説明

ノイズ対策構造

【課題】基板のインピーダンスを低減させ、しかも、電源パターンと電源供給パターン間の電磁気的結合による高周波電流の発生を防止することにより、不要放射ノイズを抑制したノイズ対策構造を提供する。
【解決手段】IC10の電源端子11,13に接続される電源パターン3−1,3−2と、グランド端子12に接続されるグランドパターン4とを、多層回路基板2の上層21に並設し、グランドパターン5−1と電源供給パターン6とグランドパターン5−2とを、下層22に並設する。そして、3端子コンデンサ7−1を電源パターン3−1とグランドパターン4とグランドパターン5−1と電源供給パターン6とに接続し、3端子コンデンサ7−2を電源パターン3−2とグランドパターン4とグランドパターン5−2と電源供給パターン6とに接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、IC(Integrated Circuit)の電源端子で生じるノイズの抑制を図るノイズ対策構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高機能化に伴い、使用する多層回路基板におけるデータ処理速度の高速化が進んでいる。
しかし、この高速化に伴って、不要放射ノイズが問題となり、多層回路基板のディジタル回路の設計においては、特別なノイズ対策構造が必要となってきている。
ノイズ対策構造で用いる部品、例えばバイパスコンデンサは、ICを搭載する多層回路基板において、ICの動作により電源端子に発生する高周波電流をグランドへと帰還させる役割を果たす。これにより、高周波電流が基板全体に伝搬することで引き起こす不要放射ノイズを低減している。
しかしながら、ノイズ対策構造に、十分なノイズ対策効果を発揮させるためには、バイパスコンデンサの配置が重要であり、配置方法によっては、十分なノイズ対策効果が得られない場合がある。
このため、従来は、ディジタル機器におけるICの電源経路においては、2端子コンデンサを複数個並列に配置して接続したり、また、ノイズ源であるICの電源端子を接続する電源パターンと外部電源に接続される電源供給パターンとを空間的に分離し、3端子コンデンサをこれらのパターン間に配置して接続することにより、十分なノイズ対策効果を得ようとしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−297963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のノイズ対策構造では、バイパスコンデンサである2端子コンデンサや3端子コンデンサを、多層回路基板の表面や裏面に実装するため、数多くのパターンやビアホールを引き回す必要があり、この結果、多層回路基板のインピーダンスが高くなって、ノイズ対策効果を十分に発揮することができないという問題がある。
また、従来のノイズ対策構造では、物理的に接続された電源パターンを流れる高周波電流をグランドへ帰還させることは可能であるが、電源パターンと電源供給パターンとが近接するため、電源パターンと電源供給パターン間の電磁気的結合によって、高周波電流が多層回路基板全体に伝搬して、不要放射ノイズが生じ、これを防止することができないという問題がある。
【0005】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、基板のインピーダンスを低減させ、しかも、電源パターンと電源供給パターン間の電磁気的結合による高周波電流の発生を防止することにより、不要放射ノイズを抑制したノイズ対策構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明に係るノイズ対策構造は、多層回路基板の表面に実装されるICの電源端子が第1のビアホールを介して接続される第1の電源パターンとICのグランド端子が第2のビアホールを介して接続される第1のグランドパターンとを、多層回路基板の上層に並設し、第1の電源パターンの真下に位置する第2のグランドパターンと第1のグランドパターンの真下に位置する電源供給パターンとを、多層回路基板の下層に並設し、第1の3端子コンデンサを、多層回路基板の上層と下層との間に介在させ、第1の3端子コンデンサ内部の貫通電極の一方端に接続された第1の外部電極を第1の電源パターンに接続すると共に、貫通電極の他方端に接続された第2の外部電極を電源供給パターンに接続し、且つ、第1の3端子コンデンサ内部のグランド電極の一方端に接続された第3の外部電極を第1のグランドパターンに接続すると共に、グランド電極の他方端に接続された第4の外部電極を第2のグランドパターンに接続した構成とする。
