ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質
【課題】養殖魚等における寄生虫症の原因となるネオベネデニアの生態を利用した駆虫方法を提供すること。
【解決手段】ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質を魚類の飼育水に添加することを特徴とするネオベネデニアの駆虫方法である。該タンパク質は、魚類体表粘液、血清、又は鰓から得られる、分子量が約65kDa又は90kDaであり、かつ、コンカナバリンAに親和性を有するタンパク質である。
【解決手段】ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質を魚類の飼育水に添加することを特徴とするネオベネデニアの駆虫方法である。該タンパク質は、魚類体表粘液、血清、又は鰓から得られる、分子量が約65kDa又は90kDaであり、かつ、コンカナバリンAに親和性を有するタンパク質である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の寄生虫症の原因となるネオベネデニアの駆虫に有用なタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオベネデニアは1950年代からメキシコなどの熱帯性海域を中心に多くの海産魚で報告されていたが、我が国では1991年になって初めて寄生が確認され、カンパチ、トラフグ、シマアジ、ヒラメ、ブリなど比較的幅広い魚種で本虫の寄生が確認されており、問題となっている。現場での診断法としては、腹部の表皮発赤やひれのスレ、眼球の白濁などの症状を伴うへい死のほかに、多量の寄生を受けた魚では、粘液の大量分泌により体表が白濁して見えることなどがあげられる。また、生す網に体をこすりつけるような異常遊泳が頻繁に見られる場合もある。本虫の寄生が確認された場合は、水温に注意しながら5分間以上の淡水浴を行うことによって、完全に駆虫できる。しかし、卵は死滅せず、一度発生すると淡水浴をしても繰り返し発生するため、問題となっている。
【0003】
ネオベネデニアなどの単生虫の孵化幼生は繊毛を持っており遊泳移動する。孵化幼生は宿主に接触することで繊毛がはずれ宿主に寄生するための把握器が出現することが知られている。非特許文献1には、ヒラメ、ブリ、マダイ、ニジマスの皮膚上皮の抽出物を培養液に添加するとネオベネデニア幼生の把握器出現が誘導されること、また、その皮膚上皮の抽出物の作用はレクチンやコンカナバリンAにより抑制されること、さらにその抑制された作用はこれらレクチンに特異的に結合する糖を添加することで回復することが報告されている。
【0004】
【非特許文献1】J. Parasitol., 86(2), p214-219, 2000. 「Attachment-inducing capacities of fish tissueextracts on oncomiracidia of Neobenedenia girellae (Monogenea, Capsalidae).」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、養殖魚等における寄生虫症の原因となるネオベネデニアの生態を利用した駆虫方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
Yoshinagaらの文献(非特許文献1)により、ヒラメ、ブリ、マダイ、ニジマスの皮膚上皮の抽出物を培養液に添加するとネオベネデニア幼生の把握器出現が誘導されること、及びそれが糖関連物質であることが報告されていたが、本発明者らは、トラフグの体表粘液、血清、鰓に同様の作用を持つ物質があることを確認し、さらにそれらが糖タンパク質であることをつきとめた。皮膚上皮等、天然物からの抽出物では、大量生産に適さず、利用が困難であるが、タンパク質であればそれらを遺伝子組み換えの手法で大量生産し、寄生虫の駆虫のために利用することができる。
【0007】
本発明は、ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質を要旨とする。魚類体表粘液、血清、又は鰓から得られるタンパク質であって、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミド電気泳動法による分子量測定で約65kDa又は90kDaの分子量を有し、かつ、コンカナバリンAに親和性を有することを特徴とするネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質である。あるいは、タンパク質Wap65からなるネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質である。
また、本発明は、ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質をネオベネデニアと接触させることにより、ネオベネデニアが魚類に寄生できないようにする方法、あるいは、ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質を魚類の飼育水に添加することを特徴とするネオベネデニアの駆虫方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタンパク質は強制的にネオベネデニア幼生の繊毛の脱落と把握器出現を誘導する効果を有するので、寄生虫幼生が魚類に寄生する前に、このタンパク質に接触させることにより、繊毛が脱落し泳ぐことができなくなり沈んでしまう。こうしてネオベネデニアが魚類に寄生するのを予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ネオベネデニアとは、門扁形動物、単性綱、単後吸盤目、カプサリス科に属する寄生虫であり、キイロハギ、カンパチ、ブリ、ヒラマサ、ヒレナガカンパチ、シマアジ、スズキ、マダイ、キジハタ、クエ、ヒラメ、トラフグなどへの寄生が報告されている。魚体に付いたネオベネデニアは淡水浴で簡単に死んでしまうが、一旦水槽にこの寄生虫が発生するとその水槽中の魚を全部取り出して淡水浴をしなければならず、一旦は収まったかのように見えても寄生虫の卵や幼体が残っていると再発してしまい淡水浴を繰り返すことになってしまい、淡水浴をするために水槽から魚を捕獲する労力と魚に与えるストレスは大きい。
