ノイズ除去方法及びパルスフォトメータ
【課題】アーチファクトには体動によるもの、静脈によるもの、組織によるもの等があるので、それぞれに特有のアーチファクトに基づくφで回転させて、それぞれに固有のアーチファクトを最小にするノイズ除去方法及び、そのノイズ除去方法を適用したパルスフォトメータを実現する。
【解決手段】異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップとを含むことを特徴とする離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【解決手段】異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップとを含むことを特徴とする離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処理して共通の信号成分を抽出する信号処理に関し、特には医療の分野において、特に循環器系の診断に用いられるパルスフォトメータにおける信号処理の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号から信号成分と雑音成分に分離する方法には様々な方法が提案されている。
それらは、一般的には周波数領域や時間領域による処理が行われている。
医療現場でも、光電脈波計と言われる脈波波形や脈拍数を測定する装置、血液に含まれる吸光物質の濃度測定として、酸素飽和度SpO2の測定装置、一酸化炭素ヘモグロビンやMetヘモグロビン等の特殊ヘモグロビンの濃度の測定装置、注入色素濃度の測定装置などがパルスフォトメータとして知られている。
中でも酸素飽和度SpO2の測定装置を特にパルスオキシメータと呼んでいる。
【0003】
パルスフォトメータの原理は、対象物質への吸光性が異なる複数の波長の光を生体組織に透過又は反射させ、その透過光又は反射光の光量を連続的に測定することで得られる脈波データ信号から対象物質の濃度を求めるものである。
そしてその脈波データに雑音が混入すると、正しい濃度の計算が出来ず、誤処置につながる危険が生じる。
パルスフォトメータにおいても従来より雑音を低減するために周波数帯域を分割して信号成分に着目したり、2つの信号の相関を取るなどの方法が提案されてきた。
しかし、これらの方法は解析に時間がかかるなどの問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、特許第3270917号(特許文献1)において、異なる2つの波長の光を生体組織に照射して透過光から得られる2つの脈波信号のそれぞれの大きさを縦軸、横軸としてグラフを描き、その回帰直線を求め、その回帰直線の傾きに基づいて、動脈血中の酸素飽和度ないし吸光物質濃度を求めることを提案している。
この発明により、測定精度を高め、低消費電力化することができた。
しかし、各波長の脈波信号についての多くのサンプリングデータを用いて回帰直線ないしその傾きを求めるためには、なお多くの計算処理を要していた。
【0005】
また、本出願人は、特許第3924636号(特許文献2)においては、周波数解析を用いてはいるが、その解析においては従来技術のように脈波信号そのものを抽出するのではなく、脈波信号の基本周波数を求め、さらには精度を高めるためにその高調波周波数を用いたフィルタを用いて脈波信号をフィルタリングする方法を提案している。
【0006】
本出願人は、更に、基本周波数を求める点に関しては更なる改善策として、特許第4352315号(特許文献3)において、同一の媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処理して共通の信号成分を抽出する計算処理負担を軽減した信号処理方法を提供している。
【0007】
次に、上記特許文献3の内容について説明する。
特許文献3に記載の発明の実施の形態を説明するにあたり、動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータを例に挙げて原理を説明する。
なお、特許文献3に記載の発明の技術は、パルスオキシメータに限られず、特殊ヘモグロビン(一酸化炭素ヘモグロビン、Metヘモグロビンなど)、血中に注入された色素などの血中吸光物質をパルスフォトメトリーの原理を用いて測定する装置(パルスフォトメータ)に適用できる。
【0008】
動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータの構成は、概略構成ブロック図である図8のようになっている。
異なる波長の光を発光する発光素子1、2は、交互に発光するように駆動回路3により駆動される。
発光素子1、2に採用する光はそれぞれ動脈血酸素飽和度による影響が少ない赤外光(例えば940[nm])、動脈血酸素飽和度の変化に対する感度が高い赤色光(例えば660[nm])がよい。
【0009】
これらの発光素子1、2からの発光は生体組織4を透過してフォトダイオード5で受光して電気信号に変換される。
なお、反射光を受光するようにしてもよい。
そして、これらの変換された信号は増幅器6で増幅され、マルチプレクサ7によりそれぞれの光波長に対応したフィルタ8−1、8−2に振り分けられる。
各フィルターに振り分けられた信号はフィルタ8−1、8−2によりフィルタリングされてノイズ成分が低減され、A/D変換器9によりデジタル化される。
【0010】
デジタル化された赤外光、赤色光に対応する各信号列が、それぞれの脈波信号を形成している。
デジタル化された各信号列は処理部10に入力され、ROM12に格納されているプログラムにより処理され、酸素飽和度SpO2が測定され、その値が表示部11に表示される。
【0011】
<回転行列によるノイズ低減と脈波の基本周波数の演算>
先ず、血液中の吸光物質の吸光度(減光度)の変動の測定について説明する。
図14(a)及び(b)は、前記発光素子1、2からの発光された光が生体組織4を透過してフォトダイオード5で受光して電気信号に変換された脈波データで、(a)は赤色光の場合を、(b)は赤外光を示している。
