説明

ヌバック調シート状物およびその製造方法

【課題】ヌバック調シート状物として満足し得る外観、感触、風合い、およびライティング効果と、高度な耐久性が求められる分野において満足し得る耐摩耗性とを兼ね備え、しかも簡便な工程で製造することが可能なヌバック調シート状物、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一方の面に非輪奈状のパイル繊維からなるパイル繊維片を有する繊維質基材の当該パイル繊維片を有する側の面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤との反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる発泡層が、パイル繊維片と混在する状態で積層され、パイル繊維片の少なくとも一部は先端が発泡層の表面に立毛状に突出しており、突出したパイル繊維片の表面が保護膜で被覆されているヌバック調シート状物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヌバック調の外観を有するシート状物、およびその製造方法に関する。詳しくは、耐摩耗性に優れ、インテリア資材、車両内装材として特に好適に用いられるヌバック調シート状物、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天然皮革のヌバックを模倣した外観を有するシート状物は、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両内装材など様々な用途に用いられている。ヌバック調シート状物としては、湿式法と呼ばれる方法により製造されるものが広く実用化されている(例えば、特許文献1および2)。湿式法では、繊維質基材にポリウレタン樹脂の溶剤(有機溶剤)溶液を塗布または含浸し、これをポリウレタン樹脂の非溶剤を含む液中に浸漬して、ポリウレタン樹脂溶液中の溶剤を非溶剤に移行させることにより、ポリウレタン樹脂を凝固させて多孔質層を形成した後、表面を研削して立毛調の外観を持たせる。この湿式法により得られるシート状物は、繊細な立毛調の外観と、しっとりとしたヌメリ感のある感触、柔らかな風合いを有し、ライティング(手書き)効果にも富み、天然皮革のヌバックと近似したものである。しかしながら、この方法は、製造工程が煩雑で製造に長時間を要するといった問題や、使用する製造設備が限定されるといった問題があった。特に、ポリウレタン樹脂の非溶剤を含む液中に浸漬後、ポリウレタン樹脂の多孔質層に残存する非溶剤および溶剤を除去するに際し、作業環境や地球環境に配慮する必要があり、製造コストの高騰を招く要因となっていた。また、外力に対して脆く、高度な耐久性が求められる分野、例えば、インテリア資材や車両内装材として満足し得る耐摩耗性を得ることは困難であった。
【0003】
一方、乾式法と呼ばれる方法により製造されるヌバック調シート状物も広く実用化されている。乾式法では、繊維質基材にポリウレタン樹脂の溶剤溶液または水分散液を塗布または含浸し、これを乾燥させた後、表面を研削して立毛調の外観を持たせている(例えば、特許文献3)。この方法は、製造工程が簡便で低コストであり、また、得られるシート状物も、一見したところ立毛調の外観を有し、耐摩耗性に優れたものである。しかしながら、感触がざらついてドライであり、風合いも硬く、ライティング効果に欠け、天然皮革のヌバックとは程遠いものであった。
【0004】
また、ヌバック調シート状物においては、意匠性の向上などを目的にしばしば凹凸模様が付されるが、この場合、湿式法や乾式法ではエンボス処理が別途必要となり(通常、研削処理の前に行われる)、工程が増えることで製造コストが上昇するという問題もあった。
【0005】
ヌバック調シート状物の製造は、以上2つの方法が主流であるが、乾式法の一形態として、離型紙上に作製したポリウレタン樹脂からなる表皮層を、接着剤により繊維質基材と貼り合わせた後、離型紙を剥離し、表皮層表面を研削して立毛調の外観を持たせたものが提案されている(例えば、特許文献4)。この方法では、凹凸模様を付与する場合も、凹凸模様を有する離型紙を用いれば足り、製造工程が至って簡便で低コストであり、かつ、耐摩耗性に優れたシート状物を得ることができる。しかしながら、接着層が介在することにより、繊維片が表面に現れることがなくポリウレタン樹脂からなる表皮層が研削されるのみである。そのため、外観が粗く、感触がざらついてドライであり、風合いも硬く、ライティング効果に欠け、天然皮革のヌバックとは全く異質のものであった。
【0006】
このように、ヌバック調官能特性と耐摩耗性の双方に優れ、しかも製造工程の簡便なヌバック調シート状物は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−42082号公報
【特許文献2】特開平7−42083号公報
【特許文献3】特開平7−60885号公報
【特許文献4】特許第3062399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、ヌバック調シート状物として満足し得る外観、感触、風合い、およびライティング効果等の官能特性と、高度な耐久性が求められる分野において満足し得る耐摩耗性とを兼ね備え、しかも簡便な工程で製造することが可能なヌバック調シート状物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は第1に、少なくとも一方の面に非輪奈状のパイル繊維からなるパイル繊維片を有する繊維質基材の該パイル繊維片を有する側の面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤との反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる発泡層が、パイル繊維片と混在する状態で積層され、パイル繊維片の少なくとも一部は先端が発泡層の表面に立毛状に突出しており、突出したパイル繊維片の表面が保護膜で被覆されているヌバック調シート状物である。
発泡層の表面に立毛状に突出させるパイル繊維片の長さは10〜300μmであることが好ましく、密度は2万5千〜350万本/(25.4mm)であることが好ましい。
【0010】
本発明は第2に、
加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンプレポリマーと、ウレタン硬化剤とを混合してプレポリマー組成物を調製する工程、
プレポリマー組成物を、(a)離型性基材に塗布し、該塗布面に、少なくとも一方の面に非輪奈状のパイル繊維からなるパイル繊維片を有する繊維質基材の該パイル繊維片を有する側の面を貼り合わせるか、または、(b)少なくとも一方の面に非輪奈状のパイル繊維からなるパイル繊維片を有する繊維質基材の該パイル繊維片を有する側の面に塗布し、該塗布面に、離型性基材を貼り合わせる工程、
エージング処理して、ポリウレタン樹脂からなる発泡層を形成させる工程、
離型性基材を剥離する工程、
発泡層の表面を研削処理して、パイル繊維片の少なくとも一部の先端を発泡層の表面に立毛状に突出させる工程、
突出したパイル繊維片の表面に樹脂組成物を塗布する工程、
熱処理して、突出したパイル繊維片の表面を被覆する保護膜を形成させる工程、
をこの順で含んでなるヌバック調シート状物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外観、感触、風合い、ライティング効果、耐摩耗性などの諸特性に優れ、インテリア資材や車両内装材などとして適用可能なヌバック調シート状物を、簡便な工程で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るヌバック調シート状物の製造段階での断面模式図であり、(A)は繊維質基材の段階、(B)は発泡層の研削処理前の段階、(C)は発泡層の研削処理後の段階、(D)は製品状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のヌバック調シート状物は、少なくとも一方の面にパイル繊維片を有する繊維質基材の該パイル繊維片を有する側の面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤との反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる発泡層が、パイル繊維片と混在する状態で積層され、パイル繊維片の少なくとも一部は先端が発泡層の表面に立毛状に突出しており、突出したパイル繊維片の表面が保護膜で被覆されている構成を有するものである。
【0014】
