説明

ナフテン系溶剤及びその製造方法

【課題】 ベンゼン、トルエン、キシレン及びナフタレン等を実質的に含まず、人体に対して安全性が高く、臭気も低い無公害型で、引火点が高くて取扱い上の安全性が高く、しかも溶解性に優れているナフテン系溶剤及びその製造方法並びにその使用方法を提供する。
【解決手段】 沸点が175〜280℃で、炭素数9〜14の芳香族成分を80容量%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を水素化して得られる芳香族成分の含有量が1容量%以下からなるナフテン系溶剤及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無公害型で、安全性が高いナフテン系溶剤、より詳しくは、炭素数9〜14の石油系芳香族炭化水素留分を水素化することにより得られる、ベンゼン、トルエン、キシレン及びナフタレン等の芳香族成分の含有量を1%以下にしたナフテン系溶剤、その製造方法及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料、印刷インキ、接着剤、洗浄用などに用いられる溶剤としては、主に石油系炭化水素溶剤が用いられている。石油系炭化水素溶剤のうち、芳香族炭化水素系の溶剤は特に優れた溶解力を有することから広く使用されてきた。しかし、芳香族分を多く含有する溶剤は、臭気が残り、作業環境を著しく汚染するとともに、作業従事者の健康面で悪影響を及ぼす。芳香族成分のうち、ベンゼン、トルエン、キシレンは特に人体に悪影響を及ぼすことから、労働省の特定化学物質等障害予防規制で、ベンゼン1容量%を超えるもの、労働省の有機溶剤中毒予防規制では、トルエンとキシレンの合計量が5重量%を超えるものについては、使用制限、化合物存在の表示義務がある。
【0003】
さらに、ナフタレンについては、IARC(国際ガン研究機関)により、ナフタレンの発がん性ランクが変更(分類2Cの発がん性の疑いがあるから、分類2Bの発がん性の可能性がある)され、人体の危険性に対する規制がより厳しくなった。このような安全性の観点から、有機溶剤排出規制が強化される中、塗料、インク、接着剤等の溶剤、電気/電子、自動車部品、精密機器等の分野で洗浄剤として用いられている石油系溶剤のうち、芳香族系溶剤は、安全性の高い、ナフテン系溶剤、パラフィン系溶剤、アルコール系、エステル等の含酸素系溶剤等の非芳香族系溶剤に転換されつつある。
【0004】
このうち、ナフテン系溶剤については、沸点が100〜200℃、炭素数8〜9の芳香族成分が90容量%以上の留分を水素化して、残存芳香族成分の含有量を1容量%以下とするアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このアルキルシクロヘキサン系溶剤は、引火点が30℃以下と低く、安全面で問題があり、また溶解性が低く、用途が限られるという欠点があった。
【特許文献1】特開2003−313562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点を解決したもので、本発明は、ベンゼン、トルエン、キシレン及びナフタレン等を実質的に含まず、人体に対して安全性が高く、臭気も低い無公害型で、引火点が高くて取扱い上の安全性が高く、しかも溶解性に優れているナフテン系溶剤及びその製造方法並びにその使用方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、第1の本発明は、沸点が175〜280℃で、炭素数9〜14の芳香族成分を80容量%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を水素化して得られる芳香族成分の含有量が1容量%以下からなり、好ましくは、ナフテン類を80容量%以上含有し、沸点範囲が160〜255℃で、かつアニリン点が35〜60℃、引火点が40℃以上からなるナフテン系溶剤である。
【0007】
また、第2の発明は、沸点が175〜280℃で、炭素数9〜14の芳香族成分を80容量%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を水素化して、芳香族成分を1容量%以下にすることからなるナフテン系溶剤の製造方法である。
さらに、第3の発明は、上記ナフテン系溶剤を塗料、接着剤、粘着剤、インク、洗浄剤、ゴム等の溶剤として使用する方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のナフテン系溶剤は、ベンゼン、トルエン、キシレン及びナフタレン等を実質的に含まないので、人体に対して安全性が高く、臭気も低く無公害型であり、また、沸点が175〜280℃で、炭素数9〜14の芳香族成分を80容量%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を水素化するので、引火点が高くて取扱い上の安全性が高く、しかも溶解性に優れている等の格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のナフテン系溶剤は、原料として沸点範囲が175〜280℃、炭素数9〜14の芳香族成分が80%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を用いる。この石油留分は、ナフサの接触改質反応によって得られる改質留分を、精密蒸留により、上記沸点範囲内でカットすることにより、簡便に得ることができる。特には、前記改質留分を、精密蒸留により、沸点180〜205℃、沸点195〜235℃或いは沸点240〜250℃に、それぞれカットして用いると、各種の用途に対応できる溶剤を得ることができ、好ましい。
