説明

ナノ構造物に基づく微細流体ポンプ装置及び方法

【解決手段】 少なくとも一つのキャビティから少なくとも一つのノズルを通じて流体を射出することによって、ドロップ・オン・デマンドのインクジェット印刷を効率的に行うのに適した微細流体アクチュエータ。アクチュエータは、膜に動作可能に結合されて、少なくとも一つの電解質の流体を含むアクチュエータチャンバと、電解質の流体に含まれる少なくとも一つのナノ構造物とを備え、ナノ構造物は、少なくともナノ構造物に印加された操作電圧に応じて、膜に対して偏向することにより、膜を偏向させ、ノズルから流体を射出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には印刷装置に関し、特に、ドロップ・オン・デマンド(DOD)方式のインクジェット印刷装置での使用に適した方法で流体を射出するのに適した微細流体ポンプに係る。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷において基礎となる原理は、電子エネルギーのパルスを機械的圧力パルスに変換して、チャンバの容量が非常に小さいノズルにおいて流体を保持している表面張力を十分に克服することである。一般的にインクジェト印刷には圧電および熱アクチュエータの二つの技術が利用されてきた。
【0003】
インクジェット式プリントヘッドの圧電起動の一例は、「INK JET HEAD AND A METHOD OF MANUFACTURING THE INK JET HEAD」(インクジェットヘッドおよびインクジェットヘッドを作動する方法)と題した米国特許第5,604,522号に開示されており、その開示内容の全体は、参照として、その全体が述べられたかのごとく、ここに取り込まれる。ここには、圧電変換素子によってインクチャンバの一部を構成する振動板を変位させることにより、インクチャンバ内のインクの圧力を上昇させてインクの液滴を強制的にノズル開口から排出するインクジェット式ヘッドが開示されている。振動板は、高分子樹脂の薄膜と、その高分子樹脂の薄膜に直接固定した硬質の樹脂製突起とから構成される。この構造により、圧電変換素子の伸縮動作がインクチャンバに伝達され、圧電変換素子の微小な接触面積を拡大し、インクチャンバヘの押圧力を増幅する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧電アクチュエータを使用することによって従来実現可能であった圧力より、さらに高い圧力をインクチャンバに対し作用させることが望まれている。また、圧電式の印刷の欠点としては、インクの容量置換が圧電素子自体のせん断変形に基づいており、この置換は圧電素子の寸法によって制限されることから、圧電材料を製造するためのコストが挙げられるであろう。
【0005】
熱作動インクジェット式プリントヘッドでは、従来、抵抗器にパルスをかけてインクチャンバ内における隣接するインクのシースを加熱している。水性の流体のフィルムを300℃、もしくはその通常の沸騰温度の約3倍までの温度に加熱することによって、一般的には数マイクロ秒以内で沸騰が起こる。この結果、アクチュエータは、同じ作用をする(すなわち同じ液滴量および速度を扱う)一般的な圧電変換素子より数倍小型化されるが、これにより、例えばインクに好ましくない温度変動を引き起こしてしまうことがある。熱式インクジェットアクチュエータの欠点は、そのサイクル数が制限されることであり、これは熱式インクジェットの動作サイクル数が圧電アクチュエータのものと比較するとかなり低いことによる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面によれば、少なくとも一部が偏向可能な膜によって形成された少なくとも一つのキャビティから少なくとも一つのノズルを介して流体を射出することによってドロップ・オン・デマンド式インクジェット印刷を効率的に行うのに適した微細流体アクチュエータであって、前記アクチュエータは、動作可能に膜に結合されると共に、少なくとも一つの電解質の流体を含むアクチュエータチャンバと、電解質の流体に含まれる少なくとも一つのナノ構造物とを備え、前記ナノ構造物は、少なくともナノ構造物に印加した操作電圧に応じて膜に向けて偏向することにより、膜を偏向させるとともに、ノズルから流体を射出させるように構成されている。
【0007】
本発明の他の局面によれば、偏向可能な膜の作動時に少なくとも一つのノズルから流体を射出することによってインクジェット印刷を効率的に行うのに適した微細流体ポンプ装置であって、前記装置は、膜に動作可能に結合されるとともに少なくとも一つの電解質の流体を含むアクチュエータと、電解質の流体に含まれる少なくとも一つのナノ構造物とを備え、前記ナノ構造物は、少なくともナノ構造物に印加された操作電圧に応じて、膜に向けて偏向し、それによって膜を偏向し、ノズルから流体を射出するように構成されている。
【0008】
本発明の別の局面によれば、偏向可能な膜の作動時に少なくとも一つのノズルから流体を射出することによってインクジェット印刷を行うのに適した微細流体ポンプ装置であって、前記装置は、膜に機能的に結合されたアクチュエータと、アクチュエータに含まれる少なくとも一つのナノ構造物と、少なくとも一つのナノ構造物に操作電圧が印加されると二重層電荷を形成する手段とを備え、前記ナノ構造物は、二重層電荷に応じて前記膜に向けて偏向して、膜を偏向するとともに、ノズルから流体を射出するように構成されている。
