説明

ニトロ化炭化水素の製造方法

特定の反応条件下で水性硝酸を炭化水素供給原料及びカルボン酸と反応させることによりニトロ化炭化水素を製造する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、引用によりその内容を本明細書に援用する2009年10月20日出願の米国仮特許出願第61/253,143号の利益を請求する。
発明の属する分野
本発明は、ニトロ化炭化水素の製造方法に関する。当該方法は、特定の反応条件下で水性硝酸(aqueous nitric acid)を炭化水素供給原料及びカルボン酸と反応させることを含む。
【背景技術】
【0002】
炭化水素のニトロ化によって、一般的に、反応条件および供給原料の構造に応じて様々な生成物が生じる。例えば、プロパンの商業的気相ニトロ化方法は、実質的に一定の相対濃度の4種のニトロアルカン生成物(ニトロメタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン及びニトロエタン)の混合物をもたらす。しかし、特定のニトロ化炭化水素生成物が、他のものよりも望まれることがあり、特定の生成物の望ましさは、商業的な供給と需要の条件の変化に応じて変わることがある。従って、あまり望ましくない化合物を犠牲にして、より望ましいニトロ化合物を選択的に製造することが長い間の目標となっていた。
【0003】
商業的気相ニトロ化とは対照的に、プロパンの混合気−液相または高圧ニトロ化は、気相ニトロ化中に典型的に形成されるあまり望ましくないニトロ化合物を生成させずに2−ニトロプロパン(往々にしてより望ましいニトロ化炭化水素)を潜在的に製造できる方法であると過去に仮定されていた。例えば、米国特許第2,489,320号明細書(Nygaard他)及びAlbright, L. F., "Nitration of Paraffins", Chem. Engr., (1966) pp. 149-156参照。
【0004】
初期の楽観主義にもかかわらず、混合気液相中でプロパンをニトロ化するための先行技術は、硝酸の転化率が低いこと、硝酸が容易に回収できないこと、硝酸による反応器の腐食の問題及び反応熱を制御する困難さのためなどのいくつかの理由から、実用的でなかった。
低い収率はより多くの供給材料の使用を必要とするためにより高コストになるので、望ましいニトロ化炭化水素を高収率で得ることは考慮すべき重要な経済的要素である。さらに、硝酸をニトロ化剤として使用する場合、未反応の硝酸は廃棄物となり、廃棄物を適切に処分するために費用がかかる。未反応の反応物の精製とリサイクルに関係する資本とエネルギー費を最低限に抑えるために、反応物である炭化水素の高い転化率(ニトロ化炭化水素への)が経済的にも重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2,489,320号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Albright, L. F., "Nitration of Paraffins", Chem. Engr., (1966) pp. 149-156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、望ましいニトロ化炭化水素の製造のためのより経済的、選択的な、環境に優しいプロセスを提供することは、当該技術分野における重要な進歩になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、式I:
【0009】
【化1】

【0010】
により表される2又は3種以上の化合物を含むニトロ化炭化水素組成物を製造するための混合液−気相方法を提供する。当該方法は、(a)炭化水素供給原料及び水性供給物を含む反応混合物を形成する工程、ここで、水性供給物は、水、約10〜約50質量%の硝酸及び少なくとも約15質量%の式II:
【0011】
【化2】

