説明

ノズル板、液滴吐出装置、画像形成装置及びノズル板の製造方法

【課題】液滴吐出ヘッドを構成する流路板に対する接合剥れが発生しにくいノズル板を提供する。
【解決手段】複数の加圧液室及び加圧液室に液体を供給する液体供給路を形成した流路板に対して接合され、各加圧液室と連通して液体を吐出する複数のノズル孔41を備え、液滴吐出面40Aにおいて最も外側の列に設けたノズル41のエッジ部から、少なくとも流路板における加圧液室及び液体供給路よりなる流路構造の形成箇所の端部まで板厚が減少する板厚漸減面42を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出する液滴吐出装置に用いられるノズル板と、それを備えた液滴吐出装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、数十ミクロンの大きさで形成したノズル孔を有するノズル板と、加圧液室を有する流路板と、を備え、圧電素子などの圧力発生手段に電圧を印加して撓み(伸張/収縮)運動をさせることにより加圧液室の体積を変化させ、加圧液室内の圧力を変化させることにより、連通するノズル孔から、インクやDNA試料、液体レジストなどの液体を吐出する液滴吐出ヘッド(液滴吐出装置)が知られている。
このような液滴吐出ヘッドのうち、インク等の記録液を吐出する液滴吐出ヘッドを適用したプリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ、プリンタ/ファックス/複写機複合機等の画像形成装置としては、液滴吐出ヘッドで構成した記録ヘッド(印字ヘッド)をキャリッジに搭載して、このキャリッジを記録媒体(以下「用紙」というが、材質を紙に限定するものではない)の搬送方向に対して直交する方向にシリアルスキャンさせるとともに、用紙を記録幅に応じて間歇的に搬送し、搬送と記録を交互に繰り返すことによって用紙に画像を形成するシリアル型画像形成装置や、1ヘッド当たりのノズル数を増やしたライン型の記録ヘッドを搭載したライン型画像形成装置がある。
かかる画像形成装置における大きな技術課題として、高速化及び高画質化があり、この課題への対応策として、特にライン型の記録ヘッドについては記録ヘッドをより長尺化し、1ヘッドあたりのノズル数をさらに増加させる方法がある。
なお、ヘッドを長尺化するに際しては、低コスト化の要求があるため、ノズル板の材料としては、長尺化への対応が比較的容易で、コストも低い金属プレートや樹脂プレートが選定されやすい。
ノズル孔はエッチングやプレスによる打ち抜き加工や塑性加工により形成されるが、ノズル孔をエッチングで加工する場合は加工に長時間を要するために、ライン型ヘッドなどの長尺なノズル板の加工には不向きであり、パンチを用いたプレス加工が有効であると考えられている。
【0003】
さて、金属プレートにプレス加工でノズル孔を高密度で形成する際に、ダイとストリッパーによりワークを固定して加工が行われるが、金属プレートに複数のノズル孔を形成すると加工硬化によりノズル孔の形成部分に撓みが発生する。
ノズル板を流路板に接合する際には、ノズル板全体を加圧しながら接合を行うことが一般的だが、この加圧によって、プレス加工に起因する撓み部分が平坦化されるものの、ノズル板を構成する金属部品の復元力により撓み形状が元に戻り、ノズル部品と流路板での接合強度が弱まり接合剥れが発生することがある。
また、撓みが発生した状態で加圧接合するため、撓みが発生しているノズル孔周辺の箇所と、撓みが発生していない平坦部とでは加圧力に差が生じるため、均等な加圧が得られず、やはり接合強度が乏しい部分が生まれて、その部分で接合剥れが発生することがある。
さらに、撓みが発生したノズル孔形成部と接する流路板の加圧液室付近は流路構造が高密度に形成されているために、ノズル板との接合面積が狭く、流路構造が形成されていない部分よりも接合強度が弱いため、ここでも接合剥れが発生しやすい。
上記の問題を踏まえ、ノズル板と流路板との接合強度を向上させるために、特許文献1には、液滴吐出面に微細な複数の凸部を形成し、接合の際の押圧すべき箇所を均等に押圧できるようにした方法が記載されている。
また、特許文献2には、ノズル板の板厚を厚くし、薄板化が必要な場合には、組み立て後に研磨加工により薄板化する方法が開示されている。これによれば、厚肉のノズル板に対してパンチ加工をすることで、撓みが生じにくい利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では、液滴吐出面に凸部を形成することにより、液滴吐出ヘッドをプリンタに組み込んだ場合に、液滴吐出面に当接してクリーニングを行うワイパーが、凹凸に引っかかって劣化しやすい、という問題がある。