本発明に用いられる繊維質基材は、少なくとも一方の面にパイル繊維片を有することが求められる。ここでパイル繊維片とは、非輪奈状のパイル繊維からなるものであって、繊維質基材の表面に立毛を形成する単繊維1本1本を指し、パイル糸、例えば繊維束からなるマルチフィラメント糸やスパン糸とは区別されるものである。以上の要件を満足する限り、繊維質基材の形態は、編物、織物、不織布など特に限定されない。さらには、従来公知の溶剤系、無溶剤系(水系を含む)の高分子化合物、好ましくは、ポリウレタン樹脂やその共重合体、あるいはポリウレタン樹脂を主成分とする混合物を塗布または含浸し、乾式凝固または湿式凝固させたものを用いることもできる。また、繊維質基材を構成する繊維の素材も特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。なかでも、耐熱性や耐光性などの点から、合成繊維が好ましく、ポリエステル繊維がより好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0015】
繊維質基材の少なくとも一方の面が有するパイル繊維片は、編成や織成によって形成されたものであっても、起毛処理によって形成されたものであっても構わない。編成や織成によって形成されたものとしては、ダブルラッセル編物やモケット織物のパイル糸をセンターカットしたものなどを挙げることができ、起毛処理によって形成されたものとしては、浮きの長い編組織または織組織にて編成または織成した織編物の浮きの長い組織部の糸条を起毛したものや、不織布を起毛したものなどを挙げることができる。なかでも、繊維毛羽が発現し易く、外観やライティング効果に優れたパイル繊維片が得られるという理由により、起毛処理によって形成されたパイル繊維片であることが好ましい。
【0016】
繊維質基材を起毛する方法としては、高速で回転するエンドレスの針布やサンドペーパーなど(起毛手段として針布を備える起毛機を針布起毛機、サンドペーパーを備える起毛機をエメリー起毛機(別名、バフィング機、バフ機、エメリーバフ機)という)に対し、繊維質基材を長手方向に移動させながら接触させる方法が一般的である。針布起毛処理の場合は、針布の密度、長さ、角度、尖端形状や、起毛時の針布の回転数、繊維質基材との接圧、接触回数などの諸条件を選択することにより、表面状態を適宜設定できる。また、エメリー起毛処理においても、サンドペーパーの粒度、起毛時のサンドペーパーと繊維質基材の接触回数などの諸条件を選択することにより、表面状態を適宜設定できる。さらに、必要に応じて、起毛後に毛足を整えるためのシャーリング処理を施してもよい。
【0017】
パイル繊維片の長さ(P、図1(A)参照)は、0.1〜2mmであることが好ましく、0.5〜1.5mmであることがより好ましい。長さが0.1mm未満であると、研削処理により、ライティング効果を発現させるに十分な長さのパイル繊維片を発泡層の表面に立毛状に突出させることができず、得られるヌバック調シート状物の外観や感触が損なわれたり、十分なライティング効果が得られなかったりする虞がある。長さが2mmを超えると、得られるヌバック調シート状物において、パイル繊維片と発泡層の密着性が悪くなり、発泡層に割れが生じて、外観や感触が損なわれる虞がある。
【0018】
なお、本明細書において規定する数値範囲について、上記パイル繊維片の長さや発泡層の厚みなどのように分布が存在するものは、特に断りのない限り、平均値がその範囲内にあればよい。
【0019】
パイル繊維片の繊度(パイル繊維片を形成する糸条の単繊維繊度)は、0.01〜3dtex(デシテックス)であることが好ましく、0.05〜2dtexであることがより好ましい。繊度が0.01dtex未満であると、繊維毛羽が発現し難くなり、得られるヌバック調シート状物の外観が損なわれたり、十分なライティング効果が得られなかったり、また、耐摩耗性が悪くなったりする虞がある。繊度が3dtexを超えると、得られるヌバック調シート状物の感触が損なわれたり、風合いが硬くなったりする虞がある。
【0020】
パイル繊維片の密度は、5万〜350万本/(25.4mm)であることが好ましく、10万〜270万本/(25.4mm)であることがより好ましい。密度が5万本/(25.4mm)未満であると、得られるヌバック調シート状物において、パイル繊維片と発泡層の密着性が悪くなり、発泡層に割れが生じて、外観や感触が損なわれる虞がある。密度が350万本/(25.4mm)を超えると、発泡層を形成するプレポリマー組成物がパイル繊維片に浸透し難くなり、パイル繊維片と混在しない状態の発泡層の厚さが増大する結果、研削処理により、ライティング効果を発現させるに十分な長さのパイル繊維片を発泡層の表面に立毛状に突出させることができず、得られるヌバック調シート状物の外観や感触が損なわれたり、風合いが硬くなったり、十分なライティング効果が得られなかったりする虞がある。
【0021】
パイル繊維片を形成する糸条の総繊度は、10〜200dtexであることが好ましく、20〜150dtexであることがより好ましい。総繊度が10dtex未満であると、繊維毛羽が発現し難くなり、得られるヌバック調シート状物の外観が損なわれたり、十分なライティング効果が得られなかったり、また、耐摩耗性が悪くなったりする虞がある。総繊度が200dtexを超えると、得られるヌバック調シート状物の感触が損なわれたり、風合いが硬くなったりする虞がある。
【0022】
パイル繊維片を含む繊維質基材の厚さは、0.5〜2.5mmであることが好ましく、0.8〜2mmであることがより好ましい。厚さが0.5mm未満であると、得られるヌバック調シート状物の風合いがペーパーライクになったり、十分なボリューム感が得られなかったりする虞がある。厚さが2.5mmを超えると、得られるヌバック調シート状物の風合いが硬くなる虞がある。
【0023】
本発明のヌバック調シート状物は、上述の繊維質基材においてパイル繊維片を有する側の面(以下、パイル繊維片面という)に、第1の樹脂層として、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤との反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる発泡層が、パイル繊維片と混在する状態で積層されたものである。
【0024】
ポリウレタン樹脂は、周知の通り、ウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物の総称であり、一般にポリオールとポリイソシアネートとを反応(架橋・硬化反応)させることによって製造される。ポリオールとポリイソシアネートとの反応をほぼ完結させ、ポリマー化した状態で(すなわち、ポリウレタン樹脂として)提供される一液型に対し、二液硬化型は、使用時にポリオールとポリイソシアネートとを反応させるもので、通常、ポリオールとポリイソシアネートとの反応を適当なところで止めたウレタンプレポリマー(主剤)と、ウレタン硬化剤との二液からなる。発泡層を構成するポリウレタン樹脂は、この二液硬化型ポリウレタン樹脂に分類される。また、ウレタンプレポリマーが有するホットメルト性は、分子構造に起因する性質で、常温では固体ないしは基材に塗布困難な程度に粘稠な状態であるが、熱を加えると溶融して液体状になり、冷却により再度凝集力が発現する性質をいう。
【0025】
発泡層の形成に用いられるホットメルトウレタンプレポリマーは、ホットメルト性であるが故に、プレポリマー組成物(ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤との混合物)を加熱溶融状態で基材に塗布することができ、人体や地球環境に悪影響を及ぼす有機溶剤を使用する必要がない。このため、製造工程で有機溶剤を除去する工程が不要となって、製造コストを軽減することができる。また、プレポリマー組成物は比較的高い粘度に調整することができるため、繊維質基材への過度の浸透を抑制することができ、しかもプレポリマー組成物は高固形分であるため、パイル繊維片と、硬化して得られるポリウレタン樹脂との間には適度な物理的空隙が形成される。このため、得られるヌバック調シート状物の風合いが硬くなることがない。さらに、ウレタン硬化剤と反応してポリウレタン樹脂を形成する二液硬化型であるが故に、発泡し、樹脂特有のゴム弾性が緩和されるため、柔らかな風合いを具備することができる。このため、研削処理により容易に、発泡層の表面にパイル繊維片の先端を立毛状に突出させることができる。また、一液型と比較して低い温度で加工に適した粘度が得られるため、作業性が良好である。それでいて硬化後の軟化温度は高く、耐熱性に優れた発泡層となる。
【0026】
以下、ホットメルトウレタンプレポリマーやウレタン硬化剤、硬化して得られるポリウレタン樹脂について説明するが、これらの特性、特にポリウレタン樹脂の特性が、得られるヌバック調シート状物の特性に反映されるのは言うまでもない。
【0027】
本発明において発泡層は、加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンプレポリマーと、ウレタン硬化剤とを適宜混合して調製したプレポリマー組成物を用いて、
