説明

ナフタレン環を有するシリコーン重合体、およびその組成物

【課題】
膜厚5μmでもRaが0.01以下、Rmaxが0.10以下の優れた平滑性を持ち、かつ、高クラック耐性、高透過性、高耐熱性、高耐溶剤性の特性を有する膜を形成できる特性を有する新規シリコーン重合体を提供する。液晶表示素子や半導体素子等の電子部品の絶縁膜材料として有用なシリコーン重合体を提供する。

【解決手段】
下記一般式
【化1】


(式中、Rはナフタレン環を有する炭化水素基を示す。)
で示される繰り返し単位を有するシリコーン重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子や半導体素子等の電子部品の絶縁膜材料として有用なナフタレン環を含む炭化水素基を有するシリコーン重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子や半導体素子等の電子部品に用いられる絶縁膜としては、可視光で透過性が高い高透明性や、素子を製造する際の各種処理工程に耐えられる耐熱性、耐薬品性、クラック耐性などの特性を兼ね備えた樹脂の必要性が高まっている。その中で、シルセスキオキサン骨格を有するシリコーン樹脂は、光学特性や耐熱性等に優れた性能を有し、これらの特性を利用して広く利用されてきた。
【0003】
しかし、その硬化膜は特に1μm以上の膜厚で膜にクラックが入りやすく用途が限定されていた。重要な特性であるクラック耐性を有する材料として、特許文献1に記載されるエポキシ基含有シリコーン樹脂の例が開示されている。しかし、クラック耐性は優れているが、300℃以上の熱処理工程には耐えられず、耐熱性が不十分であった。
【0004】
一方、LSI製造では膜表面の平坦性が重要であり、加熱による膜形成後の膜表面が平坦であることが求められている。例えばLSI製造の多層配線工程において、加熱により形成した膜が平坦でない場合は、その上に膜形成した場合、新たに形成した膜が均一にならずにムラのある膜が形成してしまう可能性がある。そのように形成した膜に露光した場合、不均一な膜界面付近で光の乱反射や散乱が生じ、均一なパターン形成そのものができない。このように膜表面の平坦性が光学特性、機械特性などの膜特性に影響を与える場合が多いため、平坦な膜が求められている。
【0005】
ここで膜の平坦性については、表面粗さRaで表示される(JIS−B0601)。ここでRaは引っ掻き深さの算術平均の測定値であり、粗さの曲線と中心線とにより囲まれた部分の面積を測定長さで割った平均偏差つまり測定長さでの個々の深さの平均値をいう。また他にも表面粗さを示すパラメーターとしてRmaxが用いられ、これは測定長さにおける最高点から最低点までの最大深さである。これら数値が大きいほど表面が粗く、数値が小さい材料が求められていた。
【0006】
例えば、厚膜で平坦性が求められている材料として、特許文献2に記載されるようなフレキシブル基板がある。この例では、ポリイミドシロキサンおよび両末端エポキシシロキサンの組成物を熱硬化して、膜厚7.5〜35μmという厚膜のフィルムを形成できているが、Raが0.1μm程度と大きく、また硬化温度が80℃と低いため高沸点溶剤を含むワニスを用いるような膜焼成温度が300℃以上のプロセスには適していない。
【0007】
以上のことから、1μm以上、さらには5μm以上の厚膜で耐熱性、光透過性を有し、Ra、Rmaxが小さく表面が平坦なシリコーン材料が望まれていた。
【特許文献1】特開2001−040094号公報
【特許文献2】特開2004−91648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた平滑性を持ち、かつ、高クラック耐性、高透過性、高耐熱性、高耐溶剤性の特性を有する膜を形成できる新規シリコーン重合体を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rはナフタレン環を有する炭化水素基を示す。)
で示される繰り返し単位を有するナフタレン環を有するシリコーン重合体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシリコーン重合体は、ナフタレン環を含む炭化水素基を有するシルセスキオキサン骨格を有している。シルセスキオキサン単位を含むシリコーン重合体にナフタレン環を含む炭化水素基を有するシリコーン重合体を加えて形成した組成物は、200℃以上に熱をかけることにより容易にシリコーン膜を形成することができ、そのシリコーン膜は、高い平坦性と優れたクラック耐性を示す。また耐熱性と耐溶剤性に非常に優れた特性を有する。
【0013】
本発明のシリコーン重合体は、透明性、耐熱性、耐薬品性、クラック耐性などの特性を兼ね備えた材料であることから、液晶表示素子や半導体素子等の電子部品に用いられる絶縁膜として利用できる。また、本発明のシリコーン重合体は電子材料分野に限らず、塗料や接着剤等、幅広い分野で応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のナフタレン環を有するシリコーン重合体は、下記一般式
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、Rは、ナフタレン環を有する炭化水素基を示す。)
で示される繰り返し単位を有するシリコーン重合体である。
【0017】
本発明のナフタレン環を有するシリコーン重合体の下記骨格
【0018】
【化3】

