説明

ナノ粒子作製装置とそれを用いたナノ粒子作製方法

【課題】本発明は、ナノ粒子生成技術の内、アークプラズマを利用した技術をより一層改良することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、炉内に設置した両電極間に発生したアークプラズマにより、無機塊状物からナノ粒子を生成するナノ粒子作製装置であって、前記無機塊状物の設置個所にカーボンるつぼが配置され、当該カーボンるつぼに前記無機塊状物を保持させて、前記アークプラズマを発生させ得るようにしてあることを特徴とするナノ粒子作製装置を採用した。また、前記ナノ粒子作製装置を用いたナノ粒子作製方法であって、ナノ粒子生成中の前記炉内の雰囲気は、窒素単独若しくは窒素が50vol%以上含有されている不活性ガスとしたことを特徴とする手段を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉内に設置した両電極間に発生したアークプラズマにより、無機塊状物からナノ粒子を生成するナノ粒子作製装置とそれを用いたナノ粒子作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiC等のナノ粉末の製造法には、大別して以下の3つのプロセスがある(たとえば、非特許文献1、2参照)。
1)塊をボールミル、振動ミルなどの機械的な粉砕技術により微粉砕した後、化学的精製処理、脱酸・解砕して、平均粒径400−700nmのSiC粒子を得る。
2)有機ポリマーの熱分解および合成されるべき元素の反応などを利用した気相中での合成である。
3)特許文献1から3に示されているように、アークプラズマを使用して塊状物からナノ粒子を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このようなナノ粒子生成技術の内、アークプラズマを利用した技術をより一層改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1のナノ粒子作製装置は、 炉内に設置した両電極間に発生したアークプラズマにより、無機塊状物からナノ粒子を生成するナノ粒子作製装置であって、前記無機塊状物の設置個所にカーボンるつぼが配置され、当該カーボンるつぼに前記無機塊状物を保持させて、前記アークプラズマを発生させ得るようにしてあることを特徴とするナノ粒子作製装置。
発明2は、発明1のナノ粒子作製装置において、前記カーボンるつぼは陽極電極上に設置してあることを特徴とするナノ粒子作製装置。
【0005】
発明3は、発明1又は2のナノ粒子作製装置を用いたナノ粒子作製方法であって、ナノ粒子生成中の前記炉内の雰囲気は、窒素単独若しくは窒素が50vol%以上含有されている不活性ガスとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
前記のようにカーボンるつぼを利用することで、無機塊状物がアークプラズマにて加熱された温度が、他に逃げず、安定した温度で無機塊状物のナノ粒子化が行えるようになった。
また、サーマルショックもなくなり、安定してナノ粒子を発生させることができた。
【0007】
また、窒素を50vol%以上含有することで、その生成効率を向上することができた。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ナノ粒子作製装置の概略図である。
【図2】塊状SiCおよびC/Si=1/1の混合粉末成形体に窒素プラズマを照射して得られたナノ粒子のX線回折結果である。
【図3】SiCナノ粒子のBET比表面積測定の結果から得られる平均粒径を示したグラフである。
【図4】塊状SiCに100vol%N2プラズマを照射して得られたナノ粒子の透過顕微鏡写真である。
【図5】50vol%N2−Arおよび100vol%N2雰囲気で塊状SiCに窒素プラズマを照射して発生したSiCナノ粒子の発生速度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施例を示し、この出願の発明の窒素プラズマによるSiCナノ粒子の製造法についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0010】
図1は、ナノ粒子作製装置の概略図である。
【0011】
ナノ粒子作製装置は、熱プラズマ炉、アーク放電用直流電源、ナノ粒子捕集用フィルター(日本精線、60φ×200、細孔径約3μm)、真空ポンプ、循環ポンプなどから構成されている。
【0012】
アーク放電は、陽極の水冷銅ハース上の試料(無機塊状物)、陰極のタングステン電極間に発生するが、試料のサーマルショックの予防と水冷銅ハースによる試料への熱効率低下を抑制するために、水冷銅ハース上にカーボンるつぼを置き、その上に試料を置く。炉内で発生するナノ粒子は循環ポンプによるガス流により冷却されながら運ばれ、ナノ粒子捕集用フィルターで捕集される。
【0013】
出発原料として、SiC(高純度化学研究所、純度99.99%以上)の塊状体と混合粉末成形体を用いた。混合粉末成形体は、粉末C(高純度化学研究所、純度99.9%以上、粒径20μm)と粉末Si(高純度化学研究所、純度99.9%以上、粒径150μm)をmol比C/Si=1/1およびC/Si=6/4で混合し、結合剤であるPVB(ポリビニルブチラール)を約7.5wt%添加して240kg/cmで一軸成形した均一な混合粉末成形体である。
【0014】
雰囲気は、50vol%N2−Arおよび100vol%N2とした。
【0015】
塊状SiCについては、前述のナノ粒子作製装置のカーボンるつぼの上に載せ、真空ポンプで炉内を0.13Pa以下の真空とした。この後、各雰囲気ガスを導入し、炉の圧力を0.1MPaに保ち、循環ポンプを作動させた。電流を150Aに設定し、陰極と陽極である水冷銅ハースおよびカーボンるつぼ間にアークプラズマを発生させた。アークプラズマは初期にはカーボンるつぼに照射し、塊状SiCが加熱した後にアークプラズマを塊状SiCに照射した。
【0016】
