説明

ニトリル混合物からニッケル(0)錯体及びリン配位子を除去する方法

【課題】不飽和モノニトリルにシアン化水素を付加することによりジニトリルを得る反応の反応流出物からニッケル(0)錯体と遊離配位子を抽出除去する際に、不飽和モノニトリルの低い転化率しか達成されない場合でも不飽和モノニトリルの予備蒸発又はジニトリルの添加を行わなくて良い方法を提供する。
【解決手段】反応流出物を炭化水素で抽出し、温度Tで炭化水素と反応流出物とを二相に相分離することにより、反応流出物からリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子を抽出により除去する方法であって、反応流出物におけるリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子の含有量は、その最大値が温度Tに関わりなく60質量%であり、その最少値がy質量%であり、このyの値が温度Tに依存して変化し、式y=0.5T+20(Tは無単位の数値として使用される)により与えられる値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和モノニトリルにシアン化水素を付加することによりジニトリルを得る反応の反応流出物を炭化水素で抽出し、温度T(℃)で上記炭化水素と上記反応流出物とを二相に相分離することにより、上記反応流出物からリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子を抽出により除去する方法であって、上記反応流出物におけるリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子の含有量は、その最大値が温度Tに関わりなく60質量%であり、その最少値がy質量%であり、このyの値は温度Tに依存して変化し、以下の式
y=0.5T+20
(式中、Tは無単位の数値として使用される)により与えられる値であることを特徴とする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン配位子を有するニッケル錯体は、不飽和モノニトリルに対するシアン化水素付加のための好適な触媒である。例えば、アジポニトリルは、ナイロンの製造において重要な中間体であるが、1,3−ブタジエンに2個のシアン化水素を付加させることにより得られる。第1のシアン化水素付加では、リン配位子で安定化されたニッケル(0)の存在下で1,3−ブタジエンをシアン化水素と反応させることにより、3−ペンテンニトリルが得られる。続く第2のシアン化水素付加では、同様にニッケル触媒と場合によりルイス酸及び促進剤の存在下で3−ペンテンニトリルをシアン化水素と反応させることにより、アジポニトリルが得られる。尚、ニッケル(0)とはニッケルの酸化状態が0であることを示している。
【0003】
シアン化水素付加の採算性を向上させるために、典型的にはニッケル触媒が除去されて再利用される(触媒循環)。第2のシアン化水素付加における触媒組成物は錯体と遊離配位子の混合物であるが、この混合物にはあまり熱応力を及ぼすことができないため、高沸点を有するアジポニトリルを触媒組成物から蒸留によって除去することができない。そのため、分離は通常抽出剤としてシクロヘキサン又はメチルシクロヘキサンを使用して抽出により行う。触媒組成物は軽い方の相であるシクロヘキサン又はメチルシクロヘキサン相に理想的には完全に、実際には少なくとも部分的に含まれ、極性がより高く重い方の相には粗アジポニトリルと存在する場合にはルイス酸とが含まれる。相分離の後に、抽出剤が一般には減圧下での蒸留により除去される。抽出剤の沸騰圧力はアジポニトリルのものより明らかに高い。
【0004】
US−A−3773809号公報とUS−A−5932772号公報は、触媒錯体と配位子をパラフィン及びシクロパラフィン、例えばシクロヘキサン、ヘプタン及びオクタン、又はアルキル芳香族化合物により抽出する方法を開示している。
【0005】
US−A−4339395号公報は、単座配位子を有する触媒組成物とトリアリールボラン促進剤のためにシアン化水素付加後の反応流出物を抽出により精製する方法を開示しており、この方法では少量のアンモニアがラグの形成を防止するために導入される。
【0006】
WO2004/062765号パンフレットは、モノニトリル及びジニトリルの混合物からニッケルジホスフィット触媒を抽出剤としてアルカン又はシクロアルカンを用いて抽出により除去する方法を開示しており、この方法では上記混合物がルイス塩基、例えば有機アミン又はアンモニアで処理される。
【0007】
US−A−5847191号公報は、シアン化水素付加後の反応流出物を抽出により精製する方法を開示しており、このときにキレート配位子はC9−C40−アルキル基を有している。
【0008】
US−A−4990645号公報には、ニッケル錯体及び遊離配位子の抽出性能が反応で形成されたNi(CN)2を抽出前にデカンターで除去すると向上されうると記載されている。このため、触媒及びNi(CN)2の溶解性を減少させるために、予めペンテンニトリルの一部を蒸発除去している。
【0009】
【特許文献1】US−A−3773809号公報
【特許文献2】US−A−5932772号公報
【特許文献3】US−A−4339395号公報
【特許文献4】WO2004/062765号パンフレット
【特許文献5】US−A−5847191号公報
【特許文献6】US−A−4990645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
シクロヘキサン又はメチルシクロヘキサン相と粗アジポニトリル含有相との間の相分離を行うためには、従来は3−ペンテンニトリルの転化率を一定値以上にする必要があった。例えば、US−A−3773809号公報の方法では、抽出剤としてシクロヘキサンを使用した場合には、相分離のための条件として、3−ペンテンニトリルの転化率を60%以上にし、3−ペンテンニトリルとアジポニトリルとの間の割合を0.65以下にする必要がある。3−ペンテンニトリルの転化でこの割合が達成されない場合には、この割合を0.65以下にするために、3−ペンテンニトリルを予め蒸発させるか、又はアジポニトリルを添加しなければならない。この3−ペンテンニトリルの転化率を一定値以上にすることの問題点として、3−ペンテンニトリルの転化率を高くするほど、3−ペンテンニトリルとシアン化水素を基礎としたアジポニトリルの選択性が低くなる点が挙げられる。その上、3−ペンテンニトリルの転化率を60%以上にすると、触媒組成物の寿命が短くなる。
【0011】
従って、本発明の目的は、上述の問題を解決すること、すなわち、不飽和モノニトリルにシアン化水素を付加することによりジニトリルを得る反応の反応流出物からリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子を抽出により除去する方法であって、上述の公知技術における問題が回避された方法を提供することである。特に、本発明の方法では、不飽和モノニトリルの転化率がより低くても、また不飽和モノニトリルの予備蒸発又はジニトリルの添加を行わなくても、シアン化水素付加後の反応流出物からリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子を抽出除去することができる方法であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的は、不飽和モノニトリルにシアン化水素を付加することによりジニトリルを得る反応の反応流出物を炭化水素で抽出し、温度T(℃)で上記炭化水素と上記反応流出物とを二相に相分離することにより、上記反応流出物からリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子を抽出により除去する方法であって、上記反応流出物におけるリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子の含有量は、その最大値が温度Tに関わりなく60質量%であり、その最少値がy質量%であり、このyの値は温度Tに依存して変化し、式
y=0.5T+20
(式中、Tは無単位の数値として使用される)により与えられる値であることを特徴とする方法により達成される。本発明の好ましい形態は従属請求項に示されている。