【0010】
本発明のタンパク質は魚類の粘液等由来成分であるから、魚類に害はなく、水槽に添加することにより、残存している寄生虫幼生に作用し、繊毛を脱落させることにより、魚類に寄生することができなくさせる。淡水浴により成虫を駆虫した後、残存する卵、幼生を駆虫するために用いるのに適している。魚類を飼育している水槽に200mg/l以上添加するのが好ましい。
【0011】
本発明のタンパク質は、トラフグ等魚類の体表粘液に多く含まれるが、血液中や鰓の抽出物中にも含まれる。WGA、ConA、DBA、PHA-L および PSA などの各種レクチンと結合し、沈澱する糖タンパク質であり、特にConA(コンカナバリンA)ともっとも結合率が高く、グルコースによってその結合が解離するものである。したがって、ConA アフィニティークロマトグラフィー等の手法を用いることにより、本発明のタンパク質を得ることができる。さらに陰イオン交換クロマトグラフィーにより活性の強いタンパク質を分離精製できることができる。
本発明のタンパク質のうち、分子量約65kDaのタンパク質はWap65であり、分子量約75kDa のタンパク質は IgMのヘビーチェーンであることが確認されている。
【0012】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
<ネオベネデニア、Neobenedenia girellae 幼生の繊毛脱落ならびに把握器出現を誘導する物質を含む部位の特定(in vitro 試験)>
材料と方法
寄生虫:本試験に使用したハダムシNeobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持し、成虫から産卵された卵を回収し培養することで孵化幼生を得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
トラフグからの供試試料の調整:血清は、採血した血液を遠心し血球成分を除去することで得た。体表粘液抽出物は、体表からかき取った粘液をホモジナイズし、遠心分離して得られた上清とした。鰓抽出物は、採取した鰓をホモジナイズし、遠心分離して得られた上清とした。
ネオベネデニア孵化幼生の把握器出現率:孵化幼生の把握器出現率は試験区内の幼生全数のうち把握器を出現した幼生数から算出した(図1)。
評価試験:試験区はトラフグの血清、体表粘液抽出物、エラ抽出物をそれぞれタンパク量100、200、400μg/ml になるように海水に添加した添加区、及び海水に何も添加しないコントロール区とした。それぞれに約100個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露した後、幼生の把握器出現率を算出した。
【0014】
結果と考察
コントロール区では把握器出現率が 0.31 % であった。血清添加区では添加する濃度に関係なく把握器出現率は 10 % 以下であった。体表粘液抽出物添加区では、添加濃度に依存して把握器出現率が増加し、400μg添加区で50.03 % であった。エラ抽出物添加区では添加濃度と幼生の把握器出現率に相関関係が認められなかった(図2)。以上の結果から、体表粘液中の物質が本種幼生の把握器出現を誘導することが明らかになった。
【実施例2】
【0015】
<Neobenedenia girellae 孵化幼生の繊毛脱落ならびに把握器出現を誘導する物質の特定試験−1>
材料と方法
供試レクチン:WGA: Wheat germ agglutinin, SJA: Sophora japonica agglutinin, PHA-E: Phaseolus vulgaris erythroagglutinin, PHA-L: Phaseolus vulgaris luecoagglutinin, LCA: Lens culinaris agglutinin,PSA: Pisum sativum agglutinin, GSL-1: Griffonia simplicifolia lectin-1, ConA: Concanavalin A, DBA: Drolichos biflorus agglutinin, PNA: Peanat agglutinin, SBA: Soy bean agglutinin, UEA-1: Ulex europaeus agglutinin-1, RCA-1: Ricinus communis agglutinin-1) の計13種類のレクチンを試験に用いた。
評価試験:各種レクチンを100μg/ml濃度 になるよう海水に添加したレクチン単独区、各種レクチン100 μg/ml と体表粘液抽出物 400μg/mlを4℃で12時間反応させ遠心分離後に得られた上清を添加した混合区、体表粘液抽出物を400μg/ml 濃度で添加した体表粘液抽出物単独区、および未添加海水のコントロール区とした。それぞれに約100個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露し、把握器出現率を算出した。