【0019】
は、シルセスキオキサン骨格を示し、各ケイ素原子が3個の酸素原子に結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子に結合していることを示す。シルセスキオキサン骨格は、例えば、下記一般式
【0020】
【化4】

【0021】
に示す構造式で示すことができる。
【0022】
また、本発明のナフタレン環を有するシリコーン共重合体は、例えば、下記一般式
【0023】
【化5】

【0024】
で示されるラダー型シリコーン共重合体でも良い。
Rとして示されるナフタレン環を有する炭化水素基としては、ナフタレン環に炭化水素基が結合していても良く、好ましい例として、下記一般式
【0025】
【化6】

【0026】
(式中、Dは水素原子または有機基を示しナフタレン環に結合している。Eは炭化水素基を示す。)
に示すナフタレン環を有する炭化水素基が挙げられる。
【0027】
ナフタレン環に結合している置換基Dの好ましい例としては、水素原子または炭素数1から10の直鎖状、分枝状、環状の炭化水素基、または、エーテル結合を有する有機基、エステル結合を有する有機基が挙げられる。中でも、原料入手やモノマー精製の行いやすさから、水素原子またはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基や、メトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、カルボン酸、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基がより好ましく、水素原子、メチル基、メトキシ基がさらに好ましい。
【0028】
シルセスキオキサンのケイ素に結合している置換基Eの好ましい例として、炭素数1から10の直鎖状、分枝状、環状の炭化水素基または、エステル基を含有する炭化水素基が好ましく、原料入手やモノマー精製の行いやすさから、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、iso−プロピレン基、カルボニルオキシプロピル基がより好ましく、メチレン基、エチレン基、カルボニルオキシプロピル基がさらに好ましい。
【0029】
特に好ましいナフタレン環を有する炭化水素基は、下記一般式
【0030】
【化7】

【0031】
で示すナフタレン環を含む炭化水素基である。
【0032】
本発明のナフタレン環を有するシリコーン共重合体は、重量平均分子量(ポリスチレン換算)が、500〜20,000の範囲にあるものが好ましく、500〜8,000の範囲にあるものがさらに好ましい。本発明のシリコーン共重合体は、分散度が1.1〜2.5の範囲にあるものが好ましく、1.1〜1.8の範囲にあるものがさらに好ましい。
【0033】
重量平均分子量の測定には、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(以後GPCと略す)装置を用いて測定を行い、本製品では東ソー製GPC測定装置HLC−8220を用いて測定を行った。測定では、東ソー製GPCカラム(TSKgel GMHXLを2本並列)を使用し、ポリスチレンを標準物質として検量線を作成し、その後測定を行った。また分散度は測定から得られた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で表される。一般に重量平均分子量が20,000以上になると分散度も1.8以上になり、有機溶媒に不溶となる場合がある。
【0034】
本発明のナフタレン骨格を有するシリコーン重合体は、好ましくは、有機溶媒に可溶であり、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、シクロへキサノール等のアルコール溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系溶媒に可溶である。
【0035】
下記一般式で示される本発明の
【0036】
【化8】

【0037】
(式中、Rはナフタレン環を有する炭化水素基を示す。)
で示されるナフタレン環を有するシリコーン重合体を製造する場合、例えば、下記で示される水を用いた加水分解反応、重縮合反応で合成することができる。
【0038】
【化9】

