説明

ナノ治療コロイド金属組成物および方法

本発明は、治療化合物、医薬品、薬物、検出剤、核酸配列および生物学的因子を含む薬剤の送達系のための組成物および方法を含む。一般に、本発明のナノ治療組成物は、送達のために、コロイド金属を含むプラットフォーム、腫瘍壊死因子などの標的リガンド、ポリエチレングリコールなどのステルス剤、および1つまたは複数の診断または治療薬を含む。また本発明は、このようなナノ治療組成物の製造のためおよび癌の処置のための方法および組成物も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2007年9月21日に出願された米国仮特許出願第60/974310号、2007年10月23日に出願された米国仮特許出願第60/981920号、2008年3月12日に出願された米国仮特許出願第61/069108号、2008年3月19日に出願された米国仮特許出願第61/069905号、2008年3月27日に出願された米国仮特許出願第61/040022号、2008年4月11日に出願された米国仮特許出願第61/123796号、2008年4月15日に出願された米国仮特許出願第61/124290号、および2008年5月8日に出願された米国仮特許出願第61/126899号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、全身的な薬剤の送達および特定の部位への薬剤の送達のための組成物および方法に関する。一般に、本発明は、コロイド金属組成物、ならびにこのような組成物の製造および使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
必要な部位を追跡し、過度の副作用なしに治療反応を送達し得る特効薬を発見することは、治療的処置の長い間の目標となっている。この目標に到達するために多数のアプローチが試みられてきた。治療薬は、身体の細胞による差別的な処置のために、治療粒子の疎水性もしくは親水性または大きさなどの活性剤の相違点を利用するように設計されてきた。インサイチュー(in situ)注射によって治療薬を身体の特定の部分または特定の細胞に送達し、治療薬の送達を制限する血液脳関門などの体の防御を使用するか、あるいは克服する治療が存在する。
【0004】
治療薬を特定の組織または細胞へ特異的に導くために使用されている1つの方法は、治療薬と、特異的受容体の結合パートナーとの組み合わせに基づいた送達である。例えば、治療薬が細胞毒性または放射性であり、細胞受容体の結合パートナーと組み合わせられる場合、標的細胞と結合すると、細胞死を引き起こすか、あるいは細胞活性の遺伝子制御を妨害し得る。このタイプの送達デバイスは、処置すべき細胞型に特異的な受容体、受容体の有効な結合パートナー、および有効な治療薬を有することを必要とする。これらの問題のいくつかを克服するために分子遺伝学的操作が使用されている。
【0005】
遺伝子配列の外来細胞への特異的な送達または内在性配列の過剰発現のための特異的な送達は、現在、非常に関心のある方法である。細胞内に遺伝子を挿入するために種々の技法が使用される。これらの技法には、沈殿、ウイルスベクター、マイクロピペットおよび遺伝子銃による直接挿入、ならびに細胞への核酸の暴露が含まれる。広く使用されている沈殿技法は、リン酸カルシウムを用いてDNAを沈殿させ、不溶性粒子を形成する。目標は、全身性の細胞エンドサイトーシスによってこれらの粒子の少なくともいくつかが宿主細胞内に取り入れられることである。この結果、新しいまたは外来の遺伝子の発現が生じる。この技法は外来遺伝子の細胞内への侵入の効率が低く、その結果生じる遺伝子の発現の効率が低い。エンドサイトーシスのための特定の認識部位における信頼性は存在しないので、暴露された全ての細胞が外来遺伝子を取り入れることができるため、遺伝子の内部移行はどの細胞がトランスフェクトされるかに関して非特異的である。この技法はインビトロで広く使用されているが、標的細胞の選択の特異性の欠如および高度に分化した細胞による取り込み不良のために、インビボでのその使用は意図されない。さらに、インビボでのその使用は、沈殿した核酸が不溶性であることによって制限される。
【0006】
同様の技法は、インビトロで細胞をトランスフェクトするためにDEAE−デキストランの使用を含む。DEAE−デキストランは細胞にとって有害であり、やはり核酸の細胞内への非特異的な挿入をもたらす。この方法はインビボでは賢明でない。
【0007】
細胞をトランスフェクトするため、または外来遺伝子の細胞への侵入を提供するためのその他の技法も制限されている。ベクターとしてのウイルスの使用は、インビトロおよびインビボでの外来遺伝子の細胞への導入のためにある程度の適用性を有する。ウイルスタンパク質の存在がインビボでの使用中に望ましくない効果を生じる危険は常に存在している。さらに、ウイルスベクターは、細胞内に輸送することができる外来遺伝子材料の大きさに関して制限され得る。ウイルスベクターの反復使用はレシピエントに免疫反応を起こし、ベクターを使用できる回数が制限される。
【0008】
リポソーム封入核酸による外来遺伝子の送達も使用されている。リポソームは、核酸を含む様々な材料で充填され得る膜で囲まれた嚢である。リポソーム送達は、リポソームの充填が不均一であるために、細胞への均一な送達を提供しない。リポソームは、受容体の結合パートナーが含まれていれば特定の細胞型を標的にすることができるが、リポソームは破損の問題を抱えており、従って送達は特異的でない。
【0009】
外来核酸を挿入するための強引な技法は、マイクロピペットまたは遺伝子銃により細胞膜を穿刺して、外来DNAを細胞内に挿入することを含む。これらの技法はいくつかの手順のためには上手く働くが、広範囲に適用可能ではない。これらは非常に労働集約的であり、非常に熟練したレシピエント細胞の操作を必要とする。これらは、インビボで上手く働く簡単な手順の技法ではない。電気的な方法を用いて細胞膜の透過性を変化させるエレクトロポレーションは、いくつかのインビトロ治療については細胞への遺伝子の挿入に成功している。
【0010】
糖タンパク質の受容体の存在に頼った特定の細胞のためのDNAの標的送達においていくつかの試みが成されてきた。送達系は、DNAに非共有結合されると共にリガンドに共有結合されたポリリジンなどのポリカチオンを使用した。ポリカチオンのリガンドへの共有結合のこのような使用は、細胞の内部移行メカニズムがいったん開始したら、送達系の解体を許さない。この大きい複合体の共有結合送達系は、核酸が細胞内で自然に見られる方法とはかなり異なる。
【0011】
当業者に明白であるように、細網内皮系(RES、Papisov 1998、Moghimi、1998およびWoodle、1998)による食細胞クリアランス(phagocytic clearance)を免れることができる粒子送達系によって促進される固形腫瘍への癌治療を標的にすることが、長年にわたって切実に必要とされている。理想的な条件下では、このような送達系は腫瘍脈管構造を優先的に溢出させ、腫瘍微小環境内に蓄積し得る(Nafayasu 1999、Maruyama 1999)。さらに、抗癌剤を腫瘍内だけに隔離することができる望ましい粒子送達系は、健康な器官内の薬物の蓄積も低減し得る(Papisov 1998、Moghimi、1998およびWoodle、1998、Nafayasu 1999、Maruyama 1999)。その結果として、これらの送達系は癌治療の相対的効力または安全性を増大し、従って、薬物の治療指数を増大する働きをし得る。
【0012】
粒子に基づく薬物送達の分野は、現在、2つの化学的に異なるコロイド粒子のリポソームおよび生分解性ポリマーに焦点が合わせられている(Mueller 2000、Jain、1998、Rafferty、1996、Ogawa 1997、およびMaruyama、1998)。いずれの送達系も活性薬物を被包する。薬物は、リポソームの場合には溶解するとき、あるいは生分解性ポリマーについては記載されるように崩壊するときに、粒子から放出される。
【0013】
コロイド金ナノ粒子は、粒子に基づく腫瘍標的化薬物送達の分野における完全に新規の技術を表す。これらの粒子の合成は、最初に、1857年に塩化金およびクエン酸ナトリウムからAuのナノサイズの粒子を製造するための化学的方法を説明したMichael Faradayによって報告された(Faraday、1857)。1950年代、これらの粒子がタンパク質生物製剤をその活性を変更することなく結合し得るという発見によって、ハンドヘルド型免疫診断および病理組織診断におけるその使用のための道が切り開かれた(Chandler、2001)。特に関連があるのは、肝臓癌および肉腫を処置するための、Au198から製造される放射性コロイド金ナノ粒子の使用である(Rubin 1964、Root 1954)。これらのナノ粒子の静脈内投与は、放射線暴露による薬物関連の毒性を生じる。しかしながら、粒子自体から実証可能な毒性は認められなかった。最近になって、金ナノ粒子は、DNA診断およびバイオセンサーにおける使用のためのスキャフォールドに構築された(Mirkin 1996)。
【0014】
バイオナノテクノロジー(またはナノバイオテクノロジー)の新たな分野は、非常に敏感な診断および器官/腫瘍標的化治療の開発の可能性を提供する。例えば、診断の微細化は、正常および疾患の両方の状態における血液化学、ホルモンおよび成長因子のより完全なスナップショットを臨床医に提供できるだけでなく、彼らが推定上の治療法の効力を追跡できるようにもする[Koehneら、2004]。その診断の進歩を補足すると、バイオナノテクノロジーは、主な例として、現在の癌治療の利益/リスク比の尺度である治療指数を増大させる見込みも有する[Papisovら、1998、Moghimiら、1998、Woodle、1998、Nafayasuら、1999、Maruyamaら、1999]。実際に、材料化学および腫瘍生物学の混合は、固形腫瘍においてそれが必要とされているところでだけ活性剤を得るという腫瘍標的化薬物送達の念願の目標を達成する可能性を有する革新的なベクターの開発を導いている。それにもかかわらず、この目標を上手く達成するために、ナノ粒子送達系は、体内に自然に存在する生物学的バリア、ならびに腫瘍の成長および進行中に発生する生物学的バリアを克服しなければならない。このような自然のバリアには、細網内皮系によるクリアランス(大きさまたはオプソニン化による)、間質(腫瘍)液圧の増大を導く腫瘍血管新生、リガンド/受容体に基づくナノ治療ターゲティング、形成中に確立される腫瘍間質内のバリア:腫瘍内バリア、および固形腫瘍の細胞の不均一性が含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
上記の自然のバリアの問題への対処においていくらかの進歩が遂げられているが、まだ多数の課題が残っている。例えば、腫瘍標的薬物送達ベクターは、これらが血液中でオプソニン化され、細網内皮系(RES、すなわち、より大きい粒子はより小さい粒子よりも良く補体を活性化する)によって取り込まれる可能性を減少させるだけでなく、脾臓の赤色髄に存在する内皮間スリットの狭い領域におけるそのクリアランスも防止し得る「真の」または最適なナノメートルサイズにまだアプローチしていない。RESの回避をさらに改善するために、現在入手可能なナノ粒子系の表面に親水性ポリマーがグラフトされ得ると考えられる。これらのナノ粒子ベクターが体全体を自由に循環すると、腫瘍新生脈管構造の固有の漏出性およびこれらのナノ粒子ベクターの表面における腫瘍特異性リガンドの存在のために、これらは受動的および能動的に固形腫瘍の中および周囲に隔離され得ると考えられる。しかしながら、このようなナノ粒子はまだ実用化できるほど有効に小さくなっていない。
【0016】
また当業者は有効なナノ治療法の構築における最後の要素の必要性も理解しており、これは、固形腫瘍を含む癌細胞の不均一な集団に複合治療薬を有効に送達するベクターを開発する能力にある。その最も簡単なモデルでは、固形腫瘍は、腫瘍成長を促進するために一致した役割を果たす複数の細胞型を含有する器官とみなすことができる[SpremulliおよびDexter、1983、Dexterら、1978]。従って、治療的介入のために単一の細胞型を標的とする薬物は、不十分な抗腫瘍効果しか提供することができない。さらに、多くの場合、固形腫瘍細胞は、疾患の進行中に、そして/あるいは治療に応答して、連続した表現型を表す。その結果として、ナノ粒子送達系が固形腫瘍内にこれらを隔離する能力にかかわらず、単剤治療が悪性腫瘍内に存在する無数の細胞に対して有効であると立証されることはないと思われる。従って、この制限を克服するために、必要とされるのは、これらの固形腫瘍への道を見出さなければならないだけでなく、腫瘍成長を促進する多様な細胞集団を有効に破壊しなければならない次世代のナノ治療法である。
【0017】
疾患または病態の処置のため、またはこのような部位の検出のために、特定の治療薬を身体内の特定の部位に送達するための簡単で効率的な送達系は現在得られていない。例えば、現在の癌の処置は、生物体全体に影響を与える、化学療法剤および他の生物活性因子(サイトカインなど)、ならびに免疫性因子の投与を含む。副作用には、器官の障害、味覚および感触などの感覚の喪失、ならびに脱毛が含まれる。このような治療は状態の処置を提供するが、副作用を処置するために多くの補助的な治療も必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
必要とされるのは、所望の細胞または部位に作用する薬剤の送達系のための組成物および方法である。これらの送達系は、検出剤および治療薬を含む全てのタイプの薬剤を特定の細胞へ送達するために使用され得る。同様に必要とされるのは、生物体全体に所望されない副作用を引き起こさない送達系である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、治療化合物、医薬品、薬物、プロドラッグ、検出剤、核酸配列および生物学的因子を含むがこれらに限定されない薬剤の送達系のための組成物および方法を含む。一般に、本発明は、多機能性ナノ治療法として、ナノ薬物を構築するためのプラットフォーム(コロイド金属ゾルなど)と、標的リガンド(例えば、腫瘍壊死因子(TNF)などの腫瘍標的リガンド)と、ステルス剤(stealth agent)(ナノ粒子薬物を水和させ、そしてそれにより細網内皮系(RES)によるその取り込みおよびクリアランスを防止するためのポリエチレングリコールなど)と、特定の実施形態では1つまたは複数の活性剤または薬物(パクリタキセルなど)とを本質的に含むこれらの送達またはベクター組成物を提供する。本発明はさらに、このようなコロイド金属ゾル組成物を製造するための方法および組成物を含む。
【0020】
本発明では、前記ナノ治療法の循環中の加水分解転換を遅延する手段として、コロイド金ナノ粒子の使用が説明される。また金ナノ粒子は、疾患(すなわち、固形腫瘍)部位における治療または診断薬の蓄積を促進し、薬剤はそこでゆっくりその活性形態に転換される。
【0021】
本発明の特定の実施形態では、コロイド金属ゾルは、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、シリカナノ粒子、鉄ナノ粒子、金/鉄ナノ粒子などの金属ハイブリッドナノ粒子、ナノシェル、金ナノシェル、銀ナノシェル、金ナノロッド、銀ナノロッド、金属ハイブリッドナノロッド、量子ドット、ナノクラスター、リポソーム、デンドリマー、金属/リポソーム粒子、金属/デンドリマーナノハイブリッドおよびカーボンナノチューブを含む。
【0022】
代替の実施形態では、標的リガンドは、例えば、腫瘍壊死因子(TNF)を含む。
【0023】
本発明のさらに他の実施形態では、保護剤は、PEG、HES(ヒドロキシエチルデンプン)(登録商標)、PolyPEG(登録商標)、またはrPEGを含むことができ、これらはどれも、元の形態で、チオール化されて、あるいは他に誘導体化されて使用され得る。本発明において使用することができるその他のPEG様の化合物としては、チオール化ポリオキシプロピレンポリマー、チオール化ブロックコポリマー、またはトリブロックコポリマー(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレンブロックを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明のナノ治療法またはベクター組成物は、固形腫瘍の検出または処置において特に有用である。本発明の好ましい組成物は、誘導体化PEG、好ましくはチオール−PEG、または誘導体化もしくはチオール化HES(登録商標)、PolyPEG(登録商標)、誘導体化またはチオール化PolyPEG(登録商標)、rPEG、誘導体化またはチオール化rPEGと会合されたコロイド金属ゾル、好ましくは金属金ゾルを含むベクターを含み、そして、ベクターの特異的な標的化に役立つか、あるいは治療効果を有するか、あるいは検出可能である1つまたは複数の薬剤も含む。
【0025】
本発明は既知の方法(注射あるいは経口など)によって本発明の組成物を投与することによる送達方法を含み、ここで、組成物は特定の細胞または器官に送達される。1つの実施形態では、本発明は、癌または固形腫瘍などの疾患を、このような疾患の処置のために知られている薬剤を含む本発明の組成物を投与することによって処置するための方法を含む。別の実施形態は、コロイド金属粒子と会合された誘導体化PEG、TNF(腫瘍壊死因子)および抗癌剤を含むベクター組成物を含む。別の実施形態では、本発明は、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ベクター、リボザイム、si、RNA、DNA、mRNA、センスオリゴヌクレオチド、および核酸などの遺伝子治療のために使用される薬剤を含む本発明の組成物を投与することによる遺伝子治療のための方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ナノ薬物を調製するために使用される混合装置の概略図である。
【図2】コロイド金へのTNFの飽和結合を示すグラフである。
【図3】図3Aは、cAu−TNFの安全性に対するTNF:金の結合比の効果を示すグラフである。図3Bは、cAu−TNFの安全性に対するTNF:金の結合比の効果を示すグラフである。図3Cは、cAu−TNFおよび天然型TNFの抗腫瘍効力を示すチャートである。図3Dは、1時間後のTNF分布プロファイルを示すチャートである。図3Eは、8時間後のTNF分布プロファイルを示すチャートである。図3Fは、MC38腫瘍負荷C57/BL6マウスにおける天然型TNFおよびcAu−TNFベクターの薬物動態学的プロファイルのグラフである。
【図4】図4Aは、PT−cAu−TNFベクターで処置したマウスの肝臓および脾臓を示す。図4Bは、cAu−TNFベクターで処置したマウスの肝臓および脾臓を示す。図4Cは、処置を行わないマウスの肝臓および脾臓を示す。
【図5】図5Aは、種々の器官における金の分布を示すグラフである。図5Bは、TNFの薬物動態学的分析を示すグラフである。図5Cは、経時的な腫瘍内TNF分布を示すグラフである。図5Dは、コロイド金ナノ薬物の異なる配合物について腫瘍内TNF濃度を比較するチャートである。図5Eは、種々の器官におけるTNFの分布を経時的に示すグラフである。図5Fは、種々の器官におけるTNFの分布を経時的に示すグラフである。
【図6】図6Aは、天然型TNFまたはPT−cAu−TNFベクターの安全性および効力を比較するグラフである。図6Bは、天然型TNFおよび20K−PT−cAu−TNFの安全性および効力を比較するグラフである。図6Cは、天然型TNFおよび30K−PT−cAu−TNFの安全性および効力を比較するグラフである。
【図7】複数の薬剤を有するベクターの概略図である。
【図8】ベクターを検出するための捕捉方法の実施形態の概略図である。
【図9】第2の薬剤の存在を示すTNF−およびEND−捕捉ベクターを示すグラフである。
【図10】第2の薬剤の存在を示すTNF−およびEND−捕捉ベクターを示すグラフである。
【図11】PolyPeg(登録商標)として知られるペグ化剤の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、薬剤の送達のための組成物および方法を含む。また本発明は、組成物の製造方法、ならびにインビトロおよびインビボにおける組成物の投与方法も含む。一般に、本発明は、以下の成分:標的分子、活性剤、ステルス剤(例えば、1つまたは複数のタイプのPEGまたは他のタイプのステルス部分)検出剤、および統合分子のいずれかまたは全てと、単独または組み合わせて会合されたプラットフォームを形成する金属ゾル粒子を含むナノ治療組成物を意図する。
