説明

ニューロン損傷診断のためのマイクロRNA、自己抗体およびタンパク質マーカー

外傷性脳損傷、多臓器損傷、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病および慢性外傷性脳症(CTE)を含めた神経学的損傷または状態の重症度の検出、診断または判定のための工程および材料が提供される。工程および材料は、全血、血清、血漿またはCSFのような生物試料中で検出または測定されるバイオマーカーを含む。上記バイオマーカーは、タウおよびGFAPタンパク質、これらのタンパク質分解産物、脳に特異的なまたは脳に多く存在するマイクロRNA、ならびに脳に特異的なまたは脳に多く存在するタンパク質に対する自己抗体を含む。工程および材料は、急性、亜急性または慢性脳損傷の有無を検出すること、および脳損傷の転帰を予測することに使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年9月14日に出願された米国特許仮出願第61/242,123号、2010年6月14日に出願された同第61/354,504号、2010年6月17日に出願された同第61/355,779号および2010年9月3日に出願された同第61/380,158号に対する優先権を主張するものであり、上記各明細書はその内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病および慢性外傷性脳損傷(CTE)を含めた外傷性脳損傷(TBI)またはその他の神経学的状態のマーカーの同定に関する。本発明のマーカーには、中枢神経系の機能および治療に関与し得る自己抗体、DNA、RNAまたはmiRNAが含まれる。また本発明は、脳損傷におけるバイオマーカーの検出方法ならびに脳損傷の傾向または進行の処置および監視のための診断法を含めた、診断および治療用の材料および方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
臨床神経学の分野では、最初の傷害が迅速に診断され、また進行性障害の場合には、中枢神経系組織へのストレスが事前に選択された閾値に達する前に診断されさえすれば、最初の傷害に対する生理的反応に関連した中枢神経系組織の二次的損傷を低減できたはずだという認識に不満が抱かれている。一般的傷害と共に外傷、虚血および神経毒性化学物質による傷害はすべて、脳損傷の可能性を示すものである。こうした脳損傷の重症型の各原因の診断は、臨床応答試験、コンピュータ断層撮影(CT)および磁気共鳴画像法(MRI)により直接的に行われるが、画像診断は、分光画像法の高いコストおよび長い診断時間の両方により制限される。通常の生活が不可能な個人の臨床応答試験はその有用性が限られており、微妙な診断が不可能な場合が多い。さらに、現存の診断法には限界があるため、対象が自らの神経学的状態に対するストレスを経験することはあっても、わずかな症状がすぐに消散する場合が多く、損傷が生じたことに気付かないか、治療を求めないことが多いという状況が生じる。対象の神経学的状態に対するこのような軽度から中程度の問題の処置法がないことから、累積的な影響を有するか、または重篤な脳損傷イベントを生じる可能性があり、いずれも臨床予後は不良である。
【0004】
神経学的状態の分光学的診断および臨床応答診断に関連した制限を克服するために、対象の分子また細胞レベルでの健康状態の変化を内側から示すものとして、バイオマーカーの使用が注目されつつある。バイオマーカー検出では、対象から採取した試料、通常は脳脊髄、血液または血漿を使用して、試料中のバイオマーカーを検出するため、バイオマーカー検出は、神経学的状態の安価で迅速、かつ客観的な測定法としての可能性を秘めている。神経学的状態の迅速で客観的な指標が得られれば、正常でない脳状態の重症度をこれまで実現されなかった客観度で判定し、転帰を予測し、状態の治療を導くだけでなく、対象の応答性および回復をモニターすることも可能となる。さらに、多数の対象から得られたこのような情報により、脳損傷の機構に対する洞察をある程度得ることが可能となる。
【0005】
中枢神経系(CNS)損傷のバイオマーカーは医師および基礎研究に、損傷の重症度および細胞病理の判定に役立つ定量化可能な神経化学的マーカーだけでなく、治療的介入の代替マーカーも提供し得る。TBIに対する潜在的な生化学的マーカーが数多く報告されているが、MTBIとTBIを識別してTBIを診断することができる、または治療的投与の成功もしくは治療上の利点を示すことができる決定的なマーカーおよび方法は示されていない。個人が多臓器損傷も患っているのであれば、この欠点はより明らかである。脳損傷を効果的に治療することは一般に困難であり、良好な転帰は一般に、個人において特定の損傷サブタイプをいかに迅速に診断するかに左右される。したがって、患者管理を向上させ、治療評価を容易にするために、脳振盪後の頭蓋内病理を評価する診断能力を有するTBIの高感度かつ特異的なマーカー(1つまたは複数)が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
損傷後にバイオマーカーの合成または産生が変化する、生物試料中の1つ以上のニューロン特異的バイオマーカー量の定量、および前記生物試料中の1つ以上のバイオマーカーの量の比率に基づく神経学的状態の検出を含めた、対象における神経学的状態を検出するための材料および工程を提供する。ニューロン特異的バイオマーカーは、任意にタンパク質、タンパク質分解産物、核酸分子(例えば、DNA、RNAまたはmiRNAのようなオリゴヌクレオチド)またはそのいずれかに対する自己抗体である。任意に、複数のバイオマーカーの組合せを1つ以上の生物試料において測定する。バイオマーカーの具体例としては、タンパク質に対する自己抗体が挙げられ、前記タンパク質は:GFAP;タウ;S100ベータ;ベータIII−チューブリン;神経フィラメント軽、中、もしくは重ポリペプチド(NF−L、−Mおよび−H);V型プロトンATPアーゼ;ガンマ−エノラーゼ(NSE);ビメンチン;エンドフィリン−A1;微小管関連タンパク質2(MAP−2);アルファ−インターネキシン;ニューロセルピン;ニューロモジュリン;シナプトタグミン−1;電位依存性カリウムチャネル;コラプシン応答媒介タンパク質(CRMP−1〜5);αII−スペクトリン;ニューロファシン;MBP;ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼ;ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP);これらの分解産物;これらの誘導体;またはこれらの組合せである。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、タンパク質の少なくとも一部分をコードしている核酸、例えばDNAまたはRNAオリゴヌクレオチドなどであり、タンパク質はGFAP;αII−スペクトリン;αII−スペクトリン分解産物;ニューロファシン;MBP;MAP2;ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼ;ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素;ニューロン局在細胞内タンパク質;MAP−タウ;C−タウ;ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP);コラプシン応答媒介タンパク質;これらの分解産物、これらの誘導体またはこれらの組合せである。バイオマーカーは任意にmiRNAである。miRNAは、任意に脳に多く含まれるか脳特異的である。miRNA任意に、タンパク質の発現を調節するmiRNAの少なくとも一部分であり、タンパク質はGFAP;αII−スペクトリン;αII−スペクトリン分解産物;ニューロファシン;MBP;MAP2;ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼ;ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素;ニューロン局在細胞内タンパク質;MAP−タウ;p53;SYTL1;カルパスタチン;ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP);CAPN1、2もしくは6;IRS−1;SMAD5;コラプシン応答媒介タンパク質;シナプトタグミン−1もしくは−9;Rhoキナーゼ;シナプシン1;シンタフィリン;ATXN1;これらの誘導体;またはこれらの組合せである。miRNAは、任意に配列番号:51〜113のうちの1つ、任意に配列番号:51〜60もしくは84〜93のうちの1つ、または任意にmiR−9、miR−34、miR−92b、miR−124a、miR−124b、miR−135、miR−153、miR−183、miR−219、miR−222、miR−125a、miR−125b、miR−128、miR−132、miR−135、miR−137、miR−139、miR−218aもしくはこれらの組合せである。
【0007】
いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、ニューロンに局在するタンパク質の分解産物である。分解産物は任意に、GBDPのようなGFAPの分解産物またはTBDPのようなタウの分解産物である。GFAP分解産物は、配列番号114のAsn59、Thr383またはその両方での切断により任意に生成される。TBDPは、それぞれ配列番号11においてC末端からアミノ酸25、44、129、157、229、421までの切断またはその組合せにより任意に生成される。あるいはまたは加えて、TBDPは、C末端からアミノ酸43、120、220、370、412までの切断またはその組合せによるラットタウ(配列番号5)分解産物である。
【0008】
測定された1つ以上のバイオマーカーの濃度を、任意に1つ以上のコントロール対象由来の同様の生物試料中のバイオマーカーレベルと比較して、濃度の比率を得る。比率は任意に、対象由来の生物試料中のバイオマーカーレベルがコントロール対象よりも高い場合に陽性であるか、または対象由来の生物試料中のバイオマーカーレベルがコントロール対象よりも低い場合に陰性である。
【0009】
適切な生物試料がいずれも使用可能であることが理解される。具体例としては、血液、血漿、血清、CSF、尿、唾液または組織が挙げられる。生物試料は、任意に無細胞血漿または無細胞血清である。
【0010】
損傷は、任意に化合物により誘発される。具体例として、治療薬または創薬中であるような候補治療薬として化合物を対象に投与する。
【0011】
この材料および工程は、1つ以上の状態、例えば脳損傷(例えば、外傷性脳損傷)、多臓器損傷、脳卒中、神経変性疾患またはこれらの組合せなどを検出、診断または測定するものである。
【0012】
また生物試料中のバイオマーカーを検出および任意に定量するための検出試薬も提供する。検出試薬は、配列番号114の59位または383位アミノ酸での切断部位から10アミノ酸以内のGFAPの一部分またはそのバリアントと任意に結合する。検出試薬は、25位、44位、129位、157位、229位または421位での切断部位から10アミノ酸以内でヒトタウ(配列番号11)アミノ配列と任意に結合する。任意に、検出試薬は、配列番号11またはそのバリアントのアミノ酸配列と、C末端〜Ser129の10アミノ酸以内、N末端〜Val229の10アミノ酸以内、N末端〜Asp421の10アミノ酸以内、C末端〜Lys44の10アミノ酸以内、N末端〜Ser129の10アミノ酸以内で結合する。検出試薬は、配列番号20もしくは123、21もしくは143、24もしくは144、25もしくは120、26もしくは121もしくは145、27もしくは146もしくは147、30、31、32、33、34、35、36、37、38もしくは148、39もしくは149、40、41、42、43または44の少なくとも一部分であるアミノ酸配列と任意に結合する。
【0013】
いくつかの実施形態では、検出試薬は、配列番号5のアミノ酸配列またはそのバリアントと:43位、121位、229位、38位または412位アミノ酸での切断部位から10アミノ酸以内で;任意に、N末端〜Asp421の10アミノ酸以内、N末端〜Val220の10アミノ酸以内、C末端〜Ser120の10アミノ酸以内、C末端〜Lys43の10アミノ酸以内またはC末端〜Arg370の10アミノ酸以内で結合する。検出試薬は、配列番号20もしくは123、21もしくは143、22、23、24もしくは144、25もしくは120、26もしくは121もしくは145、27もしくは146もしくは147、28、29、38もしくは148、39もしくは149、40または41の少なくとも一部分と任意に結合する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】外傷性脳損傷および定量化後のラット組織におけるGFAPおよびGBDPのウエスタンブロットの図である。
【図2】外傷性脳損傷後のラットCSFにおけるGFAPおよびGBDPのウエスタンブロットの図である。
【図3】ラットCCI試料および消化ヒト試料と比較したインビトロ消化脳ライセートのウエスタンブロットの図であり、GBDP(A)およびSBDP(B)のレベルを示している。
【図4】各種神経毒性傷害におけるGFAPからGBDPへのタンパク質分解の違いを示す図である。
【図5】カルパインによる組換えヒトGFAPの切断を示す図である。
【図6】ニューロンにおけるタウ切断によるTBDP生成を表す模式図であり、出現順にそれぞれ配列番号150、151、137、152および153を開示している。
【図7】抗全タウ(A)、抗タウBDP−45K(B)および抗タウBDP−35K(C)を用いたウエスタンブロットによりTBDP特異的抗体を示す図である。
【図8】全タウ抗体(A);ラットTBDP−35K抗体(B)またはラットTBDP−13K特異的抗体(C)によりプローブしたヒトおよびラットタウの分解産物を示す図である。
【図9】各種薬剤で攻撃したラット大脳皮質培養物を示す図であり、(A)は位相差顕微鏡法によるもの、また(b)は、24時間後の核の壊死に対するヨウ化プロピジウム標識および%アポトーシスの証拠としてヘキスト33342染色した核DNAを用いて評価したものである。
【図10】各種薬剤により攻撃し、タウおよびTBDPをプローブしたラット培養物を示す図である。
【図11】ラット皮質(A、B)または海馬(C、D)のCCI攻撃後のタウおよびTBDPを示す図である。
【図12】実験的CCI後のラット皮質におけるカルパイン−1特異的切断を示す図である。
【図13】CCI後のラット皮質におけるカルパイン−1およびカルパイン−2の活性化を示す図である。
【図14】ウエスタンブロット法(A)およびそのデンシトメトリー解析(B)により観察された、CCI直後のSNJ−1945インビボ投与によるタウ−BDP35Kのカルパイン特異性を示す図である。
【図15】2例の患者(AおよびB)における、損傷後の各種時点でのGFAPおよびGBDPに関するヒトCSFのウエスタンブロットの図である。
【図16】死後のヒト脳タンパク質ライセートに見られた脳特異的タンパク質に対するヒト血清自己抗体の存在を示す図であり、(A)はクーマシーブリリアントブルー染色により測定された総タンパク質負荷、(B)はコントロール血清でプローブしたウエスタンブロット、(C)はプールされたTBI後の患者血清でプローブしたウエスタンブロットである。
【図17】TBIの72時間後および30日後のヒト対象の血清中における自己抗体の存在を示す図である。
【図18】TBI後5日以内に検出可能なヒト対象の血清中の自己抗体の存在を示す図であり、そのIgG特異性が(B)で確認される。
【図19】TBIによる自己抗原が脳特異的であることを示す図である。
【図20】ヒト血清中の自己抗体がラット脳のカルパイン特異的切断産物を認識することを示す図である。
【図21】損傷の10日後に採取したヒトTBI対象の血清中におけるGFAP、ニューロファシンおよびMBPに対する自己抗体の存在を示す図である。
【図22】TBIの10日後に採取したヒト対象の血清を用いて、クーマシーブルーで染色した(A)およびウエスタンブロット法によりプローブしたヒト脳ライセートのイオン交換画分を示す図であり、オーバーラップしたバンドの配列決定により、自己抗体が表2に記載のGFAPおよびその他のタンパク質に対するものであることが示される。
【図23】TBI後のヒト血清中におけるGFAPに対する自己抗体の存在を示す抗原競合実験を示す図である。
【図24】自己抗体がインタクトGFAPではなくカルパイン仲介によるGFAP分解産物を優先的に認識することを示す図である。
【図25】複数の調査グループにわたるヒトTBI患者の血清中における自己抗体の存在を示す図である。
【図26】ヒト調査におけるTBI後の血清中の自己抗体レベルに関して、性別よび年齢による違いを示す図である。
【図27】GCSスコアにより分析した、TBI診断対象における自己抗体レベルの増加を示す図である。
【図28】6ヶ月目における自己抗体と生存との相関を示す図である。
【図29A】血清GFAPおよびUCHL1レベルと自己抗体強度との間の相関を示す図であり、(A)は散布図を示し、(B)は相関関係を示す。
【図29B】血清GFAPおよびUCHL1レベルと自己抗体強度との間の相関を示す図であり、(A)は散布図を示し、(B)は相関関係を示す。
【図30】CSFのGFAP、UCHL1およびSBDP145と自己抗体強度との間の相関を示す図である。
【図31】(A)自己抗体強度を性別の関数として;(B)自己抗体強度を転帰の関数として;および(C)自己抗体強度と死亡率を性別の関数として示す図である。
【図32】(A)自己抗体強度を生存の関数として;ならびに自己抗体の強度および傾向を(B)雌および雄(C)の関数として示す図である。
【図33】自己抗体強度をGCSスコアの関数として示す図である。
【図34】ニューロン損傷における神経細胞による核放出の模式図である。
【図35】軽度および中等度の損傷度を有するTBIヒト対象の血清中のGFAP、UCHL1およびS100βのレベルを示す図である。
【図36】miRNAクラスター解析の結果を示す図である。
【図37】生物試料中の同定されたmiRNA数の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
脳組織またはBBBの損傷は、細胞内分子、例えばタンパク質、分解タンパク質フラグメント、DNAおよびRNA(miRNAを含む)などの脳脊髄液(CSF)または血流中への放出を引き起こす。このような抗原の漏出は、それに対する自己抗体の形成を引き起こし得る。本発明は、生物試料中の本発明のニューロン特異的バイオマーカーの増加または減少の測定を利用し、したがって、異常な神経学的状態の診断および管理に有用である。特に本発明は、疾患に関連した損傷を含むニューロン損傷、具体例として外傷性脳損傷(TBI)およびそのサブタイプを同定または分類するための診断法としてばかりでなく、対象が耐えてきた特定の脳損傷タイプに有効な潜在的な治療法の同定にも有用である。
【0016】
この工程は、将来の疾患または損傷を予測するまたは示す神経学的外傷または状態を検出するのに有用である。具体例として、この工程は、創薬のためのインビボまたはインビトロの安全なまたは有効なスクリーニングプロトコールとして有用である。創薬は神経学的状態に対する薬物に限定されるわけではない。また本発明のバイオマーカーは、解析のためのリード化合物の選択手段として、または既に同定された薬剤候補の安全性の評価手段として、インビボ動物実験での予期されるまたは予期せぬ神経学的副作用を検出するのにも有用である。
【0017】
本明細書で使用される「損傷」とは、単一のまたは連続的な事象、任意に複数の事象に起因する、細胞または分子の整合性、活性、レベル、ロバスト性、状態の変化またはその他の変化のことである。損傷の具体例としては、細胞的または分子的特徴の物理的、機械的、化学的、生物学的、機能的、感染的またはその他のモジュレーター的事象が挙げられる。損傷は、具体的例として、衝撃(例えば、打撃性のもの)のような物理的外傷、または血管の遮断もしくは漏出による脳卒中のような生物学的異常の結果である。典型的な衝撃損傷は外傷性脳損傷(TBI)である。損傷は、任意に感染病原体による感染である。いくつかの実施形態では、損傷は化合物への曝露である。当業者は、損傷または事象という用語に包含される数多くの同等の損傷を認識する。
【0018】
損傷は、任意に打撃性の衝撃のような物理的事象である。衝撃は、頭蓋構造が無傷のままであるかまたは頭蓋構造の破損を生じる頭部の強打などにより生じる打撃損傷と同類のものである。実験ではいくつかの衝撃方法が使用され、具体例として、ヒトでの重症TBIに相当する1.6mmの陥没深度などでの制御式皮質衝撃(CCI)が挙げられる。この方法は、Dixon,CEら,J Neurotrauma,1999;16(2):109−22により詳細に記載されている。衝撃損傷を生じさせるその他の実験的方法も同様に使用可能であることが理解される。
【0019】
TBIは脳卒中によっても生じ得る。げっ歯類における中大脳動脈閉塞(MCAO)により、虚血性脳卒中が任意にモデル化される。例えば、軽度のMCAOの後にUCHL1タンパク質レベルが増加し、これが重度のMCAO攻撃後にさらに増加する。軽度のMCAO攻撃により、2時間以内に一過性のバイオマーカーレベルの増加を生じる場合があり、24時間以内にコントロールレベルまで回復する。これに対し、重度のMCAO攻撃では、損傷後2時間以内にバイオマーカーレベルの増加が生じるが、はるかに持続性があり、統計的に有意なレベルを72時間以上に及んで示し得る。
【0020】
1つの理論またはモデルに限定されるわけではないが、軽度外傷性脳損傷(mTBI)とTBIの間の線引きの1つの提案は、損傷後の体液中の分子バイオマーカーの識別可能な増加または減少である。分子バイオマーカーの具体例としては、Kobeissy FHら,Mol Cell Proteomics,2006;5:1887−1898に記載されているものが挙げられる。TBIの典型的な定義は、バイオマーカーレベルが少なくとも2倍増加または減少している少なくとも1つの識別可能なバイオマーカーの存在である。
【0021】
本明細書で使用される用語「バイオマーカー」とは、生物学的活性または応答の測定に有用なタンパク質、核酸またはその他の識別物質のことである。ニューロン特異的バイオマーカーとは、ニューロンまたはグリアの構造、機能または活性に関連したバイオマーカーのことである。具体例として、タンパク質は抗体または生理的タンパク質の分解産物である。「核酸」または「オリゴヌクレオチド」は、本明細書では、2個以上のヌクレオチドからなる、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのような高分子と定義される。具体例として、本明細書で使用されるバイオマーカーは、ニューロン特異的またはニューロン中に多量に存在するバイオマーカーである、すなわち、バイオマーカーは、1つ以上のタイプのニューロン以外では、感知可能なレベルで通常見られない分子である。バイオマーカーの具体例としては:タンパク質、具体例として、特にGFAP、αII−スペクトリン、UCHL1の1つ以上の分解産物;抗体;DNA;RNA;miRNA;またはRNA、DNA、ペプチド、タンパク質もしくはその有無、レベルまたは活性が神経学的損傷または疾患と相関するか、またはそれを予測させるその他の生体物質の1つ以上のフラグメントが挙げられる。
【0022】
いくつかの実施形態では、バイオマーカーは抗体、具体例として自己抗体である。自己抗体とは、対象または対象の組織もしくは細胞において通常見られる抗原を認識する、それと結合する、またはそれと相互作用する抗体のことである。抗原の具体例は、;αII−スペクトリン;ニューロファシン;MBP;MAP2;ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼ;ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素;ニューロン局在細胞内タンパク質;微小管関連タンパク質タウ(MAP−タウ);ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP);コラプシン応答媒介タンパク質(CRMP−1〜5);これらの分解産物、本明細書の1つ以上の表または参考文献に記載されているその他の任意のバイオマーカーおよびこれらの組合せである。
【0023】
あるいはまたは加えて、バイオマーカーはタンパク質の一部分であり、そのタンパク質は、GFAP、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、ユビキチンC末端加水分解酵素L1(UCHL1)、ニューロン核タンパク質(NeuN)、2’,3’−環状ヌクレオチド3’−ホスホジエステラーゼ(CNPase)、可溶性細胞間接着分子−1(sICAM−1)、誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)、本明細書の1つ以上の表または参考文献に記載されているその他の任意のバイオマーカーおよびこれらの組合せである。具体例として、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)は主としてニューロン中に見られ;GFAPはアストロサイト中に見られ;またCNPaseは中枢神経系のミエリン中に見られる。したがって、具体例として、バイオマーカーはタンパク質の分解産物(BDP)である。分解産物を生成する数多くの方法が当該技術分野で公知である。具体例として、ニューロン特異的タンパク質のカルパインまたはカスパーゼによるタンパク質分解性切断により、そのタンパク質の1つ以上のBDPが生成される。
【0024】
バイオマーカーは、任意に核酸である。具体例として、核酸はオリゴリボヌクレオチドまたはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。したがって、核酸バイオマーカーは任意に、ニューロンで発現されるタンパク質の少なくとも一部分をコードするDNAまたはRNAである。全身性狼瘡および関節リウマチの研究では、これらの疾患における血中のDNA量がかなり高いため、循環DNAが使用されてきた(Tanら,1966)。血中遊離DNAも癌に特異的なバイオマーカーとして提案されている(Leonら,1977)。メチル化DNA(Mullerら,2003)および特定の変異を有する遊離DNA(Silvaら,1999)が血漿中に見られ、癌と関連付けられている。また母体の血漿および血清中に胎児DNAを見出すことも可能である(Loら,1997)。急性脳卒中の患者の血漿中に循環DNAが見出されている(Rainerら,2003)。したがって、DNAの循環レベルは疾患と相関し得る。本発明者らは、ニューロン損傷がニューロン起源の循環DNAのレベル増加を引き起こすことを発見した。CSFまたは血清中のDNAレベル増加の測定は、ニューロン損傷および損傷重症度の指標となる。
【0025】
RNAは血中で容易に分解されるため、疾患または損傷のマーカーとしては機能しないと考えられてきた。これは外部から加えられたRNAの場合であり、外傷を患っている組織由来の内在性RNAは高い安定性を示すため、バイオマーカーとして有用であり得る。1つの特定の理論に限定されるわけではないが、内在性RNAはタンパク質と複合体を形成して、アポトーシス小体中に存在するときに分解から保護される可能性がある(Hasselmanら、2001)。さらに、RNAは、損傷部位および疾患タイプの配列を容易に認識して、この配列を細胞タイプに特異的なRNA発現と関連付けることができるため、損傷部位および疾患タイプ対してより特異的であり得る。したがって、バイオマーカーは、任意にRNA分子である。RNA分子としては、mRNA、rRNA、miRNA、tRNAおよびmiRNAが挙げられる。
【0026】
バイオマーカーは、任意にmiRNAである。マイクロRNA(miRNA)は、メッセンジャーRNAの分解を介して転写後の遺伝子発現を調節し、タンパク質発現を減少させることができる非コードRNA分子である。miRNAバイオマーカーは、1つ以上のニューロン特異的タンパク質、例えば本明細書の表およびその他に記載されている任意のタンパク質などをコードする遺伝子の発現を調節するmiRNAである。
【0027】
工程は、生物試料中の1つ以上のバイオマーカーの定量を含む。バイオマーカーは、絶対量、相対量または量を表す値、例えば、バックグラウンドまたはその他の比較物と比べた蛍光の増加または減少を決定するための、当該技術分野で公知のまたは本明細書に記載の任意の方法または工程により測定される。任意に、1つ以上の生物試料の1つ、2つ、3つ、4つ以上のバイオマーカーを同時にまたは順番に測定する。第二のまたは追加のバイオマーカーは、任意に第一のバイオマーカーと異なる。
【0028】
具体例としてバイオマーカーは、タンパク質の分解産物である、タンパク質もしくはその一部分と結合する、タンパク質もしくはその一部分をコードする、またはタンパク質の発現を調節し、ここではタンパク質は:ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼL1(UCHL1);ニューロン特異的エノラーゼ(NSE);スペクトリン分解産物(SBDP)、具体例としてSBDP150、SBDP150i、SBDP145もしくはSBDP120;S100カルシウム結合タンパク質B(S100β);微小管関連タンパク質(MAP)、任意にMAP2、MAP1、MAP3、MAP4、MAP5;ミエリン塩基性タンパク質(MBP);タウ、具体例としてMAP−タウまたはタウBDP;神経フィラメントタンパク質(NF);カンナビノイド受容体(CB);CAMタンパク質;シナプスタンパク質;コラプシン応答媒介タンパク質(CRMP−1〜5);誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS);ニューロン核タンパク質(NeuN);システイニル−特異的ペプチダーゼ(CSPアーゼ);ニューロセルピン;アルファ−インターネキシン;軽鎖3タンパク質(LC3);ニューロファシン;グルタミン酸トランスポーター(EAAT);ネスチン;コルチン−1,2’,3’−環状ヌクレオチド3’−ホスホジエステラーゼ(CNPアーゼ);βIII−チューブリン、または本明細書の表1またはその他の表に記載されている任意のバイオマーカー、またはこれらの組合せである。
【0029】
【表1】