【0039】
(式中、Rはナフタレン環を有する炭化水素基を示す。Xは加水分解性基を示す。)
【0040】
ここで、Xは加水分解性基を示すが、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン原子、もしくはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基が好ましく、特に塩素原子、メトキシ基、エトキシ基が原料入手と反応性が高いことから特に好ましい。
【0041】
この加水分解、重縮合反応は水を用いて行うが、通常触媒を加えて行うことが好ましい。この場合、分子量制御の観点から酸性条件で行うことが好ましく、塩酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等の触媒を使用することが特に好ましい。この触媒使用量は原料モノマーのモル数に対して0.01〜1.0当量が好ましく、0.05〜0.5当量がさらに好ましい。
【0042】
加水分解、重縮合条件として、反応温度0〜100℃が好ましく、触媒を使用することにより反応が容易に進行することから、10〜40℃がより好ましい。
【0043】
この加水分解、重縮合反応には水が必要であるが、原料モノマーのモル数に対して3〜100当量使用することが好ましく、5〜50当量使用することが特に好ましい。
【0044】
この反応では、有機溶媒を使用することが好ましく、有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の非プロトン性溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒、等の溶媒を使用することができる。
【0045】
反応終了後は、非極性溶媒を添加して反応生成物と水とを分離して、有機溶媒に溶解した反応生成物を回収し、水で洗浄後に溶媒を留去することにより目的の生成物を得ることができる。
【0046】
例えば、このようにして本発明のシリコーン重合体を合成することができる。
【0047】
本発明のナフタレン環を有するシリコーン重合体と、下記一般式
【0048】
【化10】

【0049】
(式中、Aは、芳香族炭化水素基を有する炭化水素基を示し、Bは、脂肪族炭化水素基を示す。mとnはモル%を示し、0≦m、n≦100を示す。ただしm+n=100である。)
で示されるシルセスキオキサン単位を有するシリコーン重合体との組成物は、200℃以上の加熱後によりシリコーン膜を形成し、形成したシリコーン膜は、クラック耐性と平坦性を優れた材料になる。
【0050】
下記一般式
【0051】
【化11】

【0052】
(式中、Aは芳香族炭化水素基を有する炭化水素基を示し、Bは脂肪族炭化水素基を示す。mとnはモル%を示し、0≦m、n≦100を示す。ただしm+n=100である。)
で示されるシルセスキオキサン単位を含むシリコーン重合体のAとして示される芳香族炭化水素基は、好ましい例として、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ジフェニルメチル基、シンナミル基、スチリル基、トリチル基等のベンゼン環と炭化水素基とを有した置換基、トルイル基、クメニル基、メシル基、キシリル基等のベンゼン環に置換基が結合した芳香族炭化水素基等が挙げられる。4−メチルフェニルエチル基、4−メチルフェニルプロピル基、2,4−ジメチルフェニルエチル基等、ベンゼン環に置換基が結合していても良い。
【0053】
芳香族炭化水素基は、加熱による膜形成時における樹脂の耐熱性を向上させる効果があり、樹脂の耐熱性を向上させることが出来る。芳香族炭化水素基は、フェニル基、トルイル基、クメニル基、メシル基、キシリル基等の芳香族炭化水素基が、特に好ましく、一般的に入手が容易なフェニル基が、さらに好ましい。芳香族環とシリコン原子との間に置換基があると、置換基がない場合と比較して一般的にガラス転移温度が向上し、耐熱性が向上する傾向がある。
【0054】
シルセスキオキサン単位を含むシリコーン重合体のBとして好ましい脂肪族炭化水素基は、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基、分枝状炭化水素基、環状炭化水素基、架橋環式炭化水素基、2重結合を有する炭化水素基であり、炭素数1〜20の直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等の炭化水素基が挙げられる。分枝状炭化水素基としては、イソプロピル基、イソブチル基等の炭化水素基が好ましい。環状炭化水素基として、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の環状炭化水素基が好ましく、また、ノルボルナン骨格を有するような架橋環式炭化水素基も好ましい。また、2重結合を有するビニル基、アリル基を有する炭化水素基も好ましい。これら炭化水素基の中で、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜5の直鎖状炭化水素基が、より好ましく、原料入手の観点からメチル基がさらに好ましい。
【0055】
m、nは、シリコーン共重合体のモル%を示す。mは、シリコーン膜の耐熱性を向上させる部位であり、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がさらに好ましい。nは、シリコーン膜形成後の有機溶剤やアルカリ現像液に対する薬液耐性を示し、80モル%以下が好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。nが、80モル%以下であると、シリコーン膜の耐熱性が低下しない。シリコーン膜の耐熱性や薬液耐性が必要でない場合は、mまたはnが0モル%でも良い。
下記一般式
【0056】
【化12】