【0012】
により表されるカルボン酸を含む;及び(b)上記混合物を反応圧力及び反応温度で反応させてニトロ化炭化水素組成物を含む生成物流をもたらす工程を含む。基R及びRは本明細書において定義するとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施態様に従う、プロパンと硝酸のモル比の関数としてニトロメタン選択率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記のとおり、本発明は、ニトロ化炭化水素組成物を製造するための混合液−気相方法を提供する。炭化水素供給原料及びカルボン酸出発物質の適切な選択とともに、温度、圧力、硝酸の希釈レベルの選択は、本明細書で教示されるように、先行技術の方法よりも大幅に改善されたニトロ化方法を提供する。
【0015】
例えば、本明細書に記載の条件下で炭化水素供給原料とカルボン酸とを一緒にニトロ化することは、別々にニトロ化する場合の炭化水素供給原料及びカルボン酸の個々の性能に基づいて予想されるものよりも良好な方式で実行されることが驚くべきことに見出された。特に、反応の効率と所望のニトロ化炭化水素への選択率の両方が、ほかの場合に予測されるよりも高いことが観測された。
【0016】
効率と選択性のこの驚くべき改善は、都合よいことに、費用効果の高い方法で、より少ない環境負荷でニトロ化炭化水素を製造することを可能にする。さらに、特定のニトロ化炭化水素の選択的形成に効率的に的をしぼる能力によって、商業的な供給と需要の条件に対して容易に調整できる方法が提供される。例えば、ニトロメタンの商業的需要が増加しているとき、本発明の方法は、ニトロ化炭化水素生成物混合物においてより多くのニトロメタンの形成を優先するように調整することができる。結果として、過剰製造された物質の貯蔵又は処分に関係する費用を大幅に軽減することができる。
【0017】
本発明の方法は、
(a)炭化水素供給原料及び水性供給物を含む反応混合物を形成する工程、ここで、水性供給物は、水、約10〜約50質量%の硝酸及び少なくとも約15質量%の式II:
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、RはC−C12アルキル又はC−C12シクロアルキルである)
により表されるカルボン酸を含む;及び
(b)上記混合物を反応圧力及び反応温度で反応させてニトロ化炭化水素組成物を含む生成物流をもたらす工程、
を含む。
【0020】
炭化水素供給原料は、下記のもののうちの1又は2種以上(これらに限られない)を含むことができる:アルカン及びシクロアルカン(アルキル置換されたシクロアルカンを包含する)、例えばプロパン、イソブタン、n−ブタン、イソペンタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、2,3−ジメチルブタン、シクロヘキサン、シクロペンタン及びメチルシクロヘキサン;アリールアルカン、例えばエチルベンゼン、トルエン、キシレン、イソプロピルベンゼン、1−メチルナフタレン及び2−メチルナフタレン並びに4−メチルビフェニルなど;縮合シクロアルカン、アルキル置換縮合アリール化合物並びに縮合シクロアルカン−アリール化合物(アルキル置換誘導体を包含する)、例えばテトラリン、デカリン及びメチルナフタレンなど。すでに1個以上のニトロ置換基を有する反応物のニトロ化も、この反応物が利用可能な水素をなお有する限り意図される。
【0021】
いくつかの実施態様において、炭化水素供給原料は、C−C12アルカン(直鎖状又は分岐鎖状のものを包含する)またはC−C12シクロアルカン(アルキル置換シクロアルカンを包含する)。いくつかの実施態様において、上記アルカンまたはシクロアルカンは3〜10個の炭素原子、あるいは3〜8個の炭素原子、あるいは3〜6個の炭素原子を含む。適切なC−C12アルカン及びC−C12シクロアルカンの例としては、n−デカン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、シクロペンタン、n−ブタン、iso−ブタンまたはプロパンが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、プロパンが好ましい。
【0022】
本発明の方法において、式IIのカルボン酸を硝酸と反応させてニトロ化炭化水素を形成する。分子の酸部分は、当該方法中に開裂も受ける。カルボン酸は、当該方法全体のニトロ化炭化水素生成物混合物中でどの特定のニトロ化炭化水素の濃度が高いことが望まれるかに基づいて選択される。例えば、酢酸は、ニトロメタンの形成の増加をもたらし、プロピオン酸は、ニトロエタンの形成の増加をもたらす等。
【0023】
本発明で使用するためのカルボン酸は、一般的に、上記式IIにより表される。式IIの化合物のR基は、直鎖または分岐C−C12アルキルであることができ、またはR基は、C−C12シクロアルキル(アルキル置換シクロアルキルを包含する)であってもよい。いくつかの実施態様において、RはC−C10アルキル、あるいはC−Cアルキル、あるいはC−Cアルキル、あるいはC−Cシクロアルキルである。式IIにより表される適切なカルボン酸の例としては、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ヘキサン酸及び1−シクロヘキシル酢酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明によれば、式IIのカルボン酸は、当該方法の水性供給原料(水、硝酸及びカルボン酸)の少なくとも約15質量%、あるいは少なくとも約25質量%、あるいは少なくとも約35質量%、あるいは少なくとも約40質量%、あるいは少なくとも約50質量%、あるいは少なくとも55質量%を構成する。いくつかの実施態様において、カルボン酸は水性供給原料の約75質量%以下、あるいは約65質量%以下を構成する。
【0025】
当該方法の生成物流は、カルボン酸を含むことができ、当該カルボン酸は、炭化水素供給原料の酸化によって形成されたものおよび/または未消費出発原料の所産であることができる。本発明のいくつかの実施態様によれば、生成物流のカルボン酸の少なくとも一部を、供給原料流の式IIのカルボン酸としてリサイクルして使用することができる。カルボン酸は、蒸留、液−液抽出後の蒸留、共沸蒸留、膜透過、水性抽出などの当業者に公知の技術を使用して生成物流から単離することができる。生成物流成分のかかるリサイクルは廃棄物の削減をもたらす。
