説明

ニッケル水素電池及びその製造方法

【課題】アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンを効果的に正極に取り込み、電池容量を増加させることのできるニッケル水素電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水酸化ニッケルを活物質とする正極と、水素吸蔵合金を活物質とする負極と、セパレータと、マンガンイオンを含有するアルカリ電解液とを備えたニッケル水素電池において、前記マンガンイオンが前記正極に取り込まれ、正極表面にマンガン濃度の高い層が形成されていることを特徴とする。また、上記ニッケル水素電池の製造方法において、活性化後のニッケル水素電池に抵抗を接続して高温保存することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素電池及びその製造方法、特に、正極が改良されたニッケル水素電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化ニッケルを活物質とする正極と、水素吸蔵合金を活物質とする負極と、セパレータと、アルカリ電解液とを備えたニッケル水素電池は、長寿命・無公害であり、しかも高エネルギー密度を有するので、近年、技術開発が活発に行われており、その正極を改良することにより、種々の電池特性の改善を図る技術も数多く知られている。
【0003】
そのような技術として、「少なくともTiとMnとを含み主相の結晶構造が体心立方構造の水素吸蔵合金を活物質とする負極と、水酸化ニッケルを活物質とする正極と、セパレータと、アルカリ電解液とを有し、前記負極、前記正極、または前記アルカリ電解液の少なくとも一カ所に、マンガン、マンガンイオンまたはマンガン化合物の少なくとも一種を含有したニッケル水素蓄電池において、前記ニッケル水素蓄電池を保存または充放電することで、前記負極中に含有されるマンガンの少なくとも一部を溶出させることを特徴とするニッケル水素蓄電池の製造方法。」の発明(特許文献1の請求項6参照)が公知である。
【特許文献1】特開2002−042861号公報
【0004】
特許文献1に記載の発明は、「AB5合金よりも大きな水素吸蔵量を持つ合金」である「Ti−V系の水素吸蔵合金」のような「Tiを含んだ体心立方構造を有する合金を主相とする水素吸蔵合金を用いたニッケル水素蓄電池は、保存時の自己放電が大きいという課題」(段落[0004]〜[0005])を解決しようとするものであり、特定の水素吸蔵合金を用いるニッケル水素蓄電池に限定され、また、電池容量の増加を課題とするものではない。
さらに、特許文献1には、負極の水素吸蔵合金から溶出するマンガンイオンの電解液への溶出量を、Mn量が正極活物質に対して5重量%程度になるようなレベルにすれば、電池の自己放電特性が改善されることが示されている(段落[0033]〜[0036]、[0026]〜[0028])が、「本実施例の電池のセパレータ内部にはMnの析出物が多く見られ、この析出物の導電性が小さいことから、本実施例の電池は微小短絡が抑制され、これにより自己放電が抑制されたものと考える。」(段落[0019])、「本発明の効果は、セパレータ内部に絶縁性の析出物が析出することによるものと考えられ、本発明ではマンガンを用いた例を示したが、基本的には絶縁性の析出物を形成するものであれば、他の元素でも同様の効果が得られると考えられる。」(段落[0041])と記載されているように、電解液中のマンガンイオン又は水素吸蔵合金から電解液へ溶出したマンガンイオンを、セパレータ内部に析出させるものであり、積極的に正極に取り込むことにより、電池特性の改善を図るものではない。
【0005】
また、「2価以上のコバルトの化合物で被覆した水酸化ニッケルを主体とする粉末と、カドミウム、ビスマス、マンガンから選択される少なくとも1種以上の金属または化合物と、金属ニッケル粉末あるいは金属ニッケル繊維とを充填されているアルカリ蓄電池用ペースト式ニッケル正極。」の発明(特許文献2の請求項1参照)が公知である。
【特許文献2】特開2001−256973号公報
【0006】
特許文献2には、2価以上のコバルトの化合物で被覆した水酸化ニッケルを主体とする粉末に、マンガン等の金属または化合物を添加したアルカリ蓄電池用ペースト式ニッケル正極をアルカリ蓄電池(ニッケル水素蓄電池)に用いることで、活物質を高密度に充填し電池内部の空間体積が減少する様な高容量電池設計においても過放電による電池内部圧力の上昇と正極劣化を抑制し、電池の耐過放電特性と長寿命化を提供できることが示されている(段落[0071])が、マンガン等の金属または化合物を正極に直接添加する方法以外の方法は示されていない。
【0007】