【0013】
特に好ましい形態では、本発明の方法はアジポニトリルの製造において使用される。従って、本発明の方法は、特に、上記モノニトリルが3−ペンテンニトリルであり、上記ジニトリルがアジポニトリルである場合を意図している。同様に、少なくとも1種のリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び場合により少なくとも1種のルイス酸(例えば促進剤として)の存在下で3−ペンテンニトリルをシアン化水素と反応させることにより、シアン化水素付加後の反応流出物を得るのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の方法の原則
本発明の方法は、不飽和モノニトリルにシアン化水素を付加することによりジニトリルを得る反応で得られる反応流出物からリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子を抽出により除去するのに好適である。錯体に関しては以下に示す。
【0015】
上記反応流出物は炭化水素によって抽出される。この過程で、温度T(℃)で炭化水素と反応流出物とが2相に相分離する。一般的に、ニッケル(0)錯体又は配位子が上記反応流出物に比較して濃縮された第一相と、ジニトリルが上記反応流出物に比較して濃縮された第二相とが形成される。一般に、第一相が軽い方の相(すなわち、上相)であり、第二相が重い方の相(すなわち、下相)である。
【0016】
本発明では、シアン化水素付加後の反応流出物におけるリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離配位子の含有量の最大値は、60質量%である。この最大値は温度Tに依存しない。上述のニッケル(0)錯体又は配位子の含有量の最小値は、温度Tに依存して変化し、y質量%である。このyの値は、式
y=0.5T+20
(式中、Tは無単位の数値として使用される)により与えられる値である。例えば、相分離の温度Tが50℃である場合には、y=0.5×50+20=45であるがら、T=50℃での含有量の最小値は45質量%である。
【0017】
抽出係数とは、下相に含有される上述のニッケル(0)錯体又は配位子の質量に対する上相に含有される上述のニッケル(0)錯体又は配位子の質量の割合を意味するが、相比に依存する上述の抽出の抽出係数は、理論的な抽出処理に対して好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.8〜5の範囲である。抽出係数により評価される抽出作用は、遊離配位子に対する抽出作用がニッケル(0)錯体に対する抽出作用より良好であるか又は同等であり、好ましくは遊離配位子に対する抽出作用がニッケル(0)錯体に対する抽出作用より良好である。
【0018】
相分離後、上相は、抽出に使用された炭化水素を好ましくは50〜99質量%、より好ましくは60〜97質量%、特に好ましくは80〜95質量%含有する。
【0019】
抽出に供される供給流(特に冒頭に示した第2のシアン化水素付加の後の供給流)中に場合により存在するルイス酸は、好ましくはほとんどの部分が、より好ましくは全部が、下相に残留する。ここで、“全部”というのは、上相に残るルイス酸の濃度が好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、特に好ましくは500質量ppm未満であることを意味する。
【0020】
炭化水素
炭化水素は抽出剤であり、それぞれ105Paの絶対圧の下で、好ましくは少なくとも30℃、より好ましくは少なくとも60℃、特に好ましくは少なくとも90℃、好ましくは最高でも140℃、より好ましくは最高でも135℃、特に好ましくは最高でも130℃の沸点を有している。
【0021】
特に、アジポニトリルとニッケル(0)含有触媒を含む混合物からアジポニトリルを除去、特に抽出するために、90〜140℃の沸点を有する炭化水素を使用するのが好ましい。なお、本発明では、“炭化水素”の語は単独の炭化水素又は炭化水素の混合物を意味する。触媒は、場合により上記炭化水素より高い沸点を有する適当な溶媒(例えばペンテンニトリル)を添加して、本発明の方法による除去の後に得られる混合物から上記炭化水素を蒸留除去することにより好ましく得ることができる。この場合には、上述の範囲の沸点を有する炭化水素を使用すると、河川水で蒸留除去された炭化水素を凝縮させることが可能であるため、特に経済的で技術的に簡単な除去を行うことができる。
【0022】
好適な炭化水素は、例えばUS3773809号公報第3欄50〜62行に記載されている炭化水素である。シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、異性ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、異性オクタン、例えば2,2,4−トリメチルペンタン、シス−及びトランス−デカン、又はこれらの混合物、特にシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、異性ヘプタン、n−オクタン、異性オクタン、例えば2,2,4−トリメチルペンタン、又はこれらの混合物から選択された炭化水素が好ましい。シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン又はn−オクタンを使用するのが特に好ましい。
【0023】
n−ヘプタン又はn−オクタンが極めて好ましい。これらの炭化水素を使用すると、望ましくないラグの形成が特に少ない。“ラグ”とは、上相と下相との間の不完全な相分離域を意味し、通常は固体が分散していることもある液体/液体混合物である。過剰のラグの形成は、ラグが抽出を妨害し、ある条件ではラグが抽出装置を占めてもはや分離操作を行うことができなくなるため、望ましくない。
【0024】
使用される炭化水素は無水物であるのが好ましい。“無水物”とは、水の含有量が100質量ppm未満、好ましくは50質量ppm未満、特に好ましくは10質量ppm未満であるものを意味する。炭化水素は、当業者に公知の適当な方法、例えば吸着又は共沸蒸留によって乾燥させることができる。乾燥は、本発明の方法に先立つ工程で行うことができる。
【0025】
抽出の構成
反応流出物からのニッケル(0)錯体又は配位子の抽出は、当業者に公知の適当な装置、好ましくは向流抽出塔、ミキサー−セトラー装置、又は塔とミキサー−セトラー装置の組み合わせ、を使用して行うことができる。向流抽出装置、特に分散部品としての板状金属充填物を備えた向流抽出塔を使用するのが特に好ましい。他の特に好適な形態では、抽出は区画に分けられた攪拌抽出塔を使用して向流方式で行われる。
【0026】
分散方法としては、本発明の方法の好ましい形態では、上記炭化水素を連続相として、シアン化水素付加後の反応流出物を分散相として使用する。この方法により一般に、相分離の時間が短縮され、ラグの形成が減少する。しかしながら、逆の分散方法でも良い。すなわち、反応流出物が連続相、炭化水素が分散相でも良い。後者の方法は、事前の固体除去、より高温での抽出又は相分離、又は適当な炭化水素の使用によりラグの形成が減少するか又は完全に抑制される場合に特に有効である(以下の関連する記載参照)。典型的には、抽出装置における分離性能が優れている方の分散方法が選択される。
【0027】
抽出で使用される相比は、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.4〜2.5、特に好ましくは0.75〜1.5の範囲である。これらの相比は、それぞれ抽出されるべき混合物の質量に対する添加される炭化水素の比として算出される。
【0028】
抽出の間の絶対圧は、好ましくは10kPa〜1MPa、より好ましくは50kPa〜0.5MPa、特に好ましくは75kPa〜0.25MPaの範囲である。
【0029】
抽出は、好ましくは−15〜120℃、より好ましくは20〜100℃、特に好ましくは30〜80℃の温度で行われる。抽出温度が高いほどラグの形成が少ないことがわかっている。
【0030】
特に好ましい形態では、抽出が所定の温度プロファイルに基づいて操作される。この場合には特に、少なくとも60℃、好ましくは60〜95℃、より好ましくは少なくとも70℃の抽出温度で操作が行われる。
