説明

ナノ粒子およびナノ粒子の製造方法

【課題】ナノオーダーの平均粒子径を有するナノ粒子、および、その製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のナノ粒子は、平均粒子径が10nm以下で、粒子径の変動係数が20%以下であり、且つ、金属酸化物の単結晶からなるもの、あるいは、二酸化ケイ素からなるものである。また、本発明の製造方法とは、水溶性化合物の存在下で、金属フッ化物錯体水溶液またはケイ素のフッ化物錯体水溶液から液相析出法によりナノ粒子を析出させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物のナノ粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノオーダのサイズを有する酸化物微粒子および金属酸化物粒子は、量子サイズ効果などバルク固体とは異なった特性を発現することから、エネルギー変換材料、電池、触媒、磁性材料、可塑性のセラミックス材料など幅広い分野における応用が期待されている。しかしながら、ナノ領域のサイズや形態に依存する物性を有効に発現させるには、厳密な形態制御が必要であり、所望の形状、サイズを有する金属酸化物の創出を目的として様々な研究がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、液相析出法(LPD法)の技術により、ナノオーダサイズのセラミックス三次元構造体を製造する方法が開示されており、特許文献2には、液相析出法により、基材上に、任意の形状にパターニングされたセラミックス薄膜を形成する方法が開示されている。
【0004】
また、ナノオーダー平均粒子径を有する金属酸化物粒子を得る方法も提案されており、例えば、非特許文献1〜3では、金属アルコキシドやハロゲン化物の加水分解を利用するゾルゲル法により、ナノオーダーの平均粒子径を有する金属酸化物粒子が得られる旨報告されている。
【特許文献1】特開2004−131338号公報
【特許文献2】特開2004−323946号公報
【非特許文献1】Guangshe Li,ら、J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 8659-8666
【非特許文献2】Markus Niederbergerら、Chem. Commun., 2005, 397-399
【非特許文献3】Vicki L. Colvinら、J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 1613-1614
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1〜3に記載されるようなゾル‐ゲル法の技術では、多量の有機溶媒を要し、また、電気的特性等を満足し得る金属酸化物とするための焼成工程が不可欠であり、プロセス面、環境面において問題点を有している。さらに、得られる金属酸化物粒子も、ナノオーダーの粒子径を有するものが含まれているものの、10nmを遥かに超えるものも含まれており、その粒度分布は、巾の広いものであると予想される。加えて、上記ゾル‐ゲル法による金属酸化物の合成では、厳密な粒子径の制御を行うことは困難である。
【0006】
本発明は、上述のような状況に着目してなされたもので、その目的は、ナノオーダーの平均粒子径を有するナノ粒子、および、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のナノ粒子とは、
(1)平均粒子径が10nm以下で、粒子径の変動係数が20%以下であり、且つ、金属酸化物の単結晶からなるものであるか、
(2)平均粒子径が10nm以下であり、粒子径の変動係数が20%以下であり、二酸化ケイ素からなるものである、
ところに要旨を有するものである。
【0008】
また、本発明の製造方法とは、上記ナノ粒子の製造方法であって、水溶性化合物の存在下で、金属フッ化物錯体水溶液またはケイ素のフッ化物錯体水溶液から液相析出法によりナノ粒子を析出させるところに要旨を有するものである。
【0009】