【0009】
本発明のさらに別の局面によれば、偏向可能な膜の作動時に少なくとも一つのノズルから流体を射出することによってインクジェット印刷を行うための方法であって、前記方法は、少なくとも一つのナノ構造物上に二重層電荷を形成するのに十分な電圧を印加して、少なくとも一つのナノ構造物を十分変形させて膜を偏向させ、ノズルを介して流体を射出する工程を含んでいる。
【0010】
本発明のさらに別の局面によれば、被印刷物上に所定の画像を印刷するのに適した手段であって、前記手段は、所定のパターンでインクを被印刷物に供給するのに適したインクジェットノズルの配列を含み、各ノズルは、少なくとも1枚の偏向可能な膜と、膜に動作可能に結合され、少なくとも一つの電解質材料を収容するアクチュエータと、電解質材料に電気的に結合した少なくとも一つのナノ構造物とを含み、前記ナノ構造物は、少なくともナノ構造物に印加された操作電圧に応じて膜に対して偏向し、膜を偏向させるとともに、それによって付属のノズルを介してインクを射出させるように構成されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の一局面による微細流体ポンプアクチュエータを組み込んだ印刷装置100を示す。装置100は、流体キャビティ105と、ノズル115と、膜130と、作動チャンバ140とにより概略構成されている。
【0012】
装置100は、プリンタ、コピー機、ファクシミリ機などのような従来の印刷機に組み込むのに適したインクジェットプリンタヘッドの形態をとることができる。例えば、これら印刷機は、複数の装置100を含んでいてもよい。装置100は、少量の制御された量の物質の射出が望ましい他の手段の形態をとることも可能である。
【0013】
ノズル115と膜130は、キャビティ105の少なくとも一部を形成することができる。キャビティ105の残りの部分は従来の方法で形成しても良い。キャビティ105は、キャビティ105内に存在する流体110をノズル115の流体110の表面張力によって拘束するように構成することもできる。さらに、キャビティ105は、流体供給手段125に流体結合可能とされ、例えば、毛管力が供給手段125からキャビティ105へのインクの引き出しを助成するように構成されたマイクロチャネルを介して、流体タンクあるいは流体供給手段125に対し流体連通可能とされる。
【0014】
キャビティ105内に収容された流体110は、適したものであればいずれの材料でもよい。流体110の選択は、例えば、印刷特性、粘性、圧縮率または表面張力やコロイド溶液を含んでいることに基づいて行うことができる。流体110は、例えば気相などのような他の材料形態のものでもよい。重要なのは、主としてノズル115に保持させることができ、後に示すように膜の変位に応じて射出されるということである。流体110は印刷技術に使用するのに適したインクまたは他の筆記流体の形態であればよい。例えば、流体110は、従来のような圧電変位ベースのインクジェットインクの形態でも良い。別の例を挙げると、カラー印刷手段に組み込まれた複数の装置100の場合、各装置100が複数の所定の色のうちの一色を備えることができる。
【0015】
ノズル115は、従来のインクジェットノズルのように、所望の形態で流体を射出するための、適当なノズル、オリフィス、または開口のいずれかの形態をとることができる。さらに、ノズル115は、所望の形態で流体を射出するための複数のノズル、オリフィスおよび(または)開口からなる形態でもよい。
【0016】
同時に、膜130は、キャビティ105とチャンバ140の一部を形成するものでもよい。膜130は、チャンバ140内部で生じる圧力を変形によってキャビティ105に伝達させるのに適した材料から形成されていれば良い。例えば、膜130は、重合体樹脂膜または鋼膜の形態をとることができる。
【0017】
当業者には理解できるであろうが、例えば材料選択、変形性、弾性、表面積、厚みなどを含む膜130の特性は、厳密には、例えば、キャビティ105の容積、装置100の作動に応じ射出されるインク110の好ましい分量、インク110の性質、キャビティ140の性質、および供給手段125との流体連通性などを含む周知の設計基準に依存するものである。例えば、キャビティ105および(または)チャンバ140の内部に収容された流体は、腐食性のものでよく、その場合、膜130が早期に腐食して破損することのないように設計すればよい。例えば、膜130は、テフロン(登録商標)で被覆しても良い。チャンバは、例えば、成形技術もしくはエッチングなどによって形成した、例えばセラミック、シリコン、ガラス、鋼などのような金属、および重合体系の構造でよいが、これらの例に限定されるものではない。膜は、可橈性を有し、強度が高くサイクル寿命が長いものが好ましく、主に、重合体および薄い金属などを含む広い範囲の材料から選択することができるが、これらの例に限定されるものではない。
【0018】