(a)該プレポリマー組成物を、離型性基材に塗布し、該塗布面に、上記繊維質基材のパイル繊維片面を貼り合わせるか、または、
(b)該プレポリマー組成物を、上記繊維質基材のパイル繊維片面に塗布し、該塗布面に、離型性基材を貼り合わせ、
次いでエージング処理することにより、繊維質基材のパイル繊維片面に形成することができる。
【0028】
ホットメルトウレタンプレポリマーは、上記の通り、ポリオールとポリイソシアネートとの反応によって得られるものであり、製造時のポリオールとポリイソシアネートとの比率によって、分子末端に水酸基を有するホットメルトウレタンポリオールプレポリマーと、分子末端にイソシアネート基を有するホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーの2つがある。各々に対応するウレタン硬化剤は、ポリイソシアネートとポリオールである。
【0029】
ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤との硬化反応を以下の式(I)に示す。結局のところ、この反応はポリオールの水酸基とポリイソシアネートのイソシアネート基の反応として示される。また、イソシアネート基は水酸基との反応以外に、大気中の水分と反応し、アミン化合物と炭酸ガスを生成(以下の式(II))、さらに、反応生成物と連鎖的に反応していく(以下の式(III)および(IV))。
式(II)で発生する炭酸ガスにより、樹脂層には多数の孔が形成され、発泡層が形成される。
【0030】
【化1】

【0031】
ホットメルトウレタンプレポリマーを製造する際に使用可能なポリオールは特に限定されるものでなく、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ひまし油ポリオール、シリコーン変性ポリオールなどを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐加水分解性の点からポリエーテルポリオールまたはポリカーボネートポリオールが好ましい。また、耐光性および耐熱性の点からはポリカーボネートポリオールがより好ましく、風合いの点からはポリエーテルポリオールがより好ましい。
【0032】
一方、ホットメルトウレタンプレポリマーを製造する際に使用可能なポリイソシアネートも特に限定されるものでなく、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートあるいは脂環族ジイソシアネート、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の2量体および3量体を含むポリメリックMDIなどを挙げることができる。なかでも、硬化反応のコントロールが容易であるという点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0033】
本発明に用いられるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーは、上記ポリオールとポリイソシアネートとを、ポリオールが有する水酸基が、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基に対して過剰となる条件で反応させることにより得ることができる。この際、水酸基/イソシアネート基の当量比は1.1〜2.5であることが好ましく、1.2〜2であることがより好ましい。当量比が1.1未満であると、プレポリマーの両末端を水酸基とすることが難しく、プレポリマーに残存するイソシアネート基が周囲の湿気と反応することにより分子量が増加し、粘度が増加する結果、作業性が悪くなる虞がある。当量比が2.5を超えると、プレポリマーとウレタン硬化剤とを反応させる際、未反応の水酸基が残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂において加水分解が起こり易く、強度が関係する物性全般が悪くなる虞がある。
【0034】
一方、本発明に用いられるホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーは、上記ポリオールとポリイソシアネートとを、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基が、ポリオールが有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させることにより得ることができる。この際、イソシアネート基/水酸基の当量比は1.1〜5であることが好ましく、1.5〜3であることがより好ましい。当量比が1.1未満であると、プレポリマーに未反応の水酸基が残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂において加水分解が起こり易く、強度が関係する物性全般が悪くなる虞がある。当量比が5を超えると、安定性が悪く、硬化反応のコントロールが不可能となる虞がある。
【0035】
本発明に用いられるホットメルトウレタンプレポリマーを製造するには、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、ポリイソシアネートに水分を除去したポリオールを滴下、または水分を除去したポリオールにポリイソシアネートを混合後、加熱してバッチ方式で反応させる方法、あるいは水分を除去したポリオールとポリイソシアネートをそれぞれ加熱して、所定の比率で押出機に投入して連続押出反応方式で反応させる方法などを採用することができる。
【0036】
かくして得られるホットメルトウレタンプレポリマーの軟化温度は、20〜100℃であることが好ましく、40〜70℃であることがより好ましい。軟化温度が20℃未満であると、硬化して得られるポリウレタン樹脂の軟化温度が低く、十分な耐熱性が得られなかったり、強度が不十分となったりする虞がある。軟化温度が100℃を超えると、加工に適した粘度を得るのに高温を要し、作業性が悪くなる虞がある。なお、本明細書において、軟化温度は、DSC熱分析機を用いて示差走査熱分析法により測定される。
【0037】
次に、本発明に用いられるウレタン硬化剤について説明する。
ホットメルトウレタンプレポリマーとしてホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを用いる場合には、ウレタン硬化剤としてポリイソシアネートを用い、ホットメルトウレタンプレポリマーとしてホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いる場合には、ウレタン硬化剤としてポリオールを用いる。
【0038】
ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーに対して使用可能なウレタン硬化剤、すなわちポリイソシアネートは特に限定されるものではなく、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート、カルボジイミド基を含むポリイソシアネート、アルファネート基を含むポリイソシアネート、イソシアヌレート基を含むポリイソシアネートなどを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも硬化反応のコントロールが容易であるという点では4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましく、硬化して得られるポリウレタン樹脂の黄変が少ないという点では脂肪族系のポリイソシアネートが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートがより好ましい。
【0039】
さらに、ウレタン硬化剤として、上述のポリイソシアネート以外に、ポリオールとポリイソシアネートを、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基が、ポリオールが有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させることにより得られる化合物を用いることができる。この化合物は、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーとしてポリウレタン樹脂を形成する際の主剤ともなり得るもので、ホットメルト性を有するものは、本発明におけるホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーとしても使用可能である。かかるウレタンポリイソシアネートプレポリマーをウレタン硬化剤として用いることにより、ウレタン硬化剤としての働きに加えて、鎖伸長剤としての効果が得られるため、硬化して得られるポリウレタン樹脂の柔軟性を向上させることができる。
【0040】