上記水溶性化合物としては、主鎖にオキシアルキレン基を有し、分子鎖の末端に1〜2個のヒドロキシル基(‐OH)を有するものを用いるのが好ましく、上記水溶性化合物の平均分子量は100〜700であるのが望ましい。さらに、上記水溶性化合物としてポリエチレングリコールを用いるものは、推奨される本発明の実施形態である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のナノ粒子は、粒度分布が狭く、且つ、ナノオーダーの平均粒子径を有するものであるため、顔料、触媒、電子材料、光学材料、磁性材料など各種機能性材料への応用が期待される。また、本発明のナノ粒子の内、金属酸化物の単結晶から成るものは、ナノサイズの金属酸化物粒子の有する特性の解析にも貢献し得るものと考えられる。また、本発明法によれば、特別な装置や、複雑な反応工程を採用することなく、穏やかな反応条件で、粒度分布が狭く、且つ、ナノオーダーの平均粒子径を有する粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、これまでに、液相析出法(LPD:Liquid Phase Deposition)により、基板上に様々な金属酸化物薄膜を形成する方法を提案している。そして、かかる研究に取り組む中で、特定の水溶性化合物の存在下において液相析出法により得られる粒子が、ナノオーダーの平均粒子径を有し、且つ、粒度分布が非常に狭いものであることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
[ナノ粒子]
本発明のナノ粒子とは、平均粒子径が10nm以下で、粒子径の変動係数が20%以下であり、且つ、金属酸化物の単結晶から成るもの、または、二酸化ケイ素からなるものであるところに特徴を有するものである。
【0013】
本発明のナノ粒子を構成する金属酸化物としては、TiO2,TaO,ZrO2,FeOOH,Fe23,ZnO,SnO2,Nb25,Vn25,VO2および、これらの複合酸化物、および、希土類元素としてLa,Ce,Pr,Nd,Eu,Gd,Tb等を添加イオンとして含有する上記酸化物等が挙げられる。また、単結晶には成り得ないがSiOも本発明のナノ粒子を構成する物質として挙げられる。
【0014】
本発明のナノ粒子は、10nm以下の平均粒子径を有するものである。平均粒子径は用途に応じて変更可能であり、後述する本発明の製造方法を採用することにより、2〜10nmの範囲の平均粒子径を有するものを得ることができる。ここで、上記平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した像から確認される2000個の粒子の粒子径を観察し、下記算出方法により求められる値を意味する。なお、このとき観察した粒子は、特別な選別をすることなく、撮影したTEM像に含まれるすべての粒子を測定対象とした。また平均粒子径は数平均粒子径を用いた。具体的には、TEMとしては日本電子JEM-2010による高分解能透過型電子顕微鏡を用いて撮影した撮影像を、フィルムスキャナによりTIFFファイルに変換し、さらにこれを2値化して粒子形状を決定した。そして、画像中において、個々の粒子が占める面積Sを円形近似補正することによって、下記式より個々の粒子径(D)を算出し、その値を用いて、平均粒子径および標準偏差を算出した。
D=2(S/π)1/2
【0015】
また、本発明のナノ粒子は、二酸化ケイ素(SiO2)を除いて、いずれも単一の結晶から成るものである(単結晶)。例えば、二酸化チタン(TiO2)の場合には、本発明の金属酸化物ナノ粒子は、アナターゼ型の二酸化チタンの単結晶から成り立っている。なお、本発明のナノ粒子が二酸化ケイ素(SiO2)からなる場合には、当該ナノ粒子は無定形(非晶質)状態となる。
【0016】
さらに、本発明のナノ粒子は、粒子径分布が狭く、例えば、粒子径の変動係数が20%以下を示す。より好ましくは12%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。上記粒子径の変動係数とは、粒子径の均一性を指標するものであり、上記粒子径の変動係数の値が小さいほど、粒子径の揃ったものであるといえる。なお、粒子径の変動係数とは、実施例に記載の方法により測定、算出される値である。
【0017】
[製造方法]
次に、上述した本発明のナノ粒子の製造方法について説明する。尚、以下の説明では、便宜上、金属の中にSiを含めるものとする。
【0018】
本発明の製造方法とは、上記ナノ粒子を製造する方法であって、水溶性化合物の存在下で、金属フッ化物錯体水溶液(またはケイ素のフッ化物錯体水溶液)から液相析出法により、ナノ粒子を析出させるところに特徴を有するものである。
【0019】