さらに、ニッケル水素蓄電池(アルカリ蓄電池)の水酸化ニッケルを活物質とする正極の水酸化ニッケルにマンガンを固溶させることにより、活物質利用率等を向上させる技術も周知である(例えば、特許文献3〜7)。
【特許文献3】特開平11−067197号公報
【特許文献4】特開2001−085002号公報
【特許文献5】特開2002−093414号公報
【特許文献6】特開2005−050580号公報
【特許文献7】特再WO97/019478
【0008】
しかしながら、特許文献3〜7に記載されるような酸化還元に関与しないマンガンの導入は正極活物質容量密度の低下の原因であり、電池の高容量化において効果的ではなかった。また、これらの特許文献には、マンガンを水酸化ニッケルに固溶させる以外の方法で正極に導入することは示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンを効果的に正極に取り込み、電池容量を増加させることのできるニッケル水素電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用するものである。
(1)水酸化ニッケルを活物質とする正極と、水素吸蔵合金を活物質とする負極と、セパレータと、マンガンイオンを含有するアルカリ電解液とを備えたニッケル水素電池において、前記マンガンイオンが前記正極に取り込まれ、正極表面にマンガン濃度の高い層が形成されていることを特徴とするニッケル水素電池。
(2)前記水素吸蔵合金がマンガンを含有するものであり、前記アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンが前記水素吸蔵合金から溶出したものであることを特徴とする前記(1)のニッケル水素電池。
(3)前記水素吸蔵合金が、AB5(A:希土類元素、B:遷移元素を主成分とする元素)型の希土類系合金であることを特徴とする前記(1)又は(2)のニッケル水素電池。
(4)ニッケル水素電池が抵抗を接続して高温保存されることにより、前記アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンが前記正極に取り込まれたものであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか項のニッケル水素電池。
(5)前記水酸化ニッケルに、亜鉛及びコバルトが固溶されていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項のニッケル水素電池。
(6)前記水酸化ニッケルは、Niの酸化数が+2より大きい高次の水酸化ニッケルであることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一項のニッケル水素電池。
(7)前記水酸化ニッケルに、コバルト化合物の表面層が形成されていることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか一項に記載のニッケル水素電池。
(8)水酸化ニッケルを活物質とする正極と、水素吸蔵合金を活物質とする負極と、セパレータと、マンガンイオンを含有するアルカリ電解液とを備えたニッケル水素電池の製造方法において、活性化後のニッケル水素電池に抵抗を接続して高温保存することを特徴とするニッケル水素電池の製造方法。
(9)前記アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンを前記正極に取り込むことにより、正極表面にマンガン濃度の高い層を形成することを特徴とする前記(8)のニッケル水素電池の製造方法。
(10)前記水素吸蔵合金がマンガンを含有するものであり、前記アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンが前記水素吸蔵合金から溶出したものであることを特徴とする前記(8)又は(9)のニッケル水素電池の製造方法。
(11)前記ニッケル水素電池に抵抗を接続して高温保存する条件が、20〜60℃で1〜4日であることを特徴とする前記(8)〜(10)のいずれか一項のニッケル水素電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、ニッケル水素電池の正極の表面にマンガン濃度の高い層を形成することにより、放電特性が改善され、電池容量が向上する。また、本発明のようにニッケル水素電池に抵抗を接続して高温保存することにより、アルカリ電解液中のマンガンイオンが正極内部に移動し、正極表面にマンガン濃度の高い層が形成されるので、放電特性が改善され、電池容量が向上する。例えば、負極にマンガンを含有する水素吸蔵合金を用いた場合は、水素吸蔵合金から溶出したアルカリ電解液中のマンガンイオンが正極内部に移動する。