説明

ナノ・ファイバ製造装置およびそれを用いたナノ・ファイバ製造方法

【課題】ノズルを用いないでテイラーコーンを安定して発生させ、流体離脱部位にある流体に対する荷電を効率的に行うことにより、生産性を著しく向上することのできるナノ・ファイバ製造装置を提供する。
【解決手段】原料液体が液体供給源22から供給される液体供給部1と回転体コレクタ20との間に電圧を印加することにより、液体供給部1にある原料液体から離脱して回転体コレクタ20に向かう紡糸ジェット24を連続的に発生させるナノ・ファイバ製造装置において、液体供給部1からの原料液体の離脱を促進させる原料液体離脱促進部材10を、前記コレクタに面した端部が線状である板状体により構成するとともに、その原料液体離脱促進部材10の端部を、液体供給部1の回転体コレクタに面した開口部より所定長さ突出して設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニング方式のナノ・ファイバ製造装置およびそれを用いたナノ・ファイバ製造方法に関し、さらに詳しくは、ナノ・ファイバを高効率で量産化するに適した装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療工学、創傷材料、ドラッグデリバリ等のヘルスケアの分野、生体分子の精製や汚染水質の浄化を目的としたアフィニティ膜、センサ等のバイオテクノロジー・環境工学の分野、ポリマーバッテリ、色素増感太陽電池、高分子膜燃料電池等のエネルギ分野、あるいは、複合材料の強化材、対バイオテロ攻撃、ガス攻撃を想定した防護服等の防護・セキュリティの分野等の広い分野において、ミクロン(μm)未満のナノオーダの径(例えば数nm〜数百nm)を有する繊維(ナノ・ファイバ)が注目されている。
【0003】
このようなナノ・ファイバを製造する技術の一つに、エレクトロスピニング法がある。
このエレクトロスピニング法の概要を図10に示す。図10に示すように、エレクトロスピニング装置の基本構成としては、紡糸口40aを有し、繊維の素材となるポリマーと揮発性の溶媒との溶液を噴射するノズル40と、平板状のコレクタ41と、ノズル40とコレクタ41との間に高電圧を印加する高圧電源42とを備える。高電圧が印加されていない状態では、ポリマー溶液は、ノズル40の先端の紡糸口40aの先端部において、表面張力で留まっている。紡糸口40aとコレクタ41との間に、数kV〜100kVの電圧を印加すると、紡糸口40a先端のポリマー溶液の液滴は+(または−)に帯電し、異極に帯電(アース)しているコレクタ41に向かう電気力線に沿って作用する静電力(クーロン力)により吸引される。静電力が表面張力よりも越えると、ポリマー溶液の紡糸ジェット43がコレクタ41に向かって連続的に噴射される。このとき、ポリマー溶液中の溶媒は揮発し、コレクタ41に到達する際には、ポリマーの繊維のみとなり、ナノレベルの細さのナノ・ファイバとなる。なお、ナノ・ファイバの原料としては、有機物のポリマーのみならず、金属酸化物、セラミック等の無機物をゾル−ゲル法によって、ナノ・ファイバ形状に紡糸することも可能である。
【0004】
紡糸口40aから噴射される紡糸ジェット43は、紡糸口40aからコレクタ41に到達する間に、紡糸口40aとコレクタ41との間の電気力線の分布の影響により、螺旋軌道を描くことが知られている(例えば、非特許文献1,2参照)。その結果、コレクタ上に集積されたナノ・ファイバは不織布状となる。
【0005】
この配向を制御するため、円筒状の回転体コレクタが使用されている(例えば、特許文献1参照)。この回転体コレクタを用い、紡糸ジェットの移動速度よりも速い回転速度で紡糸ジェットを巻き取ることで、配向性ファイバサンプルの作製が可能となる。
【0006】
ところで、ナノ・ファイバの製造も、試験的段階から量産的段階に入ろうとしている。ナノ・ファイバの溶液をノズルの紡糸口からコレクタに向けて吐出する場合の吐出量は、試験装置では数ml/時と非常に少ない。一般的に使用されるノズルの内径は1mm以下である。ノズル方式でナノ・ファイバの生産性を上げるために、吐出量を上げると溶液が流れ落ち、紡糸することができない。また、コレクタ上のナノ・ファイバの試料の上に溶液が落ちて、試料の品質を下げることになる。
【0007】
ここで、ノズル方式のナノ・ファイバ製造装置において、ノズル先端からの紡糸ジェットの発生のメカニズムは、次のように説明されている。すなわち、ノズルとコレクタ間に高電圧を印加した状態でノズル先端に溶液を供給すると、ノズル先端の溶液表面に、ノズルに印加されている電圧の極性と同極性の電荷を持つイオンが集まる。この溶液表面の電荷と、ノズルとコレクタ間に印加されている電圧による電場の相互作用によって、ノズル先端では空気との界面が半円球状に盛り上がる。印加電圧を高くすると、半円球状の溶液先端は、コレクタ側に引き寄せられ、テイラーコーン(Taylor-cone)と呼ばれる円錐状の空気との界面の形状となる。印加電圧がさらに高くなると、テイラーコーンの先端がコレクタに向かって飛び出し、1本の紡糸ジェットとなる。
【0008】
以上のように、ノズル1本当りの生産性向上ために、吐出量を上げることには限界がある。
【0009】
これに対して、ナノ・ファイバ製造装置全体の吐出量を上げるために、ノズルの本数を増やす方法も提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。しかし、ノズルの本数が多いと、ノズル一本一本の長さを揃えることが難しくなり、これが流体抵抗のバラツキとなって、最終的に溶液の供給にバラツキが出てくる。また、コレクタとノズル先端との距離やノズル間の間隔が異なるとノズル先端の電場の強さにバラツキが生じ、紡糸ジェットが発生しない場所も出てくる。さらに、ノズルの本数を増やすと全体の吐出量は上がるが、個々のノズルの先端の溶液は空気に触れて目詰まりが生じやすいため、ノズルの本数が増える分だけ、そのメンテナンスに手間が掛かる。
【0010】
