ノズルプレートの製造方法、ノズルプレート、インクジェットヘッドおよび電子機器
【課題】親水性のノズル孔内面と撥水性のノズルプレート表面(吐出面)との境界線を精度良く形成することで、吐出精度を向上させる。
【解決手段】基板の第1の面のノズルを形成すべき位置に非貫通状態の凹形状を形成する工程と、凹形状の表面に第1の膜300を形成する工程と、第1の面の反対面である第2の面にエッチング処理を施し、第1の膜300を凸形状に露出させる工程と、第2の面に第2の膜340を形成する工程と、第1の膜300の凸形状の一部が貫通するまで第1の膜300および第2の膜340をエッチングし孔部を形成する工程と、第2の面側表面の少なくとも孔部の開口部350周辺に撥水性342を付与する工程と、を備えたことを特徴とするノズルプレートの製造方法である。
【解決手段】基板の第1の面のノズルを形成すべき位置に非貫通状態の凹形状を形成する工程と、凹形状の表面に第1の膜300を形成する工程と、第1の面の反対面である第2の面にエッチング処理を施し、第1の膜300を凸形状に露出させる工程と、第2の面に第2の膜340を形成する工程と、第1の膜300の凸形状の一部が貫通するまで第1の膜300および第2の膜340をエッチングし孔部を形成する工程と、第2の面側表面の少なくとも孔部の開口部350周辺に撥水性342を付与する工程と、を備えたことを特徴とするノズルプレートの製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノズルプレートの製造方法、ノズルプレート、インクジェットヘッドおよび電子機器に係り、特に、新水性のノズル内面と撥水性の吐出面の境界を精度良く形成することができるノズルプレートの製造方法、ノズルプレート、インクジェットヘッドおよび電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置で用いられるインクジェットヘッドでは、ノズルプレートの表面にインクが付着していると、ノズルから吐出されるインク液滴が影響を受けて、インク液滴の吐出方向にばらつきが生じることがある。インクが付着すると、記録媒体上の所定位置にインク液滴を着弾させることが困難となり、画像品質が劣化する要因となる。
【0003】
そこで、ノズルプレート表面にインクが付着することを防止するために、ノズルプレートの表面に撥液膜を形成する方法が各種提案されている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、ノズルを形成する樹脂部材(有機膜)の表面に撥水膜を形成するため、樹脂部材の表面に撥水材をミスト化して暴露させることが記載されている。下記の特許文献2には、インクジェット記録ヘッドの吐出口の形成端面にイオン注入法により撥水性を付与する技術が記載されている。特許文献3には、ノズル形成部分の吐出面側に、予め撥水性を有する微粒子を含む金属をメッキし、その後メッキ表面にレーザーを照射し、撥水膜を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−210984号公報
【特許文献2】特開平6−320733号公報
【特許文献3】特開平9−277537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から3に記載されているように、ノズルプレートの表面(インク吐出面)には撥液膜(撥液性被膜)が形成されており、インク滴の吐出特性の安定化が図られている。
【0007】
これに対し、ノズル内部は、インクの充填性などのために親水性に形成されている。したがって、新水性のノズル内面と撥水性の吐出面の境界が存在することになる。この境界が不均一になると、吐出安定性が低下するという問題が発生する。
【0008】
ここで、吐出面に撥液膜が形成されたノズルプレートにおける、従来のノズル孔の開口方法について図12を用いて説明する。
【0009】
まず、ノズルプレート610に図12(a)に示すような構造体を形成する。ノズルプレート610の表面には酸化膜622が形成されるとともに、凸部620が形成されている。このノズルプレート610の表面に、撥液膜624を形成する(図12(b))。
【0010】
次に、ドライエッチングにより、撥液膜624と凸部620を構成する酸化膜622のエッチングを行う。そして、凸部620を開口してノズル孔となる開口部626を形成する(図12(c))。
【0011】
以上のような工程により、親水性のノズル内面と撥水性の吐出面の境界精度の高いノズ
ルプレートを製造することができる。
【0012】
しかしながら、このプロセスは、凸部620と撥液膜624を同時にエッチングするため、そのエッチング工程により撥液膜624自体にダメージを与えてしまい、撥水性が低下する可能性があった。その結果、耐メンテナンス性、吐出精度に悪影響を及ぼす可能性があった。
【0013】
また、酸化膜622の厚みが厚い場合は、ノズルプレート表面のノズル孔周辺部が親水性となるため、吐出精度が低下するという問題があった。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、親水性のノズル孔内面と撥水性のノズルプレート表面(吐出面)との境界線を精度良く形成することで、吐出精度を向上させるノズルプレートの製造方法、ノズルプレート、インクジェットヘッドおよび電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、基板の第1の面のノズルを形成すべき位置に非貫通状態の凹形状を形成する工程と、前記凹形状の表面に第1の膜を形成する工程と、前記第1の面の反対面である第2の面にエッチング処理を施し、前記第1の膜を凸形状に露出させる工程と、前記第2の面に第2の膜を形成する工程と、前記第1の膜の前記凸形状の一部が貫通するまで前記第1の膜および前記第2の膜をエッチングし孔部を形成する工程と、前記第2の面側表面の少なくとも前記孔部の開口部周辺に撥水性を付与する工程と、を備えたことを特徴とするノズルプレートの製造方法を提供する。
【0016】
請求項1によれば、第1の膜の凸形状の一部が貫通するまで第1の膜および第2の膜をエッチングし孔部を形成した後、第2の面側の表面の少なくとも孔部の開口部周辺に撥水性を付与している。したがって、エッチングなどにより第2の膜が除去されたり、第1の膜に厚みがあり、開口部周辺が第1の膜で形成され撥水性を有さない場合などに、開口部周辺に撥水性を付与することができる。そのため、孔部の開口部周辺を撥水性とすることができるので、吐出精度を安定化させることができる。
【0017】
請求項2は請求項1において、前記第2の膜が撥水性を有することを特徴とする。
【0018】
請求項3は請求項2において、前記撥水性を付与する工程は、前記第2の面側の前記エッチングにより除去された前記第1の膜の断面および前記第2の膜が剥離した部分に撥水性を付与することを特徴とする。
【0019】
請求項2および請求項3によれば、第2の膜の形成時において、第2の膜に撥水性を付与しているので、エッチングにより第2の面側の撥水性を有さなくなった部分にのみ、撥水性を付与することができる。したがって、撥水性を付与する工程の処理時間を削減することができ、第2の面側の全面に撥水性を付与することができる。
【0020】
請求項4は請求項1において、前記第2の膜は撥水性を有さず、前記撥水性を付与する工程で、前記第2の膜に撥水性を付与することを特徴とする。
【0021】
請求項4によれば、撥水性を付与する工程において、第2の膜に撥水性を付与することで、第2の面側全面に撥水性を付与することができる。
【0022】
請求項5は請求項1から4いずれか1項において、前記撥水性を付与する工程が、少なくともフッ素を含むガス中に暴露することを特徴とする。
【0023】
請求項5によれば、開口部周辺の膜が有機膜である場合、フッ素を含むガス中に暴露することで、有機膜中にフッ素を導入することで、撥水性を付与することができる。フッ素を含むガス中に暴露することで、有機膜を選択的に撥水膜とすることができる。
【0024】
請求項6は請求項1から4いずれか1項において、前記撥水性を付与する工程が、少なくともフッ素を含むイオンを注入することを特徴とする。
【0025】
請求項6によれば、撥水性を付与する工程が、フッ素を含むイオンを注入する工程とすることで、材料の制限を受けることなく撥水性を付与することができる。
【0026】
請求項7は請求項1から6いずれか1項において、前記第1の膜が、無機材料、金属材料、および、それらの複合材料の少なくとも一種類を含むことを特徴とする。
【0027】
第1の膜は、ノズルの内部表面となる膜であるため、請求項7によれば、第1の膜を無機材料、金属材料、および、それらの複合材料の少なくとも一種類とすることにより、エッチング後の撥水性を付与する工程で、第1の膜に撥水性が付与されることを防ぐことができる、撥水性を付与する工程がフッ素を含むガス中に暴露する工程であれば、第1の膜は無機材料、金属材料、および、それらの複合材料とすることで、第1の膜に撥水性が付与されることを防ぐことができる。また、イオンを注入する方法であれば、イオン注入は、所定の場所を選択的に行うことができるので、第1の膜が撥水性となることを防止することができる。
【0028】
請求項8は請求項1から7いずれか1項において、前記第2の膜が、フッ素を含むことを特徴とする。
【0029】
請求項8によれば、第2の膜がフッ素を含んでいるため、適切に吐出面の撥水性を確保することができる。
【0030】
本発明の請求項9は前記目的を達成するために、請求項1から8いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法により製造されたノズルプレートを提供する。
【0031】
本発明の請求項10は前記目的を達成するために、請求項9に記載のノズルプレートを備えたことを特徴とするインクジェットヘッドを提供する。
【0032】
本発明の請求項11は前記目的を達成するために、請求項10に記載のインクジェットヘッドを備えたことを特徴とする電子機器を提供する。
【0033】
本発明のノズルプレートの製造方法により製造されたノズルプレート、ノズルプレートを備えるインクジェットヘッド、電子機器によれば、液体の吐出性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のノズルプレートの製造方法によれば、エッチングを行なった後に、ノズル孔周辺部に親水性の部分が形成されても、再度撥水性を付与しているため、ノズルプレート表面の開口部周辺を撥水性とすることができる。したがって、液体の吐出安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態で製造されるインクジェットヘッドの断面図である。
【図2】インクジェットヘッドの製造方法を示した工程図である。
【図3】インクジェットヘッドの製造方法を示した工程図である。
【図4】インクジェットヘッドの製造方法を示した工程図である。
【図5】インクジェットヘッドの製造方法を示した工程図である。
【図6】有機膜に使用できる材料の一例を示した図である。
【図7】ノズル開口時のエッチング方法を示した図である。
【図8】フッ素ガス処理による撥液方法を説明する図である。
【図9】フッ素ガス処理による他の撥液方法を説明する図である。
【図10】イオン注入による撥液方法を説明する図である。
【図11】インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図12】従来のノズル孔の開口方法を示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面に従って、本発明に係るノズルプレートの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0037】
<インクジェットヘッドの製造方法>
図1は、インクジェットヘッド100の立体構造の一例を示す断面図であり、記録素子単位となる1チャンネル分のインク噴射素子が図示されている。
【0038】
同図に示すように、インクジェットヘッド100は、ピエゾカバー10、供給流路20、基板30、液室32、圧力室35、振動板40、圧電素子50、ノズルプレート55、ノズル60、及び撥液膜65から構成されている。
【0039】
圧力室35の天面を構成している振動板40の上には圧電素子50が形成されている。この圧電素子50に駆動電圧が印加されると、圧電素子50が変形する。これにより、振動板40が変形し、圧力室35の容積が減少し、圧力室35内のインクに圧力が加わり、インクがノズルプレート55に形成されたノズル60から吐出される。
【0040】
ノズル60からインクが吐出されると、供給流路20と連通されるインクの供給源たるタンク(不図示)から液室32を介して圧力室35へインクが充填される。
【0041】
なお、ノズル60から吐出された分のインクを供給させるのではなく、供給流路20から液室32に供給されたインクを、図1において破線で示した循環流路21を介して循環用のタンク(不図示)に循環させるように構成してもよい。
【0042】
撥液膜65は、ノズルプレート55の露出面に形成され、ノズルプレート55の吐出面を保護するとともに、吐出面に撥水性を持たせている。また、撥液膜65は、その開口部がノズルプレート55のノズル60の位置と適合するように形成される。ここでは、ノズル60の形状は直径が約2〜20μmの円形であるが、楕円形、正方形、あるいは長方形であってもよい。
【0043】
撥液膜65の形成には、様々な材料を用いることができ、一例としてフッ素重合体を用いてスピンコート法により形成する方法がある。
【0044】
次に、図1に示したノズルプレート55の製造方法について説明する。図2〜図5は、本実施の形態に係るノズルプレートの製造方法を示した工程図である。
【0045】
本実施形態のノズルプレート55は、SOI(Silicon On Insulator)基板200を用いて製造する。SOI基板200は、ハンドル層210、ハンドル層210の一面側に設けられたBOX(Buried Oxide)層(埋め込み酸化膜層)215、BOX層215のハンドル層210の反対側に設けられたデバイス層220とから構成されている(図2(a))。
【0046】
ここでは、ハンドル層210の厚さは約600μm、デバイス層220の厚さは約30μm、BOX層215の厚さは約1μmとなっている。
【0047】
まず、マスクアライメント用のレチクルマーク230をデバイス層220にエッチングする。さらに、デバイス層220の表面に酸化膜235、及びハンドル層210の表面に酸化膜240を形成する(図2(b))。これらの酸化膜は、例えば熱酸化法で形成することができ、厚さは少なくとも1μmとする。