作動チャンバ140には、電解質溶液または固体135のような電解質材料と、絶縁体150の周りに配置され、そこに導電可能に結合した電極155を有する複数のナノ構造物145とを収容することができる。例えば、絶縁体150によって隔てられた複数の層のナノ構造物145を設けても良い。また、チャンバ140には、電極155への電気的接続を可能とする電気コネクタを備えても良い。さらに、チャンバ140もしくはその一つ以上の表面を、ナノ構造物145の存在の増加、保持、保護、あるいは収容に適した構造としても良い。チャンバ140は、電解質材料135内にイオンを維持できるように設計もしくは構成することもできる。チャンバ140は、少なくとも一部が膜130によって形成されていても良い。
【0019】
電解質材料135は、電気分解作用を行うのに適したいかなる材料の形態をとってもよい。電解質材料135は、導電可能な水溶液内のイオンの移動によって電流が流れる非金属導体でもよい。電解質材料135は、後述するように、ナノ構造物145に隣接する二重層電荷を形成可能な電解物を含む。電解質材料135は、例えば、NaCl、MgCl,NaOH,LiNO,およびAl(SO溶液の形態でも良い。電解質材料135は、本明細書中では、限定することのない説明の目的でのみ、電解質溶液135と称することができる。さらに、二重電荷を生成するために別の方法も使用することができると理解すべきである。例えば、正と負の電荷を有するドーピングナノ構造物145を使用しても良い。ナノ構造物145は、関連技術からも理解できるように、例えば、水素やフッ素を使ってドーピングすることができる。
【0020】
電極155は、銅などの導電性金属のように、全体にわたり電位差を生成するのに適した電極であればいかなる形態でもよい。電極155は、ナノ構造物145と電気接触を構築するために使用するコンダクタの形態でもよい。絶縁体150は、テフロン(登録商標)被覆材料もしくはKOHなどのような、電気的絶縁材料から形成すればよく、ナノ構造物145と電極155とを隔てるため、もしくは支持するために使用することができる。
【0021】
ナノ構造物145は、電解質溶液135が存在すると、電極155に供給された電気エネルギーを膜130への応力を生成するのに適した機械エネルギーに変換する役割を果たす。ナノ構造物145は、単層カーボンナノチューブのようなカーボン系ナノチューブの形態でも良い。カーボンナノチューブは、結晶質カーボンの変形であり、構造的には六角形および五角形群のカーボン核または、カーボンフラーレン「バッキーボール」またはC60から構成されたかご状の中空分子に関連する。しかし、カーボンフラーレン及びナノチューブは、多くの共通する性質を有する一方、構造と特性に相違もあることを理解する必要がある。単層カーボンナノチューブの直径は、例えば1.2から1.4nmであり、長さは例えば10μm前後でもよい。しかし、膜130を変形するのに適した多重カーボンナノチューブもしくは単層および多重カーボンナノチューブの配列のような、あらゆるナノ構造物、もしくは(性質が同質もしくは異質の)ナノ構造物群が利用可能である。
【0022】
ナノ構造物145は、1999年5月21日出版の、Science(科学)誌、第284巻、P.1340−1344に記載のボーマン他著“Carbon Nanotube Actuators(カーボンナノチューブアクチュエータ)”に記載されているように、単層ナノチューブからなる一枚もしくはそれ以上の膜の形態をとることができる。このような膜の製造については、当業者にとって周知である。簡潔に説明すると、これらの膜は、機械的からみあいと、ボーマン他により教示されたような任意の接点および接点に沿ったファン・デル・ワールスの力とによって結合されたナノチューブ束のマットから構成されたシートの形態をとる。ボーマン他が記載しているように、二重パルスレーザ蒸着法によって形成され、硝酸還元、洗浄および遠心分離サイクル、およびクロスフローろ過のサイクルなどの方法によって純化された市販のナノチューブを使用することができる。膜は多重(テトラフルオロエチレン)フィルタ上におけるナノチューブ懸濁液の真空ろ過によって形成することができる。このようなナノチューブの膜は、機能的に協働するナノチューブの群の間に絶縁材料150を介在させて絶縁材料150に接着することができる。例えば、これらナノ構造物は、絶縁材料と、電極155によって一端が保持された結合構造体とに接着すればよい。結合構造体の反対側の端部は、偏向して膜を押圧し、アクチュエータチャンバを流体キャビティ110から分離させることができる。電極155は、導電性接着剤の使用を含むさまざまな方法で結合されたナノ構造物と絶縁構造物とに取り付けることができる。
【0023】
ナノ構造物145は、1999年5月出版のScience(科学)誌、第284巻、P.1340−1344に記載のレイ・ボーマン他著「Carbon Nanotube Actuators(カーボンナノチューブアクチュエータ)」に記載されているような、膜にカーボンナノチューブのマットからなる「バッキーペーパ」の形態をとることができる。このようなマットは、硝酸還元、遠心分離、および直交流ろ過によって市販のチューブを純化することによって形成することができる。ナノチューブ懸濁液を真空ろ過し、乾燥したシートをフィルタから取り出すことができる。例えば、これらバッキーペーパーは、単層ナノチューブのような、ナノ構造ロープまたは束の薄いマットの形態とすることができる。含有されるナノチューブは、様々な、もしくは共通の長さ、直径、および(または)分子構造を有し、主に個々のナノチューブ、ナノチューブの束またはロープ、または、それらの組み合わせから形成される。
