説明

ノロウイルス不活性化剤

【課題】インフルエンザウィルスを含む通常のウィルスはもちろん、エンベロープを持たないノロウィルスにも有効性でかつ安全性の高いノロウィルス不活性化剤の提供。
【課題の解決手段】
(a)1,4―ビス(3,3’―(1―デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドを0.01〜5.0質量%と、(b)低級アルコールを20〜60質量%と、(c)水を配合したことを特徴とするノロウイルス不活性化剤
であって、(d)植物抽出消臭剤を0.01〜2.0質量%配合したことを特徴とする。より好ましくは、(d)植物抽出消臭剤がサトウキビエキスであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノロウイルス不活性化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大腸菌O−157による食中毒事件の多発に始まり、その後、新型肺炎SARSが猛威を振い、ここ数年はノロウイルスによる食中毒が多発している。2009年の春には新型インフルエンザが発生してパンデミック寸前の状態になり、除菌衛生に対する関心は高まる一方である。
大腸菌O−157による食中毒事件が多発した1996年以降、多くの家庭用品で抗菌性が付与されており、使用される薬剤としては、銀、銅などの金属化合物を利用したものが多い。例えば、銀ブロム又はヨード錯体の塩を含有する抗菌性繊維(特許文献1:特開2008−338481号公報)が知られているが、その防カビ効果は小さく、ウイルスに対する効果も十分でない。
【0003】
一方、抗ウイルス剤もしくは抗ウイルス効果を謳った製品も、いくつか提案されている。例えば、少なくとも一箇所にフェノール性水酸基を有する、非水溶性の芳香族ヒドロキシ化合物を有効成分とする抗ウイルス剤を塗布あるいは混合させてなる繊維(特許文献2:特開2005―112748号公報)、濾材の少なくとも1層に水酸基とカルボキシル基を同時に有するヒドロキシ酸が含有されてなる抗ウイルスマスク(特許文献3:特開2005−198676号公報)、ポリ−オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライドを含有する繊維用抗ウイルス加工剤(特許文献4:特開2008−115506号公報)、2−ピリジンチオール亜鉛−1−オキシド、2−ピリジンチオール銅−1−オキシド、又はこれらの両方を含む抗ウイルス剤で処理された抗ウイルス性繊維(特許文献5:特開2009−7736号公報)等が知られている。
【0004】
ところで、特許文献6(特開2008−214268号公報)は、分子末端に2個のピリジン環またはキノリン環を有し、該ピリジン環またはキノリン環の窒素原子が第4級アンモニウム基となっている抗ウイルス剤を開示する。しかしながら、特許文献6に記載されている抗ウイルス効果は、インフルエンザウイルスに対する効果に留まり、ノロウイルスに効果があるとの記載はない。
ノロウイルスは、エンベロープを持たないウイルスであり、通常の抗ウイルス剤はインフルエンザウイルスに有効でもノロウイルスに効きにくいというのが従来の知見であった。
【0005】
従って、ノロウイルスを不活性化しようとすると、煮沸や塩素系消毒剤の使用に頼るしかなかったが、反応性の高い酸化剤である塩素系薬剤は、安全性の点で問題が多いし、例えば、繊維処理に用いることは技術的にも難しい。
最近の特許文献7(特開2008−189645号公報)によれば、低級アルコール、アルカリ性物質及びカチオン界面活性剤を含む組成物がノロウイルスに有効である旨開示されているが、この組成物にしても、アルカリ性物質を使用するため、安全性に対する危惧は避けられない。
このように、安全性が高くかつノロウイルスに有効なノロウイルス不活性化剤は未だ知られていない。
本発明者らは、特許文献6の一般式に包含される化合物群のうち、1,4―ビス(3,3’―(1―デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドに着目し、この化合物がインフルエンザウイルスのみならず、ノロウイルスに対しても特異的に有効であることを知見して本発明を完成するに至ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−338481号公報
【特許文献2】特開2005―112748号公報
【特許文献3】特開2005−198676号公報
【特許文献4】特開2008−115506号公報
【特許文献5】特開2009−7736号公報
【特許文献6】特開2008−214268号公報
【特許文献7】特開2008−189645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全性が高くかつノロウイルスに有効なノロウイルス不活性化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)(a)1,4―ビス(3,3’―(1―デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドを0.01〜5.0質量%と、(b)低級アルコールを20〜60質量%と、(c)水を配合したノロウイルス不活性化剤。
(2)更に、(d)植物抽出消臭剤を0.01〜2.0質量%配合した(1)記載のノロウイルス不活性化剤。
(3)前記(d)植物抽出消臭剤がサトウキビエキスである(2)記載のノロウイルス不活性化剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のノロウイルス不活性化剤は、安全性が高くかつノロウイルスに優れた効果を示すので非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いる化合物、1,4―ビス(3,3’―(1―デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド[以降、化合物Aと称す]は、特許文献6の一般式に包含され、抗ウイルス剤として公知であるが、本発明者らは鋭意試験を繰り返し、化合物Aが特許文献6の化合物群のなかでも特異的に、インフルエンザウイルスのみならずノロウイルスに対しても効果を奏することを新たに見出したのである。
化合物Aは、本発明のノロウイルス不活性化剤中に0.01〜5.0質量%配合される。0.01質量%より少ないと確実な効果が得られないし、一方、5.0質量%を超えると製剤の物性に影響を及ぼす恐れがある。コスト、安全性等を考慮し、0.05〜1.0質量%の配合が好ましい。
【0011】
また、ノロウイルス不活性化剤は、低級アルコールを20〜60質量%と水の配合を必須とする。低級アルコールとしては、エタノールやイソプロパノールがあげられるが、細菌、カビ、ウイルスに対する即効性を付与する効果を考慮して、エタノールが好ましい。エタノールの使用は、例えば、繊維製品に噴霧処理した時にノロウイルス不活性化剤が速やかに乾燥しベタツキを生じないというメリットも有する。
なお、水は化合物Aの溶解剤として配合される。
【0012】
本発明では、更に、植物抽出消臭剤を0.01〜2.0質量%を配合するのが好ましい。即ち、植物抽出消臭剤は、試験の結果、消臭効果だけでなく、化合物Aのノロウイルス不活性化作用を助長することが見出され、併用することによって、より優れた組成物が提供される。
かかる植物抽出消臭剤としては、サトウキビエキス、緑茶抽出エキス、チャ乾留物、柿抽出エキス、グレープフルーツ抽出エキス、モウゾウチク抽出エキス、ユズ種子抽出エキス、レンギョウ抽出エキス等があげられるが、なかんずくサトウキビエキスが好適である。
【0013】
本発明のノロウイルス不活性化剤には、更に、抗菌効果、防藻効果、あるいは防錆効果、洗浄効果、撥水効果、防汚効果等を付与するために、銀系、銅系等の無機抗菌剤やポリリジン、キトサン等の有機抗菌剤、防藻剤、防錆剤、界面活性剤、撥水剤、防汚剤、溶剤等を適宜配合したり、あるいは、香料等を配合して芳香性を付与するようにしてもよい。
【0014】
こうして得られた本発明のノロウイルス不活性化剤は、安全性に優れたものであり、台所、流し台、冷蔵庫等の食品を取り扱う場所、居室や寝室、トイレ等の居住空間、ソファー、クッション、寝具、カーテン、マスク等の繊維製品等の処理に効果的で有用性が高い。
【0015】
ノロウイルスの不活性化処理に際しては、本発明のノロウイルス不活性化剤を、トリガースプレイヤーやボタン付きディスペンサーを備えたボトルに収容するか、もしくはエアゾールとして、随時、必要に応じて噴霧すればよい。
なお、本発明のノロウイルス不活性化剤の処理量は、1m2あたり化合物Aとして、0.01〜2.0g程度が適当である。
【0016】
次に、具体的な実施例に基づき、本発明のノロウイルス不活性化剤について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
表1に示す組成の実施品並びに比較品の試験液を作製し、以下の抗ウイルス試験に供した。なお、化合物Bは、塩化ベンザルコニウムである。
【0018】
【表1】