【0048】
次に、酸化膜235をエッチングによりパターニングし、開口部250を形成する(図2(c))。開口部250は、酸化膜235が完全に除去され、デバイス層220が露出された状態となっている。
【0049】
エッチング方法としては、BOE(Buffered Oxide Etch)等のウエットエッチングや、ドライエッチングを用いることができる。
【0050】
続いて、酸化膜235の上に犠牲層260を形成する。次に、開口部250の位置に円形(又は楕円、長方形、正方形等)の開口部265を形成する(図2(d))。ここで、開口部250の中心と開口部265の中心は一致しており、かつ開口部265の口径は開口部250の口径よりも小さくなっている。
【0051】
また、開口部265は、デバイス層220及びBOX層215を貫通し、ハンドル層210の内部まで到達するように形成される。開口部265は、ハンドル層210の約1〜5μm(例えば2μm)だけ内部まで形成される。
【0052】
この開口部265は、多数のエッチング工程によって形成することができる。また、開口部265のエッチング後、犠牲層260を除去する。
【0053】
次に、開口部265を含む開口部250に、ライナー膜270を形成する(図3(e))。このライナー膜270は、開口部265を含む開口部250の次工程のエッチングに対する保護膜として機能する。ライナー膜270としては、窒化物、二酸化ケイ素、あるいは金属を用いることができる。窒化物ライナーであれば、低圧化学蒸着法(LPCVD)によって形成することができ、酸化物ライナーであれば、プラズマ(PECVD)や熱酸化処理により形成することができる。ライナー膜270の厚さは、最小で0.2μmとする。
【0054】
さらに、開口部265におけるライナー膜270の空洞部に、フォトレジスト280をパターニングする(図3(f))。
【0055】
次に、ライナー膜270をエッチングし、開口部250の位置のデバイス層220を露出させる(図3(g))。このとき、酸化膜235もエッチングされ、その厚みが減少する。
【0056】
開口部250の位置におけるデバイス層220の露出した部分をエッチングすることで、テーパー部290を形成する(図3(h))。例えば、KOH(水酸化カリウム)を用いた結晶異方性エッチングを行うことで、テーパー部290を四角錐状のテーパー形状に形成することができる。
【0057】
次に、リン酸あるいはフッ化水素によりライナー膜270及びフォトレジスト280を除去し、酸化膜235、及び開口部250に第1の膜300を形成する(図4(i))。第1の膜300を構成する材料としては、有機膜、無機膜、金属膜、またはその複合膜を使用することができる。有機膜としては、CH3基やCH2基、CH基が含まれるものが用いられ、例えば、ポリオレフィン(P0)系、ポリスチレン(PS)のようなP0系+芳香族のような材料、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系等の芳香族系化合物等が挙げられる。また、図6に示すような有機シラン材、特開2008−105231号公報に記載されるようなプラズマCVDを用いたシリコーン系のプラズマ重合膜やグラフト重合法によるグラフト膜を挙げることができる。無機膜としては、酸化物、窒化物、Si化合物、DLC膜など、金属膜としてはめっき膜を用いることができる。第1の膜の厚さは1μm未満である。
【0058】
SOI基板200の第1の膜300の形成された面が、基礎基板310と接合される(図4(j))。基礎基板310は、図1に示す圧力室35等が形成されているものである。これらの基板の接合には、接着剤や溶融接着を用いることができる。
【0059】
次に、研磨やドライエッチング等により酸化膜240及びハンドル層210を除去する(図4(k))。例えば、酸化膜240は、ドライエッチングにより除去することができる。ハンドル層210は、研磨によりおおまかに除去した後、残りの部分を第1の膜300及びBOX層215と選択的にウエットエッチング又はドライエッチングをすることにより除去することができる。
【0060】
ここで、開口部265はハンドル層210の約1〜5μmだけ内部まで形成され、さらに開口部265には第1の膜300が形成されたため、ハンドル層210が除去されてBOX層が露出した面には、第1の膜300が突出した突出部335が存在している。
【0061】
このBOX層が露出した面に、シリコンの付着を促進する付着促進層330を形成する(図4(l))。付着促進層330は、タンタルやチタン等の金属、又はこれらの酸化物から構成されており、さらに非多孔性の構造を有していることが好ましい。
【0062】
次に、付着促進層330の上に第2の膜340を形成する(図5(m))。第2の膜340は、有機膜、無機膜、金属膜、またはその複合膜を使用することができる。また、第2の膜340自体の撥水性の有無は、特に限定されない。撥水性を有さない材料としては、上述した第1の膜300と同様の材料を用いることができる。撥水性を有さない膜を使用することで、多様な成膜方法、原料を使用することができる。
【0063】
第2の膜が撥水性を有する場合は、テフロン(登録商標)(PTFE)やフルオロカーボン系の材料が用いられ、スプレーコーティングや化学蒸着法(CVD)によって平坦に形成される。具体的には、オプツール(ダイキン工業製)、サイトップ(旭硝子製)を挙げることができる。無機膜、金属膜としては、撥水性を有する膜の場合は、無機膜としてフッ素を注入したDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜、金属膜としては、撥水めっき膜を用いることができる。撥水性を有する膜を用いることで、後述するエッチング後の撥水性の補修する処理領域を少なくすることができ、処理時間を減らすことができる。しかしながら、第2の膜340を成膜する成膜方法の限定、使用する材料が限定される。また、第1の膜300と第2の膜340を同じ材料を用いることで、同じエッチングレートとすることができるので、エッチングにより除去される量を同じにすることができる。したがって、プロセスを簡略化し、コストを減らすことができる。
【0064】
また、第2の膜340は、その厚さが0.5μm以上となるように形成される。後に行われるエッチングにおいて、第2の膜340のエッチング速度が付着促進層330や酸化膜の侵食より早い場合には、1μm以上に形成することが好ましい。
【0065】
次に、ドライエッチングにより第1の膜300の突出部335の一部が貫通し、開口部(ノズル孔)350が形成されるまで、第2の膜340および第1の膜300をエッチングする(図5(o))。
【0066】
また、第1の膜300を貫通させる際、図7に示すように流体を供給流路20および圧力室35に注入しながらエッチングを行なう場合は、突出部335の表面が露出するタイミングでドライエッチングを停止してもよい(図5(n))。流体を注入しながらのエッチングの時間を短くすることができる。
【0067】
図5(n)の工程まで製造したインクジェットヘッド105に対し、図7に示すような治具400を設置し、治具400の開口部405から注入する流体410が漏れないように、治具400とインクジェットヘッド105を接着する。
【0068】
この状態で、エッチング溶液425を収容した容器420に、インクジェットヘッド105を浸漬させる。このとき、少なくとも第2の膜340がエッチング溶液425に浸るように浸漬させる。
【0069】
流体410としては、気体であれば、空気の他、窒素、アルゴン等の不活性ガスや、流路内を親水化可能なオゾン等の酸化性ガス、その他の混合ガスを用いることができる。また、液体であれば、水溶液、非水溶液、又はエッチング溶液425と混合しない溶液等を用いることができる。流体の注入方法は、例えば特開平5−254128号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0070】
また、第2の膜340が撥水性を有する場合は、エッチング溶液425としては、フッ酸溶液、又はフッ酸を含む混合液が好ましい。界面活性剤等を含む混合液を用いることで、溶液の表面張力を変えることができる。また、エッチング速度によって、フッ酸の濃度を適宜調整してもよい。フッ酸は撥水性を有する第2の膜340にはじかれる結果、酸化膜部分である突出部335の第1の膜300のみをエッチングするので、選択性の高い加工が可能となる。
【0071】
このように、突出部335の第1の膜300のエッチングを行い、開口部350を形成する(図5(o))。流体410を注入することで、開口部350が形成された際に、開口部350内部にエッチング溶液425が入ってくることを防止することができる。したがって、突出部335の内部の酸化膜は、エッチング溶液425によってエッチングされず、流体410によって保護される。
【0072】
このようにして形成されたインクジェットヘッドは、図5(o)に示すように、開口部350周辺の第2の膜340がエッチングにより除去される場合があり、インクの吐出精度に影響を及ぼす場合がある。また、第2の膜340が除去されなくても、第1の膜300の膜厚が厚く、開口部350周辺部が撥水性を有さず、吐出精度が安定しない場合がある。したがって、開口部350周辺部に撥水性を付与することが好ましい。撥水性を付与する方法としては、(1)フッ素ガス中に暴露する方法、(2)イオン注入法またはレーザー注入法、により行うことができる。撥水性を付与するために、フッ素ガス中に暴露する方法で行うか、イオン注入法またはレーザー注入法により行うかは、第1の膜300、第2の膜340の種類により適宜設定することが好ましい。以下、撥水性を付与する方法を説明する。
【0073】
≪撥水性付与方法≫
(1)フッ素ガス処理
図8は、フッ素ガス処理により撥水性を付与する方法を示した説明図である。フッ素ガス処理により撥水性を付与する場合は、撥水性を付与する基板に有機膜が適用される。図8は第1の膜300が無機膜または金属膜、第2の膜340が撥水性を有さない有機膜の場合である。第2の膜340は、樹脂材料で構成され、CH3基やCH2基、CH基が含まれるものが好ましい。
【0074】
<フッ化処理工程>
まず、図2〜図5で説明したように、図8(a)に示す開口部350を有するインクジェットヘッドを製造する。
【0075】
続いて、図8(b)に示すように、第2の膜340をフッ化処理する。フッ化処理は、例えば、フッ素ガスと窒素ガス(不活性ガス)との混合ガスを第2の膜340と直接反応させることによってフッ化処理を行う(図8参照)。これにより、第2の膜340に撥液層(フッ化処理層)340aが形成される。
【0076】
フッ化処理は、フッ素ガス単体でも反応は可能であるが、特開2005−279175号公報明細書に記載されるように、フッ素は反応性が高いので、フッ素単体と直接反応させると、激しく反応しすぎて主鎖のC−C結合まで切れてしまう。
【0077】
そこで、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスとの混合ガスでフッ素ガスを反応炉内に導入し、インクジェットヘッドが変形、侵食されない範囲の任意の温度にてフッ素ガスと反応させる態様が好ましい。また、このときの混合ガス中のフッ素ガス濃度は0.01%以上が好ましい。フッ素化の程度は、フッ素ガスの濃度、反応炉温度、反応時間で制御可能である。
【0078】
フッ化処理の具体的な例については、例えば、特開2005−54067号公報明細書や特開2004−143622号公報明細書に記載されている。具体的には、インクジェットヘッドを処理容器に入れて、処理容器を100Pa以下に減圧する。次に、窒素ガス等の不活性ガスに雰囲気を置換する。その後、フッ素ガスが0.1〜99%となるように容器内に導入する。このとき、フッ素ガスの圧力は1〜1000kPaであることが好ましい。フッ素ガスと接触させる処理時間は1秒〜10日、好ましくは10分〜10時間である。処理温度は−50〜300度、好ましくは0〜100度である。また、フッ素侵入深さは、同一温度では時間が長いほど大きく、また同一時間では温度が高いほど大きくなる。
【0079】
第1の膜300は無機膜または金属膜であるので、フッ化処理によりフッ素化されないため、撥水性が付与されない。つまり、第2の膜340の有機膜のみ選択的に撥水性を付与することができるので、少ない工程でインクジェットヘッドのノズルプレート表面に撥水性を付与することができる。
【0080】
図9は、フッ素ガス処理により撥水性を付与する他の方法を示した説明図である。図9は第1の膜300および第2の膜340が有機膜の場合を説明した図である。第1の膜300および第2の膜340としては、上述した材料を用いることができる。本実施形態においては、図9(a)に示すように、第1の膜300の膜厚に厚みがあり、開口部350周辺が撥水性を有さない場合に、フッ素ガスで撥水性を付与する際に有効である。図9に示す撥水性付与方法は、フッ化処理工程、保護部材形成工程、撥液層除去工程、及び保護部材除去工程を含んで構成される、以下、各工程について説明する。
【0081】
<フッ化処理工程>
まず、図2〜5で説明したように、図9(a)に示す開口部350を有するインクジェットヘッドを製造する。フッ化処理については、図8で記載したフッ化処理工程と同様に第1の膜300がフッ化処理される(図9(b))。第2の膜340がすでに撥水性を有していても、CH基を有している場合は、フッ素に置換され、撥水性を向上させることができる。第2の膜340が撥水性を有していない場合は、フッ化処理され、撥水性が付与される。
【0082】
<保護部材形成工程>
上記のようにしてフッ化処理を行った後、図9(c)に示すように、ノズルプレート表面の第2の膜340上に保護部材360を形成する。例えば、保護部材360として、紫外線硬化樹脂などの樹脂部材や、ノズル面を覆い保護するような金属性またはセラミックス製の治具、マスキングテープ等の保護テープを用いることができる。好適には、ハンドリング性に優れ、容易に形成・脱離が可能なテープ状の部材が好ましい。具体的には、ノズルプレート表面側の第2の膜340、撥液層342上に当該保護テープを貼り付ければよい。
【0083】
本実施形態では、保護部材360として、基材の表面に再剥離型アクリル系粘着剤を有するマスキングテープが用いられる態様が好ましい。この態様によれば、保護部材板を貼付する技術ではなく、マスキングテープを貼り付ける技術を採用しているので生産性が高く、酢酸ブチル等の溶剤を用いないので環境負荷の問題が生じず、また、基材の表面に再剥離型アクリル系粘着剤を有するマスキングテープを用いているのでマスキングテープの剥離が容易であり、この点でも生産性が高い。
【0084】