そのため、セパレータ中に析出するマンガン化合物が少なくなるので、正負極間の短絡が抑制されて、その結果、自己放電特性も改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明においては、ニッケル水素電池に抵抗を接続して高温保存することにより、負極合金からマンガンイオン(Mnイオン)が溶出する。通常、溶出したMnイオンは正極で酸化されるが、抵抗接続により、正極電位が負極電位まで下がっているために、正極表面で酸化されず、正極内部に移動可能となる。正極内部に移動したMnイオンは、高温保存後の充電により酸化され、酸化物あるいは水酸化物として析出し、正極内部に固定化される。このために、正極表面にMnイオン濃度の高い層が形成されると考えられる。そして、形成されたMnイオン濃度の高い層が導電助剤として機能するため、正極の放電特性が向上し、電池容量が増加すると推定される。
なお、上記の機構からわかるように、Mnイオン濃度の高い層が正極表面に形成されるという現象は、Mnイオンが電解液中に有りさえすれば生じる。そのため、Mnイオンを予め含有する電解液を用いても良いし、電解液に接する部材にMnを含ませても良い。但し、予め電解液にMnイオンを添加した場合は、電解液に接する部材にMnを含ませた場合と比べて、活性化工程の充放電過程でMnイオンが酸化されるのでセパレータ中に析出するMn化合物の量が多い。そのため、電解液に接する部材にMnを含ませる方法が好ましく、特に、Mnを含有する水素吸蔵合金を活物質とする負極を用いて、この水素吸蔵合金から溶出したMnイオンを用いるのが好ましい。
【0013】
また、電解液中のMnイオン、例えば、負極の水素吸蔵合金から電解液に溶出したMnイオンが正極に取り込まれることにより、セパレータ中に析出するMn化合物が少なくなり、正負極間の極小短絡を抑制できるために、自己放電特性も改善される。
【0014】
本発明のニッケル水素電池は、水酸化ニッケルを活物質とする正極(ニッケル電極)と、マンガンを含有する水素吸蔵合金を活物質とする負極と、セパレータと、アルカリ電解液とを備えたものである。正極、負極、セパレータ、アルカリ電解液等は、種々のものを用いることができ、限定されるものではないが、以下、具体的に説明する。
【0015】
ニッケル電極としては、水酸化ニッケルを主成分とし、該水酸化ニッケル中に少量のZnやCoを固溶状態で含有させたものが好ましい。Znの添加は活物質として不活性なγ−NiOOHの生成を抑制する効果を発揮し、Coの添加はニッケル電極の充電電位を卑な方向にシフトさせ、充電効率を高める効果を発揮する。水酸化ニッケル中のZnの含有比率は、1〜6wt%が好ましい。該比率が1wt%未満ではZn添加の効果が発揮されず、6wt%を超えると、活物質の容量(mAh/g)が小さくなる虞がある。また、Coの含有比率は0.1〜5wt%が好ましい。該比率が0.1wt%未満ではCo添加の効果が発揮されず、5wt%を超えると、活物質の容量(mAh/g)が小さくなる虞がある。
【0016】
水酸化ニッケルとしては、水酸化ニッケルを、酸化剤を用いて酸化するか又はアルカリ電解液中で電解酸化することによって得られるNiの酸化数を大きくした高次の水酸化ニッケルが好ましい。本発明においては、Niの酸化数を+2より大きく、+2.4以下とするのが良く、+2.02〜2.4とするのがより好ましく、2.05〜2.2とするのがさらに好ましい。なお、該Niの酸化数は、電池を充放電すると変化する値であるが、ここでいうNiの酸化数とは正極を電池に組込む以前における値である。
【0017】
また、ニッケル電極の活物質粒子は、前記高次の水酸化ニッケルを主成分とする芯層と高次コバルト化合物製の表面層とからなる複合粒子とすることが好ましい。該高次コバルト化合物は、該化合物に含まれるCoの酸化数がほぼ+3であって良導電体であり、ニッケル電極の集電機能を高める効果を発揮する。前記表面層を構成する高次コバルト化合物の正極活物質粒子中に占める比率は、3〜10wt%とすることが好ましい。該比率が3wt%未満では、表面層形成効果が小さく、10wt%を超えると活物質の容量(mAh/g)が小さくなる虞がある。
【0018】
水素吸蔵合金を活物質とする負極としては、水素を吸蔵放出する機能を有するものであれば良く、特に限定されないが、構成元素としてMnを含有するものが好ましく、AB5(A:希土類元素、B:遷移元素を主成分とする元素)型の希土類系合金のMmNi5(Mmは希土類元素の混合物であるミッシュメタルを指す)のNiの一部をMnと共にCo,Al,Cu等で置換した合金が、優れたサイクル寿命特性と高い放電容量を持つので好ましい。なお、「遷移元素を主成分とする」とは、遷移元素であるNi,Co等を主成分とし、遷移元素以外の成分が一部含まれても良いことを意味する。
【0019】
