説明

ネコ・ヘモプラズマの分離株

新たに同定されたヘモプラズマ病原体、Candidatus Mycoplasma turicensisを開示する。また、ヘモプラズマ病原体の検出法、スクリーニング法、および診断法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は米国特許仮出願第60/677,383号(2005年5月3日出願)に基づく優先権を主張する。同仮出願は、図面を含むその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、数種の哺乳動物種における感染性貧血の原因物質である血液向性マイコプラズマ種(別名ヘモプラズマ(Hemoplasma))への関心が高まっている。ネコでは、2つの異なるヘモプラズマ種:Mycoplasma haemofelis(旧称Haemobartonella felis)および‘Candidatus Mycoplasma haemominutum’が知られている。
【0003】
最近、ネコ感染性貧血の原因物質であるHaemobartonella felisは、新たに定義された血液向性マイコプラズマ種(別名ヘモプラズマ)群に再分類された。種々のネコ分離株の16SリボソームRNA(rRNA) 遺伝子のシーケンシングにより、2つの異なる種が確認されている(Berentら, 1998, Am J Vet Res 59:1215-20;Foleyら, 1998, Am J Vet Res 59:1581-8;Messickら, 1998, J Clin Microbiol 36:462-6;Rikihisaら, 1997, J Clin Microbiol 35:823-9;Taskerら, 2003, J Clin Microbiol 41:3877-80)。それらはMycoplasma haemofelisおよび‘Candidatus Mycoplasma haemominutum’であり(Johanssonら, 1999, FEMS Microbiol Lett 174:321-6;Neimarkら, 2001, Int J Syst Evol Microbiol 51:891-9;Rikihisaら, 1997 J. Clin. Microbiol. 35:823-829)、ネコ赤血球(RBC)に寄生する(Messickら, 1998. J Clin Microbiol 36:462-6)。感染実験によって明らかになったところによれば、2つの種は異なる病原性を示す(Foleyら, 1998, Am J. Vet Res 59:1581-1588;Taskerら, 2003, J Clin Microbiol 41:3877-80;Westfallら, 2001, Am J Vet Res 62:687-91)。すなわち、実験的に‘Candidatus M. haemominutum’に感染させたネコは最小限の臨床兆候を示し、一般に貧血は発症しないが、M. haemofelis感染では、多くの場合重度の溶血性貧血が起こる。M. haemofelisおよび‘Candidatus M. haemominutum’はインビトロでは培養できないため、最近まで、診断は血液塗抹標本の細胞学的同定に依存してきた(Bobadeら, 1987, Vet Parasitol 26:169-72)。しかしながら、新たな分子的方法の開発により、これらの物質の高感度かつ特異的な同定および定量が促進され(Berentら, 1998. Am J Vet Res 59:1215-1220;Jensenら, 2001. Am J Vet Res 62:604-8;Taskerら, 2003. J Clin Microbiol 41:3877-80)、PCRは現在、ヘモプラズマ感染の同定に最適な診断法である。これらの物質の疫学に関する知見はまだほとんど得られていない。いずれの種も世界的に分布しており(Clarkら, 2002. Aust Vet J 80:703-4;Criado-Fornelioら, 2003. Vet Microbiol 93:307-17;Jensenら, 2001. Am J Vet Res 62:604-8;Taskerら, 2001. Vet Microbiol 81:73-8;Taskerら, 2003. J Clin Microbiol 41:3877-80;Watanabeら, 2003. J Vet Med Sci 65:1111-4)、3つの異なる大陸から単離されたものは密接な配列同一性を示している(Taskerら, 2003. J Clin Microbiol 41:3877-80)。出願人は今回、予想外にも、第3のヘモプラズマ病原体"Candidatus Mycoplasma turicensis"を同定した。これはブタペスト条約の下、ATCCにPTA-6782として寄託されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の概要
本発明のある態様では単離されたヘモプラズマ病原体を提供し、ここではSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2;またはSEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4;またはSEQ ID NO:13およびSEQ ID NO:14から成るPCRプライマーと共にヘモプラズマ病原体の核酸を使用して実施するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅産物が得られる。SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2で増幅させた増幅産物は約1342核酸長であり;SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4で増幅させた増幅産物は約85ヌクレオチド長であり;そしてSEQ ID NO:13およびSEQ ID NO:14で増幅させた増幅産物は約1342核酸長でありうる。ヘモプラズマ病原体はSEQ ID NO:12の16S rRNA配列を含有してもよい。
【0005】
本発明の別の態様では、SEQ ID NO:12を含有する単離された核酸分子、またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続した核酸を含有する核酸分子を提供する。単離された核酸分子は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19;または、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19の10個以上の連続する核酸;またはそれらを組み合わせたものを含有することができる。単離された核酸分子は標識を含んでもよい。
【0006】
本発明の更に別の態様は、サンプル中の本発明のヘモプラズマ病原体の存在または非存在を検出する方法を含む。この方法は、SEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含有する単離された核酸プローブとサンプルを接触させること;および、ハイブリダイズしたプローブ/ヘモプラズマ病原体核酸複合体の存在または非存在を検出することを含み、ここで、ハイブリダイズしたプローブ/ヘモプラズマ病原体核酸複合体の存在は、サンプル中のヘモプラズマ病原体の存在を示す。ハイブリダイズしたプローブ/ヘモプラズマ病原体核酸複合体の量を測定することができる。プローブはラベルを含有してもよく、これは蛍光部分であってもよい。
【0007】
本発明の更に別の態様では、被験体中の本発明のヘモプラズマ病原体の存在または非存在を検出する方法を提供する。この方法は、被験体から得たサンプル中の、ヘモプラズマ病原体の16S rRNAまたは16S rRNAをコードする核酸分子を検出することを含み、ここで16S rRNAまたは16S rRNAをコードする核酸分子の存在はヘモプラズマ病原体の存在を示す。検出は、例えば以下から成る群から選択される方法でヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子を増幅することを含むことができる:ポリメラーゼ連鎖反応(PCR);リガーゼ連鎖反応;核酸配列に基づく増幅;自己保持配列複製(self-sustained sequence replication);鎖置換増幅;分枝DNAシグナル増幅;ネステッドPCR;マルチプレックスPCR ;定量PCR ;直接検出、インサイチューハイブリダイゼーション;転写介在増幅(TMA);ローリングサークル増幅(RCA);およびQ-ベータ・レプリカーゼ系。検出は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、 SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19;または、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、 SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19の10個以上の連続する核酸;またはそれらの組み合わせを含有する単離された核酸プローブの使用を含むことができる。
【0008】
本発明の更に別の方法では、サンプル中の本発明のヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子を検出する方法を提供する。方法は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3またはSEQ ID NO:13から成る第1の増幅プライマーおよびSEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:4またはSEQ ID NO:14から成る第2の増幅プライマーを用いるヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子の増幅;および増幅産物の検出を含み、ここで、増幅産物が検出される場合には16S rRNA核酸分子が存在する。サンプル中の16S rRNA核酸分子の量を測定することができる。第1もしくは第2プライマー、または両方の増幅プライマーは、標識、例えば蛍光部分を更に含有してもよい。増幅はリアルタイム定量PCRを含有してもよく、また、5’ヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼおよび検出可能な標識を含有する少なくとも1つのプローブの使用を更に含んでもよい。少なくとも1つのプローブはSEQ ID NO:6から成ってもよい。増幅はリアルタイム定量PCRを含んでもよく、また、2本鎖DNAに結合する検出可能な色素の使用を更に含んでもよい。検出可能な色素は、例えばサイバーグリーンまたは臭化エチジウムであってもよい。
【0009】
本発明の別の態様では、本発明のヘモプラズマ病原体の核酸分子の検出および定量の方法を提供する。この方法は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3またはSEQ ID NO:13から成る第1のプライマー;SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:4またはSEQ ID NO:14から成る第2のプライマー;5’ヌクレアーゼ活性を含むDNAポリメラーゼ;16S rRNA配列に相補的な核酸を含有し、レポーター蛍光色素およびクエンチャー色素を含有する核酸プローブを使用してヘモプラズマ病原体の16S rRNA配列を増幅することを含み、ヘモプラズマ病原体由来の核酸が検出および定量される。
【0010】