かかる構成により、電源端子を、多層回路基板の第1のビアホールに接続すると共に、グランド端子を第2のビアホールに接続して、ICを多層回路基板に実装した状態で、外部の電源を電源供給パターンに供給すると、電源は、第1の3端子コンデンサの第2の外部電極から貫通電極を通じて第1の外部電極に至る。そして、電源は、第1の外部電極から第1の電源パターンに出力され、第1のビアホールを介して、ICの電源端子に供給される。
また、ICの電源端子に高周波電流が発生すると、高周波電流は、第1のビアホールを介して第1の電源パターンに至り、第1の3端子コンデンサの第1の外部電極から貫通電極内に流入する。そして、グランド電極を通じて、第3の外部電極から第1のグランドパターンに出力されると共に第4の外部電極から第2のグランドパターンに出力される。
すなわち、不要放射ノイズの原因となる高周波電流が、低ESL(等価直列インダクタンス)の第1の3端子コンデンサを必ず通って第1及び第2のグランドパターンに出力される構造であるので、第1の電源パターンから第1及び第2のグランドパターンまでのインピーダンスを低くすることができる。しかも、上層と下層との間に介在する低ESLの第1の3端子コンデンサを、第1の電源パターンと第1及び第2のグランドパターンとに直接接続した構造であるので、3端子コンデンサを多層回路基板の表面又は裏面に配し、パターンやビアホールを引き回す従来のノイズ対策構造に比べて、インピーダンスを極めて低く抑えることができる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のノイズ対策構造において、電源端子とは別の電源端子が第3のビアホールを介して接続される第2の電源パターンを、第1の電源パターンとは第1のグランドパターンに関して逆側に並設し、第2の電源パターンの真下に位置する第3のグランドパターンを、第2のグランドパターンとは電源供給パターンに関して逆側に並設し、第1の3端子コンデンサと同構造の第2の3端子コンデンサを、上層と下層との間に介在させ、第2の3端子コンデンサ内部の貫通電極の一方端に接続された第1の外部電極を第2の電源パターンに接続すると共に、貫通電極の他方端に接続された第2の外部電極を電源供給パターンに接続し、且つ、第2の3端子コンデンサ内部のグランド電極の一方端に接続された第3の外部電極を第1のグランドパターンに接続すると共に、グランド電極の他方端に接続された第4の外部電極を第3のグランドパターンに接続した構成とする。
かかる構成により、電源端子を、多層回路基板の第1のビアホール及び第3のビアホールに接続すると共に、グランド端子を第2のビアホールに接続して、ICを多層回路基板に実装した状態で、外部の電源を電源供給パターンに供給すると、電源は、第1及び第2の3端子コンデンサのそれぞれの第2の外部電極から貫通電極を通じてそれぞれの第1の外部電極に至る。そして、電源は、第1の3端子コンデンサの第1の外部電極から第1の電源パターンに出力され、第2の3端子コンデンサの第1の外部電極から第2の電源パターンに出力される。そして、電源が、第1及び第2の電源パターンから第1及び第3のビアホールを介して、ICのそれぞれの電源端子に供給される。
また、ICの各電源端子に高周波電流が発生すると、高周波電流は、第1のビアホールを介して第1の電源パターンに至り、第3のビアホールを介して第2の電源パターンに至る。そして、第1の電源パターンから第1の3端子コンデンサの貫通極内に流入すると共に、第2の電源パターンから第2の3端子コンデンサの貫通電極内に流入する。すると、第1の3端子コンデンサのグランド電極を通じて、第3の外部電極から第1のグランドパターンに出力されると共に第4の外部電極から第2のグランドパターンに出力される。また、第2の3端子コンデンサのグランド電極を通じて、第3の外部電極から第1のグランドパターンに出力されると共に第4の外部電極から第3のグランドパターンに出力される。
このとき、第1の3端子コンデンサの第3の外部電極からの高周波電流と、第2の3端子コンデンサの第3の外部電極からの高周波電流とが、共に第1のグランドパターンに出力され、第1のグランドパターン上で互いに向かい合う。この結果、第1の3端子コンデンサからの高周波電流による磁界と第2の3端子コンデンサからの高周波電流による磁界とが互いに打ち消し合い、第1のグランドパターンの部分のインピーダンスが低下する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のノイズ対策構造において、第1及び第2の3端子コンデンサは、4つの角部を有した直方体形状を成し、第1の外部電極と第2の外部電極とは、4つの角部のうち、第1の3端子コンデンサの対角線上で対向する2つの角部にそれぞれ設けられ、第3の外部電極と第4の外部電極とは、第1の3端子コンデンサの他の対角線上で対向する2つの角部にそれぞれ設けられている構成とした。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のノイズ対策構造において、第1の電源パターン及び第2の電源パターンは、多層回路基板の上下方向から見て電源供給パターンと重ならないように、電源供給パターンから離れている構成とした。