このような観点から、ポリマー溶液を収容した容器内に、複数のひだを設けた回転可能な紡糸電極を配置し、この紡糸電極と収集電極との間に電圧を印加し、紡糸電極の複数のひだがポリマー溶液の表面に浸かるように回転させながら、複数のひだの先端から生じる、収集電極に向かう多数の紡糸ジェットを収集電極に集積して不織布を製造する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0011】
また、高分子溶液に連続的に発生した泡に、紡糸が連続的に行なわれる状態を維持しうる電圧を印加することにより静電紡糸を行う微細繊維集合体の製造方法(特許文献5参照)や、流体供給装置と繊維受取装置の間に電圧を印加して流体を繊維状に成形する装置において、流体供給装置が、複数の流体離脱部位を有し、かつ隣接する流体離脱部位の最小間隔が1mm未満である極細繊維の製造装置が提案されている(特許文献6参照)。
【0012】
また、複数の小穴を有する導電性の回転容器内に、高分子物質を溶媒に溶解した高分子溶液を供給し、回転容器を回転させ、小穴から流出した高分子溶液に電界を印加して遠心力と溶媒の蒸発に伴う静電爆発にて延伸させて高分子物質から成るナノ・ファイバを生成するナノ・ファイバの製造方法において、回転容器内の高分子溶液の量が所定量以上になった場合に、所定量を超えた高分子溶液を回転容器から流出させ、流出した高分子溶液を回収して再度回転容器内に供給するナノ・ファイバの製造方法が提案されている(特許文献7参照)。
【0013】
さらに、2枚の金属板の間に形成された線状の狭い隙間に高分子溶液を供給し、金属板とコレクタの間に高電圧を印加することにより、その金属板の間の隙間の自由液面から紡糸ジェットを発生させるナノ・ファイバの製造方法が提案されている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−264386号公報
【特許文献2】特表2006−507428号公報
【特許文献3】特許第3525382号公報
【特許文献4】WO2006/131081号公開公報
【特許文献5】特開2008−25057号公報
【特許文献6】特開2006−152479号公報
【特許文献7】特開2008−285792号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】エー.エル.ヤリン(A. L. Yarin)ら,"ベンディング・インスタビリティ・イン・エレクトスピニング・オブ・ナノファイバ(Bending instability in electrospinning of nanofibers)",ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journal of Applied Physics),89巻, 第5号, 2001年3月1日,p.3018-3026
【非特許文献2】エー.エル.ヤリン(A. L. Yarin)ら,"テイラー・コーン・アンド・ジェッティング・フロム・リキッド・ドロップレッツ・イン・エレクトロスピニング・オブ・ナノファイバ(Taylor cone and jetting from liquid droplets in electrospinning of nanofibers)",ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journal of Applied Physics),90巻,第9号,2001年9月1日,p.4836-4846
【非特許文献3】デイビッド.ルーカス(David Lukas)ら,"セルフ−オーガナイゼイション・オブ・ジェッツ・イン・エレクトロスピニング・フロム・フリー・リキッド:・サーフィス:ジェネラライズド・アプローチ(Self-organization of jets in electrospinning from free liquid surface: A generalized approach)",ジャーナル・オブ・アップライド:フィジックス(Journal of Applied Physics),103巻,第8号,2008年4月25日,084309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前掲の特許文献4に開示された不織布製造方法においては、ポリマー溶液を収容する容器の表面が広く空気に接触しているので、溶媒が揮発しやすく、紡糸中に材料の条件が変わりやすいため、安定した特性の不織布を得ることが難しい。また、各紡糸ジェットの間隔を制御できないため、密に紡糸ジェットが発生する場合は乾燥しづらく、その結果、液滴の飛散が生じやすい。さらに、紡糸を開始するために非常に高い電圧を必要とするため、放電の危険性が増す。
【0017】
また、特許文献5に開示された微細繊維集合体の製造方法ではノズルを使用しない点では有利であるが、特許文献4と同じく、ポリマー溶液を収容する容器の表面が広く空気に接触しているので、溶媒が揮発しやすく、紡糸中に材料の条件が変わりやすいため、安定した特性の不織布を得ることが難しい。また、絶縁体であるポリマー溶液の泡に荷電するために、ポリマー溶液を収容する容器を電極として電圧を印加するが、電極である容器の導電部に近い周縁部分と遠い中央部分とでは、泡の電荷の大きさが異なる(中央部分の方が周辺部分よりも電荷量が小さくなる)ため、電圧の印加効率が低く、また安定した紡糸ジェットの発生が困難であるという問題がある。加えて、泡の浮力は溶液の粘度に依存するため、粘度の高い溶液では紡糸能力が低くなるおそれがある。
【0018】
さらに、前掲の特許文献6に記載された装置では、高効率的な製造方法を提供するため、流体離脱部位(流体供給装置から流体が繊維受取装置へ向けて離脱する部位)の最小間隔を1mm未満に集積することが特徴であり、各流体離脱部位の形状をコレクタに向かって凸としたものである。しかし、この装置においても、流体離脱部位として各キャピラリー先端に二等辺三角形のフィルムを取り付ける方法や、流体離脱部位を形成する凸状の二次元平板を平行に二枚用い、その間隙を流体通路に使用する方法等、構造が複雑である。しかも、その装置は、流体離脱部位間の距離を1mm未満としているが、材料によっては各流体離脱部位に生じるテイラーコーンの基部のサイズを1mm未満に制限することは難しく、隣接する流体離脱部位と合併したり、同極性に荷電されている隣接するテイラーコーンに作用する反発力により、必ずしも、流体離脱部位からの紡糸ジェットの発生は安定しない。