【0016】
結果と考察
コントロール区および各種レクチン単独区の把握器出現率は明らかに低い値であり、各種レクチンを単独で海水に添加しても把握器発現は誘導されなかった。体表粘液抽出物単独区と全ての混合区の把握器出現率はいずれもコントロール区と比較して高い値となった。しかしながら混合区において、体表粘液抽出物とWGA、ConA、DBAを混合した区では、体表粘液抽出物単独添加区と比較して有意に把握器出現率が低下した。また、体表粘液抽出物とPHA-L もしくは PSA を混合した混合区においても体表粘液抽出物単独区と比較して把握器出現率が低下した(図3、4)。
以上の結果より本虫孵化幼生の把握器出現を誘導する物質は WGA、ConA、DBA、PHA-L および PSA などのレクチンと結合し、沈澱する糖タンパク質であることが明らかになった。
【実施例3】
【0017】
<Neobenedenia girellae 孵化幼生の繊毛脱落ならびに把握器出現を誘導する物質の特定試験−2>
評価試験:ConA、WGA、PHA-L および PSA 濃度50、100、200μg/ml と体表粘液抽出物
400μg/ml を4℃で12時間反応させ遠心分離して得られた上清を海水に添加した混合区、体表粘液抽出物を 400 μg/ml濃度で海水に添加した体表粘液抽出物単独区、および未添加海水のコントロール区を設けた。それぞれに約100個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露し、把握器出現率を算出した。
さらに、ConA 濃度 50、100、200、400 μg/ml と体表粘液抽出物 400μg/ml を4℃で12時間反応させ遠心分離して得られた上清を海水に添加した区、先の遠心分離後の沈澱に 0.5M グルコースを加え、4℃で12時間反応させ遠心分離して得られた上清を添加した区、体表粘液抽出物を 400 μg/ml量で海水に添加した体表粘液抽出物単独区、および未添加海水のコントロール区を設けた。前述の試験と同様に把握器出現率を算出した。
【0018】
結果と考察
体表粘液抽出物とConA、WGA および PSA とを反応させた混合区ではレクチン濃度依存的に把握器出現率が低下した。特に ConA 添加区では把握器出現率の低下が顕著であった(図 5)。ConA と体表粘液抽出物を反応させた上清を添加した区では先程と同様に ConA 添加濃度に依存的に把握器出現率が低下した。一方、沈澱に 0.5M グルコースを加えて反応させたあと遠心分離して得られた上清を添加した区(グルコース溶出画分を添加した区)では ConA 濃度依存的に把握器出現率が増加した (図6)。従って、本虫孵化幼生の把握器出現を誘導する糖タンパク質は ConA と最も結合性が高く、グルコースによってその結合が解離することが明らかになった。
【実施例4】
【0019】
<ConAアフィニティークロマトグラフィーによる把握器出現誘導タンパク質の精製>
方法:ConAアガロースと体表粘液抽出物を4℃で震盪しながら16時間反応させた。反応させたConAアガロースを遠心分離し、その上清を捨て得られた沈殿に0.5Mグルコースを加えた。その後、4℃で震盪しながら16時間反応させた。その上清を回収し溶出画分とした。溶出画分200μg/ml濃度で海水に添加した溶出画分区、体表粘液抽出物を200μg/ml濃度で海水に添加した体表粘液抽出物区、および未添加の海水のコントロール区を設け、それぞれに約100 個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露し、把握器出現率を算出した。
【0020】
結果と考察
コントロール区の把握器出現率は、明らかに低い値となった。一方、体表粘液抽出物添加区の把握器出現率は11.35 % 、ConA アフィニティークロマトグラフィーの溶出画分区の把握器出現率は10.01 % であり、両区ともほぼ同等の出現率であった (図7)。以上の結果は、ConAアフィニティークロマトグラフィーにより本虫の把握器出現を誘導する糖タンパク質が粗精製できていることを示している。
【実施例5】
【0021】
<陰イオン交換クロマトグラフィーによる把握器出現誘導タンパク質の精製>
方法
Fast Protein Liquid Chromatography (FPLC)とPOROS HQ カラムを用いて、先の ConA アフィニティークロマトグラフィーによる溶出画分を陰イオン交換クロマトグラフィーにより分離精製した。溶出バッファーには 0.1M NaCl を用い、濃度勾配による分離精製を行った。分離精製されたピークを集め、200μg/ml 濃度になるよう海水に添加した区、体表粘液抽出物を200μg/ml濃度で海水に添加した体表粘液抽出物区、および未添加の海水のコントロール区を設けた。それぞれに約 100 個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露し、把握器出現率を算出した。
【0022】
結果と考察
陰イオン交換クロマトグラフィーによりいくつかのピークが確認された (図8)。得られたピークをそれぞれ海水に添加し把握器出現率を算出したところ、ピーク3およびピーク6で把握器出現率が高い結果となった (図9)。従って、陰イオン交換クロマトグラフィーにより分離精製されたピーク3および6に本虫孵化幼生の把握器出現を誘導する糖タンパク質が含まれていることが明らかになった。
【実施例6】
【0023】
<把握器出現を誘導する糖タンパク質のアミノ酸相列決定および同定>