正極(ニッケル電極)及び負極は、前記活物質、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンラバー(SBR)等の結着剤、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等の増粘剤、アセチレンブラック等の導電剤を水や有機溶媒に混合させた後、得られた混合液を集電体の上に塗布し、乾燥することによって、好適に作製される。
【0020】
前記ニッケル電極及び負極を、ポリプロピレン製不織布等からなるセパレータを介して渦巻き状に巻き込み、電池ケースに挿入し、水酸化カリウム及び水酸化リチウムの水溶液等からなるアルカリ電解液を注入してから封口して、ニッケル水素電池を作製し、活性化する。
【0021】
本発明においては、上記のようにしてニッケル水素電池を作製し、活性化した後、ニッケル水素電池に抵抗を接続して高温保存する。
ニッケル水素電池を抵抗接続して高温保存する条件は、好ましくは、20〜60℃で1〜4日である。上記の温度範囲、期間で高温保存することにより、電池の利用率が向上し、電池容量が増加すると共に、自己放電が抑制される。温度が20℃より低く、期間が1日より短いと、電池容量の増加、自己放電の抑制の効果が十分ではなく、温度が60℃、期間が4日を超えると、効果が飽和する。
また、接続する抵抗は、電池容量にも依存するため限定されるものではないが、0.1〜10Ωが好ましい。10Ωを超えると、電池電圧の低下が遅いので抵抗接続保存過程の時間を長くする必要があり生産性に問題が生じる。抵抗値が0.1Ωを下回ると、抵抗接続保存過程で大きな電流が流れて発熱等の問題を生じる。
上記のような方法を採用することにより、負極から溶出したマンガンを正極に取り込み、正極表面にマンガン濃度の高い層を形成させることができる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明の実施の形態は、以下に例示する実施例に限定されるものではなく、正極(ニッケル電極)及び負極の活物質その他の材料、セパレータ、電解液、並びに電池形状等は任意である。
【実施例1】
【0023】
(水酸化ニッケルの生成)
反応浴を温度40℃、pH12に保ち、撹拌しながら、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、及び硫酸コバルトからなる混合水溶液とアルカリ水溶液および硫酸アンモニウム水溶液を連続的に供給し、核発生から結晶成長を同時に進行させる。
そして、反応浴より、生成物を連続的に取り出し、水洗、乾燥する事により、水酸化亜鉛及び水酸化コバルトが固溶された水酸化ニッケル固溶体粒子を得た。
水酸化ニッケル固溶体におけるニッケル、亜鉛、及びコバルトの含有割合は、それぞれ、58重量%、3.7重量%、及び1.2重量%とした。
【0024】
(水酸化コバルトの被覆)
次に、反応浴を温度40℃、pH12に維持しながら、撹拌し、上記水酸化ニッケル固溶体を投入した後、硫酸コバルト溶液、アルカリ水溶液および硫酸アンモニウム水溶液を連続的に供給し、水酸化ニッケル固溶体粒子表面に水酸化コバルトを析出させた。その後、生成物を水洗、乾燥し、粒子表面に水酸化コバルトを被覆した水酸化ニッケル固溶体を得、ニッケル電極材料とした。ニッケル電極材料における水酸化コバルトからなる被覆層の含有割合は、7重量%とした。
【0025】
(酸化処理:第1工程)
反応浴中の10重量%水酸化ナトリウム水溶液400gに、正極材料粒子100gを投入して撹拌しながら、次亜塩素酸ナトリウム溶液(和光純薬工業株式会社製)36mlを加えて酸化処理した。反応浴の温度は50℃、反応時間は30分間とした。その後、反応浴から正極材料粒子を取り出し、洗浄して、脱水した。上記酸化処理後の正極材料におけるニッケル及びコバルトの平均酸化数は、2.12であった。この平均酸化数は、以下の方法により求めた。
【0026】
(平均酸化数の求め方)
まず、所定量の正極材料粒子と硫酸第一鉄アンモニウム(Fe(NH42(SO42)とを20体積%の酢酸水溶液に溶解させ、過マンガン酸カリウム溶液を用いた酸化還元滴定を行う。そして、得られた滴定値から、2価以上のニッケル及びコバルトの量を求め、その値と、所定量の正極材料中に含まれるニッケル及びコバルトの総量とから、ニッケル及びコバルトの平均酸化数を求める。
【0027】
(加熱処理:第2工程)
次に、酸化処理後の正極材料粒子を、30重量%水酸化ナトリウム水溶液20gを加え、120℃で1時間加熱処理した。その後、水洗し、乾燥した。これにより、実施例1のニッケル電極材料を得た。実施例1のニッケル電極材料におけるニッケル及びコバルトの平均酸化数は、2.12であった。
