説明

ネットワーク品質計測システム

【課題】ユーザ端末を用いてネットワーク品質を精度良く計測する。
【解決手段】各計測端末1a,1bのパケット計測データ取得部101は、テストパケットを送受してパケット計測データを取得する。端末パフォーマンス情報計測部102は、各計測端末1a,1bの端末パフォーマンス情報を計測する。アップロード部103は、パケット計測データおよび端末パフォーマンス情報を計測管理サーバ2へアップロードする。計測管理サーバ2のパケット計測データ受信部201は、パケット計測データを受信する。端末パフォーマンス情報受信部202は、端末パフォーマンス情報を受信する。高負荷期間識別部203は、端末パフォーマンス情報に基づいて各計測端末の高負荷期間を識別する。ネットワーク品質計測部204は、高負荷期間以外に得られたパケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク品質計測システムに係り、特に、ネットワーク上に分散配置されたユーザ端末のペアを選択してエンドツーエンドの通信品質を計測させ、計測結果を収集してネットワーク品質を計測するネットワーク品質計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
IPネットワークの通信品質を監視する目的で、監視対象のネットワーク内に分散配置した計測端末間でプローブパケット(テストパケット)を送受し、パケットロス率やパケット遅延などの通信品質を計測するシステムが非特許文献1に開示されている。また、ネット対戦型ゲームの通信を利用し、大規模なIPネットワークの通信品質を計測する技術が、非特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】PerfSONAR: http://www.perfsonar.net/
【非特許文献2】Youngki Lee, Sharad Agarwal, Chris Butcher, and Jitu Padhye,"Measurement and Estimation of Network QoS Among Peer Xbox 360 Game Players," In Proc. of PAM 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術によるIPネットワークの品質計測には以下のような技術課題があった。
【0005】
(1)非特許文献1のように、計測サーバをIPネットワークに分散配置する方式では、大規模ネットワークを監視する際には多数の計測用サーバを設置しなければならなかった。
【0006】
(2)非特許文献2のように、ゲーム機などのユーザ端末を利用してIPネットワークの品質を計測する方式では、ユーザ端末の利用状況や能力に応じて計測精度が低下する場合があるため、計測データの信頼性が低くなることがあった。
【0007】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、ユーザ端末(クライアント)を計測端末として利用しながら、ネットワーク品質を精度良く計測できるネットワーク品質計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、ネットワーク上の計測端末間で送受されたテストパケットのデータを計測管理サーバが取得してネットワークの品質を計測するネットワーク品質計測システムにおいて、以下のような手段を講じた点に特徴がある。
【0009】
(1)各計測端末が、テストパケットを送受してパケット計測データを取得する手段と、端末負荷の指標となる端末パフォーマンス情報を計測する手段と、パケット計測データを所定の周期で計測管理サーバへアップロードする手段とを具備した。また、計測管理サーバが、各計測端末からパケット計測データを受信する手段と、パケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測する手段とを具備した。前記計測管理サーバは、各計測端末の高負荷期間以外に得られたパケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測する。
【0010】
(2)各計測端末が、端末パフォーマンス情報を所定の周期で計測管理サーバへアップロードする手段をさらに具備し、計測管理サーバが、各計測端末から端末パフォーマンス情報を受信する手段と、端末パフォーマンス情報に基づいて端末負荷が所定の閾値を超える高負荷期間を識別する手段とを具備した。
【0011】
(3)各計測端末が、端末パフォーマンス情報の計測結果に基づいて端末負荷が所定の閾値を超える高負荷期間を識別する手段を具備し、パケット計測データをアップロードする手段は、高負荷期間以外に得られたパケット計測データをアップロードするようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
【0013】
(1)ユーザ端末を計測端末として機能させ、計測用のプローブパケットを送受させて得られるパケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測するにあたり、各計測端末が高負荷状態にある期間に得られたパケット計測データをネットワーク品質の計測に用いないので、誤差の少ないネットワーク品質計測が可能になる。