【0057】
(式中、Rはナフタレン環を含む炭化水素基を示す。)
で示される繰り返し単位を有するシリコーン重合体と、下記一般式
【0058】
【化13】

【0059】
(式中、Aは芳香族炭化水素基を有する炭化水素基を示し、Bは脂肪族炭化水素基を示す。mとnはモル%を示し、0≦m、n≦100を示す。ただしm+n=100である。)
で示される繰り返し単位を含むシリコーン共重合体との組成物を200℃以上に加熱してシリコーン膜を形成する場合、ナフタレン環を含む炭化水素基を有するシリコーン重合体の組成比率は、10重量%以上が好ましく、さらに20重量%以上がより好ましい。組成物の重量比率が大きくなるとシリコーン樹脂の耐熱性や薬液耐性が低下する場合があるため、50重量%以下が好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【0061】
以下の実施例において、測定には下記装置を使用し、原料は試薬メーカー(東京化成品、和光純薬品、ナカライテスク品、アズマックス品、信越化学品)から購入した一般的な試薬を用いた。
【0062】
<測定装置>
NMR測定・・・日本電子製400MHz NMR測定器
IR測定・・・島津製IR Prestige−21。KBr板に合成品を少量塗布し、別のKBr板に挟んで赤外を透過させて測定した。
GPC測定・・・東ソー製HLC−8220
GC測定・・・島津製GC−2010シリーズ
【0063】
<被膜評価>
実施例5〜9、比較例2に記載した成膜方法により成膜された被膜に対して、以下の方法で膜評価を行った。
【0064】
〔表面粗さの測定〕
(中心線平均値Ra)
シリコンウエハ上に形成された最終硬化被膜の中心部分において、東京精密製触針式表面粗さ測定器サーフコム1500Aを用いてカットオフ値0.25mm、測定長さ1mmの条件で3点測定し、その平均値を算出した。
【0065】
(最大高さRmax)
シリコンウエハ上に形成された最終硬化被膜の中心部分において、東京精密製触針式表面粗さ測定器サーフコム1500Aを用いて、測定長さ1mmで3点測定し、その平均値を算出した。
【0066】
(粗さ評価)
上記で測定したRaが0.005以下かつRmaxが0.05以下ならば◎、Raが0.005〜0.010かつRmaxが0.050〜0.500ならば○、Raが0.010〜0.050かつRmaxが0.500〜1.000ならば△、Raが0.050以上かつRmaxが1.000以上ならば×とした。
【0067】
〔クラック耐性の評価〕
シリコンウエハ上に形成された最終硬化被膜について、金属顕微鏡により10倍〜100倍の倍率による面内のクラックの有無を確認した。クラックの発生がない場合は○、クラックが見られた場合を×と判定した。
【0068】
〔耐溶剤性の評価〕
シリコンウエハ上に形成された最終硬化被膜について、90℃の温度に加温されたジメチルスルホキシドの溶剤中に120分間浸漬して膜表面の荒れ、膜のハガレ、溶解の有無を試験した。膜表面の荒れ、膜のハガレ、溶解のない場合を○、膜表面の荒れ、膜のハガレ、溶解のいずれかが確認された場合を×と判定した。
【0069】
〔透過率の測定〕
可視光領域に吸収がないガラス基板上に塗布された被膜について、日立製UV3310を用いて遠紫外線露光波長365nm(i線)の透過率を測定した。
【0070】
合成例1
2−メチル−1−ナフチルトリメトキシシランの合成例
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、マグネシウム11.5g(0.475モル)とテトラヒドロフラン300mLを加え40℃に温度を昇温した。次いで開始剤として1,2−ジブロモエタンを少量加えた後、1−ブロモ−2−メチルナフタレン100g(0.452モル)を45℃を超えないように6時間かけて滴下した。滴下終了後、40〜45℃で2時間熟成しグリニャール試薬を調整した。
【0071】
次に撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた1000mL4つ口フラスコに、正珪酸メチル206.5g(1.357モル)仕込み缶内温度を80℃まで昇温し、グリニャール試薬を80〜85℃の温度で2時間かけて滴下した。滴下終了後、80〜85℃で2時間熟成後冷却し、マグネシウム塩をろ過し、溶媒を留去し、減圧度1Torrで110〜115℃の留分を46.4g(0.177モル)得た。得られた留分のGC分析の結果、GC純度98.6%、NMRとIR分析の結果、2−メチル−1−ナフチルトリメトキシシランであった。