【0031】
この温度プロファイルは、リン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子を他の領域より多く含む抽出領域の温度が、他の領域の温度よりも低くなるように設計されるのが好ましい。このようにすると、熱的に不安定なニッケル(0)錯体に熱応力がかかりにくく、これらの錯体の分解が抑えられる。
【0032】
例えば抽出塔を抽出のために使用し、温度プロファイルを使用する場合には、最低の温度は塔頂で、最高の温度は塔底で達成される。塔底と塔頂の間の温度差は、例えば0〜30℃、好ましくは10〜30℃、特に好ましくは20〜30℃であることができる。
【0033】
相分離の構成
装置の構成に依存して、抽出終了後所定の時間が経過した後に相分離が認められても良く、抽出終了前の時間に相分離が認められても良い。相分離のために、典型的には広範囲の圧力、濃度、及び温度を選択することができ、反応混合物の特別な組成に対する最適な条件は、数回の簡単な予備実験で容易に決定することができる。
【0034】
相分離における温度Tは、典型的には少なくとも0℃、好ましくは少なくとも10℃、より好ましくは少なくとも20℃であり、典型的には最高でも120℃、好ましくは最高でも100℃、より好ましくは最高でも95℃である。例えば、0〜100℃、好ましくは60〜95℃の範囲で相分離を行う。相分離の温度が高いほど、ラグの形成が少ないことがわかっている。
【0035】
相分離の絶対圧は、一般的には少なくとも1kPa、好ましくは少なくとも10kPa、より好ましくは20kPaであり、一般的には最高でも2Mpa、好ましくは最高でも1MPa、より好ましくは最高でも0.5MPaである。
【0036】
相分離時間、すなわち、反応流出物の炭化水素(抽出剤)との混合から均一な上相及び均一な下相の形成までの時間、は広範囲に変更することができる。相分離時間は、一般に0.1〜60分、好ましくは1〜30分、特に好ましくは2〜10分の範囲である。本発明の方法を工業的な規模で行う場合には、最長の相分離時間が15分、特に10分であると、典型的には技術的にも経済的にも好ましい。
【0037】
相分離時間は、n−ヘプタン又はn−オクタンのような長鎖脂肪族アルカンを使用すると、有効に短縮できることがわかっている。
【0038】
相分離は、当業者に公知の1個以上の相分離用装置で行うことができる。有利な形態では、相分離を抽出装置で行うことができ、例えば1個以上のミキサー−セトラーを組み合わせて相分離を行うことができ、又は抽出装置に静穏な領域を設けて相分離を行うことができる。
【0039】
相分離では、2相の液相が得られ、このうちの1方の相では、リン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子のこの相全体の質量に対する割合が、他方の相に比較して大きい。
【0040】
本発明の方法の好ましい形態では、20℃の相分離温度では、シアン化水素付加後の流出物流のアジポニトリル含有量が30質量%より多く、ニッケル(0)錯体又は配位子の含有量は60質量%未満、好ましくは50質量%未満、より好ましくは40質量%未満である。
【0041】
本発明の方法の別の好ましい形態では、40℃の相分離温度では、シアン化水素付加後の流出物流のアジポニトリル含有量が40質量%より多く、ニッケル(0)錯体又は配位子の含有量は60質量%未満、好ましくは50質量%未満、より好ましくは40質量%未満である。
【0042】
本発明の方法の好ましい形態では、60℃の相分離温度では、シアン化水素付加後の流出物流のアジポニトリル含有量が50質量%より多く、ニッケル(0)錯体又は配位子の含有量は50質量%未満、より好ましくは40質量%未満である。
【0043】
アンモニア又はアミンによる任意の処理
本発明の方法の好ましい形態では、シアン化水素付加後の反応流出物を、抽出の前又は間に、アンモニア又は一級、二級又は三級の脂肪族アミン又は芳香族アミンで処理する。芳香族化合物には、アルキル芳香族化合物が含まれ、脂肪族化合物には脂環式化合物が含まれる。
【0044】
このアンモニア又はアミンの処理により、ジニトリルが濃縮された第二相(一般には下相)におけるニッケル(0)錯体又は配位子の含有量が減少することがわかっている。すなわち、2つの相の間のニッケル(0)錯体又は配位子の分布が第一相(上相)の方に移動する。アンモニア又はアミンの処理は、上相における触媒の濃縮度を向上させ、このことは触媒循環における触媒損失を低減させ、シアン化水素付加における採算性を向上させる。
【0045】
従って、この形態では、抽出に先立って反応流出物をアンモニア又はアミンで処理するか、又は抽出の間にこの処理を行う。抽出の前の処理の方が好ましい。
【0046】
使用されるアミンは、モノアミン、ジアミン、トリアミン、又はより官能性の高いアミン(ポリアミン)である。モノアミンは典型的には、炭素原子数が1〜30個のアルキル基、アリール基又はアリールアルキル基を有しており、好適なモノアミンとしては、例えば一級アミン、例えばモノアルキルアミン、二級アミン又は三級アミン、例えばジアルキルアミンが挙げられる。好適な一級アミンとしては、例えばブチルアミン、シクロヘキシルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、3−メチルシクロヘキシルアミン、4−メチルシクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、テトラヒドロフルフリルアミン、及びフルフリルアミンが挙げられる。有用な二級モノアミンとしては、例えばジエチルアミン、ジブチルアミン、ジ−n−プロピルアミン及びN−メチルベンジルアミンが挙げられる。好適な三級アミンとしては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン又はトリブチルアミンのようなC1−C10−アルキル基を有するトリアルキルアミンが挙げられる。
【0047】
好適なジアミンは、例えば式R1−NH−R2−NH−R3で表わされるアミンである。R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素、炭素原子数が1〜20個のアルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基を表わす。アルキル基は直鎖状であっても環状でも良く、特にR2は環状でも良い。好適なジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン(1,2−ジアミノプロパン又は1,3−ジアミノプロパン)、N−メチル−エチレンジアミン、ピペラジン、テトラメチレンジアミン(1,4−ジアミノブタン)、N,N´−ジメチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、1,5−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノ−2,2−ジエチルプロパン、1,3−ビス(メチルアミノ)プロパン、ヘキサメチレンジアミン(1,6−ジアミノヘキサン)、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン、3−(プロピルアミノ)プロピルアミン、N,N´−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N,N´−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、及びイソホロンジアミン(IPDA)が挙げられる。
【0048】
好適なトリアミン、テトラアミン又はより好官能性のアミンとしては、例えば、トリス(2−アミノエチル)アミン、トリス(2−アミノプロピル)アミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、イソプロピレントリアミン、ジプロピレントリアミン、及びN,N´−ビス(3−アミノプロピルエチレンジアミン)が挙げられる。2個以上のアミノ基を有するアミノベンジルアミン及びアミノヒドラジドも好適である。
【0049】
もちろん、アンモニアと1種以上のアミンの混合物又は複数のアミンの混合物を使用することもできる。