本発明の更に別の態様では、核酸分子を検出するキットを提供する。このキットはSEQ ID NO:12;SEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含有する配列を有する1つ以上の単離された核酸分子、またはそれらの組み合わせを含む。キットはポリメラーゼおよび1つ以上のバッファーを更に含んでもよい。1つ以上の単離された核酸分子は1つ以上の標識を含有する。標識は蛍光部分である。
【0011】
本発明の更に別の態様では、サンプルからヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子を単離する方法を提供する。この方法は、1つ以上の単離された捕捉核酸を含む固相支持体を、ハイブリダイズ条件下でサンプルと接触させ、ここで、単離された捕捉核酸はSEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含有し、ヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子がサンプル中に存在する場合にはこれは捕捉核酸とハイブリダイズし;そして固相支持体上のハイブリダイズしたヘモプラズマ病原体16S rRNA核酸分子を検出することを含む。
【0012】
本発明の更に別の態様では、本発明のヘモプラズマ病原体に感染した被験体の治療効果をモニタリングする方法を提供する。この方法は、被験体から治療前サンプルを得ること;サンプル中のヘモプラズマ16S rRNA核酸分子の存在、非存在、量、またはそれらの組み合わせを検出すること;被験体から1つ以上の治療後サンプルを得ること;治療後サンプル中のヘモプラズマ病原体16S rRNA核酸の存在、非存在、またはそれらの組み合わせを検出すること;投与前サンプル中の16S rRNA核酸の存在、非存在、量、またはそれらの組み合わせを投与後サンプルのものと比較すること;および治療効果をモニタリングすることを含む。
【0013】
本発明の別の態様では、本発明のヘモプラズマ病原体への感染に関して被験体をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、被験体から得たサンプル中のSEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含有するポリヌクレオチドを検出することを含む。ここで、ポリヌクレオチドが検出される場合には、被験体はヘモプラズマ病原体に感染している。
【0014】
本発明の更に別の態様では、本発明のヘモプラズマ病原体への感染に関して被験体をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、被験体から得たサンプル中のSEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含むポリヌクレオチドを検出して第1の値を得ること;疾病に罹患していない被験体から得た同様の生体サンプル中のSEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含有するポリヌクレオチドを検出して第2の値を得ること;および、第1の値と第2の値を比較することを含み、ここで、第1の値が第2の値に比較して高い場合には、被験体がヘモプラズマ病原体に感染していることを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図面の簡単な説明
図1は、感染実験を示す。感染後100日間にわたる、ネコ1(A)およびネコ2(B)における、新たに報告された分離株の病原体量(血液ml当たりのDNAテンプレートのコピー数の対数(左側Y軸、黒三角)、および血中血球容積(PCV)(%、右側Y軸、白四角)の経過。PCVの基準範囲を灰色の網掛けで示す。リアルタイムPCRアッセイの検出下限値(100コピー/血液ml)を点線で示す。
【0016】
図2は、新たに報告された分離株に実験的に感染させた後の、ネコ2における31日間にわたるRBC浸透圧脆弱性の経過を示す。溶血のパーセンテージ(%)は実施例1に記載するように算出した。感染後0日目から31日目のRBC浸透圧脆弱性の変化を矢印で示す。
【0017】
図3は、近隣結合法を使用した新規分離株と他のヘモプラズマ種との相関関係を示す系統樹を示す。M. coccoides(AY171918)、M. haemomuris(U82963)、M. haemocanis(AY150973)、M. haemofelis(AY150985)、 M. fastidiosum(AF125878)、‘Candidatus M. haemominutum’(AY297712)、‘Candidatus M. kahanei’(AF338269)、‘Candidatus M. haemoparvum’(AY532390)、M. wenyonii(AF016546)、およびM. suis(AY492086)。ノードの数値は1,000回の再サンプリングから得たものである;500未満の値は記載していない。バーは100部位当たりの平均相違数を示す。
【0018】
発明の詳細な説明
ヘモプラズマ病原体
近年の分子的方法の進歩により、ネコ血液サンプル中のヘモプラズマ病原体の高感度かつ特異的な同定および定量が可能となった。スイスにおける飼いネコ集団のヘモプラズマ感染に関する調査を行う疫学的研究にこれらの方法を適用して、第3の新規のユニークなネコ・ヘモプラズマ分離株(‘Candidatus Mycoplasma turicensis’)を同定した。これはブタペスト条約の下、PTA-6782として寄託されている(2005年6月8日)。
【0019】
新規の分離株は、重度の溶血性貧血の臨床兆候を示したネコから採取した血液サンプルで発見された。病原体は2検体の特定病原体未感染ネコへの静脈内接種によって容易に感染した。これらのネコのうち1検体(ネコ1)には、接種前に酢酸メチルプレドニゾロンを投与して免疫無防備状態にした。このネコは重度の貧血を発症した。他の免疫正常ネコ(ネコ2)は血中血球容積の中度の低下を示した。更に、赤血球浸透圧脆弱性の上昇が観察された。新規のヘモプラズマ分離株の16S rRNA遺伝子全長のシーケンシングおよび系統発生解析により、新規の分離株は2つの齧歯動物血液向性マイコプラズマ種、M. coccoidesおよびM. haemomurisと最も密接な関係があることが明らかになった。この新たに発見された病原体に特異的なリアルタイム定量PCRが開発された。
【0020】
新規のヘモプラズマ分離株は当初、血液バルトネラ症(haemobartonellosis)の臨床兆候を示した自然感染ネコ(Cat 946)で同定された。自然感染ネコの臨床検査および研究室での検査により、重度の血管内出血の兆候が明らかになった(最小PCV値12%)。新たに発見された病原体は、実験的に感染させた免疫無防備ネコ(ネコ1)において、感染後9日目までに重度の貧血(PCV 17%まで)を誘発した。同ネコは予め酢酸メチルプレドニゾロンを用いて免疫無防備状態としておいた。この副腎皮質ホルモンだけではPCVの低下は誘発されないと考えられており、実際、RBCの半減期を脾臓による除去の低下によって延長させるその能力の故に、再生不良性貧血および免疫介在型出血性貧血に罹患したネコの治療に使用されてきた(Plumb. 1995. Veterinary Drug Handbook(第2版)Ames, Iowa: Iowa State University Press:325-328, 443-446)。免疫無防備ネコは軽度の臨床兆候しか示さず、これは自然感染ネコで観察される重度の疾病の発症には更なる環境因子が関与していることを示唆している。より規模の大きい感染試験においてネコ・ヘモプラズマへの感受性が個々のネコで異なることが観察されているが、どの特定因子が感染の重篤度および臨床転帰に影響を与えるのかは、未だ解明されていない。
【0021】
ネコ1およびネコ2(非免疫無防備ネコ)におけるヘモプラズマ病原体量(load)は、PCVと逆の相関関係を有した。新規のヘモプラズマ分離株に実験的に感染させた非免疫無防備ネコ(ネコ2)は軽度の貧血を発症したのみで、疾病の兆候は示さなかった。これは、このネコの血液中で測定されたヘモプラズマが、免疫無防備ネコ(ネコ1)に比較して顕著に低い量であったという事実に適合しており、更なる因子がこの病原体によって誘発される急性疾患の発症に関与しているという推測を更に強化するものである。
【0022】
ネコ・ヘモプラズマ(特にMycoplasma haemofelis)は感染したネコで急性溶血を誘発することが知られているが、RBC破壊の根底にある厳密な機構はまだ解明されていない。Maedeら(1975. Nippon Juigaku Zasshi 37:49-54)は、寄生された赤血球の隔離および赤血球表面からの付着生物の除去において脾臓が中心的な役割を果たしていると主張している。彼らの報告によれば、実験的に感染させたネコのRBC表面上にヘモプラズマ種が最初に出現した後、RBCの浸透圧脆弱性が顕著かつ連続的に増加する。RBC浸透圧脆弱性の増加は、この研究において新規のヘモプラズマ分離株に自然感染または実験的に感染させた3検体のネコ全てで観察された。非免疫無防備ネコ(ネコ2)での報告のように、RBC浸透圧脆弱性は感染後最初の1ヶ月間、連続的に増加し、その後正常値に回復した。しかしながら、最も顕著な浸透圧脆弱性の増加が測定されたのは自然感染したネコ(ネコ946)であり、これはこのネコが最も重度の貧血および血管内溶血の兆候を示したという事実と一致している。
【0023】
M. haemofelisおよび‘Candidatus M. haemominutum’は全世界にわたって分布している。血液サンプル中のこれらの2つのネコ・ヘモプラズマ病原体を検出および識別するための慣例的なリアルタイム定量PCRアッセイの開発により、両種はUSA(Jensenら, 2001. Am J Vet Res 62:604-8)、UK(Taskerら, 2001. Vet Microbiol 81:73-8)、スペイン(Criado-Fornelioら, 2003. Vet Microbiol 93:307-17)、日本(Watanabeら, 2003. J Vet Med Sci 65:1111-4)、南アフリカ共和国(LobettiおよびTasker, 2004, J S Afr Vet Assoc 75:94-99)、フランス、およびオーストラリア(Taskerら, 2003. J Clin Microbiol 41:3877-80)由来のネコで同定されている。
【0024】
本発明の新規のヘモプラズマ分離株の16S rRNA遺伝子の系統発生学的研究により、この分離株は病原性ネコ・ヘモプラズマ分離株M. haemofelisと密接な関係があり、より病原性の低い種‘Candidatus M. haemominutum’とは遠縁関係でしかないことが明らかになった。驚くべきことに、新規の分離株の16S rRNA配列はM. coccoides(齧歯類から単離されたヘモプラズマ種)と更に密接な関係にあった。M. coccoidesは、その病原性を証明する多くの研究により、マウスおよびラットにおいて溶血性貧血を誘発することが知られている(Coxら, 1976. Ann Trop Med Parasitol 70:73-9;Iraluら, 1983. Infect Immun 39:963-5;Schilling, 1928. Parasitology 44:81-98)。M. coccoidesはマウスシラミPolyplax serrataを介してマウス間で物理的に伝染することが明らかになっている(Berkenkampら, 1998. Lab Anim Sci 38:398-401)。感染血液の経口接種によるネコ間のネコヘモプラズマ種の実験的感染が成功している(Flintら, 1959. Am J Vet Res 20:33-40)。ネコ946で報告されたように常時屋外へのアクセスが可能でネズミを捕獲できるという点を考慮すると、スイスにおいてこの新規のヘモプラズマ分離株が野生齧歯類に存在すれば、ネズミからネコへの種間伝播がネズミの捕獲を通して起こったものだと推測できる。
【0025】