【0014】
(2)各計測端末が高負荷状態にある期間に得られたパケット計測データをネットワーク品質の計測に用いないようにするためにパケット計測データを端末パフォーマンス情報に基づいて識別する際、この識別処理が計測管理サーバにおいて行われるようにすれば、一般的に計測管理サーバに較べて処理能力の低い計測端末の処理負荷を軽減できる。したがって、各計測端末におけるパケット計測データの計測精度を向上させることができ、ひいては計測管理サーバにおけるネットワーク品質計測の精度を向上させることができる。また、計測端末で実行されている他の処理が計測処理の影響で低下することを防止できる。
【0015】
(3)各計測端末が高負荷状態にある期間に得られたパケット計測データをネットワーク品質の計測に用いないようにするためにパケット計測データを端末パフォーマンス情報に基づいて識別する際、各計測端末において、高負荷期間に得られたパケット計測データの識別およびその排除が行われるようにすれば、各計測端末から計測管理サーバへは、高負荷期間以外に得られたパケット計測データしかアップロードされない。したがって、パケット計測データのアップロードに必要なネットワーク資源を減じることができる。また、高負荷期間に得られたパケット計測データの識別およびその排除の処理負荷が各計測端末に分散されるので、特に多数の計測端末が動作する環境下では、計測管理サーバの負荷を大幅に軽減できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るネットワーク品質計測システムの構成を示したブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態の動作を示したシーケンスフローである。
【図3】パケット遅延とCPU使用率およびネットワーク使用帯域との関係を示した図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るネットワーク品質計測システムの主要部の機能ブロック図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るネットワーク品質計測システムの主要部の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るネットワーク品質計測システムの構成を示したブロック図であり、計測用のプローブパケットを送受してエンドツーエンドの通信品質を計測する一対のユーザ端末1(1a,1b)と、各ユーザ端末1から通信品質の計測結果(パケット計測データ)を各端末のパフォーマンス情報と共に受信し、各ユーザ端末1が高負荷状態以外の期間に得られたパケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測する管理サーバ2とを主要な構成としている。
【0018】
各ユーザ端末1には計測用プログラムが予めインストールされており、当該計測用プログラムが起動されると、パケット遅延やパケットロスなどのパケット計測データが取得されて管理サーバ2へアップロードされる。また、本実施形態では各ユーザ端末1のCPU使用率、メモリ使用率、ハードディスクドライブのアクセス回数あるはネットワークの使用帯域などが検出され、これらがパフォーマンス情報として前記管理サーバ2へアップロードされる。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態の動作を示したシーケンスフローであり、ここでは本発明の説明に不要な動作については、その説明を省略する。
【0020】
一方のユーザ端末1aは、計測用プログラム(エージェント)が起動されると計測エージェントAとして動作し、時刻t1において、計測管理サーバ2との間にTCPコネクションが確立される。時刻t2では、ユーザ端末1aから計測管理サーバ2へ計測端末としての登録要求が送信される。時刻t3では、計測管理サーバ2が前記登録要求に応答してユーザ端末1aを計測端末1aとして登録し、当該計測端末1aへ登録応答のメッセージを返信する。
【0021】
計測端末1aは、この登録応答メッセージの受信を契機に計測待機状態となる。時刻t4では、一般的に利用されるアドレス変換(NAT)機能を持つルータ(一般的なブロードバンドルータ)を介して外部とUDP通信可能であるかが判定(NAT越え判定)される。通信可能であれば、利用可能なアドレス変換後のポート番号が計測管理サーバ2へ記録される。
【0022】
以上の登録手順は、他方のユーザ端末1bでも同様に実行(時刻t5,t6,t7,t8)され、これにより、ユーザ端末1bも計測エージェントBとして機能できるようになり、計測管理サーバ2へ計測端末1bとして登録される。
【0023】
その後、時刻t9,t10において計測管理サーバ2から計測エージェントA,Bへ、それぞれ通信相手のIPアドレスおよび利用可能なポート番号(Pb,Pa)の記述された計測実行指示が通知されると、時刻t11では、計測エージェントAが自身のポートPaを利用して計測エージェントBのポートPb宛にUDPパケットを送信する。時刻t12では、計測エージェントBが自身のポートPbを利用して計測エージェントAのポートPa宛にUDPパケットを送信する。