方法
本種の把握器出現を誘導する糖タンパク質を含むピークを SDS-PAGE に供し、銀染色を施して精製度を確認した。確認されたバンドをエドマン法による N 末端アミノ酸配列解析し、アミノ酸配列を決定した。決定されたアミノ酸の部分配列をもとにデータベースと照合し、糖タンパク質の同定を行った。
【0024】
結果と考察
SDS-PAGE の結果、ピーク3は約 65kDa のバンドと約 75kDa のバンドが確認された。それぞれのバンドのアミノ酸シークエンスの結果、65kDaのバンドはWap65であることが、75kDaのバンドはIgM ヘビーチェーンであることが明らかになった。ピーク6では約90kDa のバンドのみが確認された(図10)。このバンドをアミノ酸シークエンスした結果、2つのアミノ酸配列が決定された。それぞれのアミノ酸部分配列をデータベースと照合した結果、どのタンパク質とも当てはまらなかった。以上の結果より、本種の把握器出現を誘導する糖タンパク質はWap65 またはIgMのどちらかであることが明らかになった。また、ピーク6に含まれる糖タンパク質も本種の把握器出現を誘導することも明らかになった。
【実施例7】
【0025】
<陰イオン交換クロマトグラフィーによる把握器出現誘導タンパク質の精製および同定>
方法
Fast Protein Liquid Chromatography (FPLC) と POROS HQ カラムを用いて、把握器出現を誘導した先に分取したピーク3をさらに分離精製した。溶出バッファーには 0.1M NaCl 溶液を用い、濃度勾配による分離精製を行った。
分離精製されたピークを集め SDS-PAGE に供し、銀染色を行った。
また、分離精製されたピークを集め、200 μg/ml 濃度になるように海水に添加した区、体表粘液抽出物を 200 μg/ml 濃度になるように海水に添加した体表粘液抽出物区、および未添加の海水のコントロール区を設けた。それぞれに約 100 個体のネオベネデニア孵化幼生を暴露した。25℃で3時間暴露し、把握器出現率を算出した。
【0026】
結果と考察
陰イオン交換クロマトグラフィーにより 2 つのピークが分取され、それぞれのピークを SDS-PAGE に供した結果、それぞれのピークに 1 本ずつバンドが確認された (図
11)。ピーク A の分子量は約 65 kDa であり、ピーク B の分子量は約 75 kDa であった。このことと先に行ったアミノ酸シークエンスの結果から、ピーク A が Wap65 であり、ピーク B が IgM ヘビーチェーンであることが明らかになった。
これらの2種のタンパク質を海水に添加し、ネオベネデニア孵化幼生を暴露した(図12)。その結果、体表粘液抽出区では把握器出現率が 15% だったのに対し、Wap65 を添加した海水に暴露したネオベネデニア孵化幼生の把握器出現率は 35% であり、有意に高い値を示した。一方、IgM ヘビーチェーンを添加した海水にネオベネデニア孵化幼生を暴露した区では、把握器出現率は 3% であり、コントロール区と差が認められなかった。この結果より、ネオベネデニアの把握器出現を誘導するタンパク質は Wap65 であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、ネオベネデニアの駆虫に用いることができる。養殖分野で問題となる寄生虫症の予防手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】把握器の出現前と出現後のネオベネデニア幼生の形態を示した写真である。
【図2】実施例1の各試料を添加したときの把握器出現率を示した図である。
【図3】実施例2の各種レクチン単独、各種レクチンと体表粘液抽出物の混合物を添加したときの把握器出現率を示した図である。
【図4】実施例2の各種レクチン単独、各種レクチンと体表粘液抽出物の混合物を添加したときの把握器出現率を示した図である。
【図5】実施例3の体表粘液抽出物とConA、WGA および PSA とを濃度を変えて反応させた混合区を添加したときの把握器出現率を示した図である。
【図6】実施例3のConAにより抑制された体表粘液抽出物の作用がグルコース添加により回復することを示した図である。
【図7】実施例4のConA アフィニティークロマトグラフィーの溶出画分が体表粘液抽出物と同程度の把握器出現率を示すことを示した図である。
【図8】実施例5のConA アフィニティークロマトグラフィーによる溶出画分の陰イオン交換クロマトグラフィーを示す図である。
【図9】実施例5のConA アフィニティークロマトグラフィーによる溶出画分を陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した画分の把握器出現率を示す図である。
【図10】実施例6のピーク3、ピーク6のSDS-PAGEの写真である。
【図11】実施例7の2つのピークのSDS-PAGEの写真である。
【図12】実施例7の各試験区の把握器出現率を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の寄生虫症の原因となるネオベネデニアの駆虫に有用なタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオベネデニアは1950年代からメキシコなどの熱帯性海域を中心に多くの海産魚で報告されていたが、我が国では1991年になって初めて寄生が確認され、カンパチ、トラフグ、シマアジ、ヒラメ、ブリなど比較的幅広い魚種で本虫の寄生が確認されており、問題となっている。現場での診断法としては、腹部の表皮発赤やひれのスレ、眼球の白濁などの症状を伴うへい死のほかに、多量の寄生を受けた魚では、粘液の大量分泌により体表が白濁して見えることなどがあげられる。また、生す網に体をこすりつけるような異常遊泳が頻繁に見られる場合もある。本虫の寄生が確認された場合は、水温に注意しながら5分間以上の淡水浴を行うことによって、完全に駆虫できる。しかし、卵は死滅せず、一度発生すると淡水浴をしても繰り返し発生するため、問題となっている。