【0024】
ボーマン他が述べているように、ナノ構造物145の作動は、電子化学二重電荷によって量的に膨張することを前提とする。電極155に印加する電圧を変化させることによって、電荷は、ナノ構造物145の中に射出される。この電荷は、電解質イオンによって、荷電したナノ構造物145・電解質材料135中間面で補充することができる。この二重層電荷により、定量化学および静電効果から、荷電したナノチューブが寸法変位を引き起こす。
【0025】
ナノチューブ145′は、均質であるとともに作動電界に関して極性を呈し、その表面に電界を与えると直接垂直方式もしくは片持ち方式に偏向するように構成することができる。
【0026】
例えば、さらに図1を参照すると、図に示すように、例えば、約1ボルトの電圧差を与える(膜130に物理的に近い方の電極に、機能的に協働する電極155より大きい正電位を与える)ことができる。相対的に正の電荷が内部に射出されるナノチューブ145は、相対的に負の電荷が内部に射出されるナノチューブ145とは対照的に、長さにおいて異なった変化をみせ、ナノチューブ145は、膜130に向かって片持ち式に変位する。
【0027】
例えば、約1ボルトを電極155に加える(物理的に膜130から遠い方の電極に、物理的に膜130に近い方の機能的に協働する電極155より大きい負の電位を与える)ことによって印加する電圧を逆にすると、相対的に逆の物理的な力を生成することができる。相対的に正の電荷が内部に射出されるナノチューブ145は、ここでも相対的に負の電荷が内部に射出されるナノチューブ145とは対照的に、長さにおいて異なった変化をみせ、ナノチューブ145は、膜130から離れる方向に片持ち式に変位する。
【0028】
図2Aおよび2Bでは、図1の装置とともに使用するのに適した絶縁体155によって支持された複数のナノチューブ145′を分解図として示す。ナノチューブ145′は、ナノ構造物145(図1)と共に使用するのに適しており、それらの間に位置する絶縁体150とともに配設されている。ナノチューブ145′は前述のように電解質溶液135(図1)内に浸漬してもよい。
【0029】
図2Aのように、操作210の第1の形態が示される。ここに示す第1の形態は、膜130(図1)が通電されておらず、休止状態にある第1の電気化学的作動状態に相当する。図2Bのように、操作220の第2の形態が示される。ここに示す第2の形態は、膜130(図1)に通電された第2の電気化学的作動状態に相当する。図2Bに示すように、また、すでに説明したように、電圧を電極150(図1)間に印加して、それに対応する電界が形成されると、ナノチューブ145′はそれに従って変位または偏向する。この変位または偏向は膜130(図1)を偏向させてキャビティ105(図1)内にノズル115における表面張力を上回る圧力の変化を誘発することにより、少なくとも一滴の流体110をそこから吐出させるのに適しているであろう。
【0030】
換言すると、電極155に出力された信号が変化すると、電極155は対応する信号の変化を少なくとも一方のナノチューブ145′に伝達する。上記のように、膜130はそれに対応して偏向する。そして、ナノチューブ145′の偏向に呼応した膜130の偏向によってチャンバ105上への圧力が増加して、ノズル115(図1)における流体110(図1)の表面張力を上回る。電極155に印加された信号は、インク110(図1)の所望の滴下時間に対応するタイミングで単純な電気パルスを出力するなどの適した形態をとることができる。
【0031】
一般的に、電極155を選択的に作動させるコントローラ(図示せず)を使用する。こうしたコントローラは、装置100(図1)または装置100の配列の駆動操作を行うのに適した形態をとることができる。例えば、このコントローラは、適当なハードウェア、ソフトウェアの形態や、適当なマイクロプロセッサベースの装置、特定用途向け集積回路(ASIC)、および(または)それらの組み合わせの形態として、電極155に対し動作可能に結合し、その操作を行わせることができるものである。このコントローラは、特定の装置100(図1)の電源と電極155との間に相互に接続されて、ナノチューブ145′を選択的に変形させることによってキャビティ105(図1)内の圧力を選択的に上昇させ、インクをノズル115からオンデマンドで排出させることができる。このコントローラは、例えば紙などの被印刷物上に形成するパターンを示す情報を受け取ると、それに応じてマトリックス方式で装置100の配列に働きかけ、装置100(図1)の一部を選択的に作動させて配列を形成し、インクをオンデマンドで選択的に滴下する。
【0032】
