説明

ニューキノロン系抗菌薬及び乳剤性基剤を含む医薬組成物

【課題】耳腔、鼻腔、口腔などに局所投与可能で、投与部位に長時間にわたり保持され、かつ良好な薬物放出性を有する新規な医薬組成物を提供する。
【解決手段】
乳剤性基剤にニューキノロン系抗菌薬を配合した医薬組成物が投与部位に長時間滞留し、かつ良好な薬物放出を示すことを新たに見出した。これらの医薬組成物は、局所における感染症治療、特に副鼻腔炎治療に有用であり、個体間格差の少ない薬効を期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューキノロン系抗菌薬及び乳剤性基剤を含む新規な医薬組成物に関する。さらには、該医薬組成物からなる局所治療剤、好ましくは副鼻腔炎治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
局所投与用の製剤として、軟膏剤、ゲル製剤、液剤等(特許文献1、非特許文献1〜2)がある。局所投与は患部における薬物を高濃度に維持することができ、優れた治療効果が期待できる上、さらに全身投与時に懸念される副作用を回避することができるという利点がある。実際、耳鼻科領域では、耳腔内、鼻腔内に抗菌薬や抗生物質を点耳やネブライザーを使用して局所投与することにより、中耳炎や副鼻腔炎等に効果を示し、一方、副作用は認められていないことが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、液剤を点耳やネブライザーにより投与した場合、薬液が投与部位から流出して、持続的な効果を期待することができなくなるほか、その効果は投与部位の状態に大きく左右されるという問題点が知られている。また、鼻腔や副鼻腔内では繊毛運動などの異物排出運動があり、製剤が投与部位から排出されてしまうという懸念がある。
【0004】
実際に、レボフロキサシンゲル徐放製剤を中耳細菌感染モデル動物に投与して、抗菌効果を検討したところ、製剤が十分に局所に滞留した個体では著明な殺菌効果が認められたものの、局所滞留が十分ではない個体では殺菌効果が認められなかった。すなわちゲル徐放製剤の滞留時間に起因した個体間の効果のバラつきが指摘されている(非特許文献2)
これら問題点を解決するために、さらに良好な局所滞留性及び薬剤放出性を有する製剤が望まれている。
【特許文献1】特開2006−176461号公報
【非特許文献1】耳鼻と臨床、1990年、第36巻、補冊3号、p.523−536
【非特許文献2】Drug Delivery Sysytem、2006年,21巻、5号、p.523−528
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耳腔、鼻腔、口腔などに局所投与可能で、投与部位に長時間にわたり保持されるニューキノロン系抗菌薬及び乳剤性基剤を含む新規な医薬組成物、さらには、該医薬組成物からなる局所治療剤、好ましくは副鼻腔炎治療剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、乳剤性基剤が耳腔や鼻腔などの粘膜において十分な付着性、局所滞留性を有することを見出した。さらに、上記基剤にニューキノロン系抗菌薬を配合した医薬組成物が投与部位に長時間滞留し、かつ良好な薬物放出を示すことを新たに見出したことから、これらの医薬組成物が局所における感染症治療、特に副鼻腔炎治療に有用であり、個体間格差の少ない薬効を期待できると考えた。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)ニューキノロン系抗菌薬及び乳剤性基剤からなる医薬組成物、
(2)ニューキノロン系抗菌薬がレボフロキサシン、オフロキサシン又はシタフロキサシンのいずれか1である上記(1)に記載の医薬組成物、
(3)乳剤性基剤が油脂性物質、界面活性剤、保湿剤、安定化剤及び水を含む乳剤性基剤である上記(1)又は(2)のいずれか1に記載の医薬組成物、
(4)乳剤性基剤が(a)白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、スクワラン、セタノール、サラシミツロウ、ステアリルアルコール及びステアリン酸からなる群より選ばれる1又は2以上の組み合わせの成分、(b)モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ステアリン酸ポリオキシル40、スルビタンセスキオレイン酸エステル及びラウルマクロゴールからなる群より選ばれる1又は2以上の組み合わせの成分、(c)グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール液及び1,3−ブチレングリコールからなる群より選ばれる1又は2以上の組み合わせの成分、(d)パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル及びパラオキシ安息香酸ブチルからなる群より選ばれる1又は2以上の組み合わせの成分、並びに(e)水を含む乳剤性基剤である上記(1)又は(2)のいずれか1に記載の医薬組成物、
