説明

ノンアスベスト摩擦材組成物

【課題】銅の含有量が少なくても、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れた摩擦材を与えることができるノンアスベスト摩擦材組成物、さらに該ノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供する。
【解決手段】結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量以下であり、ニトリル−ブタジエンゴム及び錫粉を含有するノンアスベスト摩擦材組成物、該ノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。詳しくは、自動車などの制動に用いられるディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材に適しており、銅の含有量が少ないため環境に優しく、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れたノンアスベスト摩擦材組成物、さらに該ノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などには、その制動のためにディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材が使用されている。摩擦材は、ディスクローターやブレーキドラムなどの対面材と摩擦することにより、制動の役割を果たしている。そのため、摩擦材には、高い摩擦係数と摩擦係数の安定性が求められるだけでなく、対面材であるディスクローターを削り難いこと(耐ローター摩耗性)、鳴きが発生しにくいこと(鳴き特性)、パッド寿命が長いこと(耐摩耗性)等が要求される。また、高負荷の制動時に剪断破壊を起こさないこと(剪断強度)や、高温の制動履歴によって摩擦材に亀裂を生じないこと(耐クラック性)等の耐久性能も要求される。
【0003】
摩擦材には、結合材、繊維基材、無機充填材及び有機充填材等が含まれ、前記特性を発現させるために、一般的に、それぞれ1種類もしくは2種類以上を組み合わせたものが含まれる。繊維基材としては、有機繊維、金属繊維、無機繊維等が用いられ、耐クラック性及び耐摩耗性を向上させるために、金属繊維として銅及び銅合金の繊維が一般的に用いられる。また、摩擦材として、ノンアスベスト摩擦材が主流となっており、このノンアスベスト摩擦材には銅及び銅合金などが多量に使用されている。
【0004】
しかし、これら銅及び銅合金を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖や海洋汚染などの原因となる可能性が示唆されているため、使用を抑制する動きが高まっている。そこで、銅及び銅合金などの金属を含まずに、摩擦係数、耐摩耗性及び耐ローター摩耗性が良好な摩擦材を提供するために、酸化マグネシウムと黒鉛を摩擦材中に45〜80体積%含有し、酸化マグネシウムと黒鉛の比を1/1〜4/1とすることが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−138273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のブレーキ用摩擦材では、摩擦係数、耐クラック性、耐摩耗性の全てに優れた摩擦材を得ることは困難である。
一方、摩擦材に含まれる銅以外の金属繊維として、スチール繊維や鋳鉄繊維などの鉄系繊維が耐クラック性改善の目的で用いられるが、鉄系繊維は対面材への攻撃性が高いという欠点があり、また亜鉛繊維、アルミニウム繊維等の銅以外で一般的に摩擦材に用いられる非鉄金属繊維は、銅や鉄系繊維と比較して耐熱温度が低いものが多く、摩擦材の耐摩耗性を悪化させるという問題がある。また、摩擦材の耐クラック性を向上するための方法として無機繊維を用いる方法がある。しかし十分な耐クラック性を得るためには、多量の無機繊維を添加する必要があり、多量の無機繊維を用いれば耐クラック性は改善できるものの、耐摩耗性が悪化してしまうという問題が生じる。
【0007】
また、黒鉛を用いると、摩擦材の耐摩耗性を向上できることが知られている。しかし十分な耐摩耗性を得るためには、多量に黒鉛を添加する必要があり、多量の黒鉛を用いれば耐摩耗性は改善できるものの、摩擦係数が大きく低下してしまうという問題が生じる。
前述したように、銅の含有量を少なくした摩擦材は、耐摩耗性や耐クラック性が悪く、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性の全てを満足させる優れた摩擦材を得ることは困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、銅及び銅合金の含有量が少なくても、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れた摩擦材を与えることができるノンアスベスト摩擦材組成物、さらに該ノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ノンアスベスト摩擦材組成物において、元素としての銅の含有量を一定以下とし、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量を一定以下とし、ニトリル−ブタジエンゴム(アクリロニトリル−ブタジエンゴム、以下、NBRという)及び錫粉を含有することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
【0010】
1.結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、NBR及び錫粉を含有するノンアスベスト摩擦材組成物。
2.前記NBRの含有量が1〜4質量%である、上記1に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
3.前記錫粉の含有量が0.5〜7質量%である、上記1又は2に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
4.上記1〜3のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
