説明

ニトロキシドと促進剤を含み、必要に応じて遊離ラジカル開始剤をさらに含む組成物

【課題】架橋時間に悪影響を与えずに耐スコーチ性、架橋密度を向上させるために、過酸化物又はアゾ化合物で熱可塑性組成物及び/又はエラストマー組成物を架橋する前の早過ぎる架橋(スコーチ)を防止するスコーチ遅延剤、架橋性組成物および架橋方法を提供する。
【解決手段】ニトロキシドと、少なくとも一つの二重結合を有する(二官能性または多官能性)化合物から成る群(P)の中から選択される促進剤とを含むスコーチ遅延組成物。存在する促進剤の量に対するニトロキシドの重量比が1:0.2〜1:5、好ましくは1:0.5〜1:2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化物またはアゾ化合物で熱可塑性組成物および/またはエラストマー組成物を架橋する前の早過ぎる架橋(grillage、以下「スコーチ」という)を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弾性材料および/または熱可塑性材料を過酸化物やアゾ化合物を用いて架橋(硬化)する用途では、これら材料が製造段階で望ましくない早過ぎる早期架橋(スコーチ、premature crosslinking)をすることが大きな問題である。
この製造段階では一般に、各成分を混合し、必要な場合には押出している(多くの場合、高温)。過酸化物またはアゾ化合物はこの製造段階の操作条件で分解し、架橋反応が起って混合物中にゲル化した粒子ができる。これらのゲル化粒子が存在すると最終製品に欠陥(不均一性または表面粗さ)が生じる。
スコーチが過度になると、材料の熱可塑性が低下し、材料を成形できなくなり、そのバッチ全体が使えなくなる。さらに、過度のスコーチで押出し操作が完全に停止することもある。
【0003】
上記の問題を解決するための解決策は種々提案されている。
例えば、高温での半減期が10時間の開始剤を用いることが提案されているが、この解決方法の欠点は硬化時間が長く、エネルギーコストが高くなり、生産性が低い点にある。スコーチ傾向を弱める添加物を添加することも提案されている。
【特許文献1】英国特許第1,535,039号明細書
【特許文献2】米国特許第3,954,907号明細書
【特許文献3】米国特許第3,202,648号明細書
【特許文献4】米国特許第3,335,124号明細書
【0004】
特許文献1には過酸化物で架橋されるポリエチレンベースの組成物にスコーチ防止剤として有機ヒドロペルオキシドを用いることが記載されている。特許文献2ではビニルモノマーを使用している。特許文献3では亜硝酸塩を使用している。特許文献4では芳香族アミン、フェノール化合物、メルカプトチアゾール化合物、硫化物、ヒドロキノンおよびジアルキルジチオカルバマート化合物を使用している。
【特許文献5】日本国特許第JP11-49865号公報
【0005】
特許文献5の対象は2,2,6,6-テトラメチルピペリジルオキシ(TEMPO)および4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジルオキシ(4-ヒドロキシTEMPO)にある。
上記従来技術ではスコーチ時間を延ばすために添加物を使用しているが、硬化時間および/または最終架橋密度に悪い影響を与え、それによって生産性および/または最終製品の特性を低下させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術の上記問題点を無くし、架橋時間に悪影響を与えずに耐スコーチ性、架橋密度を向上させることにある。
上記目的は、少なくとも1つの二重結合(二官能性でも多官能性でもよい)を含む化合物から成る群(P)の中から選択される少なくとも1種の架橋促進剤(以下、促進剤という)とニトロキシドとを一緒に用いることで達成できるということを見出した。こうした促進剤としては例えば二官能性ビニルモノマー、二官能性アリルモノマー、多官能性ビニルモノマーおよび多官能性アリルモノマーを挙げることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の対象は、ニトロキシドと、上記の群(P)の中から選択される少なくとも1種の促進剤とを含む早期架橋を遅らせる組成物(以下、スコーチ遅延組成物という)にある。ニトロキシドは、存在する促進剤の量に対して1:0.2〜1:5、好ましくは1:0.5〜1:2の重量比で用いるのが好ましい。
【0008】
本発明の他の対象は、有機過酸化物、アゾ化合物およびこれらの混合物から成る群の中から選択される遊離ラジカル開始剤と、ニトロキシドと、上記の群(P)の中から選択される少なくとも1種の促進剤とを含む早期架橋を遅らせ、架橋させる組成物(スコーチ遅延/架橋組成物)(A)にある。遊離ラジカル開始剤は、存在するニトロキシド量に対して1:0.02〜1:1、好ましくは1:0.1〜1:0.5の重量比で用いるのが好ましい。また、遊離ラジカル開始剤は、使用する促進剤の量に対して1:0.02〜1:1、好ましくは1:0.1〜1:0.5の重量比で用いるのが好ましい。
【0009】
本発明はさらに、過酸化物またはアゾ化合物で架橋可能な熱可塑性ポリマーおよび/またはゴム弾性ポリマーと、有機過酸化物、アゾ化合物およびこれらの混合物から成る群の中から選択される遊離ラジカル開始剤と、ニトロキシドと、上記の群(P)の中から選択される少なくとも1種の促進剤とを含む架橋性組成物(B)を提供する。遊離ラジカル開始剤は、100重量部のポリマーに対して0.2〜5重量部、好ましくは0.5〜3重量部の比率で存在するのが好ましい。
使用するニトロキシドおよび促進剤の遊離ラジカル開始剤に対する比率は組成物(A)で用いた範囲と同じにするのが好ましい。
【0010】
本発明はさらに、過酸化物またはアゾ化合物で架橋可能な熱可塑性ポリマーおよび/またはゴム弾性ポリマーを含む架橋性組成物の架橋方法を提供する。この方法では、上記の群(P)の中から選択される少なくとも1種の促進剤と組み合わせたニトロキシドの存在下で、前記ポリマーを有機過酸化物、アゾ化合物およびこれらの混合物から成る群の中から選択される遊離ラジカル開始剤と混合する。
本発明はさらに、架橋性組成物(B)から得られる成形品または押出し成形品、例えば線、ワイヤ、電気ケーブルを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
群(P)の中から選択される促進剤は、トランス−スチルベン、ジビニルベンゼン、トランス,トランス−2,6−ジメチル−2,4,6−オクタトリエン、ジシクトペンタジエン、3,7−ジメチル−1,3,6−オクタトリエン(OCIMENE)、下記一般式(I)で示される化合物および下記一般式(II)で示される化合物であるのが好ましい:
【0012】
【化8】