【0026】
いくつかの実施態様において、式IIのカルボン酸を、アルコールまたはアルデヒドなどの前駆体と硝酸との反応を通じて現場(in-situ)生成させることができる。例えば、エタノールまたはアセトアルデヒドを、酢酸の現場(in-situ)形成のために使用でき、あるいは1−ブタノールを、酪酸の現場(in-situ)形成のために使用できる。
【0027】
本発明の方法の硝酸は、水性供給原料(水、硝酸及びカルボン酸)の総質量に基づいて少なくとも約10質量%の濃度で使用される。いくつかの実施態様において、硝酸濃度は、少なくとも約15質量%、あるいは少なくとも約20質量%、あるいは少なくとも約30質量%である。さらに、この濃度は約50質量%以下である。いくつかの実施態様において、硝酸濃度は約40質量%以下、あるいは約35質量%以下である。さらなる実施態様において、硝酸濃度は、約15〜約40質量%である。他の実施態様において、硝酸濃度は約18〜約35質量%である。
【0028】
当該方法は、好ましくは耐腐食性材料、例えばチタンなどで製造された又は裏打ちされた反応器で実施される。反応器は、必要に応じて、伝熱流体を供給するための入口および出口を備えたシェルにより囲まれる。例えば油であることができる伝熱流体は、反応温度を所望のパラメータの範囲内に制御することを可能にする。
【0029】
硝酸と炭化水素供給原料/カルボン酸との反応は発熱的であるので、シェルと伝熱流体の使用は必須でないことに留意すべきである。反応温度は、反応物の添加速度および/または濃度をたんに調節することにより、必要なパラメータ内になるように調節することができる。
【0030】
いくつかの実施態様において、反応器は、ダウンフローモード(downflow mode)で運転される。すなわち、反応器の上部またはその付近にある入口を通して反応物が加えられ、次に、反応が起こってニトロ化炭化水素組成物を含む生成物流が形成するのに十分な滞留時間で反応器を流れ下るように反応器(好ましくは細長く線状の形状のもの、例えば管状)は配置される。生成物流は反応器の底部またはその付近にある出口を通して集められる。
【0031】
ダウンフロー構成の反応器の運転は、一般的に水平、アップフロー(upflow)、コイルまたはバッチオートクレーブ型の装置を用いる先行技術のシステムを凌ぐ特定の利点を提供する。特に、本発明のダウンフロー構成は、かかる先行技術のシステムと比べて比較的低レベルの酸化副生成物を含むニトロ化化合物をもたらす。
【0032】
反応器に、必要に応じて、反応物の混合及び熱伝達を改善するために、充填材が充填される。充填は、反応器容積を変化させるために使用することもできる。適切な充填材としては、例えば、ガラスビーズ、ランダムパッキングまたは構造化パッキング、例えば蒸留装置で典型的に使用されているものなどが挙げられる。他の充填材は、当技術分野で知られており、使用することができる。
【0033】
炭化水素供給原料、式IIのカルボン酸、及び硝酸、並びに水を、反応器に入る前に混合または部分的に混合するか、あるいは、それらが反応器内で混合が起こるように個別に加えることができる。さらに、反応物のうちの1種以上及び水(一緒に又は個別に加えられる)を、反応器に入る前に予熱することができる。いくつかの実施態様において、炭化水素供給原料と硝酸とのモル比は少なくとも約0.3:1、あるいは少なくとも約0.4:1、あるいは少なくとも約0.5:1である。いくつかの実施態様において、炭化水素供給原料のモル比は、0.8:1以下、あるいは0.7:1以下、あるいは0.6:1以下である。
【0034】
反応器内の反応温度は、約140℃超乃至約325℃未満に調節できる(例えば、熱交換流体により、又は反応から発生した熱を使用して)。他の実施態様において、温度は約215℃超乃至約325℃未満であることができる。いくつかの実施態様において、温度は、約180℃超、約200℃超、約230℃超、または約240℃超であることができる。さらなる実施態様において、温度は、約290℃未満、約280℃未満、約270℃未満、または約250℃未満であることができる。他の実施態様において、温度は約200〜250℃であることができる。さらに別の実施態様において、温度は約215〜280℃、または約220〜270℃であることができる。
【0035】
反応器内の圧力は、少なくとも約500psi(34気圧)に保たれるべきであり、好ましくは少なくとも約1000psi(68気圧)、より好ましくは少なくとも1200psi(82気圧)に保たれるべきである。さらに、圧力は、約1600psi(109気圧)未満、好ましくは約1500psi(102気圧)未満、より好ましくは約1400psi(95気圧)未満であることができる。他の実施態様において、圧力は約1000psi(68気圧)〜1400psi(95気圧)であることができる。当該技術分野で公知の種々の方法、例えば背圧レギュレータの使用によるなどの方法を、所望の範囲内の圧力を維持するために使用できる。
【0036】
反応器内の反応物質の滞留時間は、好ましくは少なくとも約30秒間、より好ましくは少なくとも約90秒間である。滞留時間は、さまざまな方法、例えば、反応器の長さおよび/または幅または充填材を使用して制御することによるなどの方法で調節できる。滞留時間は、反応器の体積を入口流量で割ることによって求められる。十分な滞留時間の後、ニトロ化生成物は、反応器の出口を通して反応器から集められる。
【0037】
本発明の方法は、炭化水素供給原料/カルボン酸混合物のニトロ化をもたらす。すなわち、反応物である炭化水素の水素原子のうちの少なくとも1つとカルボン酸の水素原子のうちの少なくとも1つがニトロ基NOで置換された化合物が形成される(さらに、上記のように、カルボン酸の酸部分が開裂する)。各化合物上のさらなる水素原子が、必要に応じて、さらなるニトロ基で置換(例えばジニトロ化合物の形成をもたらす)されてもよい。結果として、当該方法で形成されるニトロ化炭化水素組成物はニトロ化炭化水素の混合物を含む。ニトロ化化合物の1種以上を生成物流から分離し、及び/又は公知の方法、例えば蒸留、浸透気化又は膜分離により精製してもよい。
【0038】
上記のように、本発明の方法で形成されたニトロ化炭化水素組成物は、ニトロ化化合物の混合物を含む。特に、当該組成物は、式I:
【0039】
【化4】