【0028】
薬剤の送達は、特定の細胞または組織の検出または処置のために使用される。例えば、本発明は、固形腫瘍などの特定の組織を画像化するために使用される。薬剤の送達は、慢性および急性疾患、免疫系およびその他の生体系の維持および制御、感染症、ワクチン接種、ホルモン維持および制御、癌、固形腫瘍および血管新生状態、ならびに他の生理的障害を含むが、これらに限定されない生物学的状態の処置のために使用される。このような送達は特定の細胞または細胞型を標的としてもよいし、あるいは低レベルの薬剤放出または非毒性の形を可能にする方法では、送達はあまり特異的でなく身体に提供されてもよい。金属ゾル組成物の説明および使用は、米国特許第6274552号明細書、ならびに関連特許出願の、米国特許出願第09/808809号明細書、09/935062号明細書、09/189748号明細書、09/189657号明細書、および09/803123号明細書、ならびに米国仮特許出願第60/287363号明細書において教示されており、これらの全てはその全体が本明細書に援用される。また、米国仮特許出願第60/287363号明細書、米国仮特許出願第60/974310号明細書、米国仮特許出願第61/069108号明細書、米国仮特許出願第61/123796号明細書、米国仮特許出願第60/981920号明細書、米国仮特許出願第61/040022号明細書、米国仮特許出願第61/124290号明細書、および米国仮特許出願第61/126899号明細書も、本出願の中にその全体が援用される。
【0029】
本発明は、新規の多機能性ナノ治療法としてのコロイド金属および薬剤の送達のためのベクターを含む方法および組成物に関する。特に、好ましい組成物は、固形腫瘍における1つまたは複数のタイプのベクターの蓄積を含む処置または検出方法において使用される。本発明の多機能性ナノ治療法は、ナノ薬物を構築するためのプラットフォーム、標的リガンド、ステルス剤、および1つまたは複数の活性剤を含むベクター組成物を含む。プラットフォームは、通常、金ナノ粒子などのコロイド金属ゾルを含む。標的リガンドは、腫瘍部位を標的とするTNFなどのリガンドでよい。
【0030】
ナノ治療法の構成要素は、本明細書において特定の機能および目的に関して説明されるが、構成要素は容易に2つ以上の機能を果たし得ることに注意すべきである。例えば、以下でさらに議論されるように、金ナノ粒子は、ナノ治療薬を製造するためのプラットフォームの役割を果たすだけでなく、一連のプロドラッグの加水分解転換を防止するときには「ステルス/保護機能」に寄与する。特定の実施形態では、金粒子の存在に起因する独特の化学作用が、標的部位に到達するまで薬剤またはプロドラッグの活性化(または加水分解)を遅延させる。さらに、TNFは本明細書では標的剤として提供および議論されるが、TNFはナノ粒子の治療効力にも寄与する。
【0031】
ステルスまたは保護剤は、ナノ薬物を、その標的に到達する前の吸収、消化または他の代謝活性から保護する薬剤であり得る。いくつかの実施形態では、ステルス剤は、PEGまたはチオール化PEGを含む。
【0032】
本発明の組成物および方法は様々な目的のために使用され得る。特定の実施形態では、組成物および方法は固形腫瘍を処置するために使用され、PEG、好ましくは誘導体化PEG、より好ましくは、チオール誘導体化ポリエチレングリコールを含むコロイド金属ゾル組成物を投与することを含む。
【0033】
特定のどんな理論により束縛されることも望まないが、このような組成物の使用はベクター組成物の腫瘍への輸送および腫瘍内での蓄積をもたらすと考えられる。標的分子および活性剤の不在下では、誘導体化PEGコロイド金属ベクターは腫瘍へ輸送され、そこに隔離される。
【0034】
最も好ましい投与経路は静脈内または経口であるが、本発明によって全ての投与方法が意図される。好ましくは静脈内または経口で投与されると、コロイドベクターは腫瘍内に見られる、あるいは腫瘍と会合される。
【0035】
本発明の組成物は、好ましくは、コロイド金属ゾル、誘導体化化合物、および1つまたは複数の薬剤を含む。薬剤は治療的用途において使用することができる生物活性剤であってもよいし、あるいは薬剤は、検出方法において有用な薬剤であってもよい。好ましい実施形態では、1つまたは複数の薬剤はコロイド金属と混合、会合、または直接もしくは間接的に結合される。混合、会合および結合には、共有およびイオン結合、ならびに誘導体化PEG、薬剤、およびその他の成分の相互の、そして金属ゾル粒子との長期間または短期間の会合を可能にするその他のより弱いまたはより強い会合が含まれる。
【0036】
さらに別の実施形態では、組成物は、コロイド金属と混合、会合または結合された1つまたは複数の標的分子も含む。標的分子は、直接または間接的に金属粒子に結合させることができる。間接的な結合には、ポリリジンもしくは他の統合分子などの分子を介した結合、または、金属ゾルもしくは金属ゾルに結合した別の分子のいずれかと標的分子との両方に結合する分子の会合が含まれる。
【0037】
プラットフォーム
どのコロイド金属も本発明において使用することができる。コロイド金属には、液体水中に分散された任意の水に不溶性の金属粒子または金属化合物、ヒドロゾルまたは金属ゾルが含まれる。コロイド金属は、周期表のIA族、IB族、IIB族およびIIIB族の金属、ならびに遷移金属、特にVIII族の遷移金属から選択することができる。好ましい金属としては、金、銀、アルミニウム、ルテニウム、亜鉛、鉄、ニッケルおよびカルシウムが挙げられる。また、その他の適切な金属には、以下の:リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、銅、ガリウム、ストロンチウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、スズ、タングステン、レニウム、白金、およびガドリニウムが、これらの種々の酸化状態の全てにおいて含まれる。金属は、好ましくは、適切な金属化合物から誘導されるイオン形態(例えば、Al3+、Ru3+、Zn2+、Fe3+、Ni2+およびCa2+イオン)で提供される。また、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、シリカナノ粒子、鉄ナノ粒子、金/鉄ナノ粒子などの金属ハイブリッドナノ粒子、ナノシェル、金ナノシェル、銀ナノシェル、金ナノロッド、銀ナノロッド、金属ハイブリッドナノロッド、量子ドット、ナノクラスター、リポソーム、デンドリマー、金属/リポソーム粒子、金属/デンドリマーナノハイブリッドおよびカーボンナノチューブを含むがこれらに限定されない他のナノ粒子も、本発明においてプラットフォームとして使用するのに適している。
【0038】
好ましい金属は、特にAu3+の形態の金である。コロイド金の特に好ましい形態はHAuClである。1つの実施形態では、コロイド金粒子は、適切な中性pHにおいて負電荷を有する。この負電荷は、他の負に帯電した分子の誘引および付着を防止すると考えられる。対照的に、正に帯電した分子は、コロイド金粒子に引き付けられて結合する。コロイド金は、好ましいサイズは約1〜40nmの粒径であるが、様々な粒径を有する金粒子を含有するゾルの形態で使用される。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、ナノ粒子中の金は、分子全体のプラットフォームの役割を果たすだけでなく、薬物類似体またはプロドラッグなどの薬物/薬剤の血液中での転換を防止し、薬剤または薬物の活性形態への転換を容易にする。以下の理論により束縛されることは望まないが、ナノ粒子中の金は、このような類似体の活性薬物または薬剤への血液中での転換を防止する独特の化学作用に寄与すると考えられる。従って、金は、標的(すなわち、固形腫瘍)に到達するまで薬剤または薬物のその活性状態への転換を防止するので、ナノ治療法の安全性および効力に寄与する。さらに、以下に示されるように、ナノ治療法は医薬品を固形腫瘍内に隔離するだけでなく、時間をかけて薬物類似体が活性薬物に転換できるようにもする。その結果として、標的送達および時間をかけた活性薬物の生成のため、ナノ治療は、より低用量の薬物の使用を容易にすることによって薬物の安全性も改善する。金の存在は、薬物の全体的な安定性に寄与する。1つの特定の実施形態では、ナノ治療法は、プラットフォームとしての金、標的剤としてのTNF、ステルス剤としてのPEG、およびプロドラッグを含む。標的(通常は、腫瘍)に到達するまでプロドラッグのその活性形態への加水分解および転換が生じないので、このナノ治療法は非常に有効である。不活性剤の活性剤への遅延された加水分解または遅延された転換は、無差別の作用または効力の低下の可能性が最小限にされるので非常に望ましい。
【0040】
別の好ましい金属は銀であり、特に、約0.1%〜0.001%の間の濃度を有するナトリウムホウ酸塩緩衝液中、最も好ましくは約0.01%の溶液中の銀である。好ましくは、このようなコロイド銀溶液の色は黄色であり、コロイド粒子は1〜40nmの範囲である。このような金属イオンは、複合体中に単独で存在してもよいし、あるいは他の無機イオンと共に存在してもよい。
【0041】
標的リガンド/分子
標的分子も本発明の組成物の成分である。1つまたは複数の標的分子は、コロイド金属に直接または間接的に付着、結合または会合され得る。これらの標的分子は、特定の細胞または細胞型、特定の胚組織に由来する細胞、器官または組織に方向付けることができる。このような標的分子には、特定の細胞または細胞型に選択的に結合することができる任意の分子が含まれる。一般に、このような標的分子は結合対の一方のメンバーであり、従って、他方のメンバーに選択的に結合する。このような選択性は、細胞において自然に見られる構造体(細胞膜、核膜中に見られる受容体など)またはDNAと会合された構造体に結合することによって達成することができる。結合対のメンバーは細胞、細胞型、組織または器官上に合成的に導入されてもよい。標的分子は、細胞膜中または細胞膜のない状態に見られる分子に結合し得る受容体または受容体の一部、リガンド、抗体、抗体断片、酵素、補因子、基質、および当業者に知られている他の結合対メンバーも含む。標的分子は複数のタイプの結合パートナーに結合できることもある。例えば、標的分子は、受容体または他の結合パートナーの類または群に結合してもよい。標的分子は、いくつかの酵素または酵素型に結合することができる酵素基質または補因子であってもよい。
【0042】
標的分子の具体的な例としては、インターロイキン−1(「IL−1」)、インターロイキン−1β(「IL−1β」)、インターロイキン−2(「IL−2」)、インターロイキン−3(「IL−3」)、インターロイキン−4(「IL−4」)、インターロイキン−5(「IL−5」)、インターロイキン−6(「IL−6」)、インターロイキン−7(「IL−7」)、インターロイキン−8(「IL−8」)、インターロイキン−9(「IL−9」)、インターロイキン−10(「IL−10」)、インターロイキン−11(「IL−11」)、インターロイキン−12(「IL−12」)、インターロイキン−13(「IL−13」)、インターロイキン−14(「IL−14」)、インターロイキン−15(「IL−15」)、インターロイキン−16(「IL−16」)、インターロイキン−17(「IL−17」)、インターロイキン−18(「IL−18」)インターロイキン21(「IL−21」)、B7、リピドA、ホスホリパーゼA2、エンドトキシン、ブドウ球菌エンテロトキシンBおよびその他の毒素、I型インターフェロン、IFNγ、II型インターフェロン、腫瘍壊死因子(「TNF」または「TNFα」)、トランスフォーミング成長因子−α(「TGF−α」)、リンホトキシン、遊走阻止因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「CSF」)、単球マクロファージCSF、顆粒球CSF、血管上皮成長因子(「VEGF」)、血管新生因子、アンジオゲニン、トランスフォーミング成長因子−β(「TGF−β」)、血液型の炭水化物部分、Rh因子、線維芽細胞成長因子、ならびに他の炎症および免疫調節タンパク質、ホルモン、例えば、成長ホルモン、インスリン、グルカゴン、副甲状腺ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、および黄体形成ホルモン放出ホルモン、内分泌性ホルモン、細胞表面受容体、抗体、核酸、ヌクレオチド、DNA、RNA、センス核酸、アンチセンス核酸、癌細胞特異的抗原、MART、MAGE、BAGE、および分子シャペロン、例えばHSP(熱ショックタンパク質)、変異体p53、チロシナーゼ、自己免疫抗原、受容体タンパク質、グルコース、グリコーゲン、リン脂質、およびモノクローナル、および/またはポリクローナル抗体、塩基性線維芽細胞成長因子、酵素、補因子、酵素基質免疫調節性分子(すなわち、CD40L)、接着分子(ICAM)、血管および新生血管マーカー(CD31およびCD34)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の好ましい実施形態では、標的リガンドはTNFを含む。標的リガンドとしてTNFを有するナノ治療法は、ナノ粒子の体内分布を主に疾患部位に制限し、そしてこれらが同時に固形腫瘍内に存在する腫瘍細胞を攻撃するだけでなく腫瘍の成長を支持および促進する宿主ストローマ細胞も殺すのを可能にすることに貢献するので非常に有効である。従って、標的剤としてTNFが使用される実施形態を含む特定の実施形態では、標的剤は、標的剤としての役割を果たすことに加えて、ナノ治療法の治療的価値にも寄与する。
【0044】
本発明において使用される統合分子は、結合対のメンバーなどの特異的結合統合分子か、あまり特異的でなく結合する非特異的結合統合分子のいずれかであり得る。統合分子は、2つの実体を結合または会合させるための部位を提供するその機能によって定義される。一方の実体は金属ゾル粒子を含むことができ、他方の実体は1つまたは複数の活性剤、または1つもしくは複数の標的分子、あるいはこれらの両方または組み合わせを含むことができる。本発明の組成物は、1つまたは複数の統合分子を含むことができる。
【0045】
非特異的結合統合分子の一例は、核酸の結合において有用なポリリジンまたはヒストンなどのポリカチオン性分子である。ポリカチオン性分子は当業者に知られており、ポリリジン、硫酸プロタミン、ヒストンまたはアシアロ糖タンパク質を含むが、これらに限定されない。また本発明は、1つまたは複数の実体の金属粒子への結合を提供する合成分子の使用も意図する。
【0046】
特異的結合−統合分子は、本発明において使用することができる結合対の任意のメンバーを含む。このような結合対は当業者に知られており、抗体−抗原対、酵素−基質対、受容体−リガンド対、およびストレプトアビジン−ビオチンを含むが、これらに限定されない。このような既知の結合対に加えて、新規の結合対も具体的に設計され得る。結合対の特徴は、結合対の2つのメンバー間の結合である。結合パートナーの別の望ましい特徴は、対の一方のメンバーが薬剤または標的分子の1つまたは複数に結合することができるか、または結合しており、対の他方のメンバーが金属粒子に結合できることである。
【0047】
ステルス剤
本明細書において使用される場合、「ステルス剤」は、本明細書において説明されるナノ治療粒子の表面に結合された場合に、循環中の粒子のオプソニン化、そしてそれに続く細網内皮系(RES)によるクリアランスを防止する化合物を指す。
【0048】
ステルス剤は、その標的に到達するまで、ナノ治療薬を消化、吸収、オプソニン化、または他の代謝活性から保護するのに役立つ薬剤を含む。ステルス剤は、一般に、標的部位に到達するまで、ナノ治療薬を崩壊から保護する。例えば、チオール化ポリエチレングリコールはナノ粒子薬物を水和させ、その際に、細網内皮系(RES)によるその取り込みおよびクリアランスを防止する。
【0049】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、ステルス剤として、グリコール化合物、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)(当業者にはポリオキシエチレンまたはPOEとしても知られている)、より好ましくは誘導体化PEGを含む。本発明は誘導体化PEGを含む組成物を含み、PEGは、5000〜30000(ダルトン)MWである。誘導体化PEG化合物は、SunBio(韓国ソウル)などの供給源から市販されている。PEG化合物は、二官能性でも単官能性(メトキシ−PEG(mPEG)など)でもよい。線状および分枝状PEGの活性化誘導体は、様々な分子量で入手可能である。本明細書において使用される場合、「誘導体化PEG」または「PEG誘導体」という用語は、官能基、化学物質の付加、または他のPEG基の付加のいずれかによって線状分子からの枝分れを提供するように変化されているポリエチレングリコール分子を意味する。このような誘導体化PEGは、生物活性化合物との結合、ポリマーグラフトの調製、または分子の誘導体化により提供されるその他の機能のために使用することができる。
【0050】
PEG誘導体の1つの種類は、一方または両方の末端に第1級アミノ基を有するポリエチレングリコール分子である。好ましい分子は、一方の末端にアミノ基を有するメトキシPEGである。別の種類のPEG誘導体には、求電子的に活性化されたPEGが含まれる。これらのPEGは、PEGまたはメトキシPEG(mPEG)をタンパク質、リポソーム、可溶性および不溶性ポリマー、ならびに様々な分子に付着させるために使用される。求電子的に活性なPEG誘導体としては、PEGプロピオン酸のスクシンイミド、PEGブタン酸のスクシンイミド、ヒドロキシスクシンイミドまたはアルデヒドに付着した複数のPEG、mPEGダブルエステル(mPEG−CM−HBA−NHS)、mPEGベンゾトリアゾールカーボネート、およびmPEGプロピオンアルデヒド、niPEGアセトアルデヒドジエチルアセタールが挙げられる。
【0051】
誘導体化PEGの好ましい種類には、チオール誘導体化PEG、またはスルフヒドリル選択的PEGが含まれる。5000〜40000(ダルトン)mwの分子量範囲を有する分枝状、フォーク状または線状PEGをPEG骨格として使用することができる。好ましいチオール誘導体化PEGには、チオール基が結合され得るマレイミド官能基を有するPEGが含まれる。好ましいチオール−PEGは、メトキシ−PEG−マレイミドであり、PEG分子量は5000〜40000ダルトンである。
【0052】
誘導体化PEGとしてのヘテロ官能性PEGの使用も本発明によって意図される。PEGのヘテロ官能性誘導体は一般構造X−PEG−Yを有する。XおよびYが結合能力を提供する官能基である場合、多くの異なる実体がPEG分子のいずれかまたは両方の末端に結合することができる。例えば、ビニルスルホンまたはマレイミドはXであることが可能であり、NHSエステルはYであり得る。検出方法のためには、Xおよび/またはYは、蛍光分子、放射性分子、発光分子またはその他の検出可能な標識であり得る。ヘテロ官能性PEGまたは単官能性PEGは、PEG−ビオチン、PEG−抗体、PEG−抗原、PEG−受容体、PEG−酵素またはPEG−酵素基質などの結合対の一方のメンバーと結合するために使用することができる。またPEGは、PEG−リン脂質などの脂質に結合することができる。
【0053】
本発明におけるステルス剤として有用なペグ化剤の別の種類は、PolyPEG(登録商標)(Warwick Effect Polymers,Ltd.(英国コベントリー)である。PolyPEG(登録商標)は、治療用タンパク質、ペプチドおよび小分子への結合のための新規のペグ化剤である。PolyPEG(登録商標)は、メタクリル酸ポリマー骨格上にPEGの歯を有する櫛形ポリマーである。PolyPEG(登録商標)は、様々な分子量、PEG鎖長、および結合末端基を有する。PolyPEG(登録商標)の構造は、(1)櫛の長さを決定するメタクリル酸骨格と、(2)櫛の各歯上のPEGの量を決定するPEG鎖長と、(3)PolyPEG(登録商標)と標的生体分子の間の結合部位を決定する活性末端基とによって変化され得る。
【0054】
PolyPEG(登録商標)の櫛様のアーキテクチャは、時間とともに容易に排泄される小さい単位に分解する構造体の特性を利用することによって、PEG化への代替的アプローチを提供する。これは、より大きい分子量のPEG鎖の組織内の蓄積に関連する潜在的な毒物学的問題を回避しながら、高い総用量でのこれらの使用を可能にする。PolyPEG(登録商標)は、これらの循環中の存在を延長することによって生物学的分子の治療効果を高めるという点で従来のPEGに類似している。PolyPEG(登録商標)は、従来のPEGよりも、特定のペプチドの生物活性を大きく改善することができる。PolyPEG(登録商標)分子は、様々な治療分子のPEGのための特定の要求に合わせることができる。これらは、リジンもしくはシステイン残基、またはN−末端アミンにおけるペプチドおよびタンパク質への安定な部位特異的共有結合のための選択された結合基によって合成することができる。