粉末Cと粉末Siの混合粉末成形体については、カーボンるつぼの上に載せ、真空ポンプで炉内を0.13Pa以下の真空にした後、PVBの除去とアークプラズマによる粉末の飛散を抑制するために、雰囲気に100vol%Arを用いてArプラズマを発生させ、混合粉末成形体に照射し、加熱した。加熱時間は10sec程度とし、加熱後すぐに炉内を真空にした。この後の操作は、塊状SiCのときと同様にした。
【0017】
窒素プラズマを出発原料に照射するのと同時にプラズマフレームの周辺から煙状のナノ粒子が激しく噴出する様子が観察された。このような特異現象は100vol%Ar雰囲気下では観察されなかった。
【0018】
発生したナノ粒子について、X線回折測定(日本電子、JDX−3500)による相の同定、BET法による平均粒径の算出およびナノ粒子の発生速度の測定を行った。
【0019】
図2(a)(b)に、出発原料に塊状SiCを、図2(c)(d)に、出発原料にC/Si=1/1の混合粉末成形体を用いたときに発生したナノ粒子の50vol%N−Arおよび100vol%N雰囲気におけるX線回折測定の結果を示した。全般的にSiCのピークが主体であり、50vol%N−Ar雰囲気では僅少のSiピークが生成している。
【0020】
なお、C/Si=6/4の混合粉末成形体を用いたときに発生したナノ粒子は、SiCと不純物Si、Cを含んだものであった。出発材料をCリッチ状態にしても不純物Siの生成を抑制することはできなかった。
【0021】
図3に、得られたナノ粒子のBET比表面積測定の結果から得られる平均粒径を示した。図3(a)(b)は、出発原料が塊状SiCの場合で、図3(c)(d)は、出発原料がC/Si=1/1の混合粉末成形体の場合である。
【0022】
ナノ粒子の平均粒径D(m)は次式で求められる。
【0023】
D=6/S・ρ・106
ここで、Sは比表面積(m2/g)、ρはナノ粒子の密度(g/cm3)である。
【0024】
いずれの場合も、窒素を有する雰囲気中で発生したナノ粒子は、平均粒径が十分小さいことが確認される。
【0025】
図4は、塊状SiCを100vol%N2でプラズマ照射して得られたナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。
【0026】
形状は多角形状を示し、10〜80nm程度の大きさの粒子が混在しているのが認められる。このサイズは、前述のBET法による平均粒径とよく一致している。
【0027】
図5に、50vol%N2−Arおよび100vol%N2雰囲気で塊状SiCに窒素プラズマを
照射したときに発生したナノ粒子の発生速度を示した。発生速度は、窒素プラズマ照射前と照射後の出発原料の質量損失量をアークプラズマ照射時間で除して算出したものである。図5から確認されるように、雰囲気中の窒素濃度の増大とともに発生速度が比例して増大しているのがわかる。この現象は、SiC混合粉末成形体についても同様の結果を得ている。これらの結果は、出発原料を金属に置き換えて行った際に見られる現象と酷似しており、窒素ガスが熱プラズマにより活性化されることによる一種の強制蒸発現象であると考えられる。
【0028】
以上から明らかにされるように、この出願の発明の窒素プラズマによるSiCナノ粒子の製造方法は、不純物の少ない、平均粒径の小さなSiCナノ粒子の製造を可能にする。また、窒素プラズマを用いることから、安全であり、経済的に優れたSiCナノ粒子の製造法であると考えられる。
【0029】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施例によって限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上詳しく説明したとおり、実施例では高純度で平均粒径の小さなSiCナノ粒子が高効率に製造される。比較的簡便なアーク溶解炉を基本とした熱プラズマ炉を用い、窒素ガスを用いることから、経済的であるとともに、安全性において優れており、波及効果は大きいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開昭60−228609
【特許文献2】特開平02−022405
【特許文献3】特表平09−502920
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】阿諏訪 守,SiC系セラミックス新材料,内田老鶴圃,日本学術振興会他・第124委員会編,p.122−123 (2001)
【非特許文献2】伊藤 淳,SiC系セラミックス新材料,内田老鶴圃,日本学術振興会他・第124委員会編,p.147−149 (2001)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に設置した両電極間に発生したアークプラズマにより、無機塊状物からナノ粒子を生成するナノ粒子作製装置であって、前記無機塊状物の設置個所にカーボンるつぼが配置され、当該カーボンるつぼに前記無機塊状物を保持させて、前記アークプラズマを発生させ得るようにしてあることを特徴とするナノ粒子作製装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ粒子作製装置において、前記カーボンるつぼは陽極電極上に設置してあることを特徴とするナノ粒子作製装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のナノ粒子作製装置を用いたナノ粒子作製方法であって、ナノ粒子生成中の前記炉内の雰囲気は、窒素単独若しくは窒素が50%以上含有されている不活性ガスとしたことを特徴とするナノ粒子作製方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−95442(P2010−95442A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280039(P2009−280039)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【分割の表示】特願2004−178941(P2004−178941)の分割
【原出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】