説明

ニトリルゴムをメタセシスにより分解するための触媒の使用

【課題】ニトリルゴムをメタセシスにより分解するための触媒の使用を提供する。
【解決手段】置換または無置換のイミダゾリジン配位子とホスホニウム基を有するカルベン配位子との両方を有するルテニウムまたはオスミウム系触媒を用いたメタセシスによりニトリルゴムを分解するための新規な方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウムまたはオスミウム系の触媒を用いたメタセシスによってニトリルゴムを分解する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化ニトリルゴム(略して「HNBR」とも称される)は、ニトリルゴム(略して「NBR」とも称される)を水素化することによって製造される。
【0003】
本発明において、ニトリルゴムという用語は、少なくとも1種の不飽和ニトリルと、少なくとも1種の共役ジエンと、場合によりさらなる共単量体との共重合体であるゴムを指す。
【0004】
水素化ニトリルゴムは、耐熱性が非常に高く、顕著な耐オゾン性および耐薬品性を示し、かつ耐油性に優れた特殊ゴムである。
【0005】
上述した物理的および化学的性質に加えて、HNBRは非常に良好な機械的性質、特に、高い耐摩耗性を併せ持っている。こうした理由から、HNBRは様々な分野において幅広く利用されている。例えば、HNBRは、自動車部門におけるシール、ホース、ベルト、およびダンピング要素に加えて、石油分野におけるステーター、抗井採取用シール(borehole extraction seal)、およびバルブシール、ならびに電気産業、機械工学、および造船業における多くの部品に使用されている。
【0006】
市販されているグレードのHNBRのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、通常、55〜105の範囲にあり、これは重量平均分子量M(測定方法:ポリスチレン標準を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC))が約200000〜500000の範囲内にあることに相当する。この場合、分子量分布の幅に関する情報を与える多分散度PDI(PDI=M/M(ここで、Mは重量平均分子量であり、Mは数平均分子量である))は3以上と測定されることが多い。通常、残存二重結合の含有量は1〜18%(IR分光により測定)の範囲内にある。
【0007】
ムーニー粘度がこのように比較的高いことによりHNBRの加工性は大きく制限されている。多くの用途にとっては、分子量がより低く、したがってムーニー粘度がより低いグレードのHNBRが望ましいであろう。そうなれば、加工性は著しく改善されることとなる。
【0008】
これまで、HNBRを分解することにより鎖長を短くする数多くの試みがなされてきた。この分解は、例えば素練り(例えばロールミルで)を用いた機械的手段により行われてきた。強酸と反応させることによる化学的な分解も原理的には可能である。しかしながら、この化学的分解は、カルボン酸やエステル基等の官能基を分子に組み込んでしまううえにポリマーの微細構造を実質的に変えてしまうという欠点を有する。このような変化はいずれも使用時に不利益をもたらすことになる。
【0009】
既に確立されている製造法では、モル質量の低い(ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が55未満または数平均分子量Mが200000g/mol未満に相当する)HNBRを製造することはできない。その理由は、まず第1に、NBRを水素化する際にムーニー粘度の段階的な増加が起こり、第2に、水素化に使用するNBR原料のモル質量を自由に低減することができない(もしそうすれば過度の粘着性が生じ、既存の工業プラントで処理することがもはや不可能になる)ことにある。従来の工業プラントで問題なく処理できるNBR原料のムーニー粘度の下限値は約30ムーニー単位(ML1+4、100℃)である。このようなNBR原料を用いて得られる水素化ニトリルゴムのムーニー粘度は、55ムーニー単位(ML1+4、100℃)程度である。
【0010】
公知の従来技術においては、水素化を行う前にニトリルゴムを分解することにより、ムーニー値(ML1+4、100℃)が30ムーニー単位未満、または数平均分子量Mが70000g/mol未満となるように分子量を低下させることによってこの問題を解決している。この場合はメタセシスによって分子量の低下を達成しており、このメタセシス反応には、通常、低分子量の1−オレフィンが添加されている。このメタセシス反応は、有利には、水素化反応と同じ溶媒を用いて(その場で)実施されるため、分解されたNBR原料を分解反応完了後にその溶媒から単離することを必要とせずに引き続き水素化が行われる。このメタセシス分解反応は、極性基、特にニトリル基に対して安定なメタセシス触媒を用いることによって触媒される。
【0011】
ムーニー値の低いHNBRの製造が、例えば、(特許文献1)および(特許文献2)に記載されている。(特許文献2)には、出発ポリマーであるニトリルゴムをオレフィンメタセシスによって分解した後に水素化することを含む方法が記載されている。この場合、ニトリルゴムは、第1ステップにおいて、コオレフィン(coolefin)と、オスミウム、ルテニウム、モリブデン、またはタングステン錯体系の特定の触媒との存在下に反応に付され、第2ステップにおいて水素化される。(特許文献1)によれば、このようにすることで、重量平均分子量(M)が30000〜250000の範囲内にあり、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が3〜50の範囲内にあり、多分散度PDIが2.5未満の水素化ニトリルゴムを得ることが可能である。
【0012】
メタセシス触媒は、とりわけ、(特許文献3)および(特許文献4)により知られている。これらは以下に示す基本構造、
【0013】
【化1】

(式中、Mは、オスミウムまたはルテニウムであり、RおよびRは、それぞれ様々な構造を有する有機基であり、XおよびXは、それぞれアニオン性配位子であり、LおよびLは、それぞれ電荷をもたない(uncharged)の電子供与基である)を有している。
【0014】
このような触媒は、閉環メタセシス(RCM)、クロスメタセシス(CM)、および開環メタセシス(ROMP)に好適である。しかしながら、上述した触媒はニトリルゴムの分解に必ずしも好適というわけではない。
【0015】
ニトリルゴムのメタセシスは、「グラブス(I)触媒(Grubbs (I) catalyst)」群のある種の触媒を用いることによって上首尾に実施することができる。好適な触媒は、例えば、特定のパターンの置換基を有するルテニウム触媒、例えば、以下に示すビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド触媒である。
【0016】
【化2】

【0017】
水素化を経たゴムは、分子量が非常に低く、かつ分子量分布の狭いものとなる((特許文献1)、(特許文献5))。
【0018】
(特許文献6)には、このような低分子量HNBRをベースとする加硫物が開示されている。
【0019】
(特許文献7)には、双峰性(バイモーダル)または多峰性(マルチモーダル)の分子量分布を示す低分子量HNBRをベースとするブレンド物に加えて、このようなゴムの加硫物も記載されている。
【0020】
さらに、(特許文献8)には、当技術分野において「グラブス(II)触媒(Grubbs (II) catalyst」と称される触媒群が開示されている。このような「グラブス(II)触媒」、例えば、(1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(フェニルメチレン)ジクロリドを使用すれば、たとえコオレフィンを使用しなくともNBRメタセシスを上首尾に実施することができる。引き続きその場で実施される水素化を経ると、グラブス(I)型の触媒を使用するよりも低分子量で狭い分子量分布(PDI)を有する水素化ニトリルゴムとなる((特許文献9))。
【0021】
【化3】