また、特許文献2に開示の方法では、板厚を厚くすることで、プレス加工に用いるパンチが早期に劣化し、加工コストが上昇するという問題がある。
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、ノズル孔の形成時に金属プレートなどにプレス加工によって生じた撓みの復元力を弱くし、かつ流路板への加圧接合時に撓みが平坦化しやすくなって均等な加圧接着が可能となることで、接合後の接合剥れが発生しにくいノズル板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、複数の加圧液室及び各加圧液室に液体を供給する液体供給路を形成した流路板の外面に対して内面を接合される平板状のノズル板であって、前記各加圧液室と夫々連通した状態で少なくとも1列に配列された液体吐出用の複数のノズル孔と、前記ノズル板の外面に設けられ、前記ノズル孔列を中心として該ノズル孔列の配列方向と直交する両外側方向へテーパー状に厚みを漸減させる板厚漸減面と、を備えたノズル板を特徴とする。
本発明によれば、ノズル孔付近でのノズル板の復元力が弱まり、加圧接合の際に一度緩和された撓みが元に戻りにくくなるので、流路板に対して十分な接合強度が得られ、接合剥れが少ないノズル板を実現出来る。
また、請求項2の発明は、前記板厚漸減面は、前記各ノズル孔の前記外側エッジ部から始端し、前記両外側方向へ延在する請求項1に記載のノズル板を特徴とする。
本発明によれば、ノズル孔付近でのノズル板の復元力が弱まり、加圧接合の際に一度緩和された撓みが元に戻りにくくなるので、流路板に対して十分な接合強度が得られ、接合剥れが少ないノズル板を実現出来る。
【0006】
また、請求項3の発明は、前記板厚漸減面は、前記各ノズル孔の外周に形成した非テーパー面の外側エッジ部から始端し、前記両外側方向へ延在する請求項1に記載のノズル板を特徴とする。
本発明によれば、ノズル孔付近でのノズル板の復元力が弱まり、加圧接合の際に一度緩和された撓みが元に戻りにくくなるので、流路板に対して十分な接合強度が得られ、接合剥れが少ないノズル板を実現出来る。
さらに、ノズル孔のエッジ部分が鋭利でないため、画像形成装置に搭載された際のクリーニング動作時におけるワイパーを傷つけることが無くなる。
また、請求項4の発明は、前記板厚漸減面は、前記ノズル板の平坦な内面との間隔をテーパー状に連続的に漸減させるように構成されている請求項1乃至3の何れか一項に記載のノズル板を特徴とする。
本発明によれば、接合の際に均等に加圧を得られることで、接合の際に均等に加圧をすることができ、接合強度の分布が緩和されて、流路板に対する接合剥れが少ないノズル板を実現出来る。
【0007】
また、請求項5の発明は、前記板厚漸減面は、前記ノズル板の前記両外側端縁、或いは該両外側端縁の手前まで延在している請求項1乃至4の何れか一項に記載のノズル板を特徴とする。
本発明によれば、ノズル板全体の反りが緩和されて、接合の際に均等に加圧をすることができ、流路板に対する接合強度が向上することで、接合剥れの少ないノズル板を実現出来る。
また、請求項6の発明は、ステンレス系の金属部材で構成されている請求項1乃至5の何れか一項に記載のノズル板を特徴とする。
本発明によれば、安価で長尺への対応が可能な部品を形成することが出来る。
【0008】
また、請求項7の発明は、前記ノズル孔が、プレス工法を用いた形成される請求項1乃至6の何れか一項に記載のノズル板を特徴とする。
本発明によれば、安価で長尺への対応が可能な部品を形成することが出来る。
また、請求項8の発明は、液滴吐出面に撥液層を備えている請求項1乃至7の何れか一項に記載のノズル板を特徴とする。
本発明によれば、液滴吐出の安定性の高いノズル板を実現することが出来る。
【0009】
また、請求項9の発明は、液滴を吐出する複数のノズル孔を形成したノズル板と、
前記ノズル板に接合され、各ノズルと連通する複数の加圧液室及び該加圧液室に液体を供給する液体供給路を形成した流路板と、液滴吐出のための圧力を各加圧液室に加えることにより、前記加圧液室に供給された液体を各ノズルから吐出させる圧力発生手段と、を備えた液滴吐出装置であって、前記ノズル板は、請求項1乃至8の何れか一項に記載のノズル板である液滴吐出装置を特徴とする。
また、請求項10の発明は、請求項9に記載の液滴吐出装置を備えた画像形成装置を特徴とする。