図3も参照すると、ここには図1の装置とともに使用するのに適した入力信号の例が示されている。第1の形態310では、信号300A,300Bを電極155に出力する。それに応じて、電解質溶液135に浸漬された非導電性材料150の二つの側部に位置するナノチューブ145′が伸び、膜130に向かって曲がる。この曲げにより、力が膜130にかかり、膜130が変位する。この変位により、キャビティ105内の流体110の容積変位が生じて、流体110の表面張力に打ち勝ち、ノズル115から滴120が排出される。当業者は理解できようが、一部の流体が、微細チャネルを通ってタンク125へ戻ることがある。この第1の形態310は、図2の第2の形態220に対応する。
【0033】
さらに図3を参照すると、第2の形態では、信号300Aおよび300Bが再び電極155に出力される。これに対応して、電解質溶液135に浸漬された非導電性材料150の二つの側部に位置するナノチューブ145′が伸び、膜130から離れる方向に曲がる。これにより、キャビティ105内部の圧力が低下し、流体供給手段125がタンク105を再充填し、キャビティ105の内部の圧力を安定させる。この第2の形態320は第1の形態210(図2)に対応する。前述のように、流体供給手段は、毛管力もしくは他の周知の利用可能な手段により、タンクを再充填することができる。ナノチューブ145′の復帰動作がキャビティ105への再供給を補助することができる。
【0034】
当業者にとっては明らかであろうが、本発明は、ドロップ・アンド・デマンド方式のインクジェット印刷に限定されるものではない。むしろ、微細流体アクチュエータ、もしくはそのアクチュエー夕を含むポンプは、さらに広範な適用範囲を有する。限定することのない単なる例として2、3の例を挙げると、生物科学や化学科学業界に使用されているようなチップ上における流体系においての使用がさらに可能である。
【0035】
本発明の図面および説明においては、本発明の明確な理解のため、関連要素を簡略化して示すとともに、明確化の目的のもと、典型的な印刷および微細流体起動構成要素およびその製造方法における他の多くの要素を削除したものであることを理解すべきである。当業者は、本発明を実施するにあたり、他の要素および(または)工程が望ましい、もしくは必要であることを理解するであろう。しかしながら、こうした要素や工程は、その技術分野において周知であり、また、これらが本発明のより良い理解を容易にすることはないので、こうした要素や工程についての議論は、ここでは行わない。
【0036】
当業者は、発明の精神または要旨を逸脱することなく、多くの本発明の変形および変更が可能であることは理解できよう。よって、本発明は、添付の請求の範囲およびその等価物の範囲内に含まれる本発明の変形および変更も含むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明に係るナノ構造物の微細流体ポンプ手段、方法、およびそれを有する印刷装置は、特にドロップ・アンド・デマンド方式のインクジェット印刷に対し適用することができ、さらには、生物科学や化学科学業界に使用されているようなチップ上における流体系においての使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一局面による微細流体ポンプのアクチュエータを組み込んだ印刷装置を示す図である。
【図2A】図1の装置とともに使用するのに適したナノ構造物の作動を示す図である。
【図2B】図1の装置とともに使用するのに適したナノ構造物の作動を示す図である。
【図3】図1の装置と共に使用するのに適した入力信号の例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
100 印刷装置
105 流体キャビティ
110 流体
115 ノズル
130 膜
140 作動チャンバ
145 ナノ構造物
150 絶縁材料
155 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏向可能な膜の作動時に少なくとも一つのノズルから流体を射出することによって、効率よくインクジェット印刷を行うのに適した微細流体ポンプ装置であって、
動作可能に前記膜に結合されると共に、少なくとも一つの電解質流体を含むアクチュエータと、
前記電解質流体に含まれる少なくとも一つのナノ構造物と、
を備え、
前記ナノ構造物は、少なくとも前記ナノ構造物に印加された操作電圧に応じて前記膜に対して偏向し、前記膜を偏向させるとともに、前記ノズルから前記流体を射出させるように構成されていることを特徴とする微細流体ポンプ装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは前記電解質流体を含むアクチュエータチャンバを形成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項3】
前記ノズルが、少なくとも一つの開口を有するキャビティを部分的に形成することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項4】
前記ノズルが複数のノズルから構成されることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項5】
前記アクチュエータが、複数のアクチュエータチャンバを形成し、該複数のアクチュエータチャンバにそれぞれ前記複数のノズルのうち一つを対応させて設けたことを特徴とする請求の範囲第4項に記載の装置。
【請求項6】