【0040】
(式中、Rは各々の化合物で独立して1〜12個の炭素原子を含む炭化水素基である)により表される2種以上の化合物を含む。炭化水素基の例としては、アルキル(直鎖状または分岐鎖状)、シクロアルキル(アルキル置換シクロアルキルを包含する);縮合シクロアルキル、アルキル置換アリール;及び縮合シクロアルキル−アリール(アルキル置換誘導体を包含する)が挙げられるが、これらに限定されない。炭化水素は、必要に応じて、1または2個以上のさらなるニトロ基で置換されていてもよい。
【0041】
いくつかの実施態様において、R基は直鎖又は分岐C-C12アルキルであることができ、または、R基はC−C12シクロアルキル(アルキル置換シクロアルキルを包含する)であることができる。いくつかの実施態様において、Rは、C−C10アルキル、あるいはC−Cアルキル、あるいはC−Cアルキル、あるいはC−Cシクロアルキルであり、各々が必要に応じて1または2個のさらなるニトロ基(式Iの化合物中にすでに存在しているニトロ基に加えて)により置換されていてもよい。
【0042】
式Iの化合物の例としては、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン類(例えば、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、2,2−ジニトロプロパン)、ニトロブタン類(例えば、1−ニトロブタン、2−ニトロブタン)、2−メチル−2−ニトロプロパン、ニトロペンタン類(例えば、1−ニトロペンタン、2−ニトロペンタン、3−ニトロペンタン)、ニトロヘキサン類(例えば、1−ニトロヘキサン、2−ニトロヘキサン、3−ニトロヘキサン)、ニトロシクロヘキサン、ニトロヘプタン類(例えば、1−ニトロヘプタン、2−ニトロヘプタン、3−ニトロヘプタン、4−ニトロヘプタン)、ニトロオクタン類(例えば、1−ニトロオクタン、2−ニトロオクタン、3−ニトロオクタン、4−ニトロオクタン)、ニトロノナン類(例えば、1−ニトロノナン、2−ニトロノナン、3−ニトロノナン、4−ニトロノナン、5−ニトロノナン)、およびニトロデカン類(例えば、1−ニトロデカン、2−ニトロデカン、3−ニトロデカン、4−ニトロデカン、5−ニトロデカン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
例示的な実施態様において、本発明の方法は、2−ニトロプロパンとニトロメタンの混合物を含むニトロ化炭化水素組成物を形成するために使用される。この例示的な実施態様の方法は、
(a)プロパンと、水、約10〜約50質量%の硝酸及び少なくとも約15質量%の酢酸を含む水性供給物とを含む反応混合物を形成する工程;及び
(b)前記混合物を、少なくとも約1000psi(68気圧)及び約180〜約325℃の温度で反応させてニトロ化炭化水素組成物を含む生成物流をもたらす工程、
を含む。ニトロ化炭化水素のうちの1又は2種以上を生成物流から分離してもよい。
【0044】
この実施態様において、ニトロ化炭化水素組成物は、少なくともニトロメタン及び2−ニトロプロパンを含み、また、ニトロエタン、1−ニトロプロパン、および/または2,2−ジニトロプロパンも含むことがある。この実施態様は、ニトロメタン及び/又は2−ニトロプロパン(両方とも非常に望ましいニトロ化炭化水素)に富んでいるニトロ化炭化水素組成物を形成するために特に有用である。先行技術の方法は、本発明によって示される選択率及び効率を有する単一のプロセスでこれらの材料を提供することはできなかった。実施例により示されるように、本実施態様の方法は、67モル%の選択率でニトロメタン及び28モル%の選択率で2−ニトロプロパンを含むニトロ化炭化水素組成物を提供することができる(例1Cを参照)。さらに、この方法は90%を超える効率(例えば酸化副生成物などの他の望ましくない副生成物と対照的に、ニトロ化炭化水素に消費された出発物質の転化率として求められる)を提供することができる。
【0045】
上記の例示的な実施態様のうちのいくつかの実施態様において、酢酸は、水性供給原料(水、硝酸及び酢酸)の少なくとも約25質量%、あるいは少なくとも約35質量%、あるいは少なくとも約40質量%、あるいは少なくとも約50質量%、あるいは少なくとも約55質量%を構成する。いくつかの実施態様において、酢酸は、約75質量%以下、あるいは約65質量%以下を構成する。
【0046】
上記の例示的な実施態様のうちのいくつかの実施態様において、プロパンと硝酸のモル比は約0.3:1〜約0.7:1であり、あるいは約0.4:1〜約0.6:1である。
【0047】
上記の例示的な実施態様のうちのいくつかの実施態様において、反応圧力は、少なくとも約1000psi(68気圧)、好ましくは少なくとも約1200psi(82気圧)である。さらに好ましくは、圧力は約1600psi(109気圧)以下、好ましくは約1500psi(102気圧)以下、より好ましくは約1400psi(95気圧)以下である。さらなる実施態様において、圧力は約1300psi(88気圧)〜1500psi(102気圧)である。