5.上記1〜3のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、自動車用ディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材に用いた際に、制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、高い摩擦係数、優れた耐クラック性及び耐摩耗性を発現することができる。また、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を用いることにより、上記特性を有する摩擦材及び摩擦部材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材について詳述する。
[ノンアスベスト摩擦材組成物]
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、NBR及び錫粉を含有することを特徴とする。
上記構成により、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、高い摩擦係数、優れた耐クラック性及び耐摩耗性を発現することができる。
【0013】
(結合材)
結合材は、摩擦材組成物に含まれる有機充填材、無機充填材及び繊維基材などを一体化し、強度を与えるものである。本発明のノンアスベスト摩擦材組成物に含まれる結合材としては特に制限はなく、通常、摩擦材の結合材として用いられる熱硬化性樹脂を用いることができる。
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂及びシリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等の各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びアルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、良好な耐熱性、成形性及び摩擦係数を与えることから、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0014】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における結合材の含有量は、5〜20質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。結合材の含有量を5〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下を抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能悪化を抑制できる。
【0015】
(有機充填材)
有機充填材は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性などを向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、有機充填材として、NBRを必須成分として含有する。上記NBRとしては、通常、摩擦材に用いられるものであれば特に制限はないが、ノンアスベスト摩擦組成物中に均一に分散しやすく、得られる摩擦材の品質が安定しやすいという点で、平均粒子径が20〜300μmのものが好ましく、30〜160μmのものがより好ましい。ここで、平均粒子径は、レーザー回折法により得られた粒度分布の体積分布から求めた50%径をいい、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA・920(堀場製作所製)で測定することができる。
【0016】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物におけるNBRの含有量は、0.2〜8質量%であることが好ましく、1〜4質量%であることがより好ましく、1.5〜3質量%であることがさらに好ましく、1.7〜2.5質量%であることが特に好ましい。NBRの含有量を0.2質量%以上、より好ましくは1質量%以上とすることで、良好な摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性が発現し、8質量%以下、より好ましくは4質量%以下とすることで、高温時の耐摩耗性の悪化を避けることができる。
【0017】
また、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、上記NBR以外の有機充填材をさらに含有することができる。このような有機充填材としては、通常、摩擦材に有機充填材として用いられるカシューダストやゴム成分などを用いることができる。
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる、通常、摩擦材に用いられるものであればよい。
NBR以外のゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、天然ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴムなどが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。また、カシューダストとゴム成分とを併用してもよく、カシューダストをゴム成分で被覆したものを用いてもよい。有機充填材としては、音振性能の観点から、カシューダストとゴム成分とを併用することが好ましい。また、音振性能の観点から、ゴム成分としてさらにSBRを含有させることが好ましい。
【0018】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における有機充填材の含有量は、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることがさらに好ましい。有機充填材の含有量を1〜20質量%の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなることや、鳴きなどの音振性能の悪化を避けることができ、また耐熱性の悪化、熱履歴による強度低下を避けることができる。また、カシューダストとゴム成分とを併用する場合、カシューダストとゴム成分とは、質量比で1:4〜10:1の割合であることが好ましく、1:3〜9:1であることがより好ましく、1:2〜8:1であることがさらに好ましい。なお、上記有機充填材の含有量には、前記NBRの含有量が含まれる。
【0019】
(無機充填材)