スイスの飼い猫で行われた最近の研究で、新たに報告されたヘモプラズマ病原体に特異的なPCRアッセイで分析したところ、615検体のネコ血液サンプル中6検体がポジティブであった((Williら, 2006, J. Clin. Microbiol. 44:961-969)。
【0026】
本発明のヘモプラズマ病原体を含有するサンプルには、同病原体の核酸をSEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4から成るPCRプライマーと共に用いてPCRを実施すると増幅産物を生成するものが含まれる。増幅産物は約85核酸長であることができる。更に本発明の新規のヘモプラズマ病原体には、同病原体の核酸を含有するサンプルをSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:13およびSEQ ID NO:14から成るPCRプライマーと共に用いてPCRを実施すると増幅産物を生成するものが含まれる。これらの増幅のそれぞれにおいて、増幅産物は約1342核酸長であることができる。新規のヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸の配列は、例えば以下を含むことができる:SEQ ID NO:5;SEQ ID NO:7;SEQ ID NO:8;SEQ ID NO:9;SEQ ID NO:10;SEQ ID NO:11;SEQ ID NO:12;SEQ ID NO:13;SEQ ID NO:14;SEQ ID NO:15;SEQ ID NO:16;SEQ ID NO:17;SEQ ID NO:18;SEQ ID NO:19。
【0027】
ポリヌクレオチド
本発明の核酸分子は以下を含む単離された核酸分子を含む:SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19、それらのフラグメント、またはそれらの組み合わせ。
【0028】
本発明の核酸分子は天然に存在する核酸分子であっても組換え核酸分子であってもよい。核酸分子には、例えばポリメラーゼ連鎖反応の場合のように、その増幅産物も含まれる。核酸分子はヘモプラズマ16S rRNA核酸のフラグメントまたはヘモプラズマ16S rRNA核酸全長であってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、約5、10、20、30、40、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1,000、1,200、1,300、またはそれ以上の核酸長であることができる。本発明のポリヌクレオチドフラグメントは、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、またはSEQ ID NO:19の約5、10、20、30、40、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1,000、1,200、1,300、またはそれ以上の連続する核酸を含有することができる。核酸分子はRNAまたはRNAをコードするDNAであってもよく、修飾されたヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含有してもよい。
【0029】
核酸、核酸分子、ポリヌクレオチド、またはポリヌクレオチド分子とは、共有結合したヌクレオチド(すなわちRNAではリボヌクレオチド、DNAではデオキシリボヌクレオチド)の配列をいい、ここで、あるヌクレオチドのペントースの3’位はホスホジエステル基を介して隣接するペントースの5’位に結合している。ポリヌクレオチドはRNA、DNA、cDNA、ゲノムDNA、化学的に合成したRNAもしくはDNA、またはそれらを組み合わせたものであってもよい。核酸分子は化学的、酵素的、または代謝的に修飾した型の核酸を含んでもよい。
【0030】
本発明の核酸分子には、例えば以下も含まれる:ポリデオキシリボヌクレオチド(2-デオキシ-D-リボースを含有する)、ポリリボヌクレオチド(D-リボースを含有する)、プリンまたはピリミジン塩基のN-またはC-グリコシドである任意の他のタイプのポリヌクレオチド、および非ヌクレオチド骨格(例えばポリアミド(例えばペプチド核酸(PNA))およびポリモルホリノポリマー)を含有する他のポリマー、並びに、他の合成された配列特異的核酸ポリマーであって、DNAおよびRNAに見られるような塩基対合および塩基スタッキングが可能となるような立体配置で核酸塩基を含有するもの。核酸分子には、例えば以下も含まれる:3’-デオキシ-2’,5’-DNA、オリゴデオキシリボヌクレオチドN3’ P5’ホスホルアミデート、2’-O-アルキル置換型RNA、2本鎖および1本鎖DNA、並びに2本鎖および1本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッド、およびPNAとDNAまたはRNAとのハイブリッド。更に、改変体、例えば当該分野で周知の標識、メチル化、"キャップ"、1つ以上の天然存在型ヌクレオチドを類似体で置換したもの、ヌクレオチド間改変体、例えば非荷電結合(例えばメチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメート)を有するもの、負に荷電した結合(例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート)を有するもの、および正に荷電した結合(例えばアミノアルキルホスホルアミデート、アミノアルキルホスホトリエステル)を有するもの、ペンダント部分(例えばタンパク質(ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなどを含む))を有するもの、挿入部分(例えばアクリジン、ソラレンなど)を有するもの、キレート剤(例えば金属、放射能金属、ホウ素、酸化性金属など)を有するもの、アルキル化剤を含有するもの、改変された結合を有するもの(例えばアルファ・アノマー核酸など)、並びに改変されていない型のポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド。ヌクレオチド類似体とは、ペントースおよび/または1つ以上のホスフェートエステルをそのそれぞれの類似体で置換したヌクレオチドを言う。
【0031】
ポリヌクレオチドを精製して、他の成分、例えばタンパク質、脂質、および他のポリヌクレオチドを含有しないようにすることができる。例えばポリヌクレオチドを50%、75%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%精製してもよい。本発明のポリヌクレオチドは他のヌクレオチド配列、例えば標識、リンカー、シグナル配列、TMR輸送停止配列、膜貫通ドメイン、またはタンパク質精製に有用なリガンド(例えばグルタチオン-S-トランスフェラーゼ、ヒスチジンタグ、およびブドウ球菌プロテインA)をコードする配列を含有してもよい。
【0032】
本発明のポリヌクレオチドは全微生物ゲノムでなくてもよい。本発明のポリヌクレオチドを単離してもよい。単離されたポリヌクレオチドは、自然に会合する5’および3’隣接ゲノム配列の一方または両方と直接隣接していないポリヌクレオチドである。単離されたポリヌクレオチドは、例えば任意の長さの組換えDNAまたはRNA分子であってもよいが、その場合は、天然に存在するゲノムにおいて組換えDNAまたはRNA分子に直接隣接する天然型核酸配列が除去されているか、または存在しない。単離されたポリヌクレオチドは天然型または非天然型核酸分子であってもよい。(例えばcDNAもしくはゲノムライブラリー、またはゲノムDNA制限酵素分解物を含有するゲル切片内の)数百から数百万の他の核酸分子中に存在する核酸分子は、単離されたポリヌクレオチドとは見なされない。
【0033】
本発明のポリヌクレオチドは天然に存在する16S rRNA配列を含有するか、または天然に存在しない改変された配列を含有してもよい。必要により、発現制御要素(例えば複製起点、プロモーター、エンハンサー)またはホスト細胞において本発明のポリヌクレオチドの発現を誘導する他の制御要素を含有する発現ベクターにポリヌクレオチドをクローニングしてもよい。発現ベクターは、例えばプラスミド(例えばpBR322、pUC、またはColE1)またはアデノウィルスベクター(例えばアデノウィルス2型ベクターまたは5型ベクター)であってもよい。必要により他のベクターを使用してもよいが、それらには、限定されるわけではないが、以下がある:シンドビスウィルス、シミアンウィルス40、アルファウィルスベクター、ポックスウィルスベクター、およびサイトメガロウィルス、並びにレトロウィルスベクター、例えばマウス肉腫ウィルス、マウス乳癌ウィルス、モロニーマウス白血病ウィルス、およびラウス肉腫ウィルス。ミニ染色体、例えばMCおよびMC1、バクテリオファージ、ファージミド、酵母人工染色体、細菌人工染色体、ウィルス粒子、ウィルス様粒子、コスミド(λファージcos部位を挿入したプラスミド)、およびレプリコン(細胞内で、自身の制御下で複製を行う能力を有する遺伝要素)を使用することもできる。
【0034】
発現制御配列に機能的に結合したポリヌクレオチドの調製法およびそれらのホスト細胞での発現法は、当該分野で周知である。例えば、米国特許第4,366,246号参照。本発明のポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドの転写および/または翻訳を誘導する1つ以上の発現制御要素に隣接または近接した位置にある場合、機能的に結合している。
【0035】
実質的に相同なヌクレオチド配列およびその相補体も本発明のポリヌクレオチドである。相同性とは2つのポリヌクレオチド間の類似性のパーセンテージをいう。配列が分子の所定の範囲にわたって少なくとも約95%、98%、99%、99.5%、または100%の配列類似性を示す場合、2つのポリヌクレオチド配列は"実質的に相同"である。本明細書における使用では、実質的に相同である、とは、特定のポリヌクレオチド配列と完全に同一である配列も示す。
【0036】
配列同一性のパーセンテージは、当該分野で認識される意味を有し、2つのポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列間の同一性を測定するための多くの方法がある。例えば以下を参照されたい:Lesk編, Computational Molecular Biology, Oxford University Press, New York, (1988);Smith編, Biocomputing: Informatics And Genome Projects, Academic Press, New York, (1993);GriffinおよびGriffin編, Computer Analysis Of Sequence Data, Part I, Humana Press, New Jersey, (1994);von Heinje, Sequence Analysis In Molecular Biology, Academic Press, (1987);および、GribskovおよびDevereux編, Sequence Analysis Primer, M Stockton Press, New York, (1991)。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドをアラインメントする方法はコンピュータープログラムで体系化され、それらには以下がある:GCG program package(Devereuxら, Nuc. Acids Res. 12:387 (1984))、BLASTP、BLASTN、FASTA (Atschulら, J. Molec. Biol. 215:403 (1990))、およびBestfit program (Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix, Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, WI 53711)(これはSmithおよびWatermanの局所的ホモロジーアルゴリズム(Adv. App. Math., 2:482-489 (1981))を使用する)。例えばFASTAアルゴリズムを使用するコンピュータープログラムALIGNを使用することができる(アファイン・ギャップサーチ(ギャップオープンペナルティ:-12、ギャップ伸長ペナルティー:-2)で)。
