説明

ナノ粒子二酸化チタンを含む口腔ケア組成物

本発明は、歯牙酸蝕症及び/又はトゥースウェアを治療するための、フッ化物イオン源と一緒であってもよい、ナノ粒子二酸化チタンを含む口腔ケア組成物に関する。そのような組成物は、さらには歯を白くするのにも有益であり得る。フッ化物イオン源が存在している場合はそのような組成物は虫歯を治療するのにも有益である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙酸蝕症及び/又はトゥースウェアを治療するための(すなわち、予防、阻止及び/又は治療するのに役立つ)、場合によりフッ化物イオン源と共にナノ粒子二酸化チタンを含んだ口腔ケア組成物に関する。さらに、そのような組成物は歯を白くするのにも有益であり得る。フッ化物イオン源が存在する場合は、そのような組成物は虫歯(dental caries)を治療するのにも有益である。
【背景技術】
【0002】
歯の無機質は主にカルシウムヒドロキシアパタイト、Ca10(PO(OH)、から構成されており、これは炭酸塩やフッ化物のようなアニオン、さらには亜鉛やマグネシウムのようなカチオンで部分的に置換されていてもよい。歯の無機質は、また、非アパタイト系無機質相、例えばオクタカルシウムリン酸塩及び炭酸カルシウムも含み得る。
【0003】
歯の欠損は虫歯の結果として起こり得る。これは、乳酸などの細菌系の酸が、完全には再石灰化することはない表面下脱石灰化を起こして、進行性の組織欠損及び最終的には窩洞形成をもたらす多因子疾患である。虫歯にはプラークバイオフィルムの存在が必須要件であり、そしてストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)などの酸生成菌は、容易に発酵する炭水化物(例えば蔗糖)の濃度が長期間の間高められていると病原性となり得る。
【0004】
疾患が存在していない場合でも、歯牙硬組織の欠損は、酸侵蝕及び/又は物理的歯損傷の結果として起こり得る。そしてこれらの過程は相乗的に作用すると考えられている。歯牙硬組織の酸への暴露は脱石灰化を引き起こし、表面の軟質化及び無機質密度の低下をもたらす。正常な生理条件下では、脱石灰化された組織は、唾液の再石灰化効果によって自己修復する。唾液はカルシウム及びリン酸塩で過飽和されており、そして健康な個体において唾液分泌は酸負荷を洗い流す機能を果たし、さらにはpHを上げて平衡を無機質沈着に有利にする。
【0005】
歯牙酸蝕症(すなわち酸による侵蝕、又は酸による損耗)は、細菌に由来しない酸による、脱石灰化を伴う表面現象であって、最終的には歯表面が完全に溶解する。最も一般的には、この酸は、食べ物に由来するもの、例えば果物や炭酸飲料からのクエン酸、コーラ飲料からのリン酸、さらにはフレンチドレッシングからの酢酸である。歯牙酸蝕症は、胃によって産生される塩酸(HCl)との再三の接触によっても引き起こされ得、これは、胃食道逆流のような不随意反応によって、あるいは過食症の患者が遭遇し得る誘発された反応によって口腔に入り得るものである。
【0006】
トゥースウェア(すなわち物理的な歯損傷)は咬耗及び/又は磨耗によって引き起こされる。咬耗は、歯表面同士が互いにこすり合わさるときに生じる(二者損傷の形態)。多くの場合、きわだった例が、歯軋り(こする習性で、加えられる力は大きい)をする対象者で観察される咬耗であって、特に咬合面における加速された損傷を特徴としている。磨耗は、典型的には、三者損傷の結果として生じ、最も一般的な例が、練り歯磨きを用いてのブラッシングが関係する磨耗である。十分に石灰化されているエナメル質のケースでは、商業的に入手可能な練り歯磨きによって引き起こされる損傷のレベルはごく僅かであり、臨床上の影響もほとんど又はまったくない。しかしながら、エナメル質が侵蝕性の負荷に曝されたことによって脱石灰化されて軟質化されている場合は、エナメル質はよりトゥースウェア(歯損傷)しやすくなる。象牙質はエナメル質よりもずっと軟らかく、結果としてより損傷しやすい。象牙質が露出している対象者は、高度に研磨性の練り歯磨き、例えばアルミナ系の練り歯磨きの使用は避けるべきである。侵蝕性の負荷による象牙質の軟質化は、ここでも、その組織の損傷のしやすさを大きくするだろう。
【0007】