【0003】
ネオベネデニアなどの単生虫の孵化幼生は繊毛を持っており遊泳移動する。孵化幼生は宿主に接触することで繊毛がはずれ宿主に寄生するための把握器が出現することが知られている。非特許文献1には、ヒラメ、ブリ、マダイ、ニジマスの皮膚上皮の抽出物を培養液に添加するとネオベネデニア幼生の把握器出現が誘導されること、また、その皮膚上皮の抽出物の作用はレクチンやコンカナバリンAにより抑制されること、さらにその抑制された作用はこれらレクチンに特異的に結合する糖を添加することで回復することが報告されている。
【0004】
【非特許文献1】J. Parasitol., 86(2), p214-219, 2000. 「Attachment-inducing capacities of fish tissueextracts on oncomiracidia of Neobenedenia girellae (Monogenea, Capsalidae).」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、養殖魚等における寄生虫症の原因となるネオベネデニアの生態を利用した駆虫方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
Yoshinagaらの文献(非特許文献1)により、ヒラメ、ブリ、マダイ、ニジマスの皮膚上皮の抽出物を培養液に添加するとネオベネデニア幼生の把握器出現が誘導されること、及びそれが糖関連物質であることが報告されていたが、本発明者らは、トラフグの体表粘液、血清、鰓に同様の作用を持つ物質があることを確認し、さらにそれらが糖タンパク質であることをつきとめた。皮膚上皮等、天然物からの抽出物では、大量生産に適さず、利用が困難であるが、タンパク質であればそれらを遺伝子組み換えの手法で大量生産し、寄生虫の駆虫のために利用することができる。
【0007】
本発明は、ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質を要旨とする。魚類体表粘液、血清、又は鰓から得られるタンパク質であって、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミド電気泳動法による分子量測定で約65kDa又は90kDaの分子量を有し、かつ、コンカナバリンAに親和性を有することを特徴とするネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質である。あるいは、タンパク質Wap65からなるネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質である。
また、本発明は、ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質をネオベネデニアと接触させることにより、ネオベネデニアが魚類に寄生できないようにする方法、あるいは、ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質を魚類の飼育水に添加することを特徴とするネオベネデニアの駆虫方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタンパク質は強制的にネオベネデニア幼生の繊毛の脱落と把握器出現を誘導する効果を有するので、寄生虫幼生が魚類に寄生する前に、このタンパク質に接触させることにより、繊毛が脱落し泳ぐことができなくなり沈んでしまう。こうしてネオベネデニアが魚類に寄生するのを予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ネオベネデニアとは、門扁形動物、単性綱、単後吸盤目、カプサリス科に属する寄生虫であり、キイロハギ、カンパチ、ブリ、ヒラマサ、ヒレナガカンパチ、シマアジ、スズキ、マダイ、キジハタ、クエ、ヒラメ、トラフグなどへの寄生が報告されている。魚体に付いたネオベネデニアは淡水浴で簡単に死んでしまうが、一旦水槽にこの寄生虫が発生するとその水槽中の魚を全部取り出して淡水浴をしなければならず、一旦は収まったかのように見えても寄生虫の卵や幼体が残っていると再発してしまい淡水浴を繰り返すことになってしまい、淡水浴をするために水槽から魚を捕獲する労力と魚に与えるストレスは大きい。
【0010】
本発明のタンパク質は魚類の粘液等由来成分であるから、魚類に害はなく、水槽に添加することにより、残存している寄生虫幼生に作用し、繊毛を脱落させることにより、魚類に寄生することができなくさせる。淡水浴により成虫を駆虫した後、残存する卵、幼生を駆虫するために用いるのに適している。魚類を飼育している水槽に200mg/l以上添加するのが好ましい。
【0011】
本発明のタンパク質は、トラフグ等魚類の体表粘液に多く含まれるが、血液中や鰓の抽出物中にも含まれる。WGA、ConA、DBA、PHA-L および PSA などの各種レクチンと結合し、沈澱する糖タンパク質であり、特にConA(コンカナバリンA)ともっとも結合率が高く、グルコースによってその結合が解離するものである。したがって、ConA アフィニティークロマトグラフィー等の手法を用いることにより、本発明のタンパク質を得ることができる。さらに陰イオン交換クロマトグラフィーにより活性の強いタンパク質を分離精製できることができる。