【0055】
本発明のさらなる実施形態は、その他のPEG様の化合物を含むステルス剤を含み、例えば、チオール化ポリオキシプロピレンポリマー、チオール化ブロックコポリマー(ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレンブロックを含むトリブロックコポリマーであるPLURONICなど)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明において有用なPLURONICの例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない。
【化1】

【0056】
PLURONICブロックポリマーの分子量は、限定されないが、1000から100000ダルトンまで、より好ましくは2000〜40000ダルトンの間であり得る。
【0057】
ポリマーブロックは、触媒の存在下、高い温度および圧力におけるエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの縮合によって形成される。結合して各コポリマー中のポリマー鎖を形成するモノマー単位の数にはいくらかの統計的変動が存在する。与えられる分子量は各調製物中のコポリマー分子平均重量の概数であり、使用されるアッセイ方法論および較正基準に依存する。プロピレンオキシドおよびエチレンオキシドのブロックが必ずしも純粋である必要はないことは理解すべきである。全体の物理化学特性が実質的に変化されない限りは、少量のその他の材料を混合することができる。これらの製品の調製についてのより詳細な議論は、米国特許第2674619号明細書に見出される(参照によってその全体が本明細書に援用される)。(「A Review of Block Polymer Surfactants」、Schmolka I.R.、J.Am.Oil Chemist Soc.、54:110−116(1977年)および「Block and Graft Copolymerization」、第2巻、R.J.Ceresa編、John Wiley and Sons、New York、1976年も参照されたい。
【0058】
本発明には、好ましくはチオール基によって、官能基化されたポリオキシプロピレンポリマー(POP)が含まれる。PLURONICブロックポリマーの好ましい分子量は、2000〜40000ダルトンの間である。また、TETRONIC(PEO/PPOまたはPEOまたはPPO)コポリマー)、分枝状PEG、および開示されるブロックポリマーの種々の組み合わせを含む分枝状ポリマーも本発明に含まれる。コロイド表面とポリマーとの間にリンカー分子が使用されてもよいことは理解される。
【0059】
本発明のナノ治療法のために使用することができるさらに別のステルス剤は、以下の一般構造:
【化2】

を有するチオール化ポリ(ビニルピロリドン)ポリマー(PVP)を含む。
【0060】
Xは、ポリマーに付加されてチオール基のコロイド金属表面へのより優れた到達性を提供し得る任意のスペーサーアームの部位を示す。スペーサーアームは、以下の、プロピル基、アミノ酸、またはポリアミノ酸で構成され得るが、これらに限定されない。PVPポリマーの好ましい分子量は、およそ1000〜100000ダルトンの間であり、より好ましくは5000〜40000ダルトンの間である。
【0061】
本発明のために有用な別の可能なステルス剤は、rPEG(Amunix(カリフォルニア州マウンテンビュー))を含む。本明細書において使用される場合、rPEGは、通常、300〜600アミノ酸非構造化タンパク質の尾部を現存の医薬用タンパク質へ遺伝子融合することを通常含む、組換えPEG化技術を指す。rPEGのさらなる説明は、米国特許出願公開第2008/0039341A1号明細書(参照によってその全体が本明細書に援用される)において見出すことができる。
【0062】
代替の実施形態では、ナノ治療のために使用されるステルス剤は、HESポリマーとして一般に知られているポリマーを含み、これは、非イオン性デンプン誘導体のヒドロキシエチルデンプン(「HES」)であり、Fresenius Kabi,Inc.(独国バートホンブルグ、http://www.fresenius−kabi.com/)によって得ることができる。HESおよびHES誘導体は、誘導体化および/またはチオール化され、そしてコロイド金ナノ粒子に結合され得る。
【0063】
上記のステルス剤はいずれも、本発明のナノ治療組成物のためのこれらの使用に関連して、修飾、誘導体化(すなわち、チオール化)、アミノ化、または多アミノ化され得る。特定の実施形態では、ステルス剤は、金への結合を容易にするために単一の末端チオール基を有するポリマーを含むことが好ましいこともある。
【0064】
薬剤
本発明の薬剤は、任意の化合物、化学物質、治療薬、医薬品、薬物、生物学的因子、生物学的分子(抗体、タンパク質、脂質、核酸または炭水化物など)の断片、核酸、抗体、タンパク質、脂質、栄養物、補因子、栄養補助食品、麻酔薬、検出剤、または体内で効果がある薬剤であり得る。このような検出剤および治療薬ならびにこれらの活性は当業者に知られている。
【0065】
以下は、本発明において使用することができる薬剤のいくつかの非限定的な例である。本発明において使用することができる薬剤の1つの種類は、サイトカイン、成長因子、活性を有する大きい分子の断片、神経化学物質、および細胞通信分子を含むがこれらに限定されない生物学的因子を含む。このような薬剤の例としては、インターロイキン−1(「IL−1」)、インターロイキン−1β(「IL−1β」)、インターロイキン−2(「IL−2」)、インターロイキン−3(「IL−3」)、インターロイキン−4(「IL−4」)、インターロイキン−5(「IL−5」)、インターロイキン−6(「IL−6」)、インターロイキン−7(「IL−7」)、インターロイキン−8(「IL−8」)、インターロイキン−10(「IL−10」)、インターロイキン−11(「IL−11」)、インターロイキン−12(「IL−12」)、インターロイキン−13(「IL−13」)、インターロイキン−15(「IL−15」)、インターロイキン−16(「IL−16」)、インターロイキン−17(「IL−17」)、インターロイキン−18(「IL−18」)、I型インターフェロン、II型インターフェロン、腫瘍壊死因子(「TNFα」)、トランスフォーミング成長因子−α(「TGF−α」)、flT3、リンホトキシン、遊走阻止因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「CSF」)、単球マクロファージCSF、顆粒球CSF、血管上皮成長因子(「VEGF」)、アンジオゲニン、トランスフォーミング成長因子−β(「TGF−β」)、線維芽細胞成長因子、アンジオスタチン、エンドスタチン、GABA、およびアセチルコリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
別の種類の薬剤はホルモンを含む。このようなホルモンの例としては、成長ホルモン、インスリン、グルカゴン、副甲状腺ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、エストロゲン、テストステロン、ジヒドロテストステロン、エストラジオール、プロステロール(prosterol)、プロゲステロン、プロゲスチン、エストロン、その他の性ホルモン、ならびにホルモンの誘導体および類似体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
さらに別の種類の薬剤は医薬品を含む。本発明において任意の医薬品を使用することができる。例えば、ステロイドおよび非ステロイド抗炎症薬などの抗炎症薬、可溶性受容体、抗体、抗生物質、鎮痛薬、血管新生および抗血管新生薬、ならびにCOX−2阻害薬を本発明において使用することができる。化学療法剤は、本発明において特に重要である。このような薬剤の非限定的な例としては、タキソール、パクリタキセル、タキサン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、アシクロビル、シスプラチンおよびタクリンおよびこれらの類似体が挙げられる。
【0068】
免疫療法剤も本発明において特に重要である。免疫療法剤の非限定的な例としては、AZTおよび他の誘導体化または修飾されたヌクレオチドなどの、炎症薬、生物学的因子、免疫調節タンパク質、ならびに免疫療法薬が挙げられる。小分子も本発明において薬剤として使用することができる。
【0069】
別の種類の薬剤は、核酸に基づく物質を含む。このような材料の例としては、核酸、ヌクレオチド、DNA、RNA、tRNA、mRNA、センス核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、DNAザイム、タンパク質/核酸組成物、SNP、オリゴヌクレオチド、ベクター、ウイルス、プラスミド、トランスポゾン、および当業者に既知のその他の核酸構築物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
本発明において使用することができるその他の薬剤としては、リピドA、ホスホリパーゼA2、エンドトキシン、ブドウ球菌エンテロトキシンBおよびその他の毒素、熱ショックタンパク質、血液型の炭水化物部分、Rh因子、細胞表面受容体、抗体、癌細胞特異的抗原、例えば、MART、MAGE、BAGE、およびHSP(熱ショックタンパク質)など、放射性金属または分子、検出剤、酵素および酵素補因子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
特に重要なのは、隔離されたコロイド金属ベクターを視覚化または検出するために使用することができる染料または放射性物質などの検出剤である。蛍光、化学発光、感熱、不透明、ビーズ、磁性および振動材料も、本発明の組成物中のコロイド金属に会合または結合される検出可能な薬剤として使用するために意図される。
【0072】
薬剤、および本発明の処置方法によって影響を受ける生物体のその他の例は、以下の表において見出される。この表は、他の薬剤(以下の薬剤の薬学的等価物など)が本発明によって意図されるという点で限定的ではない。
【0073】
【表1】

【0074】
付加的な治療薬は、以下の種類の薬剤の1つまたは複数を含み得る:葉酸の代謝拮抗薬(限定されないが、例えばアミノプテリン、メトトレキセート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド)、プリン代謝拮抗薬(限定されないが、例えばクラドリビン、クロファラビン、フルダラビン、メルカプトプリン、ペントスタチン、チオグアニン)、ピリミジン代謝拮抗薬(限定されないが、例えばシタラビン、デシタビン、フルオロウラシル/カペシタビン、フロクスウリジン、ゲムシタビン、エノシタビン、サパシタビン)、アルキル化剤、限定されないが、例えば窒素マスタード(限定されないが、例えばクロランブシル、クロルメチン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ベンダムスチン、トロホスファミド、ウラムスチン)、ニトロソ尿素(限定されないが、例えばカルムスチン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、プレドニムスチン、ラニムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン)、白金アルキル化様薬剤(alkylating−like agent)(限定されないが、例えばカルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、四硝酸トリプラチン(Triplatin tetranitrate)、サトラプラチン)、スルホン酸アルキル(限定されないが、例えばブスルファン、マンノスルファン、トレオスルファン)、ヒドラジン(限定されないが、例えばプロカルバジン)、トリアゼン(限定されないが、例えばダカルバジン、テモゾロミド)、アジリジン(限定されないが、例えばカルボコン、チオテパ、トリアジコン、トリエチレンメラミン)、紡錘体毒/有糸分裂阻害薬、限定されないが、例えばタキサン(ドセタキセル、ラロタキセル、オルタタキセル、パクリタキセル、テセタキセル、イキサベピロンおよびエピチロン(epithilone)、ビンカアルカロイド(限定されないが、例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンフルニン、ビンデシン、ビノレルビン)、細胞毒性/抗腫瘍性抗生物質、限定されないが、例えばアントラサイクリン(限定されないが、例えばアクラルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、アムルビシン、ピラルビシン、バルルビシン、ゾルビシン)、アントラセンジオン(限定されないが、例えばミトキサントロン、ピクサントロン)、ストレプトミセス属(Streptomyces)に基づくもの、限定されないが、例えば(アクチノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシン、プリカマイシン)ヒドロキシ尿素、トポイソメラーゼ阻害薬(カンプトテカ属(Camptotheca)に関連、限定されないが、例えばカンプトテシン、トポテカン、イリノテカン、ルビテカン(Rubitecan)、ベロテカン(Belotecan))ポドフィルム(限定されないが、例えばエトポシド、テニポシド)、その他のもの(限定されないが、例えばアルトレタミン、アムサクリン、ベキサロテン、エストラムスチン、イロフルベン、トラベクテジン)、細胞に基づく治療薬(限定されないが、例えば受容体チロシンキナーゼなど(限定されない)に対するモノクローナル抗体、セツキシマブ、パニツムマブ、トラスツズマブ、CD20、限定されないが、例えばリツキシマブ、トシツモマブ、その他のもの、限定されないが、例えばアレムツズマブ、ベバシズマブ、エドレコロマブ、ゲムツズマブ、インフリキシマブ、バシリキシマブ、アブシキシマブ、ダクリズマブ、ゲムツズマブ、アレムツズマブ、リツキシマブ、パリビズマブ、トラスツズマブ、エタネルセプト、ヒト化抗体およびファージディスプレイ抗体、サイトカインならびに細胞表面および可溶性受容体に対する完全ヒトモノクローナル抗体、チロシンキナーゼ阻害薬、限定されないが、例えばアキシチニブ、ボスチニブ、セジラニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチニブ、ニロチニブ、セマキサニブ(Semaxanib)、ソラフェニブ、スニチニブ、バンデタニブ、サイクリン依存性キナーゼ阻害薬、限定されないが、例えばアルボシジブ(Alvocidib)、セリシクリブ(Seliciclib)、ホルモンに基づく治療薬、限定されないが例えば、デキサメタゾン、フィナステリド、タモキシフェン、抗アンドロゲンに基づくホルモン治療薬、送達系、限定されないが、例えばウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、偽型ウイルス、レンチウイルス、サル免疫不全ウイルス(エンベロープタンパク質、水疱性口内炎ウイルスからのG−タンパク質で被覆)、遺伝子治療薬を送達するように設計されたデンドリマー(サイトカイン(限定されないが、例えばGMCSF、IL−2、TNFα、IL−12、IFNβ)のための遺伝子を導入するように設計されたものなど)、化学増感剤(chemosensitizing agent)自殺遺伝子、限定されないが、例えばチミジンキナーゼ、p53、RNA、mRNAなどのセンスおよびアンチセンス治療薬(siRNAを含む)、その他の治療薬、限定されないが、例えば融合タンパク質(限定されないが、例えばアフリベルセプト、デニロイキンジフチトクス)、抗炎症性治療薬、光増感剤、限定されないが、例えばアミノレブリン酸/アミノレブリン酸メチル、エファプロキシラル、ポルフィリン誘導体(ポルフィマーナトリウム、タラポルフィン、テモポルフィン、ベルテポルフィン)、レチノイド(アリトレチノイン、トレチノイン)、アナグレリド、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ/ペガスパルガーゼ、アトラセンタン、ボルテゾミブ、カルモフール、セレコキシブ、デメコルチン、エレスクロモル、エルサミトルシン、エトグルシド、ロニダミン、ルカントン、マソプロコール、ミトブロニトール、ミトグアゾン、ミトタン、オブリメルセン、オマセタキシン、シチマジーンセラデノベック、テガフール、ストラクトン、チアゾフリン、ティピファニブ、およびボリノスタット。
【0075】
コロイド金ナノ粒子による結合プロドラッグ/不活性剤の安定化
推定上の医薬品成分プロドラッグの単なる結合が、循環中に分解から保護される概念が、本出願において記載される。次に、保護されたプロドラッグは、疾患(すなわち、固形腫瘍)の部位へのその送達中、保存される。疾患部位に到着すると、プロドラッグは、徐放性製剤に類似した活性薬物に持続的に転換される。
【0076】
プロドラッグの金表面への結合は、インビトロおよび循環中の両方において、プロドラッグの活性薬物への加水分解転換を防止する。そして、固形腫瘍内では、金粒子がプロドラッグの腫瘍への送達を増強するだけでなく、経時的な活性剤の生成も提供することが観察される。事実上、データは、金ナノ薬物が、標的化送達系としての機能だけでなく、徐放性製剤としての機能も果たすことと一致する。
【0077】
結合および送達
薬剤を金属ゾルに結合させるための一般的な方法は、以下の工程を含む。薬剤の溶液は、脱イオン水(diHO)などの緩衝液または溶媒中で形成される。適切な緩衝液または溶媒は、結合すべき薬剤に依存するであろう。所与の薬剤のために適切な緩衝液または溶媒の決定は、当業者の技能のレベル内である。最適な量の薬剤を金属ゾルに結合させるために必要なpHの決定は当業者に知られている。結合される薬剤の量は、ELISAまたは分光光度法などの、タンパク質、治療薬または検出剤の決定の定量的方法によって決定することができる。本発明において統合分子が使用される場合、結合pHおよび統合分子の飽和レベルも組成物の調製において考慮される。例えば、統合分子がストレプトアビジン−ビオチンなどの結合対のメンバーである場合、ストレプトアビジンまたはビオチンに対する結合pHが決定され、結合されるストレプトアビジンまたはビオチンの濃度も決定することができる。
【0078】
本発明の組成物の1つまたは複数の薬剤は、コロイド金属粒子に直接結合することもできるし、あるいは1つまたは複数の統合分子を介してコロイド金属に間接的に結合することもできる。本発明のコロイド金属ゾルを調製する1つの方法は、参照によって本明細書に援用されるHorisberger(1979)によって記載される方法を使用する。統合分子が使用される実施形態において、統合分子は金属ゾルと結合、混合または会合される。薬剤は、統合分子を金属と結合、混合または会合させる前に統合分子と結合、混合、または会合されてもよいし、あるいは統合分子を金属に結合した後で結合、混合または会合されてもよい。
【0079】
ベクター組成物が統合分子を含む場合、薬剤は、当該技術分野において知られている従来の方法によって、統合分子として機能するビオチンなどの結合対のメンバーに結合され得る。ビオチン化された薬剤は、次に、統合分子のストレプトアビジンを含むコロイド金組成物に付加され得る。ビオチンはストレプトアビジンに特異的に結合し、コロイド金と活性剤との間に間接的な結合を提供する。
【0080】
薬剤を金属ゾルに結合する1つの方法は以下の工程を含むが、明瞭にする目的のみで、この方法は、薬剤のTNFを金属ゾルのコロイド金へ結合することに関して開示される。コロイド金ゾル中の粒子と、タンパク質溶液TNFとの間の相互作用を可能にする装置を使用した。装置の概略図は図1に示される。この装置は、混合チャンバを小さい容積に減少させることによって、結合していないコロイド金粒子と、結合すべきタンパク質のTNFとの相互作用を最大にする。この装置は、大量の金ゾルと、大量のTNFとの相互作用が小さい容積のT型コネクタにおいて生じることを可能にする。対照的に、少量のタンパク質を大量のコロイド金粒子に添加することは、金粒子への均一なタンパク質結合を保証するために好ましい方法ではない。また、少量のコロイド金を大量のタンパク質に添加するという反対の方法も好ましい方法ではない。コロイド金粒子およびタンパク質TNFは、物理的に、コロイド金粒子およびTNFタンパク質を2つの大型リザーバーから引き出す単一のぜん動ポンプによってT型コネクタ内に押し込まれる。適切な混合をさらに保証するために、インラインミキサーがT型コネクタのすぐ下流に配置される。ミキサーはコロイド金粒子をTNFと激しく混合し、これらは両方とも、約1L/分の好ましい流速でコネクタを通って流れる。
