説明

ナノ構造のマイクロ電池向けの電極

本発明は、リチウムマイクロ電池(10)の新規アノード(20)の構成に関する。好適には、本アノード(20)をナノチューブ又はナノスレッドを用いて具現化することにより、異なる要素(24)間に残るスペース(26)がマイクロ電池(10)の放電に伴う膨張を補償する。電解質(18)に対する制約が無くなることにより、電池(10)の寿命が向上する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
技術分野
本発明は、電力貯蔵デバイスに関し、主に真空蒸着法によって薄膜から形成されたマイクロ電池に関する。
具体的には、本発明は、電力貯蔵の信頼性を最適化するような構造を有する電池で、特にリチウム電池の電極に関する。
【0002】
先行技術
電力貯蔵デバイスの中で、とりわけ使用されているマイクロ電池、いわゆる「完全固体型」電池は、フィルム形態である。マイクロ電池の構成要素の全て、つまりカレントコレクタ、正及び負の電極、電解質及び場合によって封入体は薄層であり、主に物理的気相成長法(PVD)又は化学気相反応法(CVD)といった堆積法によって得られる。使用される技術により、あらゆる形状のオブジェクトを作成することができる。
通常、そのような電池の動作原理は、アルカリ金属イオン又はプロトンの、正の電極への導入及び正の電極からの除去(「引き抜き(disinsertion)」とも呼ばれる)と、このイオンの、負の電極への堆積及び負の電極からの抽出とに基づいている。使用される材料に応じて、この種類の電池の動作電圧は1〜4Vであり、表面容量は数十〜数百μAh/cmのオーダーである。マイクロ電池の再充電、つまりアノードからカソードへのイオンの移動は、一般に数分の充電後に完了する。
【0003】
メインシステムでは、電流を搬送するためのイオン種としてLiを使用する。電池が放電する間にカソードから抽出されたLiイオンはアノードに堆積し、逆に、充電の間に同イオンはアノードから抽出されてカソードに導入される。しかしながら、リチウムの融点の181℃は、高温での電池の使用を制限する。特に、異なる材料層にはんだリフロー法を実行することは不可能である。更に、雰囲気に対するリチウム金属の強い反応性は、封入体についても不利である。最後に、リチウム金属を噴霧することができないために、熱蒸発が必要である。
別の選択肢は、Liイオン(Liイオン電池)を導入できる材料から形成されたアノードを選択することであり、このLiイオンはカソードから移動してきたものであり、材料としてリチウムを含む。このとき、Liイオンの導入によって、それを受け入れる材料が膨張する。Siのような、導入アノードとして使用される最も効率のよい材料でさえ、かなりの容積を膨張させる(〜400%)。そのような容積の差異によって発生する応力により、重なっている層が大きく撓み、特に並列する電解質に劣化、又は場合によってはひびが生じ、このために短絡が生じて電池が動作不能となる場合がある。
【0004】
また別の選択肢はアノードを持たない電池(無Li電池(Li-free battery)としても知られる)である。この場合、カソードからのLiの堆積は直接基板上で行われ、このような基板は遮断基板(blocking substrate)と呼ばれる。しかしながら、堆積によって生成される隆起が、やはり大きな変形及び電解質破損の可能性の原因となる。
Li−イオン又は無Liマイクロ電池における応力の問題は、1000回の充電/放電を行った後では90%オーダーの短絡率を招く(これに対し、リチウム金属アノードの短絡率は5%である)。
【0005】
これらの問題は、電極間に分散される液体電解質又はゲル電解質を有する電池には性質的に起こらない。これらの例はWO99/65821に示されている。
完全固体型電池の場合、当然ながら、別の材料及びリチウムイオン導体からなる非常に薄い層を電解質内に挿入することにより、電解質を複数の箇所に形成するように変更し、電解質の層全体へのひびの伝播を制限することが提案された(例えばUS−B−6770176参照)。しかしながら、そのような解決法では、堆積される層の数が倍増する(電解質について少なくとも2つの異なる標的を持つことになる)ので、製造方法のコストが増大し、電解質のイオン伝導率を損なう場合もある。
【0006】
発明の考察
本発明の目的は、電力の貯蔵及び供給の安定性について、先行技術の問題を克服することである。具体的には、本発明は、電極の新規ファミリーを使用することを提案する。電極の新規ファミリーのアーキテクチャー及び設計は、マイクロ電池の充電及び放電の間に電解質に掛かる応力を抑制する。
特に、基板及び電解質層に垂直な方向へのアノードの膨張が抑制される。
【0007】
本発明の一態様は、電極が、独立する電極構成要素から形成されていることにより、間に電極が存在しないギャップ又は空きスペースを有するマイクロ電池に関する。好適には、空きスペース率は50%より大きく、例えば80%のオーダーである。
関連する電極は主にアノードであり、この場合、カソード及び固体電解質はある程度均一に堆積された材料層の形態である。好適には、アノードは、集電基板(current-collecting substrate)上にあって突出している隆起物から構成される。特に、リチウムマイクロ電池の場合、アノードはカーボンナノチューブ又はシリコンナノワイアから構成される。よって、固体の電解質は、アノード構成要素の自由端に位置するか、又は更に一般的には、電解質層は、関連する電極構成要素の間に存在するキャビティの上方に保持される。
本発明による電力貯蔵デバイスを封入することにより、イオン交換体構成要素を外部から絶縁することができる。
【0008】
本発明の別の態様は、電極としてリチウム電池の作成に使用できる導電性基板上のナノワイア又はナノチューブに関する。
【0009】