更に好ましい態様として、マスキングテープの基材がポリエステルフィルム又はポリエチレンフィルムで構成されることが好ましい。本発明の製造方法においては、マスキングテープの基材として種々の材質のものを用いることができるが、マスキングテープの基材としてポリエステルフィルム又はポリエチレンフィルムを用いることにより、プラズマ処理の影響を受けても強度を維持できる。
【0085】
<撥液層除去工程>
保護部材360の形成後、図9(d)に示すように、インクジェットヘッドのノズル内壁面に形成された撥液層342を除去すると同時に当該面の親液化を行う。このとき用いられる処理方法としては、プラズマ処理、酸処理、放電処理、紫外線処理、電子線処理、放射線処理、又はオゾンガス処理が好ましく、これらの中でもプラズマ処理(更に好ましくは酸素を含むガスによるプラズマ処理)や紫外線処理、オゾンガス処理(更に好ましくは高純度オゾンガス処理)が好ましく用いられる。これらの処理方法によれば、フッ化処理されたノズル内壁面から撥液層342を除去して極性基を生成させることによって、ノ
ズル内壁面を親液化することができる。
【0086】
<親液化処理工程>
撥液層除去工程を行なった後、ノズル内壁面(第1の膜300)の経時安定性を更に高めるため親液化処理を行うこともできる。
【0087】
親液化処理工程としてガス処理が用いられ、具体的には、オゾンガス処理や、フッ素ガスと酸素ガスとの混合ガスによるガス処理が好ましく用いられる。このようなガス処理によれば、ノズル内壁面を均一に親液化処理することができ、プラズマ処理等に比べて経時安定性の優れた親液層をノズル内壁面に形成することが可能となる。
【0088】
オゾンガスによるガス処理を行う態様では、オゾンガス雰囲気中にインクジェットヘッドを晒す工程が実施される。例えば、ポリイミドフィルムに対して、オゾン濃度20vol%、温度60℃、処理時間30分の条件で処理した場合、プラズマ処理では2〜3日で親液性が劣化するのに対して、オゾンガスによるガス処理の場合では親液性が1ヶ月以上維持される。このようにオゾンガスによるガス処理では、プラズマ処理に比べて経時安定性が優れている。オゾンガス処理は、金属材料、有機材料、無機材料に関わらず、酸化処理が可能である。
【0089】
フッ素ガスと酸素ガスとの混合ガスによるガス処理を行う態様では、混合ガス雰囲気中にインクジェットヘッドを晒す工程が実施される。例えば、フッ化処理工程で用いられた窒素ガスを酸素ガスに切り換えるだけで、同一処理容器(チャンバー)内での処理が可能となり、生産性を向上させることができる。
【0090】
フッ素ガスと酸素ガスの混合ガスによるガス処理を行う態様において、混合ガス雰囲気中にインクジェットヘッドを晒した後、水蒸気雰囲気中にインクジェットヘッドを晒すことがより好ましい。水蒸気雰囲気中にインクジェットヘッドを晒すことによってカルボキシル基を導入することができ、ノズル内壁面を更に親液化することができる。
【0091】
水蒸気雰囲気中にインクジェットヘッドを晒す態様において、処理容器内の混合ガスを除去せずに水蒸気を導入してもよいし、混合ガスを除去してから水蒸気を処理容器内に導入してもよい。但し、親液化処理の安定化を図る観点から後者の態様が好ましい。
【0092】
また、親液化処理工程もガス処理によって行われるので、ガス処理による均一な処理(表面均一性、コンフォーマル性等)や、低温処理が可能となる。また、ガス処理によれば、基材に対する密着性も考慮する必要がない。
【0093】
なお、親液化処理の実施は任意であり、行なっても行なわなくてもよい。
【0094】
<保護部材除去工程>
上記のようにしてノズル内壁面の親液化を行った後、図9(f)に示すように、ノズルプレート表面の第2の膜340、撥液層342上の保護部材360を除去する。例えば、保護部材360として再剥離型アクリル系粘着剤を有するマスキングテープが用いられる場合には、ノズルプレート表面側の第2の膜340、撥液層342上に貼り付けられたマスキングテープを容易に剥離することができ、生産性を向上させることができる。
【0095】
こうして、撥液面及び親液面を有する樹脂構造体として、図1に示したノズルプレート
55を得ることができる。
【0096】
また、本実施形態においては、親液化処理工程の後に保護部材除去工程を行っているが、これらの工程の順序を逆にすることも可能である。即ち、保護部材360の除去を行った後にノズル内壁面の親液化処理を行うようにしてもよい。オゾンガスや混合ガスによるガス処理によれば、保護部材360がなくても第2の膜340、撥液層342はエッチングされることはないため、上述のように親液化処理工程が行われる前に保護部材除去工程が行われても特に問題が生じるものではない。
【0097】
このように、フッ化処理によるガス処理を用いることにより、基材形状に左右されることなく均一処理(表面均一性、コンフォーマル性等)が可能となり、大面積の処理が可能である。また、常温、常圧での処理が可能である。
【0098】
(2)イオン注入法またはレーザー注入法
図10はイオン注入法により撥水性を付与する方法を示した説明図である。図10に示す撥水性付与方法は、イオン注入工程および加熱処理工程を含んで構成される。以下、各工程について説明する。
【0099】
<イオン注入工程>
まず、図2〜図5で説明したように、図10(a)に示す開口部350を有するインクジェットヘッドを製造する。なお、図10(a)に示すインクジェットヘッドは開口部350周辺の第2の膜340が除去されているが、図8(a)、図9(a)に示すような第2の膜340が除去されていない場合にも適用は可能である。
【0100】
レーザーによるイオン注入によって、撥水性を付与する場合は、特定の部分、例えば、ノズル面のみ、ノズル孔の開口部付近のみに行なうことができ、リニアな照射も可能である。したがって、所望の部分にのみ撥水性を付与することができるので、高い選択性を有する。また、第1の膜300および第2の膜340の材料、撥水性の有無に関わらず、使用することができる。
【0101】
図10(b)に示すように、第2の膜340が撥水性を有する場合は、ノズルプレート表面のうち、少なくとも各ノズル孔の開口部350周辺部(以下、「ノズル開口周辺部」という。)に撥液性を示すイオン(撥液種)を注入する。このとき、注入されるイオンは、例えば、C2F4+イオン等のフッ素系イオンが挙げられる。
【0102】
イオンを注入する方法としては、例えば特開平6−316079号公報明細書に記載されるように従来周知のイオン注入法(イオン注入とレーザーを同時照射する方法も適用可)を用いることができる。イオン注入法によれば、半導体(Si等)、ガラス、セラミックス、半導体の酸化物、有機高分子や有機樹脂等の有機化合物、また、無機化合物に対してイオンを注入することが可能であり、インクジェットヘッドの基材として材料の選択幅が広いといった利点がある。
【0103】
イオン注入法の条件としては、イオン源としてCF4、C2F6、CHF3など少なくともCとFを含む常圧、減圧下でガスであるものすべて及び、F2+CH4などFを含むガスとCを含むガスの組み合わせなどがある。更に、イオン注入する材料がCを含むときはFを含むガスのみでも良い。また、イオン種としてはCF3+、C2F6+、C2F3+イオンなど上記イオン源から発生するCとFを含むイオン種すべて、及びF+イオンとC+イオンの組み合わせが好ましい。更にイオン注入する材料がCを含むときはF+イオンのみでも良い。
【0104】
イオンビーム径は、少なくともノズル開口周辺部を含む領域(撥液膜過除去部分)を照射可能なビーム径であればよい。例えば、ノズル径50μmに対して、イオンビーム径0.5〜50μmで処理される。
【0105】
また、イオンを注入する他の方法として、レーザードープ法、プラズマドープ法を用いることができる。レーザードープ法によれば、低温・高速処理が可能となり、表面に高濃度でイオンを注入することができる。また、プラズマドープ法によれば、低温で大面積処理が可能となる。
【0106】
このようにノズルプレート表面のノズル開口周辺部に対して選択的に撥液性を示すイオン(フッ素系イオン等)を注入して表面を改質することにより、エッチングにより第2の膜340が除去された部分(ノズル開口周辺部)に撥液性を付与して部分的に補修を行なうことができる。また、第2の膜340に撥液性が付与されていない場合は、ノズルプレート全面にイオン注入を行なうことでノズルプレート表面に撥水性を付与することができる。したがって、吐出安定性、メンテナンス性を向上させることができる。しかしながら、第2の膜340が有機膜の場合は、イオン注入によりダメージを与える可能性もあるので、第2の膜340にはイオン注入を行なわない、または、フッ素ガス処理により撥水性を付与することが好ましい。
【0107】
<加熱処理工程>
第2の膜340として樹脂系撥液膜が適用される場合には、上記のようにしてイオン注入が行われた後、ノズルプレートのアニール処理を行うことが好ましい。アニール処理を行うことによって、樹脂系撥液膜部分の重合度が高まり、耐久性が向上し、それと同時にイオン注入部分(即ち、ノズル開口周辺部)の撥液性が向上する。
【0108】
なお、アニール処理を行わずに常温放置(数日間)する態様でも樹脂系撥液膜の重合度を高めることは可能であるが、アニール処理を行う態様の方がより早く処理可能である。
【0109】
アニール処理時における処理温度としては、樹脂系撥液膜が蒸発しない温度以下で行えばよく、使用する膜によって温度、処理時間を適宜選択すればよい。
【0110】
例えば、フッ素含有系撥液膜であるフルオロカーボン系撥液膜(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン:C10H4C13F17Siでは、基板上に成膜した場合、300℃で蒸発してしまうので、アニール温度は50℃〜300℃、好ましくは100℃〜250℃、処理時間は数分〜数十時間であり、高温になるほど処理時間は短くできる。
【0111】
加熱装置としては、恒温槽、赤外線炉、レーザーアニール等の方法がある。また、レーザーアニールと同時にイオン注入を行う方法を用いるようにしてもよい。
【0112】
こうして、図10(c)に示すように、ノズルプレートの表面に撥液性を有する第2の膜340が形成されるとともに、ノズル開口周辺部に撥液性を示すイオン(フッ素系イオン等)を注入することによってノズルプレート全面に撥液性が付与され、図1示したノズルプレート55を得ることができる。
【0113】
イオン注入法によれば、開口部350を形成した後、第2の膜340の撥水膜がエッチングにより除去された部分、および、第1の膜300のノズルプレート表面に露出した断面部に撥水性を付与することができる。したがって、ノズルプレート表面の少なくともノズル孔の開口周辺部に撥液性を示すイオン(撥液種)として、例えばフッ素系イオンなどを選択的に注入することで、ノズルプレート表面全面の撥液性を付与することができる。これにより、ノズルプレート表面は撥液性、ノズル孔内部は親水性とすることが可能となり、当該ノズルプレートを備えたインクジェットヘッドのインク吐出安定性およびメンテナンス性を向上させることができる。
【0114】
また、第2の膜340として樹脂系撥液膜が用いられる場合にはイオン注入後にアニール処理を行うことで、樹脂系撥液膜の重合度が高まり、耐久性が向上され、それと同時にイオン注入部分であるノズル開口周辺部の撥液性をより高めることができる。
【0115】
ノズルプレートの表面を撥液処理する方法として、上述したように、第2の膜340が撥液性を有さない場合、ノズルプレート表面の全体に撥液性を示すイオンを注入することも可能であるが、この方法では、コストおよび処理時間が多くかかるという問題がある。また、ノズルプレートの表面のうちノズル開口周辺部のみにイオン注入を行なうだけでは、ノズルプレート全体のメンテナンス性を確保するのは困難である。
【0116】
したがって、大面積処理が容易なドライプロセス(例えばCVD)などで撥液性を有する第2の膜340を形成しておき、エッチングにより第2の膜340が剥れるなどしたため、撥水性を有しない部分(開口部周辺部など)に、イオン注入を部分的に行なって撥水性を付与することが好ましい。全体の処理時間を削減することができ、コストダウンを可能とすることができる。
【0117】
また、本実施形態においては、撥液性を示すイオン(撥液種)を注入することによって撥液性が付与されているため、撥液膜自体の硬度や基材との密着性を考慮する必要がなく、材料の選択性を向上させることができる。
【0118】
また、撥水性付与方法は、フッ素ガス処理方法とイオン注入法またはレーザー注入法を組み合わせて処理することも可能である。この場合、順番については特に限定されない。
【0119】
[インクジェット記録装置の全体構成]
次に、本発明のノズルプレートの製造方法により形成されたノズルプレートを適用した例として、インクジェット記録装置について説明する。
【0120】
図11は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成図である。このインクジェット記録装置500は、描画部516の圧胴(描画ドラム570)に保持された記録媒体524(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体524上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体524上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0121】
図示のように、インクジェット記録装置500は、主として、給紙部512、処理液付与部514、描画部516、乾燥部518、定着部520、及び排出部522を備えて構成される。
【0122】
(給紙部)
給紙部512は、記録媒体524を処理液付与部514に供給する機構であり、当該給紙部512には、枚葉紙である記録媒体524が積層されている。給紙部512には、給紙トレイ550が設けられ、この給紙トレイ550から記録媒体524が一枚ずつ処理液付与部514に給紙される。
【0123】
本例のインクジェット記録装置500では、記録媒体524として、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体524を使用することができる。給紙部512において各種の記録媒体をそれぞれ区別して集積する複数の用紙トレイ(不図示)を備え、これら複数の用紙トレイの中から給紙トレイ550に送る用紙を自動で切り換える態様も可能であるし、必要に応じてオペレータが用紙トレイを選択し、若しくは交換する態様も可能である。なお、本例では、記録媒体524として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0124】
(処理液付与部)