ここで、液相析出法とは、金属フッ化物錯体の加水分解平衡反応を利用するものであり、例えば、下記式(1)に示すような金属フッ化物錯体の加水分解反応の系内に、Fイオンを配位子として取り込み、出発原料である金属フッ化物錯体よりも安定なフッ化物錯体若しくは化合物を形成するような(下記式(2))フッ素イオン捕捉剤(H3BO3)を添加することにより、下記式(1)の平衡反応を酸化物生成側へと移動させて、金属酸化物を析出させるものである。
【0020】
【数1】

【0021】
本発明者らは、上述の反応を利用して、各種基板状に金属酸化物等の薄膜を形成させることを提案してきたが、当該研究に取り組む中で、特定の水溶性化合物の存在下で上記反応を行うことにより、室温下で、ナノオーダーの平均粒子径を有し、且つ、粒度分布が狭い金属酸化物ナノ粒子が得られることを見出したのである。
【0022】
上述のような特性を有する金属酸化物ナノ粒子が得られる詳細な理由は明らかではないが、水溶性化合物の鎖状構造に含まれる親水性部位と金属フッ化物錯体間に働く分子間力により、反応種であるフッ化物錯体の拡散が抑制され、加水分解平衡反応の進行が局所的な反応領域に限定されるため、粒子成長が抑制され、ナノサイズにとどまるものと考えられる。また、本反応系では、水溶性化合物溶液からなる均質な反応場が形成されるため、均一な粒子径や、単一の結晶から成る金属酸化物粒子が生成するものと考えられる。
【0023】
上記水溶性化合物としては、主鎖にオキシアルキレン基を有し、且つ、分子鎖の末端に1〜2個のヒドロキシル基(−OH)を有するものが好ましい。上記アルキレン基としては、炭素数1〜3のものが好ましい。具体的なオキシアルキレン基としては、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロプレン、ポリオキシブチレン等が挙げられる。これらの中でも、エチレンオキサイドユニット([−CH2CH2O−])を有するものが好ましい。上記エチレンオキサイドユニットは、水溶性化合物中に3〜500個含まれているのが好ましい。より好ましくは3〜10個である。なお、本明細書において「水溶性」とは、水と常温において相溶性を有する物質であり、常温において水溶性化合物を25℃の水(100g)に溶解させたときに、25%以上が溶解することを意味する。
【0024】
上記水溶性化合物は、平均分子量が100〜4000であるのが好ましく、より好ましくは200〜1000であり、さらに好ましくは200〜600である。分子量が大きすぎると、常温において固体となり、水との相溶性が十分保持されなくなる。また、小さすぎると金属酸化物が粒子として析出し難い場合がある。尚、上記水溶性化合物の平均分子量は、ポリアクリル酸を標準サンプルとするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値、あるいは、製造者のパンフレットなどに記載された公証値を意味するものである。
【0025】
上記構造および平均分子量を有する水溶性化合物としては、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドや、ポリエチレングリコールモノ-p-イソオクチルフェニルエーテル(例えば、ナカライテスク株式会社から入手可能な「トリトンX−100(商品名)」)等の界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレングリコールが好ましく、特に平均分子量200〜600のポリエチレングリコールが好ましい。
【0026】
本発明に係るナノ微粒子の粒子径は、上記水溶性化合物の使用量に依存する。したがって、上記水溶性化合物の使用量は、所望する粒子径のサイズや粒度分布等に応じて適宜選択すれば良い。なお、水溶性化合物の濃度が低すぎる場合には、粒子が析出し難い場合があり、一方、濃度が高すぎる場合には、微小な粒子しか生成しない場合がある。したがって、水溶性化合物の濃度は0.1〜3Mとするのが好ましい。より好ましくは1〜2.5Mであり、さらに好ましくは1〜1.5Mである。
【0027】
本発明法で使用可能な金属フッ化物錯体としては、(NH42TiF6、(NH42TaF6、(NH42ZrF、(NH42FeF6、H2SiF6、(NH42AlF6、(NH42ZnF6、(NH42SnF6、等が挙げられる。
【0028】
反応溶液中における上記金属フッ化物錯体の濃度は0.1〜0.5Mとなるようにするのが好ましく、より好ましくは0.1〜0.3Mであり、さらに好ましくは0.15〜0.25Mである。金属フッ化物錯体の濃度が低すぎる場合には、粒子の析出に長時間を要し、一方、濃度が高すぎる場合には、析出する粒子が一層微細なものとなる傾向がある。