【0081】
薬剤と混合する前に、金ゾルのpHは、1MのNaOHを用いてpH8〜9に調整される。高度に精製されて凍結乾燥された組換えヒトTNFが再構成され、3mMのTris中に希釈される。ゾルまたはTNFのいずれかをそのそれぞれのリザーバーに添加する前に、容器をT型コネクタへ接続する管がクランプで閉じられる。等量のコロイド金ゾルおよびTNF溶液が適切なリザーバーに添加される。溶液中の薬剤の好ましい濃度は、約0.01〜15μg/mlの範囲であり、薬剤対金属ゾル粒子の比率に応じて変えることができる。溶液中のTNFの好ましい濃度は、0.5〜4μg/mlの範囲であり、TNF−コロイド金組成物のためのTNFの最も好ましい濃度は0.5μg/mlである。
【0082】
溶液がそのそれぞれのリザーバーに適切に装填されたら、ぜん動ポンプがオンにされ、薬剤溶液およびコロイド金溶液はT型コネクタ内に引き出され、インラインミキサーを通り、ぜん動ポンプを通って、捕集フラスコ内に入る。混合された溶液は捕集フラスコ内でさらに1時間攪拌されて、インキュベーションされる。
【0083】
PEG(誘導体化されていてもいなくても)などのステルス剤を含む組成物において、このような組成物を製造するための方法は以下の工程を含むが、明瞭にする目的のみで、この方法は、PEGチオールを金属ゾル組成物に添加することに関して開示される。任意のPEG、誘導体化PEG組成物、または任意の大きさのPEG組成物、またはいくつかの異なるPEGを含む組成物は、以下の工程を用いて製造することができる。上記で教示された1時間のインキュベーションに続いて、チオール誘導体化ポリエチレングリコール(PEG)溶液がコロイド金/TNFゾルに添加される。本発明は、任意の誘導体基を有する任意の大きさのPEGの使用を意図するが、好ましい誘導体化PEGとしては、mPEG−OPSS/5000、チオール−PEG−チオール/3400、mPEG−チオール5000、およびmPEGチオール20000(Shearwater Polymers,Inc.)が挙げられる。好ましいPEGは、水中の150μg/mlの濃度のmPEG−チオール5000(pH5〜8)である。従って、10%v/vのPEG溶液がコロイド金−TNF溶液に添加される。金/TNF/PEG溶液は、さらに1時間インキュベートされる。
【0084】
コロイド金/TNF/PEG溶液は、次に、50K MWCOダイアフィルトレーションカートリッジによって限外ろ過される。50K残余分および透過液は、ELISAによってTNF濃度について測定され、金粒子に結合したTNFの量が決定される。
【0085】
本発明の組成物は、インビトロ系およびインビボ系で投与することができる。インビボ投与は、標的細胞への直接適用、または経口、直腸、経皮、眼、(硝子体内または前房内を含む)、経鼻、局所(頬側および舌下を含む)、膣または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、気管内、および硬膜外を含む)投与に適した製剤を含むがこれらに限定されないこのような投与経路を含むことができる。好ましい方法は、経口または注射経路によって本発明のベクターを含む有効量の組成物を投与することを含む。
【0086】
製剤は単位剤形において都合よく提供され、従来の製薬技術によって調製され得る。医薬製剤組成物は、金属ゾルベクターおよび医薬品キャリアまたは賦形剤に会合をもたらすことによって製造される。一般に、製剤は、組成物を液体キャリアもしくは微粉化固体キャリアまたはその両方と均一および密接に会合させ、次に必要であれば生成物を成形することによって調製される。
【0087】
本発明の組成物の好ましい使用方法は、ベクターを腫瘍に導くことを含む。好ましいベクター組成物は、腫瘍もしくは生物体における治療効果または腫瘍の検出のために腫瘍に送達するために、金属ゾル粒子、薬剤、およびステルス剤または誘導体化ステルス剤(すなわち、PEGまたは誘導体化PEG組成物)を含む。このようなベクター組成物は、さらに、標的および/または統合分子を含み得る。さらに他の好ましいベクター組成物は、腫瘍に放射治療を送達するために、金属ゾル粒子、放射性または細胞毒性の薬剤、およびPEGまたは誘導体化PEG組成物を含む。歴史的に、放射性コロイド金は、癌治療として、肝臓細胞によるコロイド金の予測される取り込みによって、主に肝臓癌の処置のために使用されていた。放射性コロイド金属粒子と組み合わせて誘導体化PEG、好ましくはPEGチオールを含む組成物は、腫瘍を処置または同定するために使用される。あるいは、コロイド金属に結合されるタンパク質に結合した放射性部分を含み、そしてさらに誘導体化PEG、好ましくはPEG−チオールを含む(放射性ベクターを形成する)ベクター組成物は、腫瘍を処置するために使用される。本発明の放射性ベクター組成物は静脈注射されて腫瘍に輸送され、肝臓によって有意に取り込まれない。両方の組成物において、PEGチオールが放射性治療を腫瘍に集中させる能力は処置効力を増大させるが、処置の副作用を低減すると考えられる。
【0088】
その他の好ましいベクター組成物は、腫瘍のインビボでの画像化および検出のために組成物を投与することを含む方法において使用するために、金属ゾル粒子およびPEG、好ましくはPEG誘導体を含む。組成物はさらに、検出および画像化方法に役立つ薬剤を含み得る。たとえば、薬剤としては、放射性、放射線感受性、もしくは反応性(光または熱反応性など)の化合物、化学発光または発光剤、または検出目的で使用される他の薬剤が挙げられるが、これらに限定されない。検出方法としては、NMR、MRI、CATまたはPETスキャン、目視検査、比色分析、放射検出法、分光光度法、およびタンパク質、核酸、多糖類または他の生物剤検出方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
本発明は、外来核酸または遺伝子材料を細胞内に送達するための方法において使用するための組成物を含む。外来遺伝子材料は、特定の細胞を認識することができる標的分子を用いて特定の細胞に導くか、あるいは、PEGまたは誘導体化PEGを含む組成物を用いて腫瘍に特異的に導くことができる。例えば、標的分子は細胞上の特異的受容体のための結合パートナーであり、結合した後、組成物全体は細胞内に取り込まれ得る。ベクター組成物の結合は、細胞内の二次メッセンジャー分子の活性化など、細胞の状態を変更する細胞メカニズムを活性化し得る。従って、異なる細胞型の混合物中では、外来核酸は選択された受容体を有する細胞に送達され、受容体を欠いている細胞は影響を受けない。
【0090】
本発明は、薬剤の挿入または薬剤の適用のために、インビトロまたはインビボにおける特定の細胞のトランスフェクションのための組成物および方法を含む。このような組成物の1つの実施形態は、コロイド金属に結合されるポリカチオン(非特異的結合−統合分子)に結合した核酸を含む。本発明の好ましい実施形態は、細胞の受容体仲介によるエンドサイトーシスを用いてトランスフェクションを達成する標的化遺伝子送達ベクターを形成するために、標的分子および核酸剤を結合させることができるプラットフォームとしてコロイド金を含む。さらに好ましい実施形態では、標的分子はサイトカインであり、薬剤はDNAまたはRNAなどの遺伝子材料である。この実施形態は、遺伝子材料が結合または会合されるポリカチオンなどの統合分子を含んでもよい。
【0091】
本発明において、方法は、トランスフェクションまたは治療効果のために、遺伝子送達ベクターの調製および標的化遺伝子送達ベクターの細胞への送達を含む。本発明では、組成物の核酸は内部移行されて検出剤としてまたは遺伝子治療効果のために使用されるか、あるいは核酸は細胞によって翻訳および発現され得ることが意図される。発現産物は当業者に知られている任意のものでよく、機能性タンパク質、細胞産物の産生、酵素活性、細胞産物の排出、細胞膜成分の産生、または核成分が含まれるが、これらに限定されない。標的細胞への送達方法は、細胞培養などによるインビトロ技法のために使用される方法、またはインビボ投与のために使用される方法のような方法であり得る。インビボ投与は、細胞への直接適用、またはヒト、動物、もしくは他の生物体のために使用されるような投与経路、好ましくは静脈内または経口投与を含み得る。また本発明は、本発明の組成物により改変された細胞、ならびにインビトロまたはインビボ方法におけるこのような細胞の他の細胞、組織または生物体への投与も意図する。
【0092】
本発明は、特定の免疫成分へ向けられる組成物を用いて、特定の免疫細胞の同時または逐次的な標的化によって免疫応答を増強し、ワクチン効力を増大させるための組成物および方法を含む。組成物は、免疫細胞の画像化または検出のための方法において使用することもできる。これらの方法は免疫系に作用することができるベクター組成物を含み、以下の成分、標的分子、薬剤、統合分子、1つまたは複数のタイプのステルス剤(すなわち、PEG)または誘導体化ステルス剤の少なくとも1つと会合されたコロイド金属が含まれる。組成物は、抗原提示細胞(APC)(マクロファージおよび樹状細胞など)、およびリンパ球(B細胞およびT細胞など)を含むがこれらに限定されない細胞などの特定の免疫成分を含むこともでき、これらは、1つまたは複数の成分特異的免疫刺激剤によって作用されているか、あるいは個々に作用される。
【0093】
成分特異的免疫刺激分子の例としては、インターロイキン−1(「IL−1」)、インターロイキン−2(「IL−2」)、インターロイキン−3(「IL−3」)、インターロイキン−4(「IL−4」)、インターロイキン−5(「IL−5」)、インターロイキン−6(「IL−6」)、インターロイキン−7(「IL−7」)、インターロイキン−8(「IL−8」)、インターロイキン−10(「IL−10」)、インターロイキン−11(「IL−11」)、インターロイキン−12(「IL−12」)、インターロイキン−13(「IL−13」)、リピドA、ホスホリパーゼA2、エンドトキシン、ブドウ球菌エンテロトキシンBおよび他の毒素、I型インターフェロン、II型インターフェロン、腫瘍壊死因子(「TNF−□」)、トランスフォーミング成長因子−β(「TGF−β」)リンホトキシン、遊走阻止因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「CSF」)、単球マクロファージCSF、顆粒球CSF、血管上皮成長因子(「VEGF」)、アンジオゲニン、トランスフォーミング成長因子(「TGF−□」)、熱ショックタンパク質、血液型の炭水化物部分、Rh因子、線維芽細胞成長因子、および他の炎症および免疫調節タンパク質、ヌクレオチド、DNA、RNA、mRNA、センス、アンチセンス、癌細胞特異的抗原、例えば、MART、MAGE、BAGEなど、flt3リガンド/受容体系、分子および受容体のB7ファミリー、CD40リガンド/受容体、免疫療法薬、例えば、AZTなど、ならびに血管新生および抗血管新生薬、例えば、アンジオスタチン、エンドスタチン、および塩基性線維芽細胞成長因子、または血管内皮成長因子(VEGF)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
特に好ましい実施形態は、成分特異的免疫刺激剤と組み合わせて特異的抗原を含む薬剤を含むベクター組成物を用いて、免疫応答の活性化のための方法を提供する。本明細書で使用される場合、成分特異的免疫刺激剤は、BまたはT細胞などの免疫系の成分に特異的であり、成分が免疫応答における活性を有するような影響を成分に与えることができる薬剤を意味する。成分特異的免疫刺激剤は、免疫系のいくつかの異なる成分に影響を与えることができてもよく、この能力は、本発明の方法および組成物において使用され得る。薬剤は天然に存在してもよいし、あるいは分子生物学的技法またはタンパク質受容体操作によって産生または改変されることもできる。
【0095】
免疫応答における成分の活性化は、免疫応答の他の成分の刺激または抑制をもたらし、疫系応答の全体の刺激または抑制を導くことができる。表現を容易にするために、本明細書では免疫成分の刺激が記載されているが、刺激、抑制、拒絶およびフィードバック活性を含むがこれらに限定されない免疫成分の全ての応答が、刺激という用語によって意図されることが理解される。
【0096】
影響される免疫成分は複数の活性を有し、抑制および刺激の両方、またはフィードバック機構の開始もしくは抑制を導くこともできる。本発明は、本明細書中で詳述される免疫学的応答の例によって限定されるべきでないが、免疫系の全ての態様における成分特異的効果を意図する。
【0097】
免疫系の成分のそれぞれの活性化は、同時、逐次、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。本発明の方法の1つの実施形態では、複数の成分特異的免疫刺激剤が同時に投与される。この方法では、免疫系は、成分特異的免疫刺激剤を含むベクター組成物をそれぞれが含有する複数の別個の調製物によって同時に刺激される。好ましくは、ベクター組成物は、コロイド金属に会合した成分特異的免疫刺激剤を含む。より好ましくは、組成物は、同一の大きさの粒子または種々の大きさの粒子のコロイド金属および抗原に会合した成分特異的免疫刺激剤を含む。最も好ましくは、組成物は、同一の大きさの粒子または種々の大きさの粒子のコロイド金属、抗原およびPEGまたはPEG誘導体に会合した成分特異的免疫刺激剤を含む。
【0098】
成分特異的免疫刺激剤は、個々の免疫成分に対して特異的な刺激性上方制御効果を提供する。例えば、インターロイキン−1□(IL−1□)は、マクロファージを特異的に刺激するが、TNF−□(腫瘍壊死因子α)およびFlt−3リガンドは樹状細胞を特異的に刺激する。熱殺菌マイコバクテリウム・ブチリカム(Mycobacterium butyricum)およびインターロイキン−6(IL−6)はB細胞の特異的な刺激因子であり、インターロイキン−2(IL−2)はT細胞の特異的な刺激因子である。このような成分特異的免疫刺激剤を含むベクター組成物は、それぞれ、マクロファージ、樹状細胞、B細胞およびT細胞の特異的な活性化を提供する。例えば、成分特異的免疫刺激剤IL−1□を含むベクター組成物が投与されると、マクロファージが活性化される。好ましい組成物は、コロイド金属と会合したIL−1□であり、最も好ましい組成物は、コロイド金属および抗原と会合して、その抗原に特異的なマクロファージ応答を提供するIL−1□である。ベクター組成物は、さらに、標的分子、統合分子、PEGまたは誘導体化PEGを含んでもよい。
【0099】
免疫応答の多くの要素は、抗原に対する有効な免疫応答のために必要であり得る。同時刺激方法の実施形態は、1)マクロファージに対するIL−1□、2)樹状細胞に対するTNF−αおよびFlt−3リガンド、3)B細胞に対するIL−6、および4)T細胞に対するIL−2を含む成分特異的免疫刺激剤の組成物の4つの別々の調製物を投与することである。それぞれの成分特異的免疫刺激剤ベクター組成物は、当業者に既知の任意の経路によって投与することができ、所望される免疫応答に応じて、全てが同じ経路を用いてもよいし、異なる経路を用いてもよい。
【0100】
本発明の方法および組成物の別の実施形態では、個々の免疫成分は順次活性化される。例えば、この逐次的な活性化は、2つの相、プライマー相および免疫化相に分けることができる。プライマー相は、APC、好ましくはマクロファージおよび樹状細胞を刺激することを含み、免疫化相は、リンパ球、好ましくはB細胞およびT細胞を刺激することを含む。2つの相のそれぞれにおいて、個々の免疫成分の活性化は、同時でも逐次的でもよい。逐次的な活性化のために、活性化の好ましい方法は、マクロファージの活性化を生じた後に、樹状細胞の活性化、次にB細胞の活性化、そしてその次にT細胞の活性化を生じるベクター組成物の投与である。最も好ましい方法は、マクロファージおよび樹状細胞の同時活性化を生じた後に、B細胞およびT細胞の同時活性化を生じるベクター組成物の投与を含む、複合型の逐次的活性化である。これは、免疫系のいくつかの経路を開始するための、複数の成分特異的免疫刺激剤の方法および組成物の一例である。
【0101】
本発明の方法および組成物は、任意の型のワクチンの有効性を増強するために使用することができる。本発明の方法は、活性化のために特異的な免疫成分を標的とすることによってワクチンの有効性を増強する。コロイド金属および抗原と会合した成分特異的免疫刺激剤を少なくとも含むベクター組成物は、抗原と特異的な免疫成分(マクロファージ、BまたはT細胞など)との間の接触を増大させるために使用される。ワクチンが現在利用可能である疾患の例としては、コレラ、ジフテリア、ヘモフィルス(Haemophilus)、A型肝炎、B型肝炎、インフルエンザ、麻疹、髄膜炎、流行性耳下腺炎、百日咳(pertussis)、天然痘、肺炎球菌性肺炎、ポリオ、狂犬病、風疹、破傷風、結核、腸チフス、水痘−帯状疱疹、百日咳(whooping cough)、および黄熱病が挙げられるがこれらに限定されない。
【0102】
所望の免疫応答を生じるために、抗原を免疫系に送達するための投与経路およびベクター組成物の組み合わせが使用される。また本発明は、免疫刺激性ベクター組成物の長期放出を提供し得るリポソーム、マイクロカプセル、またはミクロスフェアなどのパッケージング系の種々の組成物を含む方法および組成物も含む。これらのパッケージング系は、抗原を保持し、免疫系の活性化のために抗原をゆっくり放出するための内部貯蔵所として作用する。例えば、リポソームは、コロイド金属と結合または会合された抗原の薬剤および成分特異的免疫刺激剤を含むベクター組成物が充填され得る。さらなる組み合わせは、活性ワクチン候補であるウイルス粒子などの薬剤が埋め込まれるか、推定ワクチンのためのDNAを含有するためにパッケージングされたコロイド金粒子である。またベクターは、サイトカイン、統合分子およびPEG誘導体、HES(登録商標)、PolyPEG(登録商標)またはrPEGなどの1つまたは複数の標的分子も含むことができ、ベクターは次に、ウイルスを特定の細胞に導くために使用される。さらに、2つ以上の潜在的なワクチン候補を標的とする融合タンパク質ワクチンを使用して、2つ以上の感染性微生物に対する保護を提供するベクター組成物ワクチンを提供し得る。また組成物は、材料をゆっくりと放出し得るポリエチレングリコールの付加によって化学修飾された免疫原を含み得る。
【0103】
金属粒子、および1つまたは複数の抗原および1つまたは複数の成分特異的免疫刺激剤を含む薬剤、および1つまたは複数の統合および標的分子、およびステルス剤(すなわち、PEGまたはPEGの誘導体、またはHESまたはHESの誘導体、PolyPEG(登録商標)またはPolyPEG(登録商標)の誘導体、またはrPEGまたはrPEGの誘導体)を含む組成物は、リポソームまたは生分解性ポリマー内にパッケージングされ得る。ベクター組成物は、リポソームまたは生分解性ポリマーからゆっくり放出され、免疫系によって外来性として認識され、かつ成分特異的免疫刺激剤が方向付けられる特異的成分が、免疫系を活性化または抑制する。例えば、成分特異的免疫刺激剤の存在によって、免疫応答のカスケードがより急速に活性化され、免疫応答がより急速かつより特異的に生じる。
【0104】
本発明において意図されるその他の方法および組成物は、金属粒子ならびに抗原および成分特異的免疫刺激剤を含む薬剤の組成物の使用を含み、また統合および標的分子を含んでもよく、ここで、コロイド金属粒子は異なる大きさを有する。組成物はさらに、PEGまたはPEGの誘導体を含み得る。成分特異的免疫刺激剤の逐次的投与は、異なる大きさのコロイド金属粒子の使用によって、1用量の投与で達成され得る。1用量は複数の独立した成分特異的免疫刺激剤、抗原および異なる大きさまたは同じ大きさのコロイド金属粒子と会合され得る組み合わせを含む。従って、同時投与は免疫成分の逐次的な活性化を提供し、集団に対してより有効なワクチンおよびさらなる保護をもたらし得る。逐次的な活性化を有するこのような単一用量の投与のその他のタイプは、異なる大きさまたは同じ大きさのコロイド金属ベクター組成物、およびリポソームまたは生分解性ポリマーの組み合わせ、あるいは異なる大きさまたは同じ大きさのコロイド金属ベクター組成物が充填されたリポソームまたは生分解性ポリマーによって提供され得る。
【0105】