インビボでは、象牙質は、通常、その位置に応じて、すなわち歯冠部か歯根部かに応じて、それぞれ、エナメル質かセメント質で覆われている重要な組織である。象牙質は、エナメル質よりもずっと高い有機質含量を有しており、その構造は、象牙質−エナメル質又は象牙質−セメント質接合面の表面から象牙芽細胞/歯髄界面まで走行している内液で満たされた細管の存在を特徴としている。象牙質知覚過敏症の原因が、露出した細管中の液の流れにおける変化に関係していることは広く認められており(動水力学説)、これは、象牙芽細胞/歯髄界面の近くに位置していると考えられる機械的受容器の刺激を起こす。象牙質は、一般に、スミア層、すなわち主に象牙質そのものから由来する無機質及びタンパク質からなるが、さらに唾液からの有機質成分も含んでいる閉塞性の混合物で覆われているので、露出した象牙質のすべてが知覚過敏症であるということではない。時間と共に、細管の内腔は、次第に、石灰化された組織で閉塞され得る。歯髄の外傷又は化学的刺激に応答して修復の象牙質が形成されることも十分文献で述べられている。にもかかわらず、侵蝕性の負荷は、このスミア層及び細管「プラグ」を取り除いて、外に向かう歯液の流れを引き起こし得、象牙質を、熱、冷及び圧のような外部からの刺激をはるかにより受け易いものにする。先に示したように、侵蝕性の負荷は、象牙質表面をはるかにより損傷を受け易いものにもし得る。加えて、露出した細管の直径が大きくなるにつれて象牙質知覚過敏症もいっそう悪くなり、さらには細管の直径は象牙芽細胞/歯髄界面の方向に進むにつれて大きくなるので、進行性の象牙質損傷は、特に象牙質損傷が急速であるケースにおいては、知覚過敏症のさらなる悪化をもたらし得る。
【0008】
侵蝕及び/又は酸介在型損傷による保護エナメル層の欠損はその下にある象牙質を曝すことになるので、これが、したがって、象牙質知覚過敏症発生の第1の病因である。
【0009】
食べ物からの酸の取り込み量の増加、さらには一定の食事時間から離れることが、歯牙酸蝕症及びトゥースウェアの発生率の上昇をもたらしたとされている。これに鑑みると、歯牙酸蝕症及びトゥースウェアを予防するのに役立つ口腔ケア組成物は有益であると考えられる。
【0010】
特許文献1(Grace)は、歯の過敏症及び再石灰化で使用するための、0.05〜3ミクロンの粒子サイズを有する多孔質無機酸化物系の歯磨剤用添加剤に関するものである。無機酸化物粒子の例としては、SiO、Al2O、MgO、TiO及びZrOが挙げられている。
【0011】
特許文献2(Henkel)は、極性有機表面修飾剤でコートされた、10〜1000nmの平均粒子径を有するナノ粒子二酸化チタンに関するものである。この粒子は、歯光沢剤として適していると記載されている。適している表面修飾剤としては、カルボキシ、スルホノ、ホスホノ、イソシアノト、ヒドロキシ、アミノ、又はエポキシ基から選択される少なくとも1つの官能性基及び各種のシランを含む物質が挙げられている。好ましい表面修飾剤としては、カルボン酸群、ホスホン酸群、アミノ酸群、スルホン酸群ならびにある種のシラン群から選択される2つ以上の官能基を含む物質が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第00/59460号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/051945号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記した文献には、無機酸化物が、歯牙エナメル質を酸侵蝕及び/又はトゥースウェアから保護するのに有益又は有用であるという示唆はない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ナノ粒子二酸化チタンが、歯牙エナメル質を強化且つ硬質化し、それによって歯牙酸蝕症及び/又はトゥースウェアに対する保護がもたらされるという知見に基づくものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】300ppmフッ化物、20nmグリセリンコート二酸化チタン又は水によるエナメル質の事前処理が、それに続く1.0重量/重量%クエン酸(pH3.8)中での30分間にわたる軟質化に及ぼす効果を示すグラフである。
【図2】300ppmフッ化物、20nmグリセリンコート二酸化チタン、20nmPVPコート二酸化チタン、14nm非コート二酸化チタン、グリセリン又は水によるエナメル質の事前処理が、それに続く1.0重量/重量%クエン酸(pH3.8)中での軟質化に及ぼす効果を示すグラフである。
【図3】20nmナノ粒子TiOの2.5重量/体積%水性懸濁液、又は水単独で処理した後の、フッ化物含有人工唾液中におけるエナメル質侵蝕病変の再硬質化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従って、第1の態様において、本発明は、歯牙酸蝕症及び/又はトゥースウェアを治療するための口腔ケア組成物の製造におけるナノ粒子二酸化チタンの使用を提供する。
