説明

ネットワークの遅延分布の監視装置、方法及びプログラム

【課題】簡易な処理で遅延分布のパーセンタイル値を推定する監視装置を提供する。
【解決手段】監視装置は、ネットワークの2つのノード装置間で実行した遅延測定のn個(nは自然数)の測定値を収集して蓄積する手段と、前記収集したn個の測定値に基づき、前記2つのノード装置間における遅延分布の100pパーセンタイル値(0<p<1)を更新する手段とを備えており、前記更新する手段は、前記100pパーセンタイル値の更新前の値と前記n個の測定値に基づき前記更新前の値の確からしさを示す重み係数を求める第1の手段と、前記重み係数を使用して、前記100pパーセンタイル値の更新後の値を決定する第2の手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークの遅延分布を監視する技術に関し、より詳しくは、遅延分布のパーセンタイル値を、多数の測定データを保持し続けることなく推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワークを通過するパケットの遅延量はトラフィック量により変動するが、遅延量は信号品質の重要なパラメータの1つであるため、ネットワークの運用者は、この遅延量の分布を監視し、遅延量が所定の基準を満たさなくなる状態が発生した場合には、その状態を解消させるための何らかの対処を行うことが求められている。所定の基準は、例えば、“95%のパケットがX秒以内の遅延である”といった、パーセンタイル値で定義される。
【0003】
例えば、特許文献1には、遅延量等の測定値の同時結合分布を推定し、推定した同時結合分布を基にパーセンタイル値を推定する構成が開示されている。しかしながら、収集した測定値からヒストグラムを求め、その後、ヒストグラムを近似した離散確率分布を作成して最尤推定を行うなど、その処理量が大きいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−33715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、簡易な処理で遅延分布のパーセンタイル値を推定する監視装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による監視装置によれば、
ネットワークの2つのノード装置間で実行した遅延測定のn個(nは自然数)の測定値を収集して蓄積する手段と、前記収集したn個の測定値に基づき、前記2つのノード装置間における遅延分布の100pパーセンタイル値(0<p<1)を更新する手段とを備えており、前記更新する手段は、前記100pパーセンタイル値の更新前の値と前記n個の測定値に基づき前記更新前の値の確からしさを示す重み係数を求める第1の手段と、前記重み係数を使用して、前記100pパーセンタイル値の更新後の値を決定する第2の手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明における監視装置の他の実施形態によれば、
前記n個の測定値の中で、前記100pパーセンタイル値の更新前の値以下である測定値の数がkであるとき、前記重み係数は、前記2つのノード装置間における遅延分布が前記100pパーセンタイル値の更新前の値に従うとした場合において、n個の測定値の中のk個の測定値が前記100pパーセンタイル値の更新前の値以下となる確率に基づく値であることも好ましい。
【0008】
また、本発明における監視装置の他の実施形態によれば、
前記重み係数は、kが0及びnに等しい時は、
【0009】
【数1】