【0019】
また、前掲の特許文献7に記載されたナノ・ファイバの製造装置では、回転容器の周壁に設けた小穴から遠心方向のみに紡糸するため、紡糸ジェット発生場所が限定され、遠心方向とは直交する方向にコレクタが設けられるため広いスペースが必要である。
【0020】
更に、前掲の非特許文献3に記載されたナノ・ファイバの製造方法では、2枚の金属板により狭い隙間を形成するものであるが、隙間を狭くすると粘度の高い原料液体を使うことができない。また、紡糸開始電圧が放電電圧(空気の絶縁破壊電圧)に近いため高電圧を印加することが必要となる。
【0021】
そこで本発明は、エレクトロスピニング方式のナノ・ファイバ製造装置において、ノズルを用いないでテイラーコーンを安定して発生させ、流体離脱部位にある流体に対する荷電を効率的に行うことにより、省スペースで生産性を著しく向上することのできるナノ・ファイバ製造装置およびそれを用いたナノ・ファイバ製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、先ず以下の(1)から(10)のナノ・ファイバ製造装置に係るものである。
(1)原料液体充填空間を内部に有し、線形の原料液体離脱用開口形成嘴部を先端部に有する液体供給部と、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部の線形方向に沿って設けられた細長い開口または前記線形方向に沿って配列された複数の開口からなる原料液体離脱用開口と、
前記液体供給部と所定の距離を隔てて設置されたコレクタと、
前記液体供給部内の原料液体と前記コレクタとの間に電圧を印加する高電圧電源と
を備え、
前記高電圧電源により帯電した原料液体が前記原料液体離脱用開口から前記コレクタに向かって連続的に離脱することにより生成される紡糸ジェットを前記コレクタ上に収集してナノ・ファイバを製造するナノ・ファイバ製造装置。
(2)前記液体供給部は、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部に設けられた連続的な単数の開口より所定長さ突出する線状の先端部をもつ板状の原料液体離脱促進ガイドと、
前記原料液体離脱促進ガイドの片面または両面に狭小な原料液体充填空間を形成するとともに先端部に開口部を有するスペーサと、
前記スペーサの両外側に配置され、前記スペーサの前記開口部側に前記連続的な単数の開口が形成される一対の外装体と、
原料液体供給源から前記原料液体充填空間内に前記原料液体を導入する液体導入路と
を有することを特徴とする(1)に記載のナノ・ファイバ製造装置。
(3)前記液体供給部は、
重ね合わせたときに内部に原料液体充填空間が形成され、先端部に線形の原料液体離脱用開口形成嘴部が形成される第1のケーシングおよび第2のケーシングと、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部より所定長さ突出するように設けられた原料液体離脱促進ガイドと、
原料液体供給源から前記狭小空間内に前記原料液体を導入する液体導入路と
を有することを特徴とする(1)に記載のナノ・ファイバ製造装置。
(4)前記原料液体離脱促進ガイドは、前記第1のケーシングおよび第2のケーシングのいずれか一方のケーシングの先端部に、同ケーシングと一体に形成されていることを特徴とする(3)記載のナノ・ファイバ製造装置。
(5)前記原料液体離脱用開口形成嘴部を形成する前記第1のケーシングおよび第2のケーシングの先端部には、紡糸ジェット噴出方向に沿う溝が、所定間隔で複数形成されている(3)または(4)記載のナノ・ファイバ製造装置。
(6)前記液体供給部は、
内部に原料液体充填空間が形成され、先端部に線形の原料液体離脱用開口形成嘴部が形成されたケーシングと、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部の線形方向に沿って設けられた複数の開口と、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部より所定長さ突出するように前記ケーシングに形成された原料液体離脱促進ガイドと
を有することを特徴とする(1)記載のナノ・ファイバ製造装置。
(7)前記原料液体離脱用開口形成嘴部の先端部の形状は直線状である(1)から(6)のいずれかに記載のナノ・ファイバ製造装置。
(8)前記原料液体離脱用開口形成嘴部の先端部の形状は円弧状である(1)から(6)のいずれかに記載のナノ・ファイバ製造装置。
(9)前記原料液体離脱用開口から噴射される紡糸ジェットの向きが前記コレクタの面に対して垂直である(1)から(8)のいずれかの項に記載のナノ・ファイバ製造装置。
(10)前記原料液体離脱用開口から噴射される紡糸ジェットの向きが前記コレクタの面と平行である(1)から(8)のいずれかに記載のナノ・ファイバ製造装置。
また、本発明は、上記(1)から(10)のいずれかに記載のナノ・ファイバ製造装置を用いてナノ・ファイバを製造することを特徴とするナノ・ファイバ製造方法に係るものである。
【0023】
即ち、前記課題を解決するため、本発明のナノ・ファイバ製造装置は、ナノ・ファイバの原料となる有機材料を溶媒に溶かした溶液、ゾル−ゲル法による無機系溶液、または溶融状態のナノ・ファイバ原料(以下、これらを総称して「原料液体」という。)が供給される原料液体充填空間を内部に有し、線形の原料液体離脱用開口形成嘴部を先端部に有する液体供給部と、前記原料液体離脱用開口形成嘴部の線形方向に沿って設けられた細長い開口または前記線形方向に沿って配列された複数の開口からなる原料液体離脱用開口と、前記液体供給部と所定の距離を隔てて設置されたコレクタと、前記液体供給部内の原料液体と前記コレクタとの間に電圧を印加する高電圧電源とを備え、