一方、ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーに対して使用可能なウレタン硬化剤、すなわちポリオールも特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ひまし油ポリオール、シリコーン変性ポリオールなどを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐加水分解性の点からポリエーテルポリオールまたはポリカーボネートポリオールが好ましい。また、耐光性および耐熱性の点からはポリカーボネートポリオールがより好ましく、風合いの点からはポリエーテルポリオールがより好ましい。
【0041】
さらに、ウレタン硬化剤として、上述のポリオール以外に、ポリオールとポリイソシアネートを、ポリオールが有する水酸基が、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基に対して過剰となる条件で反応させることにより得られる化合物を用いることができる。この化合物は、ウレタンポリオールプレポリマーとしてポリウレタン樹脂を形成する際の主剤ともなり得るもので、ホットメルト性を有するものは、本発明におけるホットメルトウレタンポリオールプレポリマーとしても使用可能である。かかるウレタンポリオールプレポリマーをウレタン硬化剤として用いることにより、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマーに対するウレタン硬化剤としてウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いる場合と同様の効果を得ることができる。
【0042】
次に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤を反応させる際の当量比について説明する。
ホットメルトウレタンプレポリマーとしてホットメルトウレタンポリオールプレポリマーを用い、ウレタン硬化剤としてポリイソシアネートを用いる場合のイソシアネート基/水酸基の当量比は、0.95〜2であることが好ましく、1.1〜1.3であることがより好ましい。当量比が0.95未満であると、未反応のプレポリマーが残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂において加水分解が起こり易く、強度が関係する物性全般が悪くなる虞がある。当量比が2を超えると、硬化反応が進みすぎて風合いが硬くなる虞がある。このとき、プレポリマー100重量部に対するウレタン硬化剤の使用量は、プレポリマーやウレタン硬化剤の分子量にもよるが、通常の場合3〜50重量部、より好ましくは5〜40重量部である。
【0043】
一方、ホットメルトウレタンプレポリマーとしてホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用い、ウレタン硬化剤としてポリオールを用いる場合のイソシアネート基/水酸基の当量比は、1.1〜10であることが好ましく、1.2〜3であることがより好ましい。当量比が1.1未満であると、未反応のウレタン硬化剤が残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂において加水分解が起こり易く、強度が関係する物性全般が悪くなる虞がある。当量比が10を超えると、硬化反応が進みすぎて風合いが硬くなる虞がある。このとき、プレポリマー100重量部に対するウレタン硬化剤の使用量は、プレポリマーやウレタン硬化剤の分子量にもよるが、通常の場合3〜50重量部、より好ましくは10〜30重量部である。
【0044】
プレポリマー組成物には、必要に応じて、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、ウレタン化触媒、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、顔料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、不活性気体、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、工程負荷の軽減やポリウレタン樹脂の物性向上のために、ウレタン化触媒を用いることが好ましい。
【0045】
ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤、必要に応じて用いられる任意成分の混合にはミキシングヘッドが用いられ、プレポリマーなどをそれぞれ貯留する原料タンクと供給管路で接続され、各原料を所定の比率で混合、撹拌した後、塗布装置に供給する。
【0046】
ホットメルトウレタンプレポリマーは、常温では固体ないしは基材に塗布困難な程度に粘稠な状態であり、他の原料と混合しプレポリマー組成物として基材に塗布するには、プレポリマーを加熱溶融して液体状にする必要がある。このときの加熱溶融温度は、プレポリマーの軟化温度よりも好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜60℃高い温度に設定される。加熱溶融温度がプレポリマーの軟化温度より10℃未満で高い温度であると、プレポリマーの粘度が高く、塗布時の作業性が悪くなる虞がある。加熱溶融温度がプレポリマーの軟化温度よりも80℃を超えて高い温度であると、硬化反応のコントロールが不可能となる虞がある。加熱溶融温度は、通常の場合30〜150℃、より好ましくは40〜120℃の範囲で設定される。加熱溶融温度を上記範囲に設定することにより、プレポリマー組成物の温度が、通常の場合30〜150℃、より好ましくは40〜120℃となり、好ましくは1000〜15000cps、より好ましくは3000〜10000cpsの粘度を有するプレポリマー組成物となる(後述する)。なお、プレポリマーの加熱溶融は、温度調整可能な原料タンクにて行われる。
【0047】
一方、ウレタン硬化剤は、常温では固体ないしは液体である。ウレタン硬化剤が固体である場合はもちろん、液体である場合においても、取り扱い性を良くし、プレポリマーと均一に混合させるため、加熱して、適度な粘度に調整することが好ましい。ウレタン硬化剤は、常温で液体であるものが多く、その加熱温度は、プレポリマーの加熱溶融温度よりも低い温度であることが多い。
【0048】
プレポリマー組成物の粘度は、1000〜15000cpsであることが好ましく、3000〜10000cpsであることがより好ましい。粘度が1000cps未満であると、プレポリマー組成物が繊維質基材に過度に浸透して、得られるヌバック調シート状物の風合いが硬くなる虞がある。粘度が15000cpsを超えると、プレポリマー組成物が繊維質基材のパイル繊維片に浸透し難くなり、パイル繊維片と混在しない状態の発泡層の厚さが増大する結果、研削処理により、ライティング効果を発現させるに十分な長さのパイル繊維片を発泡層の表面に立毛状に突出させることができず、得られるヌバック調シート状物の外観や感触が損なわれたり、風合いが硬くなったり、十分なライティング効果が得られなかったりする虞がある。プレポリマー組成物の粘度は、プレポリマー組成物の温度によって決定され、プレポリマー組成物の温度は、プレポリマーの加熱溶融温度、ウレタン硬化剤の加熱(溶融)温度、プレポリマーとウレタン硬化剤の混合比率(さらには、プレポリマーとウレタン硬化剤の反応により発生する熱量)、ミキシングヘッドの加熱温度などによって決定される。なかでも、プレポリマーの加熱溶融温度の影響が大きい。プレポリマー組成物の温度は、通常の場合30〜150℃であり、より好ましくは40〜120℃である。
【0049】
プレポリマー組成物は、離型性基材、または、繊維質基材のパイル繊維片面のいずれかに塗布される。すなわち、繊維質基材のパイル繊維片面に、発泡層を積層するに際しては、プレポリマー組成物を、(a)離型性基材に塗布し、該塗布面に、上記繊維質基材のパイル繊維片面を貼り合わせてもよいし、または、(b)上記繊維質基材のパイル繊維片面に塗布し、該塗布面に、離型性基材を貼り合わせてもよい。意匠性の向上を目的に凹凸模様を有する離型性基材を用いる場合には、明確な凹凸模様の形成が可能であるという理由により、(a)の工程が好ましい。以下、(a)の工程に沿って説明するが、塗布方法など各種の説明事項は、基本的に(b)の工程を採用する場合にも共通する事項である。
【0050】
本発明に用いられる離型性基材は特に限定されるものでなく、ポリウレタン樹脂に対して離型性を有する基材、あるいは離型処理を施した基材であればよく、例えば、離型紙、離型処理布、撥水処理布、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂などからなるオレフィンシートまたはフィルム、フッ素樹脂シートまたはフィルム、離型紙付きプラスチックフィルムなどを挙げることができる。離型性基材は凹凸模様を有していてもよく、このような離型性基材を用いることにより、表面に凹凸模様を有する発泡層を形成することができ、意匠性を向上させることができる。