処理液付与部514は、記録媒体524の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部516で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0125】
図11に示すように、処理液付与部514は、給紙胴552、処理液ドラム554、及び処理液塗布装置556を備えている。処理液ドラム554は、記録媒体524を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム554は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)555を備え、この保持手段555の爪と処理液ドラム554の周面の間に記録媒体524を挟み込むことによって記録媒体524の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム554は、その外周面に吸着穴を設けるとともに、吸着穴から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体524を処理液ドラム554の周面に密着保持することができる。
【0126】
処理液ドラム554の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置556が設けられる。処理液塗布装置556は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム554上の記録媒体524に圧接されて計量後の処理液を記録媒体524に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置556によれば、処理液を計量しながら記録媒体524に塗布することができる。
【0127】
本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。
【0128】
処理液付与部514で処理液が付与された記録媒体524は、処理液ドラム554から中間搬送部526を介して描画部516の描画ドラム570へ受け渡される。
【0129】
(描画部)
描画部516は、描画ドラム(第2の搬送体)570、用紙抑えローラ574、及びインクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yを備えている。描画ドラム570は、処理液ドラム554と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)571を備える。描画ドラム570に固定された記録媒体524は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yからインクが付与される。
【0130】
インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yはそれぞれ、記録媒体524における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが好ましい。インク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yは、記録媒体524の搬送方向(描画ドラム570の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0131】
描画ドラム570上に密着保持された記録媒体524の記録面に向かって各インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部514で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体524上での色材流れなどが防止され、記録媒体524の記録面に画像が形成される。
【0132】
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組合せについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0133】
描画部516で画像が形成された記録媒体524は、描画ドラム570から中間搬送部
528を介して乾燥部518の乾燥ドラム576へ受け渡される。
【0134】
(乾燥部)
乾燥部518は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構
であり、図11に示すように、乾燥ドラム576、及び溶媒乾燥装置578を備えている。
【0135】
乾燥ドラム576は、処理液ドラム554と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)577を備え、この保持手段577によって記録媒体524の先端を保持できるようになっている。
【0136】
溶媒乾燥装置578は、乾燥ドラム576の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ580と、各ハロゲンヒータ580の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル582とで構成される。
【0137】
各温風噴出しノズル582から記録媒体524に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各ハロゲンヒータ580の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
【0138】
また、乾燥ドラム576の表面温度は50℃以上に設定されている。記録媒体524の裏面から加熱を行うことによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができる。なお、乾燥ドラム576の表面温度の上限については、特に限定されるものではないが、乾燥ドラム576の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75度以下(より好ましくは60℃以下)に設定されることが好ましい。
【0139】
乾燥ドラム576の外周面に、記録媒体524の記録面が外側を向くように(即ち、記録媒体524の記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体524のシワや浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
【0140】
乾燥部518で乾燥処理が行われた記録媒体524は、乾燥ドラム576から中間搬送部530を介して定着部520の定着ドラム584へ受け渡される。
【0141】
(定着部)
定着部520は、定着ドラム584、ハロゲンヒータ586、定着ローラ588、及びインラインセンサ590で構成される。定着ドラム584は、処理液ドラム554と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)585を備え、この保持手段585によって記録媒体524の先端を保持できるようになっている。
【0142】
定着ドラム584の回転により、記録媒体524は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ586による予備加熱と、定着ローラ588による定着処理と、インラインセンサ590による検査が行われる。
【0143】
ハロゲンヒータ586は、所定の温度(例えば、180℃)に制御される。これにより、記録媒体524の予備加熱が行われる。
【0144】
定着ローラ588は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性熱可塑性樹脂微粒子を溶着し、インクを皮膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体524を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ588は、定着ドラム584に対して圧接するように配置されており、定着ドラム584との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体524は、定着ローラ588と定着ドラム584との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0145】
また、定着ローラ588は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(たとえば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体524を加熱することによって、インクに含まれる熱可塑性樹脂微粒子のTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、熱可塑性樹脂微粒子が溶融される。これにより、記録媒体524の凹凸に押し込み定着が行われるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0146】
なお、図11の実施形態では、定着ローラ588を1つだけ設けた構成となっているが、画像層厚みや熱可塑性樹脂微粒子のTg特性に応じて、複数段設けた構成でもよい。
【0147】
一方、インラインセンサ590は、記録媒体524に定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0148】
上記の如く構成された定着部520によれば、乾燥部518で形成された薄層の画像層内の熱可塑性樹脂微粒子が定着ローラ588によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体524に固定定着させることができる。また、定着ドラム584の表面温度を50℃以上に設定することで、定着ドラム584の外周面に保持された記録媒体524を裏面から加熱することによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができるとともに、画像温度の昇温効果によって画像強度を高めることができる。
【0149】
また、インク中にUV硬化性モノマーを含有させた場合は、乾燥部で水分を充分に揮発させた後に、UV照射ランプを備えた定着部で、画像にUVを照射することで、UV硬化性モノマーを硬化重合させ、画像強度を向上させることができる。
【0150】
(排出部)
図11に示すように、定着部520に続いて排出部522が設けられている。排出部522は、排出トレイ592を備えており、この排出トレイ592と定着部520の定着ドラム584との間に、これらに対接するように渡し胴594、搬送ベルト596、張架ローラ598が設けられている。記録媒体524は、渡し胴594により搬送ベルト596に送られ、排出トレイ592に排出される。
【0151】
また、図には示されていないが、本例のインクジェット記録装置500には、上記構成の他、各インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部514に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体524の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0152】
なお、図11においてはドラム搬送方式のインクジェット記録装置について説明したが、本発明はこれに限定されず、ベルト搬送方式のインクジェット記録装置などにおいても用いることができる。
【符号の説明】
【0153】
10…ピエゾカバー、20…供給流路、21…循環流路、30…基板、32…液室、35…圧力室、40…振動板、50…圧電素子、55…ノズルプレート、60…ノズル、65…撥液膜、100、105…インクジェットヘッド、200…SOI基板、210…ハンドル層、215…BOX層、220…デバイス層、235、240…酸化膜、300…第1の膜、335…突出部、340…第2の膜、340a、342…撥液層(フッ化処理層)、350…開口部(ノズル孔)、360…保護部材、500…インクジェット記録装置、512…給紙部、514…処理液付与部、516…描画部、518…乾燥部、520…定着部、522…排出部、524…記録媒体
【技術分野】
【0001】
本発明はノズルプレートの製造方法、ノズルプレート、インクジェットヘッドおよび電子機器に係り、特に、新水性のノズル内面と撥水性の吐出面の境界を精度良く形成することができるノズルプレートの製造方法、ノズルプレート、インクジェットヘッドおよび電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置で用いられるインクジェットヘッドでは、ノズルプレートの表面にインクが付着していると、ノズルから吐出されるインク液滴が影響を受けて、インク液滴の吐出方向にばらつきが生じることがある。インクが付着すると、記録媒体上の所定位置にインク液滴を着弾させることが困難となり、画像品質が劣化する要因となる。
【0003】
そこで、ノズルプレート表面にインクが付着することを防止するために、ノズルプレートの表面に撥液膜を形成する方法が各種提案されている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、ノズルを形成する樹脂部材(有機膜)の表面に撥水膜を形成するため、樹脂部材の表面に撥水材をミスト化して暴露させることが記載されている。下記の特許文献2には、インクジェット記録ヘッドの吐出口の形成端面にイオン注入法により撥水性を付与する技術が記載されている。特許文献3には、ノズル形成部分の吐出面側に、予め撥水性を有する微粒子を含む金属をメッキし、その後メッキ表面にレーザーを照射し、撥水膜を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−210984号公報
【特許文献2】特開平6−320733号公報
【特許文献3】特開平9−277537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1から3に記載されているように、ノズルプレートの表面(インク吐出面)には撥液膜(撥液性被膜)が形成されており、インク滴の吐出特性の安定化が図られている。
【0007】
これに対し、ノズル内部は、インクの充填性などのために親水性に形成されている。したがって、新水性のノズル内面と撥水性の吐出面の境界が存在することになる。この境界が不均一になると、吐出安定性が低下するという問題が発生する。
【0008】
ここで、吐出面に撥液膜が形成されたノズルプレートにおける、従来のノズル孔の開口方法について図12を用いて説明する。