【0048】
上記の例示的な実施態様のうちのいくつかの実施態様において、反応温度は、少なくとも約215℃、少なくとも約220℃、少なくとも約230℃または少なくとも約240℃である。さらなる実施態様において、温度は、約290℃以下、約280℃以下、または約270℃以下である。他の実施態様において、温度は、約215〜280℃、又は約220〜270℃である。さらなる実施態様において、温度は約220〜250℃、あるいは約230〜240℃である。
【0049】
本発明の方法によって製造されたニトロ化炭化水素化合物は、例えば、医薬化合物の合成における出発物質、中和剤、硬化剤及び他の様々な用途を含む多種多様な用途で有用である。
【0050】
次の例は、本発明の例示であるが、その範囲を限定することを意図していない。特に断らない限り、本明細書中で使用される比率、百分率、部などは質量を基準とする。
【実施例】
【0051】
一般事項。本発明の種々の実施態様を、ラボスケール反応器を用いて実際に行った。反応器は、反応器の長手方向に沿って温度プロファイルを決定するために、反応器の中央に軸方向に配置されたサーモウェルを有するシングルチューブシェルアンドチューブ熱交換器である。反応器は、長さ46インチ(116.84cm)であり、OD(外径)1.25インチ(3.175cm)の304ステンレススチールであるシェルを有し、外径1/2インチ(1.27cm)(ID(内径)0.37インチ(0.9398cm))のタイプ2チタンプロセスチューブ及び外径1/8インチ(0.3175cm)(内径0.093インチ(0.23622cm))のタイプ2チタンサーモウェルを有していた。非常に細い移動可能な熱電対を温度プロファイル測定用のサーモウェルに挿入した。サーモウェルを取り外して、反応器に充填材を充填することができる。反応器は垂直に設置した。硝酸とプロパンの反応物流は、反応器に導入する前に、室温でSwagelok“T”で混合した。使用した熱油は、反応物に対して向流で反応器のシェルに供給した。反応器排出物は、冷却材として水道水を使用してシェルアンドチューブ熱交換器内で冷却した。次に、排出物を、集めた気体及び液体により減圧し、測定し、分析した。
【0052】
以下の例では、気体、水性物、ニトロアルカン油及びスクラバー液についてGC/MS、含水量についてカール・フィッシャー(Karl Fisher)滴定、強/弱酸の定量について電位差滴定、及び弱酸の同定及び定量についてHPLCにより、ニトロ化反応の物質収支を求めた。
下記の表に示す指標(metrics)は、次のように計算した:
硝酸転化率(%)=100×(入った硝酸のg数−出た硝酸のg数)/入った硝酸のg数;
炭化水素供給原料の転化率(%)=100×(入った炭化水素供給原料のg数−出た炭化水素供給原料のg数)/入った炭化水素供給原料のg数;
消費された炭化水素供給原料のモル数=(入った炭化水素供給原料のg数−出た炭化水素供給原料のg数)/炭化水素供給原料のモル質量;
消費されたカルボン酸のモル数=(入ったカルボン酸のg数−出たカルボン酸のg数)/カルボン酸のモル質量;
ニトロ化炭化水素のモル%転化率=形成されたニトロ化炭化水素の総モル数/(消費された炭化水素供給原料のモル数+消費されたカルボン酸のモル数);
形成されたニトロ化炭化水素の総モル数(プロパンの例で)=ニトロメタンのモル数+ニトロエタンのモル数+ニトロプロパンのモル数+ジニトロプロパンのモル数。
ニトロメタンへのモル%選択率=ニトロメタンのモル数/形成されたニトロ化炭化水素の総モル数;
ニトロエタンへのモル%選択率=ニトロエタンのモル数/形成されたニトロ化炭化水素の総モル数;
1−ニトロプロパンへのモル%選択率=1−ニトロプロパンのモル数/形成されたニトロ化炭化水素の総モル数;
2−ニトロプロパンへのモル%選択率=2−ニトロプロパンのモル数/形成されたニトロ化炭化水素の総モル数;
カルボン酸濃度=入ったカルボン酸のg数/(入ったカルボン酸のg数+入った硝酸のg数+入った水のg数)。
【0053】
例1
プロパン、酢酸及び組み合わせのニトロ化
この例では、プロパンのみのニトロ化反応(比較例)、酢酸のみのニトロ化反応(比較例)、プロパンと酢酸の組み合わせのニトロ化反応(本発明例)を比較する。この例は、本発明の方法を使用して、ニトロ化炭化水素生成物への出発物質の転化率が増加することに加えて、ニトロメタンへの選択率が向上することを示している。転化率の増加と選択率の向上の両方が、比較例の性能に基づいて予想されるものよりも高い。
【0054】
比較例1A:プロパンのニトロ化
以下のプロセス条件で上記反応器を使用し、ニトロ化剤として希釈水性硝酸を使用してプロパンをニトロ化した:反応器圧力1400psi、熱油温度235℃、プロパンと硝酸のモル比1.35:1、硝酸強度(水中)29.8質量%、及び滞留時間120秒間(反応器の体積を室温及び1400psiでの供給原料の流速で割った値に基づく)。物質収支の結果を表1に示す。性能指標を下記表4で比較する。
【0055】
【表1】