【0024】
このUDPパケットの送受により計測エージェントA,B間の疎通が確認されると、ルータにNAT変換テーブルが作成されるので、各計測エージェントA,BがNAT機能を持つルータを介して通信する環境であっても、以降の通信では、送出したUDPパケットの宛先(IPアドレスとポート番号の組)からのパケットは疎通可能になる。
【0025】
時刻t13では、計測エージェントA,B間で計測用のプローブパケットが送受される。また、本実施形態では前記プローブパケットの送受と平行して、各計測端末1a,1bのパフォーマンス情報が各計測エージェントA,Bにおいて周期的(e.g. 1秒周期)に計測される。本実施形態では、CPU使用率、メモリ使用率、ネットワーク使用帯域あるいはディスクアクセス回数などが端末パフォーマンス情報として計測される。
【0026】
時刻t14では、計測エージェントAから計測管理サーバ2へ、送出パケットデータが前記計測端末1aの端末パフォーマンス情報と共にアップロードされる。時刻t15では、計測エージェントBから計測管理サーバ2へ、受信パケットデータが前記計測端末1bのパフォーマンス情報と共にアップロードされる。
【0027】
時刻t16では、計測管理サーバが計測エージェントA,Bからアップロードされたデータを比較し、パケット遅延やロスを計算する。各パケットの遅延は、送信側の計測エージェントAで各計測用パケットに付与される送信タイムスタンプ情報と受信側の計測エージェントBにおけるパケット受信時刻との差分により計算される。パケットロスは、送信側の計測エージェントAから送信された計測用パケットが、一定時間以内に受信側の計測エージェントBに到着しない場合にロス発生と判定される。
【0028】
ただし、本実施形態では前記端末パフォーマンス情報に基づいて各計測端末1a,1bの負荷状態が推定され、端末パフォーマンス情報が所定の閾値を超えており、端末負荷が高いと推定される期間の計測結果は品質計測に利用されない。
【0029】
図3は、パケット遅延[同図(a)]とCPU使用率[同図(b)]およびネットワーク使用帯域[同図(c)]との関係を示した図であり、パケット遅延の発生タイミングとCPU使用率が高いタイミングやネットワーク使用帯域が大きいタイミングとが同期していることが判る。これは、計測端末上で動作する他のアプリケーションやトラヒックの処理負荷によって、計測端末1a,1bでのパケット処理に割り込みが入り、タイムスタンプ情報の誤差が増大する可能性があるためである。
【0030】
そこで、本実施形態ではCPU使用率が10%以上となった期間、あるいはネットワーク使用帯域が10Kbyte/s以上となった期間の計測データは、計測誤差を多く含む可能性が高いデータとして除去される。計測管理サーバ2は、除去されることなく残ったパケット計測データを集計し、パケット遅延やパケットロスの集計値(平均値やパーセンタイル値など)を算出する。
【0031】
図4は、上記した本発明の第1実施形態に係るネットワーク品質計測システムの主要部の構成を示した機能ブロック図である。
【0032】
各計測端末1a,1bにおいて、パケット計測データ取得部101は、テストパケットを送受して送出パケットデータ(1a)および受信パケットデータ(1b)をパケット計測データとして取得する。端末パフォーマンス情報計測部102は、端末負荷の指標となる端末パフォーマンス情報を計測する。アップロード部103は、前記パケット計測データおよび端末パフォーマンス情報を所定の周期で計測管理サーバ2へアップロードする。
【0033】
計測管理サーバ2において、パケット計測データ受信部201は、各計測端末1a,1bからパケット計測データを受信する。端末パフォーマンス情報受信部202は、各計測端末1a,1bから端末パフォーマンス情報を受信する。高負荷期間識別部203は、前記端末パフォーマンス情報に基づいて端末負荷が所定の閾値を超える高負荷期間を識別する。ネットワーク品質計測部204は、前記各計測端末1において高負荷期間以外に得られたパケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測する。
【0034】
本実施形態によれば、ユーザ端末を計測端末として機能させ、計測用のプローブパケットを送受させて得られるパケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測するにあたり、各計測端末1が高負荷状態にある期間に得られたパケット計測データがネットワーク品質の計測に用いられないので、誤差の少ないネットワーク品質計測が可能になる。
【0035】
また、本実施形態によれば、各計測端末1a,1bで得られたパケット計測データを当該各計測端末の端末パフォーマンス情報に基づいて識別する処理が計測管理サーバ2において行われるので、一般的に計測管理サーバ2に較べて処理能力の低い計測端末1a,1bの処理負荷を軽減できる。したがって、計測端末1a,1bにおけるパケット計測データの計測精度を向上させることができ、ひいては各計測端末1a,1bで実行されている他の処理が計測処理の影響で低下することを防止できる。