【0030】
バイオマーカーは、任意にGFAPまたはタウの分解産物である。ヒトGFAPのアミノ酸配列は、アイソフォーム1および2がそれぞれGenBankアクセション番号NP_002046およびNP_001124491で見られる。ヒトタウのアミノ酸配列はGenBankアクセション番号NP_005901およびNP_776088で見られる。ラットタウのアミノ酸配列は、374アミノ酸型がGenBankアクセション番号NP_058908で見られる。各上記アクセッション番号およびその他のアクセッション番号で見られる配列は、各配列が完全かつ明確に記載された場合と同様に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
バイオマーカーは任意に、損傷または事象の間または後に発現増加または発現減少を示す任意のタンパク質もしくはその一部分、核酸または抗体である。発現は、発現増加がバイオマーカーの合成増加である合成として認識される。任意に、合成はプロテアーゼ、例えばカルパインまたはカスパーゼがタンパク質を切断して分解産物が合成または生成される、切断産物の生成である。具体例として、ニューロン損傷がカルパインまたはカスパーゼを活性化し、次いでこれがGFAPを酵素的に切断して、1つ以上のGBDPが生成され得る。したがって、GBDPは損傷または事象の間または後に生成、すなわち合成されるものと理解される。同様に、自己抗体は損傷または事象の間または後に経時的に生成される。したがって、自己抗体は合成されるものと理解される。核酸は通常、細胞内で全く発現されないか、または特定のレベルで発現される。損傷または事象は、miRNAのようなRNAがゲノムDNAから翻訳される速度を変化させ得る。したがって、核酸は、損傷または事象の間または後の合成の増加または減少のいずれかを示すことが理解される。
【0032】
任意の数、例えば2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個以上などのバイオマーカーを検出または測定し得る。検出は、同時的または連続的のいずれかであり得、また同じ生物試料に由来するか、または同じもしくは異なる対象由来の複数の試料に由来し得る。複数のバイオマーカーの検出は、任意に同じアッセイチャンバ内である。本発明の工程は任意に、第一のバイオマーカーの量および少なくとも1つの追加の向神経活性バイオマーカーを、第一のバイオマーカーの量および少なくとも1つの追加の向神経活性バイオマーカーそれぞれの正常なレベルと比較して、対象の神経学的状態を判定することをさらに含む。
【0033】
本発明は、任意にUCHL1またはGFAPに関して記載される。これらのバイオマーカーが単に例示目的で示されるものであり、本発明の範囲がUCHL1またはGFAPに限定されることを特に示すことなどを意図しないことが理解される。
【0034】
いくつかの実施形態では、バイオマーカーはGFAP(GBDP)の分解産物である。GFAPは、アストロサイトのようなグリア細胞と関連する。バイオマーカーは、任意に1つ以上のGBDPである。GDBPは任意に、泳動による分子量が38〜52kDaの間である。GDBPは、任意にGFAPのタンパク質消化の産物である。プロテアーゼの具体例としては、カルパインおよびカスパーゼが挙げられる。
【0035】
いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、オリゴヌクレオチドのような核酸である。オリゴヌクレオチドとはDNAまたはRNA分子のことである。RNA分子の好適な例は、mRNAおよびmiRNA分子である。
【0036】
歴史的には、RNA分子は血漿中での半減期が短いと考えられていた。ごく最近では、RNA分子が血漿中でタンパク質または脂質小胞により保護されている可能性があることが研究により示されている。したがって、本発明の工程では、損傷の後または間に放出されるRNA分子を、例えば、全血、血漿、血清、CSFまたはその他の生体物質中で検出し、損傷の存在と関連付けることができる。生物試料からRNAを単離するための数多くの方法が当該技術分野で公知である。具体例として、その内容が参照により本明細書に組み込まれる、El−Hefnaway,Tら,Clinical Chem.,2004;50(3);564−573に記載されている方法が本発明において使用可能である。任意に、生物試料を核酸の検出または測定前にろ過する。ろ過により余分な細胞物質が除去されて、バイオマーカー核酸のより正確な測定が行われる。生物試料のろ過方法は、具体例として、その内容が参照により本明細書に組み込まれるRainer,TH,Clin.Chem.,2004;50:206−208に記載されているように、当該技術分野で公知である。
【0037】
いくつかの実施形態では、UCHL1またはGFAPの発現をコードまたは調節するRNAを検出または測定する。ヒトUCHL1のRNAまたはそれに由来するcDNAは既知の配列であり、NCBIデータベースのアクセッション番号NM_004181に見ることができる。その他のTBIに関連したRNA配列、例えば本明細書の表に記載されているタンパク質をコードする配列なども同様にNCBIデータベースにおいて見出し得ることは、当業者に公知である。さらなる例として、GFAPのmRNA配列が、GFAPの2つのアイソフォームに関してアクセッション番号NM_001131019.1およびNM_002055.3で見られる。
【0038】
核酸を検出または測定する典型的な方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく方法、具体例として、PCRまたはRT−PCRが挙げられる。核酸は、PCRに基づかない方法論、具体例として、質量分析法、蛍光、染色、その他の当該技術分野で公知の方法を用いて測定し得る。任意にマイクロアレイを用いて、試料中の1つまたは多数の核酸バイオマーカーのレベルを検出または測定する。核酸の検出および測定のためのマイクロアレイの作製および使用は、当該技術分野で公知である。またプライマーおよびプローブ設計も当該技術分野の技術レベルの範囲内である。任意の適当なプライマーおよびプローブならびにそれへの標識が、本発明における核酸バイオマーカーの検出に使用可能である。具体例として、商業的供給源から入手可能な自動プログラムを用いて、プライマーおよびプローブ設計を行い得る。あるいは、Applied Biosystems(Foster City,CA)を含めた数多くの商業的供給者がプライマーおよびプローブ設計のサービスを提供している。
【0039】
神経学的状態を検出する工程は、神経学的状態を有することが疑われ得る対象から生物試料を採取すること;試料中のニューロン特異的バイオマーカーを定量すること;検出されたバイオマーカーのレベルを、神経学的状態を有さない対象由来の同じまたは異なるバイオマーカーのレベルと比較して比率を得ること;およびその比率に基づき、対象における神経学的状態の有無を診断または検出することを任意に含む。
【0040】
任意に、工程は複数のバイオマーカーの存在に関して生物試料を分析することを含む。複数は1を超える任意の数であり得る。任意に2つのバイオマーカーを分析する。具体例として、バイオマーカーはUCHL1およびGFAPに関連したバイオマーカーである。具体例として3、4、5、6、7、8、9、10、20、50、100、1000個またはその間のもしくはそれを超える任意の数を含めたさらに多くのバイオマーカーを、本発明の工程において同時にまたは順番にアッセイし得る。
【0041】
バイオマーカーの検出および定量化の方法の具体例としては、リアルタイムPCR(RT−PCR)が挙げられる。RT−PCRでは、同時に複数のバイオマーカーに対して増幅および定量化を同時に行うことが可能である。あるいは、飛行時間型検出および高速液体クロマトグラフィーと組合せたエレクトロスプレーイオン化質量分析のような質量分析法も同様に使用可能である。当業者により理解されるように、その他の方法も同様に検出に使用可能であることが理解される。
【0042】
本発明において、数多くのmiRNA分子がバイオマーカーとして使用可能である。「miRNA」という用語は、それ本来の普通の意味に従って使用され、真核生物において見られる、RNAによる遺伝子調節に関与するマイクロRNA分子を指す。例としては、表1に記載されている1つ以上のタンパク質の発現を調節するmiRNA分子が挙げられる。いくつかのmiRNA分子が同定されており、本発明においてバイオマーカーとして使用可能である。具体例として、Redell,JBら,J.Neurosci.Res.,2009;87:1435−48;Lei,P.ら,Brain Res.,doi:10.1016/j.brainres.2009.05.074;Lu,Nら,Exp.Neurology,2009;doi:10.1016/j.expneurol.2009.06.015;およびJeyaseelan,Kら,Stroke,2008;39:959−966に記載されているmiRNA分子があり、上記各参考文献は、そこで定義されているmiRNAのみならず、特に各参考文献に記載されているmiRNAの単離および定量化の方法に関しても、その内容が参照により本明細書に組み込まれる。このような方法またはその改変物は、当業者により認識されており、かつ本発明の方法において使用し得る。
【0043】
神経学的状態を判定する工程は、生物試料中の1つ以上の抗体の検出または測定を任意に含む。抗体は、任意に自己抗体である。自己抗体は、TBI、疾患、損傷またはその他の異常のような神経学的外傷の部位から放出される抗原に対するものである。特定の理論に限定されるわけではないが、TBIは、細胞内または細胞膜の内容物をCSFまたは血流中に放出する細胞損傷を引き起こす。本明細書の表1およびその他の表に記載されているような多くのタンパク質、またはタンパク質をコードするもしくはその発現を調節する核酸のレベルは、通常は、脳組織のような神経組織の細胞質または細胞膜以外である体液中には存在しない。こうした抗原の存在は、対象内でその抗原に対する自己抗体産生を引き起こす。任意にバイオマーカーとしての自己抗体の検出を用いて、対象における異常な神経学的状態の存在を診断する。
【0044】
米国特許第6,010,854号には、抗原の作製法およびニューロンのグルタミン酸受容体に対する自己抗体のスクリーニング法が記載されている。これらの方法も同様に本発明に適用可能である。したがって、自己抗体のスクリーニングに使用可能なスクリーニング抗原の作製法の教示に関して、米国特許第6,010,854号が参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第6,010,854は、同様に自己抗体の検出法の教示に関して参照により本明細書に組み込まれる。具体例としてELISA、ウエスタンブロット法、質量分析法、クロマトグラフィー、染色およびその他の当該技術分野で公知の方法を含めたその他の抗体検出法が同様に使用可能であることが理解される。
【0045】
いくつかの抗体が神経学的状態の発症後に自己抗体を産生させるということが見出されている。このような抗原は、表2に具体例として記載されている抗原である。
【0046】
【表2】

【0047】
さらに、上記抗原のうちのいくつかおよびその他の抗原が脳損傷と関連する。脳損傷に関連する自己抗原の特定の具体例を表3に記載する。
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
いくつかの実施形態では、表1〜4に記載されている任意のタンパク質のような完全長タンパク質またはその分解産物が、自己抗体のスクリーニング抗原として使用可能である。例えば、UCHL1は抗原性であり、対象において自己抗体を産生させる。ヒトUCHL1タンパク質の配列はNCBIアクセッション番号NP_004172.2で見られる。同様に、ヒトGFAPはNCBIアクセッション番号NP_002046.1で見られる。その他の例示的な抗原の具体例としては、αII−スペクトリンもしくはその分解産物、MAP、タウ、ニューロファシン、CRMP−2、MAP2粗試料、MBPおよびヒト脳ライセートまたはこれらの任意の亜分画が挙げられる。
【0051】
表1〜4のペプチドおよびタンパク質を作製する任意の適当な方法が本明細書で使用可能である。具体例として、精製タグと共にまたはそれなしで用いるクローニングおよびタンパク質発現系を任意に使用する。抗原性ペプチドの作製法の具体例としては、当該技術分野で公知の方法による合成ペプチドの合成が挙げられる。ペプチド合成の化学的方法は当該技術分野で公知であり、固相ペプチド合成および液相ペプチド合成、またはHackeng,TMら,Proc Natl Acad Sci U S A,1997;94(15):7845−50の方法によるものが挙げられ、上記文献はその内容が参照により本明細書に組み込まれる。いずれの方法も自己抗体の存在に関する生物試料のスクリーニングに使用可能な抗原作製に使用可能である。
【0052】
本明細書で使用される「ペプチド」は、任意の長さのペプチドを意味し、タンパク質を包含する。「ポリペプチド」および「オリゴペプチド」という用語は、特定のサイズが別途記述されない限り、本明細書では特定の意図されたサイズに全く限定されずに使用される。
【0053】
RNA、miRNA、DNAおよび自己抗体のようなバイオマーカーのパターンがニューロン異常の部位および重症度の特定に使用可能であることが理解される。具体例として、脳への損傷により、中枢神経系の他の部位への損傷とは異なる複数のバイオマーカーのパターンが示される。また、海馬への損傷も前頭葉への損傷とは異なるバイオマーカーのパターンを生じる。したがって、複数のバイオマーカーの比較検出により損傷の位置特定が行われる。例えば、TBIに応答して細胞内のmiRNAレベルが特定のパターンに変化する(Redell,Jら,J.Neurosci.Res.,2009;87:1435−1448を参照されたい)。驚くべきことに本発明者らは、表1のタンパク質の発現を調節するmiRNAバイオマーカーのレベルが同様に、損傷の重症度または損傷後の時間に応じて上方制御または下方制御のいずれかにより変化することを発見した。miRNAおよびその他のバイオマーカーのパターンは、損傷または疾患の進行に伴って変化する。これは、RNA、DNAまたはタンパク質の放出を変化させる二次的損傷事象、細胞アポトーシスの遅延またはその他の機序の結果であり得る。参照により本明細書に組み込まれる上記Redell,Jは、3時間および24時間で細胞内のmiRNAバイオマーカーが変化することを例証している。miRNAは、3時間で上方制御される場合もあれば、24時間でようやく上方制御される場合もある。同様の結果がmiRNAの下方制御で観察される。したがって、Redell,J,ら,J.Neurosci.Res.,2009;87:1435−1448のmiRNAバイオマーカーの調節、その検出方法および一時的な発現変化が等しく本発明に適用可能であるものとして、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる。同様に、Jeyaseelan,Kら,Stroke,2008;39:959−966により観察された脳卒中に応答したmiRNA発現の一時性も、そこで教示される特定のmiRNAならびにそこで教示される単離、定量化および検出方法に関して、参照により本明細書に組み込まれる。これまで研究者により理解も考慮もされなかったことは、損傷後に核酸およびタンパク質が血液またはCSF中に移動するということである。バイオマーカー、特にRNAのレベルは、細胞の核またはおそらく細胞質に局在したままであると考えられていた。血液(またはその画分)またはCSFのような非細胞性生物試料中の上記バイオマーカーのレベルを検出する本発明者らの能力により、対象における神経学的状態または神経学的状態の危険性を判定するためのはるかに堅固かつ簡便な検出工程がもたらされた。
【0054】
したがって、いくつかの実施形態では、生物試料を第一および第二のバイオマーカーに関してスクリーニングする。これより数が多くても同様に使用可能である。GFAPバイオマーカーが好適な第一のバイオマーカーである。GFAPはアストロサイトのようなグリア細胞に関連するため、他のバイオマーカーは、神経機能と関連した異なる細胞タイプの健常性に関連していることが好ましい。より好ましくは、他の細胞タイプは軸索、ニューロンまたは樹状突起である。グリア細胞および少なくとも1つの他のタイプの神経細胞に関連するバイオマーカーを含む本発明のアッセイの使用においては、ストレスを加えられたまたは殺された神経細胞タイプおよび神経学的状態の定量化が得られる。任意に少なくとも1つの追加のバイオマーカーと共に行うGFAPバイオマーカーの共同的測定、ならびにGFAPバイオマーカーおよび追加のバイオマーカーの量とマーカーの正常レベルとの比較により、対象の神経学的状態の判定が得られる。GFAPバイオマーカーと共に測定された場合に対象の神経学的状態の優れた評価が得られる特定のバイオマーカーレベルの具体例としては、SBDP145(カルパイン仲介による急性の神経壊死)、SBDP120(カスパーゼ仲介による神経アポトーシスの遅延)、UCHL1(神経細胞体損傷マーカー)およびMAP2が挙げられる。
【0055】
本発明のバイオマーカーに関連する特定のタンパク質の性質により、損傷の程度、位置および重症度の確実な判定が可能となる。本発明のバイオマーカーに関連するタンパク質の生体での位置を表5に示す。例えばペリフェリンに対する自己抗体またはRNAの増加は、UCHL1に対する自己抗体またはRNAの増加とは異なる異常であることが理解される。
【0056】
【表5】