また、請求項11の発明は、ノズル板となる板状材料に対し、前記ノズル板の液滴吐出面とは反対側の面からプレス加工を行うプレス工程と、前記プレス加工による押し込みにより前記板状部材の前記液滴吐出面側に発生した凸部を、回転研磨機による研磨により除去して、前記板状材料の厚み方向で貫通する少なくとも1列のノズル孔を配列形成する研磨工程と、を備え、前記研磨工程において、前記回転研磨機の回転パッドを前記ノズル孔付近に合わせて研磨を行うことにより、前記回転パッドの内側と外側の回転速度の差によって前記ノズル孔列を中心として前記ノズル孔列の配列方向と直交する両外側方向へテーパー状に厚みを漸減させる板厚漸減面を形成することを特徴とするノズル板の製造方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように構成したことにより、本発明によれば、金属プレートなどにプレス加工によってノズル孔を形成する際に撓みが生じた加工部分の復元力が弱まり、かつ流路板への加圧接合時に撓みが平坦化しやすくなって均等な加圧接着が可能となることで、接合剥れが発生しにくいノズル板及び液滴吐出装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの概略図。
【図2】本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの分解斜視図。
【図3】図1に示す液滴吐出ヘッドのA−A断面図。
【図4】図1に示す液滴吐出ヘッドのB−B断面図。
【図5】本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドにおいて特徴的なノズル板の流路形状を示す断面図。
【図6】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドのノズル板の製造方法を示す断面図。
【図7】複数列のノズル孔41を備えた場合のノズル板40の断面図。
【図8】図5に示すノズル板40の変形例を示す図。
【図9】打ち抜き加工によってノズル孔41を形成する場合のノズル板の断面図。
【図10】プレス加工後のノズル付近の状態を示すノズル板の断面図。
【図11】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドを適用したインクカートリッジを示す図。
【図12】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドを採用した液滴吐出記録装置の一例を示す斜視説明図。
【図13】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドを採用した液滴吐出記録装置の一例を示す側面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの概略図、図2は、本発明の液滴吐出ヘッドの分解斜視図、図3は、図1のA−A断面図、図4は、B−B断面図である。
図2乃至図4に示すように、本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドは、フレーム部材10上に、振動板20、流路板30、ノズル板40を順次積層(接合)した構成を備えている。
詳しくは、フレーム部材10は、金属あるいはセラミックスなどの高剛性材料で形成したベース基板13(図3、図4)と、ベース基板13に接合されており、流路板30に備えた加圧液室31内の液体(例えばインク)を加圧するための圧力発生手段(アクチュエータ手段)である電気機械変換素子としての積層型圧電素子14(図3、図4)と、上述の加圧液室31と連通した共通液室11となる凹部、この共通液室11に外部からインクを供給するためのインク供給穴12を形成している。
このフレーム部材10は、例えばエポキシ系樹脂或いはポリフェニレンサルファイトで射出成形により形成している。
【0013】
積層型圧電素子14は、厚さ10〜50μm/1層のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の圧電層と、厚さ数μm/1層の銀・パラジューム(AgPd)からなる内部電極層とを交互に積層したものであり、内部電極を交互に端面の端面電極(外部電極)である個別電極、共通電極に電気的に接続し、これらの電極に図3に示すFPCケーブル17を介して駆動信号を供給するようにしている。
また、圧電素子14は、一方の面をベース基板13に接合されているが、他方の面は、振動板20に接合されている。
この圧電常数がd23である圧電素子14の伸縮により、振動板20が撓むことにより、対応する加圧液室31を収縮、膨張させるようになっている。