【0029】
さらに、本発明では、金属フッ化物錯体の加水分解平衡反応の平衡を酸化物の生成する方向へと移動させるため、フッ素イオン捕捉剤を用いる。フッ素イオン捕捉剤としては、上記式(1)で表される加水分解平衡反応において、配位子であるフッ素イオンとより安定な錯体を形成するものはいずれも使用可能であり、具体的には、ホウ酸(H3BO3)、アルミニウムなどが挙げられる。これらのフッ素イオン捕捉剤の使用量は、出発原料として用いる金属フッ化物錯体に対して(フッ素イオン捕捉剤/金属フッ化物錯体)5〜30(モル比)とするのが好ましく、より好ましくは5〜20であり、さらに好ましくは10〜15である。
【0030】
溶媒としては、上記金属フッ化物錯体、水溶性化合物およびフッ素イオン捕捉剤が溶解し得るものであれば特に限定されず、水、アセトニトリルなどが使用可能である。また、必要に応じて、上記出発原料等に加えて、ドーピングもしくは析出状態、析出速度等の改善のための添加物、例えば、界面活性剤などを使用してもよい。
【0031】
上記金属フッ化物錯体、水溶性化合物、フッ素イオン捕捉剤を混合した水溶液を、攪拌下、所定時間反応を行えば、単分散で、且つ、ナノオーダーの粒子径を有する本発明のナノ粒子が得られる。反応時の条件は特に限定されず、反応の進行状態を確認しながら適宜調整すれば良いが、通常、大気圧下、10〜80℃(より好ましくは20〜40℃)で行うことが推奨される。反応時間も特に限定されないが、例えば、5分〜20時間(より好ましくは12〜20時間)とするのが好ましい。
【0032】
反応終了後、生成したナノ粒子を、遠心分離法などにより分離し、洗浄、乾燥すれば、単分散で、且つ、ナノオーダーの粒子径を有する粒子が得られる。また、このときナノ粒子と分離された反応溶液中には、未反応の出発原料および水溶性化合物が含まれているが、かかる出発原料等は回収した後、精製することで、再び原料として利用することができる。
【0033】
得られたナノ粒子は、さらに熱処理工程などに付してもよい。このとき、熱処理の際の雰囲気ガスを適宜選択することによって、窒化物あるいは炭化物とすることもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
[平均粒子径、標準偏差および粒子径の変動係数]
下記実験例で得られたナノ粒子0.1gを蒸留水中に超音波によって分散させ、カーボンを蒸着した銅メッシュ上に滴下し、自然乾燥させて測定試料を作成した。高分解能透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製JEM・2010、加速電圧:200kV)を用いて撮影されたTEM像に含まれる粒子2000個の粒子を観察し、粒子径の測定を行った。なお、粒子径は、撮影したTEM像をフィルムスキャナによりTIFFファイルに変換し、さらにこれを2値化して粒子形状を決定した後、それぞれの粒子が画像に占める面積Sを円形近似補正することによって、下記式より個々の粒子の粒子径(D)を算出し、さらに平均粒子径の標準偏差を測定した。なお、このとき観察した粒子は、特別な選別をすることなく、撮影したTEM像内に含まれるすべての粒子を測定対象とした。
D=2(S/π)1/2
【0036】
また、得られた結果を基に、下記式により、粒子径の変動係数(Cv値)を求めた。なお、粒子径の変動係数の算出に際しては、粒子径の測定で得られたデータ全てを対象とし、最小二乗法を用いて得られた粒径分布曲線から標準偏差を算出し、得られた値を基に、下記式により変動係数を算出した。
【0037】
【数2】

【0038】
[結晶構造]
結晶構造の確認は、X線回折装置(RINT‐TTR/S2、株式会社リガク製、Cu‐Kα線、加速電圧:50kV、電流300mA)を用いて行った。測定試料は、以下の手順にしたがって作成した。
【0039】
生成した酸化物粒子を含有する反応溶液を、遠心分離器を用いて15000Gにおいて粒子を沈降させ、デカンテーションにより反応溶液の分別、洗浄を行い、酸化物粒子を単離した。この試料を常温にて72時間真空乾燥し、得られた試料をX線回折装置の試料台に設置し、θ-θ型ゴニオメータにより2θ=10−80において測定を行った。
【0040】
実験例1