かかる構成により、第1の電源パターン及び第2の電源パターンが、電源供給パターンと重ならないように、電源供給パターンから離れているので、第1及び第2の電源パターン上に現れた高周波電流による電源供給パターンへの磁気的結合が防止される。この結果、高周波電流によるノイズが電源供給パターンに誘導される事態を防止することができ、この結果、ノイズの多層回路基板全体への伝搬を防止することができる。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のノイズ対策構造において、多層回路基板の上下方向から見て第1の電源パターン及び第2の電源パターンと電源供給パターンとが重なる部分の間に、所定のグランドパターンを介在させた構成とする。
かかる構成により、第1及び第2の電源パターン上に現れた高周波電流による電源供給パターンへの磁気的結合が、所定のグランドパターンによって遮断される。
【発明の効果】
【0011】
以上詳しく説明したように、この発明のノイズ対策構造によれば、低ESLの第1の3端子コンデンサを多層回路基板の上層と下層との間に介在させて、第1の電源パターンと第1及び第2のグランドパターンと電源供給パターンとに直接接続したので、3端子コンデンサを多層回路基板の表面又は裏面に配し、パターンやビアホールを引き回す従来のノイズ対策構造に比べて、第1の電源パターンから第1及び第2のグランドパターンや電源供給パターンまでのインピーダンスを低く抑えることができ、この結果、不要放射ノイズの発生を抑制することができるという効果がある。
特に、請求項2の発明によれば、第1のグランドパターンを第1及び第2の3端子コンデンサの共通グランドとすることにより、第1のグランドパターン上を流れる高周波電流の磁気的相殺作用によって、第1のグランドパターンの部分のインピーダンスを低下させることができるので、不要放射ノイズ発生防止効果をさらに高めることができるという効果がある。
また、請求項4及び請求項5の発明によれば、第1及び第2の電源パターン上に現れた高周波電流による電源供給パターンへの磁気的結合を防止して、ノイズの多層回路基板全体への伝搬を防止することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の第1実施例に係るノイズ対策構造を示す斜視図である。
【図2】ノイズ対策構造の断面図である。
【図3】外部電極を分離し内部を透過して示す3端子コンデンサの斜視図である。
【図4】ノイズ対策構造の作用及び効果を説明するための概略断面図である。
【図5】この発明の第2実施例に係るノイズ対策構造を示す斜視図である。
【図6】ノイズ対策構造の断面図である。
【図7】ノイズ対策構造の作用及び効果を説明するための概略断面図である。
【図8】この実施例のノイズ対策構造との比較実験対象を示す斜視図である。
【図9】シミュレーションの結果を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、この発明の第1実施例に係るノイズ対策構造を示す斜視図であり、図2は、ノイズ対策構造の断面図である。
図1及び図2において、符号10は、ICであり、この実施例のノイズ対策構造1は、このIC10が実装される多層回路基板2に構築されている。
なお、ICは、多数の電源端子やグランド端子及び信号端子等を有するが、この実施例では、理解を容易にするため、電源端子11とグランド端子12だけをIC10に表示して説明する。
【0015】
ノイズ対策構造1は、第1の電源パターンとしての電源パターン3と、第1のグランドパターンとしてのグランドパターン4と、第2のグランドパターンとしてのグランドパターン5と、電源供給パターン6と、第1の3端子コンデンサとしての3端子コンデンサ7とを備えている。
【0016】
電源パターン3とグランドパターン4とは、多層回路基板2の上層21に並設された導体パターンである。
電源パターン3は、図の右側に位置し、第1のビアホールとしてのビアホール32を通じて、多層回路基板2の表面2aのランド31に接続されている。
一方、グランドパターン4は、電源パターン3の左側に並設され、第2のビアホールとしてのビアホール42を通じて表面2aのランド41に接続されている。