前記高電圧電源により帯電した原料液体が前記原料液体離脱用開口から前記コレクタに向かって連続的に離脱することにより生成される紡糸ジェットを前記コレクタ上に収集してナノ・ファイバを製造することを第一の特徴とするものである。
【0024】
この構成により、テイラーコーンを安定して発生させ、原料液体離脱用開口にある線状の流体、あるいは線状に配列された複数の流体に対する荷電を効率的に行うことにより、生産性を著しく向上することのできるナノ・ファイバ製造装置とすることができる。
【0025】
以下、本発明につき具体的に説明する。
本発明において、使用できるナノ・ファイバ原料としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の合成高分子;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;ナイロン6,ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド;アラミド;ポリイミド(PI);ポリメチルメタクリレ−ト(PMMA)やポリメタクリレート等のポリアクリレート:ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリペプチド、タンパク質などのバイオポリマー:コールタールピッチ、石油ピッチなどのピッチ系などの様々な高分子が例示される。また、ゾル−ゲル法による紡糸の場合は、カーボン(炭素)、アルミナ、シリカ、チタン、銅などの無機酸化物や前駆体を原料として用いることもできる。これらは、単独または2種以上混合して用いることができる。
【0026】
上記原料は、そのまま溶融状態で原料液体として使用できるが、これらの原料を溶媒に溶かし溶液として使用することもできる。溶媒としては、例えばポリマーが脂肪族ポリエステルであるときは、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、トルエン、テトラヒドロフラン、1,1,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、水、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジクロロメタン、ギ酸、ピリジン、N,Nジメチルアセトアミド等の、揮発性の高い溶剤を適宜使用することができる。
【0027】
本発明において原料液体離脱用開口形成嘴部が「線状」というのは、コレクタ側から見て直線状、曲線状(例えば、波状、渦巻状)のいずれをも含む。また、「原料液体離脱用開口」は、原料液体離脱用開口形成嘴部の線形方向に沿って設けられた細長い開口、または同線形方向に沿って配列された複数の開口のいずれをも含む。
【0028】
前記の原料液体離脱用開口形成嘴部に設けられた原料液体離脱用開口から噴出しようとしている原料液体には、コレクタとの間に高電圧が印加されているので、コレクタと原料液体離脱用開口から突き出した原料液体との間に電場が形成され、荷電された原料液体は、原料液体離脱用開口部からコレクタ側に電気力によって吸引されることにより、三角形状のテイラーコーンが安定的に形成される。これにより、紡糸ジェットがテイラーコーンの先端から連続的に発生してコレクタ側に収集されることになり、ナノ・ファイバの製造が可能となる。
【0029】
このとき、原料液体離脱用開口形成嘴部は線状であり、そこに形成された原料液体離脱用開口が細長い開口の場合は原料液体もその開口に膜状に導かれるが、原料液体離脱促進部材の先端から離脱した荷電された原料液体は同極性であるので、原料液体どうしの反発力により分散した複数の糸状の紡糸ジェットとなってコレクタに収集される。したがって、原料液体離脱促進部材の基端部から多量の原料液体を供給しても、原料液体離脱促進部材の先端部に拡散して伝達されるため、単位時間当たりの原料液体の供給量を上げることができ、生産性が向上する。
【0030】
一方、原料液体離脱用開口が原料液体離脱用開口形成嘴部の線形方向に沿って配列された複数の開口の場合、および、原料液体離脱用開口形成嘴部を形成する第1のケーシングおよび第2のケーシングの先端部に、紡糸ジェット噴出方向に沿う溝が、所定間隔で複数形成されている場合は、紡糸ジェットの発生部位が固定され、そこから紡糸ジェットが安定して発生することになる。この場合、複数のノズルを一列に配置した場合と、複数の開口を原料液体離脱用開口形成嘴部に一体に形成した場合とを比較すると、前者の場合では各ノズルはコレクタ側から見れば点電荷の集合となり、各ノズルの各電場間に境界が生まれ、各電極間の干渉が大きくなる。一方、後者の本発明の場合は、原料液体離脱用開口は複数でも、コレクタ側から見ると原料液体離脱用開口形成嘴部は線状であるのでそこは単一の線電荷とみなすことができる。このため、紡糸ジェット同士の干渉が少なく、紡糸ジェット1本の紡糸条件を維持したまま、ジェット数を増やしやすいという効果が得られる。
【0031】
本発明で使用される原料液体離脱用開口形成嘴部を有する液体供給部としては、原料液体を構成するナノ・ファイバ材料やその溶媒と実質的に不活性なものであれば良く、使用される原料液体により適宜選択される。原料液体離脱用開口形成嘴部としては、同様に不活性であれば、ガラスのような無機材料、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の有機材料を使用できるが、ステンレススチール、アルミニウムのような金属材料等の導電性材料が良い。
【0032】
原料液体離脱用開口の向きとしては、コレクタの面に対して垂直(下向き)と水平(横向き)またはその中間の角度を取りうる。垂直の場合は、開口に溶液が溜まりやすく、また重力が働く方向と紡糸方向が同じであるため紡糸ジェット発生のための電圧も比較的低くできるが、液滴がコレクタ上に収集されたナノ・ファイバに落ちる可能性が出てきて、製品の歩留まりが悪くなるおそれがある。一方、原料液体離脱用開口の向きが水平の場合は、万遍なく溶液を供給することができ、開口に液溜まりが生じにくいため、コレクタ上に液滴が落ちにくいが、反面、重力が働く方向とは直交する方向に紡糸ジェットを発生させるため、印加する電圧を高くしなければならないという問題がある。