室温下で(25℃)、攪拌子を備えた容量50mLのポリプロピレン製の反応容器に、水溶性化合物として、濃度1Mのポリエチレングリコール#200(ナカライテスク社製、分子量約200、以下PEG−200)水溶液を加え、反応溶液中における濃度が20mMとなるように(NH42TiF6(森田化学社製)水溶液を添加した。このとき、混合溶液は透明であった。次いで、混合溶液の攪拌下、反応溶液中における濃度が200mMとなるように濃度0.5Mのホウ酸(H3BO3)水溶液20(添加量)を添加した。ホウ酸水溶液の添加から10分間経過した時点で、反応溶液の白濁が確認された。さらに、攪拌しながら25℃で20時間反応させた。反応終了後、遠心分離機を使用して(15000G)、反応溶液から生成物を分離し、洗浄、乾燥して、無色の二酸化チタンナノ粒子(約5g、収率50%)を得た。
【0041】
生成した二酸化チタン粒子のTEM像を図1に示す。図1より、生成した二酸化チタンナノ粒子は、目視でもナノオーダーの粒子径を有し、且つ、実質的に均一な粒子径を有するものであることが分かる。なお、このとき得られた二酸化チタンナノ粒子の平均粒子径は3.8nmであり、粒子径の変動係数は10.5%(標準偏差0.39nm)であり、生成した二酸化チタンナノ粒子は、粒度分布が非常に狭いものであった(図2)。
【0042】
また、このとき得られた二酸化チタン粒子の高分解能TEM写真を図3A,図3Bに示す。図3Bより確認される二酸化チタン粒子の格子間距離(interplanar space)はアナターゼ型二酸化チタン(112)面のそれと一致するものであり、また、アナターゼ型二酸化チタンの回折リングも観察された(図3A内右上図)。
【0043】
実験例2
PEG−200水溶液(水溶性化合物)を用いなかったこと以外は、実験例1と同様の方法で反応を行った。25℃で20時間反応を継続したが、粒子の形成は確認されず、容器の壁面に薄膜状の析出物が確認された(図4)。
【0044】
実験例3
濃度0.1M,0.2M、1.1M,1.7M,2.4M,2.8MのPEG‐200水溶液(水溶性化合物)を、攪拌子を備えた容量50mL、ポリプロピレン製の反応容器に加え、各濃度の水溶性化合物溶液に、反応溶液中の濃度が20mMとなるように(NH42TiF6水溶液を添加した。このとき、混合溶液は透明であった。
【0045】
次いで、混合溶液の攪拌下、反応溶液中における濃度が200mMとなるように濃度0.5Mのホウ酸水溶液20mL(添加量)を添加した。ホウ酸水溶液の添加から10分間経過した時点で、反応溶液の白濁が確認された。さらに、攪拌しながら25℃で20時間反応させた。反応終了後、反応溶液を遠心分離にかけ、生成物を分離し、洗浄、乾燥して、無色の二酸化チタン粒子を得た。このとき得られた二酸化チタン粒子の粒子径および粒子径の変動係数と、水溶性化合物の濃度との関係を図5に示す。尚、図5中、○は平均粒子径を、●は、粒子径の変動係数を示している。
【0046】
図5に示すように、水溶性化合物の濃度の増加に伴い、生成する粒子の平均粒子径が増加していることが分かる。この結果より、水溶性化合物の濃度の制御により、生成する金属酸化物ナノ粒子の粒子径をコントロールできることが分かる。また、生成するナノ粒子の平均粒子径が増加しても、粒子径の変動係数は10%程度と、粒度分布が狭いものであることが分かる。
【0047】
実験例4
水溶性化合物として、濃度0.05M,0.2M,0.55M,0.7M、0.9Mのポリエチレングリコール#600(ナカライテスク社製、分子量約600、以下PEG−600)を使用した以外は、実験例3と同様にして、二酸化チタン粒子を製造した。濃度0.9MのPEG−600の存在下で得られた二酸化チタン粒子のTEM像を図6に、このとき得られた二酸化チタン粒子の粒子径および標準偏差と、水溶性化合物の濃度との関係を図7に示す。尚、図7中、○は平均粒子径を、●は、粒子径の変動係数を示している。
【0048】
図6および7より、PEG−600を用いた場合にも、ナノオーダーの粒子径を有し、且つ、粒度分布の狭い二酸化チタン粒子が得られており、均質なナノ粒子の形成に水溶性化合物が有効であることが分かる。いることが分かる。また、また、図6より、PEG−200を用いた実験例3の場合と同様、生成する金属酸化物の粒子径が、水溶性化合物の濃度に依存して変化することが確認できる。
【0049】
実験例5〜12
表1、2に示す金属フッ化物錯体水溶液、および金属フッ化錯体イオンを含む水溶液を調整して、ナノ粒子の製造を行った。出発原料、水溶性化合物およびフッ素イオン捕捉剤の濃度と、得られた金属酸化物ナノ粒子の平均粒子径、標準偏差および粒子径の変動係数を表1、2に併せて示す。
【0050】
なお、各実験例で使用した金属フッ化物錯体水溶液は、以下のようにして調整した。
【0051】