添付図面を参照して本発明の特徴及び利点を更に詳細に説明する。添付図面は例示を目的とするものであり、いかなる意味でも限定的なものではない。
【実施例】
【0010】
図1に概略的に示すように、電力貯蔵デバイスは通常、基板12、カソードコレクタ14a及びアノードコレクタ14b(アノードコレクタは基板12と一体でもよい)、カソード16、電解質18、及びアノード20を備える。更に、マイクロ電池10は、封入層22によって保護することができる。電極16、20は、リチウムからなる場合は特に、空気に対して反応性が高く、有利には他の構成要素14、18も封入される。
積層14、16、18、20の全体の厚さは通常10〜50μmであり、有利には15μmのオーダーである。このようなマイクロ電池10は、後述するアノード20を除き、あらゆる既知の技術によって、ここに具体例を挙げる様々な材料から作成することができる。
−カレントコレクタ14は金属であり、例えばPt、Cr、Au、Tiを主成分とする堆積物とすることができる。
−正の電極16は特に、標準的な技術により堆積されたLiCoO、LiNiO、LiMn、CuS、CuS、WO、TiO、Vから構成することができ、熱アニーリングにより結晶化及び導入能を増大させることができる(特にリチウム系酸化物の場合)。
−電解質18は、優良なイオン伝導体及び電子絶縁体であり、通常はリチウム塩又は酸化リチウム、特にリチウム酸窒化物(lithium oxynitride)、或いは酸化ホウ素を主成分とするガラス質材料から構成される。好適には電解質はリン酸塩、例えばLiPON、又はLiSiPONを主成分とする。
【0011】
しかしながら、図1に示す本発明によるデバイス10では、アノード20は、コレクタ基板14bの表面、及び隣接する電解質の表面18に垂直な方向への膨張を抑制することができるアーキテクチャーに従って作成されている。この利点は、互いに離間して配置された電極構成要素24を備える電極20、即ち空きスペース26を有するアノード20によって得られる。カソード16の放電の間に、リチウムイオンによりアノード構成要素24が膨張するが、このような膨張は空きスペース26が残っていることによって可能となる。つまり、アノード構成要素24の自由端によって保持される電解質18には、充電及び放電によって誘発された応力が掛かることはない。更に、このような空きスペースは、アノードに導入されずにリチウム金属として堆積されるLiイオンを受容する。WO99/65821に記載されている隙間の無い設計とは異なり、本電解質18の層は、液体又はゲルと違って残された空きスペース26に嵌り込まないので、膨張による歪を受けない。
有利には、最初から存在する空きスペース部分26によって、構成要素24内へのリチウム導入に伴う容積の増大が補償される。このような最適化は導入材料にもよるが、通常空きスペース率は50%より大きく、好ましくは80%より大きい。
【0012】
図2に一実施例を概略的に示す。図2Aは、電池10の充電状態を示し、この場合、アノード20はLiイオンを全く含まない。充電の間、リチウムイオンがアノード構成要素24内に導入されてそれら構成要素を膨張させるので、残されている空きスペース26は減少する。しかしながら、図2Bに概略的に示すような電池が完全に放電された状態においても、アノード層20の容積全体は変わらず、空きスペース26率だけが減少しており、よって電解質18及びコレクタ層14bはいずれも応力を全く受けていない。
隆起物24の形成に使用される材料はリチウムを導入することが可能な材料、即ち、ゲルマニウム(80%)、シリコンゲルマニウム(80%)、銀、スズ(70%)、及び特にシリコン(80%)又は炭素(50%)である(括弧内は各材料に好適な空きスペース率を示す)。
【0013】
ナノ構造、つまり部分的な寸法が数十ナノメートル未満である構造の使用、特にナノチューブ及びナノワイアの使用が、膨張の問題に対して最適な結果を得るために推奨される。特に、電極構成要素24がナノチューブである場合、これらナノチューブが成長することにより、精度要件のために非常に難しい工程であるフォトリソグラフィー工程を省くことが可能となり、更に有利である。
この種の構造(非常に小さな寸法の径)を得ることができるあらゆる技術を使用することができ、例えば完全に層を堆積させた後でフォトリソグラフィーにより小さなパターンの画定を行うことができる。ナノチューブ又はナノファイバの堆積技術については、例えばSharma S他による文献、「Diameter control of Ti-catalyzed silicon nanowires」(J. Crystal Growth 2004; 267: 613-618頁、又はTang H他による「High dispersion and electrocatalytic properties of platinum on well-aligned carbon nanotube arrays」(Carbon 2004; 42: 191-197頁)に記載されている。
【0014】
電極構成要素24を無作為に配置してスポンジ型網状組織(a sponge type network)を形成することができる。特に定型的網状組織(a regular network)、例えば四角形又は六角形の網状組織の場合、好適には、電極の構成要素はコレクタ基板14bの表面から突出する隆起物24の形態である。隆起物24の直径及び網状組織のピッチを最適化することにより、必要な空きスペース率を得ることができる。
特に、ナノワイア又はナノチューブの成長は好ましく、得られる網状組織は隆起物24を有する定型的なものとすることができ、これら隆起物の全ては、有利には可能な限り90°に近い角度でベース面14bから突出している。従って、隆起物24は、50〜100nmの間隔で配置された、高さ200nm〜5μm、直径5〜50nmのワイア状の網である。
【0015】