【0013】
(ここで、Rxは水素原子または1〜9個の炭素原子を有するアルキル基を表し、nは1〜3の整数)
【0014】
【化9】

【0015】
(ここで、RyおよびRzは1〜9個の炭素原子を有するアルキル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい)
一般式(I)で示される化合物の例としては、α−メチルスチレン、オルト−、メタ−およびパラ−ジイソプロペニルベンゼン、1,2、4‐トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5−トリイソプロペニルベンゼン、3−イソプロピル−オルト−ジイソプロペニルベンゼン、4−イソプロピル−オルト−ジイソプロペニルベンゼン、4−イソプロピル−m−ジイソプロペニルベンゼン、5−イソプロピル−m−ジイソプロペニルベンゼンおよび2−イソプロピル−p−ジイソプロペニルベンゼンを挙げることができる。
【0016】
一般式(II)で示される化合物の例としては、2,4−ビス(3−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ビス(4−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2−(3−イソプロピルフェニル)−4−(4−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2−(4−イソプロピルフェニル)−4−(3−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ビス(3−メチルフェニル)−4−メチル−1−ペンテンおよび2,4−ビス(4−メチルフェニル)−4−メチル−1−ペンテンを挙げることができる。
【0017】
促進剤としてメチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、アリルメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルホスフェート、テトラアリロキシエタン、ジアリルジグリコールカーボネート、トリアリルトリメリテート、トリアリルシトレート、ジアリルアジペート、ジアリルテレフタレート、ジアリルオキサレート、ジアリルフマレート、エチレングリコールジメタクリレートおよび2−ヒドロキシエチルメタクリレートも適している。
【0018】
下記一般式(X)で示される化合物も群(P)の促進剤に適している:
【化10】