【0050】
アンモニア又は脂肪族アミン、特に炭素原子数が1〜10個のアルキル基を有するトリアルキルアミン、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、又はトリブチルアミン、及び、ジアミン、例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又は1,5−ジアミノ−2−メチルペンタンを使用するのが好ましい。
【0051】
アンモニアのみを使用するのが特に好ましい。言い換えると、アンモニア以外にアミンを使用しないのが特に好ましい。無水アンモニアが極めて好ましい。この場合には、“無水”の語は水含有量が1質量%未満、好ましくは1000質量ppm未満、特に好ましくは100質量ppm未満であることを意味する。
【0052】
アンモニアに対するアミンのモル比は、広範囲に変更することができ、一般的には10000:1〜1:10000の範囲である。
【0053】
使用されるアンモニア又はアミンの量は、シアン化水素付加におけるニッケル(0)触媒及び/又は配位子の種類と量、及び、使用されている場合には促進剤として使用されるルイス酸の種類と量に依存する。典型的には、ルイス酸に対するアンモニア又はアミンのモル比は、少なくとも1:1である。このモル比の上限は一般に重要でなく、例えば100:1である。しかしながら、過剰のアンモニア又はアミンはニッケル(0)錯体又は配位子が分解するため好ましくない。ルイス酸に対するアンモニア又はアミンのモル比は、好ましくは1:1〜10:1であり、より好ましくは1.5:1〜5:1であり、特に好ましくは約2.0:1である。アンモニアとアミンの混合物を使用する場合には、上述のモル比はアンモニアとアミンの合計量に対して適用される。
【0054】
アンモニア又はアミンによる処理の温度は、一般に重要でなく、例えば10〜140℃、好ましくは20〜100℃、特に好ましくは20〜90℃の範囲である。圧力も一般に重要でない。
【0055】
アンモニア又はアミンは、反応流出物に気体の形態で添加しても良く、液体の形態(加圧下)で添加しても良く、溶媒に溶解させた形態で添加しても良い。好適な溶媒は、例えば、ニトリル、特にシアン化水素付加において存在しているニトリル、及び、本発明の方法において抽出剤として使用されているような脂肪族、脂環式又は芳香族炭化水素、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン、又はn−オクタンである。
【0056】
アンモニア又はアミンの添加は、慣用の装置、例えば気体導入装置又は液体混合機において行われる。多くの場合に沈殿する固体は、反応流出物中に残留させておいても良く、すなわち、懸濁物を抽出に供給しても良く、又は以下に示すように除去しても良い。
【0057】
固体の任意の除去
好ましい形態では、反応流出物中に存在する固体を少なくとも部分的に抽出前に除去する。多くの場合に、このことにより本発明の方法における抽出性能がさらに向上する。高い固体含有量は抽出の間の物質移動を阻害すると考えられ、そのためより大きく、従ってより高価な抽出装置が必要になる。抽出前の固体除去により、しばしば望ましくないラグの形成が明白に減少し又は完全に抑えられることが判っている。
【0058】
水力直径が5μmより大きい、好ましくは1μmより大きい、より好ましくは100nmより大きい固体粒子が除去されるように固体の除去を行うのが好ましい。
【0059】
固体除去には、慣用の方法、例えば濾過、十字流濾過、遠心分離、沈降、分級又は好ましくはデカンテーションの方法を使用することができ、このために、フィルター、遠心分離機又はデカンターのような慣用の装置を使用することができる。
【0060】
固体除去の温度及び圧力は、一般に重要でない。例えば、上述の温度及び圧力の範囲で操作を行うことができる。
【0061】
固体除去は、反応流出物をアンモニア又はアミンで任意に処理する前、間又は後に行うことができる。この除去は、好ましくはアンモニア又はアミンの処理の間又は後に行い、後に行うのがより好ましい。
【0062】
固体をアミン又はアンモニアの処理の間又は後に除去する場合には、固体は通常は反応流出物に難溶性であるアンモニア又はアミンと使用されたルイス酸又は促進剤との化合物である。例えば塩化亜鉛が使用された場合には、事実上難溶性であるZnCl2・2NH3がアンモニア処理で形成される。
【0063】
固体をアミン又はアンモニアの処理の前に除去するか、アンモニア又アミンの処理を全く行わずに除去する場合には、固体は一般に、酸化状態が+2価のニッケル化合物、例えばシアン化ニッケル(II)又は同様のシアン化物イオン含有ニッケル(II)化合物である。
【0064】
ニッケル(0)錯体及び配位子
リン配位子を含むNi(0)錯体及び/又は遊離リン配位子は、均一に溶解しているのが好ましい。
【0065】
本発明において抽出によって除去されるニッケル(0)錯体のリン配位子及び遊離リン配位子は、単座配位又は二座配位のホスフィン、ホスフィット、ホスフィニット、及びホスホニットから選択されるのが好ましい。
【0066】
これらのリン配位子として、式(I)
P(X11)(X22)(X33) (I)
で表わされる化合物が好ましい。本発明に関する限り、式(I)で表わされる化合物は単一の化合物であっても良く、上述の式で表わされる異なる化合物の混合物であっても良い。
【0067】
本発明では、X1、X2、及びX3はそれぞれ独立に酸素又は単結合を表わす。X1、X2、及びX3の全部が単結合の場合には、化合物(I)は式P(R123)で表わされるホスフィンである。R1、R2、及びR3の意味は以下に示す。
【0068】
1、X2、及びX3のうちの2個が単結合であり、1個が酸素である場合には、化合物(I)は式P(OR1)(R2)(R3)又はP(R1)(OR2)(R3)又はP(R1)(R2)(OR3)で表わされるホスフィニットである。R1、R2、及びR3の意味は以下に示す。
【0069】
1、X2、及びX3のうちの1個が単結合であり、2個が酸素である場合には、化合物(I)は式P(OR1)(OR2)(R3)又はP(R1)(OR2)(OR3)又はP(OR1)(R2)(OR3)で表わされるホスホニットである。R1、R2、及びR3の意味は以下に示す。
【0070】
好ましい形態では、X1、X2、及びX3の全てが酸素である。すなわち、化合物(I)は式P(OR1)(OR2)(OR3)で表わされるホスフィットであるのが好ましい。R1、R2、及びR3の意味は以下に示す。
【0071】
本発明において、R1、R2、及びR3はそれぞれ互いに独立に同一であっても異なっていても良い有機基である。R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に、アルキル基、好ましくは炭素原子数が1〜10個であるアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、アリール基、例えばフェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、1−ナフチル、2−ナフチル、又はヒドロカルビル基、好ましくは炭素原子数が1〜20個のヒドロカルビル基、例えば1,1´−ビフェノール、1,1´−ビナフトールである。R1、R2、及びR3は互いに直接結合していても良く、すなわち中心リン原子を介して単独で結合していなくとも良い。R1、R2、及びR3は互いに直接結合していないのが好ましい。
【0072】
好ましい形態では、R1、R2、及びR3は、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリルからなる群から選択される基である。特に好ましい形態では、R1、R2、及びR3のうちの最大2個がフェニル基である。
【0073】
他の好ましい形態では、R1、R2、及びR3のうちの最大2個がo−トリル基である。
【0074】
使用可能な特に好ましい化合物Iは、式Ia
(o−トリル−O−)w(m−トリル−O−)x(p−トリル−O−)y(フェニル−O−)zP (Ia)
で表わされる化合物である。式中、w、x、y、zはそれぞれ自然数であるが、w+x+y+z=3であり、w,z≦2である。
【0075】