実験例5:SnF2 5gをイオン交換水に溶解させ、加水分解中に酸化された沈殿が溶解するまでHFを添加し、Sn/HF反応溶液とした。
【0052】
実験例6:(NH2SiF6(森田化学工業株式会社製)の1M水溶液をイオン交換水にて希釈したものをそのまま使用した。
【0053】
実験例7:Fe(NO32 5gに10%アンモニア水20mlを添加し,加水分解により得たFeOOHgをNH4F−HF水溶液100mLに再溶解させてFeOOH/NH4F−HF溶液とした。得られた溶液を0.1Mに希釈したものを反応母液とした。
【0054】
実験例8:粉末のNb25 7.4gを1MのNHF−HF溶液に溶解させたものを反応母液とした。
【0055】
実験例9:粉末のTa25 5gを1MHF溶液に溶解させ、1Mとしたものを反応母液とした。
【0056】
実験例10:Zn(OH)2を1MのNHF−HF水溶液100mLに溶解させ、1Mとした水溶液を反応母液とした。
【0057】
実験例11:酸化バナジウム(V)をフッ化水素酸に溶解させ、V5+イオン濃度にして0.4mol/lの溶液を作製し、イオン交換水を加えて0.15Mまで希釈して反応溶液を調整した。
【0058】
実験例12:H2ZrF6(森田化学工業株式会社製)をイオン交換水で希釈したものを反応溶液とした。50mLの反応溶液に対して、フッ素補足剤としてアルミニウム板(厚さ0.3mm,48cm2)を反応溶液中に添加した。
【0059】
実験例5で得られたSnO2ナノ粒子を図8に、実験例6で得られたSiO2ナノ粒子を図9に、実験例7で得られたFeOOHナノ粒子を図10に、実験例8で得られたNb25ナノ粒子を図11に、実験例9で得られたTaOナノ粒子を図12に、実験例10で得られたZnOナノ粒子を図13に、実験例11で得られたVO2ナノ粒子を図14に、実験例12で得られたZrO2ナノ粒子を図15にそれぞれ示す。尚、図13および15には、比較的大きな粒子が数個存在しているように見えるが、さらに倍率を上げて観察することで、これらは、単に、ナノ粒子が近接して存在しているものであることを確認している。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1、2および図8〜15のTEM像などから明らかなように、特定の水溶性化合物の存在下では、金属フッ化物錯体の種類によらず、均質なナノオーダーの粒子径を有する金属酸化物粒子が得られることが分かる。また、図8A内、図9A内および図10A内に示したX線回折像では、生成した各金属酸化物ナノ粒子の単結晶の回折に特有のスポットが確認されており、また、図8Cおよび図9Cからも、本発明法により得られる金属酸化物ナノ粒子が、単結晶から成るものであることが分かる。
【0063】
またいずれの実験例においても、酸化物の合成に特別な注意を要することなく、実験例1等で記載した反応条件と同様に溶液を攪拌するのみでナノ粒子を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のナノ粒子は、粒度分布が狭く、且つ、ナノオーダーの平均粒子径を有するものであるため、顔料、触媒、電子材料、光学材料、磁性材料など各種機能性材料への応用が期待される。また、本発明のナノ粒子の内、金属酸化物の単結晶から成るものは、ナノサイズの金属酸化物粒子の有する特性の解析にも貢献し得るものと考えられる。また、本発明法によれば、特別な装置や、複雑な反応工程を採用することなく、穏やかな反応条件で、粒度分布が狭く、且つ、ナノオーダーの平均粒子径を有する粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実験例1で得られた二酸化チタン粒子のTEM像である。
【図2】実験例1で得られた二酸化チタン粒子の粒子径と、粒子径分布を示す図である。
【図3A】実験例1の結果を示す図であり、得られたTiO2粒子のTEM像およびX線回折像(内部の右上図)である。
【図3B】実験例1の結果を示す図であり、高分解能TEMにより撮影した粒子のTEM像である。
【図4】実験例2の結果を示すTEM像である。
【図5】実験例3の結果を示すグラフであり、金属酸化物粒子の平均粒子径と水溶性化合物の濃度との関係を示す図である。
【図6】実験例4の結果をで得られた金属酸化物粒子(水溶性化合物濃度0.9M)のTEM像である。
【図7】実験例4の結果を示すグラフであり、金属酸化物粒子の平均粒子径と水溶性化合物の濃度との関係を示す図である。
【図8A】実験例5の結果を示す図であり、得られたSiO2粒子のTEM像およびX線回折像(内部の右上図)である。