前記ノズルにおいて、前記流体が前記膜の偏向に反応する場合を除いて前記ノズルを通じて前記流体の流れを実質的に制限する表面張力を有することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項7】
前記流体はインクを含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項8】
前記流体は、コロイド溶液を含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項9】
前記膜は鋼を含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項10】
前記膜は、少なくとも一つの重合体材料を含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項11】
前記膜は、ポリテトラフルオロエチレン材で被覆されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項12】
前記電解質の流体は、電解質溶液を含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項13】
前記電解質溶液は、NaCl、MgC1,NaOH,LiNO,およびA1(SOを含む群から選択される少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする請求の範囲第12項に記載の装置。
【請求項14】
少なくとも一つの対応するナノ構造物に電気的に結合された少なくとも一つの電極をさらに備えた請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項15】
前記電極の各々に対して動作時に結合されて、前記ナノ構造物の偏向を少なくとも部分的に効率化するのに適した電圧を前記電極の各々に選択的に供給する少なくとも一つのコントローラをさらに備えた請求の範囲第14項に記載の装置。
【請求項16】
前記少なくとも一つのナノ構造物は、複数のカーボンナノチューブを含み、前記複数のカーボンナノチューブの間に介在する少なくとも一つの略非導電性材料を有することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも一つの略非導電性材料がKOHを含むことを特徴とする請求の範囲第16項に記載の装置。
【請求項18】
前記少なくとも一つのナノ構造物が少なくとも一枚のカーボンナノチューブの膜を含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項19】
前記少なくとも一つのナノ構造物が少なくとも一つの略非導電性材料を間に介在させた少なくとも二枚のカーボンナノチューブの膜を含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項20】
前記少なくとも一つのナノ構造物が、少なくとも一つのカーボンナノチューブの自己配向性配列を有することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項21】
前記少なくとも一つのナノ構造物が、複数の単層カーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項22】
前記電解質流体がイオン混合物を含むことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項23】
前記イオン混合物が水溶性であることを特徴とする請求の範囲第22項に記載の装置。
【請求項24】
前記少なくとも一つのナノ構造物の前記偏向が、量子ベースの効果に少なくとも部分的に依存することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項25】
前記少なくとも一つのナノ構造物の前記偏向が、静電効果に少なくとも部分的に依存することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の装置。
【請求項26】
偏向可能な膜の作動時に少なくとも一つのノズルから流体を射出することによって効率的にインクジェット印刷を行うのに適した微細流体ポンプ装置であって、
前記膜に動作可能に結合されたアクチュエータと、
前記アクチュエータに含まれる少なくとも一つのナノ構造物と、
前記少なくとも一つのナノ構造物への操作電圧の印加時に二重層電荷を形成する手段とを備え、
前記ナノ構造物は、前記二重層電荷に応じて前記膜に向けて偏向して、前記膜を偏向するとともに前記ノズルから前記流体を射出するように構成されていることを特徴とする微細流体ポンプ装置。
【請求項27】
前記二重層電荷を形成する手段が前記少なくとも一つのナノ構造物のドーピングを含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項28】
前記アクチュエータが少なくとも一つのアクチュエータチャンバを形成することを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項29】