【0019】
(ここで、nは1または2で、Rは2〜16個の炭素原子を有する脂肪族非環式基、5〜20個の炭素原子を有する脂肪族環式基、6〜18個の炭素原子を有する芳香族基および7〜24個の炭素原子を有するアルキル芳香族(アルキルアリール)基から成る群の中から選択される二価または三価の基を表し、この二価または三価の基は単数または複数の炭素原子の代わりに単数または複数の酸素、窒素および/または硫黄のヘテロ原子を含むことができ、R1は水素原子または1〜18個の炭素原子を有するアルキル基を表し、互いに同一である)
【0020】
一般式(X)の化合物の内ではビスマレイミドとビスシトラコンイミドを選択するのが有利である。
ビスマレイミドの例としては、N、N'−m−フェニレンビスマレイミド、N、N'−エチレンビスマレイミド、N、N'−ヘキサメチレンビスマレイミド、N、N'−ドデカメチレンビスマレイミド、N、N'−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビスマレイミド、N、N'−(オキシジプロピレン)ビスマレイミド、N、N'−(アミノジプロピレン)ビスマレイミド、N、N'−(エチレンジオキシジプロピレン)ビスマレイミド、N、N'−(1,4−シクロヘキシレン)ビスマレイミド、N、N'−(1,3−シクロヘキシレン)ビスマレイミド、N、N'−(メチレン−1,4−ジシクロヘキシレン)ビスマレイミド、N、N'−(イソプロピリデン−1,4−ジシクロヘキシレン)ビスマレイミド、N、N'−(オキシ−1,4−ジシクロヘキシレン)ビスマレイミド、N、N'−p−(フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−p−(o−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(1,3−ナフチレン)ビスマレイミド、N、N'−(1,4−ナフチレン)ビスマレイミド、N、N'−(1,5−ナフチレン)ビスマレイミド、N、N'−(3,3'−ジメチル−(4,4−ジフェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(3,3'−ジシクロ−4,4−ビフェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(2,4−ピリジル)ビスマレイミド、N、N'−(2,6−ピリジル)ビスマレイミド、N、N'−(1,4−アントラキノンジイル)ビスマレイミド、N、N'−(m−トリレン)ビスマレイミド、N、N'−(p−トリレン)ビスマレイミド、N、N'−(4,6−ジメチル−1,3−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(2,3−ジメチル−1,4−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(4,6−ジクロロ−1,3−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(5−クロロ−1,3−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(5−ヒドロキシ−1,3−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(5−メトキシ−1,3−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(m−キシレン)ビスマレイミド、N、N'−(p−キシレン)ビスマレイミド、N、N'−(メチレンジ−p−キシレン)ビスマレイミド、N、N'−(イソプロピリデンジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(オキシジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(チオジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(ジチオジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(スルホジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N、N'−(カルボニルジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、α,α'−ビス(4−マレイミドフェニル)−メタ−ジイソプロピルベンゼン、α,α'−ビス(4−p−フェニレン)ビスマレイミドおよびα,α'−ビス(4−マレイミドフェニル)−パラ−ジイソプロピルベンゼンが挙げられる。
【0021】
ビスシトラコンイミドの例として下記が挙げられる:
1,2−N、N'−ジメチレンビスシトラコンイミド、
1,2−N、N'−トリメチレンビスシトラコンイミド、
1,5−N、N'−(2−メチレンペンタタメチレン)ビスシトラコンイミド、
N、N'−(メチルフェニレン)ビスシトラコンイミド
一般式(X)の化合物はエラストマーを架橋するものを選択するのが好ましい。
【0022】
ニトロキシドとしては例えば下記一般式(III)で示されるものを用いることができる:
【化11】