【0051】
凹凸模様として、典型的にはシボ模様を挙げることができ、このような離型性基材を用いることにより、銀面調のシボ模様を有する高級なヌバック調外観を再現することができる。また、凹凸模様はシボ模様に限定されるものでもなく、例えば、織物調、デニム調などの布帛模様や、ランダムな点、線、丸形、三角形、四角形、点線などを単独または組み合わせた幾何学模様のような模様であることができる。
【0052】
離型性基材の凹凸模様の高低差(発泡層表面の凹凸模様の高低差にほぼ対応する)は、500μm以下であることが好ましく、10〜200μmであることがより好ましい。高低差が500μmを超えると、プレポリマー組成物が離型性基材の凹凸模様の細部にまで行き渡らず、所望の凹凸模様が得られない虞がある。
【0053】
凹凸模様を有する離型紙を用いることにより発泡層表面に形成される凹凸模様は、発泡層の形成と同時に形成されるため、湿式法や乾式法のようにエンボス処理を別途設ける必要がなく、製造工程が簡便で低コストである。
【0054】
プレポリマー組成物を離型性基材に塗布する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、ロールコーター、スプレーコーター、T−ダイコーター、ナイフコーターまたはコンマコーターなどを用いて離型性基材に塗布する。なかでも均一な薄膜層の形成が可能という点で、ナイフコーターまたはコンマコーターによる塗布が好ましい。
【0055】
プレポリマー組成物の塗布厚は、繊維質基材のパイル繊維片の長さや密度、さらには離型性基材の凹凸模様の高低差などによって異なるが、25〜900μmであることが好ましく、50〜500μmであることがより好ましい。塗布厚を上記範囲に設定することにより、通常の場合、塗布厚の1.1〜3.5倍、より好ましくは1.2〜3.2倍の厚さを有する発泡層を得ることができ、好ましくは27〜1000μm、より好ましくは60〜750μmの厚さを有する発泡層となる(後述する)。なお、ここでいう発泡層の厚さとは、研削処理前の厚さをいう。
【0056】
次いで、プレポリマー組成物が塗布時の粘度を維持する状態のうちに、該塗布面に、繊維質基材のパイル繊維片面を貼り合わせ、室温まで冷却し、エージング処理することにより、繊維質基材のパイル繊維片面に発泡層が形成される。
【0057】
プレポリマー組成物と繊維質基材との貼り合わせに際しては、パイル繊維片の先端が、離型性基材に到達する程度に、あるいは離型性基材に限りなく近い位置にまで、プレポリマー組成物をパイル繊維片に浸透させることが好ましい。浸透が不十分であると、パイル繊維片と混在しない状態の発泡層の厚さが増大する結果、研削処理により、ライティング効果を発現させるに十分な長さのパイル繊維片を発泡層の表面に立毛状に突出させることができず、得られるヌバック調シート状物の外観や感触が損なわれたり、風合いが硬くなったり、十分なライティング効果が得られなかったりする虞がある。なお、プレポリマー組成物(その一方の面には離型性基材が存在する)は繊維質基材と貼り合わせ後、繊維質基材側に厚さを増して、パイル繊維片と混在する状態の発泡層を形成する。
【0058】
貼り合わせにはラミネータが用いられる。なかでも、温度調整可能なロールを備えるラミネータを用いると、プレポリマー組成物の浸透を容易にコントロールすることができ、好ましい。このとき、ロール温度は、30〜150℃であることが好ましく、40〜120℃であることがより好ましい。ロール温度が30℃未満であると、プレポリマー組成物が繊維質基材のパイル繊維片に浸透し難くなり、パイル繊維片と混在しない状態の発泡層の厚さが増大する結果、研削処理により、ライティング効果を発現させるに十分な長さのパイル繊維片を発泡層の表面に立毛状に突出させることができず、得られるヌバック調シート状物の外観や感触が損なわれたり、風合いが硬くなったり、十分なライティング効果が得られなかったりする虞がある。ロール温度が150℃を超えると、プレポリマー組成物が繊維質基材に過度に浸透して、得られるヌバック調シート状物の風合いが硬くなる虞がある。
【0059】
ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤との反応速度は、選択するプレポリマーやウレタン硬化剤、任意で用いられる添加剤(特にウレタン化触媒)の種類や量によって大きく変動するため、選択する条件によってエージング処理条件を適宜設定する必要があるが、通常の場合、室温で1日〜1週間程度行われる。この過程で、プレポリマーとウレタン硬化剤との硬化反応が完結する。硬化反応が未完結であると、物性、特には耐摩耗性が悪くなる虞がある。
【0060】
硬化して得られるポリウレタン樹脂の軟化温度は、130〜240℃であることが好ましく、140〜200℃であることがより好ましい。軟化温度が130℃未満であると、十分な耐熱性が得られない虞がある。軟化温度が240℃を超えると、風合いが硬くなる虞がある。
【0061】
研削処理前の発泡層の厚さ(F、図1(B)参照)は、27〜1000μmであることが好ましく、60〜750μmであることがより好ましい。発泡層の厚さが上記範囲にあることにより、研削処理後において、好ましくは17〜800μm、より好ましくは40〜650μmの厚さを有する発泡層となる(後述する)。
【0062】
パイル繊維片の長さ(P)に対する、発泡層の厚さ(F)の割合は、パイル繊維片の先端より30〜120%であることが好ましく、50〜100%であることがより好ましい(図1(B)参照)。割合が30%未満であると、得られるヌバック調シート状物において、発泡層に割れが生じて、外観や感触が損なわれたり、十分なボリューム感が得られなかったりする虞がある。割合が120%を超えると、得られるヌバック調シート状物の風合いが硬くなる虞がある。
【0063】
エージング処理後、離型性基材を剥離することにより、図1(B)に示すように、繊維質基材と、パイル繊維片と混在する状態の発泡層との積層体が得られる。次いで、露出した発泡層の表面を研削処理して、パイル繊維片の少なくとも一部の先端を発泡層の表面に立毛状に突出させる(図1(C)参照)。研削方法は、原理的に上述の起毛方法と同じであり、針布による研削処理や、サンドペーパーによる研削処理が可能である。なかでも、発泡層の表面を均一に研削することができ、また、ライティング効果を発現させるに十分な長さであって、かつ、スエード調外観を呈さない程度に短いパイル繊維片を、発泡層の表面に立毛状に突出させることができるという理由により、サンドパーパーによる研削処理が好ましい。諸条件の選択により、表面状態を適宜選定できることは上述の通りであるが、なかでもサンドペーパーの粒度は重要であり、JIS R6252で規定する粒度が180〜1500号であることが好ましく、240〜800号であることがより好ましい。ここで、粒度の数値が小さいほど、粗いことを意味する。粒度が180号未満であると、研削筋が発生し易く、得られるヌバック調シート状物の外観が損なわれる虞がある。粒度が1500号を超えると、所望の表面状態を得るのに長時間を要する虞がある。
【0064】
発泡層の表面に立毛状に突出させるパイル繊維片の長さは10〜300μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。長さが10μm未満であると、得られるヌバック調シート状物の外観が損なわれたり、十分なライティング効果が得られなかったりする虞がある。長さが300μmを超えると、ヌバック調の範疇を超えてスエード調の外観を呈する虞がある。
【0065】
本発明においてパイル繊維片の長さは、以下のように求められる。ヌバック調シート状物の垂直方向断面をマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH−8000)で観察し、任意のパイル繊維片10点について長さを測定し、これの分布(最小値〜最大値)、および平均値を求める。この平均値が上記範囲内にあることが好ましく、より好ましくは最大値および最小値がともに上記範囲内にあることである。
【0066】
発泡層の表面に立毛状に突出させるパイル繊維片の長さが上記範囲となるように、研削厚さを調整する。研削厚さは、繊維質基材のパイル繊維片の長さや密度、凹凸模様を有する離型性基材を用いる場合にあっては凹凸模様の高低差などによって異なるが、10〜200μmであることが好ましく、20〜100μmであることがより好ましい。研削厚さが10μm未満であると、得られるヌバック調シート状物の外観や感触が損なわれたり、風合いが硬くなったり、十分なライティング効果が得られなかったりする虞がある。研削厚さが200μmを超えると、得られるヌバック調シート状物において、発泡層に割れが生じて、外観や感触が損なわれる虞がある。凹凸模様を有する離型性基材を用いる場合、それによって形成される凹部が残るように発泡層の研削を行うことが、ヌバック調の外観や感触を高める上でより好ましい。但し、発泡層表面に立毛状に突出させるパイル繊維片の長さが上記範囲内であれば、該凹部がなくなるまで研削したとしても、発泡層形成時に付与された凹凸模様によって研削後に突出するパイル繊維片にはそれに応じた変化が付与されるので、ヌバック調の外観や感触が得られる。