【0057】
また本発明のバイオマーカーの検出は、潜在的な薬剤候補のスクリーニングまたは既に同定されている薬剤候補の安全性の解析にも使用可能である。このようなアッセイはインビトロまたはインビボのいずれであってもよい。インビボでのスクリーニングまたはアッセイプロトコールの具体例としては、マウス、ラットまたはヒトを具体例として含めた動物におけるバイオマーカーの測定が挙げられる。UCHL1またはGFAPバイオマーカーなどのレベルを決定またはモニターするための研究を、行動解析または運動障害解析、例えば:具体例としてロータロッド、ビーム歩行試験、歩行運動解析、グリッド試験、ぶら下がり試験およびストリングテスト(string test)を含めた運動協調性試験;具体例としてオープンフィールド試験での自発的歩行活動の検出を含めた鎮静試験;異痛症の感受性試験―冷浴試験、38℃でのホットプレート試験およびVon Frey試験;痛覚過敏感受性試験―52℃でのホットプレート試験およびRandall−Sellito試験;ならびに感覚および運動神経伝導、複合筋活動電位(CMAP)およびh波反射のようなEMG評価などと任意に組み合わせる。
【0058】
本発明のバイオマーカー解析は、具体例として、病的状態の検出、診断もしくは治療または疾患を治療するための化学物質もしくはその他の治療剤のスクリーニングに使用可能である。疾患または状態の具体例としては:神経変性疾患;多発性硬化症のようなミエリン関連疾患;脳卒中;筋萎縮性側索硬化症(ALS);化学療法;癌;パーキンソン病;尺骨神経炎および手根管症候群症候群のような化学的または物理的異常に起因する神経伝導異常;具体例として坐骨神経挫滅(外傷性神経障害)、ストレプトゾトジン(streptozotozin)(STZ)(糖尿病性神経障害)および抗有糸分裂誘導性神経障害(化学療法誘導性神経障害)を含めたその他の末梢神経傷害;実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE);遅延型過敏性(DTH);関節リウマチ;癲癇;疼痛;神経障害性疼痛;および子宮内外傷が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
対象に対する爆風損傷の解析により、バイオマーカーとニューロン損傷間の本発明の相関がいくつか明らかになる。ニューロン損傷は任意に、全身爆風の結果、身体の特定部分への爆破衝撃、または検出可能なもしくは識別可能なバイオマーカーレベルを生じるその他のニューロン外傷もしくは疾患の結果である。したがって、再現可能な実験モデルにおける一次爆風脳損傷(BBI)の発症経路の同定は、重症、中等度および軽度(mTBI)を外傷後ストレス障害(PTSD)と区別するための診断アルゴリズムの開発に役立つ。したがって、爆風衝撃の機構を研究するために数多くの実験動物モデルが導入されており、げっ歯類およびヒツジのような大型動物がこれに含まれる。しかし、異なる研究で使用された爆風発生装置がかなり汎用的であるため、脳損傷機序および推定バイオマーカーに関するデータを解析および比較することは困難である。
【0060】
神経学的状態とバイオマーカー測定量の間の関連付けを行うために、具体例として、CSFまたは血清試料を対象から採取してバイオマーカーの測定に供する。試料は、任意に生物試料である。次いで任意に、検出されたGFAPバイオマーカーレベルを、CTスキャンの結果およびGCSスコアリングと関連付ける。この結果に基づき、本発明のアッセイを開発し有効性を確認する(Leeら、Pharmacological Research 23:312−328、2006)。GFAPバイオマーカーが、CSFおよび血清から採取されることに加えて、血液、血漿、唾液、尿だけでなく固体組織の生検からも容易に採取されることが理解される。神経系と直接接触していることから、CSFが一般的に使用されるサンプリング液であるが、他の目的には他の体液をサンプリングすることが有利であり、したがって、単一の試料、例えば血液、血漿、血清、唾液または尿などで行う一連の試験の一部として本発明の神経学的状態の判定がこれにより可能となることが理解される。
【0061】
生物試料は、従来の技術により対象から採取される。例えば、CSFは腰椎穿刺により採取される。任意に、血液は静脈穿刺により採取され、血漿および血清は既知の方法に従って全血を分画することにより採取される。CSFは任意に、カニューレ挿入法またはその他の技術により採取されることが理解される。血液は任意に、他の技術、具体例として心臓穿刺により採取される。固体組織試料を採取するための外科技術が当該技術分野で公知である。例えば、神経系組織試料を採取するための方法が、標準的な神経外科学テキスト、例えばAtlas of Neurosurgery:F.MeyerによるBasic Approaches to Cranial and Vascular Procedures,Churchill Livingstone,1999;David G.T.ThomasによるStereotactic and Image Directed Surgery of Brain Tumors,第1版,WB Saunders Co.,1993;ならびにCranial Microsurgery:L.N.SekharおよびE.De OliveiraによるApproaches and Techniques,第1版,Thieme Medical Publishing,1999などに記載されている。また脳組織の採取および解析のための方法も、Belayら,Arch.Neurol.58:1673−1678(2001);およびSeijoら,J.Clin.Microbiol.38:3892−3895(2000)に記載されている。
【0062】
任意に、バイオマーカーは脳損傷などのような神経学的状態の検出または診断に対して選択的である。バイオマーカーは任意に、TBIのレベルの検出および識別に特異的かつ効率的である。このようなバイオマーカーは任意に、神経特異的または向神経活性バイオマーカーと呼ばれる。
【0063】
バイオマーカーの存在または活性の一時性は、TBIサブタイプの指標または識別物として使用可能である。非限定的な例では、実験的な中大脳動脈閉塞(MCAO)はCSF中のUCHL1バイオマーカーの一時的な維持と相関する。30分間のMCAOにより、6時間でピークに達して急速に減少する一過性のUCHL1バイオマーカーレベルが生じるのに対し、2時間のMCAOでは、3日間にもわたるUCHL1バイオマーカーレベルの維持が生じる。同様に、損傷後の各種時点でのその他のバイオマーカーの出現率は、TBIサブタイプを区別するために使用可能である。GBDPは、損傷後24時間以内に、打撃性の爆風損傷後のヒトCSFを含めた生物試料中に現れ、損傷後7日間にもわたって強度が増加する。同様の結果がSBDP150/145のようなSBDPで見られる。自己抗体は一般に、損傷後5日以内に見られ、損傷後30日まで量が増加する。
【0064】
バイオマーカー解析は、任意に生物試料または体液を用いて行う。本明細書で使用可能な例示的生物試料の具体例としては、細胞、組織、脳脊髄液(CSF)、人工CSF、全血、血清、血漿、細胞質液、尿、糞便、胃液、消化液、唾液、鼻もしくはその他の気道液、腟液、精液、緩衝生理食塩水、生理食塩水、水または当該技術分野で認識されているその他の体液が挙げられる。いくつかの実施形態では、生物試料はCSFまたは血清である。対象の神経学的状態を明らかにするために、2つ以上の別々の生物試料を任意にアッセイすることが理解される。任意に、生物試料は細胞でも細胞質物質でも核質物質でもない。
【0065】
細胞での発現の増加に加え、バイオマーカーは、損傷細胞とコミュニケートしている体液中にも現れる。対象からの体液、例えば脳脊髄液(CSF)、血液、血漿、血清、唾液および尿などの採取は通常、固体組織の生検試料採取よりも侵襲性および外傷性がかなり低い。特にCSFは、神経系と直接接触し、容易に採取可能であることから、対象における神経損傷の検出に広く使用されている。血清は、容易に採取可能で、提供対象に対する損傷または副作用の危険性がかなり低いため、広く用いられている生物試料である。
【0066】
神経学的状態とバイオマーカーの測定量の間の相関関係を得るために、本発明のいくつかの実施形態では、具体例として対象からCSFまたは血清の試料を採取し、試料をGFAP関連核酸、GBDPまたはGFAP関連自己抗体の測定に供する。対象によって神経学的状態が異なる。次いで、検出されたバイオマーカーレベルを任意にCTスキャンの結果またはGCSスコアリングと関連付ける。これらの結果に基づき、本発明のアッセイを開発し有効性を確認する(Leeら,Pharmacological Research 23:312−328,2006)。バイオマーカーが、CSFおよび血清から採取されることに加えて、血液,血漿,唾液,尿のみならず固体組織の生検からも容易に採取されることが理解される。CSFが神経系と直接接していることから、本発明の多くの実施形態ではCSFがサンプリング液となるが、他の目的には他の体液をサンプリングすることが有利であり、したがって、単一の試料、例えば血液、血漿、血清、唾液または尿などで行う一連の試験の一部として本発明の神経学的状態の判定がこれにより可能となることが理解される。
【0067】
傷害後、対象の神経細胞は、傷害を受けなかった細胞に比べて変化した1つ以上のタンパク質または核酸分子のレベルまたは活性を発現する。したがって、神経細胞を含有する試料、例えば、中枢神経系または末梢神経系組織の生検は、本発明のいくつかの実施形態における使用に適した生物試料である。しかし、神経細胞に加え、具体例としてGFAPを発現する他の細胞としては、例えば、心筋細胞、骨格筋中の筋細胞、肝細胞、腎細胞および精巣中の細胞が挙げられる。上記細胞または上記細胞から分泌される液体を含めた生物試料は、上記非神経細胞に対する損傷の判定および/または特徴付けへの本発明の方法の適用にも使用し得る。
【0068】
対象の具体例としては、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、非ヒト霊長類、ヒト、ラット、モルモット、ハムスターおよびマウスが挙げられる。本発明は任意にヒト対象と関連するため、本発明の方法の対象は、任意にヒトである。
【0069】
本発明から最も恩恵を受ける対象は、異常な神経学的状態を有することが疑われるまたはその発症の危険性のある対象、例えば、外傷性傷害(例えば、銃創、自動車事故、スポーツ事故、揺さぶられ症候群、その他の打撃損傷)により引き起こされる脳損傷、虚血事象(例えば、脳卒中、脳出血、心停止)、神経変性障害(例えばアルツハイマー病、ハンチントン病およびパーキンソン病;プリオン関連疾患;その他の形態の認知症など)、癲癇、薬物乱用(例えば、アンフェタミン、エクスタシー/MDMAまたはエタノールによる)ならびに糖尿病性神経障害、化学療法誘導性神経障害および神経障害性疼痛のような末梢神経系病態などの傷病者である。
【0070】
バイオマーカーのベースラインレベルは、既知の神経学的状態を有さない所望の対象種の標的生物試料において得られるレベルである。これらのレベルは粗濃度で表す必要はなく、代わりに、並行したコントロール実験から識別され、蛍光単位、密度単位などで表し得る。通常、神経学的状態がなければ、GBDPが生物試料中にごく微量に存在する。具体例として、GFAPまたはGBDPに対する自己抗体は、神経学的状態を有することが疑われない対象由来の生物試料中には存在しない。しかし、GFAPおよびGBDPは、ニューロン中に非常に多く存在することが多い。例えば特定の種のニューロン、血漿またはCSF中のGFAP、GBDP、自己抗体およびRNAのベースラインレベルの決定は、当該分野の技術の範囲内である。同様に、その他のバイオマーカーのベースラインレベルの濃度の決定は、当該分野の技術の範囲内である。
【0071】
本明細書で使用される「診断すること」という用語は、神経学的またはその他の状態、例えば損傷または疾患などの有無を識別することを意味する。診断することは任意に、特定の比率またはレベルのバイオマーカーが検出されるかまたは存在しないアッセイの結果を指す。
【0072】
本明細書で使用される「比率」は、標的バイオマーカーのレベルが、第二の試料中の標的バイオマーカーよりも、または同じ標的バイオマーカーの既知のもしくは認められているベースラインレベルよりも高い陽性の比率である。陰性の比率は、標的バイオマーカーのレベルが、第二の試料中の標的バイオマーカーよりも、または同じ標的バイオマーカーの既知のもしくは認められているベースラインレベルよりも低いことを表す。中立な比率は、標的バイオマーカーの変化が観察されないことを表す。したがって、生物試料中で測定されたバイオマーカーの量を、任意にコントロール対象のレベルと比較して、対象におけるレベルが変化したか否かを判定する。したがって、バイオマーカー量の変化は、コントロール対象において測定または予測される値からの体液中のバイオマーカーレベルの変化である。コントロール対象とは、既知の神経学的損傷または疾患を有さない対象のことである。
【0073】
本明細書で使用される用語「投与すること」とは、対象への治療剤の送達のことである。治療剤は、特定の対象に適切であると当業者により判断される経路により投与する。例えば、治療剤を経口的に、非経口的に(例えば、静脈内に、筋肉内注射により、腹腔内注射により、腫瘍内に、吸入によりまたは経皮的に)投与する。必要な治療剤の正確な量は、対象の年齢、体重および全般的状態、治療される神経学的状態の重症度、使用される特定の治療剤、その投与様式などに応じて、対象ごとに異なる。適切な量は、必要以上の実験を行うことなく、本明細書の教示または当該技術分野の知識により示される日常的な実験のみを用いて当業者により決定され得る。
【0074】
生物試料中の1つ以上の向神経活性バイオマーカーの有無を検出する典型的な工程は、ヒトのような対象から生物試料を採取すること、解析されるバイオマーカーの検出が可能な化合物または薬剤(具体例として、プライマー、プローブ、抗体、アプタマーまたは自己抗体バイオマーカー検出などの場合は抗原を含む)と生物試料を接触させること、および洗浄後の化合物または薬剤と試料との結合を解析することを含む。化合物または薬剤と特異的に結合した試料は、解析されるマーカーを発現する。その他の検出方法、具体例として、タンパク質または核酸に特異的な染色物質との接触が同様に使用可能であることが理解される。
【0075】
本発明の工程を用いて、インビトロだけでなくインビボの生物試料中のバイオマーカーも検出し得る。試料中のバイオマーカーを適当なコントロール、例えば検出可能なレベルの解析されるマーカーを発現することが既知である第一の試料(陽性コントロール)および検出可能なレベルの解析されるマーカーを発現しないことが既知である第二の試料(陰性コントロール)などと比較する。例えば、マーカー検出のためのインビトロ技術としては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定法、放射測定法、ウエスタンブロット法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、免疫沈降、免疫蛍光法、質量分析法、RT−PCR、PCR、液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、酵素活性アッセイ、細胞アッセイ、陽電子放射断層撮影、質量分光測定法、これらの組合せまたは当該技術分野で公知のその他の技術が挙げられる。さらに、マーカー検出のためのインビボ技術としては、マーカーと特異的に結合する標識された薬剤を生物試料または対象内に導入することが挙げられる。例えば、生物試料または試験対象中での存在または局在が標準的な画像法により検出可能な放射性マーカーで薬剤を標識し得る。
【0076】
バイオマーカーと特異的に結合することができる、またはバイオマーカーを認識するために使用され得る任意の適当な分子が本発明で使用可能である。自己抗体を検出するための薬剤の具体例は、自己抗体または解析されるバイオマーカーと結合可能な抗体と結合することができる抗原である。任意に、抗体と検出可能な標識とをコンジュゲートする。このような抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであり得る。またインタクト抗体、そのフラグメント(例えば、FabまたはF(ab’))またはその操作されたバリアント(例えば、sFv)も使用し得る。このような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDおよびその任意のサブクラスを含めた任意の免疫グロブリンクラスに属し得る。本発明の多数のバイオマーカーに対する抗体が、当業者に公知の販売業者から入手可能である。具体例として、本発明のバイオマーカーに対する抗体がSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA)より入手可能である。
【0077】
RNA結合およびDNA結合抗体が当該技術分野で公知である。具体例として、RNA結合抗体がファージディスプレイライブラリー由来の一連の抗体フラグメントから合成される。RNA結合抗体を合成するための方法の具体例は、RNA結合抗体の作製法としてその内容が参照により本明細書に組み込まれる、Ye,Jら,PNAS USA,2008;105:82−87に見られる。したがって、RNAベースのバイオマーカーに対する抗体の作製は、当該分野の技術の範囲内である。
【0078】
DNA結合抗体が同様に当該技術分野で公知である。DNA結合抗体の作製法の具体例は、抗DNA抗体の典型的な作製法としてその内容が参照により本明細書に組み込まれる、Watts,RAら,Immunology,1990;69(3):348−354に見られる。
【0079】
任意に、バイオマーカーを検出または測定するための薬剤または化合物を標識する。当業者は、本明細書で使用可能な数多くの標識を認識する。標識および標識用キットは、任意にInvitrogen Corp、Carlsbad、CAから購入できる。標識の具体例としては、蛍光標識、ビオチン、ペルオキシダーゼ、放射性ヌクレオチドまたはその他の当該技術分野で公知の標識が挙げられる。
【0080】
1つ以上のバイオマーカーの存在に関して生物試料を解析するためには、抗体ベースのアッセイが有用である。適当なウエスタンブロット法が下の実施例の節に記載されており、また当該技術分野で公知である。より迅速な解析(救急医療時に重要な場合がある)には、免疫吸着アッセイ(例えば、ELISAおよびRIA)および免疫沈降アッセイを使用し得る。一例として、ニトロセルロース製もしくはPVDF製の膜のような基質;またはポリスチレン製またはその他のプラスチックポリマー製の硬い基質、例えばマイクロタイタープレートなどに生物試料またはその一部分を固定化し、抗体と解析されるバイオマーカーとが結合できる条件下で、GFAPバイオマーカーまたはその他のバイオマーカーの1つと特異的に結合する抗体と、この基質とを接触させる。洗浄後、基質上の抗体の存在により、評価されるマーカーが試料中に含まれていることが示される。抗体が酵素、フルオロフォアまたは放射性同位元素のような検出可能な標識と直接コンジュゲートされている場合、検出可能な標識に関して基質を調べることにより、任意に標識の存在を検出する。あるいは、検出可能に標識したマーカー特異的抗体と結合する二次抗体を基質に加える。洗浄後の基質上の検出可能な標識の存在により、マーカーが試料中に含まれていることが示される。あるいは、バイオマーカーに対する特異的一次抗体を固体基質に結合させるサンドイッチアッセイを使用する。生物試料をプレートでインキュベートし、非特異的に結合した物質を洗浄して取り除く。標識されたまたはその他の方法により検出可能な二次抗体を用いて、一次抗体により基質に付着したバイオマーカーと結合させる。二次抗体結合の検出により、生物試料中のバイオマーカーの存在が示される。
【0081】
上記基本的な免疫測定法の数多くの置き換えも本発明で使用可能である。これには基質上に固定化される試料ではなくバイオマーカー特異的抗体が含まれ、検出可能な標識とコンジュゲートしたバイオマーカーと基質を、抗体と標識マーカーとの結合が生じる条件下で接触させる。次いで、解析されるマーカーと抗体との結合が可能な条件下で、基質と試料を接触させる。洗浄後の基質上の標識可能な基質の量の減少により、試料がマーカーを含んでいることが示される。
【0082】
抗体は広範に特徴付けられているため、本発明において有用であるが、バイオマーカーと特異的に結合する他の任意の適当な薬剤(例えば、ペプチド、アプタマーまたは有機小分子)を、抗体の代わりに上記免疫測定法において任意に使用する。例えば、アプタマーを使用し得る。アプタマーとは、特定のリガンドと結合する核酸ベースの分子である。特定の結合特異性を有するアプタマーの作製法が知られており、米国特許第5,475,096号;同第5,670,637号;同第5,696,249号;同第5,270,163号;同第5,707,796号;同第5,595,877号;同第5,660,985号;同第5,567,588号;同第5,683,867号;同第5,637,459;および同第6,011,020号で詳述されている。
【0083】
バイオマーカー発現の診断検査で使用可能な数多くの検出可能な標識が、当該技術分野で公知である。GFAP関連またはその他のニューロン特異的タンパク質関連のバイオマーカーの検出法で使用する薬剤を、検出可能な標識、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼのような酵素とコンジュゲートさせる。西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した薬剤は、西洋ワサビペルオキシダーゼの存在下で色の変化を生じる適当な基質を加えることにより検出し得る。使用し得るその他の検出可能な標識がいくつか知られている。その一般的な例としては、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、蛍光化合物、発光化合物、コロイド金、磁性粒子、ビオチン、放射性同位元素およびその他の酵素が挙げられる。任意に一次/二次抗体システムを用いて、1つ以上のバイオマーカーを検出されることが理解される。1つ以上のバイオマーカーを特異的に認識する一次抗体を、対象となるバイオマーカーを含有し得る生物試料に曝露する。次いで、一次抗体の種類またはアイソタイプを認識し適当な標識を有する二次抗体を試料と接触させて、試料中の1つ以上のバイオマーカーの特異的検出を行う。
【0084】
いくつかの実施形態では、抗原を用いて自己抗体を検出する。具体例として、GFAPまたは1つ以上のGBDPのような抗原を、PVDF膜のような基質上で分離するか、または基質上に配置し、神経学的状態を有することが疑われる対象由来の血清のような生物試料で膜をプローブし、自己抗体を抗体タイプ特異的抗体、例えば検出可能な標識が結合しているかまたは結合していない単独のまたは抗IgM抗体と組み合わせた抗IgGなどと接触させることにより、自己抗体の存在を検出する。
【0085】
工程では任意に、生物試料中のGBDPまたはそれに対する自己抗体のようなバイオマーカーの存在または量を、神経細胞損傷の重症度および/またはタイプと関連付ける段階を用いる。生物試料中のバイオマーカー量を、外傷性脳損傷のような神経学的状態と関連付ける。バイオマーカーを測定したアッセイの結果は、医師または獣医が損傷した細胞のタイプを推測して損傷のタイプおよび重症度を決定するのに役立ち得る。これらの結果はCTスキャンおよびGCSの結果と一致し、さらに定量的で、迅速に得られ、またコストがかなり低い。
【0086】
本発明は、1つ以上のバイオマーカーの量を正常なレベルと比較して、対象の神経学的状態を判定する段階を提供する。追加のバイオマーカーの選択により、異常な神経学的状態に関与する細胞のタイプだけでなく、例えば軸索損傷マーカーの場合などにおいて、細胞死の性質を同定することが可能となる。本発明の工程の実施により、対象への最適効果のために投与する適切な治療剤または対象への最適効果のために行う適切な治療を医師が決定するのに役立ち得る試験が提供される。本明細書の実施例で提供されるデータは、あらゆる外傷性脳損傷に関して提供されるものであるが、この結果は、虚血事象、神経変性障害、プリオン関連疾患、癲癇、化学的病因および末梢神経系病理に適用可能であることが理解される。任意に性別が考慮される。
【0087】
対象の細胞損傷を解析するためのアッセイも提供される。アッセイは任意に以下のものを含む:(a)損傷神経細胞を有することが疑われる対象から単離した生物試料を保持するための基質であり、かつ試料は、対象から単離される前に対象の神経系とコミュニケートしていた液体である;(b)バイオマーカー特異的結合物質;(c)任意に別のバイオマーカーに特異的な結合物質;および(d)薬剤を生物試料または生物試料の一部分と反応させてバイオマーカーの存在または量を検出するための、および任意に、別のバイオマーカーに特異的な薬剤を生物試料または生物試料の一部分と反応させて生物試料中の少なくとも1つのバイオマーカーの存在または量を検出するための印刷された指示書。本発明のアッセイを用いて、財政的報酬のために神経学的状態を検出し得る。
【0088】
アッセイは任意に、検出可能な標識、例えば薬剤とコンジュゲートした標識または薬剤と特異的に結合する二次抗体のような物質とコンジュゲートした標識などを含む。
【0089】
本発明は任意に、1つ以上の治療剤、例えば標的バイオマーカーの1つ以上の特徴を変化させ得る化合物などの存在を含む。治療剤は任意に、標的バイオマーカーまたはバイオマーカーの上流エフェクターのアゴニストまたはアンタゴニストとして働く。治療剤は任意に、バイオマーカーの下流機能に影響を与える。例えば、アセチルコリン(Ach)は病的な神経興奮に関与し、またTBI誘導性のムスカリン性コリン受容体の活性化は興奮毒性プロセスに寄与し得る。したがって、バイオマーカーは任意に、Achまたはムスカリン受容体のレベルまたは活性に関連する。任意に、使用可能なバイオマーカーは、ムスカリン受容体(1つまたは複数)の活性に影響される分子、タンパク質、核酸またはその他である。したがって、本発明で使用可能な治療剤の具体例としては、ムスカリン性コリン受容体活性化の様々な側面を調節する治療剤が挙げられる。
【0090】
治療標的または治療標的のモジュレーターとして使用可能である具体的なムスカリン受容体としては、M1、M2、M3、M4およびM5ムスカリン受容体が挙げられる。
【0091】
TBIの検出および治療におけるムスカリン性コリン受容体経路の適切性は、実験的TBI(Gormanら,1989;Lyethら,1993a)および虚血(KumagaeおよびMatsui,1991)後の脳脊髄液(CSF)中のACh上昇、ならびにコリン作用薬の適用による高レベルのムスカリン性コリン受容体活性化の有害性(Olneyら,1983;Turskiら,1983)を示した研究によるものである。さらに、ムスカリンアンタゴニストの急性投与により、実験的TBI後の行動回復が改善される(Lyethら,1988a;Lyethら,1988b;LyethおよびHayes,1992;Lyethら,1993b;Robinsonら,1990)。
【0092】
本発明で使用可能な治療用化合物の具体例は、TBIまたはMTBIのようなニューロン損傷の危険性がある、またはその傷病者である対象の治療転帰を変化させる、好ましくは改善するために使用可能である任意の分子、化合物、ファミリー、抽出物、溶液、薬物、プロドラッグまたはその他の機序である。治療剤は任意に、ムスカリン性コリン受容体のアゴニストまたはアンタゴニストのようなモジュレーターである。アゴニストまたはアンタゴニストは、直接的なものでも間接的なものでもよい。任意で間接的アゴニストまたはアンタゴニストは、アセチルコリンまたはその他のムスカリン受容体関連分子を分解または合成する分子、具体例として、アルツハイマー病の治療で現在使用されている分子である。コリン作用薬または同様の分子が本明細書で使用可能である。本明細書で使用可能な治療剤の典型的なリストとしては:ジサイクロミン、スコプラミン(scoplamine)、ミラメリン、N−メチル−4−ピペリジニルベンジラート、NMP、ピロカルピン、ピレンゼピン、アセチルコリン、メタコリン、カルバコール、ベタネコール、ムスカリン、オキソトレモリンM、オキソトレモリン、タプシガルギン、カルシウムチャネル遮断剤またはアゴニスト、ニコチン、キサノメリン、BuTAC、クロザピン、オランザピン、セビメリン、アセクリジン、アレコリン、トルテロジン、ロシベリン、IQNP、インドールアルカロイド、ヒンバシン、シクロステレッタミン、これらの誘導体、これらのプロドラッグおよびこれらの組合せが挙げられる。治療剤は任意に、カルパインまたはカスパーゼのレベルまたは活性を変化させるために使用可能な分子である。このような分子およびその投与は当該技術分野で公知である。
【0093】
本発明の方法は、具体例として、対象における神経学的状態の診断、神経学的状態を有する対象の治療またはその両方を含む。いくつかの実施形態では、工程は、具体例として、対象から生物試料を採取することを含む。生物試料中の1つ以上のバイオマーカーの存在を検出または測定するために、生物試料を当該技術分野で公知の機序によりアッセイする。生物試料中の標的バイオマーカーの量または存在に基づき、任意に1つ以上のバイオマーカーの比率を算出する。任意に比率は、同じ試料もしくは並行試料中の別のバイオマーカーのレベルと比較した1つ以上のバイオマーカーのレベル、または病的な神経学的状態を有さないことが既知である対象における同じバイオマーカーの測定されたもしくは既に確立されたベースラインレベルに対するバイオマーカー量の比率である。この比率により、対象における神経学的状態の診断が可能となる。また本発明の工程では、1つ以上のバイオマーカーの比率を直接的または間接的に変化させる治療剤を任意に対象に投与する。
【0094】
治療剤を任意に、対象の免疫応答を調節するように設計する。具体例として、自己抗体のレベル、産生、分解またはその他の関連するパラメーターは、免疫調節療法により変化する。具体例としてGFAPまたは1つ以上のGBDPに対する自己抗体の存在に適用可能な、多発性硬化症に用いられる治療法などの免疫調節療法の具体例は、当該技術分野で公知である。このような治療法の具体例としては、酢酸グラチラマー(GA)、ベータ−インターフェロン、ラキニモドまたは当該技術分野で公知のその他の治療剤の投与が挙げられる。任意に、治療剤の組合せを免疫調節療法の形態として投与する。組合せの具体例としては、IFNβ−1aとメトトレキサート、IFNβ−1aとアザチオプリンおよびミトキサントロンとメチルプレドニゾロンが挙げられる。その他の適当な組合せは当該技術分野で公知である。
【0095】
また本発明の工程が、多臓器損傷の診断およびに任意に治療のためにも提供される。多臓器の具体例としては、脳、脊髄などのような神経性組織のサブセット、または皮質、海馬などのような脳の特定領域が挙げられる。多臓器損傷の具体例としては、カスパーゼ誘導性GBDPの存在により検出されるアポトーシス性細胞死、およびカルパイン誘導性GBDPの存在により検出可能な膨張細胞死が挙げられる。本発明の工程は、具体例として、対象から採取した生物試料中の複数のバイオマーカーのアッセイであって、生物試料を対象から採取したときに、採取された体液が損傷を受けたことが疑われる臓器またはコントロール臓器と任意に液体で接触していたアッセイを含む。本発明の工程では、複数のバイオマーカーの第一の比率に基づいて、臓器損傷の第一のサブタイプを決定する。また本発明の工程では、生物試料中の複数のバイオマーカーの第二の比率に基づいて、第二の臓器損傷の第二のサブタイプを決定する。比率は、具体例として、本発明に記載のまたは当該技術分野で公知の工程により決定する。
【0096】
本発明の工程における多臓器損層の治療は、具体例として、第一の臓器損傷に応答して活性またはレベルが変化するタンパク質または核酸の活性を調節するのに効果的な少なくとも1つの治療用アンタゴニストまたはアゴニストを対象に投与すること、および第二の臓器損傷に応答して活性が変化するタンパク質または核酸の活性を調節するのに効果的な少なくとも1つの治療用アンタゴニストまたはアゴニストを投与することにより行われる。
【0097】
本発明は、具体例として、対象における神経学的状態の程度を識別するための組成物を含む。本発明の組成物は、薬剤単位または複数の薬剤の混合物である。いくつかの実施形態では、組成物は混合物である。混合物は、対象由来の生物試料を任意に含有する。対象は任意に、神経学的状態を有することが疑われる。生物試料は、対照から単離される前に、対象の神経系とコミュニケートしている。また本発明の組成物は任意に、生物試料中に存在し得る少なくとも2つのバイオマーカーと特異的にかつ独立して結合する少なくとも2つの主要な薬剤、任意に抗体または核酸を含有する。いくつかの実施形態では、第一の主要薬剤は、GFAPまたは1つ以上のGBDPと特異的に結合する抗体中にある。第二の主要薬剤は任意に、ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素、好ましくはUCHL1、またはスペクトリン分解産物と特異的に結合する抗体である。
【0098】
本発明の組成物の薬剤は、任意に固定化またはその他の方法で基質と接触している。また本発明の薬剤は、少なくとも1つの検出可能な標識で任意に標識されている。いくつかの実施形態では、各薬剤の検出可能な標識は固有であり、同じアッセイチャンバまたは別のチャンバのいずれにおいても独立して検出可能である。任意に、主要薬剤の検出またはそれとの結合に特異的な第二の薬剤を、少なくとも1つの検出可能な標識で標識する。非限定的な例では、主要薬剤はウサギ由来抗体である。第二の薬剤は任意に、ウサギ由来一次抗体に特異的な抗体である。抗原と結合する抗体の検出機序は当該技術分野で公知であり、当業者は、生物試料中の抗原またはバイオマーカーの検出に適した数多くの方法および薬剤を容易に思いつく。
【0099】
生物試料中の標的バイオマーカーを結合するのに適切な基質を含むキットも提供される。生物試料は任意に、キットと共に提供されるか、本発明のキットを使用する開業医により採取される。本発明のキットは、少なくとも2つのバイオマーカーと特異的にかつ独立して結合する少なくとも2つの抗体を任意に含む。抗体は、2つのバイオマーカーを識別し得る。任意に、第一の抗体は、第一のバイオマーカーとの結合およびその認識に対して特異的かつ独立である。第二の抗体は、第二のバイオマーカーとの結合およびその認識に対して特異的かつ独立である。このようにして、単一生物試料中の複数のバイオマーカーの有無を判定または識別し得る。生物試料中の抗体の具体例としては、バイオマーカーのαII−スペクトリン、αII−スペクトリン分解産物(SBDP)、ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素、GFAP、GBDPおよびMAP2タンパク質に対する抗体が挙げられる。また本発明のキットは、生物試料中のバイオマーカーの存在または量を検出するように抗体を生物試料または生物試料の一部分と反応させるための説明書も含む。
【0100】
キットでは、生物試料はCSF、血液、尿または唾液であり得、薬剤は神経学的状態の少なくとも1つのバイオマーカーと特異的に結合する抗体、アプタマー、プライマー、プローブまたはその他の分子であり得る。適当な薬剤が本明細書に記載されている。またキットは、検出可能な標識、例えば薬剤とコンジュゲートしている標識または薬剤と特異的に結合する物質(例えば、二次抗体)とコンジュゲートしている標識なども含み得る。
【0101】
本発明では任意に、生物試料中のバイオマーカーの存在もしくは量を、神経細胞(もしくはその他のバイオマーカー発現細胞)損傷の重症度および/またはタイプと関連付ける段階を用いる。生物試料中のバイオマーカー(1つまたは複数)の量は、神経組織損傷の重症度と直接関連し、損傷ダメージが重症であるほど、生物試料(例えば、CSF;血清)中に多量のバイオマーカー(1つまたは複数)を蓄積させる神経細胞が多い。神経細胞損傷がアポトーシス型および/または壊死型の細胞死を誘発するか否かも、具体例として生物試料中に存在するGBDPを調べることにより判定し得る。壊死性細胞死ではカルパインが優先的に活性化されるのに対し、アポトーシス性細胞死ではカスパーゼ−3が優先的に活性化される。カルパインおよびカスパーゼ−3GBDPは識別可能であるため、2つのマーカーの測定により対象における細胞損傷のタイプが示される。また、生物試料中に存在するUCHL1および/またはGFAPの動態程度のレベルでも、任意に軽度の損傷と重度の損傷を識別し得る。具体例では、重度のMCAO(2h)では、軽度の攻撃(30分)に比べてCSFおよび血清両方のUCHL1の増加が生じ、また両者では未損傷対象を上回るUCHL1レベルを生じる。さらに、生物試料中のマーカーの持続性または動態程度は、損傷の重症度の指標となり、大きな損傷ほど、具体例として対象のGBDP、UCHL1またはSBDPの持続性増加を示し、このことは、損傷後のいくつかの時点で本発明の工程により生物試料において測定される。
【0102】
このような試験の結果は、特定の治療剤、例えばカルパインおよび/またはカスパーゼ阻害剤またはムスカリン性コリン受容体アンタゴニストまたは任意の免疫調節剤などの投与が患者に有効であるか否かを医師が決定するのに役立ち得る。この方法は、細胞死機序の年齢および性別による違いを検出する上で特に重要であり得る。
【0103】
その他の試薬、例えばアッセイグレードの水、緩衝剤、膜、アッセイプレート、二次抗体、塩類およびその他の補助試薬が当業者に公知の販売業者から入手可能であることが理解される。具体例として、アッセイプレートはCorning社(Corning、NY)から入手可能であり、試薬はSigma−Aldrich社(St.Louis、MO)から入手可能である。
【0104】
従来の生物学的技術を含む方法が本明細書に記載されている。このような技術は一般に当該技術分野で公知であり、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版,第1−3巻,Sambrookら編,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2001;Current Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,Greene Publishing and Wiley−Interscience,New York,1992(定期更新を含む);およびShort Protocols in Molecular Biology,Ausubelら編,第52版.,Wiley−Interscience,New York,2002などの方法論の専門書で詳述されている。免疫学的方法(例えば、抗原特異的抗体の調製、免疫沈降およびイムノブロッティング)が、例えば、Current Protocols in Immunology,Coliganら編,John Wiley & Sons,New York,1991;およびMethods of Immunological Analysis,Masseyeffら編,John Wiley & Sons,New York,1992に記載されている。
【0105】
PCRプロトコールのようなさらなるプロトコールを、A Guide to Methods and Applications Academic Press,NYに見ることができる。タンパク質精製法としては、硫酸アンモニウム沈殿法、カラムクロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離、結晶化およびその他が挙げられる。例えば、Ausubelら(1987年および定期的追補);Deutscher(1990)“Guide to Protein Purification,”Methods in Enzymology 第182巻および本シリーズの他の巻;Current Protocols in Protein Science,John Wiley and Sons,New York,NY;ならびに当業者に公知のタンパク質精製用製品の使用に関する製造者の文献を参照されたい。
【0106】
神経細胞の生物学的活性のアッセイが、例えば、Wouterlood(編、1995)Neuroscience Protocols modules 10,Elsevier;Methods in Neurosciences Academic Press;およびNeuromethods Humana Press,Totowa,NJに記載されている。
【0107】
本発明の様々な態様を以下の非限定的な実施例により説明する。実施例は例示が目的であり、本発明のいかなる実施も制限するものではない。本発明の精神および範囲を逸脱することなく変更および修正を行い得ることが理解されるであろう。実施例は一般に、哺乳動物組織、特にラット組織の解析を対象としたものであるが、当業者は、同様の技術および当該技術分野で公知のその他の技術により、実施例がヒトのような他の哺乳動物に容易に置き換えられることを認識する。本明細書に例示されている試薬は、一般に哺乳動物種間で交差反応するものであり、また同様の特性を有する別の試薬が市販されており、当業者は、このような試薬が入手可能な場所を容易に理解する。本発明の概念の範囲内の変更は当業者に明らかである。
【実施例】
【0108】
実施例1:バイオマーカー解析のための材料
本発明の実施の際に使用する試薬の具体例としては、炭酸水素ナトリウム(Sigma カタログ番号:C−3041)、ブロッキング緩衝液(Startingblock T20−TBS)(Pierce カタログ番号:37543)、Tween20を含むトリス緩衝生理食塩水 (TBST;Sigma カタログ番号:T−9039)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS;Sigma カタログ番号:P−3813);Tween20(Sigma カタログ番号:P5927);Ultra TMB ELISA(Pierce カタログ番号:34028);およびNunc maxisorp ELISAプレート(Fisher)が挙げられる。モノクローナルおよびポリクローナルのGFAPおよびUCHL1抗体は、自社製またはSanta Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CAから入手したものである。αIIスペクトリン、GFAPおよび分解産物、ならびにMAP2、MBP、ニューロファシン、IgGおよびIgMに対する抗体は、Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CAから入手可能である。
【0109】
完全長タウに対する抗タウ抗体はSanta Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CAから購入する。タウ−BDPに特異的な抗体を作製するために、カスパーゼ−3生成C末端タウ分解産物(タウBDP−45K)の配列である合成ペプチド(Cys−C−SIDMVD−COOH)(配列番号1)(Chungら,2001)、およびカルパイン仲介性タウBDP−35KのN末端を表す第二のペプチド(NH2−KDRTGN−C−Cys)(配列番号2)をペプチド合成による特別注文品である(California Peptide、Napa、CA)。後のスルホ連結架橋試薬(Pierce)を用いたペプチドとキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)タンパク質とのカップリングのために、CリンカーおよびN末端システインを導入する。カップリング効率の決定後に、ペプチドを透析して濃縮する。注射により2mgのコンジュゲートタンパク質でウサギを免疫化する。3ヵ月後に血清試料を採取し、スルホ連結樹脂(Pierce)とカップリングした、試料に抗体産生させた合成ペプチドを用いてアフィニティー精製する。次いで、アフィニティー精製抗体をTBS(20mMトリスHCl、pH7.4、150mM NaCl)に対して透析し、−20℃、50%グリセロール中での保存のために濃縮する。
【0110】
数多くの抗体サブタイプに対する標識がInvitrogen社、Carlsbad、CAから入手可能である。生物試料中のタンパク質濃度を、アルブミン標準品によるビシンコニン酸微小タンパク質アッセイ(Pierce Inc.、Rockford、IL、USA)を用いて決定する。その他のすべての必要な試薬および材料は当業者に公知であり、容易に確認できる。
【0111】
実施例2:バイオマーカーアッセイの開発
抗バイオマーカー特異的ウサギポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体ならびに抗原を研究室で作製するか、または市販のものを購入する。標的バイオマーカーを検出するための抗体の反応特異性を判定するために、既知量の単離されたまたは部分的に単離されたバイオマーカーを解析するか、または組織パネルをウエスタンブロットによりプローブする。ELISAプレートに結合させた組換えバイオマーカータンパク質による間接ELISAを用いて、アッセイで使用する抗体の最適濃度を決定する。マイクロプレートをウサギポリクローナル抗ヒトバイオマーカー抗体でコーティングする。最大シグナルのウサギ抗ヒトバイオマーカー抗体濃度を決定した後、間接ELISAの検出下限を各抗体に関して決定する。適当な希釈試料を、ウサギポリクローナル抗ヒトバイオマーカー抗体と2時間インキュベートし、次いで洗浄する。次いで、ビオチン標識モノクローナル抗ヒトバイオマーカー抗体を加え、捕捉されたバイオマーカーとインキュベートする。十分に洗浄した後、ストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートを加える。1時間のインキュベーションおよび最後の洗浄段階の後、残ったコンジュゲートを過酸化水素テトラメチルベンザジンの基質と反応させる。酸性溶液の添加により反応を停止させ、得られた黄色反応産物の吸光度を450メートルで測定する。吸光度はバイオマーカーの濃度に比例する。較正物質試料を用いて、吸光度値をバイオマーカー濃度の関数としてプロットすることにより標準曲線を作成し、この標準曲線を用いて未知試料の濃度を決定する。
【0112】
実施例3:TBIのインビボモデル:
制御式皮質衝撃(CCI)装置を用いて、既に記載されている通りにラットでTBIモデルを作製する(Pikeら,1998)。成体雄(280〜300g)Sprague−Dawleyラット(Harlan:Indianapolis、IN)を、1:1O/NOのキャリヤガス中4%のイソフルランで麻酔し(4分)、同じキャリヤガス中2.5%のイソフルランで維持する。中核体温を直腸内サーミスタプローブにより継続的にモニターし、ラットの下に調節可能な温度制御式加温パッドを敷いて37±1℃に維持する。ラットを腹臥位で定位フレームに載せ、耳棒および切歯棒で固定する。正中頭蓋切開および軟組織反転を行った後、ブレグマとラムダの中間部分、中央縫合のすぐ横で片側(衝撃部位と同側)開頭(直径7mm)を行う。皮質を覆う硬膜はそのままにしておく。直径5mmのアルミニウム製インパクタ先端部(空気圧シリンダー内に収納されている)を用いて、圧縮1.6mmおよび休止時間150ms、3.5m/秒の速度で右側(同側)皮質に衝撃を与えて脳外傷を生じさせる。偽損傷コントロール個体には同じ外科処置を行うが、衝撃損傷は与えない。適切な損傷前および損傷後を行って、Florida大学の動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)記載のガイドラインおよび実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)で詳述されている米国国立衛生研究所ガイドラインを確実に遵守する。さらに、動物および動物実験に関連した動物福祉法(Animal Welfare Act)ならびにその他の連邦の制定法および規制に従って、また「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals,NRC Publication,1996年版」に記載されている原則に忠実に従って研究を行う。
【0113】
実施例4:中大脳動脈閉塞(MCAO)損傷モデル:
イソフルラン麻酔(導入チャンバを介した5%イソフルラン、次いでノーズコーンを介した2%イソフルラン)の下で温置し、正中頸部切開によりラットの右側総頸動脈(CCA)を外頸動脈および内頸動脈(ECAおよびICA)分岐レベルで露出させる。ICAを吻側に翼口蓋部の分岐までたどり、ECAを結紮して、その舌部および上顎部の分岐を切る。次いで、ECA断端の切開部分から3−0ナイロン縫合糸をICAに挿入し(血管壁を通して縫合糸の進路を視覚的に監視する)、前大脳動脈の狭窄部で詰まり中大脳動脈の起点を塞ぐまで、頸動脈管内を頸動脈分岐から約20mm進める。次いで皮膚の切開を閉じ、血管内の縫合糸を所定の位置で30分または2時間放置する。ラットを短時間、再び麻酔した後、縫合糸を引き抜いて再灌流させる。偽MCAO手術では、同じ手順に従うが、糸は内外頸動脈分岐から10mmだけ進め、ラットを屠殺するまで所定の位置に放置する。すべての外科的処置の間、保温毛布(Harvard Apparatus、Holliston、MA、U.S.A.)でマウスを37±1℃に維持した。各実験の終わりに、ラット脳が剖検時に、くも膜下出血の病理学的証拠を示した場合、それを実験から除外することに留意することが重要である。適切な損傷前および損傷後の管理を行って、動物の管理と使用のガイドラインをすべて確実に遵守する。
【0114】
実施例5:組織および試料の調製:
損傷後の適当な時点(2、6、24時間および2、3、5日)でマウスを麻酔し、断頭により直ちに屠殺する。脳を素早く取り出し、氷冷PBSで洗浄して二等分する。右半球(衝撃部位周辺の大脳皮質および海馬)を素早く解剖し、氷冷PBSで洗浄し、液体窒素で急速凍結させ、使用するまで−80℃で保管する。免疫組織化学用に、脳を乾燥氷スラリーで急速に凍結させ、SUPERFROST PLUS GOLD(登録商標)(Fisher Scientific)スライド上にクリオスタットで切片(20μm)を作製し、次いで使用するまで−80℃で保管する。左半球では、右側と同じ組織を採取した。ウエスタンブロット解析用に、脳試料を乾燥氷上で小型の乳鉢と乳棒のセットを用いて微粉末に粉砕する。次いで、粉砕した脳組織粉末を、50mMトリス(pH7.4)、5mM EDTA、1%(v/v)TritonX−100、1mM DTT、1×プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche Biochemicals)の緩衝剤中、4℃で90分間、溶解させた。次いで、脳ライセートを4℃で5分間、15,000×gで遠心分離して清澄化し、不溶性の残骸を除去して、急速凍結させ、使用するまで−80℃で保管する。
【0115】
ゲル電気泳動およびエレクトロブロットでは、蒸留HO中0.25Mトリス(pH6.8)、0.2M DTT、8%SDS、0.02%ブロモフェノールブルーおよび20%グリセロールを含有する2×ローディング緩衝液によるドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)用に、清澄化したCSF試料(7μl)を調製する。1レーン当たり20マイクログラム(20μg)のタンパク質を、10〜20%トリス/グリシンゲル(Invitrogen、カタログ番号EC61352)上で、130Vで2時間、SDS−PAGEにより通常通りに分離する。電気泳動後、分離されたタンパク質を、セミドライ転写ユニット(Bio−Rad)で、39mMグリシン、48mMトリス−HCl(pH8.3)および5%メタノールを含有する転写緩衝液中、外界温度下、20Vの一定電圧で2時間、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に横方向に転写する。電気転写後、TBS中5%の脱脂乳および0.05%Tween−2(TBST)中、外界温度で膜を1時間ブロッキングし、次いで、製造者の推奨通りに、4℃で一晩、5%脱脂乳を含むTBST中1:2000の希釈の一次モノクローナルGFAP抗体とインキュベートする。この後、TBSTで3回洗浄し、外界温度でビオチン化連結二次抗体(Amersham、カタログ番号RPN1177v1)と2時間インキュベートし、ストレプトアビジンコンジュゲートアルカリホスファターゼ(BCIP/NBT試薬:KPL、カタログ番号50−81−08)と30分間インキュベートする。多色の分子量標準品(Amersham、カタログ番号RPN800V)を用いて、インタクトのバイオマーカータンパク質の分子量を評価する。コンピュータ支援によるデンシトメトリースキャン(Epson XL3500スキャナ)およびImageJソフトウェア(NIH)による画像解析により、インタクトのGFAP、UCHL1またはSBDPタンパク質レベルの半定量的評価を行う。
【0116】
実施例6:ニューロン損傷のバイオマーカーとしての分解産物
実施例3に記載のラットでのCCIの後、実施例5の通りにCSFを調製する。抗GFAP抗体を用いたウエスタンブロット法により、CCI損傷後に経時的なGFAPの増加が明らかになっている(図1A、1B)。同様に、GFAPのレベルがCCI後に経時的に増加し、損傷後14日目に統計的に有意な最大レベルとなる(図1C)。ラット同側皮質におけるGFAPおよびGBDPのレベルも測定し、偽(1つまたは複数)処置個体に比べて増加したレベルが示される(図2)。これらのデータは、重度TBIと同様の、CCI後のCSFおよび神経組織におけるGFAPおよびGBDPの増加を示している。
【0117】
ニューロンにおけるGFAPの分解は損傷に特異的である。実施例3の偽処置個体のラット脳組織ライセートおよび非TBIの死体由来のヒト脳試料を、2つのレベルのカルパイン−2およびカスパーゼ−3で処置し、次いで、GFAPおよびGBDPまたはSBDPに対する一次抗体を用いてウエスタンブロットを行う。図3は、カルパイン−2によるラット脳ライセートのインビトロ消化が、消化ヒト脳ライセートと重なり合うGBDPを示すことを示している。ラット脳のカスパーゼ−3切断により、CCI処置ラットと同様のGBDPが明らかになった(図3)。
【0118】
同様に、CCI後のラットCSFにおいて、損傷後24時間および7日後の両方でSBDP150/145のレベルが増加する(図3B)。
【0119】
混合したグリア/ニューロン培養物のライセートを、各種処置後にGBDPの存在に関して調べる。培養物を得るために、1日齢のSprague−Dawleyラット脳から大脳皮質細胞を採取し、Nathら,J.Neurochem.,1998;71:186−195の方法に従って、ポリ−L−リジンでコートした6ウェル培養プレート(Erie Scientific、Portsmouth、NH、USA)上に4.36×105細胞/mLの密度で播く。培養物を、加湿恒温器内で、37℃、10%COの雰囲気中、10%ウシ胎仔血清を含むDulbeccoの改変Eagle培地(DMEM)で維持する。培養の5日後、培地を5%ウマ血清を含むDMEMに交換する。それ以降の培地交換は週3回行う。アストログリアが形態学的に成熟したニューロンの下にコンフルエントな単層を形成した10〜11日目に、インビトロの実験を行う。
【0120】
未処置コントロールに加えて、以下の条件を調べた:メトトレキサート(MTX)(1μM);カルパインおよびカスパーゼ−3を24時間活性化するアポトーシス誘導剤スタウロスポリン(STS)(0.5μM;Sigma,St.Louis,MO)(Zhangら,2009);カスパーゼ主体の攻撃としてのCa2+キレート剤エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(5mM;Sigma)で最大24時間(Waterhouseら,1996;Chiesaら,1998;Mizunoら,1998;McGinnisら,1999;Zhangら,2009)。薬理学的介入では、STS、EDTAまたはMTX攻撃の1時間前にカルパイン阻害剤SNJ1945(Senju Pharmaceuticals、Kobe、Japan)または汎カスパーゼ阻害剤Z−VAD(OMe)−FMK(R&D、Minneapolis、MN)で培養物を前処置した(Shirasakiら,2005;3Okaら2006;Koumuraら,2008)。
【0121】
MTX処置した培養細胞は、SJA処置を用いたGBDPの減少およびVAD処置による阻害の欠如により示されるように、GFAPのカルパイン特異的切断を示した(図4)。これに対しEDTA処置では、SJA処置による効果がないこと、およびVAD処置によるGBDPがないことで示されるように、カスパーゼ仲介によるGDBP形成が生じる。アポトーシス誘導剤STSでの処置では、カルパインおよびカスパーゼの両方による均衡のとれたGFAP切断が示された。
【0122】
神経細胞においてカルパインおよびカスパーゼにより仲介されるGFAPの切断部位を特定するために、異なるレベルのカルパインまたはカスパーゼによる切断を組換えGFAPに対して行う。図5は、クーマシーブルー染色、組換えGFAPに関連したC末端タグの検出により検出されたGFAP消化を示し、また抗GFAP抗体でのウエスタンブロット法により、カルパインおよびカスパーゼの両方による良好な切断を示している。クーマシーブルー染色したゲルからGBDPバンドを切り出し、N末端配列決定を行うことにより、カルパイン2によるAsn59(GALN59AGFKETRASERAE)(配列番号3)での切断により、新たなC−末端VDFSLAGALN−COOH(配列番号139)を有するGBDPおよび新たなN−末端NH−AGFKETRASE(配列番号140)を有するGBDP、ならびにThr383(TIPVQT383FSNLQIRET)(配列番号4)での切断により、新たなC−末端ENRITIPVQT−COOH(配列番号141)を有するGBDPおよび新たなN−末端NH−FSNLQIRETS(配列番号142)を有するGBDPが生成され、組換えヒトGFAPでは全体として49〜38kDaの間の複数のGBDPが生成されることが明らかになっている。
【0123】
CCIの48時間後のラット海馬におけるタウの分解産物が、その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,456,027号で同定されている。CCI損傷による実験的TBI後に、そのラットタウが切断されて分子量40〜55kDa、36kDa、26kDa、18kDaおよび13kDaのTBDPが生成されることが示された。切断部位とニューロン損傷の特定タイプとの関連性は不明であった。タウにおける切断部位は、カルパイン2またはカルパイン1を用いた組換えラットタウのインビトロ消化により同定される。消化後、SDS−PAGEにより切断フラグメントを分離し、クーマシーブルーで染色し、バンドを切り出して、N末端配列決定を行う。配列の結果を既知のラットタウの配列と比較する。完全長ラットタウをカルパインおよびカスパーゼによる切断部位と共に図6に示す。
【0124】
【表6】