【0009】
まず、ノズルプレート610に図12(a)に示すような構造体を形成する。ノズルプレート610の表面には酸化膜622が形成されるとともに、凸部620が形成されている。このノズルプレート610の表面に、撥液膜624を形成する(図12(b))。
【0010】
次に、ドライエッチングにより、撥液膜624と凸部620を構成する酸化膜622のエッチングを行う。そして、凸部620を開口してノズル孔となる開口部626を形成する(図12(c))。
【0011】
以上のような工程により、親水性のノズル内面と撥水性の吐出面の境界精度の高いノズ
ルプレートを製造することができる。
【0012】
しかしながら、このプロセスは、凸部620と撥液膜624を同時にエッチングするため、そのエッチング工程により撥液膜624自体にダメージを与えてしまい、撥水性が低下する可能性があった。その結果、耐メンテナンス性、吐出精度に悪影響を及ぼす可能性があった。
【0013】
また、酸化膜622の厚みが厚い場合は、ノズルプレート表面のノズル孔周辺部が親水性となるため、吐出精度が低下するという問題があった。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、親水性のノズル孔内面と撥水性のノズルプレート表面(吐出面)との境界線を精度良く形成することで、吐出精度を向上させるノズルプレートの製造方法、ノズルプレート、インクジェットヘッドおよび電子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、基板の第1の面のノズルを形成すべき位置に非貫通状態の凹形状を形成する工程と、前記凹形状の表面に第1の膜を形成する工程と、前記第1の面の反対面である第2の面にエッチング処理を施し、前記第1の膜を凸形状に露出させる工程と、前記第2の面に第2の膜を形成する工程と、前記第1の膜の前記凸形状の一部が貫通するまで前記第1の膜および前記第2の膜をエッチングし孔部を形成する工程と、前記第2の面側表面の少なくとも前記孔部の開口部周辺に撥水性を付与する工程と、を備えたことを特徴とするノズルプレートの製造方法を提供する。
【0016】
請求項1によれば、第1の膜の凸形状の一部が貫通するまで第1の膜および第2の膜をエッチングし孔部を形成した後、第2の面側の表面の少なくとも孔部の開口部周辺に撥水性を付与している。したがって、エッチングなどにより第2の膜が除去されたり、第1の膜に厚みがあり、開口部周辺が第1の膜で形成され撥水性を有さない場合などに、開口部周辺に撥水性を付与することができる。そのため、孔部の開口部周辺を撥水性とすることができるので、吐出精度を安定化させることができる。
【0017】
請求項2は請求項1において、前記第2の膜が撥水性を有することを特徴とする。
【0018】
請求項3は請求項2において、前記撥水性を付与する工程は、前記第2の面側の前記エッチングにより除去された前記第1の膜の断面および前記第2の膜が剥離した部分に撥水性を付与することを特徴とする。
【0019】
請求項2および請求項3によれば、第2の膜の形成時において、第2の膜に撥水性を付与しているので、エッチングにより第2の面側の撥水性を有さなくなった部分にのみ、撥水性を付与することができる。したがって、撥水性を付与する工程の処理時間を削減することができ、第2の面側の全面に撥水性を付与することができる。
【0020】
請求項4は請求項1において、前記第2の膜は撥水性を有さず、前記撥水性を付与する工程で、前記第2の膜に撥水性を付与することを特徴とする。
【0021】
請求項4によれば、撥水性を付与する工程において、第2の膜に撥水性を付与することで、第2の面側全面に撥水性を付与することができる。
【0022】
請求項5は請求項1から4いずれか1項において、前記撥水性を付与する工程が、少なくともフッ素を含むガス中に暴露することを特徴とする。
【0023】
請求項5によれば、開口部周辺の膜が有機膜である場合、フッ素を含むガス中に暴露することで、有機膜中にフッ素を導入することで、撥水性を付与することができる。フッ素を含むガス中に暴露することで、有機膜を選択的に撥水膜とすることができる。
【0024】
請求項6は請求項1から4いずれか1項において、前記撥水性を付与する工程が、少なくともフッ素を含むイオンを注入することを特徴とする。
【0025】
請求項6によれば、撥水性を付与する工程が、フッ素を含むイオンを注入する工程とすることで、材料の制限を受けることなく撥水性を付与することができる。
【0026】
請求項7は請求項1から6いずれか1項において、前記第1の膜が、無機材料、金属材料、および、それらの複合材料の少なくとも一種類を含むことを特徴とする。
【0027】
第1の膜は、ノズルの内部表面となる膜であるため、請求項7によれば、第1の膜を無機材料、金属材料、および、それらの複合材料の少なくとも一種類とすることにより、エッチング後の撥水性を付与する工程で、第1の膜に撥水性が付与されることを防ぐことができる、撥水性を付与する工程がフッ素を含むガス中に暴露する工程であれば、第1の膜は無機材料、金属材料、および、それらの複合材料とすることで、第1の膜に撥水性が付与されることを防ぐことができる。また、イオンを注入する方法であれば、イオン注入は、所定の場所を選択的に行うことができるので、第1の膜が撥水性となることを防止することができる。
【0028】
請求項8は請求項1から7いずれか1項において、前記第2の膜が、フッ素を含むことを特徴とする。
【0029】
請求項8によれば、第2の膜がフッ素を含んでいるため、適切に吐出面の撥水性を確保することができる。
【0030】
本発明の請求項9は前記目的を達成するために、請求項1から8いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法により製造されたノズルプレートを提供する。
【0031】
本発明の請求項10は前記目的を達成するために、請求項9に記載のノズルプレートを備えたことを特徴とするインクジェットヘッドを提供する。
【0032】
本発明の請求項11は前記目的を達成するために、請求項10に記載のインクジェットヘッドを備えたことを特徴とする電子機器を提供する。
【0033】
本発明のノズルプレートの製造方法により製造されたノズルプレート、ノズルプレートを備えるインクジェットヘッド、電子機器によれば、液体の吐出性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のノズルプレートの製造方法によれば、エッチングを行なった後に、ノズル孔周辺部に親水性の部分が形成されても、再度撥水性を付与しているため、ノズルプレート表面の開口部周辺を撥水性とすることができる。したがって、液体の吐出安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態で製造されるインクジェットヘッドの断面図である。
【図2】インクジェットヘッドの製造方法を示した工程図である。
【図3】インクジェットヘッドの製造方法を示した工程図である。
【図4】インクジェットヘッドの製造方法を示した工程図である。
【図5】インクジェットヘッドの製造方法を示した工程図である。
【図6】有機膜に使用できる材料の一例を示した図である。
【図7】ノズル開口時のエッチング方法を示した図である。
【図8】フッ素ガス処理による撥液方法を説明する図である。
【図9】フッ素ガス処理による他の撥液方法を説明する図である。
【図10】イオン注入による撥液方法を説明する図である。
【図11】インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図12】従来のノズル孔の開口方法を示した工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面に従って、本発明に係るノズルプレートの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0037】
<インクジェットヘッドの製造方法>
図1は、インクジェットヘッド100の立体構造の一例を示す断面図であり、記録素子単位となる1チャンネル分のインク噴射素子が図示されている。
【0038】
同図に示すように、インクジェットヘッド100は、ピエゾカバー10、供給流路20、基板30、液室32、圧力室35、振動板40、圧電素子50、ノズルプレート55、ノズル60、及び撥液膜65から構成されている。
【0039】
圧力室35の天面を構成している振動板40の上には圧電素子50が形成されている。この圧電素子50に駆動電圧が印加されると、圧電素子50が変形する。これにより、振動板40が変形し、圧力室35の容積が減少し、圧力室35内のインクに圧力が加わり、インクがノズルプレート55に形成されたノズル60から吐出される。
【0040】
ノズル60からインクが吐出されると、供給流路20と連通されるインクの供給源たるタンク(不図示)から液室32を介して圧力室35へインクが充填される。
【0041】
なお、ノズル60から吐出された分のインクを供給させるのではなく、供給流路20から液室32に供給されたインクを、図1において破線で示した循環流路21を介して循環用のタンク(不図示)に循環させるように構成してもよい。
【0042】
撥液膜65は、ノズルプレート55の露出面に形成され、ノズルプレート55の吐出面を保護するとともに、吐出面に撥水性を持たせている。また、撥液膜65は、その開口部がノズルプレート55のノズル60の位置と適合するように形成される。ここでは、ノズル60の形状は直径が約2〜20μmの円形であるが、楕円形、正方形、あるいは長方形であってもよい。
【0043】
撥液膜65の形成には、様々な材料を用いることができ、一例としてフッ素重合体を用いてスピンコート法により形成する方法がある。
【0044】
次に、図1に示したノズルプレート55の製造方法について説明する。図2〜図5は、本実施の形態に係るノズルプレートの製造方法を示した工程図である。
【0045】
本実施形態のノズルプレート55は、SOI(Silicon On Insulator)基板200を用いて製造する。SOI基板200は、ハンドル層210、ハンドル層210の一面側に設けられたBOX(Buried Oxide)層(埋め込み酸化膜層)215、BOX層215のハンドル層210の反対側に設けられたデバイス層220とから構成されている(図2(a))。
【0046】
ここでは、ハンドル層210の厚さは約600μm、デバイス層220の厚さは約30μm、BOX層215の厚さは約1μmとなっている。
【0047】
まず、マスクアライメント用のレチクルマーク230をデバイス層220にエッチングする。さらに、デバイス層220の表面に酸化膜235、及びハンドル層210の表面に酸化膜240を形成する(図2(b))。これらの酸化膜は、例えば熱酸化法で形成することができ、厚さは少なくとも1μmとする。
【0048】
次に、酸化膜235をエッチングによりパターニングし、開口部250を形成する(図2(c))。開口部250は、酸化膜235が完全に除去され、デバイス層220が露出された状態となっている。
【0049】
エッチング方法としては、BOE(Buffered Oxide Etch)等のウエットエッチングや、ドライエッチングを用いることができる。
【0050】
続いて、酸化膜235の上に犠牲層260を形成する。次に、開口部250の位置に円形(又は楕円、長方形、正方形等)の開口部265を形成する(図2(d))。ここで、開口部250の中心と開口部265の中心は一致しており、かつ開口部265の口径は開口部250の口径よりも小さくなっている。
【0051】
また、開口部265は、デバイス層220及びBOX層215を貫通し、ハンドル層210の内部まで到達するように形成される。開口部265は、ハンドル層210の約1〜5μm(例えば2μm)だけ内部まで形成される。
【0052】
この開口部265は、多数のエッチング工程によって形成することができる。また、開口部265のエッチング後、犠牲層260を除去する。
【0053】
次に、開口部265を含む開口部250に、ライナー膜270を形成する(図3(e))。このライナー膜270は、開口部265を含む開口部250の次工程のエッチングに対する保護膜として機能する。ライナー膜270としては、窒化物、二酸化ケイ素、あるいは金属を用いることができる。窒化物ライナーであれば、低圧化学蒸着法(LPCVD)によって形成することができ、酸化物ライナーであれば、プラズマ(PECVD)や熱酸化処理により形成することができる。ライナー膜270の厚さは、最小で0.2μmとする。
【0054】
さらに、開口部265におけるライナー膜270の空洞部に、フォトレジスト280をパターニングする(図3(f))。
【0055】
次に、ライナー膜270をエッチングし、開口部250の位置のデバイス層220を露出させる(図3(g))。このとき、酸化膜235もエッチングされ、その厚みが減少する。
【0056】
開口部250の位置におけるデバイス層220の露出した部分をエッチングすることで、テーパー部290を形成する(図3(h))。例えば、KOH(水酸化カリウム)を用いた結晶異方性エッチングを行うことで、テーパー部290を四角錐状のテーパー形状に形成することができる。
【0057】
次に、リン酸あるいはフッ化水素によりライナー膜270及びフォトレジスト280を除去し、酸化膜235、及び開口部250に第1の膜300を形成する(図4(i))。第1の膜300を構成する材料としては、有機膜、無機膜、金属膜、またはその複合膜を使用することができる。有機膜としては、CH3基やCH2基、CH基が含まれるものが用いられ、例えば、ポリオレフィン(P0)系、ポリスチレン(PS)のようなP0系+芳香族のような材料、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系等の芳香族系化合物等が挙げられる。また、図6に示すような有機シラン材、特開2008−105231号公報に記載されるようなプラズマCVDを用いたシリコーン系のプラズマ重合膜やグラフト重合法によるグラフト膜を挙げることができる。無機膜としては、酸化物、窒化物、Si化合物、DLC膜など、金属膜としてはめっき膜を用いることができる。第1の膜の厚さは1μm未満である。
【0058】
SOI基板200の第1の膜300の形成された面が、基礎基板310と接合される(図4(j))。基礎基板310は、図1に示す圧力室35等が形成されているものである。これらの基板の接合には、接着剤や溶融接着を用いることができる。
【0059】
次に、研磨やドライエッチング等により酸化膜240及びハンドル層210を除去する(図4(k))。例えば、酸化膜240は、ドライエッチングにより除去することができる。ハンドル層210は、研磨によりおおまかに除去した後、残りの部分を第1の膜300及びBOX層215と選択的にウエットエッチング又はドライエッチングをすることにより除去することができる。