【0072】
得られた化合物のスペクトルデータを下記に示す。
【0073】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
2839,2941cm−1 (−CH3,Ar)、1080cm−1 (Si−O)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(H−NMR溶媒:CDCl3)
2.73ppm(s、3H、Ar−CH3)、3.64ppm(s、9H、−OCH3)、7.24−7.50ppm(m、3H、Ar−H)、7.78ppm(dd、J=11.6、8.8Hz、2H、Ar−H)、8.61ppm(d、J=8.8Hz、1H、Ar−H)。
【0074】
合成例2
6−メトキシ−2−ナフチルトリメトキシシランの合成例
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、マグネシウム10.8g(0.443モル)とテトラヒドロフラン300mLを加え40℃に温度を昇温した。次いで開始剤として1,2−ジブロモエタンを少量加えた後、2−ブロモ−6−メトキシナフタレン100.0g(0.422モル)を45℃を超えないように6時間かけて滴下した。滴下終了後、40〜45℃で2時間熟成しグリニャール試薬を調整した。
【0075】
次に撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた1000mL4つ口フラスコに、正珪酸メチル192.8g(1.267モル)仕込み缶内温度を80℃まで昇温し、グリニャール試薬を80〜85℃の温度で2時間かけて滴下した。滴下終了後80〜85℃で2時間熟成後冷却し、マグネシウム塩をろ過し、溶媒を留去し、減圧度1mmHgで135〜138℃の留分を37.6g(0.135モル)得た。得られた留分のGC分析の結果、GC純度98.7%、NMRとIR分析の結果、6−メトキシ−2−ナフチルトリメトキシシランであった。
【0076】
得られた化合物のスペクトルデータを下記に示す。
【0077】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
2838,2943cm−1 (−CH3,Ar)、1080cm−1 (Si−O)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(H−NMR溶媒:CDCl3)
3.63ppm(s、9H、Si−OCH3)、3.87ppm(s、3H、Ar−OCH3)、7.04−7.30ppm(m、3H、Ar−H)、7.77ppm(dd、J=11.6、8.8Hz、2H、Ar−H)、8.60ppm(d、J=8.8Hz、1H、Ar−H)。
【0078】
合成例3
1−アセナフテニルトリエトキシシランの合成例
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた200mL4つ口フラスコに、アセナフチレン55.1g(0.329モル)と0.1モル/Lの塩化白金酸六水和物のイソプロパノール溶液を0.83mL加えて80℃に加熱した。アセナフチレンの黄色結晶が溶解した時点でトリエトキシシラン56.7g(0.345モル)を80〜85℃で滴下した。その後75〜80℃で2時間熟成した。次いでそのまま減圧蒸留を行い130〜140℃/0.5mmHgの留分回収し、黄色透明溶液63.4g(0.200モル)を得た。得られた留分のGC分析の結果、GC純度96.9%、NMRとIR分析の結果、1−アセナフテニルトリエトキシシランであった。
【0079】
得られた化合物のスペクトルデータを下記に示す。
【0080】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
2887−3043cm−1 (−CH−、−CH2−、−CH3,Ar)、1080−1101cm−1 (Si−O)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(H−NMR溶媒:CDCl3)
1.10ppm(t、9H、CH3)、3.19ppm(t、1H、Si−CH−)、3.57ppm(s、2H、Ar−CH2−)、3.71ppm(q、6H、Si−OCH3)、7.25−7.56ppm(m、6H、Ar−H)。
【0081】
実施例1
1−ナフチルシルセスキオキサン(下記一般式)の合成
【0082】
【化14】