【0022】
グラブス(II)触媒を用いて分解されたニトリルゴムを接着剤組成物に使用することが、例えば(特許文献10)に記載されている。
【0023】
ニトリルゴムをメタセシスにより分解するための上述の方法およびこの目的に使用される触媒には、このような触媒の溶液が特に大気中の酸素の存在下で不安定であり、常に新しく作製する必要があるという欠点がある。
【0024】
また、以下に示す構造、
【0025】
【化4】

(式中、Rは、例えば、イソプロピルまたはシクロヘキシル基であり、Aは、陰イオンである)を有する触媒(以下、ピアーズ(I)触媒(Piers (I) catalyst)と称する)も当技術分野において公知である(例えば、(非特許文献1)参照)。
【0026】
しかしながら、我々の独自の研究から、このようなピアーズ(I)触媒を使用してもNBRメタセシスによるニトリルゴムの分解が起こることはなく、むしろNBRがゲル化に至るだけであることがわかった。これにより、ニトリルゴムが不安定になってしまう。
【0027】
また、(特許文献11)には、ピアーズ(I)触媒から開発されたメタセシス反応用触媒が記載されている。
【特許文献1】国際公開第02/100941号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/100905号パンフレット
【特許文献3】国際公開第96/04289号パンフレット
【特許文献4】国際公開第97/06185号パンフレット
【特許文献5】国際公開第03/002613号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0110888A1号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/0127647A1号明細書
【特許文献8】国際公開第00/71554号パンフレット
【特許文献9】米国特許出願公開第2004/0132891A号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2004/0132906A1号明細書
【特許文献11】国際公開第2005/121158号パンフレット
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.、2004年、第43巻、6161〜6165頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
従来技術に端を発する本発明の目的は、ニトリルゴムをメタセシスにより分解する方法であって、好適な触媒を使用して行われ、ゲル化が観察されず、かつ触媒の溶液中の保存安定性も改善された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
驚くべきことに、この目的は、イミダゾリジン配位子とともにホスフィン基を有するカルベン配位子を有する触媒を用いたメタセシスによりニトリルゴムを分解する方法によって達成される。
【0030】
したがって本発明は、ニトリルゴムをメタセシスにより分解する方法であって、ニトリルゴムを、下記一般式(I)、
【0031】
【化5】

(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれアニオン性配位子であり、
、R、およびRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ有機基であり、
Imは、置換または無置換のイミダゾリジン基であり、
Aは、陰イオンである)
の触媒の存在下にメタセシス反応に付す方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
イミダゾリジン配位子とともにホスフィン基を有するカルベン配位子を有するこのような一般式(I)の触媒は、メタセシスによる分解に上首尾に使用することができる。すなわち、ゲル化を観測することなくニトリルゴムの分解が達成される。上述のピアーズ(I)触媒はニトリルゴムのメタセシスによる分解には適さないことが見出されていたので、このことはさらに驚くべきことである。さらに、本発明による触媒は、典型的に使用される溶媒、特にクロロベンゼン中で、たとえ高温下においても安定な溶液を形成する。触媒溶液の変色(これは、一般に失活または分解を示唆する)は、長時間放置した後や高温下でも観察されなかった。
【0033】
およびX
一般式(I)の触媒において、XおよびXは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、例えば、水素、ハロゲン、擬ハロゲン、C〜C20アルキル、アリール、C〜C20アルコキシ、アリールオキシ、C〜C20アルキルジケトネート、アリールジケトネート、C〜C20カルボキシレート、アリールスルホネート、C〜C20アルキルスルホネート、C〜C20アルキルチオール、アリールチオール、C〜C20アルキルスルホニル、またはC〜C20アルキルスルフィニル基である。
【0034】
およびXの定義としての上述の基は、1種またはそれ以上のさらなる基、例えば、ハロゲン、好ましくはフッ素、C〜C10アルキル、C〜C10アルコキシ、またはアリール基によってさらに置換されていてもよく、後者の基は、今度は、ハロゲン、好ましくはフッ素、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される1種またはそれ以上の置換基でさらに置換されていてもよい。
【0035】
好ましい実施態様においては、XおよびXは、それぞれ、ハロゲン、ベンゾエート、C〜Cカルボキシレート、C〜Cアルキル、フェノキシ、C〜Cアルコキシ、C〜Cアルキルチオール、アリールチオール、アリール、またはC〜Cアルキルスルホネートである。特に好ましい実施態様においては、XおよびXは、両方共が、ハロゲン、CFCOO、CHCOO、CFHCOO、(CHCO、(CF(CH)CO、(CF)(CHCO、PhO、MeO、EtO、トシレート、メシレート、またはトリフルオロメタンスルホネートである。特に、XおよびXは、両方共が塩素である。
【0036】
P(R):
一般式(I)の触媒において、(R)基中のR、R、およびR基は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、直鎖もしくは分岐のC〜C30アルキル、C〜C30シクロアルキル、またはアリールであってもよく、C〜C30アルキル基には、1つもしくはそれ以上の二重もしくは三重結合または1種もしくはそれ以上のヘテロ原子、好ましくは酸素もしくは窒素で中断されていてもよい。
【0037】
一般式(I)の触媒に好適なP(R)基は、例えば、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(o−キシリル)ホスフィン、およびトリメシチルホスフィンである。
【0038】
Im:
一般式(I)中のイミダゾリジン基(Im)は、通常、下記一般式(IIa)または(IIb)、
【0039】
【化6】

(式中、
、R、R、Rは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、直鎖もしくは分岐の環式もしくは非環式のC〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、アリールチオ、C〜C20アルキルスルホニル、C〜C20アルキルスルホネート、C〜C20アリールスルホネート、またはC〜C20アルキルスルフィニルである)の構造を有する。
【0040】
、R、R、Rの1つまたはそれ以上の基は、独立に、1種またはそれ以上の置換基、好ましくは、直鎖もしくは分岐の環式もしくは非環式のC〜C10アルキル、C〜C10アルコキシ、またはアリールで置換されていてもよく、上述のこれらの置換基は、今度は、1種またはそれ以上の基、好ましくは、ハロゲン、C〜Cアルキル、C〜Cアルコキシ、およびフェニルからなる群から選択される基で置換されていてもよい。
【0041】
好ましい実施態様においては、本発明の方法は、一般式(I)のRおよびRが、それぞれ、互いに独立に、水素、アリール(特に好ましくはフェニル)、直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキル(特に好ましくはプロピルまたはブチル)であるか、または一緒にシクロアルキルもしくはアリール基を形成し、上述の基がいずれも、今度は、直鎖または分岐のC〜C10アルキル、C〜C10アルコキシ、アリール、ならびにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアナート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンの群から選択される官能基からなる群から選択される1種またはそれ以上のさらなる基で置換されていてもよい触媒を用いて実施される。
【0042】
本発明の方法の好ましい実施態様においては、一般式(I)のRおよびR基が、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、直鎖もしくは分岐のC〜C10アルキル(特に好ましくはi−プロピルまたはネオペンチル)、アリール(特に好ましくはフェニル)、C〜C10アルキルスルホネート(特に好ましくはメタンスルホネート)、またはC〜C10アリールスルホネート(特に好ましくはp−トルエンスルホネート)である触媒が使用される。上述のRおよびR基は、直鎖または分岐のC〜Cアルキル(特にメチル)、C〜Cアルコキシ、アリール、ならびにヒドロキシ、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、アミン、イミン、アミド、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアナート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンの群から選択される官能基を含む群から選択される1種またはそれ以上のさらなる基で置換されていてもよい。特に好ましくは、RおよびR基は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、i−プロピル、ネオペンチル、またはアダマンチルである。
【0043】
本発明の特に好ましい方法は、以下に示す構造(IIIa〜f)、
【0044】
【化7】