【0056】
比較例1B:酢酸のニトロ化
以下のプロセス条件で酢酸をニトロ化した:反応器圧力1400psi、熱油温度235℃、酢酸と硝酸のモル比2:1、硝酸強度(水中)30質量%、及び滞留時間180秒間。水性供給原料組成物は、硝酸30質量%、酢酸57.1質量%、及び水12.9質量%であった。物質収支の結果を表2に示す。性能指標を下記表4で比較する。
【0057】
【表2】

【0058】
発明例1C:プロパンと酢酸のニトロ化
プロセス条件:反応器圧力1700psig、熱油温度235℃、プロパンと硝酸のモル比0.47:1、反応器の体積を室温及び1700psigでの供給原料の体積で割った値に基づく滞留時間90秒間、硝酸強度30質量%。水性供給原料組成物は、硝酸30質量%、酢酸57.1質量%、及び水12.9質量%を含んでいた。物質収支の結果を表3に示す。性能指標を下記表4で比較する。
【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
表4から判るように、プロパンのみのニトロ化は、ニトロ化炭化水素へのモル%転化率が57%であり、ニトロメタンへの選択率がわずか2.3%(比較例1A)であった。酢酸のみのニトロ化は、予想通りニトロメタンを唯一のニトロ化アルカンとしてもたらしたけれども、たった30%の非常に低いモル転化率を示した(比較例1B)。対照的に、本発明の実施例1Cによるニトロ化炭化水素へのモル転化率は92%であり、プロパンのみ又は酢酸のみの性能に基づいて予想されるモル転化率よりも高かった。さらに、優れた転化率(92%)と相まって、67%のニトロメタンの選択率は、単独で作用する酢酸及びプロパンの性能から予想されるよりも高い効率でニトロメタンの製造を可能にする。また、表4から明らかなように、硝酸及びプロパンの転化率(%)は、発明例1Cで優れている。
【0062】
例2
ニトロメタン選択率に及ぼす反応温度の効果
この例は、ニトロ化炭化水素選択率に及ぼす反応温度の効果を示す。以下の条件を使用して、様々な反応温度で3回の実験を行った:プロパンと硝酸のモル比1.35:1、硝酸濃度30質量%、酢酸濃度57質量%、圧力1400psig、及び滞留時間2分間。試験した温度(熱油温度)は180℃、200℃及び235℃である。結果を表5に示す。
表5に実証されているように、ニトロメタン選択率は、反応温度の上昇につれて増加することが観測されたが、2−ニトロプロパン選択率は3つの温度全てで実質的に一定に保たれた。
【0063】
【表5】