前記ノズルが少なくとも一つの開口を有するキャビティを部分的に形成することを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項30】
前記ノズルが複数のノズルから構成されることを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項31】
前記アクチュエータが、複数のアクチュエータチャンバを形成し、該複数のアクチュエータチャンバにそれぞれ前記複数のノズルのうち一つを対応させて設けたことを特徴とする請求の範囲26項に記載の装置。
【請求項32】
前記ノズルにおいて、前記流体が前記膜の偏向に反応する場合を除いて前記ノズルを通じて前記流体の流れを実質的に制限する表面張力を有することを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項33】
前記流体はインクを含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項34】
前記流体は、コロイド溶液を含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項35】
前記膜は鋼を含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項36】
前記膜は、少なくとも一つの重合体材料を含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項37】
前記膜は、ポリテトラフルオロエチレン材で被覆されていることを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項38】
前記二重層を形成する前記手段が少なくとも一つの電解質溶液を含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項39】
前記電解質溶液は、NaCl、MgC1,NaOH,LiNO,およびAl(SOを含む群から選択された少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする請求の範囲第38項に記載の装置。
【請求項40】
少なくとも一つの対応するナノ構造物に電気的に結合された少なくとも一つの電極をさらに備えた請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項41】
前記電極の各々に対して動作時に結合されて、前記ナノ構造物の偏向を少なくとも部分的に効率化するのに適した電圧を選択的に前記電極の各々に供給する少なくとも一つのコントローラをさらに備えた請求の範囲第40項に記載の装置。
【請求項42】
前記少なくとも一つのナノ構造物が、少なくとも一つの略非導電性材料を間に介在する複数のカーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項43】
前記少なくとも一つの略非導電性材料がKOHを含むことを特徴とする請求の範囲第42項に記載の装置。
【請求項44】
前記少なくとも一つのナノ構造物が少なくとも一枚のカーボンナノチューブの膜を含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項45】
前記少なくとも一つのナノ構造物が少なくとも一つの略非導電性材料を間に介在させた少なくとも二枚のカーボンナノチューブの膜を含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項46】
前記少なくとも一つのナノ構造物が、少なくとも一つのカーボンナノチューブの自己配向性配列を有することを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項47】
前記少なくとも一つのナノ構造物が、複数の単層カーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項48】
前記二重層電荷を形成する手段がイオン混合物を含むことを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項49】
前記イオン混合物が水溶性であることを特徴とする請求の範囲第48項に記載の装置。
【請求項50】
前記少なくとも一つのナノ構造物の前記偏向が、量子ベースの効果に少なくとも部分的に依存することを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項51】
前記少なくとも一つのナノ構造物の前記偏向が静電効果に少なくとも部分的に依存することを特徴とする請求の範囲第26項に記載の装置。
【請求項52】
偏向可能な膜の作動時に少なくとも一つのノズルから流体を射出することによって効率的にインクジェット印刷を行うための方法であって、前記方法は、少なくとも一つのナノ構造物上に二重層電荷を形成するのに十分な電圧を印加して、少なくとも一つのナノ構造物を十分変形させて膜を偏向させ、ノズルを介して流体を射出する工程を含むことを特赦とする方法。
【請求項53】
被印刷物上に所定の画像を印刷するのに適した装置であって、前記装置は、前記所定のパターンでインクを前記被印刷物に供給するのに適したインクジェットノズルの配列を含み、前記ノズルの各々は、