を有するイミダゾリジン基(Im)を含む一般式(I)の触媒を用いて実施される。
【0045】
[A]
一般式(I)において、Aは陰イオンであり、好ましくは、ハロゲン化物イオン、擬ハロゲン化物イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、硫酸イオン、ホスホン酸イオン、リン酸イオン、錯陰イオンの群から、および非配位性陰イオンの群から選択される。
【0046】
Aはまた、例えば、硝酸イオン、亜硝酸イオン、炭酸イオン、亜硫酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、またはトリフルオロメタンスルホン酸(トリフラート)イオンであってもよい。
【0047】
ハロゲン化物イオンAは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、またはヨウ化物イオンであってもよい。
【0048】
擬ハロゲン化物イオンAは、例えば、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、アジ化物イオン、シアヌル酸イオン、またはチオシアヌル酸イオンであってもよい。
【0049】
カルボン酸イオンAは、例えば、ギ酸イオン、酢酸イオン、セバシン酸イオン、バーサチック酸イオン、アビエチン酸イオン、安息香酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、マレイン酸イオン、またはサリチル酸イオンであってもよい。
【0050】
スルホン酸イオンAは、例えば,ドデシルスルホン酸イオン、トリフルオロメチルスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、またはナフタレンスルホン酸イオンであってもよい。
【0051】
硫酸イオンAは、例えば、メチル硫酸イオン、プロピル硫酸イオン、またはドデシル硫酸イオンであってもよい。
【0052】
ホスホン酸イオンAは、例えば、モノエチルホスホン酸イオン、ジラウリルホスホン酸イオン、またはジフェニルホスホン酸イオンであってもよい。
【0053】
リン酸イオンAは、例えば、モノエチルリン酸イオン、ジラウリルリン酸イオン、モノフェニルリン酸イオン、またはジフェニルリン酸イオンであってもよい。
【0054】
Aはまた、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラフルオロアルミン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ヘキサクロロアンチモン酸イオン等の錯陰イオンであってもよい。
【0055】
Aはまた、テトラキス[ペンタフルオロフェニル]ホウ酸イオン、ペンタキス[ペンタフルオロフェニル]リン酸イオン、テトラキス[3,5−トリフルオロメチルフェニル]ホウ酸イオン、ペンタキス[3,5−トリフルオロメチルフェニル]リン酸イオン、ペンタキス[ペンタフルオロフェニル]シクロヘキサジエニルアニオン、または(ビス(トリスペンタフルオロフェニル)ボロ)シアニド((bis-(trispentafluorophenyl)boro)cyanide)イオン等の非配位性陰イオンであってもよい。
【0056】
本発明の方法の特に好ましい実施態様においては、以下の構造(IVa〜c)、
【0057】
【化8】