(5)乳剤性基剤がスクワレン、セタノール、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンセチルエーテル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル及び水を含む乳剤性基剤である上記(1)又は(2)のいずれか1に記載の医薬組成物、
(6)乳剤性基剤が白色ワセリン、セタノール、サラシミツロウ、スルビタンセスキオレイン酸エステル、ラウロマクロゴール、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル及び水を含む乳剤性基剤である上記(1)又は(2)のいずれか1に記載の医薬組成物、
(7)上記(3)から(6)に記載の乳剤性基剤にさらにセルロース誘導体、ポリビニル系高分子化合物及び多糖類からなる群より選ばれる1種又は2種以上の組み合わせの成分を含む上記(3)から(6)のいずれか1に記載の医薬組成物、
(8)上記(3)から(6)に記載の乳剤性基剤中にさらにキサンタンガムを含む上記(3)から(6)のいずれか1に記載の医薬組成物、
(9)上記(1)から(8)のいずれか1に記載の医薬組成物からなる副鼻腔炎治療剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の医薬組成物は、後記試験例からも明らかなように、良好な付着性、滞留性及び薬物溶出性を有するため、鼻腔、耳腔及び口腔などの粘膜に投与しても、個体間における効果のバラつきなく、局所における感染を治療できると考えられる。
【0009】
また、本発明の医薬組成物は半固形製剤であるため、後述の手法により、複雑な構造を有する副鼻腔へも容易に投与可能である。
【0010】
以上のことから、本発明の医薬組成物は耳腔、鼻腔及び口腔を含む局所の感染症治療に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にかかるニューキノロン系抗菌薬とは合成抗菌薬の系列の一つであり、DNAジャイレースを阻害することにより殺菌的に作用する薬剤である。本発明にかかるニューキノロン系抗菌薬は特に限定されないが、国内で承認されている薬剤としては、レボフロキサシン(商品名:クラビット)、オフロキサシン(商品名:タリビッド)、シタフロキサシン(商品名:グレースビット)、シプロフロキサシン、ガチフロキサシンなどを例示できる。
【0012】
本発明にかかるニューキノロン系抗菌薬として、好適にはレボフロキサシン、オフロキサシン又はシタフロキサシンであり、特に好適にはレボフロキサシンである。
【0013】
本発明にかかる乳剤性基剤とは、油脂性の物質と水を界面活性剤の存在で乳化させて製した基剤である。乳化状態により、水中油型(O/W型)、油中水型(W/O型)がある。本発明にかかる乳剤性基剤は、良好な局所滞留性及び薬物放出性を有するのであれば、水中油型(O/W型)又は油中水型(W/O型)のいずれであってもよい。所望により、乳剤性基剤中に、保湿剤、保存剤、付着性高分子を添加したものも本発明に含まれる。
【0014】
油脂性の物質としては、通常、乳剤性基剤に使用されるものであれば特に限定されないが、白色ワセリン、パラフィン、黄色ワセリン、流動パラフィン、スクワラン、セタノール、セレシン等の炭化水素;サラシミツロウ、ミツロウ、ラノリン等のロウ;アボカド油、オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、ダイズ油、ヒマシ油、マカデミアナッツ油、ミンク油、卵黄油、牛脂、豚油等の油脂;ラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸等の高級脂肪酸;ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ラノリンアルコール等の脂肪酸高級アルコールを挙げることができる。
【0015】
界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン界面活性剤を挙げることができる。非イオン系界面活性剤はその構造により、エステル型、エーテル型、エステル・エーテル型及びその他に分類される。本発明の乳剤性基剤に使用する界面活性剤としては、通常、乳剤性基剤に使用されるものであれば特に限定されないが、安定性の面から、非イオン性界面活性剤が好ましい。好ましくは、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ステアリン酸ポリオキシル40、スルビタンセスキオレイン酸エステル、ラウルマクロゴール、ミリスチン酸イソプロピル及びパルミチン酸イソプロピルであり、特に好ましい例として、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ステアリン酸ポリオキシル40、スルビタンセスキオレイン酸エステル及びラウルマクロゴールを挙げることができる。
【0016】