本発明のタンパク質のうち、分子量約65kDaのタンパク質はWap65であり、分子量約75kDa のタンパク質は IgMのヘビーチェーンであることが確認されている。
【0012】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
<ネオベネデニア、Neobenedenia girellae 幼生の繊毛脱落ならびに把握器出現を誘導する物質を含む部位の特定(in vitro 試験)>
材料と方法
寄生虫:本試験に使用したハダムシNeobenedenia girellae はホシガレイを宿主として飼育維持し、成虫から産卵された卵を回収し培養することで孵化幼生を得た。得られた孵化幼生を試験に用いた。
トラフグからの供試試料の調整:血清は、採血した血液を遠心し血球成分を除去することで得た。体表粘液抽出物は、体表からかき取った粘液をホモジナイズし、遠心分離して得られた上清とした。鰓抽出物は、採取した鰓をホモジナイズし、遠心分離して得られた上清とした。
ネオベネデニア孵化幼生の把握器出現率:孵化幼生の把握器出現率は試験区内の幼生全数のうち把握器を出現した幼生数から算出した(図1)。
評価試験:試験区はトラフグの血清、体表粘液抽出物、エラ抽出物をそれぞれタンパク量100、200、400μg/ml になるように海水に添加した添加区、及び海水に何も添加しないコントロール区とした。それぞれに約100個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露した後、幼生の把握器出現率を算出した。
【0014】
結果と考察
コントロール区では把握器出現率が 0.31 % であった。血清添加区では添加する濃度に関係なく把握器出現率は 10 % 以下であった。体表粘液抽出物添加区では、添加濃度に依存して把握器出現率が増加し、400μg添加区で50.03 % であった。エラ抽出物添加区では添加濃度と幼生の把握器出現率に相関関係が認められなかった(図2)。以上の結果から、体表粘液中の物質が本種幼生の把握器出現を誘導することが明らかになった。
【実施例2】
【0015】
<Neobenedenia girellae 孵化幼生の繊毛脱落ならびに把握器出現を誘導する物質の特定試験−1>
材料と方法
供試レクチン:WGA: Wheat germ agglutinin, SJA: Sophora japonica agglutinin, PHA-E: Phaseolus vulgaris erythroagglutinin, PHA-L: Phaseolus vulgaris luecoagglutinin, LCA: Lens culinaris agglutinin,PSA: Pisum sativum agglutinin, GSL-1: Griffonia simplicifolia lectin-1, ConA: Concanavalin A, DBA: Drolichos biflorus agglutinin, PNA: Peanat agglutinin, SBA: Soy bean agglutinin, UEA-1: Ulex europaeus agglutinin-1, RCA-1: Ricinus communis agglutinin-1) の計13種類のレクチンを試験に用いた。
評価試験:各種レクチンを100μg/ml濃度 になるよう海水に添加したレクチン単独区、各種レクチン100 μg/ml と体表粘液抽出物 400μg/mlを4℃で12時間反応させ遠心分離後に得られた上清を添加した混合区、体表粘液抽出物を400μg/ml 濃度で添加した体表粘液抽出物単独区、および未添加海水のコントロール区とした。それぞれに約100個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露し、把握器出現率を算出した。
【0016】
結果と考察
コントロール区および各種レクチン単独区の把握器出現率は明らかに低い値であり、各種レクチンを単独で海水に添加しても把握器発現は誘導されなかった。体表粘液抽出物単独区と全ての混合区の把握器出現率はいずれもコントロール区と比較して高い値となった。しかしながら混合区において、体表粘液抽出物とWGA、ConA、DBAを混合した区では、体表粘液抽出物単独添加区と比較して有意に把握器出現率が低下した。また、体表粘液抽出物とPHA-L もしくは PSA を混合した混合区においても体表粘液抽出物単独区と比較して把握器出現率が低下した(図3、4)。
以上の結果より本虫孵化幼生の把握器出現を誘導する物質は WGA、ConA、DBA、PHA-L および PSA などのレクチンと結合し、沈澱する糖タンパク質であることが明らかになった。
【実施例3】
【0017】
<Neobenedenia girellae 孵化幼生の繊毛脱落ならびに把握器出現を誘導する物質の特定試験−2>
評価試験:ConA、WGA、PHA-L および PSA 濃度50、100、200μg/ml と体表粘液抽出物
400μg/ml を4℃で12時間反応させ遠心分離して得られた上清を海水に添加した混合区、体表粘液抽出物を 400 μg/ml濃度で海水に添加した体表粘液抽出物単独区、および未添加海水のコントロール区を設けた。それぞれに約100個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露し、把握器出現率を算出した。