これにより、IC10の電源端子11とグランド端子12とをランド31,41に実装することで、電源端子11,グランド端子12と電源パターン3,グランドパターン4との電気的接続が図られるようになっている。
【0017】
グランドパターン5と電源供給パターン6とは、多層回路基板2の下層22に並設された導体パターンである。
グランドパターン5は、電源パターン3の真下に位置し、ビアホール51を通じて多層回路基板2の裏面2bに設けられたグランド100に接続されている。
一方、電源供給パターン6は、グランドパターン4の真下に位置し、3端子コンデンサ7を通じて電源パターン3に電気的に接続されている。
この電源供給パターン6は、多層回路基板2の上下方向(図の上下方向)から見て電源パターン3と重ならないよう配されている。具体的には、図1に示すように、電源供給パターン6と電源パターン3とを下層22,上層21とに分離し、下側の電源供給パターン6を、上側の電源パターン3から左側に距離dだけ離して、電源供給パターン6と電源パターン3とが対向しないようにしている。
【0018】
3端子コンデンサ7は、多層回路基板2の上層21と下層との間に介設されている。
図3は、外部電極を分離し内部を透過して示す3端子コンデンサ7の斜視図である。
図3に示すように、3端子コンデンサ7は、絶縁性素体70と4つ外部電極71〜74とで構成されている。
具体的は、3端子コンデンサ7は、貫通型の3端子コンデンサであり、4つの角部70a〜70dを有した直方体形状を成す。
第1の外部電極としての外部電極71と第2の外部電極としての外部電極72とは、この直方体形状の絶縁性素体70の対角線上で対向する2つの角部70a,70bにそれぞれ形成されている。また、第3の外部電極としての外部電極73と第4の外部電極としての外部電極74とは、絶縁性素体70の他の対角線上で対向する2つの角部70c,70cにそれぞれ形成されている。
このような外部電極71〜74が設けられる絶縁性素体70の内部には、貫通電極7Aとグランド電極7Bとが形成されている。詳しくは、貫通電極7Aは、角部70a,70bに渡って形成され、その両端が外部電極71,72にそれぞれ接続されている。また、グランド電極7Bは、角部70c,70dに渡って形成され、その両端が外部電極73,74にそれぞれ接続されている。
【0019】
かかる構造の3端子コンデンサ7は、図1及び図2に示すように、電源パターン3,グランドパターン4,5及び電源供給パターン6に接続されている。
すなわち、貫通電極7A(図3参照)の両端に接続された外部電極71,72が電源パターン3,電源供給パターン6にそれぞれ接続され、グランド電極7B(図3参照)の両端に接続された外部電極73,74がグランドパターン4,5に接続されている。
これにより、電源供給パターン6が、3端子コンデンサ7の貫通電極7Aを通じて電源パターン3に接続され、さらに、ビアホール32及びランド31を通じてIC10の電源端子11に接続される状態になる。
また、グランドパターン4は、3端子コンデンサ7のグランド電極7Bを通じてグランドパターン5に接続されると共に、ビアホール42及びランド41を通じてIC10のグランド端子12に接続されるようになっている。
【0020】
次に、この実施例のノイズ対策構造1が示す作用及び効果について説明する。
図4は、ノイズ対策構造1の作用及び効果を説明するための概略断面図である。
この実施例のノイズ対策構造1は、電気回路的には、図4に示すような回路になる。
図4に示すように、IC10の電源端子11を、多層回路基板2のビアホール32に接続すると共に、グランド端子12をビアホール42に接続することで、IC10を多層回路基板2に実装することができる。
かかる状態で、図示しない外部電源からの電源電圧を、ノイズ対策構造1の電源供給パターン6に供給すると、電源電圧は、3端子コンデンサ7の外部電極72から貫通電極7Aを通じて外部電極71(図2参照)に至る。そして、電源電圧は、外部電極71から電源パターン3に出力され、ビアホール32及びランド31を通じて、IC10の電源端子11に供給される。
【0021】
ところで、上記電源供給によって、IC10は動作するが、内部で高速のスイッチング動作等を行うと、その高周波電流Iが電源端子11に発生する。この高周波電流Iの時間的変化は、経路のインダクタンスに比例した電圧変動を発生させ、電源に悪影響を与えると共に、不要放射ノイズの原因となる。
しかし、この実施例のノイズ対策構造1では、3端子コンデンサ7を電源パターン3及びグランドパターン4とグランドパターン5及び電源供給パターン6との間に介在させて直接接続した構造をとっている。