【0023】
[ここで、R1、R2、R3、R4、R'1およびR'2は水素原子、フッ素、塩素、臭素または沃素等のハロゲン原子、直鎖、分岐鎖または環状の飽和または不飽和炭化水素基、例えばアルキル基またはフェニル基、ポリマー鎖、例えばポリメチルメタクリレート等のポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリジエン、ポリオレフィンまたはポリスチレン鎖、シアノ基−CN、エステル基−COOR、アミド基−CON(R)2、アルコキシ基−ORまたはフォスフォネート−PO(OR)2基(ここでRは1〜9個の炭素原子を有する炭化水素鎖)等の官能基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい]
さらに、R'1とR'2は互いに結合して例えば下記式で示されるニトロキシドのような環を形成することもできる:
【0024】
【化12】

【0025】
[ここで、R5、R6、R7およびR8はR1、R2、R3およびR4で定義の基と同じ基の中から選択でき、さらに、ヒドロキシル基−OH、酸基、例えば−COOH、−PO(OH)2または−SO3Hを表すことができ、互いに同一でも異なっていてもよく、式(VI)中のXはメチレン、−CH2−、−(OR)(OR')−、カルボニル−C(O)−、オキシ−O−および−CHZ−の中から選択される二価基を表し、Zはシアノ:−CN、アミノ:−NMR'、アルコキシ:−OR、イミノイル−N=CRR'、カルボキシレート:−OC(O)−Rおよびアミド:−NMR−C(O)R'基の中から選択される一価の残基を表し、RおよびR'は水素原子、1〜10個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖のアルキル基、ベンジル基またはフェニル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、式(VI)中のXはさらに、ホスホネート基:−OP(O)R''R'''(R''とR'''はZと同じ意味を有する)を表すこともできる]
【0026】
さらに、下記一般式(VII)で示されるニトロキシドを用いることもできる:
【化13】

【0027】
[ここで、R1、R2、R3およびR4は式(III)〜(VI)で用いたものと同じ意味を有し、互いに同一でも異なっていてもよく、Yは下記の中から選択される二価の基を表す:
−OC(O)−(CRabn−C(O)O−、
−NH−(CRabnNH−、
−NHC(O)−(CRabnn−C(O)NH−、
−S−、−O−
(ここで、RaとRbは水素原子または1〜10個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、nは0〜20の整数を表す)]
【0028】
さらに、下記一般式(VIII)で示されるニトロキシドを用いることもできる:
【化14】

【0029】
[ここで、R1、R2、R3およびR4は上記式(III)〜(VII)で定義のものと同じ意味を有し、互いに同一でも異なっていてもよく、λは1〜20の整数であり、R9は間に−O−または−NR10−(R10は水素原子、1〜12個の炭素原子を含むアルキル基またはシクロアルキル基を表す)が入っていてもよい2〜12個の炭素原子を含むアルキレン基を表し、Qは基−OR11、−NHR12または−NR1213を表し、R11は1〜12個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖のアルキル基、C3−C12アルコキシアルキル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基または2,2,6,6−テトラピペリジル基を表し、R12およびR13はR11と同じ意味を有し、さらに、これらの基が結合した窒素原子と一緒に5−、6−または7−複素環式基を形成することもできる]
【0030】
一般式(VIII)のニトロキシドで通常用いられるものは、Chimasorb 944の名称でCIBA社から市販のアミンを酸化して得られるもので、R1、R2、R3およびR4がメチル基を表し、R9が6個の炭素原子を含むアルキレン基を表し、Qが−N(OO)−C811基を表し、λが2〜4の整数のものである。
一般式(VI)のニトロキシドで好ましいものは、R1、R2、R3およびR4がメチル基を表し、R5、R6、R7およびR8がそれぞれ水素原子を表し、Xが−CHZ−基を表すものである。
【0031】
一般式(VI)のニトロキシドとしては特にTEMPOの名称で市販の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジロキシ、4−ヒドロキシTEMPOの名称で市販の4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジロキシ、4−メトキシTEMPOとよばれる4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジロキシおよび4−オキソTEMPOとよばれる4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジロキシが挙げられる。
【0032】
一般式(VI)のニトロキシドで特に好ましいものは下記式で示されるニトロキシドである:
【化15】