【0037】
任意の配列アラインメントプログラムを使用して、特定の配列が例えば参照配列と約95%の同一性を有するどうかを確認する場合、同一性のパーセンテージが参照ポリヌクレオチドの全長にわたって算出され、同一性におけるギャップが参照ポリヌクレオチ中のヌクレオチド総数の最高5%まで許容されるようにパラメーターを調整する。
【0038】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば生体サンプル(感染した個体由来の血液、血清、唾液、または組織など)中に存在する核酸配列から単離できる。ポリヌクレオチドは、例えば自動合成装置を使用して、実験室で合成することもできる。PCRのような増幅法を用いて、ポリペプチドをコードするゲノムDNAまたはcDNAのいずれかからポリヌクレオチドを増幅することができる。
【0039】
本発明のポリヌクレオチドを、例えばプローブまたはプライマー(例えばPCRプライマー)として使用し、サンプル(例えば生体サンプル)中のヘモプラズマ病原体ポリヌクレオチドを検出することができる。ヘモプラズマ病原体ポリヌクレオチド分子に特異的にハイブリダイズするそれらのプローブおよびプライマーの能力により、それらを用いて所定のサンプル中の相補的核酸分子の存在、非存在、および/または量を検出することが可能となる。本発明のポリヌクレオチドプローブおよびプライマーは、サンプル(例えば生体サンプル)中の相補的配列にハイブリダイズする。サンプル由来のポリヌクレオチドは、例えばゲル電気泳動もしくは他のサイズ分離法を実施するか、またはサイズ分離を行わずに固定化することができる。サンプル由来のポリヌクレオチドを好適なストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下でプローブまたはプライマーと接触させる。
【0040】
プローブは、本発明のヘモプラズマ病原体核酸分子に相補的であり、ヘモプラズマ病原体核酸分子にハイブリダイズできる配列を含む、本発明の核酸分子である。
【0041】
プライマーは、塩基対形成を介してヘモプラズマ病原体核酸分子にハイブリダイズすることによって、ヌクレオチドを核酸プライマーに導入する伸長(延長)反応を開始する、本発明の核酸分子である。好ましくは、伸長反応はヌクレオチドおよび重合化誘導物質(例えばDNAまたはRNAポリメラーゼ)の存在下、好適な温度、pH、金属濃度、および塩濃度で行う。
【0042】
ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、変性ポリヌクレオチド(例えばプローブもしくはプライマー、またはそれらの組み合わせ、およびヘモプラズマ核酸分子)を、2つの相補的な(または部分的に相補的な)ポリヌクレオチドが相補的塩基の対合によって安定なハイブリッド2本鎖を形成するような条件下で提供することを含む。ハイブリダイズしたポリヌクレオチドを残しつつハイブリッド2本鎖を形成しないポリヌクレオチドを洗浄除去し、例えば検出可能な標識の検出によって検出することができる。あるいはまた、全ての物質が同時に存在し、洗浄を行わない均質反応でハイブリダイゼーションを行ってもよい。
【0043】
ハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの強度(すなわちポリヌクレオチド鎖間の結合の強度)は、当該分野で周知の多くの因子、例えばポリヌクレオチド間の相補性の程度、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシー(例えば塩濃度のような条件)、形成されたハイブリッドの熱融解温度(Tm)、他の成分の存在(例えばポリエチレングリコールの有無)、ハイブリダイズする鎖のモル濃度、およびポリヌクレオチド鎖のG:C含量によって影響を受ける。Tmは2本鎖ポリヌクレオチド分子群の50%が解離して1本鎖になる温度である。
【0044】
高ストリンジェントな条件下では、高頻度の相補的塩基配列を有するポリヌクレオチド分子間でのみポリヌクレオチドの対合が起こる。従って、"弱"または"低"ストリンジェントな条件は、互いに完全に相補的でないポリヌクレオチドをハイブリダイズまたはアニールさせる際にしばしば必要とされる。一般に、高ストリンジェントな条件は、既定のイオン強度およびpHでの特定の核酸分子のTmより約5から20℃温度が低い条件を含むことができる。高ストリンジェントな条件の一例は、2つ以上のハイブリダイズしたポリヌクレオチドを0.1X SSCおよび0.2% SDSを含有する水溶液中、室温で2-60分間インキュベートした後、0.1X SSCを含有する溶液中、室温で2-60分間インキュベートすることを含む洗浄過程を含む。低ストリンジェントな条件の一例は、2つ以上のハイブリダイズしたポリヌクレオチドを1X SSCおよび0.2% SDSを含む水溶液中、室温で2-60分間インキュベートすることを含む洗浄過程を含む。ストリンジェンシー条件は当業者に周知であり、例えばManiatisら, 1982, Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratoryに見られる。
【0045】
ある態様では、本発明のポリヌクレオチド分子は1つ以上の標識を含む。標識はそれ自身で、または別の標識との相互作用を介して、検出可能なシグナルを生成する能力のある分子である。標識は直接検出できる標識であってもよいし、またはシグナル生成系の一部であって、シグナル生成系(例えばビオチン-アビジンシグナル生成系)または蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のドナー-アクセプター対の他の部分と関係して検出可能なシグナルを生成してもよい。標識は、例えば以下であってもよい:同位体もしくは非同位体、触媒(例えば酵素)、触媒をコードするポリヌクレオチド、プロモーター、色素、蛍光分子、化学発光体、補酵素、酵素基質、放射性物質群、小型有機分子、増幅可能なポリヌクレオチド配列、粒子(例えばラテックスまたは炭素粒子)、金属ゾル、微結晶、リポソーム、細胞、発色標識、触媒、または他の検出可能な群。標識は一対の相互作用型標識のメンバーの一つであってもよい。一対の相互作用型標識のメンバーを接近させると相互作用し、検出可能なシグナルを生成する。シグナルは当該分野で周知の目視検査、例えばFRETアッセイによって検出できるものであってもよい。1対の相互作用型標識のメンバーは、例えばドナーおよびアクセプター、またはレセプターおよびクエンチャーであってもよい。
【0046】
検出および定量
サンプルには例えば以下がある:精製核酸、未精製核酸、細胞、細胞抽出物、組織、臓器液、体液、組織切片、標本、吸引液、骨髄液、組織生検検体、組織拭き取り検体、細針吸引物、皮膚生検検体、血液、血清、リンパ液、脳脊髄液、精液、便、または尿。
【0047】
本発明のヘモプラズマ病原体またはヘモプラズマ病原体核酸の検出および定量は、当該分野で周知の任意の方法を用いて行うことができるが、それらには例えば以下がある:直接シーケンシング、プローブとのハイブリダイゼーション、ゲル電気泳動、転写介在増幅(TMA)(例えば米国特許第5,399,491号)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、定量PCR、レプリカーゼ介在増幅、リガーゼ連鎖反応(LCR)、競合定量PCR(QPCR)、リアルタイム定量PCR、自己保持配列複製、鎖置換増幅、分枝鎖DNAシグナル増幅、ネステッドPCR、インサイチューハイブリダイゼーション、マルチプレックスPCR、ローリングサークル増幅(RCA)、Q-ベータ-レプリカーゼシステム、および質量分析。これらの方法は不均質または均質系を用い、標識使用または未使用で、検出または検出および定量を行うことができる。
【0048】
核酸に基づく検出法によってサンプル中のヘモプラズマ標的核酸配列の同定が可能となる。この方法は、特に血液サンプル(非限定的な例として全血、血清、および血漿がある)中のヘモプラズマ核酸を検出するのに有用である。この方法を用いて被験体、例えば哺乳動物(例えばヒト、ネコ、または齧歯類)におけるヘモプラズマ病原体感染を診断してもよい。
【0049】
(例えば固相支持体上に)固定化された捕捉ポリヌクレオチドを用いて、ヘモプラズマ病原体標的核酸を不均質な核酸から分離してもよい。捕捉オリゴヌクレオチドを発明のヘモプラズマ病原体から誘導することができ、これは本発明のヘモプラズマ病原体に特異的である。次いで、分離された標的核酸を、例えばポリヌクレオチドプローブ(これも本発明のヘモプラズマ病原体から誘導される)の使用によって検出してもよい。1より多いプローブを使用してもよい。特に有用な捕捉ポリヌクレオチドはSEQ ID NO:1-19、またはSEQ ID NO:1-19の10個以上の連続する核酸を含有するフラグメントを含む。
【0050】
本発明のある態様では、捕捉ポリヌクレオチドが結合した固相支持体にサンプルを接触させる。捕捉ポリヌクレオチドは、例えば捕捉ポリヌクレオチドの固相支持体への共有結合、アフィニティー会合、水素結合、または非特異的会合によって固相支持体に結合させることができる。
【0051】
当該分野で周知の方法を用いて捕捉ポリヌクレオチドを固相に固定化させてもよい。例えば、プローブの3’または5’末端ポリヌクレオチドの固相支持体への結合によってポリヌクレオチドを固相支持体に固定化してもよい。あるいはまた、捕捉ポリヌクレオチドをリンカーによって固相支持体に固定化させてもよい。種々のリンカーが当該分野で知られており、これらを使用してポリヌクレオチドプローブを固相支持体に結合させてもよい。リンカーは、固相支持体に結合した捕捉ポリヌクレオチドへの標的配列のハイブリダイゼーションに有意に干渉しない、任意の化合物で形成することができる。
【0052】
固相支持体は、例えば以下であってもよい:微粒子状ニトロセルロース、ニトロセルロース、磁気粒子などに浸潤した物質、ビーズまたは粒子、ポリスチレンビーズ、調整多孔質ガラス、ガラス板、ポリスチレン、アビジンコーティングしたポリスチレンビーズ、セルロース、ナイロン、アクリルアミドゲル、および活性化デキストラン。
【0053】
固定化された捕捉ポリヌクレオチドを有する固相支持体を、ハイブリダイズ条件下でサンプルと接触させる。捕捉ポリヌクレオチドはサンプル中に存在する標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズする。
【0054】
次いで、固相支持体の種類により、例えばろ過、洗浄、カラム通過、または磁気を用いた方法によって、固相支持体をサンプルから分離することができる。固相支持体のサンプルからの分離により、好ましくはサンプル中に存在する非標的核酸および他の破片の少なくとも約70%、より好ましくは約90%、最も好ましくは少なくとも約95%またはそれ以上が除去される。
【0055】