保湿剤としては、通常、乳剤性基剤に使用されるものであれば特に限定されないが、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール液及び1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、dl−ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム及びヒアルロン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0017】
保存剤としては、通常、乳剤性基剤に使用されるものであれば特に限定されないが、パラオキシ安息香酸エステル類(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル及びパラオキシ安息香酸ブチル)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸、ホウ酸等を例示でき、好ましくはパラオキシ安息香酸エステル類であり、特に好ましくはパラオキシ安息香酸エチル及び/又はパラオキシ安息香酸プロピルである。
【0018】
付着性高分子としては、局所滞留性を向上させ、かつ良好な薬物放出を有するものであれば特に限定されないが、親水性の付着性高分子が好ましく、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体、アクリル酸エステルと酢酸ビニルとの共重合体等のポリビニル系高分子化合物、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム等のヒサルロン酸の塩、コンドロイチン硫酸ナトリウム等のコンドロイチン硫酸の塩等の多糖類、ポリエチレンオキサイド、キサンタンガム、カラギーナン、グァーガム、アラビアゴム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0019】
本発明の医薬組成物においては、キサンタンガムを配合した製剤が良好な付着性及び局所滞留性を示し、好適である。さらに、キサンタンガムの添加量を調節することにより、局所滞留期間及び薬物放出を調節することが可能である。キサンタンガムの添加量は好ましくは0.5〜5重量%であり、さらに好ましくは1〜5重量%である。
【0020】
本発明の一態様であるキサンタンガムを含む本発明の医薬組成物は、粘膜などの局所に投与された場合、キサンタンガムが周囲の水分を吸収して膨潤するため、製剤が粘膜に付着する表面積が増大して、薬物放出を促進すると考えられ、局所投与製剤として好適である。
【0021】
水としては医薬品に使用できる品質であれば特に限定されないが、精製水が好ましい。
【0022】
本発明の医薬組成物の乳剤性基剤は、油脂性物質を5〜30重量%、界面活性剤を5〜20重量%、保湿剤を1〜10重量%、保存剤を0.01〜0.1重量%含んでいることが好ましい。
【0023】
さらに好ましくは、油脂性物質が5〜15重量%、界面活性剤が8〜15重量%、保湿剤が2〜10重量%、保存剤が0.02〜0.08重量%含んでいる乳剤性基剤である。
【0024】
本発明のニューキノロン系抗菌薬の含有量は、薬剤の抗菌力を勘案して、適宜選択すればよいが、0.1〜5.0重量%が好ましく、さらに好ましくは0.2〜3.0重量%であり、特に好ましくは0.5〜1.0重量%である。
【0025】
本発明に特に好適な乳剤性基剤として、スクワレン、セタノール、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンセチルエーテル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル及び水を含む水中油型乳剤性基剤を例示できる。
【0026】
本発明の一態様であるニューキノロン系抗菌薬及び水中油型乳剤性基剤からなる医薬組成物の特に好ましい例としては、後記実施例1及び2に示した組成の製剤を挙げることができる。これらの製剤は、ゲル徐放性製剤より強い付着性を有し(試験例1)、さらに同等の薬物溶出性を示すことから(試験例2)、個体差の少ない優れた薬効を有する。
【0027】
さらに、本発明に特に好適な乳剤性基剤として、白色ワセリン、セタノール、サラシミツロウ、スルビタンセスキオレイン酸エステル、ラウロマクロゴール、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル及び水を含む油中水型乳剤性基剤を例示できる。
【0028】
本発明の一態様であるニューキノロン系抗菌薬及び油中水型乳剤性基剤からなる医薬組成物の特に好ましい例としては、後記実施例3に示した組成の製剤を挙げることができる。
【0029】
本発明の医薬組成物の一般的な製法は以下の通りである。油脂性物質及び界面活性剤を水浴上で加熱溶解、攪拌し、70〜80℃、好ましくは70〜75℃に保ち油相とする。有効成分であるニューキノロン系抗菌薬、所望により、保存剤、保湿剤及び付着性高分子等を精製水に添加した水相成分を75〜80℃で加温溶解する。前記油相成分に前記水相成分を加え、攪拌して乳液とした後に、冷却して固化するまで攪拌することにより、本発明の医薬組成物を得ることができる。