(式中、R、R、Rは、それぞれ、直鎖もしくは分岐のC〜C30アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはアリールであり、C〜C30アルキル基には、1つもしくはそれ以上の二重もしくは三重結合または1種もしくはそれ以上のヘテロ原子、好ましくは酸素もしくは窒素で中断されていてもよく、
Aは、一般式(I)での定義と同義である)を有する触媒が使用される。
【0058】
本発明の方法の特に非常に好ましい実施態様においては、一般式(IVa〜c)中、
P(R)基が、トリイソプロピルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(o−キシリル)ホスフィン、またはトリメシチルホスフィンであり、
Aが、臭化物イオン、バーサチック酸イオン、セバシン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ホウ酸イオン、テトラキス[ペンタフルオロフェニル]ホウ酸イオン、または(ビス(トリスペンタフルオロフェニル)ボロ)シアニドイオンである触媒が使用される。
【0059】
このような一般式(I)の触媒の存在下においては、ニトリルゴムの非常に優れたメタセシス分解を行うことが可能である。
【0060】
[メタセシスの反応条件]
本発明の方法におけるメタセシスに使用される一般式(I)の触媒の量は具体的な触媒の性質および触媒活性に依存する。触媒は、使用されるニトリルゴムを基準として、貴金属が5〜1000ppm、好ましくは10〜500ppm、特に25〜250ppmとなる量で使用される。
【0061】
NBRメタセシスは、通常、コオレフィン、好ましくは直鎖または分岐のC〜C16オレフィンの存在下に実施される。好適なコオレフィンの例は、例えば、エチレン、プロピレン、イソブテン、スチレン、1−ヘキセン、および1−オクテンである。1−ヘキセンまたは1−オクテンを使用することが好ましい。このコオレフィンが液体(例えば1−ヘキセン)である場合、好ましくは、コオレフィンの量は、使用されるNBRを基準として0.2〜20重量%の範囲にある。コオレフィンが気体、例えばエチレンの場合は、反応槽内に1×10Pa〜1×10Paの範囲の圧力、好ましくは5.2×10Pa〜4×10Paの範囲の圧力が確立されるようにコオレフィンの量を選択する。
【0062】
メタセシス反応は、使用される触媒を失活させず、かつ反応にいかなる悪影響も与えない好適な溶媒中で実施してもよい。好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、およびシクロヘキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に好ましい溶媒はクロロベンゼンである。コオレフィンそのものが溶媒としても作用できる場合(例えば、1−ヘキセンの場合)は、場合によっては、さらなる溶媒の追加を省略することが可能である。
【0063】
使用されるニトリルゴムのメタセシス反応混合物中での濃度は決定的な因子ではないが、当然のことながら、反応混合物の粘度が高くなり過ぎたり、それに付随する混合の問題によって反応に悪影響が及ぼされるべきではないことを考慮しなければならない。反応混合物中のNBRの濃度は、好ましくは、反応混合物全体を基準として1〜20重量%の範囲、特に好ましくは5〜15重量%の範囲にある。
【0064】
メタセシスによる分解は、通常、20℃〜150℃の範囲、好ましくは30〜100℃の範囲、特に50〜90℃の範囲の温度で実施される。
【0065】
反応時間は、多くの要素、例えば、NBRの種類、触媒の種類、使用される触媒の濃度、および反応温度に左右される。通常の条件下においては、典型的には3時間以内に反応が完了する。メタセシスの進行を、標準的な分析方法、例えばGPCまたは粘度測定によって監視してもよい。
【0066】
[ニトリルゴム]
ニトリルゴム(「NBR」)としては、少なくとも1種の共役ジエン、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、および所望により1種またはそれ以上のさらなる共重合可能なモノマーの繰り返し単位を含むポリマーを本発明のメタセシス反応に使用することが可能である。
【0067】
共役ジエンはどのような性質のものであってもよい。好ましくは、(C〜C)共役ジエンを使用する。1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレン、またはその混合物が特に好ましい。1,3−ブタジエンまたはイソプレンまたはその混合物が特別に好ましい。1,3−ブタジエンが特に非常に好ましい。
【0068】
α,β−不飽和ニトリルとしては、公知の任意のα,β−不飽和ニトリル、好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、これらの混合物等の(C〜C)α,β−不飽和ニトリルを使用することが可能である。アクリロニトリルが特に好ましい。
【0069】
したがって、特に好ましいニトリルゴムは、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンとの共重合体である。
【0070】
これに加えて、当業者に公知のさらなるモノマー、例えば、α,β−不飽和カルボン酸またはそのエステルを使用することも可能である。酸では、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、およびイタコン酸、ならびにそのエステルであるアクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル、およびメタクリル酸エチルヘキシルが好ましい。他に使用可能なモノマーは、不飽和ジカルボン酸またはその誘導体(例えばエステルまたはアミド)、例えば、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノエチル、およびマレイミドである。メタクリル酸、フマル酸、アクリル酸ブチル、およびアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0071】
使用されるNBRポリマー中の共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルの比率は広範囲に変化してもよい。共役ジエンの比率または共役ジエンを合計した比率は、通常、ポリマー全体を基準として40〜90重量%の範囲、好ましくは65〜75重量%の範囲にある。α,β−不飽和ニトリルの比率またはα,β−不飽和ニトリルを合計した比率は、通常、ポリマー全体を基準として10.0〜60重量%、好ましくは25〜35重量%である。追加のモノマーは、ポリマー全体を基準として0.1〜40重量%、好ましくは1〜30重量%の量で存在してもよい。その場合、α,β−不飽和ニトリルおよび共役ジエンの比率はこれに対応して低下し、いずれの場合においてもモノマー全体の比率が100重量%となる。
【0072】
上述のモノマーの重合によるニトリルゴムの調製は当業者に十分に知られており、文献に総合的に説明されている(例えば、ハウベン−ヴェイル(Houben−Weyl)、有機化学の方法(メソデン・デア・オルガニッシェン・ヘミー(Methoden der Organischen Chemie[Methods of Organic Chemistry]))、第14/1巻、ゲオルグ・ティーメ・フェルラーク(Georg Thieme Verlag)、シュトゥットガルト(Stuttgart)、1961年)。
【0073】
メタセシスに使用されるニトリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、30〜70、好ましくは30〜50の範囲にある。これは、重量平均分子量Mが200000〜500000の範囲、好ましくは200000〜400000の範囲にあることに相当する。さらに、使用されるニトリルゴムの多分散度PDI=M/M(ここで、Mは数平均分子量である)は、2.0〜6.0の範囲、好ましくは2.0〜4.0の範囲にある。
【0074】
ムーニー粘度の測定は、ASTM標準D1646に準拠して実施する。
【0075】
[分解されたニトリルゴム]
本発明のメタセシス方法により得られたニトリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、5〜30の範囲、好ましくは5〜20の範囲にある。これは、重量平均分子量Mが10000〜200000の範囲、好ましくは10000〜150000の範囲にあることに相当する。また、得られたニトリルゴムの多分散度PDI=M/M(式中、Mは数平均分子量である)は、1.5〜4.0の範囲、好ましくは1.7〜3の範囲にある。
【0076】
[水素化]
メタセシスにより分解を行う本発明の方法に続いて、得られたニトリルゴムの分解物を水素化してもよい。これは当業者に公知の方法で実施してもよい。
【0077】
この水素化は、均一または不均一水素化触媒を用いて実施することができる。この水素化をその場で実施すること、すなわち、先にメタセシス分解を行った反応槽と同じ反応槽内で、分解されたニトリルゴムの単離を必要とすることなく水素化を実施することも可能である。水素化触媒は、反応槽に単に添加する。
【0078】
水素との反応は、例えば、「ウイルキンソン(Wilkinson)」触媒((PPhRhCl)として知られるものやテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウムヒドリドまたはその他の均一触媒を用いて適切に実施することができる。
【0079】
ニトリルゴムの水素化方法は公知である。触媒としては、通常は、ロジウム、ルテニウム、またはチタンが使用されるが、白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、または銅を使用してもよく、金属として使用するか、または好ましくは金属化合物の形態で使用する(例えば、米国特許第3,700,637号明細書、DE−A−2539132号明細書、EP−A−0134023号明細書、DE−A−3541689号明細書、DE−A−3540918号明細書、EP−A−0298386号明細書、DE−A−3529252号明細書、DE−A−3433392号明細書、米国特許第4,464,515号明細書、および米国特許第4,503,196号明細書参照)。
【0080】
水素化に好適な均一相中の触媒および溶媒を以下に説明するが、これらはDE−A−2539132号明細書およびEP−A−0471250号明細書からも公知である。
【0081】
選択的水素化は、例えば、ロジウムまたはルテニウム含有触媒の存在下に達成することができる。例えば、一般式、
(RB)MX
(式中、Mは、ルテニウムまたはロジウムであり、R基は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基、C〜C15アリール基、またはC〜C15アラルキル基であり、Bは、リン、ヒ素、硫黄、またはスルホキシド基S=Oであり、Xは、水素または陰イオン、好ましくはハロゲン、特に好ましくは塩素または臭素であり、lは、2、3、または4であり、mは、2または3であり、nは、1,2、または3であり、好ましくは、1または3である)の触媒を使用することが可能である。好ましい触媒は、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリド、およびトリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)クロリドに加えて、式((CP)RhHのテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウムヒドリド、ならびにトリフェニルホスフィンの全部または一部をトリシクロヘキシルホスフィンに置き替えた対応する化合物である。触媒は少量で使用してもよい。ポリマーの重量を基準として、0.01〜1重量%の範囲、好ましくは、0.03〜0.5重量%の範囲、特に好ましくは、0.1〜0.3重量%の範囲の量が好適である。
【0082】
通常、触媒と一緒に、式RB(式中、R、m、およびBは上記と同義)の配位子である共触媒を使用すると有利である。mは、好ましくは3であり、Bは、好ましくはリンであり、R基は、同一であっても異なっていてもよい。好ましい共触媒は、トリアルキル、トリシクロアルキル、トリアリール、トリアラルキル、ジアリールモノアルキル、ジアリールモノシクロアルキル、ジアルキルモノアリール、ジアルキル−モノシクロアルキル、またはジシクロアルキルモノアリール基を有するものである。
【0083】
共触媒の例は、例えば、米国特許第4,631,315号明細書に記載されている。好ましい共触媒はトリフェニルホスフィンである。好ましくは、共触媒は、水素化されるニトリルゴムの重量を基準として0.3〜5重量%の範囲、好ましくは0.5〜4重量%の範囲の量で使用される。さらに、ロジウム含有触媒対共触媒の重量比は、好ましくは、1:3〜1:55の範囲、より好ましくは、1:5〜1:45の範囲にある。水素化されるニトリルゴム100重量部を基準として、共触媒を0.1〜33重量部、好ましくは0.5〜20重量部、特に非常に好ましくは1〜5重量部、特に、水素化されるニトリルゴム100重量部を基準として、2重量部を超えるが5重量部未満の共触媒を使用すると有利である。
【0084】
この水素化を実施する工業的手順は、米国特許第6,683,136号明細書より当業者に十分に理解されるであろう。通常は、水素化されるニトリルゴムをトルエンやモノクロロベンゼン等の溶媒中で50〜150barの圧力の水素を用いて100〜150℃で2〜10時間処理することによって実施される。
【0085】
本発明の目的のための水素化においては、出発原料であるニトリルゴム中に存在する二重結合を、少なくとも50%、好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%程度反応させる。
【0086】
不均一触媒を使用する場合、これらは、通常はパラジウム系の担持触媒であり、例えば、炭素、シリカ、酸化カルシウム、硫酸バリウム等に担持されている。
【0087】
水素化完了後に得られる水素化ニトリルゴムは、ASTM標準D1646に準拠して測定されたムーニー粘度(ML1+4、100℃)が10〜50、好ましくは10〜30の範囲にある。これは、重量平均分子量Mが20000〜400000g/molの範囲、好ましくは20000〜200000g/molの範囲にあることに相当する。また、こうして得られた水素化ニトリルゴムの多分散度PDI=M/M(ここで、Mは数平均分子量である)は、1〜5の範囲、好ましくは1.5〜3の範囲にある。
【0088】
[実施例]
I:本発明に従い使用される触媒の合成
・[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム]テトラフルオロボレート B2の(2)
・[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム][テトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート] B3の(3)
・[ジクロロ(4,5−ジブチル−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム]テトラフルオロボレート B8の(6)
【0089】
B1:カルビド(ジクロロ)−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(1)
【0090】
【化9】