このような式(Ia)で表わされる化合物としては、例えば、(p−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(m−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(o−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(p−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(p−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)3P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)2P、(o−トリル−O−)2(m−トリル−O−)P、又はこれらの化合物の混合物が挙げられる。
【0076】
(m−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、及び(p−トリル−O−)3Pを含む混合物は、例えば、原油を蒸留精製して得られるm−クレゾール及びp−クレゾールを含む混合物、特に2:1のモル比でm−クレゾール及びp−クレゾールを含む混合物を、三ハロゲン化リン、例えば三塩化リンと反応させることによって得ることができる。
【0077】
他の同様に好ましい形態では、リン配位子はDE−A−19953058に詳細に記載されているような、式Ib
P(O−R1x(O−R2y(O−R3z(O−R4p (Ib)
で表わされるホスフィットである。
【0078】
式中、R1は、芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してo位の位置にC1−C18−アルキル置換基を有している芳香族基、又は芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してo位の位置に芳香族置換基を有している芳香族基、又は芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してo位の位置に縮合芳香族環を有している芳香族基を意味し、
2は、芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してm位の位置にC1−C18−アルキル置換基を有している芳香族基、又は芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してm位の位置に芳香族置換基を有している芳香族基、又は芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してm位の位置に縮合芳香族環を有している芳香族基であって、芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してo位の位置に水素を有する芳香族基を意味し、
3は、芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してp位の位置にC1−C18−アルキル置換基を有している芳香族基、又は芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してp位の位置に芳香族置換基を有している芳香族基であって、芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してo位の位置に水素を有する芳香族基を意味し、
4は、芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してo、m、及びp位の位置にR1、R2及びR3に対して上述した基以外の基を有している芳香族基であって、芳香族環におけるリン原子と結合している酸素に対してo位の位置に水素を有する芳香族基を意味し、
xは1又は2を意味し、
y、z、pはそれぞれ独立に0、1又は2を意味し、x+y+z+p=3である。
【0079】
好ましい式(Ib)で表わされるホスフィットは、DE−A−19953058号公報に記載されている。R1は、好ましくはo−トリル、o−エチルフェニル、o−n−プロピルフェニル、o−イソプロピルフェニル、o−n−ブチルフェニル、o−s−ブチルフェニル、o−t−ブチルフェニル、(o−フェニル)フェニル、又は1−ナフチルであることができる。
【0080】
2は、好ましくはm−トリル、m−エチルフェニル、m−n−プロピルフェニル、m−イソプロピルフェニル、m−n−ブチルフェニル、m−s−ブチルフェニル、m−t−ブチルフェニル、(m−フェニル)フェニル、又は2−ナフチルであることができる。
【0081】
3は、好ましくはp−トリル、p−エチルフェニル、p−n−プロピルフェニル、p−イソプロピルフェニル、p−n−ブチルフェニル、p−s−ブチルフェニル、p−t−ブチルフェニル、(p−フェニル)フェニルであることができる。
【0082】
4は、好ましくはフェニルである。pは好ましくは0である。式(Ib)におけるx,y,z及びpに対して、以下のような可能性が存在する。
【0083】
【表1】

【0084】
好ましい式(Ib)で表わされるホスフィットは、pが0であり、R1、R2及びR3がそれぞれ独立にo−イソプロピルフェニル、m−トリル、及びp−トリルから選択され、R4がフェニルである化合物である。
【0085】
特に好ましい式(Ib)で表わされるホスフィットは、R1がo−イソプロピルフェニル、R2がm−トリル、R3がp−トリルで各指数が上表に示された値を有する化合物、R1がo−トリル、R2がm−トリル、R3がp−トリルで各指数が上表に示された値を有する化合物、さらに、R1が1−ナフチル、R2がm−トリル、R3がp−トリルで各指数が上表に示された値を有する化合物、R1がo−トリル、R2が2−ナフチル、R3がp−トリルで各指数が上表に示された値を有する化合物、及び、R1がo−イソプロピルフェニル、R2が2−ナフチル、R3がp−トリルで各指数が上表に示された値を有する化合物及びこれらのホスフィットの混合物である。
【0086】
式(Ib)で表わされるホスフィットは、
a)三ハロゲン化リンをR1OH、R2OH、R3OH及びR4OH又はこれらの混合物からなる群から選択されたアルコールと反応させ、ジハロゲン化リンモノエステルを生成させ、
b)得られたジハロゲン化リンモノエステルをR1OH、R2OH、R3OH及びR4OH又はこれらの混合物からなる群から選択されたアルコールと反応させ、モノハロゲン化リンジエステルを生成させ、
c)得られたモノハロゲン化リンジエステルをR1OH、R2OH、R3OH及びR4OH又はこれらの混合物からなる群から選択されたアルコールと反応させ、式(Ib)で表わされるホスフィットを生成させる、
ことにより得ることができる。
【0087】
反応は、3段階の分離した段階で行うことができる。同様に、上述の3段階のうちの2段階、すなわち、a)段階とb)段階又はb)段階とc)段階、を組み合わせることもできる。また、a)、b)、c)段階の全てを互いに組み合わせることもできる。
【0088】
1OH、R2OH、R3OH及びR4OH又はこれらの混合物からなる群から選択されたアルコールの量及び反応に適したパラメーターは、数回の簡単な予備実験により決定することができる。
【0089】
有用な三ハロゲン化リンは、原則として全ての三ハロゲン化リンであるが、使用されるハロゲンがCl、Br、I、特にClである化合物又はこれらの混合物が好ましい。三ハロゲン化リンとして、種々の同一の又は異なるハロゲンで置換されたホスフィンの混合物を使用することもできる。特に好ましいのはPCl3である。ホスフィット(Ib)の製造における反応条件及び精製に関する詳細は、DE−A−19953058号公報に記載されている。
【0090】
ホスフィット(Ib)はまた、異なるホスフィット(Ib)の混合物の形態で、配位子として使用することができる。このような混合物は、例えばホスフィット(Ib)の製造において得ることができる。
【0091】
しかしながら、多座配位、特に二座配位のリン配位子が好ましい。したがって、好ましく使用される配位子は、式(II)
【0092】
【化1】

で表わされる配位子である。式中、X11、X12、X13、X21、X22、X23は、それぞれ独立に酸素又は単結合を意味し、
11、R12はそれぞれ同一であっても異なっていても良く、単独の又は架橋した有機基を意味し、