【0033】
開口が垂直の向きでは溶液が溜まりやすいという問題は、原料液体離脱用開口を複数の開口にするか溝付きにするかにし、紡糸ジェットが出る場所を制限することにより、溶液が一箇所に溜まることを防止することができる。
原料液体離脱用開口が細長い開口の場合は、下向きにすると溶液が溜まりやすいので、横向きにして使用することが好適と考えられる。
【0034】
原料液体離脱用開口形成嘴部の先端部の形状を直線状にする場合のほか、円弧状にする方が、いくつかの点で好ましいことが判明した。
例えば、原料液体離脱用開口形成嘴部の先端部の形状を直線状にし、原料液体離脱用開口を下向きでコレクタとの間に電圧を印加して紡糸ジェットを発生させる場合、原料液体離脱促進開口形成用嘴部から同電位の紡糸ジェットを狭い間隔でコレクタに向かって同方向に放出するため、紡糸ジェット同士の反発が大きく、紡糸ジェットの間隔を広くする必要がある。また紡糸ジェットが出ないこともあるため印加電圧を高くする必要もある。さらに、複数の紡糸ジェットが向かう範囲が狭いため、紡糸ジェットが乾燥しづらく、液滴の付着など、品質不良となる可能性が高くなる。
【0035】
一方、原料液体離脱用開口形成嘴部の形状を円弧状にし、原料液体離脱用開口を下向きでコレクタとの間に電圧を印加して紡糸ジェットを発生させると、同電位の紡糸ジェットが円弧の法線方向に向かって放射状に放出されるため、紡糸ジェット同士の反発が小さく、紡糸ジェットの間隔が狭くても紡糸が可能であり、紡糸電圧が低くて済むと共に、紡糸ジェットの発生箇所の集約が可能であり、コレクタ側の広い範囲に紡糸ジェットが集積される。そのため、各紡糸ジェットの軌道が本来の螺旋軌道を描きやすくなり、コレクタへの到達時間も確保できるため、液滴の発生を少なくすることができる。したがって、ナノ・ファイバ製品の歩留まりを向上させることができる。これにより、より高い吐出量で紡糸が可能になる。
なお、原料液体離脱用開口形成嘴部を円弧状にして下向きに使用する場合、原料液体離脱用開口を複数の開口にするか溝付きにするかにし、紡糸ジェットが出る場所を制限することが、液滴の付着を抑制する上で好ましい。
【0036】
本発明のナノ・ファイバ製造方法は、前記のナノ・ファイバ製造装置を用いることにより、高効率で安定したナノ・ファイバの量産が可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、液体供給部からの原料液体の離脱を促進させる原料液体離脱促進手段を、コレクタに面した端部が線状である板状体から構成し、液体供給部のコレクタに面した開口部より所定長さ突出して設けたことにより、ノズルを用いないでテイラーコーンを安定して発生することができ、また流体離脱部位にある流体に対する荷電を効率的に行うことにより生産性を著しく向上することできる。
また、特許文献6において開示された方法に比べ、原料液体離脱促進部材が板状体で構成されるため製造容易であり、目詰まりが起こりにくいなど、拡張性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態1に係る液体供給部を示すもので、(a)は縦断正面図、(b)は底面図、(c)は側断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1の分解図である。
【図3】本発明の実施の形態1が適用されるナノ・ファイバ製造装置の全体構成を示す概略図である。
【図4】本発明の実施の形態1における紡糸ジェット発生状態を示す側断面図である。
【図5】コレクタと電圧印加部との間の電界分布と電気力線の様子を示すものであり、(a)は点電荷の場合、(b)は線電荷の場合を示している。
【図6】本発明の実施の形態2に係るナノ・ファイバ製造装置の構成を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る液体供給部を示すもので、(a)は平面図、(b)は背面図、(c)は側面図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係るナノ・ファイバ製造装置の構成を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係る液体供給部を示すもので、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図10】一般的なエレクトロスピニング装置の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0040】
<実施の形態1>
図1、図2および図4は本発明の実施の形態に係る液体供給部を示すものである。
【0041】
これらの図において、液体供給部1は、原料液体離脱促進部材10と、スペーサ11と、液体供給用パイプ12と、外装体13とを積み重ね、貼り合わせて形成されている。原料液体離脱促進部材10は厚さ0.15mmのガラス板からなる。
【0042】
スペーサ11はコ字状を呈して、内部に狭小空間A形成用の空洞部11aを有し、液体供給用パイプ12を挿通する穴11bを有している。外装体13は、スペーサ11によって形成される狭小空間Aの外壁をなす外装体であり、本例では厚さ2.5mmのガラス板で形成されている。
液体供給用パイプ12は、外部の原料液体供給源から供給される原料液体を原料液体離脱促進部材10片方の面の狭小空間Aに導入するためのものである。本例では、液体供給用パイプ12は、1本設けているが、スペーサ11の下端開口の長さL(本例ではL=60mm)によっては、本数を増やし、液体供給用パイプ12から供給される原料液体がほぼむらなく、原料液体離脱促進部材10の下端に誘導されるようにする。