なお、圧電素子14に駆動信号が印加され充電が行われると伸長し、また圧電素子14に充電された電荷が放電すると反対方向に収縮する。
【0014】
また、図4に示すように、各圧電素子14の間には加圧液室31、31間の隔壁部31aに対応して支柱部15を設けている。ここでは、圧電素子部材にハーフカットのダイシングによるスリット加工を施すことで櫛歯状に分割して、1つ毎に圧電素子14と支柱部15として形成している。支柱部15の構成は圧電素子14と同じであるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱してのみ機能する。
振動板20は、電鋳法により形成されており、その外周部20Aをフレーム部材10に接着剤にて接合されている。
また、振動板20は、加圧液室31と連通してフレーム部材10の共通液室11から加圧液室31にインクを供給するためのインク供給口21を備えている(図2、図3)。
振動板20は、3層構造のニッケルの金属プレート状に形成したもので、例えば電鋳法で作製しているが、この他の金属板や樹脂板或いは金属と樹脂板との積層部材や金属と金属の積層部材(複層構造部材)などを用いることもできる。
【0015】
流路板30は、例えばステンレス鋼材をプレート状に成形したもので、例えばプレス加工法にて加圧液室31、インク供給路33(図3)を形成し、ダンパ室32をウエットエッチング加工法にて加圧液室31よりも浅くハーフエッチングにより形成したものや、例えば、結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板を水酸化カリウム水溶液(KOH)などのアルカリ性エッチング液を用いて異方性エッチングすることで、加圧液室などの流路パターンを形成したもの(単結晶シリコンに限らない)などを用いることもできる。
なお、ダンパ室32は、ノズル板40と振動板20により、矩形の空間となるが大気連通管22を通して大気と連通することにより、エアダンパ効果を持たせる構造としている。
【0016】
ノズル板40は各加圧液室31に対応してノズル孔41を形成している。
このノズル板40としては、例えばステンレス鋼材をプレート状に形成したもので、後述するように、例えばパンチを用いた打ち抜き加工もしくは塑性加工と研磨工程を組み合わせた加工によりノズル孔41を形成している。
ノズル板40をSUS(ステンレス)系の金属部材で構成することで、安価で長尺対応なノズル板を形成することが可能である。
また、ノズル孔41の内部形状(内側形状)は、ストレート形状、もしくはテーパー形状、または、二つを組み合わせたストレート−テーパー形状に形成し、このノズル孔41の穴径はインク滴出口側の直径で約10〜35μmとしている。さらに、各列のノズルピッチは150dpiとした。
また、ノズル板40のノズル面(吐出方向の表面(外面):液滴吐出面)40Aには、図示しない撥水性の表面処理を施した撥水処理層を設けている。撥水処理層としては、例えば、PTFE−Ni共析メッキやフッ素樹脂の電着塗装、蒸発性のあるフッ素樹脂(例えばフッ化ピッチなど)を蒸着コートしたもの、シリコン系樹脂・フッ素系樹脂の溶剤塗布後の焼き付け等、インク物性に応じて選定した撥水処理膜を設けて、インクの滴形状、飛翔特性を安定化し、高品位の画像品質を得られるようにしている。
【0017】
図5は、本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドにおいて特徴的なノズル板の形状を示す断面図である。
なお、図5において、図中下側が、液滴(インク)の吐出方向である。
また、図5は、図1におけるA−A線に沿ったノズル板1の断面図であり、この場合、ノズル孔41が1列のみの場合を示している。
図5に示すように、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドにおけるノズル板40では、ノズル孔41のエッジ(外側エッジ部)41aから、図1にも示すC方向に向かって板厚(流路板30側の平坦な内面40Bとの間隔)が徐々に減少(テーパー状に漸減)している部分(板厚漸減面42)を備えている。C方向は、ノズル孔41の配列方向と直交するノズル板の両外側方向である。
この板厚漸減面42が、少なくとも加圧液室31及びインク供給路33を備えた流路板30の流路構造の端部34(図3)まで続くことで、ノズル付近(ノズル板40と流路板30との接合の際に接する加圧液室31の範囲)での板の復元力が弱まり、加圧接合の際に一度緩和された撓みが元に戻りにくくなり、十分な接合強度が得られて接合剥れの少ない液滴吐出ヘッドの製作が可能となる。