図14の(a)では、横軸を時間、縦軸を受光出力とすると、フォトダイオード5での受光出力は、赤色光の直流成分(R’)と脈動成分(ΔR’)が重畳された波形となっている。
また、図14の(b)では、横軸を時間、縦軸を受光出力とすると、フォトダイオード5での受光出力は、赤外光の直流成分(IR’)と脈動成分(ΔIR’)が重畳された波形となっている。
図9は、図14に示すような脈波において、8秒間分の、直流成分(R’、IR’)に対する脈動成分(ΔR’、ΔIR’)の比(IR=ΔIR’/IR’)をとり、さらにその8秒間分のデータの平均値をゼロに合わせたものである。
なお、図9の如き、平均値をゼロとする処理を行わなくとも演算は可能である。
図10は、図14に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にとったグラフである。
【0012】
次に、A/D変換器9によってデジタル化した各波長の2つの脈波データ信号を回転行列を用いてノイズを低減する演算処理について説明する。
なお、赤外光と赤色光とは交互に発光されるため厳密には同時に発光されるものではないが、隣り合う得られた赤外光受光値と赤色光受光値を同時刻に得られたものとして扱い、所定時間分の赤外光の脈波信号と赤色光の脈波信号を2次元直交座標上に展開する。
すなわち図10のグラフを作成している。
また、脈波の直流成分に対する脈動成分の比をとることで脈拍による吸光度の脈動分が近似される。
図10のグラフに見られる推移は45度になっていないが、その理由は、赤外光脈波の脈動成分の振幅と赤色光脈波の脈動成分の振幅とに差があるため、およびノイズが重畳しているためである。
【0013】
次に、展開された脈波データに回転行列を用いて回転演算を施すこととする。
赤外光脈波の直流成分に対する脈動成分の比(IR)のデータ列を、
【0014】
【数1】
【0015】
赤色光脈波の直流成分に対する脈動成分の比(R)のデータ列を、
【0016】
【数2】
【0017】
とする。
同じ時刻tiに得られたIRとRとのデータを次のように行列で定義する。
すなわち、
【0018】
【数3】
【0019】
また、θ[rad]回転させる回転行列をAとすると、Aは次のように表すことができる。
【0020】
【数4】
【0021】
そうすると、SをAによりθ[rad]回転させることにより次のXが得られる。
【0022】
【数5】
【0023】
なお、回転行列Aは、上記のほか、
【0024】
【数6】
【0025】
を用いてもよい。
ここで、θを0〜9π/30[rad] までπ/30[rad]ずつ脈波データSを回転させて得られるグラフを図11に示す。
図11からわかるように、横軸ゼロ、縦軸ゼロの点(赤色光脈波と赤外光脈波との両方が平均である点)を中心として回転されており、θが9π/30[rad]のときに、横軸(X1)へ射影した領域が最小になり、縦軸(X2)へ射影した領域が最大となっている。
θを9π/30[rad]よりさらにπ/2[rad]回転させ24π/30[rad] (=12π/15[rad])回転させた場合には横軸(X1)へ射影した領域が最大になり、縦軸(X2)へ射影した領域が最小となることは明らかである。
【0026】
次に、θを9π/30[rad]、24π/30[rad]としたときの回転行列Aにより、測定された脈波データSが処理されてXとなった結果、どのような波形となるかを説明する。
図12は、図9に示した脈波データSを、θを9π/30[rad]として回転行列Aにより処理したXの波形を示す。
横軸へ射影した領域が最小になったX1(t i)は、
【0027】
【数7】
【0028】
一方、横軸へ射影した領域が最大になったX2(t i)は、
【0029】
【数8】
【0030】
により演算される。
図12のX1の波形からはノイズが除去されたことがわかる。
なお、脈波データSを、θを24π/30[rad]として回転行列Aにより処理した場合には、X2の波形がノイズが除去された波形となる。
横軸へ射影した領域が最大になるX1(t i)は、
【0031】
【数9】
【0032】
一方、横軸へ射影した領域が最小になるX2(t i)は、
【0033】
【数10】
【0034】
により演算される。
このように横軸へ射影した領域が最小になるように回転角θを設定して、脈波データSを処理すれば、ノイズが抑制された脈波主成分波形を得ることができる。
【0035】
次に、脈波の基本周波数の演算について説明する。
ノイズが低減される前の図9に示した脈波信号と、回転行列を用いてノイズが低減された脈波主成分波形を周波数解析して得られたスペクトルをそれぞれ図13に示す。
横軸は周波数、縦軸はスペクトルである。
ノイズが低減される前の脈波(Before-rotation)信号のスペクトルは、ノイズの周波数帯域fnのスペクトルが強くでており、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルはほとんど現れていない。
一方、回転行列を用いてノイズが低減された脈波主成分波形(After-rotation)を周波数解析して得られたスペクトルでは、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルがノイズの周波数帯域fnのスペクトルと区別できるほど強く現れていることがわかり、脈波信号の基本周波数fsを求めることができる。
そして、脈波信号の基本周波数fs[Hz]が求まれば、脈拍数fs×60[回/min]を容易に求めることができる。
【0036】
このように、所定角度の回転行列を用いることにより、ノイズが低減された脈波主成分波形を得ることができ、脈波信号の基本周波数ないし脈拍数を求めることができる。
ここで、所定角度は、予め決められたものでもよく、測定期間中アダプティブに変化させてもよい。
【0037】
<酸素飽和度の演算>