なお、この加熱処理工程は、粒子表面のコバルト化合物の層を改質する効果がある。改質されたコバルト化合物の層は、抵抗接続保存過程において溶解してしまうという問題が抑制される。
【0028】
(ニッケル電極の作製)
ニッケル電極材料と、0.6重量%CMC(カルボキシメチルセルロース)溶液と、60重量%PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とを、重量比77.5:21.8:0.7で混合して、ペーストを得た。そして、そのペーストを多孔性発泡ニッケル基体に充填し、乾燥した後、圧延して、正極容量2000mAhの、ニッケル電極(水酸化ニッケルの理論容量を289mAh/gとした)を作製した。
【0029】
(負極の作製)
組成式Mm1.0Ni4.0Co0.7Mn0.3Al0.3で表される水素吸蔵合金を水酸化カリウム及び水酸化リチウムの水溶液からなる電解液中で110℃で2時間撹拌し、水洗、乾燥した後、MC(メチルセルロース)溶液とSBR(スチレンブタジエンラバー)溶液を混合し、穿孔鋼板に塗布し、乾燥した後、圧延して、負極を作製した。
【0030】
(電池の作製)
上記ニッケル電極と負極とを、厚さ100μm のポリプロピレン製不織布を介して渦巻き状に巻き込み、AAサイズの電池ケースに挿入し、水酸化カリウム及び水酸化リチウムの水溶液からなる電解液を注入してから封口した。
【0031】
(活性化工程)
上記ニッケル水素二次電池を室温で、40mA(1/50ItA)で、10時間充電し、次に200mA(1/10ItA)で10時間充電した後、1時間休止し、400mA(1/5ItA)で1Vまで放電した後、60℃雰囲気で24時間保存した。
その後、200mA で16時間充電し、1時間休止した後、400mA で1V まで放電した。
なお、この活性化工程は、負極の水素吸蔵合金に水素を吸蔵させる操作を少なくとも含めば、本発明の効果は得られる。なぜなら、水素吸蔵合金が水素を吸蔵することによって、負極電位が卑にシフトするからであり、その結果、抵抗接続したときの正極電位をMnイオンの酸化電位よりも卑にすることができるからである。正極電位をそのような電位にすることによって、Mnイオンは正極内部に移動可能になるのでMn濃度の高い層を正極表面に設けることができる。なお、正極電位がMnイオンの酸化電位よりも貴である場合は、正極表面でMnイオンが酸化されるので、Mn化合物がセパレータ中に析出することとなる。
【0032】
(抵抗接続保存過程)
活性化後の電池の正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続し、40℃雰囲気で、48時間保存することによって、理論容量が2000mAhの実施例1のニッケル水素二次電池を得た。
なお、活性化工程が高温保存する処理を含む場合は、この処理と同時に抵抗接続保存過程を行っても良い。例えば、上記の活性化工程の場合、400mAで1Vまで放電する操作をした後、正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続してから、60℃雰囲気で、24時間保存することによって、活性化工程の高温保存と同時に抵抗接続保存過程を行うことができる。
【実施例2】
【0033】
抵抗接続保存過程において、活性化後の電池の正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続し、20℃雰囲気で、48時間保存した以外は、実施例1と同様にして実施例2のニッケル水素二次電池を得た。
【実施例3】
【0034】
抵抗接続保存過程において、活性化後の電池の正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続し、30℃雰囲気で、48時間保存した以外は、実施例1と同様にして実施例3のニッケル水素二次電池を得た。
【実施例4】
【0035】
抵抗接続保存過程において、活性化後の電池の正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続し、50℃雰囲気で、48時間保存した以外は、実施例1と同様にして実施例4のニッケル水素二次電池を得た。
【実施例5】
【0036】
抵抗接続保存過程において、活性化後の電池の正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続し、60℃雰囲気で、48時間保存した以外は、実施例1と同様にして実施例5のニッケル水素二次電池を得た。
【実施例6】
【0037】
抵抗接続保存過程において、活性化後の電池の正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続し、40℃雰囲気で、24時間保存した以外は、実施例1と同様にして実施例6のニッケル水素二次電池を得た。
【実施例7】