無機充填材は、摩擦材の耐熱性の悪化を避けるための摩擦調整剤として含まれるものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、耐摩耗性の向上のために、無機充填材として錫粉を必須成分として含有する。錫粉としては、通常、摩擦材に用いられるものであれば特に制限はないが、耐摩耗性の観点から、平均粒子径が0.1〜100μmのものが好ましく、0.1〜90μmのものがより好ましく、0.1〜80μmのものがさらに好ましく、10〜75μmのものが特に好ましい。また、メタルキャッチ抑制の観点から、錫粉の最大粒子径は500μm以下であることが好ましく、実質的には500μmより大きい粒子径の錫粉を含有しないことが好ましい。また、錫粉の最大粒子径は200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがより好ましい。また、より耐摩耗性を向上させる観点から、形状は粒子状のものが好ましい。
【0020】
前記錫粉の含有量は、0.2〜10質量%であることが好ましく、0.5〜7質量%であることがより好ましく、1〜6質量%であることがさらに好ましく、1.5〜5質量%であることが特に好ましい。錫粉の含有量を0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上とすることで、高い摩擦係数、良好な耐クラック性及び耐摩耗性が発現し、10質量%以下、より好ましくは7質量%以下とすることで、耐摩耗性の悪化を避けることができる。
【0021】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、上記錫粉以外の無機充填材をさらに含有することができる。このような無機充填材としては、通常、摩擦材に用いられる無機充填材であれば特に制限はない。
上記無機充填材としては、例えば、三硫化アンチモン、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛等の金属硫化物や、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸塩、黒鉛、コークス、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ドロマイト、コークス、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、硫酸カルシウム、粒状チタン酸カリウム、板状チタン酸カリウム、鱗片状チタン酸カリウム、タルク、クレー、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、酸化鉄、γ−アルミナなどの活性アルミナ等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。対面材への攻撃性低下の観点から、黒鉛、硫酸バリウムを含有することが好ましい。
【0022】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における無機充填材の含有量は、30〜85質量%であることが好ましく、40〜85質量%であることがより好ましく、60〜85質量%であることがさらに好ましい。無機充填材の含有量を30〜85質量%の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができる。なお、上記無機充填材の含有量には、前記錫粉の含有量が含まれる。
【0023】
(繊維基材)
繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、通常、繊維基材として用いられる、無機繊維、金属繊維、有機繊維、炭素系繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
上記無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、シリケート繊維、ウォラストナイト等を用いることができ、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
なお、ここでいう鉱物繊維とは、スラグウール等の高炉スラグ、バサルトファイバー等の玄武岩、その他の天然岩石等を主成分として溶融紡糸した人造無機繊維であり、Al元素を含む天然鉱物であることがより好ましい。具体的には、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2O等が含まれるもの、又はこれら化合物が単独で又は2種類以上含有されるものを用いることができ、より好ましくはこれらのうちAl元素を含むものを、鉱物繊維として用いることができる。摩擦材組成物中に含まれる鉱物繊維全体の平均繊維長が大きくなるほど摩擦材組成物中の各成分との接着強度が低下する傾向があるため、鉱物繊維全体の平均繊維長は500μm以下が好ましい。より好ましくは、100〜400μmである。ここで、平均繊維長とは、該当する全ての繊維の長さの平均値を示した数平均繊維長のことをいう。例えば200μmの平均繊維長とは、摩擦材組成物原料として用いる鉱物繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長を測定し、その平均値が200μmであることを示す。
本発明で用いられる鉱物繊維は、人体有害性の観点で生体溶解性であることが好ましい。ここでいう生体溶解性の鉱物繊維とは、人体内に取り込まれた場合でも短時間で一部分解され体外に排出される特徴を有する鉱物繊維である。具体的には、化学組成がアルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物総量(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムの酸化物の総量)が18質量%以上で、且つ呼吸による短期バイオ永続試験で、20μm以上の繊維の質量半減期が40日以内又は腹膜内試験で過度の発癌性の証拠がないか又は長期呼吸試験で関連の病原性や腫瘍発生がないことを満たす繊維を示す(EU指令97/69/ECのNota Q(発癌性適用除外))。このような生体分解性鉱物繊維としては、SiO2−Al23−CaO−MgO−FeO−Na2O系繊維等が挙げられ、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2O等を任意の組み合わせで含有した繊維が挙げられる。市販品としてはLAPINUS FIBERS B.V製のRoxulシリーズなどが挙げられる。「Roxul」は、SiO2、Al23、CaO、MgO、FeO、Na2O等が含まれる。