【0018】
また、ノズル板40全体の反りも緩和されて接合の際に均等な加圧が得られ接合強度が向上することで接合剥れの少ない液滴吐出ヘッドの製作が可能となる。
また、板厚漸減面42は、ノズル41のエッジ41aからテーパー状に連続的に板厚(流路板30側の内面40Bとの間隔)が減少するようにする。
こうすることで、接合の際に、接合部分に均等に圧力を加えることが出来るので、ノズル板40中での接合強度の分布が緩和されて、接合剥れの少ない液滴吐出ヘッドの製作が可能となる。
すなわち、この形状することにより、プレス加工でノズル板の撓みが発生しても、金属部材の復元力がノズル孔41から板水平方向に向かって弱まっていくためノズル板材の撓みが復元しにくくなり、十分な接合強度が得られる。
本実施形態では、ノズル板として金属材料を用いているが、好ましくはステンレス鋼を用いることで、様々な液に対応することが可能で、さらに材料コストを抑えることが可能となる。ただし、ステンレス鋼に限らず、様々な金属材料でも部品形成は可能である。
ノズル形状を、プレス加工を用いて形成することで、安価で長尺対応な部品を形成できる。
【0019】
図6は、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドのノズル板の製造方法を示す断面図である。
図6に示すノズル板において、ノズル形状(図ではテーパー形状)は、プレス加工と研磨工程により形成されている。
図6に示すように、プレス加工法によって、ステンレス鋼材などの板材を塑性変形によりノズル孔41の形状に変形させる。
このとき液滴吐出面にはプレスの押し込みにより発生した凸部43が発生する。
この凸部43を除去する研磨工程の際に回転研磨機を用いる。この回転研磨機の回転パッドの直径は、ノズル列が1列の場合、もしくはノズル列が2列以上でノズル列間距離が近い場合は(例えば、ノズル孔41と対応する加圧液室31の端部とノズル孔41の重心との距離)、1列もしくはノズル列間距離が近い2列以上のノズル列に対応する流路板30の加圧液室31がノズル列間方向に対して全て収まる程度の半径とする。
この回転パッドの中心をノズル列付近に合わせて加工し、液滴吐出面(外面)40Aの凸部43を加工することでノズル孔41が開孔し、回転研磨機の内側と外側の加工速度の差により、ノズル孔41から板水平方向に沿って離れるにつれて徐々にテーパー状に板厚が減少(漸減)していく形状が得られる。
【0020】
図7は、複数列のノズル孔41を備えた場合のノズル板40の断面図である。
図7に示すように、隣り合うノズル孔41列の距離は、昨今のノズルの高密度化により50〜300μmであり、隣り合うノズル列間44の板厚は研磨量に差が生じないため平坦となる。
【0021】
図8は、図5に示すノズル板40の変形例を示す図である。
図8において、ノズル孔41付近の部分45は研磨パッドの中心付近で加工されているため加工速度に差がそれほど生じず、研磨パッドの端部と異なり平坦に近い形状(非テーパー面)となる。
そして、板厚漸減面42は、この非テーパー面45の外側エッジ部45aから始端して両外側方向に延在している。
こうすると、ノズルエッジが鋭利でないことから、本発明のノズル板40を組み込んだ画像形成装置に備えるワイパーの高耐久化が可能となる。
【0022】
図9は、打ち抜き加工によってノズル孔41を形成する場合の、ノズル板40の断面図である。
図9に示すように、打ち抜き加工によっては、図5〜図8の場合と異なり、ノズル形状はストレートとなっている。
この場合、図8の場合に比べてさらにノズルエッジ41aが鋭利とならないため、本発明のノズル板40を組み込んだ画像形成装置に備えるワイパーのさらなる高耐久化が可能となる。
【0023】
図10は、プレス加工後のノズル付近の状態を示すノズル板の断面図である。
打ち抜き加工の際には、図10(a)に示すように、せん断部46と破断部47とバリ部48が発生する。
バリ部48はワイピング不良をもたらすため、図5〜図8に示したノズル孔41がテーパー形状である場合と同様に研磨工程を追加することにより、図10(b)に示すように、バリ部48の除去と供に、板厚が徐々に減少する部分(板厚漸減面)42が形成される。
以上説明したようなノズル板40と、流路板30、振動板20、圧電素子14、フレーム部材10をそれぞれ接合することで、液滴吐出ヘッドが組み立てられるが、本発明における凹形状となる液供給部を備えた流路板30とフィルター機能を併設した振動板20、ノズル板40を、組立工程の初期段階にて接合を行うことにより、接合強度が向上し接合剥れが生じないヘッドの組立工程とすることが可能となり、ヘッドの歩留まりを向上させることに貢献する。