【0067】
突出させるパイル繊維片の密度は、2万5千〜350万本/(25.4mm)であることが好ましく、5万〜270万本/(25.4mm)であることがより好ましく、10万〜150万本/(25.4mm)であることが更に好ましい。密度が2万5千本/(25.4mm)未満であると、得られるヌバック調シート状物の外観や感触が損なわれる虞がある。密度が350万本/(25.4mm)を超えると、得られるヌバック調シート状物の風合いが硬くなる虞がある。
【0068】
研削処理後の発泡層の厚さは、17〜800μmであることが好ましく、40〜650μmであることがより好ましい。厚さが17μm未満であると、十分なボリューム感が得られない虞がある。厚さが800μmを超えると、風合いが硬くなる虞がある。
【0069】
研削処理後のシート状物の厚さは、0.4〜2.5mmであることが好ましく、0.6〜2mmであることがより好ましい。厚さが0.4mm未満であると、得られるヌバック調シート状物の風合いがペーパーライクになったり、十分なボリューム感が得られなかったりする虞がある。厚さが2.5mmを超えると、得られるヌバック調シート状物の風合いが硬くなる虞がある。
【0070】
本発明のヌバック調シート状物は、さらに、第2の樹脂層、あるいは第2の樹脂膜として、発泡層の表面に立毛状に突出したパイル繊維片の表面が保護膜で被覆されたものである(図1(D)参照)。これにより、得られるヌバック調シート状物の耐摩耗性を向上することができる。さらに、使用する樹脂によっては感触、すなわちヌメリ感を向上することもできる。なお、本発明において保護膜とは、突出したパイル繊維片1本1本の表面を被覆して、突出したパイル繊維片を保護する樹脂膜の総称をいい、少なくとも1層の樹脂膜からなるが、同一または異なる組成の2種以上の樹脂膜からなることができる。
【0071】
保護膜の形成に用いられる樹脂は特に限定されるものでなく、一般に用いられているものから適宜選択すればよい。例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、皮膜強度に優れるという点で、ポリウレタン樹脂またはアクリル樹脂が好ましい。また上記樹脂の形態は、溶剤系、無溶剤系のいずれであっても構わないが、環境負荷が少ない点から無溶剤系、特には水系エマルジョンが好ましい。
【0072】
保護膜を形成する樹脂には、必要に応じて、樹脂の物性を損なわない範囲内で、着色剤、艶消し剤、平滑剤、架橋剤、消泡剤、整泡剤、分散剤、活性剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも耐摩耗性の観点から、添加剤として平滑剤や架橋剤を用いることが好ましい。
【0073】
保護膜は、突出したパイル繊維片の表面に樹脂組成物を塗布した後、熱処理することにより形成される。塗布方法は従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターなどを用いた方法を挙げることができる。なかでも、パイル繊維片による立毛を埋没により消失させることなく、突出したパイル繊維片の表面に均一な薄膜を形成できるという点で、スプレーコーターによる塗布が好ましい。
【0074】
樹脂組成物の塗布量は、固形分換算で0.5〜50g/mであることが好ましく、1〜15g/mであることがより好ましい。塗布量が0.5g/m未満であると、得られるヌバック調シート状物の耐摩耗性が悪くなる虞がある。塗布量が50g/mを超えると、パイル繊維片による立毛が樹脂に埋没して消失し、得られるヌバック調シート状物の外観や感触が損なわれる虞がある。
【0075】
熱処理は、樹脂組成物中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるとともに、熱処理によって架橋反応を起こす架橋剤を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する皮膜を形成するために行われる。熱処理温度は60〜170℃であることが好ましく、80〜150℃であることがより好ましい。また、熱処理時間は2〜30分間であることが好ましく、5〜10分間であることが好ましい。熱処理温度が60℃未満であると、あるいは、熱処理時間が2分間未満であると、樹脂の架橋が不十分となって耐摩耗性が悪くなる虞がある。熱処理温度が170℃を超えると、あるいは、熱処理時間が30分間を超えると、繊維質基材自体の風合いが硬くなる虞がある。
【0076】
かくして形成される保護膜の厚さは極めて薄く、パイル繊維片の長さや密度、シート状物の厚さに大きく影響することはない。
かくして、本発明のヌバック調シート状物を得ることができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」は重量基準であるものとする。また、得られたヌバック調シート状物の評価は以下の方法に従った。
【0078】
[外観]
官能評価を行い、下記基準に従って判定した。
○:ヌバック調の繊細な外観である
△:ヌバック調の外観をやや欠く
×:ヌバック調の外観が全くなく、粗い外観である
【0079】
[感触]
官能評価を行い、下記の基準に従って判定した。
○:ヌバック調のしっとりとしたヌメリ感のある感触である
△:ヌバック調の感触をやや欠く
×:ヌバック調の感触が全くなく、ざらついてドライな感触である
【0080】
[風合い]
風合い評価の指標として剛軟度を測定し、下記の基準に従って判定した。なお、剛軟度の測定は、JIS L1096−1999 8.19.1 A法(45度カンチレバー法)に準拠した。また、試験片としては、幅25mm、長さ200mmの大きさで、タテ方向およびヨコ方向からそれぞれ1枚採取したものを用いた。
○:剛軟度が60mm未満であり、風合いに優れる
△:剛軟度が60mm以上、80mm以下であり、やや硬い風合いである
×:剛軟度が80mmを超え、風合いが硬い
【0081】
[ライティング効果]
シート状物を長手方向が上下に、幅方向が左右になるように水平に置く。指で幅方向に対して60度の角度で上から下へ続いて下から上へ、シート状物の表面を10cmほどなぞる。次に、幅方向に対して45度の角度で同様になぞり、最後に30度の角度で同様になぞる。それぞれの角度におけるライティング効果を確認し、下記の基準に従って判定した。
○:いずれの角度においてもライティング効果が確認できる
△:特定の角度ではライティング効果が十分に確認できない
×:いずれの角度においてもライティング効果がほとんど確認できない
【0082】
[耐摩耗性]
幅70mm、長さ300mmの大きさの試験片をタテ方向から1枚採取し、裏面に幅70mm、長さ300mm、厚さ10mmの大きさのウレタンフォームを添えて、平面摩耗試験機T−TYPE(株式会社大栄科学精器製作所製)に固定する。綿帆布をかぶせた摩擦子に荷重9.8Nを掛けて試験片を摩耗する。摩擦子は試験片の表面上140mmの間を60往復/分の速さで摩耗する。摩耗回数2500回毎に綿帆布を交換し、合計10000回摩耗する。摩耗後の試験片の状態を観察し、下記の基準に従って判定した。
○:亀裂、破れ等が無い
△:亀裂が発生した
×:破れが発生した
【0083】
また、ホットメルトウレタンプレポリマーは以下のように製造した。
[製造例1]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリエステルポリオール(クラレポリオールP2012:株式会社クラレ製)を80部、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール(クラレポリオールC2090:株式会社クラレ製)を50部、数平均分子量が1000のポリエーテルポリオール(PTMG1000:三洋化成工業株式会社製)を10部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を15部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.25)、ホットメルトウレタンポリオールプレポリマー(軟化温度:40℃)を得た。
【0084】
[製造例2]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が1000のポリエステルポリオール(クラレポリオールP1012:株式会社クラレ製)を10部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を6部入れて水酸基が無くなるまで80℃にて攪拌し(当量比(イソシアネート基/水酸基)は2.4)、ホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマー(軟化温度:30℃)を得た。