【0060】
ここで、開口部265はハンドル層210の約1〜5μmだけ内部まで形成され、さらに開口部265には第1の膜300が形成されたため、ハンドル層210が除去されてBOX層が露出した面には、第1の膜300が突出した突出部335が存在している。
【0061】
このBOX層が露出した面に、シリコンの付着を促進する付着促進層330を形成する(図4(l))。付着促進層330は、タンタルやチタン等の金属、又はこれらの酸化物から構成されており、さらに非多孔性の構造を有していることが好ましい。
【0062】
次に、付着促進層330の上に第2の膜340を形成する(図5(m))。第2の膜340は、有機膜、無機膜、金属膜、またはその複合膜を使用することができる。また、第2の膜340自体の撥水性の有無は、特に限定されない。撥水性を有さない材料としては、上述した第1の膜300と同様の材料を用いることができる。撥水性を有さない膜を使用することで、多様な成膜方法、原料を使用することができる。
【0063】
第2の膜が撥水性を有する場合は、テフロン(登録商標)(PTFE)やフルオロカーボン系の材料が用いられ、スプレーコーティングや化学蒸着法(CVD)によって平坦に形成される。具体的には、オプツール(ダイキン工業製)、サイトップ(旭硝子製)を挙げることができる。無機膜、金属膜としては、撥水性を有する膜の場合は、無機膜としてフッ素を注入したDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜、金属膜としては、撥水めっき膜を用いることができる。撥水性を有する膜を用いることで、後述するエッチング後の撥水性の補修する処理領域を少なくすることができ、処理時間を減らすことができる。しかしながら、第2の膜340を成膜する成膜方法の限定、使用する材料が限定される。また、第1の膜300と第2の膜340を同じ材料を用いることで、同じエッチングレートとすることができるので、エッチングにより除去される量を同じにすることができる。したがって、プロセスを簡略化し、コストを減らすことができる。
【0064】
また、第2の膜340は、その厚さが0.5μm以上となるように形成される。後に行われるエッチングにおいて、第2の膜340のエッチング速度が付着促進層330や酸化膜の侵食より早い場合には、1μm以上に形成することが好ましい。
【0065】
次に、ドライエッチングにより第1の膜300の突出部335の一部が貫通し、開口部(ノズル孔)350が形成されるまで、第2の膜340および第1の膜300をエッチングする(図5(o))。
【0066】
また、第1の膜300を貫通させる際、図7に示すように流体を供給流路20および圧力室35に注入しながらエッチングを行なう場合は、突出部335の表面が露出するタイミングでドライエッチングを停止してもよい(図5(n))。流体を注入しながらのエッチングの時間を短くすることができる。
【0067】
図5(n)の工程まで製造したインクジェットヘッド105に対し、図7に示すような治具400を設置し、治具400の開口部405から注入する流体410が漏れないように、治具400とインクジェットヘッド105を接着する。
【0068】
この状態で、エッチング溶液425を収容した容器420に、インクジェットヘッド105を浸漬させる。このとき、少なくとも第2の膜340がエッチング溶液425に浸るように浸漬させる。
【0069】
流体410としては、気体であれば、空気の他、窒素、アルゴン等の不活性ガスや、流路内を親水化可能なオゾン等の酸化性ガス、その他の混合ガスを用いることができる。また、液体であれば、水溶液、非水溶液、又はエッチング溶液425と混合しない溶液等を用いることができる。流体の注入方法は、例えば特開平5−254128号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0070】
また、第2の膜340が撥水性を有する場合は、エッチング溶液425としては、フッ酸溶液、又はフッ酸を含む混合液が好ましい。界面活性剤等を含む混合液を用いることで、溶液の表面張力を変えることができる。また、エッチング速度によって、フッ酸の濃度を適宜調整してもよい。フッ酸は撥水性を有する第2の膜340にはじかれる結果、酸化膜部分である突出部335の第1の膜300のみをエッチングするので、選択性の高い加工が可能となる。
【0071】
このように、突出部335の第1の膜300のエッチングを行い、開口部350を形成する(図5(o))。流体410を注入することで、開口部350が形成された際に、開口部350内部にエッチング溶液425が入ってくることを防止することができる。したがって、突出部335の内部の酸化膜は、エッチング溶液425によってエッチングされず、流体410によって保護される。
【0072】
このようにして形成されたインクジェットヘッドは、図5(o)に示すように、開口部350周辺の第2の膜340がエッチングにより除去される場合があり、インクの吐出精度に影響を及ぼす場合がある。また、第2の膜340が除去されなくても、第1の膜300の膜厚が厚く、開口部350周辺部が撥水性を有さず、吐出精度が安定しない場合がある。したがって、開口部350周辺部に撥水性を付与することが好ましい。撥水性を付与する方法としては、(1)フッ素ガス中に暴露する方法、(2)イオン注入法またはレーザー注入法、により行うことができる。撥水性を付与するために、フッ素ガス中に暴露する方法で行うか、イオン注入法またはレーザー注入法により行うかは、第1の膜300、第2の膜340の種類により適宜設定することが好ましい。以下、撥水性を付与する方法を説明する。
【0073】
≪撥水性付与方法≫
(1)フッ素ガス処理
図8は、フッ素ガス処理により撥水性を付与する方法を示した説明図である。フッ素ガス処理により撥水性を付与する場合は、撥水性を付与する基板に有機膜が適用される。図8は第1の膜300が無機膜または金属膜、第2の膜340が撥水性を有さない有機膜の場合である。第2の膜340は、樹脂材料で構成され、CH3基やCH2基、CH基が含まれるものが好ましい。
【0074】
<フッ化処理工程>
まず、図2〜図5で説明したように、図8(a)に示す開口部350を有するインクジェットヘッドを製造する。
【0075】
続いて、図8(b)に示すように、第2の膜340をフッ化処理する。フッ化処理は、例えば、フッ素ガスと窒素ガス(不活性ガス)との混合ガスを第2の膜340と直接反応させることによってフッ化処理を行う(図8参照)。これにより、第2の膜340に撥液層(フッ化処理層)340aが形成される。
【0076】
フッ化処理は、フッ素ガス単体でも反応は可能であるが、特開2005−279175号公報明細書に記載されるように、フッ素は反応性が高いので、フッ素単体と直接反応させると、激しく反応しすぎて主鎖のC−C結合まで切れてしまう。
【0077】
そこで、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスとの混合ガスでフッ素ガスを反応炉内に導入し、インクジェットヘッドが変形、侵食されない範囲の任意の温度にてフッ素ガスと反応させる態様が好ましい。また、このときの混合ガス中のフッ素ガス濃度は0.01%以上が好ましい。フッ素化の程度は、フッ素ガスの濃度、反応炉温度、反応時間で制御可能である。
【0078】
フッ化処理の具体的な例については、例えば、特開2005−54067号公報明細書や特開2004−143622号公報明細書に記載されている。具体的には、インクジェットヘッドを処理容器に入れて、処理容器を100Pa以下に減圧する。次に、窒素ガス等の不活性ガスに雰囲気を置換する。その後、フッ素ガスが0.1〜99%となるように容器内に導入する。このとき、フッ素ガスの圧力は1〜1000kPaであることが好ましい。フッ素ガスと接触させる処理時間は1秒〜10日、好ましくは10分〜10時間である。処理温度は−50〜300度、好ましくは0〜100度である。また、フッ素侵入深さは、同一温度では時間が長いほど大きく、また同一時間では温度が高いほど大きくなる。
【0079】
第1の膜300は無機膜または金属膜であるので、フッ化処理によりフッ素化されないため、撥水性が付与されない。つまり、第2の膜340の有機膜のみ選択的に撥水性を付与することができるので、少ない工程でインクジェットヘッドのノズルプレート表面に撥水性を付与することができる。
【0080】
図9は、フッ素ガス処理により撥水性を付与する他の方法を示した説明図である。図9は第1の膜300および第2の膜340が有機膜の場合を説明した図である。第1の膜300および第2の膜340としては、上述した材料を用いることができる。本実施形態においては、図9(a)に示すように、第1の膜300の膜厚に厚みがあり、開口部350周辺が撥水性を有さない場合に、フッ素ガスで撥水性を付与する際に有効である。図9に示す撥水性付与方法は、フッ化処理工程、保護部材形成工程、撥液層除去工程、及び保護部材除去工程を含んで構成される、以下、各工程について説明する。
【0081】
<フッ化処理工程>
まず、図2〜5で説明したように、図9(a)に示す開口部350を有するインクジェットヘッドを製造する。フッ化処理については、図8で記載したフッ化処理工程と同様に第1の膜300がフッ化処理される(図9(b))。第2の膜340がすでに撥水性を有していても、CH基を有している場合は、フッ素に置換され、撥水性を向上させることができる。第2の膜340が撥水性を有していない場合は、フッ化処理され、撥水性が付与される。
【0082】
<保護部材形成工程>
上記のようにしてフッ化処理を行った後、図9(c)に示すように、ノズルプレート表面の第2の膜340上に保護部材360を形成する。例えば、保護部材360として、紫外線硬化樹脂などの樹脂部材や、ノズル面を覆い保護するような金属性またはセラミックス製の治具、マスキングテープ等の保護テープを用いることができる。好適には、ハンドリング性に優れ、容易に形成・脱離が可能なテープ状の部材が好ましい。具体的には、ノズルプレート表面側の第2の膜340、撥液層342上に当該保護テープを貼り付ければよい。
【0083】
本実施形態では、保護部材360として、基材の表面に再剥離型アクリル系粘着剤を有するマスキングテープが用いられる態様が好ましい。この態様によれば、保護部材板を貼付する技術ではなく、マスキングテープを貼り付ける技術を採用しているので生産性が高く、酢酸ブチル等の溶剤を用いないので環境負荷の問題が生じず、また、基材の表面に再剥離型アクリル系粘着剤を有するマスキングテープを用いているのでマスキングテープの剥離が容易であり、この点でも生産性が高い。
【0084】
更に好ましい態様として、マスキングテープの基材がポリエステルフィルム又はポリエチレンフィルムで構成されることが好ましい。本発明の製造方法においては、マスキングテープの基材として種々の材質のものを用いることができるが、マスキングテープの基材としてポリエステルフィルム又はポリエチレンフィルムを用いることにより、プラズマ処理の影響を受けても強度を維持できる。
【0085】
<撥液層除去工程>
保護部材360の形成後、図9(d)に示すように、インクジェットヘッドのノズル内壁面に形成された撥液層342を除去すると同時に当該面の親液化を行う。このとき用いられる処理方法としては、プラズマ処理、酸処理、放電処理、紫外線処理、電子線処理、放射線処理、又はオゾンガス処理が好ましく、これらの中でもプラズマ処理(更に好ましくは酸素を含むガスによるプラズマ処理)や紫外線処理、オゾンガス処理(更に好ましくは高純度オゾンガス処理)が好ましく用いられる。これらの処理方法によれば、フッ化処理されたノズル内壁面から撥液層342を除去して極性基を生成させることによって、ノ
ズル内壁面を親液化することができる。
【0086】
<親液化処理工程>
撥液層除去工程を行なった後、ノズル内壁面(第1の膜300)の経時安定性を更に高めるため親液化処理を行うこともできる。
【0087】
親液化処理工程としてガス処理が用いられ、具体的には、オゾンガス処理や、フッ素ガスと酸素ガスとの混合ガスによるガス処理が好ましく用いられる。このようなガス処理によれば、ノズル内壁面を均一に親液化処理することができ、プラズマ処理等に比べて経時安定性の優れた親液層をノズル内壁面に形成することが可能となる。
【0088】
オゾンガスによるガス処理を行う態様では、オゾンガス雰囲気中にインクジェットヘッドを晒す工程が実施される。例えば、ポリイミドフィルムに対して、オゾン濃度20vol%、温度60℃、処理時間30分の条件で処理した場合、プラズマ処理では2〜3日で親液性が劣化するのに対して、オゾンガスによるガス処理の場合では親液性が1ヶ月以上維持される。このようにオゾンガスによるガス処理では、プラズマ処理に比べて経時安定性が優れている。オゾンガス処理は、金属材料、有機材料、無機材料に関わらず、酸化処理が可能である。
【0089】
フッ素ガスと酸素ガスとの混合ガスによるガス処理を行う態様では、混合ガス雰囲気中にインクジェットヘッドを晒す工程が実施される。例えば、フッ化処理工程で用いられた窒素ガスを酸素ガスに切り換えるだけで、同一処理容器(チャンバー)内での処理が可能となり、生産性を向上させることができる。
【0090】
フッ素ガスと酸素ガスの混合ガスによるガス処理を行う態様において、混合ガス雰囲気中にインクジェットヘッドを晒した後、水蒸気雰囲気中にインクジェットヘッドを晒すことがより好ましい。水蒸気雰囲気中にインクジェットヘッドを晒すことによってカルボキシル基を導入することができ、ノズル内壁面を更に親液化することができる。
【0091】
水蒸気雰囲気中にインクジェットヘッドを晒す態様において、処理容器内の混合ガスを除去せずに水蒸気を導入してもよいし、混合ガスを除去してから水蒸気を処理容器内に導入してもよい。但し、親液化処理の安定化を図る観点から後者の態様が好ましい。
【0092】
また、親液化処理工程もガス処理によって行われるので、ガス処理による均一な処理(表面均一性、コンフォーマル性等)や、低温処理が可能となる。また、ガス処理によれば、基材に対する密着性も考慮する必要がない。
【0093】
なお、親液化処理の実施は任意であり、行なっても行なわなくてもよい。
【0094】
<保護部材除去工程>
上記のようにしてノズル内壁面の親液化を行った後、図9(f)に示すように、ノズルプレート表面の第2の膜340、撥液層342上の保護部材360を除去する。例えば、保護部材360として再剥離型アクリル系粘着剤を有するマスキングテープが用いられる場合には、ノズルプレート表面側の第2の膜340、撥液層342上に貼り付けられたマスキングテープを容易に剥離することができ、生産性を向上させることができる。