したがって、IC10の電源端子11で発生した高周波電流Iは、矢印で示すように、ランド31,ビアホール32を介して電源パターン3に至り、3端子コンデンサ7の外部電極71(図2参照)から貫通電極7A内に流入する。そして、高周波電流Iは、グランド電極7Bを通じて、外部電極73(図2参照)からグランドパターン4に出力されると共に外部電極74(図2参照)からグランドパターン5に出力される。最終的に、グランド100に排出される。
このように、電源端子11で発生した高周波電流Iは、必ず3端子コンデンサ7に流入し、3端子コンデンサ7によってグランドパターン4,5に流出されるようになっている。しかも、バイパスコンデンサとして、低ESL(等価直列インダクタンス)の3端子コンデンサ7を使用しているので、電圧変動の大きさを決定する電源パターン3からグランドパターン4,5までのインダクタンスを低くすることができるので、その分、インピーダンスが低くなり、不要放射ノイズを効果的に抑制することができる。
また、低ESLの3端子コンデンサ7を、電源パターン3及びグランドパターン4とグランドパターン5及び電源供給パターン6との間に介在させて直接接続した構造であるので、3端子コンデンサを多層回路基板の表面又は裏面に配し、パターンやビアホールを引き回す従来のノイズ対策構造1に比べて、インピーダンスを極めて低く抑えることができる。
また、電源端子11からの高周波電流Iが電源パターン3を流れると、電源供給パターン6と磁気的に結合し、電源供給パターン6に高周波電流Iに対応したノイズ電流を誘起させるおそれがある。しかし、この実施例では、電源供給パターン6と電源パターン3とをそれぞれ下層22,上層21に配して空間的に分離し、しかも、下側の電源供給パターン6を、上側の電源パターン3から左側に距離dだけ離して配しているので(図1参照)、電源パターン3上に現れた高周波電流Iによって、電源パターン3と電源供給パターン6とが磁気的に結合する事態は生ぜず、ノイズ電流が電源供給パターン6に誘導されることはない。
【実施例2】
【0022】
次に、この発明の第2実施例について説明する。
図5は、この発明の第2実施例に係るノイズ対策構造を示す斜視図であり、図6は、ノイズ対策構造の断面図である。
この実施例のノイズ対策構造1′は、図5及び図6に示すように、同電位の電源端子11,13への2つの電源経路が電源供給パターン6で1つに束ねられた構成をとっている点が、上記第1実施例と異なる。
【0023】
具体的には、第2の電源パターンである図中左側の電源パターン3(以下、「3−2」と付す)が、多層回路基板2の上層21上において、右側の電源パターン3(以下、「3−1」と付す)とはグランドパターン4に関して逆側に並設されている。
そして、IC10の電源端子11とは別の電源端子13を接続するためのランド33が、多層回路基板2の表面2aに並設され、電源パターン3−2が、ビアホール34を介してこのランド33に接続されている。
この電源パターン3−2も電源パターン3−1と同様に、多層回路基板2の上下方向から見て電源供給パターン6と重ならないように、電源供給パターン6と空間的に分離され、電源供給パターン6からdだけ離れるように配されている。
【0024】
また、下層22上においては、電源パターン3−2の真下に位置する第3のグランドパターンとしてのグランドパターン5(以下、「5−2」と付す)が並設されている。すなわち、グランドパターン5−2は、右側のグランドパターン5(以下、「5−1」と付す)とは電源供給パターン6に関して逆側に並設され、ビアホール51を介してグランド100に接続されている。
【0025】
このような電源パターン3−2及びグランドパターン4とグランドパターン5−2及び電源供給パターン6との間に、第2の3端子コンデンサとしての3端子コンデンサ7(以下、「7−2」と付す)が接続されている。
この3端子コンデンサ7−2は、図3に示した3端子コンデンサ7(以下、「7−1」と付す)と同構造であり、3端子コンデンサ7−1と同じく、上層21と下層22との間に介在している。具体的には、3端子コンデンサ7−2の貫通電極7Aの両端の外部電極71,72(図2及び図3参照)が電源パターン3−2,電源供給パターン6に接続されると共に、グランド電極7Bの両端の外部電極73,74(図2及び図3参照)がグランドパターン4,グランドパターン5−2に接続されている。
【0026】
すなわち、この実施例のノイズ対策構造1′は、IC10の電源端子11,ランド31,ビアホール32,電源パターン3−1及び3端子コンデンサ7−1の電源経路と、電源端子13,ランド33,ビアホール34,電源パターン3−2及び3端子コンデンサ7−2の電源経路とを、電源供給パターン6で1つに束ね、1つのグランドパターン4を2つの3端子コンデンサ7−1,7−2の共通のグランドとしている。
【0027】
次に、この実施例のノイズ対策構造1が示す作用及び効果について説明する。