21、R22はそれぞれ同一であっても異なっていても良く、単独の又は架橋した有機基を意味し、
Yは架橋基を意味する。
【0093】
本発明に関する限り、化合物IIは単一の化合物でも良く、上述の式で表わされる異なる化合物の混合物であっても良い。
【0094】
好ましい形態では、X11、X12、X13、X21、X22、X23は酸素であることができる。このような場合には、架橋基Yはホスフィット基に結合している。
【0095】
他の好ましい形態では、X11、X12、X13で囲まれているリン原子がホスホニットの中心原子であるように、X11及びX12が酸素であり、X13が単結合であることができ、又はX11及びX13が酸素であり、X12が単結合であることができる。この場合には、X21、X22、X23で囲まれているリン原子がホスフィット、ホスホニット、ホスフィニット又はホスフィン、好ましくはホスホニットの中心原子であるように、X21、X22、X23はそれぞれ酸素であることができ、又はX21及びX22が酸素であり、X23が単結合であることができ、又は、X21及びX23が酸素であり、X22が単結合であることができ、又は、X23が酸素であり、X21及びX22がそれぞれ単結合であることができ、又は、X21が酸素であり、X22及びX23がそれぞれ単結合であることができ、又はX21、X22、X23がそれぞれ単結合であることができる。
【0096】
他の好ましい形態では、X11、X12、X13で囲まれているリン原子がホスフィニットの中心原子であるように、X13が酸素であり、X11及びX12が単結合であることができ、又はX11が酸素であり、X12及びX13が単結合であることができる。この場合には、X21、X22、X23で囲まれているリン原子がホスフィット、ホスフィニット又はホスフィン、好ましくはホスフィニットの中心原子であるように、X21、X22、X23はそれぞれ酸素であることができ、又はX23が酸素であり、X21及びX22が単結合であることができ、又は、X21が酸素であり、X22及びX23が単結合であることができ、又はX21、X22、X23がそれぞれ単結合であることができる。
【0097】
他の好ましい形態では、X11、X12、X13で囲まれているリン原子がホスフィンの中心原子であるように、X11、X12、X13はそれぞれ単結合であることができる。このような場合には、X21、X22、X23で囲まれているリン原子がホスフィット又はホスフィン、好ましくはホスフィンの中心原子であるように、X21、X22、X23はそれぞれ酸素であることができ、又はX21、X22、X23がそれぞれ単結合であることができる。
【0098】
架橋基Yは、例えばC1−C4−アルキル、ハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、ハロゲン化アルキル、例えばトリフルオロメチル、アリール、例えばフェニルで置換されたアリール基又は非置換のアリール基であるのが好ましく、好ましくは芳香族環に6〜20個の炭素原子を有する基、特にピロカテコール、ビス(フェノール)又はビス(ナフトール)である。
【0099】
11、R12はそれぞれ同一であっても異なっていても良い有機基を意味することができる。好ましいR11、R12は、非置換であっても良く又は1個以上の置換基、特にC1−C4アルキル、ハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、ハロゲン化アルキル、例えばトリフルオロメチル、アリール、例えばフェニル、又は非置換アリール基で置換されていても良いアリール基、好ましくは炭素原子数が6〜10個のアリール基である。
【0100】
21、R22はそれぞれ同一であっても異なっていても良い有機基を意味することができる。好ましいR21、R22は、非置換であっても良く又は1個以上の置換基、特にC1−C4アルキル、ハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、ハロゲン化アルキル、例えばトリフルオロメチル、アリール、例えばフェニル、又は非置換アリール基で置換されていても良いアリール基、好ましくは炭素原子数が6〜10個のアリール基である。
【0101】
11、R12は、それぞれ単独の基であっても良く架橋していても良い。R21、R22もまた、それぞれ単独の基であっても良く架橋していても良い。R11、R12、R21、R22はそれぞれが単独の基であっても良く、2つが単独の基であって2つが架橋していても良く、4つ全てが上述のように架橋していても良い。
【0102】
特に好ましい形態では、有用な化合物はUS5723641号公報において特定されている式I、II、III、IV及びVで表わされる化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はUS5512696号公報において特定されている式I、II、III、IV、V、VI、VIIで表わされる化合物、特に例1〜31で使用されている化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はUS5821378号公報において特定されている式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV及びXVで表わされる化合物、特に例1〜73で使用されている化合物である。
【0103】
特に好ましい形態では、有用な化合物はUS5512695号公報において特定されている式I、II、III、IV、V、VIで表わされる化合物、特に例1〜6で使用されている化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はUS5981772号公報において特定されている式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、及びXIVで表わされる化合物、特に例1〜66で使用されている化合物である。
【0104】
特に好ましい形態では、有用な化合物はUS6127567号公報において特定されている化合物、特に例1〜29で使用されている化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はUS6020516号公報において特定されている式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX及びXで表わされる化合物、特に例1〜33で使用されている化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はUS5959135号公報において特定されている化合物、特に例1〜13で使用されている化合物である。
【0105】
特に好ましい形態では、有用な化合物はUS5847191号公報において特定されている式I、II、IIIで表わされる化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はUS5523453号公報において特定されている化合物、特に式1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20及び21で表わされる化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はWO01/14392号パンフレットにおいて特定されている化合物であり、特に式V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XV、XVI、XVII、XXI、XXII、XXIIIで表わされる化合物である。
【0106】
特に好ましい形態では、有用な化合物はWO98/27054号パンフレットにおいて特定されている化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はWO99/13983号パンフレットにおいて特定されている化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はWO99/64155号パンフレットにおいて特定されている化合物である。
【0107】