(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(PCy)ClRu=CHPh(0.42g;0.5mmol)およびトランス−3−メチレン−1,2−シクロプロパンジカルボン酸ジエチル(0.10g;0.5mmol)を25mlのシュレンク(Schlenk)容器に装入した。保護ガスとしての窒素下で乾燥CHCl(5ml)を加え、赤褐色の溶液を12時間撹拌した。次いで、結果として得られた橙褐色の溶液から溶媒を高減圧下で除去した。褐色の残渣を窒素下でヘキサン(2ml)中にとり、1時間撹拌した後、濾過した。残渣をヘキサンで2回洗浄し、カルビド(ジクロロ)−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(1)を淡褐色固体として得た(0.23g;60%)。
H NMR(300MHz,CDCl):δ6.95(s,2H)、6.89(s,2H)、4.07(m,4H)、2.53(s,6H)、2.49(s,6H)、2.31(broad s,3H)、2.29(s,3H)、2.24(s,3H)、1.88、1.62、1.13(all m,30H)
31P NMR(121MHz,CDCl):δ34.7(s)
【0091】
B2:[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム]テトラフルオロボレート(2)
【0092】
【化10】

【0093】
ガラス器具をすべて160℃のオーブンで乾燥した。
【0094】
実施例B1からの化合物(1)(0.15g;0.195mmol)を、保護ガスとしての窒素下で25mlのシュレンク容器に装入した。乾燥CHCl10mlを減圧下で凝縮した後、反応混合物を室温まで加温した。[H(EtO)]BF(0.027ml;0.195mmol)をシリンジで添加すると、溶液の色が緑褐色に変化した。この混合物を2時間撹拌した後、オイルポンプで減圧して溶媒を除去した。油状の残渣を窒素下で1時間ヘキサン2mlで抽出した後、濾過した。ヘキサンでさらに2回洗浄した後、[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム]テトラフルオロボレート(2)を緑褐色の微結晶固体として得た(0.15g;90%)。
H NMR(300MHz,CDCl):δ17.86(d,J=36Hz,1H)、7.11(s,4H)、4.21(s,4H)、2.40(s,6H)、2.38(s,12H)、2.34(broad s,3H)、1.82、1.25(all m,30H)
31P NMR(121MHz,CDCl):δ54.4
13C NMR(125MHz,CDCl):δ262.8(Ru=CH−)、188.5(N−C−N)、141.4(CMes)、138.3(CMes)、135.0(CMes)、130.6(CMesH)、53.1(N−CH)、30.7(d,JC−P=37Hz)、28.2、26.5(d,JC−P=12Hz)、25.3(all PCy)、21.3(para−CH)、19.1(ortho−CH
【0095】
B3:[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム][テトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート](3)
【0096】
【化11】

【0097】
ガラス器具をすべて160℃のオーブンで乾燥した。
【0098】
実施例B1からの化合物1(0.231g;0.3mmol)および[H(EtO)][B[3,5−(CF](0.304ml;0.3mmol)を25mlのシュレンク容器に装入した。乾燥CHCl(15ml)を減圧下で凝縮した後、この混合物を室温まで加温した。2時間撹拌した後、オイルポンプで減圧して溶媒を除去した。残留したオイルを窒素下で1時間ヘキサンで抽出し、上清の溶媒をデカンテーションにより除去した。ヘキサンによる洗浄を1回繰り返した。[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム][テトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート](3)を緑褐色固体として得た(0.46g;94%)。
H NMR(300MHz,CDCl):δ18.08(d,J=38Hz,1H)、7.72(m,8H)、7.56(s,4H)、7.07(s,4H)、4.15(s,4H)、2.37(s,18H)、2.33(broad s,3H)、1.80、1.24(all m,30H)
31P NMR(121MHz,CDCl):δ53.6
13C NMR(125MHz,CDCl):δ261.6(Ru=CH−)、188.5(N−C−N)、162.1(1:1:1:1 q,JC−B=50Hz,CPh−B)、140.8(CMes)、138.3(CMes)、135.1(ortho−CPhH)、134.9(CMes)、130.8(CMesH)、129.2(q,JC−F=32Hz,C−CF)、124.9(q,JC−F=272Hz,CF)、117.8(para−CPhH)、53.4(N−CH)、30.6(d,JC−P=38Hz)、28.2、26.5(d,JC−P=11Hz)、25.2(all PCy)、21.3(para−CH)、19.1(ortho−CH
7272BCl24PRuの含有率の計算値:C:52.89%、H:4.44%、N:1.71%
実測値:C:52.92%、H:4.35%、N:1.73%
MS:m/e(%)770(1)、733(2)、304(43)、214(100)、198(59)、133(77)、117(55)、83(51)、55(62)
【0099】
B4:dl−N,N’−ジメシチルデカン−5,6−ジアミン
【0100】
【化12】