原料液体離脱促進部材10は、両側のスペーサ11の下端に形成されるギャップg(本例では約0.5mm)の開口から所定寸法a、例えば1mm程度突出するように設けられる。前記の2枚の外装体13間の先端部分と、この先端部分から突出している原料液体離脱促進部材10の先端部分とが、本発明でいう原料液体離脱促進開口形成用嘴部である。
【0043】
以上の構成の液体供給部1をナノ・ファイバ製造装置に適用する場合、図3に示すように液体供給部1を上部に配置し、その下部に回転体コレクタ20を配置する。回転体コレクタ20と液体供給部1の液体供給用パイプ12との間に高電圧電源21を接続し、高電圧(例えば20kV〜50kV)を印加して回転体コレクタ20を回転させるとともに液体供給源22から液体供給用パイプ12に原料液体を供給した。本例では、原料液体はPANをジメチルホルムアミドに5重量%で溶解したものを使用し、液体供給用パイプ12から吐出量30mL/時で供給した。すると、図4に示すように、液体供給部1の狭小空間Aに供給された原料液体は原料液体離脱促進部材10の表面に沿って先端部まで誘導されるとともに、原料液体離脱促進部材10の横方向にも拡散して、原料液体離脱促進部材10の下端に二次元的に供給される。これは、2枚の外装体13からなる狭小空間Aのギャップg内における毛管現象のために、原料液体が、開口に向かう方向およびその方向に直交する横方向に急速に拡散するためである。
【0044】
原料液体離脱促進部材10の下端に達した原料液体は、高電圧に荷電されているため、逆極性に荷電されている回転体コレクタ20に吸引され、発射しようとするときに、テイラーコーン23が形成される。そして、ついには紡糸ジェット24となって、液体供給部1と回転体コレクタ20との間の空間に飛び出し、連続的な繊維となって回転体コレクタ20の表面に到達し、巻き取られ、積層される。なお、隣接するテイラーコーン23同士は電気的に同極性であり反発し合うので、テイラーコーン23が形成される箇所は移動したり、消滅、発生したりして一定箇所ではない。しかし、原料液体は定量が連続的に供給されるため、回転体コレクタ20上に収集されるナノ・ファイバの時間当たりの量はほぼ一定となる。
【0045】
図5はコレクタと電圧印加部との間の電界分布と電気力線の様子を示すものであり、(a)は点電荷の場合、(b)は本発明における線電荷の場合を示している。図5(a)の点電荷は、図10に示すノズル40の先端に電圧が印加されている場合を想定しており、コレクタ41に向かって集中した電界分布と電気力線が描かれている。一方、図5(b)の線電荷は、線状の原料液体離脱促進部材10の線状先端に電圧が印加されている場合を想定しており、原料液体離脱促進部材10の先端の線全体が等電位部で、線全体からコレクタ20に向かう粗い分布の電気力線と、緩やかな電界分布が描かれている。原料液体離脱促進部材10の先端にテイラーコーンを形成させ、さらに紡糸ジェットを発生させるには、紡糸する溶液の表面張力よりも大きな静電力が必要となる。そのためには、局所的に強い電場を発生できる図5(a)のような電界が有効である。一方、図5(b)のような電界は、線に対して垂直方向に帯電したジェットを進行させる上で有効である。すなわち、本実施の形態の液体供給部1においては、側断面方向から見ると、原料液体離脱促進部材10先端では点電荷が発生し、正面から見ると、線電荷となる。つまり液面への高電圧印加時、狭いピッチで並べたマルチノズルの際に見られる面電荷よりも強い電場が、テイラーコーン形成部に発生する。すなわち、本実施の形態の原料液体離脱促進部材10先端では、比較的低い電圧で、線状の先端のどの点でも均等な強い電場が発生する。この原料液体離脱促進部材10先端に溶液を薄く広く供給することで、原料液体離脱促進部材10先端のどの点からもジェットの発生が可能となる。
【0046】
なお、本実施の形態においては、コレクタとして回転体コレクタの例を示したが、これに限定されることなく、平板状のコレクタ、ベルトコンベア状のコレクタなど、他のタイプのコレクタを使用することができる。
【0047】
以上の実施の形態においては、図3に示すように、液体供給部1が上位に、回転体コレクタ20が下位に配置されている例について説明したが、液体供給部1を下位に、回転体コレクタ20等のコレクタを上位に配置し、液体供給部1の上部に設けられた原料液体離脱促進部材から上向きに紡糸ジェットを発生させ、コレクタで収集する構成とすることもできる。実際には、液体供給部とコレクタ間に電位差が生じていれば、あらゆる方向、角度で紡糸することができる。
また、本実施の形態においては、原料液体離脱促進部材10の片面に狭小空間Aを形成する例を示したが、原料液体離脱促進部材10の両面に狭小空間Aを形成することもできる。
【0048】
<実施の形態2>
図6および図7は本発明の実施の形態2を示すものである。この実施の形態2においては、液体供給部1は、内部に原料液体充填空間が形成された原料液体分配ベース31と、先端部に線形の原料液体離脱用開口形成嘴部33が形成されたケーシング32とよりなる。ケーシング32には、原料液体離脱用開口形成嘴部33の線形方向に沿って設けられた複数(本例では7つ)の開口34と、原料液体離脱用開口形成嘴部33より所定長さ突出するようにケーシング32に形成された原料液体離脱促進ガイド35とを有する。ケーシング32の先端の開口34は、ケーシング32の反対側から開けられた大径の孔34aと連通しており、その孔34aを通して原料液体が開口34の先端に導かれるようになっている。本実施の形態2では、原料液体分配ベース31とケーシング32とはアルミニウムで構成されている。
【0049】
図6に示すように、原料液体分配ベース31はケーシング32とボルトで一体化され、導電性の金属アーム36により金属マウント37に固定されている。金属マウント37は絶縁基台38に固定されている。図中39は高電圧電源の一方の端子(コレクタとは逆極性)に接続するための接続端子、40はシールド板である。
【0050】
この実施の形態2において、図示しない液体供給チューブによって液体供給源から原料液体分配ベース31の原料液体充填空間に供給された原料液体は、ケーシング32の孔34aを通って反対側の開口34の出口側に導かれる。