【0095】
こうして、撥液面及び親液面を有する樹脂構造体として、図1に示したノズルプレート
55を得ることができる。
【0096】
また、本実施形態においては、親液化処理工程の後に保護部材除去工程を行っているが、これらの工程の順序を逆にすることも可能である。即ち、保護部材360の除去を行った後にノズル内壁面の親液化処理を行うようにしてもよい。オゾンガスや混合ガスによるガス処理によれば、保護部材360がなくても第2の膜340、撥液層342はエッチングされることはないため、上述のように親液化処理工程が行われる前に保護部材除去工程が行われても特に問題が生じるものではない。
【0097】
このように、フッ化処理によるガス処理を用いることにより、基材形状に左右されることなく均一処理(表面均一性、コンフォーマル性等)が可能となり、大面積の処理が可能である。また、常温、常圧での処理が可能である。
【0098】
(2)イオン注入法またはレーザー注入法
図10はイオン注入法により撥水性を付与する方法を示した説明図である。図10に示す撥水性付与方法は、イオン注入工程および加熱処理工程を含んで構成される。以下、各工程について説明する。
【0099】
<イオン注入工程>
まず、図2〜図5で説明したように、図10(a)に示す開口部350を有するインクジェットヘッドを製造する。なお、図10(a)に示すインクジェットヘッドは開口部350周辺の第2の膜340が除去されているが、図8(a)、図9(a)に示すような第2の膜340が除去されていない場合にも適用は可能である。
【0100】
レーザーによるイオン注入によって、撥水性を付与する場合は、特定の部分、例えば、ノズル面のみ、ノズル孔の開口部付近のみに行なうことができ、リニアな照射も可能である。したがって、所望の部分にのみ撥水性を付与することができるので、高い選択性を有する。また、第1の膜300および第2の膜340の材料、撥水性の有無に関わらず、使用することができる。
【0101】
図10(b)に示すように、第2の膜340が撥水性を有する場合は、ノズルプレート表面のうち、少なくとも各ノズル孔の開口部350周辺部(以下、「ノズル開口周辺部」という。)に撥液性を示すイオン(撥液種)を注入する。このとき、注入されるイオンは、例えば、C2F4+イオン等のフッ素系イオンが挙げられる。
【0102】
イオンを注入する方法としては、例えば特開平6−316079号公報明細書に記載されるように従来周知のイオン注入法(イオン注入とレーザーを同時照射する方法も適用可)を用いることができる。イオン注入法によれば、半導体(Si等)、ガラス、セラミックス、半導体の酸化物、有機高分子や有機樹脂等の有機化合物、また、無機化合物に対してイオンを注入することが可能であり、インクジェットヘッドの基材として材料の選択幅が広いといった利点がある。
【0103】
イオン注入法の条件としては、イオン源としてCF4、C2F6、CHF3など少なくともCとFを含む常圧、減圧下でガスであるものすべて及び、F2+CH4などFを含むガスとCを含むガスの組み合わせなどがある。更に、イオン注入する材料がCを含むときはFを含むガスのみでも良い。また、イオン種としてはCF3+、C2F6+、C2F3+イオンなど上記イオン源から発生するCとFを含むイオン種すべて、及びF+イオンとC+イオンの組み合わせが好ましい。更にイオン注入する材料がCを含むときはF+イオンのみでも良い。
【0104】
イオンビーム径は、少なくともノズル開口周辺部を含む領域(撥液膜過除去部分)を照射可能なビーム径であればよい。例えば、ノズル径50μmに対して、イオンビーム径0.5〜50μmで処理される。
【0105】
また、イオンを注入する他の方法として、レーザードープ法、プラズマドープ法を用いることができる。レーザードープ法によれば、低温・高速処理が可能となり、表面に高濃度でイオンを注入することができる。また、プラズマドープ法によれば、低温で大面積処理が可能となる。
【0106】
このようにノズルプレート表面のノズル開口周辺部に対して選択的に撥液性を示すイオン(フッ素系イオン等)を注入して表面を改質することにより、エッチングにより第2の膜340が除去された部分(ノズル開口周辺部)に撥液性を付与して部分的に補修を行なうことができる。また、第2の膜340に撥液性が付与されていない場合は、ノズルプレート全面にイオン注入を行なうことでノズルプレート表面に撥水性を付与することができる。したがって、吐出安定性、メンテナンス性を向上させることができる。しかしながら、第2の膜340が有機膜の場合は、イオン注入によりダメージを与える可能性もあるので、第2の膜340にはイオン注入を行なわない、または、フッ素ガス処理により撥水性を付与することが好ましい。
【0107】
<加熱処理工程>
第2の膜340として樹脂系撥液膜が適用される場合には、上記のようにしてイオン注入が行われた後、ノズルプレートのアニール処理を行うことが好ましい。アニール処理を行うことによって、樹脂系撥液膜部分の重合度が高まり、耐久性が向上し、それと同時にイオン注入部分(即ち、ノズル開口周辺部)の撥液性が向上する。
【0108】
なお、アニール処理を行わずに常温放置(数日間)する態様でも樹脂系撥液膜の重合度を高めることは可能であるが、アニール処理を行う態様の方がより早く処理可能である。
【0109】
アニール処理時における処理温度としては、樹脂系撥液膜が蒸発しない温度以下で行えばよく、使用する膜によって温度、処理時間を適宜選択すればよい。
【0110】
例えば、フッ素含有系撥液膜であるフルオロカーボン系撥液膜(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン:C10H4C13F17Siでは、基板上に成膜した場合、300℃で蒸発してしまうので、アニール温度は50℃〜300℃、好ましくは100℃〜250℃、処理時間は数分〜数十時間であり、高温になるほど処理時間は短くできる。
【0111】
加熱装置としては、恒温槽、赤外線炉、レーザーアニール等の方法がある。また、レーザーアニールと同時にイオン注入を行う方法を用いるようにしてもよい。
【0112】
こうして、図10(c)に示すように、ノズルプレートの表面に撥液性を有する第2の膜340が形成されるとともに、ノズル開口周辺部に撥液性を示すイオン(フッ素系イオン等)を注入することによってノズルプレート全面に撥液性が付与され、図1示したノズルプレート55を得ることができる。
【0113】
イオン注入法によれば、開口部350を形成した後、第2の膜340の撥水膜がエッチングにより除去された部分、および、第1の膜300のノズルプレート表面に露出した断面部に撥水性を付与することができる。したがって、ノズルプレート表面の少なくともノズル孔の開口周辺部に撥液性を示すイオン(撥液種)として、例えばフッ素系イオンなどを選択的に注入することで、ノズルプレート表面全面の撥液性を付与することができる。これにより、ノズルプレート表面は撥液性、ノズル孔内部は親水性とすることが可能となり、当該ノズルプレートを備えたインクジェットヘッドのインク吐出安定性およびメンテナンス性を向上させることができる。
【0114】
また、第2の膜340として樹脂系撥液膜が用いられる場合にはイオン注入後にアニール処理を行うことで、樹脂系撥液膜の重合度が高まり、耐久性が向上され、それと同時にイオン注入部分であるノズル開口周辺部の撥液性をより高めることができる。
【0115】
ノズルプレートの表面を撥液処理する方法として、上述したように、第2の膜340が撥液性を有さない場合、ノズルプレート表面の全体に撥液性を示すイオンを注入することも可能であるが、この方法では、コストおよび処理時間が多くかかるという問題がある。また、ノズルプレートの表面のうちノズル開口周辺部のみにイオン注入を行なうだけでは、ノズルプレート全体のメンテナンス性を確保するのは困難である。
【0116】
したがって、大面積処理が容易なドライプロセス(例えばCVD)などで撥液性を有する第2の膜340を形成しておき、エッチングにより第2の膜340が剥れるなどしたため、撥水性を有しない部分(開口部周辺部など)に、イオン注入を部分的に行なって撥水性を付与することが好ましい。全体の処理時間を削減することができ、コストダウンを可能とすることができる。
【0117】
また、本実施形態においては、撥液性を示すイオン(撥液種)を注入することによって撥液性が付与されているため、撥液膜自体の硬度や基材との密着性を考慮する必要がなく、材料の選択性を向上させることができる。
【0118】
また、撥水性付与方法は、フッ素ガス処理方法とイオン注入法またはレーザー注入法を組み合わせて処理することも可能である。この場合、順番については特に限定されない。
【0119】
[インクジェット記録装置の全体構成]
次に、本発明のノズルプレートの製造方法により形成されたノズルプレートを適用した例として、インクジェット記録装置について説明する。
【0120】
図11は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成図である。このインクジェット記録装置500は、描画部516の圧胴(描画ドラム570)に保持された記録媒体524(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体524上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体524上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0121】
図示のように、インクジェット記録装置500は、主として、給紙部512、処理液付与部514、描画部516、乾燥部518、定着部520、及び排出部522を備えて構成される。
【0122】
(給紙部)
給紙部512は、記録媒体524を処理液付与部514に供給する機構であり、当該給紙部512には、枚葉紙である記録媒体524が積層されている。給紙部512には、給紙トレイ550が設けられ、この給紙トレイ550から記録媒体524が一枚ずつ処理液付与部514に給紙される。
【0123】
本例のインクジェット記録装置500では、記録媒体524として、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体524を使用することができる。給紙部512において各種の記録媒体をそれぞれ区別して集積する複数の用紙トレイ(不図示)を備え、これら複数の用紙トレイの中から給紙トレイ550に送る用紙を自動で切り換える態様も可能であるし、必要に応じてオペレータが用紙トレイを選択し、若しくは交換する態様も可能である。なお、本例では、記録媒体524として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0124】
(処理液付与部)
処理液付与部514は、記録媒体524の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部516で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0125】
図11に示すように、処理液付与部514は、給紙胴552、処理液ドラム554、及び処理液塗布装置556を備えている。処理液ドラム554は、記録媒体524を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム554は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)555を備え、この保持手段555の爪と処理液ドラム554の周面の間に記録媒体524を挟み込むことによって記録媒体524の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム554は、その外周面に吸着穴を設けるとともに、吸着穴から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体524を処理液ドラム554の周面に密着保持することができる。
【0126】
処理液ドラム554の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置556が設けられる。処理液塗布装置556は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム554上の記録媒体524に圧接されて計量後の処理液を記録媒体524に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置556によれば、処理液を計量しながら記録媒体524に塗布することができる。
【0127】
本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。
【0128】
処理液付与部514で処理液が付与された記録媒体524は、処理液ドラム554から中間搬送部526を介して描画部516の描画ドラム570へ受け渡される。
【0129】
(描画部)
描画部516は、描画ドラム(第2の搬送体)570、用紙抑えローラ574、及びインクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yを備えている。描画ドラム570は、処理液ドラム554と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)571を備える。描画ドラム570に固定された記録媒体524は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yからインクが付与される。
【0130】
インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yはそれぞれ、記録媒体524における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが好ましい。インク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yは、記録媒体524の搬送方向(描画ドラム570の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0131】
描画ドラム570上に密着保持された記録媒体524の記録面に向かって各インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部514で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体524上での色材流れなどが防止され、記録媒体524の記録面に画像が形成される。
【0132】