【0024】
図11は、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドを適用したインクカートリッジを示す図である。
図11に示すインクカートリッジは、ノズル孔41等を有する上記各実施形態のいずれかの液滴吐出ヘッド1と、この液滴吐出ヘッド1に対してインクを供給するインクタンク50とを一体化したものである。
このようにインクタンク一体型のヘッドの場合、ヘッドの歩留まり不良は直ちにインクカートリッジ全体の不良につながるので、上述したように液滴吐出特性の向上は、ヘッド一体型インクカートリッジの信頼性向上化を図れる。
【0025】
図12は、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドを採用した液滴吐出記録装置の一例を示す斜視説明図、図13は、同記録装置の機構部の側面説明図である。
この液滴吐出記録装置は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した本発明を実施した液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部82等を収納し、装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向(図9で紙面垂直方向)に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドからなるヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ93にはヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
【0026】
インクカートリッジ65は上方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド64を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ63は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド61に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド62に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ63を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ67で回転駆動される駆動プーリ68と従動プーリ69との間にタイミングベルト70を張装し、このタイミングベルト70をキャリッジ63に固定しており、主走査モータ67の正逆回転によりキャリッジ63が往復駆動される。
【0027】
一方、給紙カセット84にセットした用紙83をヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115,116とを配設している。
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0028】
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段でヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
本実施形態に係る液滴吐出ヘッドを適用することで、接合剥れの少ない安価な液滴吐出記録装置を実絵できる。
なお、液滴吐出記録装置としてインクジェットプリンタを例として説明したが、インクジェットコピー、インクジェットファックス、あるいはそれらの複合型記録装置にも適用できる。
また、インクジェット記録装置以外にも、インクジェット技術を用いたカラーフィルタ製造装置、金属配線製造装置、捺染装置、DNAチップ製造装置などの工業用製造装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 液滴吐出ヘッド、10 フレーム部材、11 共通液室、12 インク供給穴、13 ベース基板、14 積層型圧電素子、15 支柱部、17 FPCケーブル、20 振動板、21 インク供給口、22 大気連通管、30 流路板、31 加圧液室、31a 隔壁部、32 ダンパ室、33 インク供給路、40 ノズル板、41 ノズル孔、43 凸部、44 ノズル列間、46 