図10は、上述のように図14に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にとったグラフであるが、このグラフの傾きをノルム比を用いて求める。
まず、赤外光脈波データIRのL2ノルムを求める。
赤外光脈波データ列はIR = [IR(ti) : ti = 0, 1, 2, 3, ・・・](1)であるから、L2ノルムは次の式で表すことができる。
【0038】
【数11】
【0039】
次に、赤色光脈波データRのL2ノルムを求める。
赤色光脈波データ列はR = [ R(ti) : ti = 0, 1, 2, 3, ・・・](2)であるから、L2ノルムは次の式で表すことができる。
【0040】
【数12】
【0041】
そこで、
【0042】
【数13】
【0043】
とすればΦは、酸素飽和度SpO2と相関するので、その相関を表す関数をfとすれば、
【0044】
【数14】
【0045】
と表され、酸素飽和度SpO2を求めることができる。
Φは数12に記載の如く比であるが、実際の回転角φはアークタンジェント(ATN)を取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特許第3270917号
【特許文献2】特許第3924636号
【特許文献3】特許第4352315号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0047】
特許文献3に記載の信号処理方法を適用したパルスフォトメータは、
「異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータにおいて、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、あらかじめ決められた角度にまたは所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転させる回転行列を用いて前記離散的時系列脈波データに含まれるノイズを除去処理する第1の処理手段と、を具備することを特徴とするパルスフォトメータ。」であって、アーチファクトを最も減少させる回転角で回転させるものである。
【0048】
本発明の課題は、アーチファクトには体動によるもの、静脈によるもの、組織によるもの等があるので、それぞれに特有のアーチファクトに基づくφで選択的に回転させて、それぞれに固有のアーチファクトを選択的に最小にするノイズ除去方法及び、そのノイズ除去方法を適用したパルスフォトメータを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0049】
上記課題を解決するため、本発明のノイズ除去方法は、異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップとを含むことを特徴とする。
【0050】
また、前記特定のアーチファクトに特有の角度は、それぞれ異なった角度であって、それぞれ異なった角度で複数回に亘って各脈波データの平均値を中心として回転させるステップを含むことを特徴とする。
また、前記特定のアーチファクトに特有の角度は、それぞれ体動によるもの、静脈によるもの、及び組織によるものに特有の角度であることを特徴とする。
【0051】
また、課題を解決するため、本発明のパルスフォトメータは、異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータにおいて、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させて前記離散的時系列脈波データに含まれる特有のノイズ成分を除去処理するノイズ処理手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、アーチファクトには体動によるもの、静脈によるもの、組織によるもの等があるので、それぞれに特有のアーチファクトに基づくφで選択的に回転させて、それぞれに固有のアーチファクトを選択的に最小にするノイズ除去方法及び、そのノイズ除去方法を適用したパルスフォトメータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の説明のための1例である赤外光IR及びRのデータを横軸に時間、縦軸に大きさで表した離散的時系列脈波データのグラフである。
【図2】図1の離散的時系列脈波データをFFT処理した結果を示すスペクトル図である。
【図3】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.6で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図4】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.7で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図5】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.8で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図6】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.9で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図7】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=1.0で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図8】パルスフォトメータの概略構成を示すブロック図である。
【図9】検出された脈波を示す図である。
【図10】図14に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にとったグラフである。