【0125】
カルパインは、ラットタウをLys43(LK43ESPPQPPADD(配列番号6))で切断して、新たなC−末端QEGDMDHGLK−COOH(配列番号115)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−QEGDMDHGLK(配列番号116)を有するTBDPを生成し;Ser120(AGHVTQARMVS120KDRTGNDEK(配列番号7)で切断して、新たなC−末端VTQARVAGVS−COOH(配列番号117)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−KDRTGNDEKK(配列番号118)を有するTBDP、Val220(PTREPKKVAVV220RTPPKSPSAS(配列番号8))で切断して、新たなC−末端TREPKKVAVV−COOH(配列番号119)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−RTPPKSPSAS(配列番号120)を有するTBDPを生成し;Arg370(KIETHKLTFR370ENAKAKTDHGAEI(配列番号9))(図5)で切断して、新たなC−末端KIETHKLTFR−COOH(配列番号121)を有するBDPおよび新たなN−末端NH−ENAKAKTDHG(配列番号122)を有するBDPを生成する。カスパーゼ−3は、ラットタウをAsp412(SSTGSIDMVD412SPQLATLA(配列番号10))で切断して、新たなC−末端SSTGSIDMVD−COOH(配列番号123)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−SPQLATLADE(配列番号124)を有するTBDPを生成する。
【0126】
ヒトタウは、同様の位置でカルパインおよびカスパーゼにより切断される。表7はヒトタウにおける切断位置を示す。
【0127】
【表7】