【0017】
二酸化チタンはコートされていなくてもよいし、また表面コートされていてもよい。
【0018】
好適には、二酸化チタンは、歯(エナメル質及び象牙質)表面へのその持続性を長期化する物質で表面コートする。好適には、そのような表面コート用物質は、コートされていないナノ粒子の懸濁液と混合されるときにその表面に吸着して立体又はイオン障壁を提供し、それによってその集塊又は凝集を防ぐのに役立ち得る、分散剤としても機能する。
【0019】
そのような表面コート用物質の例としては、ポリオールもしくはポリビニルピロリドン、又はそれらの誘導体が挙げられる。
【0020】
さらなる態様で、本発明は、ポリオールもしくはポリビニルピロリドン(PVP)、又はそれらの誘導体で表面コートされたナノ粒子二酸化チタンと、口腔用として許容される担体又は賦形剤とを含んでなる口腔ケア組成物を提供する。
【0021】
歯牙酸蝕症及び/又はトゥースウェアの治療に加えて、そのような組成物は、歯を白くすることにも有用であり得る。
【0022】
好適には、表面コート用物質は、グリセリン(グリセロール)、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ソルビトール、マンニトール又はキシリトールからなる群から選択される、多価アルコールであるポリオール、又はこれらの混合物である。
【0023】
好適には、表面コート用物質は、PVP、又はビニルピロリドンビニルアセタートコポリマー(VP/VA)やビニルポロリドンビニルアルコール(VP/VOH)コポリマーも含めたその誘導体、あるいはこれらの混合物である。
【0024】
好適には、ナノ粒子二酸化チタンは、グリセリン又はプロピレングリコールで表面コートされる。
【0025】
好適には、ナノ粒子二酸化チタンは、PVPで表面コートされる。
【0026】
表面コーティングは、コート用物質の二酸化チタンへの共有結合によって、又は静電的手段によって達成され得る。
【0027】
好適には、コートされていないナノ粒子二酸化チタンの懸濁液は、表面コート用物質の溶液と混合されて、コートされたナノ粒子の安定化されたディスパージョンをつくり得、これは、本発明の組成物の調製に直接用いることができ、あるいはこのコートされたナノ粒子は単離され、その後に続く本発明の組成物の調製に用いることができる。
【0028】
好適には、本発明の組成物中に用いるためのコートされていない又は表面コートされたナノ粒子二酸化チタンは、2nm〜500nmの、より好適には5nm〜250nmの平均粒子径を有する。
【0029】
本発明の組成物は、好適には、0.25〜20%(重量/重量)の、例えば0.5〜10%(重量/重量)のナノ粒子二酸化チタンを含む。
【0030】
ナノ粒子二酸化チタンを表面コートすることは歯表面への粒子の持続性を改善するという利点があり、これによって膜形成が促進され、接着の相互作用が増大され、抗侵蝕及び/又はトゥースウェア効果を示す期間が延びることになる。
【0031】
本発明の組成物は、さらに、コートされた又はコートされていないナノ粒子の表面に吸着して立体又はイオン障壁を提供し、それによってその集塊又は凝集を防ぐのに役立ち得る、分散剤を含み得る。好適な分散剤は、可溶化又は湿潤化剤や高分子電解質のような水溶性ポリマーも含めた界面活性剤である。
【0032】
本発明の組成物は、さらに、アルカリ金属フッ化物、例えばフッ化ナトリウム、アルカリ金属モノフルオロリン酸塩、例えばナトリウムモノフルオロリン酸塩、フッ化第1スズ、又はアミンフッ化物によって提供されるような可溶フッ化物イオン源を、25〜3500ppmのフッ化物イオン、好ましくは100〜1500ppmのフッ化物イオンを与える量で含み得る。好適なフッ化物源は、アルカリ金属フッ化物、例えばフッ化ナトリウムであり、例えば本組成物は、0.1〜0.5重量%のフッ化ナトリウム、例えば0.205重量%(これは927ppmのフッ化物イオンに等しい)、0.2542重量%(これは1150ppmのフッ化物イオンに等しい)又は0.315重量%(これは1426ppmのフッ化物イオンに等しい)のフッ化ナトリウムを含み得る。
【0033】
フッ化物イオンは、歯牙エナメル質の再石灰化を増進させ、脱石灰化を減少させ、またカリエス及び/又は歯牙酸蝕症の治療にも有益である。
【0034】