(ここで、nは1〜20の数)
【0033】
以下のニトロキシドも好ましい:PROXYLの商品名で市販の2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニリジロキシ、Ciba Specialty Chemical社からCXA 5415の商品名で市販のビス(1−オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシ−1−ピペリジロキシモノホスホネートおよび3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニリジロキシ(3−カルボキシプロキシルとよばれている)。
【0034】
本発明では、遊離ラジカル開始剤としてアゾ化合物および/または有機化酸化物を用いる。これらの化合物は熱分解によって遊離ラジカルを生成し、硬化/架橋反応を促進する。架橋剤として用いられる遊離ラジカル開始剤の中ではジアルキルペルオキシドとジペルオキシケタール開始剤が好ましい。これらの化合物の詳細な説明は下記文献に記載されている。
【非特許文献1】Encyclopedia of Chemical Technology, 第3版、vol.17, 27-90頁、1982年
【0035】
ジアルキルペルオキシドの中で好ましい開始剤は下記のものである:ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルクミルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−アミルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−アミルペルオキシ)−3−ヘキサン、α,α−ジ[(t−ブチルペルオキシ)イソプロピル]ベンゼン、ジ−t−アミルペルオキシド、1,3,5−トリ[(t−ブチルペルオキシ)イソプロピル]ベンゼン、1,3−ジメチル−3−(t−ブチルペルオキシ)ブタノールと1,3−ジメチル−3−(t−アミルペルオキシ)ブタノールおよびこれらの混合物。
【0036】
ジペルオキシケタールの中で好ましい開始剤は下記のものである:1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ジ(t−アミルペルオキシ)バレレート、エチル3,3−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブチレート、2,2−ジ(t−アミルペルオキシ)プロパン、3,6,6,9,9−ペンタメチル−3−エトキシカルボニルメチル−1,2,4,5−テトラオキサシクロノナン、n−ブチル4、4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレートとエチル3,3−ジ(t−アミルペルオキシ)ブチレートおよびこれらの混合物。
【0037】
アゾ化合物としては例えば2,2'−アゾビス(2−アセトキシプロパン)、アゾビス−イソブチロニトリル、アゾジカルバミド、4,4'−アゾビス(シアノ−ペンタノン酸)および2,2'−アゾビスメチルブチロニトリルが挙げられる。ジクミルペルオキシドとα,α−ジ[(t−ブチルペルオキシ)イソプロピル]ベンゼンが特に好ましい。
【0038】
本発明で熱可塑性ポリマーおよび/またはゴム弾性ポリマーとは、熱可塑性および/またはゴム弾性を有し、架橋剤の作用で架橋(硬化)できる天然ポリマーまたは合成ポリマーである。架橋作用および架橋性ポリマーは下記文献に記載されている。
【非特許文献2】Rubber World、「Elastomer Crosslinking with Diperoxyketals」, 1983年11月, 26-32頁、
【非特許文献3】Rubber and Plastic News、「Organic Peroxides for Rubber Crosslinking」, 1980年9月29日, 46-50頁
【0039】
本発明に適したポリオレフィンは下記文献に記載されている。
【非特許文献4】Modern Plastics Encyclopedia 89、63-67頁と74-75頁 ポリマーおよび/またはエラストマーとしては下記が挙げられる: 直鎖低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン/プロピレン/ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、シリコンゴム、天然ゴム(NR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンコポリマー(NBR)、スチレン−ブタジエンコポリマー(SBR)、クロロスルホン化ポリエチレンおよびフルオロエラストマー。 エチレン/メチル(メタ)アクリレートコポリマーおよびエチレン/グリシジルメタクリレートコポリマーを挙げることもできる。
【0040】
組成物(A)および(B)は、上記成分の他に抗酸化剤、安定化剤、可塑剤およびシリカ、クレーまたは炭酸カルシウム等の不活性充填剤を含むことができる。
組成物(A)および(B)が複数のニトロキシド(N)を含んでいてもよい。これらの組成物は複数の遊離ラジカル開始剤を含むこともできる。
【0041】
本発明方法では架橋温度を110〜220℃、好ましくは140〜220℃にすることができる。