【0019】
[試験1:インフルエンザウイルス及びノロウイルスに対するウイルス不活性化試験]
各試験液1mlにウイルス浮遊液0.1mlを滴下し、室温で30分後のウイルス感染価の低下を調べた。ウイルス感染価はウイルス浮遊液を接種した培養細胞の形態変化を観察し、50%組織培養感染量から算出した。
また、ノロウイルスに対する効果は、ノロウイルスに対する代替ウイルスとして広く使用されているネコカリシウイルスを用いた。結果を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
本発明の実施品では、すべて、ノロウイルスに対して効果があり、なかでも、サトウキビ抽出エキスあるいは緑茶抽出エキスを配合した実施品3及び4の効果が高かった。一方、化合物Aを含まないか、あるいは、低濃度しか含有しない比較例1及び3では、ノロウイルスに対して全く無効であった。また、化合物Aを含有しても、エタノールを配合しない比較例2の場合、ノロウイルスに対する不活性化効果は満足のいくものでなかった。
【実施例2】
【0022】
実施品3の本発明ノロウイルス不活性化剤を、1回当りの噴射量が1gのトリガースプレイヤー付き容器に充填し、マスク、スーツ、スカート、セーター、肌着、カーペット、ソファー、スリッパなどの繊維製品に噴霧処理したところ、染みや皺が発生せず、簡便・容易にノロウイルス不活性化効果を付与できた。また、台所のテーブル、流し台、まな板、冷蔵庫、トイレの便器、便座、ドアノブ、浴室の壁、天井に噴霧処理したときも、材質に対する影響がなく、同様に優れたノロウイルス不活性化効果が得られた。
このように、本発明のノロウイルス不活性化剤は、簡便・容易にノロウイルス不活性化処理を行うことが可能で、極めて実用性の高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、抗菌、抗ウイルスなど保健衛生分野で須らく利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1,4―ビス(3,3’―(1―デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドを0.01〜5.0質量%と、(b)低級アルコールを20〜60質量%と、(c)水を配合したことを特徴とするノロウイルス不活性化剤。
【請求項2】
更に、(d)植物抽出消臭剤を0.01〜2.0質量%配合したことを特徴とする請求項1記載のノロウイルス不活性化剤。
【請求項3】
前記(d)植物抽出消臭剤がサトウキビエキスであることを特徴とする請求項2記載のノロウイルス不活性化剤。






【公開番号】特開2010−285387(P2010−285387A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141526(P2009−141526)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】