であり、それ以外の場合には、
【0010】
【数2】

であることも好ましい。
【0011】
さらに、本発明における監視装置の他の実施形態によれば、
前記更新する手段は、前記n個の測定値における100pパーセンタイル値を判定する第3の手段を、さらに、備えており、前記第2の手段は、前記n個の測定値における100pパーセンタイル値を、前記100pパーセンタイル値の更新後の値を決定に使用することも好ましい。
【0012】
さらに、本発明における監視装置の他の実施形態によれば、
前記n個の測定値を、前記100pパーセンタイル値の更新後に削除することも好ましい。
【0013】
本発明によるプログラムによれば、
上記監視装置としてコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0014】
本発明による監視方法によれば、
遅延情報収集手段が、2つのノード装置間で実行した遅延測定のn個(nは自然数)の測定値を収集するステップと、重み係数計算手段が、前記収集したn個の測定値と、前記2つのノード装置間における遅延分布の100pパーセンタイル値(0<p<1)に基づき、前記2つのノード装置間における遅延分布の100pパーセンタイル値の確からしさを示す重み係数を求めるステップと、推定値更新手段が、前記重み係数に基づき、前記2つのノード装置間における遅延分布の100pパーセンタイル値を更新するステップとを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
ヒストグラムを作成して分布を推定するといった処理が不要であり、簡単な処理で遅延分布を監視することが可能になる。また、各回の測定結果を、更新に利用した後に削除することができ、必要な記憶容量が少なくて済むという利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によるシステム構成図である。
【図2】本発明による監視装置の概略的な構成図である。
【図3】推定部の概略的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明によるシステム構成を示す図であり、本発明によるシステムは、本発明による監視装置100とネットワーク200とを含んでいる。ネットワーク200は、図において四角で示す複数のノード装置を含んでおり、本発明による監視装置100は、ネットワーク200の複数のノード装置と通信可能な様に構成されている。なお、各ノード装置は、任意の他のノード装置に遅延測定用の信号を送信し、当該他のノード装置との間の伝送遅延を測定する機能を備えている。
【0018】
図2は、本発明による監視装置の概略的な構成図である。図2に示す様に、本発明による監視装置は、遅延情報収集部1と、一時蓄積部2と、推定部3と、履歴蓄積部4と、情報出力部5とを備えていえる。
【0019】
遅延情報収集部1は、ノード装置に対して遅延測定の実行を命令し、その測定結果を収集し、収集した測定値を一時蓄積部2に保存する。なお、遅延測定の実行を命令する際には、測定の相手側となるノード装置も指定する。以下、任意の2つのノード装置間で特定されるパケットの経路を区間と呼ぶ。
【0020】
推定部3は、各区間の100pパーセンタイル値(0<p<1)と、一時蓄積部2に蓄積されている当該区間の遅延の測定値に基づき、当該区間の100pパーセンタイル値を更新し、更新結果を履歴蓄積部4及び情報出力部5に出力する。
【0021】
履歴蓄積部4は、各区間の100pパーセンタイル値の履歴を保持しており、例えば、更新により、100pパーセンタイル値が所定の閾値以上変動した区間や、100pパーセンタイル値が所定値以上の振幅で振動している区間や、100pパーセンタイル値が閾値を超えた区間等、所定の基準を超えた区間を情報出力部5に出力する。なお、情報出力部5は、ユーザとのインタフェース部であり、推定部3が更新した最新の100pパーセンタイル値や、履歴蓄積部4からの所定の基準を超えた区間等をユーザに表示する機能を有している。
【0022】
以下に、推定部3による、100pパーセンタイル値の推定処理について説明する。まず、推定部3は、一時蓄積部2に保存されている、ある区間の1回目の遅延測定により得られたn個の測定値から、当該区間の100pパーセンタイル値の初期値εを求める。具体的には、n=100であり、p=0.95(95パーセンタイル値)とすると、95番目に小さい値を、当該区間の100pパーセンタイル値の初期値εとする。なお、100pパーセンタイル値の初期値εを求めるために使用した、1回目の遅延測定でのn個の測定値は、一時蓄積部2から削除する。
【0023】
続いて、推定部3は、一時蓄積部2に新たに保存された、当該区間の2回目の遅延測定により得られたn個の測定値から、当該区間の100pパーセンタイル値を更新する(更新後の値をεとする。)。なお、100pパーセンタイル値を更新するために使用した、2回目の遅延測定でのn個の測定値は、100pパーセンタイル値の更新後、一時蓄積部2から削除する。以後、同様に、推定部3は、当該区間の100pパーセンタイル値εと、t回目の遅延測定でのn個の測定値から、当該区間の100pパーセンタイル値の更新後の値εt+1を求め、t回目の遅延測定でのn個の測定値を一時蓄積部2から削除することを繰り返す。
【0024】
続いて、推定部3における100pパーセンタイル値の更新処理について説明する。図3は、推定部3の概略的な構成図であり、推定部3は、パーセンタイル値計算部31と、重み係数計算部32と、推定値更新部33とを備えている。まず、パーセンタイル値計算部31は、t回目の遅延測定でのn個の測定値から、t回目の遅延測定における100pパーセンタイル値xを判定して、t回目の遅延測定における100pパーセンタイル値xを推定値更新部33に出力する。具体的には、n=100であり、p=0.95(95パーセンタイル値)とすると、t回目の遅延測定での95番目に小さい値を、t回目の遅延測定における100pパーセンタイル値xとする。
【0025】
重み係数計算部32は、履歴蓄積部4より、現在の100pパーセンタイル値εを取得し、t回目の遅延測定でのn個の測定値の内、その値が100pパーセンタイル値ε以下である測定値の数kを求め、重み係数Wを、以下の式により算出する。
【0026】
【数3】

【0027】
推定値更新部33は、t回目の遅延測定における100pパーセンタイル値xと、重み係数Wと、当該区間の現在の100pパーセンタイル値εから、当該区間の更新後の100pパーセンタイル値εt+1を以下の式により求める。
εt+1=W・ε+(1−W)・x (2)
【0028】
上記式(1)及び(2)によるパーセンタイル値の更新処理について以下に説明する。まず、ある区間の遅延分布が、当該区間の現在の100pパーセンタイル値εに従うとすると、当該区間において遅延量がε以下になる確率はpである。したがって、t回目の遅延測定でのn個の測定値の中で、その値が現在の100pパーセンタイル値ε以下の数がkになる確率Pは、
P=(1−p)n−k (3)
となる。
【0029】
式(3)の最大値PMaxは、k=npのときであり、以下の式で表わされる。
Maxnpnp(1−p)n−np (4)
【0030】
式(3)を式(4)により正規化し、スターリングの公式を用いて近似することで、以下に示すp、n、kの関数であるα(p,n,k)を得ることができる。なお、ここでは簡単のため、npが整数値となる様にn及びpを選択しているものとする。
【0031】
【数4】