【0083】
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、トルエン75.1gと水36.7gを仕込み、35%塩酸を3.13g(0.03モル)を加えた。次に1−ナフチルトリメトキシシラン75.1g(0.302モル)のトルエン37.5gの溶液を20〜30℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をGCで分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンと水を加えて抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後に、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の白色固体状の化合物57.6gを得た。
【0084】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0085】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1026−1151cm−1(Si−O)、2980−3080cm−1(C−H)、3080−3700cm−1(Si−OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(H−NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl
7.19−8.43(m、Ar)
GPC分析データ:Mw=660、Mw/Mn=1.14(ポリスチレン換算)。
【0086】
実施例2
2−メチル−1−ナフチルシルセスキオキサン(下記一般式)の合成
【0087】
【化15】

【0088】
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、トルエン79.3gと水36.7gを仕込み、35%塩酸を3.13g(0.03モル)を加えた。次に2−メチル−1−ナフチルトリメトキシシラン79.3g(0.302モル)のトルエン39.3gの溶液を20〜30℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をGCで分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンと水を加えて抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後に、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の白色固体状の化合物60.8gを得た。
【0089】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0090】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1025−1151cm−1(Si−O)、2979−3081cm−1(C−H)、3081−3700cm−1(Si−OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(H−NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl
2.73(s、3H、−CH3)、7.19−8.43(m、Ar)
GPC分析データ:Mw=682、Mw/Mn=1.14(ポリスチレン換算)。
【0091】
実施例3
6−メトキシ−2−ナフチルシルセスキオキサン(下記一般式)の合成
【0092】
【化16】

【0093】
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、トルエン84.1gと水36.7gを仕込み、35%塩酸を3.13g(0.03モル)を加えた。次に2−メチル−1−ナフチルトリメトキシシラン84.1g(0.302モル)のトルエン42.1gの溶液を20〜30℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をGCで分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンと水を加えて抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後に、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の白色固体状の化合物64.6gを得た。
【0094】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0095】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1026−1151cm−1(Si−O)、1150−1170cm−1(Ar−O−CH3)、2980−3080cm−1(C−H)、3080−3700cm−1(Si−OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(H−NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl
3.86(s、3H、−OCH3)、7.10−8.23(m、Ar)
GPC分析データ:Mw=690、Mw/Mn=1.15(ポリスチレン換算)。
【0096】
実施例4
1−アセナフテニルシルセスキオキサン(下記一般式)の合成
【0097】
【化17】

【0098】
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、トルエン95.6gと水36.7gを仕込み、35%塩酸を3.13g(0.03モル)を加えた。次に1−アセナフテニルトリエトキシシラン95.6g(0.302モル)のトルエン47.8gの溶液を20〜30℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をGCで分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンと水を加えて抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後に、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の白色固体状の化合物73.4gを得た。
【0099】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0100】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1022−1150cm−1(Si−O)、2975−3085cm−1(C−H)、3085−3700cm−1(Si−OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(H−NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl
3.00−3.20ppm(m、Si−CH−)、3.20−3.50ppm(m、Ar−CH2−)、7.19−8.20(m、Ar)
GPC分析データ:Mw=698、Mw/Mn=1.14(ポリスチレン換算)。
【0101】
比較例1
フェニルシルセスキオキサン・メチルシルセスキオキサン共重合体(下記一般式)の合成
【0102】
【化18】