上記のようなワクチン接種系の使用は、1用量で投与され得るワクチンの提供において重要である。1用量の投与は、動物集団(家畜または動物の野生集団など)の処置において重要である。1用量の投与は、健康管理がほとんどなされていない集団(不十分な健康管理の貧困層、ホームレス、地方居住者または発展途上国の人々など)の処置において不可欠である。全ての国の多くの人々は、ワクチン接種などの予防タイプの健康管理を利用していない。結核などの感染症の再出現によって、1回だけ与えられても持続的に有効な保護を提供することができるワクチンに対する需要が高まっている。本発明の組成物および方法は、このような有効な保護を提供する。
【0106】
また、本発明の方法および組成物は、免疫応答の一部である成分を刺激または抑制することによって、免疫応答が生じる疾患を処置するために使用することもできる。このような疾患の例としては、アジソン病、アレルギー、アナフィラキシー、ブルトン(Bruton)症候群、癌(固形腫瘍および血液由来の腫瘍を含む)、湿疹、橋本甲状腺炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、I型糖尿病、後天性免疫不全症候群、移植片拒絶(腎臓、心臓、膵臓、肺、骨、および肝臓移植など)、グレーブス病、多腺性自己免疫疾患、肝炎、顕微鏡的多発性動脈炎、結節性多発性動脈炎、天疱瘡、原発性胆汁性肝硬変、悪性貧血、セリアック病、抗体媒介性腎炎、糸球体腎炎、リウマチ性疾患、全身性エリテマトーデス、関節リュウマチ、血清反応陰性脊椎関節炎(seronegative spondylarthritides)、鼻炎、シェーグレン症候群、全身性硬化症、硬化性胆管炎、ウェゲナー肉芽腫症、ヘルペス状皮膚炎、乾癬、白斑、多発性硬化症、脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、ランバート・イートン症候群、強膜、上強膜、ブドウ膜炎、慢性粘膜皮膚カンジダ症、じんま疹、乳児期の一過性低ガンマグロブリン血症、骨髄腫、X連鎖高IgM症候群、ウィスコット・アルドリッチ症候群、毛細血管拡張性運動失調証、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性好中球減少症、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、アミロイド症、慢性リンパ性白血病、および非ホジキンリンパ腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
本発明のベクター組成物は、成分特異的免疫刺激剤を含む薬剤を含む。組成物は、1つの成分特異的免疫刺激剤または複数の成分特異的免疫刺激剤を含み得る。ベクター組成物の好ましい実施形態は、コロイド金属と会合した成分特異的免疫刺激剤を含む薬剤を含む。より好ましい実施形態は、コロイド金属、および以下の、PEGまたはPEGの誘導体、またはHESまたはHESの誘導体、PolyPEG(登録商標)またはPolyPEG(登録商標)の誘導体、またはrPEGまたはrPEGの誘導体、成分特異的免疫刺激剤(抗原、受容体分子、核酸、医薬品、化学療法薬、およびキャリアを含むがこれらに限定されない)の効果を特異的に標的化するための統合分子および標的分子の少なくとも1つに会合した、1つまたは複数の抗原および成分特異的免疫刺激剤を含む薬剤を含む組成物を含む。本発明の組成物は、任意の方法で免疫成分に送達され得る。1つの実施形態では、抗原および成分特異的免疫刺激剤を含む薬剤は、コロイド金属粒子が抗原および免疫刺激剤の両方に会合するような形で、コロイド金属に結合される。
【0108】
本発明は、種々の異なる送達プラットフォームまたはキャリアの組み合わせにおける、抗原および成分特異的免疫刺激剤などの薬剤の提示を含む。例えば、好ましい実施形態は、リポソームまたは生分解性ポリマーキャリア内で抗原および成分特異的免疫刺激剤などの薬剤に結合した金属コロイド粒子を含むベクター組成物の投与を含む。さらなる組み合わせは、ワクチン抗原であるか、あるいはワクチンのための抗原を産生する核酸を含有する生存可能なウイルス粒子であるウイルス粒子などの薬剤と会合したコロイド金粒子である。またベクター組成物は、ウイルスを特定の細胞に導くために使用されるサイトカインまたは選択される結合対メンバーなどの標的分子を含むことができ、さらに、本明細書において教示される統合分子またはPEGまたはPEG誘導体INSERT LISTINGなどの他の要素を含む。このような実施形態は、長期の応答のために抗原を免疫系にゆっくり放出するワクチン調製物を提供する。このタイプのワクチンは、1回のワクチン投与のために特に有利である。リポソームおよびマイクロカプセルを含むがこれらに限定されない全てのタイプのキャリアが本発明において意図される。
【0109】
毒性の低減およびワクチン投与
本発明は、因子が通常の濃度よりも高い濃度で存在しているときにヒトまたは動物に対して毒性である因子を投与するための組成物および方法を含む。一般に、本発明に従う組成物は、通常の濃度よりも高い濃度で薬剤が見出されるとヒトまたは動物に対して毒性である薬剤と組み合わせたコロイド金属の混合物であるか、あるいは遮蔽された形態よりも高い活性が可能である遮蔽されていない形態であるか、あるいは通常は見られない部位において見出されるベクター組成物を含む。ベクター組成物がヒトまたは動物に投与されると、コロイド金属ベクター組成物なしに薬剤が単独で提供される場合よりも、薬剤はヒトまたは動物に対して有害度が低いか、あるいは毒性が低いか、あるいは非毒性である。組成物は、場合により、水溶液、または賦形剤、緩衝剤、抗原安定剤、または滅菌キャリアなどの薬学的に許容可能なキャリアを含む。また、パラフィン油などの油が、場合により、組成物中に含まれてもよい。ベクター組成物は、さらに、PEGまたはPEGの誘導体を含むことができる。さらに、ベクター組成物は、HES、PolyPEG(登録商標)、rPEG、またはHES、PolyPEG(登録商標)、rPEGの誘導体、例えば、HES、PolyPEG(登録商標)、rPEGのチオール化誘導体を含み得る。
【0110】
本発明の組成物は、注射されると毒性である薬剤に対してヒトまたは動物にワクチン接種するために使用することができる。さらに、本発明は、サイトカインまたは成長因子などの薬剤を含む組成物を投与することによって、サイトカインまたは成長因子で特定の疾患を処置するために使用することができる。薬剤をヒトまたは動物に投与する前に薬剤をコロイド金属と混合することによって、薬剤の毒性が低減または除去され、それにより、因子がその治療効果を発揮できるようになる。ベクター組成物中のコロイド金属とこのような薬剤との組み合わせは治療結果を維持または増大しながら毒性を低減し、それにより、より高濃度の薬剤が投与されるので、あるいは異なる薬剤の組み合わせの使用が可能になることによって、効力が改善される。従って、ベクター組成物中の薬剤と組み合わせてコロイド金属を使用すると、通常の濃度よりも高い濃度の薬剤の使用、あるいは通常はその毒性のためにヒトまたは動物に投与するために使用できない薬剤の投与が可能になる。好ましくは、ベクター組成物はさらに、1つまたは複数のタイプまたは大きさのPEGまたはPEGの誘導体、またはHESまたはHESの誘導体、PolyPEG(登録商標)またはPolyPEG(登録商標)の誘導体、またはrPEGまたはrPEGの誘導体を含む。
【0111】
本発明の1つの実施形態は、コロイド金属と会合した薬剤を含むベクター組成物を、ワクチン調製物として使用するための方法を含む。このようなワクチンの多数の利点の中には、通常は毒性の薬剤の毒性の低減がある。薬剤に対してワクチンとして使用されるベクター組成物は、任意の方法によって調製することができる。例えば、薬剤およびコロイド金属の混合物のベクター組成物は、好ましくは、適切な動物に注射される。例えば、約2〜5キログラムの体重のウサギは、コロイド金および薬剤、1mgのサイトカイン、IL−1またはIL−2のいずれかを含む組成物を2週間ごとに投与された後、顕著な副作用がなかった。薬剤は本発明に従って投与される場合には毒性でないので、抗原として機能できる最適な量の薬剤を動物に投与することができる。本発明に従うベクター組成物は単回用量で投与されてもよいし、あるいは適切な時間スケールにわたって間隔をあけて複数回用量で投与されてもよい。複数回用量は、二次免疫応答の発生において有用である。例えば、抗体価は、月に1回追加免疫を投与することによって維持される。
【0112】
ワクチン組成物はさらに、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、リポ多糖、モノホスホリルリピドA、ムラミルジペプチド、リピドAを含有するリポソーム、ミョウバン、ムラミルトリペプチド−ホスファチジルエタノールアミン、キーホールリンペットヘモシアニンを含むがこれらに限定されない薬学的に許容可能なアジュバントを含んでもよい。動物のために好ましいアジュバントはフロイント不完全アジュバントであり、ヒトのために好ましいのはミョウバンであり、好ましくは、コロイド金属および活性剤を含む組成物によって1:1で希釈される。
【0113】
本発明の組成物の好ましい使用方法は、少なくとも1つの薬剤と混合されたコロイド金属を含む有効な量のベクター組成物をヒトまたは動物に投与することを含み、ここで、組成物は、薬剤の単独またはコロイド金属を含まない組成物中での投与と比較した場合に、ヒトまたは動物に投与される際により低毒性であるかまたは非毒性であり、あるいは副作用がより少ないかまたはより軽い。本発明に従うベクター組成物は、通常は毒性の物質に対してワクチンとして投与することもできるし、あるいは通常は毒性の薬剤の毒性が低減された治療剤であることもでき、それにより、より長い期間にわたってより多量の薬剤の投与が可能になる。
【0114】
これらの実施形態の実施において、組成物が投与される経路は重要ではないと考えられる。本発明に従って組成物が投与され得る経路には、皮下、筋肉内、腹腔内、経口、および静脈内経路を含むがこれらに限定されない既知の投与経路が含まれる。好ましい投与経路は静脈内である。別の好ましい投与経路は筋肉内である。
【0115】
例えば、インターロイキン−2(IL−2)は腎臓癌の処置において有意な治療結果を示すことが知られている。しかしながら、IL−2の投与の毒性の副作用はかなりの数の患者の死をもたらす。対照的に、少なくともIL−2およびコロイド金属を含むベクター組成物が投与される場合、毒性はほとんどまたは全く観察されず、レシピエントにおいて強力な免疫応答が生じる。IL−2治療のためにこれまで使用された用量は、70kgのヒトについて1日あたり約21x10ユニットのIL−2(70kgのヒトについて1日3回、7x10ユニットのIL−2)であった。1ユニットは約50ピコグラムに等しく、2ユニットは約0.1ナノグラムに等しいので、20x10ユニットは1ミリグラムに等しい。本発明の1つの実施形態では、ウサギに与えたIL−2の量は、ウサギの体重3kgにつき約1mgである。実際には、本明細書に記載される薬剤の投与の効果の研究には、これまでヒトに与えられていた用量よりも20倍を超えて多い用量が含まれていた。
【0116】
IL−2(1mg/3kgの動物)を3日毎に2週間の間3匹のウサギに投与した別の実施形態では、動物は全て臨床的に病気であるように見え、動物のうちの2匹は、IL−2の明らかな毒性効果により死亡した。コロイド金を含むベクター組成物中で同じ用量のIL−2を使用し、同じく2週間の間3匹のウサギに投与した場合には、毒性は観察されず、3匹全ての動物において有意な抗体応答が得られた。本明細書中で使用される「陽性抗体応答」は、直接ELISAによって決定されるように、免疫化後の出血を予備免疫の出血と比較して、特異的抗体反応性の3〜4倍の増大として定義される。直接ELISAは、IL−2をマイクロタイタープレート上に結合させ、アルカリホスファターゼに結合したヤギ抗ウサギIgGによりプレート上のIL−2に結合したIgGの量を決定することによって行われる。従って、IL−2の生物学的効果が残存していると考えられる。毒性効果が最小限にされているので、より大きくより有効な免疫応答が必要とされる場合には、必要に応じてより高濃度のIL−2を投与することができる。
【0117】
本発明は、1つまたは複数の薬剤およびコロイド金属を含むベクター組成物を投与することによって疾患を処置するための方法を含む。ベクター組成物は、さらに、PEGまたはPEGの誘導体を含むことができる。投与の後、薬剤はコロイド金属から放出されると理論付けられる。いずれの理論によっても束縛されることは望まないが、放出は単に循環時間の関数でなく、平衡速度論によっても制御されると考えられる。
【0118】
コロイド金属および少なくとも1つの薬剤を少なくとも含むベクター組成物を細胞と共に25日間インキュベートしたときに、コロイド金属から薬剤のわずか5%しか放出されないことが観察された。従って、循環時間だけでは、薬剤がインビボで複合体から放出されるメカニズムを説明できないと理論付けられる。しかしながら、放出される薬剤の量は、部分的に、体内の複合体の濃度に関連することが分かっている。組成物の種々の希釈物を分析(CytELISATM assay system CytImmune Sciences,Inc.)したときに、複合体のより薄い溶液は、著しく多い量の薬剤を放出することが分かった。例えば、複合体の1:100希釈では薬剤は本質的に放出されなかったが、組成物の1:100,000希釈では、35000pgを超える薬剤が放出された。
【0119】
従って、より多量の溶液中で組成物の濃度が低くなるほど、より多量の薬剤が放出される。組成物の濃度が高くなるほど、より少量の薬剤が放出される。従って、血液および細胞外流体によるインビボでの組成物の連続的な希釈のために、これまでに知られている方法によって投与できる用量よりも低用量の薬剤を患者に投与することによって同じ治療効果を達成することが可能であると理論付けられる。
【0120】
また、本発明の組成物から放出される薬剤の量は、コロイド金属に最初に結合される薬剤の量に関連することも理論付けられる。より多量の薬剤が最初に結合されたベクター組成物からインビボでより多くの薬剤が放出される。従って、当業者は、コロイド金属に最初に結合される薬剤の量を変化させることによって、送達される薬剤の量を制御し得る。
【0121】
これらの合わせた特性は、多量の薬剤をコロイド金属に結合させることができる方法を提供し、それにより、単独で投与される場合よりも薬剤の毒性が低くされる。次に、少量のベクター組成物を患者に投与することができ、複合体からの薬剤のゆっくりとした放出が得られる。これらの方法は、癌および免疫疾患などの疾患の処置のためのより長期間にわたる低用量の薬剤を提供する。
【0122】
本発明の組成物は、癌、固形腫瘍および白血病などの血液由来の癌の両方、関節リュウマチなどの自己免疫疾患、骨粗鬆症などのホルモン欠損症、先端巨大症などの分泌過多に起因するホルモン異常、敗血症性ショックなどの感染症、酵素欠損症(例えば、フェニルケトン尿症を生じるフェニルアラニンの代謝の不能)などの遺伝子疾患、ならびにAIDSなどの免疫不全疾患を含むがこれらに限定されない複数の疾患の処置のために有用である。
【0123】
本発明の方法は、現在使用されている治療的処置レジメンに加えて、ベクター組成物の投与を含む。好ましい方法は、慢性および急性疾患の処置、特に癌の処置のための治療薬の投与と同時に、ベクター組成物の投与を含む。例えば、薬剤のTNFを含むベクター組成物は、抗血管新生タンパク質(エンドスタチンおよびアンジオスタチン、サリドマイド、タキソール、メルファラン、パクリタキセル、タキサン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、アシクロビル、シスプラチンおよびタクリンなど)などの既知の抗癌剤による化学療法的処置の前、最中、後に投与される。現在知られている癌の処置方法は全て、本発明において意図されており、ベクター組成物は、癌の有効な処置のために必要に応じて処置スケジュールの様々な時点で投与され得る。
【0124】
好ましい方法は、薬物耐性腫瘍、癌または新生物の処置を含む。これらの腫瘍は既知の抗癌薬および抗癌治療に対して耐性であり、このような薬剤の投薬量を増大させても、腫瘍の大きさまたは成長に対する効果はほとんどまたは全くない。このような薬物耐性腫瘍細胞のTNFへの曝露が、これらの化学療法の抗癌効果に対してこれらの細胞を再感作させるという観察は、癌処置において知られている。ドキソルビシンなどのトポイソメラーゼIIを標的とする挿入(intercalative)薬物と協同して、TNFがドキソルビシン腫瘍細胞死を回復させることを示す証拠が公表されている。また、インターフェロン(IFN)は5−フルオロウラシルと協同して、5−フルオロウラシルの化学療法活性を増大させることが知られている。本発明は、このような薬物耐性腫瘍を処置するために使用することができる。好ましい方法は、コロイド金に結合されたTNFおよび誘導体化PEGを有するベクターを含む組成物の投与を含む。無症状の用量のTNF−cAu−PTで患者を前処置することにより、腫瘍はTNFベクターを隔離して、次の全身性化学療法に対して細胞を感作させる。このような化学療法剤としては、ドキソルビシン、他の介在化学療法剤、タキソール、5−フルオロウラシル、ミタキサントロン(mitaxantrone)、VM−16、エトポシド、VM−26、テニポシド、および他の非介在化学療法剤が挙げられるがこれらに限定されない。あるいは、別の好ましい方法は、TNFおよび癌の処置に有効な少なくとも1つの他の薬剤を有するベクターを含む組成物の投与を含む。例えば、PT−cAU(TNF)ドキソルビシンベクターは、薬物耐性腫瘍または癌を有する患者に投与される。投与される量は、処置すべき腫瘍および患者の状態に依存する。ベクター組成物はより多量の化学療法剤の投与を可能にし、またベクターは腫瘍の薬物耐性特性も軽減する。
【0125】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明され、これらの実施例は、決してその範囲に制限を課すると解釈されてはならない。むしろ逆に、様々な他の実施形態、修正およびこれらの等価物を有し得る手段、そして本明細書の説明を読んだ後に、本発明の趣旨および/または添付の特許請求の範囲から逸脱することなくこれら自体を当業者に示唆し得る手段があり得ることは、明確に理解されるべきである。
【実施例】
【0126】
実施例1
コロイド金ゾルの調製
コロイド金は、クエン酸ナトリウムなどの薬剤によりクロロ金酸(Au+3、HAuCU)を中性金(Au)に還元することによって生成される。Horisberger (1979)によって記載される方法を適用して、34nmのコロイド金粒子を生成した。この方法は、コロイド金の生成のための簡単でスケーラブルな手順を提供した。簡単に言うと、4%の塩化金溶液(23.03%のストック、dmc、ニュージャージー州サウスプレーンフィールド)および1%のクエン酸ナトリウム溶液(wt/wt、J.T.Baker Company、ケンタッキー州パリス)を脱イオンHO(DIHO)中で作った。3.75mlの塩化金溶液を1.5LのDIHOに添加した。この溶液を激しく攪拌し、還流下でローリングボイル(rolling boil)させた。60mlのクエン酸ナトリウムの添加によって、34nmのコロイド金粒子の形成を開始させた。以下に記載されるように、粒子の形成および成長の全プロセスの間、溶液を連続的に沸騰させ、撹拌した。
【0127】
塩化金へのクエン酸ナトリウムの添加により、最初の塩化金溶液の色の変化を特徴とする一連の還元反応が開始した。クエン酸ナトリウムを添加すると、塩化金溶液の色は黄金色から黒/青の中間色に変化した。反応の完了は、青/黒色から鮮紅色へのゾルの最終的な色の変化によって示された。最終的な色の変化の後、溶液を還流下でさらに45分間連続的に撹拌し、沸騰させた。続いて、ゾルを室温まで冷却して、0.22□mの硝酸セルロースフィルターによりろ過し、使用するまで室温で保存した。
【0128】
コロイド金粒子の形成は、核形成および粒子成長の2段階で起こる。クエン酸ナトリウムによるAu+3からAuへの還元によって、粒子の核形成を開始させた。この工程は、鮮黄色から黒色への塩化金溶液の色変化によって特徴付けられる。遊離Au+3のAu核上への連続的な層形成によって第2段階の粒子成長が促進される。粒径は、塩化金溶液に添加されるクエン酸の量に反比例し、一定量の塩化金に対してクエン酸ナトリウムの量を増大させると、より小さい粒子の形成が起こり、金溶液に対して添加されるクエン酸の量を減少させると、比較的大きい粒子の形成が起こる。
【0129】