150mlのシュレンク容器内で、保護ガスとしての窒素下において、N,N’−ジメシチルエタンジイミン(2.92g;10mmol)をTHF30mlに溶解し、この溶液を−78℃に冷却した。結果として得られた懸濁液に1.6Mのブチルリチウムのヘキサン溶液(13.8ml;22mmol)を−78℃でゆっくりと加えた。この反応混合物を1時間かけて−10℃まで加温した後、同温度でさらに1時間撹拌した。次いで、溶媒を除去した後、氷浴上でジエチルエーテル15mlおよび水10mlを加えた。水相をエーテル5mlで2回抽出し、抽出液を一緒に合わせ、粉末NaOH上で乾燥した。溶媒を除去すると橙色の油状物が残った。この粗生成物をシリカゲルカラム(50g)上でクロマトグラフィーにかけて、石油エーテル/トルエン(1:1)で溶出した。溶媒を除去し、dl−N,N’−ジメシチルデカン−5,6−ジアミンの黄色結晶を得た(2.67g;65%)。
H NMR(300MHz,CDCl):δ6.74(s,4H)、3.12(broad s,2H)、2.98(broad s,2H)、2.22(s,6H)、2.05(s,12H)、1.74(m,2H)、1.49(m,2H)、1.30(m,8H)、0.89(t,J=6.8Hz,6H)
13C NMR(75MHz,CDCl):δ141.9、130.2、129.6、128.8、58.0、31.1、29.5、23.1、20.5、18.8、14.1
2844の含有率の計算値:C:82.29%、H:10.85%、N:6.85%
実測値:C:82.20%、H:10.66%、N:6.91%
MS:m/e(%):408(1)、333(3)、204(100)、146(85)、44(92)
【0101】
B5:[トランス−4,5−ジブチル−1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾリウム]テトラフルオロボレート
【0102】
【化13】

実施例B3からのdl−N,N’−ジメシチルデカン−5,6−ジアミン(0.817g;2mmol)、NHBF(0.21g;2mmol)、およびオルトギ酸トリエチル(0.42ml;2.5mmol)を25mlの丸底フラスコに装入した。反応混合物を連続した窒素気流中で130℃で4時間加熱した。溶媒を除去して得られた褐色の油状物をジエチルエーテル2mlと一緒に1時間撹拌した。ジエチルエーテルをデカンテーションにより除去した後、ジエチルエーテルによる洗浄操作を2回繰り返した。これにより、粗生成物として暗色結晶を得、これをシリカゲル(15g)上でカラムクロマトグラフィーにかけた。酢酸メチルで溶出した後、溶媒を除去し、ジヒドロイミダゾリウム塩を淡褐色粉末として得た(0.72g;71%)。
H NMR(300MHz,CDCl):δ8.50(s,1H)、7.00(s,2H)、6.98(s,2H)、4.20(broad s,2H)、2.35(s,6H)、2.33(s,6H)、2.31(s,6H)、1.80(m,4H)、1.31(m,8H)、1.14(m,2H)、0.86(t,J=6.9Hz,6H)
13C NMR(75MHz,CDCl):δ158.4、140.4、135.7、134.4、130.4、128.9、69.4、32.9、27.2、22.3、21.1、18.4、18.1、13.7
MS:m/e(%):419(22)、361(100)、305(12)、280(10)、146(11)、135(32)、57(11)
【0103】
B6:ジクロロ(トランス−4,5−ジブチル−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)(フェニルカルベン)ルテニウム(4)
【0104】
【化14】

KOBu(0.133g;1.181mmol)をTHF20mlに溶解した溶液をグローブボックス内で調製した後、ボックスから取り出した。実施例B4からの[トランス−4,5−ジブチル−1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾリウム]テトラフルオロボレート(0.57g;1.125mmol)を、保護ガスとしての窒素下でTHF10mlに溶解し、150mlのシュレンク容器に導入した。室温下でKOBu溶液を[トランス−4,5−ジブチル−1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロイミダゾリウム]テトラフルオロボレートの褐色溶液と一緒に合わせた。濁った黄橙色の溶液を1時間撹拌した。次いで、(PCyClRu=CHPh(0.741g;0.9mmol)をベンゼン40mlに溶解した溶液をシリンジで加えた。反応混合物を80℃で1.5時間加熱した後、溶媒を除去した。残渣をシリカゲルカラム(10g)上でクロマトグラフィーにかけ、石油エーテル/ジエチルエーテル混合物(4:1)を用いて赤色領域の粗生成物を溶出した。溶媒を除去した。窒素下において赤色油状物を0℃で1時間ヘキサン2mlで抽出した後、濾過してヘキサンを除去した。残渣をヘキサンで2回洗浄し、ジクロロ(トランス−4,5−ジブチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)(フェニルカルベン)ルテニウム(4)を桃色固体として得た(0.48g;55%)。
H NMR(300MHz,CDCl):δ19.14(d,J=132Hz,1H)、8.96(broad s,1H)、7.36(broad s,1H)、7.23−6.52(m,6H)、5.96、5.71(two broad s,1H)、3.79(broad s,2H)、2.90−0.65(m,51H)
31P NMR(121MHz,CDCl):δ27.6(s)
13C NMR(75MHz,CDCl):δ295.0、221.7、220.7、151.8、140.5、139.4(broad)、138.6、137.8、137.4、135.4(broad)、132.4(broad)、130.8、130.5、129.8、128.0(broad)、71.7、70.6、69.3、34.9、34.5(broad)、32.0(broad)、29.7(broad)、28.8、28.6、28.5、28.4、26.8、23.6、23.4、22.5、21.5、21.3、20.6、19.5(broad)、14.3、14.2
5481ClPRuの含有率の計算値:C:67.48%、H:8.49%、N:2.91%
実測値:C:67.29%、H:8.30%、N:2.95%
【0105】
B7:カルビド(ジクロロ)(トランス−4,5−ジブチル−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(5)
【0106】
【化15】

実施例B5からのジクロロ(トランス−4,5−ジブチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)(フェニルカルベン)ルテニウム(0.48g;0.5mmol)およびトランス−3−メチレン−1,2−シクロプロパンジカルボン酸ジエチル(0.10g;0.5mmol)を25mlのシュレンク容器に導入した。保護ガスとしての窒素下で乾燥CHCl5mlを加えた。得られた赤褐色の溶液を12時間撹拌した。次いで、褐色の溶液から高減圧下で溶媒を除去した。油状の残渣を窒素中で1時間ヘキサン2mlで処理した。濾過を行った後、固体をヘキサンで2回洗浄し、カルビド(ジクロロ)(4,5−ジブチル−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(5)を淡褐色固体として得た(0.35g;79%)。
H NMR(300MHz,CDCl):δ6.90(pseudo t,J=12Hz,4H)、3.91(m,1H)、3.79(m,1H)、2.53(s,3H)、2.51(s,3H)、2.50(s,3H)、2.48(s,3H)、2.31(broad s,3H)、2.28(s,3H)、2.24(s,3H)、1.98−1.48、1.40−0.94(all m,42H)、0.85(t,J=6.9Hz,3H)、0.83(t,J=6.9Hz,3H)
31P NMR(121MHz,CDCl):δ34.0(s)
13C NMR(75MHz,CDCl):δ480.8、211.5、210.3、139.5、139.1、137.5、137.4、137.3、136.8、134.8、129.8、129.7、129.5、129.2、70.5、69.1、34.4、34.0、31.2、30.9、29.2、29.0、27.9、27.8、27.7、26.3、22.7、22.6、21.6、21.1、20.9、20.6、20.2、19.0、13.8、13.7
4875ClPRuの含有率の計算値:C:65.29%、H:8.56%、N:3.17%
実測値:C:65.21%、H:8.48%、N:3.13%
MS:m/e(%)882(19)、846(39)、602(13)、429(23)、417(54)、315(100)、198(57)、117(82)、55(70)
【0107】
B8:[ジクロロ(トランス−4,5−ジブチル−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム]テトラフルオロボレート(6)
【0108】
【化16】