【0026】
上記金属繊維としては、耐クラック性及び耐摩耗性の向上のため、銅又は銅合金の繊維を用いることができる。ただし、銅又は銅合金の繊維を含有させる場合、環境への優しさを考慮すると、該摩擦材組成物における銅全体の含有量は、銅元素として5質量%以下の範囲であることを要する。
銅又は銅合金の繊維としては、銅繊維、黄銅繊維、青銅繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
また、上記金属繊維として、摩擦係数向上、耐クラック性の観点から銅及び銅合金以外の金属繊維を用いてもよいが、耐摩耗性の観点から、含有量が0.5質量%以下であることを要する。耐摩耗性向上の観点からは、銅及び銅合金以外の金属繊維を含有しないこと(含有量0質量%)が好ましい。
銅及び銅合金以外の金属繊維としては、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の金属単体又は合金形態の繊維や、鋳鉄繊維などの金属を主成分とする繊維が挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
なお、環境物質低減の観点で、肺などに吸引される可能性のある、吸引性のチタン酸カリウム繊維及びセラミック繊維を含有しないことが好ましい。
【0028】
上記有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維(架橋構造を有する)等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。有機繊維としては、耐摩耗性の観点からアラミド繊維を用いることが好ましい。
上記炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維等を用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における繊維基材の含有量は、銅又は銅合金の金属繊維を含め、摩擦材組成物において5〜40質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましく、5〜15質量%であることがさらに好ましい。繊維基材の含有量を5〜40質量%の範囲とすることで、摩擦材としての最適な気孔率が得られ、鳴き防止ができ、適正な材料強度が得られ、耐摩耗性を発現し、成形性を向上させることができる。なお、上記繊維基材の含有量には、銅又は銅合金の金属繊維の含有量が含まれる。
【0030】
(その他の材料)
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、前記の結合材、有機充填材、無機充填材、繊維基材以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。
例えば、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物における銅全体の含有量が、銅元素として5質量%以下となる範囲で、銅粉、黄銅粉、青銅粉等の金属粉末などを配合することができる。また、耐摩耗性の観点から、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素系ポリマーのような有機添加剤などを配合することができる。
【0031】
[摩擦材及び摩擦部材]
また、本発明は、上述のノンアスベスト摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材を提供する。
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、これを成形することにより、自動車などのディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材として使用することができる。本発明の摩擦材は良好な摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性を示すため、制動時に負荷の大きいディスクブレーキパッドの摩擦材に好適である。
さらに、上記摩擦材を用いることにより、該摩擦材を摩擦面となるように形成した摩擦部材を得ることができる。摩擦材を用いて形成することができる摩擦部材としては、例えば、下記の構成などが挙げられる。
【0032】
(1)摩擦材のみの構成。
(2)裏金と、該裏金の上に摩擦面となる本発明の摩擦材組成物からなる摩擦材とを有する構成。
(3)上記(2)の構成において、裏金と摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層、及び、裏金と摩擦材との接着を目的とした接着層をさらに介在させた構成。
上記裏金は、摩擦部材の機械的強度の向上のために、通常、摩擦部材として用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化プラスチック等を用いることができ、例えば、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。プライマー層及び接着層としては、通常、ブレーキシューなどの摩擦部材に用いられるものであればよい。
【0033】
本発明の摩擦材は、一般に使用されている方法を用いて製造することができ、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を成形して、好ましくは加熱加圧成形して製造される。
具体的には、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物を、レディーゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合し、この混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130℃〜160℃、成形圧力20〜50MPaの条件で2〜10分間で成形し、得られた成形物を150〜250℃で2〜10時間熱処理する。必要に応じて塗装、スコーチ処理、研磨処理を行うことによって摩擦材を製造することができる。
【0034】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性に優れるため、ディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦部材の「上張り材」として有用であり、さらに摩擦材として高い耐クラック性を有するため、摩擦部材の「下張り材」として成形して用いることもできる。