少なくとも1枚の偏向可能な膜と、
前記膜に動作可能に結合され、少なくとも一つの電解質材料を含むアクチュエータと、
前記電解質材料に電気的に結合した少なくとも一つのナノ構造物とを有し、
前記ナノ構造物は、少なくとも前記ナノ構造物に印加された操作電圧に応じて前記膜に対して偏向し、前記膜を偏向させるとともに、前記ノズルから前記流体を射出させるように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項54】
前記アクチュエータは前記電解質材料を含むアクチュエータチャンバを形成することを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項55】
前記アクチュエータが、複数のアクチュエータチャンバを形成し、該複数のアクチュエータチャンバにそれぞれ前記複数のノズルのうち一つを対応させて設けたことを特徴とする請求の範囲第54項に記載の装置。
【請求項56】
前記ノズルにおいて、前記流体が前記膜の偏向に反応する場合を除いて前記ノズルを通じて前記流体の流れを実質的に制限する表面張力を有することを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項57】
前記膜が、鋼、重合体材料、およびポリテトラフルオロエチレン材で被覆された材料のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項58】
前記電解質材料が、NaCl、MgC1,NaOH,LiNO,およびA1(SOを含む群から選択された少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項59】
少なくとも一つの対応するナノ構造物に電気的に結合された少なくとも一つの電極をさらに備えた請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項60】
前記電極の各々に対して動作時に結合されて、前記ナノ構造物の偏向を少なくとも部分的に効率化するのに適した電圧を前記電極の各々に選択的に供給する少なくとも一つのコントローラをさらに備えた請求の範囲第59項に記載の装置。
【請求項61】
前記少なくとも一つのナノ構造物が、少なくとも一つの略非導電性材料を間に介在する複数のカーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項62】
前記少なくとも一つの略非導電性材料がKOHを含むことを特徴とする請求の範囲第61項に記載の装置。
【請求項63】
前記少なくとも一つのナノ構造物が少なくとも一枚のカーボンナノチューブの膜を含むことを特徹とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項64】
前記少なくとも一つのナノ構造物が少なくとも一つの略非導電性材料を間に介在させた少なくとも二枚のカーボンナノチューブの膜を含むことを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項65】
前記少なくとも一つのナノ構造物が、少なくとも一つのカーボンナノチューブの自己配向性配列を有することを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項66】
前記少なくとも一つのナノ構造物が、複数の単層カーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項67】
前記電解質材料がイオン混合物を含むことを特徴とする請求の範囲第66項に記載の装置。
【請求項68】
前記少なくとも一つのナノ構造物の前記偏向が、量子ベースの効果に少なくとも部分的に依存することを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項69】
前記少なくとも一つのナノ構造物の前記偏向が、静電効果に少なくとも部分的に依存することを特徴とする請求の範囲第53項に記載の装置。
【請求項70】
偏向可能な膜に略隣接する領域から流体を射出するのに適した装置であって、
前記膜に動作可能に結合されると共に少なくとも一つの電解質の流体を収容するアクチュエータと、
前記電解質の流体に含まれた少なくとも一つのナノ構造物とを含み、
前記ナノ構造物は、前記少なくとも一つのナノ構造物に印加された操作電圧に応じて前記膜に対し偏向することにより、前記膜を偏向し、前記流体を前記空間から射出させることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−509659(P2006−509659A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560350(P2004−560350)
【出願日】平成15年12月3日(2003.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2003/038322
【国際公開番号】WO2004/054811
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】