【0128】
ヒトTBDPはカルパイン切断によりヒトタウから生成され、Ser129(AGHVTQARMVS129KSKDGTGSDD(配列番号12))での切断で、新たなC−末端GHVTQARMVS−COOH(配列番号125)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−KSKDGTGSDD(配列番号126)を有するTBDPが生成され、Val229(PTREPKKVAVV229RTPPKSPSSA(配列番号13))での切断で、新たなC−末端TREPKKVAVV−COOH(配列番号127)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−RTPPKSPSSA(配列番号128)を有するTBDPが生成され、Gly157(GKTKIATPRG157AAPPGQKGQANATRITA(配列番号14))での切断で、新たなC−末端GKTKIATPRG−COOH(配列番号129)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−AAPPGQKGQA(配列番号130)を有するTBDPが生成され、Lys44((LK44ESPLQTPTED(配列番号15))での切断で、新たなC−末端QEGDTDAGLK−COOH(配列番号131)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−ESPLQTPTED(配列番号132)を有するTBDPが生成され、Arg379(KIETHKLTFR379ENAKAKTDHGAEI(配列番号16))での切断で、新たなC−末端KIETHKLTFR−COOH(配列番号133)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−ENAKAKTDHG(配列番号134)を有するTBDPが生成される。ヒトタウにおけるカスパーゼ切断部位は、新たなC−末端GTYGLGDRKD−COOH(配列番号135)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−QGGYTMHQDQ(配列番号136)を有するTBDPを生成するAsp25(GDRKD25QGGYTMHQD(配列番号17))、ならびに新たなC−末端SSTGSIDMVD−COOH(配列番号137)を有するTBDPおよび新たなN−末端NH−SPQLATLADE(配列番号138)を有するTBDPを生成するAsp421(SSTGSIDMVD421SPQLATLA(配列番号18))である。ヒトタウの全体的なニューロン損傷切断経路を図6に示す。
【0129】
タウBDP−45K(カスパーゼ)およびタウBDP−35K(カルパイン)に対して抗体を産生させる。カスパーゼ−3により生成されたタウBDP−45KのタウC末端に基づくペプチド(Cys−C−SIDMVD)(配列番号1)(Chungら,2001)およびカルパイン仲介性タウBDP−35Kの新たなN末端に基づく別のペプチド(KDRTGNDEK−C−Cys)(配列番号19)は、特別注文品である(California Peptide、Napa、CA)。TBDPに特異的な抗体に対するその他の典型的なエピトープを表8に示す。
【0130】
【表8】