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組合せについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0133】
描画部516で画像が形成された記録媒体524は、描画ドラム570から中間搬送部
528を介して乾燥部518の乾燥ドラム576へ受け渡される。
【0134】
(乾燥部)
乾燥部518は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構
であり、図11に示すように、乾燥ドラム576、及び溶媒乾燥装置578を備えている。
【0135】
乾燥ドラム576は、処理液ドラム554と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)577を備え、この保持手段577によって記録媒体524の先端を保持できるようになっている。
【0136】
溶媒乾燥装置578は、乾燥ドラム576の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ580と、各ハロゲンヒータ580の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル582とで構成される。
【0137】
各温風噴出しノズル582から記録媒体524に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各ハロゲンヒータ580の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
【0138】
また、乾燥ドラム576の表面温度は50℃以上に設定されている。記録媒体524の裏面から加熱を行うことによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができる。なお、乾燥ドラム576の表面温度の上限については、特に限定されるものではないが、乾燥ドラム576の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75度以下(より好ましくは60℃以下)に設定されることが好ましい。
【0139】
乾燥ドラム576の外周面に、記録媒体524の記録面が外側を向くように(即ち、記録媒体524の記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体524のシワや浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
【0140】
乾燥部518で乾燥処理が行われた記録媒体524は、乾燥ドラム576から中間搬送部530を介して定着部520の定着ドラム584へ受け渡される。
【0141】
(定着部)
定着部520は、定着ドラム584、ハロゲンヒータ586、定着ローラ588、及びインラインセンサ590で構成される。定着ドラム584は、処理液ドラム554と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)585を備え、この保持手段585によって記録媒体524の先端を保持できるようになっている。
【0142】
定着ドラム584の回転により、記録媒体524は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ586による予備加熱と、定着ローラ588による定着処理と、インラインセンサ590による検査が行われる。
【0143】
ハロゲンヒータ586は、所定の温度(例えば、180℃)に制御される。これにより、記録媒体524の予備加熱が行われる。
【0144】
定着ローラ588は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性熱可塑性樹脂微粒子を溶着し、インクを皮膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体524を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ588は、定着ドラム584に対して圧接するように配置されており、定着ドラム584との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体524は、定着ローラ588と定着ドラム584との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0145】
また、定着ローラ588は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(たとえば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体524を加熱することによって、インクに含まれる熱可塑性樹脂微粒子のTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、熱可塑性樹脂微粒子が溶融される。これにより、記録媒体524の凹凸に押し込み定着が行われるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0146】
なお、図11の実施形態では、定着ローラ588を1つだけ設けた構成となっているが、画像層厚みや熱可塑性樹脂微粒子のTg特性に応じて、複数段設けた構成でもよい。
【0147】
一方、インラインセンサ590は、記録媒体524に定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0148】
上記の如く構成された定着部520によれば、乾燥部518で形成された薄層の画像層内の熱可塑性樹脂微粒子が定着ローラ588によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体524に固定定着させることができる。また、定着ドラム584の表面温度を50℃以上に設定することで、定着ドラム584の外周面に保持された記録媒体524を裏面から加熱することによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができるとともに、画像温度の昇温効果によって画像強度を高めることができる。
【0149】
また、インク中にUV硬化性モノマーを含有させた場合は、乾燥部で水分を充分に揮発させた後に、UV照射ランプを備えた定着部で、画像にUVを照射することで、UV硬化性モノマーを硬化重合させ、画像強度を向上させることができる。
【0150】
(排出部)
図11に示すように、定着部520に続いて排出部522が設けられている。排出部522は、排出トレイ592を備えており、この排出トレイ592と定着部520の定着ドラム584との間に、これらに対接するように渡し胴594、搬送ベルト596、張架ローラ598が設けられている。記録媒体524は、渡し胴594により搬送ベルト596に送られ、排出トレイ592に排出される。
【0151】
また、図には示されていないが、本例のインクジェット記録装置500には、上記構成の他、各インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部514に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド572M、572K、572C、572Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体524の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0152】
なお、図11においてはドラム搬送方式のインクジェット記録装置について説明したが、本発明はこれに限定されず、ベルト搬送方式のインクジェット記録装置などにおいても用いることができる。
【符号の説明】
【0153】
10…ピエゾカバー、20…供給流路、21…循環流路、30…基板、32…液室、35…圧力室、40…振動板、50…圧電素子、55…ノズルプレート、60…ノズル、65…撥液膜、100、105…インクジェットヘッド、200…SOI基板、210…ハンドル層、215…BOX層、220…デバイス層、235、240…酸化膜、300…第1の膜、335…突出部、340…第2の膜、340a、342…撥液層(フッ化処理層)、350…開口部(ノズル孔)、360…保護部材、500…インクジェット記録装置、512…給紙部、514…処理液付与部、516…描画部、518…乾燥部、520…定着部、522…排出部、524…記録媒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の第1の面のノズルを形成すべき位置に非貫通状態の凹形状を形成する工程と、
前記凹形状の表面に第1の膜を形成する工程と、
前記第1の面の反対面である第2の面にエッチング処理を施し、前記第1の膜を凸形状に露出させる工程と、
前記第2の面に第2の膜を形成する工程と、
前記第1の膜の前記凸形状の一部が貫通するまで前記第1の膜および前記第2の膜をエッチングし孔部を形成する工程と、
前記第2の面側表面の少なくとも前記孔部の開口部周辺に撥水性を付与する工程と、を備えたことを特徴とするノズルプレートの製造方法。
【請求項2】
前記第2の膜が撥水性を有することを特徴とする請求項1に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項3】
前記撥水性を付与する工程は、前記第2の面側の前記エッチングにより除去された前記第1の膜の断面および前記第2の膜が剥離した部分に撥水性を付与することを特徴とする請求項2に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項4】
前記第2の膜は撥水性を有さず、前記撥水性を付与する工程で、前記第2の膜に撥水性を付与することを特徴とする請求項1に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項5】
前記撥水性を付与する工程が、少なくともフッ素を含むガス中に暴露することを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項6】
前記撥水性を付与する工程が、少なくともフッ素を含むイオンを注入することを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項7】
前記第1の膜が、無機材料、金属材料、および、それらの複合材料の少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項1から6いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項8】
前記第2の膜が、フッ素を含むことを特徴とする請求項1から7いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項9】
請求項1から8いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法により製造されたノズルプレート。
【請求項10】
請求項9に記載のノズルプレートを備えたことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェットヘッドを備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項1】
基板の第1の面のノズルを形成すべき位置に非貫通状態の凹形状を形成する工程と、
前記凹形状の表面に第1の膜を形成する工程と、
前記第1の面の反対面である第2の面にエッチング処理を施し、前記第1の膜を凸形状に露出させる工程と、
前記第2の面に第2の膜を形成する工程と、
前記第1の膜の前記凸形状の一部が貫通するまで前記第1の膜および前記第2の膜をエッチングし孔部を形成する工程と、
前記第2の面側表面の少なくとも前記孔部の開口部周辺に撥水性を付与する工程と、を備えたことを特徴とするノズルプレートの製造方法。
【請求項2】
前記第2の膜が撥水性を有することを特徴とする請求項1に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項3】
前記撥水性を付与する工程は、前記第2の面側の前記エッチングにより除去された前記第1の膜の断面および前記第2の膜が剥離した部分に撥水性を付与することを特徴とする請求項2に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項4】
前記第2の膜は撥水性を有さず、前記撥水性を付与する工程で、前記第2の膜に撥水性を付与することを特徴とする請求項1に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項5】
前記撥水性を付与する工程が、少なくともフッ素を含むガス中に暴露することを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項6】
前記撥水性を付与する工程が、少なくともフッ素を含むイオンを注入することを特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項7】
前記第1の膜が、無機材料、金属材料、および、それらの複合材料の少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項1から6いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項8】
前記第2の膜が、フッ素を含むことを特徴とする請求項1から7いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法。
【請求項9】
請求項1から8いずれか1項に記載のノズルプレートの製造方法により製造されたノズルプレート。
【請求項10】
請求項9に記載のノズルプレートを備えたことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェットヘッドを備えたことを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−56122(P2012−56122A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199241(P2010−199241)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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