【0109】
ガラス器具はすべて160℃のオーブンで乾燥した。
【0110】
実施例B6からのカルビド(ジクロロ)(4,5−ジブチル−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(5)(0.31g;0.35mmol)を25mlのシュレンク容器に装入し、乾燥CHCl10mlを減圧下で凝縮し、この混合物を窒素下で室温まで加温した。[H(EtO)]BF(0.048ml;0.35mmol)をシリンジで加えると、反応混合物が緑黒色になった。2時間撹拌した後、オイルポンプで減圧して溶媒を除去した。油状の残渣を窒素下で1時間ヘキサン2mlで処理した後、濾過した。洗浄操作を1回繰り返し、[ジクロロ(トランス−4,5−ジブチル−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム]テトラフルオロボレート(6)を暗緑色の微結晶固体として得た(0.32g;94%)。
H NMR(300MHz,CDCl):δ19.83、19.11、18.44(all s,1H)、7.66−6.90(m,4H)、4.84(m,1H)、3.72(m,1H)、2.80−2.18、2.00−0.62(both m,51H)
31P NMR(121MHz,CDCl):δ34.0(s)
13C NMR(75MHz,CDCl):δ194.8、143.4(broad)、139.0(broad)、137.7、136.8、135.9、135.2、134.9、134.0、130.9、129.8、128.7、121.7、68.1、66.0(broad)、32.9、30.9、30.3、28.6、27.1、27.0、26.9、26.7、25.8、23.1、22.9、21.6、20.6、20.2、14.2、14.1
4876BClPRuの含有率の計算値:C:59.38%、H:7.89%、N:2.89%
実測値:C:59.01%、H:7.68%、N:2.75%
【0111】
II:実施例B3からの触媒[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム][テトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート](実施例B3からのルテニウム化合物3)の溶液中における安定性の、(1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(フェニルメチレン)ジクロリド(「グラブス(II)触媒」)との比較
【0112】
【化17】

【0113】
溶解した触媒の安定性を重水素化クロロホルム(CDCl)中および重水素化ベンゼン(C)中におけるNMRによって決定した。
【0114】
ここでは、[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム][テトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート](本発明による実施例B3からのルテニウム化合物)を、(1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(フェニルメチレン)ジクロリド(グラブス(II)触媒)と比較して試験した。グラブス(II)触媒はマテリア・インコーポレーテッド(Materia Inc.)(米国カリフォルニア州パサディナ(Pasadena California/USA))から購入した。それぞれの場合に0.01M溶液(溶媒0.5ml当たりグラブス(II)触媒4.2mgおよび溶媒0.5ml当たりB3からの触媒8.2mg)を使用した。この溶液は、保護ガスを使用せずに空気中で調製した。NMR管に溶液を満たした後、24℃で保管した。いずれの場合も30分間置いた後に、NMR管を空気中に開放して激しく振った。毎時間ごとに濃度測定を実施した。
【0115】
重水素化クロロホルム中で測定された相対濃度の時間依存性を以下に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
触媒溶液を保管している間にグラブス(II)触媒の色は紫から橙褐色に変化した。グラブス(II)触媒の分解生成物としてベンズアルデヒドが生成した。B3からの触媒の溶液は最初は橙色であった。溶液を保管している間に、かろうじて認識できる程度の暗色化が起こった。B3からの触媒の分解生成物はNMRでは検出できなかった。
【0118】
重水素化ベンゼン中で測定した相対濃度の時間依存性を以下に示す。
【0119】
【表2】

【0120】
触媒溶液を保管している間にグラブス(II)触媒の色は紫から暗褐色に変化した。グラブス(II)触媒の分解生成物としてベンズアルデヒドが生成した。B3からの触媒の溶液は最初は淡緑色であった。保管中、B3からの触媒の溶液に色の変化は観察されなかった。B3からの触媒の分解生成物はNMRでは検出できなかった。
【0121】
この調査から、B3からの触媒である[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム][テトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート]の酸素含有溶媒中における安定性が、グラブス(II)触媒の対応する溶液と比較して著しく高いことがわかる。
【0122】
III:実施例B2、B3、およびB8からのRu触媒の、メタセシスによりニトリルゴムを分解するための使用
ランクセス・ドイチェラント社(Lanxess Deutschland GmbH)からのニトリルゴムであるペルブナン(Perbunan)(登録商標)NT3435を用いて以下に説明する分解反応を実施した。このニトリルゴムの特性を以下に示す。
アクリロニトリル含有率:35重量%
ムーニー値(ML1+4、100℃):34ムーニー単位
残留水分量:1.8重量%
:240000g/mol
:100000g/mol
PDI(M/M):2.4
【0123】
以下、このニトリルゴムを略してNBRと称する。
【0124】
いずれの場合も、クロロベンゼン(以下、「MCB」と称する/アルドリッチ(Aldrich))293.3gを蒸留して使用前に室温下で空気を通気することにより酸素で飽和させたものをメタセシス分解用として用いた。ここにNBR40gを室温で10時間かけて溶解した。いずれの場合も、NBR含有溶液に1−ヘキセン0.8g(2phr)を加え、この混合物を30分間撹拌して均質化した。
【0125】
上述の実施例B2、B3、およびB8からのRu触媒を以下の表に示した量で使用してメタセシス反応を実施した。この目的のために、Ru触媒をそれぞれ保護ガスを使用せずに室温下でMCB20gに溶解した。MCBを用いて触媒溶液を調製する前に、いずれの場合も、溶媒を酸素で飽和させるために室温下で空気を通気した。試験1)および2)においては、触媒溶液を調製した直後にNBRのMCB溶液を触媒溶液に添加した。試験3)においては、触媒溶液を使用する前に40℃で4日間保管した。
【0126】
メタセシス反応中の反応温度を以下の表に示す。この表に示す反応時間が経過した後、いずれの場合も反応液から約5mlの溶液を採取し、即座にエチルビニルエーテル約0.2mlと混合して反応を停止させた後、アルドリッチからのDMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)5mlで希釈した。いずれの場合もこの溶液2mlをGPCバイアルに導入してDMAcで3mlに希釈した。GPC分析を実施する前に、いずれの場合もテフロン(登録商標)製の0.2μmシリンジフィルター(クロマフィル(Chromafil)PTFE0.2μm;マッハライ・ナーゲル(Machery−Nagel))で溶液を濾過した。次いで、ウォーターズ(Waters)の機器(型式510)を用いてGPC分析を実施した。ポリマー・ラボラトリーズ(Polymer Laboratories)からの4本のカラム:1)PLgel 5μm Mixed−C、300×7.5mm、2)PLgel 5μm Mixed−C、300×7.5mm、3)PLgel 3μm Mixed−E、300×7.5mm、および4)PLgel 3μm Mixed−E、300×7.5mmを組み合わせて分析に用いた。
【0127】
GPCカラムの較正は、ポリマー・スタンダーズ・サービシーズ(Polymer Standards Services)からの線状ポリ(メタクリル酸メチル)を用いて行った。検出器は、ウォーターズのRI検出器(ウォーターズ410)を使用した。溶出液としてDMAcを流速0.5ml/分で使用して分析を実施した。ミレニアム(Millenium)からのソフトウェアを用いてGPC曲線を評価した。
【0128】
元のNBRゴム(分解前)および分解生成物の両方についてGPC分析を行い、以下に示す特徴的な特性を測定した。
(kg/mol):重量平均モル質量
(kg/mol):数平均モル質量
PDI:モル質量分布(M/M)の幅
【0129】
上述のRu化合物B2、B3、およびB8を用いて3種類の試験を実施した結果、これらの試験から、これらのRu化合物がNBRの分解を触媒するのに好適であることがわかった。
【0130】
試験1)
[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム]テトラフルオロボレート(B2からのRu触媒(2))を用いたNBRのメタセシス
【0131】
【化18】