【図11】図10のグラフをπ/30[rad]ずつ回転させた図である。
【図12】回転角度9π/30[rad]の回転行列により処理された脈波の波形を示す図である。
【図13】図12に示すX1の波形のスペクトルを示す図である。
【図14】血液中の吸光物質の吸光度の変動の測定原理を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
次に、図1〜図7を用いて、本発明のアーチファクトには体動によるもの、静脈によるもの、組織によるもの等があるので、それぞれに特有のアーチファクトに基づくφで回転させて、それぞれに固有のアーチファクトを最小にするノイズ除去方法について説明する。
【0055】
図1は、本発明の説明のための1例である赤外光IR(実線)及びR(*印)のデータを横軸に時間、縦軸に大きさで表した離散的時系列脈波データのグラフである。
このグラフは脈波に含まれるノイズ(アーチファクト)の大きさは異なるが、図9のグラフに相当するものである。
【0056】
図2は、図1の離散的時系列脈波データをFFT処理した結果を示すスペクトル図であり、実線はIR、破線はRのスペクトルを示している。
図2では、本発明の作用をより明確に理解するために、脈波にはφ=0.6,φ=0.7,φ=0.8,φ=0.9及びφ=1.0に相当するアーチファクトを含ませている。
図2から、φ=0.6,φ=0.7,φ=0.8,φ=0.9及びφ=1.0に相当する周波数近傍にIR及びR共に大きなアーチファクト成分の存在が見える。
【0057】
図3は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.6で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図3から、5Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは周波数が低い程大きく残っていることが理解できる。
【0058】
図4は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.7で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図4から、4Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは4Hzの両側が低減され周波数が低い程大きく残っていることが理解できる。
【0059】
図5は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.8で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図5から、3Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは3Hzの上下で遠ざかる程大きく残っていることが理解できる。
【0060】
図6は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.9で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図6から、2.5Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは2.5Hzの上下で低減され、遠ざかる程大きくが残っていることが理解できる。
【0061】
図7は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=1.0で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図7から、2Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは2Hzから上に遠ざかる程大きく残っていることが理解できる。
【0062】
図3〜図7の説明では回転角φとして、φ=0.6,φ=0.7,φ=0.8,φ=0.9及びφ=1.0を別々に回転させた例を示しているが、一度回転処理した結果に対して異なった角度で複数回に亘って各脈波データの平均値を中心として回転させることによって、複数のアーチファクトに対応するノイズを除去することも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 発光素子
2 発光素子
3 駆動回路
4 生体組織
5 フォトダイオード
6 変換器
7 マルチプレクサ
8 フィルタ
9 A/D変換器
10 処理部
11 表示部
12 ROM
13 RAM
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処理して共通の信号成分を抽出する信号処理に関し、特には医療の分野において、特に循環器系の診断に用いられるパルスフォトメータにおける信号処理の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの媒体からほぼ同時に抽出された2つの信号から信号成分と雑音成分に分離する方法には様々な方法が提案されている。
それらは、一般的には周波数領域や時間領域による処理が行われている。
医療現場でも、光電脈波計と言われる脈波波形や脈拍数を測定する装置、血液に含まれる吸光物質の濃度測定として、酸素飽和度SpO2の測定装置、一酸化炭素ヘモグロビンやMetヘモグロビン等の特殊ヘモグロビンの濃度の測定装置、注入色素濃度の測定装置などがパルスフォトメータとして知られている。
中でも酸素飽和度SpO2の測定装置を特にパルスオキシメータと呼んでいる。
【0003】
パルスフォトメータの原理は、対象物質への吸光性が異なる複数の波長の光を生体組織に透過又は反射させ、その透過光又は反射光の光量を連続的に測定することで得られる脈波データ信号から対象物質の濃度を求めるものである。