【0131】
後のスルホ連結架橋試薬(Pierce)を用いたペプチドとキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)タンパク質とのカップリングのために、CリンカーおよびN末端システインを導入する。カップリング効率の決定後に、ペプチドを透析して濃縮し、2mgのコンジュゲートタンパク質を2匹のウサギへの複数回の抗原注射に使用する。3ヵ月後にウサギから血清試料を採取し、スルホ連結樹脂(Pierce)とカップリングした同じ合成ペプチドを用いてアフィニティー精製する。アフィニティー精製抗体をTBS(20mMトリスHCl、pH7.4、150mM NaCl)に対して透析した後、濃縮し、50%グリセロール中、−20℃で保存する。
【0132】
特定の切断産物に対するさらなる抗体も作製する。使用される抗原には以下のものが含まれる:ヒトおよびラットにおけるTBDP−45K(カスパーゼ)に特異的な抗体を作製するためのCys−eAhx−SSTGSIDMVD−OH(配列番号40);ヒトおよびラットTBDP−14K−20K(カルパイン)に特異的な抗体を作製するためのCys−C6−PTREPKKVAVV(配列番号41);ヒトTBDP−35K(カルパイン)に対するNH2−KSKDGTGSDD−C6−Cys(配列番号42);ヒトTBDP−14kに対するESPLQTPTED−C6(配列番号43);およびヒトTBDP−10kC末端に対するCys−C6−HVTQARMVS(配列番号44)。参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第2005/0260697号に示されるその他の抗体も作製する。
【0133】
ラットタウタンパク質(100ng)をカルパイン−2またはカスパーゼ−3で消化する。得られたフラグメントをSDS−PAGEにより分離し、産生された抗体でのウエスタンブロットによりプローブする。カルパイン−1および−2が共にタウを消化して、いくつかの免疫反応性のフラグメント(42kDa、35kDaおよび15kDa)を生じるのに対し、カスパーゼ−3消化は48kDa/45kDaの限られた一対のフラグメントのみを生じる(図7)。タウBDP−35K(カルパイン)およびタウBDP−45K(カスパーゼ)抗体によるプロービングにより、抗体のフラグメント特異性およびインタクトタンパク質またはその他のフラグメントとの交差反応性がないことが確認される。
【0134】
TBDP抗体をヒトタウBDPとの交差反応に関して解析する。精製ヒトタウを未処置、カルパイン−2処置またはカスパーゼ−3処置に供してTBDPを生成させる。これらを、上記のMTXまたはEDTA処置したラット大脳皮質培養細胞(CTX)、ならびに未処置またはTBIの同側海馬(IH)または同側皮質(IC)モデルと比較する。図8に示すように、得られたフラグメントをSDS−PAGEにより分離し、抗全タウモノクローナル抗体でプローブする。ヒトタウのカルパインまたはカスパーゼでの処置により、数多くの分解産物が生じる。MTX処置したCTX細胞ではタウのカルパイン特異的切断が明らかとなり、EDTA処置したCTX細胞ではタウのカスパーゼ特異的切断が示される。TBI後のタウのプロテアーゼ仲介性切断をIHおよびICのTBIモデルにおいて示す(図8A)。抗TBDP−35K特異的抗体はヒトタウに対して交差反応性を示さない(図8B)。
【0135】
TBDP特異的抗体を用いて、未処置のまたは以下のものによる処置を行ったラット大脳皮質培養物をプローブする:興奮毒性攻撃NMDA―(Nathら,1998);カルパインおよびカスパーゼ−3を24時間活性化するアポトーシス誘導剤スタウロスポリン(STS)(0.5μM)(Zhangら,2009);またはカスパーゼ主体の攻撃としてのCa2+キレート剤およびアポトーシス誘導剤エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(Waterhouseら,1996;Chiesaら,1998;Mizunoら,1998;McGinnisら,1999;Zhangら,2009)。NMDA、EDTAおよびSTS処置は、それぞれインビトロで広範な神経変性を生じさせる。NMDAが壊死/アポトーシスの混合した形質を誘導するのに対し、STSおよびEDTAは共に強いアポトーシス形質を生じさせる(図9)。
【0136】
ラット大脳皮質培養物ライセートを、全タウ抗体またはフラグメント特異的抗体でプローブする。NMDA処置では、タウが著しく分解されて、カルパイン仲介性タウBDP−35Kの優勢なシグナルおよび最小のカスパーゼ仲介性タウ−BDP45Kを含めた複数のフラグメント(42K、35Kおよび15K)を生じる(図10)。カスパーゼ阻害剤(Z−VAD;20μM)は、タウ分解パターンの有意な変化を生じさせない。阻害剤(SNJ−1945;20μM)は、いくつかの高分子量フラグメント(425〜48K)は残るが、低分子量のフラグメントを有意に減少させ、そのうちカルパイン仲介性タウBDP−35Kは完全にブロックされる。抗カスパーゼ仲介性タウ−BDP45K抗体でブロットをプローブすると、タウBDP−45/48Kがカルパイン阻害剤−NMDA共処置のレーンで検出されることは興味深い。NMDA処置により、カスパーゼ−3仲介性SBDP120の微量のバンドと共に、顕著なカルパイン仲介性SBDP150/SBDP145が得られる。これらのフラグメントは、それぞれのプロテアーゼ阻害剤(SNJ、Z−VAD)により強く阻害される。まとめると、上記データは、NMDA系列では、カルパインがタウ断片化の優位な経路であり、カスパーゼの寄与は少ないということ示している。
【0137】
アポトーシス阻害剤EDTAを用いた場合、全タウのブロットおよびカスパーゼ仲介性抗タウ−BDP45Kのブロットにより確認されるように、タウはタウ−BDP48K/45Kへのみ切断される(図10)。両フラグメントは、カスパーゼ阻害剤(Z−VAD)感受性であるが、カルパイン阻害剤(SNJ−1945)に対しては非感受性である。したがって、EDTA攻撃では、端的なカスパーゼ優位のタウ断片化条件が生じる。EDTA攻撃によるαII−スペクトリン分解パターンにより、カスパーゼ仲介性SBDP120の存在が確認されるが、カルパイン生成フラグメントSBDP145は確認されない。
【0138】
スタウロスポリン処置では、高分子量(45〜48K)と低分子量(35K、15K)のタウ−BDPのバランスが示される(図10)。48/45Kフラグメントはカスパーゼ仲介性であり、これはタウ−45Kフラグメント特異的抗体のブロットおよびそのカスパーゼ阻害剤(Z−VAD)に対する感受性により確認される。同様に、タウBDP−35K特異的抗体およびそのカルパイン阻害剤SNJ−1945に対する感受性によりカルパインの関与が確認される。カルパインとカスパーゼ両方の二重関与を示す全タウのブロットおよび抗タウ−48/45Kのブロットから、カルパイン阻害剤の存在がタウ−DBP−48k/45Kを強力に上昇させたということは重要である。このことは、αII−スペクトリンの分解パターンとも一致する。STS処置により、タウ断片化においてカルパインとカスパーゼの両方の二重でありかつバランスのとれた寄与が存在する神経変性系列が生じる。
【0139】
ラットにおけるCCI損傷によりTBDPが生じる。実施例3のようにCCI損傷後に採取した皮質および海馬組織試料を溶解させ、SDS−PAGEによりタンパク質を分離した後、ウエスタンブロット法を行って特定のTBDPの存在を確認する。ラット皮質では、CCI後に、早くも2時間で急速に増加し、6時間後までに最大レベルに達する(図11A、11B)。続いて、損傷後48時間にレベルが低下する。TBDP−25Kはより緩やかな増加を示し、48時間後に最大レベルに達する(図11A、11B)。他のタウ−BDPも観察される。偽処置およびCCI後の両方において観察される数多くのバンドは、タウタンパク質のリン酸化状態およびアイソフォームを数多く示している。反対側の皮質では、タウの免疫ブロットを意図的に過剰に展開させても全3群でタウタンパク質分解は観察されない(データ不掲載)。ラット海馬では、損傷後2時間でTBDP−15Kが現れ、24時間で最大レベルが観察される(図11C、11D)。同様の結果がTBDP−35Kで観察される(図11C、11D)。全体的には、インビトロでのカルパイン仲介性タウタンパク質断片化のパターン(タウBDP−35K、25Kおよび15K)(図7)は、TBI後のインビボでのタウタンパク質分解(図11)とよく一致する。制御式皮質衝撃装置は皮質を標的とするため、打撲性の力により間接的に衝撃を与えた海馬組織よりも、同側皮質組織における方が大きな局所的損傷を生じる。その結果、皮質では海馬よりも広範なタウタンパク質分解が存在する。
【0140】
同じ試料をTBDP特異的を用いてプローブする。図12Aは、ラットにおいてTBDP−35Kを生成する特異的カルパイン活性があること、およびCCI後のラット皮質におけるカスパーゼ仲介性切断がないことを示している。同様の結果がラット海馬において観察される(図12B)。したがって、損傷皮質において、CCI誘導性神経変性はカルパイン仲介性TBDPの形成および蓄積を伴い、カスパーゼ生成タウフラグメントに対してわずかに寄与するのみである。
【0141】
抗活性化カルパイン−1新規N末端(抗LGRHENA)(配列番号39および149)抗体またはプロカルパイン−2N末端(抗SHERAIK)(配列番号38および148)抗体を用いて、タウBDP−35Kのカルパイン−1およびカルパイン−2の一時的な活性化プロファイルを調べる。図13は、損傷皮質におけるカルパイン−1(A)およびカルパイン−2(B)両方の活性化を示している。カルパイン−1は2日目および3日目に初期ピークがあり、その後低下したのに対し(図13A)、カルパイン−2は同様に2日目にピークに達するが、3〜5日持続した(図13B)。カルパイン−1活性化は、カルパイン特異的TBDP−35Kの出現と非常によく一致する。
【0142】
タウのカルパイン仲介性切断は、CCI直後に投与する(100mg/kg、ボーラス静注)カルパイン阻害剤SNJ−1945を用いたその阻害によりさらに示される。皮質組織のプローブをTBDP−35K特異的抗体によるイムノブロッティングに供する。SNJ−1945によりTBDP−35K増加が抑制される(図14)。したがって、カルパイン−1は、TBI後の主要なタウ切断プロテアーゼとして働く。
【0143】
実施例7:重度ヒト外傷性脳損傷調査
調査には、重度外傷性脳損傷を有する46例のヒト対象が含まれていた。各対象は、年齢が19歳以上、GCSが8以下であり、かつ日常的な治療の一部として脳室フィステル形成術および神経モニタリングが必要であることを特徴とする。詳細にはCSFコントロールと同義であるコントロール群Aには、同様に19歳以上でかつ損傷を有さない10人が含まれていた。水頭症または髄膜炎の治療に関連した日常的な外科的処置またはCSF入手のための脊椎麻酔の際に試料を採取する。正常コントロールと同義として表されるコントロール群Bは、それぞれ18歳以上でかつ脳損傷を伴わない複数の損傷を経験している合計64人であった。調査の人口動態に関するさらなる詳細を表9に記載する。
【0144】
【表9】

【0145】
第一および第二の患者で最初に入手したCSF試料に見られるバイオマーカーのレベル(図15Aおよび15B)は、最初の患者の緊急治療室入院時のGFAPおよびGBDPが高いことを示している(図15A)。同様に、TBI後6時間以内にCSFを抜き取った第二の患者は、この時点で高レベルのGFAPおよびGBDPの存在が明らかとなった(図15B)。また第二の患者は、損傷の18時間後に、検出可能ではあるが低レベルのGFAPおよびGBDPを示した。第一の患者のCSFでは、SBDP150/145およびSBDP120のレベルも緊急治療室入院時に上昇しているが、後の時点では比較的低レベルである(図15A)。
【0146】
実施例8:TBIのバイオマーカーとしての自己抗体の同定
重度TBI後、対象の血液中でニューロンタンパク質に対する自己抗体が産生され、で検出可能となる。ヒトTBI対象から死後に脳ライセートを入手し、20mMトリス−HCl、pH7.4、150mM NaCl、5mM EDTA、5mM EGTA、1%TritonX−100、1mM NaF、1mM NaVOおよびプロテアーゼインヒビターカクテルタブレット(Roche、Indianapolis、IN)を含有する溶解緩衝液で可溶化する。SDS−PAGEによりライセートを分離し、次いで全タンパク質に関して染色し(図16A)、プロービングのためにポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Bio−Rad Laboratories)上に転写する。ヒトコントロールドナーから採取(B)またはTBI10日後にヒトから採取(C)した血清を用いてブロットをプローブし、抗IgG/IgMを用いて自己抗体を検出する。TBI後の対象由来の血清では、血清自己抗体の存在を示す強いバンドが観察される。
【0147】
ヒト血清は、TBI後に増加したレベルで観察される自己抗体を含有する。5人のヒトコントロールおよびTBI対象由来の血清を、自己抗体の有無に関してプローブする。上記の可溶化したヒトTBI後脳ライセートの試料をSDS−PAGEにより分離し、iblot法によりPVDF膜に転写する。正常コントロールヒト対象由来またはTBIの72時間後またはTBIの30日後に試料を採取する5人のTBI対象由来の血清によりブロットをプローブする。TBSTで数回洗浄した後、PVDF膜をマルチスクリーン装置から取り出してさらに3回洗浄した、次いで最後に、1:10,000に希釈したAPコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG+IgMまたはAPコンジュゲートロバ抗ヒトIgGと1時間インキュベートし、次いでTBSTで洗浄する。5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸/ニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NBT)ホスファターゼ基質(Kirkegaard & Perry Laboratories、Gaithersburg、MD、USA)を用いて陽性シグナルを視覚化する。図17は、TBI後に存在するいくつかのヒト脳タンパク質に対する自己抗体の存在を示している。遅い時点でのシグナル増強により示されるように、自己抗体の量は72日目〜30日目まで増加する。
【0148】
自己抗体のレベルは、TBI後に時間と共に増加する。入院時およびTBIの30日後までに採取した1人のヒト対象由来の血清を用いて、ゲルの各レーンに等濃度で負荷したヒト脳ライセートをプローブし、PVDFに転写する。自己抗原は、抗IgG二次抗体を用いた検出により示されるIgGである(図18A)。自己抗体が産生される速度は驚くほど速く、5日目に検出可能なレベルで出現し、30日目まで増加する(図18A)。自己抗体がIgG特異的であることの確証は、ブロットが特定の免疫グロブリン種に対する二次抗体でプローブされている図18Bで示される。
【0149】
自己抗体は脳特異的抗原に対するものである。ヒトの脳、心臓、腎臓、肺、脾臓、腸、皮膚、筋肉および精巣由来のライセート(30μgのタンパク質)をSDS−PAGEにより分離し、PVDFに転写し、1:100の希釈でヒトTBI対象の血清をプローブすることによるウエスタンブロット法を用いて検出する。1:10,000希釈のAPコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG/IgMにより、任意の結合した自己抗体を検出する。図19は、TBI対象由来の自己抗体が、38〜52kDaの間に移動する脳由来の自己抗原だけ認識することを示している。
【0150】
カルパイン消化の結果として、自己抗体が分解産物に対して産生される。ナイーブラット脳ライセートをゲルに負荷し、ヒトTBI対象の血清でプローブする。カルパイン切断産物の非存在下では、抗原認識が観察されない(データ不掲載)。しかし、同一の濃度で負荷したカルパイン消化ラット脳ライセートは、TBI後の5日目(レーン12)に現れ10日目(レーン17)まで増加する検出可能なヒトTBI患者の自己抗体により認識される(図20)。
【0151】
TBI後のヒト血清中の自己抗体により認識される抗原を特定するために、精製GFAP、ニューロファシンおよびMBPをゲルに負荷して、SDS−PAGEにより分離し、PVDFに転写して、損傷の10日後に採取したTBIヒト対象の血清でプローブした後、抗IgG抗体を用いて検出した。GFAP、ニューロファシンおよびMBPはそれぞれ、TBI後のヒト血清中で産生された自己抗体により認識される自己抗原として検出される(図21)。
【0152】
GFAPは、TBIの10日後に採取したヒト対象の血清中の自己抗体により認識されることが確認される。死後ヒト脳ライセートをイオン交換クロマトグラフィーに供し、溶出画分をゲルに負荷して分離する。各画分中の全タンパク質をクーマシーブルーで染色する(図22A)。ヒトTBI対象の血清でのプロービングによる自己抗原検出のために、同じ画分を分離してPVDFに転写する(図22B)。染色ゲル上のオーバーラップしているバンドを切り出し、配列解析を行う。配列解析により、TBI後のヒト血清中に存在する自己抗体がGFAPを認識することが明らかとなる。
【0153】
抗原競合実験により、TBI後のヒト血清中に存在する自己抗体がGFAPおよびタウを認識することが確認される。ヒト脳ライセート(300μg)を、単独のまたは各種濃度のGFAP(2.6μg;10μg(Banyan Biomarkers))もしくはタウ(2.6μgもしくは10μg(Cytoskeleton Co.))とプレインキュベートした3人のヒトTBI対象由来の血清でプローブする。2.5μgのGFAPの存在により、GFAP特異的自己抗体が脳ライセート中に存在するGFAPを認識する能力が低下する(図23)。10μgのGFAPにより、シグナルがさらに減少する。同様に、血清と10μgのタウタンパク質とのプレインキュベーションは2.6μgのタウよりも低い抗原認識を示し、このことはヒトTBI後血清中のタウ特異的自己抗体の存在を示している(図23)。
【0154】
GFAPに対する自己抗体はGBDPを優先的に認識する。ヒト脳ライセートおよびインタクトの精製組換えGFAPをゲルに負荷し、抗GFAP(図24A)抗体、GFAPに対する自己抗体を含有するヒトTBI後血清(図24B)のいずれかでプローブし、かつ/またはゲルをクーマシーブルーで染色する(図23C)。自己抗体は、インタクトの組換えGFAPよりも脳ライセートに生来的に由来するGBDPに対してはるかに高い認識を示す。
【0155】
実施例9:ヒトTBI調査における自己抗体の検出
TBI後の様々な時点でヒト対象から血清試料を採取する。表10は、3つの異なるTBI相:急性+亜急性相(損傷〜10日目);重度TBI亜急性相(1日目〜30日目);および重度TBI慢性相(TBI後1ヶ月超)で試料を得た患者数を示す。
【0156】
【表10】

【0157】
信頼区間は修正Wald法により定める。全体的に、血清中に自己抗体を示すTBI患者数は、正常コントロールよりもはるかに多い。
【0158】
実施例8に記載の手順を用いたウエスタンブロット法により、自己抗体の強度を測定する。最高レベルの自己抗体は強度レベル5と採点され、強度レベルゼロはウエスタンブロット法により検出可能な自己抗体が存在しないことを表す。健常コントロールを、Banyan Biomarkers、UPおよびイタリアの調査主催者により採取された調査試料と比較する。大部分のTBI患者で血清中の自己抗体レベルが検出可能であった(図25)。
【0159】
実施例10:
自己抗体の存在と生存率との相関を解析するために、TBIと診断されたヒト対象の調査をさらに行う。重度(GCIスコアが3〜5)または軽度(GCIスコアが6〜15)TBIを有する20例のヒト対象から血清試料を採取する。表11は、調査対象の特徴を示す。
【0160】
【表11】

【0161】
全体的に、6例(30パーセント)の対象が血清中の自己抗体に関して陰性である。表12に示すように、70パーセントが陽性の自己抗体発生を示し、10パーセントが高陽性の自己抗体レベルを示している。
【0162】
【表12】