象牙知覚過敏症を治療するために、本発明の口腔組成物は、好適には、さらに、減感量の減感剤を含む。減感剤の例としては、例えば国際公開第02/15809号パンフレットに記載されているように、細管遮蔽剤や神経減感剤さらにはこれらの混合物が挙げられる。適している減感剤としては、ストロンチウム塩(例えば塩化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム又は硝酸ストロンチウム)やカリウム塩(例えばクエン酸カリウム、塩化カリウム、重炭酸カリウム、グルコン酸カリウム、さらには特に硝酸カリウム)が挙げられる。
【0035】
本発明の組成物は、研磨剤、界面活性剤、増粘剤、湿潤剤、香味剤、甘味剤、隠蔽又は着色剤、防腐剤及び水などの適切な製剤添加剤を含むものであり、これらは、そのような目的のために口腔ケア組成物中に慣用的に用いられているものから選択される。そのような添加剤の例は、欧州特許第929287号明細書に記載されているとおりである。
【0036】
本発明の口腔組成物は、典型的には、練り歯磨き、スプレー、マウスウォッシュ、ジェル、ロゼンジ、チューインガム、タブレット、トローチ、即席粉末、オーラルストリップ及びバッカルパッチの形態に製剤化される。
【0037】
本発明による組成物は、各成分を、適切な相対量で、都合のよい任意の順序で混合し、必要であればpHを所望の値になるよう調整することによって調製され得る。
【0038】
さらなる態様では、コートされていない又はコートされたナノ粒子二酸化チタンは、国際公開第2006/100071号パンフレット(この内容を参照により本明細書に組み込む)に記載されているタイプの歯磨剤組成物に組み込まれ得る。
【0039】
従って本発明は、さらに歯磨剤組成物も提供するものであり、この組成物は、本明細書において先に記載したナノ粒子二酸化チタンと、本明細書において先に記載したフッ化物イオン源と、シリカ歯科用研磨剤とを含み、この歯磨剤は、20〜60の相対的象牙質損耗値(Relative Dentine Abrasivity)(RDA)を有し、pHが6.5〜7.5の範囲にあり、オルトリン酸塩緩衝剤又はC10〜18アルキル硫酸塩水溶性塩は含まない。
【0040】
記載したpHは、歯磨剤組成物が、組成物:水が1:3の重量比になるよう水でスラリー化された場合に測定されるものである。
【0041】
好適には、ナノ粒子二酸化チタンは、本明細書において先に記載した分散剤と一緒に製剤化される。
【0042】
好適には、本発明の歯磨剤組成物は、遊離フッ化物イオンのアベイラビリティーを減らし得るカルシウム塩は含まない。
【0043】
適しているシリカ歯科用研磨剤の例としては、Huber、Degussa、Ineos及びRhodiaからそれぞれ商品名Zeodent、Sident、Sorbosil又はTixosilで販売されているものが挙げられる。シリカ研磨剤は、歯磨剤のRDAが20〜60、例えば25〜50、又は25〜40にあって、その歯磨剤による歯の適切なクリーニングを保証する一方で、歯の磨耗、特に歯牙酸蝕症を患っている歯又は酸の負荷によって軟質化されている歯の磨耗は促進しないことを保証するのに十分な量で存在しているべきである。
【0044】
シリカ研磨剤は、一般には、組成物全体の15重量%までの量、例えば2〜10重量%の量、一般には少なくとも5重量%例えば5〜7重量%の量で存在しており、好適には組成物全体の6重量%の量で存在している。シリカ研磨剤の濃度を減らすことは、歯磨剤の研磨性を下げることのみならず、いずれの研磨剤(又は研磨剤中の痕跡量の不純物)とフッ化物イオンとの相互作用も最小限にし、それによって遊離フッ化物イオンのアベイラビリティーが増大するという利点がある。
【0045】
本発明の歯磨剤組成物中に用いるのに適している界面活性剤としては、両性界面活性剤、例えば長鎖アルキルベタイン(例えばAlbright&Wilsonから商品名「Empigen BB」で販売されている製品)さらには好ましくは長鎖アルキルアミドアルキルベタイン(例えばコカミドプロピルベタイン)、又は低イオン性界面活性剤、例えばナトリウムメチルココイルタウラート(これはCrodaから商品名Adinol CTで販売されている)、又はこれらの混合物が挙げられる。両性界面活性剤は単一の界面活性剤として単独で用いられ得、また低イオン性界面活性剤とも組み合わせられ得る。
【0046】
好適には、界面活性剤は、組成物全体の0.1〜10重量%で、例えば0.1〜5重量%(例えば0.5〜1.5重量%)で存在している。
【0047】