そしてその脈波データに雑音が混入すると、正しい濃度の計算が出来ず、誤処置につながる危険が生じる。
パルスフォトメータにおいても従来より雑音を低減するために周波数帯域を分割して信号成分に着目したり、2つの信号の相関を取るなどの方法が提案されてきた。
しかし、これらの方法は解析に時間がかかるなどの問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、特許第3270917号(特許文献1)において、異なる2つの波長の光を生体組織に照射して透過光から得られる2つの脈波信号のそれぞれの大きさを縦軸、横軸としてグラフを描き、その回帰直線を求め、その回帰直線の傾きに基づいて、動脈血中の酸素飽和度ないし吸光物質濃度を求めることを提案している。
この発明により、測定精度を高め、低消費電力化することができた。
しかし、各波長の脈波信号についての多くのサンプリングデータを用いて回帰直線ないしその傾きを求めるためには、なお多くの計算処理を要していた。
【0005】
また、本出願人は、特許第3924636号(特許文献2)においては、周波数解析を用いてはいるが、その解析においては従来技術のように脈波信号そのものを抽出するのではなく、脈波信号の基本周波数を求め、さらには精度を高めるためにその高調波周波数を用いたフィルタを用いて脈波信号をフィルタリングする方法を提案している。
【0006】
本出願人は、更に、基本周波数を求める点に関しては更なる改善策として、特許第4352315号(特許文献3)において、同一の媒体からほぼ同時に抽出される2つの同種の信号を処理して共通の信号成分を抽出する計算処理負担を軽減した信号処理方法を提供している。
【0007】
次に、上記特許文献3の内容について説明する。
特許文献3に記載の発明の実施の形態を説明するにあたり、動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータを例に挙げて原理を説明する。
なお、特許文献3に記載の発明の技術は、パルスオキシメータに限られず、特殊ヘモグロビン(一酸化炭素ヘモグロビン、Metヘモグロビンなど)、血中に注入された色素などの血中吸光物質をパルスフォトメトリーの原理を用いて測定する装置(パルスフォトメータ)に適用できる。
【0008】
動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメータの構成は、概略構成ブロック図である図8のようになっている。
異なる波長の光を発光する発光素子1、2は、交互に発光するように駆動回路3により駆動される。
発光素子1、2に採用する光はそれぞれ動脈血酸素飽和度による影響が少ない赤外光(例えば940[nm])、動脈血酸素飽和度の変化に対する感度が高い赤色光(例えば660[nm])がよい。
【0009】
これらの発光素子1、2からの発光は生体組織4を透過してフォトダイオード5で受光して電気信号に変換される。
なお、反射光を受光するようにしてもよい。
そして、これらの変換された信号は増幅器6で増幅され、マルチプレクサ7によりそれぞれの光波長に対応したフィルタ8−1、8−2に振り分けられる。
各フィルターに振り分けられた信号はフィルタ8−1、8−2によりフィルタリングされてノイズ成分が低減され、A/D変換器9によりデジタル化される。
【0010】
デジタル化された赤外光、赤色光に対応する各信号列が、それぞれの脈波信号を形成している。
デジタル化された各信号列は処理部10に入力され、ROM12に格納されているプログラムにより処理され、酸素飽和度SpO2が測定され、その値が表示部11に表示される。
【0011】
<回転行列によるノイズ低減と脈波の基本周波数の演算>
先ず、血液中の吸光物質の吸光度(減光度)の変動の測定について説明する。
図14(a)及び(b)は、前記発光素子1、2からの発光された光が生体組織4を透過してフォトダイオード5で受光して電気信号に変換された脈波データで、(a)は赤色光の場合を、(b)は赤外光を示している。
図14の(a)では、横軸を時間、縦軸を受光出力とすると、フォトダイオード5での受光出力は、赤色光の直流成分(R’)と脈動成分(ΔR’)が重畳された波形となっている。
また、図14の(b)では、横軸を時間、縦軸を受光出力とすると、フォトダイオード5での受光出力は、赤外光の直流成分(IR’)と脈動成分(ΔIR’)が重畳された波形となっている。
図9は、図14に示すような脈波において、8秒間分の、直流成分(R’、IR’)に対する脈動成分(ΔR’、ΔIR’)の比(IR=ΔIR’/IR’)をとり、さらにその8秒間分のデータの平均値をゼロに合わせたものである。
なお、図9の如き、平均値をゼロとする処理を行わなくとも演算は可能である。
図10は、図14に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にとったグラフである。
【0012】
次に、A/D変換器9によってデジタル化した各波長の2つの脈波データ信号を回転行列を用いてノイズを低減する演算処理について説明する。
なお、赤外光と赤色光とは交互に発光されるため厳密には同時に発光されるものではないが、隣り合う得られた赤外光受光値と赤色光受光値を同時刻に得られたものとして扱い、所定時間分の赤外光の脈波信号と赤色光の脈波信号を2次元直交座標上に展開する。
すなわち図10のグラフを作成している。
また、脈波の直流成分に対する脈動成分の比をとることで脈拍による吸光度の脈動分が近似される。
図10のグラフに見られる推移は45度になっていないが、その理由は、赤外光脈波の脈動成分の振幅と赤色光脈波の脈動成分の振幅とに差があるため、およびノイズが重畳しているためである。
【0013】
次に、展開された脈波データに回転行列を用いて回転演算を施すこととする。
赤外光脈波の直流成分に対する脈動成分の比(IR)のデータ列を、
【0014】
【数1】
【0015】
赤色光脈波の直流成分に対する脈動成分の比(R)のデータ列を、
【0016】
【数2】
【0017】
とする。