【0163】
【表13】

【0164】
全体的に、自己抗体を示す男女対象が示さない対象を上回っている(図26A)。56歳未満では、自己抗体を示す対象が示さない対象を上回っている。57〜71歳と72〜84歳の対象では、2例の対象が自己抗体を示し、2例の対象が示さない(図26B)。
【0165】
自己抗体の存在はGCSスコアが6〜15の対象で相対的に高いが、GCSスコアが3〜5の対象でも自己抗体陽性の方が多い(図27)。転帰不良(6ヶ月未満で死亡)の対象は、転帰良好な対象よりも血清中の自己抗体発生が高い傾向を示している(図28)。このことは、自己抗体の存在が生存率と相関することを示している。
【0166】
5ポイントの強度段階での自己抗体レベルは、TBIの24時間以内に採取した血清中のGFAPおよびUCHL1レベルと相関する。TBIの24時間後以内に採取したヒト対象の血清も、UCHL1、GFAPおよびSBDP145の存在およびレベルに関して、基本的に実施例2に記載の通りのELISAにより解析する。次いで、これらのレベルを自己抗体の強度に対してプロットする。図29に図示されるように、GFAPおよびUCHL1レベルの増加は自己抗体の強度増加と相関する。GFAPは、Pearson相関係数0.72およびP値0.0009で相関する。UCHL1は、Pearson相関係数0.56およびP値0.02で相関する。
【0167】
TBI後24時間以内にヒト対象から採取したCSFで同様の相関が見られる。GFAPレベルは後の自己抗体発生と、Pearson相関係数0.47およびP値0.07で相関する。UCHL1レベルと自己抗体強度は、Pearson相関係数が0.56およびP値が0.02で相関する。またSBDP145レベルも自己抗体強度と相関し、統計的に有意なPearson相関係数0.62およびP値0.01を示す(図30)。したがって、自己抗体のレベルは、ヒト対象の血清中およびCSF中両方の可溶性バイオマーカータンパク質のレベルと相関する。
【0168】
対象の血清中の自己抗体の相対存在量を、最大強度レベル5の実施例9に記載のものと同様の手法でウエスタンブロット法により測定する。全体的に、女性対象の方が男性対象よりも高い自己抗体強度を示す(図31A)。転帰良好(6ヶ月を超える生存)な対象では、男性対象の方が女性対象よりも自己抗体強度が高い(図31B)。全体的に、女性対象が低い死亡率を示し、かつ高い自己抗体強度を示すのに対し、男性対象は高い死亡率を示し、自己抗体強度は低い(図31C)。これらのデータは、自己抗体強度と転帰の間には性別により逆相関関係があることを示している。
【0169】
平均強度を性別と無関係に生存率と相関させると、自己抗体強度と6ヶ月超の生存との間の相関は見られない(図32A)。したがって、強度は、性別依存的なレベルに関してのみ転帰の予測因子として機能する。また自己抗体の強度に無関係な自己抗体の存在も性別依存的なレベルに関して転帰を予測するために機能する。女性対象では、平均の強度は低いが、自己抗体の存在が生存率の増加と相関する(図32B)。女性の非生存者は、自己抗体の存在をあまり示さないが、強度は高い(図32B)。したがって、女性の調査対象では、低レベルの自己抗体の存在が、高レベルの自己抗体の存在よりも転帰を改善することを示している。男性の調査対象では、自己抗体の存在を示す転帰良好な調査対象は少ないが、強度の高い対象ほど生存する可能性が高い(図32C)。非生存男性は自己抗体を有する傾向が強いが、その強度は低い(図32C)。全体的に、自己抗体の頻度および強度は、性別依存的に転帰と相関する。
【0170】
自己抗体の強度は、GCSスコアにより測定されるTBIの重症度と共に高くなる傾向を示す(図33)。GCS値が3の対象は、高いGCSスコア7の対象よりもはるかに高い自己抗体強度を示す。GCSスコアの増加に伴う傾向線の低下は、自己抗体強度の高い対象ほどGCSスコアが低く、TBI重症度が高い傾向にあることを示している。
【0171】
実施例11:ニューロン損傷の尺度としての核酸バイオマーカーの血清またはCSFレベル
臓器または脳損傷後にタンパク質がCSFおよび血漿区画に侵入するのと同様に、RNAおよびDNAも侵入する。アポトーシスまたは壊死を起こしている細胞は、血液またはCSF中に核酸バイオマーカーを放出する(図34)。損傷の重症度および部位は、細胞タイプに特異的なRNA量を定量化する適当なリアルタイムPCRアッセイにより特定できる。神経特異的RNAの例としては、βIIIチューブリン、UCHL1、GFAPおよびシナプトフィジンが挙げられる。
【0172】
実施例7の調査のヒト対象から採取した全血試料を用いて、その中のGFAPまたはUCHL1をコードする核酸のレベルを決定する。図35は、重度TBIの対象における血清GFAPおよびUCHL1タンパク質レベル増加の存在を示している。血清中にGFAPまたはUCHL1をコードするRNAが存在するか否かを決定するために、Rainer,THら,Clin Chem,2003;49:562−560により記載されているものと同様の技術による血清の解析を用いる。簡潔には、入院時に各対象の肘前静脈から10mLの対象血液を採血して、EDTAの入ったチューブに集め、3000×gで15分間、二重遠心分離する。あるいはまたは加えて、0.2マイクロメートルのフィルターを用いた遠心分離により、血漿をろ過して細胞物質を除去する。上清無細胞血漿を、血液/骨髄用のRNA/DNAスタビライゼーション試薬(Roche Diagnostics)を入れた普通のポリプロピレンチューブ内に移し、さらなる処理まで−80で保管する。
【0173】
血液/骨髄用のmRNAアイソレーションキット(Roche Diagnostics)を製造者のプロトコールに従い使用して、ポリ(A)mRNAを抽出する。cDNAを合成し、Qiagen One Step RT−PCR試薬セット(Qiagen)を用いた50μLのPCR反応で増幅する。簡潔には、One Step RT−PCR酵素混合物(Qiagen)を用いて、血漿6μL中のmRNAをGFAPまたはUCHL1に特異的なプライマーで逆転写する。得られたcDNAをPattyn,Fら,Nucleic Acids Research,2003;31(1):122−123のプロトコールの通りに60℃のアニーリング温度を用いた、GFAPに対するプライマーおよびプローブ:順方向プライマー―ACATCGAGATCGCCACCTACA(配列番号45);逆方向プライマー―GTCTGCACGGGAATGGTGAT(配列番号46);および標識プローブ―AGCTGCTAGAGGGCGAGGAGAACCG(配列番号47)を用いたTaqmanアッセイにより測定する。UCHL1検出では、プライマーおよびプローブは:順方向プライマー―ACTGGGATTTGAGGATGGATCAG(配列番号48);逆方向プライマー―GCCTTCCTGTGCCACGG(配列番号49);標識プローブ―AATGAGGCCATACAGGCAGCCCATG(配列番号50)であり、60℃のアニーリング温度を用いる。全体的に、TBI後の対象の無細胞血漿において、GFAPおよびUCHL1の両方のmRNAの存在が示される。
【0174】
実施例12:
TBIの1日後のヒト血清において、ヒトのTBIに関連したmiRNAの存在を検出する。血清を採取し、3000×gで15分間遠心分離し0.2マイクロメートルフィルターを通過させて無細胞とし、全RNAの調製に使用する。全RNA(5μg)を、YM−100 Microcon遠視分離フィルター(Millipore)を用いてサイズ分画する(b300ヌクレオチド)。回収した低分子RNA(b300nt)を、ポリ(A)ポリメラーゼを用いてポリ(A)テールで3’延長する。後の蛍光色素染色のために、オリゴヌクレオチタグをポリ(A)テールに連結する。低分子RNAを一晩、マイクロ循環ポンプを用いてμParafloマイクロ流体チップ上でハイブリダイズさせる(Atactic Technologies)。チップ上の各検出プローブは、標的ヒトmiRNA配列に相補的な化学修飾したヌクレオチドコードセグメントからなる。
【0175】
TBI対象の血清対ヒトコントロール対象の血清で少なくとも2倍の増加または減少を示すmiRNA配列を表14および15に示す。
【0176】
【表14】



【0177】
【表15】


【0178】
図36に図示するように、同定された配列のクラスター解析を行う。
【0179】
関連する局在を有するさらなるmiRNAを表16および17に記載する。
【0180】
【表16】

【0181】
【表17】

【0182】
GFAPの調節に関連するmiRNAの存在も上記無細胞血漿試料において測定する。神経変性状態を有する対象ではmiRNA−125bが増加する(Pogue,AIら,Neurosci.Lett.,2010;476:18−22)。miRNA−125b検出したものと同じプライマーおよびプローブを用いて、TBI後の対象の無細胞血漿におけるこのmiRNAのレベル増加が検出される。簡潔には、製造者の説明書に従い、miRNeasy Miniキット(Qiagen、Valencia、CA)で無細胞血漿の全RNAを抽出する。260/280nmおよび260/230nmでの分光測定によりRNAの純度を決定する。1.8よりも大きい260/280nm吸光度比は通常、RNA純度の許容される指標と見なされる。次いで、各試料由来の全RNA10ngを、TaqMan(登録商標)MicroRNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems、Foster City、CA)およびmiRNA特異的プライマー(Applied Biosystems)を用いてcDNAへ逆転写する。Dharap,AおよびVemuganti,R,J.Neurochem.,2010;113:1685?1691により同定されたmiRNAの存在を、TBI対象の無細胞血漿および虚血性脳卒中後の無関係な一組の対象において検出する。また、Lei,Pら,Brain Research,2009;1284:191−201により同定されたmiRNAのレベルも無細胞血漿中の存在について調べる。
【0183】
実施例13:
【表18】

【0184】
本明細書で言及される特許文献および刊行物は、本発明が属する技術分野の当業者のレベルの指標となるものである。これらの文献および刊行物は、各文献または刊行物が具体的かつ個別に参照により本明細書に組み込まれた場合と同様に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0185】
上記記載は本発明の特定の実施形態の具体例であるが、その実施を制限することを意図するものではない。以下の特許請求の範囲は、そのあらゆる均等物を含めて、本発明の範囲を定めることを意図するものである。
【0186】
参考文献リスト

Leon,SA et al (1977) Patients Cancer Research 37,646

Muller,H.M.et al (2003) Expert Rev Mol.Diagn. 3,443

Silva,JM et al(1999) Cancer Research,59,3251

Lo,YM et al (1997) Lancet

Menke,TM and Warnecke,JM(2004) Ann NY Acad.Sci 1022,185−189.

Hasselmann,D.O.et al(2001) Extracellular tyrosinase mRNA within apoptotic bodies is protected from degradation in human serum. Clin.Chem.47:1488−1489.

Circulating Nucleic acids in plasma and Serum(CNAPS)III and serum proteomics.Ann NY Acad Sci 1022(Eds.D.S.B.Hoon,B.Taback).

Tan E.M.et al.1966 Deoxyribonucleic acid(DNA)and antibodies to DNA in the serum of patients with systemic lupus erythematosus. J.Clin.Invest.45:1732−1740.

Rainer,TH et al(2003) Prognostic use of circulating plasma nucleic acid concentrations in patients with acute stroke. Clin Chem.49:562−560.

Hmaouim K.,Butt,A.,Powrie,J.,and Swaminathan,R.(2004) Real−time Quantitative PCR Measurement of Circulatory Rhodopsin mRNA in Healthy Subjects and Patients with Diab etic Retinopathy.In Circulating Nucleic acids in plasma and Serum(CNAPS)III and serum proteomics.Ann NY Acad Sci 1022(Eds.D.S.B.Hoon,B.Taback).Pp 152−156.

Rainer,TH et al (2004) Effects of filtration on glyceraldehydes −3−phosphate dehydrogenase mRNA in the plasma of trauma patients and healthy individuals. Clin.Chem.50:206−208.

Terryberry JW,Thor G,Peter JB.(1998)Autoantibodies in neurodegenerative diseases:antigen−specific frequencies and intrathecal analysis.Neurobiol Aging 19:205−216.

Terryberry JW,Shoenfeld Y,Peter JB.(1998)Clinical utility of autoantibodies in Guillain−Barre syndrome and its variants.Clin Rev Allergy Immunol 16:265−273.

Dambinova SA,Khounteev GA,Izykenova GA,Zavolokov IG,Ilyukhina AY,Skoromets AA.(2003)Blood test detecting autoantibodies to N−methyl−D−aspartate neuroreceptors for evaluation of patients with transient ischemic attack and stroke.Clin Chem 49:1752−1762.

Dambinova SA,Izykenova GA,Burov SV,Grigorenko EV,Gromov SA.(1997)The presence of autoantibodies to N−terminus domain of GluR1 subunit of AMPA receptor in the blood serum of patients with epilepsy.J Neurol Sci 152:93−97.

Goryunova AV,Bazarnaya NA,Sorokina EG,et al.(2007)Glutamate receptor autoantibody concentrations in children with chronic post−traumatic headache.Neurosci Behav Physiol 37:761−764.

ADAMS,J.H.,GRAHAM,D.I.,and JENNETT,B.(2000).The neuropathology of the vegetative state after an acute brain insult.Brain.123,1327−1338.

ARNAUD LT,MYEKU N,FIGUEIREDO−PEREIRA ME.(2009)Proteasome−caspase−cathepsin sequence leading to tau pathology induced by prostaglandin J2 in neuronal cells.J Neurochem.2009 110(1):328−42.

AVILA,J.,PEREZ,M.,LUCAS,J.J.,GOMEZ−RAMOS,A.,MARIA,I.S.,MORENO,F.,SMITH,M.,PERRY,G.,and HERNANDEZ,F.(2004).Assembly in vitro of tau protein and its implications in Alzheimer’s disease.Curr Alzheimer Res.1,97−101.

BARTUS,R.T.(1997).The calpain hypothesis of neurodegeneration:evidence for a common cytotoxic pathway.The Neuroscientist.3,314−327.

BEER,R.,FRANZ,G.,SRINIVASAN,A.,HAYES,R.L.,PIKE,B.R.,NEWCOMB,J.K.,ZHAO,X.,SCHMUTZHARD,E.,POEWE,W.,and KAMPFL,A.(2000).Temporal profile and cell subtype distribution of activated caspase−3 following experimental traumatic brain injury.Neurochem.75,1264−1273.

BINDER,L.I.,FRANKFURTER,A.,and REBHUN,L.I.(1985).The distribution of tau in the mammalian central nervous system.J.Cell Biol.101,1371−1378.

BITSCH,A.,HORN,C.,KEMMLING,Y.,SEIPELT,M.,HELLENBRND,U.,STIEFEL,M.,CIESIELCZYK,B.,CEPEK,L.,BAHN,E.,RATZKA,P.,PRANGE,H.,and OTTO,M.(2002).Serum tau protein level as a marker of axonal damage in acute ischemic stroke.Eur.Neurol.47,45−51.

BRAMLETT,H.M.,and DIETRICH,W.D.(2002).Quantitative structural changes in white and gray matter 1 year following traumatic brain injury in rats.Acta Neuropathol.(Berl).103,607−614.

BUKI,A.,OKONKWO,D.O.,WANG K.K.W.,and POVLISHOCK,J.T.(2000)Cytochrome c release and caspase activation in traumatic axonal injury.J.Neurosci.20,2825−2834.

BUKI,A.,SIMAN,R.,TROJANOWSKI,J.Q.,and POVLISHOCK,J.T.(1999).The role of calpain−mediated spectrin proteolysis in traumatically induced axonal injury.J.Neuropathol.Exp.Neurol.58,365−375.

BARTUS,R.T.(1997).The calpain hypothesis of neurodegeneration:evidence for a common cytotoxic pathway.The Neuroscientist.3,314−327.

CANU, N., DUS, L., BARBATO, C., CIOTTI, M.T., BRANCOLINI, C., RINALDI A.M., NOVAK, M., CATTANEO, A., BRADBURY A., and CALISSANO, P. (1998). Tau cleavage and dephosphorylation in cerebellar granule neurons undergoing apoptosis. J. Neurosci. 8, 7061−7074.

CHRISTMAN,C.W.,GRADY,M.S.,WALKER,S.A.,HOLLOWAY,K.L.,and POVLISHOCK,J.T.(1994).Ultrastructural studies of diffuse axonal injury in humans.J.Neurotrauma.11,173−186.

CHUNG,C.W.,SONG,Y.H.,KIM,I.K.,YOON,W.J.,RYE,B.R.,JO,D.G.,WOO,H.N.,KWON,Y.K.,KIM,H.H.,GWAG,B.J.,MOOK−JUNG,I.H.,and JUNG,Y.K.(2001).Proapoptotic effects of tau cleavage product generated by caspase−3.Neurobiol.Dis.8,162−172.

CLARK,R.S.,KOCHANEK,P.M.,WATKINS,S.C.,CHEN,M.,DIXON,C.E.,SEIDBERG,N.A.,MELICK,J.,LOEFFERT,J.E.,NATHANIEL,P.D.,JIN,K.L.,and GRAHAM,S.H.(2000).Caspase−3 mediated neuronal death after traumatic brain injury in rats.J.Neurochem. 74,740−753.

DELOBEL P,LEROY O,HAMDANE M,SAMBO AV,DELACOURTE A,BUEE L.(2005)Proteasome inhibition and Tau proteolysis: an unexpected regulation.FEBS Lett.579,1−5.

DIXON,C.E.,CLIFTON,G.L.,LIGHTHALL J.W.,YAGHMAI,A.A.,and HAYES,R.L.(1991).A controlled cortical impact model of traumatic brain injury in the rat.J.Neurosci. 39,253−262.

DRUBIN,D.G.,and KIRSCHNER,M.W.(1986).Tau protein function in living cells.J.Cell Biol.103,2739−2746.

FRANZ,G.,BEER,R.,KAMPFL,A.,ENGELHARDT,K.,SCHMUTZHARD,E.,ULMER,H.,and DEISENHAMMER,F.(1995).Amyloid beta 1−42 and tau in cerebrospinal fluid after severe traumatic brain injury.Neurology.60,1457−1461.

GABBITA SP,SCHEFF SW,MENARD RM,ROBERTS K,FUGACCIA I,ZEMLAN FP.(2005)Cleaved−tau:a biomarker of neuronal damage after traumatic brain injury.J Neurotrauma.22,83−94.

GAMBLIN TC,CHEN F,ZAMBRANO A,ABRAHA A,LAGALWAR S,GUILLOZET AL,LU M,FU Y,GARCIA−SIERRA F,LAPOINTE N,MILLER R,BERRY RW,BINDER LI,CRYNS VL.Caspase cleavage of tau,linking amyloid and neurofibrillary tangles in Alzheimer’s disease.Proc Natl Acad Sci USA 100,10032−10037.

GARCIA−SIERRA F,MONDRAGON−RODRIGUEZ S,BASURTO−ISLAS G.(2008).Truncation of tau protein and its pathological significance in Alzheimer’s disease.J Alzheimers Dis.14,401−9.

GALE,S.D.,JOHNSON,S.C.,BIGLER,E.D.,and BLATTER,D.D.(1995).Nonspecific white matter degeneration following traumatic brain injury.J.Int.Neuropsychol.Soc.1,17−28.

GARCIA,M.L.,and CLEVELAND,D.W.(2001).Going new places using an old MAP:tau,microtubules and human neurodegenerative diseases.Curr.Opin.Cell Biol.13,41−48.

GUILLOZET−BONGAARTS AL,GARCIA−SIERRA F,REYNOLDS MR,HOROWITZ PM,FU Y,WANG T,CAHILL ME,BIGIO EH,BERRY RW,BINDER LI.(2005)Tau truncation during neurofibrillary tangle evolution in Alzheimer’s disease.Neurobiol Aging.26,1015−1022.

HIGUCHI,M.,LEE,V.M.,and TROJANOWSKI,J.Q.(2002).Tau and axonopathy in neurodegenerative disorders.Neuromolecular Med.2,131−150.

JOHNSON,G.V.,JOPE,R.S.,and BINDER,L.I.(1989).Proteolysis of tau by calpain.Biochem.Biophys.Res.Commun.163,1505−1511.

KAMPFL,A.,POSMANTUR,R.M.,ZHAO,X.,SCHMUTZHARD,E.,CLIFTON,G.L.,and HAYES R.L.(1997).Mechanisms of calpain proteolysis following traumatic brain injury:implications for pathology and therapy:a review and update.J.Neurotrauma 14,121−134.

KIRALY M,KIRALY SJ.(2007)Traumatic brain injury and delayed sequelae:a review−−traumatic brain injury and mild traumatic brain injury(concussion)are precursors to later−onset brain disorders,including early−onset dementia.ScientificWorldJournal.2007 Nov 12;7:1768−76.