例えば、適している増粘剤としては、例えば:(C1〜6)アルキルセルロースエーテル(例えばメチルセルロース);ヒドロキシ(C1〜6)アルキルセルロースエーテル(例えばヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース);(C2〜6)アルキレンオキシド修飾(C1〜6)アルキルセルロースエーテル(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース);のような非イオン性増粘剤、及びこれらの混合物が挙げられる。Irish Mossのような天然及び合成のガム又はガム様物質、キサンタンガム、ガムトラガカント、カラギーナン、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ポリマー(カルボマー)、デンプンさらには増粘シリカなどの他の増粘剤も用いられ得る。増粘剤は好適には、カラギーナン及び/又はカルボマーと一緒であってもよい、増粘シリカとキサンタンガムとの混合物である。
【0048】
増粘剤は好適には、組成物全体の0.1〜30重量%、例えば1〜20重量%(例えば5〜15重量%)で存在している。
【0049】
本発明の組成物中に用いるのに適している湿潤剤としては、例えば、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、プロピレングリコール又はポリエチレングリコール、又はこれらの混合物が挙げられ、これらは、組成物全体の10〜80重量%、例えば20〜60重量%(例えば25〜50重量%)で存在し得る。
【0050】
象牙質知覚過敏症を治療するために本発明の歯磨剤組成物は、さらに、本明細書において先に記載した減感剤、特に硝酸カリウムを含み得る。硝酸カリウムの存在は、有利なことには、汚れ除去効果の向上がもたらされ得、これは、低研磨性の製剤には特に有益なことである(そうでなければ、これは、比較的低いクリーニング性能を有していることが予測され得る)。
【0051】
本発明の歯磨剤組成物のpHは6.5〜7.5、好適には6.8〜7.2(例えば7.1)にあり、水酸化ナトリウムのような塩基を組み込むことによって調整され得る。
【0052】
さらなる態様で本発明はまた、本明細書において先に記載したナノ粒子二酸化チタンと、本明細書において先に記載したフッ化物イオン源(例えばアルカリ金属フッ化物)と、カラギーナン及び/又はカルボマーと一緒であってもよいキサンタンガムとの組み合わせにある増粘シリカを含んでなる増粘剤系と、陰イオン性界面活性剤(例えばC10〜18アルキル硫酸塩の水溶性塩、例えばナトリウムラウリルスルファート)と、組成物全体の20重量%まで(好適には5〜20重量%、例えば10〜16重量%)の量のシリカ歯科用研磨剤とを含んでなるもう1つの歯磨剤も提供し、この歯磨剤は6.0〜8.0(例えば6.5〜7.5)のpHを有し、さらにはオルトリン酸塩緩衝剤又はカルシウム塩は含まない。所望であればこのような歯磨剤組成物は、本明細書において先に記載した減感剤を含んでいてもよい。
【0053】
本発明はまた歯牙酸蝕症及び/又はトゥースウェアを治療する方法も提供するものであり、該方法には、本明細書において先に定義したナノ粒子二酸化チタンを含んだ組成物の有効量を、それを必要とする個人に適用することが含まれる。
【実施例】
【0054】
本発明を以下の実施例によりさらに説明する。
【0055】
(実施例1)エナメル質硬度の一尺度としてのマイクロインデンテーション(微小圧入)
ヒトエナメル質小片をアクリル樹脂に埋め込み、シリコンカーバイドペーパー(1200グリット及び2400グリット)を用いて平らに磨きあげた。この標本をこの後ランダム化し、3つの処理群(n=6)に分けた。3つの処理群は:300ppmフッ化物(フッ化ナトリウム);グリセリンコート二酸化チタン(平均粒子サイズは20nm)水性懸濁液[2.5重量/体積%(UV Titan M212,Kemira,Aston Chemicals)];及び脱イオン水;とした。各標本の基準硬度は、Vickersダイアモンド製インデンター(圧子)が装着されたStruers Duramin Microindentorを用いて決定した。硬度値は、ビッカーズ硬度数(Vickers Hardness Numbers)(VHN)として表した。標本には、1.961Nの荷重を滞留時間20秒で加えた。
【0056】
標本を、上記3つの試験溶液のうちの一つの30ml中に撹拌しながら120秒間設置し、その後脱イオン水で濯ぎ洗いした。処理の後、微小硬度測定をもう一度行った。この後埋め込まれた標本を30分間10mlのクエン酸1.0重量/重量%溶液(pH3.8)中でインキュベートすることにより侵蝕を行った。この侵蝕負荷から10分の間隔で標本を取り出し、その表面微小硬度を決定した。