同じ時刻tiに得られたIRとRとのデータを次のように行列で定義する。
すなわち、
【0018】
【数3】
【0019】
また、θ[rad]回転させる回転行列をAとすると、Aは次のように表すことができる。
【0020】
【数4】
【0021】
そうすると、SをAによりθ[rad]回転させることにより次のXが得られる。
【0022】
【数5】
【0023】
なお、回転行列Aは、上記のほか、
【0024】
【数6】
【0025】
を用いてもよい。
ここで、θを0〜9π/30[rad] までπ/30[rad]ずつ脈波データSを回転させて得られるグラフを図11に示す。
図11からわかるように、横軸ゼロ、縦軸ゼロの点(赤色光脈波と赤外光脈波との両方が平均である点)を中心として回転されており、θが9π/30[rad]のときに、横軸(X1)へ射影した領域が最小になり、縦軸(X2)へ射影した領域が最大となっている。
θを9π/30[rad]よりさらにπ/2[rad]回転させ24π/30[rad] (=12π/15[rad])回転させた場合には横軸(X1)へ射影した領域が最大になり、縦軸(X2)へ射影した領域が最小となることは明らかである。
【0026】
次に、θを9π/30[rad]、24π/30[rad]としたときの回転行列Aにより、測定された脈波データSが処理されてXとなった結果、どのような波形となるかを説明する。
図12は、図9に示した脈波データSを、θを9π/30[rad]として回転行列Aにより処理したXの波形を示す。
横軸へ射影した領域が最小になったX1(t i)は、
【0027】
【数7】
【0028】
一方、横軸へ射影した領域が最大になったX2(t i)は、
【0029】
【数8】
【0030】
により演算される。
図12のX1の波形からはノイズが除去されたことがわかる。
なお、脈波データSを、θを24π/30[rad]として回転行列Aにより処理した場合には、X2の波形がノイズが除去された波形となる。
横軸へ射影した領域が最大になるX1(t i)は、
【0031】
【数9】
【0032】
一方、横軸へ射影した領域が最小になるX2(t i)は、
【0033】
【数10】
【0034】
により演算される。
このように横軸へ射影した領域が最小になるように回転角θを設定して、脈波データSを処理すれば、ノイズが抑制された脈波主成分波形を得ることができる。
【0035】
次に、脈波の基本周波数の演算について説明する。
ノイズが低減される前の図9に示した脈波信号と、回転行列を用いてノイズが低減された脈波主成分波形を周波数解析して得られたスペクトルをそれぞれ図13に示す。
横軸は周波数、縦軸はスペクトルである。
ノイズが低減される前の脈波(Before-rotation)信号のスペクトルは、ノイズの周波数帯域fnのスペクトルが強くでており、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルはほとんど現れていない。
一方、回転行列を用いてノイズが低減された脈波主成分波形(After-rotation)を周波数解析して得られたスペクトルでは、脈波信号の基本周波数fsのスペクトルがノイズの周波数帯域fnのスペクトルと区別できるほど強く現れていることがわかり、脈波信号の基本周波数fsを求めることができる。
そして、脈波信号の基本周波数fs[Hz]が求まれば、脈拍数fs×60[回/min]を容易に求めることができる。
【0036】
このように、所定角度の回転行列を用いることにより、ノイズが低減された脈波主成分波形を得ることができ、脈波信号の基本周波数ないし脈拍数を求めることができる。
ここで、所定角度は、予め決められたものでもよく、測定期間中アダプティブに変化させてもよい。
【0037】
<酸素飽和度の演算>
図10は、上述のように図14に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にとったグラフであるが、このグラフの傾きをノルム比を用いて求める。
まず、赤外光脈波データIRのL2ノルムを求める。
赤外光脈波データ列はIR = [IR(ti) : ti = 0, 1, 2, 3, ・・・](1)であるから、L2ノルムは次の式で表すことができる。
【0038】
【数11】
【0039】
次に、赤色光脈波データRのL2ノルムを求める。
赤色光脈波データ列はR = [ R(ti) : ti = 0, 1, 2, 3, ・・・](2)であるから、L2ノルムは次の式で表すことができる。
【0040】
【数12】
【0041】
そこで、
【0042】
【数13】
【0043】
とすればΦは、酸素飽和度SpO2と相関するので、その相関を表す関数をfとすれば、
【0044】
【数14】
【0045】
と表され、酸素飽和度SpO2を求めることができる。
Φは数12に記載の如く比であるが、実際の回転角φはアークタンジェント(ATN)を取る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特許第3270917号
【特許文献2】特許第3924636号
【特許文献3】特許第4352315号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0047】
特許文献3に記載の信号処理方法を適用したパルスフォトメータは、
「異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータにおいて、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、あらかじめ決められた角度にまたは所定条件に基づいて決められた角度に各脈波データの平均値を中心として回転させる回転行列を用いて前記離散的時系列脈波データに含まれるノイズを除去処理する第1の処理手段と、を具備することを特徴とするパルスフォトメータ。」であって、アーチファクトを最も減少させる回転角で回転させるものである。
【0048】