【0010】
上記炭素数9〜14の芳香族成分とは、具体的にはトリメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メチルプロピルベンゼン、メチルイソプロピルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ジエチルメチルベンゼン、メチルブチルベンゼン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、エチルナフタレン、ヘキサメチルベンゼン、テトラメチルナフタレン等を挙げることができるが、本発明では、これらの芳香族炭化水素が80%以上で、かつメチルナフタレン、ジメチルナフタレン、エチルナフタレン、テトラメチルナフタレン等のナフタレン類等からなる2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する留分を用いる。
なお、この石油留分は硫黄分含有量が10ppm以下、特には1ppm以下のものが、水素化触媒の被毒を避けるために好ましい。
【0011】
本発明のナフテン系溶剤は、上記原料を芳香族成分が1容量%以下となるように水素化することにより得られる。この水素化は、一般に行われている芳香族成分の核水素添加(核水添)反応条件を採用できる。すなわち、通常用いられている核水添用触媒、例えば、ニッケル、酸化ニッケル、ニッケル/けいそう土、ラネーニッケル、ニッケル/銅、白金、酸化白金、白金/活性炭、白金/ロジウム、白金/アルミナ等の存在下に、温度100〜300℃、水素圧1〜10MPaから適宜選定された条件で行うとよい。触媒量、反応時間等は、残存芳香族成分が1容量%以下となるよう、前記反応温度、水素圧等を考慮して決定される。この反応方式は、バッチ式、流通式等いずれでも行うことができる。
【0012】
上記核水添反応より得られる水素化生成油は、原料として沸点範囲が175〜280℃、炭素数9〜14の芳香族成分が80%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を用いるため、炭素数9〜14のナフテン類、具体的には、トリメチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、メチルプロピルシクロヘキサン、メチルイソプロピルシクロヘキサン、テトラメチルシクロヘキサン、ジエチルメチルシクロヘキサン、メチルブチルシクロヘキサン、メチルデカリン、ジメチルデカリン、エチルデカリン、ヘキサメチルシクロヘキサン、テトラメチルデカリン等が、80容量%以上含まれている。
【0013】
このため、水素化生成油そのままでも、ナフテン系溶剤として用いることができるが、160〜255℃の沸点範囲内の留分に、蒸留でカットすることにより、ベンゼン、トルエン、キシレン及びナフタレン等を実質的に除去することができ、芳香族炭化水素に係わる安全性の問題を解決すると共に、従来の石油系溶剤と同等の溶解性を有し、その上、臭気も低いナフテン系溶剤とすることができ、特に好ましいナフテン系溶剤とすることができる。
【0014】
また、原料の石油留分中の芳香族成分の組成比を適宜選定するか、2環以上の環状炭化水素の含有量を増加させことにより、アニリン点が35〜60℃以下、引火点が40℃以上とすることができ、これらのナフテン系溶剤は、取扱い安全性及び溶解性により一層優れ、特に好ましい。
【0015】
このようにして得られる本発明のナフテン系溶剤は、塗料、インク、接着剤等の溶剤および金属部品、精密機器等の洗浄剤に用いられる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
〔核水添試験1〕
沸点180〜210℃の炭素数9〜12の芳香族炭化水素成分を99容量%以上含有し、2環芳香族炭化水素の含有量が19容量%である石油留分を、触媒としてNi系触媒(日揮化学社製N111)を10cc充填した流通式反応装置を用いて、反応温度240℃、水素圧2MPa、液空間速度(LHSV)1.0、水素/オイル比920L/Lの条件下で、水素化反応を行った。得られたナフテン系溶剤の沸点範囲は、160〜185℃で、残存芳香族成分の含有量は0.8容量%、アニリン点は51℃であった。また、引火点は40℃であった。
【0017】
〔核水添試験2〕
沸点190〜240℃の炭素数10〜13の芳香族炭化水素成分を99容量%以上含有し、2環芳香族炭化水素の含有量が49容量%である石油留分を、上記試験1と同じ触媒を用い、反応温度を230℃とした以外は、同じ条件下で、水素化反応を行った。得られたナフテン系溶剤の沸点範囲は、170〜210℃で、残存芳香族成分の含有量は0.1容量%以下、アニリン点は47℃であった。また、引火点は53℃であった。
【0018】
〔核水添試験3〕
沸点240〜250℃の炭素数11〜13の芳香族炭化水素成分を99容量%以上含有し、2環芳香族炭化水素の含有量が94容量%である石油留分を、上記試験1と同じ触媒、同じ条件下で水素化反応を行った。得られたナフテン系溶剤の沸点範囲は、200〜230℃で、残存芳香族成分の含有量は0.3容量%以下、アニリン点は39℃であった。また、引火点は68℃であった。
【実施例2】
【0019】
〔溶剤の臭気評価試験〕
上記核水添試験1〜3で得られた溶剤と、従来のナフテン系炭化水素の臭気評価試験を行い、下記の判定基準に従って5段階表示で判定した。
5:ほとんど無臭
4:やや有臭
3:有臭
2:かなり有臭
1:相当きつい有臭
【0020】
【表1】