核形成反応と同様に、コロイド金粒子の形成も溶液の色の変化と相関している。しかしながら、最初の反応とは違って、この第2の色変化は粒径に直接的に関係する。小さい粒子(すなわち、12〜17nm)が作られる場合、ゾルは色がオレンジ〜赤であり、中間の大きさの粒子(すなわち、20〜40nm)が作られる場合、ゾルは色が赤〜ワイン色に見え、そして大きい粒子(すなわち、64〜97nm)が作られる場合、ゾルは色が紫〜茶色に見える。反応物の激しい撹拌は、粒子の核生成および成長の両方にとって重要であった。プロセス中のどの工程においても、不適切な攪拌は、予測した直径よりも大きい不均一な粒子の形成をもたらした。
【0130】
コロイド金調製物のTEM(透過型電子顕微鏡)およびデュアルアングル光散乱の照合によって、コロイド金調製物中の粒子の大きさが、その理論的な大きさの34nmに非常に近いことが明らかになった。粒子は、34〜36nmの平均粒径および平均して0.11の多分散性測定値を有する大きさで均一であった(表IV)。この状態で、コロイド金粒子は、それぞれの粒子の表面に存在する負の荷電によるその相互の静電反発力によって懸濁液内に留まった。塩溶液(すなわち、1%v/vの最終濃度のNaCl)へこれらの裸の粒子を曝露すると、粒子は凝集されて、最終的には溶液から沈殿された。タンパク質(例えば、TNF)または他の薬剤を粒子表面に結合させることによって、このプロセスを妨害または阻止した。
【0131】
実施例2
金属源
コロイド形成のための出発金反応物の供給源がコロイド金組成物に影響するかどうかを見るために、実験を実施した。塩化金は、2つの異なる商業的供給源:Degussa Metals Catalysts Cerdec(dmc)およびSigma Chemical Company(以下シグマ社)から購入した。両方の金調製物を、汚染金属および他の物質の存在について分析した。これらの研究からの結果は表IIに記載される。各調製物中の金濃度は報告された値の範囲内であったが、シグマ社製調製物がより高レベルのMg、CaおよびFeを含有することは明らかである。
【0132】
【表2】

【0133】
粒子のTEMによって、シグマ社製およびdmc社製からの異なる塩化金源で製造された粒子の間のさらなる差異が明らかになった。コロイド金ゾルを上記のように製造し、TEMを使用して観察した。冷却後、10mlのゾルを遠心分離して、粒子を濃縮した。得られた上澄みを吸引によって除去し、穏やかな粉砕によってコロイド金ペレットを再懸濁した。標準的手順に従って、ペレットを透過型電子顕微鏡のために調製した。
【0134】
シグマ社製塩化金で製造した粒子は半透明であり、明白な条線を有する。条線は、上記で同定されたものなどの微量の汚染物の存在によるものであると報告されている。対照的に、dmc塩化金で製造した粒子は電子密度が高く、条線が非常に少ない。
【0135】
実施例3
シグマ社製およびdmc社製の塩化金を用いたコロイド金ゾルの生成
上記のデータは、dmc社製の塩化金が、より低いレベルの汚染元素を含有することを示唆した。これら2つの定性的に異なる塩化金源の効果を決定するために、2つの異なる塩の源を用いてコロイド金ゾルを生成した。コロイド金粒子を形成するための手順は、Horisbergerによって最初に記載され、実施例1に記載された手順に従う。簡単に言うと、dmc社製およびシグマ社製ストック調製物から4%の塩化金の(水)溶液を作った。3.75mlの各溶液を、1.5Lの水をそれぞれが含有する個々のフラスコへ添加した。溶液をローリングボイルさせ、還流下で沸騰を続け、そして激しく攪拌した。22.5mlの1%クエン酸ナトリウム溶液を各フラスコへ添加した。十分に記載されたコロイド金の形成のプロセスが完了する(金から黒、鮮紅色への色の変化によって示される)まで、両フラスコ中の溶液を沸騰させ続けた。ゾルが鮮紅色に変化したら、一様に攪拌しながらさらに45分間、還流下で沸騰させた。冷却後、0.22□mのニトロセルロースフィルターによりゾルをろ過し、使用するまで室温で保存した。
【0136】
2つのゾルの定性的な比較は、標準的な実験室の分光光度計を用いてUV/VIS波長スキャンで作動させて行った。結果は、ゾルが最大吸光度を示す波長によって示されるように、ゾルの2つのバッチが同様の平均直径を有するコロイド金粒子を含有することを明らかにした。しかしながら、2つの調製物の間の最も顕著な相違は、dmc社製材料で製造したゾルがシグマ社製材料で製造したゾルの3倍の粒子数を有することであった。さらに、dmc社製調製物よりもシグマ社製調製物のほうが最大λの周囲の分布が広いことが明らかになり、Sigma塩を用いて生成された粒子が、dmc社製塩化金を用いて生成された粒子よりも不均一であることが示された。
【0137】
実施例4
コロイド金ゾルの分析的比較
Brookhaven Particle Sizerを用いる定量的な粒子のキャラクタリゼーションよって、上記の定性的な相違を確認した。これらの研究について、製造業者の指示書に従って、各金源からの粒子のサンプルを調製した。データは以下の表IIおよび表IIIに示される。このデータによって、両調製物中の粒子はほぼ同じ大きさ(34〜37nm)であることが確認された。それにもかかわらず、dmc社製材料で製造したゾルは、シグマ社製材料で製造したゾルよりも3倍高い粒子密度を有する。さらに、シグマ社製塩化金調製物で製造した粒子は、dmc社製材料で製造した粒子よりも2.5倍不均一である(すなわち、その多分散性についてより大きな値を有する)(表IV)。
【0138】
【表3】

【0139】
【表4】

【0140】
実施例5
最適結合pHの決定
タンパク質のコロイド金への結合は、コロイド金およびタンパク質溶液のpHに依存することが知られている。TNFのコロイド金ゾルへの最適結合pHを経験的に決定した。この最適pHは、TNFのコロイド金粒子への結合を可能にするが、塩誘発性(NaClによる)の粒子の沈殿を妨害するpHであると定義した。裸のコロイド金粒子は、表面の正味の負電荷によって生じるその相互の静電反発力によって懸濁液中に保持される。塩溶液中に存在するカチオンは、通常は互いに反発する負に荷電したコロイド金粒子を引き付ける。この凝集/沈殿は、赤から紫(粒子が引き付けられたとき)、そして最終的には、粒子が最終的に溶液から析出する大きな凝集物を形成した場合の黒色への、コロイド金溶液の目に見える色の変化によって示される。タンパク質または他の安定剤の粒子表面への結合は、コロイド金粒子のこの塩誘発性の沈殿を妨害し得る。
【0141】
TNFのコロイド金への結合の最適pHは、1NのNaOHによりそのpHをpH5〜11(pH片を用いて決定)に調整した2mlのアリコートの34nmのコロイド金ゾルを用いて決定した。TNF(Knoll Pharmaceuticals、均一になるまで精製)をdiHO中で1mg/mlの濃度に再構成し、さらに3mMのTRIS塩基中で100μg/mlまで希釈した。TNFの最適結合pHを決定するために、l00μlの100μg/mlのTNFストックを、pH調整されたコロイド金の種々のアリコートに添加した。TNFをコロイドと共に15分間インキュベートした。続いて、100μlの10%NaCl溶液を各アリコートに添加し、粒子の沈殿を誘発した。最適結合pHは、TNFをコロイド金粒子に結合させるが、塩による粒子の沈殿は防止されるpHであると定義した。
【0142】
実施例6
飽和結合研究
pH結合研究から得られたデータに基づいて、1NのNaOHを用いて34nmのコロイド金ゾルのpHをpH8に調整した。ゾルを1mlのアリコートに分割し、これに、増加する量(0.5〜4μgのTNF)の100μgのTNF/ml溶液を添加した。15分間結合させた後、7500rpmで15分間サンプルを遠心分離した。上澄みの10μlのサンプルを、990μlのEIAアッセイ希釈剤(TNF測定のための市販のEIAキットの一部として提供される、CytImmune Sciences,Inc.、メリーランド州ロックビル)に添加した。上澄みの残りを吸引によって除去し、コロイド金ペレットをPEG1450/diHO溶液(pH8)中でその最初の体積に再懸濁した。10μlの再懸濁ペレットを990μlのEIAアッセイ希釈剤に添加した。再構成ペレットおよび上澄み溶液を連続的に希釈し、市販の定量的EIA(CytImmune Sciences,Inc、メリーランド州ロックビル)によってTNF濃度について分析した。
【0143】
pH結合研究からのデータを用いて、50mlのコロイド金のpHを8.0〜9.0の間に調整した。このpHにおいて、TNFの一定体積のコロイド金への結合は飽和速度論を示した(図2)。図2に示されるように、0.5μgのTNF/mlの金ゾルでは、実質的に全てのTNFがコロイド金粒子に結合され、上澄み中にはわずかな量(2〜5%)が遊離TNFとして存在した。このコロイド金−TNF複合体は塩の存在下で沈殿し、この濃度のTNFは、コロイド金粒子を十分にコーティングせず、TNFの飽和用量未満であることが示された。TNF濃度を増大することによって、コロイド金粒子に結合されたTNFの量は次第に増大し、上澄み中に測定される遊離TNFの量は比較的あまり変化しなかった。粒子結合TNFのこの増大は、塩誘発性の沈殿に対する粒子の安定性の増大に相応した。TNFによるコロイド金粒子の飽和は、粒子の表面上の全ての結合部位がTNFにより結合されたときに生じた。コロイド金粒子の飽和は4μg/mlの結合濃度で生じた(図2)。4μg/mlを超える用量での結合は、上澄み中で測定される遊離TNFの量の増大をもたらした。
【0144】
図2には、TNFのコロイド金への飽和結合が示される。50mlの34nmのコロイド金ゾルのpHを、1 NaOHを用いて8に調整し、次に、1mlのアリコートに分割した。増加する体積のストックTNF(3mMのTRIS中、100μg/ml)溶液をアリコートに添加し、15分間結合させた。サンプルを7500rpmで15分間遠心分離した。Tris緩衝化生理食塩水ミルク溶液(アッセイ希釈剤)中に、10□lの上澄みのサンプルを希釈した。上澄みの残りを吸引により除去し、穏やかな粉砕によってコロイド金ペレットを再懸濁した。10μlの再懸濁ペレットをアッセイ希釈剤に希釈した。ペレットおよび上澄みサンプルの両方を連続的に希釈し、EIA(CytImmune Sciences,Inc.)によってTNF濃度を測定した。
【0145】
実施例7
種々のコロイド金ベクターのラージスケール製造
コロイド金−TNF粒子(ベクターとも呼ばれる)のインビボ評価は、全ての製造手順のスケールアップを必要とした。コロイド金の大型(8L)バッチを上記のように製造した。コロイド金ゾルの製造手順は、8Lのコロイド金の製造に適合させた。還流装置(Kontes Glass、ニュージャージー州バインランド)を用いて、インビボの実験のために8Lのコロイド金を生成した。簡単に言うと、8LのdiHOをローリングボイルまで加熱した。1つのポートを介して20mlの塩化金を添加した後、320mlのクエン酸ナトリウムを添加した。得られたゾルの色変化は、より少ない調製物で見られたものと同一であった。鮮紅色に達したら、ゾルを一晩冷却させ、次に上記のように滅菌ろ過した。
【0146】
ラージスケール量を用いて製造した粒子は、ベンチスケール法を用いて製造した粒子と本質的に同一であった。表Vを参照されたい。
【0147】
【表5】

【0148】
次に、コロイド粒子の均一なコーティングを達成しなければならなかった。コロイド金粒子とTNF分子との間の結合はほとんど瞬間的であることが分析により実証されたので、これは重要な検討事項であった。従って、濃縮したタンパク質溶液を大量の金に単に添加すると、TNFにより異なって被覆された粒子が生じ得る。粒子とTNF分子との相互作用を最適化するために、コロイド金ゾルとTNF溶液との間の完全な相互作用を可能にする装置を使用した。装置の概略図は図1に示される。装置は、各成分を小さい混合チャンバ(T型コネクタ)内に引き出すことによって、裸のコロイド金粒子とTNFとの間の混合体積を減少させた。コロイド金粒子およびTNF溶液は、コロイド金粒子およびTNFタンパク質を2つの大型リザーバーから引き出す単一のぜん動ポンプによってT型コネクタ内に物理的に引き出した。適切な混合をさらに保証するために、インラインミキサー(Cole−Palmer Instrument Co.、イリノイ州バーノンヒルズ)をT型コネクタのすぐ下流に配置した。ミキサーはコロイド金粒子をTNFと激しく混合し、これらは両方とも、約1L/分の流速でコネクタを通って流動した。
【0149】
混合の前に、1NのNaOHを用いて金ゾルのpHをpH8に調整し、組換えヒトTNFを3mMのTris中で再構成および調製した。滅菌した閉鎖管系を用いて溶液をそのそれぞれの滅菌リザーバーに添加した。等量のコロイド金ゾルおよびTNF溶液を適切なリザーバーに添加した。金およびTNF溶液は等量で混合したので、各試験ベクターの開始TNF濃度は、最終濃度の2倍であった。例えば、4Lの0.5μg/mlのcAu−TNF溶液を作るために、2Lのコロイド金を金リザーバーに入れ、2Lの1μg/mlTNF溶液をTNF容器に添加した。
【0150】
溶液をそのリザーバーに適切に装填したら、ぜん動ポンプを作動させ、TNFおよびコロイド金溶液をT型コネクタ内に引き出し、インラインミキサーを通り、ぜん動ポンプを通って、大型捕集フラスコ内に入れた。得られた混合物を捕集フラスコ内で15分間攪拌した。この結合工程の後、配合物のそれぞれから1mlのサンプルを採取し、塩の沈殿について試験した。1.0μg/mlおよび4.0μg/mlの調製物を以下に記載されるように処理し、第3の溶液、第2の0.5μg/ml調製物は、mPEG−チオール5000(diHO中の150□g/mlストックの10%v/v添加)を15□g/mlの最終濃度で添加することによって処理した。この第3の溶液、PEG−チオール−コロイド金−TNF(PT−cAu−TNF)溶液をさらに15分間インキュベートした。2つのその他のPT−cAu−TNF配合物は、PEG−チオールの20000および30000MW形態を用いて作った。これらの研究の間、PEG−チオール/裸コロイド金または4□g/mlのcAu−TNFベクターを含む比較のために付加的な対照を試験した。
【0151】
50000MWCO BIOMAXダイアフィルトレーションカートリッジ(Millipore Corporation、イリノイ州シカゴ)によるダイアフィルトレーションによって、各調製物中のコロイド金結合TNFを遊離TNFから分離した。透過液(すなわち、遊離TNF)のアリコートを除去し、TNF決定のために取り置いた。質量バランスの決定のために、透過液の総体積を測定した。TNF結合コロイド金を含有する残余分を0.22ミクロンのフィルタにより滅菌ろ過し、TNF分析のために10□lのアリコートを採取した。残余分の残りを保存のために−80℃で凍結した。TNF濃度の決定に続いて、天然型TNFの溶液を3mMのTris中で製造し、インビボ研究のための対照として使用した。
【0152】
実施例8
コロイド金TNFベクターの初期配合物
このシリーズの実験は、コロイド金TNFベクターのインビボ生物活性に対する種々のTNF:コロイド金の結合比の効果を決定するために設計した。TNF結合対コロイド金飽和曲線から得られたデータに基づいて、コロイド金TNFベクターの3つの異なる配合物を製造した。1、2または4μgのTNF/mlのコロイド金溶液でTNFを結合させることによって3つのベクターを生成させた。これらの3つのベクターは、塩の添加後にコロイドであり続ける能力が異なった。塩溶液を添加すると、1μg/mlのベクターは即座に沈殿した(すなわち、コロイドの色が鮮紅色から黒色に変化した)。対照的に、2μg/mlベクターの色は赤から紫色に変化し、コロイド金粒子の凝集が示された。最後に、4μg/ml調製物は塩の添加後も赤色のままであり、粒子がコロイドのままであり、相互作用しないことが示された。1および2μg/mlベクター中の粒子のコロイド性質は、その塩への曝露によって変化されたが、正常なヒト血漿とインキュベートしたときにこれらは安定なままであった。これらのデータによって、血漿因子(可能性が最も高いのは、血液由来のタンパク質)は粒子に結合し、これを沈殿に対して即座に安定化することが示唆された。従って、これらのベクターを血液にさらすと、その沈殿が防止され、そのインビボでの調査が可能になる。
【0153】
3つのcAu−TNFベクターおよび天然型TNFの比較安全性の研究は、MC−38腫瘍負荷C57/BL6マウスにおいて行った。天然型TNFの毒性プロファイルは用量依存性であった。5μgの天然型TNF/マウスは、注射の1〜2時間以内に、立毛および下痢を引き起こした。天然型TNFの用量を増大させると、より深刻な毒性が観測された。15マイクログラムのTNF/マウスの用量では、動物の50%が低体温および無応答になり、そして最終的には、24時間以内に死亡した。以下の毒性評点スケール:0=正常な活動、1=立毛、2=軟便、3=嗜眠、4=無応答、および5=死亡を用いて、注射後の異なる時点でマウスをスコア化した。
【0154】
インビトロ生物検定法ではこれらの3つのcAu−TNFベクターは天然型TNF調製物と生物学的に類似しているが、C57/BL6−MC−38腫瘍モデルにおいて、その毒性プロファイルは全く異なっていた。TNFの初期結合濃度を1.0から4.0μg/mlに増大させると、cAu−TNFベクターの相対安全性が増大された(図3A)。15μgの天然型TNFを注射したマウスは、50%の死亡率を有した。1.0μg/mlのcAu−TNFベクターの15μgの注射も、50%の死亡率を生じた。対照的に、2.0μg/mlで結合した15μgのcAu−TNFを受けたマウスは、25%の低下した死亡率を有した。最後に、15μgの4.0μg/mlのcAu−TNF調製物を注射したマウスはいずれも死亡しなかった。この最後の動物群は一時的な毒性だけを示し、これは、処置の8時間以内に消失した。
【0155】
図3Aは、cAu−TNFベクターの安全性に対するTNF:金結合比の効果を示す。コロイド金粒子の相対的なTNF飽和度に基づいて、3つの異なるコロイド金TNFベクターを生成した。MC−38腫瘍負荷C57/BL6マウス(n=4/群)に、15μgの天然型TNF(金ベクターに結合していない)、または3つのcAu−TNFベクターのいずれかを静脈注射した。記載した毒性評点スケールを用いて、注射後の種々の時点でマウスをスコア化した。処置に対する生存パーセントは、天然型TNF=50%、1μg/mlのcAu−TNFベクター=25%、2□g/mlのcAu−TNFベクター=75%および4□g/mlのcAu−TNFベクター=100%であった。
【0156】
4.0μg/mlのcAu−TNFベクターを用いる第2の用量上昇および安全性研究は、天然型TNFと比較したときに用量対用量ベースでこの組成物がより安全であることを示した(図3B)。マウス1匹あたり12マイクログラムまたは24マイクログラムのこのcAu−TNFベクターによる処置は、顕著な腫瘍の減少を生じた(図3C)。実際に、このcAu−TNFベクターは、任意の所与の用量のTNFの相対安全性を増大し、最大許容用量は処置効力を改善した。これらの安全性および効力データは、その安全性を改善しながら薬物の効力が保持されるので、このcAu−TNFベクターがTNFの治療指数を有効に増大させることを示唆した。
【0157】
図3Bは、MC−38腫瘍負荷C57/BL6マウスにおける天然型TNFおよび4μg/mlのcAu−TNF用量上昇および毒性を示す。MC−38腫瘍化C57/BL6マウス(n=4/群/用量)に、増大する用量の天然型TNFまたは4μg/mlのcAu−TNFベクターを静脈注射した。記載した毒性評点スケールを用いてマウスをスコア化した。6、12、および24μg/マウスにおける天然型TNF処置を生き延びた動物のパーセントは、それぞれ100%、75%および0%であった。cAu−TNF処置を受けた動物は全て生き残った。p≦0.05。
【0158】
図3Cは、MC−38腫瘍負荷C57/BL6マウスにおける天然型TNFおよび4μg/mlのcAu−TNFベクター抗腫瘍効力の比較を示す。図3Bに記載される種々の処置群の抗腫瘍応答は、処置の10日後に3つの寸法(LxWxH)の腫瘍測定値を決定することによって測定した。データは、種々の群について腫瘍体積の平均±SEM(cm)で示される。24μgの天然型TNF処置を受けた動物は全て、処置の24時間以内に死亡した。p≦0.05(未処置対照に対して)。
【0159】
これらのデータはcAu−TNFベクターのための好ましい組成を強く示唆し、次にこれを、その体内分布について試験した。時間が経つと、天然型TNFで処置した動物と、cAu−TNFで処置した動物との間のTNFの体内分布は異なった。注射の1時間後、天然型TNFを受けたマウスは、cAu−TNF処置マウスと比較して、腎臓中により高レベルのTNFを有した(図3D)。対照的に、注射の8時間後には、コロイド金配合物を受けたマウスは、腫瘍中により高レベルのTNFを有した(図3E)。従って、cAu−TNFベクターは、TNFの腫瘍への送達を標的化することによって安全性を改善し、効力を保持しているようであった。