本発明の課題は、アーチファクトには体動によるもの、静脈によるもの、組織によるもの等があるので、それぞれに特有のアーチファクトに基づくφで選択的に回転させて、それぞれに固有のアーチファクトを選択的に最小にするノイズ除去方法及び、そのノイズ除去方法を適用したパルスフォトメータを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0049】
上記課題を解決するため、本発明のノイズ除去方法は、異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップとを含むことを特徴とする。
【0050】
また、前記特定のアーチファクトに特有の角度は、それぞれ異なった角度であって、それぞれ異なった角度で複数回に亘って各脈波データの平均値を中心として回転させるステップを含むことを特徴とする。
また、前記特定のアーチファクトに特有の角度は、それぞれ体動によるもの、静脈によるもの、及び組織によるものに特有の角度であることを特徴とする。
【0051】
また、課題を解決するため、本発明のパルスフォトメータは、異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータにおいて、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させて前記離散的時系列脈波データに含まれる特有のノイズ成分を除去処理するノイズ処理手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、アーチファクトには体動によるもの、静脈によるもの、組織によるもの等があるので、それぞれに特有のアーチファクトに基づくφで選択的に回転させて、それぞれに固有のアーチファクトを選択的に最小にするノイズ除去方法及び、そのノイズ除去方法を適用したパルスフォトメータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の説明のための1例である赤外光IR及びRのデータを横軸に時間、縦軸に大きさで表した離散的時系列脈波データのグラフである。
【図2】図1の離散的時系列脈波データをFFT処理した結果を示すスペクトル図である。
【図3】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.6で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図4】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.7で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図5】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.8で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図6】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.9で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図7】図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=1.0で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
【図8】パルスフォトメータの概略構成を示すブロック図である。
【図9】検出された脈波を示す図である。
【図10】図14に示される赤外光IRのデータを横軸に、赤色光Rのデータを縦軸にとったグラフである。
【図11】図10のグラフをπ/30[rad]ずつ回転させた図である。
【図12】回転角度9π/30[rad]の回転行列により処理された脈波の波形を示す図である。
【図13】図12に示すX1の波形のスペクトルを示す図である。
【図14】血液中の吸光物質の吸光度の変動の測定原理を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
次に、図1〜図7を用いて、本発明のアーチファクトには体動によるもの、静脈によるもの、組織によるもの等があるので、それぞれに特有のアーチファクトに基づくφで回転させて、それぞれに固有のアーチファクトを最小にするノイズ除去方法について説明する。
【0055】
図1は、本発明の説明のための1例である赤外光IR(実線)及びR(*印)のデータを横軸に時間、縦軸に大きさで表した離散的時系列脈波データのグラフである。
このグラフは脈波に含まれるノイズ(アーチファクト)の大きさは異なるが、図9のグラフに相当するものである。
【0056】
図2は、図1の離散的時系列脈波データをFFT処理した結果を示すスペクトル図であり、実線はIR、破線はRのスペクトルを示している。
図2では、本発明の作用をより明確に理解するために、脈波にはφ=0.6,φ=0.7,φ=0.8,φ=0.9及びφ=1.0に相当するアーチファクトを含ませている。
図2から、φ=0.6,φ=0.7,φ=0.8,φ=0.9及びφ=1.0に相当する周波数近傍にIR及びR共に大きなアーチファクト成分の存在が見える。
【0057】
図3は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.6で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図3から、5Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは周波数が低い程大きく残っていることが理解できる。
【0058】
図4は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.7で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図4から、4Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは4Hzの両側が低減され周波数が低い程大きく残っていることが理解できる。