【図8B】実験例5の結果を示す図であり、高分解能TEMにより撮影した粒子のTEM像である。
【図8C】実験例5の結果を示す図であり、得られたSiO2粒子のX線回折結果を示すグラフである。
【図8D】実験例5の結果を示す図であり、粒子数に対する粒子径の分布を示すグラフである。
【図9A】実験例6の結果を示す図であり、得られたSiO2粒子のTEM像およびX線回折像(内部の右上図)を示している。
【図9B】実験例6の結果を示す図であり、高分解能TEMにより撮影した粒子のTEM像である。
【図9C】実験例6の結果を示す図であり、得られたSiO2粒子のX線回折結果を示すグラフである。
【図9D】実験例6の結果を示す図であり、粒子数に対する粒子径の分布を示すグラフである。
【図10A】実験例7の結果を示す図であり、得られたFeOOH粒子のTEM像およびX線回折像(内部の右上図)である。
【図10B】実験例7の結果を示す図であり、高分解能TEMにより撮影した粒子のTEM像である。
【図10C】実験例7の結果を示す図であり、粒子数に対する粒子径の分布を示すグラフである。
【図11A】実験例8の結果を示す図であり、得られたNb2O5のTEM像およびX線回折像(内部の右上図)である。
【図11B】実験例8の結果を示す図であり、高分解能TEMにより撮影した粒子のTEM像である。
【図11C】実験例8の結果を示す図であり、粒子数に対する粒子径の分布を示すグラフである。
【図12】実験例9で得られたTaO2粒子のTEM像である。
【図13】実験例10で得られたZnO粒子のTEM像である。
【図14】実験例11で得られたVn25粒子のTEM像である。
【図15】実験例12で得られたZrO2粒子のTEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が10nm以下で、粒子径の変動係数が20%以下であり、且つ、金属酸化物の単結晶からなることを特徴とするナノ粒子。
【請求項2】
平均粒子径が10nm以下であり、粒子径の変動係数が20%以下であり、且つ、二酸化ケイ素からなることを特徴とするナノ粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナノ粒子の製造方法であって、
水溶性化合物の存在下で、金属フッ化物錯体水溶液またはケイ素のフッ化物錯体水溶液から液相析出法によりナノ粒子を析出させることを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
上記水溶性化合物として、主鎖にオキシアルキレン基を有し、且つ、分子鎖の末端に1〜2個のヒドロキシル基(‐OH)を有するものを用いる請求項3に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
上記水溶性化合物の平均分子量が100〜700である請求項3または4に記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
上記水溶性化合物が、ポリエチレングリコールである請求項3〜5のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法。

【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10C】
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【図11C】
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【図1】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図6】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−44826(P2008−44826A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223664(P2006−223664)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月13日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第86春季年会(2006)講演予稿集1」に発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】