【0103】
(構造式中の50:50は使用原料のモル比)
撹拌機、還流冷却器、滴下ろう斗及び温度計を備えた500mL4つ口フラスコに、トルエン50.6gと水33.4gを仕込み、35%塩酸を3.13g(0.03モル)を加えた。次にフェニルトリメトキシシラン30.0g(0.151モル)、メチルトリメトキシシラン20.6g(0.151モル)のトルエン25.3gの溶液を20〜30℃で滴下した。滴下終了後、同温度で2時間熟成させた。このときの反応溶液をGCで分析した結果、原料は残っていないことが分かった。次にトルエンと水を加えて抽出し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後に、水で溶液が中性になるまで洗浄した。トルエン油層を回収し、トルエンを除去して、目的の白色固体状の化合物27.2gを得た。
【0104】
得られた共重合体のスペクトルデータを下記に示す。
【0105】
赤外線吸収スペクトル(IR)データ
1028−1132cm−1(Si−O)、2970−3070 cm−1(C−H)、3070−3700 cm−1(Si−OH)
核磁気共鳴スペクトル(NMR)データ(H−NMR δ(ppm)、溶媒:CDCl
0.16(bs)、7.00−7.57(m)、7.57−7.90(m)
GPC分析データ:Mw=960、Mw/Mn=1.25(ポリスチレン換算)。
【0106】
<絶縁被膜の製造>
実施例5
実施例1及び比較例1に従って製造されたシリコーン化合物を、それぞれ酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解し、固形分濃度が40重量%になるように溶液を調製した。次に、実施例1と比較例1に従って製造された各シリコーン化合物の重量比が30:70になるようにそれぞれの溶液を混合した。その混合液をPTFE製のフィルタで濾過し、シリコンウエハまたはガラス基板上に、溶媒除去した後の膜厚が5.0μmになるような回転数で30秒回転塗布した。その後150℃/2分かけて溶媒除去し、次いで、O2濃度が1000ppm未満にコントロールされている石英チューブ炉で350℃/30分間かけて被膜を最終硬化し絶縁被膜とした。
【0107】
実施例6
実施例1及び比較例1に従って製造されたシリコーン化合物を、それぞれ酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解し、固形分濃度が40重量%になるように溶液を調製した。次に、実施例1と比較例1に従って製造された各シリコーン化合物の重量比が10:90になるようにそれぞれの溶液を混合した。その混合液をPTFE製のフィルタで濾過し、シリコンウエハまたはガラス基板上に、溶媒除去した後の膜厚が5.0μmになるような回転数で30秒回転塗布した。その後150℃/2分かけて溶媒除去し、次いで、O2濃度が1000ppm未満にコントロールされている石英チューブ炉で350℃/30分間かけて被膜を最終硬化し絶縁被膜とした。
【0108】
実施例7
実施例5に記載の「実施例1に従って製造されたシリコーン化合物」を、「実施例2に従って製造されたシリコーン化合物」に変更した以外は、実施例5と同様の方法で最終硬化絶縁被膜を得た。
【0109】
実施例8
実施例5に記載の「実施例1に従って製造されたシリコーン化合物」を、「実施例3に従って製造されたシリコーン化合物」に変更した以外は、実施例5と同様の方法で最終硬化絶縁被膜を得た。
【0110】
実施例9
実施例5に記載の「実施例1に従って製造されたシリコーン化合物」を、「実施例4に従って製造されたシリコーン化合物」に変更した以外は、実施例5と同様の方法で最終硬化絶縁被膜を得た。
【0111】
比較例2
比較例1に従って製造されたシリコーン化合物を、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解し、固形分濃度が40重量%になるように溶液を調製した。その調製液をPTFE製のフィルタで濾過し、シリコンウエハまたはガラス基板上に、溶媒除去した後の膜厚が5.0μmになるような回転数で30秒回転塗布した。その後150℃/2分かけて溶媒除去し、次いで、O2濃度が1000ppm未満にコントロールされている石英チューブ炉で350℃/30分間かけて被膜を最終硬化し絶縁被膜とした。
【0112】
<評価結果>
絶縁皮膜の各評価結果およびそれに基づく総合評価を下記の表1に示した。
【0113】
【表1】

【0114】
このように、ナフタレン環を有するシリコーン重合体を加えることにより膜表面が大幅に改善される。本発明におけるナフタレン環を有するシリコーン重合体はさらにクラック耐性が良好になり、他用途に対応できる材料となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式
【化1】

(式中、Rはナフタレン環を有する炭化水素基を示す。)
で示される繰り返し単位を有するナフタレン環を有するシリコーン重合体。
【請求項2】
ナフタレン環を有するシリコーン重合体の重量平均分子量が500〜20,000、分散度が1.1〜2.5である請求項1に記載のナフタレン環を有するシリコーン重合体。
【請求項3】
下記一般式
【化2】

(式中、Rはナフタレン環を有する炭化水素基を示し、Xは加水分解性基を示す。)
で示されるモノマーを酸性条件で加水分解して製造する請求項1または2に記載のナフタレン環を有するシリコーン重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のナフタレン環を有するシリコーン重合体と、下記一般式
【化3】

(式中、Aは、芳香族炭化水素基を有する炭化水素基を示し、Bは、脂肪族炭化水素基を示す。mとnはモル%を示し、0≦m、n≦100を示す。ただし、m+n=100である。)
で示される繰り返し単位を含むシリコーン重合体との組成物。
【請求項5】
ナフタレン環を有する炭化水素基を有するシリコーン重合体の比率が10重量%以上である請求項4に記載のシリコーン組成物

【公開番号】特開2009−280666(P2009−280666A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132873(P2008−132873)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】