【0059】
図5は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.8で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図5から、3Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは3Hzの上下で遠ざかる程大きく残っていることが理解できる。
【0060】
図6は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=0.9で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図6から、2.5Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは2.5Hzの上下で低減され、遠ざかる程大きくが残っていることが理解できる。
【0061】
図7は、図1の離散的時系列脈波データ(IR)を回転行列を用いて角度φ=1.0で各脈波データの平均値を中心として回転処理した結果のスペクトル図である。
図7から、2Hz近傍のアーチファクトがほぼ除去され、その他のアーチファクトは2Hzから上に遠ざかる程大きく残っていることが理解できる。
【0062】
図3〜図7の説明では回転角φとして、φ=0.6,φ=0.7,φ=0.8,φ=0.9及びφ=1.0を別々に回転させた例を示しているが、一度回転処理した結果に対して異なった角度で複数回に亘って各脈波データの平均値を中心として回転させることによって、複数のアーチファクトに対応するノイズを除去することも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 発光素子
2 発光素子
3 駆動回路
4 生体組織
5 フォトダイオード
6 変換器
7 マルチプレクサ
8 フィルタ
9 A/D変換器
10 処理部
11 表示部
12 ROM
13 RAM
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、
前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップと、
を含むことを特徴とする離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項2】
前記特定のアーチファクトに特有の角度は、それぞれ異なった角度であって、それぞれ異なった角度で複数回に亘って各脈波データの平均値を中心として回転させるステップと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項3】
前記特定のアーチファクトに特有の角度は、それぞれ体動によるもの、静脈によるもの、及び組織によるものに特有の角度であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項4】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータにおいて、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させて前記離散的時系列脈波データに含まれる特有のノイズ成分を除去処理するノイズ処理手段と、
を具備することを特徴とするパルスフォトメータ。
【請求項1】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射するステップと、
前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換して受光するステップと、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させるステップと、
を含むことを特徴とする離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項2】
前記特定のアーチファクトに特有の角度は、それぞれ異なった角度であって、それぞれ異なった角度で複数回に亘って各脈波データの平均値を中心として回転させるステップと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項3】
前記特定のアーチファクトに特有の角度は、それぞれ体動によるもの、静脈によるもの、及び組織によるものに特有の角度であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の離散的時系列脈波データに含まれるノイズの除去方法。
【請求項4】
異なる2つの波長の光を生体組織に照射する発光手段と、前記発光手段から発生し前記生体組織を透過または反射した各波長の光を電気信号に変換する受光手段とを備えたパルスフォトメータにおいて、
前記各波長の電気信号より得られた離散的時系列脈波データを、回転行列を用いて特定のアーチファクトに特有の角度で各脈波データの平均値を中心として回転させて前記離散的時系列脈波データに含まれる特有のノイズ成分を除去処理するノイズ処理手段と、
を具備することを特徴とするパルスフォトメータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−19967(P2012−19967A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160255(P2010−160255)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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