本発明のヘモプラズマ病原体またはヘモプラズマ核酸の検出および定量は、例えば以下を用いて行うことができる:増幅反応、例えば定量PCR、例えば転写介在増幅、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(Innisら(編) PCR Protocols(Academic Press, NY 1990); Taylor (1991) Polymerase chain reaction: basic principles and automation, in PCR: A Practical Approach, McPhersonら(編)IRL Press, Oxford;Saikiら (1986) Nature 324:163;米国特許第4,683,195号、4,683,202号、および4,889,818号)、レプリカーゼ介在増幅、リガーゼ連鎖反応(LCR)、競合定量PCR(QPCR)、相対定量PCR、およびリアルタイム定量PCR(例えば蛍光5’ヌクレアーゼアッセイ(TAQMAN(登録商標)アッセイ);Hollandら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1991) 88:7276-7280;Higuchiら, Biotechnology (N Y). 1993 Sep;11(9):1026-30)参照)。これらの方法は半定量的であっても完全に定量的であってもよい。
【0056】
内部標準(IC)または内部スタンダードを増幅反応液に添加し、標的捕捉および増幅の標準としてもよい。好ましくはICは標的配列と異なる配列を含み、ヘモプラズマ病原体に特異的な核酸をサンプルから分離するために使用する捕捉ポリヌクレオチドとハイブリダイズする能力があり、ヘモプラズマ病原体核酸を増幅するために使用するプライマーで増幅される。
【0057】
本発明のある態様では、ヘモプラズマ病原体16S rRNAの配列を使用して、サンプル中のヘモプラズマ病原体の存在または非存在を検出することができる。例えば、サンプルをSEQ ID NO:1-19を含有するプローブまたはSEQ ID NO:1-19の10個以上の連続する核酸を含有するプローブと接触させることができる。プローブは標識(例えば蛍光標識)を含有してもよい。ハイブリダイズした核酸プローブ/ヘモプラズマ病原体核酸複合体の存在または非存在を検出する。ハイブリダイズしたプローブ/ヘモプラズマ病原体核酸複合体の存在は、サンプル中の本発明のヘモプラズマ病原体の存在を示す。ハイブリダイズしたプローブ/ヘモプラズマ病原体核酸複合体の量を測定してもよい。
【0058】
本発明の別の態様は、サンプル中の本発明のヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子の検出法を提供する。SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3またはSEQ ID NO:13を含有する第1の増幅プライマー、およびSEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:4またはSEQ ID NO:14を含有する第2の増幅プライマーを用いてヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子を増幅する。任意の当該分野で周知の方法を用いて、増幅されたヘモプラズマ病原体16S rRNA核酸分子を検出する。種々の方法で増幅産物のアッセイを行ってもよく、それらにはサイズ分析、制限酵素消化後のサイズ分析、反応産物中の特定のタグを有するオリゴヌクレオチドプライマーの検出、アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)ハイブリダイゼーション、シーケンシングなどがある。増幅されたヘモプラズマ病原体16S rRNA核酸分子の量を測定してもよい。第1もしくは第2、または両方の増幅プライマーは、標識(例えば蛍光部分)を更に含有してもよい。増幅法はリアルタイム定量PCRであってもよく、5’ヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼ、および標識を含有する少なくとも1つのプローブ(例えばSEQ ID NO:6)の使用を更に含んでもよい。あるいはまた、増幅法はリアルタイム定量PCRを含んでもよく、2本鎖DNAに結合する検出可能な色素、例えばサイバーグリーンまたは臭化エチジウムの使用を更に含んでもよい。
【0059】
本発明の別の態様では、本発明のヘモプラズマ病原体由来の核酸を検出および定量する方法を提供する。この方法は、以下を使用してヘモプラズマ病原体の16S rRNA配列を増幅することを含む:SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3またはSEQ ID NO:13を含有する第1のプライマー;SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:4またはSEQ ID NO:14を含有する第2のプライマー;5’ヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼ;16S rRNA配列に相補的な核酸を含み、レポーター蛍光色素およびクエンチャー色素を含む核酸プローブ。
【0060】
本発明の別の態様では、サンプル中の本発明のヘモプラズマ病原体を検出する方法を提供する。以下を含む試薬を用いてリアルタイム定量PCRを行うことができる:ヘモプラズマ病原体の核酸分子、二重蛍光標識した核酸ハイブリダイゼーション・プローブ、およびSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4、並びにSEQ ID NO:13およびSEQ ID NO:14を含有する一組または複数組の種特異的プライマー、またはそれらを組み合わせたもの(すなわち1つの順向きプライマーおよび1つの逆向きプライマー)。PCR反応の間に、蛍光標識を検出し測定してもよい。二重蛍光標識したプローブをレポーター蛍光色素およびクエンチャー蛍光色素で標識してもよい。
【0061】
本発明の別の方法は、サンプルからヘモプラズマ病原体16S rRNA核酸分子を単離する方法を提供する。この方法は、ヘモプラズマ病原体16S rRNA核酸分子がサンプル中に存在する場合にはこれが捕捉核酸にハイブリダイズするような条件下で、1つ以上の捕捉核酸を含有する固相支持体(捕捉核酸はSEQ ID NO:1-19またはSEQ ID NO:1-19の10個以上の連続する核酸を含有する)をサンプルと接触させることを含む。
【0062】
本発明の他の態様は、SEQ ID NO:1-19にコードされるタンパク質配列およびタンパク質配列のフラグメント、例えば6、10、20、30、50、100、150アミノ酸、またはそれ以上のアミノ酸フラグメントを含む。
【0063】
診断および治療効果のモニタリング
本発明の他の態様は、本発明のヘモプラズマ病原体感染の診断法およびヘモプラズマ病原体感染の治療効果のモニタリング法を提供する。例えば本発明は、ヘモプラズマ病原体に感染した被験体の治療効果をモニタリングする方法を提供する。この方法は以下を含む:被験体から治療前サンプルを得る;サンプル中のヘモプラズマ16S rRNA核酸の存在、非存在、量、またはそれらを組み合わせたものを検出する;被験体から1つ以上の治療後サンプルを得る;治療後サンプル中のヘモプラズマ16S rRNA核酸の存在、非存在、またはそれらの組み合わせを検出する;投与前サンプル中の16S rRNA核酸の存在、非存在、量、またはそれらの組み合わせと、投与後サンプル中のそれとを比較する;そして治療の効果を測定する。
【0064】
本発明の別の態様は、ヘモプラズマ病原体に感染した被験体のスクリーニング法を提供する。被験体由来のサンプル中の、SEQ ID NO:1-19またはSEQ ID NO:1-19の10個以上の連続する核酸を含有するポリヌクレオチドを検出することができる。ポリヌクレオチドが検出される場合には、被験体は本発明のヘモプラズマ病原体に感染している。あるいはまた、被験体由来のサンプル中の、SEQ ID NO:1-19またはSEQ ID NO:1-19の10個以上の連続する核酸を含有するポリヌクレオチドを検出して、第1の値を得ることができる。疾病に罹患していない被験体由来の同様の生体サンプル中の、SEQ ID NO:1-19またはSEQ ID NO:1-19の10個以上の連続する核酸を含有するポリヌクレオチドを検出し、第2の値を得ることができる。第1の値と第2の値を比較することができ、ここで第2の値に比較して第1の値が高い場合には、被験体はヘモプラズマ病原体に感染していることを示す。
【0065】
キット
上記のアッセイ試薬(プライマー、プローブ、固相支持体を含む)、並びに他の検出試薬を、好適な取り扱い説明書および他の必要な試薬と共にキットとして提供し、例えば上記のアッセイを実施することができる。キットは個別の容器で、プライマーおよびプローブの組み合わせ(既に固相支持体に結合させてあるか、または支持体にそれらを結合させるための試薬と分離されている)、コントロール製剤(ポジティブおよび/またはネガティブ)、標識された試薬、および標識がシグナルを直接生成しない場合はシグナル生成試薬(例えば酵素基質)を含有してもよい。アッセイを実施するための取り扱い説明書(例えば記述、テープ、VCR、CD-ROM)がキットに含まれてもよい。キットは、使用する特定のアッセイによって、他のパッケージ化された試薬および物質(すなわち洗浄バッファーなど)を含んでもよい。上記のような標準的なアッセイをこれらのキットを用いて実施することができる。
【0066】
キットは、例えばSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19;または、SEQ ID NO:1-19の10個以上の連続する核酸、またはそれらの組み合わせを含有する配列を有する1つ以上の核酸分子、並びにポリメラーゼおよび1つ以上のバッファーを含んでもよい。1つ以上の核酸分子は1つ以上の標識またはタグを含んでもよい。標識は蛍光部分であってもよい。
【0067】
本明細書に例証的に記載する本発明は要素(単数または複数)、制限(単数または複数)を欠いた状態で実施してもよいが、それらについては本明細書には特に開示しない。従って、例えばそれぞれの場合で、"含有する"、"本質的に・・・から成る"、および"から成る"という用語は、それらの用語の通常の意味を変更することなく、それぞれ他の2つの用語と置き換えることができる。使用した用語および表現は、制限ではなく説明のための用語として用いたものであり、それらの用語および表現の使用によって記載および記述する特徴のいずれの相当物またはその一部を除外することを意図するものではなく、認識されるように、本発明の特許請求の範囲内で種々の改変が可能である。従って、好ましい態様、オプショナルな特徴によって本発明について具体的に開示したが、当業者は本明細書に開示するコンセプトの改変および変更を行ってもよく、それらの改変および変更は明細書および添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれるものと見なされる。
【0068】
更に、本発明の特徴または観点をマーカッシュ群または他の代替の群の用語で記載する場合、当業者に認識されるように、本発明はマーカッシュ群または他の群の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループについても記載される。
【0069】
以下は単に例証の目的で提供するものであり、上記で概要を記載した本発明の範囲を制限することを意図しない。本明細書で引用する全ての文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0070】
実施例1:感染実験の動物および実験設計