【0057】
前もって2.5重量/体積%グリセリンコート二酸化チタン水性懸濁液、2.5重量/体積%標準的ミクロンサイズ二酸化チタン水性懸濁液、及び水単独中でインキュベートしたヒトエナメル質標本に対して走査型電子顕微鏡検査を行い、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X−ray Analysis)(EDX)を用いて、流水で1分間洗浄した後のエナメル質表面上のチタンを特定した。
【0058】
(結果)
軟質化試験の結果は図1にまとめられている。各エナメル質硬度の値は個々の基準微小硬度値に対して正規化されており、したがって、後に続く時間点におけるデータはエナメル質の軟質化を反映している。図1中のエラーバーは標準偏差を表す。
【0059】
300ppmフッ化物又は水で処理したエナメル質標本は、すべて、それらがクエン酸に暴露されていた間に軟質化し、インキュベーション時間が長くなるにつれて増大した。ナノ粒子懸濁液で処理した標本は、クエン酸への暴露の最初の10分の間は有意には軟質化しなかった。酸中でのインキュベーションの20分後及び30分後では、フッ化物又は二酸化チタンナノ粒子懸濁液で処理したエナメル質は、水で処理したエナメル質よりも有意により少なく軟質化した。クエン酸暴露の20分後では、フッ化物で処理した標本、ナノ粒子懸濁液で処理した標本は、その軟質化の程度は同等であった。クエン酸への暴露30分後では、ナノ粒子懸濁液で処理したサンプルは、300ppmフッ化物で処理したサンプルに比べて一方向への軟質化はより少なかった。
【0060】
ナノ粒子二酸化チタンの2.5重量/体積%水性懸濁液中で2分間インキュベートした、磨きあげられたヒトエナメル質の走査型顕微鏡検査(SEM)は、このエナメル質の表面が無機質破片で広範囲にわたって覆われていることを示した。対照的に、標準的ミクロンサイズ二酸化チタンの2.5重量/体積%懸濁液中でインキュベートしたエナメル質のSEM画像は、この組織の表面には物質がほとんど存在していないことを示した。
【0061】
これらのヒトエナメル質標本を、この後1.0重量/重量%クエン酸(pH3.8)に30分間曝し、その後その表面をSEMにより再検査した。ナノ粒子懸濁液で処理したエナメル質の表面は平滑であり、さらには磨きあげの線もはっきり認められた。水で処理したエナメル質は、表面が食刻されて脱石灰化されたエナメル質に現れる露出したエナメル小柱を表すハニカムパターンを示した。
【0062】
エナメル質の表面に対して行ったエネルギー分散型X線分析(EDX)により、ナノ粒子懸濁液で処理したサンプル中には、エナメル質無機質そのもの由来のカルシウム及びリンに加えてチタン及び酸素も存在していることが確認された。標準的二酸化チタンで処理したエナメル質のEDXスペクトルは、チタンの痕跡は示さなかった。
【0063】
このインビトロ微小硬度調査により、2.5重量/体積%水性懸濁液としての、グリセリンで表面コートされた二酸化チタン(20nmの平均粒子サイズを有する)による処理は、ヒトエナメル質のクエン酸誘発軟質化を防ぐことが示された。この効果は、統計的には、10分の酸暴露後で、300ppmフッ化物による処理で見られた効果より優れており、さらには続いての時間点でも同等か又は方向的には優れている。加えて、ナノ粒子懸濁液で処理したエナメル質は、洗浄の後、有意な二酸化チタンの表面コーティングを保っていることも示され、これが、組織表面のクエン酸誘発脱石灰化を防ぐのである。
【0064】
上述したのと同じ方法を用いて行ったさらなる微小硬度調査により、(図2にまとめられているように)2.5重量/体積%水性懸濁液としての、グリセリンで表面コートされたナノ粒子二酸化チタン(平均粒子サイズ20nm)による処理は、PVPで表面コートされた二酸化チタン、ステアリン酸で表面コートされた二酸化チタン、又はコートされていない二酸化チタンナノ粒子懸濁液による処理よりも、より大きい程度にヒトエナメル質のクエン酸誘発軟質化を防ぐことが示された。しかしながら、コートされていない二酸化チタンナノ粒子及びPVPで表面コートされた二酸化チタンナノ粒子は、クエン酸負荷に対して、300ppmフッ化物による処理(正対照)と同じような保護を与えた。
【0065】