【0064】
例3
酢酸濃度の効果
この例は、ニトロ化炭化水素選択率に及ぼす酢酸濃度の効果を示す。以下の条件を使用して、様々な反応温度で3回の実験を行った:プロパン:硝酸モル比1.35:1、硝酸濃度30質量%、圧力1400psig、滞留時間2分間、熱油温度235℃。酢酸濃度は20質量%、40質量%及び57質量%であった。結果を表6に示す。
表6に実証されているように、ニトロメタン選択率は、酢酸濃度の増加につれて増加することが観測されたが、2−ニトロプロパン選択率は実質的に一定に保たれた。
【0065】
【表6】

【0066】
例4
ニトロメタン選択率に及ぼすプロパンと硝酸のモル比の効果
この実施例は、ニトロメタン選択率に及ぼすプロパンと硝酸のモル比の効果を示す。プロセス条件は以下のとおりである:酢酸濃度57質量%、硝酸濃度30質量%、圧力1400〜1700psig、滞留時間90〜120秒間、熱油温度235℃。プロパンと硝酸のモル比は約0.4:1から約1.4:1までで変えた。結果を図1に示す。図1から判るように、プロパンと硝酸の比を変えることによりニトロメタン選択率を容易に変化させることができる。本実施例では、ニトロメタン選択率は質量%で示され、次のように計算した:
ニトロメタン選択率(%)=100×ニトロメタンのg数/形成されたニトロ化炭化水素のg数。
【0067】
例5
プロパン/プロピオン酸のニトロ化
この実施例は、プロピオン酸/プロパン供給原料のニトロ化を通してのニトロ化炭化水素組成物におけるニトロエタン選択率の増加を示す。以下のプロセス条件を使用した:反応圧力1400psig、熱油温度235℃;プロパンと硝酸のモル比1.35:1、硝酸強度30質量%。水性供給原料組成物は30質量%の硝酸、57質量%のプロピオン酸、及び13質量%の水を含んでいた。この反応についての物質収支の結果を表7に示す。
【0068】
【表7】