【0030】
本発明の医薬組成物は半固形製剤であるため、皮膚などの体表面、口腔内、口唇、眼、鼻腔、膣などの粘膜組織に塗布することにより投与可能である。また、本医薬組成物を副鼻腔へ投与する場合、本医薬組成物をシリンジに充填し、シリンジ先端にチューブを装着、チューブ先端を鼻腔から副鼻腔に導入して、シリンジ内の本医薬組成物を注入することにより投与することができる。
【0031】
本発明の医薬組成物は、ニューキノロン系抗菌薬を含み外用に好適であるため、表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、ざ瘡(化膿性炎症を伴うもの)、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肛門周囲膿瘍、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、涙嚢炎、麦粒腫、瞼板腺炎、外耳炎、中耳炎、副鼻腔炎、化膿性唾液腺炎、歯周組織炎、歯冠周囲炎等の感染症治療に使用できる。
【0032】
本発明の医薬組成物の患者への投与量は、患者の性別、年齢、症状、薬物の種類、投与部位、投与方法、投与回数、投与時期等により適宜検討を行い、適当な投与量を決めればよい。
【0033】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
(実施例1)キサンタンガム非添加クリーム剤
成分 (g)
レボフロキサシン1/2水和物 1.02
(レボフロキサシンとして 1.00)
スクアラン 9.00
セタノール 3.00
ステアリルアルコール 2.00
モノステアリン酸グリセリン(P−100) 5.00
ポリオキシエチレンセチルエーテル(BC−7) 1.00
1,3−ブチレングリコール 5.00
パラオキシ安息香酸エチル 0.03
パラオキシ安息香酸プロピル 0.02
ポリオキシエチレンセチルエーテル(BC−20) 4.00
精製水 70.0

スクアランにセタノール、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリン及びポリオキシエチレンセチルエーテル(BC−7)を添加し、75℃まで加温して融解させた(油相)。別途、1,3−ブチレングリコールにポリオキシエチレンセチルエーテル(BC−20)、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピルを添加して80℃に加温・融解させた後、精製水及びレボフロキサシンを加え、80℃に加温した(水相)。油相に水相を添加し、3分間強く攪拌しながら乳化させた。加温をやめ、室温になるまで攪拌を続けキサンタンガム非添加レボフロキサシン含有クリーム剤を得た。
【0035】
(実施例2)キサンタンガム添加クリーム剤
成分 (g)
レボフロキサシン1/2水和物 1.02
(レボフロキサシンとして 1.00)
スクアラン 9.00
セタノール 3.00
ステアリルアルコール 2.00
モノステアリン酸グリセリン(P−100) 5.00
ポリオキシエチレンセチルエーテル(BC−7) 1.00
1,3−ブチレングリコール 5.00
パラオキシ安息香酸エチル 0.03
パラオキシ安息香酸プロピル 0.02
ポリオキシエチレンセチルエーテル(BC−20) 4.00
キサンタンガム(エコーガム−T) 1.00
精製水 69.0

スクアランにセタノール、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリン及びポリオキシエチレンセチルエーテル(BC−7)を添加し、75℃まで加温し融解させた(油相)。別途、1,3−ブチレングリコールにポリオキシエチレンセチルエーテル(BC−20)、パラオキシ安息香酸エチル及びパラオキシ安息香酸プロピルを添加し80℃に加温・融解させた後、精製水及び主薬を加え、80℃に加温した(水相)。油相に水相を添加し、3分間強く攪拌しながら乳化させた。加温をやめ、付着性高分子を添加後、室温になるまで攪拌を続け、キサンタンガム1%添加レボフロキサシン含有クリーム剤を得た。同様にして、キサンタンガムを各々0.5重量%、2重量%、5重量%添加したクリーム剤を調製し、試験に供した。
【0036】
(実施例3)吸水軟膏製剤
成分 (g)
レボフロキサシン1/2水和物 1.02
(レボフロキサシンとして 1.00)
吸水軟膏(日本薬局方) 99.0
*:吸水軟膏の処方(100g)
成分 (g)
白色ワセリン 40.0
セタノール 10.0
サラシミツロウ 5.0
スルビタンセスキオレイン酸エステル 5.0
ラウロマクロゴール 0.5
パラオキシ安息香酸エチル 0.1
パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
精製水 39.3

吸水軟膏を80℃に加温して融解させたものにレボフロキサシンを添加し、分散させた後、攪拌しながら室温になるまで冷却し、吸水軟膏製剤を得た。
【0037】
(実施例4)白色ワセリン製剤
成分 (g)
レボフロキサシン1/2水和物 1.02