この調査で試験した各処理は、2.5重量/体積%二酸化チタン、具体的には20nmグリセリンコート二酸化チタン(UV Titan M212,Kemira,Aston Chemicals)、20nmPVPコート二酸化チタン(UV Titan M263,Kemira,Aston Chemicals)、17nmステアリン酸コート二酸化チタン(UV Titan M160,Kemira,Aston Chemicals)及び14nm非コート二酸化チタン(UV Titan X140,Kemira,Aston Chemicals)水性懸濁液であった。この調査では、グリセリンのみの負対照が用いられた。
【0066】
(実施例2)エナメル質侵蝕病変の再硬質化
研磨された、アクリル樹脂に埋め込まれたヒトエナメル質に人工的な侵蝕病変を作製した。この病変は、埋め込まれた標本を30分間10mlの1.0重量/重量%クエン酸溶液(pH3.75)中に接触させておくことによって作製した。各侵蝕された標本の基準硬度は、Vickersダイアモンドインデンター(圧子)が装着されたStruers Duramin Microindentorを用いて決定した。硬度値は、ビッカーズ硬度数(VHN)として表した。標本には1.961Nの荷重を加え、滞留時間は20秒であった。標本をこの後ランダム化し、4つの処理群に分けた(n=6)。
【0067】
3つの攪拌されているナノ粒子TiO水性懸濁液のうちの一つの中に6つのエナメル質標本を120秒間入れ、さらには対照の水の中にも入れた。試験したナノ粒子は、2.5重量/体積%二酸化チタン(14nm、UV Titan X140、Lot:0417002、Kemira,Aston Chemicals)、2.5重量/体積%グリセリンコート二酸化チタン(20nm UV Titan M212、Lot:0132004、Kemira,Aston Chemicals)、2.5重量/体積%PVPコート二酸化チタン(20nm UV Titan M263、Lot:0339001、Kemira,Aston Chemicals)であった。
【0068】
標本をこの後取り出し、脱イオン水で洗浄し、そして10mlの300ppmフッ化ナトリウム含有溶液中にさらに120秒間入れた。さらなる洗浄処置の後、エナメル質を、0.02ppmのフッ化物を含むムチン非含有人工唾液中でインキュベートした。多くの研究により、安静時プラーク及び唾液には0.02〜0.04ppmのフッ化物が含まれていることが明らかにされている。人工唾液への0.02ppmの濃度でのフッ化ナトリウムの添加は、普通の練り歯磨きのブラッシングによるフッ化物のインビボキャリーオーバー(持ち越し)を模擬するために行ったものである。
【0069】
エナメル質は最初にナノ粒子懸濁液で処理し、そしてその後フッ化ナトリウム溶液で処理した。これにより、二酸化チタン粒子には、フッ化物の取り込み、つまりエナメル質の再硬質化に影響を及ぼすための最も高いポテンシャルが提供される。標本の再硬質化を、マイクロインデンテーションを用いて4時間、24時間及び48時間の時間点において決定した。各標本に対しては各時間点において6つのインデントを取った。
【0070】
(結果)
この再硬質化の調査結果は図3にまとめられている。エナメル質硬度の値は、エナメル質の酸による軟質化後に得られた硬度に対して正規化されている。後に続く時間点におけるデータはしたがってエナメル質の再硬質化を反映している。図3中のエラーバーは標準偏差を表す。
【0071】
エナメル質標本は、すべて、0.02ppmのフッ化物を含有している人工唾液にそれらが曝されている間に再硬質化した。標準偏差を踏まえると、この実験では正対照といずれの処理の間にも統計的に有意な差はなかった。
【0072】
このインビトロ微小硬度再硬質化の調査により、グリセリンで表面コートされた、又はPVPで表面コートされた、又はコートされていないナノ粒子二酸化チタンの2.5重量/体積%水性懸濁液による処理は、インビトロでは、クエン酸で軟質化されたヒトエナメル質のフッ化物誘発再硬質化には害がないことが明らかにされた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯牙酸蝕症及び/又はトゥースウェアを治療するための口腔ケア組成物の製造におけるナノ粒子二酸化チタンの使用。
【請求項2】
ナノ粒子二酸化チタンが、コートされていない、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ナノ粒子二酸化チタンが、表面コートされている、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