なお、「上張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材であり、「下張り材」とは、摩擦部材の摩擦面となる摩擦材と裏金との間に介在する、摩擦材と裏金との接着部付近の剪断強度、耐クラック性向上を目的とした層のことである。
【実施例】
【0035】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限を受けるものではない。
なお、実施例及び比較例に示す評価は次のように行った。
【0036】
(1)摩擦係数の評価
摩擦係数は、自動車技術会規格JASO C406に基づき測定し、第2効力試験における摩擦係数の平均値を算出した。
【0037】
(2)耐クラック性の評価
耐クラック性は、自動車技術会規格JASO C427に示されるブレーキ温度400℃の制動(初速度50km/h、終速度0km/h、減速度0.3G、制動前ブレーキ温度100℃)を摩擦材が半分の厚みとなるまで繰り返し、摩擦材側面及び摩擦面のクラックの生成を測定した。クラックの生成は、下記に従い、3段階評点にて評価した。
A:クラックの発生無し
B:摩擦材の摩擦面又は側面に0.1mmのシックネスゲージが入らない程度のクラックが生成
C:摩擦材の摩擦面又は側面に0.1mmのシックネスゲージが入る程度のクラックが生成
なお、摩擦材の摩擦面及び側面の一方にシックネスゲージが入らない(又は入る)程度のクラックが生成し、他方にシックネスゲージが入る(又は入らない)程度のクラックが生成した場合、水準3とする。
【0038】
(3)耐摩耗性の評価
耐摩耗性は、自動車技術会規格JASO C427に基づき測定し、ブレーキ温度100℃及び300℃の制動1000回相当の摩擦材の摩耗量を評価した。
【0039】
なお、上記JASO C406,JASO C427準拠による摩擦係数、耐摩耗性及び耐クラック性の評価は、ダイナモメータを用い、イナーシャ7kgf・m・s2で評価を行った。また、ベンチレーテッドディスクロータ((株)キリウ製、材質FC190)、一般的なピンスライド式のコレットタイプのキャリパを用いて実施した。
【0040】
[実施例1〜10及び比較例1〜6]
ディスクブレーキパッドの作製
表1に示す配合比率に従って材料を配合し、実施例及び比較例の摩擦材組成物を得た。なお、表1の各成分の配合量の単位は、摩擦材組成物中の質量%である。この摩擦材組成物をレディーゲミキサー((株)マツボー社製、商品名:レディーゲミキサーM20)で混合し、この混合物を成形プレス(王子機械工業(株)製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPaの条件で5分間成形プレス(三起精工(株)製)を用いて日立オートモティブシステムズ(株)製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、500℃のスコーチ処理を行って、ディスクブレーキパッド(摩擦材の厚さ11mm、摩擦材投影面積52cm2)を得た。
作製したディスクブレーキパッドについて、前記の評価を行った結果を表1に示す。
【0041】
なお、実施例及び比較例において使用した各種材料は次のとおりである。
(結合材)
・フェノール樹脂:日立化成工業(株)製(商品名:HP491UP)
(有機充填材)
・カシューダスト:東北化工(株)製(商品名:FF−1090)
・NBR粉:バイエル社製(商品名:Baymod NXL 38.20、平均粒子径70μm)
(無機充填材)
・錫粉:北京有研粉末(株)社製(商品名:FSn−2、最大粒子径74μm、形状:粒子)
・黒鉛:TIMCAL社製(商品名:KS75)
・チタン酸カリウム:クボタ製(商品名:TXAX−MA、形状:板状)
・硫酸バリウム:堺化学工業(株)製(商品名:硫酸バリウムBA)
・硫化錫:Chemetall社製(商品名:Stannolube)
(繊維基材)
・アラミド繊維(有機繊維):東レ・デュポン(株)製(商品名:1F538)
・鉄繊維(金属繊維):GMT社製(商品名:#0)
・銅繊維(金属繊維):Sunny Metal社製(商品名:SCA−1070)
・鉱物繊維(無機繊維):LAPINUS FIBERS B.V製(商品名:RB240 Roxul 1000、平均繊維長300μm)
【0042】
【表1】

【0043】
実施例1〜10は、銅を多量に含有する比較例1と同水準の摩擦係数、耐クラック性及び耐摩耗性を示した。つまり、銅の含有量が少なくても、NBR及び錫粉を含有することで、これらの特性を十分に示すことが分かった。NBR及び錫粉を含有しない比較例2及び3、NBRを含有しない比較例4、錫粉を含有しない比較例5は、耐クラック性及び耐摩耗性が低下することが分かった。また、鉄繊維を1質量%含有する比較例6は、耐摩耗性が低下することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のノンアスベスト摩擦材組成物は、従来品と比較して制動時に生成する摩耗粉中の銅が少ないことから環境に優しく、高い摩擦係数、優れた耐クラック性及び耐摩耗性を発現できるため、自動車のディスクブレーキパッドやブレーキライニングなどの摩擦材及び摩擦部材に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、ニトリル−ブタジエンゴム及び錫粉を含有するノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項2】
前記ニトリル−ブタジエンゴムの含有量が1〜4質量%である、請求項1に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項3】
前記錫粉の含有量が0.5〜7質量%である、請求項1又は2に記載のノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材と裏金とを用いて形成される摩擦部材。

【公開番号】特開2012−255054(P2012−255054A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127575(P2011−127575)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】