図7は、ノイズ対策構造1′の作用及び効果を説明するための概略断面図である。
電源端子11,13及びグランド端子12を、ランド31,33,41に接続することで、IC10を多層回路基板2に実装することができる。
かかる実装状態で、図示しない外部電源の電源電圧を電源供給パターン6に供給すると、電源電圧は、3端子コンデンサ7−1,電源パターン3−1,ビアホール32及びランド31の経路を通じて、電源端子11に供給されると共に、3端子コンデンサ7−2,電源パターン3−2,ビアホール34及びランド33の経路を通じて、グランド端子13に供給される。
【0028】
また、IC10の電源端子11,13に高周波電流I,Iが発生すると、矢印で示すように、高周波電流I,Iは、ビアホール32,34を介して電源パターン3−1,3−2に至り、3端子コンデンサ7−1,7−2の貫通電極7A,7Aに流入する。
すると、3端子コンデンサ7−1に流入した高周波電流Iは、グランド電極7Bを通じて、グランドパターン4とグランドパターン5−1に出力され、端子コンデンサ7−2に流入した高周波電流Iは、グランド電極7Bを通じて、グランドパターン4とグランドパターン5−2に出力される。
したがって、3端子コンデンサ7−1からグランドパターン4に流入した高周波電流Iと3端子コンデンサ7−2からグランドパターン4に流入した高周波電流Iとは、互いに向かい合った状態になる。このため、3端子コンデンサ7−1からの高周波電流Iによる磁界と3端子コンデンサ7−2からの高周波電流Iによる磁界とが互いに打ち消し合うこととなり、高周波電流I,Iに対するグランドパターン4の部分のインピーダンスが低下する。この結果、ノイズに対する基板の影響が小さくなり、3端子コンデンサ7−1,7−2によるノイズ除去効果が十分に発揮される。
【0029】
発明者は、かかる高周波電流I,Iの磁気的相殺作用によるノイズ除去効果を確認すべく、次のようなシミュレーションを行った。
図8は、この実施例のノイズ対策構造との比較実験対象を示す斜視図であり、図9は、シミュレーションの結果を示す線図である。
このシミュレーションでは、まず、図5に示したノイズ対策構造1′を想定し、電源端子11,13に100MHz〜3GHzの高周波電流Iを発生させ、高周波電流Iが、電源端子11,13から電源供給パターン6に至る際の挿入損失(dB)を計算した。
すると、図9の曲線S1で示すように、挿入損失は、高周波電流Iの周波数にほぼ比例した。
次に、図8に示すように、2つの3端子コンデンサ7−1,7−2を、右側の電源パターン3−1及びグランドパターン4とグランドパターン5−1及び電源供給パターン6とにのみ並列に接続し、上記と同様に、電源端子11に100MHz〜3GHzの高周波電流Iを発生させ、高周波電流Iが、電源端子11から電源供給パターン6に至る際の挿入損失(dB)を計算した。
すると、図9の曲線S2で示すように、挿入損失は、高周波電流Iの周波数にほぼ比例するが、上記シミュレーションの場合よりも、低くなった。
すなわち、図9の曲線S1,S2から明らかなように、3端子コンデンサ7−1を右側の電源パターン3−1及びグランドパターン4とグランドパターン5−1及び電源供給パターン6とに実装するだけでなく、左側の電源パターン3−2及びグランドパターン4とグランドパターン5−2及び電源供給パターン6とに実装したノイズ対策構造1′の方が、挿入損失が大きくなり、高周波電流Iを3端子コンデンサ7−1,7−2によって十分に抑制していることが判る。すなわち、3端子コンデンサ7−1からグランドパターン4に流入した高周波電流Iと3端子コンデンサ7−2からグランドパターン4に流入した高周波電流Iとの磁気的相殺作用が働き、高周波電流I,Iが効率的にグランドパターン4に流入して、電源端子11,13から電源供給パターン6へのノイズ電流の流出が確実に阻止されていることが確認された。
【0030】
なお、この実施例においても、電源パターン3−1,3−2が、電源供給パターン6と重ならないように、離れているので、電源パターン3−1,3−2上に現れた高周波電流I,Iによる電源供給パターン6への磁気的結合が防止される。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【0031】
なお、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