特に好ましい形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10038037号公報において特定されている化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10046025号公報において特定されている化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10150285号公報において特定されている化合物である。
【0108】
特に好ましい形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10150286号公報において特定されている化合物である。特に好ましい形態では、有用な化合物はドイツ特許出願DE10207165号公報において特定されている化合物である。本発明のさらに別の特に好ましい形態では、有用なリンキレート配位子はUS2003/100442A1号公報において特定されている化合物である。
【0109】
本発明のさらに別の特に好ましい形態では、有用なリンキレート配位子は、本出願の優先日より前の優先日を有するものの本出願の優先日の時点ではまだ公開されていない2003年10月30日のドイツ特許出願DE10350999.2号において特定されている化合物である。
【0110】
上述の化合物I、Ia、Ib、II及びその製造方法自体は公知である。使用されるリン配位子は、化合物I、Ia、Ib、IIのうちの少なくとも2種を含む混合物であっても良い。
【0111】
本発明の方法における特に好ましい形態では、ニッケル(0)錯体のリン配位子及び/又は遊離リン配位子は、トリトリルホスフィット、二座配位リンキレート配位子、及び式(Ib)
P(O−R1x(O−R2y(O−R3z(O−R4p (Ib)
で表わされ、R1、R2及びR3がそれぞれ独立にo−イソプロピルフェニル、m−トリル、及びp−トリルから選択され、R4がフェニルであり、xが1又は2であり、y、z、pがそれぞれ独立に0、1、又は2であり、x+y+x+p=3であるホスフィット又はこれらの混合物から選択される。
【0112】
ルイス酸あるいは促進剤
本発明において、ルイス酸は単独のルイス酸でも良く、複数の、例えば2個、3個又は4個のルイス酸の混合物でも良い。
【0113】
有用なルイス酸は、カチオンがスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、レニウム、及びスズから選択される、無機又は有機の金属化合物である。例としては、例えばUS6127567号公報、US6171996号公報及びUS6380421号公報に記載されているZnBr2、ZnI2、ZnCl2、ZnSO4、CuCl2、CuCl、Cu(O3SCF32、CoCl2、CoI2、FeI2、FeCl3、FeCl2、FeCl2(THF)2、TiCl4(THF)2、TiCl4、TiCl3、ClTi(O−イソプロピル)3、MnCl2、ScCl3、AlCl3、(C817)AlCl2、(C8172AlCl、(i−C492AlCl、(C652AlCl、(C65)AlCl2、ReCl5、ZrCl4、NbCl5、VCl3、CrCl2、MoCl5、YCl3、CdCl2、LaCl3、Er(O3SCF33、Yb(O2CCF33、SmCl3、B(C653、TaCl5が含まれる。また、有用な化合物は、例えばUS3496217号公報、US3496218号公報、及びUS4774353号公報に記載されているような、ZnCl2、CoI2及びSnCl2のような金属塩、及びRAlCl2、R2AlCl、RSnO3SCF3及びR3B(Rhはアルキル基又はアリール基を表わす)のような有機金属化合物である。
【0114】
US3773809号公報に記載されている、亜鉛、カドミウム、ベリリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、エルビウム、ゲルマニウム、スズ、バナジウム、ニオブ、スカンジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マグネシウム、レニウム、パラジウム、トリウム、鉄、及びコバルト、好ましくは亜鉛、カドミウム、チタン、スズ、クロム、鉄、及びコバルトから選択されるカチオン形の金属を促進剤として使用することもでき、化合物のアニオン成分は、ハロゲン化物イオン、例えばフッ素、塩素、臭素、及びヨウ素のイオン、炭素原子数が2〜7個の低級脂肪酸のアニオン、HPO32-、H3PO2-、CF3COO-、C715OSO2-又はSO42-から選択することができる。他の好適な促進剤として、US3773809号公報に記載されている式R3B及びR(OR)3(式中、Rが水素、炭素原子数が6〜18個のアリール基、炭素原子数が1〜7個のアルキル基で置換されたアリール基、炭素原子数が1〜7個のシアノ基で置換されたアルキル基から選択される)で表わされるホウ素エステル、ボロヒドリド、有機ボロヒドリド、好ましくはトリフェニルボロンが挙げられる。
【0115】
その上、US48474884号公報に記載されているように、触媒組成物の活性を向上させるために、ルイス酸の相乗的な作用を示す組み合わせを使用することもできる。好適な促進剤は、例えば、CdCl2、FeCl2、ZnCl2、B(C653及び(C653SnX(式中、XはCF3SO3、CH364SO3,又は(C653BCNを表わす。)から成る群から選択することができ、ニッケルに対する促進剤の好ましい割合は、約1:16〜約50:1の範囲である。
【0116】
本発明に関する限り、ルイス酸にはUS3496217号公報、US3496218号公報、US4774353号公報、US4874884号公報、US6127567号公報、US6171996号公報、及びUS6380421号公報に記載されている促進剤が含まれる。
【0117】
上述のルイス酸のうちで特に好ましいのは、金属塩、より好ましくは金属のハロゲン化物、例えばフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、特に塩化物であり、中でも塩化亜鉛、塩化鉄(II)及び塩化鉄(III)が好ましい。
【0118】
本発明の方法により、多くの利点が得られる。例えば、3−ペンテンニトリルのシアン化水素付加における転化率が低い場合でも、触媒の抽出除去において、3−ペンテンニトリルを予め蒸発させたりアジポニトリルを添加して希釈したりしてから相分離を行う必要がない。転化率が低い条件で3−ペンテンニトリルのシアン化水素付加を行うと、3−ペンテンニトリルとシアン化水素に基づくアジポニトリルの選択性が向上し、さらに触媒組成物の安定性が向上する。
【0119】
必要に応じて、反応流出物をアンモニア又はアミンで処理し、反応流出物から固体を除去すると、本発明の方法をさらに最適化することができ、抽出の分離性能を調整することができる。
【実施例】
【0120】
以下に示す%の値は、アジポニトリル(ADN)、3−ペンテンニトリル(3PN)、及び特別な配位子の混合物に対する質量%である。シクロヘキサンは計算に含まれていない。
【0121】
例1:
ガラスフラスコ中で、5gのADN、3PN及び配位子としてのトリトリルホスフィット(TTP)の混合物(組成については、以下の表参照)を保護雰囲気(アルゴン)下で調合し、次いで5gのシクロヘキサンを添加した。所定の温度で攪拌して各成分を混合した。攪拌装置を停止させた後に、加熱しつづけながら相分離の様子を視覚的に観察した。5分後に2相の分離相が認められなかった場合には、系が分離相に分離しなかったと評価した。結果を以下の表1に示す。
【0122】
【表2】

【0123】
例2:
トリトリルホスフィットの代わりに以下に示す式Aで表わされるキレート配位子を使用した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。結果を表2に示す。
【0124】
【化2】

【0125】
【表3】

【0126】
例3:
トリトリルホスフィットの代わりに以下に示す式Bで表わされるキレート配位子を使用した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。結果を表3に示す。
【0127】
【表4】

【0128】
【化3】

【0129】
以下の例4及び5は、固体除去の有効性を示している。
【0130】
例4:固体除去を行わない例