新規のヘモプラズマ分離株がネコ946(13歳オス去勢ネコ)で発見され、2002年12月にZurich大学のthe Clinic for Small Animal Internal Medicineに提示された。スイスのネコのM. haemofelisおよび‘Candidatus M. haemominutum’の感染率を評価する疫学的研究の際、ネコ946が矛盾するPCR結果のために注目された。このネコから2003年3月に採取した血液サンプルから抽出したDNAを試験したところ、慣例的なPCR(Jensenら)では陽性であったが、既に報告されているM. haemofelisおよび‘Candidatus M. haemominutum’に特異的なリアルタイムPCRアッセイ(Taskerら, 2003. J Clin Microbiol 41:439-41)では陰性であった。増幅されたPCR産物および、それに次いで16S rRNA遺伝子をシーケンシングし、報告されている他のヘモプラズマ種の配列と比較した(下記参照)。発症の4ヶ月前、ネコ946はHaemobartonellosisと一致する臨床兆候(嗜眠、食欲不振、蒼白、呼吸困難、および体重減少を含む)を示していた。その時点で採取した血液および尿サンプルの検査により、以下の症状が明らかになった:血管内溶血(PCV 12%(基準値:33%-45%))、白血球増加(25.6 x 109/l(基準値: 5 -18.9 x 109/l))、ビリルビン血症(34μmol/l(基準値: 0 − 15 μmol/l))、およびヘモグロビン尿症。貧血症は最初の発症の4日後に高度の再生性となった(PCV 17%;凝集網状赤血球数201,670/μl(>60,000/μlを再生性と定義))。ネコ946の血液中の新規の分離株を検出する前は、原発性免疫介在型溶血性貧血が疑われ、コルチコステロイドでの治療が行われていた。しかしながらこの治療ではネコの臨床状態は一時的に改善されるのみであった。ヘモプラズマ感染の診断後、そして感染実験のための血液を採取した後、ネコ946をデオキシサイクリンで2回治療した(10mg/kg/日、14日間)。デオキシサイクリン治療の開始後、ネコの症状は改善した。しかしながら、RBC浸透圧脆弱性は急性疾患後1年以上にわたって高いままであった(0.71% NaCl中で50%溶血)(基準値:0.50-0.57% NaCl中で50%溶血)。
【0071】
この病原体の病原性に関する最初の知見を得るために、新規のヘモプラズマ分離株を静脈注射によってネコ1および2に感染させた。接種の2週間前にネコ1を免疫無防備状態とした。ネコ1への接種に使用した血液サンプルをPCRで試験したところ、FeLV、FIV、FCoV、およびFPV感染陰性であった。リアルタイムPCRアッセイで測定したところ、4mlの接種液には2.8 x 103コピーの新規ヘモプラズマ分離株が含有された。ネコ1は感染8日後でPCR陽性になり、88日間陽性のままであった(図1)。このネコは感染9日後までに貧血を発症し、PCVは34%から17%に低下した(図1)。軽度の蒼白および嗜眠の臨床兆候が観察された。ネコの臨床兆候は治療をせずに回復した。しかしながら、PCVは感染80日後まで基準値の範囲を下回ったままであった(図1)。ネコ1のヘモプラズマ病原体量はPCVと逆の相関があった(rs=0.79;p<0.0001)。感染18日後に最大病原体量は1.9 x 107コピー/血液mlに達した(図1)。
【0072】
感染35日後にネコ1から新たに採取した血液4ml(総量1.7 x 104コピーの新規ヘモプラズマ分離株を含有)をネコ2に接種した。ネコ2は感染7日後でPCR陽性になり、80日間にわたって陽性のままであった(図1)。このネコは軽度の貧血しか発症せず、PCVは感染27日後までに34%から26%まで低下した(図1)。血管内溶血の臨床兆候は観察されなかった。ここでもヘモプラズマ病原体量はPCVと逆の相関関係を示した(rs=-0.65;p=0.0002)。ネコ2のヘモプラズマ病原体量はネコ1のものより低く(p=0.0085;15の時点の値を比較)、感染16日後に最大値の2.8 x 105コピー/血液mlに達した(図1)。RBC浸透圧脆弱性は接種後、最初の31日間にわたって連続的に上昇し(0.52%から0.64% NaCl中で50%溶血)(図2)、感染59日後に正常値に回復した(0.54% NaCl)。
【0073】
感染実験のために、2検体の特定病原体未感染(SPF)ネコを使用した(ネコ1およびネコ2と記載する。いずれも去勢したオスで、年齢は10歳)。両ネコについて、特異的リアルタイムPCRアッセイ(Taskerら2003. J Clin Microbiol 41:439-41)によって新規の単離株、M. haemofelis、および‘Candidatus M. haemominutum’に未感染であることを確認した。ネコは外部感染源から隔離した。疾患の急性期のネコ946からの新鮮な血液サンプルは入手できなかったが、ヘパリンを添加した新鮮な血液サンプルが10ヶ月後に入手でき、この血液の4mlを用いてネコ1に静脈内接種した。この病原体の実験的感染の成功率を上げるために、接種の2週間前および1週間前に2回、酢酸メチルプレドニゾロン(10mg/kg、筋肉内)を投与し、ネコ1を免疫無防備状態にした。ネコ2への実験的感染は、ネコ1から感染後35日目に新たに採取したヘパリン添加血液4mlを静脈内接種して行った。接種前に、RapidVet(商標)-H feline test(Medical Solution Gmbh, Steinhausen, スイス)を用いて3検体全てのネコの血液の型を、感染実験への適合性について試験した。ネコ1および2から14週間定期的に血液サンプルを採取した(正確な時点については図1参照)。更に、ネコの体温、心拍数、粘膜の色、挙動、および食欲を毎日モニタリングして評価した。
【0074】
実施例2:血液学および生化学
自動血球計測器(Cell-Dyn 3500, Abbott, Baar, スイス)を使用してネコ946、ネコ1、およびネコ2の完全なヘモグラムを行った。EDTA-抗凝固処理した新鮮な血液を用いて血液塗抹標本を調製し、AMES Hema Tekスライドステイナー(Bayer, Zurich,スイス)を使用してGiemsa染色を行った。それらを白血球判別、赤血球の形態学的特徴、およびヘモプラズマ生物体の存在について評価した。メチレンブルーで超生体染色した後、網状赤血球凝集体を計測した。自動化学分析装置(Cobas Integra 700, Roche Diagnostics, Rotkreuz, スイス)を使用し、the International Federation of Clinical Chemistryで推奨されている標準的な方法(Tieze. 1995. Clinical guide to laboratory tests, 第3版The W.B. Saunders Company, Philadelphia, Paにも報告されている)によってネコ946の血清生化学分析を行った。基準値はthe Clinical Laboratory, University of Zurich(スイス)において、58検体の健常成体ネコ由来の血液サンプルを用い、同じ方法で測定した。基準値の範囲を5%から95%クォンタイルの範囲とした。
【0075】
実施例3:浸透圧脆弱性
浸透圧脆弱性を測定するために、50μlの新たに回収したEDTA-抗凝固処理血液を0.3-0.9%の濃度範囲のNaCl溶液5mlに添加した。内容物を穏やかに撹拌し、37℃で1時間インキュベートした。試験管を600 x gで10分間遠心分離した。546nmで分光光度分析を行い、上清のヘモグロビン含量を測定した。0.9% NaCl溶液をブランクとして使用した。溶血のパーセンテージを以下のように算出した:0.3% NaCl溶液中でインキュベーションした後の上清での吸光度測定値を100%溶血、0.9% NaCl中でインキュベーションした後の上清での吸光度測定値を0%溶血と定義した。S字回帰を用いて曲線をデータに適合させた(SigmaPlot Regression Wizard, SSPS, Chicago, 米国)。ネコ2から採取した全ての血液サンプル、およびネコ1および946由来の選択したサンプルで浸透圧脆弱性を測定した。健常ネコ(SPF 6検体、個人の飼いネコ3検体)から採取した血液サンプルでこの方法を実施し、基準値を測定した。基準値の範囲を5%から95%クォンタイルの範囲とした。
【0076】
実施例4:DNA抽出および診断PCRアッセイ
PCR分析およびシーケンシングのために、MagNaPure(登録商標) LC DNA Isolation Kit I(Roche Diagnostics)を用いて200μlのEDTA抗凝固処理血液からゲノムDNAを精製した。クロス・コンタミネーションをモニタリングするために、200μlの無菌水から成るネガティブコントロールをサンプルの各バッチと同時に調製した。既に報告されている慣例的なPCR(Jensenら 2001 Am J Vet Res 62:604-608)およびリアルタイムPCRアッセイ(Taskerら 2003. J Clin Microbiol 41:439-41)を実施して、M. haemofelisおよび‘Candidatus M. haemominutum’感染を検出した。ネコ・コロナウィルス(FCoV)、ネコ免疫不全ウィルス(FIV)、ネコ白血病ウィルス(FeLV)、およびネコ・パルボウィルス(FPV)の検出のためのPCRアッセイは、報告されているように実施した(Foleyら 1998. Am J Vet Res 59:1581-8;Hofmann-Lehmann 2001. Journal of General Virology 82:1589-1596;Leutenegger 1999. Journal of Virological Methods 78:105-116;Meliら 2004. J Feline Med Surg 6:69-81)。
【0077】
実施例5:新規分離株の16S rRNA遺伝子のシーケンシング
ネコ1の血液由来の新規ヘモプラズマ分離株の16S rRNA遺伝子全長の増幅およびシーケンシングを実施した。これには既に報告されているユニバーサルプライマーfHf1およびrHf2を使用し(Messickら, 1998. J Clin Microbiol 36:462-6)、反応混液は2.5μlの10x PCRバッファー(Sigma-Aldrich, Buchs, スイス)、800nMの各プライマー、200μMの各dNTP(Sigma-Aldrich)、2.5mM MgSO4、および0.8 Pfu DNAポリメラーゼ(Promega社, Catalys AG, Wallisellen, スイス)、並びに5μlのテンプレートDNAを含有し、水で最終容量25μlとした。温度プログラムは51-61℃30秒間、72℃3分間、そして最終伸長反応を72℃10分間とした。好適なサイズ(1440bp)の増幅産物を1/2%アガロースゲル上での臭化エチジウム染色によって同定し、MinElute(登録商標) Gel Extraction Kit(Quiagen, Hombrechtikon,スイス)で精製した後、Zero Blunt(登録商標) TOPO(登録商標) PCRクローニングキット (Invitrogen, Basel,スイス)を使用し、説明書に従ってクローニングした。ネコ2および946ではヘモプラズマ病原体量が低かったため、Ampli Taq Gold(登録商標) DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems, Rotkreuz, スイス)および種特異的プライマー(順向き:5’-GAA CTG TCC AAA AGG CAG TTA GC-3’(SEQ ID NO:1);逆向き:5’-AGA AGT TTC ATT CTT GAC ACA ATT GAA-3’(SEQ ID NO:2))を使用して分離株の16S rRNA遺伝子の1342bp産物を増幅した。反応混液は2.5μlの10x PCRバッファー(Applied Biosystems)、800nMの各プライマー、200μMの各dNTP(Sigma-Aldrich)、1.5mM MgCl2、および1.25 U Ampli Taq Gold(登録商標)DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems)、および5μlのテンプレートDNAを含有し、水で最終容量25μlとした。温度プログラムは95℃5分間を1サイクル、95℃30秒間を35サイクル、51-61℃30秒間のアニーリンググラジエント、72℃2分間、そして最終伸長反応は72℃10分間とした。TOPO TAクローニング(登録商標) キット (Invitrogen) を使用し、説明書に従って増幅産物をクローニングした。増殖させたプラスミドDNAをQIAprep(登録商標)Spin Miniprepキット(Quiagen)を使用して精製し、M13順向きプライマーおよびM13逆向きプライマーを用いてシーケンシングした。16S rRNA遺伝子の中央領域のシーケンシングは内部プライマー(5’-GAA GGC CAG ACA GGT CGT AAA G-3’)(SEQ ID NO:3)を用いて完成させた。BigDye(登録商標) Cycle Sequencing Ready Reaction Kit (Applied Biosystems)を用いてシーケンシングを行った。サイクル条件は以下の通りである:96℃1分間、96℃10秒間を25サイクル、50℃5秒間、そして60℃4分間。DyeEx(登録商標) Spin columns(Qiagen)で産物を精製し、ABI PRISM(登録商標) 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)で分析した。