【0069】
上記反応の様々な性能指標を表8に示す。
【0070】
【表8】

【0071】
例5の結果は、プロピオン酸を共反応物として使用した場合にニトロエタンの選択率が増加することを示す。
【0072】
例6
プロパン/n−酪酸のニトロ化
この例は、n−酪酸/プロパン供給原料のニトロ化を通してのニトロ化炭化水素組成物における1−ニトロプロパン選択率の増加を示す。以下のプロセス条件を使用した:反応圧力1400psig、熱油温度220℃;プロパンと硝酸のモル比0.55:1、硝酸強度30質量%。滞留時間120秒間。水性供給原料組成物は30質量%の硝酸、57.1質量%のn−酪酸、及び12.9質量%の水を含んでいた。この反応についての物質収支の結果を表9に示す。
【0073】
【表9】

【0074】
上記反応の様々な性能指標を表10に示す。
【0075】
【表10】

【0076】
例6の結果は、n−酪酸を共反応物として使用した場合に1−ニトロプロパンの選択率が増加することを示す。
【0077】
本発明をその好ましい実施態様により上で説明したが、この開示の精神及び範囲内で本発明に変更を加えることができる。本願は、従って、本明細書に開示した一般原理を使用して本発明のいかなる変化、使用又は改変も包含することを意図する。さらに、本願は、本発明が属する技術分野における公知又は慣例の様式の範囲内に入る本開示から外れるが以下の特許請求の範囲の規定の範囲内に入る変更を包含することを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

(式中、Rは、各化合物において独立に、任意選択的に1又は2個のさらなるNO基により置換されていてもよいC−C12炭化水素基である)
により表される2又は3種以上の化合物を含むニトロ化炭化水素組成物の製造方法であって、
(a)炭化水素供給原料及び水性供給物を含む反応混合物を形成する工程、ここで、前記水性供給物は、水、約10〜約50質量%の硝酸及び少なくとも約15質量%の式II:
【化2】

(式中、RはC−C12アルキル又はC−C12シクロアルキルである)
により表されるカルボン酸を含む;及び
(b)前記混合物を反応圧力及び反応温度で反応させて前記ニトロ化炭化水素組成物を含む生成物流をもたらす工程、
を含む、ニトロ化炭化水素組成物の製造方法。
【請求項2】
前記生成物流がさらにカルボン酸副生成物を含み、前記カルボン酸副生成物の少なくとも一部がリサイクルされ、工程(a)のカルボン酸として使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水性供給物が約15〜40質量%の硝酸を含む、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記水性供給物が式IIにより表されるカルボン酸を少なくとも約40質量%含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記炭化水素供給原料がC−C12アルカンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記炭化水素供給原料がプロパンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式IIのカルボン酸が酢酸である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ニトロ化炭化水素組成物がニトロメタン及び2−ニトロプロパンを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応がダウンフロー構成の反応器内で行われる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(a)プロパンと、水、約10〜約50質量%の硝酸及び少なくとも約15質量%の酢酸を含む水性供給物とを含む反応混合物を形成する工程;及び
(b)前記混合物を、少なくとも約1000psi(68atm)及び約180〜約325℃の温度で反応させてニトロ化炭化水素組成物を含む生成物流をもたらす工程、
を含む、ニトロ化炭化水素組成物の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−508368(P2013−508368A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535225(P2012−535225)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/051619
【国際公開番号】WO2011/049745
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(591252611)アンガス ケミカル カンパニー (32)
【Fターム(参考)】