(レボフロキサシンとして 1.00)
白色ワセリン(日本薬局方) 99.0

白色ワセリンを80℃に加温して融解させたものにレボフロキサシンを添加し、分散させた後、攪拌しながら室温になるまで冷却して白色ワセリン製剤とした。
【0038】
(実施例5)ゲル徐放製剤
成分 (g)
レボフロキサシン1/2水和物 1.02
(レボフロキサシンとして 1.00)
ヒドロキシプロピルセルロース 69.0
マクロゴール6000 15.0
タルク 6.00

流動層造粒機(マルチプレックス MP−01型;株式会社パウレック製)にレボフロキサシン、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール6000及びタルクを入れ、吸気温度を85℃に設定し、加熱流動させながら造粒した後冷却し、16号ふるいを用いて篩過して造粒物を得た。
【0039】
(実施例6)ポリエチレンオキサイド添加ゲル徐放製剤
成分 (g)
レボフロキサシン1/2水和物 1.02
(レボフロキサシンとして 1.00)
ヒドロキシプロピルセルロース 66.0
ポリエチレンオキサイド(PEO) 3.00
マクロゴール6000 15.0
タルク 6.00

流動層造粒機(マルチプレックス MP−01型;株式会社パウレック製)にレボフロキサシン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレンオキサイド、マクロゴール6000及びタルクを入れ、吸気温度を85℃に設定して、加熱流動させながら造粒した後冷却し、16号ふるいを用いて篩過して造粒物を得た。同様にして、ポリエチレンオキサイドを各々10重量%、30重量%添加したレボフロキサシン含有ゲル徐放性製剤を調製し、試験に供した。
【0040】
(試験例1)in vitro付着性評価
各製剤のin vitro付着性を以下の手順にして試験した。
1.ゲルプレートの作製
寒天及びムチンをそれぞれ1g及び2g量り取り、100mLのリン酸塩緩衝液(pH6.0)を加え、加温溶解させた(調製量は適宜変更した)。この溶液をシャーレ(10cm×14cmの角形タイプ)にキャスティングし、冷蔵庫にて3時間保存した。
2.試験液調製
リン酸塩緩衝液: リン酸二水素カリウム試液(pH6.0 緩衝液用0.2mol/L)50mLに水酸化ナトリウム液(0.2mol/L)5.6mL及び水を加えて200mLとした。
リン酸二水素カリウム試液:リン酸二水素カリウム(0.2mol/L)27.22gを水に溶かし、1000mLとした。
【0041】
3.評価方法
実施例1、2、5及び6において調製した各種製剤0.1mLを寒天/ムチンプレートの中央に置き、2分間放置後、寒天/ムチンプレートを崩壊試験機にセットした。37℃に加温したリン酸緩衝液(pH6.0)中にゲルプレートを浸し、崩壊試験と同様に振とうを開始した。
【0042】
製剤が寒天/ムチンプレートから剥離した時間をResidence timeとして評価を行った。結果を図1及び図2に示す。クリーム剤が良好な付着性を有し、キサンタンガムの添加により、さらに優れた付着性を示すことが確認された。
【0043】
(試験例2)in vitro溶出性評価
実施例1、2、3、5及び6で得られた各製剤を、日本薬局方の溶出試験法に準じて各々試験した。エンハンサーセルに各製剤を100mgのせ、その上に予め適当な大きさに切った透析膜(Seamless Cellulose Tubing; Viskase Companies,Inc.製)をかぶせ、セルをセットした。全自動溶出試験器(NTR−6100A,富山産業製)にエンハンサーセル(図3)を入れ、pH6.0リン酸塩緩衝液中、37℃において、パドル法20回転にて試験を実施し、経時的に試験液中の薬物濃度をUV法にて測定し(セル長;10mm、測定波長;287nm)、溶出量を求めた。結果を図4に示した。クリーム剤は、ゲル徐放性製剤と同等以上の溶出性を示し、キサンタンガム添加クリーム剤は迅速な溶出が認められた。
【0044】
(試験例3)in vivo滞留性評価
以下の要領にて手術を実施し、チンチラの乳突峰巣内の各製剤の付着状態をMRI撮像により確認した。
1.エーテル麻酔下、乳突峰巣周辺の除毛を行った。
2.乳突峰巣のコブの頂点付近に、メスで縦方向に骨が見えるまで7〜8mmの切込みを入れた。
3.ピンセットの先端などのとがったもので骨に穴をあけ、眼科バサミなどで穴を広げた。
4.実施例1から6の各製剤をレボフロキサシンの投与量が1mg/headとなるように各々投与した。
5.切開部を縫合し、手術を終了した。
6.ネンブタールを腹腔内に投与し、チンチラを撮像用台に固定してMRI撮像(MRI測定機:BIOSPEC 47/40、BRUKER社製)を行なった。
【0045】
クリーム剤は7日後においても、良好な滞留が認められ、さらにキサンタンガムを添加したクリーム剤は、広範囲の滞留が確認された。測定結果の一部を図5に示した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