【0160】
図3Dおよび3Eは、15μgの天然型TNFまたは4μg/mlのcAu−TNFベクターが静脈注射されたMC−38腫瘍負荷C57/BL6マウスにおけるTNF分布プロファイルの比較を示す。MC−38腫瘍負荷C57/BL6マウス(n=4/群/処置/時点)に、15μgの天然型TNFまたは4μg/mlのcAu−TNFベクターを静脈注射した。注射の1時間(図3D)または8時間(図3E)後に動物群を屠殺し、器官を採取した。器官を−80℃で急速凍結し、分析するまで保存した。1mlのPBS(1mg/mlのバシトラシンおよびPMSFを含有する)を添加することにより器官を急速解凍し、ポリトロン組織破壊機を用いてホモジナイズした。ホモジネートを5000rpmsで遠心分離し、上記のように、得られた上澄みをTNF濃度および総タンパク質について分析した。データは、1時点あたり4つの器官の平均±SEMで示される。
【0161】
動物の剖検は、このcAu−TNFベクターに関する潜在的な問題を明らかにした。cAu−TNFベクター処置マウスの肝臓および脾臓の劇的な黒色は、改善された安全性の一部が、これらの器官におけるベクターの取り込みおよびクリアランスによるものであり得ることの証拠となった。更なる研究によって、この取り込みが急速で、多くの場合、静脈注射の5分以内に生じることが明らかになった。これらの器官の目視検査は、これらの器官の黒色が、裸コロイド金粒子が塩にさらされたときに形成される黒色沈殿物と同じであることを示唆した。また、器官を採取する前に動物をヘパリン処置し、広範に潅流したので、これらの器官の黒色がこれらの器官内に捕捉された血液によるものであるとは考えにくい。これらのデータにより、ベクターの大部分がRESの成分によって迅速に除去され、cAu−TNFベクターが最適化されないという結果を導くことが示唆された。
【0162】
この仮説を支持するさらなる証拠は、天然型TNFと2つのcAu−TNFベクターとの間のTNFレベルを比較する薬物動態学的な研究から得られた。予測に反して、4μg/mlのcAu−TNFベクターの投与は、天然型TNFよりも低い初期血清レベルを生じた(図3F)。cAu−TNFベクターを与えたマウスのTNFレベルは、天然型TNFを受けた動物において測定されたよりも一貫して2〜5倍低かった。PKにおけるこの相違は、0.5μg/mlのcAu−TNFベクターを用いるとより顕著であり、TNFの血清レベルは、天然型調製物で見られるよりもほぼ10倍低かった。cAu−TNFベクターを受けたマウスは、配合(すなわち、0.5または4.0μg/ml)に関係なく、天然型タンパク質を受けたマウスよりも低いTNFの血液レベルを一貫して示した。まとめると、ベクターの体内分布およびPKデータは、このベクターが腫瘍を効果的に標的化するためには、RESによる取り込みが著しく低減または除去されることが必要であることの証拠となった。
【0163】
図3Fは、MC38−腫瘍負荷C57/BL6マウスにおける天然型TNFまたは4μg/mlのcAu−TNFベクターの薬物動態学的プロファイルの比較を示す。MC−38腫瘍負荷マウス(n=3/群/時点)に、10μgの天然型TNFまたは4μg/mlのcAu−TNFベクターのいずれかを静脈注射した。示された時点で、マウスに麻酔をして、眼窩後方の洞から採血した。血液サンプルを凝固させ、14,000rpmで遠心分離した。TNFのための市販のEIAを用いて、得られた血清サンプルをTNF濃度について分析した。データは、1時点あたり3匹のマウスからの平均±SEM血清濃度で示される。p<0.05。
【0164】
実施例9
RESによるクリアランスを回避し、固形腫瘍へのTNFの送達を標的化するためのベクター
RESによる外来の対象物の認識およびクリアランスは、他の薬剤キャリアと共に見られている。リポソームおよび生分解性ポリマーについて、この問題は、様々なPEG安定剤、ならびにポラキサマーおよびポラキサミンなどのブロックコポリマーを用いた表面改変よって対処された。リポソ−ム配合物中で使用されたもの(例えば、カーボワックス20M、テトロニック407、プルロニック908)を含む複数の安定剤を4.0μg/mlのcAu−TNFベクターに添加した。試薬はどれもRESによるベクターの取り込みを有効に妨害した。
【0165】
次に、1粒子あたりのTNF結合の量を減少させた。飽和用量未満(すなわち、0.5μg/ml)でTNFをまずコロイド金粒子に結合させた。次に、チオール誘導体化ポリエチレングリコール(PEG−チオール、MW=5000)を粒子に添加した。チオール基は、おそらくTNFの分子間で粒子の表面に直接結合し得るので、この小さい線状のPEG−チオール試薬を選択した。MC−38腫瘍負荷C57/BL6マウスにおいてこの新しいベクターを試験した。
【0166】
コロイド金結合TNFベクターのこの組成物は、TNFおよびさらなる薬剤を同じコロイド金粒子結合させることによって配合した。このベクターは、0.5μg/mlの飽和用量未満でTNFをまずコロイド金に結合させることによって形成した。次に、誘導体化PEGをベクターに添加した。誘導体化PEGは、チオール誘導体化ポリエチレングリコール(メトキシPEG−チオール、MW:5000ダルトン、PEG−チオール、Shearwater Corp.、アラバマ州ハンツビル)であった。PEG−チオールの最終濃度は15μg/mlであり、これをdiHO中に10x濃度で添加した。チオール基はコロイド金粒子の表面に直接結合するので、チオール誘導体化PEGは、コロイド金ベクターのための良好な成分である。5000ダルトンのチオール−PEGは、試験される第1のチオール誘導体化PEGであった。さらに、20000および30000ダルトンのMWを有するmPEG−チオールを用いた効力実験を以下に記載されるように実行した。
【0167】
PEG−チオール改変cAu−TNF(PT−cAu−TNF)ベクターの投与後に見られる体内分布プロファイルは、これまでのcAu−TNFベクターで観察されるものとは異なっていた。この新しいベクターを用いると、肝臓および脾臓は、0.5および4.0μg/mlのcAu−TNFベクター(図4B)で生じるように、PT−cAu−TNFベクター(図4A)を視覚的に取り込まなかった。図4Cは未処置の肝臓および脾臓を示す。ベクターの投与の30〜60分以内に明るい赤/紫色のコロイド金粒子を得るので、MC−38腫瘍におけるPT−cAu−TNFベクターの明らかな蓄積は、RES取り込みの阻害と同様に顕著であった。研究の時間経過を通して隔離が継続し、腫瘍中のTNFの蓄積およびTNFの延長された血液残留時間と同時に起こった。
【0168】
0.5μg/mlおよび4.0μg/mlのcAu−TNFベクター処置後の肝臓および脾臓に蓄積した金の黒色とは異なり、PT−cAu−TNFの投与後に腫瘍に蓄積して観察される金の色は赤紫であった。循環における滞留の間、および腫瘍における蓄積の間、金粒子がコロイド状態のままであったことを示すのでこの相違は顕著である。興味深いことに、腫瘍部位の中および周囲におけるPT−cAu−TNFの蓄積パターンは時間と共に変化した。PT−cAu−TNFは、最初(すなわち、0〜2時間)は腫瘍中に単独で隔離された。時間が経つと、ベクターの染色はマウスの皮膚および腹側組織周囲において明らかであった。屠殺された動物の腫瘍の鈍的な切開(blunt dissection)の間、これらの動物における腫瘍の外側の染色は、腫瘍細胞が初めに移植された皮膚層に制限されることが観察された。腫瘍が残された下側の筋肉には最小限の染色が存在していた。この観察は、抹消の染色が、腫瘍塊に血液を供給する血管、おそらく新しい血管におけるベクターの蓄積に起因し得ることを示唆した。現在、染色がこれらの血管における薬物の能動的な隔離を表すか、あるいはベクターでの腫瘍の飽和による受動的な蓄積を表すかは分かっていない。
【0169】
TNFによって生じる出血性応答を染色が反映するかどうかを決定するために、4μg/mlのcAu−TNFベクターまたは天然型TNFの15マイクログラムの注射を受けたマウスの染色パターンを、同じ用量のPT−cAu−TNFベクターを受けたマウスと比較した。4μg/mlのcAu−TNFベクターで処置したマウスは、通常はTNFの静脈内投与に続く腫瘍瘢痕の形成を示し始めた。同様の瘢痕パターンが天然型TNF処置後に観察された。天然型TNFまたは4μg/mlのcAu−TNFベクター処置で観察される瘢痕染色のパターンは、PT−cAu−TNFベクター処置後に観察される染色のパターンとは明らかに違っていた。PT−cAu−TNFベクターの投与後に観察される染色パターンのさらなる証拠は、マウス血清アルブミン(MSA)に初めに結合されたPEG−チオールコロイド金粒子を受けたマウスから得られた。PT−cAu−MSAベクターは、はるかに遅い速度ではあるが、PT−cAu−TNFベクターの染色と同様の腫瘍の染色を生じた。腫瘍の染色は、PT−cAu−TNF処置で観察された色と同様であった。しかしながら、PT−cAu−TNFベクターで観察される30〜60分の色の変化と比較して、腫瘍着色の変化は、処置の4時間後にしか明らかにならなかった。さらに、染色の強度は、PT−cAu−TNFベクターで観察された強度よりも低かった。
【0170】
図4は、PEG−チオールベクターによるコロイド金TNFベクターのRES媒介の取り込みの阻害を示す。PT−cAu−TNFベクターは、記載されたようなTNFとPEG−チオールとの特定の比を用いて開発した。結合後、透析によってベクターを濃縮し、EIAによってTNF濃度について分析した。MC−38腫瘍負荷C57/BL6マウスに、15マイクログラムのPT−cAu−TNFベクターを静脈注射した。マウスを注射の5時間後に屠殺し、ヘパリン処置した生理食塩水で潅流した。肝臓(図の左側)および脾臓を写真撮影した。
【0171】
実施例10
薬物動態学的なおよび分布分析
一般に、これらの実験は、上記のように生成した天然型TNF、cAu−TNF(4□g/ml)、またはPT−cAu−TNF、(0.5□g/ml)ベクターを含む。研究に依存して、5〜20マイクログラムの天然型またはcAu−TNFベクターの1つを、MC−38腫瘍負荷マウスの尻尾静脈から静脈注射した。注射の5分、180分、および360分後に眼窩後方の洞からマウスを出血させて血液を凝血させ、得られた血清を採取し、そしてEIA(CytImmune Sciences,Inc.)によるバッチTNF分析のために−20℃で凍結させた。選択された時点で、種々の器官を採取し、急速凍結した。TNF含有量を決定するために、器官を解凍し、ホモジナイズし、14000rpmで15分間遠心分離した。上述のようにTNF濃度について、ならびに280nmでのサンプルの吸光度を決定することによって総タンパク質について、上澄みを分析した。器官のTNF濃度を、総タンパク質について標準化した。
【0172】
A.金分布
15マイクログラムのPEG−チオール安定化0.5□g/mlのcAu−TNFベクターの静脈注射後に、肝臓、肺、脾臓、脳および血液を含む種々の器官を、金元素の存在について試験した。マウスを注射6時間で屠殺し、血液を採取し、肝臓、脾臓および腫瘍を含む種々の器官を回収した。除去後、器官を王水(1部の濃硝酸に対して3部の濃HCl)中で消化して、これらの器官中に存在する金を抽出した。24時間にわたって抽出を実行し、その後、サンプルを3500rpmで30分間遠心分離した。誘導結合プラズマ分光法によって器官全体の金濃度の存在について上澄みを分析した。結果は、器官全体の金濃度(ppm)として図5Aに報告される。この結果は、金の腫瘍内濃度が、肝臓で測定されるよりもほぼ2倍高く、脾臓で見られるよりもほぼ7倍高かったことを実証する。このパターンは、ベクターが他の器官と比較して腫瘍中に保持されたことを示唆するが、最も高いレベルの金がこれらの動物の循環中にまだ存在していることが観察された。
【0173】
図5Aには、MC−38腫瘍負荷C57/BL6マウスの種々の器官における金分布が示される。誘導結合プラズマ分光法によって器官全体の金濃度の存在について上澄みを分析した。結果は、1器官あたり3匹のマウスについての器官全体の金濃度(ppm)として報告される。p<0.05(肝臓および脾臓に対して)、†p<0.05(脾臓に対して)。
【0174】
B.TNFの分布および薬物動態学
腫瘍塊内のコロイド金の隔離は、循環中の薬物ベクターの長期の存在、ならびに腫瘍中のTNFの能動的な蓄積によって平行された。誘導体化PEGを伴わないcAu−TNFベクターとは違って、PT−cAu−TNFベクターの注射は、研究の時間経過を通して循環中に高いレベルのTNFをもたらした。天然型TNFによる注射の6時間後、TNFレベルは、5分で見られるレベルのわずか2%しかなかった(図5B)。対照的に、PT−cAu−TNFベクターを受けたマウスは、その最大の5分での値の約30%であるTNF血液レベルを有した。この6時間の時点で、PT−cAu−TNF配合物で処置したマウス中の血液TNFレベルは、天然型TNFで処置したマウス中のレベルよりも23倍高かった。
【0175】
図5Bは、TNF薬物動態学的分析を示す。マウスは、注射の5分、180分および360分後に眼窩後方の洞から出血させた。血液サンプルを14,000rpmで遠心分離し、EIAを用いて、得られた血清をTNF濃度について分析した。データは、1時点あたり3匹のマウスからの平均±SEM血清TNF濃度で示される(p<0.05)。
【0176】
PT−cAu−TNFベクターで処置した動物において、TNFは、腫瘍中に蓄積した。図5Cに示されるように、天然型TNFで処置したマウスにおいて観察されるTNFの最大の腫瘍内濃度は、0.8ngのTNF/mgタンパク質であった。ピークの量は天然型TNF投与の5分以内に見られ、6時間にわたって増大しなかった。対照的に、PT−cAu−TNFベクターで処置した動物は、時間とともに増大するTNFの腫瘍内レベルを有していた。TNFは、PT−cAu−TNFベクターで処置した動物の腫瘍中に能動的に隔離された。この期間の最後までに、天然型TNFまたは4□g/mlのcAu−TNFベクターで処置したものと比較して、PT−cAu−TNFベクターで処置した動物の腫瘍中にほぼ10倍多いTNFが見られた(図5D)。
【0177】
図5Cには、腫瘍内TNF分布が時間と共に示される。15マイクログラムの天然型TNFまたはPT−cAu−TNFベクターの注射の5分、180分および360分後にマウスを屠殺した。腫瘍を取り出し、TNFおよび総タンパク質について分析した。データは、3匹のマウス/時点/処置群から、ngTNF/mg総タンパク質で表される腫瘍TNF濃度の平均±SEMで示される(Δp<0.1、p<0.05)。
【0178】
図5Dは、15マイクログラムの4□g/mlcAu−TNFベクターまたはPT−cAu−TNFベクターのいずれかを静脈注射した動物からの腫瘍内TNF濃度の比較を示す。
【0179】
TNFは同じ期間にわたって肺、肝臓、および脳などの他の器官に蓄積しなかったので、MC−38腫瘍塊におけるPT−cAu−TNFベクターの蓄積は受動的な事象ではなく、あるいは単に循環中のベクターの延長された滞留時間の関数でもなかった。むしろ、これらの器官中のTNFの存在は、血液において見られるものとパターンが類似していた。さらに、これらの標的化されていない器官における薬物の分布は、天然型TNFで見られるものと類似していた。結果として、PT−cAu−TNFベクターの投与から生じるTNFの蓄積は、腫瘍に特異的である(図5Eおよび図5F)。
【0180】
図5EおよびFは、天然型TNF(図5E)またはPT−cAu−TNF(図5F)のいずれかを受けたMC−38腫瘍負荷C57/BL6マウスからの種々の器官におけるTNFの分布を示す。この実施例で処置された動物からの肝臓、肺および脳を処置して、TNFおよびタンパク質濃度について分析した。データは、3匹のマウス/時点/注射した配合物から、器官内TNF濃度の平均±SEMで示される。
【0181】
実施例11
用量の上昇、毒性、および効力
天然型およびコロイド金結合TNF調製物の安全性および効力を比較するためのモデルとして、C57/BL6マウスに結腸癌細胞株MC−38を移植した。C57/BL6マウスの腹側表面の一部位に、10個のMC−38腫瘍細胞を移植した。三次元(LxWxH)で腫瘍を測定して決定される場合に0.5cmと測定される腫瘍が形成されるまで、細胞を増殖させた。MC−38腫瘍負荷C57/BL6マウス(n=4〜9/群)に、増大する用量の天然型TNF、cAu−TNFベクター、またはPT−cAu−TNFベクターを静脈注射した。1群あたり4〜9匹で、マウスを9つの群に分けた。1つの群は未処置対照群としての役割を果たした。2つの群には7.5または15マイクログラムのいずれかの天然型TNFを静脈注射した(図6A)。2つ群に、7.5または15マイクログラムのいずれかの20K−PT−cAu−TNFベクターを静脈注射した(図6B)。2つの群には、7.5または15マイクログラムのいずれかの30K−PT−cAu−TNFベクターを静脈注射した(図6C)。腫瘍測定は、TNF処置を生き延びた動物において処置後の種々の日数で行った。対応のあるt検定を用いて、種々の群の間の統計的差異を決定した。
【0182】
以下の毒性評点スケール:0=正常な活動、1=立毛、2=軟便、3=嗜眠、4=無応答、および5=死亡を用いて、注射後の異なる時点でマウスをスコア化した。2回の連続した採点時に4を記録した動物を屠殺した。種々のTNF処置によって誘発される腫瘍体積の減少をモニターすることによって処置効力を決定した。測定値を、種々の群内の各動物、および生理食塩水注射を受けた動物(未処置対照)の初期腫瘍体積と比較した。比較した。未処置対照は、その腫瘍体積が4cmになったときに屠殺した。
【0183】
MC−38腫瘍負荷マウスにおける容量上昇研究において、分子量5000ダルトンのPEG−チオールを含む5K−PT−cAu−TNFベクターを安全性および効力について試験した。4μg/mlのcAu−TNFベクターと同様、5K−PT−cAu−TNFベクターは、天然型TNFと比較したときに改善された安全性プロファイルを有した。マウス1匹あたり15マイクログラムの天然型TNFの用量では、処置の24時間以内に33%(9匹のうち3匹)の動物が死亡した。さらに、7.5マイクログラムの天然型TNFは9匹の動物のうち1匹の死亡を生じた。対照的に、5K−PT−cAu−TNFベクターに結合させた7.5または15マイクログラムのTNFを受けた動物はどれも死亡しなかった。これらのベクター処置動物は、一時的な有害な臨床的効果を示しただけであった。1回の処置後には、天然型TNFと比較して、5K PT−cAu−TNFベクターの抗腫瘍効力の目に見えるほどの違いは観察されなかった(図6A)。これらの知見は、2回の実験で再現された。
【0184】
図6Aは、天然型TNFまたはPT−cAu−TNFベクターの安全性および効力を比較するグラフである。未処置の対照に対して、7.5マイクログラムの用量の天然型TNFまたはPT−cAu−TNF処置については†p<0.05であった。未処置の対照および7.5マイクログラムの用量の天然型およびPT−cAu−TNFに対して、15マイクログラムの用量の天然型またはPT−cAu−TNF処置についてはp<0.05であった。
【0185】
ベクターの抗腫瘍効力に対するPEG−チオール鎖長の効果は、図6B〜Cに示される。最大TNF用量(15マイクログラム)では、天然型TNFと比較していずれのTNFベクターの間にも全く差異が示されなかった。しかしながら、より低用量の7.5マイクログラムのTNFではパターンが生じた。上記のように、5K PEG−チオールは、天然型TNFと比較して、コロイド金ベクターの抗腫瘍効果をあまり改善しなかった。PEG鎖長を20Kに増大させることによって、腫瘍減少においてわずかな非統計的な改善が生じ(図6B)、30Kまで増大させると、腫瘍縮小において顕著で統計的に有意な改善が得られた(図6C)。30K PT−cAu−TNFベクターでは、このベクターを介して7.5マイクログラムの用量のTNFで処置した動物は、15マイクログラムの天然型TNFで処置した動物と同様のサイズの残存腫瘍を有した。15マイクログラムの天然型TNFで処置した動物とは対照的に、7.5マイクログラムのTNFを投与した30K PT−cAu−TNF処置動物は、毒性を全く経験しなかった。実際、30K PT−cAu−TNFベクターの単回注射は、より少ないTNFを提供したが、2倍多い天然型TNFで見られるものと同じ最大の抗腫瘍縮小を誘発し、処置された被験体は処置を生き延びた。この腫瘍モデルにおいて、5Kまたは20K PEG−チオール−cAu−TNFベクターのいずれかの単回の注射は天然型TNFよりも安全であり、30K PEG−チオール−cAu−TNFベクターは、天然型分子よりも安全かつ有効であった。