KNOBLACH,S.M.,NIKOLAEVA,M.,HUANG,X.,FAN,L.,KRAJEWSKI,S.,REED,J.C.,and FADEN,A.I.(2002).Multiple caspases are activated after traumatic brain injury:evidence for involvement in functional outcome.J.Neurotrauma 19,1155−1170.

Kosik,K.S.,and Finch,E.A.(1987).MAP2 and tau segregate into dendritic and axonal domains after the elaboration of morphologically distinct neurites:an immunocytochemical study of cultured rat cerebrum.J.Neurosci.7,3142−3153.

KOVESDI E,LUCKL J,BUKOVICS P,FARKAS O,PAL J,CZEITER E,SZELLAR D,DOCZI T,KOMOLY S,BUKI A.(2010). Update on protein biomarkers in traumatic brain injury with emphasis on clinical use in adults and pediatrics.Acta Neurochir(Wien).152(1):1−17.

KRISHNAMURTHY,S.,and SNEIGE,N.(2002).Molecular and biologic markers of premalignant lesions of human breast.Adv.Anat.Pathol.9,185−197.

LITERSKY,J.M.,SCOTT,C.W.,and JOHNSON,G.V.(1993).Phosphorylation,calpain proteolysis and tubulin binding of recombinant human tau isoforms.Brain Res.604,32−40.

MCCRACKEN,E.,HUNTER,A.J.,PATEL,S.,GRAHAM,D.I.,and DEWAR,D.(1999).Calpain activation and cytoskeletal protein breakdown in the corpus callosum of head−injured patients.J Neurotrauma 16,749−761.

MCINTOSH,T.K.,SMITH,D.H.,MEANEY,D.F.,KOTAPKA,M.J.,GENNARELLI,T.A.,and GRAHAM,D.I.(1996).Neuropathological sequelae of traumatic brain injury:relationship to neurochemical and biomechanical mechanisms.Lab.Invest.74,315−341.

MCKEE AC, CANTU RC, NOWINSKI CJ, HEDLEY−WHYTE ET, GAVETT BE, BUDSON AE, SANTINI VE, LEE HS, KUBILUS CA, STERN RA.(2009).Chronic traumatic encephalopathy in athletes:progressive tauopathy after repetitive head injury.Neuropathol Exp Neurol. 68(7):709−35.

MEDANA,I.M.,and ESIRI,M.M.(2003).Axonal damage:a key predictor of outcome in human CNS diseases.Brain.126,515−530.

NATH,R.,MCGINNIS,K.J.,NADIMPALLI,R.,STAFFORD,D.,and WANG,K.K.W.(1996).Effects of ICE−like proteases and calpain inhibitors on neuronal apoptosis.NeuroReport.8,249−255.

NATH,R.,PROBERT,A.,JR.,MCGINNIS,K.M.,WANG,K.K.W.(1998)Evidence for Activation of Caspase−3−like Protease in Excitotoxins−and Hypoxia/hypoglycemia−Injured Neurons. J.Neurochem.71, 186−195.

Newcomb JK,Kampfl A,Posmantur RM,Zhao X,Pike BR,Liu SJ,Clifton GL,and Hayes RL.(1997)Immunohistochemical study of calpain−mediated breakdown products to alpha−spectrin following controlled cortical impact injury in the rat.J.Neurotrauma.14,369−383.

NG,H.K.,MAHALIYANA,R.D.,and POON,W.S.(1994).The pathological spectrum of diffuse axonal injury in blunt head trauma:assessment with axon and myelin strains.Clin.Neurol.Neurosurg.96,24−31.

PARK SY,FERREIRA A.(2005)The generation of a 17 kDa neurotoxic fragment: an alternative mechanism by which tau mediates beta−amyloid−induced neurodegeneration.J Neurosci.25,5365−5375.

PETTUS,E.H.,CHRISTMAN,C.W.,GIEBEL,M.L.,and POVLISHOCK,J.T.(1994).Traumatically induced altered membrane permeability:its relationship to traumatically induced reactive axonal change.J.Neurotrauma.11,507−522.

PIKE,B.R.,ZHAO,X.,NEWCOMB,J.K.,WANG,K.K.W.,POSMANTUR,R.M.,and HAYES,R.L.(1998b).Temporal relationships between de novo protein synthesis,calpain and caspase 3−like protease activation,and DNA fragmentation during apoptosis in septo−hippocampal cultures.J.Neurosci.Res.52,505−520.

PIKE,B.R.,ZHAO,X.,NEWCOMB,J.K.,POSMANTUR,R.M.,WANG,K.K.W.,and HAYES,R.L.(1998).Regional calpain and caspase−3 proteolysis of alpha−spectrin after traumatic brain injury.NeuroReport.9,2437−2442.

PIKE,B.R.,FLINT,J.,DAVE,J.R.,LU,X.C.,WANG,K.K.,TORTELLA,F.C.,and HAYES,R.L.(2004).Accumulation of calpain and caspase−3 proteolytic fragments of brain−derived alphaII−spectrin in cerebral spinal fluid after middle cerebral artery occlusion in rats.J Cereb Blood Flow Metab.24,98−106.

POSMANTUR,R.,KAMPFL,A.,SIMAN,R.,LIU,J.,ZHAO,X.,CLIFTON,G.L.,and HAYES R.L.(1997).A calpain inhibitor attenuates cortical cytoskeletal protein loss after experimental traumatic brain injury in the rat.Neuroscience.77,875−88.

RAO MV,MOHAN PS,PETERHOFF CM,YANG DS,SCHMIDT SD,STAVRIDES PH,CAMPBELL J,CHEN Y,JIANG Y,PASKEVICH PA,CATALDO AM,HAROUTUNIAN V,NIXON RA.(2008).Marked calpastatin(CAST)depletion in Alzheimer’s disease accelerates cytoskeleton disruption and neurodegeneration:neuroprotection by CAST overexpression.J Neurosci.28(47):12241−54.

RISSMAN RA,POON WW,BLURTON−JONES M,ODDO S, TORP R,VITEK MP,LAFERLA FM,ROHN TT,COTMAN CW.(2004)Caspase−cleavage of tau is an early event in Alzheimer disease tangle pathology.J Clin Invest.114(1),121−30.

ROHN,T.T.,RISSMAN,R.A.,HEAD,E.,and COTMAN,C.W.(2002).Caspase Activation in the Alzheimer’s Disease Brain:Tortuous and Torturous.Drug News Perspect.15,549−557.

SAATMAN,K.E.,BOZYCZKO−COYNE,D.,MARCY,V.,SIMAN,R.,and MCINTOSH,T.K.(1996).Prolonged calpain−mediated spectrin breakdown occurs regionally following experimental brain injury in the rat.J.Neuropathol.Exp.Neurol.55,850−860.

SAATMAN,K.E.,MURAI,H.,BARTUS,R.T.,SMITH,D.H.,HAYWARD,N.J.,PERRI,B.R.,and MCINTOSH T.K.(1996).Calpain inhibitor AK295 attenuates motor and cognitive deficits following experimental brain injury in the rat.Proc.Natl Acad.Sci.USA 93,3428−3433.

SAATMAN,K.E,ZHANG,C.,BARTUS,R.T.,and MCINTOSH,T.K.(2000).Behavioral efficacy of posttraumatic calpain inhibition is not accompanied by reduced spectrin proteolysis,cortical lesion,or apoptosis.J.Cereb.Blood Flow Metab.20,66−73.

SHIMOHAMA S,TANINO H,FUJIMOTO S.(1999)Changes in caspase expression in Alzheimer’s disease:comparison with development and aging.Biochem Biophys Res Commun.256,381−384.

SIMAN R,MCINTOSH TK,SOLTESZ KM,CHEN Z,NEUMAR RW,ROBERTS VL.(2004)Proteins released from degenerating neurons are surrogate markers for acute brain damage.Neurobiol Dis.16(2),311−20.

SINJOANU RC,KLEINSCHMIDT S,BITNER RS,BRIONI JD,MOELLER A,FERREIRA A.(2008).The novel calpain inhibitor A−705253 potently inhibits oligomeric beta−amyloid−induced dynamin 1 and tau cleavage in hippocampal neurons.Neurochem Int.53(3−4):79−88.

URYU K,CHEN XH,MARTINEZ D,BROWNE KD,JOHNSON VE,GRAHAM DI,LEE VM,TROJANOWSKI JQ,SMITH DH.(2007)Multiple proteins implicated in neurodegenerative diseases accumulate in axons after brain trauma in humans. Exp Neurol.208,185−92.

VAN DEN HEUVEL C,THORNTON E,VINK R.(2007)Traumatic brain injury and Alzheimer’s disease:a review.Prog Brain Res.161:303−16.

WANG,K.K.W.(2000).Calpain and caspase:can you tell the difference? Trends Neurosci.23,20−26.

WARREN,M.W.,KOBEISSY,F.H., HAYES,R.L.,GOLD,M.S.,WANG,K.K.W.(2005)Concurrent calpain and caspase−3 mediated proteolysis of αII−spectrin and tau in rat brain after methamphetamine exposure:A similar profile to traumatic brain injury.Life Sciences 78:301−309.

WARREN,MW. ZHENG,W.R.,KOBEISSY,F.,LIU,M.C.,,HAYES,R.L.,GOLD,MARK,M.C.LIU,AND WANG,K.K.W.(2006)Calpain and caspase mediated proteolysis of αII−spectrin and tau in rat cerebrocortical neuron cultures after ecstasy(MDMA)or methamphetamine exposure Int.J.Neuropsypharm.9,1−11.

YANG L.S.,and KSIEZAK−REDING,H.(1995).Calpain−induced proteolysis of normal human tau and tau associated with paired helical filaments. J.Biochem.233,9−17.

YEN,S.,EASSON,C.,NACHARAJU,P.,HUTTON,M.,and YEN,S.H.(1999).FTDP−17 tau mutations decrease the susceptibility of tau to calpain I digestion.FEBS Lett.461,91−95.

YOSHIYAMA Y,URYU K,HIGUCHI M,LONGHI L,HOOVER R,FUJIMOTO S,MCINTOSH T,LEE VM,TROJANOWSKI JQ.(2005)Enhanced neurofibrillary tangle formation,cerebral atrophy,and cognitive deficits induced by repetitive mild brain injury in a transgenic tauopathy mouse model.J Neurotrauma.22,134−1141.

ZEMLAN,F.P.,JAUCH,E.C.,MULCHAHEY,J.J.,GABBITA,S.P.,and ROSENBERG,W.S.Speciale SG,and Zuccarello M.(2002).C−tau biomarker of neuronal damage in severe brain injured patients:association with elevated intracranial pressure and clinical outcome.Brain Res.23,131−139.

ZEMLAN,F.P.,MULCHAHEY,J.J.,and GUDELSKY,G.A.(2003).Quantification and localization of kainic acid−induced neurotoxicity employing a new biomarker of cell death:cleaved microtubule−associated protein−tau(C−tau).Neuroscience 121,399−409.

ZHANG JY,PENG C,SHI H,WANG S,WANG Q,WANG JZ.(2009)Inhibition of autophagy causes tau proteolysis by activating calpain in rat brain.J Alzheimers Dis.16,39−47.

ZHANG Z,LARNER S,LIU MC,ZHENG W,HAYES RL,WANG KKW.(2009)Multiple αII−spectrin Breakdown Products Distinguish Calpain and Caspase Dominated Necrotic and Apoptotic Cell Death Pathways.Apoptosis, 14,1289−1298.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経学的状態を検出するための工程であって、
生物試料中の損傷後に変化する1つ以上のニューロン特異的バイオマーカーを測定することと、
前記生物試料中の1つ以上の前記バイオマーカーの比率に基づいて神経学的状態を検出することと
を含む工程。
【請求項2】
前記状態が、脳損傷、多臓器損傷、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病および慢性外傷性脳症(CTE)を含めた神経変性疾患またはこれらの組合せを含む群から選択される、請求項1に記載の工程。
【請求項3】
前記バイオマーカーがタンパク質に対する自己抗体であり、前記タンパク質が、GFAP;タウ;S100β;βIII−チューブリン;神経フィラメント軽、中、重ポリペプチド(NF−L、−Mおよび−H);V−型プロトンATPアーゼ;ガンマ−エノラーゼ(NSE);ビメンチン;エンドフィリン−A1;微小管関連タンパク質2(MAP−2);アルファ−インターネキシン;ニューロセルピン;ニューロモジュリン;シナプトタグミン−1;電位依存性カリウムチャネル;コラプシン応答媒介タンパク質(CRMP−1〜5);αII−スペクトリン;ニューロファシン;MBP;ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼ;ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP);これらの分解産物;これらの誘導体;またはこれらの組合せである、請求項1に記載の工程。
【請求項4】
前記バイオマーカーが、タンパク質の少なくとも一部分をコードする核酸であり、前記タンパク質が、GFAP;αII−スペクトリン;αII−スペクトリン分解産物;ニューロファシン;MBP;MAP2;ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼ;ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素;ニューロン局在細胞内タンパク質;MAP−タウ;C−タウ;ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP);コラプシン応答媒介タンパク質;これらの分解産物、これらの誘導体またはこれらの組合せである、請求項1に記載の工程。
【請求項5】
前記バイオマーカーが、タンパク質の発現を調節するmRNAの少なくとも一部分であり、前記タンパク質が、GFAP;αII−スペクトリン;αII−スペクトリン分解産物;ニューロファシン;MBP;MAP2;ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼ;ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素;ニューロン局在細胞内タンパク質;MAP−タウ;p53;SYTL1;カルパスタチン;ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP);CAPN1、2もしくは6;IRS−1;SMAD5;コラプシン応答媒介タンパク質;シナプトタグミン−1もしくは−9;Rhoキナーゼ;シナプシン1;シンタフィリン;ATXN1;これらの誘導体;またはこれらの組合せである、請求項1に記載の工程。
【請求項6】
前記miRNAが配列番号51〜113のうちの1つである、請求項1または5に記載の工程。
【請求項7】
前記miRNAが配列番号51〜60または84〜93のうちの1つである、請求項1または5に記載の工程。
【請求項8】
前記miRNAが、miR−9、miR−34、miR−92b、miR−124a、miR−124b、miR−135、miR−153、miR−183、miR−219、miR−222、miR−125a、miR−125b、miR−128、miR−132、miR−135、miR−137、miR−139、miR−218aまたはこれらの組合せである、請求項1または5に記載の工程。
【請求項9】
前記バイオマーカーがGFAPまたはタウの分解産物である、請求項1に記載の工程。
【請求項10】
前記GFAP分解産物が、配列番号114中のAsn59、Thr383またはその両方での切断により形成される、請求項9に記載の工程。
【請求項11】
前記バイオマーカーが、C末端〜アミノ酸25、44、129、157、229、421の切断またはこれらの組合せによるヒトタウ(配列番号11)分解産物である、請求項1または9に記載の工程。
【請求項12】
前記バイオマーカーが、C末端〜アミノ酸43、120、220、370、412での切断またはこれらの組合せによるラットタウ(配列番号5)の分解産物である、請求項1または9に記載の工程。
【請求項13】
前記比率が、コントロール対象における前記バイオマーカーの濃度に対する前記損傷後の前記バイオマーカーの濃度である、請求項1に記載の工程。
【請求項14】
前記比率が陽性である、請求項1に記載の工程。
【請求項15】
前記生物試料が、血液、血清、血漿、CSF、尿、唾液または組織である、請求項1、3、4、5、6または9に記載の工程。
【請求項16】
前記損傷が化合物により誘導される、請求項1に記載の工程。
【請求項17】
対象における外傷性脳損傷を診断する工程であって、
衝撃後に対象から生物試料を採取することと、
前記生物試料中の1つ以上の神経学的状態のバイオマーカーの量を測定し、前記バイオマーカーが自己抗体、miRNAまたはタンパク質分解産物であることと、
コントロール対象と比べた前記生物試料中の前記イオマーカーの量の変化に基づき外傷性脳損傷を診断することと
を含む工程。
【請求項18】
前記バイオマーカーが、GFAP分解産物;GFAPもしくはGFAP分解産物に対する自己抗体;GFAPの少なくとも一部分をコードする核酸;またはGFAPの発現を調節するmiRNA配列である、請求項17に記載の工程。
【請求項19】
前記バイオマーカーがタウ分解産物である、請求項17に記載の工程。
【請求項20】
前記自己抗体が、GFAP;神経フィラメント軽、中および重ポリペプチド(NF−L,−Mおよび−H);V型プロトンATPアーゼ;ガンマ−エノラーゼ(NSE);ビメンチン;エンドフィリン−A1;微小管関連タンパク質2(MAP−2);アルファ−インターネキシン;ニューロセルピン;ニューロモジュリン;シナプトタグミン−1;電位依存性カリウムチャネル;コラプシン応答媒介タンパク質(CRMP−1〜5);またはこれらの分解産物と結合する、請求項17に記載の工程。
【請求項21】
前記バイオマーカーが、GFAP、ユビキチンカルボキシル末端エステラーゼ、ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素、β−IIIチューブリンまたはシナプトフィジンの発現を調節するmiRNA配列の少なくとも一部分である、請求項17に記載の工程。
【請求項22】
前記生物試料が、全血、血漿、血清、CSF、尿、唾液または組織である、請求項17〜21のいずれか1項に記載の工程。
【請求項23】
前記生物試料が無細胞血漿である、請求項17または21に記載の工程。
【請求項24】
GFAP分解産物の検出試薬であって、配列番号114中の59位または383位アミノ酸における切断部位から10アミノ酸以内でヒトGFAPの一部分と結合する検出試薬。
【請求項25】
GFAP分解産物の検出試薬であって、配列番号139、140、141または142の少なくとも一部分と結合する検出試薬。
【請求項26】
ヒトタウ分解産物の検出試薬であって、25位、44位、129位、157位、229位または421位アミノ酸における切断部位から10アミノ酸以内でヒトタウ(配列番号11)アミノ配列と結合する検出試薬。
【請求項27】
C末端〜Ser129の10アミノ酸以内、N末端〜Val229の10アミノ酸以内、N末端〜Asp421の10アミノ酸以内、C末端〜Lys44の10アミノ酸以内、N末端〜Ser129の10アミノ酸以内、C末端〜25位アミノ酸の10アミノ酸以内、N末端〜25位の10アミノ酸以内、N末端〜157位の10アミノ酸以内、C末端〜157位の10アミノ酸以内、N末端〜Lys44の10アミノ酸以内、C末端〜Val229の10アミノ酸以内、C末端〜Asp421の10アミノ酸以内でアミノ酸配列と結合する、請求項26に記載の検出試薬。
【請求項28】
配列番号20もしくは123、21もしくは143、24もしくは144、25もしくは120、26もしくは121もしくは145、27もしくは146もしくは147、30、31、32、33、34、35、36、37、38もしくは148、39もしくは149、40、41、42、43または44の少なくとも一部分であるアミノ酸配列と結合する、請求項26に記載の検出試薬。
【請求項29】
配列番号125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137または138の少なくとも一部分と結合する、ヒトタウ分解産物の検出試薬。
【請求項30】
43位、121位、229位、38位または412位のアミノ酸における切断部位から10アミノ酸以内でラットタウ(配列番号5)アミノ配列と結合する、ラットタウ分解産物の検出試薬。
【請求項31】
前記検出試薬が、N末端〜Asp421の10アミノ酸以内、N末端〜Val220の10アミノ酸以内、C末端〜Ser120の10アミノ酸以内、C末端〜Lys43の10アミノ酸以内またはC末端〜Arg370の10アミノ酸以内でアミノ酸配列と結合する、請求項30に記載の検出試薬。
【請求項30】
配列番号20もしくは123、21もしくは143、22、23、24もしくは144、25もしくは120、26もしくは121もしくは145、27もしくは146もしくは147、28、29、38もしくは148、39もしくは149、40または41の少なくとも1つの少なくとも一部分であるアミノ酸配列と結合する、請求項30に記載の検出試薬。
【請求項31】
配列番号115、116、117、118、119、120、121、122、123または124の少なくとも一部分と結合する、ラットタウ分解産物の検出試薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29A】
image rotate

【図29B】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate


【公表番号】特表2013−504331(P2013−504331A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528991(P2012−528991)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/048789
【国際公開番号】WO2011/032155
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(510275172)バンヤン・バイオマーカーズ・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】