【0078】
新規分離株(ネコ946由来)の16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列をSEQ ID NO:5に示す。これはGenBankに寄託しており、アクセッション番号はAY831867である。
【表1】

【0079】
ネコ2から得た配列をSEQ ID NO:7に示す。新規分離株は他の3検体のスイス・ネコ(ネコ365102、376660,および408606)でも検出された。これら3検体のネコについて16S rRNA遺伝子全長のシーケンシングを行い、結果をそれぞれSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、およびSEQ ID NO:10に示す。新規分離株は野生に生息するブラジル・オセロット(Brazilian ocelot)でも検出された。16S rRNA遺伝子の配列をSEQ ID NO:11に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
SEQ ID NO:12はSEQ ID NO:5、7、8、9、10、11、15、16、17、18、および19のコンセンサス配列を示す。"N"は任意のヌクレオチドを表す。
【表7】

【0086】
本発明のある態様では、47位のヌクレオチドはTまたはCであり、52位のヌクレオチドはAまたはCまたはGであり、53位のヌクレオチドはAであるか、または欠失しており、58位のヌクレオチドはAまたはGであり、61位のヌクレオチドはAまたはGであり、102位のヌクレオチドはTまたはCであり、103位のヌクレオチドはTまたはAまたはCであり、130位のヌクレオチドはTまたはCであり、151位のヌクレオチドはTまたはCであり、152位のヌクレオチドは CまたはTであり、153位のヌクレオチドはTまたはCであり、154位のヌクレオチドは TまたはCであり、155位のヌクレオチドはTまたはAまたはCであり、156位のヌクレオチドはCまたはTであり、159位のヌクレオチドはGであるか、または欠失しており、161位のヌクレオチドはAまたはCであり、164位のヌクレオチドはGまたはAであり、166位のヌクレオチドはAまたはGであり、168位のヌクレオチドはGまたはAであり、169位のヌクレオチドはGまたはAであり、182位のヌクレオチドはCまたはAであり、192位のヌクレオチドはAまたはGであり、193位のヌクレオチドはGまたはAであり、228位のヌクレオチドはGまたはAであり、246位のヌクレオチドはAまたはGであり、285位のヌクレオチドはCまたはTであり、312位のヌクレオチドはAまたはGであり、335位のヌクレオチドはTまたはCであり、346位のヌクレオチドはGまたはAであり、353位のヌクレオチドはCまたはTであり、377位のヌクレオチドはTまたはCであり、380位のヌクレオチドはCまたはTであり、389位のヌクレオチドはAまたはGであり、423位のヌクレオチドはTまたはCであり、454位のヌクレオチドはAまたはGであり、455位のヌクレオチドはCまたはTであり、608位のヌクレオチドはAまたはGであり、645位のヌクレオチドはGまたはAであり、750位のヌクレオチドはAまたはGであり、782位のヌクレオチドはCまたはTであり、786位のヌクレオチドはAまたはTであり、787位のヌクレオチドはAまたはGであり、859位のヌクレオチドはAまたはGであり、864位のヌクレオチドはCまたはTであり、930位のヌクレオチドはTまたはCであり、939位のヌクレオチドはCまたはTであり、941位のヌクレオチドはTまたはCであり、945位のヌクレオチドはGまたはAであり、950位のヌクレオチドはTまたはCであり、961位のヌクレオチドはGまたはAであり、975位のヌクレオチドはAまたはGであり、977位のヌクレオチドはAまたはGであり、989位のヌクレオチドはGまたはAであり、1063位のヌクレオチドはGまたはAであり、1064位のヌクレオチドはAまたはCまたはTであり、1067位のヌクレオチドはTまたはGであり、1142位のヌクレオチドはTまたはCであり、1161位のヌクレオチドはCまたはTであり、1175位のヌクレオチドはTまたはCであり、1178位のヌクレオチドはGまたはAであり、1180位のヌクレオチドはAまたはCであり、1181位のヌクレオチドはTまたはCであり、1191位のヌクレオチドはTまたはCであり、1196位のヌクレオチドはCまたはTであり、1203位のヌクレオチドはTまたはCであり、1207位のヌクレオチドはGまたはAであり、1211位のヌクレオチドはGまたはAであり、1343位のヌクレオチドはAまたはGであり、1350位のヌクレオチドはAまたはGであり、1357位のヌクレオチドはTまたはCであり、1361位のヌクレオチドはAまたはCであるか、またはそれらを任意に組み合わせたものである。
【0087】
得られた配列をGenBankデータベースに寄託されている既知の配列と比較し、GCG(登録商標) Wisconsin Package(登録商標) (Accelrys GmbH, Munich, ドイツ)を使用して同一性%を算出した。CLUSTAL Wを使用し、Thompsonらの方法(Thompsonら 1994. Nucleic Acids Res 22:4673-80)に従って配列のアラインメントを行った。近隣結合法によって1,000組のブートストラップ値から系統樹を構築した。この新規の分離株と他の血液向性マイコプラズマ種の系統発生学的関係を解明するために、16S rRNA遺伝子全長の増幅およびシーケンシングを行った。ネコ1、2、および946由来の血液から得た遺伝子配列をGenBankデータベースに寄託されたものと比較したところ、Mycoplasma coccoides(AY171918.1)の16S rRNA遺伝子と最も同一性が高い(92%)ことが明らかとなった。更にまた、以下と高度の同一性が見られた:Mycoplasma haemomuris(90%)、Mycoplasma haemofelis(88%)、Mycoplasma haemocanis(88%)、Mycoplasma haemolama(83%)、Mycoplamsa wenyonii(83%)、‘Candidatus Mycoplasma kahanei’(83%)、‘Candidatus Mycoplasma haemominutum’(83%)、Mycoplasma ovis(83%)、‘Candidatus Mycoplasma haemoparvum’(82%)、Mycoplasma suis(82%)、Mycoplasma fastidiosum(82%)、および Mycoplasma erythrodidelphis(81%)。
【0088】
上記の配列を互いに、また新規の分離株の16S rRNA遺伝子配列とアラインメントさせ、系統樹を構築した(図3)。この分析により、新たに報告されたネコヘモプラズマ分離株とM. coccoidesおよびM. haemomurisに密接な関係があることが確認された。これらの生物はM. haemofelisから枝分かれした群を形成したためである。‘Candidatus M. haemominutum’は新規のネコヘモプラズマと遠縁でしかなかった。
【0089】
新規ヘモプラズマ分離株に特異的なリアルタイムPCRの開発
自然感染および実験感染させたネコ由来の血液サンプル中の新規分離株の検出および定量を行うために、特異的定量PCRアッセイを構築した。順向きプライマー(5’-GAAGGCCAGACAGGTCGTAAAG-3’)(SEQ ID NO:3)および逆向きプライマー(5’-CTGGCACATAGTTWGCTGTCACTTA-3’)(SEQ ID NO:4;WはAまたはTを示す)、そしてプローブ(6-FAM-AAATTTGATGGTACCCTCTGA-MGB)(SEQ ID NO:6)の設計を16S rRNA遺伝子配列(上記)に基づいて行った。PCR反応液は12.5μlの2x qPCR(商標)Mastermix(Eurogentec, Seraing, ベルギー)、880nMの各プライマー、200nMのプローブ、および5μlのテンプレートDNAを含有し、水で最終容量を25μlとした。ABI PRISM(登録商標) 7700 Sequence Detection system (Applied Biosystems)を使用して定量PCR反応を実施した。未感染SPFネコ由来のDNAサンプルおよび水をネガティブコントロールとして使用した。新規分離株の絶対的定量のために、新規分離株からクローニングした16Sリボソーム遺伝子(rDNA)PCR産物を含有するプラスミドを構築し、上記のように精製し、Not1で消化した。直線化したDNAを分光光度法で定量し、存在するプラスミドのコピー数を算出した。その後、DNAテンプレートをサケ精子DNA(Invitrogen)の30μg/ml溶液で連続的に十倍希釈し、アリコートに分け、使用まで-20℃で保存した。
【0090】
スピアマンの順位相関試験(Berkenkampら, 1998. Lab Anim Sci 38:398-401)を使用して血中血球容積(PCV)とコピー数の関係を求めた。ウィルコクソンの符号付き検定を用いて、ネコ1および2のヘモプラズマ病原体量を比較した(Bland, 2000, An Introduction in Medical Statistics第3版. Oxford University Press, 217-222)。
【0091】
更なるシーケンシング
オーストラリア、南アフリカ共和国、およびイギリスの飼いネコ、並びに数検体の野生のネコ科動物から得た更なる分離株のシーケンシングを行った。5つの16S rRNA配列(B3、D7、D9、G5、(感染した飼いネコ由来)および94-100(セレンゲティの感染ライオン由来)は、スイスの元の分離株に比較して、多少の相違を示した。報告されているスイス‘Candidatus M. turicensis’配列(スイスの罹患率研究からのDQ157150/ clone 2.24)にアラインメントさせた1295塩基対内では、16ヌクレオチド(G5)から33ヌクレオチド(B3、D7、D9、100-94)の配列相違性が示された。
【0092】
D7およびD9由来の16S rRNA遺伝子を増幅させるために以下のプライマーを使用した:
CMt_spec2f:
5'-CGA ATT GTC GAA AGA CAA TTA GC-3' SEQ ID NO:13
CMt-spec2r:
5'-AGA AGT TTC ATT CTT GAC ACA ATT TAA-3' SEQ ID NO:14
これらのプライマーは種特異的であり、約1342ヌクレオチドの産物を増幅させる。増幅は上記の増幅と同様に行った。
【0093】
【表8】

【0094】
【表9】

【0095】
【表10】

【0096】
【表11】

【0097】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、感染ネコにおける病原体量および血中血球容積の経過を示す。