【0085】
また、保護膜の形成には、下記のポリウレタン樹脂組成物を用いた(組成1および2の各成分はいずれもStahl社製)。
[樹脂組成物]
組成1および組成2の溶液を、塗布直前に混合し(合計430部)、樹脂組成物とした。
【0086】
組成1
HM−183(平滑剤) 5部
HM−4986(平滑剤) 15部
WT−2524(ポリウレタン樹脂) 100部
LA−1688(活性剤) 20部
水 270部
【0087】
組成2
XR−13−436(架橋剤) 10部
水 10部
【0088】
[実施例1]
28ゲージで3枚の筬を有するトリコット編機を使用し、フロント筬にはポリエチレンテレフタレート32dtex/102f(単繊維繊度0.31dtex)のインターレース糸を、ミドル筬、バック筬にはポリエチレンテレフタレート75dtex/36fの糸を用い、組織はフロント筬1−0/3−4、ミドル筬1−0/1−2、バック筬2−3/1−0で、編機上で70コース/25.4mmでトリコット編地を編成した。
得られた編地を、分散染料を用いて液流染色機により130℃で30分間染色後、ヒートセッターにより150℃で2分間熱処理して乾燥した。
【0089】
次いで、パイルローラー12本、カウンターパイルローラー12本を有する針布ロールを備える針布起毛機により、針布ローラートルク2.5MPa、布速12m/分にて編終わり方向からと編始め方向からの起毛を交互に13回行い、フロント糸の約50%がカットされるようにセミカット起毛を施した。次いで、ヒートセッターにより190℃で1分間熱処理して仕上げた。得られた起毛パイル編地の編密度は38ウエール/25.4mm、64コース/25.4mm、厚さは1.0mmであった。また、パイル繊維片の長さは0.6mm、パイル繊維片の密度は48万本/(25.4mm)であった。かかる起毛パイル編地を繊維質基材として用いた。
【0090】
ホットメルトウレタンプレポリマーとして100℃に加熱溶融した製造例1のホットメルトウレタンポリオールプレポリマー100部に、ウレタン硬化剤として40℃に加熱した製造例2のホットメルトウレタンポリイソシアネートプレポリマーを20部、着色剤としてカーボンブラック顔料ポリトンブラック(大日本インキ化学工業株式会社製)を10部、ウレタン化触媒としてアミン系触媒TOYOCAT−DT(TOSOH株式会社製)を1部添加し、撹拌してプレポリマー組成物(当量比(イソシアネート基/水酸基)は1.1)を調製した。プレポリマー組成物の温度は75℃であり、粘度は5000cpsであった。このプレポリマー組成物を、シボ調の凹凸模様(高低差:20〜60μm)を有する離型紙DE−146(大日本印刷株式会社製)に、塗布厚が200μmとなるようにコンマコーターにてシート状に塗布した。
【0091】
次いで、プレポリマー組成物が塗布時の粘度を維持する状態のうちに、繊維質基材のパイル繊維片面を貼り合わせ、80℃に調整されたロールにて0.5MPaの荷重で圧締した。次いで、シート状物を巻き取り、室温にて1日間エージング処理した後、離型紙を剥離した。得られた繊維質基材と発泡層の積層体において、発泡層を構成するポリウレタン樹脂の軟化温度は200℃、発泡層の厚さは480μm、パイル繊維片の長さに対する発泡層の厚さの割合は、パイル繊維片の先端より80%であった。
【0092】
次いで、粒度が400号のサンドペーパーを備えるバフ機により、ペーパー速度1000m/分で発泡層の表面を50μm研削処理し、発泡層の表面にパイル繊維片の先端を立毛状に突出させた。このとき、突出したパイル繊維片の長さの分布は60〜180μm、平均値は120μm、パイル繊維片の密度は40万本/(25.4mm)、発泡層の厚さは430μmであった。また、シート状物の厚さは1.0mmであった。
【0093】
次いで、保護膜形成用のポリウレタン樹脂組成物を、塗布量が7g/mとなるようにスプレーコーターにて塗布し、ヒートセッターにて100℃で2分間熱処理して、突出したパイル繊維片を被覆する保護膜を形成し、実施例1のヌバック調シート状物を得た。
【0094】
[比較例1]
不織布の構成繊維として、直接紡糸法による単繊維繊度0.15dtexの極細ポリエチレンテレフタレートを長さ5mmに切断したものと、直接紡糸法による単繊維繊度0.1dtexの極細ポリエチレンテレフタレートを長さ5mmに切断したものを用い、重量比が50:50となるように水中に分散させ、表層用と裏層用の抄造用スラリーを作製した。表層目付110g/m、裏層目付60g/mとし、その中間にポリエチレンテレフタレート165dtex/48fの糸からなるガーゼ状の織物を封入し、三層積層構造の不織布を連続抄造により製造した。
得られた不織布に高速水流を噴射し、三次元交絡不織布を得た。高速水流には孔径0.1mmの直進流噴射ノズルを用いて、表層から4.0MPa、裏層から3.0MPaの圧力で噴射処理した。次いで、ヒートセッターにより150℃で1分間熱処理して乾燥した。
【0095】
次いで、三次元交絡不織布の表層を、粒度が400号のサンドペーパーを備えるバフ機により、ペーパー速度1000m/分で起毛した。得られた起毛パイル不織布の厚さは1.0mmであった。また、パイル繊維片の長さは0.5mm、パイル繊維片の密度は106万本/(25.4mm)であった。
【0096】
得られた起毛パイル不織布に、水系ポリカーボネート系ポリウレタンエマルジョンとしてエバファノールAPC−55(日華化学株式会社製)を40重量%、感熱剤として硫酸ナトリウムを3重量%含む処理液を含浸後、ピックアップ率120重量%(水系ポリウレタンの固形分付着率17重量%)になるようにマングルで絞り、その後、ヒートセッターにより130℃で3分間熱処理して乾燥した。
次いで、分散染料を用いて液流染色機により130℃で20分間染色後、ヒートセッターにより150℃で2分間熱処理して乾燥し、比較例1のシート状物(乾式法の一形態である)を得た。パイル繊維片の長さの分布は200〜300μm、平均値は250μm、パイル繊維片の密度は106万本/(25.4mm)であった。また、シート状物の厚さは1.0mmであった。
【0097】
[実施例2]
起毛パイル不織布に含浸させる処理液の水系ポリカーボネート系ポリウレタンエマルジョンの濃度を9重量%とした以外は、比較例1と同様にして、シート状物を得た。該シート状物の厚さは1.0mmであり、パイル繊維片の長さの分布は200〜300μm、平均値は250μm、パイル繊維片の密度は106万本/(25.4mm)であった。
かかるシート状物を繊維質基材として用い、プレポリマー組成物の塗布厚を100μm、発泡層の研削厚さを35μmとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2のヌバック調シート状物を得た。研削処理前の発泡層の厚さは300μm、パイル繊維片の長さに対する発泡層の厚さの割合は、パイル繊維片の先端より90%であった。また、研削処理により発泡層の表面に突出したパイル繊維片の長さの分布は20〜50μm、平均値は30μm、パイル繊維片の密度は90万本/(25.4mm)、発泡層の厚さは265μmであった。また、シート状物の厚さは1.0mmであった。
【0098】
[実施例3]
フロント筬にポリエチレンテレフタレート75dtex/144f(単糸繊度0.52dtex)の糸を用い、起毛回数を5回としてフロント糸の約7%がカットされるようにセミカット起毛を施した以外は、実施例1と同様にして起毛パイル編地を得た。得られた起毛パイル編地の編密度は38ウエール/25.4mm、64コース/25.4mm、厚さは1.0mmであった。また、パイル繊維片の長さは0.6mm、パイル繊維片の密度は5万本/(25.4mm)であった。
かかる起毛パイル編地を繊維質基材として用い、プレポリマー組成物の塗布厚を150μmとした以外は、実施例1と同様にして、実施例3のヌバック調シート状物を得た。研削処理前の発泡層の厚さは375μm、パイル繊維片の長さに対する発泡層の厚さの割合は、パイル繊維片の先端より110%であった。また、研削処理により発泡層の表面に突出したパイル繊維片の長さの分布は25〜75μm、平均値は50μm、パイル繊維片の密度は43万本/(25.4mm)、発泡層の厚さは325μmであった。また、シート状物の厚さは1.0mmであった。
【0099】
[実施例4]
フロント筬にポリエチレンテレフタレート125dtex/180f(単繊維繊度0.69dtex)の糸を、ミドル筬、バック筬にポリエチレンテレフタレート33dtex/12fの糸を用い、組織はフロント筬1−0/4−5、ミドル筬1−0/1−2、バック筬2−3/1−0とした以外は、実施例1と同様にして、起毛パイル編地を得た。得られた起毛パイル編地の編密度は30ウエール/25.4mm、70コース/25.4mm、厚さは2.5mmであった。また、パイル繊維片の長さは2.0mm、パイル繊維片の密度は75万本/(25.4mm)であった。