【0032】
本願発明は、式(5)を重み係数としたものである。上記式から明らかなように、重み係数は、t回目の遅延測定の結果が、現在の100pパーセンタイル値εに完全に従うとき、つまり、遅延がε以下である測定値の数がnpであるときに1となり、kの値がnpから離れる程小さくなる値である。
【0033】
式(2)は、式(1)で求めた重み係数、つまり、現在の100pパーセンタイル値εの確からしさを示す値により、現在の100pパーセンタイル値εを調整した値と、t回目の遅延測定における100pパーセンタイル値xを、同じく前記確からしさで調整した値を加算するものであり、よって、100pパーセンタイル値は、ネットワークの状態の変化に応じて、徐々に、更新されることになる。また、本発明においては、各回の測定結果を、更新に利用した後に削除することができる。つまり、過去の測定結果を保持しておく必要がなく、必要な記憶容量が少なくて済むという利点を有している。また、ヒストグラムを作成して分布を推定するといった処理が不要であり、簡単な処理で遅延分布を監視することが可能になる。
【0034】
なお、ε及びxの平均値と、式(2)の値を比較して、大きい方を更新後の100pパーセンタイル値としたり、重み係数Wが所定の閾値より大きい場合にはεを、そうでなければxを、更新後の100pパーセンタイル値としたり、式(2)に代えて、以下の式により求めた値を更新後の100pパーセンタイル値εt+1とする形態であっても良い。
εt+1=(W・ε+(1−W)・x0.5 (6)
【0035】
また、上述した実施形態において、監視装置は、ノード装置とは異なる装置としていがた、本発明による監視装置においては、必要な記憶容量や、その処理負荷が軽いため、図2に記載の機能ブロックを各ノード装置に組み込み、各ノード装置が100pパーセンタイル値を監視して、上位の管理装置に通知する形態であっても良い。この場合、遅延情報収集部1は、組み込まれているノード装置が測定した測定値のみを収集することになる。さらに、上述した実施形態においては各回における遅延測定の測定値の数をn個としていたが、nは各回において異なる値であっても良い。
【0036】
なお、本発明による監視装置は、コンピュータを図2及び3に示す各部として機能させるプログラムにより実現することができる。これらコンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されて、又は、ネットワーク経由で配布が可能なものである。さらに、本発明は、ハードウェア及びソフトウェアの組合せによっても実現可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 遅延情報収集部
2 一時蓄積部
3 推定部
4 履歴蓄積部
5 情報出力部
31 パーセンタイル値計算部
32 重み係数計算部
33 推定値更新部
100 監視装置
200 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークの2つのノード装置間で実行した遅延測定のn個(nは自然数)の測定値を収集して蓄積する手段と、
前記収集したn個の測定値に基づき、前記2つのノード装置間における遅延分布の100pパーセンタイル値(0<p<1)を更新する手段と、
を備えており、
前記更新する手段は、
前記100pパーセンタイル値の更新前の値と前記n個の測定値に基づき前記更新前の値の確からしさを示す重み係数を求める第1の手段と、
前記重み係数を使用して、前記100pパーセンタイル値の更新後の値を決定する第2の手段と、
を備えている監視装置。
【請求項2】
前記n個の測定値の中で、前記100pパーセンタイル値の更新前の値以下である測定値の数がkであるとき、前記重み係数は、前記2つのノード装置間における遅延分布が前記100pパーセンタイル値の更新前の値に従うとした場合において、前記n個の測定値の中のk個の測定値が前記100pパーセンタイル値の更新前の値以下となる確率に基づく値である、
請求項1に記載の監視装置
【請求項3】
前記重み係数は、kが0及びnに等しいときは、
【数1】

であり、それ以外の場合には、
【数2】

である、
請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記更新する手段は、
前記n個の測定値における100pパーセンタイル値を判定する第3の手段を、さらに、備えており、
前記第2の手段は、前記n個の測定値における100pパーセンタイル値を、前記100pパーセンタイル値の更新後の値を決定に使用する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の監視装置。
【請求項5】
前記n個の測定値を、前記100pパーセンタイル値の更新後に削除する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の監視装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の監視装置としてコンピュータを機能させるプログラム。
【請求項7】
遅延情報収集手段が、2つのノード装置間で実行した遅延測定のn個(nは自然数)の測定値を収集するステップと、
重み係数計算手段が、前記収集したn個の測定値と、前記2つのノード装置間における遅延分布の100pパーセンタイル値(0<p<1)に基づき、前記2つのノード装置間における遅延分布の100pパーセンタイル値の確からしさを示す重み係数を求めるステップと、
推定値更新手段が、前記重み係数に基づき、前記2つのノード装置間における遅延分布の100pパーセンタイル値を更新するステップと、
を備えている遅延分布の監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−171794(P2011−171794A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31041(P2010−31041)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】