【図2】図2は、感染ネコにおけるRBC浸透圧脆弱性の経過を示す。
【図3】図3は、近隣結合法を使用した新規分離株と他のヘモプラズマ種との相関関係を示す系統樹を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたヘモプラズマ病原体であって、ヘモプラズマ病原体の核酸をSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2;またはSEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4;またはSEQ ID NO:13およびSEQ ID NO:14から成るPCRプライマーと共に使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅産物が生じることを特徴とする、単離されたヘモプラズマ病原体。
【請求項2】
SEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:2で増幅される増幅産物が約1342核酸長であり;SEQ ID NO:3およびSEQ ID NO:4で増幅される増幅産物が約85ヌクレオチド長であり;そしてSEQ ID NO:13およびSEQ ID NO:14で増幅される増幅産物が約1342核酸長である、請求項1記載の単離されたヘモプラズマ病原体。
【請求項3】
ヘモプラズマ病原体がSEQ ID NO:12の16S rRNA配列を含有する、請求項1記載の単離されたヘモプラズマ病原体。
【請求項4】
SEQ ID NO:12を含有する単離された核酸分子、またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含有する核酸分子。
【請求項5】
単離された核酸分子がSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19;または、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19の10個以上の連続する核酸;またはそれらの組み合わせを含有する、請求項4記載の単離された核酸分子。
【請求項6】
単離された核酸分子が標識を含有する、請求項4記載の単離された核酸分子。
【請求項7】
サンプル中の請求項1記載のヘモプラズマ病原体の存在または非存在を検出する方法であって、
SEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含有する単離された核酸プローブとサンプルを接触させ;そして
ハイブリダイズしたプローブ/ヘモプラズマ病原体核酸複合体の存在または非存在を検出する
ことを含み、ハイブリダイズしたプローブ/ヘモプラズマ病原体核酸複合体の存在はサンプル中の請求項1記載のヘモプラズマ病原体の存在を示すことを特徴とする上記方法。
【請求項8】
ハイブリダイズしたプローブ/ヘモプラズマ病原体核酸複合体の量を測定する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
プローブが標識を含有する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
標識が蛍光部分である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
被験体における請求項1記載のヘモプラズマ病原体の存在または非存在を検出する方法であって、被験体から得たサンプル中のヘモプラズマ病原体の16S rRNAまたは16S rRNAをコードする核酸分子を検出することを含み、16S rRNAまたは16S rRNAをコードする核酸の存在はヘモプラズマ病原体の存在を示すことを特徴とする上記方法。
【請求項12】
検出が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR);リガーゼ連鎖反応;核酸配列に基づく増幅;自己保持配列複製;鎖置換増幅;分枝DNAシグナル増幅;ネステッドPCR;マルチプレックスPCR;定量PCR;直接検出、インサイチューハイブリダイゼーション;転写介在増幅(TMA);ローリングサークル増幅(RCA);およびQ-ベータ-レプリカーゼ系から成る群から選択される方法によってヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子を増幅することを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
検出が、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19;または、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19の10個以上の連続する核酸;またはそれらの組み合わせを含有する単離された核酸プローブの使用を含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
サンプル中の請求項1記載のヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子を検出する方法であって、
SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3またはSEQ ID NO:13から成る第1の増幅プライマー、およびSEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:4またはSEQ ID NO:14から成る第2の増幅プライマーを使用してヘモプラズマ病原体の16S rRNA核酸分子を増幅し;そして
増幅産物を検出する
ことを含み、増幅産物が検出された場合には16S rRNA核酸分子が存在することを特徴とする、上記方法。
【請求項15】
サンプル中の16S rRNA核酸分子の量を測定する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
第1もしくは第2、または両方の増幅プライマーが更に標識を含有する、請求項14記載の方法。
【請求項17】
標識が蛍光部分である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
増幅がリアルタイム定量PCRを含み、5’ヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼおよび検出可能な標識を含む少なくとも1つのプローブの使用を更に含む、請求項14記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つのプローブがSEQ ID NO:6から成る、請求項18記載の方法。
【請求項20】
増幅がリアルタイム定量PCRを含み、2本鎖DNAに結合する検出可能な色素の使用を更に含む、請求項14記載の方法。
【請求項21】
検出可能な色素がサイバーグリーンまたは臭化エチジウムである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
請求項1記載のヘモプラズマ病原体の核酸分子を検出および定量する方法であって、
SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:3またはSEQ ID NO:13から成る第1のプライマー;SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:4またはSEQ ID NO:14から成る第2のプライマー;5’ヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼ;16S rRNA配列に相補的な核酸を含み、レポーター蛍光色素およびクエンチャー色素を含有する核酸プローブを使用してヘモプラズマ病原体の16S rRNA配列を増幅する
ことを含み、請求項1記載のヘモプラズマ病原体由来の核酸が検出および定量される上記方法。
【請求項23】
核酸分子を検出するキットであって、SEQ ID NO:12;SEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸;またはそれらの組み合わせを含有する配列を有する1つ以上の単離された核酸分子を含む上記キット。
【請求項24】
ポリメラーゼおよび1つ以上のバッファーを更に含む、請求項23記載のキット。
【請求項25】
1つ以上の単離された核酸分子が1つ以上の標識を含む、請求項23記載の方法。
【請求項26】
標識が蛍光部分である、請求項23記載のキット。
【請求項27】
サンプルからヘモプラズマ病原体16S rRNA核酸分子を単離する方法であって、
1つ以上の単離された捕捉核酸を含む固相支持体を、ハイブリダイズ条件下でサンプルと接触させ、ここで、単離された捕捉核酸はSEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含み、ヘモプラズマ病原体16S rRNA核酸分子がサンプル中に存在する場合にはこれは捕捉核酸とハイブリダイズし;そして
固相支持体上のハイブリダイズしたヘモプラズマ病原体16S rRNA核酸分子を検出する
ことを含む上記方法。
【請求項28】
請求項1記載のヘモプラズマ病原体に感染した被験体の治療効果をモニタリングする方法であって、
a) 被験体から治療前サンプルを採取し;
b) サンプル中のヘモプラズマ16S核酸分子の存在、非存在、量、またはそれらの組み合わせを検出し;
c) 被験体から1つ以上の治療後サンプルを採取し;
d) 治療後サンプル中のヘモプラズマ16S rRNA核酸の存在、非存在、またはそれらの組み合わせを検出し;
e) 投与前サンプル中の16S rRNA核酸の存在、非存在、量、またはそれらの組み合わせを投与後サンプルのものと比較し;そして治療の有効性をモニタリングする
ことを含む上記方法。
【請求項29】
請求項1記載のヘモプラズマ病原体への感染について被験体をスクリーニングする方法であって、
被験体から得たサンプル中の、SEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含むポリヌクレオチドを検出することを含み、ポリヌクレオチドが検出される場合には被験体はヘモプラズマ病原体に感染していることを特徴とする上記方法。
【請求項30】
請求項1記載のヘモプラズマ病原体への感染について被験体をスクリーニングする方法であって、
被験体から採取したサンプル中の、SEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含むポリヌクレオチドを検出して第1の値を取得し;
疾病に罹患していない被験体から採取した同様の生体サンプル中の、SEQ ID NO:12またはSEQ ID NO:12の10個以上の連続する核酸を含むポリヌクレオチドを検出して第2の値を取得し;そして
第1の値を第2の値と比較する
ことを含み、第1の値が第2の値に比較して大きい場合には被験体がヘモプラズマ病原体に感染していることを示すことを特徴とする上記方法。
【請求項31】
ATCC PTA-6782として寄託されている単離されたヘモプラズマ病原体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−539718(P2008−539718A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509541(P2008−509541)
【出願日】平成18年5月3日(2006.5.3)
【国際出願番号】PCT/IB2006/002387
【国際公開番号】WO2007/000673
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(505287232)ザ ユニバーシティ オブ チューリッヒ (4)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF ZURICH
【Fターム(参考)】