かかる起毛パイル編地を繊維質基材として用い、プレポリマー組成物の塗布厚を500μmとした以外は、実施例1と同様にして、実施例4のヌバック調シート状物を得た。研削処理前の発泡層の厚さは750μm、パイル繊維片の長さに対する発泡層の厚さの割合は、パイル繊維片の先端より50%であった。また、研削処理により発泡層の表面に突出したパイル繊維片の長さの分布は40〜160μm、平均値は100μm、パイル繊維片の密度は64万本/(25.4mm)、発泡層の厚さは700μmであった。また、シート状物の厚さは2.5mmであった。
【0100】
[実施例5]
針布起毛機による起毛までは実施例1と同様にして得た起毛パイル編地の起毛面(パイル繊維片面)に、実施例1と同様のプレポリマー組成物を、塗布厚が200μmとなるようにドクターナイフコーターにてシート状に塗布した。次いで、プレポリマー組成物が塗布時の粘度を維持する状態のうちに、シボ調の凹凸模様(高低差:20〜60μm)を有する離型紙DE−146(大日本印刷株式会社製)を貼り合わせ、80℃に調整されたロールにて0.5MPaの荷重で圧締した。
これ以降は、実施例1と同様にして、実施例5のヌバック調シート状物を得た。研削処理前の発泡層の厚さは400μm、パイル繊維片の長さに対する発泡層の厚さの割合は、パイル繊維片の先端より100%であった。また、研削処理により発泡層の表面に突出したパイル繊維片の長さの分布は60〜180μm、平均値は120μm、パイル繊維片の密度は40万本/(25.4mm)、発泡層の厚さは350μmであった。また、シート状物の厚さは1.0mmであった。
【0101】
[比較例2]
バフ機による起毛までは比較例1と同様にして得た起毛パイル不織布に、ポリビニルアルコールとしてGL−05(日本合成化学株式会社製)を6重量%含む処理液を含浸後、ピックアップ率100重量%(ポリビニルアルコールの固形分付着率6重量%)となるようにマングルで絞り、その後、ヒートセッターにより130℃で3分間熱処理して乾燥した。
次いで、溶剤系ポリエーテル/ポリエステル系ポリウレタン樹脂としてクリスボンMP−145(大日本インキ化学工業株式会社製)を12重量%含む処理液を含浸後、水中に浸漬して凝固させ、ヒートセッターにより150℃で2分間熱処理して乾燥した。
次いで、分散染料を用いて液流染色機により130℃で20分間染色後、ヒートセッターにより150℃で2分間熱処理して乾燥し、比較例2のシート状物(湿式法の一形態である)を得た。パイル繊維片の長さの分布は150〜250μm、平均値は200μm、パイル繊維片の密度は106万本/(25.4mm)、発泡層の厚さは300μmであった。また、シート状物の厚さは1.0mmであった。
【0102】
[比較例3]
溶剤系ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂としてクリスボンNY−328(大日本インキ化学工業株式会社製)100部に、着色剤として黒色顔料ダイラックL−1770S(大日本インキ化学工業株式会社製)を20部、希釈溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を20部、同じく希釈剤としてメチルエチルケトン(MEK)を20部混合した溶液を、ヌバック調の凹凸模様(高低差:20〜60μm)を有する離型紙UM−11E(大日本印刷株式会社製)に、塗布厚が200μmとなるようにコンマコーターにて塗布し、ヒートセッターにより150℃で2分間熱処理して乾燥させて、表皮形成用の厚さ40μmの皮膜を得た。さらにその表面に、接着剤としてポリカーボネート系ポリウレタン樹脂クリスボンTA−205(大日本インキ化学工業株式会社製)100部に、架橋剤としてバーノックDN−950(大日本インキ化学工業株式会社製)を10部、希釈溶剤としてDMFを40部、同じく希釈剤としてMEKを20部混合した溶液を、塗布厚が200μmとなるように塗布し、100℃で2分間熱処理して乾燥した。
次いで、実施例1と同様の繊維質基材と、80℃に調整されたロールにて0.5MPaの荷重で圧締して貼り合せた。次いで、離型紙を剥離して、比較例3のシート状物(厚さ:1.0mm)を得た。
【0103】
[比較例4]
保護膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例4のシート状物を得た。
【0104】
[比較例5]
実施例1と同様のトリコット編機を使用し、フロント筬にはポリエチレンテレフタレート84dtex/72f(単糸繊度1.17dtex)のインターレース糸を、ミドル筬にはポリエチレンテレフタレート84dtex/36fの糸を用い、バック筬にはポールバーを配置し、組織はフロント筬0−1/1−0、ミドル筬1−0/1−2、バック筬0−0/1−1で、編機上で50コース/25.4mmでループパイルを有するトリコット編地を編成した。
得られた編地を、分散染料を用いて液流染色機により130℃で30分間染色後、ヒートセッターにより150℃で2分間熱処理して乾燥した。得られたループパイル編地の編み密度は36ウェール/25.4mm、56コース/25.4mm、厚さは1.5mmであった。また、パイル糸の長さ(ループパイルの地組織との係止部分からループの頂点までの長さ)は1.0mm、パイル糸の密度は2016本/(25.4mm)であった。
かかるループパイル編地を繊維質基材として用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例5のシート状物(厚さ:1.5mm)を得た。但し、研削処理が良好に行えず、発泡層の表面にパイル繊維片の先端を立毛状に突出させることができなかった。
【0105】
[比較例6]
針布起毛機による起毛までは実施例1と同様にして得た起毛トリコット編地に、水系ポリカーボネート系ポリウレタンエマルジョンとしてエバファノールAPC−55(日華化学株式会社製)を40重量%、感熱剤として硫酸ナトリウムを3重量%含む処理液を含浸後、ピックアップ率120重量%(水系ポリウレタンの固形分付着率17重量%)になるようにマングルで絞り、その後、ヒートセッターにより130℃で3分間熱処理して乾燥した。
次いで、ハイドリックタイプエンボス機で、80℃×5秒間型押しして、革絞模様を形成した後、実施例1と同様にして研削処理を施し、さらに保護膜を形成して、比較例6のシート状物(厚さ:0.5mm)を得た。但し、研削処理が良好に行えず、発泡層の表面にパイル繊維片の先端を立毛状に突出させることができなかった。
【0106】
上記実施例および比較例のヌバック調シート状物について性能を評価した結果を表1に示す。
【0107】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に非輪奈状のパイル繊維からなるパイル繊維片を有する繊維質基材の該パイル繊維片を有する側の面に、ホットメルトウレタンプレポリマーとウレタン硬化剤との反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる発泡層が、パイル繊維片と混在する状態で積層され、パイル繊維片の少なくとも一部は先端が発泡層の表面に立毛状に突出しており、突出したパイル繊維片の表面が保護膜で被覆されているヌバック調シート状物。
【請求項2】
発泡層の表面に立毛状に突出させるパイル繊維片の長さが10〜300μmであり、密度が2万5千〜350万本/(25.4mm)である、請求項1に記載のヌバック調シート状物。
【請求項3】
加熱溶融状態にあるホットメルトウレタンプレポリマーと、ウレタン硬化剤とを混合してプレポリマー組成物を調製する工程、
プレポリマー組成物を、(a)離型性基材に塗布し、該塗布面に、少なくとも一方の面に非輪奈状のパイル繊維からなるパイル繊維片を有する繊維質基材の該パイル繊維片を有する側の面を貼り合わせるか、または、(b)少なくとも一方の面に非輪奈状のパイル繊維からなるパイル繊維片を有する繊維質基材の該パイル繊維片を有する側の面に塗布し、該塗布面に、離型性基材を貼り合わせる工程、
エージング処理して、ポリウレタン樹脂からなる発泡層を形成させる工程、
離型性基材を剥離する工程、
発泡層の表面を研削処理して、パイル繊維片の少なくとも一部の先端を発泡層の表面に立毛状に突出させる工程、
突出したパイル繊維片の表面に樹脂組成物を塗布する工程、
熱処理して、突出したパイル繊維片の表面を被覆する保護膜を形成させる工程、
をこの順で含んでなるヌバック調シート状物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−31443(P2010−31443A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136610(P2009−136610)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】