【実施例3】
【0021】
〔洗浄力試験1〕
ストレートアスファルト系ピッチ(九重電気(株)製、K級3号)を溶解した30%濃度トルエン溶液に金属試料(銅板50×50mm、厚さ0.7mm)を浸漬し、その後、70℃で、20分乾燥して、均一にピッチ0.05gを付着させたものを洗浄対象物として用いた。この洗浄対象物を200cm3の洗浄液が充填された液温25℃の洗浄槽において、攪拌子で攪拌する(400rpm)ことにより5分間洗浄を行った。洗浄槽から取りだした洗浄対象物を、乾燥して洗浄液を蒸散除去した。洗浄前後の付着物の重量差より洗浄率を計算し、洗浄率100〜90%を○、90〜80%以下を△、80%以下を×として評価し、表2に示した。この結果から、核水添試験1〜3で得られた溶剤は高いピッチ洗浄性を示すことがわかる。
【0022】
〔洗浄力試験2〕
天然樹脂、石油アスファルト、天然ワックスを成分とするワックス(日化精工製アルコワックス542M)0.2gをガラス板(20×70mm、厚さ1.5mm)上に置き、70℃にて30分間溶融、その後室温まで放冷したものものを洗浄対象物として用いた。この洗浄対象物を200cm3の洗浄液が充填された洗浄槽において液温25℃で攪拌子で攪拌する(400rpm)ことにより15分間洗浄を行った。洗浄槽から取りだした洗浄対象物を、乾燥して洗浄液を蒸散除去した。洗浄前後の付着物の重量差より洗浄率を計算し、洗浄率100〜90%を○、90〜80%以下を△、80%以下を×として評価し、表2に示した。この結果から、核水添試験1〜3で得られた溶剤は高いワックス洗浄性を示すことがわかる。
【0023】
〔洗浄力試験3〕
鉱物油(ジャパンエナジー社製JOMO HSトランスN)を積層メッシュ(富士フィルター工業製フジプレート、SUS316、メッシュ20μm)に浸漬し、その後、70℃にて30分間加熱し、その後室温まで放冷したものものを洗浄対象物として用いた。この洗浄対象物を200cm3の洗浄液が充填された洗浄槽において液温20℃で超音波照射下に30秒間洗浄を行った。洗浄槽から取りだした洗浄対象物を、乾燥して洗浄液を蒸散除去した。洗浄前後の付着物の重量差より洗浄率を計算し、100〜90%を○、90〜85%以下を△、85%以下を×として評価し、表2に示した。この結果から、核水添試験1〜3で得られた溶剤は高い鉱物油洗浄性を示すことがわかる。
【0024】
【表2】

【実施例4】
【0025】
〔混合性、溶解性評価試験1〕
合成ゴム樹脂系接着剤原体に、10倍量の、核水添試験1〜3で得られた溶剤、または従来のナフテン系炭化水素を加え、超音波槽に15分間放置した後の樹脂等の溶解性について評価した。評価は、無色透明○、白濁△、一部不溶×とした。この結果を表3に示した。
【0026】
【表3】

【0027】
〔混合性、溶解性評価試験2〕
アルキド樹脂、顔料、ニトロセルロース、核水添試験1〜3で得られた溶剤および酢酸エチルを混合し、かき混ぜた時の塗料としての状態を調べた。酢酸エチル/トルエン系の溶剤と混合性は同等であった。
【0028】
〔混合性、溶解性評価試験3〕
油性インクを専用の希釈剤で薄めた場合と、核水添試験1〜3で得られた溶剤を用いて薄めた場合の希釈性について評価した。核水添試験1〜3で得られた溶剤の希釈性は、専用希釈剤と同等であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のナフテン系溶剤は、塗料、インク、接着剤等の各種の溶剤および金属部品、精密機器等の洗浄剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が175〜280℃で、炭素数9〜14の芳香族成分を80容量%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を水素化して得られる芳香族成分の含有量が1容量%以下からなるナフテン系溶剤。
【請求項2】
ナフテン類を80容量%以上含有し、沸点範囲が160〜255℃で、かつアニリン点が35〜60℃、引火点が40℃以上である請求項1に記載のナフテン系溶剤。
【請求項3】
沸点が175〜280℃で、炭素数9〜14の芳香族成分を80容量%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を水素化して、芳香族成分を1容量%以下にすることを特徴とするナフテン系溶剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜2のいずれか1項に記載のナフテン系溶剤を塗料、接着剤、粘着剤、インク、洗浄剤、ゴム等の溶剤として使用する方法。

【公開番号】特開2006−96786(P2006−96786A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281061(P2004−281061)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】