【0132】
【表3】

【0133】
試験1)から、実施例B2からのRu触媒(2)が、酸素で飽和したMCB溶液中において、反応温度55℃でNBRのメタセシス分解を触媒することがわかる。試験1)で得られたNBR分解物はゲルを含まない。
【0134】
試験2)
[ジクロロ(1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム][テトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ボレート](B3からのRu触媒(3))を用いたNBRのメタセシス
【0135】
【化19】

【0136】
【表4】

【0137】
試験2)から、B3からのRu触媒(3)が、酸素で飽和したMCB溶液中において、55℃でNBRのメタセシスを触媒することがわかる。試験2)で得られたNBR分解物はゲルを含まない。
【0138】
試験3)
[ジクロロ(トランス−4,5−ジブチル−1,3−ジメシチルジヒドロイミダゾリリデン)(トリシクロヘキシルホスホニオカルベン)ルテニウム]テトラフルオロボレート(B8からのRu触媒(6))を用いたNBRのメタセシス
この試験では、B8からのRu触媒(6)の酸素含有MCB溶液を、使用前に40℃で4日間保管した。
【0139】
【化20】

【0140】
【表5】

【0141】
試験3)からは、触媒溶液を40℃で4日間保管した後でさえも、B8からのRu触媒(6)が酸素飽和MCB溶液中において23℃でNBRのメタセシスを触媒することがわかる。試験3)で得られたNBR分解物はゲルを含まない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルゴムをメタセシスにより分解するための方法であって、ニトリルゴムを、下記一般式(I)、
【化1】

(式中、
Mは、ルテニウムまたはオスミウムであり、
およびXは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれアニオン性配位子であり、
、R、およびRは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ有機基であり、
Imは、置換または無置換のイミダゾリジン基であり、
Aは、陰イオンである)
の触媒の存在下にメタセシス反応に付す方法。
【請求項2】
およびXが、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、ハロゲン、擬ハロゲン、C〜C20アルキル、アリール、C〜C20アルコキシ、アリールオキシ、C〜C20アルキルジケトネート、アリールジケトネート、C〜C20カルボキシレート、アリールスルホネート、C〜C20アルキルスルホネート、C〜C20アルキルチオール、アリールチオール、C〜C20アルキルスルホニル、またはC〜C20アルキルスルフィニル基である一般式(I)の触媒が使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一般式(I)中のP(R)基中のR、R、およびR基が、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、直鎖もしくは分岐のC〜C30アルキル、C〜C30シクロアルキル、またはアリールであり、前記C〜C30アルキル基は、1つもしくはそれ以上の二重もしくは三重結合または1種もしくはそれ以上のヘテロ原子、好ましくは酸素もしくは窒素で中断されていてもよい、一般式(I)の触媒が使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(I)中のP(R)が、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(o−キシリル)ホスフィン、またはトリメシチルホスフィンである一般式(I)の触媒が使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
一般式(I)中のイミダゾリジン基(Im)が、下記一般式(IIa)または(IIb)、
【化2】

(式中、
、R、R、Rは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ、水素、直鎖もしくは分岐の環式もしくは非環式のC〜C20アルキル、C〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、アリールチオ、C〜C20アルキルスルホニル、C〜C20アルキルスルホネート、C〜C20アリールスルホネート、またはC〜C20アルキルスルフィニルである)の構造を有する触媒が使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
一般式(I)中のイミダゾリジン基(Im)が、下記一般式(IIIa〜f)、
【化3】

からの構造を有する一般式(I)の触媒が使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
一般式(I)中のAが、硝酸イオン、亜硝酸イオン、炭酸イオン、亜硫酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸(トリフラート)イオン、ハロゲン化物イオン、擬ハロゲン化物イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、硫酸イオン、ホスホン酸イオン、リン酸イオン、錯陰イオン、または非配位性陰イオンである一般式(I)の触媒が使用される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
以下に示すいずれかの構造(IVa〜c)、
【化4】

(式中、
、R、Rは、それぞれ、直鎖もしくは分岐のC〜C30アルキル、C〜C10シクロアルキル、またはアリールであり、前記C〜C30アルキル基には、1つもしくはそれ以上の二重もしくは三重結合または1種もしくはそれ以上のヘテロ原子、好ましくは酸素もしくは窒素で中断されていてもよく、
Aは、一般式(I)での定義と同義である)を有する触媒が使用される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
P(R)基が、トリイソプロピルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(o−キシリル)ホスフィン、またはトリメシチルホスフィンであり、
Aが、臭化物イオン、バーサチック酸イオン、セバシン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラキス(3,5−トリフルオロメチルフェニル)ホウ酸イオン、テトラキス[ペンタフルオロフェニル]ホウ酸イオン、または(ビス−(トリスペンタフルオロフェニル)ボロ)シアニドイオンである一般式(I)の触媒が使用される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記メタセシスに使用される前記ニトリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)が、30〜70、好ましくは30〜50の範囲にあり、多分散度PDI=M/M(ここで、Mは数平均分子量であり、Mは重量平均分子量である)が、2.0〜6.0の範囲、好ましくは2.0〜4.0の範囲にある、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
水素化ニトリルゴムを製造するための方法であって、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法に続いて、前記メタセシスにより分解されたニトリルゴムを水素化することを特徴とする方法。

【公開番号】特開2007−77394(P2007−77394A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−232522(P2006−232522)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】