【0038】
抵抗接続保存過程において、活性化後の電池の正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続し、40℃雰囲気で、72時間保存した以外は、実施例1と同様にして実施例7のニッケル水素二次電池を得た。
【実施例8】
【0039】
抵抗接続保存過程において、活性化後の電池の正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続し、40℃雰囲気で、96時間保存した以外は、実施例1と同様にして実施例8のニッケル水素二次電池を得た。
【実施例9】
【0040】
抵抗接続保存過程において、活性化後の電池の正極と負極とを3Ωの抵抗を介して接続し、40℃雰囲気で、120時間保存した以外は、実施例1と同様にして実施例9のニッケル水素二次電池を得た。
【0041】
(比較例1)
抵抗接続保存過程を経由しない活性化後のニッケル水素二次電池を比較例1の電池とした。
【0042】
(比較例2)
抵抗接続保存過程において、抵抗を接続しないで、40℃雰囲気で、48時間保存した以外は、実施例1と同様にして比較例2のニッケル水素二次電池を得た。
【実施例10】
【0043】
水酸化コバルト被覆工程後、加熱処理を行い、その後酸化処理を行う(第1工程と第2工程を入れ換える)以外は実施例1と同様にして実施例10のニッケル水素二次電池を得た。
【0044】
(実容量の利用率の評価)
実施例及び比較例で製作したニッケル水素二次電池の実容量の利用率を、以下のようにして求めた。即ち、20℃雰囲気において、充電電流200mA(1/10ItA)で16時間充電した後、1時間休止し、400mA(1/5ItA)で放電し、電池電圧1.0Vで放電を終了した。この充放電を2回繰り返し、2回目の放電容量と、理論容量である2000mAhとから、次式(I)によって実容量の利用率を求めた。結果を表1に示す。
(実容量の利用率)=(1/5ItA 放電の放電容量)÷2000×100・・・式(I)
【0045】
【表1】

【0046】
表1より、活性化後のニッケル水素二次電池に抵抗を接続して高温保存した実施例1〜10の電池は、抵抗接続保存過程を経由しない活性化後の比較例1の電池、抵抗を接続しないで、40℃雰囲気で48時間保存した比較例2の電池と比較して、実容量の利用率が向上していることがわかる。保存温度が20℃の実施例2の電池、保存期間が24時間(1日)の実施例6の電池は、保存温度が20℃よりも高く、保存期間が1日よりも長い電池と比べて実容量の利用率がやや低い。また、実施例9のように120時間(5日)保存しても、96時間(4日)保存した場合と実容量の利用率は同じであり、効果は飽和する。
【0047】
(放置後残存利用率)
実施例1と比較例1との電池について、実容量の利用率を測定後、以下の方法で放置後残存利用率を求めた。20℃雰囲気において、充電電流200mA(1/10ItA)で16時間充電した後、45℃雰囲気で、2週間放置し、400mA(1/5ItA)で放電し、電池電圧1.0Vで放電を終了した。この充放電を2回繰り返し、2回目の放電容量と、理論容量である2000mAhと求めた放電容量とから、次式(II)によって放置後残存利用率を求め表2に示した。
(放置後残存利用率)=(45℃、2週間放置後容量)÷(実容量の利用率)×2000×100・・・式(II)
【0048】
【表2】

【0049】
表2より、活性化後のニッケル水素二次電池に抵抗を接続して高温保存した実施例1の電池は、抵抗接続保存過程を経由しない活性化後の比較例1の電池と比較して、放置後残存利用率が向上しており、自己放電が抑制されていることがわかる。
【0050】
(Mn分布の観察)
実施例1と比較例1の電池について、正極断面のMnの分布をEPMAを用いて観察した。実容量の利用率を測定した後、電池を解体し、正極を取り出し、エポキシ樹脂で固めた後、研磨し、株式会社島津製作所製EPMA-8705を用いて観察を行った。結果を図1に示す。
【0051】
図1から明らかなように、活性化後のニッケル水素二次電池に抵抗を接続して高温保存した実施例1の電池には、正極表面にマンガン濃度の高い層が観察されたが、抵抗接続保存過程を経由しない活性化後の比較例1の電池には、そのような層は観察されなかった。
【0052】
(Mnの定量分析)
実施例1と比較例1の電池について、正極のMnの含有率を求めた。実容量の利用率を測定した後、電池を解体し、正極を取り出した。取り出した正極を細かく裁断し、磁石により基材の発泡ニッケルを取り出し、残った正極活物質中のMnの含有量をThermo Jerrell Ash 製IRIS/AP を用いて定量した。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