本発明の方法は、開始剤/ポリマー、ニトロキシド/ポリマー、促進剤/ポリマーの重量比が組成物(B)に近くなるような量の開始剤、ニトロキシドおよび促進剤の存在下で実施するのが有利である。
架橋性組成物の成形品または押出成形品への加工は架橋中または架橋後に行うことができる。
【実施例】
【0042】
実験
以下の説明では下記の略語を用いる:
H: レオメータで記録した曲線から得られる最大トルク値。この値によって架橋密度が決まる。
90: 架橋時間、最大トルクの90%に達するのに要する時間。
s5: スコーチ時間(所定温度でトルクが5ムーニー単位増加するのに要する時間)。
【0043】
得られた混合物の架橋密度(MH)および架橋時間(T90)は、モンサントODR 2000 Eレオメータ(アルファテクノロジー社製、振動弧:3λ、振動数:100回転/分)を用いて180℃で測定した。
架橋時間は、上記と同じ条件でレオメータを用いて求めた。
スコーチ時間は、ムーニーMV 2000粘度計(アルファテクノロジー社製)を用いて145℃で測定した。
【0044】
実施例1(本発明ではない)
1000gの低密度ポリエチレン(アシュランド社から市販のMitene)、25gのジクミルペルオキシド(Luperox DC 、登録商標)と、3gの2,2,6,6−テトラメチルピペリジロキシ(TEMPO)とを80℃(公称温度)で15分間(撹拌速度=930rpm)、ターボミキサーで混合した。得られた粉末を110℃で3分間溶融し、ディスク状試料に成形した後、得られた試料をレオメータまたは粘度計のチャンバ内に入れた。
【0045】
実施例2(本発明ではない)
2,2,6,6−テトラメチルピペリジロキシを用いずに実施例1を繰返した。[表1]に結果を示す。実施例1と2の比較から、スコーチ時間は実施例1の方が長いが、架橋密度は大きく低下し、架橋時間はわずかに長くなることが分かる。
【0046】
実施例3
3gのジイソプロピルベンゼン(DIPB)を加えて実施例1を繰返した。
得られた結果と上記実施例で得られた結果との比較から、この組み合わせによって架橋密度を高くし且つ架橋時間を短くでき、それと同時にスコーチ時間を長くすることができるということが分かる。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例4(本発明ではない)
350cm3容積のバンバリーミキサー中で、318gのEPDM DIN 7863(100gのエチレン−プロピレン−ジエンターポリマーと、218gの充填剤とを含む)を50回転/分の速度で50℃で5分間コンディショニングした。8gのルパーオキシ(Luperox) F40ED(40%のジ(ター−ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼンと、60%の不活性充填剤とからなる)を添加し、50回転/分の速度、50℃で5分間、上記化合物と混合した。
【0049】
実施例5(本発明ではない)
実施例4を繰返したが、ルパーオキシ(Luperox) F40EDだけでなく0.677gの4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジロキシ(OH-TEMPO)も添加した。
実施例6(本発明ではない)
実施例5を繰返したが、OH-TEMPOの代わりに0.5gのN,N'−m−フェニレンジマレイド(N,N'−m−フェニレンビスマレイミドまたはMBM)を添加した。
実施例7
実施例5を繰返したが、ルパーオキシ(Luperox) F40EDとOH-TEMPOだけでなく0.5gのMBMも添加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロキシドと、二官能性でも多官能性でもよい少なくとも1つの二重結合を有する化合物から成る群(P)の中から選択される少なくとも1種の促進剤とを含むことを特徴とする早期架橋を遅らせる組成物。
【請求項2】
存在する促進剤の量に対するニトロキシドの重量比が1:0.2〜1:5、好ましくは1:0.5〜1:2である請求項1の組成物。
【請求項3】
有機過酸化物、アゾ化合物およびこれらの混合物から成る群の中から選択される遊離ラジカル開始剤をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
存在するニトロキシド量に対する遊離ラジカル開始剤の重量比が1:0.02〜1:1、好ましくは1:0.1〜1:0.5である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
使用した促進剤に対する遊離ラジカル開始剤の重量比が1:0.02〜1:1、好ましくは1:0.1〜1:0.5である請求項3または4に記載の組成物。
【請求項6】
過酸化物またはアゾ化合物で架橋可能な熱可塑性ポリマーおよび/または弾性ポリマーをさらに含む請求項3〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
100重量部のポリマーに対して遊離ラジカル開始剤が0.2〜5部、好ましくは0.5〜3部の比率で存在する請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
ニトロキシドが下記の式(III)で示される請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物:
【化1】