【0051】
ケーシング32とコレクタ(図示せず)との間には高電圧が印加されており、ケーシング32先端の原料液体離脱促進開口形成用嘴部33に開けられている開口34に導かれた原料液体も、高電圧に荷電されているため、それとは逆極性に荷電されているコレクタ側に吸引され、発射しようとするときに、テイラーコーンが形成される。そして、ついには紡糸ジェットとなって、ケーシング32とコレクタとの間の空間に飛び出し、連続的な繊維となってコレクタの表面に到達し、積層される。
このように、本実施の形態2においては、原料液体離脱用開口形成嘴部33の直線方向に沿って配列された複数の開口34により原料液体離脱用開口が形成されている。従来にも、複数のノズルを平行に、一直線に配置したナノ・ファイバ製造装置が提案されているが、その装置との違いは、電界分布である。すなわち、複数のノズルを一列に配置した場合は、各ノズルはコレクタ側から見れば点電荷の集合となり、そこから発生する紡糸ジェット同士の干渉が避けられず、安定した紡糸ジェットが得られにくいという問題がある。これに対し、開口34は複数であっても、開口34が設けられている原料液体離脱促進開口形成用嘴部33はコレクタから見れば直線状であるため、線電荷とみなすことができる。このため、紡糸ジェット同士の干渉が少なく、紡糸ジェット1本の紡糸条件を維持したまま、ジェット数を増やしやすいという効果が得られる。
なお、この実施の形態2においては、開口34の数は7つとしたが、これに限られるものではなく、複数個であれば構わない。
【0052】
<実施の形態3>
図8および図9は本発明の実施の形態3を示すものである。この実施の形態3においては、液体供給部1は、内部に原料液体充填空間が形成された原料液体分配ベース51と、先端部に円弧状の原料液体離脱用開口形成嘴部53が形成されたケーシング52とよりなる。ケーシング52には、原料液体離脱用開口形成嘴部53の円弧の円周方向に沿って設けられた複数(本例では7つ)の開口54と、原料液体離脱用開口形成嘴部53より所定長さ突出するようにケーシング52に形成された原料液体離脱促進ガイド55とを有する。ケーシング52の先端の開口54は、ケーシング52の反対側から開けられた大径の孔54aと連通しており、その孔54aを通して原料液体が開口54の先端に導かれるようになっている。また、各開口54の先端は円弧状に配置されているため、原料液体が開口54の先端に達するまでの各通路の抵抗がほぼ等しくなるように、開口54に通じる階段状の空間部54bがケーシング52内部に設けられている。本実施の形態3でも、原料液体分配ベース51とケーシング52とはアルミニウムで構成されている。
【0053】
図8に示すように、原料液体分配ベース51はケーシング52とボルトで一体化され、金属マウント56に固定されている。金属マウント56は絶縁基台57に固定されている。図中58は高電圧電源の一方の端子(コレクタとは逆極性)に接続するための接続端子、59はシールド板である。
【0054】
この実施の形態3において、図示しない液体供給チューブによって液体供給源から原料液体分配ベース51の原料液体充填空間に供給された原料液体は、ケーシング52の空間部54b、孔54aを通って反対側の開口54の出口側に導かれる。
【0055】
ケーシング52とコレクタ(図示せず)との間には高電圧が印加されており、ケーシング52先端の原料液体離脱促進開口形成用嘴部53に開けられている開口54に導かれた原料液体も、高電圧に荷電されているため、それとは逆極性に荷電されているコレクタ側に吸引され、発射しようとするときに、テイラーコーンが形成される。そして、ついには紡糸ジェットとなって、ケーシング52とコレクタとの間の空間に飛び出し、連続的な繊維となってコレクタの表面に到達し、積層される。
【0056】
このように、本実施の形態3においては、原料液体離脱用開口形成嘴部53の形状を円弧状にし、開口54を下向きでコレクタとの間に電圧を印加して紡糸ジェットを発生させるようにしている。そうすると、原料液体離脱促進開口形成用嘴部53の円弧の頂点がコレクタに一番近いため他の箇所よりも電界強度が高くなり、まずそこから紡糸ジェットが発生する。したがって、実施の形態2のような直線状の場合よりも紡糸ジェット発生電圧が低くなる。また、原料液体離脱用開口形成嘴部53の頂点近傍のほか、隣接する場所からも紡糸ジェットが発生していくが、隣接する紡糸ジェットの電荷の大きさが次第に小さくなっていくため、紡糸ジェット同士の干渉が小さくなり、各紡糸ジェットの軌道が本来の螺旋軌道を描きやすくなり、コレクタへの到達時間も確保できるため、液滴の発生を少なくすることができる。したがって、ナノ・ファイバ製品の歩留まりを向上させることができる。これにより、より高い吐出量で紡糸が可能になる。
【0057】
なお、本実施の形態3においては、開口54の数を7つとしているが、これに限らず、3つ以上の奇数個であればよい。なお、奇数個としたのは、円弧の頂点には開口54を設けたいので、その頂点を中心にして対象に開口54を配置すれば、奇数個になるためである。
【0058】
以上、実施の形態1〜3について説明してきたが、次のような実施形態も取りうる。
(a)液体供給部は、重ね合わせたときに内部に原料液体充填空間が形成され、先端部に線形の原料液体離脱用開口形成嘴部が形成される第1のケーシングおよび第2のケーシングと、前記原料液体離脱用開口形成嘴部より所定長さ突出するように設けられた原料液体離脱促進ガイドと、原料液体供給源から前記狭小空間内に前記原料液体を導入する液体導入路とを有するナノ・ファイバ製造装置。
(b)原料液体離脱促進ガイドは、第1のケーシングおよび第2のケーシングのいずれか一方のケーシングの先端部に、同ケーシングと一体に形成されている(a)のナノ・ファイバ製造装置。
(c)原料液体離脱用開口形成嘴部を形成する第1のケーシングおよび第2のケーシングの先端部には、紡糸ジェット噴出方向に沿う溝が、所定間隔で複数形成されている(a)または(b)のナノ・ファイバ製造装置。