表3より、実施例1の電池は、比較例1の電池と比較して、正極のMnの含有率が明らかに高く、負極から溶出したマンガンが正極に取り込まれていることがわかる。
さらに、実施例1と比較例1との電池について、セパレータに含まれるMn量をそれぞれ定量した。その結果、実施例1のMn量は、116μm/cm2であり、比較例1のMn量は、255μm/cm2であった。この結果から、実施例1のMn量は、比較例1のものと比べて著しく少ないことがわかった。このことは、抵抗接続保存過程を行うことによって、セパレータ中のMn化合物が減少することを示すものである。この結果と、実施例1の電池の自己放電特性が優れていたこととを考慮すると、セパレータ中のMn化合物が減少することによって、微小短絡が抑制されて自己放電が抑制されるというメカニズムがあるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1と比較例1の電池について、正極断面のMnの分布をEPMAを用いて観察した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケルを活物質とする正極と、水素吸蔵合金を活物質とする負極と、セパレータと、マンガンイオンを含有するアルカリ電解液とを備えたニッケル水素電池において、前記マンガンイオンが前記正極に取り込まれ、正極表面にマンガン濃度の高い層が形成されていることを特徴とするニッケル水素電池。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金がマンガンを含有するものであり、前記アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンが前記水素吸蔵合金から溶出したものであることを特徴とする請求項1に記載のニッケル水素電池。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金が、AB5(A:希土類元素、B:遷移元素を主成分とする元素)型の希土類系合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケル水素電池。
【請求項4】
ニッケル水素電池が抵抗を接続して高温保存されることにより、前記アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンが前記正極に取り込まれたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のニッケル水素電池。
【請求項5】
前記水酸化ニッケルに、亜鉛及びコバルトが固溶されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のニッケル水素電池。
【請求項6】
前記水酸化ニッケルは、Niの酸化数が+2より大きい高次の水酸化ニッケルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のニッケル水素電池。
【請求項7】
前記水酸化ニッケルに、コバルト化合物の表面層が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のニッケル水素電池。
【請求項8】
水酸化ニッケルを活物質とする正極と、水素吸蔵合金を活物質とする負極と、セパレータと、マンガンイオンを含有するアルカリ電解液とを備えたニッケル水素電池の製造方法において、活性化後のニッケル水素電池に抵抗を接続して高温保存することを特徴とするニッケル水素電池の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンを前記正極に取り込むことにより、正極表面にマンガン濃度の高い層を形成することを特徴とする請求項8に記載のニッケル水素電池の製造方法。
【請求項10】
前記水素吸蔵合金がマンガンを含有するものであり、前記アルカリ電解液に含有されるマンガンイオンが前記水素吸蔵合金から溶出したものであることを特徴とする請求項8又は9に記載のニッケル水素電池の製造方法。
【請求項11】
前記ニッケル水素電池に抵抗を接続して高温保存する条件が、20〜60℃で1〜4日であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載のニッケル水素電池の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−234440(P2007−234440A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55751(P2006−55751)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】