例えば、上記実施例では、電源パターン3−1,3−2が、電源供給パターン6と重ならないように、離して、電源パターン3−1,3−2上に現れた高周波電流I,Iによる電源供給パターン6への磁気的結合を防止するようにしたが、電源パターン3−1,3−2が、電源供給パターン6と重なった場合には、少なくとも、電源パターン3−1,3−2と電源供給パターン6との重なる部分の間に、所定のグランドパターンを介在させて、電源パターン3−1,3−2上に現れた高周波電流I,Iによる電源供給パターン6への磁気的結合を遮断するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1,1′…ノイズ対策構造、 2…多層回路基板、 2a…表面、 2b…裏面、 3,3−1,3−2…電源パターン、 4,5,5−1,5−2…グランドパターン、 6…電源供給パターン、 7,7−1,7−2…3端子コンデンサ、 7A…貫通電極、 7B…グランド電極、 11,13…電源端子、 12…グランド端子、 21…上層、 22…下層、 31,33,41…ランド、 32,34,42,51…ビアホール、 70…絶縁性素体、 70a〜70d…角部、 71〜74…外部電極、 100…グランド、 I…高周波電流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層回路基板の表面に実装されるICの電源端子が第1のビアホールを介して接続される第1の電源パターンとICのグランド端子が第2のビアホールを介して接続される第1のグランドパターンとを、上記多層回路基板の上層に並設し、
上記第1の電源パターンの真下に位置する第2のグランドパターンと上記第1のグランドパターンの真下に位置する電源供給パターンとを、上記多層回路基板の下層に並設し、
第1の3端子コンデンサを、上記多層回路基板の上層と下層との間に介在させ、第1の3端子コンデンサ内部の貫通電極の一方端に接続された第1の外部電極を上記第1の電源パターンに接続すると共に、貫通電極の他方端に接続された第2の外部電極を上記電源供給パターンに接続し、且つ、第1の3端子コンデンサ内部のグランド電極の一方端に接続された第3の外部電極を上記第1のグランドパターンに接続すると共に、グランド電極の他方端に接続された第4の外部電極を上記第2のグランドパターンに接続した、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項2】
請求項1に記載のノイズ対策構造において、
上記電源端子とは別の電源端子が第3のビアホールを介して接続される第2の電源パターンを、上記第1の電源パターンとは上記第1のグランドパターンに関して逆側に並設し、
上記第2の電源パターンの真下に位置する第3のグランドパターンを、上記第2のグランドパターンとは上記電源供給パターンに関して逆側に並設し、
上記第1の3端子コンデンサと同構造の第2の3端子コンデンサを、上記上層と下層との間に介在させ、当該第2の3端子コンデンサ内部の貫通電極の一方端に接続された第1の外部電極を上記第2の電源パターンに接続すると共に、貫通電極の他方端に接続された第2の外部電極を上記電源供給パターンに接続し、且つ、第2の3端子コンデンサ内部のグランド電極の一方端に接続された第3の外部電極を上記第1のグランドパターンに接続すると共に、グランド電極の他方端に接続された第4の外部電極を上記第3のグランドパターンに接続した、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のノイズ対策構造において、
上記第1及び第2の3端子コンデンサは、4つの角部を有した直方体形状を成し、
上記第1の外部電極と第2の外部電極とは、上記4つの角部のうち、第1の3端子コンデンサの対角線上で対向する2つの角部にそれぞれ設けられ、
上記第3の外部電極と第4の外部電極とは、第1の3端子コンデンサの他の対角線上で対向する2つの角部にそれぞれ設けられている、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のノイズ対策構造において、
上記第1の電源パターン及び上記第2の電源パターンは、多層回路基板の上下方向から見て上記電源供給パターンと重ならないように、電源供給パターンから離れている、
ことを特徴とするノイズ対策構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のノイズ対策構造において、
多層回路基板の上下方向から見て上記第1の電源パターン及び上記第2の電源パターンと上記電源供給パターンとが重なる部分の間に、所定のグランドパターンを介在させた
ことを特徴とするノイズ対策構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−146454(P2011−146454A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4616(P2010−4616)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】