前記実施例から明らかなように、本発明の医薬組成物は局所滞留性及び薬物放出性に優れ、局所投与製剤として有用であり、該医薬組成物は副鼻腔炎治療用医薬組成物として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】:ゲル徐放製剤のin vitro付着性評価結果である。横軸は各製剤のポリエチレンオキサイド(PEO)添加量を示している。PEO添加量による付着性の変化は微弱であった。
【図2】:クリーム剤のin vitro付着性評価結果である。横軸は各製剤のキサンタンガム(XG)添加量を示している。XGを0.5〜5重量%添加することにより良好な付着性を示すことが確認された。
【図3】:試験例1において使用したエンハンサーセルを含む試験系の図面である。
【図4】:試験例1の溶出性評価の結果を示した図である。クリーム剤XG0%(実施例1)及びクリーム剤XG5%(実施例2)は、用時調製ゲル(図中の■、□)と同等の溶出性を示した。また吸水軟膏製剤は、徐々に溶出することが確認された。
【図5】:投与初日、1日後及び7日後における各製剤の付着状態を示した写真である。左列はPEO3%添加ゲル徐放性製剤、中央はクリーム剤、右列は吸水軟膏製剤及び白色ワセリン製剤である。中央列クリーム剤の写真中、左側矢印はXG5重量%添加クリーム剤、右側矢印はXG非添加クリーム剤である。右列写真中、左側矢印は吸水軟膏製剤、右側矢印は白色ワセリン製剤である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューキノロン系抗菌薬及び乳剤性基剤からなる医薬組成物。
【請求項2】
ニューキノロン系抗菌薬がレボフロキサシン、オフロキサシン又はシタフロキサシンのいずれか1である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
乳剤性基剤が油脂性物質、界面活性剤、保湿剤、安定化剤及び水を含む乳剤性基剤である請求項1又は2のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
乳剤性基剤が(a)白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、スクワラン、セタノール、サラシミツロウ、ステアリルアルコール及びステアリン酸からなる群より選ばれる1又は2以上の組み合わせの成分、(b)モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ステアリン酸ポリオキシル40、セスキオレイン酸ソルビタン及びラウルマクロゴールからなる群より選ばれる1又は2以上の組み合わせの成分、(c)グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール液及び1,3−ブチレングリコールからなる群より選ばれる1又は2以上の組み合わせの成分、(d)パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル及びパラオキシ安息香酸ブチルからなる群より選ばれる1又は2以上の組み合わせの成分、並びに(e)水を含む乳剤性基剤である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
乳剤性基剤がスクワレン、セタノール、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンセチルエーテル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル及び水を含む乳剤性基剤である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
乳剤性基剤が白色ワセリン、セタノール、サラシミツロウ、スルビタンセスキオレイン酸エステル、ラウロマクロゴール、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル及び水を含む乳剤性基剤である、請求項1又は2のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項3から6に記載の乳剤性基剤にさらにセルロース誘導体、ポリビニル系高分子化合物及び多糖類からなる群より選ばれる1種又は2種以上の組み合わせの成分を含む、請求項3から6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項3から6に記載の乳剤性基剤中にさらにキサンタンガムを含む、請求項3から6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の医薬組成物からなる副鼻腔炎治療剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−196934(P2009−196934A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40431(P2008−40431)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】