【0186】
図6Bは、天然型TNFおよび20K−PT−cAU−TNFの安全性および効力を比較するグラフである。未処置対照に対して、7.5マイクログラムの用量の天然型TNFまたはPT−cAu−TNFベクター処置のそれぞれについては†,§p<0.05であった。7.5マイクログラムの20K−PT−cAu−TNFベクターは、7.5マイクログラムの天然型群と統計的に異ならなかった。未処置対照および7.5マイクログラムの天然型および20K−PT−cAu−TNFベクターに対して、15マイクログラムの用量の天然型またはPT−cAu−TNF処置についてはp<0.05であった。
【0187】
図6Cは、天然型TNFおよび30K−PT−cAU−TNF安全性および効力を比較するグラフである。未処置対照に対して、7.5マイクログラムの用量の天然型TNFについては†p<0.05。未処置対照および天然型TNF群に対して、7.5マイクログラムの用量の30K−PT−cAu−TNFベクター処置については§p<0.05。未処置対照および7.5マイクログラムの用量の天然型TNFに対して、15マイクログラムの用量の天然型またはPT−cAu−TNFベクター処置についてはp<0.05。7.5マイクログラムの30K−PT−cAu−TNFは、15マイクログラムの天然型または30K−PT−cAu−TNFと統計的に異ならなかった。
【0188】
実施例12
コロイド金組成物の経口投与
PT−cAu−TNFベクターの腫瘍隔離に対する投与経路の効果を試験した。ベクター調製物はこれまでの実施例に記載されるとおりである。簡単には、コロイド金は、上記のインライン混合装置を用いて0.5マイクログラム/mlの濃度でTNFに結合される。15分間のインキュベーションの後、30000ダルトンのPEG−チオール(pH8の水に溶解)が、12.5マイクログラム/mlの最終濃度で混合物に添加される。溶液を攪拌し、ダイアフィルトレーションにより直ちに処理する。残余分を滅菌ろ過し、−40℃で貯蔵するためにアリコートに分ける。
【0189】
経口投与されたPT−cAu−TNFベクターが腫瘍部位へのTNFおよび金の送達を標的化する能力を決定するためのモデルとして、MC38腫瘍負荷C57/BL/6マウスを使用した。これらの研究のために、1mgのペントバルビトールを用いてマウス(n=3)を麻酔した。動物を完全に鎮静させた後、PT−cAu−TNFベクターに結合した26マイクログラムのTNFを経口カニューレから投与した。動物を回復させ、食物および水に自由にアクセスさせた。翌日、腫瘍が、コロイド金ベクターのよく知られた色の赤/青であることが観察された。これらのデータは、PT−cAu−TNFベクターの経口投与が腫瘍の処置のために使用可能であることを示す。
【0190】
実施例13
コロイド金結合TNFベクターのインビトロ活性
Khabar,K.S.、Siddiqui,S.、およびArmstrong,J.A.、WEHI−13 VAR;a stable and sensitive variant of WEHI 164 clone 13 fibrosarcoma for tumor necrosis factor bioassay,Immunol.Lett 46:107−110(1995)により記載されるWEHI−164 TNF生物検定法によって、天然型TNFおよびcAu−TNFベクターのインビトロでの活性を決定した。この生物検定法において、10個のWEHI−164細胞を12ウェルの組織培養クラスター中に蒔いた。10%のFBSを補充したDMEM中で細胞を培養した。天然型TNF、ならびにコロイド金1mlあたり0.5、1、2および4マイクログラムのTNFで調製した4つの異なるcAU−TNFベクターを、1mg/ml〜0.0001mg/mlの範囲のTNF最終濃度で、細胞と共に7日間インキュベートした。Coulter Counterを用いて7日目に細胞数を決定した。データは、3回のウェル/TNF配合物についての細胞数の平均±SEMで示される。
【0191】
WEHI 164生物検定法において、cAu−TNFベクターは、天然型TNFとモルベースで生物学的に等価であった。例えば、12.5ngの天然型TNFはWEHI 164細胞の増殖を50%阻害するが、同じ12.5ng用量の1.0、2.0および4.0マイクログラム/mlのcAu−TNF調製物は、WEHI 164細胞の増殖をそれぞれ、47%、55%、および52%阻害した。
【0192】
実施例14
抗血管新生薬の腫瘍標的化送達のためのPEG−チオールベクター
これらの実験はPT−cAU−TNF−エンドスタチンベクターを使用し、ベクターは、2つの薬剤を含む。TNFは、治療薬エンドスタチン(END)の腫瘍への送達のための標的機能を提供すると考えられた。また、標的において一度に、両方の薬剤が治療効果を提供し得ることも理論化される。ベクター組成物の一態様は、標的分子、治療分子およびPEGの比率である。3つの実体は全て、コロイド金の同じ粒子上に見られる。このベクターの概略図は図7に示される。図7において、1はEND分子など薬剤であり、2はコロイド金粒子であり、3は誘導体化PEGであり、そして4は、TNF分子などの異なる薬剤または標的分子である。
【0193】
図1に記載される装置を用いて、コロイド金粒子と会合した誘導体化PEG、TNFおよびエンドスタチン(END)を含むPT−cAu(TNF)−ENDベクターを製造した。PT−cAu(TNF)−ENDは3段階で製造した。第一に、非常に低い飽和質量未満のTNFにおいてTNFを金粒子と会合させた。0.5マイクログラム/mlのTNFの濃度で製造したPT−cAu−TNFベクターとは異なり、このベクターは、0.05マイクログラム/mlのTNF濃度で製造した。TNF(3mMのCAPS緩衝液(pH=10)中に希釈)を0.1マイクログラム/mlの濃度で装置の試薬ビンに添加した。装置内の第2のビンに等容量のコロイド金をpH10で充填した。上記のように、ぜん動ポンプの作動によって、TNFをコロイド金粒子に結合させた。コロイド金−TNF溶液を15分間インキュベートし、続いて、装置の金容器内に戻した。次に、試薬ビンに等容量のエンドスタチン(CAPS緩衝液中に0.15〜0.3マイクログラム/mlの濃度で希釈)を充填した。代替的な実施形態では、エンドスタチンは、金粒子への結合に役立つように、n−スクシンイミジル−S−アセチルチオアセタートなどの薬剤を用いて、硫黄基の付加によって化学修飾され得る。
【0194】
ぜん動ポンプを作動して、コロイド金結合TNFおよびエンドスタチン溶液をT型コネクタに引き出した。溶液の完全な相互作用において、混合物を捕集ビン内でさらに15分間インキュベートした。この段階で塩が粒子を沈降させる能力によって、PEG−チオールのさらなる結合部位の存在を確認した。15分間のインキュベーションの後、5K PEG−チオールをcAu(TNF)−ENDベクターに添加し、上記のようにダイアフィルトレーションにより濃縮した。
【0195】
同じ金の粒子に2つのタンパク質を結合させるための代替方法は、図1と同じ装置を使用することと、薬剤を同時に金に添加することとを含む。TNFおよびENDを結合装置の試薬チャンバに入れた。各タンパク質の濃度は、0.25マイクログラム/mlであり、結果として、1mlの溶液は、0.5マイクログラムの総タンパク質を含有した。2つの薬剤組成物を金粒子に結合させた後、このコロイド金調製物も塩の存在下で沈殿させ、さらなる遊離結合部位がPEG−チオールとの結合に利用可能であることを示した。15分間のインキュベーションの後、5K PEG−チオールをcAu(TNF)ENDベクターに添加し、続いて、上記のように処理した。
【0196】
ダイアフィルトレーションの後、それぞれのEIAにおけるTNFおよびEND濃度について残余分を測定した。コロイド金の同じ粒子上のENDおよびTNFの存在を確認するために、交差抗体の捕捉および検出アッセイを設計および使用した。このEIAの概略図は図8に示される。図8において、Aは、ストレプトアビジンアルカリホスファターゼなどの標識化された結合パートナーであり、Bは、ビオチンなどの結合パートナーであり、Cは、ビオチン化抗END抗体などの検出抗体であり、Dは、END分子などの薬剤であり、Fはコロイド金粒子であり、Eは誘導体化PEGであり、そしてGは、TNF分子などの異なる薬剤または標的分子であり、Hは、抗TNF抗体などの捕捉抗体であり、そしてLは、ビーズまたはマイクロタイタープレートなどの支持体である。
【0197】
TNFまたはEND捕捉抗体のいずれかで被覆されたEIAプレートに、PT−cAu(TNF)−ENDベクターのサンプルを添加した。サンプルを捕捉抗体と共に3時間インキュベートした。インキュベーションの後に、プレートを洗浄し、ブロット乾燥した。TNF捕捉サンプル上に存在する任意のENDを結合するために、ビオチン化ウサギ抗エンドスタチンポリクローナル抗体をウェルに添加した。30分間のインキュベートの後、プレートを洗浄し、ストレプトアビジン結合アルカリホスファターゼを用いてビオチン化抗体の存在を検出した。エンドスタチン検出システムによる陽性の色シグナルの発生は、検出抗体が、TNFモノクローナル抗体により予め捕捉されたキメラベクターに結合したことを示した。図9を参照されたい。捕捉および検出抗体を逆転させ、適切な第2の検出システムを用いることによって、アッセイを使用して、END捕捉された粒子上のTNFの存在を検出した。図9を参照されたい。図9は、第2の薬剤の存在を示すTNF−およびEND−捕捉ベクターを示すグラフである。
【0198】
これらの研究からのデータは表VIに示される。表VIにおいて分かるように、ベクターサンプルの残余分は、17□g/mlのTNFおよび22□g/mlのENDを有した。また、これらの同じサンプルは交差抗体アッセイにおいて陽性シグナルを発生し、TNFおよびエンドスタチンの両方がコロイド金の同じ粒子上にあることが示唆された。(図9)。
【0199】
【表6】

【0200】
図10において、データは、静脈注射後に切除されたMC−38腫瘍中のPT−cAu(TNF)−ENDベクターからのエンドスタチンおよびTNFの検出を示している。これらのデータは、両方の分子が腫瘍組織中で検出されているので、PT−cAu(TNF)−ENDベクターが分解せずに腫瘍に達したことを示す。
【0201】
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に他を示さない限り、複数形の指示対象を含むことに注意しなければならない。従って、例えば、「薬剤(an agent)」を含有するベクター組成物に対する言及は、そのような薬剤のモル量を意味する。
【0202】
本明細書中に開示される特定の組み合わせ、方法、および材料はいくらか変化し得るので、本発明は、このような組み合わせ、方法、および材料に限定されないことは理解されるべきである。また、本明細書中で使用される用語は特定の実施形態を説明するだけの目的で使用され、限定することは意図されないことも理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットフォーム、少なくとも1つの標的剤、少なくとも1つのステルス剤、および少なくとも1つの治療薬または診断薬を含む組成物。
【請求項2】
前記プラットフォームが、コロイド金属ナノ粒子、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、シリカナノ粒子、鉄ナノ粒子、金/鉄ナノ粒子などの金属ハイブリッドナノ粒子、ナノシェル、金ナノシェル、銀ナノシェル、金ナノロッド、銀ナノロッド、金属ハイブリッドナノロッド、量子ドット、ナノクラスター、リポソーム、デンドリマー、金属/リポソーム粒子、金属/デンドリマーナノハイブリッド、およびカーボンナノチューブを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記コロイド金属が、金、銀、アルミニウム、ルテニウム、亜鉛、鉄、ニッケルおよびカルシウムリチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、銅、ガリウム、ストロンチウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、スズ、タングステン、レニウム、白金、またはガドリニウムを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記標的剤が、細胞膜中または細胞膜がない状態に見られる分子に結合し得る受容体もしくは受容体の一部、リガンド、抗体、抗体断片、酵素、補因子、または基質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記標的剤が、腫瘍壊死因子、インターロイキン、成長因子、ホルモン、補因子、酵素基質、免疫調節性分子、抗体、接着分子、血管マーカー、新生血管マーカー、分子シャペロン、または熱ショックタンパク質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ステルス剤が、ポリエチレングリコール、PolyPEG(登録商標)、ポリオキシプロピレンポリマー、ポリビニルピロリドンポリマー、rPEG、またはヒドロキシエチルデンプン、親水性薬剤およびポリマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ステルス剤が、変性、誘導体化、チオール化、アミノ化、または多アミノ化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記治療薬または診断薬が、化学物質、治療薬、医薬品、薬物、生物学的因子、生物学的分子の断片、例えば、抗体、タンパク質、脂質、核酸または炭水化物などの断片、核酸、抗体、タンパク質、脂質、栄養物、補因子、ウイルス、栄養補助食品、麻酔薬、検出剤、および体内で効果がある薬剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記治療薬または診断薬が、サイトカイン、成長因子、神経化学物質、細胞通信分子、ホルモン、医薬品、抗炎症薬、抗体、化学療法薬、または免疫療法剤、核酸に基づく物質、イメージング系、染料、および放射性物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記治療薬または診断薬が、チオール、アミンまたはマルチアミン部分により変性されていてもよい、タキソール、パクリタキセル、パクリタキセル類似体、タキサン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、アシクロビル、シスプラチン、エポチロン、ゲムシタビン、メルファラン、5−FUまたはそのプロドラッグ形態、タクリンおよびその類似体、ならびにガドリニウム/ガドリニウムキレート剤を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記治療薬または診断薬が、タキソール、タキサン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、アシクロビル、シスプラチン、エポチロン、ゲムシタビン、メルファラン、5−FUまたはそのプロドラッグ形態、およびタクリンを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
被験者における生理学的効果のために薬剤を標的部位に送達する方法であって、プラットフォーム、少なくとも1つの標的剤、少なくとも1つのステルス剤、および少なくとも1つの治療薬または診断薬を含む組成物を前記被験者に投与することを含む方法。
【請求項13】
前記プラットフォームが、コロイド金属ナノ粒子、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、シリカナノ粒子、鉄ナノ粒子、金/鉄ナノ粒子などの金属ハイブリッドナノ粒子、ナノシェル、金ナノシェル、銀ナノシェル、金ナノロッド、銀ナノロッド、金属ハイブリッドナノロッド、量子ドット、ナノクラスター、リポソーム、デンドリマー、金属/リポソーム粒子、金属/デンドリマーナノハイブリッドおよびカーボンナノチューブを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記標的剤が、腫瘍壊死因子、インターロイキン、成長因子、ホルモン、補因子、酵素基質、免疫調節性分子、抗体、接着分子、血管マーカー、新生血管マーカー、分子シャペロン、または熱ショックタンパク質を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ステルス剤が、ポリエチレングリコール、PolyPEG(登録商標)、ポリオキシプロピレンポリマー、ポリビニルピロリドンポリマー、rPEG、またはヒドロキシエチルデンプンを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記ステルス剤が、変性、誘導体化、チオール化、アミノ化、または多アミノ化されている、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記治療薬または診断薬が、化学物質、治療薬、医薬品、薬物、生物学的因子、生物学的分子の断片、例えば、抗体、タンパク質、脂質、核酸または炭水化物などの断片、核酸、抗体、タンパク質、脂質、栄養物、補因子、栄養補助食品、麻酔薬、検出剤および体内で効果がある薬剤を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記生理学的効果が、特定の細胞または組織の検出または処置、特定の組織のイメージング、固形腫瘍のイメージング、生物学的状態の処置、慢性および急性疾患の処置、免疫系の維持および制御、感染症の処置、ワクチン接種、ホルモン維持および制御、癌の処置、固形腫瘍の処置、血液由来の腫瘍の処置、根底にある骨髄新生物の処置、ならびに血管新生状態を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記治療薬または診断薬が、活性薬物に転換されるプロドラッグであり得る、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記治療薬または診断薬が、ガドリニウムまたは同様の造影剤を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記標的部位が、腫瘍、感染性部位、疾患部位、機能不全部位または炎症関節である、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a−b】
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【図3c−d】
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【図3e−f】
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【図4】
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【図5a−b】
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【図5c−d】
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【図5e−f】
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【図6a−b】
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【図6c】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−520769(P2011−520769A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526046(P2010−526046)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/077239
【国際公開番号】WO2009/039502
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(506186400)サイトイミューン サイエンシズ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】