(d)原料液体離脱用開口から噴射される紡糸ジェットの向きがコレクタの面と平行であるナノ・ファイバ製造装置。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ノズルを用いないでテイラーコーンを安定して発生させ、流体離脱部位にある流体に対する荷電を効率的に行うことにより、生産性を著しく向上することのできるナノ・ファイバ製造装置として、ヘルスケアの分野、バイオテクノロジー・環境工学の分野、エネルギ分野、あるいは、防護・セキュリティの分野等の広い分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 液体供給部
10 原料液体離脱促進部材
11 スペーサ
11a 空洞部
11b 穴
12 液体供給用パイプ
13 外装体
20 回転体コレクタ
21 高電圧電源
22 液体供給源
23 テイラーコーン
24 紡糸ジェット
A 狭小空間
31 原料液体分配ベース
32 ケーシング
33 原料液体離脱用開口形成嘴部
34 開口
34a 孔
35 原料液体離脱促進ガイド
36 金属アーム
37 金属マウント
38 絶縁基台
39 接続端子
40 シールド板
51 原料液体分配ベース
52 ケーシング
53 原料液体離脱用開口形成嘴部
54 開口
54a 孔
54b 空間部
55 原料液体離脱促進ガイド
56 金属マウント
57 絶縁基台
58 接続端子
59 シールド板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液体充填空間を内部に有し、線形の原料液体離脱用開口形成嘴部を先端部に有する液体供給部と、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部の線形方向に沿って設けられた細長い開口または前記線形方向に沿って配列された複数の開口からなる原料液体離脱用開口と、
前記液体供給部と所定の距離を隔てて設置されたコレクタと、
前記液体供給部内の原料液体と前記コレクタとの間に電圧を印加する高電圧電源と
を備え、
前記高電圧電源により帯電した原料液体が前記原料液体離脱用開口から前記コレクタに向かって連続的に離脱することにより生成される紡糸ジェットを前記コレクタ上に収集してナノ・ファイバを製造するナノ・ファイバ製造装置。
【請求項2】
前記液体供給部は、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部に設けられた連続的な単数の開口より所定長さ突出する線状の先端部をもつ板状の原料液体離脱促進ガイドと、
前記原料液体離脱促進ガイドの片面または両面に狭小な原料液体充填空間を形成するとともに先端部に開口部を有するスペーサと、
前記スペーサの両外側に配置され、前記スペーサの前記開口部側に前記連続的な単数の開口が形成される一対の外装体と、
原料液体供給源から前記原料液体充填空間内に前記原料液体を導入する液体導入路と
を有することを特徴とする請求項1に記載のナノ・ファイバ製造装置。
【請求項3】
前記液体供給部は、
重ね合わせたときに内部に原料液体充填空間が形成され、先端部に線形の原料液体離脱用開口形成嘴部が形成される第1のケーシングおよび第2のケーシングと、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部より所定長さ突出するように設けられた原料液体離脱促進ガイドと、
原料液体供給源から前記狭小空間内に前記原料液体を導入する液体導入路と
を有することを特徴とする請求項1に記載のナノ・ファイバ製造装置。
【請求項4】
前記原料液体離脱促進ガイドは、前記第1のケーシングおよび第2のケーシングのいずれか一方のケーシングの先端部に、同ケーシングと一体に形成されていることを特徴とする請求項3記載のナノ・ファイバ製造装置。
【請求項5】
前記原料液体離脱用開口形成嘴部を形成する前記第1のケーシングおよび第2のケーシングの先端部には、紡糸ジェット噴出方向に沿う溝が、所定間隔で複数形成されている請求項3または4記載のナノ・ファイバ製造装置。
【請求項6】
前記液体供給部は、
内部に原料液体充填空間が形成され、先端部に線形の原料液体離脱用開口形成嘴部が形成されたケーシングと、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部の線形方向に沿って設けられた複数の開口と、
前記原料液体離脱用開口形成嘴部より所定長さ突出するように前記ケーシングに形成された原料液体離脱促進ガイドと
を有することを特徴とする請求項1記載のナノ・ファイバ製造装置。
【請求項7】
前記原料液体離脱用開口形成嘴部の先端部の形状は直線状である請求項1から6のいずれかの項に記載のナノ・ファイバ製造装置。
【請求項8】
前記原料液体離脱用開口形成嘴部の先端部の形状は円弧状である請求項1から6のいずれかの項に記載のナノ・ファイバ製造装置。
【請求項9】
前記原料液体離脱用開口から噴射される紡糸ジェットの向きが前記コレクタの面に対して垂直である請求項1から8のいずれかの項に記載のナノ・ファイバ製造装置。
【請求項10】
前記原料液体離脱用開口から噴射される紡糸ジェットの向きが前記コレクタの面と平行である請求項1から8のいずれかの項に記載のナノ・ファイバ製造装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかの項に記載のナノ・ファイバ製造装置を用いてナノ・ファイバを製造することを特徴とするナノ・ファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−196236(P2010−196236A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192262(P2009−192262)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(591202122)株式会社メック (14)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】