(ここで、R1、R2、R3、R4、R'1およびR'2は水素原子、フッ素、塩素、臭素、沃素等のハロゲン原子、直鎖、分岐鎖または環状の飽和または不飽和炭化水素基、例えばアルキル基またはフェニル基、ポリマー鎖、例えばポリメチルメタクリレート等のポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリジエン、ポリオレフィンまたはポリスチレン鎖、シアノ基−CN、エステル基−COOR、アミド基−CON(R)2、アルコキシ基−OR、フォスフォネート基−PO(OR)2等の官能基を表し、Rは1〜9個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表し、互いに同一でも異なっていてもよい)
【請求項9】
R'1とR'2が互いに結合して下記の環を形成している請求項8に記載の組成物:
【化2】

(ここで、R5、R6、R7およびR8は互いに同一でも異なっていてもよく、R1、R2、R3およびR4で挙げ基と同じ基から選択でき、さらに、ヒドロキシル基
−OH、−COOHまたは−PO(OH)2または−SO3H等の酸基を表し、式(VI)中のXはメチレン、−CH2−、−(OR)(OR')−、カルボニル−C(O)−、オキシ−O−および−CHZ−から選択される二価基を表し、Zはシアノ:−CN、アミノ:−NMR'、アルコキシ:−OR、イミノイル−N=CRR'、カルボキシレート:−OC(O)−Rおよびアミド:−NMR−C(O)R'の中から選択される一価の残基を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、RおよびR'は水素原子、1〜10個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖のアルキル基、ベンジル基またはフェニル基を表す)
【請求項10】
式(VI)中のXがホスホネート基:−OP(O)R''R''' (R''とR'''はZと同じ意味を有する)を表す請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
ニトロキシドが下記一般式(VII)で表される請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物:
【化3】

[ここで、R1、R2、R3およびR4は式(III)〜(VI)で用いたものと同じ意味を有し、互いに同一でも異なっていてもよく、Yは下記の中から選択される二価の基を表す:
−OC(O)−(CRabn−C(O)O−、
−NH−(CRabnNH−、
−NHC(O)−(CRabnn−C(O)NH−、
−S−、−O−
(ここで、RaとRbは水素原子または1〜10個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖のアルキル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、nは0〜20の整数を表す)]
【請求項12】
ニトロキシドが下記一般式(VIII)で表される請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物:
【化4】