ナノ粒子二酸化チタンが、該ナノ粒子二酸化チタンの歯表面への持続性を高める物質で表面コートされている、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
表面コート用物質が、コートされていないナノ粒子と混合されるときにその表面に吸着して立体又はイオン障壁を提供し、それによってナノ粒子の集塊又は凝集を防ぐのに役立ち得る分散剤としても機能する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
ナノ粒子二酸化チタンが、ポリオール又はポリビニルピロリドン(PVP)又はそれらの誘導体で表面コートされている、請求項4又は5に記載の使用。
【請求項7】
ポリオール又はポリビニルピロリドン(PVP)又はそれらの誘導体で表面コートされたナノ粒子二酸化チタンと、口腔用として許容される担体又は賦形剤とを含む口腔ケア組成物。
【請求項8】
表面コート用物質が、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ソルビトール、マンニトール又はキシリトールからなる群から選択されるポリオール、又はこれらの混合物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
表面コート用物質が、PVP、VP/VAコポリマーもしくはVP/VOHコポリマー、又はこれらの混合物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
表面コート用物質が、グリセリン又はプロピレングリコールである、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項11】
表面コート用物質が、PVPである、請求項7又は9に記載の組成物。
【請求項12】
表面コートされたナノ粒子二酸化チタンの平均粒子径が2〜500nmである、請求項7〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
表面コートされたナノ粒子二酸化チタンの平均粒子径が5〜250nmである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
表面コートされたナノ粒子二酸化チタンが、0.25〜20重量/重量%の量で存在している、請求項7〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
さらにフッ化物イオン源を含んでいる、請求項7〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
さらに減感剤を含んでいる、請求項7〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
減感剤がストロンチウム塩又はカリウム塩である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記請求項のいずれか一項で定義したナノ粒子二酸化チタンと、フッ化物イオン源と、シリカ歯科用研磨剤とを含む歯磨剤組成物であって、その相対的象牙質損耗値(RDA)が20〜60であり、pHが6.5〜7.5の範囲内にあり、オルトリン酸塩緩衝剤又はC10〜18アルキル硫酸塩の水溶性塩を含まない、前記歯磨剤組成物。
【請求項19】
前記請求項のいずれか一項で定義したナノ粒子二酸化チタンと、フッ化物イオン源と、場合によりカラギーナン及び/又はカルボマーと共にキサンタンガムを組み合わせた増粘シリカを含む増粘剤系と、陰イオン性界面活性剤と、さらには組成物全体の20重量%までの量のシリカ歯科用研磨剤とを含む歯磨剤組成物であって、そのpHが6.0〜8.0の範囲内にあり、さらにはオルトリン酸塩緩衝剤又はカルシウム塩を含まない、前記歯磨剤組成物。
【請求項20】
前記請求項のいずれか一項で定義したナノ粒子二酸化チタンを含む組成物の有効量を、それを必要としている個人に適用することを含む、歯牙酸蝕症及び/又はトゥースウェアを治療する方法。

【公表番号】特表2010−501528(P2010−501528A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525072(P2009−525072)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/058746
【国際公開番号】WO2008/023041
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】