアルロン酸ナトリウム 0.05%
(5)メチルセルロース 0.2%
(6)1,3−ブチレングリコール 5%
(7)ジグリセリン 0.5%
(8)10%水酸化カリウム水溶液 1%
(9)エタノール 1%
(10)実施例1のナノエマルション 1%
【0052】
(製法)
(1)に(2)〜(7)を分散させ、80℃に加熱溶解する。ここに(8)を加えて中和を行う。得られたジェルを冷却し、50℃で(9)を加えて混合する。さらに、40℃以下で(10)を加えて攪拌混合して、半透明のジェルを得た。
【0053】
(実施例6:ナノエマルション配合乳液状美容液)
(配合成分) (重量%)
(1)精製水 全体で100%となるように配合
(2)パラオキシ安息香酸メチル 0.2%
(3)キサンタンガム 0.1%
(4)アクリル酸・メタクリル酸・アクリル共重合体 0.1%
(5)ジプロピレングリコール 6%
(6)PEG 0.5%
(7)10%水酸化カリウム水溶液 0.05%
(8)ジメチコン 5%
(9)シクロメチコン 5%
(10)流動パラフィン 5%
(11)実施例1のナノエマルション 1%
【0054】
(製法)
(1)に(2)〜(6)を分散させ、80℃に加熱溶解する。ここに(7)を加えて中和を行う。ここに、加熱した(8)〜(10)を徐々に加え、乳化する。得られたジェルを冷却し、40℃以下で(11)を加えて攪拌混合して、乳液状の美容液を得た。
【0055】
(実施例7:ナノエマルション配合洗浄液)
(配合成分) (重量%)
(1)精製水 全体で100%となるように配合
(2)パラオキシ安息香酸メチル 0.2%
(3)1,3−ブチレングリコール 6%
(4)ジプロピレングリコール 6%
(5)マルチトール液 4%
(6)エタノール 15%
(7)POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 1%
(8)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー 1.5%
(9)実施例1のナノエマルション 1%
【0056】
(製法)
(1)に(2)〜(5)を分散させ、80℃に加熱溶解する。(6)に(7)(8)を加えて溶解する。これを、(1)の溶液を50℃まで冷却したものに加え溶解する。40℃以下で(9)を加えて攪拌混合して、洗浄液を得た。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るナノエマルションは、化粧料を始めとした各種皮膚外用剤に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1のナノエマルションの粒度分布を示すグラフである。
【図2】比較例2のエマルションの粒度分布を示すグラフである。
【図3】実施例1のナノエマルションの初期の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1のナノエマルションの45℃×1月保管後の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質とリゾリン脂質を含んでなるナノ粒子が水相中に分散してなり、更にフェノキシエタノールを含有することを特徴とするナノエマルション。
【請求項2】
リン脂質とリゾリン脂質の合計量と、フェノキシエタノールとの重量比が、18:1〜2:1であることを特徴とする請求項1記載のナノエマルション。
【請求項3】
リン脂質とリゾリン脂質との重量比が、4:1〜1:4であることを特徴とする請求項1記載のナノエマルション。
【請求項4】
前記ナノ粒子がリポソームであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノエマルション。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のナノエマルションを配合してなる化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−127327(P2008−127327A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313429(P2006−313429)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(397030400)株式会社アンズコーポレーション (11)
【Fターム(参考)】