例えば、本発明によるマイクロ電池10は、直径10nmのオーダーのSiナノワイア24からなる、80%の空きスペース率26の網状組織を備え、網状組織下方の絶縁基板12上には、例えばPtからなるカレントコレクタ14bが堆積される。ナノチューブ24の高さ又はアノード20の厚さは1μmである。次にLiPONからなる1μmの電解質層18が、高周波スパッタリングにより堆積される。次いで、3μmのLiCoOからなるカソード16が、スパッタリングにより、或いはマグネトロン又は高周波等を用いて堆積される。
アノード20の膨張が回避されるという利点に加えて、本発明による電極構造は、通常、電池の電極材料の適切な動作に必要な伝導特性を増大させる。
【0016】
更に、本発明によるデバイス10は最終的に封入することが好ましい。このような封入は、絶縁されるデバイス、又は一組のマイクロ電池について行うことができる。外部の環境及び特に湿気から活性積層14、16、18、20を保護するための封入体22は、セラミック、ポリマー(例えばヘキサメチルジシロキサン又はパリレン)又は金属から形成することができ、これら異なる材料の層を重ね合わせることによっても形成することができる。
更に注目すべきなのは、本発明により、電解質の層のように、応力及び変形の問題を受けやすい層の封入が容易になることである。
−デバイス10の容積が変化しない。
−リチウム金属を使用しないことにより、化学的影響を受けにくい電極材料を生成することができ、封入層22を堆積させる表面を更に滑らかにすることができる。
【0017】
アノードについて説明したが、本発明による電極構造を、カソード、又は両方の電極にも使用できることは明らかである。
用途の1つとして、チップカード及びスマートラベルに加え、マイクロシステムへの給電が考えられ、これにより、埋め込む物を小型化することにより頻繁に複数のパラメータの測定を行うことが可能となる。これらの用途においては、電池の動作に必要な全ての層が、マイクロエレクトロニクスの工業的方法と適合する技術を用いて作成されなければならず、本発明によるデバイスはこれに当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による電力貯蔵を概略的に示す。
【図2】A及びBは、本発明によるデバイスの、それぞれ充電状態及び放電状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの、間にギャップ(26)を有する複数の電極要素(24)からなる第一の電極(20)、第二の電極(16)及び両方の電極(16、20)の間に配置された電解質(18)を備え、電解質(18)が固体であることを特徴とする電力貯蔵デバイス(10)。
【請求項2】
電極要素(24)の占める容積が、第一の電極(20)で規定される容積の50%未満、好適には20%のオーダーである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
第一の電極(20)がコレクタ基板(14b)の表面上に配置される、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
電極要素(24)が、コレクタ基板(14b)の表面から突出する隆起物の網状組織を形成する、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
隆起物(24)が、直径5〜50nmの円に含まれる表面を有し、50〜100nmだけ互いに離間している、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
隆起物(24)が、コレクタ基板(14b)の表面に垂直に、200nm〜5nmに亘っている、請求項4又は5に記載のデバイス。
【請求項7】
第一の電極がアノード(20)である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
電極要素(24)が炭素又はシリコンナノチューブ又はナノワイアである、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
第二の電極(16)及び電解質(18)の各々が、1つの材料層から構成される、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項10】
リチウム系マイクロ電池である、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項11】
電解質(18)がリチウム系酸窒化物(Lithium oxynitride)である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
電極(16、20)及び電解質(18)を外部の環境から絶縁する封入層(22)を更に備える、請求項1ないし11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
固体の電解質(18)を用いるリチウム電池の電極を形成する際に、導電性の基板(14b)上にナノワイア又はナノチューブ(24)からなる構成要素(20)を使用する方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2008−525954(P2008−525954A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547599(P2007−547599)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/FR2005/051124
【国際公開番号】WO2006/070158
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(502124444)コミッサリア タ レネルジー アトミーク (383)
【Fターム(参考)】