さらに、ConA 濃度 50、100、200、400 μg/ml と体表粘液抽出物 400μg/ml を4℃で12時間反応させ遠心分離して得られた上清を海水に添加した区、先の遠心分離後の沈澱に 0.5M グルコースを加え、4℃で12時間反応させ遠心分離して得られた上清を添加した区、体表粘液抽出物を 400 μg/ml量で海水に添加した体表粘液抽出物単独区、および未添加海水のコントロール区を設けた。前述の試験と同様に把握器出現率を算出した。
【0018】
結果と考察
体表粘液抽出物とConA、WGA および PSA とを反応させた混合区ではレクチン濃度依存的に把握器出現率が低下した。特に ConA 添加区では把握器出現率の低下が顕著であった(図 5)。ConA と体表粘液抽出物を反応させた上清を添加した区では先程と同様に ConA 添加濃度に依存的に把握器出現率が低下した。一方、沈澱に 0.5M グルコースを加えて反応させたあと遠心分離して得られた上清を添加した区(グルコース溶出画分を添加した区)では ConA 濃度依存的に把握器出現率が増加した (図6)。従って、本虫孵化幼生の把握器出現を誘導する糖タンパク質は ConA と最も結合性が高く、グルコースによってその結合が解離することが明らかになった。
【実施例4】
【0019】
<ConAアフィニティークロマトグラフィーによる把握器出現誘導タンパク質の精製>
方法:ConAアガロースと体表粘液抽出物を4℃で震盪しながら16時間反応させた。反応させたConAアガロースを遠心分離し、その上清を捨て得られた沈殿に0.5Mグルコースを加えた。その後、4℃で震盪しながら16時間反応させた。その上清を回収し溶出画分とした。溶出画分200μg/ml濃度で海水に添加した溶出画分区、体表粘液抽出物を200μg/ml濃度で海水に添加した体表粘液抽出物区、および未添加の海水のコントロール区を設け、それぞれに約100 個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露し、把握器出現率を算出した。
【0020】
結果と考察
コントロール区の把握器出現率は、明らかに低い値となった。一方、体表粘液抽出物添加区の把握器出現率は11.35 % 、ConA アフィニティークロマトグラフィーの溶出画分区の把握器出現率は10.01 % であり、両区ともほぼ同等の出現率であった (図7)。以上の結果は、ConAアフィニティークロマトグラフィーにより本虫の把握器出現を誘導する糖タンパク質が粗精製できていることを示している。
【実施例5】
【0021】
<陰イオン交換クロマトグラフィーによる把握器出現誘導タンパク質の精製>
方法
Fast Protein Liquid Chromatography (FPLC)とPOROS HQ カラムを用いて、先の ConA アフィニティークロマトグラフィーによる溶出画分を陰イオン交換クロマトグラフィーにより分離精製した。溶出バッファーには 0.1M NaCl を用い、濃度勾配による分離精製を行った。分離精製されたピークを集め、200μg/ml 濃度になるよう海水に添加した区、体表粘液抽出物を200μg/ml濃度で海水に添加した体表粘液抽出物区、および未添加の海水のコントロール区を設けた。それぞれに約 100 個体のネオベネデニア孵化幼生を曝露した。25℃で3時間曝露し、把握器出現率を算出した。
【0022】
結果と考察
陰イオン交換クロマトグラフィーによりいくつかのピークが確認された (図8)。得られたピークをそれぞれ海水に添加し把握器出現率を算出したところ、ピーク3およびピーク6で把握器出現率が高い結果となった (図9)。従って、陰イオン交換クロマトグラフィーにより分離精製されたピーク3および6に本虫孵化幼生の把握器出現を誘導する糖タンパク質が含まれていることが明らかになった。
【実施例6】
【0023】
<把握器出現を誘導する糖タンパク質のアミノ酸相列決定および同定>
方法
本種の把握器出現を誘導する糖タンパク質を含むピークを SDS-PAGE に供し、銀染色を施して精製度を確認した。確認されたバンドをエドマン法による N 末端アミノ酸配列解析し、アミノ酸配列を決定した。決定されたアミノ酸の部分配列をもとにデータベースと照合し、糖タンパク質の同定を行った。
【0024】
結果と考察
SDS-PAGE の結果、ピーク3は約 65kDa のバンドと約 75kDa のバンドが確認された。それぞれのバンドのアミノ酸シークエンスの結果、65kDaのバンドはWap65であることが、75kDaのバンドはIgM ヘビーチェーンであることが明らかになった。ピーク6では約90kDa のバンドのみが確認された(図10)。このバンドをアミノ酸シークエンスした結果、2つのアミノ酸配列が決定された。それぞれのアミノ酸部分配列をデータベースと照合した結果、どのタンパク質とも当てはまらなかった。以上の結果より、本種の把握器出現を誘導する糖タンパク質はWap65 またはIgMのどちらかであることが明らかになった。また、ピーク6に含まれる糖タンパク質も本種の把握器出現を誘導することも明らかになった。
【実施例7】
【0025】
<陰イオン交換クロマトグラフィーによる把握器出現誘導タンパク質の精製および同定>
方法
Fast Protein Liquid Chromatography (FPLC) と POROS HQ カラムを用いて、把握器出現を誘導した先に分取したピーク3をさらに分離精製した。溶出バッファーには 0.1M NaCl 溶液を用い、濃度勾配による分離精製を行った。
分離精製されたピークを集め SDS-PAGE に供し、銀染色を行った。
また、分離精製されたピークを集め、200 μg/ml 濃度になるように海水に添加した区、体表粘液抽出物を 200 μg/ml 濃度になるように海水に添加した体表粘液抽出物区、および未添加の海水のコントロール区を設けた。それぞれに約 100 個体のネオベネデニア孵化幼生を暴露した。25℃で3時間暴露し、把握器出現率を算出した。