[ここで、R1、R2、R3およびR4は式(III)〜(VII)で用いたものと同じ意味を有し、互いに同一でも異なっていてもよく、λは1〜20の整数であり、R9は間に−O−または−NR10−(R10は水素原子、1〜12個の炭素原子を含むアルキル基またはシクロアルキル基を示す)が入っていてもよい2〜12個の炭素原子を有するアルキレン基を表し、Qは基−OR11、−NHR12または−NR1213を表し、R11は1〜12個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖のアルキル基、C3−C12アルコキシアルキル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基または2,2,6,6−テトラピペリジル基を表し、R12とR13はR11と同じ意味を有し、また、これらの基が結合した窒素原子と一緒に5−、6−または7−複素環式基を形成していてもよい]
【請求項13】
ニトロキシドが下記式で示されるニトロキシドから選択される請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物:
【化5】

(ここで、nは1〜20の数)
【請求項14】
ニトロキシドがTEMPOの名称で市販の2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジロキシ、4−ヒドロキシTEMPOの名称で市販の4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジロキシ、4−メトキシTEMPOとよばれる4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジロキシ、4−オキソTEMPOとよばれる4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジロキシ、PROXYLの商品名で市販の2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニリジロキシ、Ciba Specialty Chemical社からCXA 5415の商品名で市販のビス(1−オキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシ−1−ピペリジロキシモノホスホネートおよび3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニリジロキシ(3−カルボキシプロキシルとよばれる)である請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
促進剤がトランス−スチルベン、ジビニルベンゼン、トランス,トランス−2,6−ジメチル−2,4,6−オクタトリエン、ジシクトペンタジエン、3,7−ジメチル−1,3,6−オクタトリエン(OCIMENE)、下記一般式(I)で示される化合物および下記一般式(II)で示される化合物の中から選択される請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物:
【化6】

(ここで、Rxは水素原子または1〜9個の炭素原子を有するアルキル基を表し、nは1〜3の整数)
【化7】

(ここで、RyおよびRzは1〜9個の炭素原子を有するアルキル基を表し、互いに同一でも異なっていてもよい)
【請求項16】
促進剤がα−メチルスチレン、o−、m−p−ジイソプロペニルベンゼン、1,2、4‐トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5−トリイソプロペニルベンゼン、3−イソプロピル−オルト−ジイソプロペニルベンゼン、4−イソプロピル−オルト−ジイソプロペニルベンゼン、4−イソプロピル−m−ジイソプロペニルベンゼン、5−イソプロピル−m−ジイソプロペニルベンゼンおよび2−イソプロピル−p−ジイソプロペニルベンゼン、2,4−ビス(3−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ビス(4−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2−(3−イソプロピルフェニル)−4−(4−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2−(4−イソプロピルフェニル)−4−(3−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ビス(3−メチルフェニル)−4−メチル−1−ペンテンまたは2,4−ビス(4−メチルフェニル)−4−メチル−1−ペンテンである請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
遊離ラジカル開始剤がジクミルペルオキシドまたはα,α−ジ[(t−ブチルペルオキシ)イソプロピル]ベンゼンである請求項3〜16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
上記ポリマーが、直鎖低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エチレン/プロピレン/ブタジエンターポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、シリコンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、フルオロエラストマー、エチレン/メチル(メタ)アクリレートコポリマーおよびエチレン/グリシジルメタクリレートコポリマーからなる群の中から選択される請求項6〜17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
熱可塑性ポリマーおよび/またはゴム弾性ポリマーの架橋方法において、
遊離ラジカル開始剤の存在下で、上記ポリマーと、ニトロキシドおよび上記の群(P)の中から選択された促進剤とを混合することを特徴とする方法。
【請求項20】
架橋中または架橋後に成形または押出し加工して製品にする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項20の方法で得られる成形品または押出成形品。

【公開番号】特開2007−327063(P2007−327063A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174536(P2007−174536)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【分割の表示】特願2002−532523(P2002−532523)の分割
【原出願日】平成13年9月28日(2001.9.28)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】