【0036】
なお、上記の実施形態では、各計測端末1a,1bから計測管理サーバ2へ、端末パフォーマンス情報がパケット計測データと共に送信され、高負荷期間に計測されたパケット計測データの識別およびその排除が計測管理サーバ2において行われるものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではない。すなわち、計測管理サーバ2が各計測端末1a,1bの高負荷期間以外に得られたパケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測できるならば、各計測端末1a,1bにおいて、高負荷期間に得られたパケット計測データの識別およびその排除が行われるようにしても良い。
【0037】
図5は、本発明の第2実施形態に係るネットワーク品質計測システムの主要部の構成を示した機能ブロック図であり、上記と同一の符号は同一または同等の部分機能を示している。
【0038】
各計測端末1a,1bにおいて、高負荷期間識別部104は、前記端末パフォーマンス情報に基づいて端末負荷が所定の閾値を超える高負荷期間を識別する。アップロード部103は、前記高負荷期間以外に得られたパケット計測データのみを計測管理サーバ2へアップロードする。
【0039】
計測管理サーバ2において、前記ネットワーク品質計測部204は、前記各計測端末1からアップロードされた全てのパケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測する。
【0040】
本実施形態によれば、各計測端末1a,1bにおいて、その高負荷期間に得られたパケット計測データの識別およびその排除が行われるので、各計測端末1a,1bから計測管理サーバ2へは、高負荷期間以外に得られたパケット計測データしかアップロードされない。したがって、パケット計測データのアップロードに係る通信トラヒックを第1実施形態に較べて減じることができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、高負荷期間に得られたパケット計測データの識別およびその排除の処理負荷が各計測端末に分散されるので、特に多数の計測端末が動作する環境下では、計測管理サーバの負荷を大幅に軽減できるようになる。
【符号の説明】
【0042】
1a,1b…計測端末,2…計測管理サーバ,101…パケット計測データ取得部,102…端末パフォーマンス情報計測部,103…アップロード部,104…高負荷期間識別部,201…パケット計測データ受信部,202…端末パフォーマンス情報受信部,203…高負荷期間識別部,204…ネットワーク品質計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク上の計測端末間で送受されたテストパケットの計測データを計測管理サーバが取得してネットワーク品質を計測するネットワーク品質計測システムにおいて、
前記各計測端末が、
テストパケットを送受してパケット計測データを取得する手段と、
端末負荷の指標となる端末パフォーマンス情報を計測する手段と、
前記パケット計測データを所定の周期で計測管理サーバへアップロードする手段とを具備し、
前記計測管理サーバが、
各計測端末からパケット計測データを受信する手段と、
前記パケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測する手段とを具備し、
前記計測管理サーバは、前記各計測端末の高負荷期間以外に得られたパケット計測データに基づいてネットワーク品質を計測することを特徴とするネットワーク品質計測システム。
【請求項2】
前記各計測端末が、
前記端末パフォーマンス情報を所定の周期で計測管理サーバへアップロードする手段をさらに具備し、
前記計測管理サーバが、
各計測端末から端末パフォーマンス情報を受信する手段と、
前記端末パフォーマンス情報に基づいて端末負荷が所定の閾値を超える高負荷期間を識別する手段とを具備したことを特徴とする請求項1に記載のネットワーク品質計測システム。
【請求項3】
前記各計測端末が、
前記端末パフォーマンス情報の計測結果に基づいて端末負荷が所定の閾値を超える高負荷期間を識別する手段を具備し、
前記パケット計測データをアップロードする手段は、前記高負荷期間以外に得られたパケット計測データをアップロードすることを特徴とする請求項1に記載のネットワーク品質計測システム。
【請求項4】
前記端末パフォーマンス情報が、各計測端末のCPU使用率、メモリ使用率、ハードディスクドライブのアクセス回数およびネットワークの使用帯域の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のネットワーク品質計測システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−211360(P2011−211360A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75207(P2010−75207)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】