4体積部のADN、3PN及び式Aのキレート配位子の混合物を1質量部の炭化水素で抽出した。使用された炭化水素、混合物の組成、及び、抽出及び相分離の温度を表4に示す。
【0131】
抽出において得られた多相混合物を、密封したサンプル瓶中で所定の温度で放置した。所定の時間後、相分離の良好性を視覚的に観察した。表4に結果を示す。
【0132】
【表5】

【0133】
例5:固体除去を行った例
例5を繰り返したが、抽出前に反応混合物中に存在する固体をデカンターで除去した。相がほぼ分離するまでの相分離時間を測定した。表5に、例4における相分離時間と共に結果を示す。
【0134】
【表6】

【0135】
この結果より、固体を除去した後の相分離時間が固体を除去しない場合より短縮されていることがわかる。
【0136】
以下の例6〜9は、アンモニア処理の有効性を示している。
【0137】
例6−a:アンモニア処理を行わない例
連続的な4段のミキサー−セトラー抽出装置(容量:ミキサー及びセトラー当たり150mL)内で、供給物をn−ヘプタンで40℃で向流方式で抽出した。供給物は、27.5質量%のペンテンニトリル、27.5質量%のアジポニトリル、及び45質量%の触媒を含んでおり、触媒は式Aの配位子、ニッケル(0)(配位子との錯体の形態)、及びZnCl2を含んでいた。これらの3つの触媒成分のモル比は1:1:1であった。
【0138】
得られた上相及び下相から連続的に蒸留で抽出剤を除去し、抽出剤は抽出に再利用した。装置には、30時間後に一定の安定状態が得られるまで、100g/hの供給物と100g/hのn−ヘプタンを供給して操作した。その後、入り口の供給物と出口の排出物を同じ条件下で1時間あたりの物質収支を調べるに使用した。
【0139】
物質収支は元素分析を使用して調べ、リン(リン配位子量の尺度として)及びニッケル(ニッケル錯体活性成分量の尺度として)の供給物及び得られた上相及び下相における含有量を測定して評価した。物質収支の精度は±5%であったため、上相と下相における%の合計が100%にならない場合もあった。
【0140】
以下に示す例においても、物質収支は同様にして調べた。表6に物質収支をまとめて示す。
【0141】
例6−b:
例6−aを繰り返したが、3つの触媒成分(式Aの配位子、ニッケル(0)錯体、ZnCl2)のモル比は2:1:1であった。
【0142】
例7:アンモニア処理を行い、固体除去を行わない例
例6−aを繰り返したが、抽出前に、4Lの丸底フラスコ中で、供給物を攪拌しながら40℃で2.2モル当量(存在するZnCl2基準)の気体乾燥アンモニアと混合した。導入したアンモニアを完全に溶液に吸収させた。導入後、過剰のアンモニアを、アルゴンを通過させることにより除去した。
【0143】
アンモニア導入の過程で、光沢を有する微細結晶固体が沈殿したが、固体を供給物に残し、抽出を行った。固体のほとんどは抽出装置から下相と共に排出された。少量の固体が沈降し、抽出装置内に残留した。
【0144】
例8:アンモニア処理を行い、固体除去を濾過により行った例
アンモニアを導入した後抽出を行う前に沈殿を圧力吸引フィルター(Seitz製デプスフィルター、K700)を用いて濾過により除去したことを除いて、例7を繰り返した。
【0145】
例9:アンモニア処理を行い、固体除去をデカンテーションにより行った例
例7を繰り返したが、3つの触媒成分(式Aの配位子、ニッケル(0)錯体、ZnCl2)のモル比は2:1:1であり、沈殿した固体はアンモニアを導入した後抽出を行う前に沈降及びこれに続くデカンテーションにより除去した。
【0146】
【表7】

【0147】
例6〜9から、アンモニア処理(例7〜9)により上相における配位子とニッケル錯体の蓄積量が明白に向上することがわかる。抽出前の固体除去(例8及び9)により、上相における配位子とニッケル錯体の蓄積量がさらに向上することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和モノニトリルにシアン化水素を付加することによりジニトリルを得る反応の反応流出物を炭化水素で抽出し、温度T(℃)で前記炭化水素と前記反応流出物とを二相に相分離することにより、前記反応流出物からリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子を抽出により除去する方法であって、
前記反応流出物におけるリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子の含有量は、その最大値が温度Tに関わりなく60質量%であり、その最少値がy質量%であり、このyの値は温度Tに依存して変化し、式
y=0.5T+20
(式中、Tは無単位の数値として使用される)により与えられる値であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記反応流出物を、抽出の前又は間に、アンモニア又は一級、二級又は三級の脂肪族アミン又は芳香族アミンで処理する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応流出物を無水アンモニアで処理する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
使用される炭化水素がシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘプタン又はn−オクタンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
使用される炭化水素がn−ヘプタン又はn−オクタンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応流出物中に存在する固体の少なくとも一部を抽出前に除去する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
抽出の相分離を−15〜120℃で行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
リン配位子を有するニッケル(0)錯体及び/又は遊離リン配位子を他の領域よりも多く含有する抽出領域における温度が他の領域の温度よりも低くなっている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記リン配位子が、単座配位又は二座配位のホスフィン、ホスフィット、ホスフィニット又はホスホニットから選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記リン配位子が、トリトリルホスフィット、二座配位リンキレート配位子、式Ib
P(O−R1x(O−R2y(O−R3z(O−R4p (Ib)
(式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立にo−イソプロピルフェニル、m−トリル及びp−トリルから選択される基を表わし、R4はフェニルを表わし、xは1又は2を表わし、y、z及びpはそれぞれ独立に0、1又は2を表わし、x+y+z+p=3である。)、
で表わされるホスフィット、及びこれらの混合物から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記モノニトリルが3−ペンテンニトリルであり、前記ジニトリルがアジポニトリルである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応流出物が、少なくとも1種のリン配位子を有するニッケル(0)錯体及び場合により少なくとも1種のルイス酸の存在下で3−ペンテンニトリルをシアン化水素と反応させることによって得られた反応流出物である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−519516(P2007−519516A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550099(P2006−550099)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000779
【国際公開番号】WO2005/073241
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】