【0026】
結果と考察
陰イオン交換クロマトグラフィーにより 2 つのピークが分取され、それぞれのピークを SDS-PAGE に供した結果、それぞれのピークに 1 本ずつバンドが確認された (図
11)。ピーク A の分子量は約 65 kDa であり、ピーク B の分子量は約 75 kDa であった。このことと先に行ったアミノ酸シークエンスの結果から、ピーク A が Wap65 であり、ピーク B が IgM ヘビーチェーンであることが明らかになった。
これらの2種のタンパク質を海水に添加し、ネオベネデニア孵化幼生を暴露した(図12)。その結果、体表粘液抽出区では把握器出現率が 15% だったのに対し、Wap65 を添加した海水に暴露したネオベネデニア孵化幼生の把握器出現率は 35% であり、有意に高い値を示した。一方、IgM ヘビーチェーンを添加した海水にネオベネデニア孵化幼生を暴露した区では、把握器出現率は 3% であり、コントロール区と差が認められなかった。この結果より、ネオベネデニアの把握器出現を誘導するタンパク質は Wap65 であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、ネオベネデニアの駆虫に用いることができる。養殖分野で問題となる寄生虫症の予防手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】把握器の出現前と出現後のネオベネデニア幼生の形態を示した写真である。
【図2】実施例1の各試料を添加したときの把握器出現率を示した図である。
【図3】実施例2の各種レクチン単独、各種レクチンと体表粘液抽出物の混合物を添加したときの把握器出現率を示した図である。
【図4】実施例2の各種レクチン単独、各種レクチンと体表粘液抽出物の混合物を添加したときの把握器出現率を示した図である。
【図5】実施例3の体表粘液抽出物とConA、WGA および PSA とを濃度を変えて反応させた混合区を添加したときの把握器出現率を示した図である。
【図6】実施例3のConAにより抑制された体表粘液抽出物の作用がグルコース添加により回復することを示した図である。
【図7】実施例4のConA アフィニティークロマトグラフィーの溶出画分が体表粘液抽出物と同程度の把握器出現率を示すことを示した図である。
【図8】実施例5のConA アフィニティークロマトグラフィーによる溶出画分の陰イオン交換クロマトグラフィーを示す図である。
【図9】実施例5のConA アフィニティークロマトグラフィーによる溶出画分を陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した画分の把握器出現率を示す図である。
【図10】実施例6のピーク3、ピーク6のSDS-PAGEの写真である。
【図11】実施例7の2つのピークのSDS-PAGEの写真である。
【図12】実施例7の各試験区の把握器出現率を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質。
【請求項2】
魚類体表粘液、血清、又は鰓から得られるタンパク質であって、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミド電気泳動法による分子量測定で約65kDa又は90kDaの分子量を有し、かつ、コンカナバリンAに親和性を有することを特徴とする請求項1の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質。
【請求項3】
タンパク質Wap65からなる請求項1の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質。
【請求項4】
請求項1、2又は3のタンパク質をネオベネデニアと接触させることにより、ネオベネデニアが魚類に寄生できないようにする方法。
【請求項5】
請求項1、2又は3のタンパク質を魚類の飼育水に添加することを特徴とするネオベネデニアの駆虫方法。
【請求項1】
ネオベネデニア幼生の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質。
【請求項2】
魚類体表粘液、血清、又は鰓から得られるタンパク質であって、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミド電気泳動法による分子量測定で約65kDa又は90kDaの分子量を有し、かつ、コンカナバリンAに親和性を有することを特徴とする請求項1の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質。
【請求項3】
タンパク質Wap65からなる請求項1の繊毛を脱落させ把握器を出現させるタンパク質。
【請求項4】
請求項1、2又は3のタンパク質をネオベネデニアと接触させることにより、ネオベネデニアが魚類に寄生できないようにする方法。
【請求項5】
請求項1、2又は3のタンパク質を魚類の飼育水に添加することを特徴とするネオベネデニアの駆虫方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−284426(P2007−284426A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66627(P2007−66627)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]