断部、47 破断部、48 バリ部、50 インクタンク、61 主ガイドロッド、62 従ガイドロッド、63 キャリッジ、64 ヘッド、65 インクカートリッジ、67 主走査モータ、68 駆動プーリ、69 従動プーリ、70 タイミングベルト、81 記録装置本体、82 印字機構部、83 用紙、84 給紙カセット、85 トレイ、86 排紙トレイ、91 主ガイドロッド、92 従ガイドロッド、93 キャリッジ、94 記録ヘッド、95 各インクカートリッジ、101 給紙ローラ、102 フリクションパッド、103 ガイド部材、104 搬送ローラ、105 搬送コロ、106 先端コロ、107 副走査モータ、109 部材、111 搬送コロ、112 拍車、113 排紙ローラ、114 拍車、115,116 ガイド部材、117 回復装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開2007−50634公報
【特許文献2】特開2001−347671公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加圧液室及び各加圧液室に液体を供給する液体供給路を形成した流路板の外面に対して内面を接合される平板状のノズル板であって、
前記各加圧液室と夫々連通した状態で少なくとも1列に配列された液体吐出用の複数のノズル孔と、前記ノズル板の外面に設けられ、前記ノズル孔列を中心として該ノズル孔列の配列方向と直交する両外側方向へテーパー状に厚みを漸減させる板厚漸減面と、を備えたことを特徴とするノズル板。
【請求項2】
前記板厚漸減面は、前記各ノズル孔の前記外側エッジ部から始端し、前記両外側方向へ延在することを特徴とする請求項1に記載のノズル板。
【請求項3】
前記板厚漸減面は、前記各ノズル孔の外周に形成した非テーパー面の外側エッジ部から始端し、前記両外側方向へ延在することを特徴とする請求項1に記載のノズル板。
【請求項4】
前記板厚漸減面は、前記ノズル板の平坦な内面との間隔をテーパー状に連続的に漸減させるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のノズル板。
【請求項5】
前記板厚漸減面は、前記ノズル板の前記両外側端縁、或いは該両外側端縁の手前まで延在していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載のノズル板。
【請求項6】
ステンレス系の金属部材で構成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のノズル板。
【請求項7】
前記ノズル孔が、プレス工法を用いた形成されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載のノズル板。
【請求項8】
液滴吐出面に撥液層を備えていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載のノズル板。
【請求項9】
液滴を吐出する複数のノズル孔を形成したノズル板と、
前記ノズル板に接合され、各ノズルと連通する複数の加圧液室及び該加圧液室に液体を供給する液体供給路を形成した流路板と、
液滴吐出のための圧力を各加圧液室に加えることにより、前記加圧液室に供給された液体を各ノズルから吐出させる圧力発生手段と、を備えた液滴吐出装置であって、
前記ノズル板は、請求項1乃至8の何れか一項に記載のノズル板であることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項10】
請求項9に記載の液滴吐出装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項11】
ノズル板となる板状材料に対し、前記ノズル板の液滴吐出面とは反対側の面からプレス加工を行うプレス工程と、
前記プレス加工による押し込みにより前記板状部材の前記液滴吐出面側に発生した凸部を、回転研磨機による研磨により除去して、前記板状材料の厚み方向で貫通する少なくとも1列のノズル孔を配列形成する研磨工程と、を備え、
前記研磨工程において、前記回転研磨機の回転パッドを前記ノズル孔付近に合わせて研磨を行うことにより、前記回転パッドの内側と外側の回転速度の差によって前記ノズル孔列を中心として前記ノズル孔列の配列方向と直交する両外側方向へテーパー状に厚みを漸減させる板厚漸減面を形成することを特徴とするノズル板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate